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特許7381374マスクブランクス、位相シフトマスク、製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-15
(54)【発明の名称】マスクブランクス、位相シフトマスク、製造方法
(51)【国際特許分類】
   G03F 1/29 20120101AFI20231108BHJP
   G03F 1/54 20120101ALI20231108BHJP
   C23C 14/06 20060101ALN20231108BHJP
【FI】
G03F1/29
G03F1/54
C23C14/06 P
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020045373
(22)【出願日】2020-03-16
(65)【公開番号】P2021148826
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2022-12-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000101710
【氏名又は名称】アルバック成膜株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100192773
【弁理士】
【氏名又は名称】土屋 亮
(72)【発明者】
【氏名】諸沢 成浩
(72)【発明者】
【氏名】関根 正弘
【審査官】大門 清
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-090910(JP,A)
【文献】特開2019-174791(JP,A)
【文献】特開2002-189284(JP,A)
【文献】特開2017-167512(JP,A)
【文献】特開2019-148789(JP,A)
【文献】特開2019-179106(JP,A)
【文献】特開平07-181664(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 1/00- 1/86
C23C 14/00-14/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
位相シフトマスクとなる層を有するマスクブランクスであって、
透明基板に積層された位相シフト層と、
前記位相シフト層よりも前記透明基板から離間する位置に設けられた遮光層と、
を有し、
前記遮光層がクロムを含有し、
前記位相シフト層がモリブデンシリサイドと炭素とを含有し、炭素濃度が5atm%~15atm%の範囲を有し、
前記位相シフト層において、前記遮光層に近接する表面の炭素濃度が、前記透明基板に近接する位置の炭素濃度よりも低く、
前記位相シフト層において、前記遮光層に近接する表面の炭素濃度が、前記透明基板に近接する表面の炭素濃度よりも20%以上低く、
前記位相シフト層は、膜厚方向において前記遮光層に近接する位置に、前記位相シフト層における炭素濃度の最大値と最小値との半値よりも低い炭素濃度である低炭素領域を有し、
前記位相シフト層において、前記低炭素領域の膜厚が、前記位相シフト層の膜厚に対して、
1/4以下の範囲
に設定され
ことを特徴とするマスクブランクス。
【請求項2】
前記位相シフト層が窒素を含有し、窒素濃度が30atm%~40atm%の範囲を有する
ことを特徴とする請求項1記載のマスクブランクス。
【請求項3】
前記位相シフト層が酸素を含有し、酸素濃度が8atm%~15atm%の範囲を有する
ことを特徴とする請求項1または2記載のマスクブランクス。
【請求項4】
前記位相シフト層において、モリブデン濃度が20atm%~30atm%の範囲を有する
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか記載のマスクブランクス。
【請求項5】
前記位相シフト層において、シリコン濃度が10atm%~25atm%の範囲を有する
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか記載のマスクブランクス。
【請求項6】
前記位相シフト層において、抵抗率が、
5.5×10-1Ωcm以下の範囲を有する
ことを特徴とする請求項1から5のいずれか記載のマスクブランクス。
【請求項7】
前記位相シフト層において、モリブデンとシリコンとの組成比が、
1 ≦ Si/Mo
に設定される
ことを特徴とする請求項1から6のいずれか記載のマスクブランクス。
【請求項8】
前記位相シフト層は、膜厚が、
100nm~200nmの範囲
に設定される
ことを特徴とする請求項1から7のいずれか記載のマスクブランクス。
【請求項9】
前記位相シフト層において、膜厚方向で前記遮光層から前記透明基板に向かう方向に、炭素濃度が増加する濃度傾斜を有する
ことを特徴とする請求項1から8のいずれか記載のマスクブランクス。
【請求項10】
請求項1からのいずれか記載のマスクブランクスの製造方法であって、
前記透明基板にスパッタリングによりモリブデンシリサイドと炭素とを含有する前記位相シフト層を積層する位相シフト層形成工程と、
前記位相シフト層よりも前記透明基板から離間する位置にクロムを含有する前記遮光層を積層する遮光層形成工程と、
を有し、
前記位相シフト層形成工程において、
スパッタリングにおける供給ガスとして、炭素含有ガスの分圧を設定することにより炭素濃度を膜厚方向に制御して形成する
ことを特徴とするマスクブランクスの製造方法。
【請求項11】
前記位相シフト層形成工程において、モリブデンとシリコンとの組成比が、
2.3 ≦ Si/Mo ≦ 3.0
に設定されたターゲットを用いる
ことを特徴とする請求項10記載のマスクブランクスの製造方法。
【請求項12】
前記位相シフト層形成工程において、
前記炭素含有ガスの分圧を設定することにより、炭素濃度の減少にともなって前記位相シフト層における抵抗率を増大する
ことを特徴とする請求項10または11記載のマスクブランクスの製造方法。
【請求項13】
前記位相シフト層形成工程において、
スパッタリングにおける供給ガスとして、窒素含有ガスの分圧を設定することにより、窒素含有率の増減にともなって前記位相シフト層における抵抗率を増減する
ことを特徴とする請求項12記載のマスクブランクスの製造方法。
【請求項14】
請求項1からのいずれか記載のマスクブランクスから製造される
ことを特徴とする位相シフトマスク。
【請求項15】
請求項14記載の位相シフトマスクの製造方法であって、
前記位相シフト層にパターンを形成する位相シフトパターン形成工程と、
前記遮光層にパターンを形成する遮光パターン形成工程と、
を有し、
前記位相シフトパターン形成工程におけるエッチング液と、前記前記遮光パターン形成工程におけるエッチング液と、が異なる
ことを特徴とする位相シフトマスクの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はマスクブランクス、位相シフトマスク、製造方法に用いて好適な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイともにパネルの高精細化が大きく進行しており、それに伴いフォトマスクの微細化も進展している。そのため、従来から用いられている遮光膜を用いたマスクだけでなく、エッヂ強調型の位相シフトマスクの必要性が高まって来ている。
【0003】
ラインアンドスペースのパターンおよびコンタクトホールのパターンともに微細化が求められており、位相シフトマスクを用いてこれらの微細パターンを形成することが必要になってきている。
【0004】
たとえば、コンタクトホールパターンにおいては、露光の際に大きなコントラストを求められるので、モリブデンシリサイド膜のようなシリサイド膜で位相シフト層を形成し、その上にクロム膜のような金属膜でバイナリー層を形成されたリム型の位相シフトマスクが用いられることが望ましい。
【0005】
位相シフト層は、例えばi線(波長365nm)において、透過率が5%や20%になるように設定するとともに、位相が180°になるように設定される。このため、位相シフト層は、あらかじめ光学定数と膜厚とを調整することが必要である。したがって、モリブデンシリサイド膜を用いて位相シフト層を形成する場合には、モリブデンシリサイド膜の膜厚が120~140nm程度の比較的厚い膜厚になる。
【0006】
ディスプレイ用のマスクは、パターニングの際にウエットエッチングを用いることが一般的である。モリブデンシリサイド膜のようなシリサイド膜で位相シフト層を形成し他の場合には、フッ酸等を含むエッチャント(エッチング液)を用いる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2018-040890号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、モリブデンシリサイド膜の膜厚が120~140nm程度の比較的厚い膜厚であると、位相シフト膜狼のウエットエッチング時間が長くなる。このため、ウエットエッチング時間が長くなる場合には、必然的にオーバーエッチング時間も長くなってしまう。
