(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-15
(54)【発明の名称】ポリカーボネート樹脂用帯電防止剤組成物およびポリカーボネート樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 69/00 20060101AFI20231108BHJP
C08K 5/29 20060101ALI20231108BHJP
C08L 33/24 20060101ALI20231108BHJP
C08K 5/42 20060101ALI20231108BHJP
【FI】
C08L69/00
C08K5/29
C08L33/24
C08K5/42
(21)【出願番号】P 2019154392
(22)【出願日】2019-08-27
【審査請求日】2022-03-09
(31)【優先権主張番号】P 2018158517
(32)【優先日】2018-08-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390014856
【氏名又は名称】日本乳化剤株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 雄太
(72)【発明者】
【氏名】青▲柳▼ 博樹
(72)【発明者】
【氏名】柴▲崎▼ 宏太
(72)【発明者】
【氏名】石田 浩瑛
【審査官】久保 道弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-236957(JP,A)
【文献】特開2015-038179(JP,A)
【文献】特開2016-029041(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 69/00
C08K 5/29
C08L 33/24
C08K 5/42
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式(1):
【化1】
前記化学式(1)中、R
2は、直鎖状、分枝状または環状で炭素数1~18の、置換されているかまたは非置換のアルキル基によって置換されている炭素数6~30のアリール基であり、
Q2
+は、第2級アンモニウムイオン、第3級アンモニウムイオンまたは第4級アンモニウムイオンである、
で表されるイオン結合性塩と、
カルボジイミド化合
物を含む加水分解抑制剤と、
ポリマレイミドを含む高分子型耐熱性向上剤と、
を含む、ポリカーボネート樹脂用帯電防止剤組成物。
【請求項2】
R
2は、イソプロピルフェニル(クメニル)基、メチルフェニル(トルイル)基またはジメチルフェニル(キシレニル)基である、請求項1に記載のポリカーボネート樹脂用帯電防止剤組成物。
【請求項3】
Q2
+が第2級アンモニウムイオンまたは第3級アンモニウムイオンである、請求項1または2のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂用帯電防止剤組成物。
【請求項4】
Q2
+が第2級アンモニウムイオンである、請求項3に記載のポリカーボネート樹脂用帯電防止剤組成物。
【請求項5】
Q2
+がヒドロキシ基を有するものである、請求項1~4のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂用帯電防止剤組成物。
【請求項6】
Q2
+は、ヒドロキシエチル基が窒素原子に結合した構造を有する、請求項5に記載のポリカーボネート樹脂用帯電防止剤組成物。
【請求項7】
前記イオン結合性塩が、下記化学式(3)、化学式(4)または下記化学式(5)のいずれかで表されるものである、請求項1~6のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂用帯電防止剤組成物。
【化2】
【請求項8】
ポリカーボネート樹脂と、
請求項1~7のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂用帯電防止剤組成物と、を含む、ポリカーボネート樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリカーボネート樹脂用帯電防止剤組成物およびポリカーボネート樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は耐熱性、成形性、機械特性等に優れ、電気電子用部材、医療用部材、光学用部材、その他各種成形品として幅広く使用されている。
【0003】
ポリカーボネートも他のプラスチック同様、電気絶縁性が高いという特徴があるが、そのためにかえって静電気が散逸しにくく、製品にほこりが付着したり、作業者への電撃、または機器類やICチップ類の誤動作が生じたりするという問題がある。
【0004】
従来、このような静電気による問題を改良するため、ポリカーボネート樹脂に種々の帯電防止剤を練り込み等によって添加する技術が提案されている。
【0005】
例えば、特許文献1には、帯電防止剤としてジグリセリン脂肪酸エステルを使用し、さらにリン酸やホウ酸といった酸性物質および紫外線吸収剤を併用することで、1011~1013[Ω/□]オーダーの表面抵抗率を達成する技術が開示されている。
【0006】
特許文献2には、帯電防止剤としてスルホン酸ホスホニウム塩を使用することで、1013[Ω/□]オーダーの表面抵抗率を達成する技術が開示されている。
【0007】
特許文献3には、帯電防止剤としてポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステルホスホニウム塩を使用することで、1012~1014[Ω/□]オーダーの表面抵抗率を達成する技術が開示されている。
【0008】
特許文献4には、帯電防止剤としてスルホン酸ホスホニウム塩および所定の第4級アンモニウム塩(TFSI塩)を併用することで、1011~1013[Ω/□]オーダーの表面抵抗率を達成する技術が開示されている。
