(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-15
(54)【発明の名称】水耕栽培方法及びその装置
(51)【国際特許分類】
A01G 31/00 20180101AFI20231108BHJP
【FI】
A01G31/00 601B
(21)【出願番号】P 2020155225
(22)【出願日】2020-09-16
【審査請求日】2022-11-04
(73)【特許権者】
【識別番号】520359664
【氏名又は名称】田代 真一
(74)【代理人】
【識別番号】100070286
【氏名又は名称】中山 伸治
(72)【発明者】
【氏名】田代 真一
【審査官】坂田 誠
(56)【参考文献】
【文献】特開平7-194261(JP,A)
【文献】登録実用新案第3207010(JP,U)
【文献】特開2012-210168(JP,A)
【文献】特開2000-60329(JP,A)
【文献】特開昭64-10931(JP,A)
【文献】特開2019-154348(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 31/00 - 31/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部を開放する栽培槽と、栽培槽の開口部に着脱自由に設置される植物の植付け用の栽培パネルと、前記栽培槽に養分を含む水を供給する給水ポンプと、前記栽培槽に溜められる水を槽外に排水する排水装置と、貯水槽とを備えてなる水耕栽培装置にあって、前記栽培パネルに植付ける植物から垂下伸長する根を栽培槽内の水に浸漬して水に含む養分を吸収させて植物の育成を図るようにした水耕栽培方法において、
前記栽培槽にはその開口部に設置する前記栽培パネルと該栽培槽の底部との間の高さの
中間の位置に防根透水シートを水平状に配置し
てこの防根透水シートにより栽培槽の内部を上下に二分し、前記栽培パネルに植付ける植物から垂下伸長する根をこの防根透水シート上に受け、更にはこの根をシート上面に沿って水平方向に伸展させ、且つ保持するようにして、栽培槽の水の給水時には前記根を栽培槽内で前記防根透水シートと共に水中に浸漬させて水中の養分の吸収を図る一方、栽培槽の水の排水時には水を前記防根透水シートを透して落とし、根に付着する水を切り、空気中に晒してこの根から空気中の酸素を直接吸収するようにした水耕栽培方法。
【請求項2】
請求項1に記載の水耕栽培方法において、前記栽培槽には前記給水ポンプを介して貯水槽から養分を含む水を供給し、栽培パネルから垂下伸長する根をこれに浸漬して養分の供給を図る給水状態と、前記排水装置を作動して栽培槽内の水を排水し、前記根を前記防根透水シート上で空気中に晒す排水状態とを交互に出現させ、これにより前記植物の根に対して水中の養分の供給と、空気中の酸素の供給とを交互入れ替わりに行うようにしたことを特徴とする水耕栽培方法。
【請求項3】
上部を開放する栽培槽と、栽培槽の上部開口部に着脱自由に設置される植物の植付け用の栽培パネルと、前記栽培槽に養分を含む水を供給する供給ポンプと、前記栽培槽に溜める水を槽外に排水する排水装置と、貯水槽とを備えてなる水耕栽培装置において、
前記栽培槽にはその開口部に設置する前記栽培パネルと栽培槽の底部との間の高さの
中間の位置に透水性の支持枠を水平状に横設し、該支持枠上に防根透水シートを受け止め載置して水平状に保持し、前記栽培パネルに植付ける植物から垂下伸長する根を該防根透水シート上に受け止め、更にはこの根をシート上面に沿って水平方向に伸展保持するようにして、栽培槽への給水時には前記根を満水となる栽培槽内で前記防根透水シートと共に水中に浸漬した状態に保ち、また栽培槽からの排水時には前記防根透水シートを透して前記根に付着する水を切り、空気中に晒して根に直接的に酸素の供給を図るようにした水耕栽培装置。
【請求項4】
請求項3に記載の水耕栽培装置において、前記栽培槽内部に横設する防根透水シートは栽培槽に対して着脱自由に取り付けられることを特徴とした水耕栽培装置。
【請求項5】
請求項3に記載の水耕栽培装置において、前記支持枠は栽培槽の内側面の高さの途中に設ける係止部に縁部を着脱自由に係止当接して水平状に保持するようにしたことを特徴とする水耕栽培装置。
【請求項6】
請求項3又は4に記載の水耕栽培装置において、前記栽培槽は相対向する2側壁部の内面を上部開口部側から槽の底部に向けて相互の間隔を徐々に縮小するテ-パ-状傾斜面に形成し、
この2側壁部の内面のテーパー状傾斜面の高さの途中のいずれかの位置に前記支持枠の背向する2側縁部をそれぞれ当接係合して着脱自由に支持するようにしたことを特徴とする水耕栽培装置。
【請求項7】
請求項3に記載の水耕栽培装置において、前記排水装置は下端開口部を前記栽培槽の内側底部に臨ませて垂直状に起立する上昇管部分と、該上昇管部分の上端を頂部にしてこれを起点に下方に折り返し管端の開口部を下向きにする下降管部分とを一体に有してなるサイホン管にして、該サイホン管は前記上端頂部を前記栽培槽の給水時の満水域に対応する高さ位置に固定し、栽培槽に給水される水が上記満水域に達するのに合わせて前記上昇管部分を通して上昇させると共にこの水が前記上端頂部を越えて前記下降管部分に流入し、且つ落下するに至ったとき、この水の落下による水の引き込みを利用して該下降管部分内に水を吸引し、更にこの吸引を利用して下端開口部から連続的に自然放流して前記栽培槽内の水を排水するようにしたことを特徴とする水耕栽培装置。
【請求項8】
請求項7に記載の水耕栽培装置において、サイホン管は栽培槽の外に配置し、その上昇管部分の下端部を折り返してその開口部を栽培槽の底部下面に臨ませ、且つこれを貫通して上面側に開口させ、栽培槽内部と連通するようにしたことを特徴とする水耕栽培装置。
【請求項9】
請求項3,4,5,7又は8に記載の水耕栽培装置において、
栽培槽は相対向する2側壁部の内面を上部開口部側から栽培槽底部に向けて相互の間隔を徐々に縮小するテーパー状傾斜面に形成し、軽量浮遊体を素材に形成する栽培パネルを上記栽培槽の給水時には水面上に浮かし、また排水時には栽培パネルの縁部を
