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特許7381699異種ロウ接継手の残留応力を低下させる方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-15
(54)【発明の名称】異種ロウ接継手の残留応力を低下させる方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 31/00 20060101AFI20231108BHJP
   B23K 31/02 20060101ALI20231108BHJP
【FI】
B23K31/00 F
B23K31/02 310F
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022193097
(22)【出願日】2022-12-01
【審査請求日】2022-12-02
(31)【優先権主張番号】202210780917.2
(32)【優先日】2022-07-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】522470334
【氏名又は名称】中国機械総院集団寧波智能機床研究院有限公司
【氏名又は名称原語表記】CHINA ACADEMY OF MACHINERY NINGBO ACADEMY OF INTELLIGENT MACHINE TOOL CO.,LTD.
【住所又は居所原語表記】Room 2002 (Main Building),No. 929 Binhai Road,Danxi Street,Xiangshan County,Ningbo,Zhejiang,China
(73)【特許権者】
【識別番号】522470345
【氏名又は名称】鄭州機械研究所有限公司
【氏名又は名称原語表記】ZHENGZHOU RESEARCH INSTITUTE OF MECHANICAL ENGINEERING CO.,LTD.
【住所又は居所原語表記】No.149 Kexue Avenue,High-Tech Industry Development Zone,Zhengzhou,Henan,China
(74)【代理人】
【識別番号】100111187
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 秀忠
(74)【代理人】
【識別番号】100175617
【弁理士】
【氏名又は名称】三崎 正輝
(72)【発明者】
【氏名】龍 偉民
(72)【発明者】
【氏名】張 雷
(72)【発明者】
【氏名】糾 永涛
(72)【発明者】
【氏名】羅 霊傑
(72)【発明者】
【氏名】鐘 素娟
(72)【発明者】
【氏名】宋 暁国
(72)【発明者】
【氏名】傅 玉燦
(72)【発明者】
【氏名】賈 連輝
(72)【発明者】
【氏名】郭 鵬
(72)【発明者】
【氏名】鄭 永光
【審査官】岩見 勤
(56)【参考文献】
【文献】特開昭60-027472(JP,A)
【文献】特開平04-172176(JP,A)
【文献】特開平11-077293(JP,A)
【文献】特表2009-504397(JP,A)
【文献】特開2012-253040(JP,A)
【文献】特開昭62-130133(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 31/00
B23K 31/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
昇温と、保温と、冷却サイクル処理と、を工程に含むロウ接、を含む異種ロウ接継手の残留応力を低下させる方法であって、
前記冷却サイクル処理は、降温、保温、昇温、保温のサイクルを少なくとも2回含み、且つ、降温後の温度は、前回のサイクルにおける降温後の温度以下であり、昇温後の温度は、前回のサイクルにおける昇温後の温度以下であり、
前記ロウ接には、ロウ材を用いて第1母材と第2母材とをロウ接により接続することを含み、前記ロウ接による接続は、以下の計算式
