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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-15
(54)【発明の名称】無線解析装置及び無線解析方法
(51)【国際特許分類】
   H04B 17/309 20150101AFI20231108BHJP
   H04B 17/23 20150101ALI20231108BHJP
   H04B 17/391 20150101ALI20231108BHJP
   G01R 29/08 20060101ALI20231108BHJP
【FI】
H04B17/309
H04B17/23
H04B17/391
G01R29/08 B
G01R29/08 A
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019160470
(22)【出願日】2019-09-03
(65)【公開番号】P2021040242
(43)【公開日】2021-03-11
【審査請求日】2022-02-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001678
【氏名又は名称】藤央弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】山崎 良太
【審査官】対馬 英明
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/144831(WO,A1)
【文献】特開2001-160982(JP,A)
【文献】特開2005-253073(JP,A)
【文献】特表2010-509863(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 1/60
H04B 3/46-3/493
H04B 17/00-17/40
G01R 29/00-29/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無線解析装置であって、
無線信号を受信するアンテナ及び無線受信部と、
前記無線信号のスペクトル波形を取得するスペクトログラム計算部と、
前記スペクトル波形のパターンによって前記無線信号を識別する識別部と、
前記識別部が識別した無線信号を信号長によって分類し、前記分類された無線信号の出現回数を計数する解析部と、
前記識別部による識別結果と前記解析部による解析結果を出力する出力部とを備え、
前記解析部は、
スペクトル波形パターンと、中心周波数と、帯域幅と、信号長と、出現回数とを含む通信解析情報によって前記スペクトル波形の情報を管理し、
前記識別部が識別した無線信号と同じ信号長のデータが、前記通信解析情報に存在するかを検索し、
前記識別部が識別した無線信号と同じ信号長のデータが存在し、かつ、当該無線信号と当該同じ信号長のデータの中心周波数及び帯域幅が同じである場合は、当該データを選択し、
同じ長さの信号が存在しない、又は、中心周波数及び帯域幅が異なる場合は、前記識別部が新しく識別した無線信号のデータを前記通信解析情報に追加し、
選択又は追加されたデータの出現回数を加算して前記分類された無線信号の出現回数を計数することを特徴とする無線解析装置。
【請求項2】
請求項1に記載の無線解析装置であって、
前記識別部は、
前記スペクトログラム計算部が取得したスペクトル波形の歪み方のパターンを識別し、
過去に取得したスペクトル波形と一致すれば、同じスペクトル波形パターンとして分類し、
過去に取得したスペクトル波形と異なれば、新しいスペクトル波形パターンとして分類することを特徴とする無線解析装置。
【請求項3】
請求項1に記載の無線解析装置であって、
前記スペクトル波形のパターンは、周波数選択性フェージングの影響を受けて歪んでおり、
前記識別部は、歪み方が異なる信号を、異なるスペクトル波形パターンとして認識することを特徴とする無線解析装置。
【請求項4】
請求項1に記載の無線解析装置であって、
前記出力部は、前記スペクトル波形のパターンごとに計数した出現回数を通信量として出力することを特徴とする無線解析装置。
【請求項5】
請求項1に記載の無線解析装置であって、
前記出力部は、前記スペクトル波形のパターン及び信号長ごとに計数した出現回数を、信号種別ごとの通信量として出力することを特徴とする無線解析装置。
【請求項6】
請求項1に記載の無線解析装置であって、
無線部及び信号処理部を備え、
前記無線部は、前記アンテナと、前記無線受信部と、前記スペクトログラム計算部と、スペクトログラムに変換された波形データを記録する信号記録部とを有し、
前記信号処理部は、前記識別部と、前記出力部とを有し、前記スペクトル波形のデータが入力されることを特徴とする無線解析装置。
【請求項7】
請求項1に記載の無線解析装置であって、
無線通信部と解析処理部を備え、
