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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-15
(54)【発明の名称】噴射量算出装置、及び、噴射量制御方法
(51)【国際特許分類】
   F01N 3/08 20060101AFI20231108BHJP
   B01D 53/94 20060101ALI20231108BHJP
【FI】
F01N3/08 G
B01D53/94 222
B01D53/94 ZAB
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020031776
(22)【出願日】2020-02-27
(65)【公開番号】P2021134728
(43)【公開日】2021-09-13
【審査請求日】2022-12-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000005463
【氏名又は名称】日野自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(72)【発明者】
【氏名】堤 宗近
(72)【発明者】
【氏名】成田 洋紀
(72)【発明者】
【氏名】仲田 勇人
【審査官】小川 克久
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-070566(JP,A)
【文献】特開2014-137044(JP,A)
【文献】特開2010-209852(JP,A)
【文献】特開2009-197728(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 3/08
B01D 53/94
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気ガスに含まれる窒素酸化物を還元するための還元触媒が設けられた車両に搭載されており、前記還元触媒への尿素水の噴射量を算出する噴射量算出装置であって、
前記車両における現在のセンサ値の入力を受け、現在の前記センサ値と、前記還元触媒におけるアンモニア吸着量の目標値とに基づいて、前記アンモニア吸着量が前記目標値に近づくように前記噴射量を算出する第1噴射量算出部と、
現在の前記センサ値の入力を受け、現在の前記センサ値に基づいた将来予測によって、前記目標値の修正値である修正目標値を算出する将来予測部と、
を備え、
前記第1噴射量算出部は、前記将来予測部が算出した前記修正目標値に基づいて前記噴射量を算出し、
前記将来予測部は、
現在の前記センサ値と、現在の前記目標値である現在目標値とに基づいて、前記アンモニア吸着量が前記現在目標値に近づくように前記噴射量を算出する第2噴射量算出部と、
前記第2噴射量算出部が算出した前記噴射量と、前記現在目標値よりも大きく設定された第1仮目標値と、に基づいた将来予測によって、前記第1仮目標値のコストである第1コストを算出する第1コスト算出部と、
前記第2噴射量算出部が算出した前記噴射量と、前記現在目標値よりも小さく設定された第2仮目標値と、に基づいた将来予測によって、前記第2仮目標値のコストである第2コストを算出する第2コスト算出部と、
前記第1コストと前記第2コストとを比較することにより、前記第1仮目標値と前記第2仮目標値のうちの、より小さなコストを与える一方を前記修正目標値として設定する修正目標値設定部と、
を有する、
噴射量算出装置。
【請求項2】
前記将来予測部は、前記センサ値のうち、前記車両の前記還元触媒を含む触媒ユニットに導入される前の排気ガス温度を用いて前記将来予測を行う、
請求項1に記載の噴射量算出装置。
【請求項3】
前記第1コスト算出部は、前記還元触媒におけるアンモニアのスリップ量が大きくなるほど大きな値となるように前記第1コストを算出し、
前記第2コスト算出部は、前記還元触媒におけるアンモニアのスリップ量が大きくなるほど大きな値となるように前記第2コストを算出する、
請求項1又は2に記載の噴射量算出装置。
【請求項4】
車両の排気ガスに含まれる窒素酸化物を還元するための還元触媒への尿素水の噴射量を制御するための噴射量制御方法であって、
前記車両における現在のセンサ値に基づいた将来予測により、前記還元触媒においてアンモニアスリップが発生すると予測された場合に、前記還元触媒におけるアンモニア吸着量の目標値を低く修正する目標値修正工程と、
前記アンモニア吸着量が前記目標値修正工程で修正された目標値に近づくように前記噴射量を制御する噴射量制御工程と、