ここで、αは第1母材の膨張係数,Tはロウ接継手のロウ接温度,σは第1母材のロウ接界面に平行な印加応力、Eは第1母材の弾性率、αは第2母材の膨張係数、σは第2母材のロウ接界面に平行な印加応力、Eは第2母材の弾性率、tは室温、
を満たす、ことを特徴とする、
異種ロウ接継手の残留応力を低下させる方法。
【請求項2】
前記冷却サイクル処理の過程において、初回のサイクルにおける降温後の温度は(0.5~0.7)Tsであり、昇温後の温度は(0.7~0.9)Tsであって、最終回のサイクルにおける降温後の温度は(0.1~0.2)Tsであり、昇温後の温度は(0.15~0.3)Tsであって、Tsはロウ材の固相線温度である、ことを特徴とする、
請求項1に記載の異種ロウ接継手の残留応力を低下させる方法。
【請求項3】
前記冷却サイクル処理の過程において、初回のサイクルにおける降温後の温度は(0.6~0.7)Tsであり、昇温後の温度は(0.8~0.9)Tsであって、最終回のサイクルにおける降温後の温度は(0.1~0.2)Tsであり、昇温後の温度は(0.2~0.3)Tsである、ことを特徴とする、
請求項2に記載の異種ロウ接継手の残留応力を低下させる方法。
【請求項4】
前記冷却サイクル処理後に、深冷サイクル処理をさらに含み、
前記深冷サイクル処理は、降温、保温、昇温、保温のサイクルを少なくとも2回含み、前記深冷サイクル処理における降温後の温度はTであり、昇温後の温度はTであって、Tの範囲は、-(75~150)℃であり、Tの範囲は、(0.2~0.3)Tsであって、Tsはロウ材の固相線温度であり、
前記深冷サイクル処理の最終回のサイクルにおいて、Tまで降温した後、保温して、その後、室温になるまで昇温させるか、或いは、最終回のサイクルが終了した後、室温になるまで降温させる、ことを特徴とする、
請求項1に記載の異種ロウ接継手の残留応力を低下させる方法。
【請求項5】
前記ロウ接による接続が、以下の計算式
を満たす、ことを特徴とする、
請求項1に記載の異種ロウ接継手の残留応力を低下させる方法。
【請求項6】
前記ロウ材は、ニッケル基、銅基、銀基、アルミニウム基、亜鉛基、及び、錫基のロウ材のうち、少なくとも1種を含む、ことを特徴とする、
請求項1に記載の異種ロウ接継手の残留応力を低下させる方法。
【請求項7】
前記第1母材は、炭素鋼、合金鋼、アルミニウム合金、銅合金のうち、少なくとも1種を含む、ことを特徴とする、
請求項1に記載の異種ロウ接継手の残留応力を低下させる方法。
【請求項8】
前記第2母材は、硬質合金、セラミックス、炭素鋼、合金鋼、銅合金のうち、少なくとも1種を含む、ことを特徴とする、
請求項1に記載の異種ロウ接継手の残留応力を低下させる方法。
【請求項9】
前記第1母材又は前記第2母材のロウ接面には、溝及び穴のうち、少なくとも1種が設けられる、ことを特徴とする、
請求項1に記載の異種ロウ接継手の残留応力を低下させる方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接技術の分野に属し、異種ロウ接継手の残留応力を低下させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
異種材料をロウ接した継手において、ロウ接完了後、収縮量の小さい異種材料によって、収縮量の大きい異種材料の収縮の継続が妨げられる。この時、収縮量の大きな異種材料がロウ接界面方向に沿った引張応力を受け、収縮量の小さな異種材料がロウ接界面方向に沿った圧縮応力を受ける。このため、ロウ接後、ロウ接継手の界面には、大きな残留応力が発生しやすく、継手における亀裂、又はその他のタイプの欠陥を招き、これにより結合強度と使用寿命が低下する。
【0003】
