IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ クラリアント・プラスティクス・アンド・コーティングス・リミテッドの特許一覧

<図面はありません>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-15
(54)【発明の名称】有害生物忌避ポリマー組成物
(51)【国際特許分類】
   A01N 25/00 20060101AFI20231108BHJP
   A01N 37/18 20060101ALI20231108BHJP
   A01N 25/10 20060101ALI20231108BHJP
   A01P 17/00 20060101ALI20231108BHJP
【FI】
A01N25/00 101
A01N37/18 Z
A01N25/10
A01P17/00
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020524052
(86)(22)【出願日】2018-11-02
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-01-21
(86)【国際出願番号】 EP2018080008
(87)【国際公開番号】W WO2019086604
(87)【国際公開日】2019-05-09
【審査請求日】2021-10-13
(31)【優先権主張番号】17199911.3
(32)【優先日】2017-11-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】517092075
【氏名又は名称】アヴィエント スウィッツァランド ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【弁理士】
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【弁理士】
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100139527
【弁理士】
【氏名又は名称】上西 克礼
(74)【代理人】
【識別番号】100164781
【弁理士】
【氏名又は名称】虎山 一郎
(72)【発明者】
【氏名】ヘダオー・ラーフル・キショール
(72)【発明者】
【氏名】アチンチャ・クマール・セン
【審査官】小森 潔
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-308705(JP,A)
【文献】特開平09-165301(JP,A)
【文献】国際公開第2002/022753(WO,A1)
【文献】特開2008-106232(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有害生物忌避活性物質の保持が増強された有害生物忌避ポリマー組成物であって、
前記組成物の全重量を基準として少なくとも50重量%の熱可塑性ポリマー;および
前記組成物の全重量を基準として0.1重量%~50重量%の、有害生物忌避活性物質を含む沈降シリカキャリアー、
を含み、前記活性物質は界面活性剤の存在下で沈降シリカキャリアーに吸収されており、前記の界面活性剤が非イオン性界面活性剤を含み、前記の活性物質が、N,N-ジエチル-3-メチルベンズアミド(DEET)、1-ピペリジンカルボン酸-2-(2-ヒドロキシエチル)-1-メチルプロピルエステル(ピカリジン)、3-[N-ブチル-N-アセチル]-アミノプロピオン酸エチルエステル、ジメチルカルバメートまたはそれらの任意の組み合わせを含む、有害生物忌避ポリマー組成物。
【請求項2】
前記の熱可塑性ポリマーが、ポリアミド類、ポリスチレン類、ポリ塩化ビニル類、ポリオレフィン類またはそれらの任意のコポリマーを含む、請求項1に記載のポリマー組成物。
【請求項3】
前記の活性物質がN,N-ジエチル-3-メチルベンズアミドであり、前記の熱可塑性ポリマーがポリオレフィン類である、請求項1または2に記載のポリマー組成物。
【請求項4】
前記の非イオン性界面活性剤がヒマシ油エトキシレートである、請求項1に記載のポリマー組成物。
【請求項5】
前記の活性物質が前記ポリマー組成物の全重量に対して約0.1重量%~約25重量%の量で存在する、請求項1~のいずれか1つに記載のポリマー組成物。
【請求項6】