を備え、
前記目標値修正工程では、
現在の前記センサ値と、現在の前記目標値である現在目標値とに基づいて、前記アンモニア吸着量が前記現在目標値に近づくように前記噴射量を算出し、
当該算出した前記噴射量と、前記現在目標値よりも大きく設定された第1仮目標値と、に基づいた将来予測によって、前記第1仮目標値のコストである第1コストを算出し、
当該算出した前記噴射量と、前記現在目標値よりも小さく設定された第2仮目標値と、に基づいた将来予測によって、前記第2仮目標値のコストである第2コストを算出し、
前記第1コストと前記第2コストとを比較することにより、前記第1仮目標値と前記第2仮目標値のうちの、より小さなコストを与える一方に前記目標値を修正する、
噴射量制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、噴射量算出装置、及び、噴射量制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、排気浄化システムが記載されている。この排気浄化システムは、エンジンの排気管に順に設けられた酸化触媒、DPF、及び、選択還元触媒を有している。また、この排気浄化システムは、DPFと選択還元触媒との間に尿素水を噴射するためのインジェクタを有している。選択還元触媒は、アンモニア等の還元剤が存在する雰囲気下で、排気中のNOxを選択的に還元する。インジェクタは、制御装置で発生した駆動パルスが印加されると開弁し、尿素水を選択還元触媒の上流側に噴射する。インジェクタにより噴射された尿素水は、排気の熱により熱分解又は加水分解される。これにより、還元剤としてのアンモニアが生成される。生成されたアンモニアは、選択還元触媒に供給される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-11255号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述した排気浄化システム等が搭載された車両の運転状態が、軽負荷から高付加に急激に変化した場合(例えば急加速が生じた場合)、図4に示されるように、まず、排ガス流量F1及び排気温度T1が上昇する。その後、排気温度T1の上昇から遅れて、触媒上流温度T2及び触媒温度T3が上昇する。触媒温度T3が上昇すると、選択還元触媒におけるアンモニアの吸着可能量が減少する。このため、触媒温度T3の上昇が検出された場合には、アンモニアスリップの増大を避ける目的から、選択還元触媒におけるアンモニアの吸着量の目標値Q1を低減させ、選択還元触媒への尿素水の噴射量I1を低減させることが考えられる(図4の(c)のQ2は、実際のアンモニアの吸着量(計算値)を示す)。
【0005】
一方、車両の運転状態が軽負荷から高付加に急激に変化した時点では、触媒温度T3の上昇が生じていないため、元々の高い目標値Q1に応じた噴射量I1での尿素水の噴射が行われている。このため、上述した様に、その後に触媒温度T3が上昇した際には、アンモニアが吸着可能量を超えて選択還元触媒に供給されることとなり、アンモニアスリップS1が増加してしまう。このようなアンモニアスリップS1の増加が発生しないように目標値Q1を一定のマージンをもって低下させると、NOx低減性能の低下を招いてしまう。
【0006】
そこで、本発明は、NOx低減性能の低下を抑制すると共にアンモニアスリップを抑制可能な噴射量算出装置、及び、噴射量制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る噴射量算出装置は、排気ガスに含まれる窒素酸化物を還元するための還元触媒が設けられた車両に搭載されており、還元触媒への尿素水の噴射量を算出する噴射量算出装置であって、車両における現在のセンサ値の入力を受け、現在のセンサ値と、還元触媒におけるアンモニア吸着量の目標値とに基づいて、アンモニア吸着量が目標値に近づくように噴射量を算出する第1噴射量算出部と、現在のセンサ値の入力を受け、現在のセンサ値に基づいた将来予測によって、目標値の修正値である修正目標値を算出する将来予測部と、を備え、第1噴射量算出部は、将来予測部が算出した修正目標値に基づいて噴射量を算出する。
【0008】
また、本発明に係る噴射量制御方法は、車両の排気ガスに含まれる窒素酸化物を還元するための還元触媒への尿素水の噴射量を制御するための噴射量制御方法であって、車両における現在のセンサ値に基づいた将来予測により、還元触媒においてアンモニアスリップが発生すると予測された場合に、還元触媒におけるアンモニア吸着量の目標値を低く修正する目標値修正工程と、アンモニア吸着量が目標値修正工程で修正された目標値に近づくように噴射量を制御する噴射量制御工程と、を備える。
