(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-15
(54)【発明の名称】制震壁における粘性流体の零れ防止構造
(51)【国際特許分類】
E04H 9/02 20060101AFI20231108BHJP
F16F 9/10 20060101ALI20231108BHJP
F16F 15/023 20060101ALI20231108BHJP
【FI】
E04H9/02 321B
F16F9/10
F16F15/023 Z
(21)【出願番号】P 2020038352
(22)【出願日】2020-03-06
【審査請求日】2022-10-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000182993
【氏名又は名称】日鉄レールウェイテクノス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504242342
【氏名又は名称】株式会社免制震ディバイス
(74)【代理人】
【識別番号】100095566
【氏名又は名称】高橋 友雄
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【氏名又は名称】小田 直
(72)【発明者】
【氏名】牧野 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】高田 裕吉
(72)【発明者】
【氏名】田中 久也
(72)【発明者】
【氏名】高橋 靖
(72)【発明者】
【氏名】東 勝広
(72)【発明者】
【氏名】籠宮 千秋
(72)【発明者】
【氏名】齊木 健司
(72)【発明者】
【氏名】中南 滋樹
(72)【発明者】
【氏名】木田 英範
(72)【発明者】
【氏名】小橋 祐人
(72)【発明者】
【氏名】高橋 泰崇
(72)【発明者】
【氏名】尾家 直樹
【審査官】廣田 かおり
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-210261(JP,A)
【文献】特開2008-025774(JP,A)
【文献】特開2000-002015(JP,A)
【文献】米国特許第06681536(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/02
F16F 9/10
F16F 15/023
F16F 15/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘性流体が充填されるとともに上端部に上方に開口する開口部を有する外壁体と、この外壁体に前記開口部を介して上方から挿入された内壁体とを備えた制震壁を、傾斜した姿勢でトラックの荷台に載せて輸送する際に、前記外壁体の前記開口部から前記粘性流体が零れ出るのを防止するための制震壁における粘性流体の零れ防止構造であって、
前記制震壁は、前記荷台に垂直な姿勢で載せられた際に、路面からの高さが所定の制限高さよりも高くなり、前記荷台に所定の角度範囲に傾斜した姿勢で載せられた際に、路面からの高さが前記制限高さ以下になるように、上下方向の長さ寸法が設定されており、
前記外壁体の上端部には、前後方向に拡幅されるとともに当該外壁体の左右方向の全体にわたって延びるように形成され、前記開口部を上端部に有する液溜まり部が設けられ、
この液溜まり部の上部には、当該液溜まり部の左右方向の全体にわたって延びかつ前記内壁体に向かって突出することにより、前記開口部を覆うように形成され、前記制震壁が前記荷台に傾斜した姿勢で載せられて輸送されるときに、前記粘性流体が前記開口部から零れ出るのを防止する零れ防止部が設けられて
おり、
前記零れ防止部は、前記外壁体に挿入された前記内壁体の前側及び後ろ側の一方にのみ設けられていることを特徴とする制震壁における粘性流体の零れ防止構造。
【請求項2】
前記制震壁は、上下方向の長さ寸法が3.3m以上に設定されていることを特徴とする請求項1に記載の制震壁における粘性流体の零れ防止構造。
【請求項3】
前記零れ防止部は、前記液溜まり部と一体成形されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の制震壁における粘性流体の零れ防止構造。
【請求項4】
前記零れ防止部は、前記液溜まり部に着脱自在に取り付けられていることを特徴とする請求項
