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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-15
(54)【発明の名称】予測装置、予測方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   G05B 23/02 20060101AFI20231108BHJP
【FI】
G05B23/02 R
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020007716
(22)【出願日】2020-01-21
(65)【公開番号】P2021114255
(43)【公開日】2021-08-05
【審査請求日】2022-11-24
(73)【特許権者】
【識別番号】316015888
【氏名又は名称】三菱重工エンジン&ターボチャージャ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【弁理士】
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(72)【発明者】
【氏名】若杉 一幸
(72)【発明者】
【氏名】森田 克明
(72)【発明者】
【氏名】安藤 純之介
(72)【発明者】
【氏名】石田 一郎
【審査官】牧 初
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-160093(JP,A)
【文献】特表2010-527089(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0369777(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 23/00-23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
機器の稼働状態を示す稼働データを取得するデータ取得部と、
前記稼働データの確率密度を推定する確率密度推定部と、
前記稼働データの確率密度の推定結果と、所定期間における前記稼働データから推定した前記確率密度の推定結果と前記機器に前記所定期間において異常が発生したか否かを示す情報とが対応付けられた学習データとに基づいて構築された第1の予測モデルとに基づいて、前記機器に異常が発生するかどうかを予測する異常予測部と、
を備える予測装置。
【請求項2】
前記確率密度推定部は、変分ベイズ法により前記確率密度を推定する、
請求項1に記載の予測装置。
【請求項3】
前記確率密度推定部は、前記機器の運転モード別に前記稼働データの確率密度を推定し、前記異常予測部は、前記運転モード別の確率密度の推定結果と、所定期間における前記運転モード別の前記稼働データから推定した前記運転モード別の確率密度の推定結果と当該運転モード別の前記稼働データが計測されてから所定の期間内に異常が発生したか否かを示す情報とが対応付けられた学習データとに基づいて構築された前記運転モード別の第2の予測モデルとに基づいて前記運転モード別に異常の発生の予測を行う、
請求項1または請求項2に記載の予測装置。
【請求項4】
前記機器は、回転機械であって、
前記確率密度推定部は、前記機器の出力と回転数とに基づいて前記運転モードを判別する、
請求項3に記載の予測装置。
【請求項5】
前記確率密度推定部は、前記稼働データの確率密度と、前記運転モード別の前記稼働データの確率密度とを推定し、
前記異常予測部が、前記稼働データの確率密度の推定結果および前記第1の予測モデルに基づいて前記機器に異常が発生するかどうかを予測するとともに、前記運転モード別の確率密度の推定結果および前記第2の予測モデルに基づいて前記運転モード別に異常の発生の予測を行う、
請求項3または請求項4に記載の予測装置。
【請求項6】
前記異常予測部の予測とその予測に対する前記異常が発生したかどうかの実績とに基づいて、前記予測の信頼度を算出する信頼度算出部、
をさらに備え、
前記信頼度算出部は、前記第1の予測モデルおよび前記第2の予測モデルのそれぞれに基づく予測値の組み合わせごとに前記信頼度を算出する、
請求項5に記載の予測装置。
【請求項7】
所定期間における前記稼働データから推定した前記確率密度の推定結果と、前記稼働データを取得した機器に前記所定期間において異常が発生したか否かを示す情報とが対応付けられた学習データとに基づいて、当該機器に前記異常が発生するかどうかを予測する予測モデルを作成する予測モデル作成部、
をさらに備える請求項1または請求項2に記載の予測装置。
【請求項8】
機器の稼働状態を示す稼働データを取得するデータ取得部と、
前記稼働データの確率密度を推定する確率密度推定部と、
所定期間における前記稼働データから推定した前記確率密度の推定結果と、前記稼働データを取得した機器に前記所定期間において異常が発生したか否かを示す情報とが対応付けられた学習データとに基づいて、当該機器に前記異常が発生するかどうかを予測する予測モデルを作成する予測モデル作成部と、
を備える予測装置。
【請求項9】
予測装置が、
機器の稼働状態を示す稼働データを取得するステップと、
前記稼働データの確率密度を推定するステップと、
前記稼働データの確率密度の推定結果と、所定期間における前記稼働データから推定した前記確率密度の推定結果と前記機器に前記所定期間において異常が発生したか否かを示す情報とが対応付けられた学習データとに基づいて構築された予測モデルとに基づいて、前記機器に異常が発生するかどうかを予測するステップと、
を有する予測方法。
【請求項10】
コンピュータを、
機器の稼働状態を示す稼働データを取得する手段、
前記稼働データの確率密度を推定する手段、
前記稼働データの確率密度の推定結果と、所定期間における前記稼働データから推定した前記確率密度の推定結果と前記機器に前記所定期間において異常が発生したか否かを示す情報とが対応付けられた学習データとに基づいて構築された予測モデルとに基づいて、前記機器に異常が発生するかどうかを予測する手段、
として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、予測装置、予測方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
ガスエンジンなどの定常的に運用する機器は、ひとたび故障が起こると長期にわたって機器を停止しなければならなくなる可能性があり、それに伴い大きな損失が発生する可能性もある。精度よく機器の異常予測を行うことができれば、事前メンテナンスなどにより、最低限必要な停止時間で運用することが可能になる。
