IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ファナック株式会社の特許一覧

特許7381303磁極方向検出装置および磁極方向検出方法
<>
  • 特許-磁極方向検出装置および磁極方向検出方法 図1
  • 特許-磁極方向検出装置および磁極方向検出方法 図2A
  • 特許-磁極方向検出装置および磁極方向検出方法 図2B
  • 特許-磁極方向検出装置および磁極方向検出方法 図3A
  • 特許-磁極方向検出装置および磁極方向検出方法 図3B
  • 特許-磁極方向検出装置および磁極方向検出方法 図4
  • 特許-磁極方向検出装置および磁極方向検出方法 図5A
  • 特許-磁極方向検出装置および磁極方向検出方法 図5B
  • 特許-磁極方向検出装置および磁極方向検出方法 図6A
  • 特許-磁極方向検出装置および磁極方向検出方法 図6B
  • 特許-磁極方向検出装置および磁極方向検出方法 図7
  • 特許-磁極方向検出装置および磁極方向検出方法 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-15
(54)【発明の名称】磁極方向検出装置および磁極方向検出方法
(51)【国際特許分類】
   H02P 6/185 20160101AFI20231108BHJP
【FI】
H02P6/185
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019210687
(22)【出願日】2019-11-21
(65)【公開番号】P2021083257
(43)【公開日】2021-05-27
【審査請求日】2022-09-14
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100160794
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 寛明
(72)【発明者】
【氏名】岡本 高志
(72)【発明者】
【氏名】森田 有紀
【審査官】柏崎 翔
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-130582(JP,A)
【文献】特開2011-50198(JP,A)
【文献】特開2016-21800(JP,A)
【文献】特開2007-124836(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 6/185
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
突極性を有する同期電動機の磁極方向を検出する磁極方向検出装置であって、
前記電動機に対して高周波電圧を印加する高周波電圧印加部と、
前記電動機の励磁位相を任意の位相に変化させる励磁位相変化部と、
前記電動機の駆動電流値を検出する駆動電流検出部と、
前記励磁位相と、前記高周波電圧印加下における前記駆動電流値と、に基づいて磁極方向推定を実行する磁極方向推定部と、
前記磁極方向推定部で推定された磁極方向推定結果のばらつきを算出するばらつき算出部と、
前記ばらつき算出部が算出したばらつきが所定の閾値より大きいか否かを判定する判定部と、
前記判定部の判定結果に基づいて、前記ばらつきが所定の閾値以下である場合には、前記磁極方向推定結果を前記電動機の磁極方向検出結果として出力し、前記ばらつきが所定の閾値より大きい場合には、前記ばらつきが所定の閾値以下となるまで、前記高周波電圧印加部が印加する高周波電圧の周波数を変更して前記磁極方向推定を繰り返し再試行する制御部と、を備える磁極方向検出装置。
【請求項2】
前記磁極方向検出装置はさらに、前記電動機に対して、検出された前記磁極方向に平行な双方向に外部磁界を印加可能な磁極位置検出部を備える、請求項1に記載の磁極方向検出装置。
【請求項3】
前記励磁位相変化部は、前記励磁位相を360°以上変化させる、請求項1または2に記載の磁極方向検出装置。
【請求項4】
前記磁極方向推定部は、前記駆動電流値の時間微分値が極大となる前記励磁位相を検出し、前記検出した励磁位相から90°変化させた位相を磁極方向として推定する、請求項1から3のいずれかに記載の磁極方向検出装置。
【請求項5】
突極性を有する同期電動機の磁極方向を検出する磁極方向検出方法であって、
前記電動機に対して高周波電圧を印加する高周波電圧印加工程と、
前記電動機の励磁位相を任意の位相に変化させる励磁位相変化工程と、