【0009】
特許文献5には、帯電防止剤としてポリエーテルエステル系化合物を使用し、さらにカルボジイミド系化合物およびヒンダードアミン系光安定剤を併用することで、1012[Ω/□]オーダーの表面抵抗率を達成する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2010-168543号公報
【文献】特開2010-214758号公報
【文献】特開2011-105874号公報
【文献】特開2011-201988号公報
【文献】特開2014-34657号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述したように、特許文献1~5に開示の技術によれば、各種の帯電防止剤(組成物)をポリカーボネート樹脂に添加することにより、うまくいけば1011[Ω/□]オーダーの表面抵抗率を達成することができる。しかしながら、本発明者らの検討によれば、上述した先行技術を採用すると、ポリカーボネート樹脂の優れた特性の1つである透明性を損なう場合があることが判明した。
【0012】
そこで本発明は、ポリカーボネート樹脂に添加された場合に、当該樹脂の透明性に及ぼす悪影響を最小限に抑えつつ、優れた帯電防止性能を発揮することが可能な帯電防止剤と、当該帯電防止剤を含むポリカーボネート樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決すべく、本発明者らは鋭意検討を積み重ねた。その結果、特定の化学構造を有するイオン結合性塩を帯電防止剤として用い、ポリカーボネート樹脂の加水分解を抑制する化合物(加水分解抑制剤)および高分子構造を有し耐熱性を向上させる化合物(高分子型耐熱性向上剤)とともに配合する帯電防止剤組成物の形態とすることで上記課題が解決されうることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0014】
すなわち、本発明の一形態によれば、下記化学式(1)で表されるイオン結合性塩と、加水分解抑制剤と、高分子型耐熱性向上剤とを含む、ポリカーボネート樹脂用帯電防止剤組成物が提供される。
【0015】
【0016】
前記化学式(1)中、R2は、直鎖状、分枝状または環状で炭素数1~18の、置換されているかまたは非置換のアルキル基によって置換されている炭素数6~30のアリール基であり、
Q2+は、第2級アンモニウムイオン、第3級アンモニウムイオンまたは第4級アンモニウムイオンである。
【0017】
また、本発明の他の形態によれば、ポリカーボネート樹脂と、上述したポリカーボネート樹脂用帯電防止剤組成物とを含む、ポリカーボネート樹脂組成物もまた、提供される。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ポリカーボネート樹脂に添加された場合に、当該樹脂の透明性に及ぼす悪影響を最小限に抑えつつ、優れた帯電防止性能を発揮することが可能な帯電防止剤と、当該帯電防止剤を含むポリカーボネート樹脂組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[ポリカーボネート樹脂用帯電防止剤組成物]
本発明の一形態は、化学式(1):
【0020】
【0021】
で表されるイオン結合性塩と、加水分解抑制剤と、高分子型耐熱性向上剤とを含む、ポリカーボネート樹脂用帯電防止剤組成物である。以下、各構成成分について詳細に説明する。
【0022】
(イオン結合性塩)
本形態に係るポリカーボネート樹脂用帯電防止剤組成物は、上記化学式(1)で表されるイオン結合性塩を含む。このイオン結合性塩は、帯電防止剤として機能し、ポリカーボネート樹脂に配合された場合に当該樹脂の表面抵抗率を低減させることに寄与する。
【0023】
本形態に係るポリカーボネート樹脂用帯電防止剤組成物において、上記化学式(1)で表されるイオン結合性塩は、化学式(1)のものを1種単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。また、化学式(1)以外のものと併用してもよい。
【0024】
上記化学式(1)中、R2は、直鎖状、分枝状または環状で炭素数1~18の、置換されているかまたは非置換のアルキル基によって置換されている炭素数6~30のアリール基である。すなわち、R2は、炭素数6~30のアリール基を主骨格とし、当該アリール基は、直鎖状、分枝状または環状の炭素数1~18のアルキル基によって置換されている。この際、当該アルキル基は、他の置換基によって置換されていてもよい。さらに、当該アリール基もまた、上記アルキル基以外の置換基によってさらに置換されていてもよい。
【0025】
ここで、R2の主骨格を構成する炭素数6~30のアリール基の例としては、例えば、フェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基、9-アンスリル基、9-フェナントリル基、1-ピレニル基、5-ナフタセニル基、1-インデニル基、2-アズレニル基、9-フルオレニル基、ターフェニル基、クオーターフェニル基が挙げられる。
【0026】
