(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-15
(54)【発明の名称】疎水性低誘電率膜及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 16/22 20060101AFI20231108BHJP
C23C 16/50 20060101ALI20231108BHJP
H01L 21/31 20060101ALI20231108BHJP
H01L 21/314 20060101ALI20231108BHJP
【FI】
C23C16/22
C23C16/50
H01L21/31 C
H01L21/314 A
(21)【出願番号】P 2021568370
(86)(22)【出願日】2020-05-14
(86)【国際出願番号】 CN2020090120
(87)【国際公開番号】W WO2020233481
(87)【国際公開日】2020-11-26
【審査請求日】2021-11-12
(31)【優先権主張番号】201910410096.1
(32)【優先日】2019-05-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】521497279
【氏名又は名称】チャンスー フェイヴァード ナノテクノロジー カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【氏名又は名称】服部 博信
(72)【発明者】
【氏名】ゾン ジアン
【審査官】安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/037446(WO,A1)
【文献】特開平04-345030(JP,A)
【文献】特表2016-521296(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 16/00-16/56
H01L 21/31
H01L 21/314
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1種又は複数種のフッ素含有化合物Aと、架橋剤化合物Bと、立体障害の大きい化合物Cとからプラズマ強化化学気相成長法により形成される疎水性低誘電率膜であって、前記1種又は複数種のフッ素含有化合物Aは一般式C
xSi
yO
mH
nF
2x+2y-n+2またはC
xSi
yO
mH
nF
2x+2y-nを有する化合物を含み、xは1~20の整数、yは0~8の整数、mは0~6の整数、nは0、3、6、7、9、10、12、13、15、16、17、又は19であり、前記架橋剤化合物Bが、ブタジエン、パーフルオロブタジエン、ペンタジエン、1,2-エポキシ-5-ヘキセン、ヘキサジエン、及びヘプタジエンからなる群より選択される1種又は複数種を含
み、前記化合物Cが、シクロヘキサン、トルエン、キシレン、ビニルベンゼン、ジビニルベンゼン、ジシクロペンタジエン、ナフタレン、及びピリジンからなる群より選択される1種又は複数種である、疎水性低誘電率膜。
【請求項2】
xが1~10の整数、yが0~6の整数、mが0~3の整数である、請求項1に記載の疎水性低誘電率膜。
【請求項3】
前記化合物Aのモル比が35%を超える、請求項1又は2に記載の疎水性低誘電率膜。
【請求項4】
前記化合物Aが、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、ヘキサフルオロエタン、ヘキサフルオロプロピレンオキサイド、1H,1H,2H,2H-パーフルオロオクチルトリエトキシシラン、トリメチルフルオロシラン、及びオクタフルオロブテンからなる群より選択される1種又は複数種である、請求項1~3のいずれか1項に記載の疎水性低誘電率膜。
【請求項5】
前記疎水性低誘電率膜の誘電率(k)値の範囲が、1.8~1.9、1.9~2.0、2.0~2.1、2.1~2.2、2.2~2.3、2.3~2.4、2.4~2.5、2.5~2.6、2.6~2.7または2.7~2.8から選択される、請求項1~
4のいずれか1項に記載の疎水性低誘電率膜。
【請求項6】
前記疎水性低誘電率膜の静的接触角が、110°~115°、115°~120°、120°~125°、125°~130°、130°~135°または135°~140°から選択される、請求項1~
5のいずれか1項に記載の疎水性低誘電率膜。
【請求項7】
前記疎水性低誘電率膜のヤング率の範囲が、6~7GPa、7~8GPa、8~9GPa、9~10GPa、10~11GPa、11~12GPa、12~13GPa、13~14GPaまたは14~15GPaから選択される、請求項1~
6のいずれか1項に記載の疎水性低誘電率膜。
【請求項8】
(A)一般式C
xSi
yO
mH
nF
2x+2y-n+2またはC
xSi
yO
mH
nF
2x+2y-n(式中、xは1~20の整数、yは0~8の整数、mは0~6の整数、nは0、3、6、7、9、10、12、13、15、16、17、又は19である)を有する1種又は複数種のフッ素含有化合物Aと、架橋剤化合物Bと、立体障害の大きい化合物Cとを反応装置の反応チャンバーに導入するステップと、
(B)プラズマ源ガスを前記反応チャンバーに導入するステップと、
(C)所定の電力で、前記1種又は複数種のフッ素含有化合物Aと、前記架橋剤化合物Bと、前記化合物Cとを反応させることにより、反応チャンバー内の基体に疎水性低誘電率膜を気相成長させるステップと、を含む疎水性低誘電率膜の製造方法であって、前記架橋剤化合物Bが、ブタジエン、パーフルオロブタジエン、ペンタジエン、1,2-エポキシ-5-ヘキセン、ヘキサジエン、及びヘプタジエンからなる群より選択される1種又は複数種を含
み、前記化合物Cが、シクロヘキサン、トルエン、キシレン、ビニルベンゼン、ジビニルベンゼン、ジシクロペンタジエン、ナフタレン、及びピリジンからなる群より選択される1種又は複数種である、製造方法。
【請求項9】
前記基体を前記反応チャンバーにて動き状態にあるように運動させるステップを含む、請求項
8に記載の疎水性低誘電率膜の製造方法。
【請求項10】
前記基体を洗浄処理するステップをさらに含む、請求項
8に記載の疎水性低誘電率膜の製造方法。
【請求項11】
ステップ(A)の前に、前記反応チャンバーを排気するステップをさらに含む、請求項
8に記載の疎水性低誘電率膜の製造方法。
【請求項12】
