(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-15
(54)【発明の名称】杭の頭部への杭頭補強筋の接合方法及びその実施に供される治具
(51)【国際特許分類】
E02D 27/12 20060101AFI20231108BHJP
【FI】
E02D27/12 Z
(21)【出願番号】P 2020049002
(22)【出願日】2020-03-19
【審査請求日】2022-12-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000001317
【氏名又は名称】株式会社熊谷組
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100070024
【氏名又は名称】松永 宣行
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 正美
【審査官】五十幡 直子
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-031206(JP,A)
【文献】特開平10-245856(JP,A)
【文献】実開昭50-125224(JP,U)
【文献】特開2012-052365(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 27/00-27/52
E02D 5/22- 5/80
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼管を外殻とする既製コンクリート杭、鋼管杭又は杭頭部鋼管巻き場所打ちコンクリート杭からなる杭の頭部への杭頭補強筋の接合方法であって、
接着剤の収容空間と、該収容空間に連なりまた互いに連なる上部開放面及び側部開放面とを有する型枠部材をその側部開放面が前記杭の頭部の周面に相対するように前記杭の頭部に取り付けること、
前記型枠部材の収容空間に前記上部開放面を通して接着剤を入れること、
前記型枠部材の上部開放面を通して前記収容空間内の接着剤中に前記杭頭補強筋の下端部及びスペーサの一方及び他方を順次に又は同時に差し込み、これにより前記杭頭補強筋の下端部を前記杭の頭部の周面に押し当てることを含
み、
前記接着剤は、耐熱性無機接着剤又はエポキシ系接着剤からなる、接合方法。
【請求項2】
さらに、前記接着剤の固化後、前記型枠部材及び前記スペーサを撤去することを含む、請求項1に記載の接合方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の杭の頭部への杭頭補強筋の接合方法の実施に供される治具であって、
接着剤の収容空間と、該収容空間に連なりまた互いに連なる上部開放面及び側部開放面とを有する型枠部材と、
前記型枠部材の収容空間内に前記型枠部材の上部開放面を通して差し込まれるスペーサとを備え、
前記型枠部材は、前記上部開放面を通して前記収容空間内に杭頭補強筋の下端部を受け入れ可能であり、また、前記側部開放面が前記杭の頭部の周面に相対するように前記杭の頭部に取り付け可能であり、
前記スペーサは、これが前記型枠部材の収容空間内に差し込まれるとき、前記収容空間内に受けいれられた前記杭頭補強筋の下端部を前記頭部の周面に押し当て可能である横断面形状を有する、治具。
【請求項4】
前記型枠部材は前記収容空間を規定する剥離剤の層又は膜を有する、請求項3に記載の治具。
【請求項5】
前記型枠部材は、前記収容空間を形成する底板及び側板を有し、前記側板は前記底板に相対する前記上部開放面を規定しまた前記底板の上方に前記側部開放面を規定する、請求項3又は4に記載の治具。
【請求項6】
鋼管を外殻とする既製コンクリート杭、鋼管杭又は杭頭部鋼管巻き場所打ちコンクリート杭からなる杭の頭部への杭頭補強筋の接合方法であって、
接着剤の収容空間と、該収容空間に連なりまた互いに連なる上部開放面及び側部開放面とを有する型枠部材をその側部開放面が前記杭の頭部の周面に相対するように前記杭の頭部に取り付けること、