前記電動機の駆動電流値を検出する駆動電流検出工程と、
前記励磁位相と、前記高周波電圧印加下における前記駆動電流値と、に基づいて磁極方向推定を実行する磁極方向推定工程と、
前記磁極方向推定工程で推定された極方向推定結果のばらつきを算出するばらつき算出工程と、
前記ばらつき算出工程で算出したばらつきが所定の閾値より大きいかどうかを判定する判定工程と、を備え、
前記判定工程の判定結果に基づいて、前記ばらつきが所定の閾値以下である場合には、前記磁極方向推定結果を前記電動機の磁極方向検出結果として出力し、前記ばらつきが所定の閾値より大きい場合には、前記ばらつきが所定の閾値以下となるまで、前記高周波電圧印加工程で印加する高周波電圧の周波数を変更して、前記磁極方向推定工程と、前記ばらつき算出工程と、前記判定工程と、を繰り返し再試行する、極方向検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁極方向検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、突極性のある同期モータにおいて、モータが停止した状態のまま磁極検出を行う手法が存在する。特許文献1には、モータの励磁位相を変えながら振幅の小さい高周波電圧をモータに印加したときに、各位相でのフィードバック電流値を測定し、その大きさから磁極方向を推定する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-130582号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、インダクタンス値のオーダが大きい場合には得られるフィードバック電流値が小さくなり、ノイズの影響を受けやすくなる。そのため、磁極方向の検出結果に誤差が生じやすく、複数回の磁極方向推定を行っても検出結果のばらつきが大きかった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様は、突極性を有する同期電動機(例えば、後述の電動機10)の磁極方向を検出する磁極方向検出装置(例えば、後述の磁極方向検出装置1)であって、前記電動機に対して高周波電圧を印加する高周波電圧印加部(例えば、後述の高周波電圧印加部2)と、前記電動機の励磁位相を任意の位相に変化させる励磁位相変化部(例えば、後述の励磁位相変化部3)と、前記電動機の駆動電流値を検出する駆動電流検出部(例えば、後述の駆動電流検出部4)と、前記励磁位相と、前記高周波電圧印加下における前記駆動電流値と、に基づいて磁極方向推定を実行する磁極方向推定部(例えば、後述の磁極方向推定部5)と、前記磁極方向推定部で推定された前記磁極方向推定結果のばらつきを算出するばらつき算出部(例えば、後述のばらつき算出部6)と、前記ばらつき算出部が算出したばらつきが所定の閾値より大きいか否かを判定する判定部(例えば、後述の判定部7)と、前記判定部の判定結果に基づいて、前記ばらつきが所定の閾値以下である場合には、前記磁極方向推定結果を前記電動機の磁極方向検出結果として出力し、前記ばらつきが所定の閾値より大きい場合には、前記高周波電圧印加部が印加する高周波電圧の周波数を変更して前記磁極方向推定を再試行する制御部(例えば、後述の制御部8)と、を備える磁極方向検出装置を提供する。
【0006】
また本開示の一態様は、突極性を有する同期電動機の磁極方向を検出する磁極方向検出方法であって、前記電動機に対して高周波電圧を印加する高周波電圧印加工程と、前記電動機の励磁位相を任意の位相に変化させる励磁位相変化工程と、前記電動機の駆動電流値を検出する駆動電流検出工程と、前記励磁位相と、前記高周波電圧印加下における前記駆動電流値と、に基づいて磁極方向推定を実行する磁極方向推定工程と、前記磁極方向推定部で推定された前記磁極方向推定結果のばらつきを算出するばらつき算出工程と、前記ばらつき算出部が算出したばらつきが所定の閾値より大きいか否かを判定する判定工程と、を備え、前記判定工程の判定結果に基づいて、前記ばらつきが所定の閾値以下である場合には、前記磁極方向推定結果を前記電動機の磁極方向検出結果として出力し、前記ばらつきが所定の閾値より大きいである場合には、前記高周波電圧印加工程で印加する高周波電圧の周波数を変更して、前記高周波電圧印加工程と、前記励磁位相変化工程と、前記駆動電流検出工程と、前記磁極方向推定工程と、前記ばらつき算出工程と、前記判定工程と、を再試行する、前記磁極方向検出方法を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、突極性を有する同期電動機の磁極検出において、高精度な磁極方向検出装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施形態に係る磁極方向検出装置の構成を示すブロック図である。