xが1~10の整数、yが0~6の整数、mが0~3の整数である、請求項
8~11のいずれか1項に記載の疎水性低誘電率膜の製造方法。
【請求項13】
前記化合物Aのモル比が35%を超える、請求項
8~12のいずれか1項に記載の疎水性低誘電率膜の製造方法。
【請求項14】
前記化合物Aが、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、ヘキサフルオロエタン、ヘキサフルオロプロピレンオキサイド、1H,1H,2H,2H-パーフルオロオクチルトリエトキシシラン、トリメチルフルオロシラン、及びオクタフルオロブテンからなる群より選択される1種又は複数種である、請求項
8~13のいずれか1項に記載の疎水性低誘電率膜の製造方法。
【請求項15】
前記疎水性低誘電率膜の誘電率(k)値の範囲が、1.8~1.9、1.9~2.0、2.0~2.1、2.1~2.2、2.2~2.3、2.3~2.4、2.4~2.5、2.5~2.6、2.6~2.7または2.7~2.8から選択される、請求項
8~14のいずれか1項に記載の疎水性低誘電率膜の製造方法。
【請求項16】
前記疎水性低誘電率膜の静的接触角が、110°~115°、115°~120°、120°~125°、125°~130°、130°~135°または135°~140°から選択される、請求項
8~15のいずれか1項に記載の疎水性低誘電率膜の製造方法。
【請求項17】
前記疎水性低誘電率膜のヤング率の範囲が、6~7GPa、7~8GPa、8~9GPa、9~10GPa、10~11GPa、11~12GPa、12~13GPa、13~14GPaまたは14~15GPaから選択される、請求項
8~16のいずれか1項に記載の疎水性低誘電率膜の製造方法。
【請求項18】
前記プラズマ源ガスが、不活性ガスまたはフルオロカーボン化合物から選択される、請求項
8~17のいずれか1項に記載の疎水性低誘電率膜の製造方法。
【請求項19】
前記プラズマ源ガスが、ヘリウムガスまたは四フッ素化炭素から選択される、請求項
8~18のいずれか1項に記載の疎水性低誘電率膜の製造方法。
【請求項20】
前記反応装置の入力電力密度の範囲が0.0001W/L~10W/Lである、請求項
8~19のいずれか1項に記載の疎水性低誘電率膜の製造方法。
【請求項21】
前記反応装置のチャンバー温度の範囲は10~100℃である、請求項
8~20のいずれか1項に記載の疎水性低誘電率膜の製造方法。
【請求項22】
前記基体が、PCB基板、携帯電話用アンテナの回路基板、及び携帯電話用FPCの1つから選択される、請求項
8~21のいずれか1項に記載の疎水性低誘電率膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超大規模集積回路の製造分野に関し、詳しくは、疎水性低誘電率膜及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子情報技術の急速な発展に伴い、電子製品は軽量化、高速化、機能の多様化、高スマート化に進んでいる。ネットワーク速度は幾何学的に向上し、電子製品の情報処理能力に対する要求もより明らかになる。このような発展の傾向では、集積回路のサイズが縮小し続け、チップに集積されるデバイスの数が多くなっており、集積度に対する要求が高くなる。
【0003】
大規模集積回路の集積度がますます高くなり、デバイスのフィーチャサイズが徐々に減少するため、ワイヤ抵抗、及びワイヤ間や層間容量が増加し、抵抗-容量(RC)遅延の上昇を引き起こすので、信号伝送の遅延、ノイズ干渉の増強および電力損失の増大などの一連の問題が発生してしまい、これは、デバイスの高速性能を大幅に制限している。これらの問題を軽減する重要な方法の1つは、誘電体材料の誘電率(k)を低減することである。
【0004】
無線通信技術の分野では、特にGHz範囲の通信技術において、低誘電率を有する低損失材料が注目されている。
【0005】
クラウジウス-モソッティ(Clausius-Mossotti)の式は、材料の誘電率を低減するために2つの手段を提供している。それらのうち、一つは、電子分極、イオン分極、分子分極、空間電荷分極を含む、材料自体の極性を低下させることであり;もう一つは、材料分子の密度を低下することである。後者は、主にナノサイズおよびマイクロサイズの細孔を材料に導入することにより多孔質材料を製造するものであるが、この方法では、材料の熱伝導率や機械的な性質が大幅に低下することが多く、さらに深刻な問題は、毛細管現象などの影響により多孔質材料が水を吸収しやすく、電子部品の誘電体層に適用できない。
【0006】
いくつかの研究により、フルオロカーボン材料は優れた耐熱性、耐薬品性および耐候性を有する。C-F結合の結合エネルギー(440kJ/mol)はC-H、C-O、C-Cの結合エネルギーよりも高く、C-F結合はC-H結合よりも小さな分極率を有する。主に、F原子の半径が小さく、負の電荷が集中し、電子雲を原子核を中心とする小さな領域にしっかり閉じ込むことができ、その分極率が低くなるためである。F原子を導入するとともに、材料の自由体積も増加されることができる。フルオロカーボン材料を構成する単位が対称構造を持つ場合には、C-C主鎖の両側に分布するC-F結合の極性が互いに打ち消され、分子の全体が非極性状態になり、材料の誘電率をさらに低下させることができる。しかし、このような材料は、加工が難しいという欠点がある。例えば、ポリテトラフルオロエチレンは、誘電率が2.1程度に低くなってもよく、かつ吸水性、化学的安定性が良いが、加工が難しく、再成形が難しいため、電子製品への応用が制限されている。
【0007】
さらに、従来の研究では、プラズマ強化化学気相成長(PECVD)の技術を採用して低誘電率のナノ薄膜を製造している。例えば、1種又は複数種のシリコン化合物をプラズマ強化化学気相成長用チャンバーに導入しながら、細孔形成剤を導入し、一定の高周波電力の条件で上記1種又は複数種のシリコン化合物を該細孔形成剤と反応させ、低誘電率膜をこのチャンバーでの基板上に成長させ、さらに、該低誘電率膜に高温焼鈍といった後処理を行い、該低誘電率膜での細孔形成剤を基本的に除去していることになる。しかし、この手段では、まず、細孔形成剤を導入して細孔を形成して誘電率を低下する必要があるが、細孔は材料の疎水性に不利であり、次に、細孔形成剤の除去には高温焼鈍を必要とし、電子製品への低誘電率膜の応用に不利である。
【0008】
