(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-15
(54)【発明の名称】デーツ果汁を使用したつぶ餡又はこし餡及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A23G 3/34 20060101AFI20231108BHJP
A23G 3/48 20060101ALI20231108BHJP
【FI】
A23G3/34 106
A23G3/48
(21)【出願番号】P 2020050972
(22)【出願日】2020-03-23
【審査請求日】2022-11-09
(73)【特許権者】
【識別番号】399079438
【氏名又は名称】株式会社銀座鈴屋
(74)【代理人】
【識別番号】100110722
【氏名又は名称】齊藤 誠一
(74)【代理人】
【識別番号】100213540
【氏名又は名称】鈴木 恵庭
(72)【発明者】
【氏名】小木曽 太郎
【審査官】吉岡 沙織
(56)【参考文献】
【文献】砂糖不使用!デーツ×小豆の手作りあんこレシピ♪,[online],2018年11月05日,[2023年10月11日検索],Retrieved from the internet:<URL: https://ayanasu.net/annko>
【文献】デーツシロップのご紹介:砂糖を使わない健康的な生活を,[online],2019年05月25日,[2023年10月11日検索],Retrieved from the internet:<URL: https://shefty.com/jp/date-syrup/>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23G
A23L
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Mintel GNPD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炊いた小豆にデーツ果汁を加えて製餡した粒餡又は生あんにデーツ果汁を加えて製餡したこし餡であって、
前記粒餡又は前記こし餡のBrixが39.0~41.0であることを特徴とする粒餡又はこし餡。
【請求項2】
請求項1に記載の粒餡又はこし餡において、
前記デーツ果汁は、樹上乾燥させた実を圧搾することにより得られたものであることを特徴とする粒餡又はこし餡。
【請求項3】
デーツ果汁を利用した粒餡又はデーツ果汁を利用したこし餡の製造方法であって、
炊いた小豆又は生あんにデーツ果汁を加えて85~90℃で加熱して、Brixが39.0~41.0となるまで練り上げることを特徴とする粒餡又はこし餡の製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の粒餡又はこし餡の製造方法において、
こし餡を製造する場合の前記生あんの水分含量は62.0~63.0%であることを特徴とする粒餡又はこし餡の製造方法。
【請求項5】
請求項3又は4に記載の粒餡又はこし餡の製造方法において、
前記デーツ果汁は、樹上乾燥させた実を圧搾することにより得られたものであることを特徴とする粒餡又はこし餡の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デーツ果汁を使用したつぶ餡又はこし餡及びその製造方法に関し、特に、砂糖不使用でありながら甘さと風味のバランスがよいデーツ果汁を使用したつぶ餡又はこし餡及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
餡には「粒餡」と「こし餡」があり、「粒餡」は、例えば、小豆を水に漬けてから煮込み、煮汁を捨ててさらに煮込むことを繰り返し、煮上がった小豆に砂糖を加えて練り上げて製造される。また、「こし餡」は、例えば、煮上がった小豆を潰して裏ごしし、水を加えて静置して餡を沈殿させ、上澄みを捨てて沈殿した餡を布で絞って「生あん」とし、「生あん」に水と砂糖を加えて煮込んで製造される。餡には、上述のような小豆(あずき)などの豆類の他、サツマイモや栗などを用いたものもある。
【0003】
