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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-15
(54)【発明の名称】新規な強誘電体材料
(51)【国際特許分類】
   H01B 3/44 20060101AFI20231108BHJP
   H10N 30/857 20230101ALI20231108BHJP
   H10N 30/045 20230101ALI20231108BHJP
   H10N 30/078 20230101ALI20231108BHJP
   C08F 220/22 20060101ALI20231108BHJP
【FI】
H01B3/44
H10N30/857
H10N30/045
H10N30/078
C08F220/22
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020519614
(86)(22)【出願日】2019-05-13
(86)【国際出願番号】 JP2019018865
(87)【国際公開番号】W WO2019221041
(87)【国際公開日】2019-11-21
【審査請求日】2022-05-02
(31)【優先権主張番号】P 2018092962
(32)【優先日】2018-05-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】399030060
【氏名又は名称】学校法人 関西大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000205638
【氏名又は名称】大阪有機化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104639
【弁理士】
【氏名又は名称】早坂 巧
(72)【発明者】
【氏名】真井 大輔
(72)【発明者】
【氏名】水森 智也
(72)【発明者】
【氏名】加畑 雅之
(72)【発明者】
【氏名】大久保 恵理奈
(72)【発明者】
【氏名】田實 佳郎
【審査官】中村 英司
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-093959(JP,A)
【文献】特開2010-132769(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2002/0052457(US,A1)
【文献】特開2007-096129(JP,A)
【文献】特開平08-104713(JP,A)
【文献】特開2013-237730(JP,A)
【文献】特開2013-186450(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 3/44
C08F 220/22
H10N 30/857
H10N 30/078
H10N 30/045
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
残留分極を有する(メタ)アクリル系ポリマーを含んでなる有機強誘電体材料であって,
該ポリマーを構成するモノマーとして,主モノマー単位である1種又は2種以上の(メタ)アクリレートと該主モノマー単位以外の1種又は2種以上の(メタ)アクリル系モノマー単位を含んでなり,
該主モノマー単位は,オキシカルボニル基の末端側に結合した飽和又は不飽和炭化水素骨格を側鎖に含んだ(メタ)アクリレートモノマー単位であって,該炭化水素骨格において,該オキシカルボニル基に対するβ炭素原子上に少なくとも1個の水素原子を有し,該β炭素原子上及び/又はこれより末端側の炭素原子の1個又は2個以上に,ハロゲン原子,シアノ基,オキソ基及びニトロ基からなる群より選ばれる1個又は2個以上の電子吸引基が結合して水素原子を置換しており,該ハロゲン原子がフッ素原子及び塩素原子から選ばれるものであり,
該ポリマーを構成するモノマー単位のうち,全(メタ)アクリル系モノマー単位に対する該主モノマー単位の割合が80モル%未満であり、
該主モノマー単位に対応する(メタ)アクリレートモノマーが,3,3,3-トリフルオロプロピル(メタ)アクリレート,又は3,3,3-トリクロロプロピル(メタ)アクリレートである,有機強誘電体材料。
【請求項2】
残留分極が少なくとも100mC/m である,請求項1の有機強誘電体材料。
【請求項3】
残留分極を有する(メタ)アクリル系ポリマーを含んでなる有機強誘電体材料であって,
該ポリマーを構成するモノマーとして,主モノマー単位である1種又は2種以上の(メタ)アクリレートと該主モノマー単位以外の1種又は2種以上の(メタ)アクリル系モノマー単位を含んでなり,
該主モノマー単位は,オキシカルボニル基の末端側に結合した飽和又は不飽和炭化水素骨格を側鎖に含んだ(メタ)アクリレートモノマー単位であって,該炭化水素骨格において,該オキシカルボニル基に対するβ炭素原子上に少なくとも1個の水素原子を有し,該β炭素原子上及び/又はこれより末端側の炭素原子の1個又は2個以上に,ハロゲン原子,シアノ基,オキソ基及びニトロ基からなる群より選ばれる1個又は2個以上の電子吸引基が結合して水素原子を置換しており,該ハロゲン原子がフッ素原子及び塩素原子から選ばれるものであり,
該ポリマーを構成するモノマー単位のうち,全(メタ)アクリル系モノマー単位に対する該主モノマー単位の割合が80モル%未満であり、
残留分極が少なくとも100mC/m である,有機強誘電体材料。
【請求項4】
膜状である,請求項1又は2の有機強誘電体材料。
【請求項5】
膜状である,請求項3の有機強誘電体材料。
【請求項6】
該主モノマー単位が含む該炭化水素骨格の炭素原子の個数が2~20個である,請求項3又は5の有機強誘電体材料。
【請求項7】
