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  • 特許-リチウムイオンバッテリーセパレーター 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-15
(54)【発明の名称】リチウムイオンバッテリーセパレーター
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/443 20210101AFI20231108BHJP
   H01G 11/52 20130101ALI20231108BHJP
   H01M 8/023 20160101ALI20231108BHJP
   H01M 8/0236 20160101ALI20231108BHJP
   H01M 8/0239 20160101ALI20231108BHJP
   H01M 8/0245 20160101ALI20231108BHJP
   H01M 50/426 20210101ALI20231108BHJP
   H01M 50/434 20210101ALI20231108BHJP
   H01M 50/446 20210101ALI20231108BHJP
【FI】
H01M50/443 B
H01G11/52
H01M8/023
H01M8/0236
H01M8/0239
H01M8/0245
H01M50/426
H01M50/434
H01M50/443 M
H01M50/446
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020524387
(86)(22)【出願日】2018-10-30
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-01-14
(86)【国際出願番号】 US2018058075
(87)【国際公開番号】W WO2019089492
(87)【国際公開日】2019-05-09
【審査請求日】2021-10-15
(31)【優先権主張番号】62/578,701
(32)【優先日】2017-10-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500307340
【氏名又は名称】アーケマ・インコーポレイテッド
【住所又は居所原語表記】900 First Avenue,King of Prussia,Pennsylvania 19406 U.S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】エイミー・アダムス・ルフェーブル
(72)【発明者】
【氏名】トーマス・ファイン
(72)【発明者】
【氏名】ジェイムズ・フランシス・コフィー
(72)【発明者】
【氏名】ラミン・アミン-サナイェイ
(72)【発明者】
【氏名】ウエンシェン・ホー
【審査官】川村 裕二
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/108511(WO,A1)
【文献】特表2015-512124(JP,A)
【文献】国際公開第2011/040562(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/073022(WO,A1)
【文献】特開2012-014941(JP,A)
【文献】国際公開第2018/034093(WO,A1)
【文献】特開2017-098203(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2016-0118979(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/40-50/497
H01M 6/00- 6/48
H01M 8/023
H01M 8/0239
H01M 8/0236
H01M 8/0245
H01M 10/00-10/39
H01G 11/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平滑でない表面を有する乾燥コーティング組成物によって直接コーティングされた、電気化学的デバイス用多孔質セパレーターであって、
前記乾燥コーティング組成物が、
a)少なくとも2つの異なる重量平均粒度を有する離散ポリマー粒子、及び
b)随意としての電気化学的に安定な無機粒子
を含み、
前記離散ポリマー粒子の小さい方のポリマー粒子画分が20nm~500nmの重量平均粒度を有し、もう一方の大きい方のポリマー粒子画分が1.5ミクロン超の重量平均粒度を有し、
前記もう一方の大きい方のポリマー粒子及び小さい方のポリマー粒子がそれぞれ独立してフルオロポリマー、ポリアミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、ポリエステル及びポリ(メタ)アクリレートより成る群から選択され、
前記離散ポリマー粒子のTgは60℃未満であり、前記大きい粒子が前記小さい方の粒子より低いTgを有する、前記多孔質セパレーター。
【請求項2】
前記大きい方のポリマー粒子画分が2.0ミクロン超の重量平均粒度を有する、請求項1に記載の多孔質セパレーター。
【請求項3】
前記小さい方のポリマー粒子画分対前記大きい方のポリマー粒子画分の比が少なくとも1である、請求項1又は2に記載の多孔質セパレーター。
【請求項4】
前記大きい方のポリマー粒子と小さい方のポリマー粒子とが同じ化学物質又は異なる化学物質である、請求項1~3のいずれかに記載の多孔質セパレーター。
【請求項5】
前記小さい方のポリマー粒子がポリフッ化ビニリデンのホモポリマー又はコポリマーを含む、請求項1~4のいずれかに記載の多孔質セパレーター。
【請求項6】
前記大きいポリマー粒子及び前記小さいポリマー粒子の両方がフッ化ビニリデンモノマー単位を少なくとも70重量%含むポリフッ化ビニリデンホモポリマー又はコポリマーである、請求項1~5のいずれかに記載の多孔質セパレーター。
【請求項7】
前記小さい粒子が官能化ポリフッ化ビニリデンを含む、請求項1~のいずれかに記載の多孔質セパレーター。
【請求項8】
前記大きい粒子が、前記乾燥コーティング組成物の表面の0.5~50面積%を占める、請求項1~のいずれかに記載の多孔質セパレーター。