図2A】埋込磁石型電動機における磁極方向について説明する説明図である。
図2B】リラクタンス型電動機における磁極方向について説明する説明図である。
図3A】埋込磁石型電動機におけるインダクタンスと電流時間微分値の関係についての説明図である。
図3B】リラクタンス型電動機におけるインダクタンスと電流時間微分値の関係についての説明図である。
図4】励磁位相の変化に対する電流値を示す図である。
図5A】高い周波数の高周波電圧印加時の推定磁極方向を示すグラフである。
図5B】低い周波数の高周波電圧印加時の推定磁極方向を示すグラフである。
図6A】高い周波数の高周波電圧印加時の電流時間微分値と電流値の関係を示すグラフである。
図6B】低い周波数の高周波電圧印加時の電流時間微分値と電流値の関係を示すグラフである。
図7】インダクタンスの電流値依存性について説明するグラフである。
図8】本発明の一実施形態に係る磁極方向検出方法を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0010】
図1は、本発明の一実施形態に係る磁極方向検出装置の構成を示すブロック図である。
本実施形態の磁極方向検出装置1は、高周波電圧印加部2と、励磁位相変化部3と、駆動電流検出部4と、磁極方向推定部5と、ばらつき算出部6と、判定部7と、制御部8と、磁極位置検出部9と、を備える。磁極方向検出装置1は、突極性を有する同期式電動機10の磁極方向を高精度に検出可能である。
【0011】
磁極方向の検出対象となる同期式電動機10は突極性を有するものであれば特に限定されず、例えば図2Aに示すようなロータ11上に鉄芯12が配置されるとともに内部に永久磁石13が埋め込まれた埋込磁石型の電動機10であってもよいし、図2Bに示すようなロータ21上に鉄芯22のみが配置されたリラクタンス型の電動機20であってもよい。これらの電動機10,20は、ロータ11,21に配置された鉄芯12,22や永久磁石13の非対称性によってロータ11,21の回転軸周りのインダクタンスが異なる。以下では、主として埋込磁石型の電動機10を検出対象とした実施形態について説明し、適宜リラクタンス型の電動機20を検出対象とした場合についても記述する。
【0012】
高周波電圧印加部2は、電動機10のロータ11に高周波電圧を印加可能である。励磁位相変化部3は、高周波電圧印加部2が印加される電動機10の励磁位相を変化させる。駆動電流検出部4は、高周波電圧の印加により電動機10に流れる駆動電流を検出する。磁極方向推定部5は、電動機10の励磁位相と、高周波電圧印加下の駆動電流検出部4によって検出した駆動電流の値に基づいて、電動機10の磁極方向を推定する。
【0013】
高周波電圧の印加により電動機10に流れる駆動電流値は、高周波電圧印加時の電動機10の励磁位相によって変化する。励磁位相θを励磁位相変化部3によって0≦θ≦180°で変化させ、駆動電流検出部4によって駆動電流の値を検出することで、その電圧周波数での励磁位相θに対する駆動電流値iの関係を調べることができる。電動機10の励磁位相は、例えばロータ11を回転させることによって変化させることができる。
【0014】
ここで、本実施形態の磁極方向検出装置1が検出する磁極方向について説明する。図2Aに示すようにロータ11の回転角をθとする。ロータ11に外部から磁石のS極を向けた場合に、回転して当該S極を向くロータ11の角度位置θをロータ11の磁極位置(D相)といい、ロータ11の回転中心と磁極位置を結ぶ直線(D軸)方向が磁極方向である。また、Q軸はロータ11の回転面内でD軸に直交する。
例えば、図2Aに示す埋込磁石型の電動機10のロータ11では、埋め込まれた永久磁石13のN-S極に沿って延びる方向が磁極方向となる。また、図2Bに示すリラクタンス型の電動機20のロータ21では、模式的に長方形で描画された鉄芯12の長辺方向が磁極方向となる。
【0015】
上述したように、突極性を有する同期電動機では、D相インダクタンスLdとQ相インダクタンスLqは、ロータ構造の非対称性によって異なる値となっている。インダクタンスは磁束の通りやすさを表す指標であり、埋込磁石型の電動機10のロータ11ではLd<Lqとなり、リラクタンス型の電動機20のロータ21ではLq<Ldとなる。
