(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-15
(54)【発明の名称】合わせガラス用中間膜、及び合わせガラス
(51)【国際特許分類】
C03C 27/12 20060101AFI20231108BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20231108BHJP
C08K 5/09 20060101ALI20231108BHJP
C08L 29/14 20060101ALI20231108BHJP
【FI】
C03C27/12 D
C03C27/12 N
C08L101/00
C08K5/09
C08L29/14
(21)【出願番号】P 2020526632
(86)(22)【出願日】2020-01-08
(86)【国際出願番号】 JP2020000350
(87)【国際公開番号】W WO2020145322
(87)【国際公開日】2020-07-16
【審査請求日】2022-10-04
(31)【優先権主張番号】P 2019002212
(32)【優先日】2019-01-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100129746
【氏名又は名称】虎山 滋郎
(72)【発明者】
【氏名】太田 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】野原 敦
(72)【発明者】
【氏名】中島 大輔
【審査官】有田 恭子
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-119687(JP,A)
【文献】特開2015-040165(JP,A)
【文献】特表2007-529598(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 27/00- 29/00
C08K 3/00- 13/08
C08L 1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂と、カルボン酸と、アルカリ金属及びアルカリ土類金属からなる群から選択される少なくとも1種の金属とを含有する合わせガラス用中間膜であって、
ICP発光分光分析法によって測定される、合わせガラス用中間膜におけるアルカリ金属及びアルカリ土類金属の単位体積当たりのモル濃度をA(mol/m
3)、ガスクロマトグラフィー質量分析法(GC-MS)によって測定される、合わせガラス用中間膜におけるカルボン酸の単位体積あたりのモル濃度をB(mol/m
3)とし、
合わせガラス用中間膜0.5gにTHF9mL、及び1mol/Lの塩酸水溶液0.2mLを加え23℃で12時間放置した後にガスクロマトグラフィー質量分析法(GC-MS)によって測定される合わせガラス用中間膜におけるカルボン酸の単位体積あたりのモル濃度をY(mol/m
3)とし、
モル濃度Yからモル濃度Bを減じて得られるカルボン酸の単位体積あたりのモル濃度をD(mol/m
3)とすると、
モル濃度Aが0.35mol/m
3より大きく1.00mol/m
3未満であり、
(1-D/A)×100で表されるカルボン酸遊離率(1)が40%以下である、合わせガラス用中間膜。
【請求項2】
熱可塑性樹脂と、カルボン酸と、アルカリ金属及びアルカリ土類金属からなる群から選択される少なくとも1種の金属とを含有する合わせガラス用中間膜であって、
ICP発光分光分析法によって測定される、合わせガラス用中間膜におけるアルカリ金属及びアルカリ土類金属の単位体積当たりのモル濃度をA(mol/m
3)、ガスクロマトグラフィー質量分析法(GC-MS)によって測定される、合わせガラス用中間膜におけるカルボン酸の単位体積あたりのモル濃度をB(mol/m
3)とすると、
モル濃度Aが0.35mol/m
3より大きく1.00mol/m
3未満であり、
B/A×100で表されるカルボン酸遊離率(2)が40%以下である、合わせガラス用中間膜。
【請求項3】
熱可塑性樹脂と、カルボン酸と、アルカリ金属及びアルカリ土類金属からなる群から選択される少なくとも1種の金属と、さらに2-エチルヘキサン酸とを含有する合わせガラス用中間膜であって、
ICP発光分光分析法によって測定される、合わせガラス用中間膜におけるアルカリ金属及びアルカリ土類金属の単位体積当たりのモル濃度をA(mol/m
3)、ガスクロマトグラフィー質量分析法(GC-MS)によって測定される、合わせガラス用中間膜における2-エチルヘキサン酸以外のカルボン酸の単位体積あたりのモル濃度をB’(mol/m
3)とし、
合わせガラス用中間膜0.5gに、THF9mL、及び1mol/L塩酸0.2mLを加え23℃で12時間放置した後にガスクロマトグラフィー質量分析法(GC-MS)によって測定される、合わせガラス用中間膜における2-エチルヘキサン酸以外のカルボン酸の単位体積あたりのモル濃度をY’(mol/m
3)とし、
モル濃度Y’からモル濃度B’を減じて得られるカルボン酸の単位体積あたりのモル濃度をD’(mol/m
3)とすると、
モル濃度Aが0.35mol/m
3より大きく1.00mol/m
3未満であり、
(1-D’/A)×100で表されるカルボン酸遊離率(3)が40%以下である、合わせガラス用中間膜。
【請求項4】
熱可塑性樹脂と、カルボン酸と、アルカリ金属及びアルカリ土類金属からなる群から選択される少なくとも1種の金属と、さらに2-エチルヘキサン酸とを含有する合わせガラス用中間膜であって、
ICP発光分光分析法によって測定される、合わせガラス用中間膜におけるアルカリ金属及びアルカリ土類金属の単位体積当たりのモル濃度をA(mol/m
3)、ガスクロマトグラフィー質量分析法(GC-MS)によって測定される、合わせガラス用中間膜における2-エチルヘキサン酸以外のカルボン酸カルボン酸の単位体積あたりのモル濃度をB’(mol/m
3)とすると、
モル濃度Aが0.35mol/m
3より大きく1.00mol/m
3未満であり、
B’/A×100で表されるカルボン酸遊離率(4)が40%以下である、合わせガラス用中間膜。
【請求項5】
前記金属がカリウムを含む請求項1~4いずれか1項に記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項6】
ICP発光分光分析法によって測定される、合わせガラス用中間膜におけるカリウムの単位体積当たりのモル濃度をC(mol/m
3)とすると、C/Aが0.6以上である請求項5に記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項7】
前記カルボン酸が酢酸を含む請求項1~6のいずれか1項に記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項8】
ギ酸の含有量が前記熱可塑性樹脂100質量部に対して0.2質量部以下である、請求項1~7のいずれか1項に記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項9】
前記熱可塑性樹脂がポリビニルアセタール樹脂である請求項1~8のいずれか1項に記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項10】
発光材料をさらに含む請求項1~9のいずれか1項に記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項11】
前記発光材料がテレフタル酸エステル構造を有する請求項10に記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1項に記載の合わせガラス用中間膜と、2枚のガラス板とを備え、前記合わせガラス用中間膜が、前記2枚のガラス板の間に配置される合わせガラス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合わせガラス用中間膜、及び合わせガラス用中間膜を有する合わせガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
合わせガラスは、外部衝撃を受けて破損してもガラスの破片が飛散することが少なく安全であるため、自動車等の各種乗り物の窓ガラスや、建築物等の窓ガラスに広く使用されている。合わせガラスとしては、一対のガラス間に、ポリビニルアセタール樹脂などの樹脂成分を含む合わせガラス用中間膜を介在させ、一体化させたものが広く知られている。
【0003】