【0003】
例えば、特許文献1には、機械学習によって作成した予測モデルによって機器に特定の異常が生じるか否かを予測するとともに、その予測の信頼度を出力する事象予測システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-157280号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
機械学習等の統計手法を用いて機器の異常予測を実行するためには、機器固有の性質を予測に反映させるため、監視対象の機器で異常が発生したときに採取したデータを用いて予測モデルを作成することが考えられる。しかし、この方法は、新規に導入する機器や異常が発生していない機器の異常予測を行う場合には用いることができない。そこで、例えば、同機種の異常が発生した他の機器から採取したデータを用いて予測モデルを作成し、この予測モデルによって、新規に導入した機器の異常を予測することが考えられる。しかし、同機種であっても機器には個体差がある為、単純に機械学習アルゴリズムに適用しても個体差で類別されたようなモデルが得られてしまい、他の機器の異常を予測しても精度が得られない可能性がある。
【0006】
本開示は、上記課題を解決することができる予測装置、予測方法およびプログラムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の予測装置は、機器の稼働状態を示す稼働データを取得するデータ取得部と、前記稼働データの確率密度を推定する確率密度推定部と、前記稼働データの確率密度の推定結果と、所定期間における前記稼働データから推定した前記確率密度の推定結果と前記機器に前記所定期間において異常が発生したか否かを示す情報とが対応付けられた学習データとに基づいて構築された予測モデルとに基づいて、前記機器に異常が発生するかどうかを予測する異常予測部と、を備える。
【0008】
また、本開示の予測方法は、予測装置が、機器の稼働状態を示す稼働データを取得するステップと、前記稼働データの確率密度を推定するステップと、前記稼働データの確率密度の推定結果と、所定期間における前記稼働データから推定した前記確率密度の推定結果と、前記機器に前記所定期間において異常が発生したか否かを示す情報とが対応付けられた学習データとに基づいて構築された予測モデルとに基づいて、前記機器に異常が発生するかどうかを予測するステップと、を有する。
【0009】
また、本開示のプログラムは、コンピュータを、機器の稼働状態を示す稼働データを取得する手段、前記稼働データの確率密度を推定する手段、前記稼働データの確率密度の推定結果と、所定期間における前記稼働データから推定した前記確率密度の推定結果と、前記機器に前記所定期間において異常が発生したか否かを示す情報とが対応付けられた学習データとに基づいて構築された予測モデルとに基づいて、前記機器に異常が発生するかどうかを予測する手段、として機能させる。
【発明の効果】
【0010】
上述の予測装置、予測方法およびプログラムによれば、機器の個体差の影響を除外した予測が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】第一実施形態に係る予測システムの構成例を示す図である。
図2】第一実施形態に係る予測方法を説明する第1の図である。
図3】第一実施形態に係る予測方法を説明する第2の図である。
図4】第一実施形態に係る予測方法を説明する第3の図である。
図5】第一実施形態に係る確率密度の算出方法を説明する図である。
図6】第一実施形態に係る予測モデルの作成処理の一例を示す図である。
図7】第一実施形態に係る予測処理の一例を示す図である。
図8】負荷ごとの燃焼状態の指標値の分布の一例を示す図である。
図9】第二実施形態に係る予測システムの構成例を示す図である。
図10】第二実施形態に係る予測処理の一例を示す図である。
図11】第三実施形態に係る予測システムの構成例を示す図である。
図12】第三実施形態に係る予測処理の一例を示す図である。
図13】第三実施形態に係る予測結果と予測信頼度の一例を示す図である。
図14】第三実施形態に係る予測値の出力の一例を示した図である。
図15】各実施形態に係る予測システムのハードウェア構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、各実施形態に係る予測システムについて、図1図15を参照しながら詳しく説明する。
【0013】
<第一実施形態>
(構成)
図1は、第一実施形態に係る予測システムの構成例を示す図である。
予測システム1は、監視対象の機器5A~5C、予測装置10を含む。機器5A~5Cは、例えば、ガスエンジン、ガスタービン、ボイラ、冷凍機などである。機器5A~5Cは同機種の機器である。
以下の説明では、機器5A~5Cが同機種のガスエンジンであるとし、予測装置10が、ガスエンジンが有するシリンダで失火が生じるかどうかを予測する場合を例に説明を行う。機器5A~5Bでは、過去にシリンダの失火が生じており、新規に導入した機器5Cではシリンダの失火が生じていないとする。
【0014】
機器5A~5Cには、複数のセンサが設けられていて、各センサは、例えば、ガスエンジンの回転数や出力、シリンダの燃焼状態に関する物理量(例えば、シリンダの圧力や温度等)を計測する。機器5A~5Cは制御装置を備えている。制御装置は、例えばセンサが計測した計測値や計測値に基づいて算出した値が所定の閾値を超過している場合、警告データを発報する。機器5A~5Cは、予測装置10と接続されていて、機器5A~5Cは、センサが計測した計測値や警告データ等を予測装置10へ送信する。
【0015】
予測装置10は、データ取得部11と、確率密度推定部12と、予測モデル作成部13と、異常予測部14と、出力部15と、記憶部16と、を備える。
データ取得部11は、機器5A~5Cの稼働データを取得する。稼働データとは、機器5A~5Cの各センサが計測した計測値、又は、計測値に基づいて算出された値である。例えば、機器5A~5Cがガスエンジンの場合、稼働データは、シリンダの圧力や温度、ガスエンジンの出力、回転数等である。また、データ取得部11は、機器5A~5Cで発生した異常を通知する警告データを取得する。例えば、機器5Aのシリンダで失火が生じると、データ取得部11は、失火が生じたシリンダの識別情報、失火の発生時刻、失火の発生を通知する警告データを機器5Aから取得する。
【0016】
確率密度推定部12は、データ取得部11が取得した稼働データを用いて、異常発生の予測に用いるデータの確率密度を推定する。
【0017】