【0009】
ここで、モリブデンシリサイド膜をウエットエッチングするためには、エッチング液にフッ酸を含有する薬液を用いることが必要なために、モリブデンシリサイドをエッチングする際のオーバーエッチングの際に、フッ酸を含有するエッチング液によりガラス基板がエッチングされてしまう。
【0010】
このように、パターン形成時にガラス等の透明基板にダメージを与えてしまい、位相シフトマスクとしての光学特性が所定の範囲から外れる可能性があるという問題が生じる。
【0011】
さらに、ウエットエッチングによりパターン形成をおこなうと、位相シフトマスクの断面形状がテーパー形状になるなど、パターン形状正確性が低下してしまい、マスクパターンの線幅の設定値が変化する、あるいは、線幅ばらつきが大きくなる等の問題が発生することがわかった。
【0012】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたもので、以下の目的を達成しようとするものである。
1.光学特性を正確に設定した位相シフトマスクの製造を可能とすること。
2.パターン形成における基板へのエッチングによる影響を低減すること。
3.形成したパターンにおける断面形状の正確性を向上すること。
4.位相シフトマスクの高精細化を可能とすること。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明のマスクブランクスは、位相シフトマスクとなる層を有するマスクブランクスであって、
透明基板に積層された位相シフト層と、
前記位相シフト層よりも前記透明基板から離間する位置に設けられた遮光層と、
を有し、
前記遮光層がクロムを含有し、
前記位相シフト層がモリブデンシリサイドと炭素とを含有し、炭素濃度が5atm%~15atm%の範囲を有し、
前記位相シフト層において、前記遮光層に近接する表面の炭素濃度が、前記透明基板に近接する位置の炭素濃度よりも低く、
前記位相シフト層において、前記遮光層に近接する表面の炭素濃度が、前記透明基板に近接する表面の炭素濃度よりも20%以上低く、
前記位相シフト層は、膜厚方向において前記遮光層に近接する位置に、前記位相シフト層における炭素濃度の最大値と最小値との半値よりも低い炭素濃度である低炭素領域を有し、
前記位相シフト層において、前記低炭素領域の膜厚が、前記位相シフト層の膜厚に対して、
1/4以下の範囲
に設定され
ことにより上記課題を解決した。
本発明のマスクブランクスは、前記位相シフト層が窒素を含有し、窒素濃度が30atm%~40atm%の範囲を有する
ことができる。
本発明のマスクブランクスは、前記位相シフト層が酸素を含有し、酸素濃度が8atm%~15atm%の範囲を有する
ことができる。
本発明のマスクブランクスは、前記位相シフト層において、モリブデン濃度が20atm%~30atm%の範囲を有する
ことができる。
本発明のマスクブランクスは、前記位相シフト層において、シリコン濃度が10atm%~25atm%の範囲を有する
ことができる。
本発明のマスクブランクスは、前記位相シフト層において、抵抗率が、
5.5×10-1Ωcm以下の範囲を有する
ことができる。
本発明のマスクブランクスは、前記位相シフト層において、モリブデンとシリコンとの組成比が、
1 ≦ Si/Mo
に設定される
ことができる。
本発明のマスクブランクスは、前記位相シフト層は、膜厚が、
100nm~200nmの範囲
に設定される
ことができる
発明のマスクブランクスは、前記位相シフト層において、膜厚方向で前記遮光層から前記透明基板に向かう方向に、炭素濃度が増加する濃度傾斜を有する
ことができる
発明のマスクブランクスの製造方法は、上記のいずれか記載のマスクブランクスの製造方法であって、
前記透明基板にスパッタリングによりモリブデンシリサイドと炭素とを含有する前記位相シフト層を積層する位相シフト層形成工程と、
前記位相シフト層よりも前記透明基板から離間する位置にクロムを含有する前記遮光層を積層する遮光層形成工程と、
を有し、
前記位相シフト層形成工程において、
スパッタリングにおける供給ガスとして、炭素含有ガスの分圧を設定することにより炭素濃度を膜厚方向に制御して形成する
ことができる。
本発明のマスクブランクスの製造方法は、前記位相シフト層形成工程において、モリブデンとシリコンとの組成比が、
2.3 ≦ Si/Mo ≦ 3.0
に設定されたターゲットを用いる
ことができる。
本発明のマスクブランクスの製造方法は、前記位相シフト層形成工程において、
前記炭素含有ガスの分圧を設定することにより、炭素濃度の減少にともなって前記位相シフト層における抵抗率を増大する
ことができる。
本発明のマスクブランクスの製造方法は、前記位相シフト層形成工程において、
スパッタリングにおける供給ガスとして、窒素含有ガスの分圧を設定することにより、窒素含有率の増減にともなって前記位相シフト層における抵抗率を増減する
ことができる。
本発明の位相シフトマスクは、上記のいずれか記載のマスクブランクスから製造されることができる。
本発明の位相シフトマスクの製造方法は、上記の位相シフトマスクの製造方法であって、
前記位相シフト層にパターンを形成する位相シフトパターン形成工程と、
前記遮光層にパターンを形成する遮光パターン形成工程と、
を有し、
前記位相シフトパターン形成工程におけるエッチング液と、前記前記遮光パターン形成工程におけるエッチング液と、が異なる
ことができる。
【0014】
本発明のマスクブランクスは、位相シフトマスクとなる層を有するマスクブランクスであって、
透明基板に積層された位相シフト層と、
前記位相シフト層よりも前記透明基板から離間する位置に設けられた遮光層と、
を有し、
前記遮光層がクロムを含有し、
前記位相シフト層がモリブデンシリサイドと炭素とを含有し、炭素濃度が8atm%~15atm%の範囲を有する。
これにより、位相シフト層であるモリブデンシリサイド膜におけるエッチングレートを増加して、速いエッチングにより位相シフトパターンを形成することが可能になる。これにより、マスクブランクスから位相シフトマスクの製造において、位相シフト層から位相シフトパターンを形成する際に、フッ酸を含有するエッチング液によってモリブデンシリサイド膜から形成された位相シフト層をエッチングした場合でも、必要なエッチング時間を短縮してオーバーエッチングを抑制し、ガラス基板である透明基板に対するフッ酸でのエッチングによる影響を低減することができる。
【0015】
本発明のマスクブランクスは、前記位相シフト層が窒素を含有し、窒素濃度が30atm%~40atm%の範囲を有する。
これにより、所望の光学特性を有する位相シフト層を形成することが可能になるとともに、位相シフト層であるモリブデンシリサイド膜におけるエッチングレートを増加して、速いエッチングにより位相シフトパターンを形成し、ガラス基板におけるエッチングの影響を抑制することが可能になる。
【0016】
本発明のマスクブランクスは、前記位相シフト層が酸素を含有し、酸素濃度が8atm%~15atm%の範囲を有する。
これにより、所望の光学特性を有する位相シフト層を形成することが可能になるとともに、位相シフト層であるモリブデンシリサイド膜におけるエッチングレートを増加して、速いエッチングにより位相シフトパターンを形成し、ガラス基板におけるエッチングの影響を抑制することが可能になる。
【0017】
本発明のマスクブランクスは、前記位相シフト層において、モリブデン濃度が20atm%~30atm%の範囲を有する。
これにより、所望の光学特性を有する位相シフト層を形成することが可能になるとともに、位相シフト層であるモリブデンシリサイド膜におけるエッチングレートを増加して、速いエッチングにより位相シフトパターンを形成し、ガラス基板におけるエッチングの影響を抑制することが可能になる。
【0018】
本発明のマスクブランクスは、前記位相シフト層において、シリコン濃度が10atm%~25atm%の範囲を有する。
これにより、所望の光学特性を有する位相シフト層を形成することが可能になるとともに、位相シフト層であるモリブデンシリサイド膜におけるエッチングレートを増加して、速いエッチングにより位相シフトパターンを形成し、ガラス基板におけるエッチングの影響を抑制することが可能になる。
【0019】
本発明のマスクブランクスは、前記位相シフト層において、抵抗率が、
5.5×10-1Ωcm以下の範囲を有する。
これにより、所望の光学特性を有する位相シフト層を形成することが可能になるとともに、位相シフト層であるモリブデンシリサイド膜におけるエッチングレートを増加して、速いエッチングにより位相シフトパターンを形成し、ガラス基板におけるエッチングの影響を抑制することが可能になる。
【0020】
本発明のマスクブランクスは、前記位相シフト層において、モリブデンとシリコンとの組成比が、
1 ≦ Si/Mo
に設定される。
これにより、所望の光学特性を有する位相シフト層を形成することが可能になるとともに、位相シフト層であるモリブデンシリサイド膜におけるエッチングレートを増加して、速いエッチングにより位相シフトパターンを形成し、ガラス基板におけるエッチングの影響を抑制することが可能になる。