前記型枠部材の収容空間に前記上部開放面を通して接着剤を入れること、
前記型枠部材の上部開放面を通して前記収容空間内の接着剤中に前記杭頭補強筋の下端部及びスペーサの一方及び他方を順次に又は同時に差し込み、これにより前記杭頭補強筋の下端部を前記杭の頭部の周面に押し当てることを含む、接合方法の実施に供される治具であって、
前記型枠部材と、
前記型枠部材の収容空間内に前記型枠部材の上部開放面を通して差し込まれるスペーサとを備え、
前記型枠部材は、前記上部開放面を通して前記収容空間内に杭頭補強筋の下端部を受け入れ可能であり、また、前記側部開放面が前記杭の頭部の周面に相対するように前記杭の頭部に取り付け可能であり、
前記スペーサは、これが前記型枠部材の収容空間内に差し込まれるとき、前記収容空間内に受けいれられた前記杭頭補強筋の下端部を前記頭部の周面に押し当て可能である横断面形状を有し、
前記型枠部材は、前記収容空間を形成する底板及び側板を有し、前記側板は前記底板に相対する前記上部開放面を規定しまた前記底板の上方に前記側部開放面を規定し、
前記側板は2つの板片からなり、両板片は、それぞれ、互いに相対する平行な2つの第1の側板部と、第1の両側板部から互いに他の一方に向けて折れ曲がって伸び、互いに交差しかつ連なる2つの第2の側板部とからなり、
前記スペーサは扇形の横断面形状を有し、その横断面で見て、前記扇形の円弧において前記杭頭補強筋の下端部の周面に当接可能であり、また、前記扇形の円弧の中心において第2の両側板部にこれらの交差箇所において当接可能である
、治具。
【請求項7】
鋼管を外殻とする既製コンクリート杭、鋼管杭又は杭頭部鋼管巻き場所打ちコンクリート杭からなる杭の頭部への杭頭補強筋の接合方法であって、
接着剤の収容空間と、該収容空間に連なりまた互いに連なる上部開放面及び側部開放面とを有する型枠部材をその側部開放面が前記杭の頭部の周面に相対するように前記杭の頭部に取り付けること、
前記型枠部材の収容空間に前記上部開放面を通して接着剤を入れること、
前記型枠部材の上部開放面を通して前記収容空間内の接着剤中に前記杭頭補強筋の下端部及びスペーサの一方及び他方を順次に又は同時に差し込み、これにより前記杭頭補強筋の下端部を前記杭の頭部の周面に押し当てることを含む、接合方法の実施に供される治具であって、
前記型枠部材と、
前記型枠部材の収容空間内に前記型枠部材の上部開放面を通して差し込まれるスペーサとを備え、
前記型枠部材は、前記上部開放面を通して前記収容空間内に杭頭補強筋の下端部を受け入れ可能であり、また、前記側部開放面が前記杭の頭部の周面に相対するように前記杭の頭部に取り付け可能であり、
前記スペーサは、これが前記型枠部材の収容空間内に差し込まれるとき、前記収容空間内に受けいれられた前記杭頭補強筋の下端部を前記頭部の周面に押し当て可能である横断面形状を有し、
前記型枠部材は、前記収容空間を形成する底板及び側板を有し、前記側板は前記底板に相対する前記上部開放面を規定しまた前記底板の上方に前記側部開放面を規定し、
前記側板は2つの板片からなり、両板片は、それぞれ、互いに相対する平行な2つの第1の側板部と、第1の両側板部から互いに他の一方に向けて折れ曲がって伸び、互いに交差する2つの第2の側板部とからなり、第2の両側板部の交差部分において前記上部開放面から前記底板に向けて伸びる軸を介して該軸の周りに揺動可能に接続され、
前記底板は2つの底板部からなり、両底板部はそれぞれ両板片に連なり、両板片と共に前記軸の周りに揺動可能であり、
前記スペーサは扇形の横断面形状を有し、その横断面で見て、前記扇形の円弧において前記杭頭補強筋の下端部の周面に当接可能であり、また、前記扇形の円弧の中心において
前記第2の両側板部にこれらの交差箇所において当接可能である
、治具。
【請求項8】
