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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-15
(54)【発明の名称】弁装置、発電設備および弁装置の弁座
(51)【国際特許分類】
   F16K 1/44 20060101AFI20231108BHJP
   F01D 17/10 20060101ALI20231108BHJP
   F01D 25/00 20060101ALI20231108BHJP
   F16K 1/42 20060101ALI20231108BHJP
   F16K 25/00 20060101ALI20231108BHJP
【FI】
F16K1/44 B
F01D17/10 F
F01D25/00 G
F16K1/42 G
F16K25/00
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019112304
(22)【出願日】2019-06-17
(65)【公開番号】P2020204362
(43)【公開日】2020-12-24
【審査請求日】2022-02-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100150717
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 和也
(72)【発明者】
【氏名】大石 勉
(72)【発明者】
【氏名】中村 優一
(72)【発明者】
【氏名】竹丸 竜平
(72)【発明者】
【氏名】三浦 恭
【審査官】橋本 敏行
(56)【参考文献】
【文献】特開昭51-130925(JP,A)
【文献】特表平11-504102(JP,A)
【文献】特開2004-100698(JP,A)
【文献】特開2015-081568(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01D 13/00-25/36
F16K 1/00- 1/54
7/00- 7/20
13/00-13/10
25/00-25/04
29/00-29/02
33/00
99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーシングと、
前記ケーシング内に設けられた、中心軸線を有する弁座と、
前記中心軸線に沿う軸方向における第1の側で前記弁座に対して離接可能な第1弁体であって、流れの許可と遮断を行うための第1弁体と、
前記軸方向における前記第1の側で前記弁座に対して離接可能な第2弁体であって、流量を調整するための第2弁体と、
前記第1弁体から、前記軸方向における前記第1の側とは反対側である第2の側に延びる第1弁棒と、
前記第2弁体から、前記軸方向における前記第1の側に延びる第2弁棒と、を備え、
前記弁座は、前記第1弁体が当接可能な第1弁座面と、前記第1弁座面よりも外周側に配置された、前記第2弁体が当接可能な第2弁座面と、を有し、
前記第1弁座面および前記第2弁座面は、前記軸方向における前記第2の側に向かって前記中心軸線に近づくように形成されており、
前記中心軸線を含む断面で見たときに、前記第2弁座面は直線状に形成され、前記第1弁座面は曲線状に形成され
前記中心軸線を含む断面で見たときに、前記中心軸線と前記第2弁座面とがなす角度THは、
40°≦TH≦45°
を満たしている、弁装置。
【請求項2】
前記中心軸線を含む断面で見たときに、前記第1弁座面は円弧状に形成されている、請求項1に記載の弁装置。
【請求項3】
前記中心軸線から前記第1弁体と前記第1弁座面との当接部位までの距離をD1とし、前記中心軸線から前記弁座の内周端までの距離をDthとすると、
0.93D1≦Dth≦0.95D1
を満たしている、請求項1または2に記載の弁装置。
【請求項4】
前記第1弁体は、前記第1弁座面に当接可能な第1弁体面を有し、
前記第1弁体面は、前記中心軸線を含む断面で見たときに、曲率半径Rv1で前記中心軸線上に中心点を有するように円弧状に形成され、
前記曲率半径Rv1と、前記中心軸線から前記第1弁体と前記第1弁座面との当接部位までの距離D1と、前記中心軸線を含む断面で見たときに前記中心軸線と前記第2弁座面とがなす角度THは、
25°≦cos-1((D1/2)/Rv1)≦TH
を満たしている、請求項1~のいずれか一項に記載の弁装置。
【請求項5】
前記弁座は、前記第1弁座面と前記第2弁座面とを含む弁座本体と、前記弁座本体の下流側に設けられた、前記第1弁座面から、前記軸方向における前記第2の側に向かって連続状に延びる案内面を有する張出部と、を有している、請求項1~のいずれか一項に記載の弁装置。
【請求項6】
前記張出部は、前記中心軸線に対して非対称に形成されている、請求項に記載の弁装置。
【請求項7】
ケーシングと、
前記ケーシング内に設けられた、中心軸線を有する弁座と、
前記中心軸線に沿う軸方向における第1の側で前記弁座に対して離接可能な第1弁体であって、流れの許可と遮断を行うための第1弁体と、
前記軸方向における前記第1の側で前記弁座に対して離接可能な第2弁体であって、流量を調整するための第2弁体と、
前記第1弁体から、前記軸方向における前記第1の側とは反対側である第2の側に延びる第1弁棒と、
前記第2弁体から、前記軸方向における前記第1の側に延びる第2弁棒と、を備え、
前記弁座は、前記第1弁体が当接可能な第1弁座面と、前記第1弁座面よりも外周側に配置された、前記第2弁体が当接可能な第2弁座面と、を有し、
前記第1弁座面および前記第2弁座面は、前記軸方向における前記第2の側に向かって前記中心軸線に近づくように形成されており、
前記中心軸線を含む断面で見たときに、前記第2弁座面は直線状に形成され、前記第1弁座面は曲線状に形成され、
前記弁座は、前記第1弁座面と前記第2弁座面とを含む弁座本体と、前記弁座本体の下流側に設けられた、前記第1弁座面から、前記軸方向における前記第2の側に向かって連続状に延びる案内面を有する張出部と、を有し、
前記張出部は、前記中心軸線に対して非対称に形成されている、弁装置。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の弁装置を備えた発電設備。
【請求項9】