予測モデル作成部13は、確率密度推定部12が推定した確率密度の推定値に基づいて、機器5A~5Cに異常が発生するかどうかを予測する予測モデルを作成する。例えば、予測モデル作成部13は、過去に機器5A~5Bでシリンダの失火が生じたときに採取された稼働データの確率密度の推定値を学習して、確率密度がどのような値となると、シリンダの失火が生じるかを判定するための閾値(予測モデル)を算出する。
【0018】
異常予測部14は、確率密度推定部12が推定した確率密度の推定結果と、予測モデル作成部13が作成した予測モデルと、に基づいて、機器5A~5Cに異常(例えば、シリンダの失火)が発生するかどうかを予測する。
出力部15は、異常予測部14による予測結果を出力する。例えば、出力部15は、予測結果を予測装置10のモニタに表示したり、電子メール等で他装置へ送信したりする。
記憶部16は、データ取得部11が取得した稼働データや、確率密度の推定値、予測モデルなどのデータを記憶する。
【0019】
(稼働データに基づく異常予測の課題)
図2図3はそれぞれ、第一実施形態に係る予測方法を説明する第1の図、第2の図である。
図2に、機器5A,5Bが有するシリンダの筒内圧力を元に燃焼状態を診断した指標値の推移を示す。図2のグラフの縦軸は指標値の大きさ、横軸は時間である。破線のグラフ21は機器5Aの燃焼状態の指標値を示し、実線のグラフ22は機器5Bの燃焼状態の指標値を示す。燃焼状態の指標値は、燃焼が弱い状態でシリンダが回転した割合(例えば、100回のうち50回、燃焼が弱い状態でシリンダが回転すると指標値=50%である。)を示し、指標値が高い程、燃焼が弱い状態が多く、それだけ失火する可能性が高いことを意味する。燃焼が弱い状態か否かは、シリンダの圧力に基づいて計算される。図示するようにグラフ22はグラフ21に比べ、指標値が高い状態で推移している為、機器5Bのシリンダで失火が生じることが予想される。しかし、実際には時刻t1において、機器5Aのシリンダで失火が生じた。これは、2つのシリンダの個体差や、機器5A,5Bの圧力センサの取り付け位置の違い、圧力センサの個体差などの影響によるものと考えられる。つまり、機器5Bでは、指標値が比較的高い状態で推移していても、それは通常の稼働状態である。一方の機器5Aでは、指標値が機器5Bより低い状態で推移することが通常の稼働状態である。このような場合、例えば、図3に例示するように機器ごとに判定の閾値(機器5Aの閾値はx1、機器5Bの閾値はx2)を設け、失火の予測を行う方法が考えられる。しかし、このような方法では、機器ごとに閾値を算出する必要がある。また、新たに導入した機器5Cについて閾値を設定することができず、予測を行うことができない。そこで、本実施形態では、機器5A~5Cの稼働データに対して個体差を補正する処理を行い、補正後のデータを学習して、個体差に関係なく適用できる予測モデルを作成する。
【0020】
(個体差の影響を除外した予測モデル)
図4は、第一実施形態に係る予測方法を説明する第3の図である。
図4に、図2で例示した各時刻の燃焼状態の指標値を確率密度に変換したときの確率密度の推移を示す。図4のグラフの縦軸は確率密度、横軸は時間である。燃焼状態の指標値の確率密度とは、各時刻の燃焼状態の指標値の値の出やすさである。グラフ41は、機器5Aのシリンダについて算出された燃焼状態の指標値の確率密度、グラフ42は、機器5Bのシリンダについて算出された燃焼状態の指標値の確率密度である。グラフ41、42の各時刻の値は、それぞれ、同時刻における機器5A,5Bのシリンダの燃焼状態の指標値の値の出やすさを示している。これらの確率密度は、時刻t0からt2を定義域として、その間に機器5A,5Bのそれぞれで観測された燃焼状態の指標値(図2)に基づいて算出したものである。図示するように、時刻taあたりまでは、グラフ41、42ともに100%に近い値で推移している。これは、時刻taまでに機器5Aで観測された燃焼状態の指標値は、機器5Aで頻出する燃焼状態の指標値と同程度の値であったことを示す。機器5Bについても同様である。つまり、機器5A,5Bともにこの間は通常の稼働状態であったことを示す。ところが、時刻ta以降になるとグラフ42の確率密度は変動し、特に時刻tbでは大きく低下し、その後、確率密度が低下した時刻t1にて失火が発生している。一方、失火が発生していない機器5Bの確率密度(グラフ42)は、時刻ta以降も比較的高い値のまま推移している。
【0021】
図2図4を比較すると、図2では大きな差があった機器5A,5Bそれぞれの燃焼状態の指標値が、確率密度に変換した図4では、同程度の大きさの値に補正されていることがわかる。つまり、個体差を含んだデータを確率密度に変換することで、個体差の影響を取り除くことができる。また、時刻tbや時刻t1におけるグラフ41の値のように低い確率密度となる時刻については、その時刻の燃焼状態の指標値が、通常は出ない珍しい値であることを示している。このように稼働データを確率密度に変換し、確率密度の低下を監視することにより、機器5A~5Cが通常の稼働状態ではないことを検出することができる。そこで、本実施形態では、稼働データを確率密度に変換し、機器5A~5Cの個体差を取り除いたうえで、確率密度と、機器5A,5Bに生じた異常の実績との関係を学習して予測モデルを作成する。
【0022】
(確率密度の推定)
次に確率密度の推定方法について説明する。例えば、あるパラメータの計測値が20個得られたとする。20個のうち19個の値が「1」で、1個の値が「10」であるとする。すると、19個の値「1」の確率密度は、それぞれ19÷20=0.95より95%である。1個の値「10」の確率密度は1÷20=0.05より5%である。このように変数が1つで離散的な値を取る場合、各値の出現頻度の算出により簡単に確率密度を求めることができる。しかし、上記の例で19個の値「1」と、1個の値「1.1」が得られた場合に「1.1」を「10」と同様に扱っていいかどうかについては検討の余地がある。また、例えば、シリンダの圧力と温度のように複数の変数を含む場合や、出現頻度を単純な正規分布で表すことができない変数について確率密度を求めることは容易ではない。そこで、本実施形態では、変分ベイズ法を用いて、稼働データの確率密度の推定を行う。変分ベイズ法であれば、変数が連続値、離散値の何れであっても扱うことができ、稼働データが多変量データであっても、混合分布であっても稼働データの分布を推定することができる。
【0023】
図5は、第一実施形態に係る確率密度の算出方法を説明する図である。
