(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-15
(54)【発明の名称】正極材料およびその調製方法、リチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20231108BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20231108BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20231108BHJP
C01G 53/00 20060101ALI20231108BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/36 C
C01G53/00 A
(21)【出願番号】P 2022519347
(86)(22)【出願日】2021-10-11
(86)【国際出願番号】 CN2021123122
(87)【国際公開番号】W WO2022078300
(87)【国際公開日】2022-04-21
【審査請求日】2022-03-24
(31)【優先権主張番号】202011094936.7
(32)【優先日】2020-10-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】522118207
【氏名又は名称】ビーティーアール ナノ テック カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】弁理士法人南青山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ソン,ション
(72)【発明者】
【氏名】ジャン,ホンシュ
(72)【発明者】
【氏名】ルオ,リアン
(72)【発明者】
【氏名】ヤン,シュンイ
(72)【発明者】
【氏名】ヤン,カイデ
(72)【発明者】
【氏名】フアン,ヨウユアン
【審査官】佐溝 茂良
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-531911(JP,A)
【文献】国際公開第2022/071192(WO,A1)
【文献】特開2017-188424(JP,A)
【文献】特開2020-068208(JP,A)
【文献】特開2006-318815(JP,A)
【文献】特表2022-523183(JP,A)
【文献】特開2020-074264(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/525
H01M 4/505
H01M 4/36
C01G 53/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二次粒子と被覆層とを含み、
前記二次粒子が、複数の一次粒子を含み、前記一次粒子が活物質を含み、前記活物質の一般式がLi
bNi
xCo
yM
zN
wO
2であり、ただし、0.95≦b≦1.05、0.8≦x<1、0<y+z≦0.2、x+y+z=1、0.0001≦w≦0.003を満たし、Mが、MnおよびAlから選択される少なくとも1種であり、Nが金属であり、
前記被覆層が、第1被覆層と第2被覆層とを含み、前記第1被覆層が前記一次粒子の表面に形成され、前記第2被覆層が前記二次粒子の表面に形成され、前記第1被覆層および第2被覆層がいずれもリン酸化合物を含
み、
前記一次粒子間の粒界に前記第1被覆層が形成される
ことを特徴とする正極材料。
【請求項2】
前記Li
bNi
xCo
yM
zN
wO
2におけるNは、Co、Mn、Al、Ti、Zr、Sr、Mg、Y、Ba、Cu、W、Nb、La、Ce、MoおよびSnのうちの少なくとも1種を含む
ことを特徴とする請求項1に記載の正極材料。
【請求項3】
a.前記二次粒子が、球形または疑似球形を呈すること、
b.前記一次粒子の平均粒径が、200nm~800nmであること、
c.前記二次粒子の平均粒径が、9μm~15μmであること、
の条件a~cの少なくとも1つを満たす
ことを特徴とする請求項1または2に記載の正極材料。
【請求項4】
a、前記リン酸化合物が、Li
3PO
4およびLiN
k(PO
4)
rのうちの少なくとも1種を含み、ただし、0<k≦2、0<r≦2を満たし、Nが、Co、Mn、Al、Ti、Zr、Sr、Mg、Y、Ba、Cu、W、Nb、La、Ce、MoおよびSnのうちの少なくとも1種を含むこと、
b、前記リン酸化合物が、LiMgPO
4、LiSrPO
4、LiAl
k(PO
4)
r、LiCo
k(PO
4)
rおよびLiZr
k(PO
4)
rのうちの少なくとも1種を含むこと、
c、前記第1被覆層のリン酸化合物の調製原料が、リン酸金属塩とリチウム化合物とを含むこと、
d、前記第1被覆層のリン酸化合物の調製原料が、リン酸金属塩とリチウム化合物とを含み、前記リン酸金属塩が、Mg
3(PO
4)
2、Sr
3(PO
4)
2、AlPO
4およびZr
3(PO
4)
4のうちの少なくとも1種を含むこと、
e、前記第1被覆層のリン酸化合物の調製原料が、リン酸金属塩とリチウム化合物とを含み、前記リチウム化合物が、炭酸リチウム、水酸化リチウム、酢酸リチウム、硝酸リチウムおよびシュウ酸リチウムのうちの少なくとも1種を含むこと、
f、前記第2被覆層のリン酸化合物の調製原料が、リン酸水素塩を含むこと、
g、前記第2被覆層のリン酸化合物の調製原料が、リン酸水素塩を含み、前記リン酸水素塩が、SrHPO
4、Zr(HPO
4)
2、MgHPO
4およびAl(H
2PO
4)
3のうちの少なくとも1種を含むこと、
の条件a~gの少なくとも1つを満たす
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の正極材料。
【請求項5】
a、前記第1被覆層におけるリン酸化合物のリン酸イオンの含有量が、一次被覆を行う前の正極材料の総質量の0.03wt%~0.3wt%であること、
b、前記第2被覆層におけるリン酸化合物のリン酸イオンの含有量が、二次被覆を行う前の正極材料の総質量の0.1wt%~0.7wt%であること、
c、前記第1被覆層または前記第2被覆層におけるリン酸化合物の結晶化リン酸イオンの含有量が、リン酸イオンの総質量の5wt%~50wt%であること、
d、前記第1被覆層の厚さが、0.005μm~0.05μmであること、
e、前記第2被覆層の厚さが、0.02μm~0.2μmであること、
f、前記正極材料の4kN/cm
2加圧時の粉体導電率が、0.02S/cm超であること、
g、前記正極材料の比表面積が、0.2m
2/g~1.5m
2/gであること、
の条件a~gの少なくとも1つを満たす
ことを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の正極材料。
【請求項6】
a.正極材料の質量を100%としたとき、第1被覆層におけるリン酸イオンの含有量が、0.03wt%~0.3wt%であること、
b.正極材料の質量を100%としたとき、第2被覆層におけるリン酸イオンの含有量が、0.3wt%~0.5wt%であること、
の条件a~bの少なくとも1つを満たす
ことを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の正極材料。
【請求項7】
第1混合物に対して一次焼結を行い、一次焼結物を得るステップと、
前記一次焼結物とリン酸水素塩とを混合して第2混合物を得、前記第2混合物に対して二次焼結を行い、正極材料を得るステップとを含み、
前記第1混合物が、Ni
xCo
yM
z酸化物およびNi
xCo
yM
z水酸化物のうちの少なくとも1種と、リチウム化合物と、リン酸金属塩とを含み、ただし、x+y+z=1を満たし、Mが、MnまたはAlから選択される少なくとも1種であり、前記一次焼結物が、複数の一次粒子と、前記一次粒子の表面に形成される第1被覆層とを含み、前記第1被覆層が、リン酸化合物を含み、
前記正極材料が、二次粒子と、前記二次粒子の表面に形成される第2被覆層とを含み、前記二次粒子が、凝集した複数の一次粒子を含み、
前記一次粒子間の粒界に前記第1被覆層が形成され、前記第2被覆層が、リン酸化合物を含む
ことを特徴とする正極材料の調製方法。
【請求項8】
a、Ni、CoおよびMのモル含有量の合計とLiのモル含有量との比が1:(0.95~1.05)となるように前記リチウム化合物の添加量を設定すること、
b、前記リチウム化合物が、炭酸リチウム、水酸化リチウム、酢酸リチウム、硝酸リチウムおよびシュウ酸リチウムのうちの少なくとも1種を含むこと、
c、前記リン酸金属塩の平均粒径が、0.5μm未満であること、