弁装置のケーシング内に設けられた、中心軸線を有する弁座であって、前記弁装置が、前記中心軸線に沿う軸方向における第1の側で前記弁座に対して離接可能な第1弁体であって、流れの許可と遮断を行うための第1弁体と、前記軸方向における前記第1の側で前記弁座に対して離接可能な第2弁体であって、流量を調整するための第2弁体と、前記第1弁体から、前記軸方向における前記第1の側とは反対側である第2の側に延びる第1弁棒と、前記第2弁体から、前記軸方向における前記第1の側に延びる第2弁棒と、を備える弁装置の弁座であって、
前記第1弁体が当接可能な第1弁座面と、
前記第1弁座面よりも外周側に配置された、前記第2弁体が当接可能な第2弁座面と、を備え、
前記第1弁座面および前記第2弁座面は、前記軸方向における前記第2の側に向かって前記中心軸線に近づくように形成されており、
前記中心軸線を含む断面で見たときに、前記第2弁座面は直線状に形成され、前記第1弁座面は曲線状に形成され
前記中心軸線を含む断面で見たときに、前記中心軸線と前記第2弁座面とがなす角度THは、
40°≦TH≦45°
を満たしている、弁装置の弁座。
【請求項10】
弁装置のケーシング内に設けられた、中心軸線を有する弁座であって、前記弁装置が、前記中心軸線に沿う軸方向における第1の側で前記弁座に対して離接可能な第1弁体であって、流れの許可と遮断を行うための第1弁体と、前記軸方向における前記第1の側で前記弁座に対して離接可能な第2弁体であって、流量を調整するための第2弁体と、前記第1弁体から、前記軸方向における前記第1の側とは反対側である第2の側に延びる第1弁棒と、前記第2弁体から、前記軸方向における前記第1の側に延びる第2弁棒と、を備える弁装置の弁座であって、
前記第1弁体が当接可能な第1弁座面と、
前記第1弁座面よりも外周側に配置された、前記第2弁体が当接可能な第2弁座面と、を備え、
前記第1弁座面および前記第2弁座面は、前記軸方向における前記第2の側に向かって前記中心軸線に近づくように形成されており、
前記中心軸線を含む断面で見たときに、前記第2弁座面は直線状に形成され、前記第1弁座面は曲線状に形成され、
前記弁座は、前記第1弁座面と前記第2弁座面とを含む弁座本体と、前記弁座本体の下流側に設けられた、前記第1弁座面から、前記軸方向における前記第2の側に向かって連続状に延びる案内面を有する張出部と、を有し、
前記張出部は、前記中心軸線に対して非対称に形成されている、弁装置の弁座。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、弁装置、発電設備および弁装置の弁座に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、蒸気タービンを備えた発電設備においては、ボイラーで生成された蒸気は高圧タービンに供給されて、高圧タービンが回転駆動される。高圧タービンに供給される蒸気は、高圧側蒸気弁で流量を調整したり蒸気を遮断したりするようになっている。より具体的には、この高圧側蒸気弁は、主蒸気止め弁と蒸気加減弁とで構成されており、蒸気タービンの速度等の主要な制御は、蒸気加減弁の微小開度運用にて行われる。主蒸気止め弁と蒸気加減弁とは別体で構成されて直列に配置される場合もあるが、製造コストの観点から一体化されて組み合わされた組み合わせ型弁として構成される場合もある。
【0003】
また、高圧タービンから排出された蒸気は上述したボイラーで再加熱された後に、中圧タービンに供給されて、中圧タービンが回転駆動される。中圧タービンに供給される蒸気は、再熱蒸気弁で流量を調整したり蒸気を遮断したりするようになっている。より具体的には、この再熱蒸気弁は、再熱蒸気止め弁とインターセプト弁とで構成されており、蒸気タービンの速度等の主要な制御は、インターセプト弁の微小開度運用にて行われる。再熱蒸気止め弁とインターセプト弁とは別体で構成されて、直列に配置される場合もあるが、製造コストの観点から一体化されて組み合わされた組み合わせ型弁として構成される場合もある。
【0004】
また、コンバインドサイクルプラント等の発電設備においても同様に、高圧側蒸気弁として、主蒸気止め弁と蒸気加減弁とを一体化した組み合わせ型蒸気弁が用いられる場合がある。また、再熱側蒸気弁として、再熱蒸気止め弁とインターセプト弁とを一体化した組み合わせ型蒸気弁が用いられる場合がある。
【0005】
ここで、一例として、組み合わせ型蒸気弁として構成された高圧側蒸気弁の構成について、図11を用いて説明する。図11に示す高圧側蒸気弁は、ケーシング内に設けられた弁座50と、弁座50に対して離接可能な第1弁体34と、弁座50に対して離接可能であるとともに第1弁体34の外周側に配置された第2弁体35と、を備えている。上述した高圧側蒸気弁においては、第1弁体34が主蒸気止め弁として用いられ、第2弁体35が蒸気加減弁として用いられる。弁座50は、第1弁体34および第2弁体35が当接可能な弁座面(後述する第2弁座面55)を有しており、弁座面は、中心軸線Lを含む断面で見たときに、直線状に形成されている。
【0006】
図11は、第1弁体34(すなわち主蒸気止め弁)を全開するとともに第2弁体35(すなわち蒸気加減弁)が微小開度で運用されている場合の蒸気の流れを示している。この場合、第2弁体35と弁座50との間に形成される隙間Gを通過した蒸気の流れは、噴流となって内周側に向かって流れる。この蒸気の流れは、弁座50の第1弁体34および第2弁体35が当接する弁座面に付着するように弁座面に沿って内周側に流れる。
【0007】
この弁座面に沿う蒸気の流れは、弁座面に付着するように流れるため、蒸気の流れが弁座50の内周側に移動するにつれて蒸気の流れの流路断面積が小さくなる。このことにより、蒸気の流れの速度は増大していく。このため、弁座面の内周端に到達しても、弁座面に沿う流れの方向と速度とが維持されて、蒸気の流れは弁座面から剥離され得る。剥離された蒸気の流れASは、弁座50の更に内周側に向かって流れる。すると、蒸気の流れASは、第1弁体34から下方に延びる第1弁棒37に衝突したり、第1弁棒37を案内する第1ガイド38に衝突したりし得る。衝突後、蒸気の流れASは、上方に向かう流れAS1と、ケーシング31の出口に向かう流れAS2とに分流される。上方に向かう流れAS1は、第1弁棒37に流体圧力を作用させながら、第1弁体34と弁座50との間に形成された空間内に回り込む。しかしながら、この蒸気の流れAS1は不安定であり、第1弁棒37に作用する流体圧力は変動する。このため、騒音や振動が生じ得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特許第4185029号公報