また、幾つかの研究では、ポリアリーレンサルファイド及びテトラフルオロエチレンとパーフルオロエチレン性不飽和化合物との共重合体を原材料とし、混合して混練した後に、フッ素樹脂を含む、比誘電率が3.0~4.0である樹脂組成物からなる絶縁層を押し出す。この方法で製造された低誘電率絶縁層は、ミクロンレベル以上であり、大規模集積回路に適用しない。
【0009】
ここでの説明は、本発明に関連する背景情報のみを提供し、必ずしも先行技術を構成するものではない。
【発明の概要】
【0010】
本発明は、プラズマ強化化学気相成長(PECVD)法を用いて、低分極率の材料を反応物として、非細孔構造のナノ薄膜を形成して、低い誘電率を有しながら、良好な疎水性を有する疎水性低誘電率膜及びその製造方法を提供することを特徴とする。
【0011】
本発明は、表面エネルギーの低いフルオロポリマーまたはフルオロシリコーンポリマーを含み、良好な疏水特性を有し、水がその表面にある場合の静的接触角が大きく、電子機器に適用する疎水性低誘電率膜及びその製造方法を提供することを特徴とする。
【0012】
本発明は、フルオロカーボン材料を構成する単位が非対称構造を示し、加工が容易で、再成形しやすい疎水性低誘電率膜及びその製造方法を提供することを特徴とする。
【0013】
本発明は、PECVDプロセスを用いてナノレベル薄膜を形成し、厚さが小さく、大規模集積回路に適用する疎水性低誘電率膜及びその製造方法を提供することを特徴とする。
【0014】
本発明は、高温焼鈍処理を必要とせず、電子製品に影響を及ぼさず、電子製品及び大規模集積回路に適用する疎水性低誘電率膜及びその製造方法を提供することを特徴とする。
【0015】
本発明は、PECVD法で製造されたナノ薄膜の性能が制御しやく、反応物の添加量、反応物間の割合、気相成長過程でのプロセスパラメーターを調節することにより性能の異なるナノ薄膜を得ることができる疎水性低誘電率膜及びその製造方法を提供することを特徴とする。
【0016】
本発明は、反応物を選択することにより低誘電率膜の機械的な性質、防水性、耐食性を調整することができる疎水性低誘電率膜及びその製造方法を提供することを特徴とする。
【0017】
本発明は、動的蒸着方法を用いて、上記低誘電率膜を基体により均一に付着させ、基体の異なる位置での蒸着膜の違いが減少され、基体の異なる領域での被蒸着物の濃度の違いによる厚さの不均一である問題が解決される疎水性低誘電率膜及びその製造方法を提供することを特徴とする。
【0018】
本発明は、多官能基を持つ架橋剤を添加することにより、低誘電率膜の原料を蒸着重合過程で直接に架橋させ、緻密性が高くなり、機械的な性質が良くなり、大規模生産での熱焼鈍処理工程及びそれに伴う費用を節約される疎水性低誘電率膜及びその製造方法を提供することを特徴とする。
【0019】
本発明は、プラズマを利用して化学反応を励起し、通常の化学反応で原料間の活性化に特定性の高い条件が必要とする欠点を回避できる疎水性低誘電率膜及びその製造方法を提供することを特徴とする。
【0020】
本発明に係る特徴の少なくとも1つを達成するために、本発明の一態様は、1種又は複数種のフッ素含有化合物Aからプラズマ強化学気相成長法により形成され、上記1種又は複数種のフッ素含有化合物は、一般式CxSiyOmHnF2x+2y-n+2またはCxSiyOmHnF2x+2y-nを有する化合物を含み、xが1~20の整数、yが0~8の整数、mが0~6の整数、nが0、3、6、7、9、10、12、13、15、16、17、19であることを特徴とする、疎水性低誘電率膜を提供する。
【0021】
一実施態様に記載の疎水性低誘電率膜において、上記化合物Aと架橋剤化合物Bとの気相成長法により上記疎水性低誘電率膜を形成する疎水性低誘電率膜。
【0022】
一実施態様に記載の疎水性低誘電率膜において、上記化合物Aと立体障害の大きい化合物Cとの気相成長法により上記疎水性低誘電率膜を形成する疎水性低誘電率膜。
【0023】
一実施態様に記載の疎水性低誘電率膜において、上記化合物Aと架橋剤化合物Bと立体障害の大きい化合物Cとの気相成長法により上記疎水性低誘電率膜を形成する疎水性低誘電率膜。
【0024】
一実施態様に記載の疎水性低誘電率膜において、xが1~10の整数、yが0~6の整数、mが0~3の整数である疎水性低誘電率膜。
【0025】
一実施態様に記載の疎水性低誘電率膜において、上記化合物Aのモル比が35%を超える疎水性低誘電率膜。
【0026】
一実施態様に記載の疎水性低誘電率膜において、上記化合物Aが、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、ヘキサフルオロエタン、ヘキサフルオロプロピレンオキサイド、1H,1H,2H,2H-パーフルオロオクチルトリエトキシシラン、トリメチルフルオロシラン、オクタフルオロブテンからなる群より選択される1種又は複数種である疎水性低誘電率膜。
【0027】
一実施態様に記載の疎水性低誘電率膜において、上記化合物Bが、ブタジエン、パーフルオロブタジエン、ペンタジエン、1,2-エポキシ-5-ヘキセン、ヘキサジエン、ヘプタジエンからなる群より選択される1種又は複数種である疎水性低誘電率膜。
【0028】
一実施態様に記載の疎水性低誘電率膜において、上記化合物Cが、シクロヘキサン、トルエン、キシレン、ビニルベンゼン、ジビニルベンゼン、ジシクロペンタジエン、ナフタレン、ピリジンからなる群より選択される1種又は複数種である疎水性低誘電率膜。
【0029】
一実施態様に記載の疎水性低誘電率膜において、上記化合物Bが不飽和炭素-炭素二重結合を含む二重官能基または多官能基化合物である疎水性低誘電率膜。
【0030】
一実施態様に記載の疎水性低誘電率膜において、上記化合物Cが、シクロアルカン、芳香族炭化水素、縮合多環芳香族炭化水素、芳香族複素環から選択される疎水性低誘電率膜。
【0031】
一実施態様に記載の疎水性低誘電率膜において、上記疎水性低誘電率膜のk値の範囲が、1.8~1.9、1.9~2.0、2.0~2.1、2.1~2.2、2.2~2.3、2.3~2.4、2.4~2.5、2.5~2.6、2.6~2.7または2.7~2.8から選択される疎水性低誘電率膜。
【0032】
一実施態様に記載の疎水性低誘電率膜において、上記疎水性低誘電率膜の静的接触角が、110°~115°、115°~120°、120°~125°、125°~130°、130°~135°または135°~140°から選択される疎水性低誘電率膜。
