(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-15
(54)【発明の名称】柱状ハニカム構造体の検査方法及び検査装置
(51)【国際特許分類】
G01N 21/954 20060101AFI20231108BHJP
B01D 39/20 20060101ALI20231108BHJP
B01J 32/00 20060101ALI20231108BHJP
B01J 35/04 20060101ALI20231108BHJP
【FI】
G01N21/954 Z
B01D39/20 D
B01J32/00
B01J35/04 301E
B01J35/04 301G
(21)【出願番号】P 2020058378
(22)【出願日】2020-03-27
【審査請求日】2021-10-18
【審判番号】
【審判請求日】2023-02-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】倉橋 良太
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 祥弘
(72)【発明者】
【氏名】寺拝 貴史
【合議体】
【審判長】石井 哲
【審判官】渡戸 正義
【審判官】櫃本 研太郎
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2007/0132988(US,A1)
【文献】特開2014-211366(JP,A)
【文献】特開2004-37248(JP,A)
【文献】国際公開第2015/155993(WO,A1)
【文献】特開2013-61314(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N21/84-21/958
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
柱状ハニカム構造体の検査方法であって、
柱状ハニカム構造体は、外周側壁と、外周側壁の内周側に配置され、第一底面から第二底面まで延び、第一底面が開口して第二底面に目封止部を有する複数の第1セルと、外周側壁の内周側に配置され、第一底面から第二底面まで延び、第一底面に目封止部を有し、第二底面が開口する複数の第2セルとを備え、複数の第1セルと複数の第2セルは隔壁を挟んで交互に隣接配置されており、
第一底面に対して光を照射することで得られる、第1セル及び第2セルの各目封止部の配置に応じた第二底面からの透過光のパターンを、第二底面と非接触の状態で、第二底面と平行に配置される
拡散角度が10°~30°の光拡散フィルムを介して、カメラで撮像する工程と、
カメラによって撮像された透過光のパターンの画像に基づいて第2セルが有する目封止部の欠陥を検出する工程と、
を含む検査方法。
【請求項2】
光拡散フィルムの拡散角度が
20°~
30°である請求項1に記載の検査方法。
【請求項3】
光拡散フィルムの厚みは、50mm以下である請求項1又は2に記載の検査方法。
【請求項4】
前記カメラで撮像する工程は、以下の(a)~(c)の少なくとも一つの条件下で実施する請求項1~3の何れか一項に記載の検査方法。
(a)光拡散フィルムは引張応力が加えられている。
(b)光拡散フィルムが二枚の透明板で挟まれている。
(c)光拡散フィルムが透明板に貼り付けられている。
【請求項5】
光拡散フィルムと第二底面の間の距離が1mm~100mmである請求項1~4の何れか一項に記載の検査方法。
【請求項6】
第一底面に対して照射される光は拡散光である請求項1~5の何れか一項に記載の検査方法。
【請求項7】
第一底面に対して照射される光は、第一底面に対向する光源であって、第一底面よりも大きな面積範囲で広がっている光源から照射される請求項1~6の何れか一項に記載の検査方法。
【請求項8】
第一底面に対して照射される光は、柱状ハニカム構造体に接触している光源から照射される請求項1~7の何れか一項に記載の検査方法。
【請求項9】
第一底面に対して照射される光は、柱状ハニカム構造体と光源の間に配置された半透明基板を介して照射される請求項1~7の何れか一項に記載の検査方法。
【請求項10】
柱状ハニカム構造体の検査装置であって、
柱状ハニカム構造体は、外周側壁と、外周側壁の内周側に配置され、第一底面から第二底面まで延び、第一底面が開口して第二底面に目封止部を有する複数の第1セルと、外周側壁の内周側に配置され、第一底面から第二底面まで延び、第一底面に目封止部を有し、第二底面が開口する複数の第2セルとを備え、複数の第1セルと複数の第2セルは隔壁を挟んで交互に隣接配置されており、