例えば、1つのシリンダの失火判定にシリンダの圧力と温度の2つのパラメータを用い、ある時刻における2つのパラメータの値を1セットとする稼働データxがNセット(所定時間分)存在する場合、変分ベイズ法では、稼働データxの分布がK個の正規分布の混合で表されると仮定し、K個の正規分布を含む混合多変量正規分布P(x)を、下記式(2)で定義する(Kは任意の値)。そして、下記式(1)で表される尤度Πを最大にする混合多変量正規分布P(x)(下記式(2))のパラメータπ(K個中、k番目の正規分布の混合係数)μ(K個中、k番目の正規分布の平均)、[シグマ](K個中、k番目の正規分布の分散)の3つのパラメータを推定する。推定にあたっては、下記式(3)で表される事前分布を与える。Dirはディクレ分布、Wはウィシャート分布、m、β、W、vは、それぞれ任意の初期値である。
【0024】
【数1】
【0025】
【数2】
【0026】
【数3】
【0027】
尤度Πを最大にする3つのパラメータが推定できると、K個の正規分布それぞれの形状(μ、[シグマ])と混合比(π)が定まり、それらK個の正規分布を重ね合わせることにより、稼働データxの分布形状が得られる。図5の上図にN個の稼働データxをプロットした図の一例を示す。図5の下図に変分ベイズ法により推定した稼働データxの分布形状を示す。例えば、図5上図および下図のX軸、Y軸は、それぞれシリンダの温度、圧力である。図5下図のZ軸の値は、各座標の稼働データ(温度と圧力の値の組合せ)が出る確率密度の推定値を示す。説明の便宜上、2変数の場合で説明を行ったが、稼働データxが3個以上の場合であっても、変分ベイズ法により、任意の稼働データxに対する確率密度を算出することができる。
【0028】
(予測モデルの作成処理)
図6は、第一実施形態に係る予測モデルの作成処理の一例を示す図である。
一例として、燃焼状態の指標値に基づいて失火の予測モデルを作成することとする。まず、データ取得部11が、機器5A,5Bから所定期間分の稼働データ(例えば、1日ごとの燃焼状態の指標値)を取得し、記憶部16がそれらのデータを記憶する(ステップS11)。また、データ取得部11が、機器5A,5Bから稼働データと同じ期間に通知された警告データを取得する。警告データには、例えば、失火が発生したこと、失火したシリンダの識別情報、失火した時刻が含まれる。記憶部16は、警告データを、稼働データと同じ期間分記憶する。
【0029】
次に確率密度推定部12は、稼働データに変分ベイズ法を適用して稼働データの確率密度を推定する(ステップS12)。例えば、確率密度推定部12は、日ごとの燃焼状態の指標値の確率密度の推定値を算出し、確率密度の推定値を日付と対応付けて記憶部16に記録する。次に予測モデル作成部13が、記憶部16が記憶する警告データを参照して、失火が発生した日の確率密度の推定値に「失火発生」のラベル情報を付し、他の日の確率密度の推定値に「失火無し」のラベル情報を付す前処理を行う(ステップS13)。
【0030】
次に予測モデル作成部13は、ラベル情報を付加した確率密度の推定値を学習データとして、所定の手法により失火の発生と確率密度の関係を示す予測モデルを作成する(ステップS14)。予測モデルを作成する手法には、例えば、SVM(Support Vector Machine)、決定木、ニューラルネットワークなどを用いることができる。予測モデル作成部13は、予測モデルを記憶部16に記録する。作成された予測モデルは、例えば、確率密度の閾値である。なお、この例では、予め燃焼状態の指標値の確率密度の推定値をパラメータとして用いることとしたが、多数のパラメータの確率密度推定値とラベル情報を対応付けた学習データを用いて、機械学習によりパラメータの選択(特徴量選択)を行って、選択したパラメータの確率密度推定値に基づいて予測モデルを作成してもよい。
【0031】
また、上記処理では、実際に失火した日の稼働データの確率密度推定値に対して「失火発生」のラベルを付すこととしたが、未来(例えば、1か月先まで)の予測を行うために、予測モデル作成部13は、実際に失火が発生した日から所定期間遡った日(例えば、1か月前)以降であれば失火が生じ得る状態であったと考え、その期間の確率密度推定値に失火発生のラベル情報を付してもよい。例えば、2019年8月1日に失火が発生した場合、2019年7月1日~8月1日の確率密度推定値に失火発生のラベルを付す。このような処理により、1ヶ月以内に失火が発生し得る状態になると予測するための予測モデルを作成することができる。
【0032】
このように本実施形態では、稼働データを確率密度の推定値に変換して、確率密度に基づく予測モデルを作成する。これにより、機器5A~5Cの個体差の影響を排除した、機器5A~5Cに共通の予測モデルを作成することができる。
【0033】
(予測処理)
次に図7を参照して、新たに導入した機器5Cに対する失火の予測処理について説明する。図7は、第一実施形態に係る予測処理の一例を示す図である。
まず、データ取得部11が、機器5Cの最新の稼働データ(例えば、本日の燃焼状態の指標値)を取得する(ステップS21)。データ取得部11は、最新の稼働データを確率密度推定部12へ出力する。次に確率密度推定部12が、最新の稼働データの確率密度を推定する(ステップS22)。記憶部16には、所定期間における機器5Cの稼働データが蓄積されていて、確率密度推定部12が、蓄積された稼働データと最新の稼働データを用いて、変分ベイズ法により、最新の燃焼状態の指標値の確率密度を推定する。確率密度推定部12は、確率密度の推定値を異常予測部14に出力する。次に異常予測部14は、確率密度の推定値と閾値(予測モデル)とを比較する。
【0034】
確率密度の推定値が閾値より小さい場合(ステップS23;Yes)、異常予測部14は、機器5Cで異常(シリンダの失火)が発生する可能性があると判定する(ステップS24)。出力部15は、失火の可能性ありとの予測結果を出力する(ステップS26)。
確率密度の推定値が閾値以上の場合(ステップS23;No)、異常予測部14は、機器5Cで異常(失火)が発生する可能性がないと判定する(ステップS25)。出力部15は、失火の可能性なしとの予測結果を出力する(ステップS26)。
【0035】
図7の処理によれば、個体差の大きい機器5A~5Cの異常予測において、新たに導入し、異常が発生していない機器5Cについても、機器5A~5Cの個体差の影響を受けることなく、異常の発生を予測することができる。また、稼働データを学習することにより作成した、機器の特性が反映された従来の予測モデルに比べ、精度よく異常の発生を予測することができる。
【0036】
<第二実施形態>
以下、本開示の第二実施形態による予測装置10aについて図8図10を参照して説明する。