該主モノマー単位に対応する(メタ)アクリレートモノマーの分子量が500以下である,請求項3,5又は6の何れかの有機強誘電体材料。
【請求項8】
該主モノマー単位が含む該炭化水素骨格が飽和炭化水素骨格である,請求項3、5~7の何れかの有機強誘電体材料。
【請求項9】
該(メタ)アクリル系ポリマーの重量平均分子量が1万~200万である,請求項1~8の何れかの有機強誘電体材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,新規な強誘電体材料に関し,より具体的には有機強誘電体材料,特に(メタ)アクリル系ポリマーに基づく有機強誘電体材料用ポリマー及びこれを用いた有機強誘電体材料に関する。
【背景技術】
【0002】
強誘電体材料は,一般に,圧電性を有するものであり,残留分極が大きいほど圧電性が高くなるとされている。従来,有機圧電材料としては,ポリフッ化ビニリデン(PVDF)に基づくものが代表的である(例えば,特許文献1~4)。ポリフッ化ビニリデン製圧電材料は,フィルム状の形態でタッチセンサー,歪みゲージ,超音波センサー,トランスデューサ―,加速度センサー,振動センサー,マイクロフォン,スピーカー等,様々な用途で利用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2008-171935号公報
【文献】特開2010-045059号公報
【文献】特開平08-36917号公報
【文献】特開平02-284485号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ポリフッ化ビニリデンに代表される従来の有機圧電材料用ポリマーは,合成後,フィルムの形態にして延伸工程に供されることで結晶部分を含む絡んだポリマー鎖に一定の方向性が付与され,表裏間に電圧印加により分子中の双極子が配向されることで,圧電性を獲得する。このため,従来の有機圧電材料の製造にはポリマーの延伸工程が不可欠であり,延伸設備の設置及び延伸工程が有機圧電材料の製造コストを高めている。しかも,延伸ではフィルムに大きな厚みむらが生じ,フィルムが薄い程制御がし難くなるため,特に数百nmのオーダーの厚みの極薄フィルムを延伸により製造することは極めて困難である。また,ポリフッ化ビニリデンは耐溶媒性であるため,溶液の形で基板上に薄くコーティングして薄膜を形成するという,他の分野では広く利用されている溶液プロセスも利用できない。このため,薄いポリマーフィルムの形態の有機圧電材料を製造するには,特に障碍がある。更には,ポリフッ化ビニリデンは透明性に劣るため,高い透明性を要求される用途には使用できない。加えて,従来の有機圧電材料は,無機圧電材料に比べて圧電性が低い。
【0005】
本発明の一目的は,新規な有機強誘電体材料用ポリマーを提供することにある。本発明の更なる一目的は,必ずしも延伸を経ることなく強誘電性を付与することのできる有機強誘電体材料用ポリマーを提供することである。本発明の更なる一目的は,溶液の形で塗布して薄膜を形成できる有機強誘電体材料用ポリマーを提供することである。本発明の尚も更なる一目的は,透明性に優れた有機強誘電体材料を提供することである。本発明の更に追加の一目的は,従来の有機強誘電体材料に比べて強誘電性に優れた有機強誘電体材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
1.(メタ)アクリル系ポリマーであって,
該ポリマーを構成するモノマーとして,主モノマー単位である1種又は2種以上の(メタ)アクリレートと該主モノマー単位以外の1種又は2種以上の(メタ)アクリル系モノマー単位を含んでなり,
該主モノマー単位は,オキシカルボニル基の末端側に結合した飽和又は不飽和炭化水素骨格を側鎖に含んだ(メタ)アクリレートモノマー単位であって,該炭化水素骨格において,該オキシカルボニル基に対するβ炭素原子上に少なくとも1個の水素原子を有し,該β炭素原子上及び/又はこれより末端側の炭素原子の1個又は2個以上に,ハロゲン原子,シアノ基,オキソ基及びニトロ基からなる群より選ばれる1個又は2個以上の電子吸引基が結合して水素原子を置換しており,該ハロゲン原子がフッ素原子及び塩素原子から選ばれるものであり,
該ポリマーを構成するモノマー単位のうち,全(メタ)アクリル系モノマー単位に対する該主モノマー単位の割合が80モル%未満である,有機強誘電体材料用ポリマー。
【0007】
2.該炭化水素骨格の炭素原子の個数が2~20個である,上記1の有機強誘電体材料用ポリマー。
【0008】
3.該主モノマー単位に対応する(メタ)アクリレートモノマーの分子量が500以下である,上記1又は2の有機強誘電体材料用ポリマー。
【0009】
4.該炭化水素骨格が飽和炭化水素骨格である,上記1~3の何れかの有機強誘電体材料用ポリマー。
【0010】
5.該主モノマー単位に対応する(メタ)アクリレートモノマーが,3,3,3-トリフルオロプロピル(メタ)アクリレート,又は3,3,3-トリクロロプロピル(メタ)アクリレートである,上記1~4の何れかの有機強誘電体材料用ポリマー。
【0011】
6.平均分子量が1万~200万である,上記1~5の何れかの有機強誘電体材料用ポリマー。
【0012】
7.膜状の形態である,上記1~6の何れかの有機強誘電体材料用ポリマー。
【0013】
8.残留分極を有する上記7の有機強誘電体材料用ポリマーを含んでなる,有機強誘電体材料。
【0014】
9.残留分極が少なくとも100mC/mである,上記8の有機強誘電体材料。
【発明の効果】
【0015】
