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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-15
(54)【発明の名称】粘着テープおよび半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09J 7/38 20180101AFI20231108BHJP
   C09J 7/29 20180101ALI20231108BHJP
   C09J 133/04 20060101ALI20231108BHJP
   H01L 21/301 20060101ALI20231108BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20231108BHJP
【FI】
C09J7/38
C09J7/29
C09J133/04
H01L21/78 M
H01L21/304 631
H01L21/304 622J
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020508292
(86)(22)【出願日】2019-03-14
(86)【国際出願番号】 JP2019010553
(87)【国際公開番号】W WO2019181731
(87)【国際公開日】2019-09-26
【審査請求日】2022-01-31
(31)【優先権主張番号】P 2018053332
(32)【優先日】2018-03-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】小升 雄一朗
(72)【発明者】
【氏名】前田 淳
(72)【発明者】
【氏名】西田 卓生
【審査官】福山 駿
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/150676(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/150675(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/133420(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/111310(WO,A1)
【文献】特開2004-043762(JP,A)
【文献】国際公開第2015/156839(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00-201/10
H01L 21/301
H01L 21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体ウエハ表面に溝が形成された半導体ウエハの表面にバックグラインドテープを貼付して、裏面を研削して、その研削により半導体ウエハを半導体チップに個片化し、その後個片化されたチップ群をピックアップテープまたは接着テープに貼付し、バックグラインドテープの背面に剥離の切っ掛けとなる剥離用テープを熱圧着し、剥離用テープを起点としてバックグラインドテープを剥離することで、個片化されたチップ群をピックアップテープまたは接着テープに転写する工程を含む半導体装置の製造方法において、前記バックグラインドテープとして使用される粘着テープであって、
基材と、その片面に設けられた粘着剤層と、基材と粘着剤層の間に緩衝層とを含み、
前記粘着剤層が、アクリル系のエネルギー線硬化性粘着剤からなり、
前記緩衝層が、ポリプロピレンフィルム、エチレン-酢酸ビニル共重合体フィルム、アイオノマー樹脂フィルム、LDPEフィルム、LLDPEフィルムのいずれかであり、
エネルギー線照射して硬化した後の粘着剤の200℃における貯蔵弾性率E’200が1.5MPa以上である粘着テープ。
【請求項2】
半導体ウエハ表面に溝が形成された半導体ウエハの表面にバックグラインドテープを貼付して、裏面を研削して、その研削により半導体ウエハを半導体チップに個片化し、その後個片化されたチップ群をピックアップテープまたは接着テープに転写する工程を含む半導体装置の製造方法において、前記バックグラインドテープとして請求項1に記載の粘着テープを使用する半導体装置の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の粘着テープの使用であって、半導体ウエハ表面に溝が形成された半導体ウエハの表面にバックグラインドテープを貼付して、裏面を研削して、その研削により半導体ウエハを半導体チップに個片化し、その後個片化されたチップ群をピックアップテープまたは接着テープに転写する工程を含む半導体装置の製造方法における、前記バックグラインドテープとしての使用。
【請求項4】
粘着剤層が熱硬化性成分を含まない、請求項1に記載の粘着テープ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は粘着テープに関し、さらに詳しくはいわゆる先ダイシング法により半導体装置を製造する際に、半導体ウエハやチップを一時的に固定するために好ましく使用される粘着テープ、及びその粘着テープを用いた半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
各種電子機器の小型化、多機能化が進む中、それらに搭載される半導体チップも同様に、小型化、薄型化が求められている。チップの薄型化のために、半導体ウエハの裏面を研削して厚さ調整を行うことが一般的である。また、ウエハの表面側から所定深さの溝を形成した後、ウエハ裏面側から研削を行い、研削により溝の底部を除去してウエハを個片化し、チップを得る先ダイシング法と呼ばれる工法を利用することもある。先ダイシング法では、ウエハの裏面研削と、ウエハの個片化を同時に行うことができるので、薄型チップを効率よく製造できる。
【0003】
従来、半導体ウエハの裏面研削時や、先ダイシング法によるチップの製造時には、ウエハ表面の回路を保護し、また、半導体ウエハ及び半導体チップを固定しておくために、ウエハ表面にバックグラインドテープと呼ばれる粘着テープを貼付するのが一般的である。
【0004】
以下に先ダイシング法によりウエハを個片化した後のチップのピックアップについて、図面を参照して説明する。先ダイシングにより、半導体ウエハは個片化され、バックグラインドテープ10上には個片化された多数のチップ21からなるチップ群20が得られる(図1)。このチップ群20は、ピックアップテープ30と呼ばれる粘着テープに転写され、必要に応じてチップ間隔を拡張するエキスパンドを行った後に、ピックアップテープ30から剥離される(特許文献1:特開2012-209385号公報)。このピックアップテープ30としては、ダイシングテープと呼ばれる粘着テープ類が使用されることが多い。バックグラインドテープ10からピックアップテープ30へのチップ群20の転写は、以下のように行われる。すなわち、バックグラインドテープ10上の保持されたチップ群20にピックアップテープ30を貼付する。この際、ピックアップテープ30の外周部をリングフレーム40により固定する(図2)。次いでバックグラインドテープ10のみを剥離することで、チップ群20はピックアップテープ30に転写される。
【0005】
バックグラインドテープ10は、裏面研削工程ではウエハやチップ群を安定して保持できる程度の粘着力が必要であり、チップ群をピックアップテープ30に転写する際にはチップ表面から容易に剥離できる程度の粘着力であることを要する。このため、バックグラインドテープ10の粘着剤層12には、エネルギー線照射により粘着力を低減できるエネルギー線硬化性粘着剤が使用されることが多い。たとえば特許文献2(特開2002-053819号公報)には、エネルギー線硬化前の粘着力が150g/25mm以上であり、エネルギー線硬化後の粘着力が150g/25mm以下となるバックグラインドテープが開示されている。ここで粘着力は、JIS Z-0237に規定される方法に準拠して、被着体としてSUS304-BA板を用い、剥離速度300mm/分、剥離角度180度の条件下で測定した粘着力である。
【0006】
また、特許文献3(特開2016-72546号公報)には、先ダイシング法に用いられる半導体ウエハ表面保護用粘着テープが開示されている。この粘着テープは、先ダイシング時におけるカーフシフトを抑制し、半導体チップへの粘着剤の転着、および半導体チップの剥離不良を解消することを目的とし、粘着テープの基材が、引張弾性率1~10GPaの剛性層を少なくとも1層有し、粘着剤層を放射線硬化させた後における剥離角度30°での剥離力が、0.1~3.0N/25mmであることを特定している。
【0007】