【文献】特許第5022853号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような点を考慮してなされたものであり、2つの弁体のうちの外周側の弁体を微小開度で運用した場合であっても蒸気の流れを安定化させて、騒音および振動を低減することができる弁装置、発電設備および弁装置の弁座を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
実施の形態による弁装置は、ケーシングと、ケーシング内に設けられた、中心軸線を有する弁座と、中心軸線に沿う軸方向における第1の側で弁座に対して離接可能な第1弁体と、軸方向における第1の側で弁座に対して離接可能な第2弁体と、を備えている。第1弁体から、軸方向における第1の側とは反対側である第2の側に第1弁棒が延びている。第2弁体から、軸方向における第1の側に第2弁棒が延びている。弁座は、第1弁体が当接可能な第1弁座面と、第1弁座面よりも外周側に配置された、第2弁体が当接可能な第2弁座面と、を有している。第1弁座面および第2弁座面は、軸方向における第2の側に向かって中心軸線に近づくように形成されている。中心軸線を含む断面で見たときに、第2弁座面は直線状に形成され、第1弁座面は曲線状に形成されている。
【0011】
また、実施の形態による発電設備は、上述した弁装置を備えている。
【0012】
また、実施の形態による弁装置の弁座は、弁装置のケーシング内に設けられた、中心軸線を有する弁座である。弁装置は、中心軸線に沿う軸方向における第1の側で弁座に対して離接可能な第1弁体と、軸方向における第1の側で弁座に対して離接可能な第2弁体と、第1弁体から、軸方向における第1の側とは反対側である第2の側に延びる第1弁棒と、第2弁体から、軸方向における第1の側に延びる第2弁棒と、を備えている。弁装置の弁座は、第1弁体が当接可能な第1弁座面と、第1弁座面よりも外周側に配置された、第2弁体が当接可能な第2弁座面と、を備えている。第1弁座面および第2弁座面は、軸方向における第2の側に向かって中心軸線に近づくように形成されている。中心軸線を含む断面で見たときに、第2弁座面は直線状に形成され、第1弁座面は曲線状に形成されている。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、2つの弁体のうちの外周側の弁体を微小開度で運用した場合であっても蒸気の流れを安定化させて、騒音および振動を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本実施の形態による発電設備の全体構成の一例を示す概略系統図である。
図2図2は、本実施の形態による弁装置の一例を説明するための概略縦断面図である。
図3図3は、図2の弁装置の第1弁体、第2弁体および弁座を拡大して示す概略縦断面図である。
図4図4は、本実施の形態による弁装置における弁座を示す斜視図である。
図5図5は、図3の弁座を示す拡大縦断面図である。
図6図6は、一般的な弁装置における弁座を示す拡大縦断面図である。
図7図7は、一般的な弁装置において、第2弁体と弁座との間の隙間を通過する蒸気の流れを説明するための縦断面図である。
図8図8は、蒸気の流路断面積の変化を説明するための図である。
図9図9は、蒸気の流れの挙動を説明するための模式図である。
図10A図10Aは、図9に示すA位置における蒸気の流れの速度分布を示す図である。
図10B図10Bは、図9に示すB位置における蒸気の流れの速度分布を示す図である。
図10C図10Cは、図9に示すC位置における蒸気の流れの速度分布を示す図である。
図10D図10Dは、図7に示す蒸気の流れのうち、図10Cに示す位置に相当する位置における蒸気の流れの速度分布を示す図である。
図11図11は、一般的な弁装置における蒸気の流れを説明するための概略縦断面図である。
図12図12は、本実施の形態による弁装置において、第2弁体と弁座との間の隙間を通過する蒸気の流れを説明するための縦断面図である。
図13図13は、本実施の形態による弁装置において、蒸気の流れを説明するための概略縦断面図である。
図14図14は、一般的な弁装置において発生する振動の周波数分布図である。
図15図15は、本実施の形態による弁装置において発生する振動の周波数分布図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態における弁装置、発電設備および弁装置の弁座について説明する。
【0016】
図1図15を用いて、本実施の形態における弁装置、発電設備および弁装置の弁座について説明する。
【0017】
まず、火力発電設備を例にとって、本実施の形態による発電設備について説明する。
【0018】
図1に示す発電設備1は、蒸気を生成するボイラー2と、ボイラー2により生成された蒸気によって回転駆動されるタービン3と、タービン3の回転駆動によって電力を生じる発電機4と、高圧側蒸気弁13と、再熱側蒸気弁16と、を備えている。
【0019】
図1に示す例では、タービン3は、高圧タービン5、中圧タービン6および低圧タービン7を含んでいる。ボイラー2と、各タービン5~7とは、蒸気を導く所定のラインで接続されている。ボイラー2で加熱された蒸気は、まず、第1ライン8を通って高圧タービン5に導かれ、この高圧タービン5を回転駆動させた後、再びボイラー2に導かれて再加熱される。再加熱後の再熱蒸気は、第2ライン9を通って中圧タービン6に導かれ、中圧タービン6を回転駆動させる。中圧タービン6から排出された再熱蒸気は、第3ライン10を通って低圧タービン7に導かれ、低圧タービン7を回転駆動させる。その後、蒸気は復水器11で復水にされて、ボイラー2に戻される。復水器11の下流側には給水ポンプ12が設けられており、適切な水量が維持されるようになっている。
【0020】
ボイラー2から高圧タービン5に蒸気を導く第1ライン8には、高圧側蒸気弁13が設けられている。高圧側蒸気弁13は、主蒸気止め弁14と蒸気加減弁15とで構成されており、蒸気タービンの速度等の主要な制御は、蒸気加減弁15の微小開度運用で行われる。蒸気の流れとして見たときには、主蒸気止め弁14が、蒸気加減弁15の下流側に配置されている。
