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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-15
(54)【発明の名称】ツインスクロールターボ
(51)【国際特許分類】
   F02B 39/00 20060101AFI20231108BHJP
【FI】
F02B39/00 E
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2020034750
(22)【出願日】2020-03-02
(65)【公開番号】P2021139292
(43)【公開日】2021-09-16
【審査請求日】2022-12-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000005463
【氏名又は名称】日野自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100133064
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 新
(72)【発明者】
【氏名】目黒 陽
【審査官】櫻田 正紀
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-516012(JP,A)
【文献】国際公開第2016/051531(WO,A1)
【文献】特開平08-109801(JP,A)
【文献】特開2002-349202(JP,A)
【文献】特開2018-172989(JP,A)
【文献】特開2013-136993(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 39/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エキゾーストマニホールドからタービンハウジングに収容されたタービンに排気を導入する流路が第1スクロールと第2スクロールとに分割されたツインスクロールターボであって、
前記タービンは、複数のタービン翼を有し、
前記タービンの複数存在する互いに隣接する前記タービン翼の間における前記排気の下流端部の流路断面積の総和であるインペラ出口スロート面積に対して、前記第1スクロールにおける前記排気の下流端部の流路断面積と第2スクロールにおける前記排気の下流端部の流路断面積との合計の比が、0.9以上であって1.1以下であり、
前記タービンにおける前記排気の上流端部の直径に対する前記タービンにおける前記排気の下流端部の直径の比の2乗が、90%以上であって95%以下である、ツインスクロールターボ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ツインスクロールターボに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用のターボチャージャにおいて、排気脈動のエネルギーを有効利用し、低速域の過給圧を高める手段として、エキゾーストマニホールドからタービンハウジングに収容されたタービンに排気を導入する流路が2つのスクロールに分割されたツインスクロールターボが知られている。例えば、特許文献1には、一方のスクロールの流路断面積が他方のスクロールの流路断面積よりも大きいツインスクロールターボが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-172989号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記特許文献1のようなツインスクロールターボでは、低速域の過給圧を高めることが可能であるが、単一のスクロールを備えたターボチャージャに比べて同一の空気量におけるポンピングロスが大きい問題がある。
【0005】
そこで本発明は、同一の空気量におけるポンピングロスを低減できるツインスクロールターボを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、エキゾーストマニホールドからタービンハウジングに収容されたタービンに排気を導入する流路が第1スクロールと第2スクロールとに分割されたツインスクロールターボであって、タービンは、複数のタービン翼を有し、タービンの複数存在する互いに隣接するタービン翼の間における排気の下流端部の流路断面積の総和であるインペラ出口スロート面積に対して、第1スクロールにおける排気の下流端部の流路断面積と第2スクロールにおける排気の下流端部の流路断面積との合計の比が、0.9以上であって1.1以下であり、タービンにおける排気の上流端部の直径に対するタービンにおける排気の下流端部の直径の比の2乗が、90%以上であって95%以下であるツインスクロールターボである。
