(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-15
(54)【発明の名称】ハロイサイト粉末
(51)【国際特許分類】
C01B 33/40 20060101AFI20231108BHJP
【FI】
C01B33/40
(21)【出願番号】P 2021553599
(86)(22)【出願日】2020-10-26
(86)【国際出願番号】 JP2020040095
(87)【国際公開番号】W WO2021085375
(87)【国際公開日】2021-05-06
【審査請求日】2021-10-05
(31)【優先権主張番号】P 2019195020
(32)【優先日】2019-10-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000200301
【氏名又は名称】JFEミネラル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100168985
【氏名又は名称】蜂谷 浩久
(72)【発明者】
【氏名】近内 秀文
【審査官】佐藤 慶明
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/079556(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第101844773(CN,A)
【文献】米国特許第04098676(US,A)
【文献】中国特許出願公開第107364872(CN,A)
【文献】WILSON, I. R.,Clay Minerals,2004年,Vol.39,pp.1-15,<DOI:10.1180/000985543910116>
【文献】OUADAKER, M. et al.,Colloids and Surfaces A,2019年10月31日,Vol.585,124156,<DOI:10.1016/j.colsurfa.2019.124156>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/40
B82Y 30/00
C04B 35/18 - 35/195
CAplus/REGISTRY/WPIX (STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハロイサイト粉末を製造する方法であって、
前記ハロイサイト粉末が、
ハロイサイトナノチューブを含むハロイサイトが集合してなる顆粒を含む粉末であって、
前記顆粒が、前記ハロイサイトナノチューブのチューブ孔に由来する第1の細孔と、前記第1の細孔とは異なる第2の細孔とを有し、
Fe
2O
3の含有量が、2.00質量%以下である、ハロイサイト粉末であり、
ハロイサイトナノチューブを含むハロイサイトのスラリーを準備するスラリー準備工程と、
前記スラリーから粉末を調製する粉末調製工程と、
前記粉末調製工程において得られた粉末を500℃以上で焼成する工程とを備える、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハロイサイト粉末に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、「ハロイサイトナノチューブを含むハロイサイトが集合してなる顆粒を含む粉末であって、前記顆粒が、前記ハロイサイトナノチューブのチューブ孔に由来する第1の細孔と、前記第1の細孔とは異なる第2の細孔とを有する、ハロイサイト粉末」が記載されている([請求項1])。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者は、特許文献1に記載されたハロイサイト粉末(以下、単に「ハロイサイト粉末」ともいう)について、種々の用途に展開することを試みた。その過程で、黄色味を帯びているハロイサイト粉末が存在することに気が付いた。
黄色味を帯びているハロイサイト粉末は、例えば、白色の部材(布、壁面など)に付着させたときに、汚れのように見える場合があり、用途展開に不都合が生じ得る。
そこで、本発明者は、検討を続けたところ、黄色味を帯びているハロイサイト粉末は、ハンターLab表色系の色度座標のb値(以下、単に「b値」という)が大きいことを見出した。
【0005】
