(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-15
(54)【発明の名称】運動動作およびそれと関連付けられた物体のメトリクスを測定および解釈するための方法、装置、およびコンピュータプログラム製品
(51)【国際特許分類】
A63B 71/06 20060101AFI20231108BHJP
A63B 69/00 20060101ALI20231108BHJP
【FI】
A63B71/06 T
A63B69/00 Z
(21)【出願番号】P 2020566201
(86)(22)【出願日】2019-02-15
(86)【国際出願番号】 US2019018218
(87)【国際公開番号】W WO2019161201
(87)【国際公開日】2019-08-22
【審査請求日】2022-02-14
(32)【優先日】2018-02-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2018-08-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】520312728
【氏名又は名称】エフ5 スポーツ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100086771
【氏名又は名称】西島 孝喜
(74)【代理人】
【識別番号】100109335
【氏名又は名称】上杉 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120525
【氏名又は名称】近藤 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100139712
【氏名又は名称】那須 威夫
(72)【発明者】
【氏名】ランキン デイヴィッド ベンジャミン
(72)【発明者】
【氏名】クッカーニック スティーブン アレクシス
【審査官】岸 智史
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-221942(JP,A)
【文献】特開2007-190365(JP,A)
【文献】特開平06-105940(JP,A)
【文献】特開2013-090862(JP,A)
【文献】特表2016-503893(JP,A)
【文献】国際公開第2017/131133(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0073247(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63B 69/00-69/40
A63B 71/00-71/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
装置であって、
少なくとも1つの加速度計と、
少なくとも1つのジャイロスコープと、
少なくとも1つのプロセッサと、
少なくとも1つの磁力計と、
通信インターフェースと、を備え、
地球の基準系に対する前記装置の回転に応答して、前記少なくとも1つのプロセッサは、
前記少なくとも1つの加速度計、および前記少なくとも1つのジャイロスコープから受信したデータを処理して、前記地球の基準系における前記装置の回転を判定し、
前記少なくとも1つの磁力計からの磁力計正弦波信号に基づいて、スピン速度を表す前記磁力計正弦波の周期を判定し、
前記磁力計正弦波信号の前記周期から、有限インパルス応答ハイパスフィルタを生成し、
前記有限インパルス応答ハイパスフィルタを前記少なくとも1つの加速度計からの前記信号に対する移動平均ウィンドウフィルタとして実装して、前記装置と関連付けられた物体に作用する揚力と抗力とを分離するように構成されている、装置。
【請求項2】
前記地球の系における前記装置の向きは、四元数形式で維持される、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記地球の基準系に対する前記装置の回転は、前記加速度計によって検出された重力に応答して確立される、請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記通信インターフェースは、前記地球の基準系における位置、角速度、および角加速度をリモートデバイスに出力する、請求項1に記載の装置。
【請求項5】
前記角速度および角加速度は履歴データと比較され、前記リモートデバイスは、前記履歴データに関して前記角速度および前記角加速度のうちの少なくとも1つを改善するためのフィードバックの表示を提供する、請求項4に記載の装置。
【請求項6】
前記プロセッサは、前記装置と関連付けられた前記物体の抗力係数および表面積に少なくとも部分的に基づいて、前記揚力を前記抗力から分離するようにさらに構成されている、請求項1に記載の装置。
【請求項7】
前記プロセッサは、
前記少なくとも1つの磁力計から3つのデータチャネルを受信し、
各データチャネルから正弦波信号のゼロ交差を判定し、
前記3つのデータチャネルの各々のゼロ交差の2つの隣接する対の時間差を平均化し、
前記平均化された時間差からスピンの周期を判定するようにさらに構成されている、請求項1に記載の装置。
【請求項8】
前記装置と関連付けられた物体がユーザによって投てきされたことに応答して、前記プロセッサは、
前記少なくとも1つのジャイロスコープから信号を受信し、
前記少なくとも1つのジャイロスコープからの前記信号の2次導関数を取得して、時間軸に沿った値を有する角躍度信号を確立し、
前記角躍度信号の前記値の統計的に有意な増加に応答して、投てきのスナップ段階の開始を前記時間軸上で判定するようにさらに構成されている、請求項1に記載の装置。
【請求項9】
前記プロセッサは、
前記角躍度信号の正の値から負の値への変化に応答して、前記投てきの前記スナップ段階の後半部分を前記時間軸上で判定し、
前記スナップ段階の前記開始と前記スナップ段階の前記後半部分に続くゼロの角躍度値に応答して、前記スナップ段階の終了を前記時間軸上で判定するようにさらに構成されている、請求項8に記載の装置。
【請求項10】
前記プロセッサは、前記少なくとも1つの加速度計からの信号に基づいて、前記スナップ段階の間に前記物体が移動した距離を判定するようにさらに構成されている、請求項9に記載の装置。
【請求項11】
前記プロセッサは、前記少なくとも1つの加速度計からの信号に基づいて、前記スナップ段階の間の前記物体の速度の変化を判定するようにさらに構成されている、請求項9に記載の装置。
【請求項12】
前記プロセッサは、前記少なくとも1つのジャイロスコープからの信号に基づいて、前記スナップ段階の間の前記物体のスピン軸の変化を判定するようにさらに構成されている、請求項9に記載の装置。
【請求項13】
装置であって、
少なくとも1つの加速度計と、
少なくとも1つのジャイロスコープと、
少なくとも1つの磁力計と、
通信インターフェースと、
少なくとも1つのプロセッサと、を備え、
投てきされて、地球の基準系に対して前記装置が回転していることに応答して、前記少なくとも1つのプロセッサは、
前記少なくとも1つの加速度計、前記少なくとも1つのジャイロスコープ、および前記少なくとも1つの磁力計から受信したデータを処理して、前記地球の基準系における前記装置の回転を判定し、
前記地球の基準系における前記装置の前記回転から、前記装置に作用する揚力と抗力と
を判定し、
前記装置に関連付けられた物体の抗力係数及び表面積に少なくとも部分的に基づいて、前記揚力を前記抗力から分離するように構成されている、装置。
【請求項14】
前記地球の基準系に対する前記装置の回転は、前記加速度計によって検出された重力に応答して確立される、請求項13に記載の装置。
【請求項15】
角速度および角加速度は履歴データと比較され、リモートデバイスは、前記履歴データに関して前記角速度および前記角加速度のうちの少なくとも1つを改善するためのフィードバックの表示を提供する、請求項14に記載の装置。
【請求項16】
前記プロセッサは、
前記少なくとも1つの磁力計から3つのデータチャネルを受信し、
各データチャネルから正弦波信号のゼロ交差を判定し、
前記3つのデータチャネルの各々のゼロ交差の2つの隣接する対の時間差を平均化し、
前記平均化された時間差からスピンの周期を判定するようにさらに構成されている、請求項13に記載の装置。
【請求項17】
前記装置が投てきされたことに応答して、前記プロセッサは、
前記少なくとも1つのジャイロスコープから信号を受信し、
前記少なくとも1つのジャイロスコープからの前記信号の2次導関数を取得して、時間軸に沿った値を有する角躍度信号を確立し、
前記角躍度信号の前記値の統計的に有意な増加に応答して、前記投てきのスナップ段階の開始を前記時間軸上で判定し、
前記角躍度信号の正の値から負の値への変化に応答して、投てきの前記スナップ段階の後半部分を前記時間軸上で判定し、
前記スナップ段階の前記開始と前記スナップ段階の前記後半部分に続くゼロの角躍度値に応答して、前記スナップ段階の終了を前記時間軸上で判定し、前記スナップ段階の前記終了は投てきされた前記装置のリリースを定める、ようにさらに構成されている、請求項13に記載の装置。
【請求項18】
前記地球の基準系における前記物体の前記回転から、前記装置に作用する揚力と抗力と判定するように構成された前記プロセッサは、
前記少なくとも1つの加速度計又は少なくとも1つの磁力計からの正弦波信号に基づいて、スピン速度を表す前記正弦波の周期を判定し、
前記正弦波信号の前記周期から、
有限インパルス応答ハイパスフィルタを生成し、
前記
有限インパルス応答ハイパスフィルタを前記少なくとも1つの加速度計からの信号に対する移動平均ウィンドウフィルタとして実装して、前記装置と関連付けられた物体に作用する揚力と抗力とを分離するように構成されている前記装置を含む、請求項13に記載の装置。
【請求項19】
装置であって、
少なくとも1つの加速度計と、
少なくとも1つのジャイロスコープと、
少なくとも1つのプロセッサと、
少なくとも1つの磁力計と、
通信インターフェースと、を備え、
地球の基準系に対する前記装置の回転に応答して、前記少なくとも1つのプロセッサは、
前記少なくとも1つの加速度計、および前記少なくとも1つのジャイロスコープから受信したデータを処理して、前記地球の基準系における前記装置の回転を判定し、
前記少なくとも1つの磁力計から3つのデータチャネルを受信し、
各データチャネルから正弦波信号のゼロ交差を判定し、
前記3つのデータチャネルの各々のゼロ交差の2つの隣接する対の時間差を平均化し、
前記平均化された時間差からスピンの周期を判定するように構成されている、装置。
【請求項20】
前記地球の基準系に対する前記装置の回転は、前記少なくとも1つの加速度計によって検出された重力に応答して確立される、請求項19に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2018年2月19日に出願された「Method for measuring lift and drag forces on a ball」と題する米国仮出願第62/632,333号の優先権を主張し、その内容全体は参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本開示は、運動動作およびそれと関連付けられた物体のメトリクスの測定に関し、より詳細には、投球シーケンスのワインドアップ、リリース、飛行、および捕球の間の野球ボールのメトリクスおよび特性の測定に関する。
【背景技術】
【0003】