合わせガラス用中間膜は、ガラスと中間膜との接着力が小さい場合には、衝撃によって破損したガラスが中間膜より剥がれて飛び散ってしまい、接着力が大きい場合には、ガラスと中間膜が同時に破損して貫通が起こる。そのため、合わせガラス用中間膜は、ガラスとの接着力を適正な範囲内に調整する必要があり、接着力調整剤が配合されることが知られている。接着力調整剤としては、カルボン酸のカリウム塩、ナトリウム塩、マグネシウム塩などが知られている(例えば、特許文献1~4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2001-504429号公報
【文献】特表2007-529598号公報
【文献】特表2008-518806号公報
【文献】特表平6-502595号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、合わせガラス用中間膜に接着力調整剤を配合すると、耐湿性が低下することがあり、例えば、高温多湿の環境下で長期間使用すると、周縁部から白化が発生することがある。一方で、耐湿性が良好となるように接着力調整剤の配合量を少なくすると、接着力を適正な範囲内に調整できないことがある。
そこで、本発明は、接着力調整剤を配合して、接着力を適正な範囲内に調整しつつ、耐湿性も良好にできる合わせガラス用中間膜を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意検討の結果、接着力調整剤としてカルボン酸アルカリ金属塩、又はカルボン酸アルカリ土類金属塩の少なくともいずれかを使用した場合、カルボン酸金属塩からカルボン酸が遊離されること、かつ中間膜におけるカルボン酸の遊離率を一定値以下に抑制することで上記課題を解決できることを見出し、以下の本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下の[1]~[12]を提供する。
[1]熱可塑性樹脂と、カルボン酸と、アルカリ金属及びアルカリ土類金属からなる群から選択される少なくとも1種の金属とを含有する合わせガラス用中間膜であって、
ICP発光分光分析法によって測定される、合わせガラス用中間膜におけるアルカリ金属及びアルカリ土類金属の単位体積当たりのモル濃度をA(mol/m3)、ガスクロマトグラフィー質量分析法(GC-MS)によって測定される、合わせガラス用中間膜におけるカルボン酸の単位体積あたりのモル濃度をB(mol/m3)とし、
合わせガラス用中間膜0.5gにTHF9mL、及び1mol/Lの塩酸水溶液0.2mLを加え23℃で12時間放置した後にガスクロマトグラフィー質量分析法(GC-MS)によって測定される合わせガラス用中間膜におけるカルボン酸の単位体積あたりのモル濃度をY(mol/m3)とし、
モル濃度Yからモル濃度Bを減じて得られるカルボン酸の単位体積あたりのモル濃度をD(mol/m3)とすると、
モル濃度Aが0.35mol/m3より大きく1.00mol/m3未満であり、
(1-D/A)×100で表されるカルボン酸遊離率(1)が40%以下である、合わせガラス用中間膜。
[2]熱可塑性樹脂と、カルボン酸と、アルカリ金属及びアルカリ土類金属からなる群から選択される少なくとも1種の金属とを含有する合わせガラス用中間膜であって、
ICP発光分光分析法によって測定される、合わせガラス用中間膜におけるアルカリ金属及びアルカリ土類金属の単位体積当たりのモル濃度をA(mol/m3)、ガスクロマトグラフィー質量分析法(GC-MS)によって測定される、合わせガラス用中間膜におけるカルボン酸の単位体積あたりのモル濃度をB(mol/m3)とすると、
モル濃度Aが0.35mol/m3より大きく1.00mol/m3未満であり、
B/A×100で表されるカルボン酸遊離率(2)が40%以下である、合わせガラス用中間膜。
[3]熱可塑性樹脂と、カルボン酸と、アルカリ金属及びアルカリ土類金属からなる群から選択される少なくとも1種の金属と、さらに2-エチルヘキサン酸とを含有する合わせガラス用中間膜であって、
ICP発光分光分析法によって測定される、合わせガラス用中間膜におけるアルカリ金属及びアルカリ土類金属の単位体積当たりのモル濃度をA(mol/m3)、ガスクロマトグラフィー質量分析法(GC-MS)によって測定される、合わせガラス用中間膜における2-エチルヘキサン酸以外のカルボン酸の単位体積あたりのモル濃度をB’(mol/m3)とし、
合わせガラス用中間膜0.5gに、THF9mL、及び1mol/L塩酸0.2mLを加え23℃で12時間放置した後にガスクロマトグラフィー質量分析法(GC-MS)によって測定される、合わせガラス用中間膜における2-エチルヘキサン酸以外のカルボン酸の単位体積あたりのモル濃度をY’(mol/m3)とし、
モル濃度Y’からモル濃度B’を減じて得られるカルボン酸の単位体積あたりのモル濃度をD’(mol/m3)とすると、
モル濃度Aが0.35mol/m3より大きく1.00mol/m3未満であり、
(1-D’/A)×100で表されるカルボン酸遊離率(3)が40%以下である、合わせガラス用中間膜。
[4]熱可塑性樹脂と、カルボン酸と、アルカリ金属及びアルカリ土類金属からなる群から選択される少なくとも1種の金属と、さらに2-エチルヘキサン酸とを含有する合わせガラス用中間膜であって、
ICP発光分光分析法によって測定される、合わせガラス用中間膜におけるアルカリ金属及びアルカリ土類金属の単位体積当たりのモル濃度をA(mol/m3)、ガスクロマトグラフィー質量分析法(GC-MS)によって測定される、合わせガラス用中間膜における2-エチルヘキサン酸以外のカルボン酸カルボン酸の単位体積あたりのモル濃度をB’(mol/m3)とし、
モル濃度Aが0.35mol/m3より大きく1.00mol/m3未満であり、
B’/A×100で表されるカルボン酸遊離率(4)が40%以下である、合わせガラス用中間膜。
[5]前記金属がカリウムを含む上記[1]~[4]いずれか1項に記載の合わせガラス用中間膜。
[6]ICP発光分光分析法によって測定される、合わせガラス用中間膜におけるカリウムの単位体積当たりのモル濃度をC(mol/m3)とすると、C/Aが0.6以上である上記[5]に記載の合わせガラス用中間膜。
[7]前記カルボン酸が酢酸を含む上記[1]~[6]のいずれか1項に記載の合わせガラス用中間膜。
[8]ギ酸の含有量が前記熱可塑性樹脂100質量部に対して0.2質量部以下である、上記[1]~[7]のいずれか1項に記載の合わせガラス用中間膜。
[9]前記熱可塑性樹脂がポリビニルアセタール樹脂である上記[1]~[8]のいずれか1項に記載の合わせガラス用中間膜。
[10]発光材料をさらに含む上記[1]~[9]のいずれか1項に記載の合わせガラス用中間膜。
[11]前記発光材料がテレフタル酸エステル構造を有する上記[10]に記載の合わせガラス用中間膜。
[12]上記[1]~[11]のいずれか1項に記載の合わせガラス用中間膜と、2枚のガラス板とを備え、前記合わせガラス用中間膜が、前記2枚のガラス板の間に配置される合わせガラス。
【発明の効果】
【0007】
本発明の合わせガラス用中間膜によれば、接着力を適正な範囲内に調整しつつ、耐湿性も良好にできるガラス用中間膜を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明について実施形態を用いて詳細に説明する。
<合わせガラス用中間膜>
本発明の合わせガラス用中間膜は、熱可塑性樹脂と、カルボン酸と、アルカリ金属及びアルカリ土類金属からなる群から選択される少なくとも1種の金属(以下、アルカリ金属とアルカリ土類金属を纏めて「アルカリ(土類)金属」ということがある。)とを含有する。以下、合わせガラス用中間膜に含有される各成分についてより詳細に説明する。
【0009】
[アルカリ金属及びアルカリ土類金属からなる群から選択される少なくとも1種の金属]
アルカリ金属は、周期表において第1族に属する金属であり、好ましい具体例としては、ナトリウム、カリウムが挙げられる。また、アルカリ土類金属は、周期表の第2族に属する金属であり、好ましい具体例としてはマグネシウム、カルシウムが挙げられる。
アルカリ(土類)金属は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0010】
上記した金属の中では、アルカリ金属が好ましく、カリウムが特に好ましい。カリウムを使用すると、後述するように、モル濃度A及びカルボン酸遊離率を所定の範囲内に調整することで、耐湿性を良好に維持しつつ接着力を適正な範囲内に調整しやすくなる。また、後述するように、発光材料、特に、テレフタル酸エステル構造を有する発光材料を使用する場合に、発光材料に起因して中間膜が着色することを防止できる。
アルカリ(土類)金属としてカリウムを使用する場合、カリウム単独で使用してもよいし、他の金属と併用してもよい。他の金属と併用する場合、カリウムとマグネシウムを併用することが好ましい。カリウムをマグネシウムと併用することで、接着力を一層適正な範囲内に調整しやすくなる。