前記側板は、前記杭の頭部の周方向に関して互いに反対側へ伸びる2つの袖部を有し、両袖部はそれぞれ前記側板の両端面の延長を規定する、請求項5に記載の治具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼管を外殻とする既製コンクリート杭、鋼管杭又は杭頭部鋼管巻き場所打ちコンクリート杭からなる杭の頭部への杭頭補強筋の接合方法及びその実施に供される治具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鋼管を外殻とする既製コンクリート杭、鋼管杭又は杭頭部鋼管巻き場所打ちコンクリート杭からなる杭に対する杭頭補強筋の接合に当たり、これを溶接により行うことに代えて、機械的な構造を用いて行うことが提案されている。これによれば、溶接作業に付随する天候状態の悪化に伴う作業能率の低下、作業員の技量の善し悪しに伴う品質の不安定性、火災発生の恐れ等を回避することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2004-124495号公報
【文献】特開2004-162345号公報
【文献】特許第5150474号公報
【文献】特許第5207998号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、前記従来の事情に鑑み、溶接作業を必要としない、新たな杭の頭部への杭頭補強筋の接合方法及びその実施に供される治具を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、鋼管を外殻とする既製コンクリート杭、鋼管杭又は杭頭部鋼管巻き場所打ちコンクリート杭からなる杭の頭部への杭頭補強筋の接合方法を提供する。前記接合方法は、接着剤の収容空間と、該収容空間に連なりまた互いに連なる上部開放面及び側部開放面とを有する型枠部材をその側部開放面が前記杭の頭部の周面に相対するように前記杭の頭部に取り付けること、前記型枠部材の収容空間に前記上部開放面を通して接着剤を入れること、前記型枠部材の上部開放面を通して前記収容空間内の接着剤中に前記杭頭補強筋の下端部及びスペーサの一方及び他方を順次に又は同時に差し込み、これにより、前記杭頭補強筋の下端部を前記杭の頭部の周面に押し当てることを含み、前記接着剤は、耐熱性無機接着剤又はエポキシ系接着剤からなる。
【0006】
本発明にあっては、型枠部材の内部である接着剤の収容空間内に収容された接着剤中に杭頭補強筋の下端部及びスペーサを差し込んで前記杭頭鉄筋の下端部を前記杭の頭部の周面に押し当てる。前記接着剤は、これが経時的に固化することにより、前記杭頭補強筋をその下端部において前記杭の頭部に接着する。加えて、前記接着剤は前記型枠部材の内部において前記杭頭補強筋の周囲を取り巻く塊に成形され、前記杭頭補強筋を保持する働きをなす。これにより、溶接によることなしに、前記杭の頭部への前記杭頭補強筋の強固な接合を実現することができる。
【0007】
さらに、前記接着剤の固化後、前記型枠部材及び前記スペーサを撤去するものとすることができる。但し、前記型枠部材及び前記スペーサは、これらを撤去することなく残置し、後に形成されるフーチングのような基礎の一部内に埋設することが可能である。
【0008】
本発明は、また、前記杭の頭部への杭頭補強筋の接合方法の実施に供される治具を提供する。前記治具は、接着剤の収容空間と、該収容空間に連なりまた互いに連なる上部開放面及び側部開放面とを有する型枠部材と、前記型枠部材の収容空間内に前記型枠部材の上部開放面を通して差し込まれるスペーサとを備える。前記型枠部材は、その側部開放面が前記杭の頭部の周面に相対するように前記杭の頭部に取り付け可能であり、また、前記上部開放面を通して前記収容空間内に杭頭補強筋の下端部を受け入れ可能である。前記スペーサは、これが前記型枠部材の収容空間内に差し込まれるとき、前記収容空間内に受けいれられた前記杭頭補強筋の下端部を前記頭部の周面に押し当て可能である横断面形状を有する。前記治具を用いることにより、前記杭の頭部への杭頭補強筋の接合方法を実施することができる。