バックグラインドテープ10の剥離時には、バックグラインドテープ10の背面(基材面)に剥離の切っ掛けとなる剥離用テープ50を固定する(図3)。バックグラインドテープは、半導体ウエハと略同形状であり、剥離の切っ掛けとなる起点がないため、短冊状の剥離用テープ50を固定して剥離の起点とする。剥離用テープ50は、バックグラインドテープ10背面に熱圧着によって強く固定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2012-209385号公報
【文献】特開2002-053819号公報
【文献】特開2016-72546号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
バックグラインドテープ10に剥離用テープ50を熱圧着する際には、140~230℃程度に加熱し、圧力を加えて、バックグラインドテープ10背面に剥離用テープ50をヒートシールする。このため、ヒートシール部分に位置するバックグラインドテープの粘着剤層も加熱、加圧される。この結果、エネルギー線照射により硬化した粘着剤層が、加熱、加圧により流動、活性化し、バックグラインドテープの硬化後の粘着剤層と、チップとが熱圧着される。この状態で剥離用テープを起点としてバックグラインドテープ10の剥離を行うと、ヒートシール部およびその近傍で、チップ21がバックグラインドテープ10に固着された状態でバックグラインドテープが剥離し、チップの収率が低下する(図4図5)。以下、この現象を「チップの転写不良」と呼ぶことがある。
【0010】
チップサイズが比較的大きな場合には、バックグラインドテープとチップ表面との剥離は良好に行われたが、チップサイズが小さくなるにつれて、チップがバックグラインドテープの粘着剤層12に埋め込まれ易くなる。この結果、バックグラインドテープからのチップの剥離がより困難になり、チップの転写不良が増大する。さらに、先ダイシング法では、バックグラインドテープの基材11として比較的硬質な基材が用いられることが多い。このため、バックグラインドテープの剥離時に、バックグラインドテープを十分に折り返すことができないことも剥離を困難にし、転写不良を増大する要因となる。
【0011】
特許文献3では、基材が硬質であるため、粘着テープを折り曲げることが困難になる。このため、剥離角度を鋭角となり、剥離力が強く、剥離に時間が掛かる。
【0012】
したがって、本発明は、特に先ダイシング法を採用した微小半導体チップの製造時に、チップ群20をバックグラインドテープ10から、ピックアップテープまたは接着テープのような他のテープに転写する際に、チップ21の転写不良を低減することを目的としている。また、バックグラインドテープからピックアップテープまたは接着テープのような他のテープへのチップの転写効率を改善することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
このような課題の解決を目的とした本発明の要旨は以下の通りである。
(1)基材と、その片面に設けられた粘着剤層とを含む粘着テープであって、
前記粘着剤層が、エネルギー線硬化性粘着剤からなり、
エネルギー線照射して硬化した後の粘着剤の200℃における貯蔵弾性率E’200が1.5MPa以上である粘着テープ。
(2)半導体ウエハ表面に溝が形成された半導体ウエハの表面にバックグラインドテープを貼付して、裏面を研削して、その研削により半導体ウエハを半導体チップに個片化し、その後個片化されたチップ群をピックアップテープまたは接着テープに転写する工程を含む半導体装置の製造方法において、前記バックグラインドテープとして使用される、(1)に記載の粘着テープ。
(3)半導体ウエハ表面に溝が形成された半導体ウエハの表面にバックグラインドテープを貼付して、裏面を研削して、その研削により半導体ウエハを半導体チップに個片化し、その後個片化されたチップ群をピックアップテープまたは接着テープに転写する工程を含む半導体装置の製造方法において、前記バックグラインドテープとして(1)に記載の粘着テープを使用する半導体装置の製造方法。
(4)上記(1)に記載の粘着テープの使用であって、半導体ウエハ表面に溝が形成された半導体ウエハの表面にバックグラインドテープを貼付して、裏面を研削して、その研削により半導体ウエハを半導体チップに個片化し、その後個片化されたチップ群をピックアップテープまたは接着テープに転写する工程を含む半導体装置の製造方法における、前記バックグラインドテープとしての使用。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る粘着テープ10によれば、エネルギー線硬化性粘着剤層の硬化後に、剥離用テープ50の熱圧着を行なっても、被着体(半導体チップ)と粘着テープとの粘着力を極めて低いレベルに抑えられ、チップの転写不良を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】先ダイシング法によりバックグラインドテープ10上にチップ群20を得た状態を示す。
図2】チップ群20を、バックグラインドテープ10からピックアップテープ30に転写する工程を示す。
図3】バックグラインドテープ10の背面に剥離用テープ50を熱圧着した状態を示す。
図4】剥離用テープ50を起点としてバックグランドテープ10を剥離している状態を示す。
図5図4の斜視図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る粘着テープについて、具体的に説明する。まず、本明細書で使用する主な用語を説明する。
本明細書において、例えば「(メタ)アクリレート」とは、「アクリレート」及び「メタクリレート」の双方を示す語として用いており、他の類似用語についても同様である。
【0017】
粘着テープとは、基材と、その片面に設けられた粘着剤層とを含む積層体を意味し、これら以外の他の構成層を含むことを妨げない。たとえば、粘着剤層側の基材表面にはプライマー層(易接着層)が形成されていてもよく、粘着剤層の表面には、使用時まで粘着剤層を保護するための剥離シートが積層されていてもよい。また、基材は単層であってもよく、緩衝層などの機能層を備えた多層であってもよい。粘着剤層も同様である。
半導体ウエハの「表面」とは回路が形成された面を指し、「裏面」は回路が形成されていない面を指す。
半導体ウエハの個片化とは、半導体ウエハを回路毎に分割し、半導体チップを得ることを言う。
【0018】
シリコンベアウエハとは、パターン形成などの加工処理を行う前の状態のシリコンウエハであり、表面は鏡面研磨されている。
先ダイシング法とは、ウエハの表面側から所定深さの溝を形成した後、ウエハ裏面側から研削を行い、研削によりウエハを個片化する方法を言う。
【0019】
バックグラインドテープとは、半導体ウエハの裏面研削時にウエハ回路面を保護するために使用される粘着テープであり、特に本明細書では先ダイシング法に好ましく使用される粘着テープを指す。
ピックアップテープとは、チップ群を転写し、チップのピックアップを行うための粘着テープであり、典型的にはダイシングテープと呼ばれる粘着テープ類が用いられる。
接着テープとは、接着剤として機能する薄層を有し、接着剤層を他の被着体に転写するために用いられる各種のテープを意味する。具体的には、フィルム状接着剤と剥離シートとの積層体、ダイシングテープとフィルム状接着剤との積層体や、ダイシングテープとダイボンディングテープの両方の機能を有する接着剤層と剥離シートとからなるダイシング・ダイボンディングテープ等が挙げられる。
【0020】
本発明に係る粘着テープは、上記バックグラインドテープとして特に好ましく用いられる。本発明に係る粘着テープ10は、基材11と、その片面に設けられた粘着剤層12とを含む。以下に、本発明の粘着テープ10の各部材の構成をさらに詳細に説明する。
[基材11]
粘着テープ10の基材11には、バックグラインドテープの基材として使用されている各種の樹脂フィルムが用いられる。
【0021】
以下に本発明で用いられる基材11の一例を詳述するが、これらは単に基材の入手を容易するための記載であって、何ら限定的に解釈されるべきではない。
【0022】
本発明の基材は、たとえば比較的硬質の樹脂フィルムであってもよい。また、基材の片面もしくは両面には、比較的軟質の樹脂フィルムからなる緩衝層が積層されていてもよい。
【0023】
好ましい基材は、ヤング率が1000MPa以上である。ヤング率が1000MPa未満の基材を使用すると、粘着テープによる半導体ウエハ又は半導体チップに対する保持性能が低下し、裏面研削時の振動等を抑制することができず、半導体チップの欠けや破損が発生しやすくなる。一方、基材のヤング率を1000MPa以上とすることで、粘着テープによる半導体ウエハ又は半導体チップに対する保持性能が高まり、裏面研削時の振動等を抑制し、半導体チップの欠けや破損を防止できる。また、粘着テープを半導体チップから剥離する際の応力を小さくすることが可能になり、テープ剥離時に生じるチップの欠けや破損を防止できる。さらに、粘着テープを半導体ウエハに貼付する際の作業性も良好にすることが可能である。このような観点から、基材のヤング率は、好ましくは1800~30000MPa、より好ましくは2500~6000MPaである。