第一底面に対して光を照射するための光照射器と、
第二底面と非接触の状態で、第二底面と平行に配置するための
拡散角度が10°~30°の光拡散フィルムと、
第一底面に対して光を照射することで得られる、第1セル及び第2セルの各目封止部の配置に応じた第二底面からの透過光のパターンを、光拡散フィルムを介して、撮像するためのカメラと、
を備えた検査装置。
【請求項11】
光拡散フィルムの拡散角度が
20°~
30°である請求項10に記載の検査装置。
【請求項12】
光拡散フィルムの厚みは、50mm以下である請求項10又は11に記載の検査装置。
【請求項13】
以下の(a)~(c)の少なくとも一つの器具を備える請求項10~12の何れか一項に記載の検査装置。
(a)光拡散フィルムに引張応力を加えるための、少なくとも一対の把持部を有する引張装置。
(b)光拡散フィルムを挟むための二枚の透明板。
(c)光拡散フィルムを貼り付けるための透明板。
【請求項14】
光拡散フィルムと第二底面の間の距離を1mm~100mmとして、カメラが第二底面からの透過光のパターンを撮像するように構成されている請求項10~13の何れか一項に記載の検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は柱状ハニカム構造体の検査方法及び検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジン等の内燃機関から排出される排ガスには、環境汚染の原因となる炭素を主成分とするパティキュレート(粒子状物質)が多量に含まれている。そのため、一般的にディーゼルエンジン等の排気系には、パティキュレートを捕集するためのフィルタ(Diesel Particulate Filter:DPF)が搭載されている。また近年ではガソリンエンジンから排出されるパティキュレートも問題視されており、ガソリンエンジンにもフィルタ(Gasoline Particulate Filter:GPF)が搭載されるようになってきている。
【0003】
フィルタとしては、第一底面から第二底面まで高さ方向に延び、第一底面が開口して第二底面に目封止部を有する複数の第1セルと、第1セルに隔壁を挟んで隣接配置されている第2セルであって、第一底面から第二底面まで高さ方向に延び、第一底面に目封止部を有し第二底面が開口する複数の第2セルとを備えたウォールフロー型の柱状ハニカム構造体が知られている。
【0004】
目封止部を有する柱状ハニカム構造体を備えたフィルタにおいて、目封止部は捕捉された粒子状物質がフィルタから漏れ出すのを防止する役割を果たしている。このため、目封止部が所定の位置に所定の深さで形成されていることがフィルタ性能を確保する上で重要となる。
【0005】
そこで、特許文献1(米国特許第7,701,570号明細書)には目封止部を有する柱状ハニカム構造体のための検査方法及び検査装置が提案されている。当該文献には、目封止部を有する柱状ハニカム構造体の第一底面にコリメート光を照射し、柱状ハニカム構造体の第二底面に接触させた透光性の投影媒体で前記光を受光して、前記光が投影媒体上の光点として可視化されることを含む柱状ハニカム構造体の目封止部の欠陥を検出する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1では、柱状ハニカム構造体の第二底面に投影媒体を接触させた状態で第一底面に照射したコリメート光を受光し、目封止部の欠陥を検出する方法を提案している。しかしながら、目封止部の検査のために柱状ハニカム構造体の第二底面に投影媒体を接触させると投影媒体に傷が付くおそれがある。投影媒体に傷が付くと検査精度が低下するおそれがあるため、投影媒体を新品に交換する必要がある。しかしながら、投影媒体の交換は検査コストの増加につながるため、可能な限り長く投影媒体を使えることが望ましい。
【0008】
このように、目封止部を有する柱状ハニカム構造体に対する従来の検査方法は利便性に改善の余地が残されている。本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、一実施形態において、目封止部を有する柱状ハニカム構造体に対する利便性の向上した検査方法を提供することを課題とする。また、本発明は別の一実施形態において、目封止部を有する柱状ハニカム構造体に対する利便性の向上した検査装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
[1]
柱状ハニカム構造体の検査方法であって、