【0033】
一実施態様に記載の疎水性低誘電率膜において、上記疎水性低誘電率膜のヤング率の範囲が、6~7GPa、7~8GPa、8~9GPa、9~10GPa、10~11GPa、11~12GPa、12~13GPa、13~14GPaまたは14~15GPaである疎水性低誘電率膜。
【0034】
本発明の別の側面は、
(A)一般式CxSiyOmHnF2x+2y-n+2またはCxSiyOmHnF2x+2y-nを含む1種又は複数種のフッ素含有化合物Aを反応装置の反応チャンバ-に導入するステップと、
(B)プラズマ源ガスを上記反応チャンバーに導入するステップと、
(C)所定電力で、上記1種又は複数種のフッ素含有化合物の反応によりチャンバ-内の基体に疎水性低誘電率膜を気相成長するステップと、を含むことを特徴とする、疎水性低誘電率膜製造方法を提供する。
【0035】
一実施態様に記載の疎水性低誘電率膜の製造方法において、架橋剤化合物Bを反応装置の反応チャンバ-に導入するステップをさらに含む疎水性低誘電率膜の製造方法。
【0036】
一実施態様に記載の疎水性低誘電率膜の製造方法において、立体障害の大きい化合物Cを反応装置の反応チャンバ-に導入するステップをさらに含む疎水性低誘電率膜の製造方法。
【0037】
一実施態様に記載の疎水性低誘電率膜の製造方法、架橋剤化合物Bと立体障害の大きい化合物Cを反応装置の反応チャンバ-に導入するステップをさらに含む疎水性低誘電率膜の製造方法。
【0038】
一実施態様に記載の疎水性低誘電率膜の製造方法において、上記基体を上記反応チャンバ-にて動き状態にあるように回転させるステップを含む疎水性低誘電率膜の製造方法。
【0039】
一実施態様に記載の疎水性低誘電率膜の製造方法において、上記基体を洗浄処理するステップをさらに含む疎水性低誘電率膜の製造方法。
【0040】
一実施態様に記載の疎水性低誘電率膜の製造方法において、ステップ(A)の前に、上記反応チャンバ-を排気するステップをさらに含む疎水性低誘電率膜の製造方法。
【0041】
一実施態様に記載の疎水性低誘電率膜の製造方法において、上記プラズマ源ガスが、不活性ガスまたはフルオロカーボン化合物から選択される疎水性低誘電率膜の製造方法。
【0042】
一実施態様に記載の疎水性低誘電率膜の製造方法において、上記プラズマ源ガスが、ヘリウムガスまたは四フッ素化炭素から選択される疎水性低誘電率膜の製造方法。
【0043】
一実施態様に記載の疎水性低誘電率膜の製造方法において、上記反応装置の入力電力密度の範囲が0.0001W/L~10W/Lである疎水性低誘電率膜の製造方法。
【0044】
一実施態様に記載の疎水性低誘電率膜の製造方法において、上記反応装置のチャンバ-ー温度の範囲が10~100℃である疎水性低誘電率膜の製造方法。
【0045】
一実施態様に記載の疎水性低誘電率膜の製造方法において、上記基体が、PCB基板、携帯電話用アンテナの回路基板、携帯電話用FPCから選択される1つのものである疎水性低誘電率膜の製造方法。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【
図1】
図1は本発明のある実施例による低誘電率膜の製造手順を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0047】
以下の説明は、本発明を当業者が達成できるように開示するためのものである。以下の説明での好ましい実施例は、例示のみであり、当業者にとって他の明らかな変更が容易に想到できるものである。以下の説明で定義された本発明の基本的な原理は、他の実施形態、変更形態、改良形態、同等形態、並びに、本発明の精神及び範囲を逸脱しない他の技術形態に適用できる。
【0048】
当業者は、本発明の記載において、「縦」、「横」、「上」、「下」、「前」、「後」、「左」、「右」、「垂直」、「水平」、「頂」、「底」、「内」、「外」という用語などが指示される方位または位置関係が図面に示される方位または位置関係に基づいて、本発明を簡便に説明しやすくするためのみであり、指示される装置または部品が必ず特定の方位を有し、かつ特定の方位で構成したり操作しなければならないことを指示するか、または示唆することではなく、そのため、上記用語が本発明への制限として理解できないことを理解すべきである。
【0049】
「1つ」が「少なくとも1つ」または「1つまたは複数」という用語とは、ある実施例で1つの部品の数が1つであってもよいが、別の実施例でこの部品の数は複数であってもよいことを理解すべきであり、「1つ」という用語は、数への制限として理解できない。
【0050】
「実施例」、「実施態様」、「例示的な実施例」、「幾つかの実施態様」などの引用は、このように本発明を説明する実施態様に特定の特徴、構造または特性を含み得るが、いずれの実施態様にも必ずしもこの特徴、構造または特性を含むものではないことを指す。また、幾つかの実施態様は、他の実施態様を説明する特徴のうち、一部、全部を有することができるか、または、このような特徴を有しない。
【0051】
本発明は疎水性低誘電率膜及びその製造方法を提供する。上記疎水性低誘電率膜またはコート層は、酸素、炭素およびフッ素が含まれている。例えば、上記疎水性低誘電率膜は、酸素、炭素、フッ素およびケイ素を含む。例えば、上記疎水性低誘電率膜は、水素、酸素、炭素、フッ素およびケイ素が含まれている。上記疎水性低誘電率膜の厚さは、ナノレベルのサイズであり、その厚さの範囲としては、例えば、10~2000nmが挙げられるが、これらに限定されない。
【0052】
上記疎水性低誘電率膜は、良好な誘電特性を有する。上記疎水性低誘電率膜のk値は、3.2未満である。例えば、上記疎水性低誘電率膜のk値の範囲は、1.8~2.8である。例えば、上記疎水性低誘電率膜のk値の範囲は、1.8~1.9、1.9~2.0、2.0~2.1、2.1~2.2、2.2~2.3、2.3~2.4、2.4~2.5、2.5~2.6、2.6~2.7または2.7~2.8から選択される。上記疎水性低誘電率膜の誘電損失は、0.0001未満である。
【0053】
上記疎水性低誘電率膜は、良好な疎水性能を有し、水が上記疎水性低誘電率膜に付着された静的接触角は、100°を超える。例えば、上記疎水性低誘電率膜の静的接触角の範囲は、110°~140°である。例えば、上記疎水性低誘電率膜の静的接触角は、110°~115°、115°~120°、120°~125°、125°~130°、130°~135°または135°~140°から選択される。例えば、上記疎水性低誘電率膜の静的接触角は、111°、116°、123°、128°、129°、132°、133°であることにより、上記疎水性低誘電率膜は良好な耐食性を有する。