d、前記リン酸金属塩の金属元素が、Co、Mn、Al、Ti、Zr、Sr、Mg、Y、Ba、Cu、W、Nb、La、Ce、MoおよびSnから選択される少なくとも1種であること、
e、前記リン酸水素塩が、A
2HPO
4およびAH
2PO
4のうちの少なくとも1種を含み、Aが、Ni、Co、Mn、Al、Na、K、Ca、NH
4、Ti、Zr、Sr、Mg、Fe、Li、Y、Ba、Cu、W、Nb、La、Ce、MoおよびSnから選択される少なくとも1種であること、
f、前記リン酸金属塩におけるリン酸イオンの含有量が、前記第1混合物の総質量の0.03wt%~0.3wt%であること、
g、前記リン酸水素塩におけるリン酸イオンの含有量が、前記第2混合物の総質量の0.1wt%~0.7wt%であること、
の条件a~gの少なくとも1つを満たす
ことを特徴とする請求項7に記載の調製方法。
【請求項9】
a、前記リン酸金属塩が、Mg
3(PO
4)
2、Sr
3(PO
4)
2、AlPO
4およびZr
3(PO
4)
4のうちの少なくとも1種を含むこと、
b、前記リン酸水素塩が、SrHPO
4、Zr(HPO
4)
2、MgHPO
4およびAl(H
2PO
4)
3のうちの少なくとも1種を含むこと、
c、前記リン酸化合物が、Li
3PO
4およびLiN
k(PO
4)
rのうちの少なくとも1種を含み、ただし、0<k≦2、0<r≦2を満たし、Nが、Co、Mn、Al、Ti、Zr、Sr、Mg、Y、Ba、Cu、W、Nb、La、Ce、MoおよびSnから選択される少なくとも1種であること、
d、前記リン酸化合物が、LiMgPO
4、LiSrPO
4、LiAl
k(PO
4)
r、LiCo
k(PO
4)
rおよびLiZr
k(PO
4)
rのうちの少なくとも1種を含むこと、
e、前記第1被覆層または前記第2被覆層におけるリン酸化合物の結晶化リン酸イオンの含有量が、リン酸イオンの総質量の5wt%~50wt%であること、
f、前記一次粒子の平均粒径が、200nm~800nmであること、
g、前記第1被覆層の厚さが、0.005μm~0.05μmであること、
h、前記二次粒子の平均粒径が、9μm~15μmであること、
i、前記第2被覆層の厚さが、0.02~0.2μmであること、
の条件a~iの少なくとも1つを満たす
ことを特徴とする請求項7または8に記載の調製方法。
【請求項10】
Ni
xCo
yM
z酸化物およびNi
xCo
yM
z水酸化物のうちの少なくとも1種と、リチウム化合物と、リン酸金属塩とを10℃~50℃で0.3h~2h固相混合する方法で、前記第1混合物を調製することを含む
ことを特徴とする請求項7~9のいずれか1項に記載の調製方法。
【請求項11】
a、前記一次焼結が、酸素ガス含有雰囲気下で行われること、
b、前記一次焼結が、酸素ガス含有雰囲気下で行われ、前記一次焼結において、酸素ガス含有雰囲気における酸素ガスの含有量が、95%以上であること、
c、前記一次焼結の温度が、650℃~850℃であること、
d、前記一次焼結の時間が、6h~20hであること、
の条件a~dの少なくとも1つを満たす
ことを特徴とする請求項7~10のいずれか1項に記載の調製方法。
【請求項12】
a、前記一次焼結物とリン酸水素塩との混合を行う温度が、10℃~50℃であること、
b、前記一次焼結物とリン酸水素塩との混合を行う時間が、0.3h~2hであること、
c、前記二次焼結が、酸素ガス含有雰囲気下で行われること、
d、前記二次焼結が、酸素ガス含有雰囲気下で行われ、前記二次焼結において、酸素ガス含有雰囲気における酸素ガスの含有量が、95%以上であること、
e、前記二次焼結の温度が、400℃~800℃であること、
f、前記二次焼結の時間が、5h~10hであること、
の条件a~fの少なくとも1つを満たす
ことを特徴とする請求項7~11のいずれか1項に記載の調製方法。
【請求項13】
請求項1~6のいずれか1項に記載の前記正極材
料を含む
ことを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2020年10月12日に中国専利局に提出された、出願番号が2020110949367であり、名称が「ハイニッケル正極材料およびその調製方法、リチウムイオン二次電池」である中国出願に基づいて優先権を主張し、その内容のすべては本出願に参照として取り込まれる。
【0002】
本出願は、正極材料の技術分野に属し、具体的に、正極材料およびその調製方法、リチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0003】
リチウムイオン電池は、エネルギー密度が高く、出力電力が高く、サイクル寿命が長く、環境にやさしいなどの利点を有するため、電気自動車および電子製品に広く適用されている。如何にリチウム電池のレート性能、熱安定性およびサイクル安定性を向上させるかは、常に開発者に研究されている。
【0004】
従来の正極材料は、長いサイクルを経ると、顆粒の割れにより内部構造が直接露出しやすくなるため、正極材料の長サイクル安定性およびリチウム電池のレート性能が影響される。
【0005】
このため、リチウム電池のレート性能およびサイクル安定性を向上させることができる正極材料の開発が急務である。
【発明の概要】
【0006】
本出願は、これに鑑みて、リチウム電池のレート性能およびサイクル安定性を効果的に向上させ、生産コストを削減することができる正極材料およびその調製方法、リチウムイオン二次電池を提出する。
【0007】
本出願の実施例による正極材料は、
二次粒子と被覆層とを含み、
前記二次粒子が、複数の一次粒子を含み、前記一次粒子が活物質を含み、前記活物質の一般式がLibNixCoyMzNwO2であり、ただし、0.95≦b≦1.05、0.8≦x<1、0<y+z≦0.2、x+y+z=1、0.0001≦w≦0.003を満たし、Mが、MnおよびAlから選択される少なくとも1種であり、Nが金属であり、
前記被覆層が、第1被覆層と第2被覆層とを含み、前記第1被覆層が前記一次粒子の表面に形成され、前記第2被覆層が前記二次粒子の表面に形成され、前記第1被覆層および第2被覆層がいずれもリン酸化合物を含む。
【0008】
実施可能な実施形態において、前記LibNixCoyMzNwO2におけるNは、Co、Mn、Al、Ti、Zr、Sr、Mg、Y、Ba、Cu、W、Nb、La、Ce、MoおよびSnのうちの少なくとも1種を含む。
【0009】
実施可能な実施形態において、前記二次粒子は、球形または疑似球形を呈する。
【0010】
実施可能な実施形態において、前記一次粒子の平均粒径は、200nm~800nmである。
【0011】
実施可能な実施形態において、前記二次粒子の平均粒径は、9μm~15μmである。
【0012】
実施可能な実施形態において、前記正極材料は、
a、前記リン酸化合物が、Li3PO4およびLiNk(PO4)rのうちの少なくとも1種を含み、ただし、0<k≦2、0<r≦2を満たし、Nが、Co、Mn、Al、Ti、Zr、Sr、Mg、Y、Ba、Cu、W、Nb、La、Ce、MoおよびSnのうちの少なくとも1種を含むこと、
b、前記リン酸化合物が、LiMgPO4、LiSrPO4、LiAlk(PO4)r、LiCok(PO4)rおよびLiZrk(PO4)rのうちの少なくとも1種を含むこと、
c、前記第1被覆層のリン酸化合物の調製原料が、リン酸金属塩とリチウム化合物とを含むこと、
d、前記第1被覆層のリン酸化合物の調製原料が、リン酸金属塩とリチウム化合物とを含み、前記リン酸金属塩が、Mg3(PO4)2、Sr3(PO4)2、AlPO4およびZr3(PO4)4のうちの少なくとも1種を含むこと、
e、前記第1被覆層のリン酸化合物の調製原料が、リン酸金属塩とリチウム化合物とを含み、前記リチウム化合物が、炭酸リチウム、水酸化リチウム、酢酸リチウム、硝酸リチウムおよびシュウ酸リチウムのうちの少なくとも1種を含むこと、
f、前記第2被覆層のリン酸化合物の調製原料が、リン酸水素塩を含むこと、
g、前記第2被覆層のリン酸化合物の調製原料が、リン酸水素塩を含み、前記リン酸水素塩が、SrHPO4、Zr(HPO4)2、MgHPO4およびAl(H2PO4)3のうちの少なくとも1種を含むこと、
の条件a~gの少なくとも1つを満たす。
【0013】
実施可能な実施形態において、前記正極材料は、
a、前記第1被覆層におけるリン酸化合物のリン酸イオンの含有量が、一次被覆を行う前の正極材料の総質量の0.03wt%~0.3wt%であること、
b、前記第2被覆層におけるリン酸化合物のリン酸イオンの含有量が、二次被覆を行う前の正極材料の総質量の0.1wt%~0.7wt%であること、
c、前記第1被覆層または前記第2被覆層におけるリン酸化合物の結晶化リン酸イオンの含有量が、リン酸イオンの総質量の5wt%~50wt%であること、