柱状ハニカム構造体は、外周側壁と、外周側壁の内周側に配置され、第一底面から第二底面まで延び、第一底面が開口して第二底面に目封止部を有する複数の第1セルと、外周側壁の内周側に配置され、第一底面から第二底面まで延び、第一底面に目封止部を有し、第二底面が開口する複数の第2セルとを備え、複数の第1セルと複数の第2セルは隔壁を挟んで交互に隣接配置されており、
第一底面に対して光を照射することで得られる、第1セル及び第2セルの各目封止部の配置に応じた第二底面からの透過光のパターンを、第二底面と非接触の状態で、第二底面と平行に配置される光拡散フィルムを介して、カメラで撮像する工程と、
カメラによって撮像された透過光のパターンの画像に基づいて第2セルが有する目封止部の欠陥を検出する工程と、
を含む検査方法。
[2]
光拡散フィルムの拡散角度が10°~90°である[1]に記載の検査方法。
[3]
光拡散フィルムの厚みは、50mm以下である[1]又は[2]に記載の検査方法。
[4]
前記カメラで撮像する工程は、以下の(a)~(c)の少なくとも一つの条件下で実施する[1]~[3]の何れか一項に記載の検査方法。
(a)光拡散フィルムは引張応力が加えられている。
(b)光拡散フィルムが二枚の透明板で挟まれている。
(c)光拡散フィルムが透明板に貼り付けられている。
[5]
光拡散フィルムと第二底面の間の距離が1mm~100mmである[1]~[4]の何れか一項に記載の検査方法。
[6]
第一底面に対して照射される光は拡散光である[1]~[5]の何れか一項に記載の検査方法。
[7]
第一底面に対して照射される光は、第一底面に対向する光源であって、第一底面よりも大きな面積範囲で広がっている光源から照射される[1]~[6]の何れか一項に記載の検査方法。
[8]
第一底面に対して照射される光は、柱状ハニカム構造体に接触している光源から照射される[1]~[7]の何れか一項に記載の検査方法。
[9]
第一底面に対して照射される光は、柱状ハニカム構造体と光源の間に配置された半透明基板を介して照射される[1]~[7]の何れか一項に記載の検査方法。
[10]
柱状ハニカム構造体の検査装置であって、
柱状ハニカム構造体は、外周側壁と、外周側壁の内周側に配置され、第一底面から第二底面まで延び、第一底面が開口して第二底面に目封止部を有する複数の第1セルと、外周側壁の内周側に配置され、第一底面から第二底面まで延び、第一底面に目封止部を有し、第二底面が開口する複数の第2セルとを備え、複数の第1セルと複数の第2セルは隔壁を挟んで交互に隣接配置されており、
第一底面に対して光を照射するための光照射器と、
第二底面と非接触の状態で、第二底面と平行に配置するための光拡散フィルムと、
第一底面に対して光を照射することで得られる、第1セル及び第2セルの各目封止部の配置に応じた第二底面からの透過光のパターンを、光拡散フィルムを介して、撮像するためのカメラと、
を備えた検査装置。
[11]
光拡散フィルムの拡散角度が10°~90°である[10]に記載の検査装置。
[12]
光拡散フィルムの厚みは、50mm以下である[10]又は[11]に記載の検査装置。
[13]
以下の(a)~(c)の少なくとも一つの器具を備える[10]~[12]の何れか一項に記載の検査装置。
(a)光拡散フィルムに引張応力を加えるための、少なくとも一対の把持部を有する引張装置。
(b)光拡散フィルムを挟むための二枚の透明板。
(c)光拡散フィルムを貼り付けるための透明板。
[14]
光拡散フィルムと第二底面の間の距離を1mm~100mmとして、カメラが第二底面からの透過光のパターンを撮像するように構成されている[10]~[13]の何れか一項に記載の検査装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一実施形態によれば、目封止部を有する柱状ハニカム構造体に対して、投影媒体である光拡散フィルムを傷つけることなく目封止部における欠陥の有無を検査可能となる。これにより、光拡散フィルムの交換頻度を少なくすることができ、光拡散フィルムの交換のための工数及び検査コストの増加を抑制することができる。また、投影媒体として光拡散フィルムを使用することで、柱状ハニカム構造体の直角度が悪い場合であっても目封止部の欠陥を検出しやすいという利点が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1A】本発明の一実施形態に係る検査装置の構成を説明するための模式的な側面図である。
【
図1B】本発明の別の一実施形態に係る検査装置の構成を説明するための模式的な側面図である。
【
図1C】本発明の更に別の一実施形態に係る検査装置の構成を説明するための模式的な側面図である。
