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特許7381756モータの絶縁抵抗値を計算するモータ駆動装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-15
(54)【発明の名称】モータの絶縁抵抗値を計算するモータ駆動装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 27/06 20060101AFI20231108BHJP
【FI】
H02P27/06
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022535261
(86)(22)【出願日】2021-06-29
(86)【国際出願番号】 JP2021024604
(87)【国際公開番号】W WO2022009740
(87)【国際公開日】2022-01-13
【審査請求日】2023-02-07
(31)【優先権主張番号】P 2020116538
(32)【優先日】2020-07-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100112357
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 繁樹
(72)【発明者】
【氏名】大井 陽一郎
(72)【発明者】
【氏名】酒井 幸次郎
【審査官】池田 貴俊
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/018411(WO,A1)
【文献】特開2008-102096(JP,A)
【文献】特開2020-58209(JP,A)
【文献】特開2020-80623(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 27/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流電源から入力された交流電力を直流電力に変換してDCリンクへ出力するコンバータ部と、
前記DCリンクに設けられるDCリンクコンデンサと、
前記DCリンクにおける直流電力をモータの駆動のための交流電力に変換して出力するインバータ部と、
前記DCリンクを構成する正電位線と負電位線との間に設けられる互いに直列接続された2つの分圧抵抗であって、前記分圧抵抗どうしの接続点と前記モータの巻線とが接続される分圧抵抗と、
前記分圧抵抗どうしの前記接続点と前記DCリンクの前記正電位線または前記負電位線との間に接続される測定用抵抗と、
前記測定用抵抗の両端の電位差である抵抗電圧を測定する抵抗電圧測定部と、
前記抵抗電圧測定部により測定された前記抵抗電圧から直流成分を抽出する直流成分抽出部と、
前記抵抗電圧測定部により測定された前記抵抗電圧から交流成分を抽出する交流成分抽出部と、
前記DCリンクの前記正電位線における前記正電位及び前記負電位線における負電位を測定するDCリンク電位測定部と、
前記直流成分抽出部により抽出された前記直流成分と、前記交流成分抽出部により抽出された前記交流成分と、前記DCリンク電位測定部により測定された前記正電位及び前記負電位と、に基づいて、前記モータの絶縁抵抗値を計算する絶縁抵抗値計算部と、
を備える、モータ駆動装置。
【請求項2】
前記測定用抵抗は、前記分圧抵抗どうしの前記接続点と前記DCリンクの前記負電位線との間に接続され、
前記絶縁抵抗値計算部は、前記測定用抵抗の抵抗値をRin、前記DCリンク電位測定部により測定された前記正電位の値をVp、前記DCリンク電位測定部により測定された前記負電位の値をVn、前記直流成分抽出部により抽出された前記直流成分の値をVinL、前記交流成分抽出部により抽出された前記交流成分の値をVinH、値Vcomを(Vp+Vn)/2、値Vdifを(Vp-Vn)/2としたとき、
【数1】
に従って、前記モータの絶縁抵抗値Rmを計算する、請求項1に記載のモータ駆動装置。
【請求項3】
前記測定用抵抗は、前記分圧抵抗どうしの前記接続点と前記DCリンクの前記正電位線との間に接続され、
前記絶縁抵抗値計算部は、前記測定用抵抗の抵抗値をRin、前記DCリンク電位測定部により測定された前記正電位の値をVp、前記DCリンク電位測定部により測定された前記負電位の値をVn、前記直流成分抽出部により抽出された前記直流成分の値をVinL、前記交流成分抽出部により抽出された前記交流成分の値をVinH、値Vcomを(Vp+Vn)/2、値Vdifを(Vp-Vn)/2としたとき、
【数2】
に従って、前記モータの絶縁抵抗値Rmを計算する、請求項1に記載のモータ駆動装置。
【請求項4】
前記分圧抵抗の各々は、前記DCリンクの前記正電位線と前記負電位線との間に接続される互いに直列接続された2つのDCリンク抵抗の各々にて構成される、請求項1~3のいずれか一項に記載のモータ駆動装置。
【請求項5】
前記分圧抵抗の各々は、前記インバータ部内のブリッジ回路を構成する上アーム及び下アームのそれぞれに設けられるスイッチング素子のオフ時に発生するオフ抵抗の各々にて構成される、請求項1~3のいずれか一項に記載のモータ駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータの絶縁抵抗値を計算するモータ駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械、鍛圧機械、射出成形機、産業機械、あるいは各種ロボット内のモータの駆動を制御するモータ駆動装置においては、交流電源から入力される交流電力をコンバータ部(整流回路)にて直流電力に変換してDCリンクへ出力し、さらにインバータ部にてDCリンクにおける直流電圧を交流電力に変換し、この交流電力をモータの駆動電力として供給している。「DCリンク」とは、コンバータ部の直流出力側とインバータ部の直流入力側とを電気的に接続する回路部分のことを指し、「DCリンク部」、「直流リンク」、「直流リンク部」または「直流中間回路」などとも別称されることもある。
【0003】
