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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-15
(54)【発明の名称】リニアソレノイドバルブの制御装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 61/00 20060101AFI20231108BHJP
   F16H 59/50 20060101ALI20231108BHJP
   F16H 59/60 20060101ALI20231108BHJP
   F16H 59/74 20060101ALI20231108BHJP
【FI】
F16H61/00
F16H59/50
F16H59/60
F16H59/74
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018234913
(22)【出願日】2018-12-14
(65)【公開番号】P2020094676
(43)【公開日】2020-06-18
【審査請求日】2021-03-25
【審判番号】
【審判請求日】2023-03-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085361
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 治幸
(74)【代理人】
【識別番号】100147669
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 光治郎
(72)【発明者】
【氏名】内藤 秀磨
(72)【発明者】
【氏名】田端 淳
(72)【発明者】
【氏名】藤井 広太
【合議体】
【審判長】平城 俊雅
【審判官】吉田 昌弘
【審判官】内田 博之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/135659(WO,A1)
【文献】特開2000-314471(JP,A)
【文献】特開平3-20166(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両用変速機の油圧を調圧するリニアソレノイドバルブの制御装置であって、
前記リニアソレノイドバルブが有するソレノイドに印加する制御指令信号として、前記油圧を車両運転状態に応じた調圧値に調圧するための調圧用制御指令信号を出力する油圧制御部を備え、
前記油圧制御部は、前記リニアソレノイドバルブに作動油が充満し、前記リニアソレノイドバルブが前記調圧用制御指令信号に基づいて調圧した前記油圧を出力する調圧状態において、前記調圧値、前記調圧用制御指令信号を前記ソレノイドに印加し、前記リニアソレノイドバルブを調圧動作させると、前記リニアソレノイドバルブの振動に起因する異音が発生し易くなる所定範囲内にない場合には、前記制御指令信号として、前記調圧用制御指令信号を出力し、前記調圧値が前記所定範囲内にある場合には、前記制御指令信号として、前記調圧用制御指令信号に代え、前記制御指令信号における制御電流値を、前記油圧を前記調圧値よりも高く且つ前記所定範囲外の値に調圧する発音抑制用制御電流値とした、前記異音の発生を抑制する発音抑制用制御指令信号を出力することを特徴とするリニアソレノイドバルブの制御装置。
【請求項2】
車室内の暗騒音のレベルが前記異音を感じ易いレベルにあるか否かを判定する状態判定部を更に備えており、
前記油圧制御部は、前記車室内の暗騒音のレベルが前記異音を感じ易いレベルにあると判定されたときには、前記調圧値が前記所定範囲内にある場合に、前記制御指令信号として、前記調圧用制御指令信号に代えて前記発音抑制用制御指令信号を出力し、前記車室内の暗騒音のレベルが前記異音を感じ易いレベルにないと判定されたときには、前記調圧値が前記所定範囲内にある場合であっても、前記制御指令信号として、前記調圧用制御指令信号を出力することを特徴とする請求項1に記載のリニアソレノイドバルブの制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用変速機の油圧を調圧するリニアソレノイドバルブの制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両用変速機の油圧を調圧するリニアソレノイドバルブの制御装置が良く知られている。例えば、特許文献1に記載された自動変速機用油圧制御装置がそれである。この特許文献1には、ソレノイドバルブが有するソレノイドに印加する制御電圧の出力を制御すること、又、作動油が充満していない状態でソレノイドバルブを作動させると、ソレノイドバルブのアーマチュアがストッパに当接する際に生じる打撃音等の空打ち音がソレノイドバルブから発生すること、又、ソレノイドバルブに作動油が充満していないときには、制御電圧を、作動油が充満しているときに用いる通常制御電圧から異音防止制御電圧へ変更し、空打ち音の発生を抑制することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2008-133926号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、リニアソレノイドバルブに作動油が充満し、リニアソレノイドバルブが、印加される制御指令信号に基づいて調圧した油圧を出力する調圧状態となっている場合でも、特定範囲の制御指令信号による所定の調圧状態では、例えばリニアソレノイドバルブの出力油圧の脈動によりリニアソレノイドバルブが振動し、リニアソレノイドバルブの振動に起因して、リニアソレノイドバルブとリニアソレノイドバルブを収容するバルブボデーとの接触による異音が発生し易くなる。
【0005】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、リニアソレノイドバルブの調圧状態において、リニアソレノイドバルブの振動に起因する異音の発生を抑制することができるリニアソレノイドバルブの制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明の要旨とするところは、(a)車両用変速機の油圧を調圧するリニアソレノイドバルブの制御装置であって、(b)前記リニアソレノイドバルブが有するソレノイドに印加する制御指令信号として、前記油圧を車両運転状態に応じた調圧値に調圧するための調圧用制御指令信号を出力する油圧制御部を備え、(c)前記油圧制御部は、前記リニアソレノイドバルブに作動油が充満し、前記リニアソレノイドバルブが前記調圧用制御指令信号に基づいて調圧した前記油圧を出力する調圧状態において、前記調圧値、前記調圧用制御指令信号を前記ソレノイドに印加し、前記リニアソレノイドバルブを調圧動作させると、前記リニアソレノイドバルブの振動に起因する異音が発生し易くなる所定範囲内にない場合には、前記制御指令信号として、前記調圧用制御指令信号を出力し、前記調圧値が前記所定範囲内にある場合には、前記制御指令信号として、前記調圧用制御指令信号に代え、前記制御指令信号における制御電流値を、前記油圧を前記調圧値よりも高く且つ前記所定範囲外の値に調圧する発音抑制用制御電流値とした、前記異音の発生を抑制する発音抑制用制御指令信号を出力することにある。
【0010】
また、第の発明は、前記第1の発明に記載のリニアソレノイドバルブの制御装置において、車室内の暗騒音のレベルが前記異音を感じ易いレベルにあるか否かを判定する状態判定部を更に備えており、前記油圧制御部は、前記車室内の暗騒音のレベルが前記異音を感じ易いレベルにあると判定されたときには、前記調圧値が前記所定範囲内にある場合に、前記制御指令信号として、前記調圧用制御指令信号に代えて前記発音抑制用制御指令信号を出力し、前記車室内の暗騒音のレベルが前記異音を感じ易いレベルにないと判定されたときには、前記調圧値が前記所定範囲内にある場合であっても、前記制御指令信号として、前記調圧用制御指令信号を出力することにある。
【発明の効果】
【0011】
前記第1の発明によれば、リニアソレノイドバルブに作動油が充満し、リニアソレノイドバルブが調圧用制御指令信号に基づいて調圧した油圧を出力する調圧状態において、車両運転状態に応じた油圧の調圧値、調圧用制御指令信号をソレノイドに印加し、リニアソレノイドバルブを調圧動作させると、リニアソレノイドバルブの振動に起因する異音が発生し易くなる所定範囲内にない場合には、制御指令信号として、調圧用制御指令信号が出力され、調圧値が所定範囲内にある場合には、制御指令信号として、調圧用制御指令信号に代え、制御指令信号における制御電流値を、油圧を調圧値よりも高く且つ所定範囲外の値に調圧する発音抑制用制御電流値とした、異音の発生を抑制する発音抑制用制御指令信号が出力されるので、リニアソレノイドバルブの調圧状態において、リニアソレノイドバルブの振動に起因する異音の発生を抑制することができる。又、制御指令信号における駆動周波数を変更する場合には制御指令信号を生成する為のスイッチング素子の発熱が問題となる可能性があることに対して、そのようなスイッチング素子の発熱を避けつつ、油圧の調圧値が所定範囲内となる制御指令信号の使用を避けることが可能となる。これにより、スイッチング素子の発熱を問題にすることなく、リニアソレノイドバルブの振動に起因する異音の発生を抑制することができる。
【0015】
また、前記第の発明によれば、車室内の暗騒音のレベルが異音を感じ易いレベルにあるときには、車両運転状態に応じた調圧値が前記所定範囲内にある場合に、前記制御指令信号として、前記調圧用制御指令信号に代えて前記発音抑制用制御指令信号が出力されるので、暗騒音に異音が紛れ難く異音が聞き分けられ易い状態のときには、リニアソレノイドバルブの振動に起因する異音の発生を抑制することができる。一方で、車室内の暗騒音のレベルが異音を感じ易いレベルにないときには、車両運転状態に応じた調圧値が前記所定範囲内にある場合であっても、制御指令信号として、前記調圧用制御指令信号が出力されるので、暗騒音に異音が紛れ易く異音が聞き分けられ難い状態のときには、作動油を吐出する為のポンプ負荷の不要な増大を避けたり、制御指令信号を生成する為のスイッチング素子の不要な発熱を避けたりすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明が適用される車両の概略構成を説明する図であると共に、車両における各種制御の為の制御機能及び制御系統の要部を説明する図である。