本発明の有機強誘電体材料用ポリマーによれば,延伸工程を必ずしも行わなくとも,強誘電性を付与できるため,当該工程の省略による生産効率の向上を図ることができる。また,ポリフッ化ビニリデンと異なり,溶媒で溶液として基板等の対象物に塗布でき,必要に応じスピンコーティングの利用が可能であるため,精密に制御された厚みで薄膜形成が可能となる。このため,高い精度が求められる各種センサー等のデバイスの構成において有利に使用することができる。また,本発明の有機強誘電体材料用ポリマー及びこれに基づく有機強誘電体材料は,透明性に優れるため,ポリフッ化ビニリデンでは適さないような高い透明性を要する用途にも好適に使用できる。また,ポリフッ化ビニリデンと同等以上の大きな残留分極を有することから,従来の有機強誘電体材料に比べ,高い圧電性を示す可能性が高い。そのため,より広範囲な用途への展開が可能になると考えられる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明において,「有機強誘電体材料用ポリマー」の語は,電圧印加という物理的処理により強誘電性を獲得する能力を有する有機ポリマーを意味する。
【0017】
本発明において,(メタ)アクリル系ポリマーの語は,(メタ)アクリレート,(メタ)アクリルアミドその他の(メタ)アクリル酸誘導体及び(メタ)アクリル酸からなる群より選ばれるモノマーから主として構成されているポリマーを意味し,より具体的には,当該ポリマーを構成する全モノマー単位のうち(メタ)アクリル系モノマー単位が,合計で,好ましくは80モル%以上,より好ましくは90モル%以上,更に好ましくは95%モル以上,特に好ましくは98モル%以上,例えば100モル%を占めることをいう。なお,「(メタ)アクリレート」の語はアクリレート及びメタクリレートの両方を区別なく包含する。「(メタ)アクリル系」の語についても同様である。
【0018】
本発明のポリマーが強誘電性を有するための必須の構成要素である特定の(メタ)アクリレートモノマー単位(本明細書において「主モノマー単位」ともいう。)は,オキシカルボニル基の末端側に結合した飽和又は不飽和炭化水素骨格を側鎖に含み,該炭化水素骨格においてβ炭素原子上に少なくとも1個の水素原子を有し,該β炭素原子上及び/又はこれより末端側の炭素原子の1個又は2個以上に,ハロゲン原子,シアノ基,オキソ基及びニトロ基からなる群より選ばれる1個又は2個以上の電子吸引基が結合して水素原子を置換しており,該ハロゲン原子がフッ素原子及び塩素原子から選ばれるものである。ここに,ハロゲン原子のうちではフッ素原子がより好ましい。
【0019】
本発明において,「β炭素原子」の語は,側鎖中に存在するオキシカルボニル基「-C(O)O-」の酸素原子に結合している炭化水素骨格部分における,当該酸素原子側から数えて2番目に位置する炭素原子を意味する。
【0020】
本発明において,主モノマー単位における,側鎖のオキシカルボニル基「-C(O)O-」の酸素原子側に結合している飽和又は不飽和の炭化水素骨格部分は,鎖状,分枝鎖状,環状又はそれらの構造の組合せであることができ,環状の構造部分は,飽和又は芳香族環であることができる。該炭化水素骨格を構成する炭素原子の個数は,好ましくは2~20個,より好ましくは2~15個,更に好ましくは2~10個,尚も好ましくは2~7個,特に好ましくは3~5個である。炭化水素骨格部分は,例えば,エチル,プロピル,イソプロピル,ブチル,イソブチル,1-メチルプロピル,ペンチル,ヘキシル,1-メチルペンチル,1-メチルヘキシル,4-メチルシクロヘキシル,トリル等であることができるが,これらに限定されない。
【0021】
上記β炭素原子は,少なくとも1個の水素原子を有する限り,残りの水素原子の個数に応じてその全部又は一部が上記電子吸引基で置換されていることができる。また,β炭素原子より側鎖の末端側に位置する個々の炭素原子については,電子吸引基は,当該炭素原子に結合して水素原子の一部又は全部を置換していることができる。
【0022】
本発明において,主モノマー単位に対応するモノマーの分子量には特に上限はないが,好ましくは500以下,より好ましくは300以下,更に好ましくは250以下である。
【0023】
本発明の有機強誘電体材料用ポリマーは,主モノマー単位を1種又は2種以上含んでなるものであることができる。
【0024】
本発明の有機強誘電体材料用ポリマーにおいて,これを構成するモノマー単位のうち,全(メタ)アクリル系モノマー単位に対する主モノマー単位の割合は80モル%未満であり,75モル%未満あるいは72モル%未満等としてもよい。また,主モノマー単位のモル%割合に厳密な下限はないが,好ましくは30モル%以上,より好ましくは40モル%以上,更に好ましくは45モル%以上,特に好ましくは50モル%以上である。
【0025】
本発明のポリマーの製造において,主モノマー以外の(メタ)アクリル系モノマーは,ポリマーの特性(機械的,電気的,化学的)を調整する目的で利用することができる。そのような調整用の追加の(メタ)アクリル系モノマーの例としては,メチル(メタ)アクリレート,エチル(メタ)アクリレート,ハロゲンがフッ素又は塩素であってよいメチル2-ハロ(メタ)アクリレート,エチル2-ハロ(メタ)アクリレート,プロピル(メタ)アクリレート,イソプロピル(メタ)アクリレート,n-ブチル(メタ)アクリレート,イソブチル(メタ)アクリレート,t-ブチル(メタ)アクリレート等のC1~C4アルキル(メタ)アクリレート,ネオペンチル(メタ)アクリレート,エチルカルビトール(メタ)アクリレート,ヒドロキシC1~C4アルキル(メタ)アクリレート,メトキシC1~C4アルキル(メタ)アクリレート,ベンジル(メタ)アクリレート,(メタ)アクリル酸,N-メチル(メタ)アクリルアミド,N-エチル(メタ)アクリルアミド,N-プロピル(メタ)アクリルアミド,N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド,N-ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド,N-t-ブチル(メタ)アクリルアミド,N-オクチル(メタ)アクリルアミド,N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド,N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド,(メタ)アクリロイルモルホリン,ジアセトン(メタ)アクリルアミド等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0026】