【請求項9】
電気化学的に安定な無機粒子がポリマー固体及び無機粒子の合計を基準として50~99重量%存在し、前記無機粒子がBaTiO3、Pb(Zr,Ti)O3、Pb1-xLaxZry3(0<x<1、0<y<1)、PbMg1/3Nb2/33、PbTiO3、ハフニウム(HfO、HfO2)、SrTiO3、SnO2、CeO2、MgO、NiO、CaO、ZnO、Y23、Al23、TiO2、SiO2、SiC、ZrO2、ケイ酸ホウ素、BaSO4、ナノクレー、セラミック又はそれらの混合物より成る群から選択される、請求項1~のいずれかに記載の多孔質セパレーター。
【請求項10】
前記乾燥コーティング組成物が0.5~15ミクロンの厚さを有する、請求項1~のいずれかに記載の多孔質セパレーター。
【請求項11】
請求項1~10のいずれかに記載の多孔質セパレーターを含むバッテリー、コンデンサ、電気二重層コンデンサ、膜電極組立体(MEA)又は燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水性タイプの電気化学的デバイス用のセパレーターであって、2つの異なるサイズのポリマー粒子を有するポリマーバインダー組成物でコーティングされ、前記ポリマー粒子の一方の画分が1.5ミクロン未満の重量平均粒度(粒子サイズ)を有し、前記ポリマー粒子のもう一方の画分が1.5ミクロン超の重量平均粒度を有する、前記セパレーターに関する。この2モード(二峰性)ポリマー粒子は、不均一なコーティング表面をもたらし、これがセパレーターと隣接する電極との間で空隙を作り出し、充電及び放電のサイクルの間のバッテリー部品の伸張を可能にする一方で、バッテリー自体のサイズの増加はほとんど又は全くなく、改善された性能をもたらす。前記2モードポリマーコーティングは、バッテリー及び電気二重層コンデンサ等の非水性タイプの電気化学的デバイスにおいて用いることができる。
【背景技術】
【0002】
リチウム金属バッテリー、リチウムイオンバッテリー、リチウムポリマーバッテリー及びリチウムイオンポリマーバッテリーを含むリチウムバッテリーは、水性電解質(例えばNi-MHバッテリー)を用いた慣用のバッテリーと比較して電圧及びエネルギー密度を高めたいという要望のために、利用が増してきている。
【0003】
リチウムイオンバッテリーは、アノード及びカソードの積み重ねから成り、アノード及びカソードの各セットは短絡を防ぐためにセパレーターによって隔てられている。製造の際には、アノード、カソード及びセパレーターを位置合わせする必要があり、使用時にもそれらが位置合わせされたままでなければならない。
【0004】
パウチセル式リチウムイオンバッテリーは、1995年に、金属製筒状バッテリーに対する柔軟で軽量の代替品として、導入された。これらの高効率バッテリーは、民生用電子用途、軍事用途及び自動車用途に用いられ、包装重量が軽く且つ熱放散率が高いため、好まれている。薄くて柔軟性があるため、パウチセル式リチウムイオンバッテリーは、高級家庭電化製品における好ましい選択肢となっている。
【0005】
セパレーターはバッテリー中のアノードとカソードとの間の障壁を形成する。多孔質有機セパレーター上に無機粒子を結合させることによって、液状電解質が浸透する空間の体積が増加し、その結果としてイオン伝導性が向上することがわかった。
【0006】
従来のリチウムイオンバッテリー及びリチウムイオンポリマーバッテリーでは一般的に、熱安定性を向上させ且つカソードとアノードとの間の短絡を防ぐために、ポリオレフィン系セパレーターが単独で又は酸化アルミニウム若しくはセラミック粒子でコーティングして用いられていた。これらのポリオレフィン系セパレーターは、140℃以下の融点を有し、内的及び/又は外的要因によってバッテリーの温度が上昇すると収縮溶融して、短絡する可能性がある。短絡は、電気エネルギーの放出によって引き起こされるバッテリーの爆発や火災のような事故につながる恐れがある。従って、高温において熱収縮を蒙ることのないセパレーターを提供することが必要である。
【0007】
耐熱性及び耐薬品性を向上させるために、フルオロポリマーが、セパレーター自体として用いられたり、バインダーとしてセパレーター上にコーティングされたりしてきた。このようなコーティングされたセパレーターは、米国特許出願公開第2015-0030906号明細書に記載されている。これらのフルオロポリマーバインダー及び接着剤は、非フルオロポリマー接着剤に見られる問題、即ち、カソードにおいて酸化して気体発生やバッテリーの膨張をもたらす傾向があるという問題を解決する。
【0008】
バッテリーセパレーターは、ポリマー及び無機粒子によってコーティングされてきた。無機粒子は、バッテリー部品が多少膨張するのを見越して、セパレーターと隣接する電極との間で空隙をもたらす。米国特許第7662517号明細書、同第7704641号明細書及び米国特許出願公開第2010/0330268号明細書には、溶剤コーティング中の無機粒子用のバインダーとしてのポリフッ化ビニリデン(PVDF)でコーティングされたセパレーターが記載されている。米国特許第9548167号明細書、米国特許出願公開第2016/0133988号明細書及び米国特許出願公開第2015-0030906号明細書には、水性PVDFセパレーターコーティングが記載されている。
【0009】
セパレーターコーティングは、溶剤ベースであっても水性ベースであってもよい。水性コーティングは、環境上の理由と、連続フィルムを形成する溶解したポリマーではなくて離散(ばらばらの)ポリマー粒子の状態を維持して乾燥した多孔質コーティングをもたらすことができるという理由との両方で、好ましい。セパレーターコーティングにおいて有効な水性スラリーは、次の特徴を有するものである:a)水性フルオロポリマーの安定性:十分な保存寿命を有する分散体、b)配合して随意に粉末状材料と混合した後の、スラリーの安定性、c)良好な水性注型を促進するためのスラリーの適切な粘度、及びd)セパレーターに対する十分な接着性(乾燥後に不可逆性のもの)、並びにe)乾燥時にポリオレフィンセパレーター上での発泡性多孔質コーティング。
【0010】