【0021】
本発明のマスクブランクスは、前記位相シフト層は、膜厚が、
100nm~200nmの範囲
に設定される。
これにより、所望の光学特性を有する位相シフト層を形成することが可能になるとともに、位相シフト層であるモリブデンシリサイド膜におけるエッチングレートを増加して、速いエッチングにより位相シフトパターンを形成し、ガラス基板におけるエッチングの影響を抑制することが可能になる。
【0022】
本発明のマスクブランクスは、前記位相シフト層において、前記遮光層に近接する表面の炭素濃度が、前記透明基板に近接する位置の炭素濃度よりも低い。
これにより、所望の光学特性を有する位相シフト層を形成することが可能になるとともに、位相シフト層であるモリブデンシリサイド膜におけるエッチングレートを増加して、速いエッチングにより位相シフトパターンを形成し、ガラス基板におけるエッチングの影響を抑制することが可能になる。
【0023】
本発明のマスクブランクスは、前記位相シフト層において、膜厚方向で前記遮光層から前記透明基板に向かう方向に、炭素濃度が増加する濃度傾斜を有する。
これにより、所望の光学特性を有する位相シフト層を形成することが可能になるとともに、位相シフト層であるモリブデンシリサイド膜におけるエッチングレートを増加して、速いエッチングにより位相シフトパターンを形成し、モリブデンシリサイド膜である位相シフトパターンの断面形状を正確に形成することが可能である。
【0024】
本発明のマスクブランクスは、前記位相シフト層において、前記遮光層に近接する表面の炭素濃度が、前記透明基板に近接する表面の炭素濃度よりも20%以上低い。
これにより、所望の光学特性を有する位相シフト層を形成することが可能になるとともに、位相シフト層であるモリブデンシリサイド膜におけるエッチングレートを増加して、速いエッチングにより位相シフトパターンを形成し、モリブデンシリサイド膜である位相シフトパターンの断面形状を正確に形成することが可能である。
【0025】
本発明のマスクブランクスは、前記位相シフト層は、膜厚方向において前記遮光層に近接する位置に、前記位相シフト層における炭素濃度の最大値と最小値との半値よりも低い炭素濃度である低炭素領域を有する。
これにより、所望の光学特性を有する位相シフト層を形成することが可能になるとともに、位相シフト層であるモリブデンシリサイド膜におけるエッチングレートを増加して、速いエッチングにより位相シフトパターンを形成し、モリブデンシリサイド膜である位相シフトパターンの断面形状を正確に形成することが可能である。
【0026】
本発明のマスクブランクスは、前記位相シフト層において、前記低炭素領域の膜厚が、前記位相シフト層の膜厚に対して、
1/4以下の範囲
に設定される。
これにより、所望の光学特性を有する位相シフト層を形成することが可能になるとともに、位相シフト層であるモリブデンシリサイド膜におけるエッチングレートを増加して、速いエッチングにより位相シフトパターンを形成し、モリブデンシリサイド膜である位相シフトパターンの断面形状を正確に形成することが可能である。
【0027】
本発明のマスクブランクスの製造方法は、上記のいずれか記載のマスクブランクスの製造方法であって、
前記透明基板にスパッタリングによりモリブデンシリサイドと炭素とを含有する前記位相シフト層を積層する位相シフト層形成工程と、
前記位相シフト層よりも前記透明基板から離間する位置にクロムを含有する前記遮光層を積層する遮光層形成工程と、
を有し、
前記位相シフト層形成工程において、
スパッタリングにおける供給ガスとして、炭素含有ガスの分圧を設定することにより炭素濃度を膜厚方向に制御して形成する。
これにより、上述した組成比を有して所望の光学特性を有する位相シフト層を形成することが可能になるとともに、モリブデンシリサイド膜におけるエッチングレートを増加して、速いエッチングにより位相シフトパターンを形成可能な位相シフト層を有し、モリブデンシリサイド膜である位相シフトパターンの断面形状を正確に形成することが可能なマスクブランクスを提供可能とすることができる。
【0028】
本発明のマスクブランクスの製造方法は、前記位相シフト層形成工程において、モリブデンとシリコンとの組成比が、
2.3 ≦ Si/Mo ≦ 3.0
に設定されたターゲットを用いる。
これにより、上述した組成比を有して所望の光学特性を有する位相シフト層を形成することが可能になるとともに、モリブデンシリサイド膜におけるエッチングレートを増加して、速いエッチングにより位相シフトパターンを形成可能な位相シフト層を有し、モリブデンシリサイド膜である位相シフトパターンの断面形状を正確に形成することが可能なマスクブランクスを提供可能とすることができる。
【0029】
本発明のマスクブランクスの製造方法は、前記位相シフト層形成工程において、
前記炭素含有ガスの分圧を設定することにより、炭素濃度の減少にともなって前記位相シフト層における抵抗率を増大する。
これにより、上述した組成比を有して所望の光学特性を有する位相シフト層を形成することが可能になるとともに、モリブデンシリサイド膜におけるエッチングレートを増加して、速いエッチングにより位相シフトパターンを形成可能な位相シフト層を有し、モリブデンシリサイド膜である位相シフトパターンの断面形状を正確に形成することが可能なマスクブランクスを提供可能とすることができる。
【0030】
本発明のマスクブランクスの製造方法は、前記位相シフト層形成工程において、
スパッタリングにおける供給ガスとして、窒素含有ガスの分圧を設定することにより、窒素含有率の増減にともなって前記位相シフト層における抵抗率を増減する。
これにより、上述した組成比を有して所望の光学特性を有する位相シフト層を形成することが可能になるとともに、モリブデンシリサイド膜におけるエッチングレートを増加して、速いエッチングにより位相シフトパターンを形成可能な位相シフト層を有し、モリブデンシリサイド膜である位相シフトパターンの断面形状を正確に形成することが可能なマスクブランクスを提供可能とすることができる。
【0031】
本発明の位相シフトマスクは、上記のいずれか記載のマスクブランクスから製造されることができる。
【0032】
本発明の位相シフトマスクの製造方法は、上記の位相シフトマスクの製造方法であって、
前記位相シフト層にパターンを形成する位相シフトパターン形成工程と、
前記遮光層にパターンを形成する遮光パターン形成工程と、
を有し、
前記位相シフトパターン形成工程におけるエッチング液と、前記前記遮光パターン形成工程におけるエッチング液と、が異なる。
これにより、上述した組成比を有して所望の光学特性を有する位相シフト層を形成することが可能になるとともに、モリブデンシリサイド膜におけるエッチングレートを増加して、速いエッチングにより位相シフトパターンを形成可能な位相シフト層を有し、モリブデンシリサイド膜である位相シフトパターンの断面形状を正確に形成することが可能なマスクブランクスを提供可能とすることができる。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、ガラス基板のエッチングを抑制した上で、高密度のターゲットを用いることを可能とし、欠陥の影響を低減した生産に適した製品を製造することを可能にするとともに、モリブデンシリサイド膜で形成した位相シフトパターンの断面形状を良好にして高精細化を可能とすることができるという効果を奏することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】本発明に係るマスクブランクスの第1実施形態を示す断面図である。
図2】本発明に係るマスクブランクスの製造方法の第1実施形態を示す断面図である。
図3】本発明に係る位相シフトマスクの製造方法の第1実施形態を示す工程断面図である。
図4】本発明に係る位相シフトマスクの製造方法の第1実施形態を示す工程断面図である。
図5】本発明に係る位相シフトマスクの製造方法の第1実施形態を示す工程断面図である。
図6】本発明に係る位相シフトマスクの製造方法の第1実施形態を示す工程断面図である。
図7】本発明に係る位相シフトマスクの製造方法の第1実施形態を示す工程断面図である。
図8】本発明に係る位相シフトマスクの製造方法の第1実施形態を示す工程断面図である。
図9】本発明に係る位相シフトマスクの第1実施形態を示す断面図である。
図10】本発明に係るマスクブランクスの製造方法の第1実施形態における成膜装置を示す模式図である。
図11】本発明に係る実験例における位相シフト層におけるエッチングレート(E.R.)と窒素濃度との関係を示すグラフである。
図12】本発明に係る実験例における位相シフト層におけるオージェ分析結果を示すグラフである。
図13】本発明に係る実験例における位相シフト層におけるオージェ分析結果を示すグラフである。
図14】本発明に係る実験例における位相シフト層におけるモリブデン濃度と透過率とを示すグラフである。
図15】本発明に係る実験例における位相シフト層における酸素濃度と透過率とを示すグラフである。
図16】本発明に係る実験例における位相シフト層におけるシリコン濃度と透過率とを示すグラフである。