図2図1で例示した機械式有段変速部の変速作動とそれに用いられる係合装置の作動の組み合わせとの関係を説明する作動図表である。
図3】電気式無段変速部と機械式有段変速部とにおける各回転要素の回転速度の相対的関係を表す共線図である。
図4】油圧制御回路を説明する図であり、又、油圧制御回路へ作動油を供給する油圧源を説明する図である。
図5】有段変速部の変速制御に用いる変速マップと、ハイブリッド走行とモータ走行との切替制御に用いる動力源切替マップとの一例を示す図であって、それぞれの関係を示す図でもある。
図6】ソレノイドバルブSLTにおける制御電流値とパイロット圧との関係を示す図であって、調圧用制御電流値に代えて発音抑制用制御電流値を用いる場合の一例を説明する図である。
図7】電子制御装置の制御作動の要部すなわちソレノイドバルブSLTの調圧状態においてソレノイドバルブSLTの振動に起因する異音の発生を抑制する為の制御作動を説明するフローチャートである。
図8図7のフローチャートのS60において第2処理を実行した場合のタイムチャートの一例であって、図6とは別の実施例である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施形態において、前記車両用変速機における変速比は、「入力側の回転部材の回転速度/出力側の回転部材の回転速度」である。この変速比におけるハイ側は、変速比が小さくなる側である高車速側である。変速比におけるロー側は、変速比が大きくなる側である低車速側である。例えば、最ロー側変速比は、最も低車速側となる最低車速側の変速比であり、変速比が最も大きな値となる最大変速比である。
【0018】
以下、本発明の実施例を図面を参照して詳細に説明する。
【実施例1】
【0019】
図1は、本発明が適用される車両10の概略構成を説明する図であると共に、車両10における各種制御の為の制御系統の要部を説明する図である。図1において、車両10は、エンジン12と第1回転機MG1と第2回転機MG2とを備えている。又、車両10は、駆動輪14と、エンジン12と駆動輪14との間の動力伝達経路に設けられた動力伝達装置16とを備えている。
【0020】
エンジン12は、駆動トルクを発生することが可能な動力源として機能する機関であって、例えばガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の公知の内燃機関である。このエンジン12は、後述する電子制御装置90によって車両10に備えられたスロットルアクチュエータや燃料噴射装置や点火装置等のエンジン制御装置50が制御されることによりエンジン12の出力トルクであるエンジントルクTeが制御される。
【0021】
第1回転機MG1及び第2回転機MG2は、電動機(モータ)としての機能及び発電機(ジェネレータ)としての機能を有する回転電気機械であって、所謂モータジェネレータである。第1回転機MG1及び第2回転機MG2は、各々、車両10に備えられたインバータ52を介して、車両10に備えられた蓄電装置としてのバッテリ54に接続されており、後述する電子制御装置90によってインバータ52が制御されることにより、第1回転機MG1及び第2回転機MG2の各々の出力トルクであるMG1トルクTg及びMG2トルクTmが制御される。回転機の出力トルクは、加速側となる正トルクでは力行トルクであり、又、減速側となる負トルクでは回生トルクである。バッテリ54は、第1回転機MG1及び第2回転機MG2の各々に対して電力を授受する蓄電装置である。
【0022】
動力伝達装置16は、車体に取り付けられる非回転部材としてのケース18内において共通の軸心上に直列に配設された、電気式無段変速部20及び機械式有段変速部22等を備えている。電気式無段変速部20は、直接的に或いは図示しないダンパーなどを介して間接的にエンジン12に連結されている。機械式有段変速部22は、電気式無段変速部20の出力側に連結されている。又、動力伝達装置16は、機械式有段変速部22の出力回転部材である出力軸24に連結された差動歯車装置26、差動歯車装置26に連結された一対の車軸28等を備えている。動力伝達装置16において、エンジン12や第2回転機MG2から出力される動力は、機械式有段変速部22へ伝達され、その機械式有段変速部22から差動歯車装置26等を介して駆動輪14へ伝達される。尚、以下、電気式無段変速部20を無段変速部20、機械式有段変速部22を有段変速部22という。又、動力は、特に区別しない場合にはトルクや力も同意である。又、無段変速部20や有段変速部22等は上記共通の軸心に対して略対称的に構成されており、図1ではその軸心の下半分が省略されている。上記共通の軸心は、エンジン12のクランク軸、後述する連結軸34などの軸心である。
【0023】
無段変速部20は、第1回転機MG1と、エンジン12の動力を第1回転機MG1及び無段変速部20の出力回転部材である中間伝達部材30に機械的に分割する動力分割機構としての差動機構32とを備えている。中間伝達部材30には第2回転機MG2が動力伝達可能に連結されている。無段変速部20は、第1回転機MG1の運転状態が制御されることにより差動機構32の差動状態が制御される電気式無段変速機である。第1回転機MG1は、エンジン12の回転速度であるエンジン回転速度Neを制御可能な回転機であって、差動用回転機に相当する。第2回転機MG2は、駆動トルクを発生することが可能な動力源として機能する回転機であって、走行駆動用回転機に相当する。車両10は、走行用の動力源として、エンジン12及び第2回転機MG2を備えたハイブリッド車両である。動力伝達装置16は、動力源の動力を駆動輪14へ伝達する。尚、第1回転機MG1の運転状態を制御することは、第1回転機MG1の運転制御を行うことである。
【0024】
差動機構32は、シングルピニオン型の遊星歯車装置にて構成されており、サンギヤS0、キャリアCA0、及びリングギヤR0を備えている。キャリアCA0には連結軸34を介してエンジン12が動力伝達可能に連結され、サンギヤS0には第1回転機MG1が動力伝達可能に連結され、リングギヤR0には第2回転機MG2が動力伝達可能に連結されている。差動機構32において、キャリアCA0は入力要素として機能し、サンギヤS0は反力要素として機能し、リングギヤR0は出力要素として機能する。
【0025】
有段変速部22は、中間伝達部材30と駆動輪14との間の動力伝達経路の一部を構成する有段変速機としての機械式変速機構、つまり無段変速部20と駆動輪14との間の動力伝達経路の一部を構成する機械式変速機構である。中間伝達部材30は、有段変速部22の入力回転部材としても機能する。中間伝達部材30には第2回転機MG2が一体回転するように連結されているので、又は、無段変速部20の入力側にはエンジン12が連結されているので、有段変速部22は、動力源(第2回転機MG2又はエンジン12)と駆動輪14との間の動力伝達経路の一部を構成する車両用変速機である。中間伝達部材30は、駆動輪14に動力源の動力を伝達する為の伝達部材である。有段変速部22は、例えば第1遊星歯車装置36及び第2遊星歯車装置38の複数組の遊星歯車装置と、ワンウェイクラッチF1を含む、クラッチC1、クラッチC2、ブレーキB1、ブレーキB2の複数の係合装置とを備えている、公知の遊星歯車式の自動変速機である。以下、クラッチC1、クラッチC2、ブレーキB1、及びブレーキB2については、特に区別しない場合は単に係合装置CBという。
【0026】
係合装置CBは、油圧アクチュエータにより押圧される多板式或いは単板式のクラッチやブレーキ、油圧アクチュエータによって引き締められるバンドブレーキなどにより構成される、油圧式の摩擦係合装置である。係合装置CBは、車両10に備えられた油圧制御回路56から出力される調圧された所定油圧としての各油圧Pc1,Pc2,Pb1,Pb2(後述する図4参照)により、各々、係合や解放などの状態である作動状態が切り替えられる。各油圧Pc1,Pc2,Pb1,Pb2は、各々、有段変速部22の油圧である。
【0027】
有段変速部22は、第1遊星歯車装置36及び第2遊星歯車装置38の各回転要素が、直接的に或いは係合装置CBやワンウェイクラッチF1を介して間接的に、一部が互いに連結されたり、中間伝達部材30、ケース18、或いは出力軸24に連結されている。第1遊星歯車装置36の各回転要素は、サンギヤS1、キャリアCA1、リングギヤR1であり、第2遊星歯車装置38の各回転要素は、サンギヤS2、キャリアCA2、リングギヤR2である。
【0028】
有段変速部22は、複数の係合装置のうちの何れかの係合装置である例えば所定の係合装置の係合によって、変速比(ギヤ比ともいう)γat(=AT入力回転速度Ni/出力回転速度No)が異なる複数の変速段(ギヤ段ともいう)のうちの何れかのギヤ段が形成される有段変速機である。つまり、有段変速部22は、複数の係合装置が選択的に係合されることによって、ギヤ段が切り替えられるすなわち変速が実行される。有段変速部22は、複数のギヤ段の各々が形成される、有段式の自動変速機である。本実施例では、有段変速部22にて形成されるギヤ段をATギヤ段と称す。AT入力回転速度Niは、有段変速部22の入力回転部材の回転速度である有段変速部22の入力回転速度であって、中間伝達部材30の回転速度と同値であり、又、第2回転機MG2の回転速度であるMG2回転速度Nmと同値である。AT入力回転速度Niは、MG2回転速度Nmで表すことができる。出力回転速度Noは、有段変速部22の出力回転速度である出力軸24の回転速度であって、無段変速部20と有段変速部22とを合わせた全体の変速機である複合変速機40の出力回転速度でもある。複合変速機40は、エンジン12と駆動輪14との間の動力伝達経路の一部を構成する変速機である。