【0009】
これらの装置及び方法では、車両の現在のセンサ値に基づいた将来予測によって、還元触媒におけるアンモニア吸着量の目標値を修正する。よって、例えば現時点のアンモニア吸着量の目標値に応じた尿素水の噴射量では、将来的にアンモニアスリップの増加が見込まれるような状況では、当該アンモニアスリップが発生しないようにアンモニア吸着量の目標値を小さく修正可能である。一方で、将来的にアンモニアスリップの増加が予測されないよう状況では、アンモニア吸着量の目標値を不必要に小さく修正することを避けることが可能である。よって、これらの装置及び方法によれば、NOx低減性能の低下が抑制可能であると共にアンモニアスリップが抑制可能である。
【0010】
一方、この装置においては、アンモニア吸着量が目標値に近づくように尿素水の噴射量を算出する部分(第1噴射量算出部)と、将来予測によって当該目標値の修正値である修正目標値を算出する部分(将来予測部)とが別個に構成されており、且つ、それぞれに対して車両のセンサ値が入力される。よって、例えば、相対的に高負荷である将来予測部に対して、車両に搭載されたコンピュータの専用のコアを用意しつつ、相対的に低負荷である第1噴射量算出部を別のコアに振り分けることが可能である。
【0011】
本発明に係る噴射量算出装置においては、将来予測部は、センサ値のうち、車両の還元触媒を含む触媒ユニットに導入される前の排気ガス温度を用いて将来予測を行ってもよい。このように、例えば触媒温度等と比較して、運転状況の変化に対して応答の早い排気ガス温度を用いて将来予測を行うことにより、より適切なアンモニア吸着量の目標値の修正が可能となる。
【0012】
本発明に係る噴射量算出装置においては、将来予測部は、現在のセンサ値と、現在の目標値である現在目標値とに基づいて、アンモニア吸着量が現在目標値に近づくように噴射量を算出する第2噴射量算出部と、第2噴射量算出部が算出した噴射量と、現在目標値よりも大きく設定された第1仮目標値と、に基づいた将来予測によって、第1仮目標値のコストである第1コストを算出する第1コスト算出部と、第2噴射量算出部が算出した噴射量と、現在目標値よりも小さく設定された第2仮目標値と、に基づいた将来予測によって、第2仮目標値のコストである第2コストを算出する第2コスト算出部と、第1コストと第2コストとを比較することにより、第1仮目標値と第2仮目標値のうちの、より小さなコストを与える一方を修正目標値として設定する修正目標値設定部と、を有してもよい。このように、アンモニア吸着量の目標値の修正のための将来予測に対して、コストを導入することにより、将来予測部の負荷が低減される。
【0013】
本発明に係る噴射量算出装置においては、第1コスト算出部は、還元触媒におけるアンモニアのスリップ量が大きくなるほど大きな値となるように第1コストを算出し、第2コスト算出部は、還元触媒におけるアンモニアのスリップ量が大きくなるほど大きな値となるように第2コストを算出してもよい。この場合、アンモニアスリップを確実に低減できる。この結果、アンモニアスリップ触媒の小型化による原価低減が実現され得る。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、NOx低減性能の低下を抑制すると共にアンモニアスリップを抑制可能な噴射量算出装置、及び、噴射量制御方法を提供することできる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】排気浄化装置の一例を示す模式図である。
図2図1に示された制御装置の一部の機能的な構成を示す図である。
図3】排気浄化装置における各値の時間変化を示すグラフである。
図4】排気浄化装置における各値の時間変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本実施形態について図面を参照して詳細に説明する。図1は、排気浄化装置の一例を示す模式図である。図1に示される排気浄化装置100は、例えばディーゼルエンジン50を備える車両に搭載されている。排気浄化装置100は、制御装置(噴射量算出装置)1と、触媒ユニット110と、噴射部120と、を備えている。触媒ユニット110は、排気マニホルド52を介してディーゼルエンジン50の排気ポートに接続された排気管101に設けられている。触媒ユニット110は、排気管101の上流側から順に配置された酸化触媒103、DPF(Diesel Particulate Filter)104、選択還元触媒(還元触媒)105、及び、アンモニア低減触媒106を含む。