アルカリ金属及びアルカリ土類金属からなる群から選択される少なくとも1種の金属は、カルボン酸金属塩由来の金属であることが好ましい。
【0011】
[カルボン酸]
カルボン酸は、炭素数1~16のカルボン酸が挙げられ、好ましくは炭素数2~16のカルボン酸、より好ましくは炭素数2~8のカルボン酸である。カルボン酸としては、特に限定されず、脂肪族、芳香族のいずれでもよいが、好ましくは脂肪族カルボン酸、より好ましくは脂肪族モノカルボン酸である。カルボン酸の好適な具体例としては、酢酸、プロピオン酸、2-エチルブタン酸、2-エチルヘキサン酸などが挙げられ、これらの中では酢酸が特に好ましい。カルボン酸は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
カルボン酸がギ酸を含む場合、経時での黄変を抑制する観点から、ギ酸の含有量は熱可塑性樹脂100質量部に対して0.2質量部以下であることが好ましく、0.1質量部以下であることが好ましい。ギ酸の含有量は少ない方が好ましく、実質的に含まないことが好ましい。
【0012】
本発明では、合わせガラス用中間膜におけるアルカリ金属及びアルカリ土類金属の単位体積当たりのモル濃度をA(mol/m3)とすると、モル濃度Aが0.35mol/m3より大きく1.00mol/m3未満となるものである。モル濃度Aを0.35mol/m3以下とすると金属量が少なすぎて、カルボン酸金属塩により接着力を調整できずに、接着力が大きくなりすぎる不具合が生じることがある。一方で、モル濃度Aを1.00mol/m3以上とすると、金属量が多くなりすぎて、後述する遊離カルボン酸濃度を少なくしても、耐湿性が不十分となり、例えば、高温多湿の環境下で長期間使用すると、合わせガラス用中間膜の周縁部から白化が発生することがある。
なお、モル濃度Aは、ICP発光分光分析法によって測定され、合わせガラス用中間膜に含有されるアルカリ金属原子及びアルカリ土類金属原子の合計モル量に基づいて算出される。
【0013】
モル濃度Aは、接着力をより適正に調整する観点から、0.50mol/m3以上が好ましく、0.70mol/m3以上がより好ましく、0.80mol/m3以上がさらに好ましい。また、モル濃度Aは、耐湿性をより向上させる観点から、0.95mol/m3以下が好ましく、0.90mol/m3以下がより好ましい。
【0014】
カルボン酸は、カルボン酸金属塩由来のカルボン酸であることが好ましいが、カルボン酸金属塩とは別のカルボン酸が含まれていても良い。
カルボン酸金属塩は、カルボン酸と、アルカリ(土類)金属により形成される塩であるが、合わせガラス用中間膜において、カルボン酸とアルカリ(土類)金属は、全てが金属塩を形成してもよいが、一部のみが金属塩を形成してもよい。すなわち、中間膜に含有されるカルボン酸は、一部がアルカリ(土類)金属と金属塩を形成せずに、遊離していることがある。本発明では、中間膜において、アルカリ(土類)金属のモル濃度Aを上記した所定範囲内としつつ、カルボン酸の遊離している割合を少なくすることで、耐湿性を向上させ、かつ接着力を適正な範囲内に調整できる。
【0015】
具体的には、下記のカルボン酸遊離率(1)~(4)のうち、少なくともいずれかのカルボン酸遊離率が40%以下となるものである。
(カルボン酸遊離率(1))
合わせガラス用中間膜における単位体積あたりのカルボン酸のモル濃度をB(mol/m3)とする。また、合わせガラス用中間膜0.5gにTHF9mL、及び1mol/L塩酸0.2mLを加え23℃で12時間放置した後にガスクロマトグラフィー質量分析法(GC-MS)によって測定される合わせガラス用中間膜におけるカルボン酸の単位体積あたりのモル濃度をY(mol/m3)とする。
モル濃度Yからモル濃度Bを減じて得たカルボン酸の単位体積あたりのモル濃度をD(mol/m3)とする。カルボン酸遊離率(1)は、モル濃度A、Dより、((1-D/A)×100)で表される。
【0016】
合わせガラス用中間膜に強酸である塩酸を加えると、中和反応により、合わせガラス用中間膜に配合される、カルボン酸金属塩由来のカルボン酸、及びそれ以外のカルボン酸の全てが、カルボン酸として遊離された状態となる。そのため、合わせガラス用中間膜に強酸を加えた後におけるカルボン酸の単位体積あたりのモル濃度Yは、中間膜に含まれるカルボン酸金属塩由来のカルボン酸、及びそれ以外のカルボン酸の合計モル濃度に等しい。
一方で、モル濃度Bは、合わせガラス用中間膜において、カルボン酸金属塩のうち遊離しているカルボン酸と、カルボン酸金属塩由来以外のカルボン酸の合計量のモル濃度を示す。したがって、モル濃度Yからモル濃度Bを減じたモル濃度Dは、カルボン酸金属塩のうちカルボン酸が遊離していないカルボン酸金属塩の濃度と等しくなる。
よって、合わせガラス用中間膜におけるアルカリ(土類)金属の単位体積当たりのモル濃度をAとすると、「A-D」がカルボン酸金属塩由来の遊離カルボン酸の濃度となる。そして、(A-D)/A×100、すなわち、上記した(1-D/A)×100が、合わせガラス中間膜におけるカルボン酸金属塩由来の遊離カルボン酸の濃度を表したものとなる。
【0017】
(カルボン酸遊離率(2))
カルボン酸遊離率(2)は、アルカリ(土類)金属のモル濃度Aに対するモル濃度Bの割合(B/A×100)で表される。
【0018】
合わせガラス用中間膜は、カルボン酸金属塩以外にカルボン酸を配合しない場合などカルボン酸としてアルカリ(土類)金属由来のカルボン酸以外を実質的に含有しない場合には、合わせガラス用中間膜における単位体積あたりのカルボン酸のモル濃度B(mol/m3)が、カルボン酸金属塩由来の遊離したカルボン酸のモル濃度を実質的に表す。したがって、(B/A×100)も、合わせガラス中間膜におけるカルボン酸金属塩由来の遊離カルボン酸の濃度を表したものといえる。
【0019】
(カルボン酸遊離率(3))
合わせガラス用中間膜合わせガラス用中間膜における単位体積あたりの2-エチルヘキサン酸以外のカルボン酸のモル濃度をB’(mol/m3)とする。また、合わせガラス用中間膜0.5gにTHF9mL、及び1N塩酸0.2mLを加え23℃で12時間放置した後にガスクロマトグラフィー質量分析法(GC-MS)によって測定される、合わせガラス用中間膜における2-エチルヘキサン酸以外のカルボン酸の単位体積あたりのモル濃度Y’(mol/m3)とする。モル濃度Y’からモル濃度B’を減じて得たカルボン酸の単位体積あたりのモル濃度をD’(mol/m3)とすると、カルボン酸遊離率(3)は、((1-D’/A)×100)で表される。
【0020】
(カルボン酸遊離率(4))
アルカリ(土類)金属のモル濃度Aに対するモル濃度B’の割合(B’/A×100)で表される。
【0021】
合わせガラス用中間膜において、可塑剤として一般的に用いられるトリエチレングリコールジ-2-エチルヘキサノエートは、トリエチレングリコールと2-エチルヘキサン酸の脱水縮合反応により合成される。また、加熱等による加水分解により、2-エチルヘキサン酸が生成されることがある。そのため、合わせガラス用中間膜は、一般的に不純物として2-エチルヘキサン酸を含むことがある。したがって、合わせガラス用中間膜が2-エチルヘキサン酸をさらに含む場合には、上記カルボン酸遊離率の算出は、上記(3)、(4)に示すとおりにモル濃度の算出にあたり2-エチルヘキサン酸を予め除いておいてもよい。より具体的には、カルボン酸金属塩由来以外のカルボン酸として2-エチルヘキサン酸を含むことが判明している場合や、カルボン酸金属塩由来以外のカルボン酸として実質的に2-エチルヘキサン酸のみを含むことが判明している場合、上記カルボン酸遊離率の算出は、上記(3)、(4)に示すとおりに行うとよい。なお、カルボン酸遊離率(3)、(4)を算出する場合、カルボン酸金属塩由来のカルボン酸は、2-エチルヘキサン酸以外のカルボン酸であるとよい。
【0022】
カルボン酸遊離率(1)、(2)、(3)又は(4)を40%より高くすると、遊離しているカルボン酸が多くなり、モル濃度Aを上記した範囲内に調整しても、接着力を適正な範囲内に調整することが難しくなる。
カルボン酸遊離率(1)、(2)、(3)又は(4)は、38.5%以下が好ましく、35%以下がより好ましく、30%以下がさらに好ましく、15%以下がよりさらに好ましい。カルボン酸遊離率をこれら上限値以下とすると、耐湿性を良好に維持しつつ接着力を適正な範囲内に調整しやすくなる。
また、カルボン酸遊離率(1)、(2)、(3)又は(4)は、低ければ低いほうがよいが、例えば1%以上であってよいし、実用的には3%以上であってもよい。
なお、カルボン酸のモル濃度D、D’、B及びB’は、ガスクロマトグラフィー質量分析法(GC-MS)によって測定されたカルボン酸量に基づいて算出される。