また、上記アリール基を置換する直鎖状、分枝状または環状の炭素数1~18のアルキル基の例としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソアミル基、tert-ペンチル基、ネオペンチル基、n-へキシル基、3-メチルペンタン-2-イル基、3-メチルペンタン-3-イル基、4-メチルペンチル基、4-メチルペンタン-2-イル基、1,3-ジメチルブチル基、3,3-ジメチルブチル基、3,3-ジメチルブタン-2-イル基、n-ヘプチル基、1-メチルヘキシル基、3-メチルヘキシル基、4-メチルヘキシル基、5-メチルヘキシル基、1-エチルペンチル基、1-(n-プロピル)ブチル基、1,1-ジメチルペンチル基、1,4-ジメチルペンチル基、1,1-ジエチルプロピル基、1,3,3-トリメチルブチル基、1-エチル-2,2-ジメチルプロピル基、n-オクチル基、2-メチルヘキサン-2-イル基、2,4-ジメチルペンタン-3-イル基、1,1-ジメチルペンタン-1-イル基、2,2-ジメチルヘキサン-3-イル基、2,3-ジメチルヘキサン-2-イル基、2,5-ジメチルヘキサン-2-イル基、2,5-ジメチルヘキサン-3-イル基、3,4-ジメチルヘキサン-3-イル基、3,5-ジメチルヘキサン-3-イル基、1-メチルヘプチル基、2-メチルヘプチル基、5-メチルヘプチル基、2-メチルヘプタン-2-イル基、3-メチルヘプタン-3-イル基、4-メチルヘプタン-3-イル基、4-メチルヘプタン-4-イル基、1-エチルヘキシル基、2-エチルヘキシル基、1-プロピルペンチル基、2-プロピルペンチル基、1,1-ジメチルヘキシル基、1,4-ジメチルヘキシル基、1,5-ジメチルヘキシル基、1-エチル-1-メチルペンチル基、1-エチル-4-メチルペンチル基、1,1,4-トリメチルペンチル基、2,4,4-トリメチルペンチル基、1-イソプロピル-1,2-ジメチルプロピル基、1,1,3,3-テトラメチルブチル基、n-ノニル基、1-メチルオクチル基、6-メチルオクチル基、1-エチルヘプチル基、1-(n-ブチル)ペンチル基、4-メチル-1-(n-プロピル)ペンチル基、1,5,5-トリメチルヘキシル基、1,1,5-トリメチルヘキシル基、2-メチルオクタン-3-イル基、n-デシル基、1-メチルノニル基、1-エチルオクチル基、1-(n-ブチル)ヘキシル基、1,1-ジメチルオクチル基、3,7-ジメチルオクチル基、n-ウンデシル基、1-メチルデシル基、1-エチルノニル基、n-ドデシル基、n-トリデシル基、n-テトラデシル基、1-メチルトリデシル基、n-ペンタデシル基、n-ヘキサデシル基、n-ヘプタデシル基、n-オクタデシル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基などが挙げられる。帯電防止性能の観点から、上記アルキル基は炭素数1~8の直鎖状または分岐状のアルキル基が好ましく、メチル基、エチル基またはイソプロピル基がより好ましく、イソプロピル基が特に好ましい。
【0027】
このようなアルキル基で置換されたアリール基の例としては、例えば、メチルフェニル(トルイル)基(2-メチルフェニル基、3-メチルフェニル基、4-メチルフェニル基等)、ジメチルフェニル(キシレニル)基(2,3-ジメチルフェニル基、2,4-ジメチルフェニル基、3,4-ジメチルフェニル基)、メシチル基、イソプロピルフェニル(クメニル)基(2-イソプロピルフェニル基、3-イソプロピルフェニル基、4-イソプロピルフェニル基)、ドデシルフェニル基(2-ドデシルフェニル基、3-ドデシルフェニル基、4-ドデシルフェニル基)が挙げられる。なかでも、イソプロピルフェニル(クメニル)基、メチルフェニル(トルイル)基またはジメチルフェニル(キシレニル)基が好ましく、イソプロピルフェニル(クメニル)基が特に好ましい。
【0028】
上述したように、上記アルキル基は、他の置換基で置換されていてもよく、さらに、上記アリール基は、上記アルキル基以外の置換基でさらに置換されていてもよい。
【0029】
そのような置換基としては、例えば、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素などのハロゲン、メチル基、エチル基、tert-ブチル基、ドデシル基などのアルキル基、フェニル基、p-トルイル基、キシリル基、クメニル基、ナフチル基、アンスリル基、フェナントリル基などのアリール基、メトキシ基、エトキシ基、tert-ブトキシ基などのアルコキシ基、フェノキシ基、p-トリルオキシ基などのアリールオキシ基、メトキシカルボニル基、ブトキシカルボニル基、2-エチルヘキシルオキシカルボニル基、フェノキシカルボニル基等のアルコキシカルボニル基、アセトキシ基、プロピオニルオキシ基、ベンゾイルオキシ基などのアシルオキシ基、アセチル基、ベンゾイル基、イソブチリル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、メトキサリル基などのアシル基、メチルスルファニル基、tert-ブチルスルファニル基などのアルキルスルファニル基、フェニルスルファニル基、p-トリルスルファニル基などのアリールスルファニル基、メチルアミノ基、シクロヘキシルアミノ基などのアルキルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、モルホリノ基、ピペリジノ基などのジアルキルアミノ基、フェニルアミノ基、p-トリルアミノ基等のアリールアミノ基などの他、ヒドロキシ基、カルボキシ基、ホルミル基、メルカプト基、スルホ基、メシル基、p-トルエンスルホニル基、アミノ基、ニトロ基、シアノ基、トリフルオロメチル基、トリクロロメチル基、トリメチルシリル基、ホスフィノ基、ホスホノ基などが挙げられる。なお、R2においてアリール基を置換している上記アルキル基がさらにアルキル基で置換されることはないものとする。
【0030】
上記化学式(1)中、Q2+は、第2級アンモニウムイオン、第3級アンモニウムイオンまたは第4級アンモニウムイオンである。ここで、Q2+を表すこれらのアンモニウムイオンは、まとめて下記化学式(2)で表すことができる。
【0031】
【0032】
