(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-15
(54)【発明の名称】積層造形装置
(51)【国際特許分類】
B22F 10/73 20210101AFI20231108BHJP
B22F 10/32 20210101ALI20231108BHJP
【FI】
B22F10/73
B22F10/32
(21)【出願番号】P 2022124641
(22)【出願日】2022-08-04
【審査請求日】2023-08-24
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000132725
【氏名又は名称】株式会社ソディック
(72)【発明者】
【氏名】中村 直人
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特表2021-500476(JP,A)
【文献】特表2019-502829(JP,A)
【文献】特開2016-056417(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第110976871(CN,A)
【文献】特開2017-214627(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 10/00-12/90
B29C 64/00-64/40
B33Y 10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
造形領域を含む作業空間を密閉して不活性ガスで満たされる造形室と、
前記造形領域に供給される粉末状の材料である金属粉
であって、未使用の金属粉または前記造形室から回収した金属粉を貯留する材料貯留槽と、
前記造形室と前記材料貯留槽との間に設けられ
、前記造形室
から回収した不純物を含む金属粉の中から再使用可能な金属粉だけを選別
した上で前記造形領域に供給可能に構成された分別装置と、
前記造形室と前記材料貯留槽との間に
おいて前記分別装置よりも高位に設けられ
、不活性ガスと共に金属粉を前記造形室
または前記材料貯留槽から移送
し、前記分別装置に金属粉を排出可能に構成された気密性を有する移送装置と、
前記移送装置の
排気ポートと前記造形室との間に設けられ
、前記移送装置を減圧するとともに前記移送装置から排出される不活性ガスを前記造形室内に送り出す気密性を有するポンプと、
配管と、を含んでな
り、
前記移送装置は、
真空容器と、
前記真空容器に不活性ガスと共に金属粉を流入させる吸入口と、
前記真空容器の底に形成され、前記真空容器に移送された金属粉を排出する排出口と、
前記排気ポートを有し、前記真空容器内の不活性ガスをフィルタを介して排出する排気管と、
前記排出口を開閉可能に構成された底蓋と、を含んでなり、
前記配管は、
前記造形室および前記材料貯留槽と前記移送装置の吸入口とに接続され、前記造形室から回収した金属粉または前記材料貯留槽に貯留された金属粉が不活性ガスと共に移送される第1の配管と、
前記造形室と前記材料貯留槽とに接続され、不活性ガスが流通する第2の配管と、
前記第1の配管と前記第2の配管とに接続され、バルブにより開閉可能に構成された、不活性ガスが流通する第3の配管と、を含んでなる積層造形装置。
【請求項2】
前記材料貯留槽が気密性を有する請求項1に記載の積層造形装置。
【請求項3】
前記分別装置が気密性を有する請求項1に記載の積層造形装置。
【請求項4】
前記移送装置が金属粉を移送する複数の移送管路でなる移送配管中の最上位に配置される請求項1に記載の積層造形装置。
【請求項5】
少なくとも前記移送装置と前記材料貯留槽と前記分別装置とを1つの筐体内に収容してユニット化した材料循環機構を含んでなる請求項1に記載の積層造形装置。
【請求項6】
前記分別装置が超音波篩装置である請求項1に記載の積層造形装置。
【請求項7】
前記ポンプが真空ポンプである請求項1に記載の積層造形装置。
【請求項8】
前記真空ポンプがベーンポンプである請求項
7に記載の積層造形装置。
【請求項9】
前記移送装置の前記排出口から排出される金属粉の送り先を、前記材料貯留槽または前記分別装置のいずれか一方に切り換える三方切換弁を含んでなる請求項1に記載の積層造形装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層造形装置に関する。特に、本発明は、粉末状の材料を造形室に供給し造形室から回収するとともに回収した粉末状の材料を再生する材料循環機構を備えた粉末積層造形装置に関する。
【背景技術】
【0002】
粉末積層造形装置は、粉末状の材料を層状に固化して形成される固化層を積み重ね合わせて所望の造形物を生成する装置である。粉末状の材料である金属粉を使用して造形を行なう金属粉末積層造形装置は、金属3Dプリンタの1種としてよく知られている。例えば、金属粉を所定の造形領域に均一の高さに敷き詰めて材料層を形成し、材料層の所定の照射領域にレーザ光または電子ビームを照射して金属粉を溶融固化または焼結し、材料層毎に金属粉が固化して形成された固化層を積層することによって所望の三次元形状の造形物を生成する金属粉末積層造形装置がある。
【0003】
金属粉末積層造形における粉末状の材料として用いられる金属粉の素材を構成する元素として、鉄、アルミニウム、チタンがよく知られている。素材は、単一の金属元素である場合に限らず、その金属元素を主成分として複数の元素を含んでなる合金である場合を含む。例えば、鉄を主成分として、ニッケル、炭素、珪素、クロム、マンガン、モリブデン、コバルト、アルミニウム、チタンのような元素を含む鉄系合金を素材として複数種類の金属粒子が混合した金属粉が鋼製の造形物を生成する粉末状の材料として使用されている。
【0004】
金属粉に高エネルギ密度のレーザ光または電子ビームを照射すると、金属粉が局所的に高温になって溶融または焼結するときに、いくらかの量の金属粒子が蒸発してヒュームが発生する。ヒュームは、人体に悪影響を及ぼす。また、素材によっては、金属粉が空気に晒されることによって酸化して品質が劣化し、あるいは発火するおそれがある。そのため、この種の金属粉末積層造形装置は、造形室を密閉し、気密室内に不活性ガスを供給して酸素濃度が所定値以下の不活性ガス雰囲気下で造形を行なうことができるように構成されている。
【0005】
このような積層造形装置の中には、金属粉を造形室に供給する供給装置と、固化されずに残った金属粉を造形室から回収する回収装置とを備えた造形装置がある。加えて、回収装置によって回収された切削粉のような不純物を含む金属粉から再使用可能な金属粉だけを選別して残す再生装置が設けられた積層造形装置もある。造形中に金属粉を自動的に回収および供給することによって、作業効率の向上を図っている。また、金属粉を再使用することによって、ランニングコストを低減することが期待できる。
【0006】