スポーツや運動活動は、通常、特定の結果を生み出すために人が行う身体的動作を伴う。ゴルフにおいて、身体的動作は、クラブをスイングして、ゴルフボールとの接触の結果を生み出し、ゴルフボールを所望の場所に送ることを伴う。テニスにおいて、身体的動作は、ラケットを振ってテニスボールに接触させ、テニスボールを所望の場所に向けることを伴う。野球において、投手の身体的動作は、ワインドアップおよび野球ボールをホームプレートに向かう軌道に沿って投てきすることである。いずれの場合も、アスリートは、特定の結果に影響を与えるためにスポーツに関わる身体的動作を練習し、関連するスポーツで上達するために、精度と正確さのための結果を修正かつ調整しようとする。こうしたアスリートたちが上達するのを助けるために、指導はしばしば、コーチがアスリートの動作を観察し、動作ひいては結果を改善する方法について指示を与える場合に依存する。人間の目による観察は、これらの動作のいくつかによって生じることになる速度のために制限される。ゴルフボールの打撃は数分の1秒で行われるため、スイングを分析してボールの軌道を分析する以外に、ゴルフのクラブの面がゴルフボールにどのようにインパクトを与えたかを観察することは困難である。同様に、野球では投球が非常に素早く行われるので、ワインドアップと投てきの様々な要素または段階が肉眼では容易に見えない場合がある。高速度カメラはアスリートの動作に関する追加情報を提供できるが、高速度カメラの映像の分析は費用と時間がかかり、動作ごとに生成されるフィードバックの価値は限られたものとなる可能性がある。センサを使用すると、打たれたテニスボールの速度や、投てきされた野球ボールの速度、スピン、および経路など、目に見えない動作の構成要素も測定することができる。ただし、レーダーガンや多視点カメラなどの従来のセンサおよびレーダーシステムは複雑で高価であり、また操作や情報の取得には専門知識が必要である。アスリートの動作およびそれらの動作をどのように改善できるかに関して即時のフィードバックを提供することができる、低コストで容易に実現されるアスリートの動作を測定する方法を有することが望ましい。
【発明の概要】
【0004】
したがって、本開示の目的は、運動動作およびそれと関連付けられた物体のメトリクスを測定することであり、より詳細には、投球シーケンスのワインドアップ、リリース、飛行、および捕球の間の野球ボールのメトリクスおよび特性の測定することである。本明細書に記載の実施形態は、物体と関連付けられた少なくとも1つのモーションセンサから、物体に対して実行された運動動作に応答して物体の加速度データおよび角速度データを受信することと、加速度データを処理して、物体の基準系と地球の基準系との間のベクトル回転データを確立することと、ベクトル回転データを加速度データに適用して、地球の基準系における物体の加速度を取得することと、ベクトル回転データを角速度データに適用して、地球の基準系における物体の角速度を取得することと、ニューラルネットワークへの入力として、地球の基準系における物体の加速度および地球の基準系における物体の角速度を提供することと、ニューラルネットワークから、物体に対して実行された運動動作の分析を受信することと、運動動作の分析の表示を提供することと、を含む方法を提供し得る。
【0005】
いくつかの実施形態によれば、方法は、前記ニューラルネットワークから、前記運動動作の理想的な反復に対して前記運動動作をどのように改善するかについて、前記物体に対して実行される前記運動動作に関する指示を受信することを含み得る。方法は、地球の基準系における物体の加速度を積分して、地球の基準系における物体の速度を取得することと、地球の基準系における物体の速度を積分して、地球の基準系における物体の位置を取得することと、を含み得る。方法は、地球の基準系における物体の位置を一定期間にわたって取得することに応答して、地球の基準系を通る物体の経路を確立することができる。方法は、角速度データに基づいて、物体の角加速度を導出することを任意で含み得る。
【0006】
方法は、物体の角速度に基づいて、物体の回転速度を確立することと、物体の角加速度に基づいて、地球の基準系における少なくとも1つの回転軸を確立することと、を含み得る。角速度が角速度を検出するためのセンサの範囲を超えたことに応答して、方法は、角速度がセンサの範囲を超える前の物体の回転速度を確立することと、運動動作の直後の物体の角速度を確立することと、角速度がセンサの範囲を超える前の物体の回転速度および運動動作の直後の物体の角速度に基づいて、センサの範囲を超える物体の回転速度および角速度を算出することと、を含み得る。方法は、物体の加速度を微分して、物体の角躍度を取得することと、物体の角躍度の正の値、ついで物体の角躍度の負の値、ついで所定の値を下回る物体の角躍度の値に応答して、運動動作のスナップ段階を判定することと、を任意で含み得る。
【0007】
実施形態は、運動動作を測定するためのシステムを提供することができる。システムは、運動動作を実行するユーザによって作用される機器装備物体を含み得る。物体は、少なくとも1つの加速度計と、少なくとも1つのジャイロスコープと、少なくとも1つのプロセッサと、通信インターフェースと、を含み得る。少なくとも1つのプロセッサは、少なくとも1つの加速度計から、物体が静止していることに応答して、重力の方向の表示を受信するように構成されてもよい。少なくとも1つのプロセッサは、少なくとも1つの加速度計から、物体の基準系における加速度データを受信するように構成されてもよい。少なくとも1つのプロセッサは、少なくとも1つのジャイロスコープから、物体の基準系における角速度データを受信するように構成されてもよい。プロセッサは、重力の方向の表示を使用して、物体の基準系における加速度データを地球の基準系における加速度データに変換し、物体の基準系における角速度データを地球の基準系における角速度データに変換するように構成されてもよい。本システムは、地球の基準系における角速度の導関数に基づいて、地球の基準系における物体の角加速度を判定し、地球の基準系における加速度データの積分に基づいて、地球の基準系における物体の速度を判定し、地球の基準系における物体の速度の積分に基づいて、地球の基準系における物体の位置を判定するように構成されている処理回路を含み得る。
【0008】
いくつかの実施形態によれば、システムはニューラルネットワークを含み得る。ニューラルネットワークは、地球の基準系における物体の角加速度、地球の基準系における物体の速度、および地球の基準系における物体の位置を入力として受信することができる。ニューラルネットワークは、物体に対して実行された関連する運動動作のデータベースに対する入力の分析に応答して、物体に対して実行された運動動作を改善するための助言をもたらすことができる。ジャイロスコープはスピン速度上限を含んでいてもよく、機器装備物体がスピン速度制限を超えたことに応答して、ジャイロスコープ信号は信頼し得なくなる。スピン速度制限を上回る機器装備物体のスピン速度は、スピン速度がスピン速度上限を超える前の角速度ベクトルまたは角加速度ベクトルおよびユーザによって作用された後の機器装備物体の角速度ベクトルの大きさのうちの少なくとも1つに基づいて、算出することができる。
【0009】
本明細書に記載の実施形態は、少なくとも1つの加速度計と、少なくとも1つのジャイロスコープと、少なくとも1つのプロセッサと、少なくとも1つの通信インターフェースとを有する装置を含み得る。地球の基準系に対する装置の回転に応答して、装置は、少なくとも1つの加速度計、少なくとも1つのジャイロスコープ、および少なくとも1つのプロセッサから受信したデータを処理して、地球の基準系における物体の回転を判定するように構成されてもよい。地球の系における装置の向きは、四元数形式で維持されていてもよい。地球の基準系に対する装置の回転は、加速度計によって検出された重力に応答して確立されてもよい。通信インターフェースは、地球の基準系における位置、角速度、および角加速度をリモートデバイスに出力することができる。角速度および角加速度は履歴データと比較してもよく、リモートデバイスは、履歴データに基づいて受信した角速度および角加速度に対する角速度および角加速度のうちの少なくとも1つを改善するためのフィードバックの表示を提供することができる。
【0010】
いくつかの実施形態によれば、装置のプロセッサは、少なくとも1つの加速度計からの正弦波信号に基づいて、スピン速度を表す正弦波の周期を判定し、正弦波の周期から、有限インパルス応答ハイパスフィルタを生成し、有限インパルスハイパスフィルタを少なくとも1つの加速度計からの信号に対する移動平均ウィンドウフィルタとして実装して、装置と関連付けられた物体に作用する揚力と抗力とを分離するように構成されてもよい。いくつかの実施形態によれば、装置は少なくとも1つの磁力計を備え、装置のプロセッサは、少なくとも1つの磁力計からの正弦波信号に基づいて、スピン速度を表す正弦波の周期を判定し、正弦波の周期から、有限インパルス応答ハイパスフィルタを生成し、有限インパルスハイパスフィルタを少なくとも1つの加速度計からの信号に対する移動平均ウィンドウフィルタとして実装して、装置と関連付けられた物体に作用する揚力と抗力とを分離するように構成されてもよい。プロセッサは、装置と関連付けられた物体の抗力係数および表面積に少なくとも部分的に基づいて、揚力を抗力から分離するようにさらに構成されてもよい。
【0011】
いくつかの例示的な実施形態の装置は、少なくとも1つの磁力計をさらに含み得る。プロセッサは、少なくとも1つの磁力計から3つのデータチャネルを受信し、各データチャネルから正弦波信号のゼロ交差を判定し、3つのデータチャネルの各々のゼロ交差の2つの隣接する対の時間差を平均化し、平均化された時間差からスピンの周期を判定するように構成されてもよい。装置と関連付けられた物体がユーザによって投てきされたことに応答して、プロセッサは、少なくとも1つのジャイロスコープから信号を受信し、少なくとも1つのジャイロスコープからの信号の2次導関数を取得して、時間軸に沿った値を有する角躍度信号を確立し、角躍度信号の値の統計的に有意な増加に応答して、投てきのスナップ段階の開始を時間軸上で判定し、角躍度信号の正の値から負の値への変化に応答して、投てきのスナップ段階の後半部分を時間軸上で判定し、スナップ段階の開始とスナップ段階の後半部分に続くゼロの角躍度値に応答して、スナップ段階の終了を時間軸上で判定するように構成されてもよい。プロセッサは、少なくとも1つの加速度計からの信号に基づいて、スナップ段階の間に物体が移動した距離を判定するように構成されてもよい。プロセッサは、少なくとも1つの加速度計からの信号に基づいて、スナップ段階の間の物体の速度の変化を判定するようにさらに構成されてもよい。プロセッサは、少なくとも1つのジャイロスコープからの信号に基づいて、スナップ段階の間の物体のスピン軸の変化を判定するように任意選択で構成されてもよい。
【0012】
このように本発明の実施形態を一般的な用語で説明してきたが、以下で参照される添付図面は必ずしも一定の縮尺で描かれているわけではない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の例示的な実施形態による、物体に対して行われた運動動作を測定および処理するように特に構成され得る装置のブロック図である。
【
図2】本発明の例示的な実施形態によるモーションセンサからのデータを処理するためのモーションエンジンを示す図である。
【
図3】本発明の例示的な実施形態による、ティーから離れた野球などの移動物体からの打撃中の物体からの加速度計信号のグラフである。
【
図4】本発明の例示的な実施形態による、物体に対して実行された動作を測定かつ処理することと連携した様々なニューラルネットワークの実装を示す図である。
【
図5】本発明の例示的な実施形態による、野球ボールの投球の異なる段階を測定するためのプロセスのフロー図である。
【
図6】本発明の例示的な実施形態による、球のジャイロスコープがオーバーレンジ状態に達した際の、ボールのスピンの算出を示す図である。
【
図7】本発明の例示的な実施形態による、物体のセンサから生成または導出された加速度、角加速度、および角躍度信号を示す図である。
【
図8】本発明の例示的な実施形態による運動動作中の物体からのセンサ信号の一連のグラフを示す図である。
【
図9】本発明の例示的な実施形態を使用したトレーニングまたはコーチングの閉ループ方法のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、本発明の全ての実施形態が示されているわけではないが、そのうちのいくつかが添付の図面を参照して以下により詳細に説明される。実際に、本発明の様々な実施形態は、多くの異なる形態で具体化することができ、本明細書に記載の実施形態に限定されると解釈されるべきではなく、むしろ、これらの実施形態は、本開示が適用可能な法的要件を満たすように提供される。全体を通して同様の参照番号は、同様の要素を指す。
【0015】