請求項1~のいずれか1つに記載の組成物から製造される物品であって、成形品、フィルム、メルトブローン布、スパンボンド布、不織布、織布または押出成形品である物品。
【請求項7】
前記織布が蚊忌避ネットである、請求項に記載の物品。
【請求項8】
請求項1~のいずれか1つに記載の組成物の、成形品、フィルム、メルトブローン布、スパンボンド布、不織布、織布または押出成形品から選択される物品の製造における使用。
【請求項9】
前記織布が蚊忌避ネットである、請求項に記載の使用。
【請求項10】
沈降シリカキャリアーを含み、有害生物忌避活性物質の保持が増強された有害生物忌避シリカ組成物であって、
前記の沈降シリカキャリアーが、そこに吸収された有害生物忌避活性物質および界面活性剤を有し、前記界面活性剤が非イオン性界面活性剤を含み、前記の活性物質が、N,N-ジエチル-3-メチルベンズアミド(DEET)、1-ピペリジンカルボン酸-2-(2-ヒドロキシエチル)-1-メチルプロピルエステル(ピカリジン)、3-[N-ブチル-N-アセチル]-アミノプロピオン酸エチルエステル、ジメチルカルバメートまたはそれらの任意の組み合わせを含む、有害生物忌避シリカ組成物。
【請求項11】
有害生物忌避ポリマー性組成物を形成させるための、請求項10に記載の有害生物忌避シリカ組成物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性ポリマーおよび当該熱可塑性ポリマー中に分散したシリカキャリアーを含む、有害生物忌避ポリマー組成物に関する。前記シリカキャリアーは、有害生物忌避活性物質を含む。
【背景技術】
【0002】
所望の機能性を付与するために活性物質をポリマーマトリックスに組み入れることは、よく知られている。しかしながら、性能を長続きさせるためには、ポリマーからの活性物質の制御された放出が重要である。例えば、急速すぎる放出はポリマーからの活性物質を早急に枯渇させ、一方で遅すぎる放出は、所望の効果的な働きを奏しない。
【0003】
長期残効性防虫蚊帳(LLIN)は、蚊集団およびマラリア発生の減少に有効であることが証明されてきた。LLINに関して、ネット材料の表面における殺虫または有害生物忌避用量は、虫を殺すためおよび/または退けるために十分に高いべきである。第二に、放出は何年にもわたって継続し、多数の洗浄サイクルを受けても持続するべきである。殺虫剤および/または有害生物忌避剤の全体含有量は、エンドユーザーの活性成分への潜在的な暴露を最小限化するために、低いべきである。LLINの最も大きな市場は低所得の地域であり、従って、コストは、技術を発達させると同時に考慮する必要がある観点である。
【0004】
US-2009/0041820(特許文献1)は、少なくとも50重量%の1種以上のポリマー成分;0.1~50重量%の1種以上の流体;および1~50重量%の1種以上の活性基材を含む機能性ポリマー組成物を開示している。前記活性基材は、有害生物忌避活性物質を含む。US-2009/0041820の流体成分は、特別の機能性を付与し、および/または1種以上の活性基材のポリマーマトリックス表面への輸送を助ける成分である。
【0005】
WO-2011040252(特許文献2)は、N,N-ジエチル-3-メチルベンズアミドを含む有害生物忌避樹脂組成物であって、有害生物忌避活性物質が特定の層状シリケート上に担持されている樹脂組成物を開示している。
【0006】
CN-1709957(特許文献3)は、ハエ忌避性プラスチックキャップを開示している。このボトルキャップは、ハエ忌避活性物質、吸着剤および熱可塑性樹脂を含む。前記吸着剤はシリカを含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】US-2009/0041820
【文献】WO-2011040252
【文献】CN-1709957
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
既存の解決法と比較して長続きする性能を示し、同時に費用効果を維持する有害生物忌避ポリマー組成物に対する需要が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明はポリマー組成物であって、熱可塑性ポリマーを組成物の全重量を基準として少なくとも50重量%、および活性物質を含むシリカキャリアーを組成物の全重量を基準として0.1重量%~50重量%含むポリマー組成物を提供する。前記活性物質は、界面活性剤の存在下でシリカキャリアーに吸収されている。本発明のポリマー組成物は、長続きする性能を提供し、有害生物を退けるのに有効である。