本発明は、以上の点を鑑みてなされたものであり、b値が小さいハロイサイト粉末を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討した。その結果、ハロイサイト粉末における特定成分の含有量を調整することにより、b値が小さくなることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明は、以下の[1]~[4]を提供する。
[1]ハロイサイトナノチューブを含むハロイサイトが集合してなる顆粒を含む粉末であって、上記顆粒が、上記ハロイサイトナノチューブのチューブ孔に由来する第1の細孔と、上記第1の細孔とは異なる第2の細孔とを有し、Fe2O3の含有量が、2.00質量%以下である、ハロイサイト粉末。
[2]Fe2O3の含有量が、0.10質量%以上である、上記[1]に記載のハロイサイト粉末。
[3]Fe2O3の含有量が、1.50質量%以下である、上記[1]に記載のハロイサイト粉末。
[4]窒素吸着等温線からBJH法により求めた微分細孔分布が、2つ以上の細孔径ピークを示す、上記[1]~[3]のいずれかに記載のハロイサイト粉末。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、b値が小さいハロイサイト粉末を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】ハロイサイト粉末1の顆粒を示すSEM写真である。
【
図2】ハロイサイト粉末1の微分細孔分布を示すグラフである。
【
図3】ハロイサイト粉末1のXRDパターンを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0011】
[ハロイサイト粉末]
本発明のハロイサイト粉末は、ハロイサイトナノチューブを含むハロイサイトが集合してなる顆粒を含む粉末であって、上記顆粒が、上記ハロイサイトナノチューブのチューブ孔に由来する第1の細孔と、上記第1の細孔とは異なる第2の細孔とを有する。
本明細書においては、複数個の「顆粒」の集合体を「粉末」と呼ぶ。
【0012】
〈Fe2O3の含有量〉
本発明のハロイサイト粉末は、Fe2O3の含有量が2.00質量%以下である。
これにより、b値(求め方は後述する)が小さくなり、黄色味が低減される。その理由は明らかではないが、Fe2O3が存在することで黄色を呈しやすいと考えられ、そのFe2O3が少ないためb値が小さくなると推測される。
b値がより小さくなるという理由から、Fe2O3の含有量は、1.50質量%以下が好ましく、1.30質量%以下がより好ましく、1.10質量%以下が更に好ましく、0.70質量%以下がより更に好ましく、0.50質量%以下が特に好ましく、0.40質量%以下が最も好ましい。
【0013】
Fe2O3の含有量は、蛍光X線(XRF)分析により求める。Fe2O3の含有量は、強熱減量を含めない100%規格化での値である。
XRF分析における具体的な条件は、以下のとおりである。
・使用装置:ZSX Primus IV(リガク社製)
・前処理方法:Li2B4O7融剤を用いたガラスビード法
・定量方法:耐火物技術協会の蛍光X線分析用標準試料(粘土質れんが標準試料系列)を用いた検量線法
【0014】
一方、本発明のハロイサイト粉末は、Fe2O3の含有量が0.10質量%以上であることが好ましい。
これは、Fe2O3の含有量を過剰に低減するためには、ハロイサイト粉末に酸処理などの後処理を施す必要があり、その分だけ、コスト高になること;酸処理などの後処理によって、ハロイサイト粉末の細孔構造(例えば、第1の細孔および/または第2の細孔)が破壊される場合があること;Fe2O3の含有量を過剰に低減しても、b値を小さくする効果は飽和すること;等が理由である。
これらの理由から、Fe2O3の含有量は、0.12質量%以上がより好ましく、0.15質量%以上が更に好ましい。
【0015】
本発明のハロイサイト粉末は、上述した第1の細孔および第2の細孔を有することから、多種多様な用途に展開できる。用途の例として、化粧品、調湿材、消臭材、脱臭材、吸着剤、徐放剤、抗菌剤などが挙げられるが、これらに限定されない。
そして、本発明のハロイサイト粉末を、各種用途に展開するにあたって、白色の部材(布、壁面など)に付着させる場合においても、本発明のハロイサイト粉末はb値が小さいから、汚れのように見えることを回避できる。
【0016】