【0017】
酸化触媒103は、排気ガスAの酸化処理を行う。DPF104は、排気ガスA中の微粒子状物質を捕集する。選択還元触媒105は、還元剤の供給を受け、排気ガスA中の窒素酸化物を還元する。還元剤は、例えばアンモニアである。噴射部120は、選択還元触媒105に対して尿素水を噴射する(排気ガスAに尿素水を添加する)。これにより、尿素水がアンモニアと炭酸ガスとに熱分解され、選択還元触媒105にアンモニアが供給される。
【0018】
選択還元触媒105は、アンモニアを用いて排気ガスA中の窒素酸化物を還元する。アンモニア低減触媒106は、余剰のアンモニアを酸化処理する。なお、排気浄化装置100は、ディーゼルエンジン50と排気管101との接続部と触媒ユニット110との間において排気管101に設けられたATC(After Turbo Catalyst)102をさらに備えてもよい。
【0019】
また、排気浄化装置100は、温度センサ107,108,109を備えている。温度センサ107は、ディーゼルエンジン50と排気管101との接続部の直下であって、触媒ユニット110の上流側(ここではATC102の更に上流側)に設けられている。温度センサ107は、触媒ユニット110の上流側における排気ガスAの温度(以下、「排気ガス温度」という場合がある)を検出して制御装置1に入力する。
【0020】
温度センサ108は、触媒ユニット110内において、選択還元触媒105の上流側に設けられている。温度センサ108は、選択還元触媒105の上流側における排気ガスAの温度(以下、「触媒上流温度」という場合がある)を検出して制御装置1に入力する。温度センサ109は、選択還元触媒105に設けられている。温度センサ109は、選択還元触媒105の温度(以下、「触媒温度」という場合がある)を検出して制御装置1に入力する。
【0021】
制御装置1は、上述した様に、温度センサ107~109を用いて、排気ガス温度、触媒上流温度、及び、触媒温度を取得可能とされている。また、制御装置1は、図示しない他のセンサを用いて、排気ガスAの流量、噴射部120における尿素水の噴射量、外気温、排気ガスA中の酸素濃度、選択還元触媒105の上流側における排気ガスA中の窒素酸化物の濃度等を取得可能とされている。
【0022】
制御装置1は、物理的には、CPU(Central Processing Unit)、主記憶装置であるRAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、データ送受信デバイスである通信モジュール等を含むコンピュータシステムとして構成されている。以下の図2に示される各機能部は、上記のハードウェア上に所定のプログラムを読み込ませることにより、CPUの制御のもとで、通信モジュールを動作させるとともにRAM等におけるデータの読み出し及び書き込みを行うことで実現され得る。
【0023】
図2は、図1に示された制御装置の一部の機能的な構成を示す図である。図2に示される制御装置1は、選択還元触媒105への尿素水の噴射量を算出する噴射量算出装置として機能する。そのために、制御装置1は、算出部(第1噴射量算出部)10と予測部(将来予測部)20とを備えている。算出部10は、吸着量算出部11と噴射量算出部12とを含む。
【0024】
吸着量算出部11は、車両の現在のセンサ値A1の入力を受け、センサ値A1に基づいて選択還元触媒105における現在のアンモニア吸着量を算出する。センサ値A1は、上述したように制御装置1が取得可能な各種の値であり、一例として排気ガス温度である。吸着量算出部11は、算出したアンモニア吸着量A2を噴射量算出部12に出力する。
【0025】
噴射量算出部12は、吸着量算出部11からアンモニア吸着量A2の入力を受ける。噴射量算出部12は、アンモニア吸着量A2(すなわち、センサ値A1)と選択元触媒におけるアンモニア吸着量の目標値とに基づいて、アンモニア吸着量A2が当該目標値に近づくように、噴射部120からの尿素水の噴射量を算出する。アンモニア吸着量の目標値は、予め設定されている。制御装置1は、噴射量算出部12が算出した噴射量での尿素水の噴射が行われるように、噴射部120に対して制御信号を出力する。
【0026】
予測部20は、リファレンスガバナ制御といった予測制御による将来予測によって、アンモニア吸着量の目標値を修正する。そのために、予測部20は、噴射量算出部(第2噴射量算出部)21、モデル生成部22、コスト算出部(第1コスト算出部、第2コスト算出部)23、及び、目標値設定部(修正目標値設定部)24と、を含む。噴射量算出部21は、車両の現在のセンサ値B1の入力を受ける。センサ値B1は、センサ値A1と同様に、制御装置1が取得可能な各種の値である。