【0009】
前記型枠部材は、前記接着剤の収容空間を規定する剥離剤の層又は膜を有するものとすることができる。これによれば、前記接着剤の固化後、前記型枠部材及び前記スペーサを撤去する場合における、前記接着剤の塊である成形体からの前記型枠部材の引き剥がしを容易にすることができる。
【0010】
前記型枠部材は、前記収容空間を形成する底板及び側板を有するものとすることができる。ここにおいて、前記側板は前記底板に相対する前記上部開放面を規定し、また、前記底板の上方に前記側部開放面を規定する。
【0011】
前記側板は2つの板片からなり、また、前記スペーサは扇形の横断面形状を有するものとすることができる。ここにおいて、両板片は、それぞれ、互いに相対する平行な2つの第1の側板部と、第1の両側板部から互いに他の一方に向けて折れ曲がって伸び、互いに交差しかつ連なる2つの第2の側板部とからなる。また、前記スペーサは、その横断面で見て、前記扇形の円弧において前記杭頭補強筋の下端部の周面に当接可能であり、また、前記扇形の円弧の中心において第2の両側板部にこれらの交差箇所において当接可能である。
【0012】
両側板については、これらの第2の側板部が互いに連なるものとすることに代えて、第2の両側板部がこれらの交差部分において前記上部開放面から前記底板に向けて伸びる軸を介して該軸の周りに揺動可能に接続されたものとし、また、前記底板については、これが2つの底板部からなり、両底板部がそれぞれ両板片に連なり、両板片と共に前記軸の周りに揺動可能であるものとすることができる。これによれば、前記2つの板片及び前記2つの底板部を前記軸の周りに揺動させ、前記頂部開放面及び側部開放面の大きさの増大とこれに伴う前記接着剤の収容空間の大きさの増大とを図ることができる。これにより、前記型枠部材を、径の異なる種々の杭頭補強筋を受け入れ可能であるものとすることができる。ここで、前記2つの板片及び前記2つの底板部の前記軸の周りの揺動に伴って、前記杭の頭部の周面と前記型枠部材の側板及び底板との間、並びに、両底板部相互間に隙間が生じるところ、例えば比較的高い粘度を有する接着剤の使用、両底板部上への前記隙間を覆うシート片の配置等により、前記隙間を通しての前記収容空間からの接着剤の流出を防止することが可能である。
【0013】
前記型枠部材は、前記第1の両側板部にそれぞれ連なり前記杭の頭部の周方向に関して互いに反対側へ伸びる2つの袖部を有するものとすることができる。両袖部は、前記杭の頭部に対する前記型枠部材の取付部とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】杭の頭部と、これに取り付けられた複数の杭頭補強筋とを概念的に示す斜視図である。
【
図2】杭の頭部に取り付けられた型枠部材と、該型枠部材内に収容された接着剤と、スペーサとを示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1を参照すると、地盤E中に設置され上下方向へ伸びる杭10と、地表に露出する杭10の頭部12と、鉛直に伸びる複数の杭頭補強筋16であってその下端部16aにおいて杭10の頭部12の周面14に接合された複数の杭頭補強筋16とが概念的に示されている。
【0016】
本発明は、杭10の頭部12の周面14への杭頭補強筋16の接合方法及びその実施に供される治具20(
図2)を提供する。
【0017】
本発明が適用される杭10は、鋼管を外殻とする既製コンクリート杭若しくは鋼管杭、又は、杭頭部鋼管巻き場所打ちコンクリート杭からなる。ここにおいて、杭10の頭部12の周面14とは、
図1に示す前記鋼管を外殻とする既製コンクリート杭や前記鋼管杭のような内外両周面を有する中空の杭にあってはその外周面をいう。また、杭頭補強筋16は丸鋼又は図示の例における異形棒鋼からなる。
【0018】
図2~
図4に示すように、治具20は、型枠部材22と、スペーサ24とを備え、る。
【0019】
