(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-15
(54)【発明の名称】検出システム及び検出方法
(51)【国際特許分類】
G01S 13/46 20060101AFI20231108BHJP
G01S 5/02 20100101ALI20231108BHJP
G01S 13/88 20060101ALI20231108BHJP
G01V 3/08 20060101ALI20231108BHJP
【FI】
G01S13/46
G01S5/02 Z
G01S13/88
G01V3/08 E
(21)【出願番号】P 2019166499
(22)【出願日】2019-09-12
【審査請求日】2022-09-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000108085
【氏名又は名称】セコム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100114177
【氏名又は名称】小林 龍
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】前川 恭亮
【審査官】安井 英己
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-181137(JP,A)
【文献】特開2006-287685(JP,A)
【文献】特開2011-153997(JP,A)
【文献】特表2011-505558(JP,A)
【文献】特表2013-515275(JP,A)
【文献】特開2017-227623(JP,A)
【文献】特開平05-341039(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0018891(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 5/00- 5/14,
G01S 19/00-19/55,
G01S 7/00- 7/42,
G01S 13/00-13/95,
G01V 3/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定空間内の発信端末からの電波をアレイアンテナにて受信する受信装置と、システム主装置とを備え、前記発信端末からの前記電波を所定値以上の反射率で反射する強反射体
の位置を検出する検出システムであって、
前記システム主装置は、
前記受信装置の位置及び前記測定空間の形状を含む構造情報を記憶しておく記憶部と、
前記発信端末が電波を発信する発信位置を取得する位置取得部と、
前記構造情報及び前記発信位置に基づいて、当該発信位置から発信され前記測定空間における反射を伴って前記受信装置まで到達する経路、及び当該経路上の反射点を算出する伝播情報算出部と、
前記発信端末から前記受信装置へ直接到達する直接波と
前記強反射体での反射を伴う前記経路を通って前記受信装置に到達する反射波との合成波
の受信強度の角度スペクトルの理論値
である合成波理論値を算出する理論値算出部と、
前記発信端末からの前記電波を前記受信装置で受信した
受信強度の角度スペクトルの実測値と前記合成
波理論値との差分に基づいて、前記反射点が前記所定値以上の反射率を有する強反射点であるか否かを判定する比較決定部と、
前記強反射点に基づいて前記強反射体の位置を検出する強反射体検出部と、
を備える検出システム。
【請求項2】
前記理論値算出部は、前記直接波の経路長と前記反射波の経路長との差分が閾値以下の場合に、前記合成
波理論値を算出する請求項1に記載の検出システム。
【請求項3】
前記理論値算出部は、前記直接波
の受信強度の角度スペクトルの理論値
である直接波理論値を算出し、
前記比較決定部は、前記実測値と前記直接
波理論値との差分を算出し、前記実測値と前記直接
波理論値との差分よりも前記実測値と前記合成
波理論値との差分が小さい場合に、前記反射点が前記強反射点であると判定する請求項1又は2に記載の検出システム。
【請求項4】
前記伝播情報算出部は、当該発信位置から発信され前記測定空間における反射を伴っ
て所定の減衰量以下で前記受信装置まで到達する複数の経路、及びこれら複数の経路上の反射点をそれぞれ算出し、
前記理論値算出部は、前記複数の経路を通って前記受信装置に到達するそれぞれの反射波と前記直接波との
前記合成
波理論値をそれぞれ算出し、
前記比較決定部は、前記実測値と前記合成
波理論値との差分の最小値が前記実測値と前記直接
波理論値との差分よりも小さい場合に、前記実測値と前記合成
波理論値と差分が最小の経路の反射点が、前記強反射点であると判定する請求項3に記載の検出システム。
【請求項5】
前記理論値算出部は、前記直接波
の受信強度の角度スペクトルの理論値
である直接波理論値を算出し、前記実測値と前記直接
波理論値との差分が第2の所定値以上である場合に、前記合成
波理論値を算出する請求項1又は2に記載の検出システム。
【請求項6】
前記理論値算出部は、前記受信装置から見た前記発信端末の方向と前記実測値から求めた前記電波の受信方向との差分が第3の所定値以上である場合に、前記合成
波理論値を算出する請求項1又は2に記載の検出システム。
【請求項7】
前記伝播情報算出部は、当該発信位置から発信され前記測定空間における反射を伴って前記受信装置まで到達する複数の経路、及びこれら複数の経路上の反射点をそれぞれ算出し、
前記理論値算出部は、前記複数の経路を通って前記受信装置に到達するそれぞれの反射波と前記直接波との
前記合成
波理論値をそれぞれ算出し、
前記比較決定部は、前記実測値と前記合成
波理論値と差分が最小の経路の反射点が、前記強反射点であると判定する請求項5又は6に記載の検出システム。
【請求項8】
測定空間内の発信端末からの電波を所定値以上の反射率で反射する強反射体
の位置を検出する検出方法であって、
前記発信端末が電波を発信する発信位置を取得し、
前記発信端末からの電波をアレイアンテナにて受信する受信装置の位置と前記測定空間の形状とを含み予め記憶装置に記憶された構造情報と、前記発信位置と、に基づいて、当該発信位置から発信され前記測定空間における反射を伴って前記受信装置まで到達する経路、及び当該経路上の反射点を算出する伝播経路算出ステップと、
前記発信端末から前記受信装置へ直接到達する直接波と前記
強反射体での反射を伴う前記経路を通って前記受信装置に到達する反射波との合成波
の受信強度の角度スペクトルの理論値
である合成波理論値を算出する理論値算出ステップと、
前記発信端末からの前記電波を前記受信装置で受信した
受信強度の角度スペクトルの実測値と前記合成
波理論値との差分に基づいて、前記反射点が前記所定値以上の反射率を有する強反射点であるか否かを判定する比較判定ステップと、