〈ハロイサイトの概要〉
ハロイサイトとは、Al2Si2O5(OH)4・2H2O、または、Al2Si2O5(OH)4で表される粘土鉱物である。
ハロイサイトは、チューブ状(中空管状)、球状、角ばった団塊状、板状、シート状など多様な形状を示す。
チューブ状(中空管状)のハロイサイトであるハロイサイトナノチューブの内径(チューブ孔の径)は、例えば、10~20nm程度である。ハロイサイトナノチューブは、外表面は主にケイ酸塩SiO2からなり、内表面は主にアルミナAl2O3からなる。
【0017】
本明細書において、「ハロイサイト」は、「メタハロイサイト」を含むものとする。
「メタハロイサイト」は、Al2Si2O5(OH)4で表されるハロイサイトのOHが脱水し、低結晶質の状態になったものであり、ハロイサイトの変種を表す用語として、従来、一般的または慣用的に用いられている。
本明細書において、「メタハロイサイト」は、「ハロイサイトを特定の焼成温度で焼成して得られるもの」とする。「特定の焼成温度」は、例えば500℃以上であり、600℃以上が好ましい。
「特定の焼成温度」の上限は特に限定されず、例えば900℃以下が好ましい。この温度範囲内であれば、ハロイサイトナノチューブの形状(チューブ状)に変化は無い。
【0018】
〈XRD〉
本発明のハロイサイト粉末は、例えば、X線回折(XRD)測定の結果から、ハロイサイトの結晶構造を有することが確認できる(
図3を参照)。
図3は、本発明のハロイサイト粉末(後述するハロイサイト粉末1)のXRDパターンを示すグラフである。
ハロイサイト粉末1のXRDパターンにおいては、2θ=20°付近にブロードなピークを認めることができる。このようなXRDパターンは、メタハロイサイトの存在を示していると言える。
【0019】
XRD測定における具体的な条件は、以下のとおりである。
・使用装置:X線回折分析装置D8ADVANCE(BRUKER社製)
・X線管球:CuKα
・光学系:集中法
・管電圧:35kV
・管電流:40mA
・検出器:一次元半導体検出器
・スキャン範囲:2~70deg
・スキャンステップ:0.021deg
・スキャンスピード:4deg/min
【0020】
〈SEM〉
本発明のハロイサイト粉末が含む顆粒が、ハロイサイトナノチューブを含むハロイサイトが集合してなる顆粒であること、および、ハロイサイトナノチューブのチューブ孔に由来する孔(第1の細孔)を有することは、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)写真により確認できる(
図1を参照)。
【0021】
図1は、本発明のハロイサイト粉末(後述するハロイサイト粉末1)の顆粒を示すSEM写真である。
図1においては、球体状の顆粒が、ハロイサイトナノチューブを含むハロイサイトが集合してなることが確認できる。更に、
図1においては、顆粒表面に、ハロイサイトナノチューブのチューブ孔(に由来する第1の細孔)の存在も確認できる。
このような第1の細孔を有する顆粒構造が得られる理由は、ハロイサイトナノチューブを含むスラリーがスプレードライ等されることにより、ハロイサイトナノチューブが、そのチューブ形状を維持したまま凝集するためと考えられる。
【0022】
また、
図1においては、顆粒表面(とりわけ、ハロイサイトナノチューブどうしの隙間)に、ハロイサイトナノチューブのチューブ孔(通常、内径は、10~20nm程度)よりも大径の孔(第2の細孔)の存在を確認することができる。
このような第2の細孔が得られる理由は、スプレードライ等によってスラリーが顆粒となる際に、スラリーの分散媒が顆粒(の内部)から蒸発して抜けるためと考えられる。
【0023】
〈細孔分布測定〉
本発明のハロイサイト粉末が含む顆粒が上記特有の構造を有することは、本発明のハロイサイト粉末を細孔分布測定した結果(
図2を参照)からも、確認することができる。
本発明のハロイサイト粉末は、窒素吸着等温線からBJH法により求めた微分細孔分布(Log微分細孔容積分布)が、2つ以上の細孔径ピークを示すことがより好ましい。以下、より詳細に説明する。
【0024】
図2は、本発明のハロイサイト粉末(後述するハロイサイト粉末1)について、窒素吸着等温線からBJH法により求めた微分細孔分布(Log微分細孔容積分布)を示すグラフであり、横軸は細孔径[nm]を表し、縦軸は微分細孔容積(dVp/dlogDp)[cm