【0027】
噴射量算出部21は、現在のセンサ値B1と、アンモニア吸着量の現在の目標値である現在目標値とに基づいて、アンモニア吸着量が現在目標値に近づくように尿素水の噴射量を算出する。噴射量算出部21は、算出した尿素水の噴射量B2をモデル生成部22に出力する。モデル生成部22は、噴射量B2の入力を受け、噴射量B2と現在目標値とに基づいた将来予測のモデルを生成する。
【0028】
ここでは、モデル生成部22は、噴射量B2と、現在目標値よりも大きく設定された第1仮目標値と、に基づいた将来予測のための第1モデルを生成する。また、モデル生成部22は、噴射量B2と、現在目標値よりも小さく設定された第2仮目標値と、に基づいた将来予測のための第2モデルを生成する。モデル生成部22は、生成した第1モデル及び第2モデルを示す情報B3をコスト算出部23に出力する。
【0029】
コスト算出部23は、情報B3の入力を受け、第1モデルによる将来予測によって第1仮目標値のコストである第1コストを算出すると共に、第2モデルによる将来予測によって第2仮目標値のコストである第2コストを算出する。より具体的には、コスト算出部23は、選択還元触媒105におけるアンモニアのスリップ量が大きくなるほど大きな値となるように第1コストを算出すると共に、選択還元触媒105におけるアンモニアのスリップ量が大きくなるほど大きな値となるように第2コストを算出する。
【0030】
このように、コスト算出部23は、第1コストを算出する第1コスト算出部及び第2コストを算出する第2コスト算出部として機能する。コスト算出部23は、算出した第1コスト及び第2コストを示す情報B4を目標値設定部24に出力する。
【0031】
目標値設定部24は、情報B4の入力を受け、第1コストと第2コストとを比較することにより、第1仮目標値と第2仮目標値のうちの、より小さなコストを与える一方を修正目標値として設定する。一例として、目標値設定部24は、第1仮目標値に基づいた第1モデルでの将来予測によって算出された第1コストが、第2仮目標値に基づいた第2モデルでの将来予測によって算出された第2コストよりも小さい場合には、第1仮目標値を修正目標値と設定する。
【0032】
予測部20では、以上の一連の動作を繰り返し実施することにより、修正目標値を更新することができる。すなわち、予測部20では、目標値設定部24が設定した修正目標値を基準とした仮目標値(第1及び第2仮目標値)に応じてモデル(第1及び第2モデル)を生成すると共に、当該モデルのコスト(第1及び第2コスト)を算出して比較することにより、修正目標値をさらに修正することができる。このように、予測部20では、所定の回数(或いは、所定の閾値以下のコストを与える目標値が得られるまで)、将来予測及び目標値の修正を繰り返すことができる。
【0033】
目標値設定部24は、設定した(修正した)修正目標値B5を算出部10の噴射量算出部12に出力する。したがって、噴射量算出部12は、予測部20が算出した修正目標値に基づいて、尿素水の噴射量を算出することができる。
【0034】
以上のように、制御装置1では、尿素水の噴射量を制御するための噴射量制御方法が実施される。特に、上述した様に、第1コスト及び第2コストが、アンモニアスリップを考慮したものとされている(アンモニアスリップが生じる場合に、アンモニアスリップが生じない場合よりも大きくなる)。換言すれば、制御装置1では、車両における現在のセンサ値B1に基づいた将来予測により、選択還元触媒105においてアンモニアスリップが発生すると予測された場合に、選択還元触媒105におけるアンモニア吸着量の目標値を低く修正する目標値修正工程と、アンモニア吸着量が目標値修正工程で修正された目標値に近づくように尿素水の噴射量を制御する噴射量制御工程と、を実施することとなる。
【0035】
引き続いて、排気浄化装置100の作用・効果について説明する。車両の運転状態が、軽負荷から高付加に急激に変化した場合(例えば急加速が生じた場合)、図3に示されるように、まず、排ガス流量F1及び排気温度T1が上昇する。その後、排気温度T1の上昇から遅れて、触媒上流温度T2及び触媒温度T3が上昇する。
【0036】
触媒温度T3が上昇すると、選択還元触媒105におけるアンモニアの吸着可能量が減少する。このため、触媒温度T3の上昇が検出された場合には、アンモニアスリップの増大を避ける目的から、選択還元触媒におけるアンモニアの吸着量の目標値Q1を低減させ、選択還元触媒への尿素水の噴射量I1を低減させることが考えられる(図3の(c)のQ2は、実際のアンモニアの吸着量(計算値)を示す)。