前記強反射点に基づいて前記強反射体の位置を検出する強反射体検出ステップと、
を含むことを特徴とする検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定空間内の発信端末から発信された電波を所定値以上の電波反射率で反射する強反射体を検出する検出システム及び検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、情報漏洩を防ぐために、機密性の高い部屋にスマートフォンなどの発信端末を持ち込んだ者を検出することが求められている。
特許文献1には、発信端末の位置を推定する技術の一つとして、室内の人物の位置を検出して、この検出位置から電波が発信された場合の受信装置での受信強度の理論値を算出し、理論値と実測値との比較を行うことで発信端末の所持者を推定する技術が開示されている。
【0003】
ここで、アレイアンテナを有する受信装置の受信信号から、角度スペクトル(すなわち各方向における電波の受信強度の分布)を算出すると、受信強度が最も強い方向に発信端末が存在すると推定できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、高い電波反射率を有する強反射体が存在すると、発信端末から受信装置へ直接到達する直接波に加えて、強反射体で反射した反射波が十分な強度をもって受信装置に到達する場合があり、検出精度が低下することがある。
そのため、発信端末の所持者を高精度に検出するには、直接波と反射波の合成波の理論値を計算せねばならず、その計算には強反射体の位置情報が既知である必要があった。
本発明は、特定の空間で発信された電波を高い反射率で反射する強反射体の位置を検出することができる検出システム及び検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一形態によれば、測定空間内の発信端末からの電波をアレイアンテナにて受信する受信装置と、システム主装置とを備え、発信端末からの電波を所定値以上の反射率で反射する強反射体を検出する検出システムが与えられる。システム主装置は、受信装置の位置及び測定空間の形状を含む構造情報を記憶しておく記憶部と、構造情報及び発信端末の発信位置に基づいて、当該発信位置から発信され測定空間における反射を伴って所定の減衰量以下で受信装置まで到達する経路、及び当該経路上の反射点を算出する伝播情報算出部と、発信端末から受信装置へ直接到達する直接波と反射を伴う経路を通って受信装置に到達する反射波との合成波の理論値を算出する理論値算出部と、発信端末からの電波を受信装置で受信した実測値と合成波の理論値との差分に基づいて、反射波の反射点が所定値以上の反射率を有する強反射点であるか否かを判定する比較決定部と、強反射点に基づいて強反射体の位置を検出する強反射体検出部とを備える。
【0007】
本発明の他の形態によれば、測定空間内の発信端末からの電波を所定値以上の反射率で反射する強反射体を検出する検出方法が与えられる。検出方法は、発信端末からの電波をアレイアンテナにて受信する受信装置の位置と測定空間の形状とを含み予め記憶装置に記憶された構造情報と、発信端末の発信位置と、に基づいて、当該発信位置から発信され測定空間における反射を伴って所定の減衰量以下で受信装置まで到達する経路、及び当該経路上の反射点を算出する伝播経路算出ステップと、発信端末から受信装置へ直接到達する直接波と反射を伴う経路を通って受信装置に到達する反射波との合成波の理論値を算出する理論値算出ステップと、発信端末からの電波を受信装置で受信した実測値と合成波の理論値との差分に基づいて、反射波の反射点が所定値以上の反射率を有する強反射点であるか否かを判定する比較判定ステップと、強反射点に基づいて強反射体の位置を検出する強反射体検出ステップとを含む。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、特定の空間で発信された電波を高い反射率で反射する強反射体の位置を検出することができる検出システム及び検出方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の検出システムによる測定が実施される部屋の一例の模式図である。
【
図2】(a)は
図1の部屋を上から見下ろした俯瞰図であり、(b)は電波の到来方向を定義する座標系の一例を示す図である。
【
図3】本発明の第1実施形態の検出システムの概略構成の一例を示すブロック図である。
【
図4】測定空間内で発信された電波が受信装置へ到達する伝播経路の一例を示す図である。
【
図5】受信装置300に内蔵されるアレイアンテナの一例の模式図である。
【
図6】(a)~(d)は、合成波の受信強度の角度スペクトルのシミュレーション結果の一例を示す図である。
【
図7】実測値、直接波理論値、合成波理論値の一例を示す図である。
【
図8】(a)は部屋の壁面における強反射点の位置を表すのに用いる座標の定義例を示す図であり、(b)は強反射点情報の初期状態を示す図である。
【
図9】強反射体を検出する作業中のある時刻における、発信端末の位置と発信電波の伝搬の様子と、強反射点情報を示す図である。
【
図10】
図9より後の時点における発信端末の位置と発信電波の伝搬の様子と、強反射点情報を示す図である。
【
図11】
図10より後の時点における発信端末の位置と発信電波の伝搬の様子と、強反射点情報を示す図である。
【
図12】
図11より後の時点における発信端末の位置と発信電波の伝搬の様子と、強反射点情報を示す図である。
【
図13】本発明の第1実施形態の検出方法の一例のフローチャートである。
【
図14】本発明の第2実施形態の検出方法の一例のフローチャートである。
【
図15】本発明の第3実施形態の検出システムの概略構成の一例を示すブロック図である。
【
図16】本発明の第3実施形態の検出方法の一例のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下において、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。なお、以下に示す本発明の実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の構造、配置等を下記のものに特定するものではない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0011】
以下、本発明の好適な実施形態が用いられる技術分野として、機密性の高い部屋に持ち込まれた電波の発信端末を検知するセキュリティシステムを想定する。
近年、スマートフォンやタブレット端末は小型化しており、このような発信端末を鞄や着衣に隠し持っていても外見からは分からないため機密情報を扱う部屋に容易に持ち込むことができる。
【0012】