近年では、使用する砂糖の量を減らして甘さを控えた餡も提供され、砂糖の代わりにデーツを使用した餡も知られている(例えば、特許文献1)。デーツはペルシャ地方(イラン)を原産とし、紀元前5000年前からメソポタミア地方で栽培されている栄養価の高い果実であり、自然な甘さが特徴で、近年ではアメリカやヨーロッパでもスーパーフルーツとして話題となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のデーツを使用した餡は、デーツの実をそのまま砕いたものを使用していたため、砂糖を使用した餡よりも滑らかさが劣るという問題があった。そのため、デーツの実をそのまま使用するのではなく、デーツの果汁を使用して製餡することを検討した。
【0006】
しかしながら、デーツ果汁を使用した場合、デーツ果汁は砂糖と違って水分が多いので、小豆や生あんに対するデーツ果汁の配合量のバランスが難しく、どちらかの味が強すぎても素材のうまみが出ないため小豆や生あんとデーツ果汁の両方の風味をバランス良く生かすことが難しいという問題があった。また、製餡の際の温度が高いとデーツ果汁が焦げやすく、また、デーツ果汁を煮詰め過ぎると食感にザラつきが出るという問題があった。さらに、デーツ果汁によっては、酸味料や保存料が使用されていたり、農薬が使用されている場合も多い。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで、本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討を行ったところ、樹上乾燥したデーツの実を圧搾することにより採取したデーツ果汁を用いることで、コクがあり、えぐみや雑味が少なく、味のバランスが良いデーツ果汁を使用した餡を製造することができることがわかった。そして、さらに検討を重ねることにより本発明に至ったものである。
【0008】
上記課題を解決するため請求項1に記載の本発明は、炊いた小豆にデーツ果汁を加えて製餡した粒餡又は生あんにデーツ果汁を加えて製餡したこし餡であって、前記粒餡又は前記こし餡のBrixが39.0~41.0であることを特徴とする粒餡又はこし餡を提供する。
【0009】
上記課題を解決するため請求項2に記載の本発明は、請求項1に記載の粒餡又はこし餡において、前記デーツ果汁は、樹上乾燥させた実を圧搾することにより得られたものであることを特徴とする。
【0010】
上記課題を解決するため請求項3に記載の本発明は、デーツ果汁を利用した粒餡又はデーツ果汁を利用したこし餡の製造方法であって、炊いた小豆又は生あんにデーツ果汁を加えて85~90℃で加熱して、Brixが39.0~41.0となるまで練り上げることを特徴とする粒餡又はこし餡の製造方法を提供する。
【0011】
上記課題を解決するため請求項4に記載の本発明は、請求項3に記載の粒餡又はこし餡の製造方法において、こし餡を製造する場合の前記生あんの水分含量は62.0~63.0%であることを特徴とする。
【0012】
上記課題を解決するため請求項5に記載の本発明は、請求項3又は4に記載の粒餡又はこし餡の製造方法において、前記デーツ果汁は、樹上乾燥させた実を圧搾することにより得られたものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るデーツ果汁を使用したつぶ餡又はこし餡及びその製造方法によれば、デーツの実をそのままではなく、デーツ果汁として使用することとしたので甘みが小豆に浸透しやすく、滑らかで、コクがあり、うまみのある粒餡又はこし餡を提供することができるという効果がある。また、粒餡又はこし餡の用途も、まんじゅう、おはぎ、大福、柏餅、桜餅、ぜんざい、ようかん、お汁粉、たい焼き、最中、その他の和洋菓子全般に用いることができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1はデーツ果汁を使用した粒餡の製造方法の一実施形態のフローチャートである。
【
図2】
図2はデーツ果汁を使用したこし餡の製造方法の一実施形態のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係るデーツ果汁を使用した餡の一実施形態について詳細に説明する。
【0016】