また、継手の冷却過程において、冷却の不均一と線膨張係数の違いが引き起こす変形の不均一と相転移による変形が残留応力を発生させ、継手の強度と耐応力破断性能を大幅に低下させる。よって、継手の残留応力を低下させ、継手の総合的な性能を向上させることができる新しい冷却処理方法を早急に提供する必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、既存技術に存在する上述の課題に対して、異種ロウ接継手の残留応力を大幅に低下させる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の目的は、以下に列挙する技術的手段により実現される。異種ロウ接継手の残留応力を低下させる方法は、ロウ接を含む。ロウ接は、昇温と、保温と、冷却サイクル処理とを含む。冷却サイクル処理は、降温、保温、昇温、保温のサイクルを少なくとも2回含み、且つ、降温後の温度は、前回の冷却サイクルにおける降温後の温度以下であり、昇温後の温度は、前回の冷却サイクルにおける昇温後の温度以下である。
【0006】
上述の異種ロウ接継手の残留応力を低下させる方法において、冷却サイクル処理の過程で、初回のサイクルにおける降温後の温度は、(0.5~0.7)Tsであり、昇温後の温度は(0.7~0.9)Tsである。また、最終回の冷却サイクルにおける降温後の温度は、(0.1~0.2)Tsであり、昇温後の温度は(0.15~0.3)Tsである。ここで、Tsはロウ材の固相線温度である。
【0007】
従来の降温処理方法では、継手の冷却過程において、不均一な冷却や相転移等により組織構造に歪みが生じ、継手に大きな残留応力が発生する。これに対し、本発明の冷却サイクル処理では、継手の温度がある温度まで低下した時、まず昇温処理によって、組織中の固溶元素の拡散駆動力を増加させ、構造中の微小塑性変形及び微細析出過程の発生を促進し、冷却と元素固溶による構造の歪みが生み出す組織内部の残留応力を放出することができるので、構造の安定性が増す。そして再度降温した後に発生した残留応力は、再度昇温することによって低減される。このようにして、サイクルの過程で徐々に継手の温度を下げ、継手の残留応力を低減する目的を達成する。
【0008】
好ましくは、冷却サイクル処理の過程において、初回のサイクルにおける降温後の温度は(0.6~0.7)Tsであり、昇温後の温度は(0.8~0.9)Tsである。最終回のサイクルにおける降温後の温度は(0.1~0.2)Tsであり、昇温後の温度は(0.2~0.3)Tsである。
【0009】
上述の異種ロウ接継手の残留応力を低下させる方法において、冷却サイクル処理後には、深冷サイクル処理をさらに含む。深冷サイクル処理は、降温、保温、昇温、保温のサイクルを少なくとも2回含む。深冷サイクル処理における降温後の温度はTであり、昇温後の温度はTである。Tの範囲は、-(75~150)℃であり、Tの範囲は、(0.2~0.3)Tsである。方法では、深冷サイクル処理の最終回のサイクルにおいて、Tまで降温した後、保温して、その後室温になるまで昇温させるか、或いは最終回のサイクルが終了した後、室温になるまで降温させる。
【0010】
好ましくは、冷却サイクル処理、深冷サイクル処理における降温速度は、どちらも5~20℃/minである。
【0011】
好ましくは、冷却サイクル処理、深冷サイクル処理における保温時間は、どちらも1~5時間である。冷却サイクル処理又は深冷サイクル処理の1回のサイクルにおける2回の保温時間は、同じであっても異なっていてもよい。
【0012】
好ましくは、冷却サイクル処理、深冷サイクル処理における昇温速度は、どちらも5~20℃/minである。
【0013】
本発明の深冷サイクル処理では、(0.1~0.4)Tsと-(75~150)℃との間の昇降温サイクル処理によって、熱膨張・冷収縮反応で発生した不均一な変形により、組織中の可動転位を消滅させ、固着転位のもつれ、増殖を起こして、組織内部の残留応力を低減させる。
【0014】
本発明は、2段階の冷却処理によって、ロウ接継手の残留応力を大幅に減少させ、継手の強度と、耐応力破断性能を向上させることができる。
【0015】
上述の異種ロウ接継手の残留応力を低下させる方法において、ロウ接は、具体的には、ロウ材を用いて第1母材と第2母材とをロウ接により接続することを含み、ロウ接による接続は以下の計算式を満たす。
【0016】
ここで、αは第1母材の膨張係数、Tはロウ接継手のロウ接温度、σは第1母材のロウ接界面に平行な印加応力、Eは第1母材の弾性率、αは第2母材の膨張係数、σは第2母材のロウ接界面に平行な印加応力、Eは第2母材の弾性率、tは室温を表す。
【0017】
好ましくは、
である。