また、これらの端末は、高性能化により簡単な操作で大量の情報を送信できる。このため、これらの端末を利用した情報漏洩の危険性があり、機密情報を扱う部屋に端末が持ち込まれた場合にその所持者を発見、特定することが求められる。
このため、以下に説明する実施形態では、発信端末としてスマートフォンやタブレット端末を想定する。しかし、発信端末はこれらの端末に限定されず、電波を発信する端末であれば他の種類の端末であってもよい。
【0013】
上述のとおり、アレイアンテナを有する受信装置の受信信号から角度スペクトルを算出すると、受信強度が最も強い方向に発信端末が存在すると推定できる。
ここで、所定値以上の電波反射率を有する強反射体が存在すると、強反射体で反射した反射波が十分な強度をもって受信装置に到達する場合がある。強反射体としては鉄などの金属で作られた什器などが例示されるが、その電波反射率はおおよそ90~100%である。
【0014】
受信装置へ直接到達する直接波に加えて、十分な強度な反射波が受信装置に到達すると、アレイアンテナの受信信号から算出される角度スペクトルは、反射波と直接波との合成波の角度スペクトルとなる。合成波の角度スペクトルのピークの方向は、受信装置から見た発信端末の方向と一致するとは限らないため、発信端末が存在する方向を角度スペクトルのピークから推定することができない。
【0015】
強反射体が存在する環境で発信端末を検出するには、発信端末の存在が想定される位置から電波が発信された場合の直接波と強反射体で反射した反射波との合成波の角度スペクトルの理論値を計算し、理論値と実測値が一致するか否かを判定することによって、当該位置に発信端末が存在するか否かを判断する。
【0016】
ここで、強反射体で反射した反射波が受信装置に到達するか否かを判断するためには、強反射体の位置情報が必要となる。
本実施形態の検出システムは、上記のセキュリティシステムの構築にあたり、機密性の高い部屋で発信端末が発信した電波を所定値以上の電波反射率で反射する強反射体の位置情報を取得するために使用される。
【0017】
図1は、本実施形態の検出システムが機密性の高い部屋20に設置されて、強反射体を検出する作業が行われる様子を示す模式図である。部屋20は、特許請求の範囲に記載の「測定空間」の一例である。
作業中の人物40は、強反射体の検出に用いる電波を発信させる発信端末41を高く掲げて持っている。これは人物40の身体によって発信端末41の発信電波が遮蔽されることによる影響を軽減するためである。
部屋20は、
図1に示すように壁面23、壁面24、壁面25、壁面28(不図示)により囲まれており、加えて床面21と天井面22により区画されている。また、木製扉26も存在している。
【0018】
壁面などはそれぞれ一般的な建材を用いて作られており、完全な電波吸収体ではないが、強反射体よりも大幅に低い強度で電波を反射する性質を持っている。
さらに部屋20には、鉄などの金属でできた物体210が存在している。金属性の物体は、電波が反射してもその前後で強度の低下がほとんど見られない強反射体であることが知られている。
【0019】
例えば、物体210は壁面24内に存在する鉄骨であってよい。このような鉄骨210は壁の中にあっても測定結果に影響を与えるため、強反射体としてその位置情報を予め取得しておく必要がある。
なお、本実施形態の検出システムは、鉄骨210のような目視できない強反射体を検出することができるが、目視可能な強反射体についてもその位置情報を取得するために使用してもよい。
以上の部屋20の内部の構造に関する情報は、特定の原点を基準とする世界座標系で表現されて既知であり、後述するようにシステム主装置の記憶部に構造情報として記憶されている。
【0020】
システム主装置には、発信端末41の位置としてその所持者の位置を検出するための位置検出装置200が備わっている。すなわち、位置検出装置200は、発信端末41が電波を発信する発信位置を取得する手段であり、本発明における「位置取得部」の一例である。位置検出装置200は、部屋20に設置され、部屋20に存在する人物について、位置検出装置200に対する人物の相対位置を検出し、相対位置を世界座標系の位置情報に変換してから出力する。
図1の例では、発信端末41を所持する人物40の位置を発信端末41の位置として検出する。
位置検出装置200は人物40を検出できるよう設置され、
図1に示すように、部屋の隅のおおよそ人の腰から肩の高さに設置されるのが好適である。複数個の位置検出装置200が備わっていてもよい。
【0021】
位置検出装置200は、レーザーレーダータイプの距離センサにて実現できる。他にも画像処理手段を備えることとしてカメラを備えた画像センサでもよいし、床面21の下の全面に圧力センサを敷き詰めて人の体重のかかり具合から位置を検出するように実現してもよい。
また、本発明における「位置取得部」は、位置検出装置200に限られない。「位置取得部」は、発信端末41が電波を発信する発信位置を取得する手段であれば足りる。「位置取得部」は、何らかの形で発信端末41の発信位置を検出システムに入力可能であればよく、例えば、様々な態様のインタフェースや受信手段を採用できる。例えば、作業者が発信端末41の位置を測定した測定結果を手入力で入力するためのHMI(Human Machine Interface)でもよく、外部装置から発信端末41の発信位置の情報を受信する通信インタフェースや通信装置であってもよい。
【0022】
受信装置300は、部屋20の壁面23に設置され、電波を受信するためのアンテナ装置を備える。受信装置300は、アレイアンテナを備えることにより、発信端末41から発信される電波の受信強度のほか、角度スペクトルを算出して出力できるように構成されている。受信装置は適宜周知技術にて実現されるので、詳細な説明は省略する。
【0023】
アレイアンテナを用いる場合には、例えば公知のBeamformer法、MUSIC(Multiple Signal Classification)法などを用いて角度スペクトルを算出することができる。それら方法については、例えば、「電子情報通信学会 知識ベース知識の森 4群-2編-8章 8-4 到来方向推定 http://www.ieice-hbkb.org/files/04/04gun_02hen_08.pdf#page=11」に記載されている。
【0024】
図2(a)は、
図1に示した部屋20を天井から床に向かって見下ろした俯瞰図である。
図2(b)に、受信装置300に到来する電波の到来方向を定義する座標系を示す。この座標系では、受信装置300の正面、すなわちアンテナの正面を0度、右側方が90度、左側方が-90度となるよう定義され、部屋20を見下ろした
図2(a)のx軸方向及びy軸方向が、0度及び90度にそれぞれ対応する。
【0025】
(第1実施形態)
