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  • 特許-LDHセパレータ 図1A
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-16
(54)【発明の名称】LDHセパレータ
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/446 20210101AFI20231108BHJP
   H01M 8/0289 20160101ALI20231108BHJP
   H01M 8/1016 20160101ALI20231108BHJP
   H01M 10/24 20060101ALI20231108BHJP
   H01M 50/414 20210101ALI20231108BHJP
   H01M 50/417 20210101ALI20231108BHJP
   H01M 50/423 20210101ALI20231108BHJP
   H01M 50/426 20210101ALI20231108BHJP
   H01M 50/429 20210101ALI20231108BHJP
   H01M 50/434 20210101ALI20231108BHJP
【FI】
H01M50/446
H01M8/0289
H01M8/1016
H01M10/24
H01M50/414
H01M50/417
H01M50/423
H01M50/426
H01M50/429
H01M50/434
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022542627
(86)(22)【出願日】2021-07-29
(86)【国際出願番号】 JP2021028158
(87)【国際公開番号】W WO2022034803
(87)【国際公開日】2022-02-17
【審査請求日】2022-11-02
(31)【優先権主張番号】P 2020136069
(32)【優先日】2020-08-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113365
【弁理士】
【氏名又は名称】高村 雅晴
(74)【代理人】
【識別番号】100209336
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 悠
(74)【代理人】
【識別番号】100218800
【弁理士】
【氏名又は名称】河内 亮
(72)【発明者】
【氏名】小野 駿平
(72)【発明者】
【氏名】山本 翔
(72)【発明者】
【氏名】犬飼 直子
(72)【発明者】
【氏名】横山 昌平
【審査官】冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/121673(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/40
H01M 8/1016
H01M 8/0289
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質基材と、前記多孔質基材の孔に充填される層状複水酸化物(LDH)様化合物である水酸化物イオン伝導層状化合物とを含む、LDHセパレータであって、
前記LDHセパレータに占める前記水酸化物イオン伝導層状化合物の割合が25~85重量%であり、
前記LDH様化合物が、Mgと、Ti、Y及びAlからなる群から選択される少なくともTiを含む1以上の元素とを含む層状結晶構造の水酸化物及び/又は酸化物であり、
前記LDHセパレータの表面に対してX線回折を行った場合に、5°≦2θ≦10°の範囲に前記LDH様化合物に由来するピークが検出される、LDHセパレータ。
【請求項2】
前記LDHセパレータに占める前記水酸化物イオン伝導層状化合物の割合が30~85重量%である、請求項1に記載のLDHセパレータ。
【請求項3】
前記多孔質基材が高分子材料で構成される、請求項1又は2に記載のLDHセパレータ。
【請求項4】
前記高分子材料が、ポリスチレン、ポリエーテルサルフォン、ポリプロピレン、エポキシ樹脂、ポリフェニレンサルファイド、フッ素樹脂、セルロース、ナイロン、及びポリエチレンからなる群から選択される、請求項に記載のLDHセパレータ。
【請求項5】
請求項1~のいずれか一項に記載のLDHセパレータを備えた、亜鉛二次電池。
【請求項6】
請求項1~のいずれか一項に記載のLDHセパレータを備えた、固体アルカリ形燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、LDHセパレータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ニッケル亜鉛二次電池、空気亜鉛二次電池等の亜鉛二次電池では、充電時に負極から金属亜鉛がデンドライト状に析出し、不織布等のセパレータの空隙を貫通して正極に到達し、その結果、短絡を引き起こすことが知られている。このような亜鉛デンドライトに起因する短絡は繰り返し充放電寿命の短縮を招く。
【0003】