また,本発明のポリマーが(メタ)アクリル系以外の1種又は2種以上のモノマー単位を含む場合,それらも本発明のポリマーの特性(機械的,電気的,化学的)を調整するのに用いることができる。そのような非(メタ)アクリル系モノマー単位の例としては,酢酸ビニル又はそのエステル,(メタ)アクリロニトリル,フェニルアクリロニトリル,スチレン,α-メチルスチレン,p-ヒドロキシスチレン,イタコン酸メチル,イタコン酸エチル,プロピオン酸ビニル,N-ビニルピロリドン,N-ビニルカプロラクタム,N-フェニルマレイミド等のエチレン性二重結合を有するモノマーが挙げられるが,それらに限定されない。
【0027】
本発明の有機強誘電体材料用ポリマーの平均分子量は,好ましくは1万~100万の範囲,より好ましくは1万~80万の範囲,更に好ましくは1万~50万の範囲にある。例えば,10万~40万の範囲,20万~30万の範囲等,適宜設定してよい。なお,本発明のポリマーについて「平均分子量」の語は,重量平均分子量を指し,ゲル浸透クロマトグラフィー(Gel Permeation Chromatography(GPC))により測定することができる。GPCに用いる装置の一例としては,東ソー株式会社製のHLC-8220が挙げられる。
【0028】
本発明の有機強誘電体材料用ポリマーを構成する主モノマーの例としては次のものが挙げられるが,それらに限定されない:3,3,3-トリフルオロプロピル(メタ)アクリレート,3,3,3-トリクロロプロピル(メタ)アクリレート,4,4,4-トリフルオロブチル(メタ)アクリレート,4,4,4-トリクロロブチル(メタ)アクリレート,2,2-ジフルオロエチル(メタ)アクリレート,2,2-ジクロロエチル(メタ)アクリレート,2-シアノエチル(メタ)アクリレート,4-(トリフルオロメチル)シクロヘキシル(メタ)アクリレート,4-(トリクロロメチル)シクロヘキシル(メタ)アクリレート。
【0029】
本発明の有機強誘電体材料用ポリマーは,上記の各モノマー成分を用いて,周知のポリ(メタ)アクリレート系ポリマーの製造方法により製造することができる。モノマー成分の重合には,常法により,慣用の重合開始剤を用いることが好ましい。そのような重合開始剤としては,例えば,2,2’-アゾビスイソブチロニトリル,アゾイソ酪酸メチル,アゾビスジメチルバレロニトリル,過酸化ベンゾイル,過硫酸カリウム,過硫酸アンモニウム,ベンゾフェノン誘導体,ホスフィンオキサイド誘導体,ベンゾケトン誘導体,フェニルチオエーテル誘導体,アジド誘導体,ジアゾ誘導体,ジスルフィド誘導体などが挙げられ,所望により2種以上を併用してよい。
【0030】
また,上記の有機強誘電体材料用ポリマーは,モノマーの何れかが当該ポリマーの形成過程での重合反応に直接関与しない官能基を有している場合,当該官能基と反応して共有結合を形成できる適宜の架橋剤で架橋した形態としてもよい。そのような官能基の例としては,ヒドロキシル基,アミノ基,イソシアネート基等が挙げられる。
【0031】
ヒドロキシル基を有するそのようなモノマーの具体例として,2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート,2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート,2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート,2-ヒドロキシ-1-メチルエチル(メタ)アクリレート,4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート,4-ヒドロキシフェニル(メタ)アクリレート,4-ヒドロキシシクロヘキシルアクリレート,1,4-シクロヘキサンジメタノール(メタ)アクリレート,2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート,ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート,ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレートが挙げられるが,これらに限定されない。
【0032】
また,イソシアネート基を有するモノマーの具体例として,2-イソシアナトエチル(メタ)アクリレート,3-イソシアナトプロピル(メタ)アクリレート,2-イソシアナト-1-メチルエチル(メタ)アクリレート,2-(エトキシカルボキシアミノ)エチル(メタ)アクリレート,2-(ブトキシカルボキシアミノ)エチル(メタ)アクリレート,2-(イソプロポキシカルボキシアミノ)エチル(メタ)アクリレート,2-([1-メトキシ-2-プロポキシ]カルボキシアミノ)エチル(メタ)アクリレート,2-([1-メチルプロピリデンアミノ]カルボキシアミノ)エチル(メタ)アクリレートが挙げられるが,これらに限定されない。
【0033】