前記無線通信部は、前記アンテナと、前記無線受信部と、無線信号を復調してデータ信号を取り出す無線復調部と、前記復調されたデータ信号を処理するデータ処理部を有し、
前記解析処理部は、前記スペクトログラム計算部と、前記識別部と、前記出力部とを有し、受信した無線信号が変換されたデジタル信号が入力されることを特徴とする無線解析装置。
【請求項8】
無線解析装置が実行する無線解析方法であって、
無線信号を受信する無線受信処理と、
前記無線信号のスペクトル波形を取得するスペクトログラム取得処理と、
前記スペクトル波形のパターンによって前記無線信号を識別する識別処理と、
前記識別された無線信号を信号長によって分類し、前記分類された無線信号の出現回数を計数する解析処理と、
前記識別処理の結果と前記解析処理の結果を出力する出力処理とを実行し、
前記解析処理では、
スペクトル波形パターンと、中心周波数と、帯域幅と、信号長と、出現回数とを含む通信解析情報によって前記スペクトル波形の情報を管理し、
前記識別処理で識別された無線信号と同じ信号長のデータが、前記通信解析情報に存在するかを検索し、
前記識別処理で識別された無線信号と同じ信号長のデータが存在し、かつ、当該無線信号と当該同じ信号長のデータの中心周波数及び帯域幅が同じである場合は、当該データを選択し、
同じ長さの信号が存在しない、又は、中心周波数及び帯域幅が異なる場合は、前記識別処理で新しく識別された無線信号のデータを前記通信解析情報に追加し、
選択又は追加されたデータの出現回数を加算して前記分類された無線信号の出現回数を計数することを特徴とする無線解析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,無線通信システムの解析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
無線通信システムの解析装置に関する技術を記載した文献として特許文献1がある。
【0003】
特許文献1には、受信信号を受信する受信部と、前記受信部が受信した受信信号に関するスペクトログラムを取得する取得部と、周波数領域に対応する非負値行列であり、各周波数チャネルに応じた周波数スペクトルに対応する基底ベクトルを有する行列である周波数行列を受け付ける受付部と、前記取得部が取得したスペクトログラムに対応する非負値行列であるスペクトログラム行列を、非負値行列因子分解により、前記周波数行列と、時間領域に対応する非負値行列である時間行列とに分解する分解部と、前記分解部によって分解された前記時間行列を用いて各周波数チャネルの利用状況を取得するチャネル利用状況取得部と、を備えたチャネル利用状況取得装置が開示されている(請求項1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-50622号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
鉄道、建設機械、工場、倉庫などの様々な分野で無線接続を前提としたIoT(Internet of Things)システムが検討及び導入がされている。これらのシステムでは、無線通信品質がシステム稼働率に直結することから、現場における無線通信の品質評価や無線システムの挙動解析を行う無線エンジニアリング技術が求められている。
【0006】
IoTシステムで利用される無線通信規格は複数あり、WiFi、Zigbee(登録商標)、Bluetooth(登録商標)、携帯電話(3G/4G)、LPWAなどの様々な無線通信規格が利用される。また、それらの通信規格とは異なる独自規格の無線システムも利用されており、クレーンのリモコン操作や温湿度計の遠隔モニタリングなど、様々な無線方式を使ったシステムが存在する。
【0007】
これらの様々な無線通信が利用されている現場で、無線通信品質の評価及び無線システムの挙動を、無線方式に依存せずに解析することが求められている。特許文献1に記載された技術では、周波数チャネルの状況を取得して無線通信品質を評価できるが、無線システムの挙動を解析するという点について何ら考慮されていない。
【0008】
本発明は、上記実情を鑑みてなされたものであり、IoTシステムが稼働する現場において、様々な無線通信規格の無線システムが運用されている環境下で、無線通信方式に依存せず、無線通信の品質を評価し、無線システムの挙動を解析することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願において開示される発明の代表的な一例を示せば以下の通りである。