上記問題に対処すべく、水酸化物イオンを選択的に透過させながら、亜鉛デンドライトの貫通を阻止する、層状複水酸化物(LDH)セパレータを備えた電池が提案されている。例えば、特許文献1(国際公開第2013/118561号)には、ニッケル亜鉛二次電池においてLDHセパレータを正極及び負極間に設けることが開示されている。また、特許文献2(国際公開第2016/076047号)には、樹脂製外枠に嵌合又は接合されたLDHセパレータを備えたセパレータ構造体が開示されており、LDHセパレータがガス不透過性及び/又は水不透過性を有する程の高い緻密性を有することが開示されている。また、この文献にはLDHセパレータが多孔質基材と複合化されうることも開示されている。特許文献3(国際公開第2016/067884号)には多孔質基材の表面にLDH緻密膜を形成して複合材料(LDHセパレータ)を得るための様々な方法が開示されている。この方法は、多孔質基材にLDHの結晶成長の起点を与えうる起点物質を均一に付着させ、原料水溶液中で多孔質基材に水熱処理を施してLDH緻密膜を多孔質基材の表面に形成させる工程を含むものである。
【0004】
水熱処理を経て作製したLDH/多孔質基材の複合材料をロールプレスすることで更なる緻密化を実現したLDHセパレータも提案されている。例えば、特許文献4(国際公開第2019/124270号)には、高分子多孔質基材と、この多孔質基材に充填されるLDHとを含み、波長1000nmにおける直線透過率が1%以上である、LDHセパレータが開示されている。このLDHセパレータは多孔質基材の孔がLDHで十分に塞がれて透光性を帯びてくる程に緻密性を有しており、それ故、亜鉛デンドライトに起因する短絡をより一層効果的に抑制することができる。また、特許文献5(国際公開第2019/124212号)には、高分子多孔質基材と、この多孔質基材に充填されるLDHとを含み、0.03%以上1.0%未満の平均気孔率を有する、LDHセパレータが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2013/118561号
【文献】国際公開第2016/076047号
【文献】国際公開第2016/067884号
【文献】国際公開第2019/124270号
【文献】国際公開第2019/124212号
【発明の概要】
【0006】
上述したような高度に緻密化されたLDHセパレータを用いてニッケル亜鉛電池等の亜鉛二次電池を構成した場合、亜鉛デンドライトによる短絡等をある程度防止できる。しかしながら、LDHセパレータはLDH等の水酸化物イオン伝導層状化合物の水酸化物イオン伝導性を専ら利用して水酸化物イオンを選択的に通すものであるため、緻密性のみならずイオン伝導性の更なる改善が望まれる。
【0007】
本発明者らは、今般、LDH及び/又はLDH様化合物である水酸化物イオン伝導層状化合物を含むLDHセパレータにおいて、LDHセパレータに占める水酸化物イオン伝導層状化合物の割合を25~85重量%の範囲内にすることで、緻密性及びイオン伝導率を望ましく両立できるとの知見を得た。
【0008】
したがって、本発明の目的は、緻密性及びイオン伝導率が望ましく両立されたLDHセパレータを提供することにある。
【0009】
本発明の一態様によれば、多孔質基材と、前記多孔質基材の孔に充填される層状複水酸化物(LDH)及び/又は層状複水酸化物(LDH)様化合物である水酸化物イオン伝導層状化合物とを含む、LDHセパレータであって、
前記LDHセパレータに占める前記水酸化物イオン伝導層状化合物の割合が25~85重量%である、LDHセパレータが提供される。
【0010】
本発明の他の一態様によれば、前記LDHセパレータを備えた、亜鉛二次電池が提供される。
【0011】
本発明の他の一態様によれば、前記LDHセパレータを備えた、固体アルカリ形燃料電池が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1A】例A1~E5で用いたHe透過度測定系の一例を示す概念図である。
図1B図1Aに示される測定系に用いられる試料ホルダ及びその周辺構成の模式断面図である。
図2】例A2~E5で用いた電気化学測定系を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
LDHセパレータ
本発明のLDHセパレータは、多孔質基材と、多孔質基材の孔に充填される水酸化物イオン伝導層状化合物とを含む。水酸化物イオン伝導層状化合物は、層状複水酸化物(LDH)及び/又は層状複水酸化物(LDH)様化合物である。本明細書において「LDHセパレータ」は、LDH及び/又はLDH様化合物を含むセパレータであって、専らLDH及び/又はLDH様化合物の水酸化物イオン伝導性を利用して水酸化物イオンを選択的に通すものとして定義される。本明細書において「LDH様化合物」は、LDHとは呼べないかもしれないがLDHに類する層状結晶構造の水酸化物及び/又は酸化物であり、LDHの均等物といえるものである。もっとも、広義の定義として、「LDH」はLDHのみならずLDH様化合物を包含するものとして解釈することも可能である。LDHセパレータは、水酸化物イオン伝導性及びガス不透過性を呈するように(それ故水酸化物イオン伝導性を呈するLDHセパレータとして機能するように)LDH及び/又はLDH様化合物が多孔質基材の孔を塞いでいる。例えば、特許文献1~5に開示されるような公知のLDHセパレータが使用可能である。いずれにしても、LDH及び/又はLDH様化合物である水酸化物イオン伝導層状化合物を含むLDHセパレータにおいて、LDHセパレータに占める水酸化物イオン伝導層状化合物の割合を25~85重量%の範囲内にすることで、緻密性及びイオン伝導率が望ましく両立することができる。
【0014】
