(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-15
(54)【発明の名称】工作機械
(51)【国際特許分類】
B23Q 11/10 20060101AFI20231108BHJP
B23Q 17/00 20060101ALI20231108BHJP
【FI】
B23Q11/10 E
B23Q11/10 D
B23Q17/00 A
(21)【出願番号】P 2022533926
(86)(22)【出願日】2021-06-24
(86)【国際出願番号】 JP2021023887
(87)【国際公開番号】W WO2022004538
(87)【国際公開日】2022-01-06
【審査請求日】2023-01-19
(31)【優先権主張番号】P 2020112684
(32)【優先日】2020-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118913
【氏名又は名称】上田 邦生
(74)【代理人】
【識別番号】100142789
【氏名又は名称】柳 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100201466
【氏名又は名称】竹内 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】石川 龍太郎
【審査官】城野 祐希
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-212714(JP,A)
【文献】国際公開第2013/058004(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q 11/10
B23Q 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主軸に装着された工具の先端から吐出させる切削液を供給する切削液供給部と、
前記工具の先端への前記切削液の到達を判定するための情報を検出する検出部と、
該検出部により検出された前記情報に基づいて前記切削液の到達を判定し、前記切削液供給部を制御する制御部とを備え、
該制御部が、前記切削液供給部による前記切削液の供給開始後、前記切削液が到達したと判定されるまでの前記切削液の供給速度を、前記判定後の供給速度よりも高くする工作機械。
【請求項2】
前記検出部が、前記切削液供給部と前記工具の先端とを結ぶ流路内の圧力を検出し、
前記制御部が、前記検出部により検出された圧力のピーク値となった時点で、前記切削液が前記工具の先端に到達したと判定する請求項1に記載の工作機械。
【請求項3】
前記検出部が、前記切削液供給部による前記切削液の供給開始からの流量を検出し、
前記制御部が、前記検出部により検出された流量の積算値と前記切削液供給部と前記工具の先端とを結ぶ流路の容積との差分が所定の閾値以下となった時点で、前記切削液が前記工具の先端に到達したと判定する請求項1に記載の工作機械。
【請求項4】
前記工具の交換前に、前記切削液供給部と前記工具の先端とを結ぶ流路内の前記切削液を除去する切削液除去部を備える請求項1から請求項3のいずれかに記載の工作機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、工作機械に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ツールの中心軸内を通じて切削液をツールの先端に供給する工作機械が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
この工作機械では、加工作業を開始する初期運転時間における切削液供給量を、その後の定常運転時間における切削液供給量よりも多くする供給条件をツール毎に予め記憶している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
供給条件をツール毎に記憶する場合、さらに、初使用のツールか既使用のツールかに応じてそれぞれ記憶しておく場合には、使用するツールが増えるほど、設定作業に要する労力が増大する。また、同じツールを使用する場合であっても、切削液の種類を変更する場合、あるいは、切削液の温度が変化する場合には、切削液の粘度が変化するので、同じ時間であっても供給される切削液供給量が変化する。