式中、R3およびR4は、水素原子、または炭素数1~30の直鎖状、分枝状、もしくは環状のアルキル基である。また、R5およびR6は、それぞれ独立して、ヒドロキシ基もしくはアルコキシ基で置換されていてもよい炭素数1~30の直鎖状、分枝状、もしくは環状のアルキル基である。ここで、R3およびR4がともに水素原子である場合、上記化学式で表されるアンモニウムイオンは第2級であり、R3およびR4のいずれか一方が上記所定のアルキル基である場合、上記化学式で表されるアンモニウムイオンは第3級であり、R3およびR4がともに上記所定のアルキル基である場合、上記化学式で表されるアンモニウムイオンは第4級である。なかでも、R3およびR4の少なくとも一方は水素原子である(すなわち、Q2+は第2級アンモニウムイオンまたは第3級アンモニウムイオンである)ことが好ましく、Q2+は第2級アンモニウムイオンであることが特に好ましい。また、R5およびR6のいずれか一方のみがヒドロキシ基またはアルコキシ基で置換された炭素数1~30の直鎖状、分枝状、もしくは環状のアルキル基であることが好ましく、この際、置換されたアルキル基はヒドロキシ基で置換されたアルキル基であることがより好ましい。すなわち、好ましい実施形態において、Q2+はヒドロキシ基を有するものである。また、上記置換されたアルキル基はヒドロキシエチル基であることが特に好ましい。すなわち、他の好ましい実施形態において、Q2+はヒドロキシエチル基が窒素原子に結合した構造を有するものである。なお、「炭素数1~30の直鎖状、分枝状、もしくは環状のアルキル基」の具体例については、上記で列挙したものが同様に用いられうるため、ここでは詳細な説明を省略する。また、R5および/またはR6がアルコキシ基で置換されたアルキル基である場合、当該置換基としてのアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、2-エチルヘキシトキシ基などの炭素数1~8のアルコキシ基が挙げられる。
【0033】
上述したようなQ2+の具体例を挙げると、第2級アンモニウムイオン(R3およびR4がともに水素原子)としては、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジ-1-プロピルアミン、ジ-2-プロピルアミン、ジ-n-ブチルアミン、ジ-2-ブチルアミン、ジ-1-ペンチルアミン、ジ-2-ペンチルアミン、ジ-3-ペンチルアミン、ジネオペンチルアミン、ジシクロペンチルアミン、ジ-1-ヘキシルアミン、ジ-2-ヘキシルアミン、ジ-3-ヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン、メチルエタノールアミン、エチルエタノールアミンがプロトン化されたイオンなどが挙げられる。
【0034】
第3級アンモニウムイオン(R3およびR4の一方が水素原子で他方がアルキル基)としては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリ-1-プロピルアミン、トリ-2-プロピルアミン、トリ-n-ブチルアミン、トリ-2-ブチルアミン、トリ-1-ペンチルアミン、トリ-2-ペンチルアミン、トリ-3-ペンチルアミン、トリネオペンチルアミン、トリシクロペンチルアミン、トリ-1-ヘキシルアミン、トリ-2-ヘキシルアミン、トリ-3-ヘキシルアミン、トリシクロヘキシルアミン、ジメチルエタノールアミン、エチルメチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、ラウリルジエタノールアミン、ビス(2-メトキシエチル)メチルアミンがプロトン化されたイオンなどが挙げられる。なかでも、メチルエタノールアミン、エチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、またはラウリルジエタノールアミンがプロトン化されたイオンであることがさらに好ましく、メチルエタノールアミン、エチルエタノールアミン、またはラウリルジエタノールアミンがプロトン化されたイオンであることがいっそう好ましく、メチルエタノールアミンまたはエチルエタノールアミンがプロトン化されたイオンであることが特に好ましく、エチルエタノールアミンがプロトン化されたイオンであることが最も好ましい。
【0035】
第4級アンモニウムイオン(R3およびR4がともにアルキル基)としては、コリン((2-ヒドロキシエチル)トリメチルアンモニウムイオン)のほか、上述した第3級アンモニウムイオンの窒素原子に結合した水素原子が炭素数1~30の直鎖状、分枝状、もしくは環状のアルキル基で置換された構造を有する第4級アンモニウムイオンなどが挙げられる。第4級アンモニウムイオンのなかでは、コリンが最も好ましい。
【0036】
上記化学式(1)で表されるイオン結合性塩のより好ましい化合物としては、下記化学式(3)~(12)で表されるイオン結合性塩が挙げられる。なかでも、下記化学式(3)、化学式(4)または化学式(5)で表されるイオン結合性塩が特に帯電防止性能が高い点で好ましく、下記化学式(3)で表されるイオン結合性塩が最も好ましい。
【0037】
【0038】
【0039】
上記イオン結合性塩の製造方法は、特に制限されず、例えば、アニオン交換法、中和法、酸エステル法などが挙げられる。また、硫酸エステルのアンモニウム塩またはスルホン酸エステルのアンモニウム塩と、窒素含有化合物とを反応させアンモニアを留去してイオン結合性塩を得る脱アンモニア法なども好適に用いられる。
【0040】
化学式(1)で表されるイオン結合性塩と併用可能な他のイオン結合性塩としては、従来公知の知見が適宜参照され、例えば国際公開第2013/129489号パンフレットに開示されている、上記化学式(1)で表されるイオン結合性塩以外のイオン結合性塩が挙げられる。
【0041】
(加水分解抑制剤)
本形態に係るポリカーボネート樹脂用帯電防止剤組成物は、加水分解抑制剤を含む。ここで、ポリカーボネート樹脂はアルカリ性条件下において加水分解する場合がある。本形態に係る帯電防止剤組成物に配合される加水分解抑制剤は、アミンおよび水を捕捉することによってポリカーボネート樹脂の加水分解を抑制することに寄与する。加水分解抑制剤は、上述した化学式(1)で表されるイオン結合性塩のカチオンに由来するアミンをも捕捉することで、上記帯電防止剤による帯電防止効果の発現を助け、帯電防止効果の向上に役立っているものと推測されている。