LDHセパレータに占める水酸化物イオン伝導層状化合物の割合は、25~85重量%であり、好ましくは30~85重量%、より好ましくは35~85重量%、さらに好ましくは40~85重量%である。これらの範囲内であるとLDHセパレータの緻密性及びイオン伝導率の両立をより効果的に実現できる。特に、水酸化物イオン伝導層状化合物の割合が85重量を超える範囲ではイオン伝導率が著しく低下するところ、本発明によれば高いイオン伝導率を実現することができる。ここで、LDHセパレータに占める水酸化物イオン伝導層状化合物の割合は、水酸化物イオン伝導層状化合物の重量をWh、多孔質基材の重量をWpとしたとき、[Wh/(Wh+Wp)]×100により算出される値である。
【0015】
例えば、LDHセパレータは、1.0mS/cm以上のイオン伝導率を有するのが好ましく、より好ましくは1.5mS/cm以上、さらに好ましくは2.0mS/cm以上、特に好ましくは2.5mS/cm以上である。イオン伝導率は高ければ高い方が望ましいため、その上限は限定されないが、例えば10mS/cmである。
【0016】
一方、LDHセパレータの緻密性は、He透過度により評価することができる。すなわち、LDHセパレータは、単位面積あたりのHe透過度が10cm/min・atm以下であるのが好ましく、より好ましくは5.0cm/min・atm以下、さらに好ましくは1.0cm/min・atm以下である。このような範囲内のHe透過度を有するLDHセパレータは緻密性が極めて高いといえる。したがって、He透過度が10cm/min・atm以下であるセパレータは、水酸化物イオン以外の物質の通過を高いレベルで阻止することができる。例えば、亜鉛二次電池の場合、電解液中においてZnの透過(典型的には亜鉛イオン又は亜鉛酸イオンの透過)を極めて効果的に抑制することができる。He透過度は、セパレータの一方の面にHeガスを供給してセパレータにHeガスを透過させる工程と、He透過度を算出して水酸化物イオン伝導セパレータの緻密性を評価する工程とを経て測定される。He透過度は、単位時間あたりのHeガスの透過量F、Heガス透過時にセパレータに加わる差圧P、及びHeガスが透過する膜面積Sを用いて、F/(P×S)の式により算出する。このようにHeガスを用いてガス透過性の評価を行うことにより、極めて高いレベルでの緻密性の有無を評価することができ、その結果、水酸化物イオン以外の物質(特に亜鉛デンドライト成長を引き起こすZn)を極力透過させない(極微量しか透過させない)といった高度な緻密性を効果的に評価することができる。これは、Heガスが、ガスを構成しうる多種多様な原子ないし分子の中でも最も小さい構成単位を有しており、しかも反応性が極めて低いためである。すなわち、Heは、分子を形成することなく、He原子単体でHeガスを構成する。この点、水素ガスはH分子により構成されるため、ガス構成単位としてはHe原子単体の方がより小さい。そもそもHガスは可燃性ガスのため危険である。そして、上述した式により定義されるHeガス透過度という指標を採用することで、様々な試料サイズや測定条件の相違を問わず、緻密性に関する客観的な評価を簡便に行うことができる。こうして、セパレータが亜鉛二次電池用セパレータに適した十分に高い緻密性を有するのか否かを簡便、安全かつ効果的に評価することができる。He透過度の測定は、後述する実施例の評価5に示される手順に従って好ましく行うことができる。
【0017】
前述のとおり、LDHセパレータは、多孔質基材と、LDH及び/又はLDH様化合物(以下、水酸化物イオン伝導層状化合物と総称する)とを含む。LDHセパレータの上面と下面の間で水酸化物イオン伝導層状化合物が繋がっており、それによりLDHセパレータの水酸化物イオン伝導性が確保されている。LDHセパレータにおいて、多孔質基材の孔を水酸化物イオン伝導層状化合物が塞いでいるが、多孔質基材の孔は完全に塞がれている必要はなく、残留気孔が僅かに存在していてもよい。
【0018】
LDHは、複数の水酸化物基本層と、これら複数の水酸化物基本層間に介在する中間層とから構成される。水酸化物基本層は主として金属元素(典型的には金属イオン)とOH基で構成される。LDHの中間層は、陰イオン及びHOで構成される。陰イオンは1価以上の陰イオン、好ましくは1価又は2価のイオンである。好ましくは、LDH中の陰イオンはOH及び/又はCO 2-を含む。また、LDHはその固有の性質に起因して優れたイオン伝導性を有する。一般的に、LDHは、M2+ 1-x3+ (OH)n- x/n・mHO(式中、M2+は2価の陽イオンであり、M3+は3価の陽イオンであり、An-はn価の陰イオンであり、nは1以上の整数であり、xは0.1~0.4であり、mは0以上である)の基本組成式で代表されるものとして知られている。上記基本組成式において、M2+は任意の2価の陽イオンでありうるが、好ましい例としてはMg2+、Ca2+及びZn2+が挙げられ、より好ましくはMg2+である。M3+は任意の3価の陽イオンでありうるが、好ましい例としてはAl3+又はCr3+が挙げられ、より好ましくはAl3+である。An-は任意の陰イオンでありうるが、好ましい例としてはOH及びCO 2-が挙げられる。したがって、上記基本組成式において、M2+がMg2+を含み、M3+がAl3+を含み、An-がOH及び/又はCO 2-を含むのが好ましい。nは1以上の整数であるが、好ましくは1又は2である。xは0.1~0.4であるが、好ましくは0.2~0.35である。mは水のモル数を意味する任意の数であり、0以上、典型的には0を超える又は1以上の実数である。もっとも、上記基本組成式は、一般にLDHに関して代表的に例示される「基本組成」の式にすぎず、構成イオンを適宜置き換え可能なものである。例えば、上記基本組成式においてM3+の一部または全部を4価またはそれ以上の価数の陽イオン(例えばTi4+)で置き換えてもよく、その場合は、上記一般式における陰イオンAn-の係数x/nは適宜変更されてよい。