米国特許第7709152号明細書には、2つの異なるポリマーを含有し、一方が親水性機能のための極性基を有するセパレーターコーティングが、記載されている。
【0011】
米国特許出願公開第2012/0189897号明細書には、2つの異なるポリマー粒子をバッテリーセパレーターコーティング中に用いることが記載されており、粒子Aは400nm~10ミクロンの数平均粒度及び65℃超のTgを有し、粒子Bは40~300nmの数平均粒度及び15℃未満のTgを有する。
【0012】
バッテリーについて、特にパウチ型バッテリーについての1つの問題は、充電中に電荷が増加することによって電極、特にアノードの体積が増大することである。膨張が起こった時のためのバッテリー内の空間がほとんど又は全く存在しない場合、電極の体積が増大すると全体としてのバッテリーの厚さが増す。これはしばしばバッテリーの変形をもたらす。
【0013】
米国特許出願公開第2015/0056491号明細書には、無機粒子、接着剤及び有機ポリマー粒子を含有するセパレーターコーティングであって可塑剤によって異なる程度に膨張したものが記載されている(特定粒度に関する記載はない)。ポリマー粒子は可塑剤によって異なるレベルまで予め膨張させておかなければならないので処理工程が追加され、可塑剤はバッテリーの使用中にポリマー粒子の外に移動することがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】米国特許出願公開第2015-0030906号明細書
【文献】米国特許第7662517号明細書
【文献】米国特許第7704641号明細書
【文献】米国特許出願公開第2010/0330268号明細書
【文献】米国特許第9548167号明細書
【文献】米国特許出願公開第2016/0133988号明細書
【文献】米国特許第7709152号明細書
【文献】米国特許出願公開第2012/0189897号明細書
【文献】米国特許出願公開第2015/0056491号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
驚くべきことに、少なくとも2つの異なるサイズ(粒度)のポリマーバインダー粒子を用いて不規則な表面コーティング(不規則な表面形態)を作ることによって、内的膨張のためにバッテリー内に内部空間を作り出すことができることが、ここに見出された。不規則な表面は、内的膨張のための空間を提供し、バッテリーの厚さの変化を最小限に抑え、良好なバッテリー性能を促進する。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、不均一な形態を有する乾燥コーティング組成物によって直接コーティングされた、電気化学的デバイス用多孔質セパレーターであって、
前記乾燥コーティング組成物が、
a)少なくとも2つの異なる重量平均粒度を有する離散ポリマー粒子、及び
b)随意としての電気化学的に安定な無機粒子
を含み、
前記離散ポリマー粒子の小さい方のポリマー粒子画分が1.5ミクロン未満の平均粒度を有し、もう一方の大きい方のポリマー粒子画分が1.5ミクロン超の重量平均粒度を有し、前記大きい方のポリマー粒子及び小さい方のポリマー粒子がそれぞれ独立してフルオロポリマー、ポリアミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリ(メタ)アクリレート、ポリエーテルケトンケトン及びポリエステルより成る群から選択される、前記多孔質セパレーターに関する。
【0017】
本発明はまた、かかるコーティングされたセパレーターを用いたバッテリー、コンデンサ又は膜電極組立体にも関する。
【0018】
本明細書では、発明が明瞭且つ簡潔に書かれるように実施形態を記載しているが、本発明から逸脱することなく実施形態を様々に組み合わせたり分けたりすることが意図され、理解されるだろう。例えば、本明細書に記載されたすべての好ましい特徴は本明細書に記載されたすべての局面に適用可能であることが理解されるだろう。
【0019】
本発明の局面には、以下が含まれる。
【0020】
1. 不均一な表面を有する乾燥コーティング組成物によって直接コーティングされた、電気化学的デバイス用多孔質セパレーターであって、
前記乾燥コーティング組成物が、
a)少なくとも2つの異なる重量平均粒度を有する離散ポリマー粒子、及び
b)随意としての電気化学的に安定な無機粒子
を含み、
前記離散ポリマー粒子の小さい方のポリマー粒子画分が1.5ミクロン未満の平均粒度を有し、もう一方の大きい方のポリマー粒子画分が1.5ミクロン超の重量平均粒度を有し、
前記大きい方のポリマー粒子及び小さい方のポリマー粒子がそれぞれ独立してフルオロポリマー、ポリアミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、ポリエステル及びポリ(メタ)アクリレートより成る群から選択される、前記多孔質セパレーター。
【0021】
2. 前記小さい方のポリマー粒子画分が1.0ミクロン未満の平均粒度を有し、前記もう一方の大きい方のポリマー粒子画分が2.0ミクロン超の重量平均粒度を有する、局面1の多孔質セパレーター。
【0022】
3. 1.5ミクロン未満粒子対1.5ミクロン超粒子の比が少なくとも1:1、好ましくは少なくとも2:1、より一層好ましくは少なくとも3:1である、局面1又は2の多孔質セパレーター。
【0023】
4. 前記大きい方のポリマー粒子と小さい方のポリマー粒子とが同じ化学物質又は異なる化学物質である、局面1~3のいずれかの多孔質セパレーター。
【0024】
5. 前記小さい方のポリマー粒子がポリフッ化ビニリデンのホモポリマー又はコポリマーを含む、局面1~4のいずれかの多孔質セパレーター。
【0025】
6. 前記大きいポリマー粒子及び前記小さいポリマー粒子の両方がフッ化ビニリデンモノマー単位を少なくとも70重量%含むポリフッ化ビニリデンホモポリマー又はコポリマーである、局面1~5のいずれかの多孔質セパレーター。
【0026】
7. 前記小さい粒子が20nm~500nm、好ましくは30nm~300nmの重量平均粒度を有する、局面1~6のいずれかの多孔質セパレーター。
【0027】
8. 前記大きい粒子が前記小さい方の粒子より低い平均Tgを有する、局面1~7のいずれかの多孔質セパレーター。
【0028】