本明細書に記載の実施形態は、多くのスポーツにおけるアスリートの動作を分析するために様々なシステムの様々なフォームファクタで実施され得るが、主要な実施形態例は、ここでは投げられた野球ボールに関して説明する。野球ボールの投球の動作は非常に複雑であり、野球ボールの速度、スピン、スピン軸、および経路に影響を与える多くの入り組んだ動きを伴うため、野球ボールの投球に関して分析を行い、フィードバックを提供できるシステムは、同様の、または比較的複雑さの少ない可能性のある様々な他のスポーツおよび運動動作に容易に適合する。本発明の実施形態は、独自のモーションキャプチャシステムを使用して、投球の異なる段階における野球ボールの特性を測定する。野球ボールの投球には、ワインドアップ、リリース、飛行、捕球などの様々な段階が含まれる。これらのステージの各々には、分析を通じた、投手のモーションと投てきの様々な質を向上させるために使用できる独自のモーションが含まれる。
【0016】
野球ボールの飛行を捕捉するための大半の既存のモーションキャプチャシステムは、外部カメラおよび/またはセンサを使用し、野球ボールの中に埋め込まれた、または投手が着用するセンサを含み得る。これらのシステムは、投手にとって煩わしく気を散らすものである可能性があり、投球の質や投手の動きの信頼性を低下させる場合があるので、投手の従来のワインドアップおよび投てきを正確に表すことができなくなる場合があるため、取得したデータの値が下がることになる。投手の体や衣服に装着されたモーションセンサは、投手の腕や体の感覚を変化させたり、投手の手足の邪魔になったり、投手の腕の重量配分を変化させたりすることがある。野球の試合中に自分の環境と調和していない投手に影響を与える外的要因は、投手のワインドアップと投てきに作用する可能性があり、投球の分析の利点を制限する可能性がある。本書に記載の実施形態は、投手またはその環境に悪影響を与えることなく実現され、投球の練習時または試合時の環境を再現できる環境において使用できるため、投手のワインドアップおよび投球から収集されたデータの信頼性と精度が向上する。本明細書に記載の実施形態は、投手に対する実質的な透明性を伴って実施され得るので、システムおよび方法は、システムを使用する投手のパフォーマンスに悪影響を与えることはない。
【0017】
本明細書に記載の実施形態は、一連のセンサが埋め込まれた野球ボールを使用して、ワインドアップの開始からボールのリリースまでの投手と投手の腕の動きを検出するモーションセンサとして機能し、ボールが投手の手から離れた後の投手の動きおよびリリースに起因するボールの飛行の特徴を測定する。ボールの感触、ボールの重量、およびボールの外観を維持するようにセンサをボール内に埋め込むことで、投手のパフォーマンスに影響を与える可能性のある外部からの影響なしに、投手がパフォーマンスできるようになる。本明細書に記載の実施形態は、センサアレイが埋め込まれた野球ボールを投げることと、通常の野球ボールを投げることとを投手が認識または区別できるという点において、投手に対して透過的であってもよい。これにより、投手は、物理的な負担や表示がないこと、ならびに投手が自分の複雑な動きのモニタリングおよび測定を認識したときに存在し得る心理的効果の両方を通じて、練習時、ウォームアップ時、試合時の投球モーションおよび投てきをより正確に再現できるようになる。
【0018】
本明細書に記載の実施形態は、主に、機器装備野球ボールならびにワインドアップおよび野球ボールの投てきのパラメータの測定を対象とするが、実施形態は、フットボール、サッカーボール、クリケットボール、ジャイライボールなどの他のスポーツ用具で実施されてもよく、またはゴルフクラブ、野球のバットなどの用具で使用されてもよい。
【0019】
本明細書に記載の例示的な実施形態によれば、システムは、野球ボールの芯内に離散的に配置されたセンサのアレイを有する機器装備野球ボールと、センサのアレイから外部デバイスにデータを送信する手段であって、投球データの記憶およびキャッシュのために野球ボールのセンサアレイに装着されたメモリを含み得る手段と、外部デバイス内のメモリと、クラウドベースの記憶システムなどと、を含み得る。
【0020】
本設計による機器装備野球ボールは、ボールが投手によって保持されている間、投手の動きを検出および測定するためのモーションセンサとして機能することができ、センサアレイは、ボールが投手によってリリースされると、飛行データセンサになり得る。さらに、投球中にボールがリリースされる直前の瞬間における投手の重要な動きを測定かつ分析して、投球が発生する速度および野球ボールが投手の手からリリースされる直前の比較的短い時間のためにかつては分析またはコーチングが困難であった投球の一部分に貴重なフィードバックを提供することができる。このデータが機器装備野球ボールによって測定されると、データを送信および分析して、ワインドアップ、投てき、および飛行の様々な側面をユーザが確認できるように提示することができる。
【0021】
機器装備物体
例示的な実施形態によるデバイスは、プロセッサ、およびラジオ、Bluetooth、RFIDなどの通信デバイス、または本明細書に記載の互換性のある実施形態である他の通信デバイスなどを伴うプリント回路基板(PCB)上に搭載された一組の微小電気機械システム(MEMS)センサを使用して実装することができる。通信システムは、センサアレイおよびプロセッサからユーザデバイスにデータを送信するように構成されてもよく、ユーザデバイスは、ニューラルネットワークと協働してセンサデータを処理することができる。センサデータの処理は、ユーザデバイス上で実行することができ、サーバまたはクラウドベースのシステム、あるいはそれらの組み合わせを介してリモートで処理することができる。任意選択で、センサアレイおよびプロセッサは、センサデータの前処理機能を実行するように構成されてもよく、ニューラルネットワーク通信機能は、デバイスプロセッサおよびメモリに組み込まれていてもよい。
【0022】
方法、装置、およびコンピュータプログラム製品は、機器装備物体からのデータを処理して物体の客観的品質を判定し、閉ループフィードバックにおいてデータ分析を使用して物体の使用を改善する例示的な実施形態に従ってここに提供される。本明細書に記載の主要な実施形態において、物体は、投手の投球モーション、ならびに投球の経路、速度、スピン速度、およびスピン軸を含む投球中のデータを測定するように機器装備された野球ボールである。
図1は、野球ボールなどの機器装備装置100の通信図を示す。図示のように、装置100は、感覚アレイ内の複数のセンサ要素からの信号を受信するためのプロセッサ110または中央処理装置(CPU)を含み得る。センサアレイは、3次元ジャイロスコープ120などのジャイロスコープと、3次元加速度計130であり得る加速度計または3次元場で加速度を生成するための加速度計のアレイと、同様に三次元磁力計140であり得る磁力計とを含み得る。本明細書では、ジャイロスコープという用語は、角速度を測定可能なセンサまたはセンサアレイを説明するために使用されているが、当業者は、ジャイロスコープが任意で同様の機能のジャイロメータまたはデバイスと称し得ることを理解するであろう。
図1に示すセンサの各々は3次元の読み取り値と互換性のあるセンサを表しているが、センサのセンサアレイを使用して、例えば、相補的に配置された単軸センサを使用して各次元の加速度、向き、または磁場を測定できることが理解される。プロセッサ110は、任意で、メモリ160および
図1にBluetooth通信インターフェースとして描写されている通信インターフェース150と通信することができる。装置100はさらに、完全内蔵型センサアレイを有効にするために、野球ボール内のセンサ、プロセッサ、メモリ、および通信インターフェースに電力を供給するように構成されたバッテリまたは他の電源を伴って構成されてもよい。実施形態は、
図1のワイヤレス充電器170および電圧レギュレータ180などの、装置の電源を充電するためのワイヤレス充電メカニズムを含み得る。
【0023】
例示的な実施形態において、プロセッサは、メモリ160に格納された、またはそうでなければプロセッサにアクセス可能な命令を実行するように構成されてもよい。したがって、ハードウェア、ソフトウェア、またはそれらの組み合わせによって構成されているかどうかにかかわらず、プロセッサは、本発明の実施形態による動作を実行可能であり得る。通信インターフェース150は、1つ以上のユーザデバイスとの通信を容易にするなど、装置との間でデータを受信および/または送信するように構成されているハードウェアおよび/またはソフトウェアとして具現化されるデバイスまたは回路などの任意の手段であり得る。これに関して、通信インターフェースは、アンテナと、ワイヤレスネットワークとの通信を可能にするためのサポートハードウェアまたはソフトウェアとを含み得る。通信インターフェース150は、Bluetooth(図示)、WiFi、Zigbee、RFIDなどの近距離通信(NFC)プロトコルを介して通信するように構成されてもよい。
【0024】
モーションエンジン
上記で説明し、
図1に示したハードウェアは、データを収集できる野球ボールなどの機器装備物体の一例であってもよい。モーションエンジンは、
図1で示したようなハードウェアを使用して、物体に関する有用な情報のストリームを生成する役割を果たす。例示的な実施形態によれば、センサ(例えば、加速度センサ130およびジャイロスコープ120)からのデータは、使用する前に処理してもよい。本明細書に記載のモーションエンジンは、この処理を行って、以下で説明する機能を有効にすることができる。モーションエンジンは、地球の基準系における物体の向きを、四元数形式、スピン速度、スピン軸、速度、および位置で出力することができる。モーションエンジンはまた、地球の系における、以下でさらに説明する躍度および角躍度を出力する。センサデータを地球系内の加速度および回転データに変換するために、データのベクトル回転が、物体(例えば、野球ボール)の基準系から地球系に実行されてもよい。回転を促進するために、モーションエンジンは、地球系内の物体の向きを維持する。センサフレームに対する向きは四元数形式で維持され、センサデータの回転操作を地球系に定義することができる。
【0025】
地球系と物体系とを相互に関連付けるために方向ベクトルを維持するには、モーションエンジンが加速度計およびジャイロスコープからのデータを融合する必要がある場合がある。物体が静止しているときは、地球の重力加速度が一定であるため、物体の向きを加速度データストリームから直接読み取ることができる。物体が動き始めると、加速度データには重力ベクトルと動きによって生じた加速度との合計が含まれるため、それ自体は有用ではなくなる。動いているときは、ジャイロスコープによって測定された物体の回転を積分することにより、向きを維持することができる。
【0026】
図2は、本明細書に記載のモーションエンジンの例示的な実施形態のプロセスフロー図を示す。図示のように、加速度データは205で加速度センサによって生成され、角速度は210でジャイロスコープから受信される。2つのセンサストリームは、両方の慣性センサからのセンサデータのストリームをモニタリングすることにより、検出器のセット215によって制御される。このデータを使用して、検出器のセットは、加速度ストリームが重力ベクトルを表すときを示す信号を出力する。この信号を使用して、向きの四元数を初期化し、センサ融合220からの点線で示すように、モーションエンジンによって維持された全ての積分をリセットする。この較正ステップにより、機器装備物体を、機器装備野球ボールの各投球の前など、各測定操作の前に再ゼロ化できる。
【0027】
モーションエンジンは、2つの異なる基準系で動作する。ボールの系と地球の系であって、ボールの基準系はボールとともに移動し、地球の基準系は一定のままである。ボールの基準系からの座標系は、機器装備組立品の向きに関して固定されているX、Y、およびZのフレームワークを定義する3次元センサから導出される。地球系の座標系は、地球系のZ軸を定義する重力ベクトルによって定義されている。地球系のXY平面はZ軸に直交しているが、XY平面の向きは固定された方位角であり、これは恣意的であってもよい。例えば、コンパスが利用できる場合、Y軸は磁北と合わせてもよいが、コンパスが利用できない場合、「北」は必ずしも地球の磁場と合わせる必要はない。
【0028】