【0019】
例えば、LDHの水酸化物基本層は、Mg、Al、Ti及びOH基を含むのが優れた耐アルカリ性を呈する点で特に好ましい。この場合、水酸化物基本層は、Mg、Al、Ti及びOH基を含んでいさえすれば、他の元素ないしイオンを含んでいてもよい。例えば、LDHないし水酸化物基本層には、Y及び/又はZnが含まれていてもよい。また、LDHないし水酸化物基本層にY及び/又はZnが含まれている場合、LDHないし水酸化物基本層にはAl又はTiが含まれていなくてもよい。もっとも、水酸化物基本層は、Mg、Al、Ti及びOH基を主要構成要素として含むのが好ましい。すなわち、水酸化物基本層は、主としてMg、Al、Ti及びOH基からなるのが好ましい。したがって、水酸化物基本層は、Mg、Al、Ti、OH基及び場合により不可避不純物で構成されるのが典型的である。エネルギー分散型X線分析(EDS)により決定される、LDHにおけるTi/Alの原子比が0.5~12であるのが好ましく、より好ましくは1.0~12である。上記範囲内であると、イオン伝導性を損なうことなく、亜鉛デンドライトに起因する短絡の抑制効果(すなわちデンドライト耐性)をより効果的に実現することができる。同様の理由から、エネルギー分散型X線分析(EDS)により決定される、LDHにおけるTi/(Mg+Ti+Al)の原子比は0.1~0.7であるのが好ましく、より好ましくは0.2~0.7である。また、LDHにおけるAl/(Mg+Ti+Al)の原子比は0.05~0.4であるのが好ましく、より好ましくは0.05~0.25である。さらに、LDHにおけるMg/(Mg+Ti+Al)の原子比は0.2~0.7であるのが好ましく、より好ましくは0.2~0.6である。なお、EDS分析は、EDS分析装置(例えばX-act、オックスフォード・インストゥルメンツ社製)を用いて、1)加速電圧20kV、倍率5,000倍で像を取り込み、2)点分析モードで5μm程度間隔を空け、3点分析を行い、3)上記1)及び2)をさらに1回繰り返し行い、4)合計6点の平均値を算出することにより行うのが好ましい。
【0020】
あるいは、LDHの水酸化物基本層は、Ni、Al、Ti及びOH基を含むものであってもよい。この場合、水酸化物基本層は、Ni、Al、Ti及びOH基を含んでいさえすれば、他の元素ないしイオンを含んでいてもよい。もっとも、水酸化物基本層は、Ni、Al、Ti及びOH基を主要構成要素として含むのが好ましい。すなわち、水酸化物基本層は、主としてNi、Al、Ti及びOH基からなるのが好ましい。したがって、水酸化物基本層は、Ni、Al、Ti、OH基及び場合により不可避不純物で構成されるのが典型的である。エネルギー分散型X線分析(EDS)により決定される、LDHにおけるTi/(Ni+Ti+Al)の原子比が、0.10~0.90であるのが好ましく、より好ましくは0.20~0.80、さらに好ましくは0.25~0.70、特に好ましくは0.30~0.61である。上記範囲内であると、耐アルカリ性とイオン伝導性の両方を向上することができる。したがって、水酸化物イオン伝導層状化合物は、LDHのみならずチタニアを副生させるほど多くのTiを含んでいてもよい。すなわち、水酸化物イオン伝導層状化合物はチタニアをさらに含むものであってもよい。チタニアの含有により、親水性が上がり、電解液との濡れ性が向上する(すなわち伝導度が向上する)ことが期待できる。
【0021】
LDH様化合物は、LDHとは呼べないかもしれないがそれに類する層状結晶構造の水酸化物及び/又は酸化物であり、好ましくは、Mgと、Ti、Y及びAlからなる群から選択される少なくともTiを含む1以上の元素とを含む。このように、従来のLDHの代わりに、水酸化物イオン伝導物質として、少なくともMg及びTiを含む層状結晶構造の水酸化物及び/又は酸化物であるLDH様化合物を用いることにより、耐アルカリ性に優れ、かつ、亜鉛デンドライトに起因する短絡をより一層効果的に抑制可能な水酸化物イオン伝導セパレータを提供することができる。したがって、好ましいLDH様化合物は、Mgと、Ti、Y及びAlからなる群から選択される少なくともTiを含む1以上の元素とを含む層状結晶構造の水酸化物及び/又は酸化物である。したがって、典型的なLDH様化合物は、Mg、Ti、所望によりY及び所望によりAlの複合水酸化物及び/又は複合酸化物であり、特に好ましくはMg、Ti、Y及びAlの複合水酸化物及び/又は複合酸化物である。LDH様化合物の基本的特性を損なわない程度に上記元素は他の元素又はイオンで置き換えられてもよいが、LDH様化合物はNiを含まないのが好ましい。
【0022】
LDH様化合物はX線回折により同定することができる。具体的には、LDHセパレータは、その表面に対してX線回折を行った場合、典型的には5°≦2θ≦10°の範囲に、より典型的には7°≦2θ≦10°の範囲にLDH様化合物に由来するピークが検出される。前述のとおり、LDHは積み重なった水酸化物基本層の間に、中間層として交換可能な陰イオン及びHOが存在する交互積層構造を有する物質である。この点、LDHをX線回折法により測定した場合、本来的には2θ=11~12°の位置にLDHの結晶構造に起因したピーク(すなわちLDHの(003)ピーク)が検出される。これに対して、LDH様化合物をX線回折法により測定した場合、典型的にはLDHの上記ピーク位置よりも低角側にシフトした上述の範囲でピークが検出される。また、X線回折におけるLDH様化合物に由来するピークに対応する2θを用いてBraggの式により、層状結晶構造の層間距離を決定することができる。こうして決定されるLDH様化合物を構成する層状結晶構造の層間距離は0.883~1.8nmであるのが典型的であり、より典型的には0.883~1.3nmである。