d、前記第1被覆層の厚さが、0.005μm~0.05μmであること、
e、前記第2被覆層の厚さが、0.02μm~0.2μmであること、
f、前記正極材料の4kN/cm2加圧時の粉体導電率が、0.02S/cm超であること、
g、前記正極材料の比表面積が、0.2m2/g~1.5m2/gであること、
の条件a~gの少なくとも1つを満たす。
【0014】
実施可能な実施形態において、正極材料の質量を100%としたとき、第1被覆層におけるリン酸イオンの含有量は、0.03wt%~0.3wt%である。
【0015】
実施可能な実施形態において、正極材料の質量を100%としたとき、第2被覆層におけるリン酸イオンの含有量は、0.3wt%~0.5wt%である。
【0016】
第2局面として、本出願の実施例は、正極材料の調製方法をさらに提供する。前記方法は、
第1混合物に対して一次焼結を行い、一次焼結物を得るステップと、
前記一次焼結物とリン酸水素塩とを混合して第2混合物を得、前記第2混合物に対して二次焼結を行い、正極材料を得るステップとを含み、
前記第1混合物が、NixCoyMz酸化物およびNixCoyMz水酸化物のうちの少なくとも1種と、リチウム化合物と、リン酸金属塩とを含み、ただし、x+y+z=1を満たし、Mが、MnまたはAlから選択される少なくとも1種であり、前記一次焼結物が、複数の一次粒子と、前記一次粒子の表面に形成される第1被覆層とを含み、前記第1被覆層が、リン酸化合物を含み、
前記正極材料が、二次粒子と、前記二次粒子の表面に形成される第2被覆層とを含み、前記二次粒子が、凝集した複数の一次粒子を含み、前記第2被覆層が、リン酸化合物を含む。
【0017】
実施可能な実施形態において、前記方法は、
a、Ni、CoおよびMのモル含有量の合計とLiのモル含有量との比が1:(0.95~1.05)となるように前記リチウム化合物の添加量を設定すること、
b、前記リチウム化合物が、炭酸リチウム、水酸化リチウム、酢酸リチウム、硝酸リチウムおよびシュウ酸リチウムのうちの少なくとも1種を含むこと、
c、前記リン酸金属塩の平均粒径が、0.5μm未満であること、
d、前記リン酸金属塩の金属元素が、Co、Mn、Al、Ti、Zr、Sr、Mg、Y、Ba、Cu、W、Nb、La、Ce、MoおよびSnから選択される少なくとも1種であること、
e、前記リン酸水素塩が、A2HPO4およびAH2PO4のうちの少なくとも1種を含み、Aが、Ni、Co、Mn、Al、Na、K、Ca、NH4、Ti、Zr、Sr、Mg、Fe、Li、Y、Ba、Cu、W、Nb、La、Ce、MoおよびSnから選択される少なくとも1種であること、
f、前記リン酸金属塩におけるリン酸イオンの含有量が、前記第1混合物の総質量の0.03wt%~0.3wt%であること、
g、前記リン酸水素塩におけるリン酸イオンの含有量が、前記第2混合物の総質量の0.1wt%~0.7wt%であること、
の条件a~gの少なくとも1つを満たす。
【0018】
実施可能な実施形態において、前記方法は、
a、前記リン酸金属塩が、Mg3(PO4)2、Sr3(PO4)2、AlPO4およびZr3(PO4)4のうちの少なくとも1種を含むこと、
b、前記リン酸水素塩が、SrHPO4、Zr(HPO4)2、MgHPO4およびAl(H2PO4)3のうちの少なくとも1種を含むこと、
c、前記リン酸化合物が、Li3PO4およびLiNk(PO4)rのうちの少なくとも1種を含み、ただし、0<k≦2、0<r≦2を満たし、Nが、Co、Mn、Al、Ti、Zr、Sr、Mg、Y、Ba、Cu、W、Nb、La、Ce、MoおよびSnから選択される少なくとも1種であること、
d、前記リン酸化合物が、LiMgPO4、LiSrPO4、LiAlk(PO4)r、LiCok(PO4)rおよびLiZrk(PO4)rのうちの少なくとも1種を含むこと、
e、前記第1被覆層または前記第2被覆層におけるリン酸化合物の結晶化リン酸イオンの含有量が、リン酸イオンの総質量の5wt%~50wt%であること、
f、前記一次粒子の平均粒径が、200nm~800nmであること、
g、前記第1被覆層の厚さが、0.005μm~0.05μmであること、
h、前記二次粒子の平均粒径が、9μm~15μmであること、
i、前記第2被覆層の厚さが、0.02~0.2μmであること、
の条件a~iの少なくとも1つを満たす。
【0019】
実施可能な実施形態において、
NixCoyMz酸化物およびNixCoyMz水酸化物のうちの少なくとも1種と、リチウム化合物と、リン酸金属塩とを10℃~50℃で0.3h~2h固相混合する方法で、前記第1混合物を調製することを含む。
【0020】
実施可能な実施形態において、前記方法は、
a、前記一次焼結が、酸素ガス含有雰囲気下で行われること、
b、前記一次焼結が、酸素ガス含有雰囲気下で行われ、前記一次焼結において、酸素ガス含有雰囲気における酸素ガスの含有量が、95%以上であること、
c、前記一次焼結の温度が、650℃~850℃であること、
d、前記一次焼結の時間が、6h~20hであること、
の条件a~dの少なくとも1つを満たす。
【0021】
実施可能な実施形態において、前記方法は、
a、前記一次焼結物とリン酸水素塩との混合を行う温度が、10℃~50℃であること、
b、前記一次焼結物とリン酸水素塩との混合を行う時間が、0.3h~2hであること、
c、前記二次焼結が、酸素ガス含有雰囲気下で行われること、
d、前記二次焼結が、酸素ガス含有雰囲気下で行われ、前記二次焼結において、酸素ガス含有雰囲気における酸素ガスの含有量が、95%以上であること、
e、前記二次焼結の温度が、400℃~800℃であること、
f、前記二次焼結の時間が、5h~10hであること、
の条件a~fの少なくとも1つを満たす。
【0022】
本出願の実施例は、上記の正極材料または上記の正極材料の調製方法で調製できた正極材料を含むリチウムイオン二次電池をさらに提供する。
【発明の効果】
【0023】
本出願の技術案は、少なくとも以下の有益な効果を有する。
まず、本出願に係る正極材料は、複数の一次粒子を緊密に結合させてなる二次粒子を含み、一次粒子が第1被覆層を含み、二次粒子が第2被覆層を含み、第1被覆層および第2被覆層の材質は、いずれもリン酸化合物を含む。リン酸化合物被覆層は、リチウムイオン伝導率が高いとともに、正極材料の表面の残留アルカリを減少させることができる。内部と表面との両方を被覆するこのような被覆方式は、空間的かつ全面的に隔離された電解液ネットワークとリチウムイオン導電ネットワークの形成に寄与できる。二次粒子の表面の第2被覆層は、二次顆粒の表面を、電解液により腐食されないように保護し、熱安定性を向上させるとともに、リチウムイオンの拡散速度を上げ、表面の残留アルカリを減少させることができる。これによって、得られた正極材料は、レート性能が高く、熱安定性が高く、加工性能が良く、安全性が優れるようになる。第1被覆層も、上記の特徴を有する。それに加えて、第1被覆層によれば、二次粒子の割れが発生する場合の正極材料の内部の一次粒子と電解液との直接接触を防止でき、副反応の発生を抑制することができるため、二次粒子の構造安定性、熱安定性および長サイクル安定性の向上に寄与できる。さらに、一次粒子間の粒界でイオン伝導率の高いリン酸化合物被覆層が形成されるため、粒界での輸送抵抗が下げられ、正極材料のレート性能の向上に寄与できる。したがって、内部被覆と外部被覆とを組合せる被覆方式により、正極材料の構造安定性、熱安定性、安全性、レート性能、長サイクル性能および加工性能を相乗的に改善することができる。
【0024】
そして、本出願に係る正極材料の調製方法は、一次焼結を行う過程において正極材料の一次粒子に対する被覆および金属陽イオンドーピングを実現し、二次焼結を行う過程において、正極材料の二次粒子に対する被覆を実現する。本願の方法は、正極材料の通常調製過程における水洗い処理を利用せず、正極材料の表面の格子リチウムの損失をよりよく抑制することができ、そのレート性能およびサイクル安定性を改善することができる。そして、本願の方法は、水洗いプロセスを利用せず、水洗い工程および乾燥工程が要らなくなるので、汚水の生成をなくし、水洗いプロセスの材料の品質の一致性に対する影響を減らすことができる。
【0025】
本出願に係る正極材料の調製方法は、材料の電気化学的性能を改善することができるとともに、生産コストを削減することができ、汚染を減らすことができ、量産により適しており、調製できた正極材料によれば、リチウム電池のレート性能、熱安定性およびサイクル安定性を効果的に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本出願の実施例による正極材料の調製方法のプロセスフローチャートである。