図2の例示的な実施形態に示すように、加速度計およびジャイロスコープからのセンサデータは、220におけるセンサ融合により、検出器のセット215および方向四元数235を使用して、地球の基準系と合わせられる。物体/ボールの基準系に対する地球の基準系を使用して、センサデータのベクトル回転は、加速度センサデータに対しては225、ジャイロスコープからの角速度データに対しては230で実行される。これにより、ボールの基準系を地球の基準系に相関または整列させ、以下でさらに説明するように、ボールの基準系において検出された動きをユーザが解釈できるようになる。加速度センサデータは、240に示すように、225における回転に基づいて地球の基準系における加速度を提供し、245における積分により250で速度を提供し、さらに255における積分により250で位置を提供する。230において地球の基準系と合わせる回転による角速度データは、地球の基準系における角速度265を提供し、270における導関数により275において角加速度を提供する。
【0029】
したがって、モーションエンジンは、生の信号データを処理して、地球の基準系における加速度、速度、位置、角速度、および角加速度に到達することができる。これにより、野球などの物体を空間と時間を通して追跡し、地球と合わせられた軸の周りの回転速度を取得して、空力飛行中の物体の追跡を含むワインドアップから投てきまでの投球の測定値の全一式を生成できる。ボールの基準系を地球の基準座標系と合わせることにより、ボールの測定された動きを投手のマウンドとホームプレートに対して相対的に追跡し、投球に関するデータセットを簡単に解釈することができる。このユニークな方法論は、投球モーションなどの動作の様々な側面をトレーニングおよび指導する上で必要なツールを提供するために不可欠である。
【0030】
情報処理
本明細書に記載の実施形態は、上述のように機器装備野球ボールを使用して、投手のパフォーマンスを測定および定量化し、かつ投手の動きおよび投球自体の様々な側面を評価することができる。野球ボールの投球は、投手の全身、特に投手の腕を含む投手からの複雑な一連の動きを必要とする。これらの動きは非常に速く、野球ボールの投手から投球される野球ボールは時速100マイルを超える速度に達することがある。ワインドアップおよび投てき中の投手の動きの複雑な性質、および投球の速度により、この動きを捕捉しようとするセンサデータは、欠落や食い違いが発生しやすくなる可能性がある。機器装備野球ボールからのデータの処理も、データの欠落が発生しやすくなる場合があり、データの食い違いがモーションデータの正確な分析を妨げた場合、データの処理に使用されるアルゴリズムが機能しなくなる場合がある。不正確なデータまたは機器装備野球ボールのセンサアレイ内のセンサ間のタイミングの相違は、不完全なデータをもたらす可能性があり、これまで分析が難しい場合があった。本明細書に記載の実施形態は、一般にデータの問題の影響を受けやすい比較的低コストのセンサを含むセンサアレイを使用して、従来のデータ処理アルゴリズムにとって有害となるであろう生成されたデータの潜在的な問題にもかかわらず、正確かつ反復可能な結果を取得する方法を提供する。
【0031】
モーションエンジンに関して上記で概説したように、使用されるセンサは、投球モーションおよび投手によるリリース後のボールの自由飛行に関するデータを含む、処理され、地球の基準系において有用なデータに変換される生データを提供することができる。本明細書に記載の方法は、動いている身体をモニタリングしているセンサアレイからデータのストリームを取り込み、そのデータストリームをプロセッサおよびモーションエンジンに提供することができる。プロセッサは、ニューラルネットワークおよびモーションデータのデータベースを使用して、データストリームを処理するために必要な情報を導出することができる。任意選択で、通信インターフェース150によって生成および送信されたデータの帯域幅を制限するために、
図2のモーションエンジン計算を実行する
図1のプロセッサ110内など、物体内でデータを前処理することができる。方法は、センサのダイナミックレンジを超える動き、不十分な較正、不十分な捕捉率など、現実世界の影響によるデータセットの食い違いおよび/または不正確さを含むデータを処理することができる。
【0032】
一部の比較的高コストのセンサはデータ取り込みに関連するいくつかの問題を回避できる場合があるが、高コストのセンサは製品の実行可能性を制限し、製品のアクセシビリティに悪影響を与える可能性がある。逆に、低コストのセンサは、意図した目的でセンサを確実に使用できれば、製品の製造コストを削減することができる。本明細書に記載の実施形態は、データ処理およびインテリジェントなデータ修復を通じて低コストセンサの欠陥を軽減し、理想的とは言えないデータストリームの処理を可能にすることにより、低コストセンサと関連付けられた問題を解決する。本明細書で提供される方法は、低コストのセンサの脆弱性を取り除き、データの欠落、不正確なデータ、または様々なセンサからのサンプル間のタイミングの相違を許容する。これにより、低コストのセンサまたは低機能のセンサセットから高品質の測定値セットを取得することができる。
【0033】
例示的な実施形態によれば、様々なタイプのセンサのアレイは、測定される動きに対応するデータの1つ以上のストリームを生成するために、スポーツ用具の野球ボールまたは他の物体内に埋め込むことができる。信号処理チェーンを使用して、帯域幅の制限、センサゲインの制御などを行うことができる。フィルタを使用して、所望の動きまたは動きの段階の開始および終了を確立することができる。取り込まれたデータは、トリガー機能によってフィルタリングし、ニューラルプロセッサなどのプロセッサに転送することができる。同様のデータのデータベースによってトレーニングされたニューラルネットワークを使用して、データセットを処理し、所望の測定値を生成することができる。結果として生じたデータは、表示、保存、他のユーザとの照合、または1人以上のユーザによる分析のためのメトリクスを提供するために提供され得る。ニューラルネットワークおよびデータベースは、野球ボール内に配置されたセンサアレイから信号を受信するように構成されたユーザデバイス内に属するか、あるいはネットワーク経由でアクセスされたサーバまたはクラウドベースの処理システムの一部分上に配置することができる。任意選択で、センサアレイは、処理されたセンサデータをさらなる分析のためにユーザデバイスまたはネットワークに送信する前に、センサアレイデータの全体または一部分を処理するように構成されてもよい。
【0034】
例示的な実施形態のセンサは、実質的に連続的なデータストリームなどのデータを高速でサンプリングするように、または毎秒2000サンプルなどの高速でサンプリングするように構成されてもよい。次に、サンプルは、ユーザデバイスへの送信前に、トリガーロジックによってバンドパスフィルタでフィルタリングされ、ゲートされ得る。サンプルは、送信遅延のためにセンサアレイと同じ場所にあるローカルバッファに格納することができる。任意選択で、実施形態は、データをユーザデバイスまたはクラウドに継続的にストリーミングするように構成されてもよい。データがユーザデバイスに送信されると、ユーザデバイスまたは別のデバイスは、受信した形式でデータを表示できるが、ニューラルネットワークプロセッサにデータを転送することもできる。関連データによって以前にトレーニングされたニューラルネットワークプロセッサは、センサアレイから受信したデータを、所望の測定値のセットに変換することができる。その後、測定値は、保存、表示、照合などのためにユーザデバイスに送り返される。
【0035】
本明細書に記載のニューラルネットワークコンポーネントは、信号アレイから受信されたデータから高品質の信号を生成するために使用することができる。
図3は、バットで打たれたティー上の野球ボールのような、プレーヤによる物体の打撃中の加速度計の1つのチャネルからの出力の例示的な実施形態を示す。
図3の図示された実施形態は、ティー上の野球ボールに関連するが、同じ方法論および装備が、本明細書の他の例示的な実施形態で説明される野球ボールまたはゴルフボールなどの様々なスポーツ用具で実施し得ることが理解される。加速度計は、センサアレイを野球ボールの中に埋め込むことができるのと同様に、物体に埋め込むことができる。図示のように、最初の1ミリ秒間の加速度が埋め込み型加速度計の範囲よりもはるかに大きいため、物体の打撃の最初のフレームは無効な読み取り値となる。デジタル信号処理アプローチでは、ローパスフィルタを使用して欠落データを埋めることができるが、結果の値は高くなりすぎ、信号内の他の機能がフィルタによって減衰される可能性がある。これにより、積分からの物体の速度などの派生データが大幅に損なわれ、信頼性が失われる。デジタル信号処理システムは、補間によって信号を修復し得るが、それは値を過小表示し、下流の計算における使用のためにデータを損なうことになるであろう。しかしながら、本明細書に記載されるようなニューラルネットワークを使用することで、欠落したセンサデータを確実に複製し、実際の動きの正確なモデルを提供することができる。
【0036】
図3に示されているように、このチャートは、ティー上の野球ボールのように、動く物体によって打撃された物体からの加速度計の出力を示す。時間ゼロでは物体は静止しており、それから5ミリ秒で打たれる(インパクト)。インパクトの直後に、加速度計は一時的にその範囲を超え、それから7ミリ秒までに範囲内に戻る。加速曲線は、物体が野球バットと34ミリ秒まで接触したままであることを示している。34ミリ秒後、物体は「自由飛行」に入る。ニューラルネットワークは、類似のインパクト曲線、信号の打撃段階を特定し、タイプインパクトの有効な加速度の範囲を知ることで、5~7ミリ秒間の欠落している加速度計の値を埋めることができる。この情報は、機器装備物体を使用して以前に加えられた多くのインパクトを通じて、トレーニングデータとしてニューラルネットワークに供給することができる。本明細書に記載の技術は、角加速度およびスピンが機器装備物体からの全体的なデータストリームを複雑にする可能性があるため、機器装備ボールまたは同様の拘束されない動きの物体で特に有用である。慣性測定ユニット(IMU)などの慣性追跡アルゴリズムは、様々な力を、地球の基準系におけるコヒーレントなベクトルのセットに分離することができる。データの欠落または破損は、このプロセスを混乱させ、出力に相当なエラーを引き起こす可能性がある。
【0037】
ここで使用されるニューラルネットワークは、広範囲の条件にわたってシステムの物理モデルを具現化する何千もの野球ボールの投球の例でトレーニングすることができる。この場合、加速度計信号全体の形状は、システムへの他の入力とともに、ネットワークが信号を狭い範囲のインパクトシナリオに厳密に分類することを可能にし、欠落データの可能な値を自動的に厳密に制約することができる。これにより、システムは欠落データを埋めたり、不正確なサンプルを比較的簡単に検出したりすることができる。ニューラルネットワークを使用して、センサデータを全体として、分析とさらなる計算のための高品質のサンプルセットを生成する状態にすることができる。
【0038】
前述の方法は、広範囲のモーション信号に適用することができる。ボールを打つ、投げる、またはスイングするモーション、歩行、飛行モーション、インパクトモーションなどのほとんどのモーションシステムは、非常に束縛されている場合がある。モーションは、滑らかな連続関数であるか、単一のステップ関数に続いて滑らかな連続関数を含んでいる。一般に、動いている物体の重量とサイズは狭い範囲の値に収まる可能性があり、加速度と速度もそのシナリオに固有の範囲に収まる。例えば、野球の投手は、打者に到達させるために時速30マイル以上でボールを投げる必要があり、プレーヤの生理機能により、投手の99.9%において最高速度が時速100マイル未満に制限される。これらの小さい範囲により、ニューラルネットワークは、管理可能なストレージと処理機能を備えた幅広いトレーニングセットを実現できる。
【0039】
ニューラルネットワークの別の層は、修復された信号データを使用して、結果によって、または同じ分野の専門家による同様のモーションとの比較によって、モーションの品質を判断する。野球ボールの投球の結果には、例えば、投げられた距離、正確さ、スピン軸などが含まれる。ニューラルネットワークは、比較する適切なケースを発見し、例のケースが入力されたケースより優れたものとなる違いを強調することができる。