すなわち、無線解析装置であって、無線信号を受信するアンテナ及び無線受信部と、無線信号のスペクトル波形を取得するスペクトログラム取得部と、前記スペクトル波形のパターンによって前記無線信号を識別する識別部と、前記識別部が識別した無線信号を信号長によって分類し、前記分類された無線信号の出現回数を計数する解析部と、前記識別部による識別結果と前記解析部による解析結果を出力する出力部とを備え、前記解析部は、スペクトル波形パターンと、中心周波数と、帯域幅と、信号長と、出現回数とを含む通信解析情報によって前記スペクトル波形の情報を管理し、前記識別部が識別した無線信号と同じ信号長のデータが、前記通信解析情報に存在するかを検索し、前記識別部が識別した無線信号と同じ信号長のデータが存在し、かつ、当該無線信号と当該同じ信号長のデータの中心周波数及び帯域幅が同じである場合は、当該データを選択し、同じ長さの信号が存在しない、又は、中心周波数及び帯域幅が異なる場合は、前記識別部が新しく識別した無線信号のデータを前記通信解析情報に追加し、選択又は追加されたデータの出現回数を加算して前記分類された無線信号の出現回数を計数することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様によれば、無線通信規格や無線通信方式に依存せずに無線通信の品質を評価できる。前述した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施例の説明によって明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】第一実施形態の無線通信システム及び無線解析装置の概略構成を示す図である。
図2】第一実施形態の無線解析装置の機能ブロック図である。
図3】スペクトル電力の形状をパターンごとに分類して識別する処理を示す図である。
図4】スペクトル電力の形状パターンの例を示す図である。
図5】通信解析テーブルの例を示す図である。
図6】解析部が実行する処理を示す図である。
図7】無線通信システムが正常な通信状態であるときのスペクトログラムである。
図8】無線通信システムが異常な通信状態であるときのスペクトログラムである。
図9】出力部が識別・解析処理の結果として表示する情報の例を示す図である。
図10】出力部が識別・解析処理の結果として表示する情報の別の例を示す図である。
図11】第二実施形態の無線解析装置のハードウェア構成の例を示す図である。
図12】第三実施形態の無線解析装置のハードウェア構成の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下の実施の形態においては、便宜上その必要があるときは、複数のセクションまたは実施の形態に分割して説明する。以下の実施の形態において、要素の数等(個数、数値、量、範囲等を含む)に言及する場合、特に明示した場合および原理的に明らかに特定の数に限定される場合等を除き、その特定の数に限定されるものではなく、特定の数以上でも以下でもよい。なお、以下の実施の形態において、その構成要素(処理ステップ等も含む)は、特に明示した場合および原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須ではない。
【0013】
また、以下の実施の形態における各構成、機能、処理部、処理手段等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路その他のハードウェアとして実現しても良い。また、後述する各構成、機能、処理部、処理手段等は、コンピュータ上で実行されるプログラムとして実現しても良い。すなわち、ソフトウェアとして実現しても良い。各構成、機能、処理部、処理手段等を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、メモリやハードディスク、SSD(Solid State Drive)等の記憶装置、ICカード、SDカード、DVD等の記憶媒体に格納することができる。
【0014】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一の機能を有する部材には同一または関連する符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。また、以下の実施の形態では、特に必要なとき以外は同一または同様な部分の説明を原則として繰り返さない。
【0015】
<第一実施形態>
[システム構成]
第一実施形態は、複数の無線基地局であるアクセスポイント(AP)と複数の移動無線局であるモバイルステーション(STA)で構成される無線通信システムを解析対象とする無線解析装置(WA)200で構成される。以下、本発明の第一実施形態に係る無線通信システム及び無線解析装置200について、図面を参照しながら説明する。
【0016】
まず、図1を参照して第一実施形態に係る無線通信システム及び無線解析装置200の概略構成について説明する。図1は、第一実施形態に係る無線通信システム及び無線解析装置200の概略構成を示す図である。図1に示す無線通信システムは、工場や倉庫のような建物における屋内環境100に設置されている。但し、本発明は、屋内環境への適用に限定されるものではなく、屋外環境にも適用可能である。無線通信システムは、複数の無線基地局であるアクセスポイント(AP)101、102、103、104、105と、複数の移動無線局であるモバイルステーション(STA)105、107、108で構成される。各APは屋内環境において、図1に示すように配置されている。各STAは屋内環境100の中を自由に動くことができる。各APと各STAは相互に無線通信によって接続される。各STAは移動に応じて接続先のAPを切り替えるローミング動作を行う一般的な無線通信システムを想定する。この無線通信システムを解析対象とする無線解析装置(WA)200が屋内環境100内の定位置に設置されており、無線解析装置(WA)200は移動しない。