【0007】
この構成によれば、エキゾーストマニホールドからタービンハウジングに収容されたタービンに排気を導入する流路が第1スクロールと第2スクロールとに分割されたツインスクロールターボにおいて、タービンの複数存在する互いに隣接するタービン翼の間における排気の下流端部の流路断面積の総和であるインペラ出口スロート面積に対して、第1スクロールにおける排気の下流端部の流路断面積と第2スクロールにおける排気の下流端部の流路断面積との合計の比が、0.9以上であって1.1以下であり、タービンにおける排気の上流端部の直径に対するタービンにおける排気の下流端部の直径の比の2乗が、90%以上であって95%以下であるため、容量が過少となることを低減しつつ、効率を高め、チョークを低減できる。したがって、同一の空気量においてポンピングロスを低減できる。
【発明の効果】
【0008】
本発明のツインスクロールターボによれば、同一の空気量におけるポンピングロスを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態に係るツインスクロールターボを示す図である。
図2】タービンハウジングに収容されたタービンを示す斜視図である。
図3】(A)はタービンの回転軸に直交する断面による第1スクロールの断面図であり、(B)はタービンの回転軸に直交する断面による第2スクロールの断面図である。
図4】タービンの側面図である。
図5】(A)は異なる面積比のそれぞれにおけるπに対するタービン効率を示すグラフであり、(B)は異なる面積比のそれぞれにおけるπに対する流量を示すグラフである。
図6】実施形態のツインスクロールターボと従来のツインスクロールターボのそれぞれにおけるスクロール舌部面積に対する面積比を示すグラフである。
図7】クランク角に対するエキゾーストマニホールドの圧力を示すグラフである。
図8】実施形態のツインスクロールターボと従来のツインスクロールターボのそれぞれにおけるポンピングロスを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態に係るツインスクロールターボについて、図面を用いて詳細に説明する。まず、本実施形態のツインスクロールターボの構成について説明する。本実施形態のツインスクロールターボ2は、例えば、車両のツインスクロールターボシステム1に組み込まれて適用される。図1に示されるように、例えば、4気筒のエンジンEのツインスクロールターボシステム1は、エンジンEの第1気筒Ea,第2気筒Eb,第3気筒Ec及び第4気筒Edに吸入空気を分配するためのインテークマニホールド3と、第1気筒Ea,第2気筒Eb,第3気筒Ec及び第4気筒Edの排気ポートに接続され、各排気ポートから排出された排気Gを2系統に集約して排出するエキゾーストマニホールド4とを備えている。
【0011】
ツインスクロールターボ2は、吸入経路1aを介してインテークマニホールド3に接続されたコンプレッサ5と、エキゾーストマニホールド4に接続されたツインスクロールタービン6とを備えている。コンプレッサ5とインテークマニホールド3とを接続する吸入経路1aには、インタークーラーやスロットルバルブ等が配置されている。
【0012】
コンプレッサ5は、コンプレッサハウジング5aと、コンプレッサハウジング5aに収納されたコンプレッサインペラ5bとを備え、ツインスクロールタービン6は、タービンハウジング7と、タービンハウジング7の収容室7dに収納されたタービン8とを備えている。タービン8は回転軸21の一方の端部に設けられており、コンプレッサインペラ5bは回転軸21の他方の端部に設けられている。タービンハウジング7とコンプレッサハウジング5aとの間には、不図示の軸受ハウジングが設けられている。回転軸21は、軸受を介して軸受ハウジングに回転可能に支持されており、回転軸21、コンプレッサインペラ5b及びタービン8は一体の回転体として回転軸線Xを中心に回転する。
【0013】
コンプレッサハウジング5aには、吸入部5c及び排出部5dが設けられている。タービン8が回転すると、回転軸21を介してコンプレッサインペラ5bが回転する。回転するコンプレッサインペラ5bは、吸入部5cを通じて外部の空気を吸入し、圧縮して排出部5dから排出する。排出部5dから排出された空気は、吸入経路1a及びインテークマニホールド3を介してエンジンEの第1気筒Ea,第2気筒Eb,第3気筒Ec及び第4気筒Edに供給される。
【0014】