ヒドロキシル基を有するモノマー単位を含んだポリマーにおける架橋剤としては,例えば2官能以上のイソシアネートを用いることができる。そのような架橋剤の具体例としては,1,6-ヘキサンジイソシアネート,2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネ-ト,2-メチルペンタン-1,5-ジイルビスイソシアナート,2,4-トリレンジイソシアネ-ト,2,6-トリレンジイソシアネ-ト,1,3-フェニレンジイソシアネート,1,4-フェニレンジイソシアネート,1,3-キシリレンジイソシアネ-ト,1,4-キシリレンジイソシアネ-ト,1,5-ナフタレンジイソシアネ-ト,3,3’-ジメチル-4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネ-ト,4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネ-ト,3,3’-ジメチルフェニレンジイソシアネ-ト,4,4’-ビフェニレンジイソシアネ-ト,イソホロンジイソシアネート,メチレンビス(4-シクロヘキシルイソシアネ-ト),ビス(2-イソシアネートエチル)フマレート,6-イソプロピル-1,3-フェニルジイソシアネ-ト,4,4’-ジフェニルプロパンジイソシアネ-ト,リジンジイソシアネ-ト,1,3-ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン,テトラメチルキシリレンジイソシアネ-ト,[(ビシクロ[2.2.1]ヘプタン-2,5-ジイル)ビスメチレン]ビスイソシアナート,1,3,5-トリス(6-イソシアナ-トヘキシル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6-(1H,3H,5H)-トリオン,メチルトリイソシアナトシラン,テトライソシアナトシランが挙げられるが,これらに限定されない。
【0034】
また,イソシアネート基を有するモノマー単位を含んだポリマーにおける架橋剤としては,例えば2個以上のヒドロキシル基又は2個以上のアミノ基を有する化合物を用いることができる。そのような架橋剤の具体例としては,それぞれ,エチレングリコール,プロピレングリコール,1,3-プロパンジオール,1,3-ブタンジオール,1,4-ブタンジオール,1,5-ペンタンジオール,1,6-ヘキサンジオール,1,8-オクタンジオール,1,9-ノナンジオール,ジエチレングリコール,ジプロピレングリコール,ネオペンチルグリコール,グリセリン,ペンタエリスリトール,1,1,1-トリメチロールプロパン,1,2,5-ヘキサントリオール,1,4-シクロヘキサンジオール,ヒドロキノン,4,4’-ジヒドロキシフェニルメタン,2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン,ポリプロピレングリコール,ポリオキシエチレングリコール,ポリオキシプロピレントリオール,ポリオキシプロピレングリコール;及びトリメチレンジアミン,ヘキサメチレンジアミン,1,10-アミノデカン,エチレングリコールビス(2-アミノエチル)エーテル,1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン,1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン,4,4’-ジアミノベンゾフェノン,3,4’-ジアミノジフェニルエーテル,4,4’-ジアミノジフェニルエーテル,3,3’-ジアミノジフェニルメタン,4,4’-ジアミノジフェニルメタン,2,7-ジアミノフルオレンが挙げられるが,これらに限定されない。
【0035】
上記の有機強誘電体材料用ポリマーの架橋形成は,用いる架橋剤と,当該架橋剤との結合に与るモノマーの官能基との組合せに応じた慣用の方法で行うことができる。例えば膜状形態の架橋ポリマーの製造のためには,架橋形成は,好ましくは,架橋剤を含有させた架橋前のポリマーの膜を形成した状態で,加熱及び/又は紫外線等のエネルギー線照射により行われる。膜の形成方法や形成条件,およびエネルギー線照射の方法や照射条件は,公知の方法および条件を適宜用いることができる。
【0036】
本発明の有機強誘電体材料用ポリマーは,例えば,膜にして表裏に電圧を印加することによって,大きな残留分極を獲得し有機強誘電体材料となる。ポリフッ化ビニリデンと異なり,必ずしも延伸を要さず,膜の作製は周知の方法を適宜選んで行えばよい。またポリフッ化ビニリデンのような耐溶媒性がないため,本発明の有機強誘電体材料用ポリマーは,適宜の溶媒で溶液とすることができるから,これを基板上に塗布し,乾燥させ又は更にベーキングすることで膜を作製することができる。また溶液の形で基板に塗布してスピンコートすることで,薄膜の作製も極めて容易に行うことができる。薄膜の厚みに特に限定はないが,例えば10~100μmとすることが容易にでき,汎用性に富み便利である。膜の形態の本発明の有機強誘電体材料用ポリマーへの電圧印加は,ポリフッ化ビニリデン等を材料とする膜について行われている周知の方法で行うことができる。本発明の有機強誘電体材料の残留分極は,少なくとも100mC/mである。
【0037】
本発明の有機強誘電体材料用ポリマーの形状は特に限定されない。即ち,電圧印加により残留分極を獲得させること(ポーリング処理)が可能な形状であればよく,例えば,上述した膜の形状が典型的なものであるが,これに限定されない。
【実施例
【0038】
以下,参考例及び実施例等を参照して本発明を更に詳細に説明するが,本発明が実施例に限定されることは意図しない。
【0039】
〔参考例1〕3,3,3-トリフルオロプロピルメタクリレート(3FPMA)の合成
以下の手順により3FPMAを合成した。
【0040】
【化1】
【0041】
還流冷却器,水分離器,空気導入管,温度計及び攪拌器を付けた容量1Lのガラス製五つ口フラスコ中で,3,3,3-トリフルオロプロパノール25.0g,メタクリル酸18.9g,及びN,N-ジメチル-4-アミノピリジン5.36gをジクロロメタン200gに溶解し,氷浴上で撹拌しながら1-(3-ジメチルアミノプロピル)-3-エチルカルボジイミド塩酸塩44.1gを添加し,10時間撹拌を続けた。その後洗浄し,濃縮した後,減圧蒸留を行うことにより精製して,3,3,3-トリフルオロプロピルメタクリレート(3FPMA)21.9gを無色透明液体として得た。この無色透明液体のGC純度は99%(株式会社島津製作所製,GC-2014を使用),収率は55%であった。