【0023】
エネルギー分散型X線分析(EDS)により決定される、LDH様化合物におけるMg/(Mg+Ti+Y+Al)の原子比が0.03~0.25であるのが好ましく、より好ましくは0.05~0.2である。また、LDH様化合物におけるTi/(Mg+Ti+Y+Al)の原子比は0.40~0.97であるのが好ましく、より好ましくは0.47~0.94である。さらに、LDH様化合物におけるY/(Mg+Ti+Y+Al)の原子比は0~0.45であるのが好ましく、より好ましくは0~0.37である。そして、LDH様化合物におけるAl/(Mg+Ti+Y+Al)の原子比は0~0.05であるのが好ましく、より好ましくは0~0.03である。上記範囲内であると、耐アルカリ性により一層優れ、かつ、亜鉛デンドライトに起因する短絡の抑制効果(すなわちデンドライト耐性)をより効果的に実現することができる。ところで、LDHセパレータに関して従来から知られるLDHは一般式:M2+ 1-x3+ (OH)n- x/n・mHO(式中、M2+は2価の陽イオン、M3+は3価の陽イオンであり、An-はn価の陰イオン、nは1以上の整数、xは0.1~0.4であり、mは0以上である)なる基本組成で表しうる。これに対して、LDH様化合物における上記原子比は、LDHの上記一般式から概して逸脱している。このため、LDH様化合物は、概して、従来のLDHとは異なる組成比(原子比)を有するといえる。なお、EDS分析は、EDS分析装置(例えばX-act、オックスフォード・インストゥルメンツ社製)を用いて、1)加速電圧20kV、倍率5,000倍で像を取り込み、2)点分析モードで5μm程度間隔を空け、3点分析を行い、3)上記1)及び2)をさらに1回繰り返し行い、4)合計6点の平均値を算出することにより行うのが好ましい。
【0024】
LDHセパレータは、亜鉛二次電池に組み込まれた場合に、正極板と負極板とを水酸化物イオン伝導可能に隔離するものである。好ましいLDHセパレータはガス不透過性及び/又は水不透過性を有する。換言すれば、LDHセパレータはガス不透過性及び/又は水不透過性を有するほどに緻密化されているのが好ましい。なお、本明細書において「ガス不透過性を有する」とは、特許文献2及び3に記載されるように、水中で測定対象物の一面側にヘリウムガスを0.5atmの差圧で接触させても他面側からヘリウムガスに起因する泡の発生がみられないことを意味する。また、本明細書において「水不透過性を有する」とは、特許文献2及び3に記載されるように、測定対象物の一面側に接触した水が他面側に透過しないことを意味する。すなわち、LDHセパレータがガス不透過性及び/又は水不透過性を有するということは、LDHセパレータが気体又は水を通さない程の高度な緻密性を有することを意味し、透水性又はガス透過性を有する多孔性フィルムやその他の多孔質材料ではないことを意味する。こうすることで、LDHセパレータは、その水酸化物イオン伝導性に起因して水酸化物イオンのみを選択的に通すものとなり、電池用セパレータとしての機能を呈することができる。このため、充電時に生成する亜鉛デンドライトによるセパレータの貫通を物理的に阻止して正負極間の短絡を防止するのに極めて効果的な構成となっている。LDHセパレータは水酸化物イオン伝導性を有するため、正極板と負極板との間で必要な水酸化物イオンの効率的な移動を可能として正極板及び負極板における充放電反応を実現することができる。
【0025】
前述したとおり、LDHセパレータは水酸化物イオン伝導層状化合物と多孔質基材とを含み(典型的には多孔質基材及び水酸化物イオン伝導層状化合物からなり)、LDHセパレータは水酸化物イオン伝導性及びガス不透過性を呈するように(それ故水酸化物イオン伝導性を呈するセパレータとして機能するように)水酸化物イオン伝導層状化合物が多孔質基材の孔を塞いでいる。水酸化物イオン伝導層状化合物は多孔質基材の厚さ方向の全域にわたって組み込まれているのが特に好ましい。LDHセパレータの厚さは、好ましくは3~80μmであり、より好ましくは3~60μm、さらに好ましくは3~40μmである。
【0026】
多孔質基材は高分子材料で構成されるのが好ましい。高分子多孔質基材には、1)可撓性を有する(それ故薄くしても割れにくい)、2)気孔率を高くしやすい、3)伝導率を高くしやすい(気孔率を高めながら厚さを薄くできるため)、4)製造及びハンドリングしやすいといった利点がある。また、上記1)の可撓性に由来する利点を活かして、5)高分子材料製の多孔質基材を含む水酸化物イオン伝導セパレータを簡単に折り曲げる又は封止接合することができるとの利点もある。高分子材料の好ましい例としては、ポリスチレン、ポリエーテルサルフォン、ポリプロピレン、エポキシ樹脂、ポリフェニレンサルファイド、フッ素樹脂(四フッ素化樹脂:PTFE等)、セルロース、ナイロン、ポリエチレン及びそれらの任意の組合せが挙げられる。より好ましくは、加熱プレスに適した熱可塑性樹脂という観点から、ポリスチレン、ポリエーテルサルフォン、ポリプロピレン、エポキシ樹脂、ポリフェニレンサルファイド、フッ素樹脂(四フッ素化樹脂:PTFE等)、ナイロン、ポリエチレン及びそれらの任意の組合せ等が挙げられる。上述した各種の好ましい材料はいずれも電池の電解液に対する耐性として耐アルカリ性を有するものである。特に好ましい高分子材料は、耐熱水性、耐酸性及び耐アルカリ性に優れ、しかも低コストである点から、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィンであり、最も好ましくはポリプロピレン又はポリエチレンである。水酸化物イオン伝導層状化合物は高分子多孔質基材の厚さ方向の全域にわたって組み込まれている(例えば高分子多孔質基材内部の大半又はほぼ全部の孔が水酸化物イオン伝導層状化合物で埋まっている)のが特に好ましい。このような高分子多孔質基材として、市販の高分子微多孔膜を好ましく用いることができる。