【0024】
基材11の厚さ(D1)は特に限定されないが、500μm以下であることが好ましく、15~350μmであることがより好ましく、20~160μmであることがさらに好ましい。基材の厚さを500μm以下とすることで、粘着テープの剥離力を制御しやすくなる。また、15μm以上とすることで、基材が粘着テープの支持体としての機能を果たしやすくなる。
【0025】
基材11の材質としては、種々の樹脂フィルムを用いることができる。ここで、ヤング率が1000MPa以上の基材として、たとえばポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、全芳香族ポリエステル等のポリエステル、ポリイミド、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリアセタール、変性ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルフィド、ポリスルホン、ポリエーテルケトン、二軸延伸ポリプロピレン等の樹脂フィルムが挙げられる。
これら樹脂フィルムの中でも、ポリエステルフィルム、ポリアミドフィルム、ポリイミドフィルム、二軸延伸ポリプロピレンフィルムから選ばれる1種以上を含むフィルムが好ましく、ポリエステルフィルムを含むことがより好ましく、ポリエチレンテレフタレートフィルムを含むことがさらに好ましい。
【0026】
また、基材には、本発明の効果を損なわない範囲において、可塑剤、滑剤、赤外線吸収剤、紫外線吸収剤、フィラー、着色剤、帯電防止剤、酸化防止剤、触媒等を含有させてもよい。また、基材は、粘着剤層を硬化する際に照射されるエネルギー線に対して透過性を有する。
また、基材の少なくとも一方の表面には、緩衝層及び粘着剤層の少なくとも一方との密着性を向上させるために、コロナ処理等の接着処理を施してもよい。また、基材は、上記した樹脂フィルムと、樹脂フィルムの少なくとも一方の表面に被膜された易接着層(プライマー層)とを有しているものでもよい。
【0027】
易接着層を形成する易接着層形成用組成物としては、特に限定されないが、例えば、ポリエステル系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリエステルウレタン系樹脂、アクリル系樹脂等を含む組成物が挙げられる。易接着層形成用組成物には、必要に応じて、架橋剤、光重合開始剤、酸化防止剤、軟化剤(可塑剤)、充填剤、防錆剤、顔料、染料等を含有してもよい。
易接着層の厚さとしては、好ましくは0.01~10μm、より好ましくは0.03~5μmである。なお、易接着層の厚さは、基材の厚さに対して小さく、材質も柔らかいため、ヤング率に与える影響は小さく、基材のヤング率は、易接着層を有する場合でも、樹脂フィルムのヤング率と実質的に同一である。
【0028】
[緩衝層]
上記基材11の片面もしくは両面には、緩衝層が設けられていても良い。緩衝層は、比較的軟質の樹脂フィルムからなり、半導体ウエハの研削による振動を緩和して、半導体ウエハに割れ及び欠けが生じることを防止する。また、粘着テープを貼付した半導体ウエハは、裏面研削時に、吸着テーブル上に配置されるが、粘着テープは緩衝層を設けたことで、吸着テーブルに適切に保持されやすくなる。
【0029】
緩衝層の厚さ(D2)は、8~80μmであることが好ましく、10~60μmであることがさらに好ましい。
【0030】
緩衝層は、ポリプロピレンフィルム、エチレン-酢酸ビニル共重合体フィルム、アイオノマー樹脂フィルム、エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体フィルム、エチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体フィルム、LDPEフィルム、LLDPEフィルムが好ましい。また、エネルギー線重合性化合物を含む緩衝層形成用組成物から形成される層であってもよい。緩衝層を有する基材は、基材と緩衝層とをラミネートして得られる。
【0031】
[粘着剤層12]
粘着剤層12は、上記基材11の一方の面に直接または緩衝層を介して形成されている。本発明では、粘着剤層がエネルギー線硬化性粘着剤からなり、硬化後の粘着剤の200℃における貯蔵弾性率E’200が1.5MPa以上であることを特徴としている。
以下、粘着剤の硬化後の200℃における貯蔵弾性率を、硬化後貯蔵弾性率とよぶことがある。
【0032】
硬化後貯蔵弾性率は、粘着剤の組成によって制御できる。硬化後貯蔵弾性率を制御するための一般的な指針については後述する。
エネルギー線照射して硬化した後の粘着剤の200℃における貯蔵弾性率E’200は、好ましくは2.0~100MPa、さらに好ましくは2.5~70MPaの範囲にある。硬化後貯蔵弾性率E’200が上記範囲にあることで、粘着剤層の硬化後であってもチップ群20を安定して保持することができ、かつピックアップテープ30または接着テープへのチップ群の転写時には、粘着剤層をチップ群から容易に残渣物を残すことなく剥離できる。硬化後貯蔵弾性率を測定する際には、粘着剤をエネルギー線照射により完全に硬化する。すなわち、さらにエネルギー線照射を行っても、弾性率の変化が起らない程度にまで硬化する。
【0033】
また、一般的に硬化後の粘着剤は、常温では比較的貯蔵弾性率が高く、高温になるにつれて貯蔵弾性率が低下する傾向にある。しかし、本発明の粘着剤は、高温においても高い硬化後貯蔵弾性率を維持する。
【0034】
したがって、剥離用テープ50を熱圧着する際の条件が高温であっても、本発明の粘着テープによれば、硬化後の粘着剤層が軟化し難い。この結果、剥離用テープを高温で熱圧着しても、チップの転写不良を大幅に低減できる。
【0035】
また粘着剤のエネルギー線硬化前の23℃における貯蔵弾性率は、0.05~0.50MPaであることが好ましい。さらに、エネルギー線硬化前の23℃における損失正接(tanδ=損失弾性率/貯蔵弾性率)は、好ましくは0.2以上である。半導体ウエハの表面には、回路等が形成され通常凹凸がある。粘着テープは、粘着剤の貯蔵弾性率およびtanδが上記範囲内にあることで、凹凸があるウエハ表面に貼付される際、ウエハ表面の凹凸と粘着剤層とを十分に接触させ、かつ粘着剤層の接着性を適切に発揮させることが可能になる。そのため、粘着テープの半導体ウエハへの固定を確実に行い、かつ裏面研削時にウエハ表面を適切に保護することが可能になる。これらの観点から、粘着剤のエネルギー線硬化前の23℃における貯蔵弾性率は、0.10~0.35MPaであることがより好ましい。
【0036】
硬化後貯蔵弾性率E’200が、上記範囲にあることで、剥離用テープ50を高温で熱圧着しても、チップ等が粘着剤層に埋め込まれず、チップの転写不良を大幅に低減できる。たとえば粘着テープ10の粘着剤層12をシリコンウエハ鏡面に貼付後、粘着剤層にエネルギー線照射して硬化し、さらに圧力0.5N/cm2、210℃で5秒間熱圧着した後の23℃における、シリコンウエハ鏡面と粘着剤層との間の粘着力(以下、「熱圧着後粘着力」と呼ぶ)は、好ましくは9.0N/25mm以下であり、さらに好ましくは0.001~7N/25mm、さらに好ましくは0.1~1N/25mmの範囲にある。また粘着剤層は、エネルギー線硬化前には常温において適度な感圧接着性を有する。エネルギー線硬化前の粘着剤層のシリコンウエハ鏡面に対する23℃での粘着力は、好ましくは10~1500mN/25mm、さらに好ましくは10~700mN/25mmの範囲にある。
【0037】
熱圧着後粘着力を測定する際には、粘着剤層をエネルギー線照射により完全に硬化する。すなわち、さらにエネルギー線照射を行っても、粘着力の低下が起らない程度にまで硬化する。熱圧着は、熱プレス機などにより行う。この際、粘着テープの基材側表面には、後に説明する剥離用テープ50を同時に熱圧着する。剥離用テープ50は剥離の起点となり、また測定装置の係合にも使用される。なお、後述の熱圧着後粘着力の測定では、剥離の進行に伴い、測定される粘着力が変動することがある。本発明では、粘着テープ10の剥離が完了するまでの最大値を熱圧着後粘着力と呼ぶ。
【0038】
粘着剤層12の厚さ(D3)は、200μm未満であることが好ましく、5~55μmがより好ましく、10~50μmがさらに好ましい。粘着剤層をこのように薄くすると、粘着テープにおいて、剛性の低い部分の割合を少なくすることができるため、裏面研削時に生じる半導体チップの欠けを一層防止しやすくなる。
【0039】