3/g]を表す(以下、同様)。
【0025】
図2のグラフにおいては、2つ以上(3つ)の細孔径ピークが明確に現れている。
より詳細には、10nm以上(より具体的には、例えば、10~100nm)の範囲内に、2つ以上(3つ)の細孔径ピークが明確に現れている。
更に詳細には、10nm以上20nm以下の範囲内に1つの細孔径ピークが現れ、20nm超(より具体的には、例えば、20nm超100nm以下)の範囲内に2つ以上(2つ)の細孔径ピークが現れている。
細孔径が小さい方のピーク(10nm以上20nm以下の細孔径ピーク)が、ハロイサイトナノチューブのチューブ孔(内径:10~20nm程度)に由来する第1の細孔を表しており、細孔径が大きい方のピーク(20nm超の細孔径ピーク)が、チューブ孔とは異なる第2の細孔を表していると言える。
【0026】
本発明のハロイサイト粉末は、第2の細孔を有する場合、後述する全細孔面積および全細孔容積が大きい。
【0027】
具体的には、本発明のハロイサイト粉末の全細孔面積は、59.0m2/g以上が好ましく、65.0m2/g以上がより好ましく、75.0m2/g以上が更に好ましい。上限は特に限定されないが、例えば、200.0m2/g以下であり、150.0m2/g以下が好ましい。
本発明のハロイサイト粉末の全細孔容積は、0.20cm3/g以上が好ましく、0.23cm3/g以上がより好ましい。上限は特に限定されないが、例えば、0.80cm3/g以下であり、0.60cm3/g以下が好ましい。
そのほか、本発明のハロイサイト粉末の平均細孔径は、例えば、5.0nm以上であり、11.0nm以上が好ましい。上限は特に限定されないが、例えば、30.0nm以下であり、20.0nm以下が好ましい。
【0028】
本発明のハロイサイト粉末のBET比表面積(BET法により求める比表面積)は、例えば、30~200m2/gであり、50~150m2/gが好ましい。
【0029】
次に、細孔分布などの測定方法を説明する。
まず、前処理(120℃で、8時間の真空脱気)を施した後に、定容法を用いて、下記条件で、窒素による吸脱着等温線を測定する。平衡待ち時間は、吸着平衡状態に達してからの待ち時間である。
BET比表面積[m2/g]は、窒素吸着等温線からBET法を適用することにより求める。
平均細孔径[nm]は、BET比表面積および全細孔容積[cm3/g]の値から算出する。平均細孔径の算出に用いる全細孔容積(便宜的に「算出用全細孔容積」ともいう)は、吸着等温線の相対圧0.99までに存在する細孔で毛管凝縮が成立していると仮定し、吸着等温線の相対圧0.99の吸着量から求める。
更に、窒素吸着等温線からFHH基準曲線を用いてBJH法を適用することにより、Log微分細孔容積分布、全細孔容積[cm3/g]および全細孔面積[m2/g]を求める。約2.6nmから約200nmの細孔のプロット間隔は、解析ソフトウェアの標準条件を使用する。BJH法により求める全細孔容積および全細孔面積を、それぞれ、「BJH全細孔容積」および「BJH全細孔面積」ともいう。
本発明において、単に「全細孔容積」および「全細孔面積」という場合は、特に断りのない限り、それぞれ、「BJH全細孔容積」および「BJH全細孔面積」を意味するものとする。
・吸着温度:77K
・窒素の断面積:0.162nm2
・飽和蒸気圧:実測
・平衡待ち時間:500sec
・前処理装置:BELPREP-vacII(マイクロトラック・ベル社製)
・測定装置:BELSORP-mini(マイクロトラック・ベル社製)
・解析ソフトフェア:BELMaster Version 6.4.0.0(マイクロトラック・ベル社製)
【0030】
〈平均粒径〉
本発明のハロイサイト粉末の平均粒径は、特に限定されず、用途に応じて適宜選択されるが、例えば、0.5~200μmである。本発明のハロイサイト粉末がスプレードライによって調製される場合、平均粒径は1~100μmが好ましい。
このような粒径の顆粒は、上述したように造粒してサイズを大きくしてもよい。ただし、その場合、平均粒径は5mm以下が好ましい。
有害性への懸念から呼吸器に侵入するサイズを考慮すると、顆粒の最小サイズは1μm以上であることが好ましい。
平均粒径は、マイクロトラック・ベル社製のレーザー回折・散乱式 粒子径分布測定装置(マイクロトラックMT3300EXII)を用いて乾式で測定する。
【0031】
[ハロイサイト粉末の製造方法]