【0027】
LDHセパレータの製造方法は特に限定されず、既に知られるLDHセパレータ(あるいはLDH含有機能層及び複合材料)の製造方法(例えば特許文献1~5を参照)の諸条件(特にLDH原料組成)をそのまま又は適宜変更することにより作製することができる。例えば、(1)多孔質基材を用意し、(2)多孔質基材に、i)アルミナ及びチタニアの混合ゾル(LDHを形成する場合)、又はii)チタニアゾル(あるいはさらにイットリウムゾル及び/又はアルミナゾル)を含む溶液(LDH様化合物を形成する場合)を塗布して乾燥することでチタニア含有層を形成させ、(3)マグネシウムイオン(Mg2+)及び尿素(あるいはさらにイットリウムイオン(Y3+))を含む原料水溶液に多孔質基材を浸漬させ、(4)原料水溶液中で多孔質基材を水熱処理して、水酸化物イオン伝導層状化合物を多孔質基材上及び/又は多孔質基材中に形成させることにより、LDHセパレータを製造することができる。また、上記工程(3)において尿素が存在することで、尿素の加水分解を利用してアンモニアが溶液中に発生することによりpH値が上昇し、共存する金属イオンが水酸化物及び/又は酸化物を形成することにより水酸化物イオン伝導層状化合物(すなわちLDH及び/又はLDH様化合物)を得ることができるものと考えられる。また、加水分解に二酸化炭素の発生を伴うため、LDHを形成する場合には、陰イオンが炭酸イオン型のLDHを得ることができる。
【0028】
特に、水酸化物イオン伝導層状化合物が高分子多孔質基材の厚さ方向の全域にわたって組み込まれているLDHセパレータを作製する場合、上記(2)における混合ゾル溶液の基材への塗布を、混合ゾル溶液を基材内部の全体又は大部分に浸透させるような手法で行うのが好ましい。こうすることで最終的に多孔質基材内部の大半又はほぼ全部の孔を水酸化物イオン伝導層状化合物で埋めることができる。好ましい塗布手法の例としては、ディップコート、ろ過コート等が挙げられ、特に好ましくはディップコートである。ディップコート等の塗布回数を調整することで、混合ゾル溶液の付着量を調整することができる。ディップコート等により混合ゾル溶液が塗布された基材は、乾燥させた後、上記(3)及び(4)の工程を実施すればよい。
【0029】
上記方法等によって得られたLDHセパレータに対してプレス処理を施してもよい。こうすることで、緻密性により一層優れたLDHセパレータを得ることができる。プレス手法は、例えばロールプレス、一軸加圧プレス、CIP(冷間等方圧加圧)等であってよく、特に限定されないが、好ましくはロールプレスである。このプレスは加熱しながら行うのが高分子多孔質基材を軟化させることで、高分子多孔質基材の孔を水酸化物イオン伝導層状化合物で十分に塞ぐことができる点で好ましい。十分に軟化する温度として、例えば、ポリプロピレンやポリエチレンの場合は60~200℃で加熱するのが好ましい。このような温度域でロールプレス等のプレスを行うことで、LDHセパレータの残留気孔を大幅に低減することができる。その結果、LDHセパレータを極めて高度に緻密化することができ、それ故、亜鉛デンドライトに起因する短絡をより一層効果的に抑制することができる。ロールプレスを行う際、ロールギャップ及びロール温度を適宜調整することで残留気孔の形態を制御することができ、それにより所望の緻密性のLDHセパレータを得ることができる。
【0030】
亜鉛二次電池
本発明のLDHセパレータは亜鉛二次電池に適用されるのが好ましい。したがって、本発明の好ましい態様によれば、LDHセパレータを備えた、亜鉛二次電池が提供される。典型的な亜鉛二次電池は、正極と、負極と、電解液とを備え、LDHセパレータを介して正極と負極が互いに隔離されるものである。本発明の亜鉛二次電池は、亜鉛を負極として用い、かつ、電解液(典型的にはアルカリ金属水酸化物水溶液)を用いた二次電池であれば特に限定されない。したがって、ニッケル亜鉛二次電池、酸化銀亜鉛二次電池、酸化マンガン亜鉛二次電池、亜鉛空気二次電池、その他各種のアルカリ亜鉛二次電池であることができる。例えば、正極が水酸化ニッケル及び/又はオキシ水酸化ニッケルを含み、それにより亜鉛二次電池がニッケル亜鉛二次電池をなすのが好ましい。あるいは、正極が空気極であり、それにより亜鉛二次電池が亜鉛空気二次電池をなしてもよい。
【0031】
固体アルカリ形燃料電池
本発明のLDHセパレータは固体アルカリ形燃料電池に適用することも可能である。すなわち、多孔質基材の孔をLDHで塞いで高度に緻密化させたLDHセパレータを用いることで、燃料の空気極側への透過(例えばメタノールのクロスオーバー)に起因する起電力の低下を効果的に抑制可能な、固体アルカリ形燃料電池を提供できる。LDHセパレータの有する水酸化物イオン伝導性を発揮させながら、メタノール等の燃料のLDHセパレータの透過を効果的に抑制できるためである。したがって、本発明の別の好ましい態様によれば、LDHセパレータを備えた、固体アルカリ形燃料電池が提供される。本態様による典型的な固体アルカリ形燃料電池は、酸素が供給される空気極と、液体燃料及び/又は気体燃料が供給される燃料極と、燃料極と空気極の間に介在されるLDHセパレータとを備える。