何らかの原因によりモータの絶縁劣化によるモータ故障が発生することがある。モータの絶縁劣化の検出は、モータの巻線と大地との間の抵抗値である絶縁抵抗値を測定することにより行われる。
【0004】
例えば、第1のスイッチを介して交流電源から供給される交流電圧を直流電圧に整流する整流回路と、前記整流回路によって整流された直流電圧をコンデンサで平滑化する電源部と、前記電源部によって平滑化された直流電圧を半導体スイッチング素子のスイッチング動作により交流電圧に変換してモータを駆動するインバータ部と、前記モータのコイルに一端を接続し、前記コンデンサの一方の端子に他端を接続した抵抗器に流れる電流値を測定する電流検出部と、前記コンデンサの両端の電圧値を測定する電圧検出部と、前記コンデンサの他方の端子を接地する第2のスイッチと、モータの運転を停止し、前記第1のスイッチをオフし、かつ、前記第2のスイッチをオフした状態とオンした状態の2つの状態において測定された2組の前記電流値及び前記電圧値を用いて、モータのコイルと大地との間の抵抗であるモータの絶縁抵抗値を検出する絶縁抵抗検出部と、を有することを特徴とするモータ駆動装置が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
例えば、運転中の交流電動機における界磁巻線の絶縁劣化の発生を検出する絶縁劣化検出装置であって、交流電動機の各相の界磁巻線での部分放電発生の際の電磁波を個別に検出する複数の検出素子と、その複数の検出素子からの出力信号を一括して接地する接地線と、上記接地線から部分放電信号を取り出す検出手段と、該検出手段の出力信号に基づき部分放電が許容以上か否かを判定する判定手段と、判定手段が許容以上の部分放電と判定すると警報を出力する警報手段とを備えることを特徴とする電動機の絶縁劣化検出装置。が知られている(例えば、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2015-129704号公報
【文献】特開2002-311080号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来、モータの絶縁抵抗値を測定する際は、当該モータを駆動するモータ駆動装置と交流電源との間を遮断して行う必要があった。しかしながら、モータの絶縁抵抗値の測定のたびにモータ駆動装置と交流電源との遮断作業及び接続作業を行うことは手間及び時間がかかり、効率が悪い。また、モータ駆動装置と交流電源との間に遮断器を設置することも考えられるが、コストが増加するという欠点がある。したがって、モータ駆動装置を交流電源から切り離すことなくモータの絶縁抵抗値を低コストで測定できるようにする技術が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一態様によれば、モータ駆動装置は、交流電源から入力された交流電力を直流電力に変換してDCリンクへ出力するコンバータ部と、DCリンクに設けられるDCリンクコンデンサと、DCリンクにおける直流電力をモータの駆動のための交流電力に変換して出力するインバータ部と、DCリンクを構成する正電位線と負電位線との間に設けられる互いに直列接続された2つの分圧抵抗であって分圧抵抗どうしの接続点とモータの巻線とが接続される分圧抵抗と、分圧抵抗どうしの接続点とDCリンクの正電位線または負電位線との間に接続される測定用抵抗と、測定用抵抗の両端の電位差である抵抗電圧を測定する抵抗電圧測定部と、抵抗電圧測定部により測定された抵抗電圧から直流成分を抽出する直流成分抽出部と、抵抗電圧測定部により測定された抵抗電圧から交流成分を抽出する交流成分抽出部と、DCリンクの正電位線における正電位及び負電位線における負電位を測定するDCリンク電位測定部と、直流成分抽出部により抽出された直流成分と交流成分抽出部により抽出された交流成分とDCリンク電位測定部により測定された正電位及び負電位とに基づいて、モータの絶縁抵抗値を計算する絶縁抵抗値計算部とを備える。
【発明の効果】
【0009】
本開示の一態様によれば、モータ駆動装置を交流電源から切り離すことなくモータの絶縁抵抗値を低コストで測定できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本開示の一実施形態によるモータ駆動装置(第1の形態)を示す図である。
図2】本開示の一実施形態によるモータ駆動装置(第1の形態)の変形例を示す図である。
図3】第1の形態による絶縁抵抗値計算部の計算処理における式1の導出に用いられる等価回路を示す図(その1)である。
図4】第1の形態による絶縁抵抗値計算部の計算処理における式1の導出に用いられる等価回路を示す図(その2)である。
図5】第1の形態による絶縁抵抗値計算部の計算処理における式1の導出に用いられる等価回路を示す図(その3)である。
図6】第1の形態による絶縁抵抗値計算部の計算処理における式1の導出に用いられる等価回路を示す図(その4)である。
図7】第1の形態による絶縁抵抗値計算部の計算処理における式1の導出に用いられる等価回路を示す図(その5)である。
図8】第1の形態による絶縁抵抗値計算部の計算処理における式1の導出に用いられる等価回路を示す図(その6)である。
図9】第1の形態による絶縁抵抗値計算部の計算処理における式1の導出に用いられる等価回路を示す図(その7)である。
図10】第1の形態による絶縁抵抗値計算部の計算処理における式1の導出に用いられる等価回路を示す図(その8)である。
図11】本開示の一実施形態によるモータ駆動装置(第2の形態)を示す図である。
図12】第2の形態による絶縁抵抗値計算部の計算処理における式11の導出に用いられる等価回路を示す図(その1)である。
図13】第2の形態による絶縁抵抗値計算部の計算処理における式11の導出に用いられる等価回路を示す図(その2)である。
図14】第2の形態による絶縁抵抗値計算部の計算処理における式11の導出に用いられる等価回路を示す図(その3)である。
図15】第2の形態による絶縁抵抗値計算部の計算処理における式11の導出に用いられる等価回路を示す図(その4)である。