【0018】
さらに好ましくは、
である。
【0019】
またさらに好ましくは、
である。
【0020】
室温20℃の条件のもとでは、異種材料である第1母材と第2母材は、同じ長さLを有する。また、第1母材と第2母材は異なる線膨張係数を有しており、第1母材の線膨張係数はα、第2母材の線膨張係数はαであり、αはαより大きい。ロウ接時、第1母材と第2母材は、ロウ接温度Tまで加熱される。この時、第1母材と第2母材の線膨張量はそれぞれ、ΔL/L=α×(T-20)、ΔL/L=α×(T-20)であり、ΔL/LはΔL/Lより大きい。ロウ材を加えてロウ接が完了した後、第1母材と第2母材は一体の継手を形成する。室温になるまで冷却すると、第1母材と第2母材には、理論上、それぞれ線収縮量ΔL/L=α×(T-20)、ΔL/L=α×(T-20)が発生すべきであるが、ロウ接後、第1母材と第2母材とが一体に形成されるため、収縮量の小さい第2母材によって第1母材の収縮の継続が妨げられる。この時、第1母材は、ロウ接界面方向に沿った引張応力を受け、第2母材はロウ接界面方向に沿った圧縮応力を受ける。よって、ロウ接継手には、ロウ接後に、残留応力が発生する。本発明では、加熱時に、弾性率がEの第1母材に予応力σを印加し、弾性率がEの第2母材に予応力σを印加する。第1母材の線変形量はΔL/L=α×(T-20)+σ/E、予応力σは圧縮応力であり、線変形量ΔL/Lを減少させる。第2母材の線変形量はΔL/L=α×(T-20)+σ/E、予応力σは引張応力であり、線変形量ΔL/Lを増加させる。最後に、
に制御し、第1母材と第2母材の線変形量を近づけることによって、継手のロウ接後の残留応力を低下させる目的を達成する。
【0021】
好ましくは、σ=0の時、ロウ接による接続は、以下の計算式を満たす。
【0022】
好ましくは、σ2=0の時、ロウ接による接続は、以下の計算式を満たす。
【0023】
加熱時、弾性率がEの第1母材に予応力σを印加し、弾性率がEの第2母材に予応力σを印加するのは、操作に一定の難度がある。よって、本発明では、加熱時に、その一方の母材に応力を印加することによっても、第1母材と第2母材との線変形量を近づけ、継手のロウ接後の残留応力を低下させる目的を実現している。
【0024】
上述の異種ロウ接継手の残留応力を低下させる方法において、ロウ材は、ニッケル基、銅基、銀基、アルミニウム基、亜鉛基、及び錫基のロウ材のうち、少なくとも1種を含む。
【0025】
上述の異種ロウ接継手の残留応力を低下させる方法において、第1母材は、炭素鋼、合金鋼、アルミニウム合金、銅合金のうち、少なくとも1種を含む。
【0026】
上述の異種ロウ接継手の残留応力を低下させる方法において、第2母材は、硬質合金、セラミックス、炭素鋼、合金鋼、銅合金のうち、少なくとも1種を含む。
【0027】
好ましくは、第1母材が炭素鋼である時、第2母材は、硬質合金、セラミックス、合金鋼、銅合金のうちの1種である。
【0028】
好ましくは、第1母材が合金鋼である時、第2母材は、硬質合金、セラミックス、炭素鋼、銅合金のうちの1種である。
【0029】
好ましくは、第1母材がアルミニウム合金である時、第2母材は、硬質合金、セラミックス、炭素鋼、合金鋼、銅合金のうちの1種である。
【0030】
好ましくは、第1母材が銅合金である時、第2母材は、硬質合金、セラミックス、炭素鋼、合金鋼のうちの1種である。
【0031】
上述の異種ロウ接継手の残留応力を低下させる方法において、第1母材又は第2母材のロウ接面は、溝及び穴のうち少なくとも1種が設けられる。
【0032】
上述の異種ロウ接継手の残留応力を低下させる方法において、溝又は穴の断面は、弧形又は方形のうち、少なくとも1種を含む。
【0033】
本発明では、第1母材又は第2母材のロウ接面に、溝又は穴が加工される。溝及び穴の断面は、弧形又は方形でもよい。本発明における溝又は穴は、冷却による収縮変形の過程で発生する応力の完全性を断ち切り、それによって残留応力を減少させることができる。
【発明の効果】
【0034】
既存の技術と比べて、本発明は以下の有益な効果を有する。
【0035】