【0032】
その他の電池
本発明のLDHセパレータはニッケル亜鉛電池や固体アルカリ形燃料電池の他、例えばニッケル水素電池にも使用することができる。この場合、LDHセパレータは当該電池の自己放電の要因であるナイトライドシャトル(nitride shuttle)(硝酸基の電極間移動)をブロックする機能を果たす。また、本発明のLDHセパレータは、リチウム電池(リチウム金属が負極の電池)、リチウムイオン電池(負極がカーボン等の電池)あるいはリチウム空気電池等にも使用可能である。
【実施例
【0033】
水酸化物イオン伝導層状化合物(LDH又はLDH様化合物)を含むLDHセパレータを作製した例を以下に示す。なお、LDHセパレータの評価方法は以下のとおりとした。
【0034】
評価1:微構造の観察
LDHセパレータの表面微構造を走査型電子顕微鏡(SEM、JSM-6610LV、JEOL社製)を用いて10~20kVの加速電圧で観察した。
【0035】
評価2:元素分析評価(EDS)
LDHセパレータ表面に対してEDS分析装置(装置名:X-act、オックスフォード・インストゥルメンツ社製)を用いて組成分析を行い、所定の元素が結晶に取り込まれていることを確認し、所定の元素の原子比を算出した。この分析は、1)加速電圧20kV、倍率5,000倍で像を取り込み、2)点分析モードで5μm程度間隔を空け、3点分析を行い、3)上記1)及び2)をさらに1回繰り返し行った。
【0036】
評価3:水酸化物イオン伝導層状化合物の同定
X線回折装置(リガク社製 RINT TTR III)にて、電圧:50kV、電流値:300mA、測定範囲:10~70°の測定条件で、水酸化物イオン伝導層状化合物の結晶相を測定してXRDプロファイルを得た。
【0037】
評価4:LDHセパレータに占める水酸化物イオン伝導層状化合物の割合
LDHセパレータの重量を測定し、測定された重量から多孔質基材単独の重量を引くことにより、水酸化物イオン伝導層状化合物の重量を算出した。得られた水酸化物イオン伝導層状化合物の重量をLDHセパレータの重量で除して100を乗じることにより、LDHセパレータに占める水酸化物イオン伝導層状化合物の割合を算出した。
【0038】
評価5:He透過測定
He透過性の観点からLDHセパレータの緻密性を評価すべくHe透過試験を以下のとおり行った。まず、図1A及び図1Bに示されるHe透過度測定系310を構築した。He透過度測定系310は、Heガスを充填したガスボンベからのHeガスが圧力計312及び流量計314(デジタルフローメーター)を介して試料ホルダ316に供給され、この試料ホルダ316に保持されたLDHセパレータ318の一方の面から他方の面に透過させて排出させるように構成した。
【0039】
試料ホルダ316は、ガス供給口316a、密閉空間316b及びガス排出口316cを備えた構造を有するものであり、次のようにして組み立てた。まず、LDHセパレータ318の外周に沿って接着剤322を塗布して、中央に開口部を有する治具324(ABS樹脂製)に取り付けた。この治具324の上端及び下端に密封部材326a,326bとしてブチルゴム製のパッキンを配設し、さらに密封部材326a,326bの外側から、フランジからなる開口部を備えた支持部材328a,328b(PTFE製)で挟持した。こうして、LDHセパレータ318、治具324、密封部材326a及び支持部材328aにより密閉空間316bを区画した。支持部材328a,328bを、ガス排出口316c以外の部分からHeガスの漏れが生じないように、ネジを用いた締結手段330で互いに堅く締め付けた。こうして組み立てられた試料ホルダ316のガス供給口316aに、継手332を介してガス供給管334を接続した。
【0040】
次いで、He透過度測定系310にガス供給管334を経てHeガスを供給し、試料ホルダ316内に保持されたLDHセパレータ318に透過させた。このとき、圧力計312及び流量計314によりガス供給圧と流量をモニタリングした。Heガスの透過を1~30分間行った後、He透過度を算出した。He透過度の算出は、単位時間あたりのHeガスの透過量F(cm/min)、Heガス透過時にLDHセパレータに加わる差圧P(atm)、及びHeガスが透過する膜面積S(cm)を用いて、F/(P×S)の式により算出した。Heガスの透過量F(cm/min)は流量計314から直接読み取った。また、差圧Pは圧力計312から読み取ったゲージ圧を用いた。なお、Heガスは差圧Pが0.05~0.90atmの範囲内となるように供給された。
【0041】
評価6:イオン伝導率の測定
電解液中でのLDHセパレータの伝導率を図2に示される電気化学測定系を用いて以下のようにして測定した。LDHセパレータ試料Sを両側から厚み1mmシリコーンパッキン440で挟み、内径6mmのPTFE製フランジ型セル442に組み込んだ。電極446として、#100メッシュのニッケル金網をセル442内に直径6mmの円筒状にして組み込み、電極間距離が2.2mmになるようにした。電解液444として、6MのKOH水溶液をセル442内に充填した。電気化学測定システム(ポテンショ/ガルバノスタット -周波数応答アナライザ、ソーラトロン社製1287A型及び1255B型)を用い、周波数範囲は1MHz~0.1Hz、印加電圧は10mVの条件で測定を行い、実数軸の切片を複合材料試料Sの抵抗とした。上記同様の測定をLDHセパレータ試料S無しの構成で行い、ブランク抵抗も求めた。LDHセパレータ試料Sの抵抗とブランク抵抗の差をLDHセパレータの抵抗とした。得られたLDHセパレータの抵抗と、LDHセパレータの厚み及び面積を用いて伝導率を求めた。