第一実施形態では、機器5A~5Cの異常を、稼働データの確率密度推定値の低下(発生頻度の低い稼働データの出現)により判定した。例えば、(1)機器5A~5Cが一定の負荷で常時稼働している場合や、(2)100%の負荷での稼働と80%の負荷での稼働を半分ずつの割合で行っているような場合であれば、第一実施形態の方法は有効である。例えば、(1)の場合であれば、稼働データの確率密度の推定値は100%に近い値で推移すると考えられる。また、(2)の場合であれば、それぞれの負荷で稼働している間の稼働データの確率密度の推定値は、どちらの負荷の場合にも50%に近い値で推移すると考えられる。従って、確率密度の推定値が、基準となる100%や50%から大きく低下したときに異常が生じたとみなすことができる。しかし、稼働データを確率密度の推定値に変換するだけでは有効な特徴量とならない場合がある。(3)例えば、100%の負荷での稼働と80%の負荷での稼働を9:1の割合で行うような場合、確率密度推定値の低下は、機器5A等が80%の負荷で稼働したことよって発生した低下なのか、100%負荷で稼働している間に異常が発生したことによる低下なのか見分けがつかない可能性がある。また、例えば、1日の稼働にあたって、機器5A~5Cが発停を行い、稼働中は定格負荷で稼働するような場合でも、確率密度推定値の低下が、定格負荷で稼働している間の異常の発生によるものなのか、発停によるものなのかを判別できない可能性がある。そこで、本実施形態の予測装置10aは、機器5A~5Cの運転モード別に確率密度を推定し、運転モード別に異なる閾値で異常の予測を行う。
【0037】
図8に負荷ごとの燃焼状態の指標値の分布の一例を示す。例えば、丸印80内の燃焼状態の指標値は、負荷帯2での稼働中に観測された燃焼状態の指標値の中では発生頻度が高くない(確率密度が低い)。しかし、負荷帯1での稼働中には高い頻度で発生するような値である。従って、負荷帯2での稼働中に丸印80内の燃焼状態の指標値が観測されれば異常が生じている可能性があり、負荷帯1での稼働中に丸印80内の燃焼状態の指標値が観測されれば機器5A等は正常に稼働している可能性が高いといえる。このような状況に対応し、予測装置10aは、運転モード別(例えば、負荷帯1での稼働を運転モード1、負荷帯2での稼働を運転モード2とする。)に燃焼状態の指標値の確率密度を算出し、運転モード別の閾値によって異常予測を行う。
【0038】
(構成)
図9は、第二実施形態に係る予測システムの構成例を示す図である。
本開示の第二実施形態に係る予測システム1aの構成のうち、第一実施形態に係る予測システム1を構成する機能部と同じものには同じ符号を付し、それらの説明を省略する。予測システム1aは、予測装置10aと機器5A~5Cとを含む。予測装置10aは、第一実施形態の確率密度推定部12、予測モデル作成部13、異常予測部14に代えて確率密度推定部12a、予測モデル作成部13a、異常予測部14aを備えている。また、予測装置10aは、設定部17を備えている。
【0039】
確率密度推定部12aは、稼働データの確率密度推定値について、条件付き確率を算出する。具体的には、稼働データxの確率密度をP(x)とすると、確率密度推定部12aは、P(x|運転モード)を算出する。P(x|運転モード)は、以下のようにして算出される。
(1)例えば、運転モードが負荷と回転数で判別できる場合、稼働データ(xと負荷と回転数)の組合せに変分ベイズ法を適用して、P(x、負荷、回転数)の同時確率を推定する。
(2)同様にP(負荷、回転数)の同時確率を推定する。
(3)P(x|運転モード)=P(x、負荷、回転数)÷P(負荷、回転数)により、
P(x|運転モード)を算出する。
【0040】
予測モデル作成部13aは、運転モード別に予測モデルを作成する。例えば、予測モデル作成部13aは、運転モード別の条件付き確率P(x|運転モード)に対して、例えば、その条件付き確率の元となった稼働データが計測された時刻から所定の期間内に異常が発生していれば「異常発生あり」、そうでなければ「異常発生なし」のラベル情報を付して、機械学習により運転モード別の予測モデルを作成する。
異常予測部14aは、確率密度推定値の条件付き確率と、運転モード別の予測モデルに基づいて、異常予測を行う。
【0041】
設定部17は、運転モード判別に用いるパラメータの設定を受け付ける。例えば、機器5A~5Cがガスエンジンの場合、運転モード(発停、定常負荷での稼働、部分負荷での稼働)が、機器5A~5Cの負荷(発電電力)、エンジンの回転数により判別可能であるとする。ユーザは、パラメータ「負荷」、「回転数」と運転モードの関係を示す設定情報(例えば、負荷が定格負荷を基準とする所定範囲内の値、回転数が定格回転数を基準とする所定範囲内の値であれば運転モードは定格運転、負荷が“閾値1”以下で回転数が“閾値2”以下なら、運転モードは発停中など)の入力を予測装置10aに行う。設定部17は、ユーザによる設定情報の入力を受け付け、設定情報を記憶部16に記録する。
なお、運転モードを判別するパラメータは、負荷、回転数以外にも、外気温、湿度、天候などを含めるようにしてもよい。
【0042】
(予測処理)
次に図10を参照して第二実施形態における異常の予測処理について説明する。図10は、第二実施形態に係る予測処理の一例を示す図である。
前提として、運転モード判別のための設定情報は設定済みであり、予測モデル作成部13aは、運転モード別の予測モデルを作成済みであるとする。
【0043】
まず、データ取得部11が、機器5Cの最新の稼働データ(例えば、燃焼状態の指標値、負荷、エンジンの回転数)を取得する(ステップS31)。データ取得部11は、最新の稼働データを確率密度推定部12aへ出力する。次に確率密度推定部12aが、運転モード別に確率密度を推定する(ステップS32)。例えば、記憶部16には、所定期間における機器5Cの稼働データが運転モード別に蓄積されている。確率密度推定部12aは、最新の稼働データと運転モード判別のための設定情報から最新の稼働データが示す運転モードを特定する。確率密度推定部12aは、蓄積された稼働データのうち特定した運転モードに対応する稼働データと最新の稼働データを用いて、変分ベイズ法により、P(燃焼状態の指標値、負荷、回転数)の同時確率を推定する。また、確率密度推定部12aは、特定した運転モードに対応する稼働データと最新の稼働データを用いて、変分ベイズ法により、P(負荷、回転数)の同時確率を推定する。確率密度推定部12aは、P(燃焼状態の指標値、負荷、回転数)÷P(負荷、回転数)により、最新の稼働データが示す運転モードにおける当該稼働データの確率密度を算出する。確率密度推定部12aは、運転モード別の確率密度の推定値を異常予測部14aに出力する。
【0044】
次に異常予測部14aは、運転モード別の確率密度の推定値と運転モード別の閾値(予測モデル)とを比較する(ステップS33)。異常予測部14aは、データ取得部11が、取得した稼働データの負荷と回転数に基づいて運転モードを判別し、判別した運転モード用の閾値を選択する。異常予測部14aは、確率密度推定部12aが推定した運転モード別の確率密度の推定値と当該運転モード用の閾値とを比較する。