【0023】
アルカリ(土類)金属は、上述したとおり、カリウムを含むことが特に好ましく、合わせガラス用中間膜におけるカリウムの単位体積当たりのモル濃度をC(mol/m3)とすると、アルカリ(土類)金属のモル濃度Aに対するモル濃度Cの比(C/A)が0.6以上であることが好ましい。
C/Aを0.6以上とすると、耐湿性を良好に維持しつつ、接着力を適正な範囲内に調整しやすくなる。また、C/Aを0.6以上とすると、発光材料、特に、テレフタル酸エステル構造を有する発光材料を使用した場合でも、合わせガラス用中間膜が発光材料に起因して着色することを防止できる。耐湿性及び接着性を良好に維持しつつ、発光材料に起因する着色をより効果的に防止する観点から、C/Aは、0.75以上がより好ましく、0.9以上がさらに好ましく、最も好ましくは1である。
なお、モル濃度Cは、ICP発光分光分析法によって測定されるカリウム原子のモル量に基づいて算出される。
【0024】
上記するモル濃度Dは、0.20mol/m3より大きく0.95mol/m3未満であることが好ましい。モル濃度Dをこのような範囲内とすることで、接着力を適切に調整でき、また、耐湿性が良好となって、高温多湿の環境下で長期間使用しても、中間膜の周縁部で白化が発生しにくくなる。
接着力及び耐湿性の観点から、モル濃度Dは、0.25mol/m3以上が好ましく、0.50mol/m3以上がより好ましく、0.62mol/m3以上がさらに好ましく、また、0.90mol/m3以下が好ましく、0.85mol/m3以下がより好ましく、0.82mol/m3以下がさらに好ましい。
同様の観点から、合わせガラス用中間膜がさらに2-エチルヘキサン酸を含有する場合、モル濃度D’は、0.20mol/m3より大きく0.95mol/m3未満であることが好ましく、0.25mol/m3以上が好ましく、0.50mol/m3以上がより好ましく、0.62mol/m3以上がさらに好ましい。また、0.90mol/m3以下が好ましく、0.85mol/m3以下がより好ましく、0.82mol/m3以下がさらに好ましい。
【0025】
なお、モル濃度B、B’、D、D’の算出においては、カルボン酸、アルカリ(土類)金属の価数を考慮する必要がある。したがって、例えば、アルカリ(土類)金属原子が2価、カルボン酸が1価の場合には、各モル濃度B、B’、D、D’は、各カルボン酸のモル量を2により除して算出される。また、合わせガラス用中間膜に価数の異なるアルカリ(土類)金属原子が含まれ、かつカルボン酸が1価の場合には、カルボン酸のモル量を、中間膜に含まれる各金属のモル量に応じて算出した加重平均の価数により除して、算出すればよい。
【0026】
中間膜に含有されるカルボン酸金属塩の具体例としては、酢酸ナトリウム、プロピオン酸ナトリウム、2-エチルブタン酸ナトリウム、2-エチルヘキサン酸ナトリウム、酢酸カリウム、プロピオン酸カリウム、2-エチルブタン酸カリウム、2-エチルヘキサン酸カリウム等、酢酸マグネシウム、プロピオン酸マグネシウム、2-エチルブタン酸マグネシウム、2-エチルヘキサン酸マグネシウム、酢酸カルシウム、プロピオン酸カルシウム、2-エチルブタン酸カルシウム、2-エチルヘキサン酸カルシウム等が挙げられる。これらの中では、酢酸カリウム、酢酸マグネシウムが好ましく、酢酸カリウムがより好ましい。カルボン酸金属塩は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0027】
[熱可塑性樹脂]
本発明の合わせガラス用中間膜は、熱可塑性樹脂を含有する。合わせガラス用中間膜は、熱可塑性樹脂を含有することで、接着層としての機能を果たしやすくなり、ガラス板との接着性が良好になる。熱可塑性樹脂は、合わせガラス用中間膜におけるマトリックス成分となり、上記したカルボン酸金属塩や後述する発光材料は、熱可塑性樹脂中に分散されている。
熱可塑性樹脂としては、特に限定されないが、例えば、ポリビニルアセタール樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂、アイオノマー樹脂、ポリウレタン樹脂、熱可塑性エラストマーなどが挙げられる。これら樹脂を使用することで、ガラス板との接着性を確保しやすくなる。
本発明の合わせガラス用中間膜において熱可塑性樹脂は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中では、ポリビニルアセタール樹脂及びエチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂から選択される少なくとも1種が好ましく、特に、可塑剤と併用した場合に、ガラスに対して優れた接着性を発揮する点から、ポリビニルアセタール樹脂がより好ましい。
【0028】
(ポリビニルアセタール樹脂)
ポリビニルアセタール樹脂は、ポリビニルアルコールをアルデヒドでアセタール化して得られる。また、ポリビニルアルコールは、例えば、ポリ酢酸ビニルなどのポリビニルエステルをけん化することにより得られる。ポリビニルアセタール樹脂は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0029】
アセタール化に使用するアルデヒドは特に限定されないが、炭素数が1~10のアルデヒドが好適に用いられ、より好ましくは炭素数が2~6のアルデヒド、さらに好ましくは炭素数が4のアルデヒドである。
上記炭素数が1~10のアルデヒドは特に限定されず、例えば、n-ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、n-バレルアルデヒド、2-エチルブチルアルデヒド、n-ヘキシルアルデヒド、n-オクチルアルデヒド、n-ノニルアルデヒド、n-デシルアルデヒド、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ベンズアルデヒド等が挙げられる。なかでも、n-ブチルアルデヒド、n-ヘキシルアルデヒド、n-バレルアルデヒドが好ましく、n-ブチルアルデヒドがより好ましい。これらのアルデヒドは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0030】
また、ポリビニルアルコールとしては、鹸化度80~99.8モル%のポリビニルアルコールが一般的に用いられる。ポリビニルアルコールの平均重合度は、ポリビニルアセタール樹脂の平均重合度を所望の範囲内に調整するために、500以上が好ましく、また、4000以下が好ましい。ポリビニルアルコールの平均重合度は、1000以上がより好ましく、また、3600以下がより好ましい。ポリビニルアルコールの平均重合度は、JIS K6726「ポリビニルアルコール試験方法」に準拠した方法により求められる。
【0031】
ポリビニルアセタール樹脂に含まれているアセタール基の炭素数は特に限定されないが、1~10であることが好ましく、2~6がより好ましく、4がさらに好ましい。アセタール基としては、具体的にはブチラール基が特に好ましく、したがって、ポリビニルアセタール樹脂としては、ポリビニルブチラール樹脂が好ましい。
ポリビニルアセタール樹脂のアセタール化度は、好ましくは40モル%以上であり、また、好ましくは85モル%以下である。また、アセタール化度は、60モル%以上がより好ましく、また、より好ましくは75モル%以下である。なお、アセタール化度とは、アセタール基がブチラール基であり、ポリビニルアセタール樹脂がポリビニルブチラール樹脂の場合には、ブチラール化度を意味する。
【0032】
ポリビニルアセタール樹脂の水酸基量は、好ましくは15モル%以上であり、また、好ましくは35モル%以下である。水酸基量を15モル%以上とすることで、ガラス板などとの接着性が良好になりやすくなり、合わせガラスの耐貫通性などを良好にしやすくなる。また、水酸基量を35モル%以下とすることで、合わせガラスが硬くなり過ぎたりすることを防止する。ポリビニルアセタール樹脂の水酸基量は、より好ましくは20モル%以上であり、またより好ましくは33モル%以下である。
【0033】
ポリビニルアセタール樹脂のアセチル化度(アセチル基量)は、好ましくは0.1モル%以上であり、また、好ましくは20モル%以下である。アセチル化度が、上記下限値以上とすることで、可塑剤などとの相溶性が良好になりやすい。また、上記上限値以下とすることで、中間膜の耐湿性が高くなる。これら観点からアセチル化度は、より好ましくは0.3モル%以上、更に好ましくは0.5モル%以上であり、また、より好ましくは10モル%以下であり、さらに好ましくは5モル%以下である。
なお、水酸基量、アセタール化度(ブチラール化度)、及びアセチル化度は、JIS K6728「ポリビニルブチラール試験方法」に準拠した方法により測定された結果から算出することができる。
