(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-15
(54)【発明の名称】抗ノロウイルス剤、消毒剤及び洗浄剤
(51)【国際特許分類】
A01N 65/08 20090101AFI20231108BHJP
C11D 7/44 20060101ALI20231108BHJP
C11D 3/48 20060101ALI20231108BHJP
C11D 7/26 20060101ALI20231108BHJP
C11D 7/22 20060101ALI20231108BHJP
A01N 65/28 20090101ALI20231108BHJP
A01P 3/00 20060101ALI20231108BHJP
A01N 65/34 20090101ALI20231108BHJP
【FI】
A01N65/08
C11D7/44
C11D3/48
C11D7/26
C11D7/22
A01N65/28
A01P3/00
A01N65/34
(21)【出願番号】P 2019152637
(22)【出願日】2019-08-23
【審査請求日】2022-08-18
(73)【特許権者】
【識別番号】397056042
【氏名又は名称】セッツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【氏名又は名称】水谷 馨也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【氏名又は名称】迫田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】川島 大貴
(72)【発明者】
【氏名】國武 広一郎
(72)【発明者】
【氏名】勢戸 祥介
【審査官】水島 英一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-047196(JP,A)
【文献】特表2009-544587(JP,A)
【文献】特表2009-538871(JP,A)
【文献】特表2012-519690(JP,A)
【文献】特表2011-530609(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N,A01P,C11D,A61K
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クルミポリフェノール、キャッツクローエキス、ライチエキス、及びザクロエキスからなる群より選択される少なくとも1種を含む、抗ノロウイルス剤
(但し、プロアントシアニジンを0.002重量%~0.1重量%含有するものを除く。)。
【請求項2】
前記クルミポリフェノール、前記キャッツクローエキス、前記ライチエキス、及び前記ザクロエキスの合計濃度が、0.005質量%以上である、請求項1に記載の抗ノロウイルス剤。
【請求項3】
濃度30質量%以上のエタノール水溶液中に、前記クルミポリフェノール、前記キャッツクローエキス、前記ライチエキス、及び前記ザクロエキスからなる群より選択される少なくとも1種が含まれている、請求項1又は2に記載の抗ノロウイルス剤。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の抗ノロウイルス剤を含む、消毒剤。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか1項に記載の抗ノロウイルス剤を含む、洗浄剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗ノロウイルス剤、消毒剤及び洗浄剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ノロウイルスによる感染性胃腸炎や食中毒の発生が一年を通じて多発しており、特に11月から3月が発生のピークとなっている。ノロウイルスは、カリシウイルス科、ノロウイルス属に分類されるエンベローブを持たないRNAウイルスであり、アルコール(エタノール、イソプロパノール等)、逆性石鹸、熱、酸(胃酸等)、乾燥等に対して強い抵抗力を有する。ノロウイルスの潜伏期間は1~2日であると考えられており、嘔気、嘔吐、下痢の主症状が出るが、腹痛、頭痛、発熱、悪寒、筋痛、咽頭痛、倦怠感等を伴うこともある。
【0003】
ノロウイルスの感染経路の一つとして経口感染が知られており、ノロウイルスに汚染された食物や水等を経口摂取することにより感染が成立する。そのため、飲食店、給食施設、工場など食品を調理加工する場においては、食物や水、設備等がノロウイルスに汚染されないようにすることが求められている。
【0004】
ノロウイルスは、10個から100個程度という少量を摂取することによっても発症するほど高い感染力を有する。そのため、ノロウイルスに対して直接的に作用し、ノロウイルスの感染能力を低下又は消失させる、抗ノロウイルス剤が望まれる。