上記栽培槽の
テーパー状傾斜面に係止して
この栽培槽の満水域近傍の高さ位置に保持するようにしたことを特徴とする水耕栽培装置。
【請求項10】
請求項3に記載の水耕栽培装置において、栽培槽の複数個を起立する支持枠体に上下所要の間隔を置いて互いに並行するように段設し、上位の栽培槽に備える排水装置を下位の栽培槽に接続して最上位の栽培槽に給水される水が満水となったとき、これから排水される水をその直下の栽培槽に排水し、且つこの水を給水にして順次上位から下位の栽培槽に水を送り、これにより全ての栽培槽に対し給水し、順次満水状態が得られ、又渇水状態が得られるようにしたことを特徴とする水耕栽培装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水耕栽培方法とその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
水耕栽培は、季節や天候等、自然の変化に影響されることなく安定的に野菜などの栽培ができることから近年生産者において、またその販売者において強い関心が持たれ、注目されるに至っている。
ことに、水耕栽培は、工場での栽培を可能にすることから自然を考慮し乍らの露地栽培やハウス栽培などに比較して格段に生産管理が容易であり、しかも安定した収穫が期待できることなどから高い関心が持たれている。
更に言えば、季節に影響を受ける野菜類の栽培においては、時期を外しての栽培は不可能となるが、水耕栽培はこれを解消するものであり、季節の変化や天候の変化に影響されることなく年間を通しての栽培を可能にする。
【0003】
この水耕栽培については、既に多くの提案がなされ、また実用化もされているが、その栽培方法やそれに使われる栽培装置についてはまちまちである。その中にあって共通していることは、植物の育成に当たって植え付けの対象が土壌から水に代わり、この水に含ませた養分を水に浸漬する根を通して吸収させることであり、これらを基本にして育成栽培がなされている。
従って、それぞれ異なる水耕栽培方法、装置はあるが、この基本的な事項については共通しており、その中での相違点は、水の供給方法であったり、その為の手段としての構造的事項、つまり装置の構造上の違いと言った所である。
【0004】
この相違する中にあって、更に水耕栽培を実践する上での共通点は、具体的には水を溜めて植物を育てる栽培槽を備えていること、そして、この栽培槽に植物を植付けた栽培パネルを装着して植物から生え出る根を栽培槽に溜める水に浸け、これから養分を吸収させることによって育成し、栽培するものとなっていることである。その為、水耕栽培を行うには基本的にこれらの要素を含む栽培装置が準備されることになる。
従って、個々に異なる水耕栽培は、この基本的要素を前提にして、例えば栽培槽の構造を改良したり、或いは養分を含む水の供給方法に改善を加えたりしたものとなっている。
【0005】
この様な中で、最も一般的であり、普及している水耕栽培装置は、上部を開放した箱型乃至樋型をなす栽培槽と、この栽培槽の開口部に装着する栽培パネルを備えると共に、植物を照らす照明ランプや養分を含む水を溜める貯水槽、この貯水槽の水を汲み上げて栽培槽に給水する給水ポンプ、そして栽培槽の水を抜く排水装置を備えた装置であり、これらの要素を含む装置を利用して栽培するものとなっている。
【0006】
この普及型の装置、そして、この装置を使っての栽培は、水を溜める栽培槽に対してその開口部に植物を植付けた栽培パネルを被せるように、或いは嵌め入れるようにして装着し、このパネルの底面側から伸び出す根を槽内の水に浸け込み、これによってこの水に含む養分を吸収させることで成長を図るようにしている。一般的にはこの装置を工場など建物内部に設備して、栽培する植物に合った温度の中で照明ランプによる照明により光合成する等、それぞれ適切な管理下で栽培を図るようにしている。
【0007】
しかし、従来の方式乃至装置を利用しての水耕栽培方法乃至その装置は、栽培パネルに植付けた植物の根を常に栽培槽に溜める水中に浸け込み、これにより常時養分を吸収させるものとしていることから、その植物にとって必要量以上の水を継続して吸収させてしまうと言った問題が起きている。
【0008】
植物によっては多量の水を必要とするもの、例えばリーフレタスやサラダ菜、小松菜等の葉菜類の野菜の場合は十分な水を供給することは有効であり、この種の野菜類においては従来の方法、装置は適しているとも言えるが、多量の水を必要としない植物、一般にはトマトやイチゴ、ブドウ等の果菜類においては常時根から水の供給を受けると、水分過多となって実が水っぽくなり、甘みが落ちて商品価値を落すと言った問題、更には常時水浸けになることから根腐れを起こす問題が発生する。その為、この種果菜類についは現在のところ有効な栽培法とはなっておらず、その結果、殆ど実用化されていないのが実情である。
尚、従来の水耕栽培方法、装置の1例としては特許文献1,2のもがあり、また非特許文献1が公知のものとなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2012-210168号公報
【文献】特開平7-194261号公報
【非特許文献】
【0010】
【文献】高辻 正基著 「図解 よくわかる植物工場」日刊工業新聞社刊 2010年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
この発明は、上述したところから明らかな様に、一般的に広く普及している水耕栽培方法、そして、その方法を実践する水耕栽培装置においての問題、つまり栽培に係る植物の根が常に栽培槽内の水に浸かり必要以上の水を吸収してしまうことによる栽培植物の品質の低下、或いは栽培不能と言った問題に鑑み、これを改善すべく開発されたものである。
【0012】