【0045】
確率密度の推定値が閾値より小さい場合(ステップS34;Yes)、異常予測部14aは、機器5Cで異常(シリンダの失火)が発生する可能性があると判定する(ステップS35)。出力部15は、失火の可能性ありとの予測結果を出力する(ステップS37)。
確率密度の推定値が閾値以上の場合(ステップS34;No)、異常予測部14aは、機器5Cで異常(失火)が発生する可能性がないと判定する(ステップS36)。出力部15は、失火の可能性なしとの予測結果を出力する(ステップS37)。
【0046】
上記のように機器5A等の運転モードが変化し、その中の特定の運転モードでの稼働が珍しい場合、稼働データを確率密度に変換しても、異常が発生したか、珍しい運転モードで稼働しているかの区別がつかない可能性がある。
本実施形態によれば、異なる運転モードが混在する稼働データであっても、運転モード別の確率密度推定結果に基づいて異常判定を行うので、運転モード自体が珍しいのか、稼働データの値が珍しいのかを区別することができ、異常の予測精度を向上することがきる。
【0047】
<第三実施形態>
以下、本開示の第三実施形態による予測装置10bについて図11図14を参照して説明する。
第一実施形態、第二実施形態では、1つの予測モデルを用いて予測を行った。第三実施形態では、複数の予測モデルを用いて予測を行い、それぞれの予測モデルによる予測値の組み合わせごとに予測の信頼度を算出する。
【0048】
例えば、機器5A~5Cから得られる稼働データの中には、個体差が少なく異常判定に用いることができるパラメータα、個体差は大きいが運転モードの変化の影響を受けないパラメータβ、個体差が大きく運転モードの変化の影響を受けるパラメータγが含まれる場合がある。このような場合、予測装置10bは、パラメータαについては、従来のパラメータαの値と異常発生の実績との関係を学習した予測モデルα1を作成し、最新のパラメータαと予測モデルα1に基づいて異常予測を行う。また、予測装置10bは、パラメータβについては、第一実施形態と同様の方法でパラメータβの確率密度推定結果と異常発生の実績との関係を学習した予測モデルβ1を作成する。予測装置10bは、最新のパラメータβの値を取得すると、パラメータβの値を確率密度推定値β2に変換し、確率密度推定値β2と予測モデルβ1に基づいて異常予測を行う。また、予測装置10bは、パラメータγについては、第二実施形態と同様の方法でパラメータγの運転モード別の確率密度推定結果と異常発生の実績との関係を学習した予測モデルγ1を作成する。予測装置10bは、最新のパラメータγの値を取得すると、パラメータγの値を運転モード別の確率密度推定値γ2に変換し、確率密度推定値γ2と予測モデルγ1に基づいて異常予測を行う。本実施形態では、このように性質の異なる複数のパラメータを用いて、同時に複数の予測方法で異常発生の予測を行う。
【0049】
(構成)
図11は、第三実施形態に係る予測システムの構成例を示す図である。
第三実施形態に係る予測システム1bの構成のうち、第二実施形態に係る予測システム1aを構成する機能部と同じものには同じ符号を付し、それらの説明を省略する。予測システム1bは、予測装置10bと機器5A~5Cとを含む。予測装置10bは、第二実施形態の確率密度推定部12a、予測モデル作成部13a、異常予測部14aに代えて確率密度推定部12b、予測モデル作成部13b、異常予測部14bを備えている。また、予測装置10bは、信頼度算出部18を備えている。
【0050】
確率密度推定部12bは、第一実施形態の確率密度推定部12および第二実施形態の確率密度推定部12aの両方の機能を有する。つまり、確率密度推定部12bは、稼働データのパラメータβについて確率密度を推定し、パラメータγについて条件付き確率を推定する。
【0051】
予測モデル作成部13bは、第一実施形態の予測モデル作成部13および第二実施形態の予測モデル作成部13aの両方の機能を有する。つまり、予測モデル作成部13bは、稼働データの確率密度推定結果に基づく予測モデル(確率密度用の予測モデル)と、運転モード別の確率密度推定結果に基づく予測モデル(運転モード別確率密度用の予測モデル)を作成する。さらに、予測モデル作成部13bは、データ取得部11が取得した稼働データのうち異常判定に用いるパラメータに基づいて、機器5A~5Cに異常が発生するかどうかを予測する予測モデル(稼働データ用の予測モデル)を作成する機能を有する。例えば、予測モデル作成部13は、過去に機器5A等でシリンダの失火が生じたときに採取された稼働データ(例えば、シリンダの圧力、温度など)を学習して、稼働データがどのような値となると、シリンダの失火が生じるかを判定するための閾値を算出する。
【0052】
異常予測部14bは、第一実施形態の異常予測部14および第二実施形態の異常予測部14aの両方の機能を有する。さらに、異常予測部14bは、データ取得部11が取得した稼働データと予測モデル作成部13bが作成した稼働データ用の予測モデルとに基づいて、機器5A~5Cに異常が発生するかどうかを予測する。つまり、予測モデル作成部13bは、稼働データ用の予測モデルによる予測、確率密度用の予測モデルによる予測、運転モード別確率密度用の予測モデルによる予測の3種類の予測方法で予測を行う。
【0053】
信頼度算出部18は、異常予測部14bの予測とその予測に対する実績に基づいて、予測モデルによる予測の信頼度を算出する。例えば、異常予測部14bが100回、異常が発生すると予測し、そのうち実際に異常が発生した回数が58回であれば、信頼度算出部18は、異常予測部14bによる異常発生の予測に対する信頼度を58%と算出する。例えば、異常予測部14bが1000回、異常が発生しないと予測し、そのうち実際に異常が発生しなかった回数が900回であれば、信頼度算出部18は、異常予測部14bによる異常発生無しとの予測に対する信頼度を90%と算出する。信頼度算出部18は、3種類の予測方法別(稼働データ用の予測モデルによる予測、確率密度用の予測モデルによる予測、運転モード別確率密度用の予測モデルによる予測)に予測の信頼度を算出する。
【0054】
(予測処理)
異常予測部14bは、所定の制御周期で、最新の稼働データに対して3種類の予測方法を用いた異常予測を行う。
確率密度用の予測モデルによる予測、運転モード別確率密度用の予測モデルによる予測については、それぞれ図7図10で説明したものと同様である。なお、図7図10の何れの処理の場合にも、異常予測部14bは、予測結果を記憶部16に記録する。次に図12を参照して、稼働データ用の予測モデルによる予測処理について説明する。
図12は、第三実施形態に係る予測処理の一例を示す図である。