1又は2に記載の制震壁における粘性流体の零れ防止構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物の上下階の間に設置され、内部に充填された粘性流体による減衰効果を利用して構造物の振動を抑制する制震壁に関し、特に、制震壁を輸送する際に、その制震壁から粘性流体が零れ出るのを防止する制震壁における粘性流体の零れ防止構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、制震壁として、例えば特許文献1に開示されたものが知られている。この制震壁は、下端部が構造物の下階の梁などに連結され、上方に開口した薄型箱状の収容壁と、上端部が構造物の上階の梁などに連結された状態で垂下し、収容壁に上方から挿入された板状の内壁と、収容壁内に充填された粘性流体とを備えている。このような制震壁が設置された構造物では、風揺れや地震などによる振動に伴い、構造物の上階側の梁と下階側の梁との間で、その長さ方向に相対変位が生じると、制震壁の内壁が収容壁に対して、その横幅方向に移動する。この場合、内壁には、その移動の際の速度に応じて、収容壁内の粘性流体によるせん断抵抗が作用し、内壁の移動が抑制されることで、構造物の上階と下階の相対変位が抑制される。
【0003】
上記のような制震壁は通常、完成品が工場で製造された後、輸送車両の荷台に垂直な姿勢で載せられ、構造物の建設現場に輸送される。輸送車両が道路上を走行する場合、我が国の法律上、一般道路では3.8m、高さ指定道路では4.1mの高さ制限があるため、輸送車両の荷台の高さ及び道路の高さ制限により、輸送車両で輸送可能な制震壁には、その高さ寸法に限界がある。例えば、一般道路上を輸送する場合、輸送車両として、トレーラのうち荷台の高さが最も低い超低床トレーラ(荷台高さ:0.5m)を用いるときには、最大3.3(=3.8-0.5)mの高さ寸法を有する制震壁が輸送可能であり、また、トラックのうち荷台の高さが最も低い超低床トラック(荷台高さ:1m)を用いるときには、最大2.8(=3.8-1)mの高さ寸法を有する制震壁が輸送可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、制震壁の輸送車両として超低床トレーラを用いる場合、最大3.3mの高さ寸法を有する制震壁の輸送が可能であるものの、上記トレーラを使用するために、特殊車両通行許可の申請が必要であり、その申請が許可されるまでに、比較的長い期間を要することがある。また、超低床トレーラ自体の使用にコストがかかり、加えて、通行許可の条件として、トレーラの前後に誘導車の配置が義務づけられると、輸送コストがより一層高くなってしまう。
【0006】
一方、超低床トラックを用いる場合、輸送コストは、超低床トレーラを利用する場合に比べて安価であるものの、上記トラックの荷台に、制震壁を垂直な姿勢で載せると、最大2.8mの高さ寸法を有する制震壁しか輸送することができない。そのため、高さ寸法がより高い制震壁を、超低床トラックで輸送するためには、傾斜した姿勢の状態で荷台に載せることにより、高さ寸法が2.8m以上の制震壁を輸送することが可能になる。
【0007】
しかし、例えば、3.3m以上の高さ寸法を有する制震壁を、超低床トラックで輸送しようとすると、制震壁の傾斜角度を比較的大きくする必要があり、この場合、制震壁における収容壁の上端の開口から、収容壁内の粘性流体が零れ出るおそれがある。
【0008】
本発明は、以上のような課題を解決するためになされたものであり、輸送コストを抑制するとともに粘性流体が零れ出るのを防止しながら、上下方向に所定の長さ寸法を有する制震壁を輸送することができる制震壁における粘性流体の零れ防止構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、請求項1に係る発明は、粘性流体が充填されるとともに上端部に上方に開口する開口部を有する外壁体と、この外壁体に開口部を介して上方から挿入された内壁体とを備えた制震壁を、傾斜した姿勢でトラックの荷台に載せて輸送する際に、外壁体の開口部から粘性流体が零れ出るのを防止するための制震壁における粘性流体の零れ防止構造であって、制震壁は、荷台に垂直な姿勢で載せられた際に、路面からの高さが所定の制限高さよりも高くなり、荷台に所定の角度範囲に傾斜した姿勢で載せられた際に、路面からの高さが制限高さ以下になるように、上下方向の長さ寸法が設定されており、外壁体の上端部には、前後方向に拡幅されるとともに外壁体の左右方向の全体にわたって延びるように形成され、開口部を上端部に有する液溜まり部が設けられ、この液溜まり部の上部には、液溜まり部の左右方向の全体にわたって延びかつ内壁体に向かって突出することにより、開口部を覆うように形成され、制震壁が荷台に傾斜した姿勢で載せられて輸送されるときに、粘性流体が開口部から零れ出るのを防止する零れ防止部が設けられており、零れ防止部は、外壁体に挿入された内壁体の前側及び後ろ側の一方にのみ設けられていることを特徴とする。