【0029】
有段変速部22は、例えば図2の係合作動表に示すように、複数のATギヤ段として、AT1速ギヤ段(図中の「1st」)-AT4速ギヤ段(図中の「4th」)の4段の前進用のATギヤ段が形成される。AT1速ギヤ段の変速比γatが最も大きく、ハイ側のATギヤ段程、変速比γatが小さくなる。図2の係合作動表は、各ATギヤ段と複数の係合装置の各作動状態との関係をまとめたものである。すなわち、図2の係合作動表は、各ATギヤ段と、各ATギヤ段において各々係合される係合装置である所定の係合装置との関係をまとめたものである。図2において、「○」は係合、「△」はエンジンブレーキ時や有段変速部22のコーストダウンシフト時に係合、空欄は解放をそれぞれ表している。
【0030】
有段変速部22は、後述する電子制御装置90によって、ドライバー(すなわち運転者)のアクセル操作や車速V等に応じて形成されるATギヤ段が切り替えられる、すなわち複数のATギヤ段が選択的に形成される。例えば、有段変速部22の変速制御においては、係合装置CBの何れかの掴み替えにより変速が実行される、すなわち係合装置CBの係合と解放との切替えにより変速が実行される、所謂クラッチツゥクラッチ変速が実行される。本実施例では、例えばAT2速ギヤ段からAT1速ギヤ段へのダウンシフトを2→1ダウンシフトと表す。他のアップシフトやダウンシフトについても同様である。
【0031】
車両10は、更に、機械式のオイルポンプであるMOP58、電動式のオイルポンプであるEOP60、エアコンディショナーであるエアコン62、オーディオ64等を備えている。
【0032】
MOP58は、連結軸34に連結されており、エンジン12の回転と共に回転させられて動力伝達装置16にて用いられる作動油oilを吐出する。MOP58は、例えばエンジン12により回転させられて作動油oilを吐出する。EOP60は、車両10に備えられたオイルポンプ専用のモータ66により回転させられて作動油oilを吐出する。MOP58やEOP60が吐出した作動油oilは、油圧制御回路56へ供給される(後述する図4参照)。係合装置CBは、作動油oilを元にして油圧制御回路56により調圧された各油圧Pc1,Pc2,Pb1,Pb2によって作動状態が切り替えられる。エアコン62は、不図示のベルトや電磁クラッチ等を介してエンジン12に連結されたコンプレッサー68を備えており、車室内の温度を調整する空調装置である。オーディオ64は、音の録音、再生、受信などを行う、車室内に音を出す音響装置であり、ラジオなどを含んでいる。
【0033】
図3は、無段変速部20と有段変速部22とにおける各回転要素の回転速度の相対的関係を表す共線図である。図3において、無段変速部20を構成する差動機構32の3つの回転要素に対応する3本の縦線Y1、Y2、Y3は、左側から順に第2回転要素RE2に対応するサンギヤS0の回転速度を表すg軸であり、第1回転要素RE1に対応するキャリアCA0の回転速度を表すe軸であり、第3回転要素RE3に対応するリングギヤR0の回転速度(すなわち有段変速部22の入力回転速度)を表すm軸である。又、有段変速部22の4本の縦線Y4、Y5、Y6、Y7は、左から順に、第4回転要素RE4に対応するサンギヤS2の回転速度、第5回転要素RE5に対応する相互に連結されたリングギヤR1及びキャリアCA2の回転速度(すなわち出力軸24の回転速度)、第6回転要素RE6に対応する相互に連結されたキャリアCA1及びリングギヤR2の回転速度、第7回転要素RE7に対応するサンギヤS1の回転速度をそれぞれ表す軸である。縦線Y1、Y2、Y3の相互の間隔は、差動機構32のギヤ比(歯車比ともいう)ρ0に応じて定められている。又、縦線Y4、Y5、Y6、Y7の相互の間隔は、第1、第2遊星歯車装置36,38の各歯車比ρ1,ρ2に応じて定められている。共線図の縦軸間の関係においてサンギヤとキャリアとの間が「1」に対応する間隔とされるとキャリアとリングギヤとの間が遊星歯車装置の歯車比ρ(=サンギヤの歯数Zs/リングギヤの歯数Zr)に対応する間隔とされる。
【0034】
図3の共線図を用いて表現すれば、無段変速部20の差動機構32において、第1回転要素RE1にエンジン12(図中の「ENG」参照)が連結され、第2回転要素RE2に第1回転機MG1(図中の「MG1」参照)が連結され、中間伝達部材30と一体回転する第3回転要素RE3に第2回転機MG2(図中の「MG2」参照)が連結されて、エンジン12の回転を中間伝達部材30を介して有段変速部22へ伝達するように構成されている。無段変速部20では、縦線Y2を横切る各直線L0e,L0m,L0Rにより、サンギヤS0の回転速度とリングギヤR0の回転速度との関係が示される。
【0035】
又、有段変速部22において、第4回転要素RE4はクラッチC1を介して中間伝達部材30に選択的に連結され、第5回転要素RE5は出力軸24に連結され、第6回転要素RE6はクラッチC2を介して中間伝達部材30に選択的に連結されると共にブレーキB2を介してケース18に選択的に連結され、第7回転要素RE7はブレーキB1を介してケース18に選択的に連結されている。有段変速部22では、係合装置CBの係合解放制御によって縦線Y5を横切る各直線L1,L2,L3,L4,LRにより、出力軸24における「1st」,「2nd」,「3rd」,「4th」,「Rev」の各回転速度が示される。
【0036】
図3中の実線で示す、直線L0e及び直線L1,L2,L3,L4は、少なくともエンジン12を動力源として走行するハイブリッド走行が可能なハイブリッド走行モードでの前進走行における各回転要素の相対速度を示している。このハイブリッド走行モードでは、差動機構32において、キャリアCA0に入力されるエンジントルクTeに対して、第1回転機MG1による負トルクである反力トルクが正回転にてサンギヤS0に入力されると、リングギヤR0には正回転にて正トルクとなるエンジン直達トルクTd(=Te/(1+ρ0)=-(1/ρ0)×Tg)が現れる。そして、要求駆動力に応じて、エンジン直達トルクTdとMG2トルクTmとの合算トルクが車両10の前進方向の駆動トルクとして、AT1速ギヤ段-AT4速ギヤ段のうちの何れかのATギヤ段が形成された有段変速部22を介して駆動輪14へ伝達される。このとき、第1回転機MG1は正回転にて負トルクを発生する発電機として機能する。第1回転機MG1の発電電力Wgは、バッテリ54に充電されたり、第2回転機MG2にて消費される。第2回転機MG2は、発電電力Wgの全部又は一部を用いて、或いは発電電力Wgに加えてバッテリ54からの電力を用いて、MG2トルクTmを出力する。
【0037】
図3中の一点鎖線で示す直線L0m及び図3中の実線で示す直線L1,L2,L3,L4は、エンジン12の運転を停止した状態で第2回転機MG2を動力源として走行するモータ走行が可能なモータ走行モードでの前進走行における各回転要素の相対速度を示している。このモータ走行モードでの前進走行では、差動機構32において、キャリアCA0はゼロ回転とされ、リングギヤR0には正回転にて正トルクとなるMG2トルクTmが入力される。このとき、サンギヤS0に連結された第1回転機MG1は、無負荷状態とされて負回転にて空転させられる。つまり、モータ走行モードでの前進走行では、エンジン12は駆動されず、エンジン回転速度Neはゼロとされ、MG2トルクTmが車両10の前進方向の駆動トルクとして、AT1速ギヤ段-AT4速ギヤ段のうちの何れかのATギヤ段が形成された有段変速部22を介して駆動輪14へ伝達される。モータ走行モードでの前進走行では、MG2トルクTmは正回転且つ正トルクの力行トルクである。
【0038】
図3中の破線で示す、直線L0R及び直線LRは、モータ走行モードでの後進走行における各回転要素の相対速度を示している。このモータ走行モードでの後進走行では、リングギヤR0には負回転にて負トルクとなるMG2トルクTmが入力され、そのMG2トルクTmが車両10の後進方向の駆動トルクとして、AT1速ギヤ段が形成された有段変速部22を介して駆動輪14へ伝達される。車両10では、後述する電子制御装置90によって、複数のATギヤ段のうちの前進用のロー側のATギヤ段である例えばAT1速ギヤ段が形成された状態で、前進走行時における前進用のMG2トルクTmとは正負が反対となる後進用のMG2トルクTmが第2回転機MG2から出力させられることで、後進走行を行うことができる。モータ走行モードでの後進走行では、MG2トルクTmは負回転且つ負トルクの力行トルクである。尚、ハイブリッド走行モードにおいても、直線L0Rのように第2回転機MG2を負回転とすることが可能であるので、モータ走行モードと同様に後進走行を行うことが可能である。
【0039】
動力伝達装置16では、エンジン12が動力伝達可能に連結された第1回転要素RE1としてのキャリアCA0と第1回転機MG1が動力伝達可能に連結された第2回転要素RE2としてのサンギヤS0と中間伝達部材30が連結された第3回転要素RE3としてのリングギヤR0との3つの回転要素を有する差動機構32を備えて、第1回転機MG1の運転状態が制御されることにより差動機構32の差動状態が制御される電気式変速機構としての無段変速部20が構成される。中間伝達部材30が連結された第3回転要素RE3は、見方を換えれば第2回転機MG2が動力伝達可能に連結された第3回転要素RE3である。つまり、動力伝達装置16では、エンジン12が動力伝達可能に連結された差動機構32と差動機構32に動力伝達可能に連結された第1回転機MG1とを有して、第1回転機MG1の運転状態が制御されることにより差動機構32の差動状態が制御される無段変速部20が構成される。無段変速部20は、入力回転部材となる連結軸34の回転速度と同値であるエンジン回転速度Neと、出力回転部材となる中間伝達部材30の回転速度であるMG2回転速度Nmとの比の値である変速比γ0(=Ne/Nm)が変化させられる電気的な無段変速機として作動させられる。
【0040】