粘着剤層12は、例えば、アクリル系粘着剤、ウレタン系粘着剤、ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤等を主剤とするエネルギー線硬化性粘着剤から形成されるが、アクリル系のエネルギー線硬化性粘着剤が好ましい。
【0040】
粘着剤層12は、エネルギー線硬化性粘着剤から形成されることで、エネルギー線照射による硬化前には、23℃における粘着力、弾性率を上記範囲に設定しつつ、硬化後においては粘着力を1000mN/50mm以下に容易に設定することが可能になる。なお、ここで粘着力とは、後述するヒートシール部を除く部分の粘着テープの粘着力をいう。
【0041】
また、粘着剤層12は、エネルギー線硬化後の状態における破断応力が、好ましくは10MPa以上であり、特に好ましくは15MPa以上である。また、エネルギー線硬化後の破断伸度が、好ましくは15%以上であり、特に好ましくは20%以上である。このように、破断応力の値が10MPa以上であり、破断伸度の値が15%以上である場合、エネルギー線硬化性粘着剤層の引張り物性は良好であり、たとえ紫外線等の照射が不十分であり、エネルギー線硬化性粘着剤層が十分に硬化されなかった場合においても、ウエハ上に粘着剤残渣が付着することを防止可能である。
【0042】
以下、粘着剤の具体例について詳述するが、これらは非限定的例示であり、本発明における粘着剤層はこれらに限定的に解釈されるべきではない。
エネルギー線硬化性粘着剤としては、例えば、非エネルギー線硬化性の粘着性樹脂(「粘着性樹脂I」ともいう)に加え、粘着性樹脂以外のエネルギー線硬化性化合物を含むエネルギー線硬化性粘着剤組成物(以下、「X型の粘着剤組成物」ともいう)が使用可能である。また、エネルギー線硬化性粘着剤として、非エネルギー線硬化性の粘着性樹脂の側鎖に不飽和基を導入したエネルギー線硬化性の粘着性樹脂(以下、「粘着性樹脂II」ともいう)を主成分として含み、粘着性樹脂以外のエネルギー線硬化性化合物を含まない粘着剤組成物(以下、「Y型の粘着剤組成物」ともいう)も使用してもよい。
【0043】
さらに、エネルギー線硬化性粘着剤としては、X型とY型の併用型、すなわち、エネルギー線硬化性の粘着性樹脂IIに加え、粘着性樹脂以外のエネルギー線硬化性化合物も含むエネルギー線硬化性粘着剤組成物(以下、「XY型の粘着剤組成物」ともいう)を使用してもよい。
これらの中では、XY型の粘着剤組成物を使用することが好ましい。XY型のものを使用することで、硬化前においては十分な粘着特性を有する一方で、硬化後においては、半導体ウエハに対する粘着力を十分に低くすることが可能である。
【0044】
なお、以下の説明において“粘着性樹脂”は、上記した粘着性樹脂I及び粘着性樹脂IIの一方又は両方を指す用語として使用する。具体的な粘着性樹脂としては、例えば、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、ゴム系樹脂、シリコーン系樹脂等が挙げられるが、アクリル系樹脂が好ましい。
以下、粘着性樹脂として、アクリル系樹脂が使用されるアクリル系粘着剤についてより詳述に説明する。
【0045】
アクリル系樹脂には、アクリル系重合体(b)が使用される。アクリル系重合体(b)は、少なくともアルキル(メタ)アクリレートを含むモノマーを重合して得たものであり、アルキル(メタ)アクリレート由来の構成単位を含む。アルキル(メタ)アクリレートとしては、アルキル基の炭素数が1~20のものが挙げられ、アルキル基は直鎖であってもよいし、分岐であってもよい。アルキル(メタ)アクリレートの具体例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)メタクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。アルキル(メタ)アクリレートは、単独で又は2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0046】
また、アクリル系重合体(b)は、粘着剤層の粘着力を向上させる観点から、アルキル基の炭素数が4以上であるアルキル(メタ)アクリレート由来の構成単位を含むことが好ましい。該アルキル(メタ)アクリレートの炭素数としては、好ましくは4~12、更に好ましくは4~6である。また、アルキル基の炭素数が4以上であるアルキル(メタ)アクリレートは、アルキルアクリレートであることが好ましい。
【0047】
アクリル系重合体(b)において、アルキル基の炭素数が4以上であるアルキル(メタ)アクリレートは、アクリル系重合体(b)を構成するモノマー全量(以下単に“モノマー全量”ともいう)に対して、好ましくは40~98質量%、より好ましくは45~95質量%、更に好ましくは50~90質量%である。
【0048】
アクリル系重合体(b)は、アルキル基の炭素数が4以上であるアルキル(メタ)アクレート由来の構成単位に加えて、粘着剤層の弾性率や粘着特性を調整するために、アルキル基の炭素数が1~3であるアルキル(メタ)アクリレート由来の構成単位を含む共重合体であることが好ましい。なお、該アルキル(メタ)アクリレートは、炭素数1又は2のアルキル(メタ)アクリレートであることが好ましく、メチル(メタ)アクリレートがより好ましく、メチルメタクリレートが最も好ましい。アクリル系重合体(b)において、アルキル基の炭素数が1~3であるアルキル(メタ)アクリレートは、モノマー全量に対して、好ましくは1~30質量%、より好ましくは3~26質量%、更に好ましくは6~22質量%である。
【0049】
アクリル系重合体(b)は、上記したアルキル(メタ)アクリレート由来の構成単位に加えて、官能基含有モノマー由来の構成単位を有することが好ましい。官能基含有モノマーの官能基としては、水酸基、カルボキシ基、アミノ基、エポキシ基等が挙げられる。官能基含有モノマーは、後述の架橋剤と反応し、架橋起点となったり、不飽和基含有化合物と反応して、アクリル系重合体(b)の側鎖に不飽和基を導入させたりすることが可能である。
【0050】
官能基含有モノマーとしては、水酸基含有モノマー、カルボキシ基含有モノマー、アミノ基含有モノマー、エポキシ基含有モノマー等が挙げられる。これらのモノマーは、単独で又は2種以上組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、水酸基含有モノマー、カルボキシ基含有モノマーが好ましく、水酸基含有モノマーがより好ましい。
【0051】
水酸基含有モノマーとしては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;ビニルアルコール、アリルアルコール等の不飽和アルコール等が挙げられる。
【0052】
カルボキシ基含有モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、クロトン酸等のエチレン性不飽和モノカルボン酸;フマル酸、イタコン酸、マレイン酸、シトラコン酸等のエチレン性不飽和ジカルボン酸及びその無水物、2-カルボキシエチルメタクリレート等が挙げられる。
【0053】
官能基モノマーは、アクリル系重合体(b)を構成するモノマー全量に対して、好ましくは1~35質量%、より好ましくは3~32質量%、更に好ましくは6~30質量%である。
また、アクリル系重合体(b)は、上記以外にも、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、蟻酸ビニル、酢酸ビニル、アクリロニトリル、アクリルアミド等の上記のアクリル系モノマーと共重合可能なモノマー由来の構成単位を含んでもよい。
【0054】
上記アクリル系重合体(b)は、非エネルギー線硬化性の粘着性樹脂I(アクリル系樹脂)として使用することができる。また、エネルギー線硬化性のアクリル系樹脂としては、上記アクリル系重合体(b)の官能基に、エネルギー線重合性不飽和基を有する化合物(不飽和基含有化合物ともいう)を反応させたものが挙げられる。
【0055】
不飽和基含有化合物は、アクリル系重合体(b)の官能基と結合可能な置換基、及びエネルギー線重合性不飽和基の双方を有する化合物である。エネルギー線重合性不飽和基としては、(メタ)アクリロイル基、ビニル基、アリル基等が挙げられるが、(メタ)アクリロイル基が好ましい。
また、不飽和基含有化合物が有する、官能基と結合可能な置換基としては、イソシアネート基やグリシジル基等が挙げられる。したがって、不飽和基含有化合物としては、例えば、(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネート、(メタ)アクリロイルイソシアネート、グリシジル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0056】