特許文献1は、粉末状の材料の供給装置と回収装置と再生装置とを含んでなる典型的な材料循環機構を備えた積層造形装置を開示している。特許文献1に示される積層造形装置は、造形中に適宜材料を供給しながら余剰の金属粉を回収するとともに、造形後に造形室に残されている金属粉をノズルによって吸引して回収する。造形後に作業者が掃除機のようにノズルを操作して金属粉を造形室から除去する清掃作業を行なうことができるので、清掃作業における作業効率が向上する。
【0007】
ただし、清掃作業を行なうときは、造形室の前面扉を開放してノズルを操作する必要があるので、作業者は、誤って金属粉を吸引しないように高性能のマスクで防護して可能な限り金属粉が舞い上がらないように慎重に清掃作業を行なうことが要求される。また、金属粉の素材の主成分が鉄または鉄系合金であるときは、酸化による品質の低下を防ぐために、作業者が可能な限り短時間に清掃作業を完了することが望まれる。あるいは、金属粉の素材の主成分がアルミニウムまたはアルミニウム合金であるときは、火災もしくは粉塵爆発のおそれもあるので、作業者は、十分に注意を払いながら短時間で清掃作業を行なう必要がある。
【0008】
造形室の前面扉に覗窓と共に一対の作業孔を有するグローブボックスが設けられている積層造形装置が知られている。2つの作業孔は、それぞれ常時塞がれていて造形室の気密性が保持されている。作業者は、例えば、造形室を密閉した状態で2つの作業用の孔から造形室内に両腕を挿入してノズルを操作することができる。このような積層造形装置においては、作業者が金属粉を吸引するリスクが低減される。
【0009】
一般的な積層造形装置の材料循環機構においては、例えば、金属粉の排出口よりも上位に配置されている金属粉の供給口に接続する供給装置と造形室よりも下位に配置されている金属粉の排出口に接続する回収装置との間に再生装置が設けられる。そのため、例えば、特許文献2に開示されているように、供給装置と回収装置と再生装置のそれぞれの設置位置に対応して金属粉を移送するためのポンプ、コンベア、アスピレータのような移送装置が要求される。特許文献3は、造形室における金属粉の供給口よりも上に位置する金属粉の移送経路の中の最高位に移送装置を設けた材料循環機構を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特許第6132962号公報
【文献】特許第6820346号公報
【文献】特許第6993492号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
密閉した造形室内においてノズルを操作して金属粉を回収する清掃作業をするときは、主に不活性ガスでなる気体を吸引して気流に乗せて金属粉を移送するので、造形室内が一時的に大気圧に対して負圧の状態になる。造形室は、真空室ではないので、造形室を開放していないときでも、造形室に存在するいくつかの僅かな隙間から造形室内に外気が徐々に流入する。外気の侵入を防いで造形室内の気体の酸素濃度が上がらないようにするためには、造形室外に排出される不活性ガスの量よりも少し多い量の清浄な不活性ガスを造形室内に供給し続けることが要求される。
【0012】
材料循環機構の構造上、金属粉が不活性ガスの気流に乗って金属粉を貯留する材料貯留槽まで移動する過程で多量の不活性ガスが積層造形装置の外に排出される。失われた不活性ガスの量だけ新しい不活性ガスを補充する必要があるので、材料循環機構を備えていない積層造形装置に比べて清浄な不活性ガスの残量が不足しがちである。比較的長時間の造形を可能にするためには、ガスボンベのような新しい不活性ガスの供給源をより多く準備しておく必要があり、あるいは窒素ガス生成装置のような特別の設備が求められることがある。
【0013】
とりわけ、金属粉の素材の主成分がチタンであるときは、チタンが窒化しやすく造形物の表面に造形後の切削が困難な程度に高硬度の窒化チタンが生成されることから、不活性ガスに窒素ガスを使用することができず、より入手が困難で高価な希ガス、例えば、アルゴンガスを使用せざるを得ないので、ランニングコストが高くなる。また、窒素ガス生成装置のような特別の設備が存在しないこともあって連続運転時間がより短くならざるを得ない。したがって、清掃作業時の不活性ガスの消費量を減らすことができるなら、材料循環機構を備える金属粉末積層造形におけるチタンの有用性が一層高まることが期待できる。
【0014】
また、金属粉の素材の主成分がアルミニウムであるときは、材料循環機構の中において大気中の酸素濃度と同じ状態で酸素に接触した場合、鉄系の素材に比べて短期間に酸化が進行し品質が変わりやすいだけでなく、粉塵爆発の危険があるため、清掃作業を安易に行なうことができない。したがって、清掃作業時に酸素濃度が所定値以下の不活性ガス雰囲気下で材料循環機構を稼働させることができるなら、作業の安全性と作業効率が向上して、材料循環機構を備える積層造形におけるアルミニウムの有用性が一層高まることが期待できる。
【0015】
本発明は、酸素濃度が所定値以下の不活性ガス雰囲気下で金属粉を循環させることができる改良された材料循環機構を備えた積層造形装置を提供することを主たる目的とする。特に、本発明は、造形室から金属粉を回収するときに使用する不活性ガスの消費量をより少なくする材料循環機構を備えた積層造形装置を提供することを目的とする。本発明におけるいくつかの利点は、本発明の積層造形装置の具体的な実施の形態の説明において、その都度詳しく開示される。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の積層造形装置は、上記課題を解決するために、造形領域を含む作業空間を密閉して不活性ガスで満たされる造形室(7)と、造形領域に供給される粉末状の材料である金属粉を貯留する材料貯留槽(62)と、造形室(7)と材料貯留槽(62)との間に設けられ造形室(7)内の不純物を含む金属粉の中から再使用可能な金属粉だけを選別する分別装置(63)と、造形室(7)と材料貯留槽(62)との間に設けられ不活性ガスと共に金属粉を造形室(7)から移送する気密性を有する移送装置(61)と、移送装置(61)の不活性ガスの排気側と造形室(7)との間に設けられ移送装置(61)から排出される不活性ガスを造形室(7)内に送り出す気密性を有するポンプ(64)と、を含んでなるようにする。
【0017】
好ましくは、本発明の積層造形装置は、造形室(7)と移送装置(61)との間に設けられ造形室(7)内の金属粉を移送装置(61)まで移送する移送配管(8)の1以上の回収管路(81)を含む循環管路(8A)と、造形室(7)と材料貯留槽(62)との間に設けられ造形室(7)内と材料貯留槽(62)との間で不活性ガスを流通させるためのガス配管(9)の循環管路(9E)と、移送配管(8)の循環管路(8A)から分岐してガス配管(9)の循環管路(9E)に接続し造形室(7)内の不活性ガスを移送装置(61)に流入させるガス配管(9)のバイパス管路(9G)を含んでなるようにする。