エキゾーストマニホールド4は、第2気筒Eb及び第3気筒Ecの排気を集約する第1集約路4aと、第1気筒Ea及び第4気筒Edの排気を集約する第2集約路4bとを備えている。タービンハウジング7は、第1集約路4aに接続された第1排気経路7aと、第2集約路4bに接続された第2排気経路7bと、タービン8を通過した排気Gが流出する排出路7cとを備えている。エンジンEから排出された排気Gは、エキゾーストマニホールド4を通過してタービンハウジング7内に流入し、タービン8を回転させ、その後、排出路7cを通過してタービンハウジング7の外に流出する。
【0015】
図2図3(A)及び図3(B)に示されるように、タービンハウジング7には、第1排気経路7aに接続された第1スクロール11と、第2排気経路7bに接続された第2スクロール12とが設けられている。第1スクロール11と第2スクロール12とは、それぞれタービン8の収容室7dに連通し、タービン8の収容室7dは排出路7cに連通している。以上の構成により、ツインスクロールターボ2では、エキゾーストマニホールド4からタービンハウジング7に収容されたタービン8に排気Gを導入する流路が第1スクロール11と第2スクロール12とに分割されている。
【0016】
図2に示されるように、タービン8は複数のタービン翼8aを有する。タービン翼8aのそれぞれは、タービン8の外周側に位置する第1スクロール11及び第2スクロール12から排気Gを供給され、排出路7cとは反対側の上流端部8bを含む。また、タービン翼8aのそれぞれは、排気Gが排出路7cを介して排出される側の下流端部8cを含む。以下、タービン8の複数存在する互いに隣接するタービン翼8aの間における排気Gの下流端部8cの流路断面積Saの総和をインペラ出口スロート面積と呼ぶ。
【0017】
図3(A)に示されるように、第1スクロール11は、タービン8の回転方向に沿うように略螺旋状の曲線を描く流路を形成し、第1スクロール11の排気Gの下流端部11aにおいてタービン8の収容室7dに連通している。下流端部11aは、タービンハウジング7で第1スクロール11を区画しつつ、第1スクロール11においてタービン8に最も近接している舌部と呼ばれる壁部の先端である。以下、第1スクロール11における排気Gの下流端部11aの流路断面積Sbを第1スクロール舌部面積と呼ぶ。
【0018】
上記の第1スクロール11と同様に、図3(B)に示されるように、第2スクロール12は、タービン8の回転方向に沿うように略螺旋状の曲線を描く流路を形成し、第2スクロール12の排気Gの下流端部12aにおいてタービン8の収容室7dに連通している。下流端部12aは、タービンハウジング7で第2スクロール12を区画しつつ、第2スクロール12においてタービン8に最も近接している舌部と呼ばれる壁部の先端である。以下、第2スクロール12における排気Gの下流端部12aの流路断面積Scを第2スクロール舌部面積と呼ぶ。さらに、以下、第1スクロール舌部面積と第2スクロール舌部面積とを合計した面積をスクロール舌部面積と呼ぶ。
【0019】
本実施形態のツインスクロールターボ2では、タービン8の複数存在する互いに隣接するタービン翼8aの間における排気Gの下流端部8cの流路断面積Saの総和、すなわちインペラ出口スロート面積に対して、第1スクロール11における排気Gの下流端部11aの流路断面積Sbと第2スクロール12における排気Gの下流端部12aの流路断面積Scとの合計、すなわちスクロール舌部面積の比が、0.9以上であって1.1以下である。以下、上記の比を面積比と呼ぶ。つまり、面積比=スクロール舌部面積/インペラ出口スロート面積である。面積比は、0.95以上であって1.05以下がより好ましく、1.0が最も好ましい。
【0020】
図4に示されるように、タービン8における排気Gの上流端部8bの直径Daは、タービン8における排気Gの下流端部8cの直径Dbに比べて僅かに大きい。本実施形態では、タービン8における排気Gの上流端部8bの直径Daに対するタービン8における排気Gの下流端部8cの直径Dbの比の2乗が90%以上であって95%以下である。以下、上記の直径Daに対する直径Dbの比の2乗をトリムと呼ぶ。つまり、トリム=(直径Db/直径Da)である。
【0021】
以下、本実施形態のツインスクロールターボ2の作用及び効果について説明する。ツインスクロールターボ2では、低速域の過給圧を高めることが可能であるが、スクロールが2つになるため、単一のスクロールを備えたシングルスクロールのターボチャージャのスクロール舌部面積に対して、第1スクロール舌部面積及び第2スクロール舌部面積のそれぞれが概ね1/2になり、ポンピングロスが増大する問題がある。
【0022】
ターボチャージャの製造業者の経験的な知見によると、上記の面積比は、シングルスクロールのターボチャージャで0.9程度が最適であり、ツインスクロールターボで1.2程度が最適と考えられている。しかしながら、これは単体評価における定常状態での知見であり、自動車エンジンのターボチャージャとして搭載されたときの排気脈動下での使用が十分に考慮されていない。