図3に、第1実施形態の検出システムの概略構成の一例のブロック図を示す。検出システムは、既に説明した受信装置300、位置検出装置200のほか、システム主装置100を備える。
なお、受信装置300及び位置検出装置200とシステム主装置100との間は、例えば、Ethernet(登録商標)、RS232C、RS485などの規格に則った有線方式、またはWi-Fi(登録商標)、Bluetooth(登録商標)などを利用した無線方式に基づく通信手段であってよく、説明は省略する。
【0026】
システム主装置100は、記憶部110と、実測値バッファ120と、伝播情報算出部130と、理論値算出部140と、理論値バッファ150と、比較決定部160と、強反射体検出部170と、出力部180を備える。周知な技術で実現されうる構成要素は、適宜説明を簡略化、または省略する。
システム主装置100は、例えばCPU(Central Processing Unit)、やMPU(Micro-Processing Unit)などのプロセッサを備える。このプロセッサが、記憶部110に格納されたコンピュータプログラムを実行することにより、以下に説明するシステム主装置100の各機能を実現する。
【0027】
記憶部110は、ハードディスクドライブ(HDD:Hard Disk Drive)などの磁気媒体や半導体メモリなどの公知の手段にて実現される記憶手段である。システム主装置100全体の動作を制御するプログラムのほか、システム主装置100の各部を構成するプログラムモジュール、閾値などのパラメータ類、処理途中のデータを一時的に記憶するための領域を記憶する。
さらに記憶部110には、構造情報111と、強反射点情報112が記憶されている。記憶部110に記憶されている情報は、適宜システム主装置100の各部とやり取りされる。
【0028】
構造情報111は、部屋20を画定する要素の情報であり、各受信装置における受信強度の理論値を求めるために用いられる。
例えば、
図2(a)に示すように床面の隅を原点とした座標系(世界座標系)を定義し、壁面A23~壁面D28、天井面22、床面21、扉26、図示しない什器類の大きさ、位置などの幾何情報、壁面などの表面の形状を規定する数式情報および表面の材質情報、電波の反射率などがBIM(Building Information Model)などのモデル化手法にて表現された情報である。強反射点情報112については後述する。
【0029】
実測値バッファ120は、受信装置300から実測値として出力された角度スペクトルを一時的に記憶しておくバッファ領域である。実測値バッファ120は、記憶部110から独立した記憶装置であってもよく、記憶部110に一定の領域を確保して記憶部110と一体化して実現してもよい。
【0030】
伝播情報算出部130は、位置検出装置200が検出した検出位置、または他の何らかの入力手段で入力した発信端末41の位置から電波が発信されたと仮定して、発信端末41から受信装置300へ到達する電波の伝播経路を算出する。
その一例を
図4に示す。発信端末41の位置から発信されて受信装置300へ到達する電波の伝播経路として、発信端末41から受信装置300へ直接到達する直接波のほか、壁面24で反射して受信装置300へ到達する反射波1、壁面28で反射して受信装置300へ到達する反射波2、及び壁面25で反射して受信装置300へ到達する反射波3が示されている。
【0031】
伝播情報算出部130は、記憶部110に記憶されている構造情報111を参照して、発信端末41の位置から各方向に放射した「レイ」と呼ばれる直線を仮想的に考えて、壁面や天井などにおける反射を考慮して、受信装置に至る伝播経路を計算する。伝播経路は、例えばコンピューターグラフィックスの分野で周知なレイトレーシング(Ray Tracing)法に準じた方法に基づいて計算すればよい。
【0032】
伝播情報算出部130は、計算負荷の軽減のため、壁における反射回数に上限を設ける。本実施形態では、電波の反射回数の最大値を1回に設定し、2回以上の反射を伴う伝播の算出を中止する。また、伝播情報算出部130は、レイの長さの上限を設けることで電波が伝播しうる最大距離を設定する。すなわち、伝播情報算出部130は、所定の減衰量以下で受信装置300まで到達する経路を算出する。
【0033】
さらに、伝播情報算出部130は、直接波の経路長と反射波の経路長との差分が閾値を超える場合には、反射波の伝播経路の算出を中止する。
図4の例では、反射波2と反射波3の伝播経路が直接波の伝播経路と比べて長くなるため、反射波2と反射波3の伝播経路を中止する。
すなわち、伝播情報算出部130は、発信端末41から放射したレイのうち、受信結果に影響を与える反射波が辿る軌跡を選択して処理対象とする。反射を繰り返したり長い距離を伝播して強度が低下した電波は無視できるからである。
【0034】
伝播情報算出部130は、算出した伝播経路の情報である伝播情報を出力する。伝播情報は、伝播経路(レイ)の位置情報と、伝播距離の情報と、伝播経路上の反射点の位置情報を含む。
理論値算出部140は、伝播情報算出部130が出力した伝播経路の伝播情報に基づいて、この伝播経路を通って受信装置に到達した電波の受信強度の理論値を算出する。
【0035】
理論値算出部140は、直接波の伝播経路の伝播情報に基づいて、直接波のみが受信装置に到達したときの受信強度の角度スペクトルの理論値(以下「直接波理論値」と表記する)を算出する。直接波理論値は、特許請求の範囲に記載の「直接波の理論値」の一例である。
【0036】
また、理論値算出部140は、発信端末41から発信した電波が強反射体で反射してから受信装置に到達したと仮定して、直接波の伝播経路と反射波の伝播経路の伝播情報に基づいて、反射波と直接波の合成波の受信強度の角度スペクトルの理論値(以下「合成波理論値」と表記する)を算出する。合成波理論値は、特許請求の範囲に記載の「合成波の理論値」の一例である。なお、直接波理論値と合成波理論値とを総称して単に「理論値」と表記することがある。
図4の例では、反射波1が強反射体で反射したと仮定した場合の反射波1と直接波の合成波の角度スペクトルの理論値を算出する。
【0037】
強反射体で電波が反射しても電波はほとんど減衰しないため、直接波と反射波の電波距離の差が小さければ、これらの強度はほぼ等しくなり、かつ周波数が等しいため直接波と反射波は合成されて互いに分離できなくなる。
図5のアレイアンテナのモデル図を用いて、このような場合の合成波理論値の求め方を説明する。
【0038】
図5は、受信装置300に内蔵されているアレイアンテナの一例の模式図である。
図2(a)を参照すると、
図2(a)におけるx軸方向を正面(0度)として、所定個数のアンテナ素子を並べたものが示されている。
ここでは、例えば4個のアンテナ素子を並べ、整数k(k=1~4)を用いて個々のアンテナ素子(チャンネル)の番号を表す場合を想定する。
【0039】