【0010】
本明細書で使用される場合に、語句「長続きする」は、6か月超、好ましくは1年超を意味する。
【0011】
本明細書で使用される場合に、語句「有害生物」は、蚊類、ダニ類(ticks)、ゴキブリ類、トコジラミ類、ダニの類(mites)、ノミ類、シラミ類、ヒル類、イエバエ類、シロアリ類、アリ類、ガ類、クモ類、バッタ類、コオロギ類、ブヨ類およびシミ類を表す。
【0012】
好ましい熱可塑性ポリマーには、ポリアミド類、ポリスチレン類、ポリ塩化ビニル類 ポリオレフィン類またはそれらの任意のコポリマーが包含される。ポリオレフィン類の例には、ポリエチレン(PE)、好ましくは高密度ポリエチレン(HDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、メタロセン低密度ポリエチレン(mLDPE)およびメタロセン直鎖状低密度ポリエチレン(mLLDPE)からなる群から選択されるポリエチレン(PE);ポリプロピレン(PP)、好ましくはポリプロピレンホモポリマー(PPH)、ポリプロピレンランダムコポリマー(PP-R)およびポリプロピレンブロックコポリマー(PP-block-COPO)からなる群から選択されるポリプロピレン(PP);PEコポリマー、好ましくはエチレン-酢酸ビニルコポリマー(EVA)、エチレンおよびメチルアクリレートのコポリマー(EMA)、エチレンおよびブチルアクリレートのコポリマー(EBA)、エチレンおよびエチルアクリレートのコポリマー(EEA)からなる群から選択されるPEコポリマー、およびシクロオレフィンコポリマー(COC)、汎用ポリスチレン(GPPS)および耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)が含まれる。
【0013】
前記の有害生物忌避組成物は、熱可塑性ポリマーを、組成物の全重量を基準として、少なくとも50重量%、好ましくは少なくとも70重量%、より好ましくは少なくとも90重量%の量で含む。
【0014】
好ましいシリカキャリアーには、市販の沈降シリカが包含される。好ましいシリカキャリアーは、本来は親水性である。或る実施態様において、シリカキャリアーは、親水性および疎水性特性を有する沈降シリカキャリアーの混合物である。沈降シリカは、湿式プロセスを使用して商業的に製造される。湿式プロセスでは、アルカリケイ酸塩、好ましくはケイ酸ナトリウムを、酸、例えば硫酸を添加することにより沈降させる。沈降したシリカをろ過し、洗浄し、乾燥する。好ましいキャリアーは、少なくとも97%のシリカもしくは二酸化ケイ素(SiO)含有量を有する。前記の沈降シリカはマクロポーラス細孔構造を有し、これが当該シリカを液体吸収に特に適したものとする。国際純正応用化学連合(IUPAC)によると、キャリアーは、平均の細孔サイズが50ナノメートルを超える場合にマクロポーラスであると言われる。
【0015】
前記の沈降シリカキャリアーは、50マイクロメートル(μm)以下、好ましくは35μm以下、より好ましくは20μm以下の平均粒径を有する。シリカの平均粒径は、レーザー回折技術(ISO13320)を用いて測定することができる。好ましいシリカは、活性物質を吸収した状態でも、自由流動性で塊のない粉末のままであり、発塵が少ないため、標準的なポリマー加工技術を用いたポリマーとのさらなる加工にとって魅力的である。
【0016】
本発明の有害生物忌避活性物質には、N,N-ジエチル-3-メチルベンズアミド(DEET)、1-ピペリジンカルボン酸-2-(2-ヒドロキシエチル)-1-メチルプロピルエステル(ピカリジン)、3-[N-ブチル-N-アセチル]-アミノプロピオン酸、エチルエステル、ジメチルカルバメートおよびそれらの任意の組み合わせが包含される。他の有害生物忌避剤には、天然の有害生物忌避剤、例えばレモンユーカリ(コリンビア・シトリオドラ(Corymbia citriodora))の精油、ネペタラクトン、シトロネラ油、ニーム油、ミツガシワ(Bog Myrtle)(ヤチヤナギ(Myrica Gale))の抽出物が包含される。或る好ましい実施態様において、前記の有害生物忌避活性物質はDEETである。DEETは、置換異性体、例えばp-トルアミド、またはN-エチル基部分が1~3個の炭素を有する別のアルキル基によって置き換えられたものを含み得る。本発明の有害生物忌避活性物質は、蚊に対して優れた有害生物忌避性を示し、さらにダニ類(ticks)、シロアリ類、ガ類、クモ類、バッタ類、シミ類、コオロギ類、イエバエ類、アリ類、ゴキブリ類、ブヨ類、ダニの類(mites)、シラミ類、サシバエ類、トコジラミ類、ノミ類、ツツガムシ類およびヒル類を退け得る。