【0017】
次に、図2を参照して、無線解析装置(WA)200の機能ブロックについて説明する。図2は、無線解析装置200の機能ブロック図である。図2に示すように、無線解析装置200は、アンテナ201、無線受信部202、スペクトログラム計算部203、パターン識別部204、通信解析部205、及び出力部206を含んで構成される。
【0018】
アンテナ201は電波を受信する機能を有する。無線受信部202は受信した電波をダウンコンバージョンしてAD変換を行い、デジタル信号に変換する。スペクトログラム計算部203は、デジタル化した無線信号のスペクトログラム(周波数スペクトルの時間変動を表すデータ形式)を計算する。パターン識別部204はスペクトログラムデータを、信号の電力スペクトルの歪み方に応じて識別するものであり、詳細な動作は図3及び図4を参照して説明する。通信解析部205は、パターン識別部204で識別された信号パターンのそれぞれにおける通信量を解析するものであり、詳細な動作は図5及び図6を参照して説明する。出力部206は、通信解析部205で解析した結果をモニター等の表示装置に出力するものであり、無線解析装置(WA)200の操作者に情報を提供する。
【0019】
次に、図3及び図4及び図5を参照して、図2に示すパターン識別部204が行う処理について説明する。図3はスペクトル電力の形状をパターンごとに分類して識別する処理を示す図であり、図4はスペクトル電力の形状パターンの例を示す図であり、図5はスペクトル電力の形状パターンを記録し格納する通信解析テーブル500の例を示す図である。
【0020】
図3に示すように、パターン識別部204は、スペクトログラム計算部203が計算したスペクトル電力パターンを取得する(301)。図4にスペクトル電力パターンの例を示す。図4のパターン401は、縦軸に電力、横軸に周波数をとったスペクトル電力を表しており、OFDM信号のスペクトル形状を例示している。OFDMのような広帯域信号は、空間を伝搬し、反射や回折等によるマルチパス伝搬路を経由して、周波数選択性フェージングの影響を受け、その結果としてスペクトル形状に歪みが発生することが知られている。図4のパターン402は、周波数選択性フェージングによって歪みが生じたスペクトル形状を例示している。このスペクトル形状の歪み方は、電波の送信局と受信局との間の位置関係によって決定されるマルチパス伝搬路の影響を受ける。従って、送信局と受信局の位置関係が異なる場合は、図4のパターン403、404で例示するように、スペクトル形状は異なった形状に歪む。この異なる歪み方を識別して分類したものを、スペクトル形状パターンと呼ぶ。
【0021】
第一実施形態では、図1で示したAP1(101)が送信した信号をWA(200)で受信したスペクトル形状パターンを401、AP2(102)が送信した信号をWA(200)で受信したスペクトル形状パターンを402、AP3(103)が送信した信号をWA(200)で受信したスペクトル形状パターンを403、AP4(104)が受信したスペクトル形状パターンを404として説明する。各APが固定箇所に設置され、無線解析装置WA(200)が固定箇所に設置され、両者が移動しなければ、異なるスペクトル形状パターン401~404が識別され、WA(200)が受信した信号を分類できる。
【0022】
次に、パターン識別部204は、図3の301において取得したスペクトル電力パターンが過去に取得したスペクトル形状パターンと一致するかを照合する(302)。図5に示す通信解析テーブル500を用いて照合するとよい。通信解析テーブル500は、一つのスペクトル形状パターンについて、情報フィールド501~505の情報を格納して管理するテーブルであり、情報フィールドとして、スペクトル形状パターン501、中心周波数502、帯域幅503、信号長さ504、及び出現回数505を持つ。パターン識別部204は、新たに取得したスペクトル形状パターンについて、通信解析テーブル500を参照して、類似するスペクトル形状パターンがあるかを検索する(302)。類似するスペクトル形状パターンが無い場合は、新しいスペクトル形状パターンを通信解析テーブル500に追加する(303)。具体的には、通信解析テーブル500のスペクトル形状パターン501の情報フィールドに新しい情報を追加する。類似するスペクトル形状パターンがある場合は、取得したスペクトル電力パターンを該当するスペクトル形状パターン501の情報フィールドに分類する(304)。第一実施形態では、図4のスペクトル形状パターン401~404が、図5のスペクトル形状パターン1~4として格納されているものとして説明する。