更に言えば、本発明は、この吸収過多となる不要な水の吸収を未然に防止して植物に適した水量を供給し、また併せて栽培中に水中に浸けられる根を適宜空気中に晒してこの根から空気中の酸素を吸収できるようにして、これにより完全な、且つ安定した植物の栽培が行えるようにした水耕栽培方法と、その装置を提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記の目的を達成するため、水耕栽培装置の主体部分となる栽培槽の内部にその深さの中間の位置に槽内部を上下に二分する如く防根透水シートを水平状に張設して、この防根透水シート上に栽培槽の開口部に装着する栽培パネルの下面から伸び出る植物の根を受け止め、更には成長に伴って伸長する根を上記シ-トの上面に沿って水平方向に伸展させて、この状態で養分を含む水との接触を図り、養分を吸収させる一方、この接触後所要の時間の経過後に上記栽培槽から水を排水するのに合わせて上記根を前記防根透水シート上に受けたまま根に付着した水をこのシ-トを透して落とし、水切りすることにある。
これによって、栽培槽の排水時には水に浸かった根を空気中に晒し、空気中の酸素との直接的接触を図ってこの根から直接的に空気中の酸素の吸収が行えるようにした水耕栽培方法と、これを実践するその装置を提供することにある。
【0014】
これにつき更に詳述すれば、本発明は、上部を開放する栽培槽と、栽培槽の上部開口部に着脱自由に設置される植物の植付け用の栽培パネルと、前記栽培槽に養分を含む水を供給する給水ポンプと、前記栽培槽に溜められる水を槽外に排水する排水装置と、貯水槽とを備えてなる水耕栽培装置にあって、前記栽培パネルに植付ける植物から垂下伸長する根を栽培槽内の水に浸漬し、水に含む養分を吸収させることによって植物の育成を図るようにした水耕栽培方法において、前記栽培槽にはその上部開口部に設置する前記栽培パネルと該栽培槽の底部との間の高さの途中に防根透水シートを水平状に配置して前記栽培パネルに植付ける植物から垂下伸長する根をこの防根透水シート上に受け、更にはこの根をシート上面に沿って水平方向に伸展させ、且つ保持するようにして、栽培槽に対する水の給水時には前記根を栽培槽内で前記防根透水シートと共に水中に浸漬させ、水中の養分の吸収を図る一方、栽培槽の水の排水時には前記防根透水シートを透して水を落とし、根に付着する水を水切りして、これにより空気中に晒し、この根から空気中の酸素の直接的吸収が行えるようにした水耕栽培方法を提供することにある。(請求項1に記載の発明)
【0015】
前記栽培槽は、上方を開放する箱型乃至樋型に形成する貯水に耐える水密な構造体とする。実際には、金属板乃至合成樹脂製の板を素材に形成することになる。
この栽培槽は、栽培する植物の量(数量)によってその大きさ乃至規模、具体的には開口面積が定まることになる。この栽培槽の給水時には給水ポンプによって養分を含む水を開口部近くまで注ぎ、ほぼ満水状態に保って栽培が行われる。勿論、零れ出すほどに給水する必要はなく、植物の根が十分に水に浸るものであれば良い。
一方、上記開口部には植物を植付ける栽培パネルを着脱自由に装着することになる。この栽培パネルは、浮力を持った軽量素材、例えば発泡スチロール製の所要の厚みを持った板が適当であり、栽培槽に注入する水の表面に浮かしてこのパネルの下面から伸び出す植物の根を直接水に浸け、養分の吸収を図るようにする。
【0016】
防根透水シート(又は遮根透水シートとも呼ばれる。)は、根の透過を阻止する一方、養分を含む水の通過を許す細かいネット状のシ-トであり、このシ-トは栽培槽の内部、更に詳しくは栽培パネルが装着される開口部から栽培槽の底部との高さの途中、つまり高さの中間の位置に水平に亘るように設置される。このシートの設置により栽培槽の内部は実質的に上下に二分され、給水時には上と下の水域が作られることになる。
【0017】
上記栽培槽及びこの栽培槽内部に配置される上記防根透水シートを備えた水耕栽培装置を使用しての栽培方法は、先ず養分を含む水を満たす栽培槽の開口部に栽培する植物を植付けた栽培パネルを被せ、これを給水ポンプで満たす水の表面上に浮かせ、これにより栽培パネルの下面から伸び出る上記植物の根を水中に浸けることになる。そして、栽培パネルの下面から下向きに伸び出た根を成長に伴ってその先端を前記防根透水シートに突き当て、この上面に受け止めて下方への伸び出しを抑えることになる。そして更に、この根が伸長するのに合わせてシ-ト上面を這わせ水平方向に伸展させてこのシ-ト上で育成が図られるようにする。
【0018】
この様にして所定の時間、栽培槽の水に根を浸け、その養分を吸収させて育成を図ると共に、その後この栽培槽内から排水装置を介して水を抜くことになる。
この排水は、栽培槽内の水を槽底部から抜き取りその全量を排出することによって行うことになる。この時、槽内の水は前記防根透水シートの上方に有るものはこのシ-トを透してシ-トの下側に流れ、排水されることになる。これに伴ってシ-ト上で水平方向に伸展した状態にある根は、これに付着する水をシ-トを透して落し、水切りされる。その結果、栽培槽の排水時にはシ-ト上に残された植物の根は、空気に晒され、直接空気に触れることになり、この根を通して直接的に酸素の吸収が行われることになる。
【0019】
従って、本発明によれば、栽培槽の給水時には槽内に満たされる養分を含む水に栽培パネルからの根が浸かって十分な養分の吸収が行われる一方、この給水時後の排水装置による水の抜き取りによる排水時には、水に浸かった根が防根透水シート上に残されて槽内で空気中に晒され、酸素の吸収が行われることから植物にとって十分な酸素が供給されることになる。
ことに、水に接することによる養分の吸収が図られることに加えて、栽培槽から水が抜かれた時、つまり排水時に根が空気に晒されることになって過剰な水分の吸収が止められることになることから果菜類の栽培にとって好適な状態となる。また一方、空気に晒されることによって根からの酸素の吸収が図られると同時に、水切りによって確実に根腐れを防止できることになり、優れた効果を発揮することになる。
【0020】