【
図2】実施例1による正極材料の異なる拡大倍率での走査型電子顕微鏡写真(
図2a及び
図2b)である。
【
図3】比較例1による正極材料の異なる拡大倍率での走査型電子顕微鏡写真(
図3a及び
図3b)である。
【
図4】本出願の実施例1および比較例1のレート性能を示すグラフである。
【
図5】本出願の実施例1および比較例1の示差走査熱量曲線(DSC)である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下の記載は、本出願の実施例の好ましい実施形態であり、当業者は、本出願の実施例の原理から逸脱しない限り、若干の改良と改善を行うことが可能であり、これらの改良と改善も本出願の実施例の保護範囲に属する。
【0028】
従来の正極材料は、長いサイクルを経ると、顆粒の割れにより内部構造が直接露出しやすくなるため、正極材料の長サイクル安定性およびリチウム電池のレート性能が影響される。リチウムイオン電池のレート性能およびサイクル安定性を向上させるため、本出願の実施例は、正極材料を提出する。
【0029】
前記正極材料は、二次粒子と被覆層とを含む。該二次粒子は、複数の一次粒子を含み、一次粒子が活物質を含み、活物質の一般式がLibNixCoyMzNwO2であり、ただし、0.95≦b≦1.05、0.8≦x<1、0<y+z≦0.2、x+y+z=1、0.0001≦w≦0.003を満たし、Mが、MnおよびAlから選択される少なくとも1種であり、Nが金属である。該被覆層は、第1被覆層と第2被覆層とを含み、第1被覆層が一次粒子の表面に形成され、第2被覆層が二次粒子の表面に形成され、第1被覆層および第2被覆層がいずれもリン酸化合物を含む。
【0030】
本出願に係る正極材料は、複数の一次粒子を緊密に結合させてなる二次粒子を含み、一次粒子が第1被覆層を含み、二次粒子が第2被覆層を含み、第1被覆層および第2被覆層の材質は、いずれもリン酸化合物を含む。リン酸化合物被覆層は、リチウムイオン伝導率が高いとともに、正極材料の表面の残留アルカリを減少させることができる。内部と表面との両方を被覆するこのような被覆方式は、空間的かつ全面的に隔離された電解液ネットワークとリチウムイオン導電ネットワークの形成に寄与できる。二次粒子の表面の第2被覆層は、二次顆粒の表面を、電解液により腐食されないように保護し、熱安定性を向上させることができるとともに、リチウムイオンの拡散速度を上げ、表面の残留アルカリを減少させることができる。これによって、得られた正極材料は、レート性能が高く、熱安定性が高く、加工性能が良く、安全性が優れるようになる。第1被覆層も、上記の特徴を有する。それに加えて、第1被覆層によれば、二次粒子の割れが発生する場合の正極材料の内部の一次粒子と電解液との直接接触を防止でき、副反応の発生を抑制することができるため、二次粒子の構造安定性、熱安定性および長サイクル安定性の向上に寄与できる。さらに、一次粒子間の粒界でイオン伝導率の高いリン酸化合物被覆層が形成されるため、粒界での輸送抵抗が下げられ、正極材料のレート性能の向上に寄与できる。したがって、内部被覆と外部被覆とを組合せる被覆方式により、正極材料の構造安定性、熱安定性、安全性、レート性能、長サイクル性能および加工性能を相乗的に改善することができ、さらに、このような2層被覆構造で、材料の顆粒強度を上げることができるため、極片の作製過程における正極材料の割れを抑制することができる。
【0031】
具体的に、bの値は、例えば、0.95、0.98、1.01または1.05などであってもよい。xの値は、例えば、0.8、0.83、0.88、0.91、0.94または0.98などであってもよい。y+zの値は、例えば、0.02、0.06、0.09、0.12、0.17または0.2などであってもよい。wの値は、例えば、0.0001、0.0005、0.0010、0.0015、0.0020、0.0025または0.0030などであってもよい。ここで限定されない。
【0032】
任意選択で、前記LibNixCoyMzNwO2におけるNは、Co、Mn、Al、Ti、Zr、Sr、Mg、Y、Ba、Cu、W、Nb、La、Ce、MoおよびSnのうちの少なくとも1種を含む。
【0033】
なお、活物質LibNixCoyMzNwO2における各元素の含有量は、ICP、ICP-MSなどの周知の、各元素に対して定性分析および/または定量分析を行う器械により測定することができる。
【0034】
一次粒子は、単一の微細の結晶粒であり、二次粒子は、一次粒子が凝集してなる顆粒である。好ましくは、前記二次粒子が、一次粒子の凝集体であり、その内部が密実であり、球形または疑似球形を呈する。
【0035】
本出願に係る正極材料に対して、走査型電子顕微鏡(SEM)で検査するとともに粒度測定を行った結果、活物質の一次粒子の平均粒径D50は、200nm~800nmであり、例えば、200nm、300nm、400nm、500nm、600nm、700nmまたは800nmであってもよい。
【0036】
二次粒子の平均粒径は、9μm~15μmであり、例えば、9μm、10μm、11μm、12μm、13μmまたは15μmなどであってもよい。好ましくは、二次粒子の平均粒径は、10μm~13μmである。複数回の実験の結果、二次粒子の平均粒径を9μm~15μmの範囲内に収めれば、二次粒子のサイクル過程における割れの発生を避けることができ、二次粒子の構造安定性、熱安定性および長サイクル安定性の向上に寄与できる。
【0037】
いくつかの実施例において、第1被覆層の厚さは、0.005μm~0.05μmであり、例えば、0.005μm、0.01μm、0.015μm、0.02μm、0.025μm、0.03μm、0.035μm、0.04μm、0.045μmまたは0.05μmであってもよい。第1被覆層の厚さは、上記の範囲内の他の数値であってもよく、ここで限定されない。
【0038】
いくつかの実施例において、第2被覆層の厚さは、0.02μm~0.2μmであり、例えば、0.02μm、0.03μm、0.05μm、0.08μm、0.1μm、0.13μm、0.15μm、0.18μmまたは0.2μmであってもよい。第2被覆層の厚さは、上記の範囲内の他の数値であってもよく、ここで限定されない。
【0039】
いくつかの実施例において、前記リン酸化合物は、Li3PO4およびLiNk(PO4)rのうちの少なくとも1種を含み、ただし、0<k≦2、0<r≦2を満たし、Nが、Co、Mn、Al、Ti、Zr、Sr、Mg、Y、Ba、Cu、W、Nb、La、Ce、MoおよびSnから選択される少なくとも1種である。具体的に、リン酸化合物は、LiMgPO4、LiSrPO4、LiAlk(PO4)r、LiCok(PO4)rおよびLiZrk(PO4)rのうちの少なくとも1種を含み、前記組合せの代表的であり非限定的な例として、リン酸化合物が、Li3PO4とLiMgPO4との組合せであってもよく、Li3PO4とLiSrPO4との組合せであってもよい。
【0040】
該リン酸化合物は、リチウムイオン伝導率が高いとともに、正極材料の表面の残留アルカリを減少させることができる。内部と表面との両方を被覆するこのような被覆方式は、空間的かつ全面的に隔離された電解液ネットワークとリチウムイオン導電ネットワークの形成に寄与できる。
【0041】
具体的に、第1被覆層のリン酸化合物は、調製原料がリン酸金属塩とリチウム化合物とを含み、リン酸金属塩とリチウム化合物とを高温反応させることにより形成されたリン酸化合物である。その目的は、焼成プロセスを行うとともに正極材料の一次粒子に対してリン酸化合物被覆および金属陽イオンドーピングを行うことである。第2被覆層のリン酸化合物は、調製原料がリン酸水素塩を含み、リン酸水素塩を高温反応させることにより形成されたリン酸化合物である。
【0042】
前記第1被覆層におけるリン酸イオン(PO4)の含有量は、一次被覆を行う前の正極材料の質量の0.03wt%~0.3wt%である。好ましくは、リン酸イオンの含有量は、0.075wt%~0.175wt%であり、例えば、0.075wt%、0.1wt%、0.125wt%、0.15wt%または0.175wt%であってもよい。
【0043】
前記第2被覆層におけるリン酸イオンの含有量は、二次被覆を行う前の正極材料の質量の0.1wt%~0.7wt%である。好ましくは、リン酸イオンの含有量は、0.3wt%~0.5wt%であり、例えば、0.3wt%、0.35wt%、0.4wt%、0.45wt%または0.5wt%であってもよい。複数回の実験の結果、リン酸イオンの含有量を上記の範囲内に収めれば、正極材料の容量が下がることがなく、一次粒子または二次粒子に対する良好な被覆効果を得ることができる。
【0044】