【0040】
本明細書で説明するように、ニューラルネットワークを使用することで、デジタル信号処理システムの主要な弱点を緩和することができる。ニューラルネットワークは、センサまたはセンサのアレイからのデータセット全体を同時に処理することができ、概して信号の不連続によって引き起こされる中断を回避できる。スポーツのトレーニングおよび評価の分野では、人間のパフォーマンスと、その結果として投てきされたボールなどのスポーツ物体のパフォーマンスを測定するために、様々な方法を使用することができる。前述のパフォーマンスを測定するために使用されるセンサは、多くの場合、全範囲の動きを測定することができず、データセットの部分が欠落しているか、不正確である可能性がある。本明細書に記載の実施形態は、これらの問題を軽減し、比較的低コストのセンサを使用して測定を実行し、有意なデータを生成することを可能にする。
【0041】
本明細書に記載のニューラルネットワーク処理は、欠落している隙間を埋め、データセットのエラーを最小限に抑えることができる。復元されたデータセットは、パフォーマンスのトレーニング、評価、および測定に役立つ。この処理パラダイムは、センサデータの隙間や不連続を被ったり、影響を受けたりすることはなく、直接入手できないデータセットから情報を抽出することができる。同様の動作の多くの例を使用してニューラルネットワークをトレーニングした後、ニューラルネットワークは高い信頼度で仮定に基づく処理を行うことができる。ニューラルネットワークは、直接測定せずに正確な情報を生成することができる。さらに、追加のデータが収集されてニューラルネットワークに追加されると、ニューラルネットワークは、センサの読み取り値の不足を克服するために必要なデータ補間の精度および信頼性を向上させるように、学習および開発を行う。
【0042】
従来の信号処理方法では有用な情報を抽出することはできるが、データセットの不連続性という問題を被る場合がある。一例として、ボールがバットで打たれたときに、ボールの並進ベクトルが逆転することが挙げられる。多くのアルゴリズムでは、信号パイプラインが効果的にフラッシュされ、サンプルなしで処理が開始される。言い換えれば、アルゴリズムはキーイベントを通じてシームレスに処理することができない。本明細書に記載のニューラルネットワークの実装は、データパイプラインを排除することにより、デジタル信号処理システムのこの重大な弱点を排除または軽減し、代わりにニューラルネットワークを使用して、不連続性による中断なしにデータセット全体を同時に処理する。
【0043】
実際には、同様のデータセットで構築された同様のモーションデータの多くの例を使用して、ニューラルネットワークが生成される。ワインドアップや投球などの所望の動きが検出されると、センサのアレイから、各々が完全な測定値のセットを伴うフレームのセットを含むデータセットが収集される。そして、データセットをニューラルネットワークの入力に提示することができ、ニューラルネットワークの出力は、所望の抽出データを提示する。
【0044】
ニューラルネットワークは、野球ボールの投球と同様のモーションなど、数千の同様のデータセットからの大量のデータセットをエンコードする手段を提供する。本明細書に記載の例示的な実施形態では、ニューラルネットワークは、野球ボールの投球からの何千ものデータセットでトレーニングすることができる。新たな野球ボールの投球(またはその他のモーション)からのデータは、ニューラルネットワークの入力に提示することができる。そして、ニューラルネットワークは、トレーニングセットのパターンに基づいて、その出力を適切な値に設定することができる。
【0045】
図4は、モーションを、その分野のエキスパートやプロフェッショナルなどの既知の良好な例からのトレーニングセットと比較することによるニューラルネットワーク使用の例示的な実施形態を示す。最初のステップでは、280で専門家からデータを収集するか、計算モデルまたはロボット(機械学習)システムからデータを開発する。より高い精度のモデルには何千ものデータレコードが必要な場合があり、ユーザからの測定データを適切に分類および定量化するために、カーブボール、スライダー、スラップショット、チッピング、ドライビングなどのモーションなど、様々なモーションタイプが必要になる場合がある。次に、データベースを使用して、プロセスの各段階のニューラルネットワークをトレーニングする。最初のニューラルネットワークは、282でセンサからの信号データを入力または修正するために使用される。低コストのセンサはデータを欠落させたりデータを破損したりする可能性があるため、281で収集された学習者のデータの信号修復283中に信号をフィルタリングおよび/または強化して信号の忠実度を復元することが有益である。次のステップでは、データセットにおけるモーションのタイプを判定する。このプロセスには、第2のニューラルネットワーク284を使用することができる。モーション分類285の出力を使用して、モーションのどの特徴が学習者に最も関連するかを選択することができる。第3のニューラルネットワーク286は、学習者のモーションの関連する特徴を、287のトレーニングセットにおけるエキスパートまたは理想的なモーションと比較する。この情報を使用して、288で学習者にガイダンスを提供し、トレーニングセットのモーションにさらに一致させて、学習者のパフォーマンスを向上させる。
【0046】
オーバーレンジのジャイロスコープ
前述の説明には、ジャイロスコープを使用したスピン速度測定が含まれる。しかしながら、以下に説明するように、ボールのリリースおよび自由飛行が始まる直前の有限期間である投球のスナップ段階の間、野球ボールのスピン速度は急速に上昇する。ほとんどの投球タイプでは、スピン速度はジャイロスコープの測定範囲を超えるまで上昇し続ける。ジャイロスコープには、記録されたスピン速度が正確である定義された帯域幅があり、この定義された帯域幅より上または下では、記録されたスピン速度の精度が低下する可能性がある。本明細書に記載の実施形態は、ジャイロスコープが正確である定義された帯域幅を超えて、スピン速度をより正確に判定することを可能にする。一部のジャイロスコープでは、帯域幅の上限が約667回転/分(RPM)になる場合がある。投球のスナップ段階の最後の瞬間には、回転速度が667RPMを超える可能性があるため、ジャイロスコープはボールのスピン速度を正確に報告することができない。この投球の期間は、ジャイロスコープがオーバーレンジまたは範囲外となる。
【0047】
本明細書に記載の実施形態は、投球のスナップ段階の最後の瞬間における有効なジャイロスコープデータの損失を補償する。この推定を行うために、ボールが投球のスナップ段階の後半でオーバーレンジ状態になると仮定することができる。スナップ段階のこの時点において、ボールが投手の手を離れるときに投手によってボールに最終スピンが付与されており、投手はボールに加えているトルクの方向を変更することはできない。トルクベクトルの方向(ただし必ずしも大きさではない)は、地球の系に対して固定されていると想定され、それによって角加速度ベクトルの方向も固定される。
【0048】
オーバーレンジ状態になる前の投球の期間中、ボールの角速度および角加速度は、前述のように地球の系において既知である。このデータはモーションエンジンによって生成される。スナップ段階に続く飛行段階の開始時に、磁力計からの測定値を使用して、総スピン速度またはスピンベクトルの大きさが判定されてもよい。総スピンは磁力計から導き出すことができる。ただし、求心力からのスピン速度の導出や、加速度計信号の周波数分析など、他の方法も利用することができる。利用可能なセンサデータに基づいて、オーバーレンジ期間の開始時の測定値が認識され、飛行段階の開始時の測定値の部分的なセットが認識される。オーバーレンジ状態直前の最後の有効な角速度および角加速度ベクトル、ならびに飛行段階の開始時の既知の総スピン速度を使用して、角速度ベクトルを推定することができる。角加速度の大きさは変化するが、本明細書に記載の解決法は、大きさの変動に影響されない。例えば、大きさが半分に減少した場合、最終的なスピン速度に達するまでに2倍の時間がかかることになる。ただし、スピンの成分は同じである。本解決法は、大きさが固定されているようにモデル化することができる。本解決法の一部として算出された時間は、ボールが最終的なスピン速度に到達するのにかかる実際の時間を表していない場合がある。時間は、大きさが固定された場合の所要時間を表している。
【0049】
本明細書に提示された方程式を解くことで、飛行開始時のスピンの成分を求めることができる。式中、
ωx(飛行)=飛行開始時のスピンのx成分(地球の系)
ωx(0)=オーバーレンジ開始時のスピンのx成分(地球の系)
αx(0)=オーバーレンジ開始時の角加速度のx成分(地球の系)
totalSpin=飛行開始時の角速度ベクトルの大きさ
tRise=角加速度が一定の場合、最終スピン速度に到達するのにかかる時間
スピン速度は次のように算出することができる。
ωx(飛行)=ωx(0)+tRise*αx(0)
ωy(飛行)=ωy(0)+tRise*αy(0)
ωz(飛行)=ωz(0)+tRise*αz(0)
totalSpin=sqrt(ωx(飛行)^2+ωy(飛行)^2+ωz(飛行)^2)
図6は、このプロセスのグラフ表示を示し、曲線385は、地球の系におけるX成分を示し、曲線387は、地球の系におけるY成分を示し、曲線391は、地球の系におけるZ成分を示す。線395は、飛行中のボールの総スピン速度を表し、各曲線の実線部分は、ジャイロスコープによる地球の基準系に回転した測定値を表す。曲線393は、ボールの累積スピン速度を表す。垂直線397は、オーバーレンジ状態の開始を表し、垂直線399は、連立方程式の解を表す。各破線を評価して、スピンの3つの成分を得ることができる。各線の破線部分は、固定角加速度モデルωx(飛行)=ωx(0)+tRise*αx(0)を表す。
【0050】
上記の技術を使用すると、ジャイロスコープセンサがその有効範囲を超えた後でも、野球ボールに与えられるスピンは、上記のモーションエンジンからのデータの外挿を使用して確実かつ繰り返し可能に算出できる。これにより、正確かつ以前は達成不能であった方法で、ワインドアップの始めからリリースまでの投球の包括的な分析が可能になる。
【0051】
ボールのスピン速度は、磁力計からの信号に基づいて確立することもできる。正弦波信号の周期はスピン速度として解釈されてもよく、3つのデータチャネルに基づいて(例えば、3つの直交軸から)、どのチャネルが最小ピークツーピーク信号値を超えているかを確定し、各信号内のゼロ交差を見つけることで確定されてもよい。次に、ゼロ交差の隣接する2つの対の時間差を平均して、スピンの周期またはスピン速度を判定してもよい。
【0052】
パフォーマンスの測定
上述のように、本発明の実施形態は、野球ボールの投球など、人のパフォーマンスを測定する手段を提供する。実施形態は、センサのアレイを使用して、投手の投球技法を測定し、また、ボールが投手によってリリースされた後の、ボールの飛行、スピン速度、軌道、および距離を測定する。投球技法および投球パフォーマンスの測定は、投手の技法の改善、投手の負傷からのリハビリ、またはワインドアップと投球中の投手の体の動き方を学習する上で役立てることができる。測定されたデータには、ボールを保持している間の投手の手の軌跡、動作中の加速力、インパルス測定などが含まれる。こうした情報から、骨格関節の過度のひねり、筋肉への負荷など、投球技法に関する他の情報を得ることができる。本明細書に記載の実施形態は、これらの測定を低コストで容易に行うための手段を提供する。
【0053】
本明細書に記載の方法は、加速度センサおよび角速度センサからの信号を使用して、投げる動作中の人の手の動きを捕捉する。センサは、手に装着するか、投げるボールなどの手持ちの物体に埋め込むことができる。これらの信号に対する一群の数学的演算を用いて、投球中の動きに関する重要な情報を導き出すことができる。
【0054】