また、不飽和基含有化合物は、アクリル系重合体(b)の官能基の一部に反応することが好ましく、具体的には、アクリル系重合体(b)が有する官能基の50~98モル%に、不飽和基含有化合物を反応させることが好ましく、55~93モル%反応させることがより好ましい。このように、エネルギー線硬化性アクリル系樹脂において、官能基の一部が不飽和基含有化合物と反応せずに残存することで、架橋剤によって架橋されやすくなる。
なお、アクリル系樹脂の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは30万~160万、より好ましくは40万~140万、更に好ましくは50万~120万である。また、アクリル系樹脂のガラス転移温度(Tg)は、好ましくは-70~10℃である。
【0057】
(エネルギー線硬化性化合物)
X型又はXY型の粘着剤組成物に含有されるエネルギー線硬化性化合物としては、分子内に不飽和基を有し、エネルギー線照射により重合硬化可能なモノマー又はオリゴマーが好ましい。
このようなエネルギー線硬化性化合物としては、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトール(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、1,4-ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6-へキサンジオール(メタ)アクリレート等の多価(メタ)アクリレートモノマー、ウレタン(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート,ポリエーテル(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート等のオリゴマーが挙げられる。エネルギー線硬化性化合物の分子量(オリゴマーの場合は重量平均分子量)は、好ましくは100~12000、より好ましくは200~10000、更に好ましくは400~8000、特に好ましくは600~6000である。
【0058】
これらの中でも、比較的分子量が高く、粘着剤層の弾性率を低下させにくい観点から、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーが好ましい。
【0059】
好ましいウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーとしては、イソシアナートユニットとポリオールユニットとを含み、末端に(メタ)アクリロイル基を有する化合物である。ウレタン(メタ)アクリレートとしては、アルキレンポリオール、ポリエーテル化合物、ポリエステル化合物等の末端にヒドロキシル基を有するポリオールとポリイソシアナートとの反応によりウレタンオリゴマーを生成し、その末端の官能基に(メタ)アクリロイル基を有する化合物を反応させて得られる化合物などが挙げられる。このようなウレタン(メタ)アクリレートは、(メタ)アクリロイル基の作用により、エネルギー線硬化性を有する。
【0060】
上述のポリイソシアナートとしては、イソホロンジイソシアナート(IPDI)、1,3-ビス-(イソシアナトメチル)-シクロヘキサン(H6XDI)、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアナート(H12MDI)等のジシアナートが用いられる。これらのポリイソシアナートは、エネルギー線硬化性ウレタン(メタ)アクリレート中に、40~49モル%用いられることが好ましい。また、これらのジイソシアナートの中では、エネルギー線硬化性アクリル系重合体に対するエネルギー線硬化性ウレタン(メタ)アクリレートの相溶性を向上させることが可能なイソホロンジイソシアナート(IPDI)を用いることが特に好ましい。
【0061】
(メタ)アクリロイル基を形成するためのアクリレートとして、2-ヒドロキシプロピルアクリレート(2HPA)、2-ヒドロキシエチルアクリレート(2HEA)等が用いられる。これらのアクリレートは、エネルギー線硬化性ウレタン(メタ)アクリレート中に、4~40モル%用いられることが好ましい。
【0062】
エネルギー線硬化性ウレタン(メタ)アクリレートは、エネルギー線硬化性アクリル系重合体100質量部に対して、好ましくは1~200質量部、より好ましくは5~100質量部、さらに好ましくは10~50質量部の割合で使用される。また、ウレタン(メタ)アクリレートの分子量は、エネルギー線硬化性アクリル系重合体との相溶性、エネルギー線硬化性粘着剤層の加工性等の観点から、好ましくは数平均分子量として300~30,000程度の範囲である。より好ましくは20,000以下、例えば1,000~15,000のオリゴマーである。
【0063】
X型の粘着剤組成物におけるエネルギー線硬化性化合物の含有量は、粘着性樹脂100質量部に対して、好ましくは40~200質量部、より好ましくは50~150質量部、更に好ましくは60~90質量部である。
一方で、XY型の粘着剤組成物におけるエネルギー線硬化性化合物の含有量は、粘着性樹脂100質量部に対して、好ましくは1~30質量部、より好ましくは2~20質量部、更に好ましくは3~15質量部である。XY型の粘着剤組成物では、粘着性樹脂が、エネルギー線硬化性であるため、エネルギー線硬化性化合物の含有量が少なくても、エネルギー線照射後、十分に粘着力を低下させることが可能である。
【0064】
(架橋剤)
粘着剤組成物は、さらに架橋剤を含有することが好ましい。架橋剤は、例えば粘着性樹脂が有する官能基モノマー由来の官能基に反応して、粘着性樹脂同士を架橋するものである。架橋剤としては、例えば、トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等、及びそれらのアダクト体等のイソシアネート系架橋剤;1,3-ビス(N,N’-ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン等のエポキシ系架橋剤;ヘキサ〔1-(2-メチル)-アジリジニル〕トリフォスファトリアジン等のアジリジン系架橋剤;アルミニウムキレート等のキレート系架橋剤;等が挙げられる。これらの架橋剤は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0065】
これらの中でも、凝集力を高めて粘着力を向上させる観点、及び入手し易さ等の観点から、イソシアネート系架橋剤が好ましい。
架橋剤の配合量は、架橋反応を促進させる観点から、粘着性樹脂100質量部に対して、好ましくは0.01~10質量部、より好ましくは0.03~7質量部、更に好ましくは0.05~4質量部である。
【0066】
(光重合開始剤)
また、粘着剤組成物は、さらに光重合開始剤を含有することが好ましい。光重合開始剤を含有することで、紫外線等の比較的低エネルギーのエネルギー線でも、粘着剤組成物の硬化反応を十分に進行させることができる。
【0067】
光重合開始剤としては、例えば、ベンゾイン化合物、アセトフェノン化合物、アシルフォスフィノキサイド化合物、チタノセン化合物、チオキサントン化合物、パーオキサイド化合物、さらには、アミンやキノン等の光増感剤等が挙げられ、より具体的には、例えば、1-ヒドロキシシクロへキシルフェニルケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンジルフェニルサルファイド、テトラメチルチウラムモノサルファイド、アゾビスイソブチロルニトリル、ジベンジル、ジアセチル、8-クロールアンスラキノン、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキシド等が挙げられる。
【0068】
これらの光重合開始剤は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
光重合開始剤の配合量は、粘着性樹脂100質量部に対して、好ましくは0.01~10質量部、より好ましくは0.03~5質量部、更に好ましくは0.05~5質量部である。
【0069】
(その他の添加剤)
粘着剤組成物は、本発明の効果を損なわない範囲において、その他の添加剤を含有してもよい。その他の添加剤としては、例えば、帯電防止剤、酸化防止剤、軟化剤(可塑剤)、充填剤、防錆剤、顔料、染料等が挙げられる。これらの添加剤を配合する場合、添加剤の配合量は、粘着性樹脂100質量部に対して、好ましくは0.01~6質量部である。
【0070】
また、粘着剤組成物は、基材や剥離シートへの塗布性を向上させる観点から、更に有機溶媒で希釈して、粘着剤組成物の溶液の形態としてもよい。
有機溶媒としては、例えば、メチルエチルケトン、アセトン、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、シクロヘキサン、n-ヘキサン、トルエン、キシレン、n-プロパノール、イソプロパノール等が挙げられる。