例えば、ハイブリッド走行モードにおいては、有段変速部22にてATギヤ段が形成されたことで駆動輪14の回転に拘束されるリングギヤR0の回転速度に対して、第1回転機MG1の回転速度を制御することによってサンギヤS0の回転速度が上昇或いは下降させられると、キャリアCA0の回転速度つまりエンジン回転速度Neが上昇或いは下降させられる。従って、ハイブリッド走行では、エンジン12を効率の良い運転点にて作動させることが可能である。つまり、ATギヤ段が形成された有段変速部22と無段変速機として作動させられる無段変速部20とで、無段変速部20と有段変速部22とが直列に配置された複合変速機40全体として無段変速機を構成することができる。
【0041】
又は、無段変速部20を有段変速機のように変速させることも可能であるので、ATギヤ段が形成される有段変速部22と有段変速機のように変速させる無段変速部20とで、複合変速機40全体として有段変速機のように変速させることができる。つまり、複合変速機40において、エンジン回転速度Neの出力回転速度Noに対する比の値を表す変速比γt(=Ne/No)が異なる複数のギヤ段を選択的に成立させるように、有段変速部22と無段変速部20とを制御することが可能である。本実施例では、複合変速機40にて成立させられるギヤ段を模擬ギヤ段と称する。変速比γtは、直列に配置された、無段変速部20と有段変速部22とで形成されるトータル変速比であって、無段変速部20の変速比γ0と有段変速部22の変速比γatとを乗算した値(γt=γ0×γat)となる。
【0042】
模擬ギヤ段は、例えば有段変速部22の各ATギヤ段と1又は複数種類の無段変速部20の変速比γ0との組合せによって、有段変速部22の各ATギヤ段に対してそれぞれ1又は複数種類を成立させるように割り当てられる。例えば、AT1速ギヤ段に対して模擬1速ギヤ段-模擬3速ギヤ段が成立させられ、AT2速ギヤ段に対して模擬4速ギヤ段-模擬6速ギヤ段が成立させられ、AT3速ギヤ段に対して模擬7速ギヤ段-模擬9速ギヤ段が成立させられ、AT4速ギヤ段に対して模擬10速ギヤ段が成立させられるように予め定められている。複合変速機40では、出力回転速度Noに対して所定の変速比γtを実現するエンジン回転速度Neとなるように無段変速部20が制御されることによって、あるATギヤ段において異なる模擬ギヤ段が成立させられる。又、複合変速機40では、ATギヤ段の切替えに合わせて無段変速部20が制御されることによって、模擬ギヤ段が切り替えられる。
【0043】
図1に戻り、車両10は、エンジン12、無段変速部20、及び有段変速部22などの制御に関連する車両10の制御装置を含むコントローラとしての電子制御装置90を備えている。よって、図1は、電子制御装置90の入出力系統を示す図であり、又、電子制御装置90による制御機能の要部を説明する機能ブロック図である。電子制御装置90は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより車両10の各種制御を実行する。電子制御装置90は、必要に応じてエンジン制御用、油圧制御用等に分けて構成される。
【0044】
電子制御装置90には、車両10に備えられた各種センサ等(例えばエンジン回転速度センサ70、出力回転速度センサ72、MG1回転速度センサ74、MG2回転速度センサ76、アクセル開度センサ78、スロットル弁開度センサ80、バッテリセンサ82、油温センサ84、エアコンスイッチ86、オーディオスイッチ87、シフトポジションセンサ88など)による検出値に基づく各種信号等(例えばエンジン回転速度Ne、車速Vに対応する出力回転速度No、第1回転機MG1の回転速度であるMG1回転速度Ng、AT入力回転速度NiであるMG2回転速度Nm、運転者の加速操作の大きさを表す運転者の加速操作量としてのアクセル開度θacc、電子スロットル弁の開度であるスロットル弁開度θth、バッテリ54のバッテリ温度THbatやバッテリ充放電電流Ibatやバッテリ電圧Vbat、作動油oilの温度である作動油温THoil、エアコン62の作動と非作動とを選択する為のエアコンスイッチ86が操作された状態を示す信号であるエアコンオンACon、オーディオ64の作動と非作動とを選択する為のオーディオスイッチ87が操作された状態を示す信号であるオーディオオンAUDon、車両10に備えられたシフト操作部材としてのシフトレバー89の操作ポジションPOSshなど)が、それぞれ供給される。電子制御装置90は、例えばバッテリ充放電電流Ibat及びバッテリ電圧Vbatなどに基づいてバッテリ54の充電状態を示す値としての充電状態値SOC[%]を算出する。
【0045】
電子制御装置90からは、車両10に備えられた各装置(例えばエンジン制御装置50、インバータ52、油圧制御回路56、オーディオ64、モータ66、コンプレッサー68など)に各種指令信号(例えばエンジン12を制御する為のエンジン制御指令信号Se、第1回転機MG1及び第2回転機MG2を各々制御する為の回転機制御指令信号Smg、係合装置CBの作動状態を制御する為の油圧制御指令信号Sat、オーディオ64を作動させる為のオーディオ制御指令信号Saud、EOP60の作動を制御する為のEOP制御指令信号Seop、コンプレッサー68を駆動してエアコン62を作動させる為のエアコン制御指令信号Sacなど)が、それぞれ出力される。上記油圧制御指令信号Satは、有段変速部22の変速を制御する為の油圧制御指令信号でもある。
【0046】
図4は、油圧制御回路56を説明する図であり、又、油圧制御回路56へ作動油oilを供給する油圧源を説明する図である。図4において、MOP58とEOP60とは、作動油oilが流通する油路の構成上、並列に設けられている。MOP58及びEOP60は、各々、係合装置CBの各々の作動状態を切り替えたり、動力伝達装置16の各部に潤滑油を供給したりする為の油圧の元となる作動油oilを吐出する。MOP58及びEOP60は、各々、ケース18の下部に設けられたオイルパン100に還流した作動油oilを、共通の吸い込み口であるストレーナ102を介して吸い上げて、各々の吐出油路104,106へ吐出する。吐出油路104,106は、各々、油圧制御回路56が備える油路、例えばライン圧PLが流通する油路であるライン圧油路108に連結されている。MOP58から作動油oilが吐出される吐出油路104は、油圧制御回路56に備えられたMOP用チェックバルブ110を介してライン圧油路108に連結されている。EOP60から作動油oilが吐出される吐出油路106は、油圧制御回路56に備えられたEOP用チェックバルブ112を介してライン圧油路108に連結されている。MOP58は、エンジン12と共に回転して作動油oilを吐出する。EOP60は、エンジン12の回転状態に拘わらず作動油oilを吐出することができる。EOP60は、例えばモータ走行モードでの走行時に電子制御装置90によりモータ66が作動させられることによって作動油oilを吐出する。
【0047】
油圧制御回路56は、前述したライン圧油路108、MOP用チェックバルブ110、及びEOP用チェックバルブ112の他に、レギュレータバルブ114、切替えバルブ116、供給油路118、排出油路120、各ソレノイドバルブSLT,S1,S2,SL1-SL4などを備えている。
【0048】
レギュレータバルブ114は、MOP58及びEOP60の少なくとも一方が吐出する作動油oilを元にしてライン圧PLを調圧する。ソレノイドバルブSLTは、例えばリニアソレノイドバルブであり、有段変速部22への入力トルク等に応じたパイロット圧Psltをレギュレータバルブ114へ出力するように電子制御装置90により制御される。これにより、ライン圧PLは、有段変速部22の入力トルク等に応じた油圧とされる。ソレノイドバルブSLTに入力される元圧は、例えばライン圧PLを元圧として不図示のモジュレータバルブによって一定値に調圧されたモジュレータ圧PMである。
【0049】
切替えバルブ116は、ソレノイドバルブS1,S2から出力される油圧に基づいて油路が切り替えられる。ソレノイドバルブS1,S2は、何れも例えばオンオフソレノイドバルブであり、各々、油圧を切替えバルブ116へ出力するように電子制御装置90により制御される。切替えバルブ116は、ソレノイドバルブS2から油圧が出力され且つソレノイドバルブS1から油圧が出力されない状態とされると、ライン圧油路108と供給油路118とを接続するように油路が切り替えられる。切替えバルブ116は、ソレノイドバルブS1,S2から共に油圧が出力されるか或いはソレノイドバルブS1,S2から共に油圧が出力されないか或いはソレノイドバルブS1から油圧が出力され且つソレノイドバルブS2から油圧が出力されない状態とされると、ライン圧油路108と供給油路118との間の油路を遮断し、供給油路118を排出油路120に接続するように油路が切り替えられる。供給油路118は、ソレノイドバルブSL2,SL3に入力される元圧が流通する油路である。排出油路120は、油圧制御回路56内の作動油oilを油圧制御回路56の外へ排出する、すなわち作動油oilをオイルパン100へ還流する大気開放油路である。電子制御装置90は、例えばシフトレバー89の操作ポジションPOSshが車両10の前進走行を可能とする複合変速機40の前進走行ポジションを選択するD操作ポジションとされている場合には、ソレノイドバルブS2が油圧を出力し且つソレノイドバルブS1が油圧を出力しない為の油圧制御指令信号Satを油圧制御回路56へ出力する。電子制御装置90は、例えばシフトレバー89の操作ポジションPOSshが車両10の後進走行を可能とする複合変速機40の後進走行ポジションを選択するR操作ポジションとされている場合には、ソレノイドバルブS1,S2が各々油圧を出力する為の油圧制御指令信号Satを油圧制御回路56へ出力する。
【0050】
ソレノイドバルブSL1-SL4は、何れも例えばリニアソレノイドバルブであり、各油圧Pc1,Pc2,Pb1,Pb2を係合装置CBの各々の油圧アクチュエータへ出力するように電子制御装置90により制御される。ソレノイドバルブSL1は、ライン圧PLを元圧として、クラッチC1の油圧アクチュエータへ供給する油圧Pc1を調圧する。ソレノイドバルブSL2は、切替えバルブ116を介したライン圧PLを元圧として、クラッチC2の油圧アクチュエータへ供給する油圧Pc2を調圧する。ソレノイドバルブSL3は、切替えバルブ116を介したライン圧PLを元圧として、ブレーキB1の油圧アクチュエータへ供給する油圧Pb1を調圧する。ソレノイドバルブSL4は、ライン圧PLを元圧として、ブレーキB2の油圧アクチュエータへ供給する油圧Pb2を調圧する。