図16】第2の形態による絶縁抵抗値計算部の計算処理における式11の導出に用いられる等価回路を示す図(その5)である。
図17】第2の形態による絶縁抵抗値計算部の計算処理における式11の導出に用いられる等価回路を示す図(その6)である。
図18】第2の形態による絶縁抵抗値計算部の計算処理における式11の導出に用いられる等価回路を示す図(その7)である。
図19】本開示の一実施形態によるモータ駆動装置の動作フローを示すフローチャートである。
図20】デルタ結線により交流電源と本開示の一実施形態によるモータ駆動装置とが結線される場合におけるDCリンクの正電位及び負電位のシミュレーション結果を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下図面を参照して、モータの絶縁抵抗値を計算するモータ駆動装置について説明する。各図面において、同様の部材には同様の参照符号が付けられている。また、理解を容易にするために、これらの図面は縮尺を適宜変更している。また、図面に示される形態は実施するための一つの例であり、図示された形態に限定されるものではない。
【0012】
図1は、本開示の一実施形態によるモータ駆動装置(第1の形態)を示す図である。なお、詳細については後述するが、測定用抵抗14の一端はDCリンクの負電位線または正電位線に接続される。測定用抵抗14の一端がDCリンクの負電位線に接続される形態を第1の形態と称し、測定用抵抗14の一端がDCリンクの正電位線に接続される形態を第2の形態と称する。第1の形態と第2の形態とは、測定用抵抗14の一端がDCリンクの負電位線に接続されるか正電位線に接続されるかの点でのみ相違する。
【0013】
一例として、交流電源2に接続されたモータ駆動装置1により、モータ3を制御する場合について示す。本実施形態においては、モータ3の種類は特に限定されず、例えば誘導モータであっても同期モータであってもよい。また、交流電源2及びモータ3の相数は本実施形態を特に限定するものではなく、例えば三相であっても単相であってもよい。図示の例では、交流電源2及びモータ3をそれぞれ三相としている。交流電源2の一例を挙げると、三相交流400V電源、三相交流200V電源、三相交流600V電源、単相交流100V電源などがある。モータ3が設けられる機械には、例えば工作機械、ロボット、鍛圧機械、射出成形機、産業機械、各種電化製品、電車、自動車、航空機などが含まれる。
【0014】
図1に示すように、本開示の一実施形態によるモータ駆動装置1は、コンバータ部11と、DCリンクコンデンサ4と、インバータ部12と、2つの分圧抵抗13-1及び13-2と、測定用抵抗14と、抵抗電圧測定部15と、直流成分抽出部16と、交流成分抽出部17と、DCリンク電位測定部18と、絶縁抵抗値計算部19とを備える。
【0015】
コンバータ部11は、交流電源2から入力された交流電力を直流電力に変換して直流出力側であるDCリンクへ出力する。コンバータ部11は、交流電源2から三相交流電力が供給される場合は三相ブリッジ回路で構成され、交流電源2から単相交流電力が供給される場合は単相ブリッジ回路で構成される。図示の例では、交流電源2を三相交流電源としたので、コンバータ部11は三相ブリッジ回路で構成される。コンバータ部11の例としては、ダイオード整流器、120度通電方式整流器、及びPWMスイッチング制御方式整流器などがある。例えば、コンバータ部11が120度通電方式整流器及びPWMスイッチング制御方式整流器である場合は、スイッチング素子及びこれに逆並列に接続されたダイオードのブリッジ回路からなり、上位制御装置(図示せず)から受信した駆動指令に応じて各スイッチング素子がオンオフ制御されて交直双方向に電力変換を行う。この場合、スイッチング素子の例としては、FET、IGBT、サイリスタ、GTO(Gate Turn-OFF thyristor:ゲートターンオフサイリスタ)、トランジスタなどがあるが、その他の半導体素子であってもよい。
【0016】
インバータ部12は、DCリンクにおける直流電力をモータ3の駆動のための交流電力に変換して出力する。インバータ部12は、スイッチング素子及びこれに逆並列に接続されたダイオードのブリッジ回路からなる。インバータ部12は、モータ3が三相交流モータである場合は三相ブリッジ回路で構成され、モータ3が単相交流モータである場合は単相ブリッジ回路で構成される。図示の例では、モータ3を三相交流モータとしたので、インバータ部12は三相ブリッジ回路で構成される。インバータ部12は、例えばPWMスイッチング制御方式によりその電力変換動作が制御される。すなわち、インバータ部12は、上位制御装置(図示せず)からのPWMスイッチング指令を受けてDCリンクにおける直流電力をモータ3を駆動するための交流電力に変換してモータ3へ出力するとともにモータ回生時にはモータ3で回生された交流電力を直流電力に変換してDCリンク側へ戻す。
【0017】
一般的なモータ駆動装置と同様、インバータ部12は、上位制御装置(図示せず)により、電力変換動作が制御される。すなわち、上位制御装置は、モータ3の速度(速度フィードバック)、モータ3の巻線に流れる電流(電流フィードバック)、所定のトルク指令、及びモータ3の動作プログラムなどに基づいて、モータ3の速度、トルク、もしくは回転子の位置を制御するためのスイッチング指令を生成する。上位制御装置によって作成されたPWMスイッチング指令に基づいて、インバータ部12による電力変換動作が制御される。
【0018】
コンバータ部11の直流出力側とインバータ部12の直流入力側とを接続するDCリンクには、DCリンクコンデンサ4が設けられる。DCリンクコンデンサ4は、コンバータ部11の直流出力の脈動分を抑える機能及びインバータ部12が交流電力を生成するために用いられる直流電力を蓄積する機能を有する。DCリンクコンデンサ4の例としては、例えば電解コンデンサやフィルムコンデンサなどがある。
【0019】