9. 前記小さい粒子が官能化ポリフッ化ビニリデンを含む、局面1~8のいずれかの多孔質セパレーター。
【0029】
10. 前記乾燥コーティング組成物が、大きい粒子を含む表面を0.5~50面積%、好ましくは1~20面積%、より一層好ましくは1~10面積%有する、局面1~9の多孔質セパレーター。
【0030】
11. 電気化学的に安定な無機粒子がポリマー固体及び無機粒子の合計を基準として50~99重量%存在し、前記無機粒子がBaTiO3、Pb(Zr,Ti)O3、Pb1-xLaxZry3(0<x<1、0<y<1)、PbMg 1/3 Nb 2/3 3 、PbTiO3、ハフニウム(HfO、HfO2)、SrTiO3、SnO2、CeO2、MgO、NiO、CaO、ZnO、Y23、Al23、TiO2、SiO2、SiC、ZrO2、ケイ酸ホウ素、BaSO4、ナノクレー、セラミック又はそれらの混合物より成る群から選択される、局面1~10のいずれかの多孔質セパレーター。
【0031】
12. 前記乾燥コーティング組成物が0.5~15ミクロン、好ましくは1~8ミクロン、より一層好ましくは2~4ミクロンの厚さを有する、局面1~11のいずれかの多孔質セパレーター。
【0032】
13. 局面1の多孔質セパレーターを含むバッテリー、コンデンサ、電気二重層コンデンサ、膜電極組立体(MEA)又は燃料電池。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1図1は、無機粒子、大きいポリマー粒子及び小さいポリマー粒子を含有するセパレーターコーティングを有するバッテリー形態の概略図である。
図2図2は、Nicomp 380レーザー光散乱及びSEMによって測定した重量平均粒度の図である。
図3図3は、例2の粒度分布のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0034】
技術的問題点
【0035】
本発明は、先行技術の問題点を解決するためのものであり、従って、本発明の目的は、バッテリーセパレーターとバッテリー電極との間に空隙を提供して、バッテリーの外寸をほとんど又は全く変化させることなく、充電/放電サイクルの間にバッテリー部品が膨張することを可能にすることである。
【0036】
技術的解決策
【0037】
上記目的を達成するために、本発明は、少なくとも2つの異なる平均サイズのポリマー粒子を有するセパレーターコーティングを提供して、セパレーター上に不規則な表面を作り出すものである。
【0038】
「コポリマー」とは、2つ以上の異なるモノマー単位を有するポリマーを意味するために用いられる。「ポリマー」とは、ホモポリマー及びコポリマーの両方を意味するために用いられる。ポリマーは、直鎖、分岐鎖、星型、櫛型、ブロック又は他の任意の構造であってもよい。ポリマーは、均質であっても不均質であってもよく、コモノマー単位の分布に勾配(変化)を有していてもよい。ここに挙げるすべての文献は、参考用に本明細書に取り入れられる。本明細書で用いた時に、別段の記載がない限り、%は重量%を意味する。別段の記載がない限り、分子量は、ポリメチルメタクリレート標準物質を用いてGPCによって測定される重量平均分子量である。ポリマーが多少の架橋を含有する場合及び不溶性ポリマー画分のせいでGPCが適用できない場合には、抽出後の可溶性画分/ゲル画分又は可溶性画分分子量を用いる。
【0039】
セパレーターコーティング組成物
【0040】
バッテリーセパレーターコーティング組成物は、平均粒度が異なる少なくとも2種の異なるポリマー粒子、随意としての電気化学的に安定な無機粒子及び随意としての他の添加剤を、溶媒中、好ましくは水中に含む。
【0041】
ポリマーバインダー粒子
【0042】
用いるポリマーバインダーは、バッテリー内の厳しい環境に耐えることができ且つ容易に加工してコーティングにすることができるものである限り、特に制限されるものではない。好ましいポリマーには、限定されるものではないが、ポリアミド、フルオロポリマー、ポリエーテルケトンケトン、ポリエーテルエーテルケトン及びポリエステルが含まれる。また、特に大きい方のサイズのポリマー粒子については、ポリ(メタ)アクリレートもバインダー粒子として用いることができる。好ましいポリ(メタ)アクリレートは、60℃未満のTg、好ましくは50℃未満のTg、より一層好ましくは25℃未満のTgを有する。好ましいバインダーポリマーはすべて、60℃未満のTg、好ましくは35℃未満のTgを有する。バインダー粒子はまた、アクリル変性フルオロポリマー混成物であることもできる。1つの実施形態において、前記粒子は、多孔質であることができ、これは良好なイオン移動を提供する。
【0043】
好ましい実施形態において、小さい粒度のバインダーは、ポリフッ化ビニリデンホモポリマー又はコポリマーである。本明細書で用いた時、用語「フッ化ビニリデンポリマー」(PVDF)には、共に通常高分子量のホモポリマー、コポリマー及びターポリマーがその意味内で含まれる。PVDFのコポリマーは、より柔らかく、より低いTm及び融点を有し且つ低結晶性構造を有するため、特に好ましい。かかるコポリマーには、少なくとも50モル%、好ましくは少なくとも75モル%、より一層好ましくは少なくとも80モル%、さらにより一層好ましくは少なくとも85モル%の割合でフッ化ビニリデンを、テトラフルオロエチレン、トリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロペン、フッ化ビニル、ペンタフルオロプロペン、テトラフルオロプロペン、ペルフルオロメチルビニルエーテル、ペルフルオロプロピルビニルエーテル及びその他のフッ化ビニリデンと容易に共重合する任意のモノマーより成る群から選択される少なくとも1種のコモノマーと共重合させたものが含まれる。少なくとも約70モル%~90モル%までのフッ化ビニリデンと、対応して10~30モル%のヘキサフルオロプロペンとから成るコポリマーが特に好ましい。また、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロピロペンとテトラフルオロエチレンとのターポリマーも、ここに具現化されるフッ化ビニリデンコポリマーの類の代表例である。
【0044】
