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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-15
(54)【発明の名称】二重照光によるガスの分析方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/61 20060101AFI20231108BHJP
【FI】
G01N21/61
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020542309
(86)(22)【出願日】2019-02-01
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-05-13
(86)【国際出願番号】 FR2019050230
(87)【国際公開番号】W WO2019150053
(87)【国際公開日】2019-08-08
【審査請求日】2022-01-18
(31)【優先権主張番号】1850956
(32)【優先日】2018-02-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】519326828
【氏名又は名称】エリシェンズ
【氏名又は名称原語表記】ELICHENS
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】リー ターン トラング
【審査官】嶋田 行志
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-055049(JP,A)
【文献】特開平11-304706(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0338339(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00-G01N 21/61
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス中に存在し、吸収スペクトルバンド(Δ)内の光を吸収するように構成されたガス種(G)の量(c)を測定する方法であって、
入射光波(12)を放射するように構成された光源(11)と測定光検出器(20)との間に前記ガスを配置する工程a)と、
前記ガス(G)を前記光源(11)で照明し、それによって、前記入射光波は、前記ガスを通って前記測定光検出器(20)に伝搬する工程b)と、
前記測定光検出器(20)を用いて、吸収スペクトルバンド(Δ)を含む測定スペクトルバンド(Δ20)において、前記ガスによって伝達された光波(14)の測定強度(I(k))を測定する工程c)と、
参照光検出器(20ref)を用いて、参照スペクトルバンド(Δref)において、前記光源(11)によって放射された参照光波(12ref)の参照強度(Iref(k))を測定する工程d)とを含み、
工程b)~d)は、複数の測定回数(measurement times)(1、、、k、、、K)で実施され、
各測定回(measurement time)において、
前記参照光検出器で測定された前記参照強度(Iref(k))および前記測定光検出器で測定された測定強度(I(k))を用いて、前記ガスによる前記入射光波(12)の吸収(abs(k))を算定する工程e)と、
工程e)で算定された吸収量に基づいて、前記ガス種(G)の量(c(k))を算定する工程f)とを含む方法において、
工程e)においては、前記参照スペクトルバンド(Δref)における前記入射光波(12)の強度に対する、前記測定スペクトルバンド(Δ20)における前記入射光波(12)の強度の時間的変化を表す補正関数(δ)を計算に入れ、
前記補正関数(δ)は、
テスト光源(11')を、測定テスト光検出器(20')と対向させ、参照テスト光検出器(20'ref)と対向させて、配置する工程cal-i)(ここで、前記テスト光源、前記測定テスト光検出器、および前記参照テスト光検出器はそれぞれ、前記光源(11)、前記測定光検出器(20)、および前記参照光検出器(20ref)と同一種類の機器であるが、異なる機器である。)と、
較正期間内にある較正回数(calibration times)の間、前記測定テスト光検出器および前記参照テスト光検出器を前記テスト光源で照明する工程cal-ii)と、