DCリンクを構成する正電位線と負電位線との間には、互いに直列接続された2つの分圧抵抗13-1及び13-2が設けられる。DCリンクの正電位線における正電位と負電位線における負電位との電位差であるDCリンク電圧を、分圧抵抗13-1と分圧抵抗13-2とで分圧する。分圧抵抗13-1と分圧抵抗13-2との接続点は、モータ3の巻線(の入力端子)に接続される。図1に示す例では、分圧抵抗13-1及び13-2の各々は、DCリンクの正電位線と負電位線との間に接続される互いに直列接続された2つのDCリンク抵抗の各々にて構成される。DCリンク抵抗は一般的な抵抗にて構成される。分圧抵抗13-1の抵抗値と分圧抵抗13-2の抵抗値とは、略等しいことが好ましく、図1に示す例では抵抗値をRとしている。ただし、分圧抵抗13-1の抵抗値と分圧抵抗13-2の抵抗値とは、異なった値を有していてもよい。分圧抵抗13-1及び13-2の各抵抗値Rは、予め測定しておくか、あるいは分圧抵抗13-1及び13-2についての規格表に規定された値を用いればよい。
【0020】
測定用抵抗14は、分圧抵抗13-1と分圧抵抗13-2との接続点と、DCリンクの正電位線または負電位線との間に接続される。図1では、分圧抵抗13-1と分圧抵抗13-2との接続点と、DCリンクの負電位線との間に測定用抵抗14が接続される第1の形態を示している。測定用抵抗14は一般的な抵抗にて構成される。測定用抵抗14の抵抗値をRinとする。測定用抵抗14の抵抗値Rinは、予め測定しておくか、あるいは測定用抵抗14についての規格表に規定された値を用いればよい。
【0021】
抵抗電圧測定部15は、インバータ部12による電力変換動作を停止させた状態(すなわちインバータ部12内の全てのスイッチング素子をオフさせた状態)において、測定用抵抗14の両端の電位差である抵抗電圧を測定する。抵抗電圧測定部15により測定された測定用抵抗14の抵抗電圧に関する信号は、直流成分抽出部16及び交流成分抽出部17へ送られる。
【0022】
直流成分抽出部16は、抵抗電圧測定部15により測定された抵抗電圧から直流成分を抽出する。直流成分抽出部16は、例えば抵抗電圧測定部15から出力される信号から交流成分を除去して直流成分を出力するローパスフィルタにて構成される。直流成分抽出部16により抽出された抵抗電圧の直流成分に関する信号は、絶縁抵抗値計算部19へ送られる。
【0023】
交流成分抽出部17は、抵抗電圧測定部15により測定された抵抗電圧から交流成分を抽出する。交流成分抽出部17は、例えば抵抗電圧測定部15から出力される信号から直流成分を除去して交流成分を出力するハイパスフィルタにて構成される。交流成分抽出部17により抽出された抵抗電圧の交流成分に関する信号は、絶縁抵抗値計算部19へ送られる。
【0024】
DCリンク電位測定部18は、インバータ部12による電力変換動作を停止させた状態(すなわちインバータ部12内の全てのスイッチング素子をオフさせた状態)において、DCリンクの正電位線における正電位及び負電位線における負電位を測定する。DCリンク電位測定部18により測定されたDCリンクの正電位及び負電位に関する信号は、絶縁抵抗値計算部19へ送られる。
【0025】
絶縁抵抗値計算部19は、直流成分抽出部16により抽出された抵抗電圧の直流成分と、交流成分抽出部17により抽出された抵抗電圧の交流成分と、DCリンク電位測定部18により測定されたDCリンクの正電位及び負電位とに基づいて、モータ3の巻線と大地との間の絶縁抵抗20の抵抗値である絶縁抵抗値Rmを計算する。絶縁抵抗値計算部19による計算処理の詳細については後述する。
【0026】
図1を参照して説明した実施形態では、分圧抵抗13-1及び13-2の各々は、DCリンクの正電位線と負電位線との間に接続される互いに直列接続された2つのDCリンク抵抗の各々にて構成される。この変形例として、インバータ部12内のブリッジ回路におけるスイッチング素子のオフ抵抗を、分圧抵抗13-1及び13-2として流用してもよい。図2は、本開示の一実施形態によるモータ駆動装置(第1の形態)の変形例を示す図である。インバータ部12内のブリッジ回路を構成する同一相中の上アーム及び下アームのそれぞれに設けられるスイッチング素子をオフすると、所定の抵抗値を有するオフ抵抗が発生する。同一相中の上アーム及び下アームのスイッチング素子についてのオフ抵抗は、DCリンク電圧を分圧する機能を有するので、同一相中の上アーム及び下アームのスイッチング素子のオフ抵抗を、分圧抵抗13-1及び13-2として用いることができる。本変形例では、スイッチング素子のオフ抵抗の抵抗値をRとする。スイッチング素子のオフ抵抗の抵抗値Rは、スイッチング素子のオフ時の電圧の測定結果に基づいて計算すればよい。
【0027】
続いて、絶縁抵抗値計算部19における計算処理について、測定用抵抗14の一端がDCリンクの負電位線に接続される第1の形態と、測定用抵抗14の一端がDCリンクの正電位線に接続される第2の形態とに分けて説明する。
【0028】
まず、測定用抵抗14の一端がDCリンクの負電位線に接続される第1の形態による絶縁抵抗値計算部19における計算処理について説明する。
【0029】
上述したように、図1及び図2は測定用抵抗14の一端がDCリンクの負電位線に接続される第1の形態を示しており、すなわち、測定用抵抗14は、分圧抵抗13-1と分圧抵抗13-2との接続点とDCリンクの負電位線との間に接続される。
【0030】
図1及び図2に示す第1の形態では、絶縁抵抗値計算部19は、式1に従って、モータ3の絶縁抵抗値Rmを計算する。式1において、測定用抵抗14の抵抗値をRin、インバータ部12による電力変換動作の停止時にDCリンク電位測定部18により測定されたDCリンクの正電位の値をVp、インバータ部12による電力変換動作の停止時にDCリンク電位測定部18により測定されたDCリンクの負電位の値をVnとする。また、直流成分抽出部16(ローパスフィルタ)により抽出されたインバータ部12による電力変換動作の停止時における抵抗電圧の直流成分の値をVinL、交流成分抽出部17(ハイパスフィルタ)により抽出されたインバータ部12による電力変換動作の停止時における抵抗電圧の交流成分の値をVinHとする。また、値Vcomを(Vp+Vn)/2、値Vdifを(Vp-Vn)/2とする。
【0031】
【数1】
【0032】