【0010】
この構成によれば、トラックによって輸送される制震壁は、荷台に垂直な姿勢で載せられた際には、路面からの高さが所定の制限高さよりも高くなる一方、荷台に所定の角度範囲に傾斜した姿勢で載せられた際には、路面からの高さが制限高さ以下になるように、上下方向の長さ寸法が設定されている。前述したように、我が国の法律上、公道を走行する車両には高さ制限があり、現行法の制限高さは、一般道路では3.8m、指定道路では4.1mに規定されている。また、荷台の高さが比較的低い超低床トラックでは、その荷台の路面からの高さは、例えば1mである。
【0011】
一般的に制震壁では、上記のような液溜まり部が外壁体の上端部に設けられ、粘性流体の液面が液溜まり部の上端から所定長さ下側に位置するように、粘性流体が充填される。このような制震壁を、垂直な姿勢から傾斜させると、その傾斜角が所定角度に達したときに粘性流体の液面が液溜まり部の上端を超え、その粘性流体が液溜まり部から零れ出てしまう。本発明では、液溜まり部の上部に上記の零れ防止部が設けられているので、制震壁を上記の所定角度に傾斜させても、粘性流体が液溜まり部から零れ出ることがなく、より大きい角度まで、制震壁を傾斜させることが可能になる。
【0012】
前述した低床トラックの荷台に、制震壁を傾斜姿勢で載せ、荷台から傾斜姿勢の制震壁の上端までの高さが2.8m以下であれば、トラックによる制震壁の一般道路上の輸送が可能である。本発明によれば、制震壁の液溜まり部の上部に零れ防止部が設けられているので、上記のトラックの荷台に、制震壁を所定の角度範囲に傾斜した姿勢で載せることにより、外壁体に充填されている粘性流体が液溜まり部の上端部の開口部を越えようとしても、零れ防止部によって阻止される。したがって、本発明によれば、輸送コストを抑制するとともに粘性流体が零れ出るのを防止しながら、上下方向に所定の長さ寸法を有する制震壁を輸送することができる。
また、本発明では、零れ防止部は、外壁体に挿入された内壁体の前側及び後ろ側の一方にのみ設けられている。
この構成によれば、零れ防止部を、外壁体に挿入された内壁体の前側及び後ろ側の一方に設けた場合、制震壁をトラックの荷台に載せて傾斜姿勢にする際に、零れ防止部が設けられた側が下になるよう、制震壁を傾斜させる。これにより、上記の零れ防止部によって、粘性流体が零れ出るのを十分に防止できるとともに、零れ防止部を内壁体の前側及び後ろ側の両方に設ける場合に比べて、制震壁の製造コストを低減することができる。
【0013】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の制震壁における粘性流体の零れ防止構造において、制震壁は、上下方向の長さ寸法が3.3m以上に設定されていることを特徴とする。
【0014】
この構成によれば、上下方向の長さ寸法が3.3m以上で、従来、超低床トレーラでしか輸送できなかった大型の制震壁を、トラックで輸送することができる。これにより、低コストで、大型の制震壁を輸送することができる。
【0017】
請求項3に係る発明は、請求項1又は2に記載の制震壁における粘性流体の零れ防止構造において、零れ防止部は、液溜まり部と一体成形されていることを特徴とする。
【0018】
この構成によれば、零れ防止部が液溜まり部と一体成形されることにより、液溜まり部に零れ防止部を後付けする場合に比べて、その工程を省略することができる。
【0019】
請求項4に係る発明は、請求項1又は2に記載の制震壁における粘性流体の零れ防止構造において、零れ防止部は、液溜まり部に着脱自在に取り付けられていることを特徴とする。
【0020】