前記測定スペクトルバンド(Δ20)における、前記測定テスト光検出器で検出された強度(I'(k))の時間変化と、前記参照スペクトルバンド(Δref)における、前記参照テスト光検出器で検出された強度(I'ref(k))の時間変化とを比較する工程cal-iii)とを含む較正段階であらかじめ設定される、方法。
【請求項2】
前記補正関数(δ(k))は、前記測定スペクトルバンド(Δ20)における前記入射光波(12)の強度と、前記参照スペクトルバンド(Δref)における前記入射光波(12)の強度との間の比較を表し、前記比較は、測定回ごとに異なる値を取る、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記テスト光源(11')はパルス化され、各パルスは1つの較正回(calibration time)に対応し、前記較正期間は少なくとも10回の較正回数を含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記補正関数(δ)は、種々の較正回数において、
初期の較正回において、前記測定テスト光検出器(20')によって検出され、前記測定テスト光検出器によって検出された初期強度(I'(k=0))で正規化された強度(I'(k))と、
初期の較正回において、前記参照テスト光検出器によって検出され、前記参照テスト光検出器によって検出された初期強度(I'ref(k=0))で正規化された強度(I'ref(k))との間の比較に基づいて、算定される、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
工程e)は、前記測定回(k)に測定された前記参照強度(Iref(k))および前記補正関数(δ)に基づいて、前記測定回(k)において、ガスの非存在下で、前記測定光検出器(14)により、前記測定スペクトルバンド(Δ20)において、検出されるであろう強度を算定する工程を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
工程e)は、前記測定回(k)に測定された前記参照強度(Iref(k))および前記補正関数(δ)に基づいて、前記測定強度を補正する工程を含み、補正後の前記測定強度(I(k))は、前記光源の経時変化がない場合の前記測定強度に対応する、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
ガス中のガス種(G)の量(c(k))を測定する装置(1)であって、
前記ガス種(G)の吸収スペクトルバンド(Δ)内に存在し、前記ガス(G)に伝搬する入射光波(12)を放射するように構成された光源(11)と、
種々の測定回数(k)で、測定スペクトルバンドにおいて、前記ガスによって伝達された光波(14)を検出し、当該光波の測定強度(I(k))を測定するように構成された測定光検出器(20)と、
種々の測定回数(k)で、参照スペクトルバンドにおいて、前記光源(11)から放射される参照光波(12ref)の参照強度(Iref(k))を測定するように構成された参照光検出器(20ref)と、
前記参照強度(Iref(k))および前記測定強度(I(k))に基づいて、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法の工程e)および工程f)を実施するためのプロセッサ(30)とを含む、装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の技術分野は、ガスを分析するための光学的方法であって、黒体または灰色体の光源を用い、光源から放射される光波の吸収を測定する方法である。
【背景技術】
【0002】
ガスの分析には光学的方法がよく用いられる。センサは、ガスの成分種が互いに異なる吸収スペクトル特性を有するという事実に基づいてガスの組成を決定することを可能にする。したがって、ガス種の吸収スペクトルバンドが既知である場合、その濃度は、Beer-Lambert則を用いて、ガスを通過する光の吸収を算定することによって決定することができる。この原理は、ガス中に存在するガス種の濃度を算定することを可能にする。
【0003】