ここで、測定用抵抗14の一端がDCリンクの負電位線に接続される第1の形態による絶縁抵抗値計算部19における計算処理において用いられる式1の導出過程について説明する。図3図10は、第1の形態による絶縁抵抗値計算部の計算処理における式1の導出に用いられる等価回路を示す図である。
【0033】
絶縁抵抗値計算部19による絶縁抵抗値Rmの算出には、インバータ部12による電力変換動作を停止させた状態において抵抗電圧測定部15及びDCリンク電位測定部18により測定されたデータが用いられる。インバータ部12による電力変換動作を停止させた状態では、図3図10にはインバータ部12に関する回路は現れない。
【0034】
図1及び図2に示すDCリンクの正電位線における正電位Vpを、図3では等価電源31で表す。同様に、図1及び図2に示すDCリンクの負電位線における負電位Vnを、図3では等価電源32で表す。このとき、図1及び図2に示す分圧抵抗13-1及び13-2、測定用抵抗14、並びにモータ3の絶縁抵抗20は、等価電源31及び32に対して図3に示すように接続される。分圧抵抗13-1及び13-2の抵抗値をそれぞれRとし、測定用抵抗14の抵抗値をRinとし、モータ3の絶縁抵抗20の抵抗値をRmとする。抵抗電圧測定部15により測定される測定用抵抗14の抵抗電圧の値をVinとする。
【0035】
図3に示す等価回路において、等価電源32は分圧抵抗13-2の一端及び測定用抵抗14の一端に接続されているので、等価電源32は、図4に示すように同一の電圧値Vnを有する2つの等価電源32及び33に分解することができる。すなわち、図4に示すように、分圧抵抗13-2の一端に等価電源32が接続され、測定用抵抗14の一端に等価電源33が接続される。
【0036】
図4に示す等価回路において、回路部分T1にテブナンの定理を適用すると、図5に示すような等価回路が得られる。図5において、等価電源34の電圧値V1は式2で表され、等価抵抗21の抵抗値はR/2となる。
【0037】
【数2】
【0038】
図5に示す等価回路において、回路部分T2にテブナンの定理を適用すると、図6に示すような等価回路が得られる。図6において、等価電源35の電圧値V2は式3で表され、等価抵抗22の抵抗値R1は式4で表される。
【0039】
【数3】
【0040】
【数4】
【0041】
図6に示す等価回路において、等価電源33と等価電源35とは、等価抵抗22及び測定用抵抗14を介して直列に接続されているので、等価電源33と等価電源35とを1つにまとめると、図7に示すような等価電源36が得られる。図7において、等価電源36の電圧値V3は式5で表される。
【0042】
【数5】
【0043】
図7に示す等価回路において、等価電源36の電圧値V3を差動成分と同相成分とに分けると、図8に示すような等価電源37及び38が得られる。図8において、等価電源37の電圧値V4は差動成分であり、式6で表される。等価電源38の電圧値V5は同相成分であり、式7で表される。
【0044】
【数6】
【0045】
【数7】
【0046】
図8に示す等価回路は、図9に示す直流成分の等価回路と図10に示す交流成分の等価回路とに分けることができる。
【0047】
図9に示すように直流成分の等価回路では、差動成分V4を有する等価電源37に等価抵抗22及び測定用抵抗14が接続される。オームの法則を用いて測定用抵抗14に印加される電圧成分VinLを求めると、式8のように表される。式8において、直流成分を含まない信号成分である(Vp+Vn)/2をVcom、直流成分を含む信号成分(Vp-Vn)/2をVdifに置き換えている。電圧成分VinLは、抵抗電圧測定部15により測定された測定用抵抗14の抵抗電圧から直流成分抽出部16(ローパスフィルタ)により交流成分を除去することで得られる直流成分に対応する。
【0048】
【数8】
【0049】
図10に示すように交流成分の等価回路では、同相成分V5を有する等価電源38に等価抵抗22及び測定用抵抗14が接続される。オームの法則を用いて測定用抵抗14に印加される電圧成分VinHを求めると、式9のように表される。式9において、直流成分を含まない信号成分である(Vp+Vn)/2をVcom、直流成分を含む信号成分(Vp-Vn)/2をVdifに置き換えている。電圧成分VinHは、抵抗電圧測定部15により測定された測定用抵抗14の抵抗電圧から交流成分抽出部17(ハイパスフィルタ)により直流成分を除去することで得られる交流成分に対応する。
【0050】
【数9】
【0051】
式8及び式9についての連立方程式を絶縁抵抗値Rmについて解くことで、絶縁抵抗値Rmを求めるための式1が得られる。測定用抵抗14の一端がDCリンクの負電位線に接続される第1の形態では、絶縁抵抗値計算部19は、式1に従って、モータ3の絶縁抵抗値Rmを計算する。式1において、値Vcomは(Vp+Vn)/2によって表され、値Vdifは(Vp-Vn)/2によって表される。Vpは、インバータ部12による電力変換動作の停止時にDCリンク電位測定部18により測定されるDCリンクの正電位線における正電位である。Vnは、インバータ部12による電力変換動作の停止時にDCリンク電位測定部18により測定されるDCリンクの負電位線における負電位である。直流成分VinLは、インバータ部12による電力変換動作の停止時に抵抗電圧測定部15により測定された測定用抵抗14の抵抗電圧から直流成分抽出部16(ローパスフィルタ)により交流成分を除去することで得られる。交流成分VinHは、インバータ部12による電力変換動作の停止時に抵抗電圧測定部15により測定された測定用抵抗14の抵抗電圧から交流成分抽出部17(ハイパスフィルタ)により直流成分を除去することで得られる。測定用抵抗14の抵抗値Rinについては、予め測定しておくか、あるいは、規格表に規定された値を用いればよい。また、分圧抵抗13-1及び13-2の各抵抗値Rは、式8及び式9の連立方程式を解くことによって求めることができる。つまり、「式1に従ってモータ3の絶縁抵抗値Rmを計算する」とは、「直流成分抽出部16により抽出された抵抗電圧の直流成分VinLと、交流成分抽出部17により抽出された抵抗電圧の交流成分VinHと、DCリンク電位測定部18により測定されたDCリンクの正電位Vp及び負電位Vnとに基づいて、モータ3の絶縁抵抗値Rmを計算する」ことを意味する。