【0034】
ポリビニルアセタール樹脂の平均重合度は、好ましくは500以上、また、好ましくは4000以下である。平均重合度を500以上することで、合わせガラスの耐貫通性が良好になる。また、平均重合度を4000以下とすることで、合わせガラスの成形がしやすくなる。重合度はより好ましくは1000以上であり、またより好ましくは3600以下である。なお、ポリビニルアセタール樹脂の平均重合度は、原料となるポリビニルアルコールの平均重合度と同じであり、ポリビニルアルコールの平均重合度によって求めることができる。
【0035】
(エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂)
エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂としては、非架橋型のエチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂であってもよいし、また、高温架橋型のエチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂であってもよい。エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂としては、エチレン-酢酸ビニル共重合体けん化物、エチレン-酢酸ビニルの加水分解物などのようなエチレン-酢酸ビニル変性体樹脂も用いることができる。
【0036】
エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂は、JIS K 6730「エチレン・酢酸ビニル樹脂試験方法」またはJIS K 6924-2:1997に準拠して測定される酢酸ビニル含量が好ましく10質量%以上50質量%以下、より好ましくは20質量以上40質量%以下である。酢酸ビニル含量をこれら下限値以上とすることで、ガラスへの接着性が高くなり、また、合わせガラスの耐貫通性が良好になりやすくなる。また、酢酸ビニル含量をこれら上限値以下とすることで、合わせガラス用中間膜の破断強度が高くなり、合わせガラスの耐衝撃性が良好になる。
【0037】
(アイオノマー樹脂)
アイオノマー樹脂としては、特に限定はなく、様々なアイオノマー樹脂を用いることができる。具体的には、エチレン系アイオノマー、スチレン系アイオノマー、パーフルオロカーボン系アイオノマー、テレケリックアイオノマー、ポリウレタンアイオノマー等が挙げられる。これらの中では、合わせガラスの機械強度、耐久性、透明性などが良好になる点、ガラスへの接着性に優れる点から、エチレン系アイオノマーが好ましい。
【0038】
エチレン系アイオノマーとしては、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体のアイオノマーが透明性と強靭性に優れるため好適に用いられる。エチレン・不飽和カルボン酸共重合体は、少なくともエチレン由来の構成単位および不飽和カルボン酸由来の構成単位を有する共重合体であり、他のモノマー由来の構成単位を有していてもよい。
不飽和カルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸等が挙げられ、アクリル酸、メタクリル酸が好ましく、メタクリル酸が特に好ましい。また、他のモノマーとしては、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、1-ブテン等が挙げられる。
エチレン・不飽和カルボン酸共重合体としては、該共重合体が有する全構成単位を100モル%とすると、エチレン由来の構成単位を75~99モル%有することが好ましく、不飽和カルボン酸由来の構成単位を1~25モル%有することが好ましい。
エチレン・不飽和カルボン酸共重合体のアイオノマーは、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体が有するカルボキシル基の少なくとも一部を金属イオンで中和または架橋することにより得られるアイオノマー樹脂であるが、該カルボキシル基の中和度は、通常は1~90%であり、好ましくは5~85%である。
【0039】
アイオノマー樹脂におけるイオン源としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム等のアルカリ金属、マグネシウム、カルシウム、亜鉛等の多価金属が挙げられ、ナトリウム、亜鉛が好ましい。
【0040】
アイオノマー樹脂の製造方法としては特に限定はなく、従来公知の製造方法によって、製造することが可能である。例えばアイオノマー樹脂として、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体のアイオノマーを用いる場合には、例えば、エチレンと不飽和カルボン酸とを、高温、高圧下でラジカル共重合を行い、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体を製造する。そして、そのエチレン・不飽和カルボン酸共重合体と、上記のイオン源を含む金属化合物とを反応させることにより、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体のアイオノマーを製造することができる。
【0041】
(ポリウレタン樹脂)
ポリウレタン樹脂としては、イソシアネート化合物と、ジオール化合物とを反応して得られるポリウレタン、イソシアネート化合物と、ジオール化合物、さらに、ポリアミンなどの鎖長延長剤を反応させることにより得られるポリウレタンなどが挙げられる。また、ポリウレタン樹脂は、硫黄原子を含有するものでもよい。その場合には、上記ジオールの一部又は全部を、ポリチオール及び含硫黄ポリオールから選択されるものとするとよい。ポリウレタン樹脂は、有機ガラスとの接着性を良好にすることができる。そのため、ガラス板が有機ガラスである場合に好適に使用される。
【0042】
(熱可塑性エラストマー)
熱可塑性エラストマーとしては、スチレン系熱可塑性エラストマー、脂肪族ポリオレフィンが挙げられる。スチレン系熱可塑性エラストマーとしては、特に限定されず、公知のものを用いることができる。スチレン系熱可塑性エラストマーは、一般的に、ハードセグメントとなるスチレンモノマー重合体ブロックと、ソフトセグメントとなる共役ジエン化合物重合体ブロック又はその水添ブロックとを有する。スチレン系熱可塑性エラストマーの具体例としては、スチレン-イソプレンジブロック共重合体、スチレン-ブタジエンジブロック共重合体、スチレン-イソプレン-スチレントリブロック共重合体、スチレン-ブタジエン/イソプレン-スチレントリブロック共重合体、スチレン-ブタジエン-スチレントリブロック共重合体、並びにその水素添加体が挙げられる。
上記脂肪族ポリオレフィンは、飽和脂肪族ポリオレフィンであってもよく、不飽和脂肪族ポリオレフィンであってもよい。上記脂肪族ポリオレフィンは、鎖状オレフィンをモノマーとするポリオレフィンであってもよく、環状オレフィンをモノマーとするポリオレフィンであってもよい。中間膜の保存安定性、及び、遮音性を効果的に高める観点からは、上記脂肪族ポリオレフィンは、飽和脂肪族ポリオレフィンであることが好ましい。
上記脂肪族ポリオレフィンの材料としては、エチレン、プロピレン、1-ブテン、trans-2-ブテン、cis-2-ブテン、1-ペンテン、trans-2-ペンテン、cis-2-ペンテン、1-ヘキセン、trans-2-ヘキセン、cis-2-ヘキセン、trans-3-ヘキセン、cis-3-ヘキセン、1-ヘプテン、trans-2-ヘプテン、cis-2-ヘプテン、trans-3-ヘプテン、cis-3-ヘプテン、1-オクテン、trans-2-オクテン、cis-2-オクテン、trans-3-オクテン、cis-3-オクテン、trans-4-オクテン、cis-4-オクテン、1-ノネン、trans-2-ノネン、cis-2-ノネン、trans-3-ノネン、cis-3-ノネン、trans-4-ノネン、cis-4-ノネン、1-デセン、trans-2-デセン、cis-2-デセン、trans-3-デセン、cis-3-デセン、trans-4-デセン、cis-4-デセン、trans-5-デセン、cis-5-デセン、4-メチル-1-ペンテン、及びビニルシクロヘキサン等が挙げられる。
【0043】
[可塑剤]
本発明の合わせガラス用中間膜は、さらに可塑剤を含有してもよい。合わせガラス用中間膜は、可塑剤を含有することにより柔軟となり、その結果、合わせガラスの柔軟性を向上させ耐貫通性も向上させる。さらには、ガラス板に対する高い接着性を発揮することも可能になる。可塑剤は、熱可塑性樹脂としてポリビニルアセタール樹脂を使用する場合に含有させると特に効果的である。