【0051】
上述したように、ライン圧PLは、係合装置CBの各々へ供給される各油圧Pc1,Pc2,Pb1,Pb2の元圧であるので、係合装置CBの作動状態の切替えに関与する作動油圧である。ソレノイドバルブSLTは、ライン圧PLを調圧するリニアソレノイドバルブである。従って、ライン圧PLも有段変速部22の油圧といえる。ソレノイドバルブSL1-SL4やソレノイドバルブSLTは、有段変速部22の油圧を調圧するリニアソレノイドバルブである。電子制御装置90は、それらのリニアソレノイドバルブの制御装置である。
【0052】
図1に戻り、電子制御装置90は、車両10における各種制御を実現する為に、油圧制御手段すなわち油圧制御部92、及びハイブリッド制御手段すなわちハイブリッド制御部94を備えている。
【0053】
油圧制御部92は、係合装置CBの各々へ供給される各油圧Pc1,Pc2,Pb1,Pb2の値に対応する油圧指示値を設定し、その油圧指示値に応じた油圧制御指令信号Satを油圧制御回路56へ出力する。各油圧Pc1,Pc2,Pb1,Pb2の値に対応する油圧指示値に応じた油圧制御指令信号Satは、各油圧Pc1,Pc2,Pb1,Pb2を調圧する各ソレノイドバルブSL1-SL4を駆動する為の制御指令信号である。
【0054】
油圧制御部92は、ライン圧PLを有段変速部22の入力トルク等の車両運転状態に応じた油圧に調圧するようにソレノイドバルブSLTを駆動する油圧制御指令信号Satを油圧制御回路56へ出力する。ソレノイドバルブSLTを駆動する油圧制御指令信号Satは、ソレノイドバルブSLTが有するソレノイド122に印加する制御指令信号Ssltである(図4参照)。制御指令信号Ssltは、例えばパルス幅変調(PWM:pulse width modulation)制御によってソレノイド122のコイルへ通電する駆動パルス信号であり、所定の駆動周波数Freの駆動パルス信号がそのコイルへ印加される。本実施例では、例えばライン圧PLを有段変速部22の入力トルクに応じた調圧値に調圧するための制御指令信号Ssltを調圧用制御指令信号Ssltcと称する。調圧用制御指令信号Ssltcは、ライン圧PLを有段変速部22の入力トルクに応じた調圧値に調圧するパイロット圧PsltをソレノイドバルブSLTが出力する為の通常の制御電流値Isltである調圧用制御電流値Isltcを実現する、通常の駆動周波数Freである調圧用駆動周波数Frecの駆動パルス信号である。
【0055】
油圧制御部92は、有段変速部22の変速を制御するAT変速制御手段すなわちAT変速制御部としての機能を含んでいる。具体的には、油圧制御部92は、予め実験的に或いは設計的に求められて記憶された関係すなわち予め定められた関係である例えば図5に示すようなATギヤ段変速マップを用いて有段変速部22の変速判断を行い、必要に応じて有段変速部22の変速制御を実行する。油圧制御部92は、この有段変速部22の変速制御では、有段変速部22のATギヤ段を自動的に切り替えるように、ソレノイドバルブSL1-SL4により係合装置CBの係合解放状態を切り替える為の油圧制御指令信号Satを油圧制御回路56へ出力する。上記ATギヤ段変速マップは、例えば車速V及び要求駆動トルクTrdemを変数とする二次元座標上に、有段変速部22の変速が判断される為の変速線を有する所定の関係である。ここでは、車速Vに替えて出力回転速度Noなどを用いても良いし、又、要求駆動トルクTrdemに替えて要求駆動力Frdemやアクセル開度θaccやスロットル弁開度θthなどを用いても良い。上記ATギヤ段変速マップにおける各変速線は、実線に示すようなアップシフトが判断される為のアップシフト線、及び破線に示すようなダウンシフトが判断される為のダウンシフト線である。
【0056】
ハイブリッド制御部94は、エンジン12の作動を制御するエンジン制御手段すなわちエンジン制御部としての機能と、インバータ52を介して第1回転機MG1及び第2回転機MG2の作動を制御する回転機制御手段すなわち回転機制御部としての機能を含んでおり、それら制御機能によりエンジン12、第1回転機MG1、及び第2回転機MG2によるハイブリッド駆動制御等を実行する。ハイブリッド制御部94は、予め定められた関係である例えば駆動要求量マップにアクセル開度θacc及び車速Vを適用することで駆動要求量としての駆動輪14における要求駆動トルクTrdem[Nm]を算出する。前記駆動要求量としては、要求駆動トルクTrdemの他に、駆動輪14における要求駆動力Frdem[N]、駆動輪14における要求駆動パワーPrdem[W]、出力軸24における要求AT出力トルク等を用いることもできる。ハイブリッド制御部94は、例えば要求駆動パワーPrdemを実現するように、エンジン12を制御する指令信号であるエンジン制御指令信号Seと、第1回転機MG1及び第2回転機MG2を制御する指令信号である回転機制御指令信号Smgとを出力する。
【0057】
ハイブリッド制御部94は、例えば無段変速部20を無段変速機として作動させて複合変速機40全体として無段変速機として作動させる場合、エンジン最適燃費点等を考慮して、要求駆動パワーPrdemを実現するエンジンパワーPeが得られるエンジン回転速度NeとエンジントルクTeとなるように、エンジン12を制御すると共に第1回転機MG1の発電電力Wgを制御することで、無段変速部20の無段変速制御を実行して無段変速部20の変速比γ0を変化させる。この制御の結果として、無段変速機として作動させる場合の複合変速機40の変速比γtが制御される。
【0058】
ハイブリッド制御部94は、例えば無段変速部20を有段変速機のように変速させて複合変速機40全体として有段変速機のように変速させる場合、予め定められた関係である例えば模擬ギヤ段変速マップを用いて複合変速機40の変速判断を行い、油圧制御部92による有段変速部22のATギヤ段の変速制御と協調して、複数の模擬ギヤ段を選択的に成立させるように無段変速部20の変速制御を実行する。複数の模擬ギヤ段は、それぞれの変速比γtを維持できるように車速Vに応じて第1回転機MG1によりエンジン回転速度Neを制御することによって成立させることができる。各模擬ギヤ段の変速比γtは、車速Vの全域に亘って必ずしも一定値である必要はなく、所定領域で変化させても良いし、各部の回転速度の上限や下限等によって制限が加えられても良い。このように、ハイブリッド制御部94は、エンジン回転速度Neを有段変速のように変化させる変速制御が可能である。複合変速機40全体として有段変速機のように変速させる模擬有段変速制御は、例えば運転者によってスポーツ走行モード等の走行性能重視の走行モードが選択された場合や要求駆動トルクTrdemが比較的大きい場合に、複合変速機40全体として無段変速機として作動させる無段変速制御に優先して実行するだけでも良いが、所定の実行制限時を除いて基本的に模擬有段変速制御が実行されても良い。
【0059】
ハイブリッド制御部94は、走行モードとして、モータ走行モード或いはハイブリッド走行モードを走行状態に応じて選択的に成立させて、各走行モードにて車両10を走行させる。例えば、ハイブリッド制御部94は、要求駆動パワーPrdemが予め定められた閾値よりも小さなモータ走行領域にある場合には、モータ走行モードを成立させる一方で、要求駆動パワーPrdemが予め定められた閾値以上となるハイブリッド走行領域にある場合には、ハイブリッド走行モードを成立させる。ハイブリッド制御部94は、要求駆動パワーPrdemがモータ走行領域にあるときであっても、バッテリ54の充電状態値SOCが予め定められたエンジン始動閾値未満となる場合には、ハイブリッド走行モードを成立させる。前記エンジン始動閾値は、エンジン12を強制的に始動してバッテリ54を充電する必要がある充電状態値SOCであることを判断する為の予め定められた閾値である。尚、要求駆動パワーPrdemは、車速Vと要求駆動トルクTrdemとを乗算した値に相当する。
【0060】
図5の一点鎖線Aは、車両10の走行用の動力源を、少なくともエンジン12とするか、第2回転機MG2のみとするかを切り替える為の境界線である。すなわち、図5の一点鎖線Aは、ハイブリッド走行とモータ走行とを切り替える為のハイブリッド走行領域とモータ走行領域との境界線である。この図5の一点鎖線Aに示すような境界線を有する予め定められた関係は、車速V及び要求駆動トルクTrdemを変数とする二次元座標で構成された動力源切替マップの一例である。この動力源切替マップは、例えば同じ図5中の実線及び破線に示すATギヤ段変速マップと共に予め定められている。
【0061】
ところで、ソレノイドバルブSLTに作動油oilが充満し、ソレノイドバルブSLTが制御指令信号Ssltに基づいて調圧したパイロット圧Psltを出力する調圧状態において、特定範囲の制御指令信号Ssltによる所定の調圧状態では、例えばパイロット圧Psltの脈動によりソレノイドバルブSLTが振動する場合がある。このような場合、ソレノイドバルブSLTの振動に起因して、ソレノイドバルブSLTとソレノイドバルブSLTを収容する油圧制御回路56のバルブボデー124(図4参照)との接触による異音が発生し易くなる。ソレノイドバルブSLTの調圧状態において、ソレノイドバルブSLTの振動に起因する異音の発生を抑制することが望まれる。
【0062】
油圧制御部92は、有段変速部22の入力トルクに応じたライン圧PLの調圧値の調圧範囲として、調圧用制御指令信号Ssltcをソレノイド122に印加し、ソレノイドバルブSLTを調圧動作させると、ソレノイドバルブSLTの振動に起因する異音が発生し易くなる所定範囲Rpl内においては、制御指令信号Ssltとして、上記異音の発生を抑制する発音抑制用制御指令信号Ssltrを出力する。
【0063】