図示の型枠部材22は、全体に箱状を呈し、接着剤26を収容する収容空間28と、該収容空間に連なりまた互いに連なる上部開放面30及び側部開放面32とを有する。より具体的には、型枠部材22は底板34(
図3)及び側板36を備え、底板34及び側板36により収容空間28が形成されている。側板36は底板34から垂直に立ち上がり、底板34の周面を該周面の一部34aを残して取り巻き、底板34の上方に側部開放面32を規定する両端面36aを有する。また、側板36は、底板34に相対する上部開放面30を規定する。型枠部材22はその収容空間28内に、上部開放面30を通して、杭頭補強筋16の下部16a及びスペーサ24を受け入れることができる。また、杭頭補強筋16の下部16a及びスペーサ24は、上部開放面30を通して、収容空間28内に差し込み可能である。
【0020】
底板34の周面の一部34a及び側板36の両端面36aは、杭10の頭部12の周面14に沿って円弧状に伸びる湾曲面からなる。型枠部材22は、側板36の両端面36aにおいて、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂等からなる接着剤50を介して、杭10の頭部12の周面14に取り付けられる。このとき、側板36の両端面36aが接着剤50を介して杭10の頭部12の周面14に接し、また、底板34の一部34aが杭10の頭部12の周面14に直接に接し、型枠部材22の側部開放面32が杭10の頭部12の周面14に相対し、杭10頭部12の周面14に閉鎖される。
【0021】
側板36は、好ましくは、杭10の頭部12の周方向に関して互いに反対側へ伸びる2つの袖部37を有する。両袖部37はそれぞれ側板36の両端面36aの延長面37aを規定する。これによれば、両端面36aに加えて両袖部37の延長面37aにおいて、接着剤50を介しての杭10の頭部12への型枠部材22の取り付けが可能である。杭10の頭部12への型枠部材22の取り付けは、図示の例に代えて、例えばボルトのような締結部材(図示せず)を用いて、両袖部37を杭10の頭部12に締結することにより行うことができる。この場合には、側板36の両端面36a及び両袖部37の延長面37aと、杭10の頭部12の周面14との間に接着剤50の層の形成空間を設ける必要がない。このため、型枠部材22を、その側板36の両端面36a及び両袖部37の延長面37aと底板34の一部と一の共通の円弧面上を伸びるように形成することができる。
【0022】
接着剤50を介して取り付けられた型枠部材22は、側板36の両端面36a又は両端面36a及び両袖部37の延長面37aの双方を杭10の頭部12の周面14から引き剥がすことにより、撤去することが可能である。底板34の一部34a及び側板36の両端面36aは、これらが前記円弧上の湾曲面からなるものとすることに代えて、平坦面からなるもの(図示せず)とすることができる。この場合には、杭10の頭部12の周面14に型枠部材22を取り付けたとき、杭10の頭部12の周面14と型枠部材22の底板34の一部34a及び側板36の両端面36aとの間に隙間が生じるところ、接着剤26として比較的高い粘度を有するものを使用し、あるいは前記隙間を例えばシート片(図示せず)で塞ぐことにより、型枠部材22の収容空間28に収容された接着剤26の漏れを防ぐことができる。
【0023】
スペーサ24は、型枠部材22の収容空間28内に差し込まれるとき、同様に収容空間28内に差し込まれる杭頭補強筋16の下端部16aを杭10の頭部12の周面14に押し当て可能である横断面形状を有する。スペーサ24の横断面形状は、後述する扇形や、矩形のような多角形、半円形等からなるものとすることができる。型枠部材22及びスペーサ24は、それぞれ、例えばプラスチック材料又は金属材料からなる。
【0024】
杭10の頭部12の周面14への杭頭補強筋16の接合は、次のようにして行う。
【0025】
まず、型枠部材22をその側部開放面32が杭10の頭部12の周面14に相対するように杭10の頭部12に取り付ける。
【0026】