可塑剤としては、例えば、一塩基性有機酸エステル及び多塩基性有機酸エステル等の有機エステル可塑剤、並びに有機リン酸可塑剤及び有機亜リン酸可塑剤などのリン酸可塑剤等が挙げられる。なかでも、有機エステル可塑剤が好ましい。
【0044】
一塩基性有機酸エステルとしては、グリコールと、一塩基性有機酸とのエステルが挙げられる。グリコールとしては、各アルキレン単位が炭素数2~4、好ましくは炭素数2又は3であり、アルキレン単位の繰り返し数が2~10、好ましくは2~4であるポリアルキレングリコールが挙げられる。また、グリコールとしては、炭素数2~4、好ましくは炭素数2又は3であり、繰り返し単位が1であるモノアルキレングリコールでもよい。
グリコールとしては、具体的には、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラプロピレングリコール、ブチレングリコールなどが挙げられる。
一塩基性有機酸としては、炭素数3~10の有機酸が挙げられ、具体的には、酪酸、イソ酪酸、カプロン酸、2-エチル酪酸、2-エチルペンタン酸、ヘプチル酸、n-オクチル酸、2-エチルヘキシル酸、n-ノニル酸及びデシル酸などが挙げられる。
【0045】
具体的な一塩基性有機酸としては、トリエチレングリコールジ-2-エチルブチレート、トリエチレングリコールジ-2-エチルヘキサノエート、トリエチレングリコールジカプリレート、トリエチレングリコールジ-n-オクタノエート、トリエチレングリコールジ-n-ヘプタノエート、テトラエチレングリコールジ-n-ヘプタノエート、テトラエチレングリコールジ-2-エチルヘキサノエート、ジエチレングリコールジ-2-エチルブチレート、ジエチレングリコールジ-2-エチルヘキサノエート、ジプロピレングリコールジ-2-エチルブチレート、トリエチレングリコールジ-2-エチルペンタノエート、テトラエチレングリコールジ-2-エチルブチレート、ジエチレングリコールジカプリエート、トリエチレングリコールジ-n-ヘプタノエート、テトラエチレングリコールジ-n-ヘプタノエート、トリエチレングリコールジ-2-エチルブチレート、エチレングリコールジ-2-エチルブチレート、1,2-プロピレングリコールジ-2-エチルブチレート、1,3-プロピレングリコールジ-2-エチルブチレート、1,4-ブチレングリコールジ-2-エチルブチレート、1,2-ブチレングリコールジ-2-エチルブチレートなどが挙げられる。
【0046】
また、多塩基性有機酸エステルとしては、例えば、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸等の炭素数4~12の二塩基性有機酸と、炭素数4~10のアルコールとのエステル化合物が挙げられる。炭素数4~10のアルコールは、直鎖でもよいし、分岐構造を有していてもよいし、環状構造を有してもよい。
具体的には、セバシン酸ジブチル、アゼライン酸ジオクチル、アジピン酸ジヘキシル、アジピン酸ジオクチル、アジピン酸ヘキシルシクロヘキシル、アジピン酸ジイソノニル、アジピン酸ヘプチルノニル、ジブチルカルビトールアジペート、混合型アジピン酸エステルなどが挙げられる。また、油変性セバシン酸アルキドなどでもよい。混合型アジピン酸エステルとしては、炭素数4~9のアルキルアルコール及び炭素数4~9の環状アルコールから選択される2種以上のアルコールから作製されたアジピン酸エステルが挙げられる。
有機リン酸可塑剤としては、トリブトキシエチルホスフェート、イソデシルフェニルホスフェート及びトリイソプロピルホスフェート等のリン酸エステルなどが挙げられる。
可塑剤は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
可塑剤としては、上記したなかでも、グリコールと、一塩基性有機酸とのエステルが好ましく、トリエチレングリコール-ジ-2-エチルヘキサノエート(3GO)が特に好適に用いられる。
【0047】
合わせガラス用中間膜において可塑剤の含有量は、特に限定されないが、熱可塑性樹脂100質量部に対して、好ましくは20質量部以上であり、また、好ましくは80質量部以下である。可塑剤の含有量を20質量部以上とすると、合わせガラスが適度に柔軟になり、耐貫通性等が良好になる。また、可塑剤の含有量を80質量部以下とすると、合わせガラス用中間膜から可塑剤が分離することが防止される。可塑剤の含有量はより好ましくは30質量部以上、さらに好ましくは35質量部以上であり、また、より好ましく70質量部以下、さらに好ましくは63質量部以下である。
また、合わせガラス用中間膜において、熱可塑性樹脂、又は熱可塑性樹脂及び可塑剤が主成分となるものであり、熱可塑性樹脂及び可塑剤の合計量が、合わせガラス用中間膜全量基準で、通常70質量%以上、好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上100質量%未満である。
【0048】
[発光材料]
本発明の合わせガラス用中間膜は、好ましい一実施形態において、発光材料を含有する。発光材料は、紫外線などの光線を吸収することで励起し、可視光など、吸収した波長と異なる波長の光を放射する材料である。発光材料を含有する合わせガラス用中間膜は、発光材料を励起させる光線が照射されることで、発光材料を発光させて画像を表示させる発光層として使用できる。
【0049】
発光材料の好ましい具体例としては、テレフタル酸エステル構造を有する発光材料が挙げられる。合わせガラス用中間膜は、テレフタル酸エステル構造を有する発光材料を含有すると着色することがあるが、上記したとおり、アルカリ(土類)金属としてカリウムを使用することで着色を防止できる。
テレフタル酸エステル構造を有する発光材料は、例えば、下記式(1)で表される構造を有する化合物、及び下記式(2)で表される構造を有する化合物が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0050】
【0051】
式(1)において、R1は有機基を表し、xは1、2、3又は4である。合わせガラス用中間膜の透明性がより一層高くなることから、xは1又は2であることが好ましく、xは2であることがより好ましい。また、ベンゼン環の2位又は5位に水酸基を有することがより好ましく、ベンゼン環の2位及び5位に水酸基を有することが更に好ましい。
上記R1の有機基は炭化水素基であることが好ましく、炭素数が1~10の炭化水素基であることがより好ましく、炭素数が1~5の炭化水素基であることが更に好ましく、炭素数が1~3の炭化水素基であることが特に好ましい。上記炭化水素基の炭素数が10以下であると、上記テレフタル酸エステル構造を有する発光材料を合わせガラス用中間膜に容易に分散できる。炭化水素基はアルキル基であることが好ましい。
【0052】
上記式(2)中、R2は有機基を表し、R3及びR4は水素原子又は有機基を表し、yは1、2、3又は4である。
上記R2の有機基は,炭化水素基であることが好ましく、炭素数が1~10の炭化水素基であることがより好ましく、炭素数が1~5の炭化水素基であることが更に好ましく、炭素数が1~3の炭化水素基であることが特に好ましい。上記炭化水素基の炭素数が上記上限以下であると、上記テレフタル酸エステル構造を有する発光材料を合わせガラス用中間膜に容易に分散できる。上記炭化水素基はアルキル基であることが好ましい。
上記式(2)中において、R3及びR4の有機基は、例えば炭素数が1~10の炭化水素基であり、有機基としては、好ましくは炭素数が1~5の炭化水素基、より好ましくは炭素数が1~3の炭化水素基であり、炭化水素基としてはアルキル基が好ましい。また、R3及びR4は、いずれも水素原子であることが好ましい。
yは1又は2であることが好ましく、2であることがさらに好ましい。また、ベンゼン環の2位又は5位にNR3R4を有することがより好ましく、ベンゼン環の2位及び5位にNR3R4を有することが更に好ましい。
【0053】
上記した中では、式(1)で表される構造を有する化合物を使用することが好ましい。また、式(1)で表される構造を有する化合物としては、例えば、2,5-ジヒドロキシテレフタル酸ジエチル、2,5-ジヒドロキシテレフタル酸ジメチル等が好ましい。式(2)で表される構造を有する化合物としては、2,5-ジアミノテレフタル酸ジエチルが好ましい。
【0054】
合わせガラス用中間膜における発光材料の含有量は、特に限定されないが、例えば、テレフタル酸エステル構造を有する発光材料を使用する場合、テレフタル酸エステル構造を有する発光材料の含有量は、熱可塑性樹脂100質量部に対して、好ましくは0.001質量部以上5質量部以下である。