【0021】
ボイラー2から中圧タービン6に蒸気を導く第2ライン9には、再熱側蒸気弁16が設けられている。再熱側蒸気弁16は、再熱蒸気止め弁17とインターセプト弁18とで構成されており、蒸気タービンの速度等の主要な制御は、インターセプト弁18の微小開度運用で行われる。蒸気の流れとしてみたときには、再熱蒸気止め弁17が、インターセプト弁18の下流側に配置されている。
【0022】
次に、本実施の形態による弁装置30について、より詳細に説明する。
【0023】
本実施の形態による弁装置30は、2つの弁が一体化されて組み合わされた組み合わせ型弁である。このような弁装置30の例としては、上述した主蒸気止め弁14と蒸気加減弁15とが一体化されて組み合わされた組み合わせ型蒸気弁(高圧側蒸気弁13に相当)や、上述した再熱蒸気止め弁17とインターセプト弁18とが一体化されて組み合わされた組み合わせ型蒸気弁(再熱側蒸気弁16に相当)が挙げられる。ここでは、高圧側の組み合わせ型蒸気弁を例にとって、本実施の形態による弁装置30について以下に説明する。
【0024】
図2に示すように、本実施の形態による弁装置30は、蒸気が流入するケーシング入口32と蒸気が流出するケーシング出口33とを有するケーシング31と、ケーシング31内に設けられた、中心軸線Lを有する弁座50と、弁座50に対して離接可能な第1弁体34および第2弁体35と、を備えている。ケーシング31内には、ケーシング入口32からケーシング出口33に蒸気を導く内部流路36が設けられている。この内部流路36を画定する内面に、上述した弁座50が取り付けられている。弁座50は、ボルト等を用いて取り外し可能にケーシング31に取り付けられていてもよく、溶接等によってケーシング31に接合されるようにしてもよい。
【0025】
弁座50は、概略的にはリング状に形成されており、弁座50は、その内周側に、ケーシング入口32からケーシング出口33へ向かう蒸気が通過する開口部51を画定している。
【0026】
第1弁体34は、中心軸線Lに沿う軸方向LD(図2における上下方向)における第1の側(上側)で、弁座50に対して離接可能になっている。第1弁体34は、概略的には円盤状または逆円錐状に形成されており、概略的には弁座50の上側に配置されている。
【0027】
第1弁体34から、軸方向LDにおける第1の側とは反対側である第2の側(下側)に、第1弁棒37が延びている。すなわち、第1弁棒37は、第1弁体34から弁座50の開口部51を通って下側に延びている。第1弁棒37は、ケーシング31に取り付けられた第1ガイド38を貫通してケーシング31の外部に延び、図示しない駆動装置に連結されている。第1ガイド38は、軸方向LDに沿って第1弁体34および第1弁棒37の移動を案内するように構成されており、ケーシング31内の内部流路36から蒸気が外部に漏出することを防止可能に構成されている。
【0028】
第1弁体34は、弁座50(より詳細には、後述する第1弁座面54)に当接可能になっている。第1弁体34が弁座50に当接すると、第1弁体34と弁座50との間に蒸気が通過する流路が形成されることが防止され、ケーシング入口32からケーシング出口33への蒸気の流れが遮断される。第1弁体34が弁座50から離間すると、第1弁体34と弁座50との間に気が通過する流路が形成され、ケーシング入口32からケーシング出口33への蒸気の流れが形成される。第1弁体34は、上述した主蒸気止め弁14として構成されており、主として、蒸気の流れの許可と遮断とを行うように構成されている。
【0029】
第2弁体35は、中心軸線Lに沿う軸方向LDにおける第1の側(上側)で弁座50に対して離接可能になっている。第2弁体35は、概略的には凹状に形成されている。すなわち、第2弁体35は、基体部35aと、基体部35aから下方に延びる円筒部35bと、を有している。円筒部35bは、概略的には円筒状に形成されており、軸方向LDで見たときに第1弁体34の外周側に配置されている。円筒部35bの内周側に、第1弁体34が収容可能になっている。
【0030】
第2弁体35から、軸方向LDにおける第1の側(上側)に第2弁棒39が延びている。第2弁棒39は、ケーシング31に取り付けられた蓋体40を貫通してケーシング31の外部に延び、図示しない駆動装置に連結されている。蓋体40は、ケーシング31内の内部流路36から蒸気が外部に漏出することを防止可能に構成されている。また、蓋体40には、軸方向LDに沿う第2弁体35および第2弁棒39の移動を案内する第2ガイド41が設けられている。蓋体40は、ボルト43等でケーシング31に固定されている。
【0031】
第2弁体35は、弁座50(より詳細には、後述する第2弁座面55)に当接可能になっている。第2弁体35が弁座50に当接すると、第2弁体35と弁座50との間に蒸気が通過する流路が形成されることが防止され、ケーシング入口32からケーシング出口33への蒸気の流れが遮断される。第2弁体35が弁座50から離間すると、第2弁体35と弁座50との間に蒸気が通過する流路が形成され、ケーシング入口32からケーシング出口33への蒸気の流れが形成される。第2弁体35は、上述した蒸気加減弁15として構成されており、主として、蒸気タービンの速度等の主要な制御を行うように構成されている。このため、第2弁体35と弁座50との間の隙間Gの大きさを調整することで、蒸気タービンの速度や流量を制御するように構成されている。蒸気加減弁15を微小開度で運用する際には、第2弁体35と弁座50との間に微小な隙間Gが形成され、ケーシング入口32からケーシング出口33への蒸気の流れが制限される。
【0032】
第1弁体34、第1弁棒37、第2弁体35および第2弁棒39は、上述した弁座50の中心軸線Lを中心軸線として共有している。すなわち、弁座50、第1弁体34および第2弁体35は、同芯状に配置されている。
【0033】
また、ケーシング31内の内部流路36には、ボイラー2からの異物が各タービン5~7に混入することを防止するためのストレーナ42が設けられている。ストレーナ42は、多数の孔を有している。
【0034】
次に、本実施の形態による弁座50、第1弁体34および第2弁体35について、より詳細に説明する。
【0035】