【
図1D】本発明の更に別の一実施形態に係る検査装置の構成を説明するための模式的な側面図である。
【
図2】ウォールフロー型のセラミックス焼成体を模式的に示す斜視図である。
【
図3】ウォールフロー型のセラミックス焼成体をセルの延びる方向に直交する方向から観察したときの模式的な断面図である。
【
図4】バルーンチャックの構造例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に本発明の実施形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、適宜設計の変更、改良等が加えられることが理解されるべきである。
【0013】
(1.柱状ハニカム構造体)
図2及び
図3には、ウォールフロー型の自動車用排ガスフィルタ及び/又は触媒担体として適用可能な柱状ハニカム構造体(100)の模式的な斜視図及び断面図がそれぞれ例示されている。この柱状ハニカム構造体(100)は、外周側壁(102)と、外周側壁(102)の内周側に配置され、第一底面(104)から第二底面(106)まで延び、第一底面(104)が開口して第二底面(106)に目封止部(109)を有する複数の第1セル(108)と、外周側壁(102)の内周側に配置され、第一底面(104)から第二底面(106)まで延び、第一底面(104)に目封止部(109)を有し、第二底面(106)が開口する複数の第2セル(110)とを備える。この柱状ハニカム構造体(100)においては、第1セル(108)及び第2セル(110)が隔壁(112)を挟んで交互に隣接配置されている。
【0014】
柱状ハニカム構造体(100)の上流側の第一底面(104)にスス等の粒子状物質を含む排ガスが供給されると、排ガスは第1セル(108)に導入されて第1セル(108)内を下流に向かって進む。第1セル(108)は下流側の第二底面(106)が目封止されているため、排ガスは第1セル(108)と第2セル(110)を区画する多孔質の隔壁(112)を透過して第2セル(110)に流入する。粒子状物質は隔壁(112)を通過できないため、第1セル(108)内に捕集され、堆積する。粒子状物質が除去された後、第2セル(110)に流入した清浄な排ガスは第2セル(110)内を下流に向かって進み、下流側の第二底面(106)から流出する。
【0015】
柱状ハニカム構造体の底面形状に制限はないが、例えば円形状、楕円形状、レーストラック形状、長円形状、三角形状、略三角形状、四角形状及び略四角形状等の多角形状や異形形状とすることができる。図示の柱状ハニカム構造体(100)は、底面形状が円形状であり、全体として円柱状である。
【0016】
セルの流路方向に垂直な断面におけるセルの形状に制限はないが、四角形、六角形、八角形、又はこれらの組み合わせであることが好ましい。これらのなかでも、正方形及び六角形が好ましい。セル形状をこのようにすることにより、ハニカム焼成体に流体を流したときの圧力損失が小さくなり、触媒の浄化性能が優れたものとなる。
【0017】
セル密度(単位断面積当たりのセルの数)についても特に制限はなく、例えば6~2000セル/平方インチ(0.9~311セル/cm2)とすることができる。ここで、セル密度は、一方の底面におけるセルの数(目封止されたセルも算入する。)を、外周側壁を除く当該底面の面積で割ることにより算出される。
【0018】
隔壁(112)の厚みについても特に制限はないが、例えば50μm~330μmとすることができる。
【0019】
柱状ハニカム構造体の高さ(第一底面から第二底面までの長さ)についても特に制限はないが、例えば40mm~300mmとすることができる。
【0020】
目封止部を有する柱状ハニカム構造体は、公知の作製方法によって作製可能であるが以下に例示的に説明する。まず、セラミックス原料、分散媒、造孔剤及びバインダーを含有する原料組成物を混練して坏土を形成した後、坏土を押出成形することにより所望の柱状ハニカム構造体に成形する。柱状ハニカム構造体を乾燥した後、柱状ハニカム構造体の両底面に目封止部を形成した上で目封止部を乾燥し、目封止部を有する柱状ハニカム構造体を得る。柱状ハニカム構造体はこの後、脱脂及び焼成を実施することでセラミックス焼成体として提供されるのが通常である。目封止部に対する検査は、焼成前の柱状ハニカム構造体に対して実施してもよいし、焼成後の柱状ハニカム構造体に対して実施してもよい。
【0021】
(2.検査装置及び検査方法)
本発明の一実施形態によれば、柱状ハニカム構造体(100)の検査装置及び検査方法が提供される。
図1A~