この構成によれば、零れ防止部が液溜まり部に着脱自在に取り付けられているので、制震壁の輸送後、零れ防止部が不要な場合には、その零れ防止部を液溜まり部から容易に取り外すことができる。また、零れ防止部が設けられていない既存の制震壁に対し、零れ防止部を液溜まり部に取り付けることにより、その制震壁をトラックの荷台に所定の傾斜姿勢で載せ、粘性流体が零れ出るのを防止しながら、輸送することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の一実施形態による零れ防止構造を適用した制震壁を、これを設置した建物の一部の構造材とともに概略的に示す図である。
【
図2】
図1の制震壁について、その左端部を破断して示す斜視図である。
【
図3】
図2の制震壁について、その左側の上端部を拡大して示す図である。
【
図4】トラックの荷台に載せられる制震壁の道路面からの高さについて説明するための説明図であり、(a)は制震壁が垂直姿勢の状態、(b)は制震壁が第1傾斜角度に傾斜した状態、(c)は制震壁が第2傾斜角度に傾斜した状態、(d)は制震壁が第3傾斜角度に傾斜した状態を示す。
【
図5】(a)、(b)、(c)及び(d)は、
図4(a)、(b)、(c)及び(d)にそれぞれ対応し、制震壁の左側の上端部を拡大して示す図である。
【
図6】(a)~(c)は、従来の制震壁について、
図4(a)~(c)にそれぞれ対応する図である。
【
図7】(a)、(b)及び(c)は、
図6(a)、(b)及び(c)にそれぞれ対応し、従来の制震壁の左側の上端部を拡大して示す図である。
【
図8】零れ防止構造の変形例を説明するための図である。
【
図9】零れ防止を内壁の前側にのみ設けた状態を説明するための図である。
【
図10】着脱自在の零れ防止プレートを液溜まり部に取り付けた状態を示す図であり、(a)は制震壁が垂直姿勢の状態、(b)は制震壁が傾斜した状態を示す。
【
図11】零れ防止プレートを示す図であり、(a)は正面図、(b)は(a)のA-A線に沿って切断した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態を詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態による粘性流体の零れ防止構造を適用した制震壁を、これを設置した建物の一部の構造材とともに概略的に示している。同図に示す建物Bは、例えば高層のビルであり、上下方向に延びる複数の柱(左柱PL及び右柱PRのみ図示)と、水平に延びる梁(上梁BU及び下梁BDのみ図示)を井桁状に組み合わせたラーメン構造を有している。
【0023】
図2は、制震壁1について、その左端部を破断して示している。
図1及び
図2に示すように、制震壁1は、上階側の上梁BUと、下階側の下梁BDの間に設置されている。この制震壁1は、下梁BDに沿って延びるとともにその下梁BDから起立し、正面形状がほぼ矩形状でかつ上方に開口する箱状に形成され、下梁BDに、複数のボルト(図示せず)で連結された外壁体2と、上梁BUに沿って延びるとともにその上梁BUから垂下し、外壁体2に上方から挿入された状態でかつ外壁体2の幅方向(
図1の左右方向)に移動自在に収容され、上梁BUに、複数のボルト(図示せず)で連結された内壁体3と、外壁体2内に充填された粘性流体4とを備えている。
【0024】
外壁体2は、互いに前後方向に所定間隔を隔てて配置された前後の外壁(以下、これらを区別する場合には「前壁11」及び「後壁12」という)と、これらの外壁11、12の左右の端面がそれぞれ当接した状態で接合された左右の側壁(以下、これらを区別する場合には「左壁13」及び「右壁14」という)と、これらの外壁11、12及び側壁13、14の下端面がそれぞれ当接した状態で接合された底壁15とにより、上方に開口する箱状に形成されている。また、外壁体2の内部には、前壁11と後壁12の間に、仕切壁16が配置され、その仕切壁16の左右の端面及び下端面がそれぞれ、左壁13、右壁14及び底壁15に当接した状態で接合されている。上記の前壁11、後壁12、左壁13、右壁14、底壁15及び仕切壁16はいずれも、所定厚さを有する鋼板で構成されており、これらが溶接などによって接合されている。
【0025】
外壁体2の上端部には、前後方向に拡幅され、外壁体2の左右方向の全体にわたって延びるように形成された液溜まり部21が設けられている。具体的には、
図3に示すように、外壁体2の前壁11及び後壁12の上端部にそれぞれ接合された前側の液溜まり片22及び後側の液溜まり片23で構成されている。これらの液溜まり片22及び23は、前後対称に形成さており、側面形状がL字状に形成されている。そして、液溜まり部21には、前後の液溜まり片22及び23の上端部間に、上方に開口する開口部24が形成されている。