具体的には、電子制御装置90は、ソレノイドバルブSLTの調圧状態においてソレノイドバルブSLTの振動に起因する異音の発生を抑制するという制御機能を実現する為に、更に、状態判定手段すなわち状態判定部96を備えている。
【0064】
状態判定部96は、油圧制御部92によって調圧用制御指令信号Ssltcがソレノイド122に印加されたときに、ライン圧PLの調圧値が所定範囲Rpl内にあるか否か、すなわちパイロット圧Psltが異音発生調圧範囲Rslts内にあるか否かを判定する。異音発生調圧範囲Rsltsは、例えばソレノイドバルブSLTによるライン圧PLの調圧状態がパイロット圧Psltの振動に起因する異音を発生し易い調圧状態となるパイロット圧Psltの範囲として予め定められた範囲である。つまり、異音発生調圧範囲Rsltsは、有段変速部22の入力トルクに応じたライン圧PLの調圧値を所定範囲Rpl内とするパイロット圧Psltの範囲として予め定められた範囲である。本実施例では、異音発生調圧範囲Rsltsを発音域とも称する。
【0065】
油圧制御部92は、状態判定部96によりパイロット圧Psltが異音発生調圧範囲Rslts内にあると判定された場合には、制御指令信号Ssltを、調圧用制御指令信号Ssltcに代えて発音抑制用制御指令信号Ssltrとする。発音抑制用制御指令信号Ssltrは、制御指令信号Ssltにおける制御電流値Isltを、ライン圧PLを所定範囲Rpl外に調圧する発音抑制用制御電流値Isltrすなわちパイロット圧Psltを異音発生調圧範囲Rslts外に調圧する発音抑制用制御電流値Isltrとした制御指令信号Ssltである。油圧制御部92は、状態判定部96によりパイロット圧Psltが異音発生調圧範囲Rslts内にあると判定された場合には、制御指令信号Ssltにおける制御電流値Isltを、調圧用制御指令信号Ssltcにおける制御電流値Isltである調圧用制御電流値Isltcに代えて発音抑制用制御電流値Isltrとする、すなわち発音抑制用制御電流値Isltrに変更する第1処理Mfを行う。発音抑制用制御電流値Isltrは、例えばソレノイドバルブSLTの振動に起因する異音の発生を抑制する制御電流値Isltとして予め定められた値である。一方で、油圧制御部92は、状態判定部96によりパイロット圧Psltが異音発生調圧範囲Rslts内にないと判定された場合には、制御指令信号Ssltを調圧用制御指令信号Ssltcに維持する。
【0066】
図6は、ソレノイドバルブSLTにおける制御電流値Isltとパイロット圧Psltとの関係を示す図であって、調圧用制御電流値Isltcに代えて発音抑制用制御電流値Isltrを用いる場合の一例を説明する図である。図6において、ソレノイドバルブSLTは、制御電流値Isltがゼロ[A]のときに最大値のパイロット圧Psltを出力する。通常時に用いる調圧用制御指令信号Ssltcがパイロット圧Psltを発音域内とする制御指令信号Ssltとされている。つまり、黒丸印Aに示すように、調圧用制御電流値Isltcがパイロット圧Psltを発音域内とする制御電流値Isltとされている。これに対して、第1処理Mfの実施時は、黒丸印Bに示すように、制御電流値Isltが発音抑制用制御電流値Isltrに変更される。これにより、パイロット圧Psltが発音域外とされて、異音の発生が抑制される。黒丸印Bは黒丸印Aに対してパイロット圧Psltが高くされるので、ライン圧PLは有段変速部22の実際の入力トルクに応じた調圧値よりも高い値に調圧される。従って、係合装置CBの各々へ供給される各油圧Pc1,Pc2,Pb1,Pb2の元圧としての油圧が不足することはない。
【0067】
第1処理Mfが行われる場合、調圧用制御指令信号Ssltcにおける駆動周波数Freである調圧用駆動周波数Frecは必ずしも変更させられる必要はない。調圧用駆動周波数Frecは、例えば電子制御装置90が備える駆動パルス信号を生成する為のスイッチング素子の発熱を抑制したり、パイロット圧Psltが安定するような値に予め定められている。駆動周波数Freを発音抑制用駆動周波数Frerに変更する場合には、上記スイッチング素子の発熱が問題となる可能性がある。発音抑制用駆動周波数Frerは、例えばソレノイドバルブSLTの振動に起因する異音の発生を抑制する駆動周波数Freとして予め定められた値である。
【0068】
油圧制御部92は、状態判定部96によりパイロット圧Psltが異音発生調圧範囲Rslts内にあると判定された場合には、制御指令信号Ssltにおける駆動周波数Freを調圧用駆動周波数Frecに維持し、且つ、第1処理Mfを行う。
【0069】
ソレノイドバルブSLTの振動に起因する異音が発生していても、その異音を感じ難くする程に車室内の暗騒音が大きければ、第1処理Mfを行う必要がない。第1処理Mfの実行によって制御電流値Isltが発音抑制用制御電流値Isltrに変更される場合には、上述したようにライン圧PLが高い値に調圧される為、ライン圧PLの元となる作動油oilを吐出する為のポンプ負荷の増大が問題となる可能性がある。このようなポンプ負荷の増大はできるだけ避けることが望ましい。第1処理Mfは、車室内の暗騒音が小さいときに限定して行うことが望ましい。
【0070】
状態判定部96は、車両状態が小さな暗騒音状態にあるか否か、すなわち車室内の暗騒音のレベルがソレノイドバルブSLTの振動に起因する異音を感じ易い暗騒音のレベルとなる予め定められたレベルにあるか否かを判定する。前記小さな暗騒音状態は、例えば運転者がソレノイドバルブSLTの振動に起因する異音を感じ易い車室内の状態となる予め定められた状態である。具体的には、エンジン12が停止中の状態、且つ、車速Vが所定車速V1未満の状態、且つ、エアコン62が停止中の状態、且つ、オーディオ64から音が出ていない状態では、暗騒音に異音が紛れ難く異音が聞き分けられ易い状態となる、すなわち車両状態が前記小さな暗騒音状態となる。所定車速V1は、例えば車両10が停車中の状態を含む、異音が紛れ難い前記小さな暗騒音状態となる低速走行中の状態であると判断することができる予め定められた車速域の上限車速である。エンジン12が停止中の状態は、エンジン停止中の状態である。車速Vが所定車速V1未満の状態は、停車状態を含む低車速の状態である。エアコン62が停止中の状態は、エアコンオフの状態である。オーディオ64から音が出ていない状態は、オーディオオフの状態である。オーディオオフの状態には、オーディオ64の停止中はもちろんのこと、オーディオ64の作動中におけるオーディオ64のミュート状態も含まれる。一方で、エンジン12の運転中、又は、低速走行中を除く車両10の走行中、又は、エアコン62の作動中、又は、オーディオ64から音が出ている状態では、暗騒音が大きくなり、暗騒音に異音が紛れ易く異音が聞き分けられ難い状態となる、すなわち車両状態が前記小さな暗騒音状態とはならない。
【0071】
状態判定部96は、例えばエンジン制御指令信号Seに基づいてエンジン停止中の状態であるか否かを判定する。状態判定部96は、車速Vが所定車速V1未満の状態であるか否かを判定する。状態判定部96は、例えばエアコンオンACon又はエアコン制御指令信号Sacに基づいてエアコンオフの状態であるか否かを判定する。状態判定部96は、例えばオーディオオンAUDon又はオーディオ制御指令信号Saudに基づいてオーディオオフの状態であるか否かを判定する。状態判定部96は、エンジン停止中の状態であると判定し、且つ、車速Vが所定車速V1未満の状態であると判定し、且つ、エアコンオフの状態であると判定し、且つ、オーディオオフの状態であると判定した場合は、車両状態が前記小さな暗騒音状態にあると判定する。状態判定部96は、エンジン停止中の状態でないと判定するか、又は、車速Vが所定車速V1未満の状態でないと判定するか、又は、エアコンオフの状態でないと判定するか、又は、オーディオオフの状態でないと判定した場合は、車両状態が前記小さな暗騒音状態にないと判定する。
【0072】
油圧制御部92は、状態判定部96により車両状態が前記小さな暗騒音状態にあると判定されたときには、状態判定部96によりパイロット圧Psltが異音発生調圧範囲Rslts内にあると判定された場合に、制御指令信号Ssltとして、調圧用制御指令信号Ssltcに代えて発音抑制用制御指令信号Ssltrを出力する。又、油圧制御部92は、状態判定部96により車両状態が前記小さな暗騒音状態にないと判定されたときには、状態判定部96によりパイロット圧Psltが異音発生調圧範囲Rslts内にあると判定された場合であっても、制御指令信号Ssltとして、調圧用制御指令信号Ssltcを出力する。
【0073】
具体的には、油圧制御部92は、状態判定部96によりパイロット圧Psltが異音発生調圧範囲Rslts内にあると判定されたときに、状態判定部96により車両状態が前記小さな暗騒音状態にあると判定された場合には、第1処理Mfを行う。一方で、油圧制御部92は、状態判定部96によりパイロット圧Psltが異音発生調圧範囲Rslts内にあると判定されたときに、状態判定部96により車両状態が前記小さな暗騒音状態にないと判定された場合には、制御指令信号Ssltを調圧用制御指令信号Ssltcに維持する。尚、車両状態が前記小さな暗騒音状態にあると判定された場合、エンジン停止中の状態であるので、作動油oilはEOP60により供給される。前述した第1処理Mfの実行によって生じるポンプ負荷の増大は、EOP60の負荷の増大である。
【0074】
図7は、電子制御装置90の制御作動の要部すなわちソレノイドバルブSLTの調圧状態においてソレノイドバルブSLTの振動に起因する異音の発生を抑制する為の制御作動を説明するフローチャートであり、例えば繰り返し実行される。
【0075】