【0037】
一方、車両の運転状態が軽負荷から高付加に急激に変化した時点では、触媒温度T3の上昇が生じていないため、元々の高い目標値Q1に応じた噴射量I1での尿素水の噴射が行われている。このため、上述した様に、その後に触媒温度T3が上昇した際には、アンモニアが吸着可能量を超えて選択還元触媒に供給されることとなり、アンモニアスリップS1が増加してしまう。このようなアンモニアスリップS1の増加が発生しないように、目標値Q1を一定のマージンをもって低下させると、NOx低減性能の低下を招いてしまう。
【0038】
これに対して、制御装置1、及び、制御装置1の噴射量制御方法では、車両の現在のセンサ値B1に基づいた将来予測によって、選択還元触媒105におけるアンモニア吸着量の目標値Q1を修正する(図3の(c)のQ3は、修正された目標値を示す)。よって、例えば現時点のアンモニア吸着量の目標値Q1に応じた尿素水の噴射量では、将来的にアンモニアスリップS1の増加が見込まれるような状況では、当該アンモニアスリップS1が発生しないようにアンモニア吸着量の目標値Q1を小さく修正可能である。これにより、図3の(e)に示されるように、アンモニアスリップS2の増大が避けられる。一方で、将来的にアンモニアスリップの増加が予測されないよう状況では、アンモニア吸着量の目標値Q1を不必要に小さく修正することを避けることが可能である。よって、制御装置1、及び、制御装置1の噴射量制御方法によれば、NOx低減性能の低下が抑制可能であると共にアンモニアスリップが抑制可能である。
【0039】
一方、制御装置1においては、アンモニア吸着量が目標値に近づくように尿素水の噴射量を算出する部分(算出部10)と、将来予測によって当該目標値の修正値である修正目標値を算出する部分(予測部20)とが別個に構成されており、且つ、それぞれに対して車両のセンサ値A1,B1が入力される。よって、例えば、相対的に高負荷である予測部20に対して、車両に搭載されたコンピュータの専用のコアを用意しつつ、相対的に低負荷である算出部10を別のコアに振り分けることが可能である。
【0040】
また、制御装置1においては、予測部20は、センサ値B1のうち、選択還元触媒105を含む触媒ユニット110に導入される前の排気ガス温度を用いて将来予測を行うことができる。このように、例えば触媒温度等と比較して、運転状況の変化に対して応答の早い排気ガス温度を用いて将来予測を行うことにより、より適切なアンモニア吸着量の目標値の修正が可能となる。
【0041】
また、制御装置1においては、予測部20は、現在のセンサ値B1と、現在の目標値である現在目標値とに基づいて、アンモニア吸着量が現在目標値に近づくように噴射量を算出する噴射量算出部21と、噴射量算出部21が算出した噴射量と、現在目標値よりも大きく設定された第1仮目標値と、に基づいた将来予測によって、第1仮目標値のコストである第1コストを算出する第1コスト算出部(コスト算出部23)と、噴射量算出部21が算出した噴射量と、現在目標値よりも小さく設定された第2仮目標値と、に基づいた将来予測によって、第2仮目標値のコストである第2コストを算出する第2コスト算出部(コスト算出部23)と、第1コストと第2コストとを比較することにより、第1仮目標値と第2仮目標値のうちの、より小さなコストを与える一方を修正目標値として設定する目標値設定部24と、を有している。このように、アンモニア吸着量の目標値の修正のための将来予測に対して、コストを導入することにより、予測部20の負荷が低減される。
【0042】
さらに、制御装置1においては、コスト算出部23は、選択還元触媒105におけるアンモニアスリップが大きくなるほど大きな値となるように第1コストを算出すると共に、アンモニアスリップが大きくなるほど大きな値となるように第2コストを算出する。このため、アンモニアスリップを確実に低減できる。この結果、アンモニアスリップ触媒(例えばアンモニア低減触媒106)の小型化による原価低減が実現され得る。
【0043】
以上の実施形態は、本発明の一形態を説明したものである。したがって、本発明は、上記実施形態に限定されることなく変形され得る。
【符号の説明】
【0044】
1…制御装置(噴射量算出装置)、10…算出部(第1噴射量算出部)、20…予測部(将来予測部)、21…噴射量算出部(第2噴射量算出部)、23…コスト算出部(第1コスト算出部、第2コスト算出部)、24…目標値設定部(修正目標値設定部)、105…選択還元触媒(還元触媒)。
図1
図2
図3
図4