【0016】
本実施形態の磁極方向検出装置1は、電流値iを時間tで微分した電流時間微分値(di/dt)の振幅に基づいて磁極方向を検出する。電流時間微分値は次の式(1)のように表せ、励磁位相θの変化に伴って周期的に変化する。
…(1)
ただし、
=(L+L)/2,
=(L-L)/2
θ(t):時刻tにおける印加電圧の位相
θ:磁極位置
Vsinγt:高周波電圧
【0017】
図3Aおよび図3Bに示すように、インダクタンスの大小は電流時間微分値の振幅の大小と逆相関する。すなわち、例えば埋込磁石型の電動機10の場合、電流時間微分値の振幅が極小値をとるとき、インダクタンスが極大値Lqをとる。また、電流時間微分値の振幅が極大値をとるとき、インダクタンスが極小値Ldをとる(図3A)。リラクタンス型の電動機20の場合、電流時間微分値の振幅が極小値をとるとき、インダクタンスが極大値Ldをとる。また、電流時間微分値の振幅が極大値をとるとき、インダクタンスが極小値Lqをとる(図3B)。
【0018】
したがって、0°≦θ≦360°で励磁位相θを時刻tとともに変化させながら電流時間微分値の振幅の極小値または極大値を検出し、その時の励磁位相を出力することで、磁極方向を推定することができる。具体的には、上述の埋込磁石型の電動機10の場合、電流時間微分値の振幅が極大値をとるときインダクタンスはLdをとる。その時の励磁位相をθとすると、θ+n×180°(0°≦θ≦180°、nは整数)が磁極方向である。リラクタンス型の電動機20の場合、電流時間微分値の振幅が極小値をとるときインダクタンスはLdをとる。その時の励磁位相をθとすると、θ+n×180°(0°≦θ≦180°、nは整数)が磁極方向である。
【0019】
図4は、駆動電流値と励磁位相の関係を示すグラフである。一定の高周波電圧印加の下、電流時間微分値と励磁位相θの変化を経時的に観測し、電流時間微分値の振幅が極小値をとるときの励磁位相θに基づいて磁極方向を推定する。
【0020】
電流時間微分値はθの増加に伴って周期的に変化し、その極大値および極小値は1周につきそれぞれ2回ずつ現れる。したがって、複数の極大値および極小値に係る励磁位相θの値を推定して平均化することで、より高精度に磁極方向を推定することができるため、励磁位相は1周以上変化させて磁極方向を推定することが好ましい。なお、複数の励磁位相θの値の処理は平均化に限定されず、他の方法で処理してもよい。
【0021】
磁極方向の推定は電流時間微分値の振幅の極大値と極小値のいずれを検出してもよいが、特に極大値を検出して行うことが好ましい。電流時間微分値の振幅は、極大値の方が極小値と比較して急峻に変化するためノイズの影響を受けにくく、検出精度が向上するためである。Ld<Lqである埋込磁石型の電動機10の場合、検出した極大値をとる励磁位相がそのまま磁極方向と推定される。Lq<Ldとなるリラクタンス型の電動機20の場合、検出した極大値をとる励磁位相から90°ずらした位相が磁極方向と推定される。このようにして、例えばロータ11をS周させて2S回現れる極大値について検出し、磁極方向を推定する。
【0022】
ばらつき算出部6は、検出した2S個の極大値に係る磁極方向推定結果について、ばらつきを算出する。ばらつき算出結果が予め設定された所定の閾値よりも小さい場合は、その磁極方向推定結果は十分な精度を有するとして、磁極方向検出結果として出力される。ばらつき算出結果が予め設定された所定の閾値よりも小さい場合は、高周波電圧の周波数を変更して、磁極方向推定を再試行する。これを、磁極方向推定結果のばらつきが閾値以下となるまで繰り返す。これにより、高精度に磁極方向を検出することが可能となる。ばらつきの大きさの基準のとり方としては特に限定されず、例えば2S個の値の分散を基準としてもよいし、2S個の位相のうち最大位相と最小位相の差を基準としてもよい。
【0023】
一方で、電流値が大きくなりすぎると電動機10の発熱が大きくなるなどの弊害が生じるため、電動機10への印加電流として適切な電流値の範囲で印加電圧の周波数を変更することが好ましい。さらに、電動機10がリミッターを有し、過電流防止のために電動機10に流れる電流値の上限値が設定されているような場合には、電流値が大きくなりすぎると継時的変化を正確に測定できず、電流時間微分値の極大値および極小値を高精度に検出できなくなる。したがってこの場合には、電流値が設定された上限値未満となる範囲で印加電圧の周波数を変更することが好ましい。
【0024】