図17】本発明に係る実験例における位相シフト層を示すSEM写真である。
図18】本発明に係る実験例における位相シフト層を示すSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明に係るマスクブランクス、位相シフトマスク、製造方法の第1実施形態を、図面に基づいて説明する。
図1は、本実施形態におけるマスクブランクスを示す断面図であり、図2は、本実施形態におけるマスクブランクスを示す断面図であり、図において、符号10Bは、マスクブランクスである。
【0036】
本実施形態に係るマスクブランクス10Bは、露光光の波長が365nm~436nm程度の範囲で使用される位相シフトマスク(フォトマスク)に供されるものとされる。
本実施形態に係るマスクブランクス10Bは、図1に示すように、ガラス基板(透明基板)11と、このガラス基板11上に形成された位相シフト層12と、位相シフト層12上に形成された遮光層13と、で構成される。
【0037】
つまり、遮光層13は、位相シフト層12よりもガラス基板11から離間する位置に設けられる。
これら位相シフト層12と遮光層13とは、フォトマスクとして必要な光学特性を有して露光光の位相をほぼ180°変化可能な位相シフト膜であるマスク層を構成している。
【0038】
さらに、本実施形態に係るマスクブランクス10Bは、図1に示すように、位相シフト層12と遮光層13の積層されたマスク層に対して、図2に示すように、あらかじめフォトレジスト層15が成膜された構成とすることもできる。
【0039】
なお、本実施形態に係るマスクブランクス10Bは、位相シフト層12と遮光層13以外に、反射防止層、密着層、耐薬層、保護層、エッチングストッパー層、等を積層した構成とされてもよい。さらに、これらの積層膜の上に、図2に示すように、フォトレジスト層15が形成されていてもよい。
【0040】
ガラス基板(透明基板)11としては、透明性及び光学的等方性に優れた材料が用いられ、例えば、石英ガラス基板を用いることができる。ガラス基板11の大きさは特に制限されず、当該マスクを用いて露光する基板(例えばLCD(液晶ディスプレイ)、プラズマディスプレイ、有機EL(エレクトロルミネッセンス)ディスプレイなどのFPD用基板等)に応じて適宜選定される。
【0041】
本実施形態では、ガラス基板(透明基板)11として、一辺100mm程度から、一辺2000mm以上の矩形基板を適用可能であり、さらに、厚み1mm以下の基板、厚み数mmの基板や、厚み10mm以上の基板も用いることができる。
【0042】
また、ガラス基板11の表面を研磨することで、ガラス基板11のフラットネスを低減するようにしてもよい。ガラス基板11のフラットネスは、例えば、20μm以下とすることができる。これにより、マスクの焦点深度が深くなり、微細かつ高精度なパターン形成に大きく貢献することが可能となる。さらにフラットネスは10μm以下と、小さい方が良好である。
【0043】
位相シフト層12としては、金属シリサイド膜、例えば、Ta、Ti、W、Mo、Zrなどの金属や、これらの金属どうしの合金とシリコンとを含む膜とすることができる。特に、金属シリサイドの中でもモリブデンシリサイドを用いることが好ましく、MoSi(X≧2)膜(例えばMoSi膜、MoSi膜やMoSi膜など)が挙げられる。
【0044】
位相シフト層12は、波長365nm~436nm程度の範囲において、屈折率が2.4~3.1程度、消衰係数0.3~2.1等、位相シフトマスクとして用いる際の光学特性を設定する必要がある。このため、組成および膜厚が所定の範囲に設定される。
位相シフト層12における組成比・膜厚は、製造する位相シフトマスク10に要求される光学特性によって設定される、次の値に限定されるものではない。
【0045】
位相シフト層12としては、O(酸素)、N(窒素)、C(炭素)を含有するモリブデンシリサイド膜とすることが好ましい。
位相シフト層12において、炭素濃度(炭素含有率)が5atm%~15atm%の範囲を有し、窒素濃度(窒素含有率)が30atm%~40atm%の範囲を有し、酸素濃度(酸素含有率)が8atm%~15atm%の範囲を有し、モリブデン濃度(モリブデン含有率)が20atm%~30atm%の範囲を有し、シリコン濃度(シリコン含有率)が10atm%~25atm%の範囲を有するように設定することができる。
位相シフト層12は、膜厚が、10nm~200nmの範囲に設定されることができる。
【0046】
位相シフト層12としては、モリブデンとシリコンとの組成比が、1 ≦ Si/Moに設定される。
位相シフト層12としては、抵抗率が、5.5×10-1Ωcm以下の範囲を有する。
【0047】
また、位相シフト層12としては、遮光層13に近接する表面の炭素濃度が、ガラス基板11に近接する位置の炭素濃度よりも低くなるように設定される。
位相シフト層12においては、膜厚方向で遮光層13からガラス基板11に向かう方向に、炭素濃度が増加する濃度傾斜を有することができる。
位相シフト層12においては、遮光層13に近接する界面となる表面の炭素濃度が、ガラス基板11に近接する表面の炭素濃度よりも20%以上低いことができる。
位相シフト層12は、膜厚方向において遮光層13に近接する位置に、位相シフト層における炭素濃度の最大値と最小値との半値(中間の値)よりも低い炭素濃度である低炭素領域12aが形成されていることができる。
【0048】
この低炭素領域12aの膜厚は、位相シフト層12の膜厚に対して、1/4以下の範囲に設定される。
つまり、位相シフト層12の膜厚方向において、遮光層13側の1/4程度では、前記半値よりも低い炭素濃度である低炭素領域12aが形成され、ガラス基板11側の3/4程度では、前記半値よりも高い炭素濃度である高炭素領域12bが形成されている。低炭素領域12aはまた、低酸素領域でもある。高炭素領域12bは、高酸素領域でもある。
【0049】
遮光層13は、Cr(クロム)、O(酸素)を主成分とするものであり、さらに、C(炭素)およびN(窒素)を含むものとされる。
この場合、遮光層13として、Crの酸化物、窒化物、炭化物、酸化窒化物、炭化窒化物および酸化炭化窒化物から選択される1つ、または、2種以上を積層して構成することもできる。さらに、遮光層13が厚み方向に異なる組成を有することもできる。例えば、遮光層13として、窒素濃度、あるいは、酸素濃度などが、膜厚方向に傾斜した構成などを例示できる。
遮光層13は、後述するように、所定の密着性(疎水性)、所定の光学特性が得られるようにその厚み、および、Cr,N,C,O,Si等の組成比(atm%)が設定される。
【0050】
遮光層13の膜厚は、遮光層13に要求される条件、つまり、後述するフォトレジスト層15との密着性(疎水性)および光学特性等といった膜特性によって設定される。これらの遮光層13における膜特性は、Cr,N,C,O等の組成比によって変化する。遮光層13の膜厚は、特に、位相シフトマスク10として必要な光学特性によって設定することができる。
遮光層13の膜厚・組成を上記のように設定することにより、フォトリソグラフィ法におけるパターニング形成時に、たとえば、クロム系に用いられるフォトレジスト層15との密着性を向上して、フォトレジスト層15との界面でエッチング液の浸込みが発生しないため、良好なパターン形状が得られて、所望のパターンを形成することができる。
【0051】
なお、遮光層13が上記の条件のように設定されていない場合、フォトレジスト層15との密着性が所定の状態とならずにフォトレジスト層15が剥離して、界面にエッチング液が侵入してしまい、パターン形成をおこなうことができなくなるため好ましくない。また、遮光層13の膜厚が上記の条件のように設定されていない場合には、フォトマスクとしての光学特性を所望の条件に設定することが難しくなる、あるいは、マスクパターンの断面形状が所望の状態にならない可能性があるため、好ましくない。
【0052】
遮光層13は、クロム化合物中の酸素濃度と窒素濃度を高くすることで親水性を低減して、疎水性を向上し、密着性をあげることが可能である。
同時に、遮光層13は、クロム化合物中の酸素濃度と窒素濃度を高くすることで屈折率と消衰係数の値を低くする、あるいは、クロム化合物中の酸素濃度と窒素濃度を低くすることで屈折率と消衰係数の値を高くすることが可能である。
【0053】
本実施形態におけるマスクブランクスの製造方法は、ガラス基板(透明基板)11に位相シフト層12を成膜した後に、遮光層13を成膜するものとされる。
【0054】
マスクブランクスの製造方法は、位相シフト層12と遮光層13以外に、エッチングストップ層、保護層、密着層、耐薬層、反射防止層、等を積層する場合には、これらの積層工程を有することができる。
一例として、例えば、クロムを含む密着層を挙げることができる。
【0055】