図3に示すように、本実施の形態による弁座50は、弁座本体52と、弁座本体52の下流側に設けられた張出部53と、を有している。弁座本体52と張出部53は、一体に形成されていてもよく、別々に形成されて、ボルトなどの締結手段で取り外し可能に取り付けられていてもよく、溶接等で接合されていてもよい。なお、図2においては、張出部53は省略されている。
【0036】
弁座本体52は、第1弁体34が当接可能な第1弁座面54と、第2弁体35が当接可能な第2弁座面55と、を含んでいる。第2弁座面55は、第1弁座面54よりも外周側に配置されている。第1弁座面54および第2弁座面55は、軸方向LDにおける下側に向かって中心軸線Lに近づくように形成されている。第1弁座面54および第2弁座面55は、連続状に形成されており、滑らかに接続されている。第1弁座面54は、弁座50の内周端(最も内周側の点)までとしている。弁座50の内周端から下流側には、内周弁座57面が延びている。第1弁座面54および内周弁座面57は、連続状に形成されており、滑らかに接続されている。
【0037】
第2弁座面55は、中心軸線Lを含む断面(例えば、図2および図3に示す縦断面)で見たときに、直線状に形成されている。すなわち、第2弁座面55は、中心軸線Lに対して、下側に向かって中心軸線Lに近づくように傾斜しており、すり鉢状または逆円錐面状のテーパ面として形成されている。
【0038】
第2弁座面55のうちの所定の位置に、第2弁体35が当接可能になっている。第2弁体35は、第2弁座面55に対面して当接する第2外周曲面44(第2弁体面)を有している。この第2外周曲面44は、中心軸線Lを含む断面で見たときに、第2弁座面55に向かって凸となるように曲線状に形成されている。第2外周曲面44は、円弧状に形成されて、Rv2で示される曲率半径を有していてもよい。この場合、第2外周曲面44の曲率半径Rv2の中心点は、中心軸線L上に位置していてもよい。
【0039】
このようにして、第2弁体35の第2外周曲面44と弁座50の第2弁座面55とが線接触し、第2弁体35が第2弁座面55に気密に当接可能になっている。
【0040】
第1弁座面54は、中心軸線Lを含む断面(例えば、図2および図3に示す縦断面)で見たときに、曲線状に形成されている。第1弁座面54は、第1弁体34に向かって凸となるように曲線状に形成されている。第1弁座面54は、円弧状に形成されて、Rs1で示される曲率半径を有していてもよい。
【0041】
第1弁座面54のうちの所定の位置に、第1弁体34が当接可能になっている。第1弁体34は、第1弁座面54に対面して当接する第1外周曲面45(第1弁体面)を有している。この第1外周曲面45は、中心軸線Lを含む断面で見たときに、第1弁座面54に向かって凸となるように曲線状に形成されている。第1外周曲面45は、円弧状に形成されて、Rv1で示される曲率半径を有していてもよい。この場合、第1外周曲面45の曲率半径Rv1の中心点は、中心軸線L上に位置してもよい。
【0042】
このようにして、第1弁体34の第1外周曲面45と弁座50の第1弁座面54とが線接触し、第1弁体34が第1弁座面54に気密に当接可能になっている。
【0043】
内周弁座面57は、軸方向LDにおける下側に向かって中心軸線Lから遠ざかるように形成されている。中心軸線Lを含む断面で見たときに、内周弁座面57のうち上流側の部分は、円弧状に形成されており、第1外周曲面45と同じ曲率半径Rv1で形成されている。内周弁座面57のうち下流側の部分は、直線状に形成されており、下流側に向かって中心軸線Lから遠ざかるように傾斜している。
【0044】
図3および図4に示すように、上述した張出部53は、弁座本体52の下流側に設けられている。張出部53は、第1弁座面54から、軸方向LDにおける下側に向かって連続状に延びる案内面56を有している。案内面56は、軸方向LDにおける下側に向かって中心軸線Lから遠ざかるように形成されている。張出部53の外周側には、軸方向LDにおける上側に向かって凹む凹部60が設けられている。
【0045】
より具体的には、弁座本体の内周弁座面57に、張出部53の案内面56が連続状に形成されており、滑らかに接続されている。案内面56のうち上流側に設けられた上流側案内面58は、内周弁座面57と同様に直線状に形成されており、下流側に向かって中心軸線Lから遠ざかるように傾斜している。内周弁座面57と上流側案内面58とは、一直線状に形成されている。案内面56のうち下流側に設けられた下流側案内面59は、内周側に凸となるように曲線状または円弧状に形成されており、下流側に向かって中心軸線Lから遠ざかるように形成されている。
【0046】
図4に示すように、張出部53は、中心軸線Lに対して非対称に形成されている。図4に示す例では、中心軸線Lに対して一側(図4における右側)における張出部53の上下方向長さが、中心軸線Lに対して他側(図4における左側)における張出部53の上下方向長さよりも長くなっている。このような非対称形状の張出部53の上下方向長さを、周方向に徐々に変化させることにより、3次元的に滑らかな形状で張出部53が形成されている。軸方向LDで見たときに、張出部53の上下方向長さが最も長い部分が、ケーシング出口33に最も近くなるように配置してもよい。図4は、中心軸線Lを含むとともに、ケーシング出口33の中心点を含む断面で、弁座50を切断した斜視図を示している。なお、図4では、中心軸線Lを含む断面で見たときに、中心軸線Lと上流側案内面58とがなす角度を、全周にわたって一定とし、張出部53の上下方向長さを異ならせている例を示している。しかしながら、このことに限られることはなく、中心軸線Lと上流側案内面58とがなす角度を異ならせてもよい。例えば、図4における右側において当該角度を最も大きくし、図4における左側において当該角度を最も小さくし、周方向で当該角度を徐々に変化させるようにしてもよい。
【0047】
次に、図5を用いて、本実施の形態による弁座50、第1弁体34および第2弁体35について、更に詳細に説明する。
【0048】