次に、本発明のハロイサイト粉末を製造する方法(以下、便宜的に、「本発明の製造方法」ともいう)を説明する。
本発明の製造方法は、少なくとも、ハロイサイトナノチューブを含むハロイサイトのスラリーを準備する工程(スラリー調整工程)と、上記スラリーから粉末を調製する工程(粉末調製工程)と、を備えることが好ましい。
以下、本発明の製造方法の好適態様について、説明する。
【0032】
〈スラリー準備工程〉
スラリー準備工程は、ハロイサイトナノチューブを含むハロイサイトが水などの分散媒に分散したスラリーを準備できる工程であれば、特に限定されない。
以下に、スラリー準備工程の好適態様を説明する。以下に説明する態様においては、遠心分離後に回収される分散相が、スラリー準備工程で調製されるスラリーに相当する。
【0033】
《原料ハロイサイト》
Fe2O3の含有量が最終的に得られるハロイサイト粉末(本発明のハロイサイト粉末)と同等であるハロイサイトを、原料(以下、「原料ハロイサイト」ともいう)として用いることが好ましい。これにより、Fe2O3の含有量を低減するための酸処理などが不要となる。その結果、酸処理によって、コスト高になったり、ハロイサイトナノチューブの構造が破壊されたりすることが回避される。
このような原料ハロイサイトとして、市販品のハロイサイト(ハロイサイトナノチューブ)を使用でき、具体的には、例えば、「DRAGONITE-HP」または「DRAGONITE Pure-White」(どちらも、APPLIED MINERALS社製)が好適に挙げられる。
【0034】
《スラリー化》
次に、原料ハロイサイトが水に分散したスラリーを得る。原料ハロイサイトを水に分散させる方法は、特に限定されず、例えば、高速ミキサー、ディスパー、ビーズミルおよびホモミキサーなどの従来公知の装置を使用できる。
スラリーの固形分濃度は、特に限定されず、例えば、30~50質量%である。
【0035】
後述する遠心分離の精度に大きく関わることから、スラリーには、分散剤を添加することが好ましい。分散剤を添加することにより、より高濃度のスラリーが得られるため、後述するスプレードライヤなどを用いた乾燥における生産性を向上させる効果もある。
【0036】
分散剤としては、少ない使用量で安定なスラリーが得られることが好ましく、例えば、高分子型のアニオン性界面活性剤(アニオン性高分子界面活性剤)が挙げられる。
アニオン性高分子界面活性剤の具体例としては、特殊ポリカルボン酸型のポイズ520、521、530または532A(いずれも花王社製)などが挙げられる。
目的用途によってはナトリウムおよびカリウムなどの金属イオンを含んでいない、カオーセラ2000、2020または2110(同)なども使用できる。
ポリカルボン酸型に限定されず、アクリル酸型、スルホン酸型なども使用できる。
【0037】
分散剤の含有量は、特に限定されないが、例えば、スラリー中の全固形分に対して、0.5~3.0質量%が好適に挙げられる。
分散剤の含有量が少なすぎると、スラリー中でのハロイサイトと不純物の粒子の分散が不十分になる場合がある。一方、分散剤の含有量が多すぎると、凝集状態を起こしたり、コストが増加したりする場合がある。更に、後工程における不具合(遠心分離での分散相の回収率の低下、スプレードライでの乾燥不十分、または、焼成における固結もしくは焼失不十分など)が発生しやすくなる場合がある。
【0038】
《粗粒除去》
後述する遠心分離の精度を上げるために、スラリー中の粗粒を除去してもよい。粗粒の除去には、例えば、25~100μmの目開きの篩、湿式サイクロンなどが用いられる。そのほか、スラリーを自然沈降分離させることにより、粗粒を除去してもよい。
【0039】
《遠心分離》
得られたスラリーについて、遠心分離を行ない、下層の沈降相と、上相の分散相とに分離する。沈降相には微砂などの不純物が多く含まれ、分散相にはハロイサイトナノチューブが多く含まれる。分散相(スラリー)の固形分濃度は、例えば、10~30質量%である。
遠心分離に際しての遠心力および処理時間は、一例として、それぞれ、2000~3000Gおよび3~30分間であるが、これに限定されず、分散状態、用途、コストなどを考慮して、適宜設定される。
量産には大型の遠心分離機を使用することもできる。
分散相を回収することにより、微砂などの不純物を含む原料ハロイサイトから、ハロイサイトナノチューブを精製分離することができる。
【0040】