【0054】
上記疎水性低誘電率膜は良好な機械的な性質を有する、例えば、上記疎水性低誘電率膜のヤング率は6GPaを超える。例えば、上記疎水性低誘電率膜のヤング率の範囲は、6~7GPa、7~8GPa、8~9GPa、9~10GPa、10~11GPa、11~12GPa、12~13GPa、13~14GPaまたは14~15GPaから選択される。
【0055】
本発明の実施例により、上記疎水性低誘電率膜は、プラズマ強化化学気相成長(PECVD)法によって基体の表面に形成される。つまり、上記疎水性低誘電率膜を構成する原材料は、PECVDプロセスにより基体の表面に成長し、上記基体の表面に上記疎水性低誘電率膜が形成される。例えば、上記疎水性低誘電率膜を大規模集積回路の基板表面に成長させることにより上記大規模集積回路基板のRC遅延現象が改善されるが、これに限定されない。
【0056】
さらには、上記疎水性低誘電率膜は、プラズマ反応装置でPECVD法により形成される。つまり、成長させる時に、上記基体を上記プラズマ反応装置の反応チャンバ-内に配置し、その後、上記反応チャンバ-へ反応物を導入しながら、プラズマ放電を行い、プラズマが生成され、上記基体を反応物ガス雰囲気に暴露させることにより、上記基体の表面に上記疎水性低誘電率膜を成長させて成膜する。
【0057】
上記基体は、例えば、PCB基板、携帯電話用アンテナの回路基板、携帯電話用FPCが挙げられるが、これらに限定されない。
【0058】
上記プラズマ強化化学気相成長(PECVD)法は、グロー放電によりプラズマを生成し、放電の方法には、マイクロ放電、高周波放電、紫外線、電気火花放電を含む。
【0059】
特に、PECVD方法では、通常の化学反応で原料間の活性化に特定性の高い条件を必要とするという欠点を回避できるとともに、PECVD法で使用される材料の範囲が広くなる。プラズマは、電子、イオンを利用して反応物の活性部位に直接衝撃し、反応性を活性化させるものであり、活性化能は、プラズマ内の電子、イオンのエネルギーに深く関わっているが、入力電力の大きさ、時間などのパラメーターを制御することにより簡便に調整することができる。
【0060】
このような反応物ガスは、常温常圧下でガスである化学物質であってもよく、常圧で沸点が350℃未満である液状物質は、減圧、加熱などの方式で形成された蒸気であってもよい。反応物ガスは、2つ以上の混合物からなる。
【0061】
本発明のある実施例では、上記疎水性低誘電率膜は、フッ素含有化合物Aおよび多官能基化合物Bを反応物として、PECVDプロセスにより形成される。上記疎水性低誘電率膜を製造する際に、上記化合物Aおよび上記化合物Bは、同時に導入されてもよく、連続して導入されてもよい。
【0062】
本発明の実施例によれば、プラズマ強化化学気相成長(PECVD)法を採用し、低分極率材料を反応物として、非細孔構造のナノ薄膜を形成することにより、低い誘電率及び良好な疎水性を有する。
【0063】
さらに、上記疎水性低誘電率膜は、低表面エネルギーを有するフルオロポリマーまたはフルオロシリコーンポリマーを含み、良好な疏水特性を有し、水がその表面にある場合の静的接触角が大きいため、電子機器に適用する。
【0064】
さらに、上記疎水性低誘電率膜は、フルオロカーボン材料を構成する単位が非対称構造を示し、加工が容易で、再成形しやすい。
【0065】
さらに、上記フッ素含有化合物Aは、一般式CxSiyOmHnF2x+2y-n+2またはCxSiyOmHnF2x+2y-nで表され、xは、1~20の整数、yは、0~8の整数、mは、0~6の整数、nは、0、3、6、7、9、10、12、13、15、16、17、19である。良好な疎水性能を有する低誘電率膜を得るために、低誘電率膜における酸素の含有量を制御するべきであるが、しかも、低誘電率膜における誘電率を低下するために、フッ素の含有量を高くする必要があり、好ましくは、xは、1~10の整数、yは、0~6の整数、mは、0~3の整数である。
【0066】
例えば、上記化合物Bは、二重官能基または多官能基化合物であり、例えば、アルカジエン、パーフルオロアルカジエン、またはエポキシ基を含むオレフィンである。
【0067】
本発明のある実施例では、上記疎水性低誘電率膜は、フッ素含有化合物Aおよび立体障害の大きい化合物Cを反応物として、PECVDプロセスにより形成される。上記疎水性低誘電率膜を製造する際に、上記化合物Aおよび上記化合物Cは、同時に導入されてもよく、連続して導入されてもよい。例えば、上記化合物Cは、ベンゼン環を含む芳香族炭化水素、フッ素置換芳香族炭化水素、シクロヘキサンであってもよい。例えば、上記化合物Cは、シクロアルカン、芳香族炭化水素、縮合多環芳香族炭化水素、芳香族複素環であってもよい。
【0068】
本発明のある実施例では、上記疎水性低誘電率膜は、上記フッ素含有化合物A、上記化合物B、および上記化合物Cを反応物として、PECVDプロセスにより形成される。上記疎水性低誘電率膜を製造する際に、上記化合物A、上記化合物Bおよび上記化合物Cは同時に導入されてもよく、連続して導入されてもよい。
【0069】
さらに、上記化合物Aの全導入量の割合は、35%を超え、好ましく、上記化合物Aの全導入量の割合は、40%を超え、ここでいう割合とは、モル比を指す。
【0070】
例えば、上記化合物Aは、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、ヘキサフルオロエタン、ヘキサフルオロプロピレンオキサイド、1H,1H,2H,2H-パーフルオロオクチルトリエトキシシラン、トリメチルフルオロシラン、オクタフルオロブテンからなる群より選択される1種又は複数種である。
【0071】
例えば、上記化合物Bは、ブタジエン、パーフルオロブタジエン、ペンタジエン、1,2-エポキシ-5-ヘキセン、ヘキサジエン、ヘプタジエンからなる群より選択されるの1種又は複数種である。
【0072】
例えば、上記化合物Cは、シクロヘキサン、トルエン、キシレン、ビニルベンゼン、ジビニルベンゼン、ジシクロペンタジエン、ナフタレン、ピリジンからなる群より選択される1種又は複数種である。
【0073】