【0042】
上記のメカニズムに鑑み、帯電防止剤組成物への配合によってポリカーボネート樹脂の加水分解の抑制効果を発現できるのであれば任意の化合物が本形態に係る加水分解抑制剤として採用可能である。このような加水分解抑制剤の具体例としては、カルボジイミド化合物、イソシアネート化合物およびオキサゾリン化合物が挙げられる。なかでもカルボジイミド化合物がより効果的に加水分解を抑制する効果を有していることから、加水分解抑制剤はカルボジイミド化合物を含むことが好ましい。なお、加水分解抑制剤としては1種の化合物のみが単独で用いられてもよいし、2種以上の化合物が併用されてもよい。
【0043】
カルボジイミド化合物は、下記化学式(13)で表される物質であって、公知の種々の方法で製造された芳香族、脂肪族または脂環式のカルボジイミド化合物が好ましく使用される。
【0044】
【0045】
化学式(13)中、Rは有機系結合単位を示し、脂肪族、脂環族、芳香族のいずれかである。nは1以上の整数であり、nが2以上の整数である場合、Rは同一でも異なっていてもよい。
【0046】
モノカルボジイミド化合物の例としては、ジシクロヘキシルカルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミド、ジメチルカルボジイミド、ジイソブチルカルボジイミド、ジオクチルカルボジイミド、ジフェニルカルボジイミド、ナフチルカルボジイミド等が挙げられる。また、ビス(プロピルフェニル)カルボジイミド、ビス(ジプロピルフェニル)カルボジイミド、芳香族ポリカルボジイミド、ポリ(4-4’-ジシクロヘキシルメタンカルボジイミド)、ポリ(4,4’-ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(p-フェニレンカルボジイミド)、ポリ(m-フェニレンカルボジイミド)、ポリ(トリルカルボジイミド)、ポリ(ジイソプロピルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(メチル-ジイソプロピルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(トリイソプロピルフェニレンカルボジイミド)なども挙げられる。また、環状カルボジイミド化合物が用いられてもよい。なお、カルボジイミド化合物の重合体としては、分子量が2,000~50,000であるものが好ましい。
【0047】
カルボジイミド化合物の市販品としては、日清紡ケミカル株式会社製のカルボジライト(登録商標)シリーズ(HMV-15CA、LA-1)、ラインケミージャパン社製のスタバクゾール(登録商標)シリーズ(I-LF、I、P、P-100)などが挙げられる。
【0048】
イソシアネート化合物としては、例えば2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、m-フェニレンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,2’-ジフェニルメタンジイソシアネート、3,3’-ジメチル-4,4’-ビフェニレンジイソシアネート、3,3’-ジメトキシ-4,4’-ビフェニレンジイソシアネート、3,3’-ジクロロ-4,4’-ビフェニレンジイソシアネート、1,5-ナフタレンジイソシアネート、1,5-テトラヒドロナフタレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、1,3-シクロヘキシレンジイソシアネート、1,4-シクロヘキシレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、水素添加キシリレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートまたは3,3’-ジメチル-4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート等が挙げられる。
【0049】
オキサゾリン系化合物としては、例えば、2,2’-o-フェニレンビス(2-オキサゾリン)、2,2’-m-フェニレンビス(2-オキサゾリン)、2,2’-p-フェニレンビス(2-オキサゾリン)、2,2’-p-フェニレンビス(4-メチル-2-オキサゾリン)、2,2’-m-フェニレンビス(4-メチル-2-オキサゾリン)、2,2’-p-フェニレンビス(4,4’-ジメチル-2-オキサゾリン)、2,2’-m-フェニレンビス(4,4’-ジメチル-2-オキサゾリン)、2,2’-エチレンビス(2-オキサゾリン)、2,2’-テトラメチレンビス(2-オキサゾリン)、2,2’-ヘキサメチレンビス(2-オキサゾリン)、2,2’-オクタメチレンビス(2-オキサゾリン)、2,2’-エチレンビス(4-メチル-2-オキサゾリン)、または2,2’-ジフェニレンビス(2-オキサゾリン)等が挙げられる。
【0050】
本形態に係るポリカーボネート樹脂用帯電防止剤組成物における加水分解抑制剤の含有量は特に制限されず、上述したメカニズムによってポリカーボネート樹脂の加水分解を抑制するとともに帯電防止性能を向上させうる含有量が適宜選択されうる。一例を挙げると、上述した帯電防止剤(化学式(1)で表されるイオン結合性塩)100質量部に対して、好ましくは0.5~30質量部であり、より好ましくは1~15質量部であり、さらに好ましくは2~10質量部であり、特に好ましくは2.5~5質量部である。この範囲で含有させると、本発明の作用効果を好適に発現させることができる。
【0051】
(高分子型耐熱性向上剤)