また、本発明は、上記水耕栽培方法において、前記栽培槽には前記給水ポンプを介して貯水槽から養分を含む水を供給し、栽培パネルから垂下伸長する根をこれに浸漬して養分の供給を図る給水状態と、前記排水装置を作動して栽培槽内の水を排水し、前記根を前記防根透水シート上で空気中に晒す排水状態とを交互に出現させ、これにより前記植物の根に対して水中の養分の供給と、空気中の酸素の供給とを交互入れ替わりに行うようにした水耕栽培方法を提供することにある。(請求項2に記載の水耕栽培方法)
【0021】
この発明は、所定の時間を定めて栽培槽に対して水を給水する給水時と、この水を槽外に排水する排水時とを交互に出現させることにより根を水に浸けて養分の供給を図る時間と、この根を空気に晒す時間とを栽培する植物に合わせて個々に設定し、これによって栽培中に長時間の水漬けと乾燥を回避して植物にとっての最適な条件を作り出すようにしたことにある。
【0022】
給水時と排水時の時間的割合は、栽培する植物によって定まるが、例えば葉菜類の栽培では葉の成長のため多くの水量を要することから給水時が長く設定され、また果実の水っぽさを避け、甘さを求めるイチゴなどの果菜類の栽培においては排水時の時間が長く設定されることになる。
上記の設定は、給水ポンプと排水装置の駆動時間の設定により容易に実行することができ、根に対する養分の供給と酸素の供給とを交互に行うことができる。
【0023】
また、本発明は、上部を開放する栽培槽と、栽培槽の上部開口部に着脱自由に設置される植物の植付け用の栽培パネルと、前記栽培槽に養分を含む水を供給する供給ポンプと、前記栽培槽に溜められる水を槽外に排水する排水装置と、貯水槽とを備えてなる水耕栽培装置において、前記栽培槽にはその上部開口部に設置される前記栽培パネルと栽培槽の底部との間の高さの途中に透水性の支持枠を水平状に横設して、この支持枠に防根透水シートを載置して水平状に保持し、前記栽培パネルに植付ける植物から垂下伸長する根を該防根透水シート上に受け止め、更にはこの根をシート上面に沿って水平方向に伸展させ保持するようにして、栽培槽に対する給水時には前記根を満水となる栽培槽内で前記防根透水シートと共に水中に浸漬させ、また一方、栽培槽からの水の排水時には前記防根透水シートを透して前記根に付着する水を切り、空気中に晒して根に対して直接的な酸素の供給が図れるようにしたことを特徴とする水耕栽培装置を提供することにある。(請求項3に記載の水耕栽培装置)
【0024】
上記支持枠は、栽培槽内部に水平状に横設支持するものであり、槽内の高さの途中に張る防根透水シートをその上面に受け止め載置してこれを水平に支持することになる。そして、栽培槽の開口部に設置する前記栽培パネルから伸び出る植物の根をこの支持枠で支える防根透水シート上に安定的に受け止め、更にはこの防根透水シート上を水平方向に伸展させて育成する補強手段とになる。
つまり、この支持枠は防根透水シートが槽内部で所定の高さから沈み込み、これによって根が水平方向へ伸展するのが阻害されたり、或いは水流を受けることで所定の位置から移動し、植物の根を適切に受け止られないと言った状態を回避するため設けられるものである。
【0025】
従って、この支持枠は、防根透水シートを支えられる剛性と、シ-トの透水機能によって流れ落ちる水の妨げとならない透水機能を有した素材によって形成される。具体的には金属製の、或いは合成樹脂製の網状の素材によって形成されることになる。例えば、細い棒素材を所定の間隔で格子状に組んで全体として平面的な板型に形成することによって得られる。
【0026】
また本発明は、前記水耕栽培装置において、前記栽培槽内部に設置される防根透水シートは、栽培槽に対して着脱自由に取り付けられることを特徴とした水耕栽培装置を提供することにある。(請求項4に記載の水耕栽培装置)
【0027】
この発明は、栽培槽内部に張られる防根透水シートが取り外し自由となることによって使用後の交換が容易になることであり、また栽培槽内部を清掃する際にこれを簡単に取り除くことによって作業を容易に、しかも全体の清掃作業を容易にして綺麗にできることにある。
【0028】
また本発明は、前記水耕栽培装置において、前記支持枠は栽培槽の側壁部の高さの途中に設ける係止部に周縁の縁部を着脱自由に係止当接して水平状に保持するようにしたことを特徴とする水耕栽培装置を提供することにある。(請求項5に記載の水耕栽培装置)
【0029】
上記係止部は、栽培槽の側壁部の高さの途中に内側に突き出る段部を向かい合わせに形成することによって設けることができるが、更には側壁部に複数個の突起を立てることによっても設けることが出来る。
この支持枠の取り外しは、主に栽培槽の掃除の際に有効に作用するものであり、前記防根透水シートと共に栽培槽から取り除くことによってその作業を容易に行うことが出来ることになる。
【0030】
また本発明は、上記記載の水耕栽培装置において、前記栽培槽は相対向する2側壁部内面を開口部側から槽底部に向けて相互の間隔を徐々に縮小するテ-パ-状傾斜面に形成して該傾斜対向面の高さの途中のいずれかの位置に前記支持枠の背向する2側縁部をそれぞれ当接係合させ、着脱自由に保持するようにした水耕栽培装置を提供することにある。(請求項6に記載の水耕栽培装置)
【0031】
この発明は、水耕槽の側壁部内面に特段の係止部を設けることなく、相対向する側壁部面を底部方向に向かって徐々に狭める傾斜面に形成することにより、開口部から差し込む前記支持枠の背向する2縁部をこの傾斜面のいずれかの高さ位置に係合させることによって支えるもので、これにより側壁部の高さの途中に簡単に支持枠を水平に止め付けることができる。この係止方法は、水耕槽の成形時に傾斜面の形成が同時にできることから簡単であり、有利である。
【0032】
また本発明は、前記の水耕栽培装置において、前記排水装置は下端開口部を前記栽培槽の内側底部に臨ませて垂直状に起立する上昇管部分と、該上昇管部分の上端を頂部にしてこれを起点に下方に折り返して管端の開口部を下向きにする下降管部分とを一体に有してなるサイホン管にして、該サイホン管は前記上端頂部を前記栽培槽の給水時における満水域に対応する高さ位置に固定して、栽培槽に給水される水がこの満水域に達するのに合わせて前記上昇管部分を通して上昇させると共に、この水が前記上端頂部を越えて前記下降管部分に流入し且つ落下するに至ったときこの水の落下による水の引き込みを利用して該下降管部分内に水を吸引し、更にこの吸引を利用して管端開口部から連続的に自然放流し、前記栽培槽内の水を連続排水するようにしたことを特徴とする水耕栽培装置を提供することにある。(請求項7に記載の水耕栽培装置)