初めに、上述したように、デーツはペルシャ地方(イラン)を原産とするナツメヤシの実であり、自然な甘さが特徴で、イラン、エジプト、サウジアラビア等の中近東諸国や北アフリカなどで生産されている。鉄分、カルシウム、カリウム、マグネシウム、リン、亜鉛などのミネラルや食物繊維さらにはビタミンA、D、B群等が豊富に含まれており、栄養価の高い果実であり、近年ではアメリカやヨーロッパでもスーパーフルーツとして話題となっている。本発明ではデーツ果汁を使用して所定のBrixとなるまで練り上げることで砂糖不使用でありながら甘さと風味のバランスが良い粒餡又はこし餡を提供することができる。尚、使用するデーツ果汁は、樹上乾燥されたデーツの実を圧搾することにより得られたものを濃縮し、さらにろ過したもので、Brix74.0~76.0の濃縮タイプであると良い。また、使用するデーツ果汁は肥料や農薬や保存料、酸味料を一切使用することなく自然栽培されたものであることが好ましい。
【0017】
使用するデーツ果汁の量が多すぎると、デーツの甘さが勝ってしまい、小豆の風味と甘みのバランスが良くない。また、使用するデーツ果汁の量が少ないと出来上がった粒餡又はこし餡を練った際にパサつきが出てしまい、食感が悪く、餡としての使い勝手も悪くなる。Brixが低くなりすぎると日持ちも悪くなる。
【0018】
[デーツ果汁を使用した粒餡の製造方法]
次に、デーツ果汁を使用した粒餡の製造方法の好ましい一実施形態について説明する。
図1はデーツ果汁を使用した粒餡の製造方法の一実施形態のフローチャートである。初めに、小豆を炊いた生粒餡を製造する(ステップS1)。生粒餡は小豆をふっくらと炊き上げたものであり、生粒餡の製造方法は従来の方法と同様である。具体的には、小豆を水で洗い、適量の水に一晩漬ける。水に漬けた小豆を火にかけて小豆を煮る。水が沸騰したら火を止めてしばらく放置し、水切りをする。この工程を複数回繰り返す。尚、沸騰した際に水を一気に加えて温度を下げると小豆は水を吸いやすくなる。小豆の芯がほぼ無くなったら20~30分程度蒸らす。これで生粒餡が完成する。
【0019】
次いで、完成した生粒餡にデーツ果汁を加え(ステップS2)、熱を加えて炊き上げる(ステップS3)。Brix75.0の濃縮デーツ果汁の場合であれば、生粒餡1000gに対し、40.0~60.0%(400~600g)のデーツ果汁を加えて加熱する。一般的な粒餡の場合、生粒餡に砂糖と水を加えて約40分程度加熱して炊き上げ、最終的にBrix58.0~62.0で完成とするが、デーツ果汁は焦げやすいので、85~90℃の温度で60~90分程度ゆっくりと時間をかけて練り上げる。そして、粒餡のBrixが39.0~41.0となったら出来上がりとする(ステップS4)。
【0020】
[実施例1]
通常通り炊き上げた生粒餡1000gに対し、デーツ果汁(スペンタス株式会社製「デーツ濃縮果汁」(Brix75))500gを一度に加え、90℃で75分加熱しつつ、焦げ付かないようにゆっくりと撹拌しながら粒餡を炊き上げ、最終的にBrix40.0となったところで火を止めて粒餡を得た。その結果、甘さも小豆の風味もバランス良く、食感も滑らかな粒餡とすることができた。尚、製餡直後はデーツ果汁の風味が強く感じるが、しばらく経つと味も馴染んでちょうど良い甘さと風味のバランスとなった。
【0021】
[比較例1]
通常通り炊き上げた生粒餡1000gに対し、実施例1と同じデーツ果汁850gを加え、90℃で75分加熱しつつ、焦げ付かないようにゆっくりと撹拌しながら粒餡を炊き上げ、最終的にBrix53.0となったところで火を止めて粒餡を得た。その結果、デーツ果汁の甘みが強すぎ、口の中に後味が強く残るものであった。
【0022】
[比較例2]
通常通り炊き上げた生粒餡1000gに対し、実施例1と同じデーツ果汁700gを加え、90℃で75分加熱しつつ、焦げ付かないようにゆっくりと撹拌しながら粒餡を炊き上げ、最終的にBrix44.0となったところで火を止めて粒餡を得た。その結果、炊き上がりの状態はよく、比較例1よりも甘さは抑えられているが、まだ甘さが強いものであった。
【0023】
[比較例3]
通常通り炊き上げた生粒餡1000gに対し、実施例1と同じデーツ果汁350gを加え、90℃で75分加熱しつつ、焦げ付かないようにゆっくりと撹拌しながら粒餡を炊き上げ、最終的にBrix34.0となったところで火を止めて粒餡を得た。その結果、甘さのバランスは良が、食感がパサついたものであった。
【0024】
実施例1と比較例1~3の結果について表1に示す。
【0025】
【0026】