最も一般的な方法では、分析ガスは、光源と測定光検出器と呼ばれる光検出器との間にあり、光検出器は、分析ガスによって伝達される光波を測定することを目的とし、この光波は、光検出器によって部分的に吸収される。光源は、通常、赤外で発光する光源であり、使用される方法は、通常、NDIR検出と呼ばれ、頭字語NDIRは、非分散型赤外線を意味する。このような原理は頻繁に用いられており、例えば、米国特許第5026992号明細書(特許文献1)および国際公開第2007/064370号(特許文献2)に開示されている。
【0004】
従来の方法は、一般的に、光源から放出された参照光波と呼ばれる光波を測定することを含み、この参照光波は、分析ガスによって吸収されないか、または無視できる程度に吸収される。参照光波の測定は、光源から放射される光波の強度を算定する、または、分析ガスによる吸収がない場合に測定光検出器で検出されるであろう光波を算定することを可能にする。この技術は「二重ビーム」と呼ばれる。ガス存在下の光波とガス非存在下の光波との比較は、ガスの吸収を特徴付けることを可能にする。例えば、「吸収NDIR」と呼ばれる技術を用いて、ガス中のガス種の量を決定することが可能である。
【0005】
参照光波は、参照光検出器によって測定される。これは、光源に対向するように配置される、測定光検出器とは異なる参照光検出器であることができ、この参照光検出器は参照光学フィルタと共に使用される。この参照光学フィルタは、分析ガスが有意な吸収を示さない参照スペクトルバンドを画定する。
【0006】
米国特許出願公開第2011/0042570号明細書(特許文献3)に開示されている1つのアプローチでは、測定光検出器および参照光検出器が使用され、これら2つの光検出器は同じスペクトルバンド、この場合はCOの吸収スペクトルバンドの光波を検出する。参照光検出器は、測定光検出器よりも光源の近くに配置される。測定光検出器と参照光検出器とでそれぞれ測定された信号の比較は、光源から放射される光波の強度の情報を不必要とすることができる。
【0007】
仏国特許第3000548号明細書(特許文献4)は、赤外スペクトルバンドの測定チャネルと、可視スペクトルバンドの参照チャネル(0.4μm~0.8μm)とを含むCOセンサを開示している。この参照チャンネルは、測定ガス中のCO濃度の影響を受けないと考えられる。光源の発光スペクトルの変動を考慮するために、この文献では、可視および赤外のスペクトルバンドにおける光源の経時変化をそれぞれ表す関数Fの使用について言及している。この関数Fは恒等関数で近似されるので、赤外における光源の経時変化は可視における光源の経時変化に等しいと考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】米国特許第5026992号明細書
【文献】国際公開第2007/064370号
【文献】米国特許出願公開第2011/0042570号明細書
【文献】仏国特許第3000548号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者は、参照光波に依存することにはいくつかの欠点があることを知見した。本発明者は、これらの欠点を克服し、測定精度を改善する方法を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の主題は、
ガス中に存在し、吸収スペクトルバンド内の光を吸収することが可能なガス種の量を測定する方法であって、
光源と測定光検出器との間に前記ガスを配置する工程a)(ここで、前記光源は入射光波を放射可能であり、前記入射光波は、前記ガスを通って前記測定光検出器に伝搬する。)と、
前記ガスを前記光源で照明する工程b)と、
前記測定光検出器を用いて、吸収スペクトルバンドを含む測定スペクトルバンドにおいて、前記ガスによって伝達された光波の測定強度と呼ばれる強度を測定する工程c)と、
参照光検出器を用いて、参照スペクトルバンドにおいて、前記光源によって放射された参照光波の参照強度と呼ばれる強度を測定する工程d)とを含み、
工程b)~d)は、複数の測定回数(measurement times)で実施され、
各測定回(mesurement time)において、
前記参照光検出器で測定された前記参照強度および前記測定光検出器で測定された測定強度に基づいて、前記ガスによる前記入射光波の吸収を算定する工程e)と、
工程e)で算定された吸収量に基づいて、前記ガス種の量を算定する工程f)とを含む方法において、
工程e)においては、前記参照スペクトルバンドにおける前記入射光波の強度に対する、前記測定スペクトルバンドにおける前記入射光波の強度の時間的変化を表す補正関数を計算に入れる方法である。