本形態に係るポリカーボネート樹脂用帯電防止剤組成物は、高分子型耐熱性向上剤を含む。ここで、本形態に係る帯電防止剤組成物に配合される高分子型耐熱性向上剤は、ポリカーボネート樹脂の剛直性を高める(硬度を高める)ことによってポリカーボネート樹脂の耐熱性を向上させることに寄与する。詳細なメカニズムは不明であるが、高分子型耐熱性向上剤は、上述したようにポリカーボネート樹脂の剛直性を高める(硬度を高める)という作用を通じて、上記帯電防止剤による帯電防止効果の発現を助け、帯電防止効果の向上に役立っているものと推測されている。
【0052】
上記のメカニズムに鑑み、帯電防止剤組成物への配合によってポリカーボネート樹脂の剛直性を高める(硬度を高める)ことができるのであれば任意の高分子化合物が本形態に係る高分子型耐熱性向上剤として採用可能である。このような高分子型耐熱性向上剤の具体例としては、ポリイミド、ポリマレイミド(ポリ(N-フェニルマレイミド))等のイミド系重合体、オレフィン系重合体、(メタ)アクリレート系重合体、スチレン-アクリロニトリル系重合体などが挙げられる。また、例えば分子末端をカルボキシル基、ヒドロキシ基、アミノ基のいずれかで閉じたポリジメチルシロキサンや分子中にエステル結合を持つポリジメチルシロキサン等が用いられてもよい。なかでも、高分子型耐熱性向上剤は、イミド系重合体を含むことが好ましく、ポリマレイミドを含むことがより好ましく、ポリ(N-フェニルマレイミド)を含むことが特に好ましい。なお、高分子型耐熱性向上剤の市販品としては、株式会社日本触媒製のポリイミレックス(登録商標)シリーズ(PAS1460等)、三菱ケミカルホールディングス株式会社製のメタブレン(登録商標)シリーズ、三井化学株式会社製のルーカント(登録商標)シリーズなどが挙げられる。
【0053】
本形態に係るポリカーボネート樹脂用帯電防止剤組成物における高分子型耐熱性向上剤の含有量は特に制限されず、上述したメカニズムによってポリカーボネート樹脂の剛直性を高める(硬度を高める)とともに帯電防止性能を向上させうる含有量が適宜選択されうる。一例を挙げると、上述した帯電防止剤(化学式(1)で表されるイオン結合性塩)100質量部に対して、好ましくは3~30質量部であり、より好ましくは5~25質量部である。この範囲で含有させると、本発明の作用効果を好適に発現させることができる。
【0054】
(酸化防止剤)
本形態に係るポリカーボネート樹脂用帯電防止剤組成物は、酸化防止剤をさらに含んでもよい。このような構成とすることで、当該帯電防止剤組成物が配合されたポリカーボネート樹脂が例えば射出成形機内で滞留した場合に、当該樹脂の変色などを抑制することができる。
【0055】
用いられうる酸化防止剤としては特に制限はなく、ヒンダードフェノール系化合物、ホスファイト系化合物、チオエーテル系化合物、ビタミン系化合物などが挙げられる。流動性、機械特性などに優れるという観点から、ヒンダードフェノール系化合物および/またはホスファイト系化合物がより好ましく、ホスファイト系化合物がさらに好ましい。
【0056】
本形態に係るポリカーボネート樹脂用帯電防止剤組成物における酸化防止剤の含有量は特に制限されず、適宜選択されうる。一例を挙げると、上述した帯電防止剤(化学式(1)で表されるイオン結合性塩)100質量部に対して、好ましくは0~20質量部であり、より好ましくは3~15質量部であり、さらに好ましくは5~12質量部である。
【0057】
(その他の成分)
本形態に係るポリカーボネート樹脂用帯電防止剤組成物は、上述した必須の成分に加えて、その他の成分をさらに含んでもよい。任意で配合されうるその他の成分としては、例えば、溶媒、ガラス繊維、金属繊維、アラミド繊維、セラミック繊維、チタン酸カリウィスカー、炭酸繊維のような繊維状強化剤、タルク、炭酸カルシウム、マイカ、クレー、酸化チタン、酸化アルミニウム、ガラスフレーク、ミルドファイバー、金属フレーク、金属粉末のような各種充填剤、リン酸エステル、亜リン酸エステルに代表されるような熱安定剤あるいは触媒失活剤、光安定剤、紫外線吸収剤、滑剤、顔料、難燃化剤、難燃助剤、可塑剤などが挙げられる。なお、これらの他の成分を配合することで、本発明の作用効果が損なわれないことが好ましい。
【0058】
本形態に係るポリカーボネート樹脂用帯電防止剤組成物は、ポリカーボネート樹脂等の樹脂成分を含まない組成物としてそのまま用いられうる。一方、使用濃度以上の帯電防止剤組成物をポリカーボネート樹脂等の樹脂成分に配合したマスターバッチの形態とされてもよい。
【0059】
[ポリカーボネート樹脂組成物]
本発明の他の形態によれば、ポリカーボネート樹脂と、上述した形態に係るポリカーボネート樹脂用帯電防止剤組成物とを含む、ポリカーボネート樹脂組成物もまた、提供される。
【0060】
「ポリカーボネート樹脂」とは、ポリヒドロキシ化合物とホスゲンとを反応させるホスゲン法、またはポリヒドロキシ化合物と炭酸エステルとを反応させるエステル交換法によって得られる重合体である。なお、本明細書において「ポリカーボネート樹脂」には、ポリエステルカーボネート樹脂を含むものとする。ポリエステルカーボネート樹脂とは、ポリマーを構成する構造単位がカーボネート結合だけでなく、エステル結合で連結された部分をも含むポリマーである。
【0061】
本形態において、ポリカーボネート樹脂としては、芳香族ポリカーボネート、脂肪族ポリカーボネート、芳香族-脂肪族ポリカーボネートのいずれをも用いることができるが、芳香族ポリカーボネートを用いることが好ましい。芳香族ポリカーボネート樹脂は、周知のように、芳香族ジヒドロキシ化合物またはこれに少量のポリヒドロキシ化合物を配合したものを、ホスゲンと反応させる界面重合法(ホスゲン法)、または炭酸ジエステルと反応させる溶融法(エステル交換法)により大量に製造されている樹脂であり、直鎖状または分岐状の熱可塑性の(共)重合体である。なお、溶融法で製造されたものは、末端封止剤を反応させて末端のヒドロキシ基の量が調整されていることもある。
【0062】