いま、番号1のアンテナ素子(チャンネル1)を基準としてk番目の素子までの距離をdkと表す。また、受信装置300に到達する直接波の強度をA1とし、強反射体でのみ反射して受信装置300に到達する反射波の強度をA2とし、正面0度に対する直接波の到来角度をθ1、同じく反射波の到来角度をθ2とし、受信装置300に到達した時の直接波に対する反射波の位相差をφとし、波長をλとする。
【0040】
以下に述べるように合成波は直接波と反射波の位相差に依存して変化するが、直接波の位相と反射波の位相そのものの値には依存しない。このため、以下の説明では直接波の位相を0度として扱う。
k番目のアンテナ素子に到達する電波Ek(t)は、次式(1)により表わされる。
【0041】
【0042】
式(1)において第一項は直接波、第二項は反射波を表す。また、直接波と反射波が同等の強度と仮定しているため、
【0043】
【0044】
を式(1)に代入すると、三角関数の加法定理により式(1)の右辺は式(3)のように変形できる。
【0045】
【0046】
上式(3)において、振幅項はdk、λ、θ1、θ2及びφの関数の余弦で表される。ここで、dk、λは定数であり、ある測定時刻に注目するとθ1、θ2も定数となる。このため、合成波の振幅は、直接波と反射波との間の位相差φをパラメータとして値と符号が変化する。すなわち合成波の振幅は、直接波と反射波が受信装置300に到達するときの位相差φに依存して変化する。
【0047】
ここで、振幅項の余弦角に注目すると、余弦角が変化すると90度(π/2)および270度(3π/2)を境に符号が変化することになる。この場合、式(3)全体の符号が変化するため、位相項の正弦角が180度(π)反転したことと同等となる。
ここで、アンテナ素子同士の距離を一般的な値であるλ/2とし、sin(θ2)-sin(θ1)=Bとおくと、Ek(t)(k=1、2,3,4)の位相項の正弦角が180度回転する位相差φは、番号1のアンテナの場合にπとなり、番号2のアンテナの場合にπ(B-1)となり、番号3のアンテナの場合にπ(2B-1)となり、番号4のアンテナの場合にπ(3B-1)となる。
【0048】
そして、受信装置300における受信強度を周知なBeamformer法に基づいて求めると、位相項の回転のためにφ=0~97、319~360度、97~180度、180~236度、236~319度の4つの範囲で、受信強度の角度スペクトルのパターンが、それぞれ全く異なるものとなる。
【0049】
図6(a)~
図6(d)は、合成波に含まれる直接波が正面0度から到来し、反射波が-18度から到来する場合における受信装置300での合成波の受信強度の角度スペクトルを、φを変化させてシミュレーションした結果を示す。
図6(a)がφ=0~97、319~360度の場合の角度スペクトルを示し、
図6(b)がφ=97~180度の場合の角度スペクトルを示し、
図6(c)がφ=180~236度の場合の角度スペクトルを示し、
図6(d)がφ=236~319度の場合の角度スペクトルを示す。
図6(a)~
図6(d)において横軸は、
図2(b)を用いて説明したように受信装置300の正面を0度とした場合の左右方向の角度を表している。
【0050】
図6の例は、位相差φ=97度、180度、236度、319度の近傍では位相差φのわずかな違いによって合成波が大きく変化することを示している。この位相差φは直接波と反射波の到来方向θ1、θ2に関連し、到来方向θ1、θ2は発信端末41の位置および構造情報111から導出される。
【0051】
つまり、合成波理論値は、発信端末41の位置の誤差および構造情報111の誤差の影響を受けやすい。そのため、一意な合成波理論値を算出してしまうと、実測値と理論値との一致を確保することが困難となる。
そこで、理論値算出部140は、複数通りの合成波理論値を算出することによって実測値と合成波理論値との一致を確保する。
【0052】
理論値算出部140は、算出した直接波理論値と合成波理論値を理論値バッファ150に格納する。理論値バッファ150は、理論値算出部140が算出した直接波理論値と合成波理論値を一時的に記憶しておくバッファ領域である。理論値バッファ150は、記憶部110から独立した記憶装置であってもよく、記憶部110に一定の領域を確保して記憶部110と一体化して実現してもよい。
【0053】
比較決定部160は、受信装置300から出力され実測値バッファ120に格納された実測値と、理論値算出部140から出力され理論値バッファ150に格納された理論値とを比較することにより、伝播情報算出部130が算出した反射波の伝播経路上の反射点が、所定値以上の電波反射率を有する強反射点であるか否かを判定する。比較決定部160は、強度比較部161を備える。
【0054】
強度比較部161は、実測値バッファ120に格納された実測値と、理論値バッファ150に格納された理論値とを比較する。
図7は、実測値バッファ120に格納された実測値と、理論値バッファ150に格納された直接波理論値及び合成波理論値の一例を示す。
図7の例は、理論値算出部140が1つの反射波について3通りの合成波理論値1~合成波理論値3を算出した場合を示す。
【0055】
強度比較部161は、
図7の左上の「実測値」と、「直接波理論値」、「合成波理論値1」~「合成波理論値3」のそれぞれとを比較し、これら理論値のうちのいずれが実測値と最も近いかを判断する。
強度比較部161は、例えば、理論値と実測値との差分を算出し、差分が最も小さい理論値が実測値に最も近いと判断してよい。例えばこの差分は、理論値と実測値を正規化して、角度毎の差分の総和として求めればよい。又は、理論値と実測値の近似の程度を表す量として、その角度毎の差分の総和の逆数を求めてもよいし、理論値と実測値の正規化相関を求めてもよい。
【0056】
合成波理論値のいずれかが実測値に最も近い場合には、強度比較部161は、実測値が合成波の角度スペクトルと判断して、伝播情報算出部130が算出した反射波の伝播経路上の反射点が強反射点であると判断する。
反対に直接波理論値が実測値に最も近い場合には、強度比較部161は、実測値が直接波の角度スペクトルと判断して、伝播情報算出部130が算出した反射波の伝播経路上の反射点が強反射点でないと判断する。
強度比較部161は、強反射点の判断結果を強反射点情報112に格納する。
【0057】
以下、
図8~
図12を参照して、部屋20の壁面のそれぞれの位置に強反射点があるか否かを順次測定していく様子を説明する。
図8(a)を参照する。
図8(a)は
図1に示した部屋20を天井から床に向かって見下ろした様子を示しており、位置検出装置200、受信装置300及び強反射体210の位置が示されている。
【0058】
いま、
図8(a)を用いて、部屋20の壁面23、24、25及び28上に、強反射点の位置を表すのに用いる座標を定義する。例えば、一定間隔で壁面を分割した分割区間の各々を、離散的な座標として定義してよい。