図5Aおよび図5Bには、高周波電圧の周波数を変えて磁極方向の推定を行った結果を示す。図5Bでは、図5Aよりも低い周波数の高周波電圧を印加した際の結果を示している。図5Bのほうが検出される電流値が大きく、推定磁極方向のばらつきが小さくなっている。
【0025】
印加する高周波電圧の周波数の変さらに際し、周波数を低くすると電流値は増加するため、磁極方向がより高精度に検出可能となる。これについて、詳しく説明する。図6Aおよび図6Bは電流時間微分値と電流値の継時変化を並べて表記したグラフであり、図6Bでは、図6Aよりも低い周波数の高周波電圧を印加した際の結果を示している。tおよびtは半周期となる時間tを、iおよびiは電流iの振幅を表しており、t<t、i<iである。
【0026】
式(1)より、電流時間微分値の振幅はθとインダクタンスのみに依存するから、高周波電圧の周波数を小さくしても一定である。一方で、周波数が低くなると波長は大きくなるため、tはtよりも大きくなる。結果、印加電圧の周波数が低くなると電流時間微分値のグラフの網掛け部分の面積は大きくなる。電流値のグラフを時間で微分したものが電流時間微分値のグラフであるから、電流時間微分値のグラフの網掛け部分の面積は、対応する電流値のグラフの振幅の大きさを表す。したがって、印加する高周波電圧の周波数の変さらに際し、周波数を低くすると電流値は増加する。
【0027】
検出対象の電動機が埋込磁石型の電動機10の場合、磁極位置検出部9によってさらに磁極位置を検出可能であることが好ましい。磁極位置の検出方法としては従来公知の方法を用いることができ、例えば次のような方法で検出可能である。まず、電動機10に、磁極方向検出装置1によって検出された磁極方向に対して平行に、外部磁界を印加する。続いて、前記外部磁界の符号を反転させる。外部磁界の印加方向が永久磁石13によって形成される磁界と同方向である場合には磁気飽和が起こり、逆方向の磁界を印加した時と比較してインダクタンスが低下するため、電流値の変化が大きくなる。この性質を利用して、磁極位置を検出することができる。
【0028】
さらに図7に示すように、インダクタンス値は電流値に依存し、電流値が大きくなるとインダクタンス値は低下する。すなわち、電流時間微分値の振幅が大きい励磁位相ほど電流値が大きくなりインダクタンスが低下するため、電流時間微分値の振幅はさらに大きくなる。結果、電流時間微分値の振幅は極大値において極小値よりも急峻に変化するためノイズの影響を受けにくく、磁極方向を高精度に検出できる。
【0029】
以下に、本実施形態に係る磁極方向検出の一例について、図8のフローチャートを用いて説明する。
【0030】
まず、目的の精度に応じて、ばらつき算出結果の閾値を設定する(ステップS1)。次いで、高周波電圧印加工程において、高周波電圧印加部2は電動機10のロータ11に周波数Aの高周波電圧を印加する(ステップS2)。次いで、励磁位相変化工程において電動機10の励磁位相θを励磁位相変化部3によってS周変化させ、駆動電流検出工程において電動機10に流れる駆動電流を駆動電流検出部4によって検出する。次いで、磁極方向検出工程において、駆動電流検出部4によって2S回検出した駆動電流とその時の励磁位相θとに基づいて、磁極方向推定部5は電動機10の磁極方向を推定する。次いで、ばらつき算出工程において、ばらつき算出部6が周波数Aの印加電圧における推定磁極方向のばらつきを算出する(ステップS3)。
【0031】
続いて、判定部7は周波数Aの印加電圧について算出したばらつき結果σ(A)をステップS1で設定した閾値と比較する(ステップS4)。前記ばらつきが所定の閾値以下である場合には、ばらつき結果σ(A)に係る磁極方向推定結果を電動機10の磁極方向検出結果として出力する(ステップS6)。ばらつき結果σ(A)が所定の閾値より大きい場合には、高周波電圧印加工程で印加する高周波電圧の周波数を、周波数Aよりも低い周波数Bに変更して、ステップS2~ステップS4を再試行する(ステップS5)。
【0032】
これをばらつきが所定の閾値以下となるまで印加電圧の周波数を低くして繰り返し、前記ばらつきが所定の閾値以下となったところで、前記インダクタンス値に係る磁極方向推定結果を磁極方向検出結果として出力する(ステップS6)。
【0033】
ばらつき結果について、例えば、周波数A,B,Cでの各8個の推定磁極方向が、以下の通りであった。
A(40°,42°,43°,61°,58°,56°,42°,59°) 分散72.4
B(40°,48°,52°,49°,70°,50°,48°,49°) 分散63.7