【0017】
さらに、殺虫剤を前記の有害生物忌避ポリマー組成物に組み入れることができる。使用することができる例示的な殺虫剤には、ピレスロイド系の殺虫剤、例えばペルメトリン、デルタメトリン、シフルトリン、シペルメトリン、アルファ-シペルメトリン、ベータ-シペルメトリン、エトフェンプロクス、ラムダ-シハロトリンおよびそれらの組み合わせが包含される。単独でまたは組み合わせて使用し得る他の殺虫剤には、カルバメート化合物、例えば、アラニカルブ、ベンジオカルブ、カルバリル、イソプロカルブ(isopropcarb)、カルボスルファン、フェノキシカルブ、インドキサカルブ、プロポキサー(propoxur)、ピリミカルブ、チオカルブ、メトミル、エチオフェンカルブ、カルタップ、キシリルカルブ、およびピロール化合物、例えばクロルフェナピルが包含される。殺虫剤の別の群、例えば有機リン化合物を使用してもよい。そのような化合物には、フェニトロチオン、ダイアジノン、ピリダフェンチオン、ピリミホス-エチル、ピリミホス-メチル、エトリムホス、フェンチオン、ホキシム、クロロピリホス、シアノホス、ピラクロホス、アザメチホス、マラチオン、テメホス、ジメトエート、ホルモチオンおよびフェントエートが包含される。
【0018】
有害生物忌避活性物質は、界面活性剤の存在下でシリカキャリアーと混合され、有害生物忌避シリカキャリアーを形成する。例示的な界面活性剤には、非イオン性界面活性剤が含まれる。非イオン性界面活性剤の例には、脂肪アルコールポリグリコールエーテル類、アルキルフェノールポリグリコールエーテル類、脂肪酸ポリグリコールエステル類、脂肪アミドポリグリコールエーテル類、脂肪アミンポリグリコールエーテル類、アルコキシル化トリグリセリド類、混合エーテル類、アルケニルオリゴグリコシド類、脂肪酸N-アルキルグルカミド類、タンパク質加水分解物、ポリオール脂肪酸エステル類、糖エステル類、ソルビタンエステル類、ポリソルベート類、アミン酸化物およびそれらの任意の組み合わせが包含される。非イオン性界面活性剤の非限定的な例には、ソルビタンモノステアレート、ロジンのポリオキシエチレンエステル、ポリオキシエチレンドデシルモノエーテル、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロックコポリマー、ポリオキシエチレンモノラウレート、ポリオキシエチレンモノヘキサデシルエーテル、ポリオキシエチレンモノオレエート、ポリオキシエチレンモノ(シス-9-オクタデセニル)エーテル、ポリオキシエチレンモノステアレート、ポリオキシエチレンモノオクタデシルエーテル、ポリオキシエチレンジオレエート、ポリオキシエチレンジステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタントリオレエート、ポリオキシエチレンソルビタントリステアレート、オレイン酸のポリグリセロールエステル、ポリオキシエチレンソルビトールヘキサステアレート、ポリオキシエチレンモノテトラデシルエーテル、ポリオキシエチレンソルビトールヘキサオレエート、脂肪酸、トール油、ソルビトールヘキサエステル類、ヒマシ油エトキシレート類、ダイズ油エトキシレート類、ナタネ油エトキシレート類、エトキシル化脂肪酸、エトキシル化脂肪アルコール類、エトキシル化ポリオキシエチレンソルビトールテトラオレエート、グリセロールおよびポリエチレングルコール混合エステル類、アルコール類、ポリグリセロールエステル類、モノグリセリド類、スクロースエステル類、アルキルポリグリコシド類、ポリソルベート類、脂肪アルカノールアミド類、ポリグリコールエーテル類、それらのいずれかの誘導体、およびそれらのいずれかの組み合わせが含まれる。好ましい実施態様において、非イオン性界面活性剤はヒマシ油エトキシレートである。前記のヒマシ油エトキシレートは、2~50、好ましくは10~45、より好ましくは20~40の平均エトキシル化度を有していてもよい。平均エトキシル化度は、油1モルあたりに必要なエチレンオキシドのモル数として定義される。
【0019】