図3は、本実施形態におけるマスクブランクス、位相シフトマスクの製造工程を示す断面図である。図4は、本実施形態におけるマスクブランクス、位相シフトマスクの製造工程を示す断面図である。図5は、本実施形態におけるマスクブランクス、位相シフトマスクの製造工程を示す断面図である。図6は、本実施形態におけるマスクブランクス、位相シフトマスクの製造工程を示す断面図である。図7は、本実施形態におけるマスクブランクス、位相シフトマスクの製造工程を示す断面図である。図8は、本実施形態におけるマスクブランクス、位相シフトマスクの製造工程を示す断面図である。図9は、本実施形態における位相シフトマスクを示す断面図である。
本実施形態における位相シフトマスク(フォトマスク)10は、図9に示すように、マスクブランクス10Bとして積層された位相シフト層12と遮光層13とに、パターンを形成したものとされる。
【0056】
以下、本実施形態のマスクブランクス10Bから位相シフトマスク10を製造する製造方法について説明する。
【0057】
レジストパターン形成工程として、図2に示すように、マスクブランクス10Bの最外面上にフォトレジスト層15を形成する。または、あらかじめフォトレジスト層15が最外面上に形成されたマスクブランクス10Bを準備してもよい。フォトレジスト層15は、ポジ型でもよいしネガ型でもよい。フォトレジスト層15としては、いわゆるクロム系材料へのエッチングおよびモリブデンシリサイド系材料へのエッチングに対応可能なものとされる。フォトレジスト層15としては、液状レジストが用いられる。
【0058】
続いて、フォトレジスト層15を露光及び現像することで、遮光層13よりも外側にレジストパターン15P1が形成される。レジストパターン15P1は、位相シフト層12と遮光層13とのエッチングマスクとして機能する。
【0059】
レジストパターン15P1は、位相シフト層12と遮光層13とのエッチングパターンに応じて適宜形状が定められる。一例として、形成する透光領域10L(図4図9参照)の開口幅寸法に対応した開口幅を有する形状に設定される。
【0060】
次いで、遮光パターン形成工程として、このレジストパターン15P1越しにエッチング液を用いて遮光層13をウエットエッチングして、図3に示すように、遮光パターン13P1を形成する。
【0061】
遮光パターン形成工程におけるエッチング液としては、クロム系材料のエッチング液として、硝酸セリウム第2アンモニウムを含むエッチング液を用いることができ、例えば、硝酸や過塩素酸等の酸を含有する硝酸セリウム第2アンモニウムを用いることが好ましい。
遮光パターン形成工程においては、モリブデンシリサイドからなる位相シフト層12が、上記のクロム系のエッチング液にはほとんどエッチングされない。
【0062】
次いで、位相シフトパターン形成工程として、この遮光パターン13P1とレジストパターン15P1越しにエッチング液を用いて位相シフト層12をウエットエッチングして、図4に示すように、位相シフトパターン12P1を形成する。
【0063】
位相シフトパターン形成工程におけるエッチング液としては、モリブデンシリサイドからなる位相シフト層12をエッチング可能なものとして、フッ化水素酸、珪フッ化水素酸、フッ化水素アンモニウムから選ばれる少なくとも一つのフッ素化合物と、過酸化水素、硝酸、硫酸から選ばれる少なくとも一つの酸化剤とを含むものを用いることが好ましい。
【0064】
この際、位相シフト層12には、低炭素領域12aが設けられているため、モリブデンシリサイド系エッチング液に対するエッチングレート(E.R.)が高くなるが、低炭素領域12aの膜厚が小さく設定されているため、エッチング時間がそれほど長くなることを防止できる。さらに、位相シフト層12では、低炭素領域12aよりも下側、つまり、ガラス基板11に近接する位置における炭素濃度が高く設定された高炭素領域12bとされているため、モリブデンシリサイド系エッチング液に対するエッチングレート(E.R.)が小さくなり、位相シフト層12の全体では、エッチング時間を短縮することができる。
【0065】
これにより、エッチング時間を短くして、上記のエッチング液により影響を受けるガラス基板11に対する影響を抑制することが可能となる。
これにより、図4に示すように、ガラス基板11の表面が露出した透光領域10Lを形成することができる。
【0066】
位相シフト層12を構成するモリブデンシリサイド化合物は、例えばフッ化水素アンモニウムと過酸化水素の混合液によりエッチングすることが可能である。これに対し、遮光層14を形成するクロム化合物は、例えば硝酸第2セリウムアンモニウムと過塩素酸の混合液によりエッチングすることが可能である。
【0067】
したがって、それぞれのウエットエッチングの際における選択比が非常に大きくなる。このため、エッチングによる遮光パターン13P1と、位相シフトパターン12P1との形成後においては、位相シフトマスク10の断面形状として、垂直に近い良好な断面形状を得ることが可能である。
【0068】
また、位相シフトパターン形成工程においては、遮光層13に近い位相シフト層12の低炭素領域12aでの炭素濃度および酸素濃度が、ガラス基板11に近い位相シフト層12の高炭素領域12bでの炭素濃度および酸素濃度に比べて低く設定される。これにより、遮光層13に近い位相シフト層12の低炭素領域12aでのエッチングレートが低くなる。したがって、位相シフト層12においては、高炭素領域12bのエッチングに比べて、低炭素領域12aのエッチングの進行を遅延させる。
【0069】
これらにより、遮光パターン13P1と位相シフトパターン12P1とのエッチングで形成された壁面が、ガラス基板11表面と為す角(テーパ角)θは直角に近くなり、例えば、90°程度にすることができる。
【0070】
しかも、位相シフトパターン12P1には、遮光パターン13P1に接して低炭素領域12aが形成されていることで、遮光パターン13P1と位相シフトパターン12P1との密着性が向上している。これにより、位相シフトパターン形成工程においては、遮光パターン13P1との界面にエッチング液が浸入することがない。したがって、確実なパターン形成をおこなうことができる。
【0071】
さらに、本実施形態においては、レジストパターン形成工程として、図5に示すように、フォトレジスト層15を露光及び現像することで、図6に示すように、遮光パターン14P1よりも外側にレジストパターン15P2が形成される。レジストパターン15P2は、遮光パターン13P1とのエッチングマスクとして機能する。
【0072】
レジストパターン15P2は、遮光パターン14P1とのエッチングパターンに応じて適宜形状が定められる。一例として、形成する露光領域10P1および位相シフト領域10P2(図7図9参照)の開口幅寸法に対応した開口幅を有する形状に設定される。
【0073】
次いで、遮光パターン形成工程として、このレジストパターン15P2越しにエッチング液を用いて遮光パターン13P1をウエットエッチングして、図7に示すように、遮光パターン13P2を形成する。
これにより、位相シフトパターン12P1の表面が露出した露光領域10P1および位相シフト領域10P2に対応した遮光パターン13P2を形成することができる。
【0074】
遮光パターン形成工程におけるエッチング液としては、同様に、クロム系材料のエッチング液として、硝酸セリウム第2アンモニウムを含むエッチング液を用いることができ、例えば、硝酸や過塩素酸等の酸を含有する硝酸セリウム第2アンモニウムを用いることが好ましい。
遮光パターン形成工程においては、モリブデンシリサイドからなる位相シフトパターン12P1が、上記のクロム系のエッチング液にはほとんどエッチングされない。
【0075】
この際、位相シフトパターン12P1には、低炭素領域12aが設けられているため、クロム系エッチング液に対する耐エッチング性を向上することができる。同時に、位相シフトパターン12P1には、低炭素領域12aが設けられているため、遮光パターン13P2との密着性を高め、エッチングされた形状が崩れてしまうことを防止できる。
【0076】
次いで、位相シフトパターン形成工程として、このレジストパターン15P2と遮光パターン13P2越しにエッチング液を用いて位相シフトパターン12P1をウエットエッチングして、図8に示すように、位相シフトパターン12P2を形成する。
【0077】
位相シフトパターン形成工程におけるエッチング液としては、モリブデンシリサイドからなる位相シフトパターン12P2をエッチング可能なものとして、フッ化水素酸、珪フッ化水素酸、フッ化水素アンモニウムから選ばれる少なくとも一つのフッ素化合物と、過酸化水素、硝酸、硫酸から選ばれる少なくとも一つの酸化剤とを含むものを用いることが好ましい。
【0078】
この際、位相シフトパターン12P1には、低炭素領域12aが設けられているため、モリブデンシリサイド系エッチング液に対するエッチングレート(E.R.)が高くなるが、低炭素領域12aの膜厚が小さく設定されているため、エッチング時間がそれほど長くなることを防止できる。さらに、位相シフトパターン12P1では、低炭素領域12aよりも下側、つまり、ガラス基板11に近接する位置における炭素濃度が高く設定された高炭素領域12bとされているため、モリブデンシリサイド系エッチング液に対するエッチングレート(E.R.)が小さくなり、位相シフトパターン12P1の全体では、エッチング時間を短縮することができる。
【0079】