【0011】
前記光源は、照明スペクトルバンド内の光の放射を可能にする温度まで上げられたフィラメントを含むことができる。
【0012】
前記補正関数は、前記測定スペクトルバンドにおける前記入射光波の強度と、前記参照スペクトルバンドにおける前記入射光波の強度との間の比較を表し、前記比較は、測定回ごとに異なる値を取ることができる。
【0013】
前記比較は、比率または差分の形式で表すことができる。
【0014】
前記補正関数は好ましくは、
テスト光源を、測定テスト光検出器と対向させ、参照テスト光検出器と対向させて、配置する工程cal-i)(ここで、前記テスト光源、前記測定テスト光検出器、および前記参照テスト光検出器はそれぞれ、前記光源、前記測定光検出器、および前記参照光検出器を代表する。)と、
較正期間内にある較正回数(calibration times)の間、前記測定テスト光検出器および前記参照テスト光検出器を前記テスト光源で照明する工程cal-ii)と、
前記測定スペクトルバンドにおける、前記測定テスト光検出器で検出された強度の時間変化と、前記参照スペクトルバンドにおける、前記参照テスト光検出器で検出された強度の時間変化とを比較する工程cal-iii)とを含む較正段階であらかじめ設定される。
【0015】
前記テスト光源はパルス化されることができ、各パルスは1つの較正回(calibration time)に対応することができる。前記較正期間は少なくとも1000回の較正回数を含むことができる。
【0016】
前記補正関数は、種々の較正回数において、
前記測定テスト光検出器によって検出され、前記測定テスト光検出器によって検出された初期強度で正規化された強度と、
前記参照テスト光検出器によって検出され、前記参照テスト光検出器によって検出された初期強度で正規化された強度との間の比較に基づいて、算定されることができる。
【0017】
初期強度とは、前記較正期間の初期の時点で測定される強度を意味する。
【0018】
工程e)は、前記測定回に測定された前記参照強度および前記補正関数に基づいて、前記測定回において、ガスの非存在下で、前記測定光検出器により、前記測定スペクトルバンドにおいて、検出されるであろう強度を算定する工程を含んでもよい。工程e)は、前記測定回に測定された前記参照強度および前記補正関数に基づいて、前記測定強度を補正する工程を含んでもよく、補正された前記測定強度は、前記光源の経時変化がない場合の前記測定強度に対応する。
【0019】
本発明の第2の主題は、
ガス中のガス種の量を測定する装置であって、
前記ガス種の吸収スペクトルバンド内に存在し、前記ガスに伝搬する入射光波を放射するように構成された光源と、
種々の測定回数で、測定スペクトルバンドにおいて、前記ガスによって伝達された光波を検出し、当該光波の測定強度と呼ばれる強度を測定するように構成された測定光検出器と、
種々の測定回数で、参照スペクトルバンドにおいて、前記光源から放射される参照光波の参照強度と呼ばれる強度を測定するように構成された参照光検出器と、
前記参照強度および前記測定強度に基づいて、本発明の第1の主題の方法の工程e)および工程f)を実施するためのプロセッサとを含む装置である。
【0020】
他の利点および特徴は、本発明の特定の実施形態の以下の説明からより明らかになるであろう。これらの実施形態は、非限定的な例として与えられ、以下に列挙される図に示される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1A】本発明を実施可能な装置の一例を示す図である。
図1B】黒体タイプの光源の発光スペクトルを概略的に示す図である。
【0022】
図2A】2つの異なるスペクトルバンドにおいて、光源によって放射される光強度の減少が観察されることを示す図である。
【0023】
図2B】参照スペクトルバンドにおける光源の放射率の損失の関数として、測定スペクトルバンドにおける光源の放射率の損失を示す図である。
【0024】
図2C】3つの異なる光源供給電圧について、参照スペクトルバンドにおける光源の放射率の損失の関数として、測定スペクトルバンドにおける光源の放射率の損失を示す図である。
【0025】
図3】従来の方法および本発明の方法において、それぞれ、光源の放射率の損失を補正するために計算に入れられる参照強度を示す図である。
【0026】