【0018】
また、好ましくは、本発明の積層造形装置において、材料貯留槽(62)が気密性を有する。また、分別装置(63)が気密性を有する。また、移送装置(61)が金属粉を移送する複数の移送管路でなる移送配管(8)中の最上位に配置される。特に、本発明の積層造形装置は、少なくとも移送装置(61)と材料貯留槽(62)と分別装置(63)とを1つの筐体内に収容してユニット化した材料循環機構(6)を含んでなる。本発明の積層造形装置において、移送装置(61)がバキュームコンベアである。また、分別装置(63)が超音波篩装置である。また、ポンプ(64)が真空ポンプである。望ましくは、真空ポンプがベーンポンプである。
【0019】
また、好ましくは、本発明の積層造形装置は、移送装置(61)と材料貯留槽(62)との間に設けられ金属粉を移送装置(61)から材料貯留槽(62)まで移送する移送配管(8)の循環管路(8B)と移送装置(61)と分別装置(63)との間に設けられ金属粉を分別装置(63)まで移送する移送配管(8)の供給管路(8C)との接続を切り換える三方切換バルブ(V3)を含んでなるようにする。
【発明の効果】
【0020】
本発明の積層造形装置は、材料循環機構において気密性を有する移送装置、例えば、バキュームコンベアから排出される不活性ガスを造形室内に送り出す気密性を有するポンプが設けられているので、ガスの流路として、造形室を出てから再び造形室に戻るまで外気と遮断されている“閉回路”が形成される。したがって、金属粉を造形室から回収するときに、造形室を密閉した状態で金属粉を気流に乗せて移送してくる不活性ガスを可能な限り外に流出させずに造形室に戻すことができる。
【0021】
そのため、本発明によると、材料循環機構を有する積層造形装置において、造形室内に供給し続ける必要がある不活性ガスの消費量を削減することによって新しい不活性ガスの使用量をより少なくすることができる。また、材料循環機構の中の気体の酸素濃度を不活性ガスで満たされている造形室内とほぼ同じ所定値以下に維持することができる。その結果、作業の安全性と作業効率が向上するとともに、ランニングコストの負担が軽減される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の積層造形装置の全体構成を示すブロック図である。
【
図2】本発明の積層造形装置における移送装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1は、本発明の積層造形装置の典型的な実施の形態を示す。
図1において、図に向かって手前側を積層造形装置の正面、右側を右側面、左側を左側面とする。
図1において、積層造形装置本機は、断面が示される。
図1は、模式図であって、
図1における各構成要素の配置およびサイズの相対的な関係は、実物と同じではない。
図1において、制御装置と信号線は、図示省略されている。
図2は、移送装置がバキュームコンベアであるときの断面を示す。
図2は、模式図であって、具体的な構造は、実物と完全には同じではない。
【0024】
本発明の積層造形装置は、積層造形装置本機1と、ガス供給装置2と、集塵装置3と、照射装置4と、散布装置5と、材料循環機構6と、造形室7とを含む。実施の形態の積層造形装置において、具体的に、集塵装置3はヒュームコレクタ、照射装置4はレーザ装置、散布装置5はリコータ、造形室7はチャンバである。以下の実施の形態の積層造形装置の説明においては、具体的な装置のほうに同じ符号を付して詳しく示される。
【0025】
配管は、主に気体と共に粉末状の材料である金属粉を移送する移送配管8と、主に不活性ガスを流通するガス配管9とを含む。
図1において、移送配管8は、太いほうの線で示される。ガス配管9は、細いほうの線で示される。主に、移送配管8は、1以上の回収管路81(81A,81B,81C)の部分を含む循環管路8Aと、循環管路8Bと、戻り管路82の部分を含む供給管路8Cと、供給管路8Dとを含む。ガス配管9は、主に、供給管路9Aと、供給管路9Bと、供給管路9Cと、循環管路9Dと、循環管路9Eと、排気管路9Fと、バイパス管路9Gとを含む。
【0026】
積層造形装置本機1は、主に機体1Aと、作業テーブル1Bと、造形カバー1Cとの3つの構造物を含んでなる。
図1に示されるように、作業テーブル1Bの上に造形カバー1Cで覆われる“作業空間”が形成される。作業テーブル1Bと造形カバー1Cとによって造形室としてのチャンバ7が形成される。
【0027】
実施の形態の積層造形装置において、材料循環機構6は、複数の主要な構成要素、具体的には、少なくとも移送装置61と材料貯留槽62と分別装置63とを1つの筐体内に一体的に収容してユニット化している。積層造形装置本機1から離れている材料循環機構6との間の移送配管8は、例えば、カプラCPによって結合される。また、積層造形装置本機1と材料循環機構6と間を接続するガス配管9は、例えば、ヘルール継手FJによって結合される。
図1において、符号に含まれるハッシュナンバーは、複数の結合部位を区別するために便宜上付されたものであって、格別な意味を有していない。
【0028】
機体1Aは、積層造形装置本機1の基礎構造体である。機体1Aは、主に金属製のフレームと板金とでなる。機体1Aの中央付近に4つの壁で形成される造形タンク11が設けられる。造形タンク11の中に形成される“造形空間”に所望の三次元形状の造形物が生成される。
【0029】
作業テーブル1Bは、造形作業を実施するための作業台である。作業テーブル1Bは、機体1Aの上の全面にわたって水平に設置される。作業テーブル1Bの中央付近におよそ四角形の貫通孔が形成されている。その貫通孔の内形に合わせた外形を有する造形テーブル12が造形タンク11の中に収容されるように設けられる。造形テーブル12は、実質的に造形タンク11の底板を形成する。
【0030】
造形テーブル12は、図示しない駆動装置によって昇降する。造形テーブル12と造形タンク11の4つの壁の内壁面との間は、造形テーブル12の端面を周回するリング状のパッキンPKによってシールされている。造形テーブル12が上下方向に往復移動するとき、造形テーブル12は、パッキンPKを介在して造形タンク11の中を摺動する。そのため、造形テーブル12が昇降するときに、造形テーブル12の上に散布される金属粉が造形タンク11の外に出て機体1Aの中に落下しない。
【0031】
造形テーブル12の上に造形のための基板である造形プレート(ベースプレート)BPを取り付けて固定する。ベースプレートBPとして、高熱によって溶融している状態の金属が固着しやすい材質の金属製の板材が選定される。ベースプレートBPの上に造形物が生成される。ベースプレートBPが造形物の一部分を構成することがある。
【0032】