1.本発明では、継手の温度がある温度まで低下した時、まず昇温処理によって、微小塑性変形及び微細析出を発生させ、残留応力を低減する。そして、再度降温した後に発生した残留応力を、再度昇温することにより低減させ、サイクルの過程で徐々に継手の温度を下げる。よって、本発明は、従来の降温処理方法に比べて、大幅に継手の残留応力を低減させることができる。
【0036】
2.本発明の深冷サイクル処理では、(0.1~0.4)Tsと-(75~150)℃との間の昇降温サイクルによって、熱膨張・冷収縮反応で発生した不均一な変形により、組織中の可動転位を消滅させ、固着転位のもつれ、増殖を起こして、ロウ接継手の組織内部の残留応力を低減させる。
【0037】
3.本発明では、加熱時に、弾性率がEの第1母材に予応力σを印加し、弾性率がEの第2母材に予応力σを印加して、最終的に、ロウ接時に第1母材と第2母材の線変形量を近づけることによって、継手のロウ接後の残留応力を低下させる目的を達成する。
【0038】
4.本発明では、第1母材と第2母材のロウ接面に溝又は穴を設けることによって、冷却による収縮変形の過程で発生する応力の完全性を断ち切り、それによって残留応力を減少させる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1】実施例5における316Lステンレスとアルミナセラミックスのロウ接サンプルのロウ接界面の電子顕微鏡写真である。図中、100はアルミナセラミックス、200は316Lステンレス、300はAg71Cu26Ti3ロウ材を示す。
図2】比較例2の316Lステンレスとアルミナセラミックスのロウ接サンプルの全体画像及びアルミナセラミックス表面の電子顕微鏡写真である。
図3】比較例2の316Lステンレスとアルミナセラミックスのロウ接サンプルのロウ接界面を異なる倍率で撮った電子顕微鏡写真である。図中、100はアルミナセラミックス、200は316Lステンレス、300はAg71Cu26Ti3ロウ材を示す。
図4】実施例1のロウ接における冷却サイクル処理の模式図である。
図5】実施例1のロウ接における深冷サイクル処理の模式図である。
図6】実施例7の溝の模式図である。1はYG20硬質合金、2は316Lステンレス、3は溝を示す。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下は、本発明の具体的な実施例であり、本発明の技術的手段をさらに詳しく説明したものであるが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0041】
<実施例1>
S1:膨張係数がα=18×10-6/℃、弾性率がE=206GPaの316Lステンレス、膨張係数がα=6×10-6/℃、弾性率がE=14.5GPaのYG20硬質合金に対し、研磨と超音波洗浄を行い、表面の酸化被膜と不純物を取り除く。
【0042】
S2:銀ロウ用フラックスをそれぞれ316LステンレスとYG20硬質合金のロウ接面に塗布した後、750℃のもと、ロウ接界面にBAg65CuZnロウ材を添加し、ロウ材が溶解した後、5分間保温してから、ロウ接が完了した継手に冷却応力低減処理を施す。中華人民共和国国家標準GB/T10046-2018の銀ロウを調べると、本実施例で使用したロウ材BAg65CuZnの固相線温度は、Ts=670℃である。
【0043】
ロウ接で接続したロウ接継手に、図4に示す冷却サイクル処理を施す。冷却サイクル処理は、具体的に以下のステップを含む。
【0044】
(1)10℃/minの冷却速度で0.6Ts=402℃になるまで冷却し、2時間保温した後、10℃/minの加熱速度で0.8Ts=536℃まで昇温させ、2時間保温する。
【0045】
(2)ロウ接継手を10℃/minの冷却速度で0.5Ts=335℃になるまで冷却し、2時間保温した後、10℃/minの加熱速度で0.7Ts=469℃まで昇温させ、2時間保温する。
【0046】
(3)継手を10℃/minの冷却速度で0.4Ts=268℃になるまで冷却し、2時間保温した後、10℃/minの加熱速度で0.6Ts=401℃まで昇温させ、2時間保温する。
【0047】