図4】本発明を実施する方法の主な工程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
図1Aは、ガスを分析するための装置1の一例である。この装置は、内部空間を画定するチャンバ10を備え、その内部空間には、
内部空間に存在するガスGを照明するように、入射光波と呼ばれる光波12を放射することができる光源11(ここで、入射光波12は照明スペクトルバンドΔ12内にある。)と、
ガスGによって伝達された光波14を、入射光波12によるガスGの照明の影響下で検出するように構成された測定光検出器と呼ばれる光検出器20(ここで、光波14は、測定光波という用語で参照される。それは、測定光検出器20により、測定スペクトルバンドΔ20において検出される。)と、
参照光波と呼ばれる光波12refを参照スペクトルバンドΔrefにおいて検出するように構成された参照光検出器20ref(ここで、参照スペクトルバンドΔrefは、ガスGによる光波12の吸収が無視できると考えられるスペクトルバンドである。)とが配置されている。
【0028】
参照スペクトルバンドΔrefは、測定スペクトルバンドΔ20とは異なる。測定スペクトルバンドΔ20は、参照スペクトルバンドΔrefよりも顕著に広いかもしれない。測定スペクトルバンドΔ20は、参照スペクトルバンドΔrefを含むことができる。
【0029】
ガスGはガス種Gを含み、その量(c(k))、例えばその濃度は、ある測定回kで決定することが求められる。このガス種は、吸収スペクトルバンドΔ内の測定可能なパーセンテージの光を吸収する。
【0030】
光源11は、入射光波12を照明スペクトルバンドΔ12で放射することができ、照明スペクトルバンドΔ12は、近紫外と中間赤外との間、例えば200nmと10μmとの間、多くの場合1μmと10μmとの間に延びることができる。分析されるガス種Gの吸収スペクトルバンドΔは、照明スペクトルバンドΔ12に含まれる。光源11は特にパルス化されてもよく、この場合、入射光波12のパルスの持続時間は一般的に100ms~1sである。光源11は、特に、400~800℃の温度に加熱された吊り下げフィラメント光源であることができ、その発光スペクトルは、発光スペクトルバンドΔ12において、黒体の発光スペクトルに対応する。
【0031】
測定光検出器20は、好ましくは、ガス種の吸収スペクトルバンドΔの全部または一部を包含する測定スペクトルバンドΔ20を画定する光学フィルタ18と共に使用される。
【0032】
この例では、測定光検出器20はサーモパイルであり、検出された光波の強度に応じた信号を送ることができる。あるいは、測定光検出器は、フォトダイオードまたは別のタイプの光検出器であってもよい。
【0033】
参照光検出器20refは、測定光検出器20の横に配置され、測定光検出器20と同じタイプである。それは、参照光学フィルタ18refと呼ばれる光学フィルタと共に使用される。参照光学フィルタ18refは、対象とするガス種によって吸収されない波長の範囲に対応する参照スペクトルバンドΔrefを画定する。参照スペクトルバンドΔrefは、例えば、波長3.91μmを中心とする。
【0034】
ある測定回kで測定光検出器20によって検出される光波14の測定強度と呼ばれる強度I(k)は、Beer-Lambert式に従って、ある測定回の量c(k)に依存する。
【数1】
ここで、
μ(c(k))は、回数kにおける量c(k)に依存する吸収係数であり、
lは、チャンバ10内で光波によって通過されるガスの厚さであり、
Io(k)は、チャンバー内に吸収性ガスが存在しない状態で測定光検出器20に到達する光波の、測定スペクトルバンドΔ20における強度に対応する、回数kにおける入射光波の強度である。
【0035】
I(k)とI(k)とを比I(k)/I(k)の形で比較することにより、回数kで対象とするガス種によって生じた吸収abs(k)を求めることができる。
【0036】
したがって、光源11の各パルスの間にμ(c(k))を決定することができ、c(k)とμ(c(k))との間の関係が既知であれば、これによって、c(k)を算定することが可能である。
【0037】
式(1)は、測定回kにおける入射光波12の強度Io(k)の制御を前提としている。
【0038】
図1Bは、プランクの法則に従う黒体タイプの光源11の発光スペクトルを概略的に示す。
【数2】
ここで、