これにより、エッチング時間を短くして、上記のエッチング液に対して露出する透光領域10Lにおいて、エッチング液によってガラス基板11が受ける影響を抑制することが可能となる。
【0080】
位相シフト層12を構成するモリブデンシリサイド化合物は、例えばフッ化水素アンモニウムと過酸化水素の混合液によりエッチングすることが可能である。これに対し、遮光層14を形成するクロム化合物は、例えば硝酸第2セリウムアンモニウムと過塩素酸の混合液によりエッチングすることが可能である。
【0081】
したがって、それぞれのウエットエッチングの際における選択比が非常に大きくなる。このため、エッチングによる遮光パターン13P1と、位相シフトパターン12P1との形成後においては、位相シフトマスク10の断面形状として、垂直に近い良好な断面形状を得ることが可能である。
【0082】
また、位相シフトパターン形成工程においては、遮光層13に近い位相シフト層12の低炭素領域12aでの炭素濃度および酸素濃度が、ガラス基板11に近い位相シフト層12の高炭素領域12bでの炭素濃度および酸素濃度に比べて低く設定される。これにより、遮光層13に近い位相シフト層12の低炭素領域12aでのエッチングレートが低くなる。したがって、位相シフト層12においては、高炭素領域12bのエッチングに比べて、低炭素領域12aのエッチングの進行を遅延させる。
【0083】
この際、位相シフトパターン12P1には、低炭素領域12aが設けられているため、モリブデンシリサイド系エッチング液に対するエッチングレート(E.R.)が高くなるが、低炭素領域12aの膜厚が小さく設定されているため、エッチング時間がそれほど長くなることを防止できる。さらに、位相シフトパターン12P1では、低炭素領域12aよりも下側、つまり、ガラス基板11に近接する位置に炭素濃度が高く設定された高炭素領域12bが設けられているため、モリブデンシリサイド系エッチング液に対するエッチングレート(E.R.)が小さくなり、エッチング時間を短縮することができる。
【0084】
これにより、エッチング時間を短くして、透光領域10Lで露出しているガラス基板11に対して、上記のエッチング液による影響を抑制することが可能となる。
これにより、図8に示すように、ガラス基板11の表面が露出した露光領域10P1と、位相シフトパターン12P2が残存して露出している位相シフト領域10P2と、を形成することができる。
【0085】
次いで、レジスト除去工程として、レジストパターン15P2を除去して、図9に示すように、位相シフトマスク10を製造する。
【0086】
以下、本実施形態におけるマスクブランクスの製造方法について、図面に基づいて説明する。
【0087】
図10は、本実施形態におけるマスクブランクスの製造装置を示す模式図である。
本実施形態におけるマスクブランクス10Bは、図10に示す製造装置により製造される。
【0088】
図10に示す製造装置S10は、インターバック式のスパッタリング装置とされ、ロード室S11、アンロード室S16と、ロード室S11に密閉機構S17を介して接続されるとともに、アンロード室S16に密閉機構S18を介して接続された成膜室(真空処理室)S12とを有するものとされる。
【0089】
ロード室S11には、外部から搬入されたガラス基板11を成膜室S12へと搬送する搬送機構S11aと、この室内を粗真空引きするロータリーポンプ等の排気機構S11fが設けられる。
【0090】
アンロード室S16には、成膜室S12から成膜の完了したガラス基板11を外部へと搬送する搬送機構S16aと、この室内を粗真空引きするロータリーポンプ等の排気機構S16fが設けられる。
【0091】
成膜室S12には、基板保持機構S12aと、2つの成膜処理に対応した機構として二段の成膜機構S13,S14が設けられている。
【0092】
基板保持機構S12aは、搬送機構S11aによって搬送されてきたガラス基板11を、成膜中にターゲットS13b,S14bと対向するようにガラス基板11を保持するとともに、ガラス基板11をロード室S11からの搬入およびアンロード室S16へ搬出可能とされている。
【0093】
成膜室S12のロード室S11側位置には、二段の成膜機構S13,S14のうち一段目の成膜材料を供給する成膜機構S13が設けられている。
成膜機構S13は、ターゲットS13bを有するカソード電極(バッキングプレート)S13cと、バッキングプレートS13cに負電位のスパッタ電圧を印加する電源S13dと、を有する。
【0094】
成膜機構S13は、成膜室S12内でカソード電極(バッキングプレート)S13c付近に重点的にガスを導入するガス導入機構S13eと、成膜室S12内でカソード電極(バッキングプレート)S13c付近を重点的に高真空引きするターボ分子ポンプ等の高真空排気機構S13fと、を有する。
【0095】
さらに、成膜室S12におけるロード室S11とアンロード室S16との中間位置には、二段の成膜機構S13,S14のうち二段目の成膜材料を供給する成膜機構S14が設けられている。
成膜機構S14は、ターゲットS14bを有するカソード電極(バッキングプレート)S14cと、バッキングプレートS14cに負電位のスパッタ電圧を印加する電源S14dと、を有する。
【0096】
成膜機構S14は、成膜室S12内でカソード電極(バッキングプレート)S14c付近に重点的にガスを導入するガス導入機構S14eと、成膜室S12内でカソード電極(バッキングプレート)S14c付近を重点的に高真空引きするターボ分子ポンプ等の高真空排気機構S14fと、を有する。
【0097】
成膜室S12には、カソード電極(バッキングプレート)S13c,S14cの付近において、それぞれガス導入機構S13e,S14eから供給されたガスが、隣接する成膜機構S13,S14に混入しないように、ガス流れを抑制するガス防壁S12gが設けられる。これらガス防壁S12gは、基板保持機構S12aがそれぞれ隣接する成膜機構S13,S14間を移動可能なように構成されている。
【0098】
成膜室S12において、それぞれの二段の成膜機構S13,S14は、ガラス基板11に順に成膜するために必要な組成・条件を有するものとされる。
本実施形態において、成膜機構S13は位相シフト層12の成膜に対応しており、成膜機構S14は遮光層13の成膜に対応している。
【0099】
具体的には、成膜機構S13においては、ターゲットS13bが、ガラス基板11に位相シフト層12を成膜するために必要な組成として、モリブデンシリサイドを有する材料からなるものとされる。
【0100】
同時に、成膜機構S13においては、ガス導入機構S13eから供給されるガスとして、位相シフト層12の成膜に対応して、プロセスガスが炭素、窒素、酸素などを含有し、アルゴン、窒素ガス等のスパッタガスとともに、所定のガス分圧として条件設定される。
また、ガス導入機構S13eにおいて供給するガスでは、炭素含有ガス、酸素含有ガスや窒素含有ガス等のガス分圧を、成膜される位相シフト層12の膜厚に従って所定の変化量として、高炭素領域12bおよび低炭素領域12aを形成するようにそれぞれ調整することが可能な構成とされている。
【0101】
また、成膜条件にあわせて高真空排気機構S13fからの排気がおこなわれる。
また、成膜機構S13においては、電源S13dからバッキングプレートS13cに印加されるスパッタ電圧が、位相シフト層12の成膜に対応して設定される。
【0102】
また、成膜機構S14においては、ターゲットS14bが、位相シフト層12上に遮光層13を成膜するために必要な組成として、クロムを有する材料からなるものとされる。
【0103】
同時に、成膜機構S14においては、ガス導入機構S14eから供給されるガスとして、遮光層13の成膜に対応して、プロセスガスが炭素、窒素、酸素などを含有し、アルゴン、不活性ガス等のスパッタガスとともに、所定のガス分圧として設定される。
また、ガス導入機構S14eにおいて供給するガスでは、酸素含有ガスや窒素含有ガス等のガス分圧を、成膜される遮光層13の膜厚に従って所定の変化量となるようにそれぞれ調整することが可能な構成とされている。
【0104】
また、成膜条件にあわせて高真空排気機構S14fからの排気がおこなわれる。
また、成膜機構S14においては、電源S14dからバッキングプレートS14cに印加されるスパッタ電圧が、遮光層13の成膜に対応して設定される。
【0105】
図10に示す製造装置S10においては、ロード室S11から搬送機構S11aによって搬入したガラス基板11に対して、成膜室(真空処理室)S12において基板保持機構S12aによって搬送しながら二段のスパッタリング成膜をおこなった後、アンロード室S16から成膜の終了したガラス基板11を搬送機構S16aによって外部に搬出する。
【0106】
位相シフト層形成工程においては、成膜機構S13において、ガス導入機構S13eから成膜室S12のバッキングプレートS13c付近に供給ガスとしてスパッタガスと反応ガスとを供給する。この状態で、外部の電源からバッキングプレート(カソード電極)S13cにスパッタ電圧を印加する。また、マグネトロン磁気回路によりターゲットS13b上に所定の磁場を形成してもよい。
【0107】