【0052】
なお、第1の形態において、値Vcom及び交流成分VinH並びに値Vdif及び直流成分VinLについては、整流回路を通して直流に変換してから測定してもよい。この場合、例えば交流成分抽出部17により抽出された抵抗電圧の交流成分VinHを整流したうえで絶対値をとり、この値に基づいて式10に従ってモータ3の絶縁抵抗値Rmを計算する。あるいは、例えば交流成分抽出部17により抽出された抵抗電圧の交流成分VinHを整流したうえで絶対値をとるとともに直流成分抽出部16により抽出された抵抗電圧の直流成分VinLを整流したうえで絶対値をとり、これらの値に基づいて式10に従ってモータ3の絶縁抵抗値Rmを計算する。なお、式9の交流成分VinH及び式8の直流成分VinLの絶対値をとっているので、式10は、式1とは符号が一部異なったものとなる。
【0053】
【数10】
【0054】
続いて、測定用抵抗14の一端がDCリンクの正電位線に接続される第2の形態による絶縁抵抗値計算部19における計算処理について説明する。
【0055】
図11は、本開示の一実施形態によるモータ駆動装置(第2の形態)を示す図である。第2の形態では、測定用抵抗14は、分圧抵抗13-1と分圧抵抗13-2との接続点とDCリンクの正電位線との間に接続される。なお、これ以外の回路構成要素については図1に示す回路構成要素と同様であるので、同一の回路構成要素には同一符号を付して当該回路構成要素についての詳細な説明は省略する。また、第1の形態と同様に、第2の形態においても、インバータ部12内のブリッジ回路におけるスイッチング素子のオフ抵抗を、分圧抵抗13-1及び13-2として流用してもよい。
【0056】
図11に示す第2の形態では、絶縁抵抗値計算部19は、式11に従って、モータ3の絶縁抵抗値Rmを計算する。式11において、測定用抵抗14の抵抗値をRin、インバータ部12による電力変換動作の停止時にDCリンク電位測定部18により測定されたDCリンクの正電位の値をVp、インバータ部12による電力変換動作の停止時にDCリンク電位測定部18により測定されたDCリンクの負電位の値をVnとする。また、直流成分抽出部16(ローパスフィルタ)により抽出されたインバータ部12による電力変換動作の停止時における抵抗電圧の直流成分の値をVinL、交流成分抽出部17(ハイパスフィルタ)により抽出されたインバータ部12による電力変換動作の停止時における抵抗電圧の交流成分の値をVinHとする。また、値Vcomを(Vp+Vn)/2、値Vdifを(Vp-Vn)/2とする。
【0057】
【数11】
【0058】
ここで、測定用抵抗14の一端がDCリンクの正電位線に接続される第2の形態による絶縁抵抗値計算部19における計算処理において用いられる式11の導出過程について説明する。図12図18は、第2の形態による絶縁抵抗値計算部の計算処理における式11の導出に用いられる等価回路を示す図である。
【0059】
絶縁抵抗値計算部19による絶縁抵抗値Rmの算出には、インバータ部12による電力変換動作を停止させた状態において抵抗電圧測定部15及びDCリンク電位測定部18により測定されたデータが用いられる。インバータ部12による電力変換動作を停止させた状態では、図12図18にはインバータ部12に関する回路は現れない。
【0060】
図11に示すDCリンクの正電位線における正電位Vpを、図12では等価電源51で表す。同様に、図3に示すDCリンクの負電位線における負電位Vnを、図12では等価電源52で表す。このとき、図11に示す分圧抵抗13-1及び13-2、測定用抵抗14、並びにモータ3の絶縁抵抗20は、等価電源51及び52に対して図12に示すように接続される。分圧抵抗13-1及び13-2の抵抗値をそれぞれRとし、測定用抵抗14の抵抗値をRinとし、モータ3の絶縁抵抗20の抵抗値をRmとする。抵抗電圧測定部15により測定される測定用抵抗14の抵抗電圧の値をVinとする。
【0061】
図12に示す等価回路において、等価電源51及び52並びに分圧抵抗13-1及び13-2にテブナンの定理を適用すると、図13に示すような等価回路が得られる。図5において、等価電源54の電圧値V6は式12で表され、等価抵抗41の抵抗値はR/2となる。
【0062】
【数12】
【0063】
図13に示す等価回路において、回路部分T3にテブナンの定理を適用すると、図14に示すような等価回路が得られる。図14において、等価電源55の電圧値V7は式13で表され、等価抵抗42の抵抗値R2は式14で表される。
【0064】
【数13】
【0065】
【数14】
【0066】
図14に示す等価回路において、等価電源53と等価電源55とは、等価抵抗42及び測定用抵抗14を介して直列に接続されているので、等価電源53と等価電源55とを1つにまとめると、図15に示すような等価電源56が得られる。図15において、等価電源56の電圧値V8は式15で表される。
【0067】
【数15】
【0068】
図15に示す等価回路において、等価電源56の電圧値V8を差動成分と同相成分とに分けると、図16に示すような等価電源57及び58が得られる。図16において、等価電源57の電圧値V9は差動成分であり、式16で表される。等価電源58の電圧値V10は同相成分であり、式17で表される。
【0069】
【数16】
【0070】
【数17】
【0071】
図16に示す等価回路は、図17に示す直流成分の等価回路と図18に示す交流成分の等価回路とに分けることができる。
【0072】
図17に示すように直流成分の等価回路では、差動成分V9を有する等価電源57に等価抵抗42及び測定用抵抗14が接続される。オームの法則を用いて測定用抵抗14に印加される電圧成分VinLを求めると、式18のように表される。式18において、直流成分を含まない信号成分である(Vp+Vn)/2をVcom、直流成分を含む信号成分(Vp-Vn)/2をVdifに置き換えている。電圧成分VinLは、抵抗電圧測定部15により測定された測定用抵抗14の抵抗電圧から直流成分抽出部16(ローパスフィルタ)により交流成分を除去することで得られる直流成分に対応する。