【0005】
厚生労働省によると、ノロウイルスを不活化するには、調理器具等に対して、85℃で1分間の加熱、200ppmの次亜塩素酸ナトリウムでの消毒を推奨している(非特許文献1参照)。しかしながら、加熱によるノロウイルスの不活性化には、対象物の耐熱性の問題があり、また、次亜塩素酸ナトリウムは強い金属腐食性を有するために使用が制限される場合がある。さらに、調理場など有機物汚れの多い場所では、次亜塩素酸ナトリウムが分解し、十分な効果の得られないことも想定される。
【0006】
さらに、次亜塩素酸ナトリウムは、皮膚や粘膜を侵す危険性があることから、人体への適用は難しく、さらに、酸と反応して有毒ガスが発生するなど、取り扱いや使用に際し注意が必要である。かかる状況下において、取り扱いが簡便で、次亜塩素酸ナトリウムが使用できない場合でも、十分な不活化効果を発揮し得る抗ノロウイルス剤が強く求められている。
【0007】
人体に対し安全にノロウイルス等を不活性化する方法として、食物由来のウイルス不活性化物質を使用する方法が検討されている。
【0008】
例えば特許文献1には、ブドウ種子抽出物のプロアントシアニジンを所定量含む殺ノロウイルス剤が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【非特許文献】
【0010】
【文献】厚生労働省ホームページ 「ノロウイルスに対するQ&A」;https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/syokuchu/kanren/yobou/040204-1.html_17
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、植物由来であって、優れた抗ノロウイルス効果を有する抗ノロウイルス剤を提供することを主な目的とする。また、本発明は、当該抗ノロウイルス剤を用いた消毒剤及び洗浄剤を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記のような課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、クルミポリフェノール、キャッツクローエキス、ライチエキス、及びザクロエキスのうち少なくとも1種を抗ノロウイルス剤に用いることにより、優れた抗ノロウイルス効果を示すことを見出した。本発明は、これらの知見に基づいて、さらに検討を重ねることにより完成したものである。
【0013】
すなわち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. クルミポリフェノール、キャッツクローエキス、ライチエキス、及びザクロエキスからなる群より選択される少なくとも1種を含む、抗ノロウイルス剤。
項2. 前記クルミポリフェノール、前記キャッツクローエキス、前記ライチエキス、及び前記ザクロエキスの合計濃度が、0.005質量%以上である、項1に記載の抗ノロウイルス剤。
項3. 濃度30質量%以上のエタノール水溶液中に、前記クルミポリフェノール、前記キャッツクローエキス、前記ライチエキス、及び前記ザクロエキスからなる群より選択される少なくとも1種が含まれている、項1又は2に記載の抗ノロウイルス剤。
項4. 項1~3のいずれか1項に記載の抗ノロウイルス剤を含む、消毒剤。
項5. 項1~3のいずれか1項に記載の抗ノロウイルス剤を含む、洗浄剤。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、植物由来であって、優れた抗ノロウイルス効果を有する抗ノロウイルス剤を提供することができる。さらに、本発明によれば、当該抗ノロウイルス剤を用いた消毒剤及び洗浄剤を提供することもできる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の抗ノロウイルス剤、及びこれを用いた消毒剤、洗浄剤について、詳述する。なお、本明細書において、「~」で結ばれた数値は、「~」の前後の数値を下限値及び上限値として含む数値範囲を意味する。複数の下限値と複数の上限値が別個に記載されている場合、任意の下限値と上限値を選択し、「~」で結ぶことができるものとする。
【0016】
本発明の抗ノロウイルス剤は、クルミポリフェノール、キャッツクローエキス、ライチエキス、及びザクロエキスからなる群より選択される少なくとも1種を含むことを特徴としている。本発明の抗ノロウイルス剤は、これらの成分のうち少なくとも1種を含んでいることにより、植物由来であって、優れた抗ノロウイルス効果を発揮する。
【0017】