L(λ,T)は、黒体の波長λと表面温度Tに依存する放射輝度であり、
hは、プランク定数であり、
kは、ボルツマン定数であり、
cは、空気中の光の速度である。
【0039】
光源11の発光スペクトルSは、光源が温度Tまで上昇するとき、λの関数としての放射輝度L(λ,T)の変化に対応する。一般的に、温度Tは、400~800℃である。
【0040】
図1Bは、光源11の1μmと10μmとの間に延びる照明スペクトルバンドΔ12を示す。参照スペクトルバンドΔrefも破線で示した。
【0041】
このタイプの光源は、光源の温度Tを変調することによって簡易に照明スペクトルSを変調できるので、特に有利である。したがって、各温度Tに対して、1つの照明スペクトルSが関連付けられる。
【0042】
黒体または灰色体タイプの光源の放射率は、時間の経過と共に変化し、光源の経時変化の結果、顕著に減少することが知られている。光源11の発光におけるこの時間変化は、参照光検出器20refによって考慮される。参照光検出器20refは、光源11によって放射される入射光波12を表す参照光波12refを検出するように構成される。この参照光波12refは、ガスGと相互作用することなく、またはガスGと有意に相互作用することなく、参照光検出器20refに到達する。測定回kにおいて、参照光検出器20refによって検出される参照光波12refの強度を参照強度Iref(k)という用語で表す。光源11の発光スペクトルが既知であれば、Iref(k)から、ガスGの非存在下測定光検出器20に到達するであろう光波の強度
【数3】
を算定することができる。参照強度はまた、光源11の経時変化を考慮するように測定強度I(k)を補正することを可能にする。
【0043】
この装置は、本発明の方法の工程(後述する)を実施することを可能にする命令を含むメモリ32に接続された、マイクロプロセッサ30を含む。
【0044】
第1実施形態によれば、マイクロプロセッサ30は、各測定回kにおいて参照光検出器20refによって測定される参照光波12refの強度Iref(k)を表す信号を受信するように構成される。このマイクロプロセッサ30は、Iref(k)から
強度
【数4】
を算定する。
【0045】
I(k)に基づいて、入射光波の吸収を次式を用いて算定することができる。
【数5】
式(1)を用いて、μ(c(k))、次いでc(k)が得られる。
【0046】
第2実施形態によれば、マイクロプロセッサ30は、参照強度Iref(k)を表す信号を受信し、次いで、測定強度I(k)の補正を行うように構成される。補正された強度をI(k)で示す。この補正された強度は、光源の経時変化がない場合に測定光検出器によって測定されるであろう強度に対応する。入射光波の吸収量abs(k)は、次式によって得ることができる。
【数6】
ここで、
0(k=0)は、チャンバ内に吸収性ガスが存在しない状態で、初期測定回k=0において、すなわち、光源11が新品であると考えられるときに、測定光検出器に入射する光波を表す。
式(1)を用いて、μ(c(k))、次いでc(k)が得られる。
【0047】
参照スペクトルバンドΔrefと測定スペクトルバンドΔ20における光源11の放射率の比は、通常、以下のような仮定の下で、同じように減少すると考えられる。
第1実施形態が実施されるとき、光源の理論的な発光スペクトルの知見に基づいて、または、
【数7】
のような式をを用いて、
強度
【数8】
は、簡単にIref(k)から算定される;
第2実施形態が実施されるとき、補正関数を適用して、Iref(k)から補正強度I(k)
が得られる。
【数9】
【0048】
しかしながら、本発明者は、光源11の経時変化が参照スペクトルバンドΔrefと測定スペクトルバンドΔ20とで異なる影響を及ぼすことを知見した。仏国特許第3000548号明細書で示唆されていることとは対照的に、測定スペクトルバンドにおける経時変化が、参照スペクトルバンドΔrefにおける経時変化と同様であると考えることはできない。このことを確定するために、本発明者は、図2A図2Cを参照して以下に説明する実験的較正を行った。彼は、図1Aを参照して説明した測定センサおよび参照センサのそれぞれと同様の測定テストセンサ20’および参照テストセンサ20’refを使用した。較正中、分析ガスは既知のガスであり、この例では濃度400ppmのCOであった。実験パラメータは以下の通りであった。
測定フィルタ18:Heimann F4.26-180フィルタ、中心波長4.26μm。