【0023】
次に、図6を参照して、通信解析部205が実行する処理を説明する。通信解析部205は、パターン識別部204で識別したスペクトル形状パターンが継続している時間の長さを取得する(601)。取得した時間の長さが、通信解析テーブル500の該当するスペクトル形状パターンの信号長さ504フィールドと一致するかを判定する(602)。一致する場合は、該当する同じ信号長さのデータを選択する(603)。一致しない場合は、通信解析テーブル500に新しい信号長さのデータを追加する(604)。次に、スペクトル形状パターンの中心周波数と帯域幅が、通信解析テーブル500の選択したデータにおける中心周波数502フィールドと帯域幅503フィールドの値と一致するかを判定する(605)。一致する場合は、該当する同じ中心周波数及び帯域幅のデータを選択する(606)。一致しない場合は、通信解析テーブル500に新しいデータを追加する(607)。そして、選択されたデータ又は新しく追加されたデータの出現回数505フィールドの数値を加算する(608)。
【0024】
次に、図7及び図8を参照して、実際のスペクトル形状パターンを識別し、解析する処理の例を説明する。図7及び図8では、図1に示す構成において無線解析装置(WA)200が取得したスペクトログラム情報を用いて説明する。縦軸が周波数(MHz)で、横軸が経過時間(ミリ秒)、濃淡が信号の電力強度(dBm)を表している。図7は無線通信システムが正常な通信状態であるときのスペクトログラムであり、図8は無線通信システムが異常な通信状態であるときのスペクトログラムである。図7では、複数のAP及びSTAが複数の周波数チャネルを使って無線パケットを送受信していることが分かる。図8では、同様に無線パケットの送受信が分かるが、中心周波数5220MHzの周波数チャネルにパケットが集中しており、またスペクトルに縞模様が見える点が、図7と異なっている。この縞模様は、図4で示した周波数選択性フェージングによるスペクトル形状の歪みを表している。スペクトルの縞模様は、特定のAPが無線リソースを独占して連続してパケットを送信していることを意味しており、図7と比較すると、異常な通信状態であると判断できる。この様に、スペクトル形状の歪み方のパターンによって、その信号の送信元となる無線局を識別し、識別された各無線局が無線リソースを消費している程度(どの程度の通信量か)を解析できる。第一実施形態で示す構成及び処理によって、無線通信システムの通信状態を解析できる。
【0025】
次に、図9を参照して、識別・解析処理の結果として、出力部206が表示する情報の例を説明する。出力例901は、識別されたスペクトル形状パターンの信号のそれぞれの通信量を表示する。出力例901の識別パターンが、情報解析テーブルの501で管理されるスペクトル形状パターンに相当し、出力例901の通信量が、情報解析テーブルの505で管理される出現回数に相当する。また、それぞれの識別パターンを持つ信号は、特定のAPが送信した信号であると推定される。この結果により、図1で示す無線通信システムにおいて、各APの無線通信量と、無線リソースの消費量を解析できる。
【0026】
次に、図10を参照して、識別・解析処理の結果として、出力部206が表示する別の情報の例を説明する。出力例1001は、識別されたスペクトル形状パターン毎に、信号の長さ(例えば、500μs、100μs、20μsの3種類)で分類し、それぞれの通信回数を表示する。出力例1001においては、AP1が送信したと推測される信号パターン1において、500μsの長さの信号と、100μsの長さの信号と、20μsの長さの信号の比率が分かる。信号の長さは、信号の種別や送信するデータ量によって変化することから、データ通信の速度や、送受信されるパケットの種別(データパケットか管理パケットか)などの傾向を分析できる。
【0027】
なお、出力部206が識別・解析処理の結果として、図9及び図10に示す画面を出力する例を説明したが、出力部206はパターン識別部204による解析結果が記録される通信解析テーブル500(図5)の一部の項目(スペクトル形状パターン501、中心周波数502、帯域幅503)を出力してもよい。
【0028】
<第二実施形態>
第二実施形態では、第一実施形態で示す機能を実現するための別のハードウェア構成を示す。第一実施形態で示した図2の機能ブロック図は、単一の無線解析装置200として実現してもよい。第二実施形態の無線解析装置1110は、ハードウェア構成として、アンテナ等の高周波素子、高周波回路、FPGA、デジタル回路、CPU、メモリ、そして制御を実現するソフトウェアによって実現される。
【0029】