本発明の抗ノロウイルス剤においては、クルミポリフェノール、キャッツクローエキス、ライチエキス、及びザクロエキスからなる群より選択される少なくとも1種が有効成分として含まれている。本発明の抗ノロウイルス剤においては、クルミポリフェノール、キャッツクローエキス、ライチエキス、及びザクロエキスは、それぞれ、クルミ、キャッツクロー、ライチ、及びザクロ由来であり、ノロウイルスの不活性化作用が高く、人体に対して安全にノロウイルスを不活性化し得る。
【0018】
クルミポリフェノールは、クルミ(Juglans regia L.)の種皮(薄皮)に含有されるポリフェノール成分である。本発明の抗ノロウイルス剤において、クルミポリフェノールは、クルミ種皮エキスとして好適に含有することができる。
【0019】
クルミポリフェノールの抽出溶媒としては、水、アルコール(例えばエタノール)、含水アルコール(例えば含水エタノール)などが有効である。すなわち、クルミポリフェノールは、クルミ種皮の水抽出物、アルコール抽出物、又は含水アルコール抽出物であることが好ましい。クルミポリフェノールは、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0020】
クルミポリフェノールは市販品が容易に入手可能である。クルミポリフェノールの市販品としては、例えば、クルミポリフェノール-P10、クルミポリフェノール-P30、クルミポリフェノール-WSP10(以上オリザ油化株式会社製)などが挙げられる。
【0021】
なお、クルミポリフェノールに含まれる成分としては、ペドゥンクラジン(Pedunculagin)、エラグ酸(Ellagic acid)、テリマグランジンI(Tellimagrandin I)、カジュアリニン(Casuarictin)、テリマグランジンII(Tellimagrandin II)、ルゴシンC(Rugosin C)などが知られている。
【0022】
本発明の抗ノロウイルス剤において、クルミポリフェノールの濃度は、好ましくは0.005質量%以上である。当該濃度としては、好ましくは0.005~0.4質量%、より好ましくは0.008~0.3質量%、さらに好ましくは0.01~0.2質量%である。
【0023】
キャッツクローエキスは、キャッツクロー(Uncaria tomentosa)の木部・樹皮の抽出物である。
【0024】
キャッツクローエキスの抽出溶媒としては、水、アルコール(例えばエタノール)、含水アルコール(例えば含水エタノール)などが有効である。すなわち、キャッツクローエキスは、キャッツクローの木部・樹皮の水抽出物、アルコール抽出物、又は含水アルコール抽出物であることが好ましい。キャッツクローエキスは、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0025】
キャッツクローエキスは市販品が容易に入手可能である。キャッツクローエキスの市販品としては、例えば、キャッツクローエキスパウダー(日本粉末薬品株式会社)、ビゼンキャッツクローエキス末(備前化成株式会社)などが挙げられる。
【0026】
なお、キャッツクローエキスに含まれる成分としては、各種アルカロイド(イソテロポディン、テロポディン、リンコフィリンなど)、各種ポリフェノール(プロアントシアニジン、カテキンなど)、トリテルペン(キノビック酸グルコシド)などが知られている。
【0027】
本発明の抗ノロウイルス剤において、キャッツクローエキスの濃度は、好ましくは0.005質量%以上である。当該濃度としては、好ましくは0.005~0.4質量%、より好ましくは0.008~0.3質量%、さらに好ましくは0.01~0.2質量%である。
【0028】
ライチエキスはライチ(Litchi chinensis)の種子または果実の抽出物である。
【0029】
ライチエキスの抽出溶媒としては、水、アルコール(例えばエタノール)、含水アルコール(例えば含水エタノール)などが有効である。すなわち、ライチエキスは、ライチの種子または果実の水抽出物、アルコール抽出物、又は含水アルコール抽出物であることが好ましい。ライチエキスは、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0030】
ライチエキスは市販品が容易に入手可能である。ライチエキスの市販品としては、例えば、ライチ種子エキス-WSP、ライチ種子エキス-P(以上、オリザ油化株式会社製)が挙げられる。
【0031】
なお、ライチエキスに含まれる成分としては、各種ポリフェノール(フラボノイド(ロイコシアニジン、サポニン、タンニン、アントシアニン(シアニジン配糖体、マルビジン配糖体など)))などが知られている。
【0032】
本発明の抗ノロウイルス剤において、ライチエキスの濃度は、好ましくは0.005質量%以上である。当該濃度としては、好ましくは0.005~0.4質量%、より好ましくは0.008~0.3質量%、さらに好ましくは0.01~0.2質量%である。
【0033】
ザクロエキスは、ザクロ(Punica granatum)の果皮または花の抽出物である。