テレフタル酸エステル構造を有する発光材料の含有量を0.001質量部以上とすると、光線が照射されて発光材料が発光すると、コントラストが高い画像を表示することができる。また、含有量を5質量部以下とすると、着色が生じにくくなり、合わせガラス用中間膜の透明性が高くなる。
テレフタル酸エステル構造を有する発光材料の含有量は、画像のコントラストをより一層向上させるために、より好ましくは0.01質量部以上、さらに好ましくは0.1質量部以上、特に好ましくは0.2質量部以上である。また、合わせガラス用中間膜の透明性を向上させる観点から、より好ましくは2質量部以下、更に好ましくは1.5質量部以下、特に好ましくは1質量部以下である。
【0055】
[その他の添加剤]
合わせガラス用中間膜は、必要に応じて、赤外線吸収剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定剤、蛍光増白剤、結晶核剤、分散剤、染料、顔料等の上記以外の添加剤を含有してもよい。
【0056】
合わせガラス用中間膜の厚さは、好ましくは0.1mm以上3.0mm以下である。合わせガラス用中間膜の厚さを0.1mm以上とすることで、合わせガラスの接着性、耐貫通性などを良好にできる。また、発光層として使用する場合には、充分にコントラストの高い発光が得られる。また、3.0mm以下とすることで、透明性を確保しやすくなる。
合わせガラス用中間膜の厚さはより好ましくは0.2mm以上であり、さらに好ましくは0.3mm以上である。また、より好ましくは2.0mm以下、さらに好ましくは1.5mm以下である。
【0057】
[合わせガラス用中間膜の製造方法]
本発明の合わせガラス用中間膜は、例えば、熱可塑性樹脂、カルボン酸金属塩、及び必要に応じて配合される可塑剤、発光材料、その他の添加剤を混合し、得られた樹脂組成物をシート状に成形すればよい。この際、各成分の混合順は、特に限定されないが、例えば、可塑剤にカルボン酸金属塩、発光材料、その他の添加剤などを予め加えて混合して、その混合物を熱可塑性樹脂に加えてもよい。また、熱可塑性樹脂に、可塑剤、発光材料、その他の添加剤などを適当な順番で加えて混合してもよい。
各成分を混合する混合機としては、特に限定されないが、押出機、バンバリーミキサー、ミシンシングローラー、ニーダーミキサー、ライカイ機、遊星式撹拌機等の公知の混合機を使用することができる。また、樹脂組成物の成形は、押出成形、プレス成形などで行うよく、例えば押出成形では押出機により樹脂組成物をシート状に押し出して成形すればよい。
【0058】
ここで、カルボン酸及びアルカリ金属及びアルカリ土類金属からなる群から選択される少なくとも1種の金属は、カルボン酸金属塩として水溶液の状態で他の成分に混合するとよいが、カルボン酸金属塩の水溶液は、pHが中性(pH=7)に近くなるように調整したうえで混合するとよい。具体的には、例えば金属がナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属である場合には、pHが10未満になるように調整したうえで混合するとよい。また、例えば金属がマグネシウムなどのアルカリ土類金属である場合には、pHが11未満に調整したうえで混合するとよい。
pHを一定値未満に調整したうえで混合すると、その要因は定かではないが、合わせガラス用中間膜におけるカルボン酸遊離率を容易に40%以下にすることができる。
特に前述した発光材料を含む場合、pHを一定値未満に調整したうえで混合すると、合わせガラス用中間膜における発光性能が低下することを抑えることができる。
【0059】
上記pHは、カルボン酸遊離率を低下させる観点から、金属がナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属である場合には、好ましくは9.5以下、より好ましくは8.5以下、さらに好ましくは8.0以下である。また、金属がマグネシウムなどのアルカリ土類金属である場合には、好ましくは10.5以下である。
また、いずれの金属である場合もpHは、7.0より大きいことが好ましく、より好ましくは7.5以上である。
なお、水溶液のpHは、株式会社堀場製作所製の「F-55型」により測定することができる。また、上記水溶液におけるカルボン酸金属塩の濃度は、特に限定されないが、金属濃度として2~25質量%であることが好ましく、3~20質量%であることがより好ましい。
【0060】
カルボン酸金属塩の水溶液のpHを調整する方法は、特に限定されないが、例えば、酢酸などのカルボン酸と、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウムなどのアルカリ(土類)金属水酸化物とを水に加えてカルボン酸金属塩の水溶液を作製し、その際、カルボン酸の配合量を当量より若干量過剰にする方法が挙げられる。また、カルボン酸金属塩を水に溶解させ、かつ若干量のカルボン酸を追加的に水溶液に添加してpHを調整する方法などでもよい。
【0061】
樹脂組成物の成形は、樹脂組成物を例えば160℃以上230℃以下に加熱して行うとよく、好ましくは180℃以上220℃以下に加熱して行う。例えば、合わせガラス用中間膜を工業的に量産化する際には、樹脂組成物に高いせん断が作用され成形温度が高くなるので、成形温度を上記温度範囲のように比較的高温にすると、量産化に適した製造条件となる。また、上記温度範囲のように比較的高温に加熱して成形した合わせガラス用中間膜は、一般的に混合、成形時に熱劣化が生じて、接着力を適正に調整しにくく、また、高温高湿下で使用することで周縁部に白化が生じやすくなる。しかし、本発明では、成形温度を高くしても、上記のように、モル濃度Aを所定の範囲内に調整しつつ、カルボン酸遊離率を低くすることで、接着力を適正に調整でき、かつ高温高湿下で合わせガラス用中間膜を使用しても、周縁部で白化が生じにくくなる。
【0062】
<合わせガラス>
本発明は、さらに合わせガラスを提供するものである。本発明の合わせガラスは、2枚のガラス板と、2枚のガラス板の間に配置される上記した本発明の合わせガラス用中間膜とを備える。
合わせガラスにおいて、2枚のガラス板の間の層は、1層の樹脂層からなってもよいし、2層以上の樹脂層を有する積層構造であってもよい。1層の樹脂層からなる場合、その1層の樹脂層として、上記した合わせガラス用中間膜を使用すればよく、合わせガラス用中間膜は、一方の面が一方のガラス板に、他方の面が他方のガラス板に接触する位置に配置される。
2層以上の樹脂層を含む積層構造の場合、少なくとも1層の樹脂層が、上記した本発明の合わせガラス用中間膜であるとよく、上記した合わせガラス用中間膜以外の樹脂層を含んでいてもよい。ただし、積層構造の場合でも、本発明の合わせガラス用中間膜は、一方の面がいずれか一方のガラス板に接触する位置に配置される。本発明の合わせガラス用中間膜は、ガラス板と接触する位置に配置されることで、接触するガラス板との接着力を適正な大きさに調整できる。
【0063】
積層構造の場合、樹脂層が2層である2層構造であってもよいし、樹脂層が3層である3層構造であってもよいし、4層以上の樹脂層を有する構造であってもよい。2層構造の場合には、一方の樹脂層のみが、上記した本発明の合わせガラス用中間膜であってもよいし、両方の樹脂層が上記した本発明の合わせガラス用中間膜であってもよい。
また、3層構造又は4層以上の樹脂層を有する構造の場合には、2つの表面層の間に1つ又は2つ以上の中間層が配置されるが、2つの表面層のうち一方のみが、上記した本発明の合わせガラス用中間膜であってもよいが、両方の表面層が上記した本発明の合わせガラス用中間膜であってもよい。
【0064】
(ガラス板)
合わせガラスで使用するガラス板としては、無機ガラス、有機ガラスのいずれでもよいが、無機ガラスが好ましい。無機ガラスとしては、特に限定されないが、クリアガラス、フロート板ガラス、強化ガラス、着色ガラス、磨き板ガラス、型板ガラス、網入り板ガラス、線入り板ガラス、紫外線吸収板ガラス、赤外線反射板ガラス、赤外線吸収板ガラス、グリーンガラス等が挙げられる。
また、有機ガラスとしては、一般的に樹脂ガラスと呼ばれるものが使用され、特に限定されないが、ポリカーボネート板、ポリメチルメタクリレート板、ポリエステル板などから構成される有機ガラスが挙げられる。
2枚のガラス板は、互いに同種の材質から構成されてもよいし、別の材質から構成されてもよい。例えば、一方が無機ガラスで、他方が有機ガラスであってもよいが、2枚のガラス板の両方が無機ガラスであるか、又は有機ガラスであることが好ましい。
また、各ガラス板の厚さは、特に限定されないが、例えば、0.1~15mm程度、好ましくは0.5~5mmである。各ガラス板の厚さは、互いに同一であってもよいし、異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。