投球技法を測定したり、投てきされたボールを測定したりするための既存の方法は、通常、それらを使用する前に較正と広範な設定を必要とする。さらに、既存のシステムの複雑な性質は、高い実装コストと、それに合わせて特にコストが概して重要な懸念事項である草の根レベルでのスポーツにおいて、そのようなシステムの広範な採用を妨げる複雑な操作方法または設定とをもたらすことになる。ここで提供されるシステムは、比較的低コストで実装することができ、実質的に設定時間も較正も必要としない。ユーザは、各投球の正確な測定値をすぐに受け取ることができる。本明細書に記載のシステムの使いやすさは、低コストと合わせて、幅広い採用を可能とし、また幅広いユーザから投球についてのクラウドソース化されたデータを収集することで、前述のニューラルネットワークを促進する。
【0055】
本明細書に記載の実施形態は、上述のように、ボール内にセンサアレイを含む。センサは、加速度計と、ジャイロスコープ(角速度測定)センサと、電源がボール内に埋め込まれたプロセッサとを含み得る。無線機能は、ユーザデバイスを介したユーザへの測定値の送信を容易にし得る。ボールが投てきされると、センサは加速度を積分して速度を取得し、速度を積分して距離を確定することができる。両方の値の積分は、手が動いていないときは投球の最初で始まり、ボールが手に触れなくなったときに完了する。
【0056】
上記のように、機器装備野球ボールは、バッテリなどの電源と、センサ信号を受信かつ処理するための処理要素と、3軸加速度計と3軸ジャイロスコープとを含み得るセンサのアレイと、好ましくは無線通信インターフェースとを含み得る。センサデータの処理は、ボール内のセンサアレイの処理要素で局所的に実行されてもよく、またはセンサデータの受信に応答して遠隔で実行されてもよい。いずれの場合でも、センサデータに積分関数を適用して、地球に対する空間の向きを維持することができる。センサデータから生成された加速度ベクトルは、
図2に関して上記で説明したように、地球の系に回転させることができる。速度関数は、局所および/または遠隔処理で実行して、加速度ベクトルを積分することができる。
【0057】
上記で説明した
図2は、
図1に示すハードウェアを使用した例示的な実施形態のデータ収集および処理フローを示す。例示的な実施形態によれば、センサアレイは、投球動作中に、加速度計130を使用して加速度のための3次元信号およびジャイロスコープ120を使用して角速度を提供し、それらの信号を、慣性測定ユニットの機能性を実装し得る処理要素110に提供して、
図2に示すように、地球の基準系に対するボールの向きを確定および維持し、加速度計信号を積分して速度を算出することができる。サンプリングは、実質的に連続して、または投球全体の正確な測定を保証するのに十分なサンプリングレートを使用して実行することができる。ボールの固定された所定の質量が与えられた場合、速度の大きさを使用してインパルス値を算出することができる。
【0058】
実際には、
図1の例示的な実施形態の実行は、ユーザが、センサアレイが埋め込まれたボールを10ミリ秒などの所定の時間保持して慣性測定ユニットに信号を送り、重力(例えば、地球の基準系)に対するセンサの向きを捕捉することでプロセスを開始させることから始めることができる。これは、センサからの読み取り値を「センサの系」から「地球の系」に回転させるために使用される。多くの実装では、ユーザが投球や試合の他の側面を評価している間、一時的な静止である「設定」または「アドレス」が必要になる場合があるため、このプロセスは概して投球プロセスを妨げることはない。投手の手が動き始めると、慣性測定ユニットはジャイロスコープの出力を積分して、モーションエンジンに関して上述したように、地球の系に対する向きを維持する。加速度計の信号は速度を追跡するために積分され、それからセンサアレイが埋め込まれたボールの空中の経路を追跡するために再び積分される。これらの値は、さらなる演算で使用することができ、および/または通信インターフェースを介するなどして、タブレットコンピュータ、モバイルデバイス、ラップトップコンピュータなどを含み得るユーザデバイスを通じてユーザに通信することができる。投球中の各サンプル期間の加速度、回転、速度、および経路に関する情報は、人体および/または投球自体に対する動作の影響を理解するようにトレーニングし得る投手、コーチ、医療専門家(例えば、スポーツ医学士または運動学士)などにとって有意であり得る様々な方法で提示することができる。
【0059】
スナップ段階の測定
野球ボールの投球には、ワインドアップの開始から、投てきおよび捕手による捕球までのいくつかの段階を伴う。これらの段階は、以下を含み得る。
セット 投球開始時の短い休止
テイクバック 投手のグローブの手がホームプレートから離れる動き
フォワード 手がボールの意図した経路に沿って前進する
スナップ ボールが手からリリースされる
飛行 ホームプレートに向かって移動するボールの空力飛行
捕球 投球の終点
上記の「手」は、投球中に野球ボールを保持している手を指す。セット段階、テイクバック段階、フォワード段階、スナップ段階は各々、ボールが実際にリリースされる前のワインドアップの一部である。ワインドアップの様々な段階は様々な理由で重要であり、投球のスナップ段階は投球の経路、スピン、および速度にとって非常に重要である。本明細書に記載の実施形態は、主要なメトリクスが段階ごとに異なり得るため、投球に関するデータを異なる段階にセグメント化する。例えば、腕と肩の動きはテイクバック段階とフォワード段階では非常に重要であり得る一方で、手と指の動きが非常に重要であり得るスナップ段階では、腕と肩はそれほど重要ではない場合がある。
【0060】
図5は、「セット」段階が検出される前に発生するアイドルステージ310を含む投球の進行の例示的な実施形態を示す。アイドルステージの間、投手がマウンド周辺を移動したり、投球を決定したりする場合がある。投球プロセスを開始する準備ができたら、320でセット段階に入る。上記のように、これは、投球モーションが開始されようとしているときの、投球プロセス中の短い休止である。セット段階が終了すると、テイクバック段階330が開始され、投手のグローブの手が後ろに引くように動く。340で、テイクバック段階は終了し、フォワード段階がホームプレートに向けて加速を伴って始まる。投球のフォワード段階が終了しつつあるときに、リリースの直前のスナップ段階350が始まり、360でリリース時にスナップ段階が終了し、ボールの空力飛行が始まる。ボールの飛行は、捕手が捕球したとき、バックネットに当たったとき、地面に当たったとき、または試合のシナリオにおいてはバットに当たったときに、370で終了する。ボールの飛行が終了すると、本明細書で説明するように、380でメトリクスが算出される。
【0061】
ワインドアップのスナップ段階は、ボールがまだ投手の手に接触している段階であるため、投球にとって重要な意味を持つが、手はリリース前のボールに最終的な影響を与えている。投手はほぼ全てのスピンを与え、この段階で野球ボールのスピン軸を設定する。スピン軸とスピン速度の両方は、ボールの飛行経路において重要な要素である。投手は、ボール上の投手の手のグリップを使用して、投球のタイプおよび、スナップ段階中にどのようにリリースするかを確定する。これにより、スナップ段階は、新しい投球を学習し、既存の投球を改善する上で肝要となる。
【0062】
スナップ段階は、投球の結果にとって非常に重要である。スピン軸とスピン速度は、主にスナップ段階中に確定される。スナップ段階の開始時の回転軸と速度は、投手の腕の動きの結果であり、スナップ段階の終了時の回転速度に比べて比較的遅い場合がある。スピン軸は、スナップ段階中に任意の方向に遷移することができる。スナップ段階は、投球に相当な速度を付与し、自由飛行前の投球の最終速度を確定する。本明細書に記載の実施形態は、スナップ段階を識別し、その投球の結果への影響を特定する。
【0063】
スナップ段階の開始前は、ボールの角加速度は投手の手の動きに制限されており、スナップ段階中にボールにかかる角加速度と比較すると比較的低い。投球の初期の部分の間におけるボールの角加速度の大きさを監視することにより、大きさの急激な増加はスナップ段階の開始を示す。これにより、本明細書に記載の実施形態は、投手の手の目視観察に依存することなく、投球のフォワード段階とスナップ段階とを区別できるが、その代わりに、スナップ段階の開始を表す識別可能な測定パラメータを提供する。この方法は、目視観察よりも信頼性が高い。特に、ボールの周りの手の位置は、握りおよび投球に基づいて変化する可能性があり、スナップ段階の開始を目視で確定することは、投球の多数の角度および高精度の画像なしでは不可能であり、それらがあったとしても確定には詳細な分析が必要となるであろう。
【0064】
投球のスナップ段階は、ボールが投手の手と接触しなくなり、ボールが空力飛行を開始すると、完了する。上述のハードウェアを通して得られた測定値を使用する本明細書に記載の実施形態は、角加速度とは対照的に、並進加速度の大きさを監視することによってスナップ段階の終わりを確定することができる。スナップ段階中、加速度は急速に上昇し、その後非常に急激にゼロまで低下する。大きさがゼロに達すると、ボールはもはや投手の手と接触しない。飛行段階に入るときに加速度計によって測定された空力のため、もっぱら加速度計の大きさに依存することは信頼性がない。加速度計の信号を微分して「躍度」信号を取得することで、より信頼性の高い信号を得ることができる。躍度信号は、スナップ段階の開始時にのみ正の値を取り、スナップ段階の後半では負の値のみを取る。この信号は、躍度信号がゼロまたは小さな正の値に近づき、加速度計の信号が空力によって予想される最大値を下回ったときに(例えば、抗力による減速)、飛行段階の開始を、信頼性をもって示す。
【0065】
図7は、本発明のセンサおよび処理要素によって生成される信号の例示的な実施形態を示す。上部のグラフ410に示すように、加速度計(412、413、414)の3つの軸の各々に加わる加速力および大きさ415が図示されている。中央のグラフ420は角加速度を示し、下部のグラフ430は角加速度または角躍度の導関数を示す。グラフの網掛け部分は、約80ミリ秒~135ミリ秒の間で、上記の信号分析に従って識別されたスナップ段階である。
図7のグラフの最初の80ミリ秒の間、投球のワインドアップが行われるにつれて、腕が回転する。その後、角躍度グラフ430の急激な変化は、ボールのスピン速度が急激に上昇していることを示す。これは、スナップ段階の開始である。スナップ段階の終わりは、加速度がゼロに低下する加速度グラフ410で見つけることができる。
【0066】
図7のグラフの網掛け部分で表されているように、スナップ段階の期間は、段階の開始へのタイムスタンプから段階の終了のタイムスタンプを減算することによって決定できる。地球の基準系における各軸に沿ったスナップ段階の開始時のボールのスピン速度を測定することができ、地球の基準系の各軸に沿ったスナップ段階の終了時のボールのスピン速度を測定することができる。スナップ段階の開始時および終了時のボールの速度、ならびにスナップ段階中の速度の変化を測定することができる。加えて、スナップ段階中にボールが移動した距離は、スナップ段階の開始時および再びのスナップ段階の終了時のボールの3次元位置を記録することによって判定することができる。2つの位置間の大きさの差は、直線距離になる場合がある。前述の分析を使用して、投手、コーチ、およびその他の関係者は投球に重要なスナップ段階中のボールの動作が評価かつ精査し、投球がどのように行われるか、および投球の様々な特徴または側面を改善または変更するために何ができるかを判定することができる。
【0067】
揚力と抗力の測定
投手によってボールがリリースされると、投球のスナップ段階に続いて、ボールは投球の空力飛行部分に入り、そこでボールは空中を移動し、かつ1つ以上の軸に沿って回転している。ボールが空中を移動し、十分な速度で回転しているとき、揚力と抗力が測定可能になるのに十分な力を発生させる。これらの力は、投てきされたボールの飛行と経路に影響を与え、様々な種類の投球の複雑さに寄与する。これにより、打者がそれらの投球を打つことがより難しくなり、投手が打者を三振に打ち取る可能性が高まる。外部装置を必要とせずに、ボール内のセンサを使用して、ボールの基準系内からの揚力および抗力を測定することが望ましい。揚力および抗力の大きさおよび方向がわかっている場合、ボールの挙動およびその飛行経路の詳細な測定を行うことが可能になる。この情報は、プレーヤの改善と評価のために、プレーヤとコーチにとって非常に有用である。
【0068】