発明者等は驚くべきことに、シリカキャリアーにおける有害生物忌避活性物質の吸収が界面活性剤の存在下で行われると、界面活性剤なしでのシリカキャリアーでの活性物質の吸収と比較して、活性物質の保持が増強されることを発見した。これは特に、揮発性の活性物質、例えばDEETに当てはまる。シリカキャリアーにおける活性物質の増強された保持は、有害生物忌避組成物からの活性物質のより長く続く放出として現れる。
【0020】
前記の有害生物忌避シリカキャリアーは、活性物質を、有害生物忌避シリカキャリアーの全重量を基準として0.1重量%~50重量%、より好ましくは10重量%~40重量%の量で含むことができる。シリカキャリアー、有害生物忌避活性物質および界面活性剤の混合は、好ましくは、室温で行われる。室温より高い温度での混合も可能だが、有害生物忌避活性物質の分解温度未満での混合を想定することができる。混合時間は、好ましくは、5秒~36時間、好ましくは5秒~24時間である。
【0021】
本発明の有害生物忌避ポリマー性組成物は、有害生物忌避シリカキャリアーを熱可塑性ポリマー中に分散させることにより製造される。有害生物忌避シリカキャリアーは、粉末形態で、例えば、ポリエチレンもしくはポリプロピレンペレットまたはこれらの混合物に添加される。得られた混合物は次いで、熱の適用により、エクストルーダーから薄いストリップの形態で溶融押出される。押出された材料は引き続き、短い長さに切断され、最終的に小さいペレットに成形されて、有害生物忌避ペレットを形成する。加熱-溶融ステップ後に得られた有害生物忌避ペレットの重量は、加熱-溶融の前の有害生物忌避シリカキャリアーとポリマー材料を組み合わせた重量と大きく相違せず、このことは、揮発性の有害生物忌避活性物質が良好に保護され、組成物中に保持されていることを示す。濃縮された有害生物忌避ペレットは、別に有害生物忌避マスターバッチとしても知られている。
【0022】
前記の有害生物忌避マスターバッチは、有害生物忌避活性物質を、有害生物忌避マスターバッチの全重量を基準として25重量%まで、好ましくは0.1重量%~20重量%、より好ましくは1重量%~16重量%含み得る。
【0023】
前記の有害生物忌避マスターバッチはまた、物質の機能または加工または効果を改善または増強するために、他の添加剤を含んでいてよい。添加剤の非限定的な例には、UV吸収剤、香料、立体障害アミンをベースとする光安定剤(light stabilizers)、難燃剤、消光剤、酸化防止剤、顔料、酸スカベンジャー、フィラー、耐燃性添加剤(ignition resistant additives)、酸化防止剤、光安定剤(photostablizers)、着色物質、静電防止剤、分散剤、離型剤、銅害阻害剤(copper inhibitors)、核形成剤、可塑剤、潤滑剤、乳化剤、蛍光増白剤、レオロジー添加剤、触媒、流れ調整剤(flow-control agents)、スリップ剤、架橋剤、架橋促進剤(crosslinking boosters)、ハロゲンスカベンジャー、煙抑制剤(smoke inhibitors)、澄まし剤(clarifiers)または発泡剤が含まれる。
【0024】
前記の有害生物忌避マスターバッチは、引き続き、第2のポリマーとともにさらに加工されて、所望の色、形状または形態の物品を形成する。前記物品は、成形された物品または押出された物品であることができる。成形方法としては、通例の方法、例えば押出成形、射出成形、ブロー成形、カレンダー成形および圧縮成形を使用することにより、所望の形状を有する成形製品が得られる。第2のポリマーは、前述のような熱可塑性ポリマーである。
【0025】
1つの実施態様では、前記有害生物忌避マスターバッチをポリオレフィン、例えばポリプロピレンまたは高密度ポリエチレンとブレンドし、フィルム、フィラメント、繊維、シート、熱成形品または射出成形品、織布もしくは不織布材料、ヤーン、または網状物、例えば蚊帳を製造するために使用される。1つの実施態様において、本発明は有害生物忌避性を有する繊維を提供する。前記繊維は、当業者に公知の方法によって製造することができる。前記繊維は、望ましい柔軟性および物理的機械的特性を有していてよく、種々の用途、例えば連続フィラメント糸、嵩高連続フィラメント糸(bulked continuous filament yarn)、ステープルファイバー、メルトブローン繊維およびスパンボンド繊維(spun bound fibers)に使用することができる。1つの実施態様において、本発明は本発明の繊維を用いて製造された布帛を提供する。前記布帛は、不織布もしくは織布を製造するための公知の方法のいずれかによって製造することができる。