なお、これらの有機溶媒は、粘着性樹脂の合成時に使用された有機溶媒をそのまま用いてもよいし、該粘着剤組成物の溶液を均一に塗布できるように、合成時に使用された有機溶媒以外の1種以上の有機溶媒を加えてもよい。
【0071】
(硬化後貯蔵弾性率の制御)
上記粘着剤層12を構成するエネルギー線硬化性粘着剤の硬化後貯蔵弾性率E’200が上記範囲にあることで、剥離用テープ50を熱圧着しても、チップ等が粘着剤層に埋め込まれず、チップの転写不良を大幅に低減できる。
【0072】
硬化後貯蔵弾性率は、粘着剤の組成によって制御できる。たとえば、エネルギー線硬化後における粘着剤の架橋度を高くすることで、硬化後貯蔵弾性率を高くできる。したがって、粘着剤に配合する架橋剤の量を多くする、あるいは官能基数の多い架橋剤を使用することで、粘着剤の架橋度は高くなり、熱圧着後貯蔵弾性率を高くできる。また、粘着性樹脂として、比較的高いTgのアクリル系樹脂を使用することで、硬化後貯蔵弾性率を高くすることもできる。
【0073】
しかし、これらの方法ではエネルギー線硬化前の弾性率が高くなり、エネルギー線硬化前に十分な感圧接着性を得られないことがある。このため、たとえば、粘着剤に含まれるエネルギー線重合性の不飽和基の密度を高くすることも有効である。具体的には、エネルギー線硬化性粘着性樹脂IIに導入されるエネルギー線重合性不飽和基量を増加する、エネルギー線硬化性化合物の配合量を多くする、エネルギー線硬化性化合物として、不飽和基数の多い化合物を使用する、あるいは光重合開始剤の配合量を多くすることで、エネルギー線硬化により高度な架橋構造が形成され、硬化後貯蔵弾性率を高めに制御できる。
【0074】
一般的に硬化後の粘着剤は、常温では比較的貯蔵弾性率が高く、高温になるにつれて貯蔵弾性率が低下する傾向にある。しかし、粘着剤中に高度な架橋構造を導入することで、粘着剤層は、高温での軟化、流動が抑制され、高い貯蔵弾性率を維持する。この結果、剥離用テープ50を熱圧着しても、チップ等が粘着剤層に埋め込まれず、転写不良を抑制できる。
【0075】
また、硬化後貯蔵弾性率が高いと、粘着テープが変形し難くなるため、硬化後の粘着テープの剥離が困難になることがある。この場合、基材11として比較的柔軟性の高い基材を用いることで、剥離が容易になることがある。基材が柔軟であると、剥離時に粘着テープ10を折り返すことができ、剥離角度が大きくなる。このため、剥離が進行している部分での、チップと粘着剤層との接触面積が小さくなるため、比較的小さな力で剥離できる。一方、基材が硬すぎると、剥離角度は小さくなり、剥離が進行している部分での、チップと粘着剤層と接触面積が大きく、粘着力(剥離力)は高くなる。同様の理由から、基材の厚みを薄くすることも剥離を容易にする上で有効である。しかし、基材が過度に柔軟であったり、薄過ぎる場合には、粘着テープの操作性が低下し、また裏面研削時の振動等を抑制できなくなり、半導体チップの欠けや破損を招くことがある。
【0076】
したがって、粘着剤層12の物性および基材11のヤング率や厚みを適切に設定することで、粘着テープ10の剥離性を制御することが好ましい。
【0077】
[剥離シート]
粘着テープの表面には、剥離シートが貼付されていてもよい。剥離シートは、具体的には、粘着テープの粘着剤層の表面に貼付される。剥離シートは、粘着剤層表面に貼付されることで輸送時、保管時に粘着剤層を保護する。剥離シートは、剥離可能に粘着テープに貼付されており、粘着テープが使用される前(すなわち、ウエハ裏面研削前)には、粘着テープから剥離されて取り除かれる。
剥離シートは、少なくとも一方の面が剥離処理をされた剥離シートが用いられ、具体的には、剥離シート用基材の表面上に剥離剤を塗布したもの等が挙げられる。
【0078】
剥離シート用基材としては、樹脂フィルムが好ましく、当該樹脂フィルムを構成する樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂等のポリエステル樹脂フィルム、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂等のポリオレフィン樹脂等が挙げられる。剥離剤としては、例えば、シリコーン系樹脂、オレフィン系樹脂、イソプレン系樹脂、ブタジエン系樹脂等のゴム系エラストマー、長鎖アルキル系樹脂、アルキド系樹脂、フッ素系樹脂等が挙げられる。
剥離シートの厚さは、特に制限ないが、好ましくは10~200μm、より好ましくは20~150μmである。
【0079】
(粘着テープ10の製造方法)
本発明の粘着テープ10の製造方法としては、特に制限はなく、公知の方法により製造することができる。
例えば、剥離シート上に設けた粘着剤層を、基材の片面に貼り合わせ、粘着剤層の表面に剥離シートが貼付された粘着テープを製造することができる。粘着剤層の表面に貼付される剥離シートは、粘着テープの使用前に適宜剥離して除去すればよい。
剥離シート上に粘着剤層を形成する方法としては、剥離シート上に粘着剤組成物を、公知の塗布方法にて、直接塗布して塗布膜から溶媒を揮発させるため加熱乾燥することで、粘着剤層を形成することができる。
【0080】
また、基材の片面に、粘着剤(粘着剤組成物)を直接塗布して、粘着剤層を形成してもよい。粘着剤の塗布方法としては、スピンコート法、スプレーコート法、バーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ダイコート法、グラビアコート法等が挙げられる。
【0081】
[半導体装置の製造方法]
本発明の粘着テープ10は、先ダイシング法において、半導体ウエハ回路面を保護しつつ、裏面研削が行う際に、ウエハ回路面に貼付されるバックグラインドテープとして特に好ましく使用される。バックグラインドテープとしての非限定的な使用例について、半導体装置の製造を例にとり、さらに具体的に説明する。
【0082】
半導体装置の製造方法は、具体的には、以下の工程1~工程4を少なくとも備える。
工程1:半導体ウエハの表面側から溝を形成する工程
工程2:上記の粘着テープ10(バックグラインドテープ)を、半導体ウエハの表面に貼付する工程
工程3:粘着テープ10が表面に貼付され、かつ上記溝が形成された半導体ウエハを、裏面側から研削して、溝の底部を除去して、複数のチップ(チップ群20)に個片化させる工程(図1参照)
工程4:チップ群20を、ピックアップテープ30または接着テープに転写し(図2図5参照)、ピックアップテープまたは接着テープから個々のチップを剥離する工程
【0083】
以下、上記半導体装置の製造方法の各工程を詳細に説明する。
(工程1)
工程1では、半導体ウエハの表面側から溝を形成する。
本工程で形成される溝は、半導体ウエハの厚さより浅い深さの溝である。溝の形成は、従来公知のウエハダイシング装置等を用いてダイシングにより行うことが可能である。また、半導体ウエハは、後述する工程3において、溝の底部を除去することで、溝に沿って複数の半導体チップに分割される。
【0084】
本製造方法で用いられる半導体ウエハはシリコンウエハであってもよいし、またガリウム・砒素などのウエハや、サファイアウエハ、ガラスウエハであってもよい。半導体ウエハの研削前の厚さは特に限定されないが、通常は500~1000μm程度である。また、半導体ウエハは、通常、その表面に回路が形成されている。ウエハ表面への回路の形成は、エッチング法、リフトオフ法などの従来汎用されている方法を含む様々な方法により行うことができる。
【0085】
(工程2)
工程2では、溝が形成された半導体ウエハ表面に、本発明の粘着テープ10を粘着剤層を介して貼付する。
【0086】
(工程3)
工程1及び工程2の後、吸着テーブル上の半導体ウエハの裏面を研削して、半導体ウエハを複数の半導体チップに個片化する。
ここで、裏面研削は、半導体ウエハに溝が形成される場合には、少なくとも溝の底部に至る位置まで半導体ウエハを薄くするように行う。この裏面研削により、溝は、ウエハを貫通する切り込みとなり、半導体ウエハは切り込みにより分割されて、個々の半導体チップに個片化される。
【0087】
個片化された半導体チップの形状は、方形でもよいし、矩形等の細長形状となっていてもよい。また、個片化された半導体チップの厚さは特に限定されないが、好ましくは5~100μm程度であるが、より好ましくは10~45μmである。また、個片化された半導体チップの大きさは、特に限定されないが、チップサイズが好ましくは200mm未満、より好ましくは150mm未満、さらに好ましくは120mm未満である。
【0088】
上記工程を経て、図1に示すように粘着テープ(バックグラインドテープ)10上に、チップ群20が得られる。また、裏面研削の終了後、チップのピックアップに先立ち、ドライポリッシュを行ってもよい。