したがって、切削液供給量の設定作業に要する労力を低減し、かつ、諸条件が変化しても適正な量の切削液を迅速に供給することが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様は、主軸に装着された工具の先端から吐出させる切削液を供給する切削液供給部と、前記工具の先端への前記切削液の到達を判定するための情報を検出する検出部と、該検出部により検出された前記情報に基づいて前記切削液の到達を判定し、前記切削液供給部を制御する制御部とを備え、該制御部が、前記切削液供給部による前記切削液の供給開始後、前記切削液が到達したと判定されるまでの前記切削液の供給速度を、前記判定後の供給速度よりも高くする工作機械である。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】本開示の一実施形態に係る工作機械を示す全体構成図である。
【
図2】
図1の工作機械の主軸、チャックおよび工具に設けられた流路を説明する縦断面図である。
【
図3】
図2のチャックに工具が装着された状態を示す縦断面図である。
【
図4】
図1の工作機械を模式的に示すブロック図である。
【
図5】
図1の工作機械に備えられた圧力センサにより検出される圧力値と、ポンプの回転数との関係を説明する図である。
【
図6】
図5の変形例であって、圧力センサに代えて流量センサが装着された場合の、流量センサにより検出された流量値と、ポンプの回転数との関係を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本開示の一実施形態に係る工作機械1について、図面を参照して以下に説明する。
本実施形態に係る工作機械1は、
図1に示されるように、ワークを載置して水平方向に移動させるテーブル2と、ワークを加工するための工具Sを着脱可能に支持して回転させる主軸3と、主軸3を上下方向に移動させる昇降機構4と、複数の工具Sを交換可能に支持するターレット5とを備えている。
【0008】
また、工作機械1は、クーラント(切削液)Lを貯留するクーラントタンク6と、クーラントタンク6内のクーラントLを汲み上げるポンプ(切削液供給部)7と、ポンプ7と主軸3とを接続する配管(流路)8とを備えている。また、工作機械1は、配管8内の圧力(情報)を検出する圧力センサ(検出部)9と、圧力センサ9により検出された圧力に基づいてポンプ7を制御する制御部10とを備えている。
【0009】
主軸3は、
図2に示されるように、下端に工具交換機構を備えるチャック11と、チャック11を鉛直軸線回りに回転駆動するモータ12とを備えている。チャック11およびモータ12のロータ12aにはそれらの中央に、鉛直方向に貫通する貫通孔(流路)13が設けられ、ロータ12aの貫通孔13の上端には、ロータリジョイント14によって、クーラントLを貫通孔13に供給するための配管8が接続されている。
【0010】
チャック11に装着される工具Sにも、工具Sの先端から基端まで中心軸に沿って貫通する貫通孔(流路)15が設けられている。
図3に示されるように、工具Sがチャック11に装着されると、工具Sの貫通孔15とチャック11の貫通孔13とが接続される。これにより、配管8を経由して供給されたクーラントLが、チャック11の貫通孔13および工具Sの貫通孔15を経由して工具Sの先端から吐出させられる。
【0011】
配管8には、
図4に示されるように、ポンプ7からロータリジョイント14に向かうクーラントLの流動を許容し、逆流を禁止する第1チェックバルブ16と、第1チェックバルブ16とロータリジョイント14との間に加圧空気を供給するエア供給路(切削液除去部)17とが設けられている。エア供給路17には、空気圧源(切削液除去部)18から配管8内への加圧空気の流入を許容し、エア供給路17への逆流を禁止する第2チェックバルブ19と、空気圧源18からの加圧空気の供給・供給停止を切り替える電磁弁20とが設けられている。
【0012】
ポンプ7は回転数制御可能な遠心ポンプである。
制御部10は、少なくとも1つのプロセッサとメモリとを備えている。メモリには、クーラントLの供給開始時のポンプ7の第1回転数と、その後のポンプ7の定常運転時の第2回転数とが記憶されている。第1回転数は、第2回転数よりも十分に大きな値、例えば、2倍に設定されている。
【0013】
制御部10は、予め教示されたプログラムによる加工開始の指令に応じてポンプ7を第1回転数で回転させ、圧力センサ9により所定のサンプリング時間間隔で検出された圧力値を監視する。そして、制御部10は、
図5に示されるように、圧力がピーク値となった時点で、ポンプ7の回転数を第2回転数に切り替え、ワークの加工を開始する。これにより、工具Sの先端からクーラントLを吐出させながら工具Sによるワークの加工を行うことができる。
【0014】
また、制御部10は、工具Sの交換指令に応じて、電磁弁20を制御して、エア供給路17からの加圧空気を配管8内に供給する。これにより、第1チェックバルブ16から工具Sの先端までの流路8,13,15に加圧空気が供給され、流路8,13,15内に残留しているクーラントLを工具Sの先端から排出させることができる。