合わせガラスは、2枚のガラス板の間に、上記した合わせガラス用中間膜、又は複数の樹脂層を配置して、これらを圧着などすることで一体化することで製造すればよい。
【0065】
本発明の合わせガラスは、各種分野に使用可能であるが、自動車、電車などの車両、船舶、飛行機などの各種乗り物、あるいは、ビル、マンション、一戸建て、ホール、体育館などの各種建築物等の窓ガラスに使用されることが好ましい。
【実施例】
【0066】
本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
【0067】
各成分の単位体積あたりのモル濃度の測定は、以下の通りに行った。
[金属モル濃度]
合わせガラス用中間膜0.3gを採取し、硝酸6mLを加えて溶解させ、溶解後に超純水にて50mLに定容して、ICP発光分光分析によって合わせガラス用中間膜に含有されるアルカリ金属原子及びアルカリ土類金属原子の合計量を測定した。その測定された金属原子の合計量に基づき、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の単位体積当たりのモル濃度Aを算出した。同様に、合わせガラス用中間膜に含有されるカリウム原子量を測定して、カリウムの単位体積当たりのモル濃度Cを算出した。ICP発光分光分析の測定条件は以下のとおりであった。
<測定条件>
測定装置:株式会社島津製作所製「ICPE-9000」
高周波出力:1.2kW プラズマガス流量:10L/分
補助ガス流量:0.6L/分 キャリアガス流量:0.7L/分
【0068】
[モル濃度B,B’]
合わせガラス用中間膜を0.5g採取し、THF9mLを加え23℃で12時間放置した後、トルエン21mLを加えて23℃、38kHzの条件で40分間超音波処理をした。この溶液を5℃、15000rpmの条件で30分間高速遠心分離機にかけ、ポリマー分を分離し溶液分を採取してGC(ガスクロマトグラフィー)にて測定して、GC-MSにより、合わせガラス用中間膜において遊離するカルボン酸量を測定し、測定されたカルボン酸の単位体積あたりのモル濃度B(mol/m3)を算出した。同様に、GC-MSにより2-エチルヘキサン酸以外のカルボン酸の量を測定して、測定された2-エチルヘキサン酸以外のカルボン酸の単位体積あたりのモル濃度B’(mol/m3)を算出した。
【0069】
[モル濃度D、D’]
合わせガラス用中間膜を0.5g採取し、THF9mL、及び1N塩酸0.2mLを加え23℃で12時間放置した後、トルエン21mLを加えて23℃、38kHzの条件で40分間超音波処理をした。この溶液を5℃、15000rpmの条件で30分間高速遠心分離機にかけ、ポリマー分を分離し溶液分をGC(ガスクロマトグラフィー)にて測定して、GC-MSによりカルボン酸量を測定し、測定されたカルボン酸の単位体積あたりのモル濃度Y(mol/m3)を算出した。同様に、GC-MSにより2-エチルヘキサン酸以外のカルボン酸の量を測定して、測定された2-エチルヘキサン酸以外のカルボン酸の単位体積あたりのモル濃度Y’(mol/m3)を算出した。
モル濃度Y、Y’からモル濃度B、B’を引いた値をカルボン酸の単位体積あたりのモル濃度D、D’として算出した。
【0070】
ガスクロマトグラフィーの測定条件は、以下のとおりであった。
<測定条件>
装置:株式会社島津製作所製「GC-2010型」
カラム:DB-FFAP(0.53mm×30m)
オーブン温度:40℃で5分保持した後、10℃/分で昇温し、その後240℃で保持した。
注入口温度:240℃ 検出器温度:250℃
注入量:1.0μl
【0071】
本実施例、比較例で得られた合わせガラス用中間膜及び合わせガラスの評価方法は、以下のとおりである。
[接着力]
実施例及び比較例で製造した合わせガラスを-18℃±0.6℃の温度の環境下に16時間静置し、この合わせガラスの中央部(縦150mm×横150mmの部分)を頭部が0.45kgのハンマーで打って、ガラスの粒径が6mm以下になるまで粉砕し、ガラスが部分剥離した後の膜の露出度を測定して、表1によりパンメル値を求めた。6回の測定値の平均値をパンメル値として採用した。パンメル値が2~7の場合を接着力が適正に調整できたとして「A」と評価し、1以下又は8以上である場合を接着力が適正に調整できていないとして「B」と評価した。
【0072】
【0073】
[耐湿性]
得られた合わせガラスを80℃、及び湿度95%RHの環境下に2週間静置した後、合わせガラスの各角部からの白化距離、及び各辺の中央部分からの白化距離をそれぞれ測定した。合わせガラスの各角部からの白化距離のうちの最大値、及び各辺の中央部分からの白化距離のうちの最大値を求めた。角部からの白化距離の最大値が40mm以下で、かつ各辺の中央部分からの白化距離の最大値が10mm以下であると、耐湿性が良好であるとして、「A」と評価し、それ以外を耐湿性が不十分であるとして「B」と評価した。
【0074】
[黄色度]
分光光度計(日立ハイテクノロジーズ社製、U-4100)を使用して、JIS Z 8722に準拠して、得られた合わせガラスのイエローインデックス値(YI値)を測定した。YI値が0以上20以下である場合を「A」、20を超える場合を「B」と評価した。
【0075】
実施例、比較例で使用した熱可塑性樹脂、可塑剤及び発光材料は以下のとおりである。
熱可塑性樹脂:ポリビニルブチラール樹脂(PVB)、アセタール化度69モル%、水酸基量30モル%、アセチル化度1モル%、重合度1700
可塑剤:トリエチレングリコールジ-2-エチルヘキサノエート(3GO)
発光材料:2,5-ジヒドロキシテレフタル酸ジメチル(DMDHTF)
なお、実施例で用いた3GOは2-エチルヘキサン酸が過剰にならないように調整した上で縮合反応により生成して使用しているため、2-エチルヘキサン酸は検出されなかった。また、中間膜からも2-エチルヘキサン酸は検出されなかった。
【0076】
(実施例1~3、比較例1~4)
HAAKE PolyLab OS RheoDrive 16及びReomex OS(以上Thermo scientific社製)を用いて、熱可塑性樹脂100質量部、可塑剤40質量部及びカルボン酸金属塩水溶液を、200℃となるように加熱しながら混練して得た樹脂組成物を、シート状に押し出して厚さ0.76mmの合わせガラス用中間膜を得た。
実施例1~3、比較例1~4のカルボン酸金属塩水溶液は、水に酢酸と水酸化カリウムを加えて作製した。この際、水溶液中のカリウム濃度が15質量%となり、かつ表2に記載のpHとなるように調整した。なお、カルボン酸金属塩水溶液は、合わせガラス用中間膜におけるアルカリ(土類)金属のモル濃度Aが表2に記載される量となるように樹脂組成物に配合した。
【0077】
(合わせガラスの製造)
上記で得られた合わせガラス用中間膜を、23℃、28%RHの恒温恒湿条件で4時間保持した後、2枚のクリアガラス(縦300mm×横300mm×厚さ2.5mmの間に挟持し積層体とした。得られた積層体を、170℃の加熱ロールを用いて仮圧着させた。仮圧着された積層体を、オートクレーブを用いて140℃、圧力1MPaの条件で20分間圧着し、合わせガラスを作製した。得られた合わせガラスの評価結果を表2に示す。
【0078】
(実施例4~7)
可塑剤40質量部に、発光材料0.54質量部を加えて、可塑剤溶液を調製した。得られた可塑剤溶液、熱可塑性樹脂100質量部、及びカルボン酸金属塩水溶液をHAAKE PolyLab OS RheoDrive 16及びReomex OS(以上、Thermo scientific社製)を用いて、200℃となるように加熱しながら混練して得た樹脂組成物を、シート状に押し出して合わせガラス用中間膜を得た。その後、実施例1と同様の方法で、合わせガラスを作製した。得られた合わせガラスの評価結果を表3に示す。
なお、実施例4、5では、実施例1~3それぞれと同様に調製したカルボン酸金属塩水溶液を使用した。実施例6、7のカルボン酸金属塩水溶液は、水に酢酸と水酸化マグネシウムを加えて作製した。この際、水溶液中のマグネシウム濃度が3.65質量%となり、かつ表3に記載のpHとなるように調整した。カルボン酸金属塩水溶液は、合わせガラス用中間膜におけるアルカリ(土類)金属のモル濃度Aが表3に記載される量となるように加えた。
【0079】
【0080】
【0081】
以上のように各実施例では、アルカリ(土類)金属のモル濃度Aを所定範囲内に調整しつつ、遊離カルボン酸のモル濃度(1)~(4)を40%以下とすることで、接着力を適正に調整しつつ、耐湿性を良好にできた。それに対して、比較例では、アルカリ(土類)金属のモル濃度A、及び遊離カルボン酸のモル濃度Bの少なくともいずれか一方を所定範囲外とすると、接着力を適正に調整しつつ、耐湿性を向上させることができなかった。