【0089】
(工程4)
次に、個片化されたチップ群20を、バックグラインドテープからピックアップテープ30または接着テープに転写し、ピックアップテープまたは接着テープから個々のチップ21を剥離する。以下、本工程について、ピックアップテープを使用した例に基づいて説明する。
【0090】
まず、粘着テープ10の粘着剤層12にエネルギー線を照射して粘着剤層を硬化する。次いで、チップ群20の裏面側に、ピックアップテープ30を貼付し(図2)、ピックアップが可能なように位置及び方向合わせを行う。この際、チップ群20の外周側に配置したリングフレーム40もピックアープテープ30に貼り合わせ、ピックアップテープ30の外周縁部をリングフレーム40に固定する。ピックアップテープ30には、チップ群20とリングフレーム40を同時に貼り合わせてもよいし、別々のタイミングで貼り合わせてもよい。次いで、バックグラインドテープ10のみを剥離し、ピックアップテープ上にチップ群20を転写する。
【0091】
バックグラインドテープ10の剥離時には、バックグラインドテープ10の背面(基材面)に剥離の切っ掛けとなる剥離用テープ50を固定する(図3)。バックグラインドテープは、半導体ウエハと略同形状であり、剥離の切っ掛けとなる起点がないため、短冊状の剥離用テープ50を固定して剥離の起点とする。剥離用テープ50は、バックグラインドテープ10背面に熱圧着によって強く固定される。
バックグラインドテープ10の剥離は、図4図5に示すように、剥離用テープ50を起点として、バックグラインドテープ10を折り返すように剥離することが好ましい。
【0092】
その後、必要に応じピックアップテープ30をエキスパンドしてチップ間隔を離間し、ピックアップテープ30上にある個々の半導体チップ21をピックアップし、基板等の上に固定化して、半導体装置を製造する。
【0093】
なお、ピックアップテープ30は、特に限定されないが、例えば、基材と、基材の一方の面に設けられた粘着剤層を備えるダイシングテープと呼ばれる粘着テープによって構成される。ピックアップテープ30の粘着力は、剥離時におけるバックグラインドテープ30の粘着力よりも大きければ良い。またピックアップテープ30からチップ21を剥離する際には粘着力を低減できる性質を有することが好ましい。したがって、ピックアップテープとしては、エネルギー線硬化性粘着テープが好ましく用いられる。
【0094】
また、ピックアップテープの代わりに、接着テープを用いることもできる。接着テープとは、フィルム状接着剤と剥離シートとの積層体、ダイシングテープとフィルム状接着剤との積層体や、ダイシングテープとダイボンディングテープの両方の機能を有する接着剤層と剥離シートとからなるダイシング・ダイボンディングテープ等が挙げられる。また、ピックアップテープを貼付する前に、個片化された半導体ウエハの裏面側にフィルム状接着剤を貼り合わせてもよい。フィルム状接着剤を用いる場合、フィルム状接着剤はウエハと同形状としてもよい。
【0095】
接着テープを用いる場合やピックアップテープを貼付する前に個片化された半導体ウエハの裏面側にフィルム状接着剤を貼り合わせる場合には、接着テープやピックアップテープ上にある複数の半導体チップは、半導体チップと同形状に分割された接着剤層と共にピックアップされる。そして、半導体チップは接着剤層を介して基板等の上に固定化され、半導体装置が製造される。接着剤層の分割は、レーザーやエキスパンドによって行われる。
【0096】
また、剥離用テープ50としては、粘着テープ10の基材背面に強固にヒートシールできる材質であれば特に限定はされない。したがって、剥離用テープ50は、粘着テープ10の基材11の材質を考慮して適宜に選択される。本発明における基材11は、好ましくはポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル系フィルムにより構成される。したがって、剥離用テープ50は、ポリエステル系フィルムとのヒートシール性が良好なポリオレフィン系テープが好ましく用いられる。このようなポリオレフィン系テープとしては、たとえばポリエチレンテープ、ポリプロピレンテープなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0097】
剥離用テープ50は、短冊状に切断され、なんら限定されるものではないが通常は幅50mm長さ60mm程度である。また剥離用テープ50の厚みは10~150μm程度であれば良い。
【0098】
剥離用テープ50を粘着テープ10の背面(基材11)に固定する際には、熱圧着を行うことで両者を強固にヒートシールできる。熱圧着条件は、基材11の材質および剥離用テープ50の材質により様々であり、一般的には圧力0.2~1N/cm2程度、温度120~250℃程度で0.5~10秒程度熱圧着を行なえばよい。また、熱圧着時は、剥離用テープ50が基材11に十分に固定できる程度の面積でヒートシール部を設ける。たとえば、基材11の外縁部から、基材11に中央方向に向けて0.1~3mm程度の領域をヒートシール部とすることが好ましい。
【0099】
上記のように、剥離用テープ50を粘着テープ10の背面(基材11)に熱圧着すると、粘着テープ10の粘着剤層12にも熱および圧力が伝搬し、チップ21と粘着剤層12とが熱圧着される。熱圧着時の加熱により粘着剤の貯蔵弾性率が低下すると、チップ21が粘着剤層中に埋め込まれ、粘着テープ10の剥離時に、チップが粘着テープ10に同伴して剥離して、チップの転写不良を起こすことがある。しかし、本発明では、粘着剤の硬化後貯蔵弾性率E’200が上記範囲にあり、熱圧着条件下でも過度に軟化しない。このため、チップの粘着剤層への埋め込みは防止され、チップの転写不良を低減できる。
【0100】
また、上記のように硬化後の粘着剤層には高度な架橋構造が形成される。このため、硬化前の粘着剤層は、エネルギー線重合性の不飽和基の密度が高く、また比較的多量の光重合開始剤が配合される。したがって、照射されるエネルギー線量が少なくても十分に粘着剤の硬化後貯蔵弾性率を高くすることができる。一般にエネルギー線照射により、粘着テープは加熱され、これに起因して粘着テープが変形し、チップの転写不良を引き起こすことがある。しかし、本発明によれば、エネルギー線照射時の線量を低減できる。このため、照射時の熱に起因する粘着テープの変形を抑制でき、これに起因するチップの転写不良を抑制するという効果も奏される。
【0101】
以上、本発明の粘着テープについて、主に先ダイシング法により半導体ウエハを個片化する方法に使用する例について説明したが、本発明の粘着テープは、通常の裏面研削に使用することも可能であり、また、ガラス、セラミック等の加工時にも被加工物を一時的に固定するために使用することもできる。また、各種の再剥離粘着テープとしても使用できる。
【実施例
【0102】
以下、実施例に基づき本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって制限されるものではない。
本発明における測定方法、評価方法は以下のとおりである。
【0103】
[硬化後貯蔵弾性率]
実施例および比較例にて準備した粘着剤組成物を、ポリエチレンテレフタレートフィルムの片面をシリコーン系剥離剤で剥離処理した剥離シート(リンテック社製,SP-PET3801,厚さ:38μm)に塗工、乾燥し、厚さ20μmの粘着剤層を作製した。得られた粘着剤層を、厚さ3mmになるように複数層積層した。得られた粘着剤層の積層体から、直径8mmの円柱体(高さ3mm)を打ち抜き、これをサンプルとした。サンプルに紫外線を照射し、粘着剤層を完全に硬化した。なお、上記の紫外線照射条件は、波長365nm、照度150mW/cm、光量300mJ/cmである。
【0104】
硬化したサンプルについて、動的粘弾性装置(オリエンテック社製、商品名「Rheovibron DDV-II-EP1」)により、周波数11Hzで、温度200℃における貯蔵弾性率E’を10個のサンプルについて測定した。
【0105】
[熱圧着後粘着力]
ベアウエハ(直径12インチ、厚さ740μm、♯2000研磨)の研磨面に、実施例、比較例で得られた剥離シート付粘着テープを、剥離シートを剥がしつつテープラミネーター(リンテック株式会社製、商品名「RAD-3510F/12」)にセットし、貼付した。その後、粘着テープの外周部を切除し、ベアウエハと同形状とした。
【0106】