図7において、先ず、状態判定部96の機能に対応するステップ(以下、ステップを省略する)S10において、パイロット圧Psltが異音発生調圧範囲Rslts内にあるか否かが判定される。このS10の判断が肯定される場合は状態判定部96の機能に対応するS20において、エンジン停止中の状態であるか否かが判定される。このS20の判断が肯定される場合は状態判定部96の機能に対応するS30において、車速Vが所定車速V1未満の状態であるか否かが判定される。このS30の判断が肯定される場合は状態判定部96の機能に対応するS40において、エアコンオフの状態であるか否かが判定される。このS40の判断が肯定される場合は状態判定部96の機能に対応するS50において、オーディオオフの状態であるか否かが判定される。このS50の判断が肯定される場合は油圧制御部92の機能に対応するS60において、第1処理Mfが行われる。つまり、異音の発生を抑制する為に、制御電流値IsltがソレノイドバルブSLTの振動対策値としての発音抑制用制御電流値Isltrに変更された制御指令信号SsltでソレノイドバルブSLTが制御される。前記S10の判断が否定される場合は、又は、前記S20の判断が否定される場合は、又は、前記S30の判断が否定される場合は、又は、前記S40の判断が否定される場合は、又は、前記S50の判断が否定される場合は、油圧制御部92の機能に対応するS70において、通常値としての調圧用制御指令信号Ssltcとされた制御指令信号SsltでソレノイドバルブSLTが制御される。
【0076】
上述のように、本実施例によれば、パイロット圧Psltの調圧範囲として異音発生調圧範囲Rslts内においては、制御指令信号Ssltとして、異音の発生を抑制する発音抑制用制御指令信号Ssltrが出力されるので、制御指令信号Ssltにおける制御電流値Isltを変更することによってパイロット圧Psltが異音発生調圧範囲Rslts内となる制御指令信号Ssltの使用を避けることが可能となる。よって、ソレノイドバルブSLTの調圧状態において、ソレノイドバルブSLTの振動に起因する異音の発生を抑制することができる。
【0077】
また、本実施例によれば、発音抑制用制御指令信号Ssltrは、制御指令信号Ssltにおける制御電流値Isltを、発音抑制用制御電流値Isltrとした制御指令信号Ssltであるので、駆動パルス信号を生成する為のスイッチング素子の発熱を避けつつ、パイロット圧Psltが異音発生調圧範囲Rslts内となる制御指令信号Ssltの使用を避けることが可能となる。これにより、スイッチング素子の発熱を問題にすることなく、ソレノイドバルブSLTの振動に起因する異音の発生を抑制することができる。
【0078】
また、本実施例によれば、車両状態が前記小さな暗騒音状態にあるときには、パイロット圧Psltが異音発生調圧範囲Rslts内にある場合に、制御指令信号Ssltとして、調圧用制御指令信号Ssltcに代えて発音抑制用制御指令信号Ssltrが出力されるので、暗騒音に異音が紛れ難く異音が聞き分けられ易い状態のときには、ソレノイドバルブSLTの振動に起因する異音の発生を抑制することができる。一方で、車両状態が前記小さな暗騒音状態にないときには、パイロット圧Psltが異音発生調圧範囲Rslts内にある場合であっても、制御指令信号Ssltとして、調圧用制御指令信号Ssltcが出力されるので、暗騒音に異音が紛れ易く異音が聞き分けられ難い状態のときには、作動油oilを吐出する為のポンプ負荷、特にはEOP60の負荷の不要な増大を避けることができる。
【0079】
次に、本発明の他の実施例を説明する。尚、以下の説明において実施例相互に共通する部分には同一の符号を付して説明を省略する。
【実施例2】
【0080】
前述の実施例1では、油圧制御部92は、異音の発生を抑制する為に第1処理Mfを行った。本実施例では、油圧制御部92は、異音の発生を抑制する為に、第1処理Mfを行うことに替えて、第2処理Msを行う。
【0081】
具体的には、発音抑制用制御指令信号Ssltrは、制御指令信号Ssltにおける駆動周波数Freを、調圧用制御指令信号Ssltcにおける調圧用駆動周波数Frecとは異なる値の発音抑制用駆動周波数Frerとした制御指令信号Ssltである。油圧制御部92は、状態判定部96によりパイロット圧Psltが異音発生調圧範囲Rslts内にあると判定された場合には、制御指令信号Ssltにおける駆動周波数Freを、調圧用駆動周波数Frecに代えて発音抑制用駆動周波数Frerとする、すなわち発音抑制用駆動周波数Frerに変更する第2処理Msを行う。一方で、油圧制御部92は、状態判定部96によりパイロット圧Psltが異音発生調圧範囲Rslts内にないと判定された場合には、制御指令信号Ssltを調圧用制御指令信号Ssltcに維持する。
【0082】
油圧制御部92は、状態判定部96によりパイロット圧Psltが異音発生調圧範囲Rslts内にあると判定された場合には、制御指令信号Ssltにおける制御電流値Isltを調圧用制御電流値Isltcに維持し、且つ、第2処理Msを行う。この第2処理Msを行う制御では、パイロット圧Psltは発音域にあるものの、駆動周波数Freが発音抑制用駆動周波数Frerとされることで、例えばパイロット圧Psltの脈動が抑制される。つまり、駆動周波数Freが変更されることで、ソレノイドバルブSLTが有するスプール弁126(図4参照)の動き易さが替えられる。発音抑制用駆動周波数Frerはスプール弁126が動き難い駆動周波数Freとして予め定められたものである。発音抑制用駆動周波数Frerが用いられることで、パイロット圧Psltの脈動に起因したソレノイドバルブSLT自体の振動が抑制されて、ソレノイドバルブSLTの振動に起因する異音の発生が抑制される。
【0083】
駆動周波数Freが高い値とされることで、ソレノイドバルブSLTの振動の起因となるスプール弁126の動きが駆動周波数Freに追従し難くなる。従って、発音抑制用駆動周波数Frerは、調圧用駆動周波数Frecよりも高い値とされる。しかしながら、駆動周波数Freが高い値とされる程、駆動パルス信号を生成する為のスイッチング素子の発熱が問題となり易い。ソレノイドバルブSLTの振動の共振域を避けるということ、又は、異音が伝わり難い周波数にするということ、又は、耳障りとなる異音の周波数を避けるということであれば、発音抑制用駆動周波数Frerは、調圧用駆動周波数Frecよりも低い値に変更されても良い。但し、駆動周波数Freが低過ぎる値とされると、パイロット圧Psltが安定し難くなる可能性がある。
【0084】
ソレノイドバルブSLTの振動に起因する異音の発生中に、その異音の音色を一律のものとせずに変動させることで、運転者が異音を感じ難くすることができる可能性がある。発音抑制用駆動周波数Frerの値は、一律の値とされるのではなく、周期的に変動するものであっても良い。発音抑制用駆動周波数Frerが一律の値とされるよりも変動する値とされた方がスプール弁126が動き難くなる場合には、発音抑制用駆動周波数Frerが周期的に変動する値とされることは有用である。
【0085】
作動油温THoilによって作動油oilの粘性が変わるので、ソレノイドバルブSLTの振動の状態も変わると考えられる。発音抑制用駆動周波数Frerは、作動油温THoilに応じた一律の値とされても良いし、作動油温THoilに応じて周期的に変動する値とされても良い。
【0086】
ソレノイドバルブSLTの振動に起因する異音が発生していても、その異音を感じ難くする程に車室内の暗騒音が大きければ、第2処理Msを行う必要がない。第2処理Msの実行によって駆動周波数Freが発音抑制用駆動周波数Frerに変更される場合には、駆動パルス信号を生成する為のスイッチング素子の発熱などが問題となる可能性がある。このようなスイッチング素子の発熱などはできるだけ避けることが望ましい。第2処理Msは、車室内の暗騒音が小さいときに限定して行うことが望ましい。
【0087】
油圧制御部92は、状態判定部96によりパイロット圧Psltが異音発生調圧範囲Rslts内にあると判定されたときに、状態判定部96により車両状態が前記小さな暗騒音状態にあると判定された場合には、第2処理Msを行う。一方で、油圧制御部92は、状態判定部96によりパイロット圧Psltが異音発生調圧範囲Rslts内にあると判定されたときに、状態判定部96により車両状態が前記小さな暗騒音状態にないと判定された場合には、制御指令信号Ssltを調圧用制御指令信号Ssltcに維持する。
【0088】
図7のフローチャートの制御作動は、本実施例ではS60において第1処理Mfに替えて第2処理Msが行われることが前述の実施例1と相違する。具体的には、本実施例では、S60において、異音の発生を抑制する為に、駆動周波数FreがソレノイドバルブSLTの振動対策値としての発音抑制用駆動周波数Frerに変更された制御指令信号SsltでソレノイドバルブSLTが制御される。
【0089】
図8は、図7のフローチャートのS60において第2処理Msを実行した場合のタイムチャートの一例であって、図6とは別の実施例である。図8は、モータ走行中にアクセルオフとされて車両10が停止した場合の実施態様を示している。図8において、t1時点はアクセルオフとされた時点を示している。その後、アクセルオフに伴って車両10が停止させられる(t2時点参照)。車両停止後、エアコンオフの状態とされたことで、制御指令信号Ssltにおける駆動周波数Freを調圧用駆動周波数Frecに代えて発音抑制用駆動周波数Frerとする第2処理Msが開始される(t3時点参照)。この第2処理Msでは、発音抑制用駆動周波数Frerが一律の値とされず、周期的に変動する値とされている(t3時点以降参照)。
【0090】
上述のように、本実施例によれば、パイロット圧Psltの調圧範囲として異音発生調圧範囲Rslts内においては、制御指令信号Ssltとして、異音の発生を抑制する発音抑制用制御指令信号Ssltrが出力されるので、制御指令信号Ssltにおける駆動周波数Freを変更することによってソレノイドバルブSLTが出力するパイロット圧Psltの脈動を抑制することが可能となる。よって、ソレノイドバルブSLTの調圧状態において、ソレノイドバルブSLTの振動に起因する異音の発生を抑制することができる。
【0091】
また、本実施例によれば、発音抑制用制御指令信号Ssltrは、制御指令信号Ssltにおける駆動周波数Freを、調圧用制御指令信号Ssltcにおける調圧用駆動周波数Frecとは異なる値の発音抑制用駆動周波数Frerとした制御指令信号Ssltであるので、作動油oilを吐出する為のポンプ負荷の増大を避けつつ、パイロット圧Psltの脈動を抑制することが可能となる。これにより、ポンプ負荷の増大を問題にすることなく、ソレノイドバルブSLTの振動に起因する異音の発生を抑制することができる。