型枠部材22の取り付け後、型枠部材22の内部である収容空間28に上部開放面30を通して接着剤26を入れる。型枠部材22内に入れられた接着剤26は、側部開放面32を通して杭10の頭部12の周面14に接する。収容空間28に入れられる接着剤26の量は、好ましくは、後に行う収容空間28への杭頭補強筋16の下端部16a及びスペーサ24の差し込みによって接着剤26が収容空間28から溢れ出ない程度とする。接着剤26は、好ましくは耐熱性無機接着剤又はエポキシ系接着剤等からなる。これらの接着剤は、比較的高い粘度を有する。
【0027】
次に、型枠部材22の上部開放面30を通して、型枠部材22内の接着剤26中に杭頭補強筋16の下端部16a(
図3)を差し込む。次いで、杭頭補強筋16を鉛直状態に維持する間に、型枠部材22の内の接着剤26中に上部開放面30を通してスペーサ24を差し込む。スペーサ24は、これが型枠部材22内に差し込まれるとき、型枠部材22を反力支持体として、杭頭補強筋16の下端部16aに押圧力を及ぼし、杭頭補強筋16の下端部16aを杭10の頭部12の周面14に押し当てる。スペーサ22の差し込み後、杭頭補強筋16の下端部16aの周面は、接着剤26を介して、杭10の頭部12の周面14に接する。このとき、杭頭補強筋16の下端部16aの周面の一部を規定する複数段の凹部16bが接着剤26で満たされる。また、杭頭補強筋16の下端部16aが接着剤26で取り囲まれた状態におかれる。
【0028】
接着剤26中への杭頭補強筋16の下端部16aの差し込みは、前記した例に代えて、先にスペーサ24を接着剤26中に差し込んだ後に行ってもよい。あるいは、また、接着剤26中への杭頭補強筋16の下端部16a及びスペーサ24の差し込みを同時に行ってもよい。
【0029】
接着剤26の固化後、型枠部材22及びスペーサ24を撤去する。但し、型枠部材22及びスペーサ24は、これらを撤去することなしに、後に形成されるフーチングのような基礎の一部(図示せず)を構成するコンクリート中に埋設することができる。固化した接着剤26により、杭頭補強筋16がその下端部16aにおいて杭10の頭部12の周面14に接着され、また、型枠部材22により成形され杭頭補強筋16の下端部16aの周囲を取り巻く接着剤26の塊である成形体により、杭頭補強筋16がその直立状態を保持される。これにより、溶接によることなしに、杭10の頭部12への杭頭補強筋16の強固な接合が実現される。
【0030】
治具20を構成する図示の型枠部材22の底板34はその平面が全体に五角形状を呈し、底板34の周面が前記五角形の五辺に沿って伸びている。底板34は、前記五角形以外の矩形のような他の多角形や半円形の平面形状(図示せず)を有するものとすることができる。
【0031】
図示の側板36は2つの板片40、42からなる。また、両板片40、42は、それぞれ、互いに相対する平行な2つの第1の側板部40a、42aと、第1の両側板部40a、42aから互いに他の一方に向けて折れ曲がって伸びる2つの第2の側板部40b、42bとからなる。両板片40、42は、第2の両側板部40b、42bの先端部分、より詳細には櫛形に形成され互いに他の一方が互い違いに噛み合う先端部分において、上部開放面30から底板34に向けて伸びる軸44を介して該軸の周りに揺動可能に接続されている。また、第1の両側板部40a、42aの相互間隔は、杭頭補強筋16の外径よりわずかに大きいものに設定されている。
【0032】
他方、底板34は2つの底板部34b、34c(
図3)からなる。両底板部34b、34cはそれぞれ両板片40、42に連なり、両板片40、42と共に軸44の周りに揺動可能である。図示の両底板部34b、34cは、それぞれ、第1の両側板部40a、42aと平行に伸び、底板34を等分に分ける直線L(
図2)を境界とする2つの板体からなる。図示の直線Lに代えて、これを曲線からなるものとすることができる。両底板部34b、34cについては、図示の例に代えて、底板34を不等分に分ける線、すなわち第1の両側板部40a、42aに対して平行又は非平行に伸びる直線あるいは曲線を境界とする2つ以上の板体(図示せず)からなるものとすることができる。