【0034】
ザクロエキスの抽出溶媒としては、水、アルコール(例えばエタノール)、含水アルコール(例えば含水エタノール)などが有効である。すなわち、ザクロエキスは、ザクロの果皮または花の水抽出物、アルコール抽出物、又は含水アルコール抽出物であることが好ましい。ザクロエキスは、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0035】
ザクロエキスは市販品が容易に入手可能である。ザクロエキスの市販品としては、例えば、ザクロ果皮エキス末、ザクロ花エキス末(以上、香栄興業株式会社製)が挙げられる。
【0036】
なお、ザクロエキスに含まれる成分としては、各種ポリフェノール(フラボノイド(タンニン、アントシアニン))、エラグ酸などが知られている。
【0037】
本発明の抗ノロウイルス剤において、ザクロエキスの濃度は、好ましくは0.005質量%以上である。当該濃度としては、好ましくは0.005~0.4質量%、より好ましくは0.008~0.3質量%、さらに好ましくは0.01~0.2質量%である。
【0038】
本発明の抗ノロウイルス剤は、クルミポリフェノール、キャッツクローエキス、ライチエキス、及びザクロエキスからなる群より選択される少なくとも1種を含めばよいが、優れた抗ノロウイルス効果を発揮させる観点からは、これらの合計濃度は、好ましくは0.005質量%以上である。当該合計濃度としては、好ましくは0.005~0.4質量%、より好ましくは0.008~0.3質量%、さらに好ましくは0.01~0.2質量%である。
【0039】
本発明の抗ノロウイルス剤が不活性化の対象とするノロウイルスは、ヒトノロウイルス(HNV)、ネコカリシウイルス(FCV)、及びマウスノロウイルス(MNV)の少なくとも1種であり、ヒトノロウイルスを特に好適な不活性化の対象とすることができる。
【0040】
本発明の抗ノロウイルス剤は、クルミポリフェノール、キャッツクローエキス、ライチエキス、及びザクロエキスからなる群より選択される少なくとも1種に加えて、水及び極性有機溶媒の少なくとも一方をさらに含むことが好ましい。
【0041】
極性有機溶媒としては、本発明の効果を阻害しないものであれば、特に制限されないが、エタノール、イソプロパノール等の低級アルコールが好ましく、エタノールがより好ましい。また、本発明の抗ノロウイルス剤は、特にエタノール水溶液を含んでいることが好ましい。すなわち、本発明の抗ノロウイルス剤は、クルミポリフェノール、キャッツクローエキス、ライチエキス、及びザクロエキスからなる群より選択される少なくとも1種がエタノール水溶液に含まれるものであることが特に好ましい。
【0042】
例えば、本発明の抗ノロウイルス剤を消毒剤や洗浄剤として用いる場合であれば、エタノール水溶液におけるエタノールの濃度は、下限については約30質量%以上、範囲としては約30質量%~約60質量%が最適である。
【0043】
ノロウイルスに対する不活性化作用を高める観点から、本発明の抗ノロウイルス剤のpHは、2.0~10.0の範囲であることが好ましく、2.5~7.0の範囲であることがより好ましい。
【0044】
本発明の抗ノロウイルス剤におけるpHの調整は、公知のpH調整剤や緩衝液により行うことができる。pH調整剤としては、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸等の無機酸;酢酸、リンゴ酸、クエン酸、乳酸、フマル酸、コハク酸、酒石酸、グルコン酸、りん酸、安息香酸、アスコルビン酸、エリソルビン酸、ソルビン酸、アジピン酸、けい皮酸、イタコン酸、フェルラ酸、フィチン酸等の有機酸およびこれらの塩;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物;炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム等の炭酸塩などが挙げられる。また、緩衝液としては、リン酸緩衝液、クエン酸リン酸緩衝液、乳酸緩衝液などが挙げられる。
【0045】
また、本発明の抗ノロウイルス剤には、添加剤が含まれていてもよい。添加剤としては、特に制限されず、公知の抗ウイルス剤で使用され得る添加剤を本発明でも使用することができる。添加剤としては、例えば、酸化防止剤、アミノ酸などが挙げられる。添加剤は、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。また、本発明の抗ノロウイルス剤に添加剤が含まれる場合、その濃度としては、本発明の効果を阻害しないことを限度として、特に制限されず、例えば0.001~4.0質量%程度が挙げられる。
【0046】