成膜室S12内のバッキングプレートS13c付近でプラズマにより励起されたスパッタガスのイオンが、カソード電極S13cのターゲットS13bに衝突して成膜材料の粒子を飛び出させる。そして、飛び出した粒子と反応ガスとが結合した後、ガラス基板11に付着することにより、ガラス基板11の表面に所定の組成で位相シフト層12が形成される。
【0108】
同様に、遮光層形成工程においては、成膜機構S14において、ガス導入機構S14eから成膜室S12のバッキングプレートS14c付近に供給ガスとしてスパッタガスと反応ガスとを供給する。この状態で、外部の電源からバッキングプレート(カソード電極)S14cにスパッタ電圧を印加する。また、マグネトロン磁気回路によりターゲットS14b上に所定の磁場を形成してもよい。
【0109】
成膜室S12内のバッキングプレートS14c付近でプラズマにより励起されたスパッタガスのイオンが、カソード電極S14cのターゲットS14bに衝突して成膜材料の粒子を飛び出させる。そして、飛び出した粒子と反応ガスとが結合した後、ガラス基板11に付着することにより、ガラス基板11の表面に所定の組成で遮光層13が位相シフト層12に積層して形成される。
【0110】
この際、位相シフト層12の成膜では、ガス導入機構S13eから所定の分圧となるスパッタガス、炭素含有ガス、窒素含有ガス、酸素含有ガス等を供給してそれぞれの分圧を制御するように切り替えて、その組成を設定した範囲内にする。同時に、膜厚方向に組成を変化させて位相シフト層12を形成する場合には、成膜された膜厚に応じて雰囲気ガスにおける個々のガス分圧を変動させることもできる。
特に、上述したように、膜厚方向に炭素濃度の低い低炭素領域12aと、低炭素領域12aよりも窒炭素度の高いそれ以外のガラス基板11に近接する高炭素領域12bと、を形成するように、炭素含有ガス、窒素含有ガス等の分圧比をそれぞれ制御する。
【0111】
具体的には、モリブデンシリサイド化合物膜の成膜時に、膜厚の増加にともなって、位相シフト層12の膜厚に対して3/4となる膜厚とされる所定の膜厚まで所定の炭素含有ガスの分圧より高いで成膜された時から、炭素含有ガスの分圧を低減させることで、高炭素領域12bおよび低炭素領域12aを形成することができる。
同時に、位相シフト層12におけるエッチングストップ能を所定の状態に設定するために、ターゲットS13bにおけるモリブデンとシリコンとの組成比、さらに、モリブデンとシリコン以外の含有物の組成比を、所定の状態に設定することができる。また、異なる組成比を有するターゲットS13bを適切に選択することが好ましい。
【0112】
また、遮光層13の成膜では、ガス導入機構S14eから所定の分圧となる窒素含有ガス、酸素含有ガス、炭素含有ガス等を供給してその分圧を制御するように切り替えて、その組成を設定した範囲内にする。
【0113】
ここで、酸素含有ガスとしては、CO(二酸化炭素)、O(酸素)、NO(一酸化二窒素)、NO(一酸化窒素)、CO(一酸化炭素)等を挙げることができる。
また、炭素含有ガスとしては、CO(二酸化炭素)、CH4(メタン)、C(エタン)、CO(一酸化炭素)等を挙げることができる。
さらに、窒素含有ガスとしては、N(窒素ガス)、NO(一酸化二窒素)、NO(一酸化窒素)、NO(一酸化二窒素)、NH(アンモニア)等を挙げることができる。
なお、位相シフト層12、遮光層13の成膜で、必要であればターゲットS13b,S14bを適宜交換することもできる。
【0114】
さらに、これら位相シフト層12、遮光層13の成膜に加え、他の膜を積層する場合には、対応するターゲット、ガス等のスパッタ条件としてスパッタリングにより成膜するか、他の成膜方法によって該当膜を積層して、本実施形態のマスクブランクス10Bとすることもできる。
【0115】
以下、本実施形態における位相シフト層12、遮光層13の膜特性、特に、位相シフト層の膜特性について説明する。
【0116】
マスクを形成するためのガラス基板11上に、スパッタリング法等を用いてモリブデンシリサイド化合物を形成し位相シフト層12とする。ここで形成するモリブデンシリサイド化合物はモリブデン、シリコン、酸素、窒素、炭素等を含有する膜であることが望ましい。この際に膜中に含有するモリブデン、シリコン、酸素、窒素、炭素の組成と膜厚を制御することで所望の透過率と位相とを有する位相シフト層12を形成することが可能である。
【0117】
引き続き、遮光層13となるクロム化合物膜をスパッタリング法等を用いて形成する。ここで形成するクロム化合物はクロム、酸素、窒素、炭素等を含有する膜であることが望ましい。
このような膜構造のマスクブランクス10Bを形成することにより、位相シフト層12がモリブデンシリサイド化合物で形成され、遮光層13がクロム化合物で形成された位相シフトマスク10を形成することが可能になる。
【0118】
本発明者らが鋭意検討した結果、モリブデンシリサイド膜を用いて位相シフト層12を形成し、位相シフト層12のエッチングレートを高くするためには、モリブデンシリサイド膜の組成を適切に制御することが重要であることがわかった。
フラットディスプレイ向けの位相シフトマスク10を、モリブデンシリサイド膜を用いて形成する場合には、モリブデンとシリコンの比率が1:3以下のターゲットを用いて、モリブデンシリサイド膜中における窒素濃度を30%以上、シリコン濃度を25%以下、酸素濃度を8%以上、炭素濃度を8%以上にする。これによりことで、エッチングレートが早くガラス基板のエッチングの影響の少ないモリブデンシリサイド膜を形成することが可能になる。さらに、モリブデンシリサイド膜の抵抗率が、5.5x10-1Ωcm以下であることができる。
【0119】
モリブデンシリサイドの様なシリサイド化合物を用いる場合は、位相シフト層12の上部にクロム化合物で形成された遮光層13を形成する場合が一般的である。
そのため、位相シフト層12の形成後に、遮光層13となるクロムニウム化合物を形成することで、位相シフトマスク10を形成するためのマスクブランクス10Bを構成することが可能になる。
位相シフトマスク10を形成する場合には、マスクブランクス12B形成後にレジストパターンの形成とマスクブランクスのエッチングを行うことで、位相シフトマスクを形成することができる。
【0120】
モリブデンシリサイド膜によって位相シフト層12を形成した場合には、位相シフトマスク10を形成する場合に、フッ酸を含有するエッチング液でエッチングすることが必要である。このため、ガラス基板11のエッチングの影響を低減するためにできる限りエッチングレートの速いモリブデンシリサイド膜を用いることが望ましい。
【0121】
図11に、ターゲット組成の異なるモリブデンシリサイドターゲットを用いて、モリブデンシリサイド膜を形成した場合の膜中の窒素濃度とエッチングレートの関係を示す。図に示した結果から、ターゲット組成において、シリコン組成の少ないモリブデンシリサイドターゲットを用いることで、エッチングレートの速いモリブデンシリサイド膜を形成することができることがわかる。
【0122】
さらに、モリブデンシリサイドのターゲットについてはモリブデンシリコンの結晶であるMoSiとSiとの材料を混合することで、所望の組成比のターゲットを形成することが可能となる。そのためには、一定以上のシリコンがMoSiよりも過剰に存在しないと組成の安定したターゲットが形成することは困難である。このため、モリブデンとシリコンの組成比が1:2.3までシリコン組成が増加すると相対密度が高いターゲットを安定して形成できることがわかった。
【0123】
このため、モリブデンシリサイドの組成比として、モリブデンとシリコンの組成比が1:2.3から1:3までのターゲットを用いることで、ガラス基板11のエッチングを抑制した状態を維持するエッチングレートを有する膜を成膜しつつ、高密度のターゲットを用いることが可能である。このため、欠陥の影響を低減した生産に適したマスクブランクス10Bを製品として製造することが可能になった。
【0124】
モリブデンとシリコンの組成比が1:2.3のターゲットを用いてモリブデンシリサイド膜を形成し、成膜時のアルゴン、窒素流量を変化させて、モリブデンシリサイド膜を成膜した。
位相シフトマスク10の製造プロセスとして、パターン形成においては、通常、酸やアルカリ等の薬液を用いられるが、これらのプロセス中において透過率変化を抑制することが必要である。
【0125】
モリブデンシリサイド膜の窒素濃度を上げることで、酸やアルカリに対する薬液耐性が向上することがわかった。
このことから、薬液耐性を高めるために、モリブデンシリサイド膜の窒素濃度を高めることが重要であることがわかる。
【0126】
モリブデンとシリコンの組成比が1:2.3のターゲットを用いてモリブデンシリサイド膜を成膜する際に二酸化炭素ガスの添加量を変化させて成膜した。
さらに、モリブデンシリサイド膜中の酸素濃度と波長365nmでの透過率との関係、および、モリブデンシリサイド膜中の炭素濃度と波長365nmでの透過率との関係を調べた。
ここで、透過率(%)は、波長365nmでの位相が180°になるように膜厚を調整した膜厚でのモリブデンシリサイド膜の透過率である。
【0127】