【0073】
【数18】
【0074】
図18に示すように交流成分の等価回路では、同相成分V10を有する等価電源58に等価抵抗42及び測定用抵抗14が接続される。オームの法則を用いて測定用抵抗14に印加される電圧成分VinHを求めると、式19のように表される。式19において、直流成分を含まない信号成分である(Vp+Vn)/2をVcom、直流成分を含む信号成分(Vp-Vn)/2をVdifに置き換えている。電圧成分VinHは、抵抗電圧測定部15により測定された測定用抵抗14の抵抗電圧から交流成分抽出部17(ハイパスフィルタ)により直流成分を除去することで得られる交流成分に対応する。
【0075】
【数19】
【0076】
式18及び式19についての連立方程式を絶縁抵抗値Rmについて解くことで、絶縁抵抗値Rmを求めるための式11が得られる。測定用抵抗14の一端がDCリンクの正電位線に接続される第2の形態では、絶縁抵抗値計算部19は、式11に従って、モータ3の絶縁抵抗値Rmを計算する。式11において、値Vcomは(Vp+Vn)/2によって表され、値Vdifは(Vp-Vn)/2によって表される。Vpは、インバータ部12による電力変換動作の停止時にDCリンク電位測定部18により測定されるDCリンクの正電位線における正電位である。Vnは、インバータ部12による電力変換動作の停止時にDCリンク電位測定部18により測定されるDCリンクの負電位線における負電位である。直流成分VinLは、インバータ部12による電力変換動作の停止時に抵抗電圧測定部15により測定された測定用抵抗14の抵抗電圧から直流成分抽出部16(ローパスフィルタ)により交流成分を除去することで得られる。交流成分VinHは、インバータ部12による電力変換動作の停止時に抵抗電圧測定部15により測定された測定用抵抗14の抵抗電圧から交流成分抽出部17(ハイパスフィルタ)により直流成分を除去することで得られる。測定用抵抗14の抵抗値Rinについては、予め測定しておくか、あるいは、規格表に規定された値を用いればよい。また、分圧抵抗13-1及び13-2の各抵抗値Rは、式18及び式19の連立方程式を解くことによって求めることができる。つまり、「式11に従ってモータ3の絶縁抵抗値Rmを計算する」とは、「直流成分抽出部16により抽出された抵抗電圧の直流成分VinLと、交流成分抽出部17により抽出された抵抗電圧の交流成分VinHと、DCリンク電位測定部18により測定されたDCリンクの正電位Vp及び負電位Vnとに基づいて、モータ3の絶縁抵抗値Rmを計算する」ことを意味する。
【0077】
なお、第2の形態において、値Vcom及び交流成分VinH並びに値Vdif及び直流成分VinLについては、整流回路を通して直流に変換してから測定してもよい。この場合、例えば交流成分抽出部17により抽出された抵抗電圧の交流成分VinHを整流したうえで絶対値をとり、この値に基づいて式20により抽出された抵抗電圧の交流成分VinHを整流したうえで絶対値をとるとともに直流成分抽出部16により抽出された抵抗電圧の直流成分VinLを整流したうえで絶対値をとり、これらの値に基づいて式20に従ってモータ3の絶縁抵抗値Rmを計算する。なお、式19の交流成分VinH及び式18の直流成分VinLの絶対値をとっているので、式20は、式11とは符号が一部異なったものとなる。
【0078】
【数20】
【0079】
上述のように、第1の形態及び第2の形態のいずれにおいても、抵抗電圧測定部15による測定処理及びDCリンク電位測定部18による測定処理は、インバータ部12による電力変換動作を停止させた状態(すなわちインバータ部12内の全てのスイッチング素子をオフさせた状態)で実行され、このとき測定されたデータに基づいて絶縁抵抗値計算部19は絶縁抵抗値Rmを算出している。すなわち、本開示の一実施形態によれば、インバータ部12による電力変換動作を停止させた状態で、抵抗電圧測定部15、直流成分抽出部16、交流成分抽出部17、DCリンク電位測定部18、及び絶縁抵抗値計算部19を動作させることで、モータ3の絶縁抵抗値Rmを測定することができる。よって、モータ3の絶縁抵抗値Rmの測定に際して、従来のようにモータ駆動装置1を交流電源2から切り離す必要はない。また、モータ3の絶縁抵抗値Rmの測定のためにモータ駆動装置1と交流電源2との間に遮断器を設置する必要はないので、低コストである。モータ駆動装置1と交流電源2との間に遮断器が設置されない状況においても、モータ3の絶縁抵抗値Rmを測定することができる。
【0080】
絶縁抵抗値計算部19により算出された絶縁抵抗値Rmを、例えば表示部(図示せず)に表示させてもよい。これにより、作業者は、モータ3の絶縁抵抗値Rmを迅速かつ容易に把握することができる。
【0081】
また、絶縁抵抗値計算部19により算出された絶縁抵抗値Rmを絶縁劣化の判断基準となる閾値と比較してモータ3の絶縁劣化判定を行う判定部(図示せず)を設け、判定部により絶縁抵抗値Rmが閾値を超えたと判定した場合に、「モータ3に絶縁劣化が発生したこと」を表示部に表示させてもよい。表示部の例としては、単体のディスプレイ装置、モータ駆動装置1に付属のディスプレイ装置、並びに、パソコン及び携帯端末に付属のディスプレイ装置などがある。またあるいは、表示部とともにあるいは表示部に代えて、例えば音声、スピーカ、ブザー、チャイムなどのような音を発する音響機器にて、「モータ3に絶縁劣化が発生したこと」を作業者に通知するようにしてもよい。これにより、作業者は、モータ3に絶縁劣化が発生したことを迅速かつ容易に把握することができる。よって、作業者は、例えばモータ3の交換または修理といった対応をとること容易となる。
【0082】