また,H-NMR(日本電子株式会社製,JNM-AL300)のピークは下記の通りであった。
H-NMR(CDCl3,ppm):1.94-1.95(3H,m),2.44-2.59(2H,m),4.38(2H,t),5.58-5.62(1H,m),6.13-6.14(1H,m)
【0042】
〔参考例2〕ポリマー(P1)の製造及びその強誘電性の評価
(1)ポリマー(P1)(p-3FPMA)の合成
上で合成した3FPMAを以下の手順で重合させてポリマー(P1)(p-3FPMA)を製造した。
【0043】
【化2】
【0044】
50mLコルベンに,上で合成した3FPMA5.0g及び酢酸ブチル12.0gを加えた。得られた溶液に窒素を30分間フロー後,内温78℃まで昇温し,重合開始剤として2,2’-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.15gを添加した。80℃±5℃で6時間熟成後,35℃以下まで冷却した。得られた重合溶液を減圧下,50℃での乾燥により,ポリマー(P1)を得た。GPC(東ソー株式会社製,HLC-8220を使用)により重量平均分子量(Mw)を測定したところ,16,000であった。
【0045】
(2)薄膜形成
ポリマー(P1)を酢酸ブチルに溶解させて溶液とした(固形分濃度=55%)。この溶液を,電極を備えた評価用基板(株式会社イーエッチシー製)に供給し,スピンコーター(ミカサ株式会社製,スピンコーター1H-360S)により1秒間で1000rpmまで加速後,この回転速度で10秒間保持し,1秒間かけて停止させることで,成膜した。得られた評価用基板を30秒間静置した後,ホットプレート上で100℃にて20分間乾燥させ,室温まで冷却して,ポリマー(P1)薄膜を備えた評価基板を得た。触針式プロファイリングシステム(Bruker社製,Dektak150)を用いて,薄膜の厚みを測定したところ,15.1μmであった。
【0046】
(3)電極形成
評価基板上のポリマー(P1)薄膜に,真空蒸着にて,金またはアルミを蒸着した。
【0047】
(4)電圧の印加及び評価
得られたサンプルに,高電圧装置(松定プレシジョン株式会社製,HEOPS-1B30)を用いて,周波数1mHzから1Hzの交流電圧を印加し,ポーリング処理を行った。また,サンプルの応答電荷をチャージアンプを介して,ヒステリシス測定を行い,測定結果をもとに,残留分極および比誘電率の決定を行った。
残留分極の評価基準は次の通りである。
◎:残留分極値がPVDF(100mC/m)の2倍以上
○:残留分極値がPVDF(100mC/m)以上~2倍未満
△:残留分極値がPVDF(100mC/m)未満
×:残留分極なし
結果は表1に示す。なお,PVDFの詳細については後述する。
【0048】
〔参考例3〕ポリマー(P2)の製造及びその強誘電性の評価
(1)ポリマー(P2)(p-3FEMA)の合成
2,2,2-トリフルオロエチルメタクリレート(3FEMA)(東京化成工業株式会社製)をモノマーとして用いて,ポリマー(P2)(p-3FEMA)を合成した。
【0049】
【化3】
【0050】
即ち,3FPMAの代わりに3FEMAを用いた点以外は参考例2と同様にして,ポリマー(P2)(p-3FEMA)を得た。重量平均分子量(Mw)は15,000であった。
【0051】
(2)薄膜形成
ポリマー(P1)の代わりにポリマー(P2)を用いた点以外は,参考例2と同様の手順で,評価用基板上に薄膜を形成した。薄膜の厚みは14.8μmであった。
【0052】
(3)電極作製,電圧の印加,及び評価
ポリマー(P2)上への電極の作製及び当該ポリマーへの電圧の印加,及び強誘電性の評価は,参考例2と同様にして行った。結果は表1に示す。
【0053】
〔参考例4〕ポリマー(P3)の製造及びその強誘電性の評価
(1)ポリマー(P3)(p-6FMA)の合成
1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルメタクリレート(6FMA)(東京化成工業株式会社製)をモノマーとして,ポリマー(P3)を合成した。
【0054】
【化4】
【0055】
即ち,50mLコルベンに,6FMA10.0g及び酢酸ブチル24.0gを加えて溶液を得た。この溶液に窒素を30分間フロー後,内温78℃まで昇温し,重合開始剤としてAIBN 0.15gを添加した。6時間熟成後,35℃以下まで冷却した。得られた重合溶液を減圧下,50℃での乾燥により,ポリマー(P3)(p-6FMA)を得た。このポリマーの重量平均分子量(Mw)を,ゲル濾過クロマトグラフィー(GPC)を用いて測定したところ,5,300であった。
【0056】
(3)薄膜形成
ポリマー(P1)の代わりにポリマー(P3)を用いた点以外は,参考例2と同様の手順で,評価用基板上に薄膜を形成した。薄膜の厚みは14.1μmであった。
【0057】
(4)電極作製,電圧の印加,及び評価
ポリマー(P3)上への電極の作製及び当該ポリマーへの電圧の印加,及び強誘電性の評価は,参考例2と同様にして行った。その結果は表1に示す。
【0058】
〔比較例〕PVDF
延伸を施された厚さ35μmのPVDFフィルム(株式会社クレハ製)の両面に電極を作製し,参考例2と同様にして,当該ポリマーへの電圧の印加,及び強誘電性の評価を行った。強誘電性の評価結果は100mC/mであった。
【0059】
〔参考例5〕ポリマー(P4)の製造及びその強誘電性の評価
(1)ポリマー(P4)(p-(3FPMA/BA=80/20))の合成
3,3,3-トリフルオロプロピルメタクリレート(3FPMA)およびアクリル酸ブチル(BA)(東京化成工業株式会社製)をモノマーとして,ポリマー(P4)(p-(3FPMA/BA=80/20))を合成した。
【0060】
【化5】
【0061】