図1Dには、本発明の実施形態に係る検査装置(10)の構成を説明するための模式的な側面図が示されている。
検査装置(10)は、
柱状ハニカム構造体(100)の第一底面(104)に対して光を照射するための光照射器(12)と、
第二底面(106)と非接触の状態で、第二底面(106)と平行に配置するための光拡散フィルム(14)と、
第一底面(104)に対して光を照射することで得られる、第1セル(108)及び第2セル(110)の各目封止部(109)の配置に応じた第二底面(106)からの透過光のパターンを、光拡散フィルム(14)を介して、撮像するためのカメラ(16)と、
を備える。
【0022】
一実施形態において、検査装置(10)は、光照射器(12)、光拡散フィルム(14)、カメラ(16)、及び柱状ハニカム構造体(100)を収容するための筐体(13)を備えることができる。筐体(13)は外部からの光を遮断できるように構成することができる。これにより、暗い環境下で検査を行うことができ、検査精度を高めることができる。
【0023】
光照射器(12)は、柱状ハニカム構造体(100)の第一底面(104)に対して光を照射することができる位置に設置されている。図示の実施形態に係る検査装置(10)においては、光照射器(12)は上向きに光を照射することができるように構成されている。そして、柱状ハニカム構造体(100)は、第一底面(104)が下側に位置するようにして、光照射器(12)の光源の直上に配置することができるように構成されている。
【0024】
光照射器(12)の光源(12a)としては、特に制限はないが、LED、白熱電球、ハロゲンランプ等が挙げられる。これらの光源は一般的に拡散光を照射可能である。光源(12a)からの光の拡散角度と第一底面からの距離にも依存するが、第一底面(104)に対して均一に光を照射するという観点から、第一底面(104)に対向する光源が、第一底面(104)よりも大きな面積範囲で広がっていることが好ましい。照射する光の波長についても、カメラが受光感度を有する波長であれば特に制限はない。従って、白色光を照射することも可能である。照射する光の出力についても特に制限はないが、柱状ハニカム構造体(100)の高さが大きい場合、及び、目封止部が深い場合でも短い露光時間で透過光強度を確保できたり、外乱の影響を緩和できたりするため、強い方が好ましい。例えば、第一底面(104)の照度が10,000lx以上となるような出力で光を照射することができる。
【0025】
特許文献1においてはコリメート光が得られるようにコリメータレンズを光照射器(12)と柱状ハニカム構造体(100)の間に配置しているが、本実施形態においてはコリメート光を使用する必要はない。従って、本発明の一実施形態においては、コリメータレンズが光照射器(12)と柱状ハニカム構造体(100)の間には配置されない。従って、一実施形態において、柱状ハニカム構造体(100)は光照射器(12)の光源(12a)に接触するように載置してもよい(
図1A~
図1C参照)。柱状ハニカム構造体(100)を光源に接触させることは、透過光の強度及び光の均一性の観点で有利である。
【0026】
また、別の一実施形態において、柱状ハニカム構造体(100)は光照射器(12)の光源(12a)に接触させないように、例えば、両者の間に透光性基板(20)を挟んで、配置してもよい(
図1D参照)。透光性基板(20)としては、透明基板及び半透明基板が挙げられるが、光源からの光の不均一性を解消するため、すりガラス等の半透明基板が好ましい。第一底面(104)への光照射は、柱状ハニカム構造体(100)を透光性基板(20)に載置した状態で行うことができる。また、透光性基板(20)を通過した光がハニカム構造体(100)の外周側壁(102)を照らすのを防止するため、ハニカム構造体(100)の外周側壁(102)からはみ出した透光性基板(20)の外周部を取り囲むリング状の遮光部材(21)を設置してもよい。遮光部材(21)は後述するバルーンチャックのような遮光性環状部材(15)の有無に関わらず有効である。
【0027】
光拡散フィルム(14)は、柱状ハニカム構造体(100)の第二底面(106)と非接触の状態で、第二底面(106)に平行に配置可能に構成されている。光拡散フィルム(14)が、柱状ハニカム構造体(100)の第二底面(106)と非接触の状態で配置されるので、第二底面(106)との接触により拡散フィルム(14)が傷つかない。光拡散フィルム(14)が第二底面(106)に“平行”に配置されるというのは、数学的な厳密な平行のみならず、検査精度に実質的な影響のない範囲での略平行も含まれる概念である。例示的には、光拡散フィルム(14)と第二底面(106)のなす平均角度が0°~5°の場合はここでいう平行の概念に含まれる。