造形テーブル12の直下に温調装置13が設けられている。温調装置13は、加熱装置と冷却装置とでなる。温調装置13の加熱装置は、例えば、ヒータである。また、温調装置13の冷却装置は、例えば、冷却配管である。冷媒の供給源は、図に示されておらず、機体1Aの外に配置されている。造形テーブル12とベースプレートBPを通して温調装置13の熱が固化体に伝達し、固化体を加熱または冷却して固化体を所定の温度に調整する。本発明において、固化体は、完成された所望の三次元形状の造形物を含んで造形物が完成されるまでの造形の途中において金属粉が溶融固化して形成される固化物をいう。
【0033】
作業テーブル1Bの下側に作業テーブル1B上に散布された金属粉を収集するシュータ14が設けられている。実施の形態の積層造形装置においては、図示しない金属粉の排出孔が作業テーブル1Bの機体1Aに向かって左右両端に形成されていて、各排出孔に連通するようにシュータ14が設けられている。
図1に示される積層造形装置においては、造形タンク11を挟んでシュータ14Aとシュータ14Bが設けられている。
【0034】
造形中に生じる作業テーブル1Bの上の余剰の金属粉は、リコータ5が作業テーブル1B上を積層造形装置本機1における左右方向に往復移動するのにともなってリコータ5によって排出孔に押し出され、排出孔からチャンバ7の外に自由落下する。シュータ14は、漏斗形状に形成されており、金属粉は、シュータ14の底に移動する。
【0035】
図示しない制御装置は、材料検出器MS1,MS2からの信号を定期的に受信する。材料検出器MS1,MS2が所定の量の金属粉を検出するとき、バルブV1およびバルブV2を開放して材料循環機構6の回収装置6Aを作動する。シュータ14にある金属粉は、材料循環機構6によって吸引されるチャンバ7内の不活性ガスの気流に乗って不活性ガスと共に移送配管8の循環管路8Aを通って積層造形装置本機1の外に排出され、材料循環機構6に回収される。
【0036】
造形カバー1Cは、造形テーブル12上に形成される造形領域を含む作業テーブル1B上に存在する作業空間の全体を覆う手段である。
図1に示されるように、造形カバー1Cは、主に複数の壁板と1以上の天板とで形成される。造形カバー1Cは、作業テーブル1Bの上面を取り囲んで覆うようにして機体1Aの上に設置される。
【0037】
積層造形装置の稼働中、チャンバ7内が不活性ガスで満たされて、チャンバ7内の気圧は、積層造形装置が設置されている場所における外気圧と同じであって、通常は大気圧程度に維持されている。ただし、チャンバ7は、真空容器ではないので、避けることができないいくつかの隙間がある。例えば、リコータ5の往復移動を案内するガイドと作業テーブル1Bとの間には、僅かな隙間がある。
【0038】
チャンバ7内の気圧が外気圧よりも高くなると、僅かな隙間からチャンバ7内の不活性ガスがチャンバ7の外に流出する。一方、チャンバ7内の気圧が外気圧よりも低くなる、いわゆる負圧の状態になると、僅かな隙間からチャンバ7内に外気が流入する。チャンバ7内の気体の酸素濃度が所定値以内であるようにチャンバ7内を所定の不活性ガスで満たしておくために、ガス供給装置2から常に新しい不活性ガスを供給し続けてチャンバ7の圧力を大気圧と同じか僅かに大きい圧力に維持する。チャンバ7内の酸素濃度は、酸素濃度計OS1で計測されている。
【0039】
造形カバー1Cの天板にガラスウィンドウ15が設けられている。レーザ装置4によってチャンバ7の上側からチャンバ7内に向かって下方に照射されるレーザ光は、ガラスウィンドウ15を透過して造形テーブル12の上に形成されている造形領域に到達する。造形領域に到達したレーザ光は、照射スポットにおいて金属粉を溶融固化する。このとき、照射スポットからヒュームが発生し、ヒュームは、ガラスウィンドウ15に向かって上昇する傾向にある。
【0040】
ガラスウィンドウ15を囲むように図示しない不活性ガスの噴出口を有する保護装置16は、ガラスウィンドウ15のチャンバ7の内面側に向いているガラス面の全面に向けてガス供給装置2から供給される新しい不活性ガスまたはヒュームコレクタ3によって浄化され再生された不活性ガスを噴出する。ガラスウィンドウ15の近くから噴出供給される清浄な不活性ガスは、ガラスウィンドウ15のガラス面表面を覆ってヒュームを遮り、ガラスウィンドウ15をヒュームから保護しながら、チャンバ7内を巡ってチャンバ7内の気体の酸素濃度を所定値以下に維持する。
【0041】
造形カバー1Cの前面壁に開口が形成されている。開口は、作業者がチャンバ7の中にアクセスすることを可能にする。開口は、前面扉17によって開閉される。前面扉17には、覗窓17Aと一対の丸い作業孔が穿設されたグローブボックス17Bが設けられている。グローブボックス17Bは、チャンバ7を密閉している間、底がない袋状の閉塞手段によって閉鎖されている。例えば、2つの作業孔に対して隙間をなくした状態で作業者が作業孔から両腕をチャンバ7内に挿入することによって、チャンバ7内を実質的に密閉した状態でノズル18を操作して金属粉をチャンバ7内から除去する清掃作業を行なうことができる。
【0042】
ガス供給装置2は、清浄な新しい不活性ガスの供給源である。一般的にガス供給装置2の主な構成要素は、ガスボンベまたはガスタンクであって、制御弁を含む。ガス供給装置2は、チャンバ7内に不活性ガスを供給する手段である。また、ガス供給装置2は、ガラスウィンドウ15に向けて噴出供給されガラスウィンドウ15の表面を覆って汚染を防ぐための不活性ガスを供給する手段である。また、ガス供給装置2は、材料循環機構6に不活性ガスを供給する手段である。
【0043】
図1においては、複数の施設に同時に必要十分な量の不活性ガスを供給できるようにガス供給装置2Aとガス供給装置2Bが示されている。ガス供給装置2Aは、ガス配管9の供給管路9Aを通してチャンバ7に接続する。また、ガス供給装置2Aは、供給管路9Bを通してガラスウィンドウ15のすぐ近くに設けられている保護装置16に接続する。ガス供給装置2Bは、供給管路9Cを通して材料循環機構6に接続する。
【0044】
図1に示されるガス配管9は、特定の構成要素、例えば、チャンバ7に対してガス供給装置2Aとガス供給装置2Bのどちらからでも不活性ガスを選択的に供給できるように切り換える接続形態に変形することができる。また、複数の構成要素において1つのガス供給装置2を共用する構成に変形することができる。また、不活性ガスが窒素ガスであるとき、例えば、ガス供給装置2Aとガス供給装置2Bの何れか一方の不活性ガスの供給源を窒素ガスボンベまたは窒素ガスタンクとし、他方の不活性ガスの供給源を大気中から窒素を収集して出力する窒素ガス生成装置にすることができる。
【0045】
本発明の積層造形装置において適用できる不活性ガスは、温度と関係なく殆どの種類の金属粉と化学的に反応しないか著しく反応性が低い気体である。一般的な金属積層造形においては、金属粉と反応しにくく入手しやすい比較的安価な窒素ガスが有利である。ただし、金属粉の素材が通常酸化チタンとして存在するチタンおよびチタンを主成分とするチタン合金であるときは、造形中にチタンが窒素と反応して窒化しやすいため、チタンと反応しないか著しく反応性が低い希ガスが有利である。希ガスは、大気中に比較的多く存在し入手しやすく扱いやすいアルゴンガスを使用するのが一般的である。