図5に示すように、第1弁体34と弁座50の第1弁座面54とは、第1当接部位A1で当接する。中心軸線Lから第1当接部位A1までの距離(半径)は、符号D1で示されている。第1当接部位A1は、弁座50の第1弁座面54のうち半径D1を有するリング状に形成される。第2弁体35と弁座50の第2弁座面55とは、第2当接部位A2で当接する。中心軸線Lから第2当接部位A2までの距離(半径)は、符号D2で示されている。第2当接部位A2は、弁座50の第2弁座面55のうち半径D2を有するリング状に形成される。距離D1と距離D2は、D1<D2を満たしており、第1当接部位A1は、第2当接部位A2よりも内周側に位置している。
【0049】
図5に示すように、弁座50の第2弁座面55は、上流側端縁B2から下流側端縁B1まで形成されている。すなわち、上流側端縁B2から下流側端縁B1にわたって、第2弁座面55が直線状に形成されている。下流側端縁B1は、第1弁座面54の上流側端縁にも相当している。上述した第2当接部位A2は、第2弁座面55上に位置しており、上流側端縁B2よりも内周側であって、下流側端縁B1よりも外側に位置している。上述した第1当接部位A1は、第1弁座面54上に位置しており、下流側端縁B1よりも内周側であって、内周端よりも外側に位置している。
【0050】
ここで、比較例としての一般的な弁装置30における弁座50、第1弁体34および第2弁体35について、図6を用いて説明する。図6に示す弁装置30は、弁座50の第2弁座面55が、図5の第2弁座面55よりも長く形成されており、第1弁体34が当接する第1当接部位A1よりも内周側まで延びている点で、本実施の形態による弁装置30と相違している。この第2弁座面55から内周側に第1弁座面54が延びているが、図6に示す弁装置30における第1弁座面54には、第1弁体34は当接しないようになっている。
【0051】
図6に示す弁装置30において、蒸気加減弁15が微小開度で運用されている場合の蒸気の流れについて図7を用いて説明する。
【0052】
図7に示す符号ARは、第2弁体35と弁座50の第2弁座面55との間の隙間Gに流入する蒸気の流れを示している。破線BLは、当該隙間Gを通過した蒸気の噴流の領域と、その周囲に形成されている静止領域との境界を示している。この破線BLを含む破線BLの近傍の領域には、静止領域の影響を受けて速度が減衰するせん断層が形成されている。静止領域とは、蒸気の噴流に比べて、流れの速度が、ある程度小さい領域としている。
【0053】
図7に示すように、中心軸線Lを含む断面で見たときに、第2弁座面55のうち、第2弁体35と第2弁座面55との間の隙間Gから蒸気が流出する隙間出口に相当する点をS1、下流側端縁B1に相当する点をS2とする。点S1から引いた第2弁座面55に垂直な線が第2弁体35の第2外周曲面44と交わる点をV1とし、点S2から引いた第2弁座面55に垂直な線が境界線BLと交わる点をV2とする。点S1と点V1とを結ぶ線分を中心軸線Lの周りに一回転させたときに形成される領域が、隙間出口における流路断面に相当する。点S2と点V2とを結ぶ線分を中心軸線Lの周りに一回転させた領域は、境界線BLと第2弁座面55との間の流路断面に相当する。
【0054】
図8は、図7の蒸気の流れの流路断面を説明するための図である。図8には、点S1と点V1で画定される隙間出口の流路断面を示している。隙間出口の流路断面は、図8に示すように切頭円錐の側面のように形成されている。この切頭円錐の上面は、半径R2の円形状に形成され、切頭円錐の下面は、半径R1の円形状に形成されている。半径R1は、中心軸線Lから点S1までの距離(半径)であって、半径R2は、中心軸線Lから点V1までの距離(半径)である。図8における切頭円錐の高さをHとすると、切頭円錐の側面面積、すなわち流路断面積は、次式により示される。
【数1】
【0055】
次に、上述の式(1)から得られる流路断面積が、上流側から下流側に向かってどのように変化するかについて説明する。
【0056】
第2弁体35と弁座50の第2弁座面55との間に形成された隙間Gを通過した蒸気は、点S1および点V1で示される隙間出口において、急激に大きな空間へ放出される。この場合、隙間出口から流出される蒸気は、噴流となって流れる。この噴流は、粘性効果によって壁面に沿うように流れるというコアンダ効果によって、弁座面に付着するように弁座面に沿って内周側に向かって流れる。これにより、蒸気が流れる領域と静止領域との境界が、壁面とは反対側のみに形成される。このため、蒸気の流れの損失を低減でき、噴流のエネルギーは高い状態を保つことができる。
【0057】
ここで、一般的な噴流の特性について説明する。図9は、流路幅Wを通過する速度Vの噴流の挙動を示した模式図である。図9に示すBL’は、静止領域の縁を示している。BCは、速度ポテンシャル線と呼ばれ、一対のポテンシャル線BC同士の間に、噴流の速度Vがほぼ一定に保たれている噴流領域が形成されている。この噴流領域は、下流側に向かうにつれて幅が小さくなるように形成される。BL’とBCとの間の領域は、噴流の領域と静止領域との境界であって、静止領域の影響を受けて速度が減衰する領域(せん断層に相当)となっている。
【0058】
図10Aには、図9のA位置における速度分布が示されている。BL’線上の速度はほぼ零であり、BC間領域には、速度Vの噴流領域が形成されており、A位置における速度分布は台形に似た分布となっている。図10Bには、図9のB位置における速度分布が示されている。図10Aに示すA位置よりもBL’間領域の幅(静止領域間の幅)が大きくなり(流路幅Wの2倍程度)、BC間領域の幅が小さくなる(流路幅Wの1/2程度)。図10Cには、図9のC位置における速度分布が示されている。BC間領域の幅はほぼ零になる。すなわち、C位置は、BC間領域の幅がほぼ零になる位置となっている。図9に示すように、流路幅Wの流路の出口からC位置までの距離LCは、一般的に流路幅Wの5倍程度になる。すなわち、流路の出口から流路幅Wの5倍の距離だけ離れた位置では、静止領域の影響を受けて噴流領域の中央での速度が減衰し始める。
【0059】
図7に示すように、第2弁体35の第2外周曲面44と弁座50の第2弁座面55との間の隙間出口から蒸気が噴出され、この蒸気の流れは、弁座50の第2弁座面55に付着するように第2弁座面55に沿って内周側に向かって流れていく。図7に示す第2弁体35および弁座50の形状では、点S1から点S2までの距離をLa、点S1から点V1までの距離をH1とすると、
【数2】
となっている。点S1から点S2までの距離は、4×H1よりも小さいため、下流側端縁B1に到達した蒸気の流れは、依然として出口における噴流の速度を保っている。
【0060】