【0033】
これによれば、2つの板片40、42及び2つの底板部34b、34cを軸44の周りに揺動させると、側板36の両端面36a間の間隔が広がり、接着剤26の収容空間28の大きさが増大する。これにより、収容空間28内へのより大径の杭頭補強筋16の下端部16aの受け入れを可能とすることができる。このとき、杭10の頭部12の周面14と型枠部材22の底板34との間、並びに、両底板部34b、34c相互間に隙間が生じるところ、例えば使用する接着剤26を比較的粘度の高いものとし、あるいは、収容空間28に接着剤26を入れる前に、両底板部34b、34c上にこれらの表面を覆いかつ杭10の頭部12の表面14に接する例えばシート片(図示せず)を予め載置しておくことにより、前記隙間からの接着剤26の流出を防ぐことができる。また、杭10の頭部12の表面14と側板36の両端面36a及び両袖部37の延長面37aとの間の空間を満たす接着剤50の量を増大することにより、杭10の頭部12の表面14への型枠部材22の取り付けが可能である。
【0034】
底板34は、図示の例に代えて、両底板部34b、34cが直線L及び該直線の両側を含む領域において互いに部分的に重なり合うものとすることができる。これによれば、2つの板片40、42を軸44の周りに揺動させたとき、両底板部34b、34c間に前記隙間が生じないようにすることができる。
【0035】
図示の例においては、また、底板34及び側板36に剥離剤の層又は膜38が形成され、剥離剤の層又は膜38により接着剤26の収容空間28が規定されている。剥離剤の層又は膜38は、シリコーンゴム、ポリアミド樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリエチレン樹脂、塩化ビニル樹脂等からなり、型枠部材22を撤去する際における、固化した接着剤26の前記成形体からの型枠部材22の剥離を容易にする。
【0036】
また、図示のスペーサ24は扇形の横断面形状を有する。このスペーサ24は、これが型枠部材22内に差し込まれ、底板34に当接するまでの間、その横断面で見て、前記扇形の円弧24aにおいて杭頭補強筋16の下端部16aの周面に接し、前記扇形の円弧24aの両端24bにおいてそれぞれ第1の両側板部40aに剥離剤の層又は膜38を介して接し、また、前記扇形の円弧の中心24cにおいて第2の両側板部40b、42bの交差箇所46に剥離剤の層又は膜38を介して接する。但し、円弧24aの両端24bは、その双方又はその一方が第1の両側板部40aに対して非接触状態にあるものとすることができる。前記扇形の横断面形状を有するスペーサ24によれば、スペーサ24の差し込みの間、杭頭補強筋16の下端部16aが水平方向(
図2で見て上下方向)に変位することがあっても、杭頭補強筋16の周面と第2の両側板部40b、42bの交差箇所46との間の間隔を一定に、すなわち前記扇形の半径24dの長さに保つことができる。
【0037】
型枠部材22の両板片40、42は、軸44を介してこれらを互いに接続する図示の例に代えて、第2の両側板部40b、42bがこれらの先端部分において互いに連なるものとすることができる。底板34については、両板片40、42の少なくとも一方に連なる一つの板体からなるものとし、あるいは、また、例えば両板片40、42の下部に設けられ互いに他の一方の板片40、42に向けて張り出す鍔(図示せず)上に載せられ、両板片40、42に支持された一つの板体からなるものとすることができる。
【符号の説明】
【0038】
10 杭
12 杭の頭部
14 杭の頭部の周面
16 杭頭補強筋
20 治具
22 型枠部材
24 スペーサ
26 接着剤
28 接着剤の収容空間
30 上部開放面
32 側部開放面
34 底板
36 側板
37 袖部
38 剥離剤の層又は膜
40、42 板片
44 軸