【0033】
上記サイホン管は、栽培槽の水がその底部に臨む上昇管部分の下端開口部から入り込み、この水が管の折り返し部となる上端頂部に達してこれを乗り越え、下降管部分に流れ込むのに当たってこの管内に水が満たされ、更にこの水が管端の開口部から排水されることに伴って上昇管部分からの水の引き込みが継続して連続的に排水が行はれることを利用したものである。これによって、栽培槽内部の水は満水状態から自動的に排水されることになり、しかも、上昇管部分の下端開口部が栽培槽の底部に臨んで連通することから槽内部の水が効果的にその全量を排出することになる。
【0034】
また本発明は、前記水耕栽培装置において、サイホン管は栽培槽の外に配置し、その上昇管部分の下端開口部を折り返して栽培槽の底部下面に臨ませ、且つこれを貫通して上面側に開口させ栽培槽内部と連通するようにした水耕栽培装置を提供することにある。(請求項8に記載の水耕栽培装置)
【0035】
また本発明は、前記の水耕栽培装置において、栽培パネルは軽量浮遊体からなる板材を素材にして形成し、栽培槽の給水時には水面上に浮かし、また排水時には栽培パネルの縁部を栽培槽の側壁部内面に設ける係止部に係止して栽培槽の満水域近傍の高さ位置に保持するようにしたことを特徴とする水耕栽培装置を提供することにある。(請求項9に記載の水耕栽培装置)
【0036】
また本発明は、前記水耕栽培装置において、栽培槽の複数個を起立する支持枠体に上下所要の間隔を置いて並行状に段設し、上位の栽培槽に備える排水装置を下位の栽培槽に接続して最上位の栽培槽に給水される水が満水となったとき、これから排水される水をその直下の栽培槽に給水して順次上位から下位の栽培槽に水を送り、これにより全ての栽培槽が順次給水状態と排水状態となるようにしたことを特徴とする水耕栽培装置を提供することにある。(請求項10に記載の水耕栽培装置)
【0037】
この発明は、支持枠体により複数個の栽培槽を上下に段設して栽培槽相互間を排水装置を介して連結し、これによって最上位の栽培槽に給水する水を順次下位の栽培槽に送り、最終的に最下位の栽培槽に送ってそれぞれを順次満水にすることができるものであり、これにより水の節約が行え、同時に、最上位の栽培槽に対する水の給水を止めることによって順次下位の栽培槽の水を排水し、効率的に各栽培槽の給水状態と排水状態を作ることができるものとなる。
【発明の効果】
【0038】
上記の構成から、本発明によれば、栽培槽内部に防根透水シートを設けて栽培パネルから伸び出る植物の根を受け止めてこのパネルの上で伸長させることとしたことから、栽培槽の給水時には上記根を水中に浸漬してこれに含ませた養分の吸収を図ることが出来る一方、排水時には根を防根透水シート上に置いて確実に空気中に晒すことができるため不要な水分の吸収を抑えることができる。更にはこの時、直接根からの酸素の吸収を行うことができることから、栽培する植物に対しての水の供給過多や酸素不足を容易且つ確実に解消することができる。従って、容易な栽培管理下の下で効率的な水耕栽培を行うことができることになる。
また併せて、水に浸漬した根を排水時に防根透水シートに受けてこれとの分離を図ることができることから根腐れの問題を完全に解消することができることになる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【
図3】栽培槽の内部に防根透水シートと支持枠及び栽培パネルをセットして水を給水した状態の拡大縦断側面図。
【
図6】栽培槽に対する排水装置となるサイホン管の取り付け状態を説明する拡大縦断正面図。
【発明を実施するための形態】
【0040】
添付の図面は、本発明に係る水耕栽培方法及びこの方法を実施する装置の一実施形態を表したものである。以下、これら図面に基づき本発明を説明し、その特徴を明らかにする。
図面において、符号1は、本水耕栽培装置を支え、基礎に対して固定するための支持枠体であり、2はその垂直に起立する支柱、3,4は支柱2,2間に渡した横の桟であり、5は支持枠体1に固定した栽培槽、6は同じく栽培槽5の上方にこれと間隔を置いて取り付けた照明ランプであり、7は栽培槽下方の基礎の上に設置した貯水槽である。
【0041】
支持枠体1は横長に形成してあり、栽培槽5は左右の支柱2,2間に渡る前後2本の桟3,3によって略水平に支持される。
この栽培槽5は上方を開放した横長の樋型に形成して左右の端を側壁板で塞いであり、前後の縁を桟3,3に掛け止め固定することによって左端を僅かに下げた状態で支持してある。
照明ランプ6にはLED管が使用されている。栽培槽5の上方にこれとの間隔を置いて並行をなすように支持枠体1の桟3,3に固定してある。
【0042】
図3は、上記栽培槽5を拡大して示した縦断側面図であり、
図4は、
図3の一部分を更に拡大して示した縦断側面図である。
ここでは所要の深さに形成する栽培槽5の相対向する前後の側壁部5a,5aを槽の底部5bに向かって縮小するテ-パ-状の傾斜面に形成してあり、更に上記底部5bを中央に向かって緩い下り勾配に形成して、この底部5bの中央部に長さ方向に沿って排水誘導のための溝5cを一体に設けている。
【0043】
図中8は、栽培槽5に貯水槽7からの養分を含ませた水を給水するための給水ポンプであり、その一方には貯水槽7に繋ぐホ-ス10を接続し、他方には槽5に給水するパイプ11を接続している。
図中の符号12は、槽内の水を排水するための排水装置であり、前記溝5cの左端に近い底部に接続連通させて効率的な排水が行えるようにしてある。
【0044】
従って、前記栽培槽5は、給水ポンプ8を介して貯水槽7から水を吸引して槽内に満たすことができ、又必要に応じてこの水を排水装置12によって槽外に排水し、槽内を空にすることができる様になっている。
【0045】