ちなみに、上記化合物Bを反応物とした場合には、上記化合物は、架橋剤として上記疎水性低誘電率膜の緻密度合いを増強させる。すなわち、成長過程で、上記化合物Aと上記化合物Bとの分子間、または上記反応物Aと上記化合物Bと上記化合物Cとの分子間の結合がより緻密になるため、上記疎水性低誘電率膜は、良好な機械的な性質、例えば、より高いヤング率を有する。
【0074】
上記化合物Bは、多官能性架橋剤であり、官能基は、炭素-炭素二重結合、炭素三重結合、エポキシ基等を選択してもよく、架橋性官能基として、炭素-炭素二重結合、エポキシ基が好ましい。炭素-炭素二重結合、エポキシ基は、それぞれ二重結合反応、開環反応を発生した後に、分子構造が飽和状態を維持するため、分子の疎水性および対称性の向上に寄与する。
【0075】
特に、上記化合物Cを反応物とした場合に、上記化合物Cは、大きな立体障害を持つため、上記疎水性低誘電率膜でポリマーの自由体積が増加され、分子の疎水性の向上に寄与する。
【0076】
特に、上記疎水性低誘電率膜を製造する際に、上記化合物A、上記化合物Bおよび/または上記化合物Cの添加量、各反応物の間の割合及び気相成長におけるプロセスパラメーターを調整することにより性能の異なるナノ薄膜を得ることができる。電子製品は、実用中、誘電体材料に対する要求が全方向性かつマルチスケールである場合が多い。例えば、大規模集積回路の製造では、コート層の機械的な性質、コート層の防水性、コート層の耐食性、コート層の耐薬品性等が求められる。しかし、本発明の実施例では、異なる反応物を選択して組み合わせることにより、これらの要求を満たすことができる。
【0077】
特に、上記疎水性低誘電率膜を製造する際に、本発明の疎水性低誘電率ナノ薄膜は、蒸着が終了した後に、熱焼鈍処理にて応力を除去して薄膜の緻密度合いおよび機械的な性質を向上させることが不要である。本発明は、多官能性架橋剤を添加することにより、低誘電率コート層の原料を蒸着重合過程に直接架橋させ、緻密性が向上し、大規模生産で熱焼鈍処理工程及びそれに伴う費用を節約する。高温焼鈍処理が不要であり、電子製品に影響を及ぼさず、電子製品及び大規模集積回路に適用する。
【0078】
さらに、本発明の実施例によれば、上記疎水性低誘電率膜を製造する際に、動的方式でPECVD過程を行い、すなわち、上記基体を反応チャンバー内で運動させる。ある実施例では、このような運動は、チャンバーで円運動することができ、その利点は、基体がチャンバーに対して異なる位置にあることができ、プラズマの作用を均一に受け、反応原料の濃度が不均一な分布によるコート層の品質への影響を低減させる。本発明のある実施例では、上記基体の運動方式は、複数の方式を含んでもよいよく、例えば、上記基体は、反応チャンバーの中心点を基準点としてまたは所定の軸のまわりを公転し、上記基体の中心軸または所定の軸のまわりを自転するか、或いは、上記基体はそれぞれ横縦の両方の軸のまわりを各々に回転する。
【0079】
さらに、本発明の実施例によれば、選ばれた反応装置の真空反応チャンバーの体積は、100L未満ではなく、採用されたプラズマ発生方式の入力電力密度の範囲は0.0001W/L~10W/Lであり、それにより、大規模生産に適応し、生産コストを低減させることができる。上記反応装置の高周波放電の電極は、対称する複数の電極板で構成されているため、上記基体の表面に成長した上記疎水性低誘電率膜をより均一にすることができる。
【0080】
さらに、本発明の実施例によれば、上記疎水性低誘電率膜を製造する際に、プラズマ発生を促進するために、プラズマ源ガスを添加する必要がある。上記プラズマ源ガスは、例えば不活性ガス、フルオロカーボン化合物であるが、これらに限定されない。上記プラズマ源ガスの種類は、添加されるる反応物、即ち上記化合物A、上記化合物B及び上記化合物Cに応じて決定する必要がある。例えば、上記不活性ガスとしては、ヘリウムガスを選択するが、これに限定されない。例えば、上記フルオロカーボン化合物としては、四フッ素化炭素を選択するが、これに限定されない。
【0081】
図1は、本発明のある実施例による疎水性低誘電率膜の製造手順を示す図である。上記疎水性低誘電率膜は、プラズマ反応装置により気相成長して形成されることができる。
【0082】
本発明の実施例によれば、上記疎水性低誘電率膜の製造方法であって、
101:一般式CxSiyOmHnF2x+2y-n+2またはCxSiyOmHnF2x+2y-nを含む1種又は複数種のフッ素含有化合物を反応装置の反応チャンバーに導入するステップと、
102:プラズマ源ガスを上記反応チャンバーに導入するステップと、
103:所定電力では、上記1種又は複数種のフッ素含有化合物の反応により反応チャンバー内の基体に疎水性低誘電率膜を気相成長するステップと、を含む方法である。
【0083】
ある実施例では、フッ素含有化合物Aと架橋剤化合物Bを気相成長させることにより、上記疎水性低誘電率膜を形成する。
【0084】
上記ステップ101には、フッ素含有化合物Aと架橋剤化合物Bを反応装置の反応チャンバーに導入するステップを含んでもよい。上記フッ素含有化合物Aは、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、ヘキサフルオロエタン、ヘキサフルオロプロピレンオキサイド、1H,1H,2H,2H-パーフルオロオクチルトリエトキシシラン、トリメチルフルオロシラン、オクタフルオロブテンからなる群より選択される1種又は複数種である。上記架橋剤化合物Bは、ブタジエン、パーフルオロブタジエン、ペンタジエン、1,2-エポキシ-5-ヘキセン、ヘキサジエン、ヘプタジエンからなる群より選択される1種又は複数種である。
【0085】
実施例では、フッ素含有化合物Aと立体障害の大きい化合物Cを気相成長させることにより上記疎水性低誘電率膜形成する。
【0086】
上記ステップ101には、フッ素含有化合物Aと立体障害の大きい化合物Cを反応装置の反応チャンバー内導入するステップを含んでもよい。上記フッ素含有化合物Aは、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、ヘキサフルオロエタン、ヘキサフルオロプロピレンオキサイド、1H,1H,2H,2H-パーフルオロオクチルトリエトキシシラン、トリメチルフルオロシラン、オクタフルオロブテンからなる群より選択される1種又は複数種である。上記立体障害の大きい化合物Cは、シクロヘキサン、トルエン、キシレン、ビニルベンゼン、ジビニルベンゼン、ジシクロペンタジエン、ナフタレン、ピリジンからなる群より選択される1種又は複数種である。