ガラス容器に3FPMA1.70g及びBA0.30gを入れ,窒素バブリングを30秒行った後に,重合開始剤として,2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキサイド(BASF社製,商品名:IRGACURE TPO)0.02gを添加し,密閉した。その後,当該モノマー成分に1.0mW/cmの照度で紫外線を2時間照射し,モノマー成分を塊状重合させることにより,ポリマー(P4)を得た。ゲル濾過クロマトグラフィー(GPC)により重量平均分子量(Mw)を測定したところ,310,000であった。
【0062】
(2)薄膜形成
ポリマー(P1)の代わりにポリマー(P4)(固形分濃度=30%)を用いた点および回転数を900rpmに変更した点以外は,参考例2と同様の手順で,評価用基板上に薄膜を形成した。薄膜の厚みは12.5μmであった。
【0063】
(3)電極作製,電圧の印加,及び評価
ポリマー(P4)上への電極の作製及び当該ポリマーへの電圧の印加,及び強誘電性の評価は,参考例2と同様にして行った。結果は表1に示す。
【0064】
〔参考例6〕ポリマー(P5)の製造及びその強誘電性の評価
(1)ポリマー(P5)(p-(3FPMA/CNEA=95/5))の合成
3,3,3-トリフルオロプロピルメタクリレート(3FPMA)およびアクリル酸2-シアノエチル(CNEA)(東京化成工業株式会社製)をモノマーとして,ポリマー(P5)(p-(3FPMA/CNEA=95/5))を合成した。
【0065】
【化6】
【0066】
ガラス容器に3FPMA1.93gおよびCNEA0.07gを入れ,窒素バブリングを30秒行った後に,重合開始剤として,2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキサイド(BASF社製,商品名:IRGACURE TPO)0.02gを添加し,密閉した。その後,当該モノマー成分に1.0mW/cmの照度で紫外線を2時間照射し,モノマー成分を塊状重合させることにより,ポリマー(P5)を得た。GPCにより重量平均分子量(Mw)を測定したところ,250,000であった。
【0067】
(2)薄膜形成
ポリマー(P1)の代わりにポリマー(P5)(固形分濃度=30%)を用いた点および回転数を700rpmに変更した点以外は,参考例2と同様の手順で,評価用基板上に薄膜を形成した。薄膜の厚みは13.1μmであった。
【0068】
(3)電極作製,電圧の印加,及び評価
ポリマー(P5)上への電極の作製及び当該ポリマーへの電圧の印加,及び強誘電性の評価は,参考例2と同様にして行った。結果は表1に示す。
【0069】
〔参考例7〕ポリマー(P6)製造及びその強誘電性の評価
(1)ポリマー(P6)(p-(3FPMA/FMA=90/10))の合成
3,3,3-トリフルオロプロピルメタクリレート(3FPMA)および2-フルオロアクリル酸メチル(FMA)(Alfa Aesar社製)をモノマーとして,ポリマー(P6)(p-(3FPMA/FMA=90/10))を合成した。
【0070】
【化7】
【0071】
ガラス容器に3FPMA 1.88gおよびFMA0.12gを入れ,窒素バブリングを30秒行った後に,重合開始剤として,2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキサイド(BASF社製,商品名:IRGACURE TPO)0.02gを添加し,密閉した。その後,当該モノマー成分に1.0mW/cmの照度で紫外線を2時間照射し,モノマー成分を塊状重合させることにより,ポリマー(P6)を得た。GPCにより重量平均分子量(Mw)を測定したところ,240,000であった。
【0072】
(2)薄膜形成
ポリマー(P1)の代わりにポリマー(P6)(固形分濃度=30%)を用いた点および回転数を700rpmに変更した点以外は,参考例2と同様の手順で,評価用基板上に薄膜を形成した。薄膜の厚みは13.3μmであった。
【0073】
(3)電極作製,電圧の印加,及び評価
ポリマー(P6)上への電極の作製及び当該ポリマーへの電圧の印加,及び強誘電性の評価は,参考例2と同様にして行った。結果は表1に示す。
【0074】
〔参考例8〕ポリマー(P7)の製造及びその強誘電性の評価
(1)ポリマー(P7)(p-(3FPMA/HEMA=99/1))の合成
【0075】
3,3,3-トリフルオロプロピルメタクリレート(3FPMA)及びヒドロキシエチルメタクレート(HEMA)(東京化成工業株式会社製)をモノマーとして,ポリマー(P7)(p-(3FPMA/HEMA=99/1))を合成した。
【0076】
【化8】
【0077】
ガラス容器に3FPMA 1.99g及びHEMA 0.01gを入れ,窒素バブリングを30秒行った後に,重合開始剤として,2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキサイド(BASF社製,商品名:IRGACURE TPO)0.02gを添加し,密閉した。その後,当該モノマー成分に1.0mW/cmの照度で紫外線を2時間照射し,モノマー成分を塊状重合させることにより,ポリマー(P7)を得た。GPCにより重量平均分子量(Mw)を測定したところ,200,000であった。
【0078】
(2)薄膜形成
ポリマー(P7)2.0gを酢酸ブチルに溶解させて溶液とした(固形分濃度=30%)。この溶液に架橋剤として1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン(東京化成工業株式会社製)0.01gおよび錫触媒(ジブチル錫)(日東化成株式会社製,商品名:ネオスタンU-100)0.02mgを加え,電極を備えた評価用基板に供給し,スピンコーターにより1秒間で700rpmまで加速後,この回転速度で10秒間保持し,1秒間かけて停止させることで,成膜した。得られた評価用基板を30秒間静置した後,ホットプレート上で100℃にて3時間乾燥させ,室温まで冷却して,架橋ポリマー(P7)薄膜を備えた評価基板を得た。上述した触針式プロファイリングシステムを用いて薄膜の厚みを測定したところ,12.5μmであった。