1つの実施形態においては、20重量%まで、好ましくは15重量%までのヘキサフルオロプロペン(HFP)単位と、80重量%以上、好ましくは85重量%以上のVDF単位とを、フッ化ビニリデンポリマー中に存在させる。PVDF-HFPコポリマーにバッテリー中等の最終用途環境中における優れた寸法安定性を提供するためには、HFP単位をできるだけ均質に分布させるのが望ましい。
【0045】
セパレーターコーティング組成物中に用いるためのPVDFのコポリマーは、高分子量を有するのが好ましい。本明細書において用いた時、高分子量とは、PVDFが、ASTM法D-3835に従って450°F、100秒-1で測定して、1.0キロポアズ超、好ましくは5キロポアズ超、より一層好ましくは10キロポアズ超、さらには20キロポアズ超の溶融粘度を有することを意味する。
【0046】
PVDFはまた、接着性を向上させるために官能化されていてもよい。官能化は、官能性コモノマーを用いることによって、又は米国特許出願第62/483536号の明細書に記載されたようなポリアクリル酸他の官能性連鎖移動剤を用いることによって、行うことができる。
【0047】
本発明において用いられるPVDFのコポリマーは、水性フリーラジカル乳化重合によって調製するのが好ましいが、懸濁重合法、溶液重合法及び超臨界CO2重合法を用いることもできる。一般的な乳化重合法では、反応器に脱イオン水、重合の間反応成分の混合物を乳化させておくことができる水溶性界面活性剤及び随意としてのパラフィンワックス防汚剤を装填する。この混合物を撹拌し、酸素を除去する。次いでこの反応器に所定量の連鎖移動剤(CTA)を導入し、反応器の温度を所望のレベルまで上昇させ、この反応器にフッ化ビニリデン及び1種以上のコモノマーを供給する。初期装填分のモノマーを導入し、反応器内の圧力を所望レベルに到達させたら、重合反応を開始させるために開始剤エマルション又は溶液を導入する。反応の温度は、用いた開始剤の特徴に応じて変えることができ、当業者であればそのやり方を知っているだろう。一般的には、この温度は約30℃~150℃、好ましくは約60℃~110℃であろう。反応器中のポリマーの量が所望量に達したら、モノマーの供給を停止するが、しかし残留モノマーを消費させるためには開始剤の供給を随意に継続する。残留ガス(未反応モノマーを含有)を排気し、ラテックスを反応器から回収する。
【0048】
重合において用いられる界面活性剤は、PVDF乳化重合において有用であることが当技術分野において知られている任意の界面活性剤であることができ、ペルフッ素化界面活性剤、部分フッ素化界面活性剤及び非フッ素化界面活性剤が含まれる。好ましくは、規制上の理由で、本発明のPVDFエマルションは、フッ素化界面活性剤なしで作られる。PVDF重合において有用な非フッ素化界面活性剤は、イオン性であっても非イオン性であってもよく、限定されるものではないが、3-アリルオキシ-2-ヒドロキシ-1-プロパンスルホン酸塩、ポリビニルホスホン酸、ポリアクリル酸、ポリビニルスルホン酸及びそれらの塩、ポリエチレングリコール及び/又はポリプロピレングリコール並びにそれらのブロックコポリマー、アルキルホスホネート並びにシロキサン系界面活性剤が含まれる。
【0049】
PVDF重合により、一般的に10~60重量%、好ましくは10~50重量%の固形分レベルを有し、且つ1ミクロン未満、好ましくは500nm未満、好ましくは400nm未満、より一層好ましくは300nm未満の重量平均粒度を有するラテックスが得られる。この重量平均粒度は、一般的に少なくとも20nm、好ましくは少なくとも50nmである。本発明の組成物は、水100重量部当たり2~150重量部、好ましくは1~25重量部のPVDFコポリマーバインダー粒子を含有する。また、結合特性を向上させて不可逆的な連結及び接着をもたらすために、追加の接着促進剤を加えてもよい。凍結融解安定性を向上させるために、PVDFラテックスにエチレングリコール等の1種以上の他の水混和性溶媒を少量混合することができる。
【0050】
2つの異なるサイズのポリマー粒子は、一般的に別々に合成され、次いで所望の比でブレンドされる。本発明において有用な2モードの粒度分布は、当技術分野において周知の手段によって連続式の反応で、例えば合成反応の途中で温度を変えたり、遅延供給において開始剤のタイプや量を変えたりすることによって、達成することが可能である。
【0051】
大きい方のサイズのポリマー粒子画分もまたフルオロポリマーであることができ、1つの実施形態においてはポリフッ化ビニリデンポリマーでもある。1つの実施形態においては、接着性を向上させるために、大きい方の粒子のTgは小さい方の粒子のTgより小さいものとする。
【0052】
少なくとも2つの異なるサイズのポリマー粒子は、化学的に同一であっても異なっていてもよく、良好な接着のために相溶性であるのが好ましい。1つの実施形態において、前記ポリマーはそれぞれポリフッ化ビニリデンホモポリマー又はコポリマーである。小さい方の粒度の画分は、1.5ミクロン未満、好ましくは1.0ミクロン未満、より一層好ましくは500nm未満、より一層好ましくは300nm未満の重量平均粒度を有する。小さい粒度の画分は、主としてバインダーとしての働きをし、無機粒子をセパレーターに接着させる。小さい粒子は一般的に離散粒子であるが、20重量%未満、好ましくは10重量%未満、より一層好ましくは5重量%未満の少量の凝集物が存在していてもよい。
【0053】
大きい粒度の画分は、1.5μm超、好ましくは2~20μm、特に好ましくは3~10μmの平均粒度を有する。この粒度は、個別のポリマー粒子についてのものであることもでき、小さい粒子の凝集物の平均粒度であってもよい。大きい方のサイズの粒子は、主として粗いコーティング表面を提供するために用いられ、接着性や熱安定性のためにはあまり用いられない。1つの実施形態において、大きいポリマー粒子は、より良好な接着性のために、小さい粒子の画分のポリマーより低いTg及び/又はより低い結晶度を有する。
【0054】
それぞれのポリマー画分内の粒度分布は狭いのが好ましく、少なくとも60%、好ましくは少なくとも80%の粒子が平均粒度から±20%未満である。もしも粒度分布が広いと、粒子パッキング、及び粒子間の空隙の量が小さくなり、コーティングの気孔率が低下する。従って、多モードの粒度分布も可能ではあるが、粒度分布が2モードであり、粒度分布が狭いのが好ましい。