【0087】
実施例では、フッ素含有化合物A、架橋剤化合物B及び立体障害の大きい化合物Cを気相成長させることにより上記疎水性低誘電率膜を形成する。
【0088】
上記ステップ101には、フッ素含有化合物A、架橋剤化合物B及び立体障害の大きい化合物Cを反応装置の反応チャンバー内に導入するステップを含んでもよい。上記フッ素含有化合物Aは、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、ヘキサフルオロエタン、ヘキサフルオロプロピレンオキサイド、1H,1H,2H,2H-パーフルオロオクチルトリエトキシシラン、トリメチルフルオロシラン、オクタフルオロブテンからなる群より選択される1種又は複数種である。上記架橋剤化合物Bは、ブタジエン、パーフルオロブタジエン、ペンタジエン、1,2-エポキシ-5-ヘキセン、ヘキサジエン、ヘプタジエンからなる群より選択される1種又は複数種である。上記立体障害の大きい化合物Cは、シクロヘキサン、トルエン、キシレン、ビニルベンゼン、ジビニルベンゼン、ジシクロペンタジエン、ナフタレン、ピリジンからなる群より選択される1種又は複数種である。
【0089】
上記ステップ102に導入されたプラズマ源ガスは、例えば不活性ガス、フルオロカーボン化合物である。例えば、ヘリウムガス、四フッ素化炭素であるが、これらに限定されない。
【0090】
上記疎水性低誘電率膜の製造方法は、さらに、ステップ104:上記基体を回転させることを含んでもよい。すなわち、上記基体を上記反応チャンバーにて動き状態にあるように回転させる。このような動きは、チャンバーで円運動することであってもよい。本発明のある実施例では、上記基体の運転方式は、複数の方式を含んでもよく、例えば、上記基体は、反応チャンバーの中心点を基準点としてまたは所定の軸のまわりを公転し、上記基体の中心軸または所定の軸のまわりを自転するか、或いは、上記基体はそれぞれ横縦の両方の軸のまわりを各々に回転することができる。
【0091】
上記ステップ104は、上記ステップ103の前に施してもよい。
【0092】
上記ステップ101の前に、さらに上記基体に前処理を行ってもよく、例えば、基体に化学気相成長を行う前に、基体を洗浄処理する必要がある。基体表面のダスト、水分、油脂等は、成長効果に悪影響を及ぼす。例えば、まず、基体をアセトンまたはイソプロパノールで洗浄し、次にオープンに入れ乾燥させる。
【0093】
ある実施例では、上記疎水性低誘電率膜の製造において、(1)基体を準備し、基体に化学気相成長する前に、基体を洗浄処理する必要がある。基体表面のダスト、水分、油脂等は成長効果に悪影響を及ぼす。まず、アセトンまたはイソプロパノールで基体を洗浄し、次に乾燥オープンに入れ乾燥する。(2)基体に化学気相成長してナノ薄膜を製造する。(a)表面がきれいな基体をプラズマ設備の反応チャンバーに入れ、次に反応チャンバー内の真空度が1~2000mtorrになるように反応チャンバーを連続的に排気し;(b)運動機構を運転し、基体をチャンバーで運動の状態になるようにさせ;プラズマ源ガスを導入し、チャンバーで高周波放電または紫外線放射等の手段を採用し、紫外線放射でプラズマを発生させる。反応物ガスは、プラズマ源とともに導入されてもよく、プラズマ源が導入された後に、基体に1~1200sの前処理を行い、次いで、プロセスパラメーターの要求に従って反応物ガスを導入し;(c)真空反応チャンバーの圧力、温度を設定するとともに、異なる反応物ガスを導入し、プラズマ発生電力を1~500Wに調整し、チャンバー温度を10~100℃に調整し、プラズマ化学気相成長を行い、反応終了後、反応物ガスの導入を停止し、チャンバー内の圧力を常圧に上昇させることができる。
【0094】
一般的には、選ばれた真空反応チャンバーの体積は、100L以上であり、採用されたプラズマ発生方式の入力電力密度の範囲は、0.0001W/L~10W/Lにある。
【実施例】
【0095】
以下、具体的な実施例を例示して説明する。
【0096】
実施例1
本発明に係るPCB基板用低誘電率ナノ薄膜またはナノコート層及びその製造方法は、以下のステップを含む。即ち
(1)まず、アセトンまたはイソプロパノールでPCB基板を洗浄し、無塵布で拭いてから、オープンに入れ24時間乾燥させた。
(2)乾燥された電子機器のPCB基板を300L プラズマ真空反応チャンバーに置き、真空度が10mtorrになるように反応チャンバーを連続的に排気した。
(3)ヘリウムガスを導入し、流量が20sccmとし、パズルプラズマ放電を開始し、PCB基板に前処理を行い、前処理段階では、放電周波数は500Hzであり、放電電力は10Wであり、放電時間は100sである。
(4)その後、同時にテトラフルオロエチレン、ブタジエン、トルエンを導入し、基体表面に化学気相成長し、ナノコート層を作製した。ナノコート層の作製では、三つの反応単量体の導入速度は、それぞれ150μL/min、20μL/min、5μL/minであり、導入時間は、それぞれ2000sである。
(5)コート層作製終了後、圧縮空気を導入し、反応チャンバーを常圧に戻し、チャンバーを開いて、電子機器のPCB基板を取り出した。つまり、PCB基板に低誘電率ナノコート層が蒸着された。
【0097】
実施例2
本発明における携帯電話アンテナ保護用低誘電率ナノコート層及びその製造方法は、以下のステップを含む。
(1)まず、アセトンまたはイソプロパノールで携帯電話アンテナを備える回路基板を洗浄し、無塵布で拭いてから、オープンに入れ、24時間乾燥した。
(2)乾燥された携帯電話アンテナ回路基板を1000L プラズマ真空反応チャンバーに置き、真空度が50mtorrになるように反応チャンバーを連続的に排気した。
(3)ヘリウムガスを導入し、流量を40sccmとし、マイクロプラズマ放電を開始し、携帯電話アンテナ回路基板に前処理を行い、前処理段階で放電周波数は433MHzであり、放電電力は100Wであり、放電時間は100sである。
(4)次に、同時にヘキサフルオロエタン、ブタジエン、ビニルベンゼンを導入し、基体表面に化学気相成長を行い、ナノコート層を作製した。コート層の作製では、三つの反応単量体の導入速度は、それぞれ250μL/min、10μL/min、5μL/minであり、導入時間は、それぞれ3000sである。