参照フィルタ18ref:Heimann F3.91-90フィルタ、中心波長3.91μm。
測定および参照の光検出器20、20ref:Heimann HCM Cx2 Fx サーモパイル。
【0049】
この試験では、測定フィルタ18は、発明者によって観察される経時変化を明確に示すことができるように、意図的に狭い測定スペクトルバンドΔ20を画定した。なお、本発明は、他の測定スペクトルバンドΔ20、特に参照スペクトルバンドΔrefよりも広い測定スペクトルバンドΔ20にも適用可能であることは理解されよう。
【0050】
図1Aを参照して説明した光源と同様のテスト光源11’を、初期較正回k=0と最終較正回k=Kとの間の種々の回数kにおいて、パルス状に作動させた。各パルスの持続時間は300msであり、次のパルスとの時間間隔は300msであった。約2600万パルスを発生させた。図2Aは、以下の時間変化を示す。
測定テスト光検出器20’によって測定された、測定スペクトルバンドΔ20における測定強度I’(k);および
参照テスト光検出器20’refによって測定された、参照スペクトルバンドΔrefにおける参照強度I’ref(k)。
【0051】
これらの変動は、初期較正回(k=0)における測定強度と参照強度によってそれぞれ正規化された。
【0052】
I’(k)およびI’ref(k)の表記は、これらの強度が、テストセンサ、テスト光源、および既知のガスを用いて、較正段階で測定されるものであることを示す。較正段階では、テスト光源11’と同じ性質の光源11の経時変化を測定することができた。
【0053】
各曲線で観察された変動は、CO濃度の一時的かつ意図的な変動に対応する。
【0054】
較正の間、測定強度I’(k)および参照強度I’ref(k)は、予想されたように、経時的に減少したことが分かるであろう。これは、光源11の経時変化に対応する。また、測定スペクトルバンドΔ20と参照スペクトルバンドΔrefにおける減少がそれぞれ異なることが分かるであろう。このことは、測定スペクトルバンドΔ20における光源11の経時変化が、参照スペクトルバンドΔrefにおける光源11の経時変化とは異なることを意味する。したがって、比率I’(k)/I’ref(k)は回数kの関数として変化する。このことは、光源11の経時変化に伴って、発光スペクトルにわずかな変化が生じることを意味する。
【0055】
図2Bは、参照スペクトルバンドにおける放射率の損失ELref(x軸)の関数として、測定スペクトルバンドにおける放射率の損失EL20(y軸)を示す。各スペクトルバンドにおける放射率の損失(%)はそれぞれ、次式を用いて各回数kについて得られる。
【数10】
【数11】
【0056】
図2Bの曲線の変動は、CO濃度の一時的な変動、すなわち、図2Aを参照して述べたような変動に対応している。EL20は、ELrefの関数として、1より大きい傾きAで、直線的に変動することが分かるであろう。図2Bでは、曲線EL20=ELrefは破線で描いた。
【0057】
光源11の供給電位Vを変化させて同様の試験を行った。3つの同一の光検出器を用い、それぞれを、同じタイプの3つの光源のうちの1つに対向させた。3つの光源の電位はそれぞれ、V=1.48V(これは、図2Bで報告した試験で光源の上昇させた電位に対応している)、V=1.28V、およびV=1.18Vであった。図2Cは、各電位Vについてそれぞれ、ELrefの関数として曲線EL20を示す。電位が減少すると、光源11の経時変化がより目立たないため、放射率の損失は高電位のときよりも低くなる。ただし、3つの曲線が重なっていることが分かるであろう。したがって、測定スペクトルバンドΔ20および参照スペクトルバンドΔrefにおける発光の経時変化の影響は、光源11の電位の上昇とは無関係であると考えられる。
【0058】
図2A図2Cを参照して説明した試験は、参照スペクトルバンドΔrefに対する測定スペクトルバンドΔ20における光源11の経時変化差を測定した較正試験と考えることができる。この試験は、未知のガスを分析するためのセンサが備えているものと同様の構成要素を有するテストセンサを用いて実施した。
【0059】
このような較正試験は、2つのスペクトルバンドΔ20およびΔrefにおける相対的な放射率の変化を特徴づける補正関数δを決定することを可能にする。補正関数δは、各回数kにおける、参照強度と測定スペクトルバンドの強度との比較を含む。