【0079】
(3)電極作製,電圧の印加,及び評価
架橋ポリマー(P7)上への電極の作製及び当該ポリマーへの電圧の印加,及び強誘電性の評価は,参考例2と同様にして行った。結果は表1に示す。
【0080】
強誘電性の評価結果
参考例2~8のポリマーについての強誘電性の評価結果は次の表の通りであった。
【0081】
【表1】
【0082】
〔実施例1〕ポリマー(A)の製造及びその強誘電性の評価
(1)ポリマー(A)(p-(3FPMA/ACMO=70/30))の合成
【0083】
【化9】
【0084】
3,3,3-トリフルオロプロピルメタクリレート(3FPMA)及びアクリロイルモルフォリン(ACMO)(KJケミカルズ株式会社製)をモノマーとして,ポリマー(A)(p-(3FPMA/ACMO=70/30))を次の方法により合成した。
【0085】
ガラス容器に3FPMA1.50g及びACMO0.50gを入れ,窒素バブリングを30秒行った後に,重合開始剤として2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキサイド(BASF社製,商品名:IRGACURE TPO)0.02gを添加し,密閉した。その後,当該モノマー成分に1.0mW/cmの照度で紫外線を2時間照射し,モノマー成分を塊状重合させることにより,ポリマー(A)を得た。ゲル濾過クロマトグラフィー(GPC)により重量平均分子量(Mw)を測定したところ,470,000であった。
【0086】
(2)薄膜形成
ポリマー(A)を酢酸ブチルに溶解させて溶液とした(固形分濃度=25%)。この溶液を,電極を備えた評価用基板に供給し,スピンコーターにより1秒間で700rpmまで加速後,この回転速度で10秒間保持し,1秒間かけて停止させることで,成膜した。得られた評価用基板を30秒間静置した後,ホットプレート上で100℃にて20分間乾燥させ,室温まで冷却して,ポリマー(A)薄膜を備えた評価基板を得た。上述した触針式プロファイリングシステムを用いて薄膜の厚みを測定したところ,16.0μmであった。
【0087】
(3)電極形成,強誘電性の評価
得られたサンプルつき,参考例2と同様にして電極を形成し,強誘電性を評価した。結果は表2に示す。
【0088】
〔実施例2〕ポリマー(B)の製造及びその強誘電性の評価
(1)ポリマー(B)(p-(3FPMA/ACMO=60/40))の合成
【0089】
【化10】
【0090】
3FPMAの使用量を1.32g,及びACMOの使用量を0.68gとした以外は,実施例1と同様にしてポリマー(B)を合成した。ゲル濾過クロマトグラフィー(GPC)により重量平均分子量(Mw)を測定したところ,570,000であった。
【0091】
(2)薄膜及び電極形成,強誘電性の評価
ポリマー(A)の代わりにポリマー(B)(固形分濃度=20%)を用いた点以外は,実施例1と同様の手順で,評価用基板上に薄膜を形成した。薄膜の厚みは13.5μmであった。この薄膜に実施例1と同様にして電極を形成し,強誘電性を評価した。結果は表2に示す
【0092】
〔実施例3〕ポリマー(C)の製造及びその強誘電性の評価
(1)ポリマー(C)(p-(3FPMA/ACMO=50/50))の合成
【0093】
【化11】
【0094】
3FPMAを1.13g,ACMOを0.87gとした以外は実施例1と同様の手順でポリマー(C)を得た。ゲル濾過クロマトグラフィー(GPC)により重量平均分子量(Mw)を測定したところ,680,000であった。
【0095】
(2)薄膜,電極形成,強誘電性の評価
ポリマー(A)の代わりにポリマー(C)(固形分濃度=20%)を用いた点及び回転数を1,000rpmとした以外は,実施例1と同様の手順で評価基板上に薄膜を形成した。薄膜の厚みは14.5μmであった。この薄膜に実施例1と同様にして電極を形成し,強誘電性を評価した。結果は表2に示す
【0096】
〔実施例4〕ポリマー(D)の製造及びその強誘電性の評価
(1)ポリマー(D)(p-(3FPMA/BA=70/30))の合成
【0097】
【化12】
【0098】
3FPMAを1.54gとし,アクリロイルモルフォリン(ACMO)の代わりにn-ブチルアクリレ―ト(BA)0.46gを使用した以外は実施例1と同様にしてポリマー(D)を得た。ゲル濾過クロマトグラフィー(GPC)により重量平均分子量(Mw)を測定したところ,390,000であった。
【0099】
(2)薄膜形成及び強誘電性の評価
作製したポリマー(D)を150℃で熱プレスに付した後20℃に設定したプレス機でプレスすることにより,フィルムを得た。厚みを測定したところ,13.0μmであった。この薄膜に実施例1と同様にして電極を形成し,強誘電性を評価した。結果は表2に示す。
【0100】
実施例1~4のポリマーについての強誘電性の評価結果は次の通りである。何れの実施例も高い比誘電率及びPVDF以上の残留分極を示しており,十分な圧電性を有する可能性が高い。
【0101】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明の有機強誘電体材料用ポリマーは,強誘電性の付与の前段階としての延伸を必ずしも要しないため,強誘電性材料の製造工程を簡素化し製造効率の改善とコストの低減を容易にする。またポリフッ化ビニリデンに比べても大きな残留分極を有することから,高い圧電性の達成の可能性が高いことが示唆される。更に,溶液プロセスが利用できるため,精度の高い薄膜形成が容易であることから,センサー等広範囲への利用性が高い。特に,透明性が優れるため,ポリフッ化ビニリデンが透明性の不足から使用できなかった用途にも用いることができる。