実施例1と比較例1~3によれば、粒餡の最終Brixが39.0~41.0であれば、甘さも小豆の風味もバランスが良く、食感も滑らかな粒餡を得ることができると考えられる。
【0027】
[デーツ果汁を使用したこし餡の製造方法]
次に、デーツ果汁を使用したこし餡の製造方法の好ましい一実施形態について説明する。
図2はデーツ果汁を使用したこし餡の製造方法の一実施形態のフローチャートである。初めに、粒餡の場合と同様に、小豆を炊いた生粒餡を製造する(ステップS11)。生粒餡の製造方法は粒餡の場合と同様なのでのその説明は省略する。
【0028】
次いで、生粒餡を潰し、水を加えて裏ごしし、水に分散している「あん」を静置して沈殿させ、上澄みを捨て、さらに、水に沈殿した「あん」を布に移して水を絞る。この作業を複数回繰り返して行い、最終的に水分含量が62.0~63.0%となるようにして絞り作業を行い、生あんを得る(ステップS12)。
【0029】
次いで、完成した生あんにデーツ果汁を加え(ステップS13)、熱を加えて炊き上げる(ステップS14)。Brix75.0の濃縮デーツ果汁の場合であれば、生あん1000gに対し、40~60%(400~600g)のデーツ果汁を加えて加熱する。一般的なこし餡の場合には、生あんに砂糖と水を加えて約40分程度加熱して炊き上げ、最終的にBrix58.0~62.0で完成とするのであるが、デーツ果汁は焦げやすいので、85~90℃の温度で60~90分程度ゆっくりと時間をかけて練り上げる。そして、こし餡のBrixが39.0~41.0となったら出来上がりとする(ステップS15)。
【0030】
[実施例2]
通常通り炊き上げた生粒餡を潰して水を加えて裏ごしし、水に分散している「あん」を静置して沈殿させ、上澄みを捨てて、さらに、布などを使用して水に沈殿した「あん」を絞り、水分含量が62.5%の生あんを得た。そして、この生あん1000gに対し、実施例1と同じデーツ果汁500gを一度に加え、90℃で75分加熱しつつ、焦げ付かないようにゆっくりと撹拌しながら餡を炊き上げ、最終的にBrix40.0となったところで火を止めてこし餡を得た。その結果、甘さも小豆の風味もバランス良く、食感も滑らかなこし餡とすることができた。尚、製餡直後はデーツ果汁の風味が粒餡の場合よりも強く感じるが、粒餡の場合と同様に、しばらく経つと味も馴染んでちょうど良い甘さと風味のバランスとなった。
【0031】
[比較例4]
実施例2と同じ生あん1000gに対し、実施例1と同じデーツ果汁1000gを加え、90℃で75分加熱しつつ、焦げ付かないようにゆっくりと撹拌しながら餡を炊き上げ、最終的にBrix53.0となったところで火を止めてこし餡を得た。その結果、練り上がりの状態はよいが、甘さが強いものであった。
【0032】
[比較例5]
実施例2と同じ生あん1000gに対し、実施例1と同じデーツ果汁800gを加え、90℃で75分加熱しつつ、焦げ付かないようにゆっくりと撹拌しながら餡を炊き上げ、最終的にBrix44.0となったところで火を止めてこし餡を得た。その結果、練り上がりの状態はよいが、比較例1よりも甘さは抑えられているが、まだ甘さが強いものであった。
【0033】
[比較例6]
実施例2と同じ生あん1000gに対し、実施例1と同じデーツ果汁400gを加え、90℃で75分加熱しつつ、焦げ付かないようにゆっくりと撹拌しながら餡を炊き上げ、最終的にBrix34.0となったところで火を止めてこし餡を得た。その結果、甘さのバランスは良が、食感がパサついたものであった。
【0034】
実施例2と比較例4~6の結果について表2に示す。
【0035】
【0036】
実施例2と比較例4~6によれば、こし餡の最終Brixが39.0~41.0であれば、甘さも小豆の風味もバランスが良く、食感も滑らかなこし餡を得ることができると考えられる。
【0037】
このように、本発明に係るデーツ果汁を使用した粒餡又はこし餡及びその製造方法によれば、砂糖不使用の粒餡又はこし餡であっても、コクがあり、えぐみや雑味が少なく、甘さや味のバランスが良いデーツ果汁を使用した粒餡又はこし餡を提供することができる。
【0038】
以上のように、本発明の好ましい各実施形態について詳述したが、本発明は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能であることはいうまでもない。