この栽培槽5には、上部開口部13の略全面を覆う状態で栽培する植物を植付ける栽培パネル14が取り外し自由に嵌められ、給水される水の水面に浮かせた状態で設置されるようにしてある。
そして、この槽内部の略中間の位置、つまり、槽内部の高さの途中(深さの途中)には
図3に示したように防根透水シート15が水平に張られ、これを支える支持枠16が設置される。
【0046】
上記防根透水シート15は、成長する植物の根を通すことなく、それでいて水の透過を許すことのできる細かなメッシュ状のシ-トであり、ここでは一般に市販されている防根透水シート乃至は遮根透水シートと呼ばれるシ-ト、例えば東洋紡株式会社が製造する防根透水シートが使用されている。
【0047】
この防根透水シート15は、槽内部の深さの途中にあって水平状に張られることによりこの栽培槽5の内部を上下に二分する如く設けられる。ここでの防根透水シート15は栽培槽5の前後の幅より広い帯状に形成して、その前後の縁部分を栽培槽5の前後の傾斜を付けた側壁部5a,5aの内面に添わせて、更にその端を側壁部の縁に掛けて折り返し、安定した状態で止付けセットできるようにしてある。又これによって前後に張ってシ-トの中央部分が水平状になるようにしている。
【0048】
図示しないが、上記側壁部5aの縁に折り返して掛けた防根透水シート15の縁部分をクリップで押さえると更に安定した止付けができる。この安定は、シ-ト15が栽培槽5の内部にずり落ちるのを防止することにあるが、同時に吊設状に緊張させることになることから栽培槽5の内部で水平状に保たせる上で効果的に作用することになる。
尚、ここで、シ-ト15の縁部分を前後の側壁部5a,5aに掛け止めることにしているのは安定させることの外に、後述するように成長に伴って張り出す根がシ-ト15と側壁部5a,5aとの隙間から下に伸び出すのを阻止するのに効果的である。
【0049】
一方、前記支持枠16は、防根透水シート15を所定の位置に水平姿勢を保持して安定的に支持するための支持手段である。ここでは、耐水性を有し且つ所要の剛性を有した素材、例えば表面を耐水塗装した金属製の細棒、或いは合成樹脂製の細棒の複数本を間隔を置いて並べ、これを格子状に組んで網型にしたものが使用されている。そして、この周縁の前後の縁部を側壁部5a,5aの内側傾斜面に上方から添わせ、係止させることによって水平状に止付けるようにしている。
この支持枠16は、防根透水シート15を安定的に支えるため、図示するように防根透水シート15を張る高さ位置に止め付けられるように栽培槽5の前後の幅に合わせてその幅を定めてあり、上から落とし込むことによって自動的に所定の位置に設置できるようにしてある。
【0050】
この支持枠16は前述したように網状にしてあるが、これは防根透水シート15を透した水がそのまま下に落ちて栽培槽5の底部5bに流れるためであり、従って、防根透水シ-ト15を水平状に支持できるものであれば、例えば多孔性の板等であってもよい。更に言えば、防根透水シート15の支持は、後述するようにシ-トの下に所定の空間を設けるためであるからこのシ-ト15に多少上下の凹凸が生じる支持枠であっても良い。
尚、この支持枠16を支える手段として栽培槽の前後の側壁部5a,5aを利用する方法を取っているが、この側壁部に突起状の係止部を突設して、これに掛け止めるようにしても、又支持枠16の下面から幾つかの脚を垂設し、これを底部5bに突き当てることで支えるようにしてもよい。
【0051】
この支持枠16は、栽培槽5に対して固定的であってもよいが、栽培槽5の内部の清掃に当たって取り外せることが有効であり、その為ここでは着脱自由に組付けられるようにしてある。この支持枠16は、汚損によって防根透水シート15を交換するとき一緒に外し、栽培槽5の内部清掃に当たることになる。
【0052】
ところで、図示するように、栽培槽5の内部に水平に渡す防根透水シート15と支持枠16とをここでは槽の深さの略中間に位置するようにしてあるが、この位置は実質的に防根透水シ-ト15と支持枠16によって、これらと槽5の底部5bとの間に所要の間隔が設けられるようにするためであり、この間隔を設けることによってシ-ト15による水切りが確実に且つ効果的に達成されることになる。
つまり、防根透水シート15の下方の空間は、後述するように水の排水時にシ-ト15を透した水が滴り落ちてシ-ト15上から完全に除去されるための空間であり、従って実際にはここに防根透水シート15が宙に浮いた状態になる空間が設けられば良いことになる。
その一方、防根透水シート15の上方の栽培パネル14との間隔は、植物の根を水に浸けてこれを成長させるための空間であり、ここには成長を妨げない範囲の間隔が求められることになる。
【0053】
さて、栽培パネル14は、栽培する植物を立ち上げた状態に支持して前記栽培槽5に植付けるための板状の部材であり、ここでは水面上に浮かせることのできる軽量な素材、例えば発泡スチロール等の合成樹脂製の板から形成して、栽培槽5の開口部13に嵌め入れたとき、槽内に満たされる水に浮かせた状態で装着できるようにしてある。
【0054】
この栽培パネル14は、栽培槽5の開口部13の形状に合わせた左右に長さを持った横長長方形状に形成してあり、その中央部には長さ方向に沿って栽培する植物を植付けるための貫通孔17,‥‥が複数個列状に設けてある。そして、ここでは開口部13に嵌め入れたとき、前後の縁部を側壁部5a,5aの傾斜する内面から僅かに間隔を置いて設置できるようにしてあり、これによって水面上に浮かした状態、つまりパネル14の下面が水に接した状態となるようにしてある。そして更に、図示するようにこの状態において上記の間隔を通して防根透水シート15の縁部が側壁部に沿って上に抜け出るようにしている。
【0055】
一方、栽培槽5の水を抜く排水装置12は、ここでは
図6及び
図7に示したように管を倒U字形に折り曲げて上昇管部分18aと下降管部分18bとを備えたサイホン管18としてあり、栽培槽5の側壁板の外側に上下に向けて取り付けてある。