スラリー調整工程の分散相スラリーは、必要に応じて、精製、分級、磁選や濃縮などの操作を加えることもできる。
【0041】
〈粉末調製工程〉
粉末調製工程は、スラリー準備工程において調製されたスラリーから粉末を調製する工程である。
粉末調製工程において得られた粉末は、更に、転動、撹拌、押出し等の処理を施すことによって、造粒してもよい。これにより、粉末を構成する顆粒のサイズを大きくできる。
【0042】
《スプレードライ》
粉末調製工程としては、例えば、スラリー準備工程において調製されたスラリー(例えば、上述した遠心分離により得られた分散相)をスプレードライすることにより粉末を得る工程が挙げられる。
【0043】
準備されたスラリーをスプレードライするためには、微小液滴状に噴霧(微粒化)し、これを熱風に当てて乾燥することにより、瞬時に粉末を得る装置であるスプレードライヤが使用される。スプレードライヤは、従来公知の装置であり、例えば、大川原化工機社製、藤崎電機社製、日本化学機械製造社製、または、ヤマト科学社製のスプレードライヤが挙げられる。
スプレードライヤにおいては、液体原料を噴霧(微粒化)して得られる液滴のサイズを変更することにより、乾燥して得られる粉末粒子(顆粒)の粒径も制御される。
スプレードライヤを用いて液体原料を微粒化する方式としては、特に限定されず、所望する液滴のサイズに応じて、例えば、二流体ノズル方式、圧力ノズル(加圧ノズル)方式、四流体ノズル方式(ツインジェットノズル方式)、または、回転ディスク方式などの従来公知の方式を、適宜選択できる。乾燥して得られる粉末粒子(顆粒)の粒径は、スラリーの濃度および/または処理量などによっても変化するので、目的の粒径を得るためには、微粒化方式に加え、スラリーの状態を適宜選択することになる。
熱風と噴霧液滴との接触方式についても、例えば、熱風と噴霧液滴とがともに下方向に向かう一般的な並流型;噴霧液滴が下方向に対して熱風が上方向の向流となる向流型;上方に噴霧液滴が向かい、下方に熱風が向かう並向流型;などが適宜選択される。
【0044】
スプレードライは、瞬間的に熱をかけるため、粉末そのものに高い温度がかかることがない。スプレードライは、スラリーを乾燥させて直接的に粉末を得るため、ろ過、乾燥および粉砕などの処理が不要であり、これらの一連の作業時に発生し得るコンタミを抑制できる。
【0045】
《媒体流動乾燥》
上記スラリーから粉末を調製する手段としては、本発明のハロイサイト粉末を得ることができれば、上述したスプレードライに限定されず、例えば、媒体流動乾燥(ボール入り流動層乾燥)であってもよい。
すなわち、粉末調製工程は、スラリー準備工程において調製されたスラリーを媒体流動乾燥することにより粉末を得る工程であってもよい。
媒体流動乾燥は、概略的には、例えば、まず、被乾燥物であるスラリーを、流動中の1~3mmφのセラミックボール層に連続的に供給することにより、ボール表面に付着させる。被乾燥物は、加熱されたボールからの熱伝導と流動化熱風からの対流伝熱とによって瞬時に乾燥され、ボールどうしの衝突によりボール表面から剥離する。こうして粉末が得られる。
【0046】
〈焼成工程〉
本発明のハロイサイト粉末の製造方法は、粉末調製工程において得られた粉末を焼成する工程(焼成工程)を更に備えていてもよい。
なお、上述したスラリー化において界面活性剤などの分散剤を使用する場合には、スプレードライ等によって得られる粉末にも分散剤が残存している場合があるが、焼成を施すことにより、分散剤が除去される効果もある。
【0047】
焼成温度は、焼成後のXRD測定においてハロイサイトまたはメタハロイサイトの結晶構造が維持できる温度が好ましい。具体的には、焼成温度は、200℃以上が好ましく、300℃以上がより好ましく、400℃以上が更に好ましい。一方、焼成温度は、900℃以下が好ましく、800℃以下がより好ましく、700℃以下が更に好ましい。
焼成時間は、0.5時間以上が好ましく、0.75時間以上がより好ましい。一方、焼成時間は、2時間以下が好ましく、1.5時間以下がより好ましい。
【0048】
本発明の製造方法が、焼成工程を備えない場合、粉末調製工程において得られた粉末が、本発明のハロイサイト粉末となる。
一方、本発明の製造方法が、焼成工程を備える場合、焼成工程において焼成された粉末が、本発明のハロイサイト粉末となる。
【実施例】
【0049】