芳香族ジヒドロキシ化合物としては、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(=ビスフェノールA)、テトラメチルビスフェノールA、ビス(4-ヒドロキシフェニル)-P-ジイソプロピルベンゼン、ハイドロキノン、レゾルシノール、4,4-ジヒドロキシジフェニルなど種々のものが用いられうるが、通常はビスフェノールAが用いられる。また、難燃性を高める目的で、上記の芳香族ジヒドロキシ化合物にスルホン酸テトラアルキルホスホニウムが結合した化合物や、シロキサン構造を有し、両末端にフェノール性水酸基を含有するポリマーまたはオリゴマーを用いることもできる。
【0063】
分岐状の芳香族ポリカーボネート樹脂を得るには、上述した芳香族ジヒドロキシ化合物の一部を、例えばフロログルシン、4,6-ジメチル-2,4,6-トリ(4-ヒドロキシフェニル)ヘプテン-2、4,6-ジメチル-2,4,6-トリ(4-ヒドロキシフェニル)ヘプタン、2,6-ジメチル-2,4,6-トリ(4-ヒドロキシフェニルヘプテン-3、1,3,5-トリ(4-ヒドロキシフェニル)ベンゼン、1,1,1-トリ(4-ヒドロキシフェニル)エタン等のポリヒドロキシ化合物や、3,3-ビス(4-ヒドロキシアリール)オキシインドール(=イサチンビスフェノール)、5-クロルイサチンビスフェノール、5,7-ジクロルイサチンビスフェノール、5-ブロムイサチンビスフェノール等の化合物で置換すればよい。これらの化合物の使用量は、芳香族ジヒドロキシ化合物に対して、0.01~10モル%であり、好ましくは0.1~2モル%である。また、ポリカーボネート樹脂の分子量を調節するため、一価芳香族ヒドロキシ化合物、例えばm-またはp-メチルフェノール、m-またはp-プロピルフェノール、p-tert-ブチルフェノール、p-長鎖アルキル置換フェノールなどを少量用いることもある
本形態に係るポリカーボネート樹脂組成物は、通常はビスフェノールAから誘導されるポリカーボネート樹脂、またはビスフェノールAと他の芳香族ジヒドロキシ化合物との混合物から誘導される芳香族ポリカーボネート共重合体を用いる。また、2種以上のポリカーボネート樹脂を混合して用いてもよい。
【0064】
ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量は、溶媒としてメチレンクロライドを用い、温度25℃で測定された溶液粘度より換算した値で、通常は13,000~40,000である。なかでも14,000~30,000、特に15,000~29,000のものを用いることが好ましい。粘度平均分子量が13,000以上であれば、得られる樹脂組成物の衝撃強度等の機械的強度が十分に確保され、40,000以下であれば流動性が十分に確保されうる。
【0065】
さらに、本形態に係る「ポリカーボネート樹脂」は、ポリカーボネートが100%の樹脂だけでなく、ポリカーボネートと他の樹脂を混ぜ合わせた、いわゆるポリマーアロイをも包含する概念である。このようなポリマーアロイとしては、例えば、ポリカーボネート/ABS樹脂、ポリカーボネート/AS樹脂、ポリカーボネート/ゴム系高分子化合物、ポリカーボネート/ABS樹脂/ゴム系高分子化合物、ポリカーボネート/ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート/ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネート/ASA樹脂、ポリカーボネート/AES樹脂等が挙げられる。これらのポリマーアロイに含有されるポリカーボネートの割合は、ポリマーアロイ中の50~99質量%であることが好ましく、50~90質量%であることがより好ましく、50~80質量%であることがさらに好ましい。
【0066】
本形態に係るポリカーボネート樹脂組成物は、必要に応じて各種の添加剤を含有していてもよい。かかる添加剤としては、上述した帯電防止剤組成物の欄において他の成分として記載した各種の成分が同様に例示される。
【0067】
上記ポリカーボネート樹脂と本発明に係る帯電防止剤組成物との配合割合は特に限定されず、本発明の作用効果が発現しうる量で帯電防止剤組成物を配合することができる。一例として、ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、上記帯電防止剤(化学式(1)で表されるイオン結合性塩)の配合量を0.5~20質量部程度とすることが好ましく当該帯電防止剤の配合量を1~10質量部とすることがより好ましく、2~6質量部とすることがさらに好ましい。
【0068】
上記ポリカーボネート樹脂と本発明に係る帯電防止剤組成物との配合方法は特に限定されず、通常使用されている方法が適宜採用されうる。具体的には、例えば、ロール混練り、バンパー混練り、押し出し機、ニーダー等を用いて、混合し、練りこんで配合すればよい。また、本発明に係る帯電防止剤組成物は、ポリカーボネート樹脂に配合するいわゆる練り込み型としての使用以外にも、ポリカーボネート樹脂成形品の表面に塗布する塗布型として使用することもできる。塗布する場合は、各種溶剤に溶解させた溶液として塗布すればよい。このようにして本発明に係る帯電防止剤組成物をポリカーボネート樹脂成形品の表面に塗布して得られたものもまた、本発明に係るポリカーボネート樹脂組成物の概念に包含されるものとする。
【0069】
本発明によれば、ポリカーボネート樹脂に添加された場合に、当該樹脂の透明性に及ぼす悪影響を最小限に抑えつつ、従来のポリカーボネート樹脂用帯電防止剤よりも優れた帯電防止性能を発揮することが可能な帯電防止剤と、当該帯電防止剤を含むポリカーボネート樹脂組成物が提供される。したがって、本形態に係るポリカーボネート樹脂組成物は、自動車等の内外装部品、例えばドアハンドル、ルーフレール、フェンダー等、各種携帯端末、パソコン、PDA、テレビ、ビデオ、カメラ、プリンター、FAX等の電気電子機器やOA機器等の筐体として特に好適に用いられうる。
【実施例】
【0070】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は下記の実施例により何ら制限されるものではない。