【0055】
乾燥ポリマーコーティングにおいては、コーティング表面の0.5~50%が表面上に付着した大きい粒子であり、より一層好ましくは1~20面積%、特に好ましくは表面積の1~10%が大きい粒子である。
【0056】
一般的に、ポリマー粒子の総重量を基準とした小さいポリマー粒子画分の重量%は、大きい粒子の重量画分のものより大きく、より一層好ましくは、小さい粒子対大きい粒子の重量比は2:1であり、より一層好ましくは3:1である。
【0057】
無機粒子
【0058】
前記セパレーターコーティングは、随意に、電気化学的に安定な無機粒子を含有する。セパレーターコーティングは、無機粒子をほとんど又は全く用いずに主としてポリマーバインダーと共に用いることもできるが、好ましい実施形態においては、前記コーティングは電気化学的に安定な粒子を含有する。好ましくは、無機粒子がセパレーターコーティング組成物の最大体積%を構成することができる。無機粒子はセパレーターに機械的な安定を提供する。前記粒子は球形であることができるが、大抵は不規則形状である。
【0059】
コーティング組成物中の無機粒子は、それらの間で隙間体積が形成されることを可能にし、それによって、微細孔を形成し且つスペーサーとして物理的形状を維持するのを助ける。追加的に、無機粒子はそれらの物理的特性が200℃以上の高温においてさえ変化しないという特徴を有するので、無機粒子を用いてコーティングされたセパレーターは、優れた耐熱性を有する。無機粒子は、粒子又はファイバーの形にあってよい。また、それらの混合物も期待される。
【0060】
前記無機材料は、電気化学的に安定でなければならない(駆動電圧範囲において酸化及び/又は還元を受けない)。さらに、前記無機材料は、高いイオン伝導性を有するのが好ましい。製造されるバッテリーの重量を下げることができるので、高密度の材料より低密度の材料の方が好ましい。誘電率は5以上であるのが好ましい。本発明において有用な無機粒子材料には、限定されるものではないが、BaTiO3、Pb(Zr,Ti)O3、Pb1-xLaxZry3(0<x<1、0<y<1)、PbMg 1/3 Nb 2/3 3 、PbTiO3、ハフニウム(HfO、HfO2)、SrTiO3、SnO2、CeO2、MgO、NiO、CaO、ZnO、Y23、Al23、TiO2、SiO2、SiC、ZrO2、ケイ酸ホウ素、BaSO4、ナノクレー、セラミック又はそれらの混合物が含まれる。有用な有機ファイバーには、限定されるものではないが、アラミドフィラー及びファイバー、ポリエーテルエーテルケトン及びポリエーテルケトンケトンファイバー、PTFEファイバー並びにナノファイバーが含まれる。
【0061】
1つの実施形態においては、前記粒子又はファイバーを、化学的に(例えばエッチング若しくは官能化)、機械的に、又は放射線照射(例えばプラズマ処理)によって、表面処理してもよい。
【0062】
前記無機粒子は、0.001~10ミクロンの平均直径を有するのが好ましい。好ましくは、ファイバーは1ミクロンより小さい直径を有し、ファイバーの重なりは厚さが約4~5ミクロンを越えないものとする。サイズが0.001ミクロン未満である場合には、粒子は分散性が低くなる。サイズが10ミクロン超である場合には、同じ固形分含有率においてコーティングの厚さが増し、機械的特性の劣化がもたらされる。さらに、細孔が大きすぎると、充電/放電サイクルの繰り返しの間に内部短絡が発生する可能性が高くなる。
【0063】
前記無機粒子は、ポリマー固体及び無機粒子の合計を基準として50~99重量%、好ましくは60~95重量%の割合でコーティング組成物中に存在させる。無機材料の含有量が50重量%未満だと、多量のPVDFバインダーポリマーが存在することとなるため、無機粒子の間に形成される隙間体積が減少し且つ細孔サイズ(孔径)及び気孔率が低下し、その結果としてバッテリーの品質の低下がもたらされる。この問題を回避するために、コーティングの合計固体含有率を低いレベルに調節することができる。無機粒子の含有量が99重量%超だと、ポリマー含有量が低すぎて、粒子間の十分な接着をもたらすことができず、その結果として、最終的に形成されるコーティングされたセパレーターの機械的特性の低下がもたらされる。
【0064】
その他の添加剤
【0065】
本発明のコーティング組成物は、その他の添加剤を有効量でさらに含有することができ、この添加剤には、限定するものではないが、フィラー、平滑化剤、消泡剤、pH緩衝剤及び、所望のセパレーター要件を満たしつつ水性配合物中に一般的に用いられるその他の補助剤が含まれる。
【0066】
本発明の水性スラリーコーティング組成物は、沈降防止剤、湿潤剤、増粘剤又はレオロジー調節剤及び一時的接着促進剤をさらに有することができる。
【0067】
沈降防止剤及び/又は界面活性剤は、水100部当たり0~10部、好ましくは0.1~10部、より一層好ましくは0.5~5部存在させることができる。1つの実施形態において、沈降防止剤又は界面活性剤のレベルは、水100部当たり2.7~10部とする。これらの沈降防止剤又は界面活性剤は、一般的に貯蔵安定性を向上させ、スラリー調製の間の追加の安定化を提供するために、重合後のPVDF分散体に加えられる。重合プロセスの間にも、本発明において用いられる界面活性剤/沈降防止剤は、重合前にすべて前もって加えてもよく、重合中に連続的に供給してもよく、重合の前と後に部分的に供給してもよく、また、重合が開始してしばらく進行させた後に供給してもよい。
【0068】
有用な沈降防止剤には、限定されるものではないが、アルキル硫酸、スルホン酸、リン酸又はホスホン酸の塩(例えばラウリル硫酸ナトリウム及びラウリル硫酸アンモニウム等)並びに部分的にフッ素化されたアルキル硫酸、カルボン酸、リン酸又はホスホン酸の塩(例えばDuPont社よりCAPSTONEのブランド名で販売されているもの等)等のイオン性物質、並びにTRITON Xシリーズ(Dow社)及びPLURONICシリーズ(BASF社)等の非イオン性界面活性剤が含まれる。1つの実施形態においては、アニオン性界面活性剤のみが用いられる。重合プロセスからの残留界面活性剤又は水性分散体を形成若しくは濃縮するに当たっての追加の後重合において、組成物中にフッ素化界面活性剤を存在させないのが好ましい。