上昇管部分18aは、下端部分をU字形に折り返してその開口部18cを前記栽培槽5の溝5cの底部に貫き通して槽の内部に接続開口させてあり、また下降管部分18bと繋がるU字形の頂部18dは、栽培槽5に満たされる水の満水時の水面位置19(満水域)に高さを揃えて固定してある。
一方、下降管部分18bは、その管端を下に延長して下方に設置される別の栽培槽5に接続させ、このサイホン管18を通して排水される水を下の栽培槽5に給水できるようにしている。
【0056】
この様な構成に係る本発明の水耕栽培装置は、給水ポンプ8の始動によって貯水槽7に溜める所定の養分を含む水を栽培槽5に給水し、これを満たすことになる。そして、この給水によって槽5内に付設した防根透水シート15と支持枠16とは水中に没し、又栽培槽5の開口部13に嵌め入れた栽培パネル14は水面上に浮いた状態で装置される。
【0057】
この給水によって、水位が満水状態になると、満水時の水面位置19に達した時点でサイホン管18の上昇管部分18aの下端開口部18cを通して水が管内に入り込み、この水がそのまま頂部18dに達するまで上昇することになる。そして、上昇した水がこの頂部を乗り越えて下降管部分18bに流れ込むと排水が始まり、更にこの流れ込みによって下降管部分18bの内部が満水になると、この下降管部分18bの水の落下に伴って管内の水を引き出す吸引力が働くことになって上昇管部分18aの水を下降管部分18bに引き込むことになり、この結果、管内に水の流れが発生して排水が連続することになり、栽培槽5の水が完全に空になるまで継続することになる。
【0058】
この排水により防根透水シート15は、栽培槽5の内部にあって空となった空間に支持枠6と共に空気に晒さる状態となり、又一方、植物を植付け支持した栽培パネル14は、水が引くのに伴ってその前後の縁部を栽培槽5の前後の傾斜する側壁部5aの内面に当接して水から離れることになり、開口部13に近い高さの位置に植物を植付けたままの状態で支持されることになる。
【0059】
尚、この実施の形態では、サイホン管18の上昇管部分18aの下端開口部18cを栽培槽5の底部に形成する溝5cの底に下から貫き通して槽の内部に開口させ連通させてあることから栽培槽5の水を確実に抜き取ることができることになる。
【0060】
ところで、この実施形態では図示するように支持枠16には2個の栽培槽5,5が上下に並行するように取り付けてある。両栽培槽は共に桟3,3を介して固定してあり、水捌けの上から上方の栽培槽5は左下がりに、又下方の栽培槽5は右下がりにそれぞれ僅かな勾配を付けて固定してある。
前述したように上方の栽培槽5には貯水槽7にホ-ス10を繋いだ給水ポンプ8が臨み、また左端に備えた排水装置12の下降管部分18bの延長した下端の開口部が下の栽培槽5の左端の内側に臨んで排水を受けられるようにしてある。そして、この下の栽培槽5の右端には先に説明したサイホン管18からなる同種の排水装置12が接続設置してあり、これの下降管部分18bの開口部が前記貯水槽7に臨んで排水を回収できるようにしてある。
【0061】
ここでは、上位の栽培槽5に貯水槽7から給水して、この水を排水する形をとって下位の栽培槽5の給水を行い、更にはこの下位の栽培槽5から貯水槽7に引き落とすことによって循環する構造をとっており、これによって両栽培槽5,5が連動するようにしてある。従って、給水手段として1個の給水ポンプ8で全ての給水が賄えるようにしてある。
尚、ここで栽培槽5,5を二段にしたのは設置面積を有効利用するためで、支持枠体1を増強することで栽培槽5の段数を増やすことは可能であり、栽培工場においては求められることとなる。
【0062】
次に、上記本発明に係る水耕栽培装置を使用して栽培する実際について説明する。
図5は、イチゴ20の栽培について示したものである。ここではイチゴ20の根茎の部分に筒形の発泡スチロール製の保護筒21を巻き付け、この保護筒12を介して栽培パネル14の貫通孔17に通し、植付けるようにしている。
栽培パネル14には、この様にしてイチゴ20の苗をそれぞれ保護筒21を巻き付けた状態で貫通孔17に差し入れ、植付けすることになり、この状態で前記栽培槽5の開口部13に嵌め入れて装着することになる。
【0063】
図5は、その後、栽培槽5に満たされる水の中にあってイチゴ20が成長する姿を示している。栽培パネル14の下から水中に伸び出る根22は、予め栽培槽5内に設置しておく前記防根透水シート15にその先端を到達させることになり、ここに突き当ることによって下方への伸長が止められる。そして、更に伸び出す根22は、水平状に張られた防根透水シート15上を水平方向に伸長展開してシ-トの上に広がる形で成長する。この為、根22はこの防根透水シート15によって保持された状態で水に浸かったまま成長することになる。
この栽培において、照明ランプ6による照明がなされるが、自然光による場合にはこれによる照明は省略され、或いは一部省略されることになる。
【0064】
給水ポンプ8によって栽培槽5に水が給水される間、イチゴ20の根22は上記防根透水シート15上に保持され、水から養分を得て成長を続けることになるが、この時、給水ポンプ8は継続して貯水槽7から水を吸い上げ、栽培槽5を満水状態に維持することになる。これと同時に、満水状態となることで排水装置12が作動を開始して下の栽培槽5に水を排水することになる。この時、排水する量と給水する量がバランスするように設定しておけば、栽培槽5の水の減り具合を制御することができ、所定の時間満水状態を維持して根22からの養分の吸収を継続して行うことができる。
尚、ここでは、サイホン管18の排水量を抑制して栽培槽5内の水位の低下時間を遅くして、これにより栽培槽5内に水が留まっている状態、つまり植物の根が水に浸かっている状態を作っており、これによって植物が必要とする水との接触時間を調整するようにしている。
【0065】
所要の時間給水状態に置いた後、給水ポンプ8の駆動を止めると、排水装置12による排水が、ここではサイホン管18の作用によって栽培槽5の全量の水が排水されるまで継続し、栽培槽5内は自動的に渇水状態となる。その為、防根透水シート15と共にこれに保持された根22は、空になった栽培槽5の中で空気に晒され、干された状態に置かれることになり、空気中からの酸素の吸収が行われることになる。