【0046】
ヒュームコレクタ3は、集塵装置である。ヒュームコレクタ3は、チャンバ7内のヒュームを含む不活性ガスの中からヒュームを除去して浄化された不活性ガスをチャンバ7に戻す手段である。ヒュームコレクタ3は、チャンバ7からヒュームによって汚染された所定値以下の濃度で酸素を含む不活性ガスを主成分とする気体を回収して、ヒュームが冷却したときに発生する粉塵を捕集する。チャンバ7とヒュームコレクタ3との間を循環する気体には、僅かな酸素を含む不活性ガス以外のガスを含んでいる可能性があるが、本発明においては、複数の種類のガスでなる混合気体を含めて循環する気体を単に不活性ガスという。
【0047】
チャンバ7内の汚染された不活性ガスは、造形カバー1Cの壁に設けられているが図示しないファンによってガス配管9の循環管路9Dを通してヒュームコレクタ3に収集される。ヒュームコレクタ3によって浄化された清浄な不活性ガスは、循環管路9Dを通してチャンバ7内に戻される。チャンバ7とヒュームコレクタ3との間で不活性ガスを循環させる循環管路9Dは、
図1に示される配管に限定されない。例えば、循環管路9Dを分岐させて保護装置16に接続させるようにすることができる。また、例えば、循環管路9Dを材料循環機構6に不活性ガスを供給する供給管路9Cに接続させることができる。
【0048】
レーザ装置4は、レーザ光をチャンバ7内における造形領域に向けて照射する手段である。レーザ装置4は、公知の装置が適用される。レーザ装置4は、より具体的に、何れも図示されないレーザ光源と、レーザ光を走査するガルバノミラーと、レーザ光を偏向する複数の反射板と、1以上の集光レンズとを含んでなる。実施の形態の積層造形装置において、照射装置がカソード電極を発生源として電子ビームを照射する電子ビーム照射装置であるように適宜の方法で
図1に示されるレーザ装置4を他の構成の照射装置に置き換えることができる。
【0049】
リコータ5は、少なくとも造形領域に金属粉を散布して平坦化し、所定の厚さの材料層を形成する手段である。造形領域は、造形テーブル12の上に形成されレーザ装置4によるレーザ光が照射できる最大領域を示す。厳密には、レーザ光は、ベースプレートBPの外側領域に照射することが許容されないので、ベースプレートBPの上に形成される。実施の形態の積層造形装置におけるリコータ5は、作業テーブル1Bの上を積層造形装置本機1に向かって左右方向に往復移動する。リコータ5は、作業テーブル1Bの上の余剰の金属粉を図示しない排出孔に押し出してチャンバ7外に自由落下させる。
【0050】
リコータ5は、何れも図示しない材料箱を含むリコータヘッドと、リコータヘッドの下側に取り付けられる少なくとも1つのブレードと、リコータヘッドを水平1軸方向に往復移動させる駆動装置とを含む。
図1に示されるリコータ5は、公知のリコータと同じである。リコータ5の具体的な構成と動作は、例えば、背景技術の説明において提示されリコータを図と共に詳しく開示している特許文献が参照される。
【0051】
材料循環機構6は、チャンバ7の中に残された金属粉を回収し、分別ないしは再生してチャンバ7に再供給する手段である。材料循環機構6は、材料の回収装置6Aと、供給装置6Bと、再生装置6Cとを含んでなる。特に、実施の形態における積層造形装置の材料循環機構6は、主に、移送装置であるバキュームコンベア61と、金属粉の供給源として金属粉を貯留する材料貯留槽である材料タンク62と、分別装置である超音波篩装置63とを含んでなる。また、材料循環機構6は、真空ポンプ64を含む。
【0052】
材料循環機構6を構成する各構成要素が回収装置6Aと供給装置6Bと再生装置6Cの何れの装置に属するかは機能的に区別され、
図1に示されているとおり、物理的には厳密に区別される必要がない。例えば、バキュームコンベア61は、チャンバ7内から金属粉を移送する手段として回収装置6Aの一部であり、超音波篩装置63を経由して材料コンテナ65に金属粉を供給する手段として供給装置6Bの一部を構成する。また、例えば、材料タンク62は、チャンバ7内から回収した金属粉を貯留する手段として回収装置6Aの一部であり、材料コンテナ65に金属粉を供給する金属粉を貯留する手段として供給装置6Bの一部を構成する。
【0053】
材料循環機構6の主要な構成要素は、ユニット化されて積層造形装置本機1から離れた1つの筐体の中に設けられる。ただし、材料循環機構6の全ての構成要素が1つの筐体内に収容されることは要求されない。実施の形態の積層造形装置の材料循環機構6においては、少なくともバキュームコンベア61と材料タンク62と超音波篩装置63とを1つの筐体内に収容している。材料循環機構6の回収装置6Aに含まれるシュータ14は、積層造形装置本機1に設けられている。また、真空ポンプ64は、筐体の中ではなく、積層造形装置本機1の外の後背位置に設置されている。
【0054】
バキュームコンベア61は、チャンバ7内の金属粉を不活性ガスと共に吸引し金属粉を不活性ガスの気流に乗せて材料循環機構6の移送経路の中の最高位まで移送する手段である。バキュームコンベア61を最高位に設置することによって、金属粉の供給と回収を1つの移送装置によって行なうことができる。材料循環機構6がただ1つの移送装置を有する構成は、材料循環機構6の維持管理をより容易にするだけではなく、積層造形装置本機1と材料循環機構6とを含む金属粉を可能な限り外気に接触させないように気密性を維持する点においても有利である。
【0055】
バキュームコンベア61は、
図2により具体的に示されるように、少なくとも真空容器61Aと、排気ポート61Bと、金属粉の吸入口61Cと、金属粉の排出口61Dと、開閉する底蓋61Eと、フィルタ61Fを含んでなる。特に、
図2に示されるバキュームコンベア61においては、三方切換バルブV3が容器全体と一体的に設けられている。
【0056】
排気管の出口側にある排気ポート61Bは、
図1に示されるように、ガス配管9の排気管路9Fを通して真空ポンプ64に接続する。真空ポンプ64は、移送装置であるバキュームコンベア61の駆動源である。チャンバ7内の不活性ガスは、真空ポンプ64によって金属粉の吸入口61Cから金属粉と一緒に移送装置61の真空容器61Aに流入する。真空容器61A内の不活性ガスは、フィルタ61Fを通過して排気管からバキュームコンベア61の外に排気され、真空ポンプ64の出力側からチャンバ7に戻される。
【0057】
金属粉の吸入口61Cは、循環管路8Aによってチャンバ7に設けられているシュータ14とノズル18、および材料循環機構6の材料タンク62に接続する。円形の金属粉の排出口61Dが真空容器61Aの底に形成されている。排出口61Dは、円形の底蓋61Eによって開閉する。排出口61Dを閉鎖するように底蓋61Eを移動させてから真空ポンプ64を駆動すると、底蓋61Eは、真空容器61Aの方向に吸い上げられるようにして排出口61Dを閉鎖した状態で固定される。排出口61Dが閉鎖されたとき、真空容器61Aが気密になる。