いくつかの実施形態において、正極材料の質量を100%としたとき、第1被覆層におけるリン酸イオンの含有量は、0.03wt%~0.3wt%である。
【0045】
いくつかの実施形態において、正極材料の質量を100%としたとき、第2被覆層におけるリン酸イオンの含有量は、0.3wt%~0.5wt%である。
【0046】
なお、一次被覆は、正極材料に対する一回目の被覆処理であり、二次被覆は、正極材料に対する二回目の被覆処理である。
【0047】
本出願に係る正極材料において、リン酸化合物被覆層における結晶化リン酸イオン(結晶体状のリン酸化合物におけるリン酸イオン)の含有量は、リン酸イオンの総質量の5wt%~50wt%であり、例えば、5wt%、10wt%、20wt%、30wt%、40wt%または50wt%であってもよい。第1被覆層における結晶化リン酸イオンの含有量を5wt%~50wt%に収めれば、被覆層と正極材料の表面との結合をより強固にすることができる。また、一次粒子に対する被覆によれば、二次顆粒の割れが発生する場合の正極材料の内部の一次粒子と電解液との直接接触を防止でき、副反応の発生を抑制することができるので、二次粒子の構造安定性、熱安定性および長サイクル安定性の向上に寄与できる。さらに、一次粒子間の粒界でイオン伝導率の高いリン酸化合物被覆層が形成されるため、粒界での輸送抵抗が下げられ、正極材料のレート性能の向上に寄与できる。
【0048】
正極材料は、三元系正極材料であり、正極材料の4kN/cm2加圧時の粉体導電率は、0.02S/cm超であり、高い電流レートでの放電容量を効果的に上げることができる。
【0049】
正極材料の比表面積は、0.2m2/g~1.5m2/gである。好ましくは、正極材料の比表面積は、0.3m2/g~0.8m2/gであり、例えば、0.3m2/g、0.4m2/g、0.5m2/g、0.6m2/g、0.7m2/g、0.8m2/gなどであってもよい。
【0050】
本出願は、正極材料の調製方法をさらに提供する。前記方法は、下記のステップS100~S200を含む。
【0051】
S100は、第1混合物に対して一次焼結を行い、一次焼結物を得、そのうち、前記第1混合物が、NixCoyMz酸化物およびNixCoyMz水酸化物のうちの少なくとも1種と、リチウム化合物と、リン酸金属塩とを含み、ただし、x+y+z=1を満たし、Mが、MnまたはAlから選択される少なくとも1種である。
【0052】
一次焼結物は、複数の一次粒子と、一次粒子の表面に形成される第1被覆層とを含み、第1被覆層がリン酸化合物を含む。リン酸金属塩成分を添加することにより、焼成プロセスを行うとともに正極材料の一次粒子に対してリン酸化合物被覆および金属陽イオンドーピングを行う。また、一次粒子の被覆によれば、二次顆粒の割れが発生する場合の正極材料の内部の一次粒子と電解液との直接接触を防止でき、副反応の発生を抑制することができるので、二次粒子の構造安定性、熱安定性および長サイクル安定性の向上に寄与できる。さらに、一次粒子間の粒界でイオン伝導率の高いリン酸化合物被覆層が形成されるため、粒界での輸送抵抗が下げられ、正極材料のレート性能の向上に寄与できる。また、第1被覆層における金属陽イオンは、被覆過程において正極材料の内部にドーピングされ、これによって、正極材料の、層状構造から岩塩相構造への変換、金属イオンの溶出を抑制するとともに、材料内の格子酸素の放出を抑制し、材料の安全性能を向上させることができる。
【0053】
さらに、第1混合物を調製することを含み、具体的に、NixCoyMz酸化物およびNixCoyMz水酸化物のうちの少なくとも1種と、リチウム化合物と、リン酸金属塩とを10℃~50℃で0.3h~2h固相混合することを含む。
【0054】
具体的な実施例において、Ni、CoおよびMのモル含有量の合計とLiのモル含有量との比が1:(0.95~1.05)となるように前記リチウム化合物の添加量を設定する。この範囲内の値となれば、Li/Ni陽イオンミキシングを低減することができるとともに、焼結生成物の表面の残留リチウムが高すぎることによる、加工性能および安全性能への影響を防止することができる。
【0055】
具体的に、前記リチウム化合物は、炭酸リチウム、水酸化リチウム、酢酸リチウム、硝酸リチウムおよびシュウ酸リチウムのうちの少なくとも1種を含む。好ましくは、リチウム化合物は、水酸化リチウムである。
【0056】
前記リン酸金属塩の平均粒径は、0.5μm未満であり、例えば、0.001μm、0.01μm、0.05μm、0.1μm、0.15μm、0.2μm、0.25μm、0.3μm、0.35μm、0.4μmまたは0.45μmであってもよい。
【0057】
前記リン酸金属塩の金属元素は、Co、Mn、Al、Ti、Zr、Sr、Mg、Y、Ba、Cu、W、Nb、La、Ce、MoおよびSnから選択される少なくとも1種である。前記組合せの代表的であり非限定的な例として、前記リン酸金属塩が、SrHPO4、Zr(HPO4)2、MgHPO4およびAl(H2PO4)3のうちの少なくとも1種であってもよい。前記代表的であり非限定的な例として、リン酸金属塩が、SrHPO4であってもよく、SrHPO4とZr(HPO4)2との組成物であってもよい。前記リン酸金属塩は、Mg3(PO4)2、Sr3(PO4)2、AlPO4およびZr3(PO4)4のうちの少なくとも1種をさらに含んでもよい。前記代表的であり非限定的な例として、リン酸金属塩が、Mg3(PO4)2であってもよく、AlPO4とZr3(PO4)4との組成物であってもよい。
【0058】
前記リン酸金属塩におけるリン酸イオンの含有量は、前記第1混合物の総質量の0.03wt%~0.3wt%であり、例えば、0.03wt%、0.05wt%、0.1wt%、0.15wt%、0.2wt%または0.3wt%などであってもよい。好ましくは、前記リン酸金属塩におけるリン酸イオンの含有量が、前記第1混合物の総質量の0.075wt%~0.175wt%である。複数回の実験の結果、リン酸イオンの含有量をこの範囲内に収めれば、正極材料の容量が下げられることがなく、一次粒子に対する良好な被覆効果を得ることができる。
【0059】
NixCoyMz酸化物またはNixCoyMz水酸化物と、リチウム化合物と、リン酸金属塩とを混合する過程において、混合時間は、0.3h~2.0hであり、例えば、0.3h、0.4h、0.5h、0.7h、0.8h、1.0h、1.2h、1.5hまたは2.0hなどであってもよい。なお、ここで挙げられた数値に限定されず、該数値範囲内の他の数値であってもよい。混合温度は、10℃~50℃であり、例えば、10℃、15℃、25℃、30℃、35℃、40℃、45℃または50℃などであってもよく、好ましくは、混合温度が、10℃~40℃である。複数回の実験の結果、該混合条件下で、十分均一に混合することができるとともに、温度が高すぎることによる混合原料の副反応の発生を防止することができる。
【0060】
なお、一次焼結物は、第1被覆層を含む活物質であり、活物質の一般式は、LibNixCoyMzNwO2であり、ただし、0.95≦b≦1.05、0.8≦x<1、0<y+z≦0.2、x+y+z=1、0.0001≦w≦0.003を満たし、Mが、MnまたはAlから選択される少なくとも1種であり、Nが、Co、Mn、Al、Ti、Zr、Sr、Mg、Y、Ba、Cu、W、Nb、La、Ce、MoおよびSnのうちの少なくとも1種を含む。
【0061】
第1被覆層は、リン酸化合物を含み、前記リン酸化合物が、Li3PO4およびLiNk(PO4)rのうちの少なくとも1種を含み、ただし、0<k≦2、0<r≦2を満たし、Nが、Co、Mn、Al、Ti、Zr、Sr、Mg、Y、Ba、Cu、W、Nb、La、Ce、MoおよびSnから選択される少なくとも1種である。
【0062】
任意選択で、前記第1混合物に対して酸素ガス含有雰囲気下で650℃~850℃で6h~20hの一次焼結を行い、粉砕、篩分けを経て一次焼結物を得、一次焼結物が、複数の一次粒子を含み、一次粒子が第1被覆層を含む。
【0063】
一次粒子の平均粒径D50は、200nm~800nmであり、例えば、200nm、300nm、400nm、500nm、600nm、700nmまたは800nmであってもよい。
【0064】
本実施例において、前記リン酸金属塩と前記リチウム化合物とを高温反応させることにより一次粒子の第1被覆層を形成し、前記第1被覆層の厚さは、0.005μm~0.05μmであり、例えば、0.005μm、0.01μm、0.015μm、0.02μm、0.025μm、0.03μm、0.035μm、0.04μm、0.045μmまたは0.05μmであってもよい。第1被覆層の厚さは、上記の範囲内の他の数値であってもよく、ここで限定されない。
【0065】