ここで、中心軸線Lを含む断面におけるBL線と弁座50の第2弁座面55との間に形成される流路断面積の変化について説明する。図9および図10Cに示したように、流路幅Wの流路の出口からWの5倍の距離の下流側の位置(C位置)において、BL’間領域の幅は、流路幅Wの約4倍になる。蒸気加減弁15の微小開度運用時、図7に示すように、BL線は、第2弁座面55の側には存在せず、他方の側(第1弁体34の側)のみに存在する。すなわち、C位置においては、図10Dに示したように、噴流領域の一方の半分の領域では蒸気の流れの領域の幅が2倍に拡大し、噴流領域の他方の半分の領域では蒸気の流れの領域の幅がほぼ一定に保たれる。このため、C位置における蒸気の流れの幅は、合計して流路幅Wの2.5倍になる。
【0061】
そして、中心軸線Lから点S1までの距離(半径)をR1、中心軸線Lから点S2までの距離(半径)をR3とすると、
R3<R1
となっている。このため、点S2における境界線BLと第2弁座面55との間の流路断面積は、点S1における流路断面積よりも小さくなる。すなわち、内周側に向かって蒸気の流れの流路断面積が徐々に小さくなっている。
【0062】
また、流量保存則として、
流路断面積×速度=一定
という関係が成り立っている。このため、流路断面積が小さくなると、通過する流体の速度が増加する。すなわち、弁座50の第2弁座面55に沿って内周側に向かう蒸気の流れは、静止領域の影響を受けるが、流路断面積が小さくなっていくため、蒸気の流れの速度は徐々に増加し得る。
【0063】
一般的に、蒸気加減弁15の微小開度運用時、点S1における蒸気タービンの速度は音速に達している。音速の蒸気の流れは、第2弁座面55に沿って流れるが、徐々に速度が増えていき、下流側端縁B1に到達すると、超音速の流れになり得る。超音速の流れになると、衝撃波が形成される。一般的に流体の流れは、コアンダ効果によって、曲線状の壁面に付着するように壁面に沿って流れるが、衝撃波が形成されると、図7中に示す破線BMのように、蒸気の流れが、弁座50から剥離されて、剥離流れとなる。このため、蒸気の流れは、図7中の矢印ASで示すように、弁座50に付着せずに内周側に流れる。
【0064】
図7の矢印ASで示す蒸気の流れは、図11に示すように、第1弁体34から下方に延びる第1弁棒37に衝突したり、第1ガイド38に衝突したりする。衝突後、蒸気の流れは、上方に向かう流れAS1と、蒸気出口に向かう流れAS2とに分流される。上方に向かう流れAS1は、第1弁棒37に流体圧力を作用させながら、第1弁体34と弁座50との間に形成された空間内に回り込む。しかしながら、上方に向かう蒸気の流れAS1は不安定であり、第1弁棒37に作用する流体圧力は変動する。このため、騒音や振動が生じ得る。また、流体圧力を受けると第1弁棒37の根元には、大きな曲げモーメントが生じ得る。このため、第1弁棒37の根元で破損する可能性が考えられる。
【0065】
これに対して、本実施の形態による弁装置30では、上述したような騒音や振動を低減することができる。このことについて、図12および図13を用いて以下に説明する。
【0066】
図12に示す点S1および点V1は、図7に示す点S1および点V1と同様に、第2弁体35の第2外周曲面44と弁座50の第2弁座面55との間の隙間出口に位置している。点S2は、点S1から第2弁座面55に沿う距離Lbが図7に示す距離Laと同一となる点である。
【0067】
図12に示す本実施の形態による弁装置30においては、第2弁体35の第2外周曲面44と弁座50の第2弁座面55との間の隙間出口から蒸気が噴出され、この蒸気の流れは、弁座50の第2弁座面55に付着するように第2弁座面55に沿って内周側に向かって流れていく。しかしながら、本実施の形態においては、下流側端縁B1が、当接部位A1よりも上流側に配置されており、図7における中心軸線Lから点S2までの距離(半径)をR3とし、図12における中心軸線Lから点S2までの距離(半径)をR4とすると、
R4>R3
となっている。このことにより、点S1を通過した蒸気の流れは、図7に示す蒸気の流れよりも早くに下流側端縁B1に到達する。このため、下流側端縁B1に到達した蒸気の流れの速度は、図7に示す下流側端縁B1に到達した蒸気の流れの速度よりも小さくなり、蒸気の流れの速度が音速を超えることを抑制できる。この場合、下流側端縁B1に到達した蒸気の流れが、第1弁座面54から剥離されることを抑制でき、当該蒸気の流れは、コアンダ効果によって、円弧状の第1弁座面54に付着するように第1弁座面54に沿って流れることができる。
【0068】
ここで、第1弁座面54に沿った蒸気の流れが、下方に変更される弁座50の内周端の点をS3とし、点S3から引いた第1弁座面54に垂直な線が境界線BLと交わる点をV3とする。点S3においては、静止領域の影響を受けて、蒸気の流れの速度が減衰される。
【0069】
図12において矢印ASで示された蒸気の流れは、図13に示すように、弁座50の第1弁座面54に沿って更に下流側に流れる。図13に示す例では、弁座50が上述した張出部53を有しており、弁座50の内周弁座面57から、張出部53の案内面56が下流側に向かって連続状に延びている。このことにより、図13に示すように、第1弁座面54に沿う蒸気の流れASを、ケーシング出口33に向かって延長させることができる。このため、第1弁座面54に沿う蒸気の流れASを長く維持することができ、これにより、矢印ASで示される蒸気の流れの周囲に、いくつかの循環流れAC1~AC3が発生し得る。
【0070】
これらの循環流れAC1~AC3は、引き継がれていく過程で徐々に流れの速度や、循環流れを形成する体積が小さくなっていく。すなわち、蒸気の流れASの影響を循環流れAC1およびAC2が引き継ぎ、これらの循環流れAC1およびAC2の影響を循環流れAC3が引き継ぐように、循環流れAC1~AC3が形成される。ASおよびAC1~AC3の流れの速度を比較すると、
AS>(AC1、AC2)>AC3
の関係が成立する。図11に示す流れAS1は、蒸気流れASの影響を引き継ぐように形成されているため、AS1とAC1とを比較すると、
【数3】
と言える。よって、
AS1>AC3
が成立する。このようにして、図13に示す循環流れAC3の速度は、図11に示す流れAS1よりも小さくなるため、第1弁棒37に作用する流体圧力をより一層小さくすることができる。この結果、騒音および振動をより一層低減することができる。また、第1弁棒37の根元で破損する可能性をより一層低減することができる。