【0058】
真空容器61Aが気密であるとき、真空ポンプ64が作動し続けることによって真空容器61Aの中の不活性ガスがガス配管9の排気管路9Fを通ってチャンバ7内に排気される。真空容器61A内が徐々に減圧して真空度が上昇すると、真空容器61Aとチャンバ7内との間に気圧の差が生じてチャンバ7内の不活性ガスがバキュームコンベア61に吸引され、金属粉が不活性ガスの気流に乗って不活性ガスと共に移送配管8の循環管路8Aを通って真空容器61Aまで移送される。
【0059】
真空容器61A内に移送された金属粉は、自重によって自由落下する。
図2に示されるように、真空容器61Aの底部に設けられている排出口61Dを塞いでいる円形の底蓋61Eを下方向にスイングさせて排出口61Dが開口したとき、真空容器61Aの底に到達した金属粉は、三方切換バルブV3が選択的に開いている方向のバキュームコンベア61よりも下位に設置されている材料タンク62または超音波篩装置63の何れかに送られる。
【0060】
図1に示される材料循環機構6において、バキュームコンベア61の排気ポート61Bは、真空ポンプ64の入力側に接続される。真空ポンプ64の出力側は、チャンバ7内に接続される。チャンバ7内から吸引される不活性ガスは、循環管路8Aを通って金属粉を搬送しながらバキュームコンベア61の吸入口61Cから真空容器61Aの中に到達する。真空容器61Aの中の不活性ガスは、真空ポンプ64によって吸引され、排気ポート61Bから排気管路9Fを通ってチャンバ7に戻る。このとき、バキュームコンベア61の排気管に不活性ガスから金属粉を含む不純物を除去するフィルタ61Fが設けられている。
【0061】
したがって、本発明の積層造形装置において、チャンバ7と材料循環機構6のバキュームコンベア61との間を繋ぐ不活性ガスが循環するガス流路として、チャンバ7からバキュームコンベア61を経由してチャンバ7に戻るまで外気と遮断された“閉回路”が形成されている。そのため、本発明の積層造形装置におけるバキュームコンベア61は、一般的なバキュームコンベアと比べると、排気をするエジェクタを備えていない。
【0062】
材料循環機構6において、チャンバ7内の不活性ガスがバキュームコンベア61の真空容器61A内に流入し続ける間、排気ポート61Bから排気される不活性ガスが上記閉回路によって材料循環機構6の外に排出されることなく真空ポンプ64によってチャンバ7内に戻る。そのため、チャンバ7に新しい不活性ガスを常時供給しなくてもチャンバ7内が減圧することがなく、チャンバ7内に外気が流入しない。また、上記閉回路によって材料循環機構6の途中で実質的に外気が流入しない。その結果、チャンバ7内を密閉して不活性ガス雰囲気下で清掃作業を含む金属粉の排出作業あるいは除去作業を行なうことができる。
【0063】
真空容器61Aの中は、金属粉を移送するための吸引力を得ることができる比較的低い真空度が維持されていればよい。また、ガス配管9の排気管路9Fの全体において外気と遮断され外気が流入しないことが要求される。したがって、真空ポンプ64は、自己の密閉度が高く比較的低真空領域で使用されるタイプのポンプが適している。実施の形態の材料循環機構6においては、具体的にベーンポンプを使用している。
【0064】
材料循環機構6において金属粉を吸引して強制的に回収する作業を行っている間は、材料循環機構6の中が全体的に負圧の状態にある。真空ポンプ64が停止したときも、移送配管8の循環管路8Aからガス配管9の排気管路9Fを含む閉回路の中は、気密が維持されている。そのため、金属粉を強制的に回収する作業を終えた後、材料循環機構6の中は、依然として負圧の状態にある。例えば、バキュームコンベア61が真空容器61Aの開閉を円形の底蓋61Eによって行なう構造であるとき、材料循環機構6において真空容器61A内が負圧の状態にあると、円形の底蓋61Eを開くことができなくなる。
【0065】
そのため、実施の形態の積層造形装置における材料循環機構6のガス配管9中には、バイパス管路9Gが設けられる。バイパス管路9Gは、材料循環機構6とチャンバ7との間を直接繋ぐ戻り管路である。具体的に、バイパス管路9Gは、バキュームコンベア61と真空ポンプ64を通らずに移送配管8の循環管路8Aとチャンバ7内との間を結ぶように設けられる。特に、
図1に示される積層造形装置においては、ヘルール継手FJを使用してガス配管9を接合する数を増やさないために、材料循環機構6のユニット化された筐体側においてチャンバ7と材料タンク62とを結ぶ既存のガス配管9の
循環管路9Eに接続するようにバイパス管路9Gを設けている。
【0066】
真空ポンプ64が停止したとき、バルブV4を開いてバイパス管路9Gを開通する。バイパス管路9Gが開通すると、閉回路の内圧がチャンバ7の内圧よりも小さい、言い換えると、閉回路中の気圧がチャンバ7内の気圧よりも低いため、チャンバ7の不活性ガスがバイパス管路9Gを通って循環管路8Aに流入して閉回路内の圧力がチャンバ7内に開放する。その結果、閉回路の気圧がチャンバ7内の気圧とほぼ同じ大気圧まで戻る。
【0067】
材料タンク62は、材料コンテナ65とリコータ5を通して造形領域に供給する金属粉を貯留する手段である。材料タンク62は、チャンバ7内から回収した余剰の金属粉を貯留する。また、材料タンク62は、材料ボトルMBから供給される造形に未使用の新品の金属粉を貯留する。また、材料タンク62は、超音波篩装置63で選別された再使用可能な金属粉を貯留する。
【0068】
金属粉を材料タンク62から材料コンテナ65に供給するとき、再使用可能な金属粉に新品の金属粉を補充して混合して使用することができる。また、
図1に示される積層造形装置は、1つの材料タンク62しか備えていないが、材料循環機構6に複数の材料タンクを設けて複数種類の素材の金属粉を準備しておき、複数種類の金属粉を選択的に供給することによって、複数種類の金属粉を使い分けて造形するように変形することができる。
【0069】
新品の金属粉をチャンバ7に供給するときは、
図1に示されるようにカプラCPによって材料ボトルMBを供給管に接続し、1以上のバルブV5を開放して新品の金属粉を材料ボトルMBから材料タンク62に供給する。このとき、
図1に示される積層造形装置においては、材料ボトルMBからチャンバ7に設けられている材料コンテナ65に金属粉を直接供給することができないが、材料ボトルMBと材料コンテナ65との間を気密にすることができる限りにおいて、材料ボトルMBから材料コンテナ65に金属粉を直接供給するように変形することが可能である。
【0070】