【0028】
光拡散フィルム(14)は、第二底面(106)全体を被覆するように配置することが検査効率を高めるという観点から好ましい。このため、一実施形態において、光拡散フィルム(14)の主表面の面積は、柱状ハニカム構造体(100)の第二底面(106)の面積よりも大きい。
【0029】
光拡散フィルム(14)と第二底面(106)の間の距離には特に制限はないが、近すぎると振動などによって接触するおそれがあるので、当該距離の下限は1mm以上であることが好ましく、2mm以上であることがより好ましく、3mm以上であることが更により好ましい。また、光拡散フィルムと第二底面の間の距離が遠すぎると、隣り合うセルの透過光が重なって検査精度が低下するため、当該距離の上限は100mm以下であることが好ましく、30mm以下であることがより好ましく、15mm以下であることが更により好ましい。本明細書において、光拡散フィルム(14)と第二底面(106)の間の距離は、第二底面(106)の重心から法線方向に延ばした直線が光拡散フィルム(14)に接触するまでの長さを指す。
【0030】
光拡散フィルム(14)を用いると、寸法誤差の影響により、柱状ハニカム構造体(100)の直角度が悪い、すなわち、第一底面(104)とセル(108、110)の延びる方向が直角ではない、第二底面(106)とセル(108、110)の延びる方向が直角ではない、又は、セルの延びる方向が直線状ではなく曲がっている場合であっても目封止部の欠陥を検出しやすいという利点が得られる。
【0031】
光拡散フィルム(14)の拡散角度は、隣り合うセルの透過光同士が大きく重ならないようにして検査精度を高めるという観点から、10°~90°であることが好ましく、20°~60°であることがより好ましく、20°~30°であることが更により好ましい。光拡散フィルム(14)の拡散角度は、例えば、フィルム内部に光散乱媒質を添加する方法、表面粗さを調整する方法などにより調整可能である。本明細書において、光拡散フィルム(14)の拡散角度は、白色光をフィルム表面に垂直に照射した際に、最大の明るさ(照度)を示す方向(フィルム表面の法線方向)に対して、明るさ(照度)が半減する角度として定義される。明るさ(照度)が半減する角度は、白色光の照射範囲よりも十分に小さいピンホールを前方に備えた照度計を用いて、光拡散フィルム(14)への白色光の照射位置及び測定距離を同じにして明るさが半減する角度を探すことで特定可能である。
【0032】
光拡散フィルム(14)の厚みには特に制限はないが、厚過ぎると隣り合うセルの透過光が重なって検査精度が低下するため、50mm以下であることが好ましく、3mm以下であることがより好ましく、1mm以下であることが更により好ましい。光拡散フィルム(14)の厚みは、薄過ぎると強度が不足してシワや撓みが生じたり破損したりし易いため、0.2mm以上であることが好ましく、0.5mm以上であることがより好ましい。
【0033】
光拡散フィルム(14)の材質は、特に制限はないが、シワや撓みが生じないように硬質材料であることが安定した検査を実施する観点から好ましい。例えば、ガラス、プラスチック(ポリカーボネート等)を使用することができる。
【0034】
光拡散フィルム(14)を安定して装置内に固定するため、検査装置は一実施形態において以下の(a)~(c)の少なくとも一つの器具を備えることができる。
(a)光拡散フィルムに引張応力を加えるための、少なくとも一対の把持部を有する引張装置。
(b)光拡散フィルムを挟むための二枚の透明板。
(c)光拡散フィルムを貼り付けるための透明板。
【0035】
図1Aに記載の実施形態においては、検査装置(10)は、一対の把持部(18a)を有する引張装置(18)を備える。例えば、引張装置(18)は、一対の把持部(18a)が光拡散フィルム(14)の対向する端部を挟み、互いに反対方向に引っ張ることができるように構成することができる。光拡散フィルム(14)に引張応力を与えることで光拡散フィルム(14)が薄い又は軟質の場合でもシワや撓みが発生するのを防止することができるので安定した検査を実施することができるようになる。また、引張装置(18)は、一対の把持部(18a)による引っ張り方向に直交する面内方向にも同時に引っ張ることができるように、更に一対の把持部(18a)を備えることもできる。これにより、光拡散フィルム(14)は四方向に引っ張られるので、光拡散フィルム(14)をより安定して保持することができるようになる。
【0036】
図1A及び