【0092】
また、本実施例によれば、発音抑制用駆動周波数Frerの値は周期的に変動するので、パイロット圧Psltの脈動が抑制されることに加えて、ソレノイドバルブSLTの振動に起因する異音の音色が変動させられて、運転者が異音を感じ難くすることができる。
【0093】
また、本実施例によれば、車両状態が前記小さな暗騒音状態にあるときには、パイロット圧Psltが異音発生調圧範囲Rslts内にある場合に、制御指令信号Ssltとして、調圧用制御指令信号Ssltcに代えて発音抑制用制御指令信号Ssltrが出力されるので、暗騒音に異音が紛れ難く異音が聞き分けられ易い状態のときには、ソレノイドバルブSLTの振動に起因する異音の発生を抑制することができる。一方で、車両状態が前記小さな暗騒音状態にないときには、パイロット圧Psltが異音発生調圧範囲Rslts内にある場合であっても、制御指令信号Ssltとして、調圧用制御指令信号Ssltcが出力されるので、暗騒音に異音が紛れ易く異音が聞き分けられ難い状態のときには、駆動パルス信号を生成する為のスイッチング素子の不要な発熱を避けることができる。
【0094】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0095】
例えば、ソレノイドバルブSLTの振動に起因する異音の発生を抑制する為に、前述の実施例1では、駆動周波数Freを調圧用駆動周波数Frecに維持し、且つ、第1処理Mfを行い、又、前述の実施例2では、制御電流値Isltを調圧用制御電流値Isltcに維持し、且つ、第2処理Msを行ったが、この態様に限らない。例えば、ソレノイドバルブSLTの振動に起因する異音の発生を抑制する為に、第1処理Mf及び第2処理Msを行っても良い。この場合、制御電流値Isltが発音抑制用制御電流値Isltrに変更されることに加えて、駆動周波数Freが発音抑制用駆動周波数Frerに変更される。従って、油圧制御部92は、状態判定部96によりパイロット圧Psltが異音発生調圧範囲Rslts内にあると判定された場合には、第1処理Mf及び第2処理Msのうちの少なくとも一方の処理を行う。又、油圧制御部92は、状態判定部96によりパイロット圧Psltが異音発生調圧範囲Rslts内にあると判定されたときに、状態判定部96により車両状態が前記小さな暗騒音状態にあると判定された場合には、第1処理Mf及び第2処理Msのうちの少なくとも一方の処理を行う。このようにしても、前述の実施例1,2と同様の効果が得られる。
【0096】
また、前述の実施例1,2では、前記小さな暗騒音状態は、エンジン停止中の状態A、且つ、車速Vが所定車速V1未満の状態B、且つ、エアコンオフの状態C、且つ、オーディオオフの状態Dであったが、この態様に限らない。前記小さな暗騒音状態は、運転者がソレノイドバルブSLTの振動に起因する異音を感じ易い車室内の状態であれば良く、上述した状態A,B,C,Dの何れもの状態である必要はない。例えば、前記小さな暗騒音状態は、エンジン停止中の状態Aで判断されても良い。又、前記小さな暗騒音状態は、車速Vが所定車速V1未満の状態Bで判断されても良い。又、前記小さな暗騒音状態は、エアコンオフの状態Cで判断されても良い。又、前記小さな暗騒音状態は、オーディオオフの状態Dで判断されても良い。このようにしても、エンジン停止中のように、又は、停車中や低速走行中のように、又は、エアコンオフのように、又は、オーディオオフのように、暗騒音に異音が紛れ難く異音が聞き分けられ易い状態の場合には、異音の発生が抑制され得る。一方で、エンジン12が運転中のように、又は、低速走行中を除く走行中のように、又は、エアコン62が作動中のように、又は、オーディオ64から音が出ているときのように、暗騒音に異音が紛れ易く異音が聞き分けられ難い状態の場合には、作動油oilを吐出する為のポンプ負荷の不要な増大や駆動パルス信号を生成する為のスイッチング素子の不要な発熱が避けられ得る。
【0097】
また、前述の実施例1,2では、有段変速部22の油圧を調圧するリニアソレノイドバルブとしてライン圧PLを調圧するソレノイドバルブSLTを例示して、第1処理Mf及び第2処理Msを説明したが、この態様に限らない。例えば、各油圧Pc1,Pc2,Pb1,Pb2を各々調圧するソレノイドバルブSL1,SL2,SL3,SL4にも本発明を適用することができる。又、図4に示した油圧制御回路56とは異なるが、コントロールバルブAをリニアソレノイドバルブBが出力するパイロット圧Cで作動させることでコントロールバルブAの入力ポートに入力される油圧Dを調圧し、その調圧した油圧を係合装置CBへ供給するという態様を採用する場合が考えられる。このような態様では、車両用変速機の油圧を調圧するリニアソレノイドバルブは、パイロット圧Cを調圧するリニアソレノイドバルブBである。又は、車両用変速機の油圧を調圧するリニアソレノイドバルブは、油圧Dを調圧するリニアソレノイドバルブEである。このようなリニアソレノイドバルブB,Eにも本発明を適用することができる。又は、車両用変速機がロックアップクラッチを有するトルクコンバータ等の流体式伝動装置を備えるという態様を採用する場合が考えられる。このような態様では、車両用変速機の油圧となり得るロックアップクラッチを作動させる為の油圧を調圧するリニアソレノイドバルブにも本発明を適用することができる。
【0098】
尚、第1処理Mfが行われる場合、リニアソレノイドバルブから狙いの油圧を出力させる為の調圧用制御電流値が発音抑制用制御電流値に変更されてその油圧が変化させられる。第1処理Mfは、出力油圧が変化させられても問題とならないリニアソレノイドバルブに適用することが好ましい。前述したように、ソレノイドバルブSLTに対して第1処理Mfを適用する場合、パイロット圧Psltが高くされてライン圧PLが高くされるが、ライン圧PLは各油圧Pc1,Pc2,Pb1,Pb2の元圧であり、パイロット圧Psltが高くされても問題とならない。又、ソレノイドバルブSL1,SL2,SL3,SL4に対して第1処理Mfを適用する場合、係合装置CBが完全係合している状態であれば各油圧Pc1,Pc2,Pb1,Pb2を高くしても係合装置CBの作動状態が変化させられないので、各油圧Pc1,Pc2,Pb1,Pb2が高くされても問題とならない。
【0099】
また、前述の実施例1では、図6に示すように、発音域がパイロット圧Psltの低圧側にある実施態様を例示したが、この態様に限らない。リニアソレノイドバルブの特性によっては、発音域がパイロット圧Psltの中程度の範囲にある場合もある。要は、発音域を外すように第1処理Mfが行われれば良い。又は、パイロット圧Psltを発音域から外さなくても、第2処理Msを行うことで異音の発生を抑制しても良い。
【0100】
また、前述の実施例1,2において、車両運転状態に応じたライン圧PLの調圧値の調圧範囲における所定範囲Rpl内では、すなわちパイロット圧Psltの調圧範囲における異音発生調圧範囲Rslts内では、第1処理Mf及び/又は第2処理Msを行うような実施態様を採用しても良い。このような実施態様では、ライン圧PLの調圧値が所定範囲Rpl内にあるか否か、すなわちパイロット圧Psltが異音発生調圧範囲Rslts内にあるか否かを判定する必要はない。つまり、図7のフローチャートにおけるS10は必ずしも必要ではない。
【0101】
また、前述の実施例1では、車両運転状態として有段変速部22の入力トルクを例示したが、この態様に限らない。例えば、車両運転状態としては、第1回転機MG1や第2回転機MG2の冷却の必要性、動力伝達装置16の各部の潤滑の必要性、車速Vなどがある。
【0102】
また、前述の実施例1,2において、無段変速部20は、差動機構32の回転要素に連結されたクラッチ又はブレーキの制御により差動作用が制限され得る変速機構であっても良い。又、差動機構32は、ダブルピニオン型の遊星歯車装置であっても良い。又、差動機構32は、複数の遊星歯車装置が相互に連結されることで4つ以上の回転要素を有する差動機構であっても良い。又、差動機構32は、エンジン12によって回転駆動されるピニオンと、そのピニオンに噛み合う一対のかさ歯車に第1回転機MG1及び中間伝達部材30が各々連結された差動歯車装置であっても良い。又、差動機構32は、2以上の遊星歯車装置がそれらを構成する一部の回転要素で相互に連結された構成において、それらの遊星歯車装置の回転要素にそれぞれエンジン、回転機、駆動輪が動力伝達可能に連結される機構であっても良い。
【0103】
また、前述の実施例1,2では、複合変速機40を例示して本発明を説明したが、この態様に限らない。例えば、無段変速部20を備えず、有段変速部20を単独で備えるような車両であっても、本発明を適用することができる。つまり、車両用変速機の油圧を調圧するリニアソレノイドバルブを備えた車両であれば、本発明を適用することができる。上記車両用変速機としては、有段変速部20のような遊星歯車式の自動変速機でも良いし、又は、同期噛合型平行2軸式自動変速機であって入力軸を2系統備えて各系統の入力軸に油圧式の係合装置がそれぞれつながり更にそれぞれ偶数段と奇数段へと繋がっている型式の変速機である公知のDCT(Dual Clutch Transmission)、入力回転部材と出力回転部材との間の動力伝達経路に、油圧式の第1係合装置の係合によって形成される第1動力伝達経路と油圧式の第2係合装置の係合によって形成される第2動力伝達経路とが並列に設けられた自動変速機などの変速機であっても良い。
【0104】
尚、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0105】
22:機械式有段変速部(車両用変速機)
90:電子制御装置(制御装置)
92:油圧制御部
96:状態判定部
122:ソレノイド
SLT,SL1-SL4:ソレノイドバルブ(リニアソレノイドバルブ)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8