その後、紫外線照射・テープ剥離装置付きマウンター(リンテック株式会社製、商品名「RAD-2700」)にて、粘着テープの基材面側から紫外線を照射し、粘着剤層を完全に硬化した。なお、上記の紫外線照射条件は、波長365nm、照度150mW/cm、光量300mJ/cmである。次にピックアップテープとして、ダイシングテープ(リンテック社製、Adwill D-175)をベアウエハの他面に貼付した。次いで剥離用テープとして、幅50mm長さ60mmのポリプロピレンフィルム(リンテック社製、Adwill S-75C)を準備した。ヒートシール装置にて、圧力0.5N/cm2、210℃で5秒間ヒートシールを行い、粘着テープの外縁部に剥離用テープを熱圧着した。ヒートシール部は、粘着テープの外縁部から中央方向に向けて2mmの領域とした。
【0107】
剥離用テープを引張試験機(島津製作所社製、オートグラフAG-IS)により、剥離速度300mm/min、剥離角度180°で、粘着テープをベアウエハから剥離した。剥離開始からヒートシール部を完全に剥離するまでの間(約1cm)での最大剥離力を測定した。10枚の粘着テープについて最大剥離力を測定し、その平均値を熱圧着後粘着力とした。
【0108】
[剥離評価]
上記熱圧着後粘着力の測定と同様のベアウエハの研磨面に、ウエハの縦方向および横方向にそれぞれ1mm間隔で、深さ70μm、幅30μmの溝を削成し、同面に粘着テープ(バックグラインドテープ)を貼付した。その後、ウエハの裏面側を研削し、先ダイシング法により厚さ30μm、チップサイズ1mm×1mmに個片化した。
【0109】
裏面研削終了後、紫外線照射・テープ剥離装置付きマウンター(リンテック株式会社製、商品名「RAD-2700」)にて、粘着テープの基材面側から紫外線を照射し、粘着剤層を完全に硬化した。なお、上記の紫外線照射条件は、波長365nm、照度150mW/cm、光量300mJ/cmである。その後、ピックアップテープとして、ダイシングテープ(リンテック社製、Adwill D-175)をチップ群に貼付し、ダイシングテープの外周部をリングフレームで固定した。次いで剥離用テープとして、幅50mm長さ60mmのポリプロピレンフィルム(リンテック社製、Adwill S-75C)を準備した。ヒートシール装置にて、圧力0.5N/cm2、210℃で5秒間ヒートシールを行い、粘着テープの外縁部に剥離用テープを熱圧着した。ヒートシール部は、粘着テープの外縁部から中央方向に向けて2mmの領域とした。
【0110】
剥離用テープを持ち、粘着テープを折り返すようにしながら、粘着テープをチップ群から剥離した。粘着テープの粘着剤層に残着されたチップの個数を確認した。
上記の操作で、粘着テープに残着したチップの個数を合計し、以下の基準で評価した。
優良:10個未満
良好:10個以上30個未満
不良:30個以上
【0111】
なお、以下の実施例、及び比較例の質量部は全て固形分値である。
【0112】
(1)複層基材
基材としてポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを用いた。この基材に以下の緩衝層を設けた複層基材を準備した。緩衝層はいずれも厚さ27.5μmの低密度ポリエチレン(LDPE)を用いた。
複層基材1:LDPE(27.5μm)/PET(25.0μm)/LDPE(27.5μm)
複層基材2:LDPE(27.5μm)/PET(50μm)/LDPE(27.5μm)
複層基材3:LDPE(27.5μm)/PET(75.0μm)/LDPE(27.5μm)
【0113】
(2)粘着剤層
以下の粘着剤組成物A~Dを調製した。
(粘着剤組成物Aの調製)
n-ブチルアクリレート(BA)89質量部、メチルメタクリレート(MMA)8質量部、及び2-ヒドロキシエチルアクリレート(2HEA)3質量部を共重合してアクリル系重合体(Mw:80万)を得た。
【0114】
上述のアクリル系重合体100質量部に対し、架橋剤としてトリレンジイソシアネート系架橋剤(東ソー社製、製品名「コロネートL」)1質量部(固形分)、エポキシ系架橋剤(1,3-ビス(N,N-ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン)2質量部(固形分)と、紫外線硬化型樹脂(日本合成化学工業株式会社製、製品名「紫光UV-3210EA」)45質量部(固形分)と光重合開始剤(チバ・スペシャリティケミカルズ株式会社製、製品名「イルガキュア184」)1質量部(固形分)を混合し、エネルギー線硬化性粘着剤組成物Aを得た。得られた粘着組成物を用いて、硬化後貯蔵弾性率を測定した。
【0115】
(粘着剤組成物Bの調製)
n-ブチルアクリレート(BA)50質量部、メチルメタクリレート(MMA)25質量部、及び2-ヒドロキシエチルアクリレート(2HEA)25質量部を共重合して得たアクリル系重合体に、該アクリル系重合体の全水酸基のうち90モル%の水酸基に付加するように、2-メタクリロイルオキシエチルイソシアネート(MOI)を反応させて、エネルギー線硬化性のアクリル系重合体(Mw:50万)を得た。
【0116】
上述のエネルギー線硬化性アクリル系重合体100質量部に対し、エネルギー線硬化性化合物としてウレタンアクリレートオリゴマー(日本合成化学工業社製、製品名「UT-4220」)6質量部、トリレンジイソシアネート系架橋剤(東ソー社製、商品名「コロネートL」)1質量部(固形分)と、光重合開始剤(チバ・スペシャルティケミカルズ社製、イルガキュア184)1.16質量部(固形比)を混合し、エネルギー線硬化性粘着組成物Bを得た。得られた粘着組成物を用いて、硬化後貯蔵弾性率を測定した。
【0117】
(粘着剤組成物Cの調製)
n-ブチルアクリレート(BA)60質量部、メチルメタクリレート(MMA)20質量部、及び2-ヒドロキシエチルアクリレート(2HEA)20質量部を共重合して得たアクリル系重合体に、該アクリル系重合体の全水酸基のうち80モル%の水酸基に付加するように、2-メタクリロイルオキシエチルイソシアネート(MOI)を反応させて、エネルギー線硬化性のアクリル系重合体(Mw:45万)を得た。
【0118】
上述のエネルギー線硬化性アクリル系重合体100質量部に対し、トリレンジイソシアネート系架橋剤(東ソー社製、商品名「コロネートL」)0.7質量部(固形分)と、光重合開始剤(チバ・スペシャルティケミカルズ社製、イルガキュア184)1.16質量部(固形比)を混合し、エネルギー線硬化性粘着剤組成物Cを得た。得られた粘着組成物を用いて、硬化後貯蔵弾性率を測定した。
【0119】
(粘着剤組成物Dの調製)
n-ブチルアクリレート(BA)89質量部、メチルメタクリレート(MMA)8質量部、及び2-ヒドロキシエチルアクリレート(2HEA)3質量部を共重合してアクリル系重合体(Mw:80万)を得た。
【0120】
上述のアクリル系重合体100質量部に対し、架橋剤としてトリレンジイソシアネート系架橋剤(東ソー社製、製品名「コロネートL」)1質量部(固形分)、紫外線硬化型樹脂(日本合成化学工業株式会社製、製品名「紫光UV-3210EA」)22質量部(固形分)と光重合開始剤(チバ・スペシャリティケミカルズ株式会社製、製品名「イルガキュア184」)1.16質量部(固形分)を混合し、エネルギー線硬化性粘着剤組成物Dを得た。得られた粘着組成物を用いて、硬化後貯蔵弾性率を測定した。
【0121】
[実施例1]
剥離シート(リンテック社製、商品名「SP-PET381031」)の剥離処理面に、上記で得たエネルギー線硬化性粘着組成物Aの塗工液を塗工し、100℃で1分間加熱乾燥させて、剥離シート上に厚さが50μmの粘着剤層を形成した。
【0122】
複層基材1の片面に、粘着剤層を貼り合わせ、粘着テープを作製した。得られた粘着テープの熱圧着後粘着力を測定し、また剥離評価を行った。
【0123】
[実施例2]
複層基材2および粘着剤組成物Bを用い、粘着剤層の厚さを20μmとした以外は、実施例1と同様にして、粘着テープを作製した。得られた粘着テープの熱圧着後粘着力を測定し、また剥離評価を行った。
【0124】
[実施例3]
複層基材3および粘着剤組成物Cを用い、粘着剤層の厚さを40μmとした以外は、実施例1と同様にして、粘着テープを作製した。得られた粘着テープの熱圧着後粘着力を測定し、また剥離評価を行った。
【0125】
[比較例1]
複層基材2および粘着剤組成物Dを用い、粘着剤層の厚さを20μmとした以外は、実施例1と同様にして、粘着テープを作製した。得られた粘着テープの熱圧着後粘着力を測定し、また剥離評価を行った。
【表1】
【0126】
以上の結果から、硬化後貯蔵弾性率E’200が1.5MPa以上であれば、剥離用テープの熱圧着を行っても、ヒートシール部におけるチップ転写不良がなく、ピックアップテープまたは接着テープにチップを良好に転写できることが分かる。また、実施例、比較例に詳細に記載した粘着テープの他、各種の粘着テープを用いた試験によりE’200が1.5MPa以上であれば、良好な結果が得られることを確認した。
【符号の説明】
【0127】
10…粘着テープ(バックグラインドテープ)
11…基材
12…粘着剤層
20…チップ群
21…チップ
30…ピックアップテープ
40…リングフレーム
50…剥離用テープ
図1
図2
図3
図4
図5