本明細書に記載の実施形態は、加速度センサおよび磁気センサからの信号を使用して、組み合わされた揚力と抗力の大きさ、および揚力成分の大きさを算出する。そして、信号を処理して、ノイズ、求心力、およびスピン軸の歳差運動の信号成分を除去することができる。開示された実施形態は、比較的低コストのセンサおよび回路を使用して、加速および磁場測定を実行し、高度な一連の信号処理動作を採用することにより、揚力および抗力の測定および算出に伴う課題を克服する。この新しい方法論により、安価でコンパクトなハードウェアを使用して、有用なデータセットを取得することができる。
【0069】
本明細書に記載の本発明には、ボールを投げたり打ったりすることを伴い、かつプレーヤがボールにスピンをかけてボールの飛行経路を変更できるようにするスポーツを含む、多くの実世界の用途がある。ほとんどの場合、「ひねり」とも呼ばれるそのようなスピンは、対戦相手がボールを追跡するのを困難にしたり(例えば、野球、テニス、クリケットなど)、特定の経路または戦略的な弧に沿って進めたり(例えば、ビリヤード、ボウリング、フットボール、サッカーなど)するのに用いられる。加えられたスピンまたはひねりは、マグナス効果と呼ばれる、空中を移動するボールまたは物体の回転によって生成される揚力を利用する。プレーヤ、特に熟練したプレーヤは、スピン速度、スピン軸、およびボールの速度を制御して、ボールを飛行方向に垂直な各所与の方向に移動させることができる。野球における一般的な例は、打者がボールを追跡するのをより困難にするために投手が使用する「休止」または「動き」である。
【0070】
どのスポーツにおいても、プレーヤは試合中に自分に利益をもたらすテクニックを向上させるために練習する。野球においては、投手は、揚力ベクトルを制御する飛行パラメータをよりよく制御および理解できるようになるまで、ボールの投げ方を練習することになる。本明細書に記載の実施形態は、1つ以上の軸に沿ってボールにかけられたスピンに基づいて、ボールによって生成される揚力の量および方向を定量化することにより、トレーニングプロセスを支援する。プレーヤは、「目視で」ボールを視覚モニタリングすることに依存するよりも、各方向/揚力量の正確な値からメリットを得る。さらに、負傷から回復途中であったり、スポーツから長期離れていたりしたプレーヤは、この情報を使用して以前のパフォーマンスレベルに復帰し、かつ特定の投球スタイルを取り戻すことができる。
【0071】
ここで提供される例示的な実施形態によれば、スポーツ用具の物体、特に野球ボールは、外皮、外観、重量、および重量分布が乱されないように、かつボールはスポーツの規制パラメータ内にとどまるように、上述のハードウェア構成要素を埋め込むことができる。ボール内に埋め込まれたシステムは、電源、プロセッサ、および通信インターフェースとともに、加速度計と磁力計とを含み得る。慣性測定ユニット(IMU)を採用することもでき、処理ユニットの一部としてもよいが、ジャイロスコープを使用してもよい。
【0072】
投てきされたボールの飛行中、本明細書に記載のシステムのセンサは、ボールに作用する力を測定する。加速度計は、3つの直交軸に分解された全ての力の合計を出力する。加速度計信号における他の力から揚力値を分離するには、不要な信号を除去するためにいくつかの操作または分析を実行する必要がある場合がある。揚力ベクトルの方向を決定するために、任意選択のIMUは地球に対する向きを提供することができ、抽出された揚力信号に対して数学的な回転を実行して、揚力の大きさと方向を取得することができる。
【0073】
本明細書で説明するように、スナップ段階に続いてボールが投球の飛行段階に入ると、センサからの信号をフィルタに向けて経路設定して、不要な信号を除去することができる。結果として生じたフィルタ信号は、揚力および抗力の組み合わせを含み、かつセンサデータから導出されたスピン速度とともに、ニューラルネットワークの入力に配置される。ニューラルネットワークの出力は、ボールに作用する揚力である。この情報は、他のプロセスおよび/またはユーザによる送信および使用のために、ワイヤレス通信インターフェースに格納または転送することができる。
【0074】
投球のスナップ段階の後、ボールが飛行している間、加速度計と磁力計からの信号は、ボールのスピン速度に比べて高いレートでサンプリングされる。例えば、ボールが毎秒最大60回転でスピンしている場合、サンプリングレートは120Hzを超えることになる。より高いサンプルレートは、信号ノイズの低減に役立つ。磁力計の出力を処理して、正弦波が「ゼロ交差」において信号の中間点と交差する点を見つけることができる。上述のように、総スピンは磁力計から導き出すことができる。ただし、求心力または加速度計信号の周波数分析からスピン速度を導き出すなど、他の方法も利用可能である。また、正弦波の周期は、磁力計からのセンサデータ以外のセンサデータに基づいて確定できる。これらの点のタイミングは、信号の周期を見つけるために使用されるため、ボールのスピン速度がわかる。
図8は、2つの信号、すなわち、加速度計センサ信号510および磁力計信号520を示す。さらに、揚力および抗力信号530も示す。540で示されている磁力計信号のゼロ交差点は、ボールのスピン速度を確定する正弦波の周期を判定するために使用される。
【0075】
加速度計からの正弦波の周期を使用して、550に示すように、移動平均ウィンドウフィルタとして実装される有限インパルス応答ハイパスフィルタを作成することができる。このフィルタは、残りの揚力および抗力信号に対する歪みを最小限に抑えながら、加速度計信号から求心信号および歳差信号を削除することができる。結果として生じた信号は、530に示すように、ゼロを中心とした揚力と抗力の組み合わせを含む。
【0076】
フィルタリングされた信号のX、Y、Z成分の大きさは、ボールの飛行中にサンプルごとに算出することができる。平均の大きさは、飛行中のボールに作用する平均空力である。ニューラルネットワークを使用して、揚力の大きさを抗力の大きさから分離することができる。入力は、ボールのスピン速度(上記のように確定されたもの)および抗力であってもよい。出力は、生成された揚力によって与えられた空気である。ニューラルネットワークは、ボールのタイプの揚力係数と抗力係数に関するデータを使用して作成することができる。次に、揚力をさらなる計算で使用したり、ユーザに通知したりすることができる。通信インターフェースを介するなどしてデータがユーザデバイスに送信されると、ユーザデバイスは受信した形式でデータを表示できるが、ユーザデバイスはデータをニューラルネットワークプロセッサに転送することもできる。以前にトレーニングされたニューラルネットワークプロセッサはデータを受信し、それを所望の測定値のセットに変換することができる。次に、これらの測定値は、例えば、表示、保存、または照合のためにユーザデバイスに送り返されてもよい。
【0077】
ボールに埋め込まれた加速度計は、3つの軸の「重力」でボールに作用する力を測定することができるので、信号は、ボールに加えられている力の量の直接の測定値となり得る。野球ボールが通常の方法で投球されると、ボールは前進モーションに加えてスピンすることになる。スピンと前進モーションは、マグナス効果と呼ばれる揚力と空力抵抗の両方をもたらす。十分なスピン速度とボール速度により、加速度計の出力信号は、これらの力に対する複合効果を直接測定する。ボールがスピンしているため、加速度計の軸も回転しているので、加速度計の出力は、ボールのスピン速度と軸に関連する正弦波形状になる。デバイスの出力は、方向と大きさを持つ3次元ベクトルとして扱うことができる。総合的な揚力と抗力は、ボールの飛行中のベクトルの平均の大きさを算出することによって求めることができる。
【0078】
一部の実施形態のセンサアレイおよび処理要素によって生成される信号は、揚力および抗力の特徴の抽出をより複雑にする追加の属性を含み得る。加速度計が回転の中心から機械的にオフセットされている場合、求心力により、信号がスピン速度とオフセットの量に関連する量だけオフセットされる可能性がある。ボールの重量分布が回転の中心に配置されていない場合、出力信号はスピン軸の歳差運動によってゆらいでいるベースラインを呈する。正確な測定を行うには、これらの要因の各々の影響を軽減する必要がある。
【0079】
処理済みデータを使用したコーチング/指導
上記の方法は、埋め込みセンサアレイ、処理要素、および通信インターフェースを使用して、野球ボールなどのスポーツ用具の物体が、データを収集し、そのデータを野球ボールの投球などのスポーツモーションの様々な段階に関する有用な情報に処理し得る方法を開示している。この情報は、プレーヤの向上、新しいプレーヤの指導、プレーヤの負傷からのリハビリなどのために、様々な方法で使用できる。本明細書に記載されているのは、収集されたデータを使用して、プレーヤおよびプレーヤがプレーする試合に利益をもたらす方法である。
【0080】
機器装備物体が野球ボールである実施形態は、かつては容易に利用できなかった投球に関する情報に基づく高度に情報が与えられた方法において、特定の投球タイプを含む野球ボールの投球を指導、学習、および練習する手段を提供し得る。現在、投球または特定の投球スタイルを改善するための投手のコーチングおよび投手の学習は、各微調整が投球自体にどのように効くのかを明確に理解せずに様々な投球技法が微調整されるため、多数の投球を伴う総当たり学習テクニックである可能性がある。この方法は、多大な時間と労力を必要とし、信頼性に欠ける場合がある。データを収集、処理、および分析するための上記のシステムを使用して、投球の各段階を分析することで、投球の各段階で生じたことに関して投球後の投手に即時のフィードバックを提供することができる。そして、そのフィードバックを使用して、投手にそれぞれの段階を改善するやり方を知らせることができる。この方法により、熟練のプレーヤは、投球の変化が望ましいか否かを評価して、有益な変更を行うやり方や、投手の負傷からのリハビリを早めるやり方を理解することができる。
【0081】
野球ボールの投球では、特定のスピン速度とスピン軸を伴う特定のベクトルに沿ってボールを投げる必要がある。現行の投球分析の方法は、このデータを学習プロセスに組み込もうとはしておらず、それらの方法では、投球の練習やコーチングプロセス中に有用なやり方でデータにリアルタイムのフィードバックを提供することができない。現行の方法によれば、各投球のフィードバックは、ボールの飛行経路を観察することによって得られるが、ボールの経路を制御する要因が経路に影響を与える成分に分解されていない。野球ボールの投球の最も重要な部分または段階は、学習プロセスにおいては未知の変数として残されており、学習者は、自分の動きと結果との関係を自分で発見しなければならない。これにより学習プロセスが長引き、疲労や負傷の可能性が高まる。
【0082】
本明細書に記載の技術を使用して、投球を分析し、ボールのワインドアップおよび飛行中の投球の各段階を解読して、投手に即時のフィードバックを提供することができる。投手の特性は、ボールの飛行の基本成分に分類され、それによりコーチングまたは練習の各セッション中に投手が練習すべき要素(例えば、微調整、反復など)に優先順位を付けることができる。本明細書に記載の実施形態は、ワインドアップ中に、機器装備野球ボールと投手の手との連結によって投手の技法を測定し、投てきされた野球ボールが投手の手から離れた後の投球の飛行を測定する。投球の技法を分析して、センサアレイによって測定されたボールに加えられた力およびを投手がボールを保持しているときの空間を通るボールの経路を使用して、ボールのリリースに至るまでの手の動き、手首の動き、肘の動き、肩の動き、および腰の動きに関する情報を解読することができる。ボールの飛行特性および経路も同様に測定され、投球のワインドアップの技法が、投てきされたボールが空間を移動するときにどのように影響したかを確定することができる。
【0083】
機器装備ボールの通信インターフェースを使用して、情報をユーザデバイスまたはネットワーク/クラウドベースのシステムに送信することができる。情報は、ユーザインターフェースで投手、コーチ、または他の個人(スカウトなど)に提供し、投球中の投手の動きおよび投球のタイプ、経路、速度などの投球の特性に関して分析を行うことができる。ユーザインターフェースは、ユーザインターフェースを通じて各投球の後に特定のデータをユーザに表示するように構成されてもよい。さらに、視覚的、触覚的、または聴覚的フィードバックを提供して、各投球に関して、改善、低下、または特定の技法への適合を示すことができる。本明細書に記載の実施形態は、多種多様な方法で使用できる大量のデータを生成する可能性があるため、投手の投球を改善するために、投球中にユーザが精査できるよう特定のパラメータを指定してもよい。