【0026】
また、
図3に示すように、液溜まり部21の上端部には、開口部24の前部(
図3の右部)及び後部(
図3の左部)をそれぞれ覆う前側の零れ防止部25及び後側の零れ防止部26が設けられている。これらの零れ防止部25及び26は、互いに同様に構成され、細長いプレート状に形成されている。具体的には、前側の零れ防止部25は、前側の液溜まり片22の長さ方向に沿って左右方向(
図3の表裏方向)の全体にわたって延び、その液溜まり片22の上端から内壁体3の後述する前側の内壁31に向かって水平に所定長さ突出するように形成されている。一方、後側の零れ防止部26は、後側の液溜まり片23の長さ方向に沿って左右方向(
図3の表裏方向)の全体にわたって延び、その液溜まり片23の上端から内壁体3の後側の内壁32に向かって水平に所定長さ突出するように形成されている。これらの前側及び後側の零れ防止部25及び26はそれぞれ、前側及び後側の液溜まり片22及び23の上端部に溶接によって接合されている。
【0027】
なお、
図2に示すように、底壁15の前端部及び後端部にはそれぞれ、複数の取付孔15aが底壁15の長さ方向に沿って、所定間隔ごとに形成されている。これらの取付孔15aを介して、上方からそれぞれ挿入されたボルト(図示せず)を下梁BDにねじ込むことにより、その下梁BDに外壁体2が連結固定される。
【0028】
内壁体3は、いずれも正面形状が矩形状に形成されるとともに所定サイズを有する鋼板で構成され、互いに前後方向に所定間隔を隔てて平行に配置された前側及び後側の内壁31及び32と、これらの内壁31及び32の上端部に溶接などによって接合され、平面形状が横長矩形状の鋼板で構成されたフランジ33とを有している。なお、前側及び後側の内壁31及び32とフランジ33とで構成される前側及び後側の角部には、複数(
図2では前側の5つのみ図示)のリブ34が設けられている。
【0029】
前側の内壁31は、外壁体2の前壁11及び仕切壁16との間に所定間隔を有するように配置され、一方、後側の内壁32は、外壁体2の後壁12及び仕切壁16との間に所定間隔を有するように配置されている。また、フランジ33の前端部及び後端部にはそれぞれ、複数の取付孔33aがフランジ33の長さ方向に沿って、所定間隔ごとに形成されている。これらの取付孔33aを介して、下方からそれぞれ挿入されたボルト(図示せず)を上梁BUにねじ込むことにより、その上梁BUに内壁体3が連結固定される。
【0030】
粘性流体4は、粘度が比較的高い所定材料(例えばポリイソブチレン)で構成されている。
図2及び
図3に示すように、粘性流体4は、外壁体2内に充填され、その液面4aが、液溜まり部21の底面よりも高く、液溜まり部21の上端から下方に所定長さ下側に位置している。
【0031】
次に、
図4~
図7を参照して、上述した制震壁1をトラックの荷台に載せ、公道を走行して輸送する際の制震壁1の状態について説明する。なお、
図4(a)~(d)は、制震壁1の傾斜角度を次第に大きくした状態を示し、
図5(a)~(d)はそれぞれ、
図4(a)~(d)の制震壁1の上部を拡大して示している。また、
図6(a)~(c)は、上記の制震壁(以下、適宜「実施例の制震壁1」という)との比較のために、零れ防止部25及び26を有していない従来の制震壁(以下、適宜「比較例の制震壁1A」という)の傾斜角度を次第に大きくした状態を示し、
図7(a)~(c)はそれぞれ、
図6(a)~(c)の制震壁1Aの上部を拡大して示している。
【0032】
また、実施例及び比較例の制震壁1及び1Aでは、上下方向の長さ寸法Sが所定長さ(例えば3.55m)に設定され、左右方向の横幅寸法が所定のトラックの荷台に積載可能な所定長さ(例えば2.4m)以内に設定されている。また、上記のトラックは、道路面から所定高さT(例えば1m)の荷台を有している。なお、比較例の制震壁1Aは、零れ防止部25及び26を有していないこと以外については、実施例の制震壁1と同じであるので、その制震壁1と同一の構成部分については同一の符号を付すものとする。
【0033】
図4(a)は、実施例の制震壁1が垂直姿勢の状態でトラックの荷台に載せられた状態を示している。この場合、制震壁1の道路面からの高さ(T+S)は、指定道路の制限高さH1(例えば4.1m)を超える。そのため、制震壁1を上記姿勢のまま、輸送することは許可されない。そこで、制震壁1を前後方向(