【0026】
本発明の特段の利点は、織布、例えば蚊帳の製造に関連する2つの激しい加熱サイクルを通しても、有害生物忌避活性物質が保持されることである。前記の有害生物忌避活性物質はシリカキャリアーの細孔内で良好に保護され、これはあらためて、非イオン性界面活性剤の存在が助力するものであると考えられる。ネットは、所望の活性物質の安全用量および推奨用量に応じた活性物質含量を含むことができる。1つの実施態様において、有害生物忌避組成物を組み入れたネットは、当該ネットの全重量を基準として、2重量%までの、好ましくは0.1~1.5重量%、より好ましくは0.5~1重量%の活性物質含量を有することができる。
【0027】
本発明の主要な目的は蚊から保護することであるが、そこには種々の有害生物、例えばダニ類、ゴキブリ類、トコジラミ類、ダニの類、ノミ類、シラミ類、ヒル類、イエバエ類、シロアリ類、アリ類、ガ類、クモ類、バッタ類、コオロギ類、シミ類ならびに他の飛ぶ虫およびはい進む虫の増殖を防ぐことおよび/またはそれらと戦うことも含まれる。蚊帳に加えて、他の用途には、農業で使用されるネットまたは布帛、例えば柵、動物の囲い、温室用ネット、または作物の囲い、特に高木または低木にぶら下がっている果物もしくは野菜(例えばカカオ(cocoa pods)またはバナナ)用の囲いが含まれる。他の例には、寝具、マットレス、枕、羽根布団、クッション、カーテン、壁装類、絨毯、および窓、戸棚およびドア用網戸、ジオテキスタイル、テント、靴の敷き革、衣類、例えばソックス、ズボン、シャツ、制服、馬着、ペットの首輪、および寝具類、農業およびブドウ栽培における覆い;梱包、包装袋、屋外用具類のための布帛または網状物;食品、種子および飼料用の容器;建設材料、家具が含まれる。これらの用途における有害生物忌避活性物質の典型的な量は、当該有害生物忌避活性物質の殺虫有効性に応じて、前記布帛または網状物の重量の0.001~5%の間であることができる。
【0028】
さらなる負担なしに、当業者は、本明細書における記載を用いて、本発明を最大限の範囲にまでわたって利用できると考えられる。以下の例は、特許請求された発明を実施する当業者に追加的なガイダンスを提供するために、含まれるものである。提供される例は単に、本願の教示に貢献する実施を代表するものである。従って、例は、添付の特許請求の範囲に定義されるような本発明をいかなる様式によっても限定することを意図しない。
【実施例
【0029】
比較例1
有害生物忌避シリカキャリアーの製造:有害生物忌避シリカキャリアーを、DEETと沈降シリカ(Evonik IndustriesからのSipernat 22 S)を表1に示すように異なる比率(グラム(g))で混合するにより製造した。サンプル1aおよび1bを105±1℃でオーブン中に5日間保持し、サンプルの重量をこの期間の最後に測定した。サンプル1aは約3.6重量%を失い、サンプル1bは約9.9重量%を失った。それぞれ、有害生物忌避シリカキャリアーからの揮発性DEETの喪失を示している。
【0030】
【表1】
【0031】
比較例2
有害生物忌避マスターバッチの製造:約40グラム(g)の比較例1の有害生物忌避シリカキャリアーサンプル1bを、40gのLDPE粉末(HD50MA180)、0.5gのWax PE 520、0.1gの鉱油および19.4gのHDPE顆粒とともに溶融押出することにより、有害生物忌避マスターバッチサンプル2を形成させた。製造したサンプル2を105±1℃でオーブン中に5日間保持し、重量をこの期間の最後に測定した。サンプル2のおおよその重量減少は、8.7%であった。
【0032】
例1