図11を参照して、第二実施形態に係る無線解析装置1110のハードウェア構成を説明する。第二実施形態では、図11に示すように、無線信号を受信してスペクトログラムデータに変換し、信号データとして記録する無線部(例えば、無線測定器)1100と、信号の識別、解析、出力を行う信号処理部1106に分割したハードウェア構成として実現する。無線部1100は、アンテナ1101、無線受信部1102、スペクトログラム計算部1103、及びスペクトログラム変換された信号を記録する信号記録部1104を含んで構成される。信号記録部1104は、信号処理部1106に出力する信号データ(例えば、スペクトログラムデータ)を格納、保持する。信号処理部1106は、信号データ格納部1105、パターン識別部1107、通信解析部1108、及び出力部1109を含んで構成される。信号データ格納部1105は、無線部1100から出力された信号データ(スペクトログラムデータ)を格納する。
【0030】
第二実施形態の各構成は第一実施形態との対比において、アンテナ1101はアンテナ201と、無線受信部1102は無線受信部202と、スペクトログラム計算部1103はスペクトログラム計算部203と、パターン識別部1107はパターン識別部204と、通信解析部1108は通信解析部205と、出力部1109は出力部206と同じであるので、それらの説明は省略する。
【0031】
実用的な構成として、例えば、無線部1100をスペクトラムアナライザ等の無線測定器によって構成し、信号処理部1106をパーソナルコンピュータ上のソフトウェア処理によって構成するとよい。無線部(スペクトラムアナライザ)1100は、スペクトログラムに変換された波形データを出力し、信号処理部(パーソナルコンピュータ)1106には、スペクトログラムに変換された波形データが入力される。この構成において、信号処理部1106は、受信信号をリアルタイムで処理する必要がないので、より広帯域で大きなデータ量を持った信号を解析できる。
【0032】
<第三実施形態>
第三実施形態では、第一実施形態で示す機能を実現するための別のハードウェア構成を示す。第一実施形態で示した図2の機能ブロック図は、単一の無線解析装置200として実現してもよい。第三実施形態の無線解析装置1210は、ハードウェア構成として、アンテナ等の高周波素子、高周波回路、FPGA、デジタル回路、CPU、メモリ、そして制御を実現するソフトウェアによって実現される。
【0033】
図12を参照して、第三実施形態に係る無線解析装置1210のハードウェア構成を説明する。第三実施形態では、図12に示すように、通常の無線通信機能を実現する無線通信部1200と、信号解析処理を行う解析処理部1205とが一つの無線通信装置内に構成される。無線通信部1200と解析処理部1205とは、別のハードウェアで構成されてもよい。無線通信部1200は、アンテナ1201、無線受信部1202、無線復調部1203、及びデータ処理部1204を含んで構成される。無線受信部1202は、受信した電波をダウンコンバージョンしてAD変換を行い、デジタル信号に変換して、無線復調部1203及び解析処理部1205に出力する。無線復調部1203は、無線(高周波)信号を復調してデータ信号を取り出す。データ処理部1204は、復調されたデジタルデータを処理する。また、解析処理部1205は、スペクトログラム計算部1206と、パターン識別部1207と、通信解析部1208と、及び出力部1209を含んで構成される。無線受信部1202で受信した無線信号を、解析処理部1205へ入力することで、第一実施形態で示した処理と同じ処理を実現できる。
【0034】
第三実施形態の各構成は第一実施形態との対比において、アンテナ1201はアンテナ201と、無線受信部1202は無線受信部202と、スペクトログラム計算部1206はスペクトログラム計算部203と、パターン識別部1207はパターン識別部204と、通信解析部1208は通信解析部205と、出力部1209は出力部206と同じであるので、それらの説明は省略する。
【0035】
第三実施形態の構成においては、無線解析のみを行う単独の装置ではなく、無線通信装置(例えば、スマートフォンやタブレット端末)の中にソフトウェアによる解析機能を追加した構成となる。無線通信装置とは別に無線解析装置1210を用意する必要がなく、図1に示す無線通信システムにおいて、解析機能を有する無線通信装置のみを設置することによって、システムの構成要素の数を低減でき、コストを削減できる。また、無線通信システムを常時監視し、解析できる。
【0036】
以上に説明したように、本発明の実施例の無線解析装置200、1110、1210は、無線信号を受信するアンテナ201及び無線受信部202と、無線信号のスペクトル波形を取得するスペクトログラム取得部(スペクトログラム計算部203)と、スペクトル波形のパターンによって無線信号を識別するパターン識別部204と、パターン識別部204による識別結果を出力する出力部206とを備えるので、無線通信規格や無線通信方式に依存せずに無線通信の品質を評価でき、無線システムの挙動を解析できる。そして、現場で利用されている無線システムにおいて、現場に設置されている各無線装置の無線リソースの消費を解析できる。
【0037】