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0050】
[試験1]
〈ハロイサイト粉末1の調製〉
以下のようにして、各例に用いるハロイサイト粉末1(上述した「本発明のハロイサイト粉末」に相当する)を製造した。
【0051】
《原料ハロイサイト》
原料ハロイサイトとして、APPLIED MINERALS社製のハロイサイト(製品名:DRAGONITE-HP)を準備した。
【0052】
《スラリー化》
高速ミキサー(日本精機製作所社製、ウルトラホモミキサーUHM-20(20リットル))に、原料ハロイサイト、水およびアニオン性高分子界面活性剤(花王社製、ポイズ520)を入れ、10分間、10,000rpmの処理を行なうことにより、原料ハロイサイトが水に分散したスラリー(固形分濃度:40質量%)を得た。スラリーの全固形分に対するアニオン性高分子界面活性剤の含有量は、1.5質量%添加とした。
【0053】
《遠心分離》
遠心分離機(コクサン社製、小型卓上遠心機H-19α)を用いて、2470Gの遠心力で、10分間の遠心操作を行ない、スラリーを沈降相と分散相とに分離し、分散相を回収した。回収した分散相(スラリー)の固形分濃度は、26質量%であった。
【0054】
《スプレードライ》
回収した分散相(スラリー)を、スプレードライヤを用いてスプレードライすることにより、粉末(ハロイサイト粉末)を得た。
スプレードライヤとしては、大川原化工機社製のスプレードライヤL-8iを用い、スラリーをポンプで定量供給して、スラリーの微粒化(噴霧)を行なった。熱風と噴霧液滴との接触方式については、熱風と噴霧液滴とがともに下方向に向かう並流型で行なった。
このとき、下記表1に示すスプレードライ条件を設定した。下記表1には、後述するハロイサイト粉末X1のスプレードライ条件も併せて示す。
【0055】
【0056】
《焼成》
スプレードライ後の粉末に、800℃の焼成温度で焼成を施した。
具体的には、スプレードライ後の粉末を、シリコニット発熱体の電気炉を用いて、室温から5℃/分の昇温速度で昇温し、800℃で1時間保持し、その後、炉冷した。昇温および焼成温度での保持中、界面活性剤の焼失を促進するため、炉内には一定量の空気を供給しつつ、排気を行なった。
焼成後の粉末については、TG-DTA(熱重量測定-示差熱分析)により、界面活性剤が除去されていることが確認された。
【0057】
〈ハロイサイト粉末X1の調製〉
特許文献1の実施例1~8と同様にして回収した分散相(スラリー)を、上記表1に示すスプレードライ条件でスプレードライすることにより、粉末を得た。その後、ハロイサイト粉末1と同様にして800℃で焼成を行ない、ハロイサイト粉末X1を得た。
ハロイサイト粉末X1の原料ハロイサイトは、JFEミネラル社の飯豊鉱業所の遅谷工場において珪砂の精製過程で副生する粘土分(便宜的に「飯豊粘土」と呼ぶ)である。
【0058】
〈ハロイサイト粉末1およびハロイサイト粉末X1の評価〉
ハロイサイト粉末1およびハロイサイト粉末X1を、次のように評価した。
【0059】
《XRD》
ハロイサイト粉末1およびハロイサイト粉末X1について、XRD測定した。測定条件は、上述したとおりである。
図3は、ハロイサイト粉末1のXRDパターンを示すグラフである。
図3に示すように、ハロイサイト粉末1のXRDパターンにおいては、2θ=20°付近にブロードなピークを認めることができた。このようなXRDパターンは、メタハロイサイトの存在を示している。
ハロイサイト粉末X1も同様であった。
【0060】
《SEM》
ハロイサイト粉末1およびハロイサイト粉末X1のSEM写真を撮影した。
図1は、ハロイサイト粉末1の顆粒を示すSEM写真である。
図1のSEM写真から、ハロイサイト粉末1については、ハロイサイトナノチューブを含むハロイサイトが集合してなる顆粒を含むこと、および、その顆粒表面にハロイサイトナノチューブのチューブ孔に由来する孔(第1の細孔)が存在することが確認できた。更に、その顆粒断面に、ハロイサイトナノチューブのチューブ孔よりも大径の孔(第2の細孔)が存在することが確認できた。
ハロイサイト粉末X1も同様であった。
【0061】
《細孔分布測定》
ハロイサイト粉末1およびハロイサイト粉末X1について、窒素吸脱着等温線を測定した。測定条件は、上述したとおりである。