制御部10は、クーラントLが排出された後に、ターレット5を作動させて工具Sを交換する。
【0015】
このように、本実施形態に係る工作機械1によれば、配管8から主軸3内の貫通孔13および工具Sの貫通孔15に残留していたクーラントLを工具Sの交換前に除去する。これにより、工具Sを取り外したチャック11の把持面およびチャック11から取り外された工具Sのテーパシャンク等の外面にクーラントLが付着することを防止できる。
【0016】
チャック11の把持面あるいは工具Sの外面へのクーラントLの付着を防止することにより、工具Sをチャック11に装着したときの摩擦力の低下を防止して、工具Sがチャック11に対して滑ることを防止できる。また、クーラントLに混入している切粉により、工具Sのチャック11への装着不良が発生したり、チャック11の把持面や工具Sの外面が傷ついたりする不都合を防止することができる。さらに、クーラントLの付着による錆や異常摩耗の発生を抑制することができる。
【0017】
また、チャック11に新しい工具Sを取り付けるときには、主軸3の貫通孔13,15内にクーラントLが残留していないので、上述した不都合を生じることなく、より確実に取り付けることができる。
そして、チャック11に新たな工具Sを取り付けた時点では、第1チェックバルブ16から工具Sの先端までの流路8,13,15内にクーラントLが存在しないので、即座に加工を開始することはできない。
【0018】
本実施形態によれば、加工開始の指令により、定常運転時の第2回転数よりも高い第1回転数によりポンプ7が動作させられるので、空の流路8,13,15に迅速にクーラントLを満たして工具Sの先端から吐出させ、加工を開始することができる。そして、工具Sの先端からクーラントLが吐出された後には、第1回転数よりも低い定常運転時の第2回転数によってポンプ7を動作させることにより、消費電力を低減し、クーラントLの圧力を低減して各部に係る負荷を軽減することができる。
【0019】
この場合において、本実施形態によれば、第1回転数から第2回転数への切替を圧力センサ9による検出結果に基づいて工具Sの先端からクーラントLが吐出されたものと判定される時点において行う。これにより、工具Sが変更されたり、クーラントLの種類が変更されたり、クーラントLの温度が変化したりするなど、切削液の供給条件が変動しても、工具Sの先端からクーラントLが吐出するまで高い第1回転数によってポンプ7を駆動することができる。
【0020】
その結果、クーラントLの供給条件を工具S毎に設定する作業が不要となり、かつ、供給条件が変動しても、工具Sの先端からクーラントLを迅速に吐出させて、工具Sによる加工を迅速に開始することができるという利点がある。また、工具Sの先端からクーラントLが吐出された後には、ポンプ7の回転数を低下させて、第2回転数により定常運転し、消費電力の削減および各部にかかる負荷の低減を図ることができるという利点がある。
【0021】
なお、本実施形態に係る工作機械1においては、検出部として、ポンプ7から工具Sの先端までの流路8,13,15内の圧力を検出する圧力センサ9を採用した。圧力センサ9は、流路8,13,15内の任意の位置に配置してよい。また、圧力センサ9に代えて、流量センサをポンプ7の吐出口近傍の流路に設置してもよい。流量センサを用いる場合には、
図6に示されるように、制御部10が流量センサから逐次送られてくる流量値を積算すればよい(図中、ハッチング部分)。そして、制御部10が、流量値の積算値とポンプ7の吐出口から工具Sの先端までの流路8,13,15の容積との差分が所定の閾値以下になった時点で第1回転数から第2回転数に切り替えればよい。また、流量センサを用いずに、モータの回転数と電流値とから流量を推測してもよい。
【0022】
また、本実施形態においては、ポンプ7として、回転数制御可能な遠心ポンプを採用したが、これに代えて、回転数制御可能な定容量ポンプを採用してもよい。
また、本実施形態においては、切削液除去部として、エア供給路17から流路8,13,15に加圧空気を供給して流路8,13,15内のクーラントLを排出することとしたが、空気圧源18に代えて、吸引ポンプを採用し、流路8,13,15内のクーラントLを吸引除去することにしてもよい。
【符号の説明】
【0023】
1 工作機械
3 主軸
7 ポンプ(切削液供給部)
8 配管(流路)
9 圧力センサ(検出部)
10 制御部
13 貫通孔(流路)
15 貫通孔(流路)
17 エア供給路(切削液除去部)
18 空気圧源(切削液除去部)
L クーラント(切削液)
S 工具