図1Dに示す実施形態において、各把持部(18a)は、互いに対向する一対の把持板を上下に備えたクランプ機構を有する。一実施形態において、引張装置(18)は、光拡散フィルム(14)を把持するための押圧力及び光拡散フィルム(14)を外方側に引張るための引張応力を把持部(18a)に伝達する駆動手段を備えることができる。駆動手段としては、公知の任意の手段を採用すればよいが、例えば押圧力を伝達する駆動手段としてはスプリング又は電動シリンダ等を使用することができ、引張応力を伝達する駆動手段としてはターンバックル又は電動シリンダ等を使用することができる。
【0037】
図1Bに示す実施形態において、光拡散フィルム(14)は、二枚の透明板(19)によって上下から挟まれている。光拡散フィルム(14)を二枚の透明板(19)によって挟むことにより、光拡散フィルム(14)が薄い又は軟質の場合でもシワや撓みが発生するのを防止することができる。透明板(19)としては、特に制限はないが、例えば透明ガラス板、透明プラスチック板(透明ポリカーボネート板等)等が挙げられる。透明板(19)の厚みは、一般に光拡散フィルムよりも厚く、例えば、0.5~15mmとすることができる。透明板(19)の拡散角度は一般には5°以下であり、典型的には1°以下である。
【0038】
図1Cに示す実施形態において、光拡散フィルム(14)は、透明板(19)に貼り合わせられている。光拡散フィルム(14)を透明板(19)に貼り合わせることにより、光拡散フィルム(14)が薄い又は軟質の場合でもシワや撓みが発生するのを防止することができる。光拡散フィルム(14)を透明板(19)に貼り合わせる方法としては、例えば透明な接着剤を使用する方法が挙げられる。また、光拡散フィルム(14)に強度があり保形性が確保できる場合には接着剤を使用することなく、光拡散フィルム(14)及び透明板(19)を貼り合わせた状態でこれらの端部をホルダーで挟むなど、外力を加えて透明板(19)に押さえ付けるだけでもよい。なお、
図1Cに示す実施形態においては、透明板(19)が光拡散フィルムの下側に配置されているが、透明板(19)が光拡散フィルムの上側に配置されていてもよい。
【0039】
柱状ハニカム構造体(100)の第一底面(104)に対して光照射器(12)から光が照射されると、第1セル(108)及び第2セル(110)の各目封止部(109)の配置に応じた第二底面(106)からの透過光のパターンが光拡散フィルム(14)に投影される。
【0040】
カメラ(16)は、光拡散フィルム(14)に投影された透過光のパターンを撮像することができる位置に配置されている。図示の実施形態に係る検査装置(10)においては、カメラ(16)は、柱状ハニカム構造体(100)の第二底面(106)の上方に、好ましくは直上に配置されており、レンズ(17)を第二底面(106)に、すなわち下方に向けている。カメラ(16)は、エリアカメラ及びラインカメラの何れでもよいが、撮像タクトが速い、照明幅が広い、及び設備サイズを小さくできる等の理由により、エリアカメラが好ましい。検査精度を高めるという観点から、カメラは第1セル(108)及び第2セル(110)の一般的な開口面積を考慮すると、100μm/pix以下の画素分解能(一画素の水平方向及び垂直方向の長さが100μmであるか又はそれよりも細かい)を有することが好ましい。
【0041】
カメラ(16)によって生成される透過光のパターンの画像に基づいて第2セル(110)が有する目封止部の欠陥を検出することができる。具体的には、第1セル(108)の目封止部(109)(すなわち、第二底面(106)に位置する目封止部)は暗く、第2セル(110)の目封止部(109)(すなわち、第一底面(104)に位置する目封止部)は、光源に近いため明るく見える。この際、第2セル(110)の目封止部(109)に穴が開いていたり、深さが不足していたりすることで欠陥があると、正常な目封止部(109)に比べて輝度が高くなる。逆に、第2セル(110)の目封止部(109)が過度に深く形成されている場合には、正常な目封止部(109)に比べて輝度が低くなる。
【0042】
異常な目封止部(109)の検出は透過光のパターンの画像に基づいて目視により行ってもよい。代替的に、検査装置は、透過光のパターンの画像から第2セル(110)の目封止部(109)の位置を特定して第2セル(110)の目封止部(109)の輝度をそれぞれ測定し、輝度の正常範囲を逸脱する輝度を有する第2セル(110)の目封止部(109)を異常な目封止部(109)として自動的に検出することの可能なコンピュータを備えてもよい。第2セル(110)の正常な目封止部(109)における輝度の正常範囲は予め設定してコンピュータのメモリ内に記憶させておことが可能である。