第1被覆層における結晶化リン酸イオンの含有量は、リン酸イオンの総質量の5wt%~50wt%であり、例えば、5wt%、10wt%、15wt%、20wt%、30wt%、40wt%または50wt%であってもよい。
【0066】
前記酸素ガス含有雰囲気における酸素ガスの含有量は、95%以上である。好ましくは、一次焼結の温度は、720℃~800℃であり、例えば、720℃、730℃、740℃、750℃、760℃、770℃、780℃、790℃または800℃などであってもよい。なお、ここで挙げられた数値に限定されず、該数値範囲内の他の数値であってもよい。複数回の実験の結果、十分な酸素ガスは、2価ニッケルの3価ニッケルへの酸化を促進し、Li/Ni陽イオンミキシングを低減し、正極材料の容量を上げることができる。また、この温度範囲となれば、材料の分解を招くことがなく、層状構造の形成に寄与できる。
【0067】
一次焼結の時間は、例えば、6h、8h、10h、12h、15h、18hまたは20hなどであってもよい。なお、ここで挙げられた数値に限定されず、該数値範囲内の他の数値であってもよい。複数回の実験の結果、一次焼結の時間がこの範囲内の値となれば、正極材料の各性能指標を満足するとともに、層状構造および均一な一次粒子被覆層を効果的に形成することができる。
【0068】
一回目の焼結を行う過程において、リン酸金属塩の粒径をコントロールすることは、一次粒子の表面に均一な第1被覆層を形成することに寄与できる。さらに、第1被覆層における結晶化リン酸イオンの含有量を5wt%~50wt%に収めれば、被覆層と正極材料の表面との結合をより強固にすることができる。また、一次粒子に対する被覆によれば、二次顆粒の割れが発生する場合の正極材料の内部の一次粒子と電解液と直接接触を防止でき、副反応の発生を抑制することができるので、二次粒子の構造安定性、熱安定性および長サイクル安定性の向上に寄与できる。さらに、一次粒子間の粒界でイオン伝導率の高いリン酸化合物被覆層が形成されるため、粒界での輸送抵抗が下げられ、正極材料のレート性能の向上に寄与できる。
【0069】
S200は、前記一次焼結物とリン酸水素塩とを混合して第2混合物を得、前記第2混合物に対して二次焼結を行い、正極材料を得る。
【0070】
該正極材料は、二次粒子と、前記二次粒子の表面に形成される第2被覆層とを含み、前記二次粒子が一次粒子の凝集体であり、第2被覆層がリン酸化合物を含む。
【0071】
本出願に係る正極材料の調製方法は、一回目の焼結を行う過程において活物質の一次粒子に対する被覆および金属陽イオンドーピングを実現し、第2混合物に対して二回目の焼結を行う過程において活物質の二次粒子に対する被覆を実現する。本願の方法は、正極材料の通常調製過程における水洗い処理を利用せず、正極材料の表面の格子リチウムの損失をよりよく抑制することができ、そのレート性能およびサイクル安定性を改善することができる。そして、本願の方法は、水洗いプロセスを利用せず、水洗い工程および乾燥工程が要らなくなるので、汚水の生成をなくし、水洗いプロセスの材料の品質の一致性に対する影響を減らすことができる。
【0072】
いくつかの実施例において、前記一次焼結物とリン酸水素塩とを混合して第2混合物を得る過程において、混合時間は、0.3h~2.0hであり、例えば、0.3h、0.4h、0.5h、0.7h、0.8h、1.0h、1.2h、1.5hまたは2.0hなどであってもよい。なお、ここで挙げられた数値に限定されず、該数値範囲内の他の数値であってもよい。混合温度は、10℃~50℃であり、例えば、10℃、15℃、25℃、30℃、35℃、40℃、45℃または50℃などであってもよく、好ましくは、混合温度が、10℃~40℃である。複数回の実験の結果、該混合条件下で、十分均一に混合することができるとともに、温度が高すぎることによる混合原料の副反応の発生を防止することができる。
【0073】
前記リン酸水素塩の平均粒径は、10μm未満であり、例えば、0.01μm、0.1μm、1μm、2μm、4μm、5μm、8μmまたは9μmなどであってもよい。なお、ここで挙げられた数値に限定されず、該数値範囲内の他の数値であってもよい。前記リン酸水素塩は、A2HPO4およびAH2PO4のうちの少なくとも1種を含み、Aが、Ni、Co、Mn、Al、Na、K、Ca、NH4、Ti、Zr、Sr、Mg、Fe、Li、Y、Ba、Cu、W、Nb、La、Ce、MoおよびSnから選択される少なくとも1種である。前記組合せの代表的であり非限定的な例として、MgHPO4とNH4H2PO4との組合せ、(NH4)2HPO4とAl(H2PO4)3との組合せなどを含む。
【0074】
前記リン酸水素塩におけるリン酸イオンの含有量は、前記第2混合物の総質量の0.1wt%~0.7wt%であり、例えば、0.31wt%、0.2wt%、0.3wt%、0.4wt%、0.5wt%、0.6wt%または0.7wt%であってもよい。好ましくは、前記リン酸水素塩におけるリン酸イオンの含有量は、前記第2混合物の総質量の0.3wt%~0.5wt%である。複数回の実験の結果、リン酸イオンの含有量をこの範囲内に収めれば、正極材料の容量が下げられることがなく、二次粒子に対する良好な被覆効果を得ることができる。
【0075】
具体的な実施形態において、第2混合物に対して酸素ガス含有雰囲気下で400℃~800℃で5h~10hの二次焼結を行い、粉砕、篩分けを経て正極材料を得る。正極材料は、複数の二次粒子を含み、二次粒子が一次粒子の凝集体である。
【0076】
二次粒子の平均粒径は、9μm~15μmであり、例えば、9μm、10μm、11μm、12μm、13μmまたは15μmなどであってもよい。好ましくは、二次粒子の平均粒径は、10μm~13μmである。複数回の実験の結果、二次粒子の平均粒径を9μm~15μmの範囲内に収めれば、二次粒子のサイクル過程における割れの発生を避けることができ、二次粒子の構造安定性、熱安定性および長サイクル安定性の向上に寄与できる。
【0077】
前記第2被覆層の厚さは、0.02μm~0.2μmであり、例えば、0.02μm、0.03μm、0.05μm、0.08μm、0.1μm、0.13μm、0.15μm、0.18μmまたは0.2μmであってもよい。第2被覆層の厚さは、上記の範囲内の他の数値であってもよく、ここで限定されない。具体的に、前記リン酸水素塩と前記一次焼結物の表面の残留リチウムとを高温反応させることにより前記第2被覆層を形成し、第2被覆層における結晶化リン酸イオンの含有量は、リン酸イオンの総質量の5wt%~50wt%である。
【0078】
二次焼結のプロセスにおいて、酸素ガス含有雰囲気における酸素ガスの含有量は、95%以上である。二次焼結の温度は、400℃~800℃であり、例えば、400℃、500℃、550℃、600℃、650℃、700℃または800℃などであってもよく、好ましくは、焼結温度が、500℃~700℃である。なお、ここで挙げられた数値に限定されず、該数値範囲内の他の数値であってもよい。複数回の実験の結果、該焼結温度範囲内の値となれば、焼結物の分解およびリチウムの析出が発生することがなく、リン酸化合物で一次焼結物の表面をより均一かつ強固に被覆することができ、そして、リン酸水素塩と一次焼結物の表面の残留リチウムとの反応に寄与でき、残留アルカリを減少させ、リチウムイオン伝導率の高いリン酸化合物を形成し、加工性能およびレート性能を改善することができる。
【0079】
二次焼結の時間は、5h~10hであり、例えば、5h、6h、7h、8h、9hまたは10hなどであってもよい。なお、ここで挙げられた数値に限定されず、該数値範囲内の他の数値であってもよい。複数回の実験の結果、二次焼結の時間がこの範囲内の値となれば、正極材料の各性能指標を満足することができるとともに、均一な第2被覆層およびリチウムイオン伝導率の高いリン酸化合物を形成することができる。
【0080】
任意選択で、本実施例で採用する混合方式は、例えば、高速混合機またはVC混合機などを利用する機械的混合であってもよい。
【0081】
本出願に係る正極材料は、その活物質の一般式が、LibNixCoyMzNwO2であり、ただし、0.95≦b≦1.05、0.8≦x<1、0<y+z≦0.2、x+y+z=1、0.0001≦w≦0.003を満たし、Mが、MnおよびAlから選択される少なくとも1種であり、Nが、Co、Mn、Al、Ti、Zr、Sr、Mg、Y、Ba、Cu、W、Nb、La、Ce、MoおよびSnのうちの少なくとも1種を含む。
【0082】
前記一次粒子の表面に第1被覆層が形成され、前記二次粒子の表面に第2被覆層が形成され、第1被覆層および第2被覆層がいずれもリン酸化合物であり、前記リン酸化合物が、Li3PO4およびLiNk(PO4)rのうちの少なくとも1種を含み、ただし、0<k≦2、0<r≦2を満たし、Nが、Co、Mn、Al、Ti、Zr、Sr、Mg、Y、Ba、Cu、W、Nb、La、Ce、MoおよびSnから選択される少なくとも1種である。