直流成分抽出部16、交流成分抽出部17、絶縁抵抗値計算部19、及び上位制御装置は、アナログ回路と演算処理装置との組み合わせで構成されてもよく、あるいは演算処理装置のみで構成されてもよく、あるいはアナログ回路のみで構成されてもよい。例えば、直流成分抽出部16、交流成分抽出部17、絶縁抵抗値計算部19、及び上位制御装置をソフトウェアプログラム形式で構築する場合は、演算処理装置をこのソフトウェアプログラムに従って動作させることで、直流成分抽出部16、交流成分抽出部17、絶縁抵抗値計算部19、及び上位制御装置の各機能を実現することができる。またあるいは、直流成分抽出部16、交流成分抽出部17、絶縁抵抗値計算部19、及び上位制御装置を、各部の機能を実現するソフトウェアプログラムを書き込んだ半導体集積回路として実現してもよい。またあるいは、直流成分抽出部16、交流成分抽出部17、絶縁抵抗値計算部19、及び上位制御装置を、各部の機能を実現するソフトウェアプログラムを書き込んだ記録媒体として実現してもよい。また、直流成分抽出部16、交流成分抽出部17、絶縁抵抗値計算部19、及び上位制御装置は、例えば工作機械の数値制御装置内に設けられてもよく、ロボットを制御するロボットコントローラ内に設けられてもよい。
【0083】
抵抗電圧測定部15及びDCリンク電位測定部18は、アナログ回路と演算処理装置との組み合わせで構成されてもよく、あるいは演算処理装置のみで構成されてもよく、あるいはアナログ回路のみで構成されてもよい。抵抗電圧測定部15及びDCリンク電位測定部18については、モータ駆動装置1に一般的に設けられるものを流用してもよい。ただし、絶縁抵抗値計算部19による絶縁抵抗値Rmの算出には、インバータ部12による電力変換動作を停止させた状態において抵抗電圧測定部15及びDCリンク電位測定部18により測定されたデータが用いられる。
【0084】
図19は、本開示の一実施形態によるモータ駆動装置の動作フローを示すフローチャートである。図19に示すフローチャートは、第1の形態及び第2の形態のいずれのモータ駆動装置1についても適用可能である。
【0085】
モータ3の絶縁抵抗値Rmを測定するに際し、まず、ステップS101において、上位制御装置(図示せず)は、インバータ部12内の全てのスイッチング素子をオフさせてインバータ部12による電力変換動作を停止させる。
【0086】
ステップS102において、抵抗電圧測定部15は、測定用抵抗14の両端の電位差である抵抗電圧Vinを測定する。抵抗電圧測定部15により測定された測定用抵抗14の抵抗電圧Vinに関する信号は、直流成分抽出部16及び交流成分抽出部17へ送られる。
【0087】
ステップS103において、直流成分抽出部16は、抵抗電圧測定部15により測定された抵抗電圧Vinから直流成分VinLを抽出する。直流成分抽出部16により抽出された抵抗電圧の直流成分VinLに関する信号は、絶縁抵抗値計算部19へ送られる。
【0088】
ステップS104において、交流成分抽出部17は、抵抗電圧測定部15により測定された抵抗電圧Vinから交流成分VinHを抽出する。交流成分抽出部17により抽出された抵抗電圧の交流成分VinHに関する信号は、絶縁抵抗値計算部19へ送られる。
【0089】
なお、ステップS103の処理とステップS104の処理とは順序を入れ替えて実行してもよい。
【0090】
ステップS105において、DCリンク電位測定部18は、DCリンクの正電位線における正電位Vp及び負電位線における負電位Vnを測定する。DCリンク電位測定部18により測定されたDCリンクの正電位Vp及び負電位Vnに関する信号は、絶縁抵抗値計算部19へ送られる。
【0091】
なお、ステップS102~S104の処理とステップS105の処理とは順序を入れ替えて実行してもよい。
【0092】
ステップS106において、絶縁抵抗値計算部19は、直流成分抽出部16により抽出された抵抗電圧の直流成分VinLと、交流成分抽出部17により抽出された抵抗電圧の交流成分VinHと、DCリンク電位測定部18により測定されたDCリンクの正電位Vp及び負電位Vnとに基づいて、モータ3の絶縁抵抗値Rmを計算する。測定用抵抗14の一端がDCリンクの負電位線に接続される第1の形態では、絶縁抵抗値計算部19は、式1に従ってモータ3の絶縁抵抗値Rmを計算する。測定用抵抗14の一端がDCリンクの正電位線に接続される第2の形態では、絶縁抵抗値計算部19は、式11に従ってモータ3の絶縁抵抗値Rmを計算する。
【0093】
ステップS106の後、例えば、絶縁抵抗値計算部19により算出された絶縁抵抗値Rmを、表示部(図示せず)に表示させてもよい。また例えば、絶縁抵抗値計算部19により算出された絶縁抵抗値Rmを絶縁劣化の判断基準となる閾値と比較してモータ3の絶縁劣化判定を行う判定部(図示せず)を設け、判定部により絶縁抵抗値Rmが閾値を超えたと判定した場合に、「モータ3に絶縁劣化が発生したこと」を表示部に表示させてもよい。また例えば、表示部とともにあるいは表示部に代えて、例えば音声、スピーカ、ブザー、チャイムなどのような音を発する音響機器にて、「モータ3に絶縁劣化が発生したこと」を作業者に通知するようにしてもよい。
【0094】
図20は、デルタ結線により交流電源と本開示の一実施形態によるモータ駆動装置とが結線される場合におけるDCリンクの正電位及び負電位のシミュレーション結果を説明する図である。式1及び式11に示したように、絶縁抵抗値Rmの計算にあたっては(Vp+Vn)/2で表される値Vcomと(Vp-Vn)/2で表されるVdifを用いている。図20に示すように、正電位Vpと負電位Vnの差「Vp-Vn」が一定であることから直流成分として機能しており、正電位Vpと負電位Vnの和「Vp+Vn」が一定であることから交流成分として機能していることが分かる。
【符号の説明】
【0095】
1 モータ駆動装置
2 交流電源
3 モータ
4 DCリンクコンデンサ
11 コンバータ部
12 インバータ部
13-1、13-2 分圧抵抗
14 測定用抵抗
15 抵抗電圧測定部
16 直流成分抽出部
17 交流成分抽出部
18 DCリンク電位測定部
19 絶縁抵抗値計算部
20 モータの絶縁抵抗
21、22 等価抵抗
31、32、33、34、35、36、37、38 等価電源
41、42 等価抵抗
51、52、53、54、55、56、57、58 等価電源
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20