酸化防止剤としては、L-アスコルビン酸、L-アスコルビン酸パルミチン酸エステル、L-アスコルビン酸りん酸エステルマグネシウム塩、L-アスコルビン酸2-グルコシド、L-アスコルビン酸ナトリウム、D-アスコルビン酸、D-アスコルビン酸ナトリウム、L-システイン、N-アセチルL-システイン、シスチン、グルタチオン(酸化型)、グルタチオン(還元型)、L-エルゴチオネイン、チオクト酸、フェルラ酸、エデト酸塩、没食子酸プロピル、トコフェロール、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、ピロ亜硫酸カリウム、二酸化硫黄、コーヒー豆抽出物(クロロゲン酸)、緑茶抽出物(カテキン)、ローズマリー抽出物、ヤマモモ抽出物、アムラ抽出物、酵母エキスなどが挙げられる。酸化防止剤が含まれることにより、本発明の抗ノロウイルス剤の酸化による着色を抑制することができる。
【0047】
アミノ酸としては、L-フェニルアラニン、L-メチオニン、L-イソロイシン、L-アラニン、DL-アラニン、L-セリン、L-システイン、L-アルギニン、L-リシン、L-バリン、L-グリシン、L-テアニン、L-トレオニン、L-プロリン、L-ヒスチジン、L-グルタミン、L-グルタミン酸、L-ロイシン、L-トリプトファン、L-オルニチン、L-シトルリン、L-チロシン、L-カルニチンおよびこれらの塩などが挙げられる。アミノ酸が含まれることにより、本発明の抗ノロウイルス剤のpH調整を行うことができ、また、酸化による着色を抑制することができる。
【0048】
本発明の抗ノロウイルス剤には、本発明の特徴を損なわない範囲で、アシクロビル等の一般的な抗ウイルス成分、フェノキシエタノール、グルコン酸クロルヘキシジン、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化セチルピリジニウム、塩酸アルキルジアミノエチルグリシン、イソプロピルメチルフェノール等の一般的な抗菌成分を含有させることもできる。
【0049】
また、一般細菌に対する除菌力を増強するため、グリセリン脂肪酸エステルを加えても、ノロウイルスに対する不活性化作用には影響しないため、問題はない。グリセリン脂肪酸エステルとしては、グリセリンモノカプリン酸エステル、グリセリンモノラウリン酸エステル、グリセリンモノミリスチン酸エステル、グリセリンモノパルミチン酸エステル、グリセリンモノステアリン酸エステル、グリセリンモノイソステアリン酸エステル、グリセリンモノオレイン酸エステル、グリセリンモノベヘン酸エステル等のグリセリンモノ脂肪酸エステル;グリセリンジステアリン酸エステル、グリセリンジイソステアリン酸エステル、グリセリンジオレイン酸エステル等のグリセリンジ脂肪酸エステル;酢酸モノグリセリド、クエン酸モノグリセリド、コハク酸モノグリセリド、ジアセチル酒石酸モノグリセリド、乳酸モノグリセリド等のモノグリセリド誘導体などが挙げられる。本発明においては、これらより1種または2種以上を選択して用いることができる。一般細菌に対する除菌力増強効果からは、グリセリンモノカプリル酸エステル、グリセリンモノカプリン酸エステル、グリセリンモノラウリン酸エステル等、炭素数8~12の脂肪酸のグリセリンモノ脂肪酸エステルを用いることが好ましい。
【0050】
さらに本発明の抗ノロウイルス剤には、ノロウイルスの不活性化や組成物の安定性等に影響を与えない範囲において、洗浄性や起泡性の付与を目的として、上記グリセリン脂肪酸エステル以外の界面活性剤を添加することができる。かかる界面活性剤としては、第1級~第3級の脂肪アミン塩、第4級アンモニウム塩、2-アルキル-1-アルキル-1-ヒドロキシエチルイミダゾリニウム塩等の陽イオン性界面活性剤;N,N-ジメチル-N-アルキル-N-カルボキシメチルアンモニウムベタイン等のアルキルベタイン型、N,N-ジアルキルアミノアルキレンカルボン酸等のアミノカルボン酸型、N,N,N-トリアルキル-N-スルホアルキレンアンモニウムベタイン等のアルキルスルホベタイン型、2-アルキル-1-ヒドロキシエチル-1-カルボキシメチルイミダゾリニウムベタイン等のイミダゾリン型両性界面活性剤などを用いることができる。また、増泡、製剤安定性の向上、着香等を目的として、アラビアゴム、カラギーナン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシセルロース、ポリアクリル酸ナトリウム等の水溶性高分子;エチレンジアミン四酢酸ナトリウム、トリポリリン酸、ヘキサメタリン酸塩等の金属イオン封鎖剤;塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸ナトリウム等の無機塩;香料などを添加してもよい。
【0051】
本発明の抗ノロウイルス剤は、そのまま、または各種担体、他の界面活性剤、殺菌剤等の添加成分などを加えて、消毒剤または洗浄剤(殺菌洗浄剤)とすることができる。すなわち、本発明の消毒剤及び洗浄剤は、それぞれ、本発明の抗ノロウイルス剤を含む。
【0052】