【0023】
図5(A)に異なる面積比のそれぞれにおけるπに対するタービン効率であるηtmを示し、図5(B)に異なる面積比のそれぞれにおけるπに対する流量であるG(T/P)1/2を示す。πは、排出路7cにおける排気の圧力(P)に対する第1排気経路7a及び第2排気経路7bにおける排気Gの圧力(P)であり、π=P/Pである。図5(A)及び図5(B)によると、高πの領域においては、面積比が小さい方がチョークは生じ難いことが判る。図6に示されるように、従来は高πの領域はウェイストゲートにより、チョーク特性は問題にならないと考えられ、低速時の効率が重視され、面積比が1.2~1.3程度の高めの値となる仕様が採用されている。
【0024】
しかしながら、本発明者が鋭意検討した結果、図7に示されるように、実際のツインスクロールターボにおいては、エンジンの脈動により、常時、π=1.5~4.0程度の変動が生じることが判明した。つまり、実際にはエンジンの脈動により、常時、高πの領域においても運転されていることが明らかとなった。したがって、排気脈動の影響を考慮した結果、実際には常に高πの領域においても運転されているツインスクロールターボにおいては、図5(A)及び図5(B)に示されるように、従来、最適と考えられていた1.2の面積比は過大であり、自動車用のエンジンに適したツインスクロールターボの面積比は、0.9以上であって1.1以下が好ましく、0.95以上であって1.05以下がより好ましく、1.0がさらに好ましいことが判った。そこで、本実施形態では、図6に示されるように、面積比は0.9以上であって1.1以下に設定される。
【0025】
ここで、図6に示されるように、従来、自動車用のツインスクロールターボでは、トリムは80%程度である。しかし、スクロール舌部面積を小さくすることのみによって面積比を小さくすると、容量が過少となる。そこで、出口スロート面積、すなわちタービン8における排気Gの下流端部8cの直径Dbを増やす必要がある。このため、本実施形態では、図6に示されるように、トリムは90%以上であって95%以下に設定され、従来よりも高トリムに設定される。以上のような仕様のツインスクロールターボ2では、図8に示されるように、同一空気量においてポンピングロスが低減され、燃費が向上する。
【0026】
以上より、本実施形態によれば、エキゾーストマニホールド4からタービンハウジング7に収容されたタービン8に排気を導入する流路が第1スクロール11と第2スクロール12とに分割されたツインスクロールターボ2において、タービン8の複数存在する互いに隣接するタービン翼8aの間における排気Gの下流端部8cの流路断面積Saの総和であるインペラ出口スロート面積に対して、第1スクロール11における排気Gの下流端部11aの流路断面積Sbと第2スクロール12における排気Gの下流端部12aの流路断面積Scとの合計の比が、0.9以上であって1.1以下であり、タービン8における排気Gの上流端部8bの直径Daに対するタービン8における排気Gの下流端部8cの直径Dbの比の2乗が90%以上であって95%以下であるため、容量が過少となることを低減しつつ、効率を高め、チョークを低減できる。したがって、同一の空気量におけるポンピングロスを低減できる。
【0027】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されることなく様々な形態で実施される。例えば、面積比が0.9以上であって1.1以下であり、トリムが90%以上であって95%以下である限りにおいて、ツインスクロールターボ2の各部における構成は適宜変更し得る。
【符号の説明】
【0028】
1…ツインスクロールターボシステム、1a…吸入経路、2…ツインスクロールターボ、3…インテークマニホールド、4…エキゾーストマニホールド、4a…第1集約路、4b…第2集約路、5…コンプレッサ、5a…コンプレッサハウジング、5b…コンプレッサインペラ、5c…吸入部、5d…排出部、6…ツインスクロールタービン、7…タービンハウジング、7a…第1排気経路、7b…第2排気経路、7c…排出路、7d…収容室、8…タービン、8a…タービン翼、8b…上流端部、8c…下流端部、11…第1スクロール、11a…下流端部、12…第2スクロール、12a…下流端部、21…回転軸、E…エンジン、Ea…第1気筒、Eb…第2気筒、Ec…第3気筒、Ed…第4気筒、G…排気、X…回転軸線、Sa,Sb,Sc…流路断面積、Da,Db…直径。
図1
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図3
図4
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図8