【0084】
例示的な実施形態によれば、投手は練習環境において各投球を行うことができ、上記の技術は投球中の身体の動きおよびボールの動きを測定することができる。そして、この情報は、通信インターフェースを介してユーザインターフェースに渡され、投手に伝えることができる。そして、投手は、所望の改善を達成するために、グリップ、スタンス、体の動きなどを調整することができる。各タイプの投球は、一連の初期飛行条件である、スピン速度、スピン軸、および経路として説明することができる。このデータを投球直後の投手に提示することで、投手は自分の動きが所望の投球の各成分にどのように影響し得るかをすぐに理解することができる。例えば、カーブボールのスピン軸は、速いボールよりも(垂直から)数度傾いている場合がある。本明細書に記載の技術および投手にフィードバックを提供する方法により、投手は、自分の動きのどの部分がスピン軸の角度を制御するかを迅速に学習および理解することができる。角度の制御方法を確定したら、投手はカーブボールを比較的簡単に改善することができる。
【0085】
図9は、閉ループのコーチングフィードバックループを示す。ここで、サイクルはアクション、特に野球の投球などのスポーツアクションから始まる。しかしながら、本明細書に開示される主要な例との一貫性を保つために、アクションは、610の野球ボールの投球で始まるように示されている。投球の評価は620で実行される。これは、かつてはレーダーガンでの投球速度などの、観測および測定パラメータであった。しかしながら、上述のように、例示的な実施形態の機器装備野球ボールを使用することで、評価は、機器装備野球ボールのセンサアレイからのデータの処理および分析を含む。本明細書に記載の実施形態は、実質上即座にフィードバックを提供できるので、投球の測定されたパラメータは、ユーザが分析および調整したい投球の要素に従って、630で表示するために提供することができる。640で、投手、コーチ、または別のユーザは、投球を改善するために投球モーションに変更を加える場合、またはどのように変更することが望ましいかを示す場合に、調整を行うことができる。610で、アクションは、評価と表示が修正された投球モーションを反映し、実質的に即時のフィードバックで実現された改善を反映できるように調整されて、再び生じる。
【0086】
本明細書に記載の技術を用いて実現可能な指導/コーチング方法は、投球を改善するためにどのように改善/修正を行うことができるかについての直接の指示とともに、即時かつ建設的なフィードバックを提供する。これらの方法は、スポーツと健康のための新しいスキルを習得するための学習プロセスを促進し、参加者にとってあらゆるレベルのプレーにおいて運動トレーニングの重要な要素になり得る。本明細書に記載の方法は、運動制御に最も関与する脳の部分に学習の取り組みを集中させることにより、または逆に運動にあまり関わりのない脳の領域の関与を低減することにより、学習プロセスを促進する。方法は、フィードバックの待ち時間、フィードバックの提示、および投てきされた野球ボールに応じた内容の範囲に重点を置く。
【0087】
投手が投げたばかりの投球に関するリアルタイムのフィードバックを使用すると、投手は投球モーションに小さな変更を加えることができ、たとえそれが人間の観察者には見えない変更であっても、その小さな変更が行われたことをすぐに認識することができる。即時の時間枠、結果をディスプレイに表示し、かつディスプレイを投球段階の所望の成分に集中させる機能、および投てき動作の改善のための提案の提供により、従来のコーチング技術と比較して相対的に短い時間枠で投球スキルの開発を促進することができる。
図7に関して上述したフィードバックループは、わずか数秒で達成することができる。
【0088】
フィードバックの高度な分析と診断の側面は、ニューラルネットワークのアプリケーションを通して自動化することができる。これまで投げられた特定のタイプの投球のデータベースは、どの投球技法がその特定のタイプの投球を改善するか、およびどの投球技法がそのタイプの投球に悪影響を及ぼすかを、ニューラルネットワークに通知することができる。例えば、速球タイプの投球は、投球の所望の軌道ベクトルに実質的に直交する軸を中心とした手首の急速な動きによって有効となり得る。上記のハードウェアを使用すると、機器装備野球ボールは、投球のフォワード段階およびスナップ段階を通じて手首の動きが理想的とは言えないことを認識することができる。そのような実施形態においては、機器装備野球ボールからのデータを、様々な加速度計、磁力計、およびジャイロスコープのセンサデータおよび処理されたデータを入力として取るニューラルネットワークに供給して、投球中の腕と手首の動きを確定することができる。ニューラルネットワークは、投球のフォワード段階およびスナップ段階における投手の手首の動きが理想的ではないこと、ならびにフォワード段階およびスナップ段階における手首のスナップの度合いが高い投球がより速い速球を生み出すことを認識することができる。そこで、ニューラルネットワークは、スナップ段階に入って速球の速度を向上させるときに、より多くの手首の動きを生成するように助言を出力してもよい。
【0089】
前述の例では、投球技法を改善して速球を向上させる方法について説明したが、高度な分析および診断プロセスは、あらゆるタイプの投球または多くの様々なスポーツのあらゆるタイプのスポーツアクションに使用することができる。野球ボールの投球においては、ニューラルネットワークはこれまでの投球のデータベースに基づいている。そこでは、ユーザまたは投球の経路、速度、およびスピン速度/角度によって投球タイプが分類されている。投球の良い点と悪い点との違いに関するユーザ入力特性も入力することができる。もしくは、ニューラルネットワークに教示するために使用された投球は、個別に良いか悪いか、またはその中間に分類される場合がある。したがって、ニューラルネットワークは、比較を用いて投球を改善する方法を確立することができ、かつニューラルネットワークは、機器装備野球ボールの各投球から学習することができる。
【0090】
クラウドソース化データ
上述の実施形態は、運動活動からのデータ収集および建設的で即時のフィードバックを提供する能力を促進し得るが、このデータの収集は、開示された分析および診断以外の多くの他の目的に有用であり得る。例えば、データが収集および保存されているとき、運動活動に関するデータは、他の関連する運動活動とコンパイルするためにネットワーク(例えば、サーバまたはクラウドベースのストレージシステム)に保存されてもよい。このデータベースは、アスリートの物理的な対面評価を過度に行うことなく、全国的または国際的なレベルでのアスリートの比較、ランク付け、および評価に使用することができる。
【0091】
例示的な実施形態によれば、本明細書に記載の低コストのセンサを使用する機器装備野球ボールは、世界中で配布および販売され、実り多いものとなり得る。これらの野球ボールを投げてデータを収集する人々は、ニューラルネットワーク学習に追加の入力を提供するだけでなく、彼らの活動のデジタルな履歴を提供することができる。投手にフィードバックを提供する表示デバイスのユーザインターフェースを使用して、野球ボールを特定の投手と関連付けることができる。野球ボールと投手との間に確立されたリンクを使用して、投手が単一セッションのコースまたは複数セッションのコースでトレーニングする際の投手の進行状況を追跡することができる。特定の野球ボールと投手とのリンクは、投手が無線識別(RFID)タグなどの識別物体を身に着けている場合、手動設定を必要としなくてもよい。このようなタグは、投手の体に、またはタグのサイズと質量が投手のグローブまたは衣服に対して取るに足りないものであれば、投手のグローブに着用することができる。機器装備野球ボールには、ユーザインターフェースの一部となり得るRFIDタグリーダが含まれる。RFIDタグが埋め込まれている、またはグローブに装着されている投手が投球を始めると、投球の慣例に従って、野球ボールが投手のグローブに入れられる。この接近により、野球ボールのRFIDタグリーダは、投手と関連付けられたタグを読み取ることができ、よって、後続の投球モーションをRFIDタグと関連付けられた投手と相関させることができる。投球が完了すると、投球に関連するデータは、それが前処理されたデータであるか、実質的に未加工のデータであるかに関係なく、投手の識別情報とともにユーザデバイスに送信され、投球メトリクスを関連する投手と関連付ける。このように、複数の投手および複数の機器装備野球ボールが用いられるトレーニングシナリオでは、1人の投手が1つの野球ボールの記録を付けて適切なメトリクスを収集する必要がない。このような実施形態は、投手のメトリクスが間違った投手と不適切に関連付けられる可能性を排除することができる。
【0092】
投手と関連付けられて収集された投球メトリクスは、投手のタイムラインおよびそれと関連付けられたメトリクスを提供することができる。これにより、投手はパフォーマンスの改善または低下を追跡することができ、かつ投手はその改善または低下がもたらされたのは投球の動きのどの段階が変更されたためかを評価して、その変更から学ぶことができる。このような経時的な投球メトリクスの追跡により、投手の疲労の度合いが高く、かつ投手の長期的なパフォーマンスには有害であるとみなされる、投手の動きや投球モーションの低下などを通して、近いうちに発生しそうな投手の負傷を示すフィードバックも提供することができる。投手の投球モーションおよび投球メトリクスの長期にわたる履歴は、負傷やトレーニングなどから投手の向上を測定するメカニズムも提供することができ、ならびにその投手がいつ試合に参加する準備ができるか、またはより困難なレベルの野球競技に進む準備ができるかを示すことができる。
【0093】
投球モーションの長期にわたる履歴と投手のメトリクスをモニタリングすることに加えて、データを集約することにより、プロ野球または大学野球のスカウトによるスカウトがされていない地域において注目されずにいた可能性のある投手を比較するメカニズムを提供することができる。例えば、地方のリトルリーグまたはジュニアリーグの野球チームのある投手は、同じような投手の99%と同等またはそれ以上の投球能力を持っている可能性がある。機器装備野球ボールを使用した投手のデータの集約および比較を通じて、州、地域、国、または世界で最高の投手を、クラウドソース化されたデータを確認するだけで見つけることができる。このデータの宝庫は、任意選択により、例えば、サブスクリプションのレベルに基づいて様々な詳細レベルでデータを利用できるサブスクリプションサービスなどで収益化することができる。当業者には明らかなように、ここで収集されたデータの有用性は実質的に無制限であり、利用可能なデータの量は経時的に増大するであろう。傾向分析、負傷統計、進展、および開発などから、さらなる情報を確認することができる。そこで、分析ツールを実装して、膨大なデータを解析し、高度な分析および診断の分野で役立つ情報を生成することができる。
【0094】
本明細書に記載された本発明の多くの変更例および他の実施形態は、前述の説明および関連する図面に提示された教示の恩恵を受けて、これらの発明が関係する当業者には思い浮かぶであろう。したがって、本発明は開示された特定の実施形態に限定されるべきではなく、修正および他の実施形態は添付の特許請求の範囲内に含まれることが意図されることを理解されたい。さらに、前述の説明および関連する図面は、要素および/または機能の特定の例示的な組み合わせを背景として例示的な実施形態を説明しているが、代替の実施形態によって、添付の請求項の範囲から逸脱することなく、要素および/または機能の異なる組み合わせを提供し得ることを認識されたい。これに関連して、例えば、添付の請求項のいくつかに記載されているように、上記で明示的に説明されたものとは異なる要素および/または機能の組み合わせも企図されている。本明細書では特定の用語が使用されているが、それらは、一般的且つ説明的な意味でのみ使用されており、限定を目的としていない。