【0071】
(ポリカーボネート樹脂)
本実施例では、ポリカーボネート樹脂として、「ユーピロン(登録商標)S-2000」(三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製、界面重合法で製造されたビスフェノールA型芳香族ポリカーボネート樹脂、粘度平均分子量:23,000)を用いた。
【0072】
(帯電防止剤組成物の配合成分)
本実施例では、帯電防止剤組成物の配合成分として、以下のものを用いた。
・帯電防止剤
イオン結合性塩A([MEM][Cum-SO3];明細書の化学式(3)で表されるイオン結合性塩)
イオン結合性塩B([コリン][Cum-SO3];明細書の化学式(12)で表されるイオン結合性塩)
・加水分解抑制剤(カルボジイミド化合物)
カルボジライト(登録商標)HMV-15CA
カルボジライト(登録商標)LA-1(以上、日清紡ケミカル株式会社製)
スタバクゾール(登録商標)I-LF
スタバクゾール(登録商標)I
スタバクゾール(登録商標)P
スタバクゾール(登録商標)P-100(以上、ラインケミー社製)
・耐熱性向上剤
ポリイミレックス(登録商標)PAS1460(株式会社日本触媒製)
・酸化防止剤
トリエチル燐酸
アデカスタブ(登録商標)AO-80
アデカスタブ(登録商標)TPP(以上、株式会社ADEKA製)
イルガノックス(登録商標)1076
イルガフォス(登録商標)168(以上、BASFジャパン社製)。
【0073】
[試験例1:加水分解抑制剤としてカルボジライト(登録商標)HMV-15CAを用いた例]
(試験片の作製)
上述した帯電防止剤組成物の配合成分のいくつかを、下記の表1に示す質量比で秤量し、混合して、比較例1-1~比較例1-6および実施例1-1~実施例1-5の帯電防止剤組成物を調製した。
【0074】
次いで、上述したポリカーボネート樹脂100質量部に、上記で調製した帯電防止剤組成物を各配合成分の添加量が下記の表1に示す値となるように添加し、二軸セグメント押出機を使用して混練・押出(ペレット化)を行い、射出成型により試験片を作製した。
【0075】
(試験片の評価)
このようにして得られた各試験片について、表面抵抗率(JIS K6911:2006「熱硬化性プラスチック一般試験方法」による)を株式会社三菱化学アナリテック製 高抵抗率計ハイレスターUPおよびURSプローブを用い、印加電圧1000Vにて測定した。結果を下記の表1に示す。なお、表中、表面抵抗率の結果として「over」とあるのは、表面抵抗率の測定値が1014以上であったことを意味する。
【0076】
また、各試験片について、色味および透明性を目視にて観察し、以下の評価基準に従って評価した。結果を下記の表1に示す。
・色味の評価基準
○:試験片の着色は観察されないか、またはわずかに試験片の着色が観察された;
△:試験片の着色が観察された;
×:試験片の着色がひどかった。
・透明性の評価基準
○:樹脂単体と比較して試験片の透明性に変化は見られないか、またはわずかに試験片の濁りが観察されたが依然として透明であった;
△:試験片の濁りが観察されたが依然として透明であった;
×:試験片の濁りがひどく透明性を失っていた。
【0077】
【0078】
[試験例2:加水分解抑制剤としてカルボジライト(登録商標)LA-1を用いた例]
(試験片の作製)
上述した帯電防止剤組成物の配合成分のいくつかを、下記の表2に示す質量比で秤量し、混合して、比較例2-1~比較例2-5および実施例2-1~実施例2-2の帯電防止剤組成物を調製した。
【0079】
次いで、上述したポリカーボネート樹脂100質量部に、上記で調製した帯電防止剤組成物を各配合成分の添加量が下記の表2に示す値となるように添加した。そして、上述した試験例1と同様の手法により試験片を作製し、試験片の評価を行った。結果を下記の表2に示す。
【0080】
【0081】
[試験例3:加水分解抑制剤としてスタバクゾール(登録商標)シリーズを用いた例]
(試験片の作製)
上述した帯電防止剤組成物の配合成分のいくつかを、下記の表3に示す質量比で秤量し、混合して、実施例3-1~実施例3-6の帯電防止剤組成物を調製した。
【0082】
次いで、上述したポリカーボネート樹脂100質量部に、上記で調製した帯電防止剤組成物を各配合成分の添加量が下記の表3に示す値となるように添加した。そして、上述した試験例1と同様の手法により試験片を作製し、試験片の評価を行った。結果を下記の表3に示す。なお、試験例3では、試験片について色味の評価を行わなかった。
【0083】
【0084】
[試験例4:帯電防止剤の添加量を変化させた例]
(試験片の作製)
上述した帯電防止剤組成物の配合成分のいくつかを、下記の表4に示す質量比で秤量し、混合して、実施例4-1~実施例4-7の帯電防止剤組成物を調製した。
【0085】
次いで、上述したポリカーボネート樹脂100質量部に、上記で調製した帯電防止剤組成物を各配合成分の添加量が下記の表4に示す値となるように添加した。そして、上述した試験例1と同様の手法により試験片を作製し、試験片の評価を行った。結果を下記の表4に示す。なお、実施例4-4および実施例4-5は、それぞれ実施例1-3および実施例1-4に相当する。
【0086】
【0087】
表1~表4に示す結果から、本発明によれば、所定の化学構造を有するイオン結合性塩を帯電防止剤として用いるとともに、これを加水分解抑制剤および高分子型耐熱性向上剤と併用して帯電防止剤組成物を構成してポリカーボネート樹脂に添加すると、ポリカーボネート樹脂の透明性に及ぼす悪影響を最小限に抑制しつつ、優れた帯電防止性能を発揮させることができることがわかる。
【0088】
これに対し、本発明の構成を有さない比較例に係る帯電防止剤組成物を用いた場合には、1012[Ω/□]オーダー以下の表面抵抗率が達成できたとしても、いずれもポリカーボネート樹脂の透明性が損なわれる結果となった。