図4の左右方向)に傾斜させ、トラックの荷台上に傾斜姿勢にすることにより、その傾斜姿勢における制震壁1の高さ、すなわちトラックの荷台から制震壁1の上端までの高さを低くする。
【0034】
これに対し、比較例の制震壁1Aについて、
図6(a)は、その制震壁1Aが垂直姿勢の状態でトラックの荷台に載せられた状態を示している。この制震壁1Aは、上述した実施例の制震壁1と同様、道路面からの高さ(T+S)が指定道路の制限高さH1を超えるため、その姿勢のままでは輸送できず、傾斜姿勢にすることが求められる。
【0035】
図4に戻り、同図(b)は、実施例の制震壁1が、鉛直に対して所定の第1傾斜角度R1(例えば30度)に傾斜した状態を示している。この状態では、制震壁1の道路面からの高さが、指定道路の制限高さH1を下回るものの、一般道路の制限高さH2(例えば3.8m)を超えるため、制震壁1を上記の傾斜姿勢のまま、輸送することは許可されない。なおこの場合、
図5(b)に示すように、粘性流体4の液面4aは、前側の零れ防止部25よりも下位に位置している。
【0036】
これに対し、比較例の制震壁1Aについて、
図6(b)は、その制震壁1Aが鉛直に対して第1傾斜角度R1に傾斜した状態を示している。この制震壁1Aは、上述した実施例の制震壁1と同様、一般道路の制限高さH2を超えるため、その姿勢のままでは輸送が許可されない。なおこの場合、
図7(b)に示すように、粘性流体4の液面4aは、液溜まり部21の前側の液溜まり片22の上端付近に位置している。
【0037】
図4に戻り、同図(c)は、実施例の制震壁1が、鉛直に対して所定の第2傾斜角度R2(例えば38度)に傾斜した状態を示している。この状態では、制震壁1の道路面からの高さが、一般道路の制限高さH2と同じであるため、制震壁1を上記の傾斜姿勢のまま、輸送することが可能である。この場合、
図5(c)に示すように、粘性流体4の液面4aは、前側の零れ防止部25の先端よりも下位に位置している。このため、上記の零れ防止部25によって、粘性流体4が液溜まり部21の開口部24から零れ出ることが防止される。
【0038】
これに対し、比較例の制震壁1Aについて、
図6(c)は、その制震壁1Aが鉛直に対して第2傾斜角度R2に傾斜した状態を示している。この制震壁1Aは、上述した実施例の制震壁1と同様、道路面からの高さが、一般道路の制限高さH2と同じであるため、その姿勢のまま、輸送することが可能である。しかし、この場合、
図7(c)に示すように、粘性流体4の液面4aが、液溜まり部21における前側の液溜まり片22の上端を超えるため、粘性流体4が開口部24から零れ落ちてしまう。
【0039】
図4に戻り、同図(d)は、実施例の制震壁1が、鉛直に対して所定の第3傾斜角度R3(例えば45度)に傾斜した状態を示している。この状態では、制震壁1の道路面からの高さが、一般道路の制限高さH2よりも低いため、制震壁1を上記の傾斜姿勢のまま、前記
図4(c)の場合と同様、輸送することが可能である。この場合、
図5(d)に示すように、粘性流体4の液面4aは、前側の零れ防止部25の先端付近に位置している。このため、上記の零れ防止部25によって、粘性流体4が液溜まり部21の開口部24から零れ出ることが防止される。
【0040】
なお、
図4(d)に示す実施例の制震壁1では、道路面からの高さが、一般道路の制限高さH2よりも大幅に低くなっている。このため、第3傾斜角度R3に傾斜した制震壁1として、上下方向の長さ寸法Sがより一層長いもの(例えば、最大で約3.67m)を、トラックで輸送することが可能である。
【0041】
以上詳述したように、本実施形態の制震壁1によれば、制震壁1の液溜まり部21の上部に零れ防止部25が設けられているので、トラックの荷台に、制震壁1を所定の角度範囲(第2傾斜角度R2~第3傾斜角度R3)に傾斜した姿勢で載せることにより、外壁体2に充填されている粘性流体4が液溜まり部21の上端部の開口部24を越えようとしても、零れ防止部25によって阻止される。したがって、本実施形態によれば、輸送コストを抑制するとともに粘性流体4が零れ出るのを防止しながら、上下方向に所定の長さ寸法を有する制震壁1を輸送することができる。また、上下方向の長さ寸法Sが3.3m以上の大型の制震壁1をトラックで輸送できるので、超低床トレーラで輸送していた従来に比べて、輸送コストを低減することができる。
【0042】
次に、
図8及び
図9を参照して、零れ防止部25及び26の変形例について説明する。