【0083】
本出願に係る正極材料の調製方法は、一次焼結を行う過程において正極材料の一次粒子に対する被覆および金属陽イオンドーピングを実現し、二次焼結を行う過程において、正極材料の二次粒子に対する被覆を実現する。本願の方法は、正極材料の通常調製過程における水洗い処理を利用せず、正極材料の表面の格子リチウムの損失をよりよく抑制することができ、そのレート性能およびサイクル安定性を改善することができる。そして、本願の方法は、水洗いプロセスを利用せず、水洗い工程および乾燥工程が要らなくなるので、汚水の生成をなくし、水洗いプロセスの材料の品質の一致性に対する影響を減らすことができる。
【0084】
本出願の実施例は、上記の正極材料または上記の正極材料の調製方法で調製できた正極材料を含むリチウムイオン二次電池を提供する。
【0085】
以下、複数の実施例を用いて本出願の実施例をさらに説明する。本出願の実施例は、下記の具体的な実施例に限定されず、特許請求の範囲から逸脱しない限り、適切に変更して実施してもよい。
【0086】
実施例1
正極材料の調製方法は、下記のステップを含む。
(1)前駆体Ni0.88Co0.09Al0.03(OH)2と、水酸化リチウムと、平均粒径D50が0.2μmであるSrHPO4とを高速混合機内で均一に混合し、混合温度を30℃にし、混合時間を1hにし、第1混合物を得、ここで、Li/(Ni+Co+Al)=1.05を満たし、リン酸イオンの含有量は、第1混合物の総質量の0.3wt%であった。
(2)第1混合物を750℃で酸素ガスの含有量が95%以上である雰囲気下で10h焼結し、粉砕、篩分けを経てリン酸化合物により被覆された一次焼結物Li1.05Ni0.88Co0.09Al0.03Sr0.0026O2を得、一次焼結物においてSrがドーピングされた。
(3)上記の一次焼結物Li1.05Ni0.88Co0.09Al0.03Sr0.0026O2とリン酸二水素塩Al(H2PO4)3とを高速混合機内で均一に混合し、混合温度を30℃にし、混合時間を1hにし、第2混合物を得、ここで、リン酸イオンの含有量は、第2混合物の総質量の0.1wt%であった。
(4)第2混合物を700℃で酸素ガスの含有量が95%以上である雰囲気下で5h焼結し、粉砕、篩分けを経てリン酸化合物により被覆された正極材料Li1.05Ni0.88Co0.09Al0.03Sr0.0026O2を得た。
【0087】
本実施例の正極材料は、複数の二次粒子を含み、二次粒子が複数の一次粒子の凝集体であり、一次粒子の表面に第1被覆層が形成され、二次粒子の表面に第2被覆層が形成された。ここで、一次粒子の平均粒径は、0.6μmであり、二次粒子の平均粒径は、12μmであり、一次粒子の材質は、Li1.05Ni0.88Co0.09Al0.03Sr0.0026O2であった。第1被覆層の厚さは、0.04μmであり、第1被覆層の物質は、Li3PO4およびLiSrk(PO4)rであった。二次粒子は、第1被覆層により被覆された一次粒子の凝集体であり、第2被覆層の厚さは、0.06μmであり、第2被覆層の物質は、Li3PO4およびLiAlk(PO4)rであった。
【0088】
実施例1により調製できた正極材料の走査型電子顕微鏡写真は、
図1aおよび
図1bに示される。
【0089】
実施例1により調製できた正極材料S1に対する性能測定の結果は、表1に示される。
【0090】
実施例2
(1)前駆体Ni0.83Co0.11Mn0.06(OH)2と、水酸化リチウムと、平均粒径D50が0.4μmであるZr(HPO4)2とを高速混合機内で均一に混合し、混合温度を25℃にし、混合時間を2hにし、第1混合物を得、ここで、Li/(Ni+Co+Al)=1.03を満たし、リン酸イオンの含有量は、第1混合物の総質量の0.2wt%であった。
(2)第1混合物を800℃で酸素ガスの含有量が95%以上である雰囲気下で20h焼結し、粉砕、篩分けを経てリン酸化合物により被覆された一次焼結物Li1.03Ni0.83Co0.11Mn0.06Zr0.0009O2を得、一次焼結物においてZrがドーピングされた。
(3)上記の一次焼結物Li1.03Ni0.83Co0.11Mn0.06Zr0.0009O2とリン酸二水素塩NH4H2PO4とを高速混合機内で均一に混合し、混合温度を25℃にし、混合時間を2hにし、第2混合物を得、ここで、リン酸イオンの含有量は、第2混合物の総質量の0.3wt%であった。
(4)第2混合物を600℃で酸素ガスの含有量が95%以上である雰囲気下で8h焼結し、粉砕、篩分けを経てリン酸化合物により被覆された正極材料Li1.03Ni0.83Co0.11Mn0.06Zr0.0009O2を得た。
【0091】
本実施例の正極材料は、複数の二次粒子を含み、二次粒子が複数の一次粒子の凝集体であり、一次粒子の表面に第1被覆層が形成され、二次粒子の表面に第2被覆層が形成された。ここで、一次粒子の平均粒径は、0.7μmであり、二次粒子の平均粒径は、11.5μmであり、一次粒子の材質は、Li1.03Ni0.83Co0.11Mn0.06Zr0.0009O2であった。第1被覆層の厚さは、0.02μmであり、第1被覆層の物質は、Li3PO4およびLiZrk(PO4)rであった。二次粒子は、第1被覆層により被覆された一次粒子の凝集体であり、第2被覆層の厚さは、0.10μmであり、第2被覆層の物質は、Li3PO4であった。
【0092】
実施例2により調製できた正極材料S2に対する性能測定の結果は、表1に示される。
【0093】
実施例3
(1)前駆体Ni0.88Co0.09Al0.03(OH)2と、水酸化リチウムと、平均粒径D50が0.05μmであるMgHPO4と、メジアン径が0.4μmであるZr(HPO4)2とを高速混合機内で均一に混合し、混合温度を20℃にし、混合時間を1.5hにし、第1混合物を得、ここで、Li/(Ni+Co+Al)=1.00を満たし、リン酸イオンの含有量は、第1混合物の総質量の0.1wt%であった。
(2)第1混合物を650℃で酸素ガスの含有量が95%以上である雰囲気下で20h焼結し、粉砕、篩分けを経てリン酸化合物により被覆された一次焼結物LiNi0.88Co0.09Al0.03Mg0.0009Zr0.0004O2を得、一次焼結物においてMgおよびZrがドーピングされた。
(3)上記の一次焼結物LiNi0.88Co0.09Al0.03Mg0.0009Zr0.0004O2とリン酸二水素塩(NH4)2HPO4とを高速混合機内で均一に混合し、混合温度を20℃にし、混合時間を1.5hにし、第2混合物を得、ここで、リン酸イオンの含有量は、第2混合物の総質量の0.5wt%であった。
(4)第2混合物を500℃で酸素ガスの含有量が95%以上である雰囲気下で10h焼結し、粉砕、篩分けを経てリン酸化合物により一次粒子と二次粒子の両方を被覆した正極材料LiNi0.88Co0.09Al0.03Mg0.0009Zr0.0004O2を得た。
【0094】
本実施例の正極材料は、複数の二次粒子を含み、二次粒子が複数の一次粒子の凝集体であり、一次粒子の表面に第1被覆層が形成され、二次粒子の表面に第2被覆層が形成された。ここで、一次粒子の平均粒径は、0.3μmであり、二次粒子の平均粒径は、12μmであり、一次粒子の材質は、LiNi0.88Co0.09Al0.03Mg0.0009Zr0.0004O2であった。第1被覆層の厚さは、0.01μmであり、第1被覆層の物質は、Li3PO4、LiMgk(PO4)rおよびLiZrk(PO4)rであった。二次粒子は、第1被覆層により被覆された一次粒子の凝集体であり、第2被覆層の厚さは、0.15μmであり、第2被覆層の物質は、Li3PO4であった。
【0095】
実施例3により調製できた正極材料S3に対する性能測定の結果は、表1に示される。
【0096】
実施例4
(1)前駆体Ni0.88Co0.09Al0.03(OH)2と、水酸化リチウムと、平均粒径D50が0.2μmであるSrHPO4とを高速混合機内で均一に混合し、混合温度を15℃にし、混合時間を2hにし、第1混合物を得、ここで、Li/(Ni+Co+Al)=0.95を満たし、リン酸イオンの含有量は、第1混合物の総質量の0.03wt%であった。
(2)第1混合物を730℃で酸素ガスの含有量が95%以上である雰囲気下で6h焼結し、粉砕、篩分けを経てリン酸化合物により被覆された一次焼結物LiNi0.88Co0.09Al0.03Sr0.0003O2を得、一次焼結物においてSrがドーピングされた。