まず、データ取得部11が、機器5Cの最新の稼働データ(例えば、機器5A~5Cの個体差が比較的小さく、シリンダ失火の判定に有効なパラメータ)を取得する(ステップS41)。次に異常予測部14bは、稼働データと閾値(稼働データ用の予測モデル)とを比較する。稼働データの値が閾値より小さい場合(ステップS42;Yes)、異常予測部14bは、機器5Cで異常(例えば、シリンダの失火)が発生する可能性があると判定する(ステップS43)。出力部15は、失火の可能性ありとの予測結果を出力し、その予測結果を稼働データと対応付けて記憶部16に記録する(ステップS45)。稼働データの値が閾値以上の場合(ステップS42;No)、異常予測部14bは、機器5Cで異常(失火)が発生する可能性がないと判定する(ステップS44)。出力部15は、失火の可能性なしとの予測結果を出力し、その予測結果を稼働データと対応付けて記憶部16に記録する(ステップS45)。
【0055】
図13は、第三実施形態に係る予測結果と予測信頼度の一例を示す図である。
図13に異常予測部14bが、3種類の予測方法で予測を行った結果の全ての組合せと、予測に対する実際の結果を示す。例えば、1行目のデータは、予測対象となる機器5Cについて、稼働データ用の予測モデルによる予測、確率密度用の予測モデルによる予測、運転モード別確率密度用の予測モデルによる予測の全てによって異常と予測された回数が100回あり、そのうち実際に異常が発生した回数が90回で、異常が発生しなかった回数が10回あったことを示している。この場合の異常発生率は90%である。つまり、3つの予測方法の全てによって異常と予測されたときの予測の信頼度は90%である。2行目以降のデータについても同様である。
【0056】
信頼度算出部18は、記憶部16に記録された異常予測部14bによる予測結果と、データ取得部11が取得した警告データとを組み合わせて予測に対する実績を集計し、図13に例示するような構造のデータを管理する。例えば、時刻13:00の稼働データに基づいて、異常予測部14bが3つの方法で予測を行った結果が3つとも正常(異常なし)の場合、データ取得部11が時刻13:00から所定期間に警告データを取得しなければ、異常が発生しなかったとみなし、信頼度算出部18は、図13の表の稼働データ「正常」、確率密度「正常」、運転モード別確率密度「正常」の行の実績「正常」の値に1を加算する(990→991)。そして、信頼度算出部18は、「異常発生率」の値を更新する(10÷991)。また、データ取得部11が時刻13:00から所定期間内に機器5Cのシリンダでの失火発生の警告データを取得した場合、信頼度算出部18は、図13の同じ行の実績「異常」の値に1を加算(10→11)し、「異常発生率」の値を更新する(11÷990)。3つの予測方法による予測結果が他の組合せの場合も同様である。信頼度算出部18は、図13に例示する構造のデータを記憶部16に保持し、異常予測部14bが予測を行うたびにその内容を更新する。
【0057】
また、出力部15は、3つの予測方法による予測結果とともに、信頼度算出部18が集計した予測の信頼度(図13の「異常発生率」)を予測装置10bのモニタ等へ出力する。出力部15による出力例を図14に示す。
【0058】
図14は、第三実施形態に係る予測値の出力の一例を示した図である。
図14に稼働データ用の予測モデルによる予測が「異常」、確率密度用の予測モデルによる予測が「正常」、運転モード別確率密度用の予測モデルによる予測が「異常」となった場合の出力例を示す。ユーザは、この出力結果を見て、稼働データ用の予測モデルと運転モード別確率密度用の予測モデルによって所定期間内に異常が発生すると予測され、その予測の信頼度は60%であることを知ることができる。
【0059】
本実施形態によれば、稼働データの性質に合わせて、性質(機器間の個体差が大きいか等)に合った複数の方法で予測を行う。これにより、予測精度の向上が期待できる。また、複数の予測モデルによる予測の組み合わせごとに予測の信頼度(図13、14の「異常発生率」)を参照することができ、ユーザは、予測の信頼度に基づいて予測結果を評価することができる。
【0060】
なお、実施形態では、3つの予測方法を全て用いる場合を例に説明を行ったが、3つの予測方法のうちの任意の2つの組合せによって予測を行うようにしてもよい。例えば、機器間の個体差が大きいが運転モードの変化の影響を受けないパラメータが存在しない場合、稼働データ用の予測モデルと運転モード別確率密度用の予測モデルによって予測を行うようにしてもよい。
【0061】
図15は、各実施形態に係る予測システムのハードウェア構成の一例を示す図である。
コンピュータ900は、CPU901、主記憶装置902、補助記憶装置903、入出力インタフェース904、通信インタフェース905を備える。
上述の予測装置10,10a,10bは、コンピュータ900に実装される。そして、上述した各機能は、プログラムの形式で補助記憶装置903に記憶されている。CPU901は、プログラムを補助記憶装置903から読み出して主記憶装置902に展開し、当該プログラムに従って上記処理を実行する。また、CPU901は、プログラムに従って、記憶領域を主記憶装置902に確保する。また、CPU901は、プログラムに従って、処理中のデータを記憶する記憶領域を補助記憶装置903に確保する。
【0062】
なお、予測装置10,10a,10bの全部または一部の機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより各機能部による処理を行ってもよい。ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータシステム」は、WWWシステムを利用している場合であれば、ホームページ提供環境(あるいは表示環境)も含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、CD、DVD、USB等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。また、このプログラムが通信回線によってコンピュータ900に配信される場合、配信を受けたコンピュータ900が当該プログラムを主記憶装置902に展開し、上記処理を実行しても良い。また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良く、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであってもよい。
なお、予測装置10,10a,10bは、それぞれ複数のコンピュータ900によって構成されていても良い。
【0063】