有害生物忌避シリカキャリアーの製造:表2に示されるように異なる量のDEET、ヒマシ油エトキシレートおよびシリカを含有する3つのサンプル、すなわち3a、3bおよび3cをそれぞれ製造した。最初にDEETをヒマシ油エトキシレート(Clariant InternationalからのEmulsogen 360EL)と混合し、得られたDEET溶液を沈降シリカキャリアー(Evonik IndustriesからのSipernat 22S)に吸収させて、有害生物忌避シリカキャリアーサンプル3a、3bおよび3cをそれぞれ形成させた。そのようにして製造された有害生物忌避シリカキャリアーサンプルは、自由流動性で塊のない粉末であり、低発塵性であった。製造したサンプルを105±1℃でオーブン中に5日間保持し、これらのサンプルのおおよその重量減少パーセントをこの期間の最後に測定した。サンプル3aの重量減少は、約2.6%であった。それに比べ、比較例1のサンプル1aの重量減少パーセントは、約3.6%であった。この例は、ヒマシ油エトキシレートの存在下におけるDEETの吸収により、重量減少が減少したことを示している。サンプル3bからサンプル3cにかけて界面活性剤の量を増加することにより、重量減少がさらに減少し、従ってこれは界面活性剤の存在下でシリカキャリアーに吸収させると、DEETの保持が増強されることを示していた。
【0033】
【表2】
【0034】
例2
有害生物忌避マスターバッチの製造:約40グラム(g)の例1の有害生物忌避シリカキャリアーサンプル3cを、40gのLDPE粉末(HD50MA180)、0.5gのWax PE 520、0.1gの鉱油および19.4gのHDPE顆粒とともに溶融押出することにより、有害生物忌避マスターバッチサンプル4を形成させた。製造したサンプル4を105±1℃でオーブン中に5日間保持し、重量をこの期間の最後に測定した。サンプル4のおおよその重量減少は、2.8%であった。それに比べ、比較例2のサンプル2の重量減少は、約8.7%であった。この例は、ヒマシ油エトキシレートの存在下におけるDEETの吸収が、マスターバッチにおけるDEETの保持を約32%増強したことを示している。
【0035】
有害生物忌避マスターバッチにおけるDEETの定量化:約5gのサンプル4を、室温(30℃)で30分間超音波処理をしながらアセトニトリルに添加した。これを引き続き、80℃で3~4時間還流した。この溶液からサンプルを採り、アセトニトリル:メタノール(90:10)の移動相(イソクラティック系)を用いて0.5mL/分の流速でHPLCカラム(Eclipse XDB C18 150*4.6mm,3.5ミクロン)に流した。理論上の16重量%に対して、HPLCの定量化ではDEET含有量は約14.97%であり、このことはマスターバッチの加工中における喪失は約6.5%であったことを示している。
なお、本願は、特許請求の範囲に記載の発明に関するものであるが、他の態様として以下も包含し得る。
1.有害生物忌避ポリマー組成物であって、
前記組成物の全重量を基準として少なくとも50重量%の熱可塑性ポリマー;および
前記組成物の全重量を基準として0.1重量%~50重量%の、有害生物忌避活性物質を含む沈降シリカキャリアー、
を含み、前記活性物質は界面活性剤の存在下で沈降シリカキャリアーに吸収されている、有害生物忌避ポリマー組成物。
2.前記の熱可塑性ポリマーが、ポリアミド類、ポリスチレン類、ポリ塩化ビニル類、ポリオレフィン類またはそれらの任意のコポリマーを含む、上記1に記載のポリマー組成物。
3.前記の活性物質が、N,N-ジエチル-3-メチルベンズアミド(DEET)、1-ピペリジンカルボン酸-2-(2-ヒドロキシエチル)-1-メチルプロピルエステル(ピカリジン)、3-[N-ブチル-N-アセチル]-アミノプロピオン酸、エチルエステル、ジメチルカルバメートまたはそれらの任意の組み合わせを含む、上記1に記載のポリマー組成物。
4.前記の活性物質がN,N-ジエチル-3-メチルベンズアミドであり、前記の熱可塑性ポリマーがポリオレフィン類である、上記1~3のいずれか1つに記載のポリマー組成物。
5.前記の界面活性剤が非イオン性界面活性剤を含む、上記1に記載のポリマー組成物。
6.前記の非イオン性界面活性剤がヒマシ油エトキシレートである、上記5に記載のポリマー組成物。
7.前記の活性物質が前記ポリマー組成物の全重量に対して約0.1重量%~約25重量%の量で存在する、上記1~6のいずれか1つに記載のポリマー組成物。
8.上記1~7のいずれか1つに記載の組成物から製造される物品であって、成形品、フィルム、メルトブローン布、スパンボンド布、不織布、織布または押出成形品である物品。
9.前記織布が蚊忌避ネットである、上記8に記載の物品。
10.沈降シリカキャリアーを含む有害生物忌避シリカ組成物であって、
前記の沈降シリカキャリアーが、そこに吸収された活性物質および界面活性剤を有し、前記界面活性剤が非イオン性界面活性剤を含む、有害生物忌避シリカ組成物。
11.有害生物忌避ポリマー性組成物を形成させるための、上記10に記載の有害生物忌避シリカ組成物の使用。