図8(a)は、上述した零れ防止部25及び26を有する制震壁1の上部を示している。これに対し、
図8(b)及び(c)はいずれも、零れ防止部が液溜まり部21と一体成形されたものである。すなわち、
図8(b)は、液溜まり部21を構成する前後の液溜まり片22及び23の側面形状がコ字状に形成されたものを示している。一方、
図8(c)は、液溜まり部21を構成する前後の液溜まり片22及び23の側面形状が半円状に形成されたものを示している。これらの
図8(b)及び(c)に示す液溜まり部21では、液溜まり片22及び23の上部が、
図8(a)に示す零れ防止部25及び26と同様の前述した機能を発揮することができる。
【0043】
また、
図9(a)は、液溜まり部21において、前側の零れ防止部25のみが設けられ、後側の零れ防止部26が省略されたものを示している。前述したように、制震壁1を傾斜姿勢にする際に、前側及び後側の零れ防止部25及び26のうちの一方が他方よりも下になることにより、下側の零れ防止部によって、粘性流体4が零れ出るのを十分に防止することができる。また、前側及び後側の零れ防止部25及び26のうちの一方が省略できることにより、両方を設ける場合に比べて、制震壁1の製造コストを低減することができる。
【0044】
また、
図9(a)の液溜まり部21に代えて、同図(b)に示すように、前側の零れ防止部25を前側の液溜まり片22と一体に構成し、その側面形状をコ字状に形成することも可能である。さらに、同図(c)に示すように、前側の零れ防止部25及び液溜まり片22を、外壁体2の前壁11と一体に構成することも可能である。
【0045】
図10(a)は、前述した零れ防止部25と同様の機能を有する零れ防止プレート41を、液溜まり片22に取り付けた状態を示している。
図11(a)に示すように、零れ防止プレート41は、液溜まり片22の左右方向(
図10(a)の表裏方向)の長さと同じ長さを有する長尺状に形成されている。また、
図11(b)に示すように、零れ防止プレート41は、側面形状が、前後方向(
図11(b)の左右方向)に所定長さ延びる水平部42と、この水平部42から下方に所定長さ垂下する垂下部43と、水平部42の前端に連なって前方に突出しかつその前端部から下方に屈曲し、上記の垂下部43と所定間隔を隔てて平行に垂下する取付部44とを有している。取付部44には、零れ防止プレート41の長さ方向に沿って、複数(
図11(a)では3つのみ図示)のねじ孔44aが設けられている。
【0046】
上記のように構成された零れ防止プレート41は、
図10(a)に示すように、垂下部43と取付部44の間に液溜まり片22が位置するよう、これに上方から取り付けられる。そして、各ねじ孔44aに前方からボルト45をねじ込み、その先端を液溜まり片22の前面に強く押圧する。これにより、零れ防止プレート41は、垂下部43と複数のボルト45によって液溜まり片22を前後から強く挟み、その液溜まり片22の上部に強固に取り付けられる。
【0047】
また、零れ防止プレート41が上記のように取り付けられることにより、零れ防止プレート41の水平部42が、前述した零れ防止部25と同様の機能を発揮する。すなわち、
図10(b)に示すように、制震壁1が前方に所定角度(例えば第3傾斜角度R3)に傾斜した際には、粘性流体4の液面4aが、零れ防止プレート41の水平部42の先端付近に位置する。これにより、零れ防止プレート41によって、粘性流体4が液溜まり部21の開口部24から零れ出ることが防止される。
【0048】
なお、実施形態で示した制震壁1、液溜まり部21、零れ防止部25、26、及び零れ防止プレート41の細部の構成などは、あくまで例示であり、本発明の趣旨の範囲内で適宜、変更することができる。
【符号の説明】
【0049】
1 制震壁
2 外壁体
3 内壁体
4 粘性流体
4a 液面
11 外壁、前壁
12 外壁、後壁
21 液溜まり部
22 前側の液溜まり片
23 後側の液溜まり片
24 開口部
25 前側の零れ防止部
26 後側の零れ防止部
31 前側の内壁
32 後側の内壁
33 フランジ
41 零れ防止プレート
42 水平部
43 垂下部
44 取付部
45 ボルト
B 建物
PL 左柱
PR 右柱
BU 上梁
BD 下梁
S 制震壁の上下方向の長さ寸法
T 荷台高さ
H1 指定道路の制限高さ
H2 一般道路の制限高さ
U 制震壁の通行可能高さ
R1 第1傾斜角度
R2 第2傾斜角度
R3 第3傾斜角度