以上のとおり、本開示に係るいくつかの実施形態を説明したが、これら全ての実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することを意図していない。これらの実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態及びその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0064】
<付記>
各実施形態に記載の予測装置10,10a,10b、予測方法およびプログラムは、例えば以下のように把握される。
【0065】
(1)第1の態様に係る予測装置10,10a,10bは、機器5A~5Cの稼働状態を示す稼働データを取得するデータ取得部11と、前記稼働データの確率密度を推定する確率密度推定部12,12a,12bと、前記稼働データの確率密度推定結果と第1の予測モデルとに基づいて、前記機器に異常(例えば、シリンダの失火)が発生するかどうかを予測する異常予測部14,14a,14bと、を備える。
これにより、機器の個体差の影響を受けずに異常発生の予測を行うことができる。その為、例えば、機器5Aで発生した異常データを用いて学習した予測モデルを、同型、同機種などの類似機器5B,5Cの監視に適用し、異常の発生を予測することができる。
機器5A~5Cは、ガスエンジン、ガスタービン、蒸気タービン、圧縮機、ボイラ、冷凍機、空調機などであってよい。
【0066】
(2)第2の態様に係る予測装置10,10a,10bは、(1)の予測装置10,10a,10bであって、の前記確率密度推定部12,12a,12bは、変分ベイズ法により前記確率密度を推定する。
これにより、稼働データが連続データ、多変量データ、分布が複雑なデータであっても、確率密度推定が可能になる。
【0067】
(3)第3の態様に係る予測装置10a,10bは、(1)~(2)の予測装置10a,10bであって、前記確率密度推定部12a,12bは、前記機器5A~5Cの運転モード別に前記稼働データの確率密度を推定し、前記異常予測部14a,14bは、前記運転モード別の確率密度の推定結果と、前記運転モード別の第2の予測モデルとに基づいて前記運転モード別に異常の発生の予測を行う。
これにより、複数の運転モードが存在し、その一部の運転モードで機器5A~5Cを稼働する割合が、他の運転モードで異常が発生する確率密度の推定結果と同等に低い場合でも、前記一部の運転モードでの稼働を異常が発生する予兆であると認識して誤った異常予測を行うことなく、異常発生の予兆となる確率密度の低下を捉えて異常予測を行うことができる。
【0068】
(4)第4の態様に係る予測装置10a,10bは、(3)の予測装置10a,10bであって、前記機器5A~5Cは、回転機械であって、前記確率密度推定部12a、12bは、前記機器5A~5Cの出力と回転数とに基づいて前記運転モードを判別する。
これにより、機器5A~5Cの運転モードを判別することができる。
【0069】
(5)第5の態様に係る予測装置10bは、(3)~(4)の予測装置10bであって、前記確率密度推定部12bは、前記稼働データの確率密度と、前記運転モード別の前記稼働データの確率密度とを推定し、前記異常予測部14bが、前記稼働データの確率密度の推定結果および前記第1の予測モデルに基づいて前記機器に異常が発生するかどうかを予測するとともに、前記運転モード別の確率密度の推定結果および前記第2の予測モデルに基づいて前記運転モード別に異常の発生の予測を行う。
これにより、性質の異なる稼働データ(個体差が大きく運転モードの影響が少ない稼働データ、個体差が大きく運転モードの影響が大きい稼働データ)を利用して複数の予測方法によって異常予測を行うことができるため、予測精度の向上が期待できる。
【0070】
(6)第6の態様に係る予測装置10bは、(5)の予測装置10bであって、前記異常予測部14bの予測とその予測に対する前記異常が発生したかどうかの実績とに基づいて、前記予測の信頼度を算出する信頼度算出部18、をさらに備え、前記信頼度算出部18は、前記第1の予測モデルおよび前記第2の予測モデルのそれぞれに基づく予測値の組み合わせごとに前記信頼度を算出する。
これにより、ユーザは、予測結果についての信頼度を把握することができる。
【0071】
(7)第7の態様に係る予測装置10は、(1)または(2)の予測装置10であって、所定期間における前記稼働データから推定した前記確率密度の推定結果と、前記稼働データを取得した機器に前記所定期間において異常が発生したか否かを示す情報とが対応付けられた学習データとに基づいて、当該機器に前記異常が発生するかどうかを予測する予測モデルを作成する予測モデル作成部13、をさらに備える。
【0072】
(8)第8の態様に係る予測装置10、10bは、機器の稼働状態を示す稼働データを取得するデータ取得部11と、前記稼働データの確率密度を推定する確率密度推定部12、12bと、所定期間における前記稼働データから推定した前記確率密度の推定結果と、前記稼働データを取得した機器に前記所定期間において異常が発生したか否かを示す情報とが対応付けられた学習データに基づいて、当該機器に前記異常が発生するかどうかを予測する予測モデルを作成する予測モデル作成部13、13bと、を備える予測装置。
第7、第8の態様によれば、機器の個体差の影響を受けない予測を可能とする予測モデルを作成することができる。
【0073】
(9)第9の態様に係る予測方法は、予測装置が、機器の稼働状態を示す稼働データを取得するステップと、前記稼働データの確率密度を推定するステップと、前記稼働データの確率密度の推定結果と予測モデルとに基づいて、前記機器に異常が発生するかどうかを予測するステップと、を有する。
【0074】
(10)第10の態様に係るプログラムは、コンピュータを、機器の稼働状態を示す稼働データを取得する手段、前記稼働データの確率密度を推定する手段、前記稼働データの確率密度の推定結果と予測モデルとに基づいて、前記機器に異常が発生するかどうかを予測する手段、として機能させる。
【符号の説明】
【0075】
1、1a、1b・・・予測システム
10、10a、10b・・・予測装置
11・・・データ取得部
12、12a、12b・・・確率密度推定部
13、13a、13b・・・予測モデル作成部
14、14a、14b・・・異常予測部
15・・・出力部
16・・・記憶部
17・・・設定部
18・・・信頼度算出部
900・・・コンピュータ
901・・・CPU
902・・・主記憶装置
903・・・補助記憶装置
904・・・入出力インタフェース
905・・・通信インタフェース
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15