図2は、窒素吸着等温線からBJH法により求めたハロイサイト粉末1の微分細孔分布を示すグラフである。各グラフにおいて、横軸は細孔径[nm]を表し、縦軸は微分細孔容積(dVp/dlogDp)[cm
3/g]を表す。
図2のグラフにおいては、10nm以上(10~100nm)の範囲内に2つ以上の細孔径ピークが確認された。
ハロイサイト粉末X1も同様であった。
【0062】
細孔分布測定に伴い、ハロイサイト粉末1およびハロイサイト粉末X1について、BJH全細孔面積、BJH全細孔容積、BET比表面積、算出用全細孔容積および平均細孔径を求めた。結果を下記表2に示す。
【0063】
《平均粒径》
ハロイサイト粉末1およびハロイサイト粉末X1について、平均粒径を測定した。結果を下記表2に示す。
【0064】
【0065】
〈Fe2O3の含有量〉
以下、ハロイサイト粉末1を「例1のハロイサイト粉末」と呼び、ハロイサイト粉末X1を「例7のハロイサイト粉末」と呼ぶ。
例1および例7のハロイサイト粉末について、Fe2O3の含有量を測定した。測定条件は、上述したとおりである。結果を下記表3に示す。
更に、例1および例7のハロイサイト粉末を混合し、混合比の異なる例2~例6のハロイサイト粉末を得た。例2~例6のハロイサイト粉末のFe2O3の含有量を、混合比から算出して求めた。結果を下記表3に示す。
【0066】
〈b値〉
例1~例7のハロイサイト粉末について、以下に示すハンターLab表色系の色度座標のb値および他の色彩値を求めた。
用いた機器構成は、日本分光社製の分光光度計(V-770)、積分球ユニット(ISN-923)および粉末セル(PSH-002型)として、波長380~780nmの反射スペクトルを測定した。測定データから、付属ソフトウェアの色彩計算プログラムにより、D65光源での各値を求めた。
結果を下記表3に示す。黄色味を抑える観点から、b値は15以下が好ましい。
・XYZ表色系の三刺激値:X、Y、Z
・XYZ表色系の色度座標:x、y
・ハンターLab表色系の明度指数:L
・ハンターLab表色系の色度座標:a、b
・L*a*b*表色系の明度指数:L*
・L*a*b*表色系の色度座標:a*、b*
・L*u*v*表色系の色度座標:u*、v*
・L*C*h表色系のabクロマ:C*
・L*C*h表色系のab色相角:h
【0067】
【0068】
〈評価結果まとめ〉
上記表3に示すように、Fe2O3の含有量が0.32~1.21質量%である例1~例4のハロイサイト粉末は、b値が15以下であり、小さかった。
例1~例7のハロイサイトの外観を目視した。その結果、例5~例7のハロイサイト粉末は、比較的強い黄色味を帯びていた。これに対して、例1~例4のハロイサイトは、黄色味が抑制されており、用途上の不都合は生じないと判断できた。
【0069】
[試験2]
試験2では、スプレードライ後の焼成における焼成温度を400℃に変更した以外は、上述した試験1と同様にして、評価を行なった。
【0070】
〈ハロイサイト粉末2およびハロイサイト粉末X2の調製〉
上述したハロイサイト粉末1の焼成温度を800℃から400℃に変更したものに相当するハロイサイト粉末2(「DRAGONITE-HP」を使用)を調製した。
同様に、上述したハロイサイト粉末X1の焼成温度を800℃から400℃に変更したものに相当するハロイサイト粉末X2(「飯豊粘土」を使用)を調製した。
なお、ハロイサイト粉末2およびハロイサイト粉末X2ともに、窒素吸着等温線からBJH法により求めた微分細孔分布を示すグラフにおいて、10nm以上(10~100nm)の範囲内に2つ以上の細孔径ピークが確認された。
【0071】
〈Fe2O3の含有量およびb値〉
以下、ハロイサイト粉末2を「例8のハロイサイト粉末」と呼び、ハロイサイト粉末X2を「例13のハロイサイト粉末」と呼ぶ。
例8および例13のハロイサイト粉末を混合し、混合比の異なる例9~例12のハロイサイト粉末を得た。
例8~例13のハロイサイト粉末のFe2O3の含有量、ならびに、ハンターLab表色系の色度座標のb値および他の色彩値を求めた。結果を下記表4に示す。
【0072】
【0073】
〈評価結果まとめ〉
上記表4に示すように、Fe2O3の含有量が0.32~1.44質量%である例8~例12のハロイサイト粉末は、b値が15以下であり、小さかった。
例13のハロイサイト粉末は、比較的強い黄色味を帯びていた。これに対して、例8~例12のハロイサイトは、黄色味が抑制されており、用途上の不都合は生じないと判断できた。