【0069】
湿潤剤は、水100部当たり0~5部、好ましくは0~3部の割合で1種以上の湿潤剤をコーティング組成物スラリー中に存在させることができる。界面活性剤は湿潤剤としての働きをすることができるが、しかし湿潤剤には界面活性剤ではないものも含まれ得る。ある実施形態において、湿潤剤は有機溶剤であることができる。随意としての湿潤剤を存在させることによって、フッ化ビニリデンポリマーの水性分散体中への粉末状材料の均一な分散が可能になる。有用な湿潤剤には、限定されるものではないが、イオン性及び非イオン性界面活性剤、例えばTRITONシリーズ(Dow社)及びPLURONICシリーズ(BASF社)、BYK-346(BYK Additives社)、並びに前記水性分散体と相溶性の有機液体(限定されるものではないが、NMP、DMSO及びアセトンを含む)が含まれる。
【0070】
増粘剤及び/又はレオロジー調節剤は、水100部当たりに1種以上の増粘剤又はレオロジー調節剤0~10部、好ましくは0~5部の割合でコーティング組成物中に存在させることができる。上記分散体に水溶性の増粘剤又はレオロジー調節剤を加えることによって、注型プロセスのために好適なスラリー粘度を提供しつつ、粉末状材料の沈降を防止又は減速させる。有用な増粘剤には、限定されるものではないが、ACRYSOLシリーズ(Dow Chemical社);部分的に中和したポリ(アクリル酸)又はポリ(メタクリル酸)、例えばCARBOPOL(Lubrizol社);及びカルボキシル化アルキルセルロース、例えばカルボキシル化メチルセルロース(CMC)が含まれる。配合物のpHを調節することにより、一部の増粘剤の有効性を向上させることができる。有機レオロジー調節剤に加えて、無機レオロジー調節剤を単独で又は組合せとして用いることもできる。有用な無機レオロジー調節剤には、限定されるものではないが、モンモリロナイト及びベントナイト等の天然クレー、ラポナイト等の人工クレー、並びにその他のもの、例えばシリカ及びタルクが含まれる。
【0071】
一時的接着促進剤は、本発明の組成物から形成されるコーティングに必要な接着性をもたらすために、存在させるのが好ましい。本明細書において「一時的接着促進剤」とは、多孔質の基材上にコーティングした後に組成物の接着性を高める物質を意味する。一時的接着促進剤は、その後、(化学物質については)蒸発によって又は(加えたエネルギーについては)消散によって、形成させた基材から除去することができる。
【0072】
一時的接着促進剤は、化学物質、圧力と組み合わされたエネルギー源、又はそれらの組合せであることができ、コーティング形成の際に水性組成物の成分の相互連結を引き起こすのに有効な量で用いることができる。化学的な一時的接着促進剤については、水100部当たり0~150部、好ましくは1~100部、より一層好ましくは2~30部の割合で1種以上の一時的接着促進剤を組成物中に含有させる。好ましくは、これは水中に可溶又は混和性の有機液体である。この有機液体は、PVDF粒子についての可塑剤としての働きをし、PVDF粒子を粘着性にして乾燥ステップの際に飛び飛びの接着点としての働きができるようにする。前記PVDFポリマー粒子は、製造の間に軟化し、流動し、セパレーター及び随意に粉末状材料に接着して、不可逆的な高い接着性及び連結性を有するセパレーターコーティングをもたらす。1つの実施形態において、前記有機液体は、潜伏性溶剤であり、これは、室温においてはPVDF樹脂を溶解させたり実質的に膨潤させたりすることはないがしかし高温においてはPVDF樹脂を溶媒和させるであろう溶剤である。1つの実施形態において、有用な有機溶剤は、N-メチル-2-ピロリドンである。他の有用な一時的接着促進剤には、限定されるものではないが、ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ヘキサメチルホスファミド、ジオキサン、テトラヒドロフラン、テトラメチル尿素、リン酸トリエチル、リン酸トリメチル、コハク酸ジメチル、コハク酸ジエチル及びテトラエチル尿素が含まれる。
【0073】
多孔質セパレーター
【0074】
多孔質セパレーターは、少なくとも1つの面上を前記コーティング組成物でコーティングされる。本発明の水性コーティング組成物によってコーティングされるセパレーター基材を選択するに当たっては、細孔を有する多孔質基材である限り、特に制限はない。好ましくは、前記基材は200℃超の融点を有する耐熱性多孔質基材である。かかる耐熱性多孔質基材は、外的及び/又は内的な熱衝撃の下でのコーティングされたセパレーターの熱安全性を向上させることができる。
【0075】
前記多孔質基材は、膜の形又は繊維ウエブの形を採ることができる。多孔質基材が繊維状である場合、スパンボンド式又はメルトブロウン式のウエブ等の多孔質ウエブを形成する不織ウエブであることができる。
【0076】
セパレーターとして本発明において有用な多孔質基材の例には、限定されるものではないが、ポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエステル、ポリアセタール、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルフィド、ポリエチレンナフタレン又はそれらの混合物が含まれる。しかしながら、他の耐熱性エンジニアリングプラスチックも特に制限なく用いることができる。また、天然物質及び合成物質の不織布材料もセパレーターの基材として用いることができる。
【0077】
多孔質基材は一般的に1ミクロン~50ミクロンの厚さを有し、典型的には不織布の注型膜である。多孔質基材は好ましくは5%~95%の範囲の気孔率を有する。細孔サイズ(直径)は、好ましくは0.001ミクロン~50ミクロンの範囲、より一層好ましくは0.01ミクロン~10ミクロンの範囲である。細孔サイズ及び気孔率がそれぞれ0.01ミクロン未満及び5%未満の場合、多孔質基材は抵抗層としての働きをすることがある。細孔サイズ及び気孔率がそれぞれ50ミクロン超及び95%超の場合、機械的特性を維持するのが難しい。
【0078】