通常は、三方切換バルブV3が材料タンク62側に切り換えられており、チャンバ7から回収されてくる金属粉は、材料タンク62に貯留される。金属粉を材料コンテナ65に供給するとき、三方切換バルブV3が超音波篩装置63側に切り換えられる。このとき、材料タンク62と超音波篩装置63が気密性を有する構造であって、ガス供給装置2Bから材料タンク62に不活性ガスが供給される構成になっている。材料タンク62内の金属粉の量は材料検出器MS3,MS4で検出される。したがって、実施の形態における積層造形装置は、金属粉が外気に接触する機会をより少なくできる点で有利である。
【0071】
材料タンク62は、分別装置である超音波篩装置63によって選別された再使用可能な金属粉を貯留することもできる。このとき、超音波篩装置63で選別された再使用可能な金属粉は、カプラCPによって連結される供給管路8Cの戻り管路82を通って材料タンク62に回送される。なお、図示しないが、戻り管路82の途中に空の材料ボトルMBを接続するようにすると、材料ボトルMBの中に再使用可能な金属粉を回収して次の造形加工まで保存するようにしておくことができる。
【0072】
超音波篩装置63は、一度チャンバ7内に供給された金属粉から不純物を除去し再利用可能なサイズの金属粉を選別する手段である。超音波篩装置63は、材料タンク62と材料コンテナ65とに接続されている。超音波篩装置63には、酸素濃度計OS2が設けられている。また、不活性ガスの供給管路9Cが材料タンク62に接続し、ガス供給装置2から材料循環機構6に不活性ガスが適時供給できるようにされている。そして、酸素濃度計OS2が材料循環機構6の中の酸素濃度が高くなったことを検出したときは、ガス供給装置2から新しい不活性ガスを供給し、材料循環機構6の酸素濃度が高くならないように維持される。
【0073】
超音波篩装置63は、常時チャンバ7側に選択的に接続されていて、材料コンテナ65に金属粉を供給する。材料タンク62に貯留される金属粉は、各バルブを閉鎖した状態でバルブV7を開放することによってバキュームコンベア61に吸引され、三方切換バルブV3を供給管路8C側に切り換えることによって超音波篩装置63に送られる。不純物および再使用できない金属粉は、金属粉の量を検出する材料検出器MS7を備え密閉されている回収ボックス66に転送される。リコータ5の金属粉の量は、材料検出器MS5で検出される。リコータ5に供給する金属粉の量は、材料検出器MS6で検出される。
【0074】
実施の形態の積層造形装置は、ノズル18を具備している。ノズル18を使うときは、バルブV1、バルブV2、およびバルブV7を閉じてバルブV8を開く。チャンバ7内の不活性ガスと金属粉をノズル18から吸引することによって金属粉を気流に乗せて循環管路8Aを通って材料タンク62または超音波篩装置63まで移送することができ、チャンバ7を閉鎖した状態でチャンバ7内の金属粉を除去する清掃作業を行なうことができる。
【0075】
材料タンク62および超音波篩装置63は、金属粉が外気と接触する機会を可能な限り減らすことができる密閉空間が形成される処理槽あるいは処理室を備えていることが望ましい。材料循環機構6が気密であるとき、金属粉を回収し、貯留し、再供給するまでの期間、常時金属粉の酸化をより確実に防ぐことができる。特に、金属粉の素材がチタンであるときは、チタン粉末の窒化を防ぐことができる。また、金属粉の素材がアルミニウムであるときは、酸化と共に粉塵爆発を防ぐことができる。
【0076】
次に、
図1および
図2を用いて実施の形態の積層造形装置の動作を説明する。
図1および
図2は、制御装置および制御信号が図示省略されている。制御装置は、積層造形装置をプログラム運転するためのコンピュータ数値制御装置に含まれていてよい。以下の説明において、積層造形装置を動作させるために、作業者または制御装置の何れかが指示することが明記されているかどうかに関わらず、実際に可能な範囲で、作業者と制御装置の何れが指示するものであってよい。
【0077】
図1には、複数のバルブ、酸素濃度計、材料検出器が示されているが、設計上、必要に応じて設けられても、設けられなくてもよいものを含んでいる。また、
図1は、積層造形装置本機および材料循環機構に設けられる全てのバルブ、酸素濃度計、および材料検出器を示すものではなく、本発明の積層造形装置において直接関係がないものは、図示および説明が省略されている。なお、バルブは、制御装置によって制御される制御バルブを含む。
【0078】
造形を行なう前に、ガス供給装置2Aを作動させて、チャンバ7に不活性ガスを供給し、チャンバ7内を所定の酸素濃度以下の不活性ガス雰囲気にする。また、ガス供給装置2Bを作動させて、材料タンク62を通して材料循環機構6の全体を不活性ガス雰囲気にする。そして、作業者は、金属粉を材料ボトルMBから材料タンク62に補充する。材料ボトルMBには、新品の金属粉または一度回収した金属粉が保存されている。なお、特段のことわりがない限り、三方切換バルブV3以外のバルブVは、常時閉じられている。
【0079】
材料タンク62に十分な量の金属粉が補充された後、三方切換バルブV3を供給管路8C側に切り換える。続いて、バルブV7を開いてバキュームコンベア61の金属粉の吸入口61Cを材料タンク62に接続して、真空ポンプ64を作動させる。したがって、材料タンクの金属粉は、バキュームコンベア61によって超音波篩装置63を経由して材料コンテナ65に供給される。材料コンテナ65が満杯になったら、三方切換バルブV3を循環管路8B側に切り換える。そして、材料コンテナ65からリコータ5に金属粉を供給する。
【0080】
造形中、図示しない制御装置は、定期的に材料検出器MS1,MS2から検出信号を取得する。制御装置は、適時、材料検出器MS1,MS2の検出信号に応答してバルブV1とバルブV2を開くとともに、真空ポンプ64を含むバキュームコンベア61を駆動する。このとき、三方切換バルブV3は、バキュームコンベア61と材料タンク62とが接続するように切り換えられている。したがって、材料循環機構6は、チャンバ7外に排出された金属粉をバキュームコンベア61によって回収し、回収した金属粉を材料タンク62に収容するように金属粉を移送している。
【0081】
造形中に材料検出器MS6が材料コンテナ65における金属粉の不足を検出したとき、制御装置は、バルブV7を開くとともに、三方切換バルブV3を供給管路8C側に切り換える。そして、バキュームコンベア61を作動し、超音波篩装置63を通して材料タンク62に貯留されている金属粉を材料コンテナ65に補充する。超音波篩装置63によって金属粉を選別する作業にある程度の時間を要するので、材料コンテナ65に金属粉を補充している期間中に造形を続けながらバルブV1およびバルブV2を開いて余剰の金属粉をチャンバ7から回収するようにすることができる。
【0082】
超音波篩装置63において分別された切削粉のような不純物あるいは溶金属粉塊(スパッタ)のような再使用不可能な金属粉は、回収ボックス66に回収される。回収ボックス66に設けられている材料検出器MS7が不純物を含む再使用できない金属粉を検出したときは、回収ボックス66の中の金属粉は、廃棄される。回収ボックス66が廃棄容器であるときは、金属粉を大気中に晒さずに廃棄容器ごと運搬されて、空の廃棄容器と交換する。