本発明の消毒剤または洗浄剤は、液状、ゲル状、粉末状等の種々の形態で提供することができるが、短時間に広範囲の消毒対象物に作用させる上で、液状もしくは液を含浸させたシート状とすることが好ましい。液状の消毒剤または洗浄剤は、ローション剤、スプレー剤等として提供することができ、計量キャップ付きボトル、トリガータイプのスプレー容器、スクイズタイプもしくはディスペンサータイプのポンプスプレー容器等に充填し、散布または噴霧等して用いることができる。液を含浸させたシート状の消毒剤または洗浄剤は、消毒剤または洗浄剤の液を紙や布等に含浸させ、ボトルやバケツ等の容器に充填し、ウェットシートとして提供することができる。
【0053】
本発明の消毒剤または洗浄剤は、病室、居室、調理室、浴室、洗面所、トイレ等の施設内の消毒、殺菌洗浄、テーブル、椅子、寝具等の家具類、食器、調理器具、医療用品等の器具または機器、装置などの消毒、殺菌洗浄など、ノロウイルスが存在する可能性のある場所、またはノロウイルスに汚染されている可能性のある物の消毒、殺菌洗浄などに幅広く用いることができる。
【0054】
本発明の消毒剤または洗浄剤は、消毒対象物の表面がまんべんなく濡れる程度の量を用いればよい。また、消毒対象物に対する本発明の消毒剤または洗浄剤の作用時間は短時間でよく、1分~5分で十分な消毒または殺菌洗浄効果を得ることができる。
【実施例】
【0055】
以下に、実施例及び比較例を示して本発明を詳細に説明する。なお、表1中の各成分の「%」は特に記載のない限り、質量%を意味する。実施例及び比較例で使用した各成分の詳細は以下の通りである。
【0056】
・クルミポリフェノール:オリザ油化株式会社の商品名「クルミポリフェノール-P30」(有効成分濃度90%)
・キャッツクローエキス:日本粉末薬品株式会社の商品名「キャッツクローエキスパウダー」(有効成分濃度66%)
・ライチエキス:オリザ油化株式会社の商品名「ライチ種子エキス-WSP」(有効成分濃度60%)
・ザクロエキス:香栄興業株式会社の商品名「ザクロ果皮エキス末」(有効成分濃度100%)
・カンゾウエキス:日本粉末薬品株式会社の商品名「カンゾウエキスパウダー」(有効成分濃度100%)
・ニラ種子エキス:オリザ油化株式会社の商品名「ニラ種子エキス-WSP」(有効成分濃度20%)
・イチゴ種子エキス:オリザ油化株式会社の商品名「イチゴ種子エキス-P」(有効成分濃度25%)
・キウイ種子エキス:オリザ油化株式会社の商品名「キウイ種子エキス-WSP」(有効成分濃度25%)
【0057】
<実施例1~8及び比較例1~6>
表1に示す組成となるようにして、各成分を混合して抗ノロウイルス剤を調製した。
【0058】
<ノロウイルスの不活性化評価>
実施例1~8及び比較例1~5で得られた各ノロウイルス剤を用いて、それぞれ、ヒトノロウイルス(HNV)遺伝子の消失を以下の手順で確認し、ノロウイルスの不活性化評価を行った。結果を表1に示す。ノロウイルスに対する本発明の組成物の効果を、下記の通りRT-PCR法により検討した。ノロウイルスは実験室的に培養することができないため、ノロウイルス患者の糞便から粗精製されたノロウイルスサンプル(ウイルス力価はおよそ8.0と推定される)をPBSで10倍希釈して供試ノロウイルス液とし、試料液900μLとウイルス液100μLとを混合して1分間ローテーターで作用させた。その後、直ちに前記作用液140μLを採取し、QIAGEN社のQIAamp(登録商標)Viral RNA Miniキットを用いてウイルスRNAの抽出を行った。抽出したウイルスRNAに対し、ランダムヘキサマーおよび逆転写酵素を用いて、cDNAを得た。得られたcDNAを鋳型として、G2-SKF(CNTGGGAGGGCGATCGCAA:配列番号3)、G2-SKR(CCRCCNGCATRHCCRTTRTACAT:配列番号4)をプライマーとして用いてPCRを行った。前記プライマーについては、平成19年5月14日食安監発第0514004号「ノロウイルスの検出法について」の別添の
図3および表11を参考とした。なお、ノロウイルス遺伝子が検出できるならば、別のプライマーを用いても構わない。得られたPCR産物をアガロースゲル電気泳動で泳動分離し、ウイルス遺伝子の検出を行った。
〇:ヒトノロウイルス(HNV)遺伝子由来のバンドが消失しており、HNVに対する不活性効果を有する。
×:ヒトノロウイルス(HNV)遺伝子由来のバンドが消失しておらず、HNVに対する不活性効果を有していない。
【0059】
【0060】
表1において、抗ノロウイルス剤の組成の単位は質量%である。また、クルミポリフェノールや各エキスの濃度は、いずれも有効成分としての濃度である。
【0061】
表1に示される結果から明らかなとおり、クルミポリフェノール、キャッツクローエキス、ライチエキス、及びザクロエキスからなる群より選択される少なくとも1種を含む抗ノロウイルス剤は、優れた抗ノロウイルス効果を有していることが分かる。