図8(a)の例では、壁面24に座標1~18を割り当て、壁面25に座標19~30を割り当て、壁面28に座標31~48を割り当て、壁面23には座標49~60を割り当てる。
【0059】
1つの分割区間の大きさは、想定される強反射体の大きさやアレイアンテナの分解能に応じて定めればよく、例えば5cm前後であることが好適である。
また、説明の簡単化のため、
図8(a)の平面図では壁面に沿って1次元的に並んだ座標1~60を定義したが、部屋20を縦方向及び横方向に分割して2次元座標を定義してもよい。
【0060】
図8(b)は、記憶部110に格納される強反射点情報112を模式的に示したテーブルである。強反射点情報112は、反射面位置フィールドと判定結果フィールドを含む。反射面位置フィールドには、
図8(a)を参照して定義した座標値が格納されている。また、判定結果フィールドには、各反射面位置が強反射点であるか否かの判定結果が格納される。
強度比較部161は、反射面位置が強反射点である場合には対応する判定結果フィールドに値「1」を格納し、反射面位置が強反射点でない場合には対応する判定結果フィールドに値「0」を格納する。初期状態では、
図8(b)に示すように全て「0」にリセットされている。
【0061】
図9~
図12は、人物40が発信端末41を持って部屋20内を移動していき、強度比較部161が強反射点を検出して強反射点情報112に格納していく様子を示す。
部屋20内を移動する際には、発信端末41が壁面から比較的近い位置(例えば壁面から1m以内の範囲)を維持するように壁面に沿って移動する。発信端末41が壁面から遠く離れると、直接波に比べて反射波の伝播距離が長くなり、たとえ強反射体で反射した反射波であっても大幅に強度が低下してしまう。この結果として合成波を検出できなくなり、強反射体で反射したか否かが分からなくなるからである。
【0062】
図9(a)は、発信端末41が座標8付近に位置しており、強反射体210での反射による影響を受けない様子を模式的に示している。
図9(a)に示すように、受信装置300は発信端末41から直接到来する直接波を支配的に受信している。また、部屋20には、各壁面で反射して受信装置300に到来する反射波1~反射波3も存在する。
なお、
図9(a)には直接波と反射波1~反射波3のみが図示されているが、部屋20には、発信端末41から各方向へ発信される他の反射波も存在している。
【0063】
反射波1~反射波3のうち反射波2及び3は、直接波と比べて伝播経路と比べて長いため、伝播情報算出部130は、反射波2及び3を無視できるとして反射波2及び3の経路を算出しない。この結果、反射波2及び3は処理対象から除外され、理論値算出部140は、直接波理論値と、直接波と反射波1の合成波理論値を算出する。
強度比較部161は、受信装置300が実際に受信した電波強度の実測値を、直接波理論値及び合成波理論値の各々と比較する。
【0064】
図9(a)に示すように、強反射体である鉄骨210は座標9及び座標10に存在し、反射波1が反射した座標6には強反射体は存在しない。このため、反射波1は壁面での反射の際に大きく減衰し、直接波に比べて大きく強度が低下した状態で受信装置300に到達する。この結果、実測値は、合成波理論値よりも直接波理論値に近くなる。この場合には強度比較部161は、座標6は強反射点でないと判断して、座標6の判定結果フィールドの値「0」を変更しない。
【0065】
その後に、人物40が移動して
図10(a)に示すように発信端末41が座標12付近に位置する。反射波1以外に受信装置300に到達する他の反射波については、
図9(a)の反射波2及び3と同様の理由により処理対象から除外されるため図示を省略する。
反射波1が反射した座標9には強反射体が存在し、反射波1の伝播距離は直接波の伝播距離と同等である。このため反射波1は十分な強度をもって受信装置300に到達する。
【0066】
この場合、反射波1と直接波との距離減衰の差分と、反射による反射波1の減衰を無視できるので、受信装置300では反射波1と直接波との合成波が観測される。このため実測値は、直接波理論値よりも合成波理論値に近くなる。
このため、強度比較部161は、座標9が強反射点であると判断できるので、
図10(b)に示すように座標9の判定結果フィールドに値「1」を格納する。
【0067】
その後に、人物40が移動して
図11(a)に示すように発信端末41が座標13付近に位置する。
図10(a)の場合と同様に、反射波1が反射した座標10には強反射体が存在し反射による反射波1の減衰を無視できる。また、反射波1と直接波との距離減衰の差分も無視できるので、実測値は、直接波理論値よりも合成波理論値に近くなる。
このため、強度比較部161は、座標10が強反射点であると判断できるので、
図11(b)に示すように座標10の判定結果フィールドに値「1」を格納する。
【0068】
その後に、人物40が移動して
図12(a)に示すように発信端末41が部屋20のコーナーに近づき、座標17及び座標20付近に位置する。
このとき伝播情報算出部130は、直接波と同等の伝播距離を有する反射波1及び4の伝播経路を算出する。
理論値算出部140は、直接波理論値と、直接波と反射波1の合成波理論値と、直接波と反射波4の合成波理論値を算出する。
【0069】
強度比較部161は、受信装置300が実際に受信した電波強度の実測値を、直接波理論値、直接波と反射波1の合成波理論値、直接波と反射波4の合成波理論値の各々と比較する。
【0070】
図12(a)に示すように、反射波1が反射した座標12と反射波4が反射した座標21には強反射体は存在しない。このため、反射波1及び反射波4は壁面での反射の際に大きく減衰し、直接波に比べて大きく強度が低下した状態で受信装置300に到達する。この結果、実測値は、合成波理論値よりも直接波理論値に近くなる。この場合には強度比較部161は、座標12及び座標21は強反射点でないと判断して、座標12及び座標21の判定結果フィールドの値「0」を変更しない。
【0071】
以上の処理を、部屋20の中で壁に沿って一周して行うと、強反射点情報112には反射面位置の座標9及び10が強反射点であることを示す判定結果が格納される。
強反射体検出部170は、強反射点情報112を参照して、座標9から座標10に強反射体が存在すると判定する。
出力部180は、強反射体検出部170の判定結果を外部装置へ出力する。
【0072】
次に
図13に示すフローチャートを参照して、第1実施形態の検出方法の一例を説明する。
図13に示すフローチャートは、
図9~
図12を用いて説明したように、発信端末41を持った人物40が部屋20を移動しながら、各測定点で強反射点が有るか否かを測定する度に実行される。
ステップS100において位置検出装置200は、部屋20に存在する人物40の位置を検出して、発信端末41の位置としてシステム主装置100に送信する。