(4)継手を10℃/minの冷却速度で0.4Ts=268℃になるまで冷却し、2時間保温した後、10℃/minの加熱速度で0.5Ts=335℃まで昇温させ、2時間保温する。
【0048】
(5)継手を10℃/minの冷却速度で0.3Ts=201℃になるまで冷却し、2時間保温した後、10℃/minの加熱速度で0.4Ts=268℃まで昇温させ、2時間保温する。
【0049】
(6)継手を10℃/minの冷却速度で0.1Ts=67℃になるまで冷却し、2時間保温した後、10℃/minの加熱速度で0.3Ts=201℃まで昇温させ、2時間保温する。
【0050】
その後、図5に示す深冷サイクル処理を行う。サイクル回数は2回であり、深冷サイクル処理は、具体的に以下のステップを含む。ロウ接継手を10℃/minの冷却速度で-75℃まで降温させ、2時間保温した後、10℃/minの加熱速度で0.3Ts=201℃まで昇温させ、2時間保温する。
【0051】
最後に、ロウ接継手を10℃/minの冷却速度で-75℃まで降温させ、2時間保温した後、10℃/minの加熱速度で室温まで昇温させる。
【0052】
<実施例2>
実施例1との違いは、深冷サイクル処理のサイクル回数が4回であることのみである。
【0053】
<実施例3>
実施例1との違いは、深冷サイクル処理を行わないことのみである。
【0054】
<実施例4>
実施例1との違いは、750℃でのロウ接時に、316Lステンレスに、ロウ接界面に平行な50MPaの圧縮応力を加えることのみである。
【0055】
<実施例5>
S1:膨張係数がα=18×10-6/℃、弾性率がE=206GPaの316Lのステンレス、膨張係数がα=8×10-6/℃、弾性率がE=380GPaのアルミナセラミックスに対し、研磨と超音波洗浄を行い、表面の酸化被膜と不純物を取り除く。
【0056】
S2:860℃のもと、316Lステンレスとアルミナセラミックスのロウ接界面に、Ag71Cu26Ti3のロウ材を加え、ロウ材が溶解した後、5分間保温する。ロウ接が完了した継手に冷却応力低減処理を施す。本実施例で使用したAg71Cu26Ti3ロウ材の固相線温度は、Ts=773℃である。
【0057】
ロウ接で接続したロウ接継手に冷却サイクル処理を施す。冷却サイクル処理は、具体的に以下のステップを含む。
【0058】
(1)10℃/minの冷却速度で0.6Ts=464℃になるまで冷却し、2時間保温した後、10℃/minの加熱速度で0.8Ts=618℃まで昇温させ、2時間保温する。
【0059】
(2)ロウ接継手を10℃/minの冷却速度で0.5Ts=387℃になるまで冷却し、2時間保温した後、10℃/minの加熱速度で0.7Ts=541℃まで昇温させ、2時間保温する。
【0060】
(3)継手を10℃/minの冷却速度で0.4Ts=309℃になるまで冷却し、2時間保温した後、10℃/minの加熱速度で0.6Ts=464℃まで昇温させ、2時間保温する。
【0061】
(4)継手を10℃/minの冷却速度で0.4Ts=309℃になるまで冷却し、2時間保温した後、10℃/minの加熱速度で0.5Ts=387℃まで昇温させ、2時間保温する。
【0062】
(5)継手を10℃/minの冷却速度で0.3Ts=232℃になるまで冷却し、2時間保温した後、10℃/minの加熱速度で0.4Ts=309℃まで昇温させ、2時間保温する。
【0063】
(6)継手を10℃/minの冷却速度で0.1Ts=77℃になるまで冷却し、2時間保温した後、10℃/minの加熱速度で0.3Ts=232℃まで昇温させ、2時間保温する。
【0064】
その後、深冷サイクル処理を行う。サイクル回数は2回である。深冷サイクル処理は、具体的に以下のステップを含む。ロウ接継手を10℃/minの冷却速度で-75℃まで降温させ、2時間保温した後、10℃/minの加熱速度で0.3Ts=232℃まで昇温させ、2時間保温する。
【0065】
最後に、ロウ接継手を10℃/minの冷却速度で-75℃まで降温させ、2時間保温した後、10℃/minの加熱速度で室温まで昇温させる。
【0066】
ステップS2のロウ接の過程は、全て真空度が10-3MPaの真空炉の中で行われる。
【0067】
<実施例6>