本発明の別態様の実施形態において、少なくとも2つの異なる粒度分布(1.5ミクロン未満及び1.5ミクロン超)を有するコーティング組成物を電極上に存在させることによって、不均一な形態を形成させることができる。一般的には、バッテリー中のコーティングされた電極は、コーティングを圧縮するためにカレンダー仕上げされて、平滑な表面が作られる。しかしながら、追加の薄い2モードポリマー粒子コーティングを、無機粒子と共に又は無機粒子なしで、カレンダー仕上げされた電極コーティングの上に置いて不均一な電極表面を作り出し、それによって電極とセパレーターとの間で空隙を提供することができる。1つの実施形態においては、セパレーター及び電極の両方を本発明の2モードコーティング組成物でコーティングして電極の膨張のための空隙を作り出すことができる。
【0079】
コーティング方法
【0080】
前記水性コーティング組成物は、多孔質基材の少なくとも1つの表面上に、当技術分野において周知の手段、例えばブラシ、ローラー、インクジェット、ディップ、ナイフ、グラビア、ワイヤーロッド、スキージ、フォームアプリケーター、カーテンコーティング、真空コーティング又はスプレー等によって、塗布される。次いで、セパレーター上で室温又は高温においてコーティングを乾燥させる。最終的な乾燥コーティングの厚さは、0.5~15ミクロン、好ましくは1~8ミクロン、より一層好ましくは2~4ミクロンの厚さである。
【0081】
本発明のセパレーターは、当技術分野において周知の手段によって、バッテリー、コンデンサ、電気二重層コンデンサ、膜電極組立体(MEA)又は燃料電池等の電気化学的デバイスを形成させるために、用いることができる。コーティングされたセパレーターの両面に負極及び陽極を配置させることによって、非水性タイプのバッテリーを形成させることができる。
【実施例
【0082】
例1:小さいフルオロポリマー粒子
【0083】
80ガロンのステンレス鋼製反応器中に、脱イオン水345ポンド、約2900g/モルのMnを有するポリ(エチレングリコール)-ブロック-ポリ(プロピレングリコール)-ブロック-ポリ(エチレングリコール)非イオン性界面活性剤66g、及び連鎖移動剤としての10%NOVERITE水溶液3.0ポンドを装填した。排気後、23rpmで撹拌を開始し、反応器を加熱した。反応器温度が100℃の所望設定点に達した後に、フッ化ビニリデン(VDF)の装填を開始した。次いで反応器中にVDF約35ポンドを装填することによって反応器の圧力を650psiに上昇させた。反応器の圧力が安定化した後に、重合を開始させるために、1.0重量%過硫酸カリウム及び1.0重量%酢酸ナトリウムから成る開始剤溶液4.5ポンドを反応器に加えた。開始剤溶液のさらなる添加速度を、概ね毎時60ポンドの最終VDF重合速度が得られてこれが維持されるように、調節した。約165ポンドのVDFが5.2ポンドの10%NOVERITE K-752水溶液と共に反応物中に導入されるまで、VDF重合を続けた。VDFの供給を停止し、残留モノマーを消費するために、開始剤の供給を維持しながらこのバッチを反応温度において低下していく圧力下でそのまま反応させた。25分後に、撹拌を停止して反応器を冷まし、排気し、ラテックスを回収した。回収されたラテックス中の固形分含量は、重量分析技術によって測定して、約30重量%だった。NMP中5%における溶液粘度は、10秒-1の剪断速度で測定して、430cpだった。重量平均粒度は、Nicomp 380により、レーザー光散乱及びSEMによって測定して、200±20nmだった(図2)。樹脂の融点及び融解熱は、ASTM法D-3418に従って測定した。
【0084】
例2:大きいフルオロポリマー粒子:
【0085】
80ガロンのステンレス鋼製反応器中に、脱イオン水345ポンド、PLURONIC 31R1(BASF社から入手した非フッ素化非イオン性界面活性剤)250g及び酢酸エチル0.35ポンドを装填した。排気後、23rpmで撹拌を開始し、反応器を加熱した。反応器温度が100℃の所望設定点に達した後に、VDF及びHFPモノマーを、全モノマーの13.2重量%のHFP比で、反応器に導入した。次いで反応器中に全モノマー約35ポンドを装填することによって反応器の圧力を650psiに上昇させた。反応器の圧力が安定化した後に、重合を開始させるために、1.0重量%過硫酸カリウム及び1.0重量%酢酸ナトリウムから成る開始剤溶液3.5ポンドを反応器に加えた。開始の際に、HFP対VDFの比を、供給物中の全モノマーに対するHFPの割合が4.4%に達するように、調節した。また、開始剤溶液のさらなる添加速度を、概ね毎時90ポンドの最終合計VDF及びHFP重合速度が得られてこれが維持されるように、調節した。約160ポンドのモノマーが反応物中に導入されるまで、VDF及びHFP共重合を続けた。HFPの供給を停止し、しかしVDFの供給は全モノマー約180ポンドが反応器に供給されるまで続けた。VDFの供給を停止し、残留モノマーを消費するために、このバッチを反応温度において低下していく圧力下でそのまま反応させた。40分後に、開始剤の供給及び撹拌を停止し、反応器を冷まし、排気し、ラテックスを回収した。回収されたラテックス中の固形分含量は、重量分析技術によって測定して、約32重量%だった。溶融粘度は、ASTM法D-3835に従って450°F、100秒-1において測定して、約38kpだった。樹脂の融点は、ASTM法D-3418に従って測定して、約152℃であることがわかった。重量平均粒度は、NICOMPレーザー光散乱装置によって測定して、約160nmであることがわかった。
【0086】
前記ラテックスを貯蔵のためにスプレードライして粉体の形にした。この粉体を水中に分散させ、粒度分析したところ、粒度分布が非常に均一であり、8~9ミクロンの重量平均粒度を有することがわかった。
【0087】
例3:大きい非フルオロポリマー粒子:
【0088】
1.5ミクロン超の重量平均粒度を有する大きい方のポリマー粒子画分として、Arkema社からのポリアミドの微粉末Orgosol(登録商標)を用いた。
【0089】
例4:コーティングされたPEセパレーター:
【0090】
PEセパレーターをコーティングするために、大きい粒度又は小さい粒度を有する3つの異なるポリマーの組合せを用いる。これらのPEセパレーターを用いてバッテリーを作り、サイクル使用可能性試験を行った。電池性能を表1にまとめる。
【0091】
【表1】
図1
図2
図3