【0083】
造形後にチャンバ7内に残されている不純物を含む金属粉を回収する清掃作業を行なうときは、作業者は、グローブボックス17Bの一対の貫通孔から両腕を挿入してノズル18を操作する。したがって、作業者は、チャンバ7を実質的に密閉した状態で清掃作業を行なうことができる。清掃作業中は、チャンバ7の内圧が大気圧程度に維持されるように必要なときだけガス供給装置2から比較的少ない量の新しい不活性ガスがチャンバ7に供給される。
【0084】
清掃作業時は、バルブV8を開き、底蓋61Eによって排出口61Dを閉じた状態でバキュームコンベア61を作動させる。ノズル18から吸引される不純物を含む金属粉は、チャンバ7内の不活性ガスの気流に乗ってチャンバ7内に残留するバキュームコンベア61の真空容器61A内まで移送される。そのため、金属粉は、所定濃度を超える酸素または使用している適切な不活性ガス以外の気体に接触する機会がなく、チャンバ7から移送配管8の最高位にあるバキュームコンベア61まで移送され、真空容器61Aの中に溜められる。
【0085】
バキュームコンベア61において、金属粉の移送を助けてきた不活性ガスは、真空ポンプ64に吸引され、ガス配管9の排気管路9Fを通ってチャンバ7に戻される。このとき、真空ポンプ64は、吸気と排気とを行なう間に気密を維持している。そのため、チャンバ7内の気圧が低下せず、チャンバ7内に外気が流入することによる酸素濃度の上昇が抑制される。また、清掃作業中にチャンバ7の内圧を大気圧程度に維持するためにガス供給装置2からチャンバ7に供給する不活性ガスの量を減らすことができるので、不活性ガスの消費量が削減される。
【0086】
清掃作業が終了し真空ポンプ64を停止した直後、材料循環機構6は、依然として気密であって、金属粉の品質が保持されている。真空ポンプ64が停止し全てのバルブが閉じている状態では、材料循環機構6の中に形成されている「閉回路」において、気圧が大気圧よりも低い負圧の状態になっているので、時間と共に材料循環機構6の中に外気が流入するおそれがある。また、真空容器61Aが負圧の状態であると、底蓋61Eを動かすことができず、真空容器61Aの中に金属粉が溜まったままである。なお、排気管路9Fには、圧力計が設けられている。
【0087】
そこで、バルブV4を開いてバイパス管路9Gを開通する。バルブV4が開かれたとき、材料循環機構6の中にあって気密が維持されている構成要素、具体的には、バキュームコンベア61、材料タンク62、超音波篩装置63を経由しないで材料循環機構6がチャンバ7と直接接続する。このとき、チャンバ7には、常時ガス供給装置2から必要な量の不活性ガスが供給されているので、チャンバ7の内圧が大気圧程度に維持されている。そのため、チャンバ7内の気体がバイパス管路9Gを通して「閉回路」の中に流入する。
【0088】
その結果、材料循環機構6に外気が流入することなく、材料循環機構6の全体の圧力が大気圧程度まで復圧する。そのため、材料循環機構6とチャンバ7の何れにおいても、造形中から造形後の清掃作業期間を通して不活性ガス雰囲気が維持される。したがって、実施の形態の積層造形装置においては、金属粉の品質が維持され、あるいは粉塵爆発のおそれがなく、より安全で作業効率に優れる。
【0089】
全ての造形作業が終了したとき、三方切換バルブV3を超音波篩装置63側に切り換えるとともに、超音波篩装置63を材料タンク62側に接続する。そして、超音波篩装置63と材料タンク62との間を接続する戻り管路82にあるバルブV6を閉じて超音波篩装置63側に空の材料ボトルMBを接続する。この状態でバキュームコンベア61を駆動すると、金属粉を外気に接触させずに再使用可能な状態で超音波篩装置63から材料ボトルMBの中に回収することができる。
【0090】
本発明は、以上に説明される実施の形態の積層造形装置の具体的な構成に限定して理解されるべきではない。すでにいくつかの例が示されているが、本発明の技術思想を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。また、すでに知られている積層造形装置に本発明を組み合わせて実施することができる。例えば、材料タンクを複数設けることができる。また、例えば、真空ポンプをユニット化されている材料循環機構の他の構成要素と一緒に筐体の中に収容するようにすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明は、粉末積層造形装置に適用できる。特に、本発明は、材料循環機構を備えた金属粉末積層造形装置を改良してより安全に粉末状の材料である金属粉を効率的に回収することを可能にする。また、本発明は、金属粉を安全に回収する際に、金属粉の品質を維持して再利用を可能にし、金属粉を回収する際に使用する不活性ガスの消費量を削減する。本発明は、より安全で効率がよく、そして造形に使用することができる金属粉の素材の範囲を拡大し、積層造形の進歩に貢献する。
【符号の説明】
【0092】
1 積層造形装置本機
1A 機体
1B 作業テーブル
1C 造形カバー
11 造形タンク
12 造形テーブル
13 温調装置
14 シュータ
15 ガラスウィンドウ
16 保護装置
17 前面扉
17A 覗窓
17B グローブボックス
18 ノズル
2 ガス供給装置
3 集塵装置(ヒュームコレクタ)
4 照射装置(レーザ装置)
5 散布装置(リコータ)
6 材料循環機構
6A 回収装置
6B 供給装置
6C 再生装置
61 移送装置(バキュームコンベア)
62 材料貯留槽(材料タンク)
63 分別装置(超音波篩装置)
64 ポンプ(真空ポンプ)
65 材料コンテナ
66 回収ボックス
7 造形室(チャンバ)
8 移送配管
9 ガス配管
BP 造形プレート(ベースプレート)
CP カプラ
FJ ヘルール継手
MS 材料検出器
OS 酸素濃度計
V バルブ
【要約】
【課題】金属粉を回収し再供給する材料循環機構であって酸素濃度が所定値以下の不活性ガス雰囲気下で金属粉を循環させることができる材料循環機構を備えた積層造形装置を提供すること。
【解決手段】
積層造形装置は、材料循環機構6を備える。材料循環機構6は、不活性ガスで満たされる造形室7内の造形領域に供給される粉末状の材料である金属粉を貯留する材料貯留槽62と、造形室7と材料貯留槽62との間に設けられ造形室7内の不純物を含む金属粉の中から再使用可能な金属粉だけを選別する分別装置63と、造形室7と材料貯留槽62との間に設けられ不活性ガスと共に金属粉を造形室7から移送する気密性を有する移送装置61と、移送装置61の不活性ガスの排気側と造形室7との間に設けられ移送装置61から排出される不活性ガスを造形室7内に送り出す気密性を有するポンプ64と、を含んでなる。
【選択図】
図1