これらの結果から、酸素濃度を増加させることで、透過率は高くなることがわかる。ここで、ディスプレイ用に用いられる位相シフトマスクとしては、波長365nmにおいて、位相が180°で5%以上の透過率を有する位相シフトマスクが用いられる。
【0128】
さらに、モリブデンシリサイド膜を成膜する際のガス条件を変化させて、モリブデンシリサイド膜中のシリコン濃度、酸素濃度、炭素濃度とモリブデンシリサイド膜のエッチングレートとの関係を調べた。
【0129】
この結果から、モリブデンシリサイド膜中のシリコン濃度を低くして、酸素濃度と炭素濃度を高めることで、エッチングレート(E.R.)が早くなることがわかった。
【0130】
これにより、モリブデンシリサイド膜中のシリコン濃度を低くして、酸素濃度と炭素濃度を高めることが、モリブデンシリサイド膜のエッチングレートを早くするために重要であることがわかる。
エッチングレートが早くなるとモリブデンシリサイド膜のエッチング時において、必要なエッチング時間が減少し、ガラス基板に対するエッチング量が少なくなるために、位相シフトマスクの製造における光学特性の変化量を抑制することが可能になる。
【0131】
さらに、モリブデンシリサイド膜のエッチングレートと抵抗率との関係を調査した。この結果から、抵抗率が低くなるとモリブデンシリサイド膜のエッチングレートが早くなることがわかった。
【0132】
これらの結果から、フラットディスプレイ向けの位相シフトマスクとして、モリブデンシリサイド膜を用いて形成する場合には、モリブデンとシリコンの比率が1:3以下のターゲットを用いて、モリブデンシリサイド膜中の窒素濃度を30%以上、シリコン濃度を25%以下、酸素濃度を8%以上、炭素濃度を8%以上にすることで、エッチングレートが早く、ガラス基板へのエッチングにおける影響の少ないモリブデンシリサイド膜を形成することが可能になる。さらにモリブデンシリサイド膜の抵抗率が5.5x10-1Ωcm以下である。
【0133】
さらに、本実施形態における位相シフト層12の膜特性と炭素濃度との関係について説明する。
【0134】
モリブデンシリサイド膜を用いたi線(365nm)での透過率5%程度の位相シフトマスクは、位相シフト層12を100~150nm程度の比較的厚い膜厚にする必要がある。また、フラットディスプレイ向けである大面積のフォトマスクは、パターン形成時に、ウエットエッチングを用いて加工する必要があるために、位相シフトマスクのパターンがテーパー形状になることが多い。
【0135】
このために、モリブデンシリサイド膜の成膜条件を膜厚方向で制御することにより、膜厚方向でのウエットエッチングレートを変化させる。これにより、位相シフトマスクの断面形状を垂直に近づけることが可能になることがわかった。
【0136】
具体的には、モリブデンシリサイド膜の膜厚方向での炭素濃度を、モリブデンシリサイド膜の表面で少なく設定して、ガラス基板界面を多く設定することで、モリブデンシリサイド膜の表面付近におけるエッチングレートを遅く、ガラス基板界面付近におけるエッチングレートを早くすることが可能になることがわかった。この結果、位相シフトマスクの断面形状を垂直に近づけることが可能となる。
【0137】
さらに、ガラス基板界面の炭素濃度を膜表面の炭素濃度より20%以上高くすることで、良好な断面形状が得られる。
【0138】
以下、本発明にかかる実施例を説明する。
【0139】
なお、本発明におけるモリブデンシリサイド膜の位相シフト層12の具体例として、確認試験について説明する。
【0140】
<実験例>
実験例1として、ガラス基板上に、位相シフト層として、スパッタリング法等を用いてモリブデンシリサイド化合物の膜を形成する。ここで形成するモリブデンシリサイド化合物膜は、モリブデン、シリコン、酸素、窒素、炭素等を含有する膜である。このモリブデンシリサイド化合物膜を、オージェ電子分光法を用いて組成評価を行った。
【0141】
ここで、モリブデンシリサイド化合物の膜を形成するスパッタリングにおいて、モリブデンとシリコンとの比率が1:2.3であるターゲットを用いた。
スパッタリングにおける雰囲気ガスとしては、窒素ガスに加えて、二酸化炭素、アルゴン、とした。また、二酸化炭素ガス分圧を0~100%、窒素ガス分圧を0~100%で変化させて成膜した。
【0142】
これらを実験例1~5として、それぞれのモリブデンシリサイド膜における組成比と、モリブデンシリコン膜のエッチングレートと、このエッチングレートとモリブデンシリサイド膜における透過率および抵抗率(シート抵抗として測定)とを測定した。
この結果を表1、表2に示す。
【0143】
【表1】
【0144】
【表2】
【0145】
表1に示す実験例1および実験例2は、透過率5.2%程度になるように設定して、実際にマスク層としての特性を調整し、断面評価用に作成したサンプルであり、深さ方向で組成変化がある条件を用いるとともに、実際にエッチングタイムを評価した。
また、表2に示す実験例3から実験例5は、いずれも同一成膜条件で成膜したモリブデンシリサイド膜である。これらの実験例3~5では、成膜時の二酸化炭素ガス添加量のみを変化させて、膜中の酸素濃度と炭素濃度とエッチングレートとの関係を調べた。
【0146】
特に、実験例2としてのオージェ電子分光法を用いて組成評価結果を図12に示す。
また、実験例5としてのオージェ電子分光法を用いて組成評価結果を図13に示す。
【0147】
図12に示すように、実験例2では、窒素濃度、シリコン濃度、モリブデン濃度がほぼ膜厚方向で均一であるのに対し、図12に示すように、実験例2では炭素濃度が図の左側で低く、図の右側で炭素濃度が高い領域が形成されていることが確認できた。このように、ガラス基板側となる図の右側で炭素濃度が高い領域が形成され、遮光層側となる図の左側で炭素濃度が低い領域が形成されていることがわかる。
【0148】
これに対し、図13に示すように、実験例5では、窒素濃度、シリコン濃度、モリブデン濃度に加えて、炭素濃度がほぼ膜厚方向で均一である。
【0149】
さらに、モリブデンシリサイド化合物の膜におけるモリブデン濃度と透過率との関係を図14に示す。
同様に、モリブデンシリサイド化合物の膜における酸素濃度と透過率との関係を図15に示す。
同様に、モリブデンシリサイド化合物の膜におけるシリコン濃度と透過率との関係を図16に示す。
【0150】
実験例3で成膜したモリブデンシリサイド膜をウエットエッチングし、その断面を撮影したSEM画像を図17に示す。
実験例5で成膜したモリブデンシリサイド膜をウエットエッチングし、その断面を撮影したSEM画像を図18に示す。
【0151】
これらの結果から、モリブデンシリサイド膜の炭素濃度を上げることで、エッチング速度を増大することがわかった。モリブデンシリサイド膜のエッチングレートと抵抗率(シート抵抗)との関係を調査したところ、炭素濃度を上げて抵抗率を低くした場合、モリブデンシリサイド膜のエッチングレートが早くなることがわかった。これにより、炭素濃度を傾斜させたモリブデンシリサイド膜においては、エッチング後の断面形状が傾かず、良好であることがわかった。
【0152】
さらに、これらの結果から、モリブデンシリサイド膜の窒素濃度を上げることで、酸やアルカリに対する薬液耐性が向上することがわかった。窒素濃度の高いモリブデンシリサイド膜は、遮光層等のクロム膜をエッチングする際に、エッチング液の界面への染み込み等の少ない高いエッチングストップ機能を有することがわかった。窒素濃度を増減することで、モリブデンシリサイド膜のエッチングレートと抵抗率を制御可能であることがわかった。
窒素濃度を上げたモリブデンシリサイド膜のエッチングレートと抵抗率との関係を調査したところ、抵抗率が低くなるとモリブデンシリサイド膜のエッチングレートが早くなることがわかった。さらに、抵抗率が低いモリブデンシリサイド膜を用いることで、静電破壊を抑制できることも判明した。
【0153】
モリブデンシリサイド膜中の窒素濃度を成膜時の窒素ガス分圧で制御できることがわかる。また、組成比がSi/Mo=2.3であるMoSi2.3ターゲットを用いたスパッタリングにより、さらに抵抗率の低いモリブデンシリサイド膜を形成することが可能であることがわかる。これにより、静電破壊の影響を低減できることがわかる。
さらに、窒素濃度の高いモリブデンシリサイド膜と窒素濃度の低いモリブデンシリサイド膜の積層構造を用いることで、断面形状が良好で、かつ、エッチング時間を短縮可能であり、位相シフトマスクに用いて好適なモリブデンシリサイド膜を形成可能であることが判明した。
【0154】
本願発明者らは、これらにより、本発明を完成した。これにより、ガラス基板のエッチングの影響の少なく、断面形状の良好なマスクを形成することが可能になる。
【符号の説明】
【0155】
10…位相シフトマスク
10B…マスクブランクス
10L…透光領域
10P1…露光領域
10P2…位相シフト領域
11…ガラス基板(透明基板)
12…位相シフト層
12P1…位相シフトパターン
12a…低炭素領域
12b…高炭素領域
13…遮光層
13P1,13P2…遮光パターン
15…フォトレジスト層
15P1,15P2…レジストパターン
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18