また、パターン識別部204が識別した無線信号を信号長によって分類し、分類された無線信号の出現回数を計数する通信解析部205を備え、出力部206は、通信解析部205による解析結果を出力するので、パケットの種類毎の通信量を解析できる。
【0038】
また、パターン識別部204は、スペクトログラム計算部203が取得したスペクトル波形の歪み方のパターンを識別し、過去に取得したスペクトル波形と一致すれば、同じスペクトル波形パターンとして分類し、過去に取得したスペクトル波形と異なれば、新しいスペクトル波形パターンとして分類するので、プロトコル依存せずに無線信号の送信元を識別できる。
【0039】
また、前記スペクトル波形パターンは、周波数選択性フェージングの影響を受けて歪んでおり、パターン識別部204は、歪み方が異なる信号を、異なるスペクトル波形パターンとして認識するので、無線信号の送信元のアクセスポイントを容易に判定できる。
【0040】
また、通信解析部205は、スペクトル形状パターンと、中心周波数と、帯域幅と、信号の長さと、出現回数とを含む通信解析情報(通信解析テーブル500)によって前記スペクトル波形の情報を管理するので、解析した無線信号を確実に管理できる。
【0041】
また、通信解析部205は、パターン識別部204が識別した無線信号の信号長をと同じ長さの信号が、通信解析テーブル500に存在するかを検索し、同じ長さの信号が存在しない場合は、新しいデータを通信解析テーブル500に追加し、同じ長さの信号が存在する場合は、該当するデータの中心周波数及び帯域幅が同じかを判定し、中心周波数及び帯域幅が同じである場合は、当該データを選択し、中心周波数及び帯域幅が異なる場合は、新しいデータを通信解析テーブル500に追加し、選択又は追加されたデータの出現回数を加算するので、通信解析テーブル500のデータを自動的に更新でき、通信の傾向を正確に解析できる。
【0042】
また、出力部206は、スペクトル波形パターンごとに計数した出現回数を通信量として出力するので(901)、アクセスポイントごとの通信量が分かり、通信量の大小や、通信の偏りを知ることができ、システムの分析に貢献できる。
【0043】
また、出力部206は、スペクトル波形パターン及び信号長ごとに計数した出現回数を、信号種別ごとの通信量として出力するので(1001)、どの種類のパケットがどの程度送信されているかが分かる。
【0044】
なお、本発明は前述した実施例に限定されるものではなく、添付した特許請求の範囲の趣旨内における様々な変形例及び同等の構成が含まれる。例えば、前述した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに本発明は限定されない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えてもよい。また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えてもよい。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をしてもよい。
【0045】
また、前述した各構成、機能、処理部、処理手段等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路で設計する等により、ハードウェアで実現してもよく、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し実行することにより、ソフトウェアで実現してもよい。
【0046】
各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、メモリ、ハードディスク、SSD(Solid State Drive)等の記憶装置、又は、ICカード、SDカード、DVD等の記録媒体に格納することができる。
【0047】
また、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、実装上必要な全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には、ほとんど全ての構成が相互に接続されていると考えてよい。
【符号の説明】
【0048】
100 屋内環境
101、102、103、104、105 無線基地局、アクセスポイント(AP)
106、107、108 無線移動局、モバイルステーション(STA)
200、1110、1210 無線解析装置(WA)
1100 無線部
1200 無線通信部
201、1101、1201 アンテナ
202、1102、1202 無線受信部
1203 無線復調部
1204 データ処理部
1205 解析処理部
203、1103、1206 スペクトログラム計算部
1104 信号記録部
1105 信号データ格納部
1106 信号処理部
204、1107、1207 パターン識別部
205、1108、1208 通信解析部
206、1109、1209 出力部
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