ステップS110において受信装置300は、到来方向ごとの受信強度を測定して、その実測値を得る。その結果をシステム主装置100に送信して、システム主装置100は実測値バッファ120に格納する。
【0073】
ステップS120において受信強度の実測値が小さくノイズが受信されているか否かを判定する。受信強度の実測値が所定値以上でない場合(ステップS120:N)には、以後のステップS130~S170は行わない。
受信強度の実測値が、ノイズと判定される所定値以上の場合(ステップS120:Y)には、処理はステップS130へ進む。
【0074】
ステップS130において伝播情報算出部130は、発信端末41の位置から発信されて所定の減衰量以下で受信装置300へ到達する電波の伝播経路を算出する。この際、伝播情報算出部130は、発信端末41から受信装置300へ直接到達する直接波の伝播経路と、部屋20の壁面で1回だけ反射して受信装置300へ到達する反射波の伝播経路と、伝播経路上の反射点を算出する。ただし、直接波との経路長の差分が閾値を超える反射波は除外する。
【0075】
ステップS140において理論値算出部140は、直接波の伝播経路に基づいて、直接波のみが受信装置に到達したときの受信強度の角度スペクトルの理論値(直接波理論値)を算出する。また理論値算出部140は、発信端末41から発信した電波が強反射体で反射してから受信装置に到達したと仮定して、直接波の伝播経路と反射波の伝播経路に基づいて、反射波と直接波の合成波の受信強度の角度スペクトルの理論値(合成波理論値)を算出する。
【0076】
ステップS150において強度比較部161は、受信装置300が得た実測値を、直接波理論値及び合成波理論値のそれぞれと比較する。ステップS160において、実測値に最も近い理論値が合成波理論値である場合(ステップS160:Y)には、処理はステップS170に進む。
ステップS170において強度比較部161は、反射波の伝播経路上の反射点を、強反射点として強反射点情報112に記憶する。
【0077】
伝播情報算出部130が複数の反射波の伝播経路を算出した場合には、実測値に最も近い合成波理論値を算出した反射波の伝播経路、すなわち、実測値と合成波理論値の差分が最小の反射波の伝播経路を選択し、選択した伝播経路上の反射点を、強反射点として強反射点情報112に記憶する。その後に処理を終了する。
反対に、実測値に最も近い理論値が合成波理論値でない場合(ステップS160:N)には、伝播情報算出部130が算出した伝播経路上の反射点を強反射点として強反射点情報112に記憶せずに処理を終了する。
【0078】
(第1実施形態の効果)
第1実施形態に係る検出システムは、発信端末41から発信され測定空間における反射を伴って受信装置300まで到達する経路と経路上の反射点とを算出し、発信端末41から受信装置300へ直接到達する直接波と反射を伴う経路を通って受信装置300に到達する反射波との合成波の理論値を算出し、発信端末41からの電波を受信装置300で受信した実測値と合成波の理論値との差分に基づいて、反射点が強反射点であるか否かを判定し、強反射点に基づいて強反射体の位置を検出する。
このため、測定空間において発信端末41から発信される電波を反射する強反射体の位置を検出できる。
【0079】
(第2実施形態)
以上、第1実施形態にかかる検出システムについて構成と動作を説明したが、本発明の範囲はそれに限定されない。
第2実施形態の検出システムを以下に説明する。第2実施形態の検出システムの構成は、
図3を参照して説明した第1実施形態の検出システムの構成と同様であり、同様の機能については重複説明を省略する。
【0080】
第2実施形態の検出システムは、発信端末41から受信装置300へ直接到達する直接波が支配的な強度で受信装置300に受信されているか否かを判断する。直接波が支配的な強度で受信されている場合には、受信波が反射波の強い影響を受けていないことから、受信装置300に到達した反射波の反射点が強反射点でないことが分かる。
【0081】
例えば、強度比較部161は、受信装置300で受信した実測値と直接波の理論値との差分が所定値以上であるか否かを判定する。差分が所定値以上である場合には、受信波が反射波の強い影響を受けており、直接波が支配的な強度で受信されていないと判断する。差分が所定値未満である場合には、受信波が反射波の強い影響を受けておらず、直接波が支配的な強度で受信されていると判断する。強度比較部161は、判断結果を理論値算出部140に出力する。
【0082】
直接波が支配的な強度で受信されている場合には、理論値算出部140は、合成波理論値の計算を省略する。このため、強度比較部161は、その後の処理を行わず強反射点情報112を更新しない。
上記の通り、強反射点情報112の判定結果フィールドの初期値は、強反射点でないことを示す「0」に設定されている。このため、強反射点情報112を更新しなければ、今回の反射点の座標に対応する判定結果フィールドの値は、強反射点でないことを示す「0」に維持される。
【0083】
図14は、第2実施形態の検出方法の一例のフローチャートである。
図14に示すフローチャートは、
図9~
図12を用いて説明したように、発信端末41を持った人物40が部屋20を移動しながら、各測定点で強反射点が有るか否かを測定する度に実行される。
ステップS200~S220の処理は、
図13のステップS100~S120の処理と同様である。
ステップS230において伝播情報算出部130は、発信端末41から受信装置300へ直接到達する直接波の伝播経路を算出する。理論値算出部140は、直接波理論値を算出する。ステップS240において強度比較部161は、受信装置300が得た実測値と、直接波理論値とを比較する。
【0084】
ステップS250において強度比較部161は、受信波が反射波の強い影響を受けているか否かを判定する。受信波が反射波の強い影響を受けており直接波が支配的な強度で受信されていない場合(ステップS250:Y)に処理はステップS260へ進む。
受信波が反射波の強い影響を受けておらず直接波が支配的な強度で受信されている場合(ステップS250:N)には、ステップS260~S290を省略し、強反射点情報112を更新せずに処理を終了する。
【0085】
ステップS260において伝播情報算出部130は、部屋20の壁面で1回だけ反射して所定の減衰量以下で受信装置300へ到達する反射波の伝播経路と伝播経路上の反射点を算出する。
ステップS270において理論値算出部140は、反射波と直接波の合成波の受信強度の角度スペクトルの理論値(合成波理論値)を算出する。
ステップS280において強度比較部161は、受信装置300が得た実測値を、合成波理論値と比較する。
【0086】