(3)上記の一次焼結物LiNi0.88Co0.09Al0.03Sr0.0003O2と、リン酸二水素塩NH4H2PO4と、リン酸水素塩Zr(HPO4)2とを高速混合機内で均一に混合し、混合温度を15℃にし、混合時間を2hにし、第2混合物を得、ここで、リン酸イオンの含有量は、第2混合物の総質量の0.7wt%であった。
(4)第2混合物を550℃で酸素ガスの含有量が95%以上である雰囲気下で10h焼結し、粉砕、篩分けを経てリン酸化合物により被覆された正極材料LiNi0.88Co0.09Al0.03Sr0.0003O2を得た。
【0097】
本実施例の正極材料は、複数の二次粒子を含み、二次粒子が複数の一次粒子の凝集体であり、一次粒子の表面に第1被覆層が形成され、二次粒子の表面に第2被覆層が形成された。ここで、一次粒子の平均粒径は、0.5μmであり、二次粒子の平均粒径は、12μmであり、一次粒子の材質は、LiNi0.88Co0.09Al0.03Sr0.0003O2であった。第1被覆層の厚さは、0.008μmであり、第1被覆層の物質は、Li3PO4およびLiSrk(PO4)rであった。二次粒子は、第1被覆層により被覆された一次粒子の凝集体であり、第2被覆層の厚さは、0.18μmであり、第2被覆層の物質は、Li3PO4およびLiZrk(PO4)rであった。
【0098】
実施例4により調製できた正極材料S4に対する性能測定の結果は、表1に示される。
【0099】
実施例5
実施例5は、実施例1の調製方法およびプロセスを採用し、実施例1と相違点が、第2混合物を400℃で酸素ガスの含有量が95%以上である雰囲気下で8h焼結したことである。
【0100】
本実施例の正極材料は、複数の二次粒子を含み、二次粒子が複数の一次粒子の凝集体であり、一次粒子の表面に第1被覆層が形成され、二次粒子の表面に第2被覆層が形成された。ここで、一次粒子の平均粒径は、0.6μmであり、二次粒子の平均粒径は、12μmであり、一次粒子の材質は、Li1.05Ni0.88Co0.09Al0.03Sr0.0026O2であった。第1被覆層の厚さは、0.04μmであり、第1被覆層の物質は、Li3PO4およびLiSrk(PO4)rであった。二次粒子は、第1被覆層により被覆された一次粒子の凝集体であり、第2被覆層の厚さは、0.1μmであり、第2被覆層の物質は、Li3PO4およびLiAlk(PO4)rであった。
【0101】
実施例6
実施例6は、実施例1の調製方法およびプロセスを採用し、実施例1と相違点が、Li/(Ni+Co+Al)=0.99を満したことである。
【0102】
実施例7
実施例7は、実施例1の調製方法およびプロセスを採用し、実施例1と相違点が、ステップ(1)においてSr3(PO4)2を用いたことである。
【0103】
比較例1
比較例1は、実施例1の調製方法およびプロセスを採用し、実施例1と相違点が、ステップ(1)においてSrHPO4を添加しなく、ステップ(2)においてAl(H2PO4)3を添加しなかったことである。
【0104】
比較例1により調製できた正極材料D1に対する性能測定の結果は、表1に示される。
【0105】
比較例1により調製できた正極材料の走査型電子顕微鏡写真は、
図2aおよび
図2bに示される。
【0106】
比較例2
比較例2は、実施例1の調製方法およびプロセスを採用し、実施例1と相違点が、ステップ(2)においてAl(H2PO4)3を添加しなかったことである。
【0107】
比較例2により調製できた正極材料D2に対する性能測定の結果は、表1に示される。
【0108】
比較例3
比較例3は、実施例1の調製方法およびプロセスを採用し、実施例1と相違点が、ステップ(1)に用いたSrHPO4のメジアン径が10μmであったことである。
【0109】
比較例3により調製できた正極材料D3に対する性能測定の結果は、表1に示される。
【0110】
比較例4
比較例4は、実施例1の調製方法およびプロセスを採用し、実施例1と相違点が、ステップ(3)におけるAl(H2PO4)3の代わりに、AlPO4を利用したことである。その他のすべての操作および原料配合が実施例1と同じであった。
【0111】
比較例4により調製できた正極材料D4に対する性能測定の結果は、表1に示される。
【0112】
測定方法
走査型電子顕微鏡を利用して正極材料に対して形態分析を行って、その走査型電子顕微鏡写真を得た。
【0113】
ハーフコインセルを利用して調製できた正極材料に対して電気化学的性能の測定を行い、具体的な方法として、正極材料と、SPと、フッ化ビニリデン樹脂(PVDF)とを96:2:2の質量比で秤量し、固形分50%でN-メチルピロリドンを加え、高速分散機を用いて粘稠スラリーに調製して、ブレードでアルミ箔に均一に塗布し、オーブンにおいて80℃で乾かしたあと、圧延を行い、直径が14mmである正極片にカットした。直径が16mmであるリチウム片を負極片とし、CelgardポリエチレンPP膜をセパレータとし、濃度が1mol/LであるLiPF6のカーボネート(DEC/ECの体積比が1:1である)溶液を電解液とし、アルゴンガスが満遍に充填されたグローブボックス内で組立を行う。
【0114】
LAND電池評価システムを利用して、25℃、3.0V~4.3Vで容量、初回クーロン効率およびレート性能を測定し、標準容量を200mA/gにし、1Cに対応する電流密度を200mA/gにした。
【0115】
電位差滴定装置を用いて正極材料の表面のリチウム化合物の総量を測定し、具体的に、塩酸で滴定を行い、さらに、消費した塩酸の量をリチウム化合物の量に換算し、残留アルカリの含有量を算出した。
【0116】
イオンビームカッターを利用して正極材料顆粒を切断し、さらに、高精度電子エネルギー分光装置を利用して切断した顆粒の断面に対して元素ラインスキャニングを行い、ラインスキャニング元素分布曲線に基づいてリン酸化合物被覆層の分布位置を算出した。
【0117】
NETZSCH示差走査熱量計を利用して、5℃/minで、窒素ガス雰囲気下で、密閉した高圧坩堝内で電極材料に対して熱安定性の測定を行い、示差走査熱量曲線を得、上記の電極材料は、0.1Cで2.5サイクルしたあと満充電状態になるハーフコインセルの電極片から削り取った活物質であった。
【0118】
ブルカーX線回折装置を利用して正極材料の構造組成を測定し、X線パターンによる精密化により、被覆層リン酸化合物における結晶化リン酸イオンの含有量を算出した。
高精度4探針抵抗率計MCP-T700を利用して正極材料の粉体導電率を測定し、異なる圧力下での粉体材料の導電率を測定した。
【0119】
上記の性能測定の結果は、下記の通りである。
【表1】
【0120】
図1aおよび
図1bから分かるように、実施例1の正極材料において、二次粒子の表面に均一な被覆層が形成され、一次粒子間の隙間がリン酸化合物により充填され、これによって、粒界での接触が非常に緊密であり、被覆層と正極材料との結合が非常に緊密であった。
【0121】
図2aおよび
図2bから分かるように、比較例1の正極材料の二次粒子の表面が比較的に滑らかであり、被覆層がなく、そして、一次粒子間の隙間が比較的に大きいため、電解液が二次粒子の内部に浸透しやすかった。
【0122】
図3に示すように、実施例1の正極材料は、比較例1に対してレート性能が優れるため、一次粒子に対するリン酸化合物の被覆が行われなかった正極材料のレート性能が顕著に劣っていたことが示される。
【0123】
図4に示すように、実施例1の正極材料は、比較例1に対して分解温度および放熱量が優れるため、正極材料の一次粒子および二次粒子に対してリン酸化合物の被覆を行うことが、正極材料の熱安定性の向上に寄与できることが示される。
【0124】
表1から分かるように、本出願の実施例1~5により調製できた正極材料は、いずれも電気化学的性能が比較的に優れ、放電容量が205mAh/g超であり、初回クーロン効率が約90%に達し、レート性能がよく、長サイクル性能が抜群で、表面のリチウム含有量が比較的に低かった。
【0125】
表1における実施例1と比較例2のデータを比較すれば分かるように、一次粒子にしても、二次粒子にしても、リン酸化合物の被覆が行われない場合に調製できた正極材料の表面の残留アルカリの含有量がより高く、レート性能、放電容量およびサイクル性能が大きく影響された。実施例1と比較例3のデータを比較すれば分かるように、リン酸金属塩(SrHPO4)粒径が10μmである場合、粒径が大きすぎて、リン酸金属塩により一次粒子の表面に均一な第1被覆層を形成することに不利で、調製できた正極材料の表面の残留アルカリの含有量がより高く、レート性能、放電容量およびサイクル性能が大きく影響された。実施例1と比較例4のデータを比較すれば分かるように、二次の被覆の際にリン酸水素塩を用いない場合、得られた正極材料は、表面の残留アルカリの含有量が非常に高く、加工性能測定に合格できなかった。