実施例5との違いは、860℃でのロウ接時に、316Lステンレスに、ロウ接界面に平行な50MPaの圧縮応力を加えることのみである。
【0068】
<実施例7>
実施例1との違いは、YG20硬質合金のロウ接界面に、図6に示す溝を設けることのみである。
【0069】
溝は、一般的に体積が大きな母材に設けられており、大型のロウ接継手の作成時に好適に用いられる。溝により応力を十分に放出することができ、ロウ接継手の性能を改善し、使用年数を延ばすことができる。
【0070】
<比較例1>
実施例1との違いは、冷却サイクル処理と深冷サイクル処理を行わず、ロウ接で接続したロウ接継手を10℃/minの冷却速度で0.3Ts=201℃になるまで一気に冷却し、2時間保温することのみである。
【0071】
<比較例2>
実施例5との違いは、冷却サイクル処理と深冷サイクル処理を行わず、ロウ接で接続したロウ接継手を10℃/minの冷却速度で一気に室温まで冷却することのみである。
【表1】
【0072】
図1は、実施例5の316Lステンレスとアルミナセラミックスのロウ接サンプルのロウ接界面の電子顕微鏡写真である。図から分かるように、冷却サイクル処理と深冷サイクル処理を経たロウ接継手の界面は完璧であり、亀裂が発生していない。これは、残留応力が極めて小さく、継手の強度と耐応力破断能力に対して顕著な影響をほとんど与えていないことを表している。
【0073】
図2は、比較例2の316Lステンレスとアルミナセラミックスのロウ接サンプルの全体画像とアルミナセラミックス表面の電子顕微鏡写真であり、図3は比較例2の316Lステンレスとアルミナセラミックスのロウ接サンプルのロウ接界面を異なる倍率で写した電子顕微鏡写真である。図から分かるように、冷却サイクル処理と深冷サイクル処理を行わないロウ接継手では、セラミックスの表面と内部のどちらにも亀裂が発生している。これは、残留応力がアルミナセラミックス母材の破断強度を越えていることを表している。
【0074】
以上を総括すると、本発明は、冷却サイクル処理と深冷サイクル処理を行うことによって、熱膨張・冷収縮反応で発生した不均一な変形により、組織中の可動転位を消滅させ、固着転位のもつれ、増殖を起こして、ロウ接継手の組織内部の残留応力を低減させる。
【0075】
本発明が保護しようとする技術範囲の中で本実施例が網羅しきれていない点、及び実施例の技術的手段における1又は複数の技術的特徴について、同等な置き換えにより形成される新たな技術的手段は、同様に本発明の保護しようとする範囲内にある。また、本発明の手段に列挙した実施例又は列挙していない実施例において、同一の実施例における各パラメータは、その技術的手段の1つの実例(即ち1つの実施可能な手段)にすぎず、各パラメータ間に厳格な組み合わせや限定的な関係があるわけではない。各パラメータは、定理に反しない場合及び本発明が必要とする場合、特別な断りがある場合を除いて、互いに置き換えが可能である。
【0076】
本発明の手段に公開されている技術的手段は、上述の技術的手段に公開されている技術的手段に限定されず、以上の技術的特徴を任意に組み合わせた技術的手段も含む。以上に述べた本発明の具体的な実施形態について、当業者は、本発明の原理の前提から逸脱しない限り、若干の改良や変更を行うことができ、これらの改良や変更も本発明の保護範囲と見なされることを述べておかなければならない。
【要約】      (修正有)
【課題】本発明は、溶接技術の分野に属し、異種ロウ接継手の残留応力を低下させる方法を提供する。
【解決手段】本発明は、ロウ接継手の温度がある温度まで低下した時、まず昇温処理により、微小塑性変形及び微細析出を発生させ、残留応力を低減する。そして、再度降温した後に発生した残留応力を、再度昇温させることにより低減させ、サイクルの過程で継手の温度を下げるとともに、継手の残留応力を低減する。本発明の深冷サイクル処理では、(0.1~0.4)Tsと-(75~150)℃との間の昇降温サイクルによって、熱膨張・冷収縮反応で発生した不均一な変形により、組織中の可動転位を消滅させ、固着転位のもつれ、増殖を起こして、ロウ接継手の組織内部の残留応力を低減させる。
【選択図】図4
図1
図2
図3
図4
図5
図6