(5)コート層作製終了後、圧縮空気を導入し、反応チャンバーを常圧に戻し、チャンバーを開いて、携帯電話アンテナ回路基板を取り出した。つまり、携帯電話アンテナ回路基板に低誘電率ナノコート層が蒸着された。
【0098】
実施例3
本発明における携帯電話アンテナ保護用低誘電率ナノコート層及びその製造方法は、以下のステップを含む。
(1)まず、アセトンまたはイソプロパノールで携帯電話アンテナ付き回路基板を洗浄し、無塵布で拭いてから、オープンに入れ24時間乾燥した。
(2)乾燥された携帯電話アンテナ回路基板を2000L プラズマ真空反応チャンバー内に置き、真空度が80mtorrになるように反応チャンバーを連続的に排気した。
(3)ヘリウムガスを導入し、流量を40sccmとし、マイクロプラズマ放電を開始し、携帯電話アンテナの回路基板に前処理を行い、前処理段階で放電周波数は2450MHzであり、放電電力は400Wであり、放電時間は200sである。
(4)次に、同時にヘキサフルオロプロピレンオキサイド、ペンタジエン、シクロヘキサンを導入し、基体表面で化学気相成長し、ナノコート層を作製した。コート層の作製では、三つの反応単量体導入速度は、それぞれ350μL/min、30μL/min、5μL/minであり、導入時間は、それぞれ3000sである。
(5)コート層作製終了後、圧縮空気を導入し、反応チャンバーを常圧に戻し、チャンバーを開いて、携帯電話アンテナ回路基板を取り出した。つまり、携帯電話アンテナ回路基板に低誘電率ナノコート層が蒸着された。
【0099】
実施例4
本発明における携帯電話用FPC保護用低誘電率ナノコート層及びその製造方法、以下のステップを含む。
(1)まず、アセトンまたはイソプロパノールで携帯電話用FPCを洗浄し、無塵布で拭いてから、オープンに入れ24時間乾燥した。
(2)乾燥された携帯電話用FPCを2000L プラズマ真空反応チャンバーに置き、真空度が80mtorrになるように反応チャンバーを連続的に排気した。
(3)ヘリウムガスを導入し、流量を40sccmとし、マイクロプラズマ放電を開始し、携帯電話用FPCに前処理を行い、前処理段階では放電周波数は2450MHzであり、放電電力は400Wであり、放電時間は200sである。
(4)次に、同時にヘキサフルオロプロピレンオキサイド、1,2-エポキシ-5-ヘキセン、ジシクロペンタジエンを導入し、基体表面に化学気相成長を行って、ナノコート層を作製した。コート層の作製では、三つの反応単量体の導入速度は、それぞれ400μL/min、20μL/min、10μL/minであり、導入時間は、それぞれ3000sである。
(5)コート層作製終了後、圧縮空気を導入し、反応チャンバーを常圧に戻し、チャンバーを開いて、携帯電話用FPCを取り出した。つまり、携帯電話用FPCに低誘電率ナノコート層が蒸着された。
【0100】
実施例5
実施例1と比較しては、ステップ(4)での単量体であるテトラフルオロエチレンを1H,1H,2H,2H-パーフルオロオクチルトリエトキシシランに変更した以外は、他の条件を変更していない。
【0101】
実施例6
実施例1と比較しては、ステップ(4)での単量体トルエンの流量を0とし、即ち、導入しない以外は、他の条件を変更していない。
【0102】
実施例7
実施例1と比較しては、ステップ(3)でのヘリウムガスを四フッ素化炭素にした以外は、他の条件を変更していない。
【0103】
実施例8
実施例1と比較しては、ステップ(4)でのテトラフルオロエチレンをテトラフルオロエチレンとトリメチルフルオロシランとの混合物にし、モル割合は2:1である以外は、他の条件を変更していない。
【0104】
実施例9
実施例1と比較しては、ステップ(4)でのテトラフルオロエチレンをテトラフルオロエチレンとトリメチルフルオロシランとの混合物にし、モル割合は1:1である以外は、他の条件を変更していない。
【0105】
実施例10
実施例1と比較しては、ステップ(4)でのブタジエンの流量を0にした以外は、他の条件を変更していない。
【0106】
特に、上記実施例では、それぞれPCB基板、携帯電話用アンテナの回路基板、携帯電話用FPCを基体として説明書に記載される疎水性低誘電率膜の形成過程を例示しているが、本発明の他の実施例では、他の電子機器を基体としてプラズマ強化化学気相成長を行い、上記疎水性低誘電率膜を形成することもでき、本発明は、それによって限定されない。
【0107】
さらに、上記実施例でのパラメーターを検出した。
【0108】
ナノコート層の厚さは、米国Filmetrics F20-UV-膜厚計を使用して検出した。
【0109】
ナノコート層の水接触角は、GB/T 30447-2013規格に従って測定された。
【0110】
誘電率は、GB/T 1409-2006で電気絶縁材料が電力周波数、可聴周波数、高周波数(ミリ波長を含む。)で誘電率および誘電損失係数を測定するための推奨方法に従って検出された。
【0111】
ナノコート層のヤング率は、JB/T 12721-2016に記載の固体材料のin situナノインデンテーション/スクラッチテスターの技術仕様にしたがって測定された。
【0112】
図面:実施例1~10の各性能パラメーター
表一
【表1】
【0113】
本発明に係る技術によれば、大規模集積回路に適用できる防水ナノ薄膜を得ることができる。プラズマ化学気相成長法を利用し、比誘電率が2.0程度の疏水性ナノ薄膜を得、架橋剤の添加により、ナノ薄膜の緻密度が向上されて、具体的には機械的な性質の向上で発現された。
【0114】
最後に、以上の各実施例は、本発明の技術的形態を説明するためにのみ使用されるものであるが、それらによって限定されるものではなく、本発明を前記各実施例を参照として詳しく説明しているが、当業者にとっては、依然として前記各実施例に記載の技術的形態を修正するか、またはその一部または全部の技術的特徴を同等に置き換えることができるが、これらの修正または置き換えは、対応する技術的形態の本質を本発明の各実施例に係る技術的形態の範囲から逸脱させないことを理解すべきである。
【0115】
当業者は、上記説明及び図面に示される本発明の実施例は単なる例であり、本発明を限定するものではないことを理解すべきである。本発明の目的は、既に完全かつ効果的に達成された。本発明の機能及び構造原理も実施例に示され、説明されており、上記原理から逸脱することなく、本発明の実施形態には任意の変更または修正があることができる。