ステップS290において強度比較部161は、反射波の伝播経路上の反射点を、強反射点として強反射点情報112に記憶する。伝播情報算出部130が複数の反射波の伝播経路を算出した場合には、実測値に最も近い合成波理論値を算出した反射波の伝播経路、すなわち、実測値と合成波理論値の差分が最小の反射波の伝播経路を選択し、選択した伝播経路上の反射点を、強反射点として強反射点情報112に記憶する。その後に処理を終了する。
【0087】
(第2実施形態の効果)
第2実施形態の理論値算出部140は、発信端末41から受信装置300へ直接到達する直接波の理論値を算出し、実測値と直接波の理論値との差分が所定値以上である場合に合成波の理論値を算出する。
これにより、直接波が支配的な強度で受信装置300に受信されており、強反射体で反射した電波が受信装置300に到達していないと考えられる場合に、合成波理論値の計算を省略して、処理量を削減できる。
【0088】
(第3実施形態)
次に、第3実施形態の検出システムを説明する。第3実施形態の検出システムは、第2実施形態の検出システムと同様に、直接波が支配的な強度で受信装置300に受信されていない場合のみに合成波理論値を計算し、直接波が支配的な強度で受信装置300に受信されている場合に合成波理論値の計算を省略する。
【0089】
ただし、第3実施形態の検出システムは、位置検出装置200が検出した発信端末41の位置を受信装置300から見た方向と、受信装置300で受信した実測値から求めた電波の受信方向との差分を求め、差分が所定値未満である場合に、直接波が支配的な強度で受信装置300に受信されていると判断する。
【0090】
図15に第3実施形態の検出システムの概略構成の一例のブロック図を示す。第3実施形態の検出システムは、
図3を参照して説明した第1実施形態の検出システムの構成と類似の構成を有し、同じ参照符号は同様の構成要素を示し、同様の機能については重複説明を省略する。
第3実施形態の検出システムのシステム主装置100は、ピーク特定部190を備える。また、比較決定部160は方向比較部162を備える。
【0091】
ピーク特定部190は、実測値バッファ120に一時的に記憶されている実測値の角度スペクトルにおいて受信強度が最も高い角度を、電波の受信方向、すなわち電波の到来方向として特定して、比較決定部160へ出力する。
位置検出装置200は、発信端末41の検出位置を比較決定部160へ出力する。
方向比較部162は、位置検出装置200が検出した発信端末41の検出位置に基づいて、受信装置300から見た発信端末41の方向を算出する。
位置検出装置200と受信装置300とが十分近い場合には、位置検出装置200から見た発信端末41の方向を、受信装置300から見た発信端末41の方向として用いてもよい。
【0092】
方向比較部162は、受信装置300から見た発信端末41の方向と、ピーク特定部190が実測値から特定した電波の受信方向との差分を算出する。
ここで、受信波が反射波の強い影響を受けておらず、直接波が支配的な強度で受信されている場合には、実測値から特定した電波の受信方向は受信装置300から見た発信端末41の方向と一致する。
【0093】
反対に、受信波が反射波の強い影響を受けており、直接波が支配的な強度で受信されていない場合には、実測値から特定した電波の受信方向は受信装置300から見た発信端末41の方向とは一致しない。
このため、方向比較部162は、受信装置300から見た発信端末41の方向と実測値から特定した電波の受信方向との差分が所定値以上である場合には、受信波が反射波の強い影響を受けており、直接波が支配的な強度で受信されていないと判断する。
【0094】
差分が所定値未満である場合には、受信波が反射波の強い影響を受けておらず、直接波が支配的な強度で受信されていると判断する。強度比較部161は、判断結果を理論値算出部140に出力する。
直接波が支配的な強度で受信されている場合には、理論値算出部140は、合成波理論値の計算を省略する。このため、強度比較部161は、その後の処理を行わず強反射点情報112を更新しない。
【0095】
上記の通り、強反射点情報112の判定結果フィールドの初期値は、強反射点でないことを示す「0」に設定されている。このため、強反射点情報112を更新しなければ、今回の反射点の座標に対応する判定結果フィールドの値は、強反射点でないことを示す「0」に維持される。
【0096】
図16は、第3実施形態の検出方法の一例のフローチャートである。
図16に示すフローチャートは、
図9~
図12を用いて説明したように、発信端末41を持った人物40が部屋20を移動しながら、各測定点で強反射点が有るか否かを測定する度に実行される。
ステップS300~S320の処理は、
図13のステップS100~S120の処理と同様である。
ステップS330においてピーク特定部190は、実測値の角度スペクトルにおいて受信強度が最も高い角度を、電波の受信方向として特定する。方向比較部162は、位置検出装置200が検出した発信端末41の検出位置に基づいて、受信装置300から見た発信端末41の方向を算出する。
【0097】
方向比較部162は、受信装置300から見た発信端末41の方向と、ピーク特定部190が実測値から特定した電波の受信方向とを比較する。
受信装置300から見た発信端末41の方向と電波の受信方向との差分が所定値以上である場合(ステップS340:Y)に方向比較部162は、受信波が反射波の強い影響を受けており直接波が支配的な強度で受信されていないと判断して、処理はステップS350へ進む。
【0098】
ステップS350~S380の処理は、
図14のステップS260~S290の処理と同様である。
一方で、受信装置300から見た発信端末41の方向と電波の受信方向との差分が所定値未満である場合(ステップS340:N)に方向比較部162は、受信波が反射波の強い影響を受けておらず直接波が支配的な強度で受信されていると判断する。
この場合には、ステップS260~S290を省略し、強反射点情報112を更新せずに処理を終了する。
【0099】
(第3実施形態の効果)
第3実施形態の理論値算出部140は、受信装置300から見た発信端末41の方向と実測値から求めた電波の受信方向との差分が所定値以上である場合に、合成波の理論値を算出する。
これにより、直接波が支配的な強度で受信装置300に受信されており、強反射体で反射した電波が受信装置300に到達していないと考えられる場合に、合成波理論値の計算を省略して、処理量を削減できる。
【符号の説明】
【0100】
20…部屋(測定空間)、41…発信端末、100…システム主装置、110…記憶部、111…構造情報、112…強反射点情報、120…実測値バッファ、130…伝播情報算出部、140…理論値算出部、150…理論値バッファ、160…比較決定部、161…強度比較部、162…方向比較部、170…強反射体検出部、180…出力部、190…ピーク特定部、200…位置検出装置、210…強反射体、300…受信装置