【0060】
第1のアプローチでは、補正関数δは次式のようなものであることができる。
【数12】
【0061】
Aは、図2Bおよび図2Cに示すデータに線形回帰を適用して得られる直線の傾きである。Aは、各スペクトルバンドにおける光源の経時変化差を表すスカラー値である。
【0062】
図3に測定強度I(k)の時間変化の例を示す。この変動は図2Aで測定した変動に対応する。測定信号I(k)に対する以下の2つの補正を、図3に示した。
従来技術に対応する第1の補正(曲線1)。この補正は、次式のように、一定の補正係数を適用して得られる。
【数13】
本発明の実施に対応する第2の補正(曲線2)。この補正は、次式のように、時間(time、回数)の関数として、Iref(k)に対して変化する補正関数δを適用して得られる。
【数14】
【0063】
V=1.48Vで実施した試験の間に、回数KにおいてI(k)の補正に影響するドリフトε(K)を算定し、図3に示す。ドリフトε(K)は、次式に従って%で表される。
【数15】
【0064】
以下のことが分かるであろう。
式(6)に従って第1の補正を適用する場合、ε(K)値は1.34%である;
式(10)に従って第2の補正を適用する場合、ε(K)値は0.08%である。
【0065】
図4は、本発明を実施する測定方法の主な工程を示す。
【0066】
工程100:ある回数kにおいて、ガスを照明する。
【0067】
工程110:参照光検出器20refを用いて、参照スペクトルバンドΔrefにおける参照強度Iref(k)を測定する。
【0068】
工程120:測定光検出器20を用いて、測定スペクトルバンドΔ20における、ガスによって伝達された放射光14の強度I(k)を測定する。
【0069】
工程130:チャンバ内にガスが存在しない状態で、測定光検出器20によって測定スペクトルバンドΔ20において検出されるであろう強度
【数16】
を算定する。この算定は、補正関数δ(k)を考慮し、次式を適用して実行される。
【数17】
【数18】
は、k=0における強度
【数19】
の算定に対応する。
【0070】
工程140:測定スペクトルバンドΔ20における吸収
【数20】
を算定する。
【0071】
工程150:吸収に基づいて、式(1)を適用して、比から、ガス種Gの量c(k)を算定する。
【0072】
工程160:測定回数kを増加させて、工程100~150を繰り返す、または、アルゴリズムを終了する。
【0073】
この実施形態は、各測定回kで測定される参照強度Iref(k)の各測定に対して補正関数δを適用できるようにするために、較正に続いて、経時変化差Aの値のみを保持すればよいので、有利である。
【0074】
補正関数δには他の式を考えることも可能である。例えば、補正関数δは次式であってもよい。
【数21】
【0075】
次に、工程130において、
【数22】
の算定値が、次式によって得られる。
【数23】
【0076】
一変形例によれば、工程130において、測定センサによって測定される強度の値I(k)は、補正関数δを用いて補正される。補正された強度I(k)が得られる。補正関数δは、式(9)のように表すことができる。
【数24】
補正関数δはまた、式(14)で表すことができ、この場合、
【数25】
である。
【0077】
この変形例によれば、工程140において、次式を用いて吸収が得られる。
【数26】
【0078】
したがって、一般的に、較正段階は、参照スペクトルバンドおよび測定スペクトルバンドにおいて光源によって生成される照明放射の強度の相対的な経時的減少を評価することを可能にする。補正関数は、各スペクトルバンドにおける減少の比較を含む。補正関数δ(k)の使用は、2つのスペクトルバンドにおける照明放射12の強度の減少の変動を考慮し、以下のものを得ることを可能にする。
ガスの非存在下で、測定光検出器によって測定されるであろう強度
【数27】
の算定;
または、光源の経時変化がない場合に測定光検出器によって測定されるであろう補正強度I(k)。
【0079】
本発明は、吸収スペクトルΔ20が測定スペクトルバンドΔ20に含まれるガス種Gの量を検出するために用いることができる。測定スペクトルバンドΔ20は、上述の実験例におけるように、狭くてもよい。測定スペクトルバンドΔ20はまた、例えば、複数の異なるガス種の吸収スペクトルバンドΔを含むように、広くてもよい。
図1A
図1B
図2A
図2B
図2C
図3
図4