【0066】
この栽培槽5に対する給水と排水は、栽培する植物によって選択されることになる。つまり、給水によって栽培槽5を満水状態に維持する時間と、排水によって栽培槽5を空にする時間とは、栽培する植物に合わせて最善となる時間が設定されることになり、これにより、長時間水に浸けるものと、短時間のものとにそれぞれ合わせて最適な育成状態が作られることになる。
この時間の設定は、給排水を繰り返す中で行われることになる。この繰り返しは複数回に亘って行われる。この繰り返しの間隔が植物の根を空気中に晒す時間であり、この時間を植物に合わせることで時間が選択され決められることになる。更に具体的には、給水時と排水時とを交互に実行することによって、つまり、複数回これを繰り返すことによって確実に植物の根22を空気中に晒し、酸素を吸収させることになるのである。
尚、この給排水に伴い、本発明では栽培槽5の内部に水の流れができることから澱むことがなく植物の根22には常に養分と酸素を含む新鮮な水が供給されることになる。
【0067】
周知のように、植物が成長する上で根から養分を吸収し、併せてこの根から酸素を吸収することは必須の条件であるが、しかし、従来の水耕栽培装置では水からの養分の吸収は図れるが、根が常時水中に浸かる状態にあり、又流れのない中にあることから根からの酸素の吸収が不十分であり、このため酸素不足となり、また併せて長時間の水浸かりによって根腐れを起こす問題があったが、本発明は前述したようにこの問題を完全に解消するものとなる。
ことに、排水時に防根透水シート15によって根を確実に空気中に晒すことができ、不要な水の供給を断つことができることから本実施形態に示すように過多な水分の吸収を嫌うイチゴ20等の果菜類の栽培が可能となるのである。しかも、この栽培では水分の摂取を抑えられることから十分な甘みを持った高品質の果菜類を収穫することができることになるのである。
【0068】
更に加えて、本発明では、給水ポンプ8を駆動することによって栽培槽5を満水にし、
この状態で根20からの養分の吸収を図り、この状態をポンプの駆動時間の設定で継続できることになっており、また給水ポンプ8の駆動を停止すると排水装置12の作動が継続して栽培槽5の水が空になるまで排水が行われる為、ポンプ8が停止している間、防根透水シート15上の根22が空気中に晒されることになり、従って、給水ポンプ8の操作によって適切な栽培管理を実行することが可能となっている。
【0069】
さて、給水に当たって給水ポンプ8の駆動は手動によって行っても良いが、給排水を繰り返す本発明装置においては、給水ポンプ8の電源にタイマーを組み入れ、時間設定により給水を管理するようにしている。
栽培する植物によて給排水の時間が異なるが、同時に栽培する植物が決まれば、それに対応した時間が決定するため、これに合わせた時間設定をしてタイマーをセットすれば、最適な状態で自動的に栽培の管理ができることになる。
【0070】
尚、この実施形態では、排水装置12にサイホン管18を採用したが、これに限定されるものではなく、例えば、これを排水ポンプに代えて栽培槽5の満水時の水面位置19を検出して駆動させ、排水するようにしても良い。
この時、栽培槽5の水を完全に抜き取るのに当たって、前記給水ポンプ8の駆動停止に合わせて完全排水の時間を見計らってこの排水ポンプが停止するように設定し、相互に連動する関係を作るようにすると栽培槽5の排水後、次の給水に備えることができる。
更には、前記サイホン管18の上昇管部分18aに当たる部分を単に真直な排水管に代え、この管を栽培槽5の底部に接続連通すると共に、この管の途中に電磁弁を備えて栽培槽5の満水時の水位19を検出することを通してこの電磁弁を開放作動させ、排水する一方、排水後の給水時にはこれを閉塞して排水を止めるようにしても良い。これらは任意選択の範囲にある。
【0071】
以上、本発明を実施の形態に基づき説明したが、野菜など植物の栽培(ここでは、イチゴの栽培)に当たってその栽培期間中に栽培槽5の水を抜くこと、そしてこの時、栽培槽5内で植物の根22を防根透水シート15に受けて水切りすることができることから確実に空気との接触を図ることができるものとなり、またこれに併せて根腐れを回避できることから、従来水耕栽培では困難とされたイチゴやトマト等の果菜類の栽培が可能となり、しかも実に甘みを持たせた野菜の収穫が可能となる。勿論、本発明の方法及び装置は葉菜類の栽培にも適すものであり、水の流れ、循環により根に養分と酸素を運び、更には根腐れを防止できることは葉菜類の栽培にも有効に活用できる共通の効果である。
【0072】
そして、本発明装置では、主として栽培槽5の内部に水平を保って防根透水シート15を設置することにあるが、この簡単な構造に係ることから装置の製造は容易であり、また取り扱いも容易であって実施に当たって簡単にできる利点がある。
ことに、支持枠16によって防根透水シート15を支持する場合には、安定的な設置が可能であり、又この作業を容易にする利点がある。その一方、防根透水シート15、及び支持枠16は栽培槽5から簡単に外せることから内部の清掃に当たって容易に行え、しかも根や葉などの栽培中に落ちたごみ類を全て防根透水シート15に受けられるため、基本的に栽培槽5の内部を綺麗に保つことができ、又このシ-トの取り外しによって除去することができるため栽培槽5内を汚すことが少なくなり、結果的に生育を妨げる要因の一つを除くことができるものとなっている。
【符号の説明】
【0073】
1 支持枠体
2 支持枠体の支柱
3,4 支持枠体の桟
5 栽培槽
6 照明ランプ
7 貯水槽
8 給水ポンプ
12 排水装置
13 栽培槽の開口部
14 栽培パネル
15 防根透水シート
16 支持枠
17 栽培パネルに開設する貫通孔
18 排水装置となるサイホン管
18a 排水装置であるサイホン管の上昇管部分
18b 排水装置であるサイホン管の下降管部分
19 栽培槽の満水時の水面位置
20 栽培する植物のイチゴ
22 栽培する植物(イチゴ)の根