【0071】
なお、図13では、張出部53が設けられている例を示しているが、張出部53が設けられていない場合であっても、同様にして循環流れAC1~AC3が形成され、このうちの循環流れAC3の速度が小さくなり得る。このため、張出部53が設けられていない場合であっても、同様にして、第1弁棒37に作用する流体圧力を小さくすることができる。
【0072】
次に、図14および図15を用いて、本実施の形態による弁装置30に生じる振動について説明する。図14および図15において横軸は、蒸気の流れにより第1弁体34および第1弁棒37に生じる流体圧力の変動に起因した振動の周波数を示しており、縦軸は、第1弁体34および第1弁棒37に発生する振動のパワースペクトルを示している。図14および図15は、いずれも蒸気加減弁15が微小開度運用されている場合に同じ条件で弁装置30に生じる振動について示している。
【0073】
図14に示すように、図6図7および図11で示す一般的な弁装置30においては、特定の周波数帯域で、パワースペクトルが大きく示されている。これに対して、本実施の形態による弁装置30においては、図15に示すように、同様の周波数帯域でのパワースペクトルが、低減されている(図15に示すF参照)。このことにより、本実施の形態による弁装置30において、振動が低減できることがわかる。
【0074】
ところで、図3および図5に示すように、中心軸線Lを含む断面で見たときに、中心軸線Lと第2弁座面55とがなす角度THは、
40°≦TH≦45°
を満たしていてもよい。THを40°以上にすることにより、第1弁体34が当接する第1当接部位A1と、第2弁体35が当接する第2当接部位A2とが、軸方向LDにおいて離れることを抑制できる。この場合、第1弁体34と第1弁座面54との当接状態を安定化させることができ、第1弁体34が第1弁座面54に当接した場合の気密性を向上させることができる。また、第1弁体34のストローク量が増大することを抑制できる。一方、THを45°以下にすることにより、第2弁座面55に沿う蒸気の流れの速度が、超音速に到達するまでの距離が短くなることを抑制でき、蒸気の流れが第1弁座面54から剥離することを抑制できる。
【0075】
また、図5に示すように、中心軸線Lから第1当接部位A1までの距離D1とし、中心軸線Lから弁座50の内周端までの距離(半径)をDthとすると、
0.93D1≦Dth≦0.95D1
を満たしていてもよい。Dthを0.93D1以上にすることにより、第2弁座面55に沿う蒸気の流れが、内周側へ導かれることを抑制できる。すなわち、蒸気の流れが内周側に導かれると流路断面積が小さくなり、蒸気の流れの速度が増大して第1弁座面54から剥離しやすくなる。このため、Dthを0.93D1以上にすることにより、流れの剥離を抑制することができる。一方、Dthを0.95以下にすることにより、第1弁体34の第1弁座面54への当接状態を安定化させることができ、第1弁体34が第1弁座面54に当接した場合の気密性を向上させることができる。
【0076】
また、中心軸線Lを含む断面で見たときに、第1弁体34の第1外周曲面45の曲率半径Rv1と、中心軸線Lから第1当接部位A1までの距離D1と、中心軸線Lと第2弁座面55とがなす角度THは、
25°≦cos-1((D1/2)/Rv1)≦TH
を満たしていてもよい。cos-1(D1/(2×Rv1))を25°以上にすることにより、長期間停止してから起動する際に、第1弁体34が第1弁座面54に組み込みすぎて第1弁体34を第1弁座面54から離間させることが困難になることを抑制できる。一方、cos-1(D1/(2×Rv1))をTH以下にすることにより、第1弁体34と第2弁体35を共存した構成を可能にすることができる。なお、cos-1(D1/(2×Rv1))で示される角度は、当接部位A1を通る第1弁座面54に垂直な線分と中心軸線Lとがなす角度である。
【0077】
このように本実施の形態によれば、第1弁体34が当接可能な第1弁座面54および第2弁体35が当接可能な第2弁座面55は、軸方向LDにおける下側に向かって中心軸線Lに近づくように形成されており、中心軸線Lを含む断面で見たときに、第2弁座面55は直線状に形成され、第1弁座面54は曲線状に形成されている。このことにより、第2弁体35を微小開度で運用した場合であっても、上述したように、第2弁体35と第2弁座面55との間の隙間Gから流出して第2弁座面55に沿う蒸気の流れが、第1弁座面54から剥離されることを抑制することができる。このため、第2弁座面55に沿う蒸気の流れが、第1弁棒37や第1ガイド38に向かって流れることを抑制できる。この結果、第1弁棒37に蒸気の流れによる流体圧力が作用することを抑制でき、騒音や振動が生じることを抑制できる。また、弁棒が破損することを抑制することもできる。
【0078】
なお、上述した本実施の形態においては、弁座50の弁座本体52の下流側に、張出部53が設けられている例について説明した。しかしながら、このことに限られることはなく、このような張出部53は設けられていなくてもよい(図2参照)。この場合においても、中心軸線Lを含む断面で見たときに、第2弁座面55は直線状に形成され、第1弁座面54は曲線状に形成されていることにより、騒音や振動が生じることを抑制できる。
【0079】
以上述べた本実施の形態によれば、2つの弁体のうちの外周側の弁体を微小開度で運用した場合であっても蒸気の流れを安定化させて、騒音および振動を低減することができる。
【0080】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。また、当然のことながら、本発明の要旨の範囲内で、これらの実施の形態を、部分的に適宜組み合わせることも可能である。
【符号の説明】
【0081】
1:発電設備、30:弁装置、31:ケーシング、34:第1弁体、35:第2弁体、37:第1弁棒、39:第2弁棒、44:第2外周曲面、45:第1外周曲面、50:弁座、52:弁座本体、53:張出部、54:第1弁座面、55:第2弁座面、56:案内面、L:中心軸線、LD:軸方向
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