【0043】
光照射器(12)からの光によって、柱状ハニカム構造体(100)の外周側面(102)が照らされると、外周側面(102)近傍の目封止部の輝度が明るくなりやすく、検査精度が低下するおそれがある。そこで、第二底面(106)からの透過光のパターンをカメラ(16)で撮像する際に、柱状ハニカム構造体(100)の外周側面(102)を遮光性環状部材(15)で周回被覆することが好ましい。遮光性環状部材(15)は柱状ハニカム構造体(100)の大きさに柔軟に対応できるようにゴム及びエラストマー等の弾性材料で構成されていることが好ましい。
【0044】
遮光性環状部材(15)としては、バルーンチャックが好適に使用可能である。バルーンチャックを用いると、バルーンからの押圧力が柱状ハニカム構造体(100)との接触面全体に分散しやすく、局所的に大きな圧力がかかりにくいので、固定時に柱状ハニカム構造体(100)が破損しにくくなる。
図4には、バルーンチャック(200)の構造例が示されている。バルーンチャック(200)は、第一開口(210)、第二開口(220)、第一開口(210)と第二開口(220)の間の中空部(230)、及び、中空部(230)の周囲に設置されたバルーン(240)を備える。バルーン(240)は、中空部(230)を周回するように設置されており、必要に応じて複数設置することもできる。
【0045】
図示の実施形態に係るバルーンチャック(200)においては、バルーン(240)の外周側に複数の貫通孔(260)が設けられた側壁(270)が設けられており、更にその外周側には、流体ポート(280)を通って出入可能な流体(典型的には空気等のガス)の流路(290)が形成されている。
【0046】
バルーンチャック(200)の使用方法について説明する。柱状ハニカム構造体(100)を第一開口(210)又は第二開口(220)から中空部(230)へ挿入する。次いで、流体(典型的には空気等のガス)を流体ポート(280)から流路(290)に供給すると、流体は貫通孔(260)を通ってバルーン(240)に注入される。これにより、バルーン(240)が中空部(230)に挿入されている柱状ハニカム構造体(100)に向かって膨張すると、柱状ハニカム構造体(100)は、バルーン(240)からの押圧力によってバルーンチャック(200)に固定される。
【0047】
遮光性を高めるという観点から、遮光性環状部材(15)は、柱状ハニカム構造体(100)の高さ(第一底面から第二底面までの長さ)方向に座標軸を取り、第二底面(106)の座標値を0とし、第一底面(104)の座標値を100とすると、少なくとも0~50の何れかの座標値、好ましくは少なくとも0~20の何れかの座標値、より好ましくは少なくとも0~10の何れかの座標値において外周側面(102)を周回被覆することが望ましい。第二底面(106)に近い側の外周側面(102)を遮光性環状部材(15)で周回被覆することにより、第二底面(106)からの透過光のパターンをカメラ(16)で撮像する際に、光照射器(12)からの光の回り込みを効果的に抑制可能である。これに加えて、遮光性環状部材(15)は少なくとも50~100の何れかの座標値、好ましくは少なくとも80~100の何れかの座標値、より好ましくは少なくとも90~100の何れかの座標値で外周側面(102)を周回被覆することがより望ましい。なお、本明細書において遮光性というのは減光性を含む概念であるが、遮光性環状部材(15)は、JIS L1055:2009で規定される遮光率が60%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましく、99%以上であることが更により好ましい。
【0048】
上記方法により、柱状ハニカム構造体(100)の一方の底面における目封止部(109)の検査を行うことができる。他方の底面における目封止部(109)の検査を実施するためには、柱状ハニカム構造体(100)を上下逆さにして同様の検査を行えばよい。
【符号の説明】
【0049】
10 検査装置
12 光照射器
12a 光源
13 筐体
14 光拡散フィルム
15 遮光性環状部材
16 カメラ
17 レンズ
18 引張装置
19 透明板
20 透光性基板
21 遮光部材
100 柱状ハニカム構造体
102 外周側壁
104 第一底面
106 第二底面
108 第1セル
109 目封止部
110 第2セル
112 隔壁
200 バルーンチャック
210 第一開口
220 第二開口
230 中空部
240 バルーン
260 貫通孔
270 側壁
280 流体ポート
290 流路