8個の値の分散を基準に取るならば、ばらつき結果σ(A)=72.4、ばらつき結果σ(B)=63.7である。閾値が分散70を基準に設定されていれば、周波数Aでの磁極方向推定結果はばらつきが閾値を超えているため、より低い周波数Bに変更して磁極方向推定を再試行する。周波数Bでの磁極方向推定結果はばらつきが閾値以下であるため、この磁極方向推定結果を電動機10の磁極方向検出結果として出力する。磁極方向θは8個の値の平均値51°(小数点第一位四捨五入)である。
【0034】
以上により、ばらつきが小さく高精度な磁極方向検出結果が得られる。なお、検出対象の電動機が埋込磁石型の電動機10の場合には、ステップS6の後にさらに磁極位置検出部9によって電動機10に対して磁極方向と平行な双方向に外部磁界を印加することで、さらに磁極位置を検出してもよい。
【0035】
以上、本発明の一態様である磁極方向検出装置1について説明した。本発明によれば、以下のような効果が得られる。
【0036】
本発明の一態様は、突極性を有する同期電動機10の磁極方向を検出する磁極方向検出装置2であって、電動機10に対して高周波電圧を印加する高周波電圧印加部2と、電動機10の励磁位相を任意の位相に変化させる励磁位相変化部3と、電動機10の駆動電流値を検出する駆動電流検出部4と、前記励磁位相と、前記高周波電圧印加下における前記駆動電流値と、に基づいて磁極方向推定を実行する磁極方向推定部5と、磁極方向推定部5で推定された前記磁極方向推定結果のばらつきを算出するばらつき算出部6と、ばらつき算出部6が算出したばらつきが所定の閾値より大きいか否かを判定する判定部7と、判定部7の判定結果に基づいて、前記ばらつきが所定の閾値以下である場合には、前記磁極方向推定結果を電動機10の磁極方向検出結果として出力し、前記ばらつきが所定の閾値より大きい場合には、高周波電圧印加部2が印加する高周波電圧の周波数を変更して前記磁極方向推定を再試行する制御部8と、を備える磁極方向検出装置1を提供する。これにより、高精度な磁極方向検出が可能である。
【0037】
磁極方向検出装置1はさらに、電動機10に対して、検出された前記磁極方向に平行な双方向に外部磁界を印加可能な磁極位置検出部9を備える。これにより、高精度に磁極位置を検出できる。
【0038】
磁極方向検出装置1はさらに、励磁位相変化部3が電動機10をS周(Sは1以上の整数)回転させる。これにより、ばらつき算出の精度が向上するため、より高精度に磁極方向検出が可能である。
【0039】
磁極方向検出装置1はさらに、磁極方向推定部5が、駆動電流時間微分値が極大となる励磁位相を検出し、Ld<Lqの場合には当該励磁位相を、Lq<Ldの場合には当該励磁位相から90°変化させた位相を、磁極方向として推定する。これにより、電流値検出の精度が向上するため、より高精度に磁極方向検出が可能である。
【0040】
また本開示の一態様は、突極性を有する同期電動機の磁極方向を検出する磁極方向検出方法であって、前記電動機に対して高周波電圧を印加する高周波電圧印加工程と、前記電動機の励磁位相を任意の位相に変化させる励磁位相変化工程と、前記電動機の駆動電流値を検出する駆動電流検出工程と、前記励磁位相と、前記高周波電圧印加下における前記駆動電流値と、に基づいて磁極方向推定を実行する磁極方向推定工程と、前記磁極方向推定工程で推定された前記磁極方向推定結果のばらつきを算出するばらつき算出工程と、前記ばらつき算出工程が算出したばらつきが所定の閾値より大きいか否かを判定する判定工程と、を備え、前記判定工程の判定結果に基づいて、前記ばらつきが所定の閾値以下である場合には、前記磁極方向推定結果を前記電動機の磁極方向検出結果として出力し、前記ばらつきが所定の閾値より大きいである場合には、前記ばらつきが所定の閾値以下となるまで、前記高周波電圧印加工程で印加する高周波電圧の周波数を変更して、前記磁極方向推定工程と、前記ばらつき算出工程と、前記判定工程と、を繰り返し再試行する前記磁極方向検出方法を提供する。これにより、高精度な磁極方向検出が可能である。
【符号の説明】
【0041】
1 …磁極方向検出装置
2 …高周波電圧印加部
3 …励磁位相変化部
4 …駆動電流検出部
5 …磁極方向推定部
6 …ばらつき算出部
7 …判定部
8 …制御部
9 …磁極位置検出部
10,20 …電動機
11,21 …ロータ
12,22 …鉄芯
13 …永久磁石
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図4
図5A
図5B
図6A
図6B
図7
図8