【0042】
例A1~A7
Mg-Ti-LDH様化合物を含むLDHセパレータの作製及び評価を以下のようにして行った。
【0043】
(1)高分子多孔質基材の準備
気孔率50%、平均気孔径0.1μm及び厚さ10μmの市販のポリエチレン微多孔膜を高分子多孔質基材として用意し、5.0cm×5.0cmの大きさになるように切り出した。
【0044】
(2)高分子多孔質基材へのチタニアゾルコート
チタニアゾル溶液(AM-15、多木化学株式会社製)を上記(1)で用意された基材にディップコートにより塗布した。ディップ液は、チタニアゾルとイオン交換水を表1に示される重量比で混合することにより調製した。ディップコートは、ディップ液100mLに基材を浸漬させてから垂直に引き上げる作業を表1に示される回数行った。その後、ディップコートされた基材を室温で1時間乾燥させた。
【0045】
(3)原料水溶液の調製
原料として、硝酸マグネシウム六水和物(Mg(NO・6HO、関東化学株式会社製)及び尿素((NHCO、シグマアルドリッチ製)を用意した。硝酸マグネシウム六水和物を0.0075mol/L、尿素/NO (mol比)=96となるように原料を秤量してビーカーに入れ、そこにイオン交換水を加えて全量を80mLとした。その後、攪拌して原料水溶液を得た。
【0046】
(4)水熱処理による成膜
テフロン(登録商標)製密閉容器(オートクレーブ容器、内容量100mL、外側がステンレス製ジャケット)に原料水溶液とディップコートされた基材を共に封入した。このとき、基材はテフロン(登録商標)製密閉容器の底から浮かせて固定し、基材両面に溶液が接するように垂直に設置した。その後、水熱温度90℃で10時間水熱処理を施すことにより基材表面と内部にLDH様化合物の形成を行った。所定時間の経過後、基材を密閉容器から取り出し、イオン交換水で洗浄し、室温で一晩乾燥させて、多孔質基材の孔内にLDH様化合物を形成させた。こうして、LDHセパレータを得た。
【0047】
(5)ロールプレスによる緻密化
上記LDHセパレータを、1対のPETフィルム(東レ株式会社製、ルミラー(登録商標)、厚さ40μm)で挟み、ロール回転速度3mm/s、ローラ加熱温度70℃、ロールギャップ70μmにてロールプレスを行い、さらに緻密化されたLDHセパレータを得た。
【0048】
(6)各種評価
得られたLDHセパレータに対して評価1~6の評価を行った。なお、例A1については評価5で所望の緻密性がみられなかったため、評価6は行わなかった。結果は以下のとおりであった。
‐評価1:LDH特有の板状結晶が多数確認された。
‐評価2:EDS元素分析の結果、LDH様化合物の構成元素であるMg及びTiが検出された。すなわち、これらの元素が取り込まれ、水酸化物イオン伝導層状化合物として結晶化していることを確認した。
‐評価3:XRDプロファイルにおいて、5°≦2θ≦10°の範囲にLDH様化合物に由来するピークが検出された。通常、LDHの(003)ピーク位置は、2θ=11~12°に観察されるため、上記ピークはLDHの(003)ピークが低角側にシフトしたものであると考えられる。このため、上記ピークはLDHとは呼べないもののそれに類する化合物(すなわちLDH様化合物)に由来するピークであることを示唆するものである。
‐評価4:LDHセパレータに占める水酸化物イオン伝導層状化合物の割合は、表2に示されるとおりであった。
‐評価5:表2に示されるとおり、例A1(比較例)を除いて、He透過度0.00cm/min・atmという極めて高い緻密性が確認された。
‐評価6:表2に示されるとおり、例A3~A7において、例A2(比較例)よりも、高いイオン伝導率が確認された。表2に示されるとおり、水酸化物イオン伝導層状化合物重量を増大させるとイオン伝導率は上昇する(すなわち性能が向上)するが、例A5(水酸化物イオン伝導層状化合物の割合:62重量%)の辺りでイオン伝導率はピークを迎え、それ以降は水酸化物イオン伝導層状化合物重量を増大させるとイオン伝導率が低下する傾向が見られた。
【0049】
【表1】
【0050】
【表2】
【0051】
また、表2に示される結果から、LDHセパレータに占める水酸化物イオン伝導層状化合物の割合を25~85重量%の範囲内にすることで、高い緻密性(例えばHe透過度10cm/min・atm以下)及び高いイオン伝導率(例えば1mS/cm以上)の両方を実現できることが分かる。
【0052】
例B1~B5
Mg-(Ti,Y)-LDH様化合物を含むLDHセパレータの作製及び評価を以下のようにして行った。
【0053】
(1)高分子多孔質基材の準備
気孔率50%、平均気孔径0.1μm及び厚さ10μmの市販のポリエチレン微多孔膜を高分子多孔質基材として用意し、5.0cm×5.0cmの大きさになるように切り出した。
【0054】
(2)高分子多孔質基材へのチタニア・イットリアゾルコート
チタニアゾル溶液(AM-15、多木化学株式会社製)とイットリアゾルを上記(1)で用意された基材へディップコートにより塗布した。ディップ液は、チタニアゾル溶液とイットリアゾルをTi/Y(mol比)=4となるように混合し、それに対してイオン交換水を表3に示される重量比で混合させることにより、調製した。ディップコートは、ディップ液100mLに基材を浸漬させてから垂直に引き上げる作業を表3に示される回数行った。その後、ディップコートされた基材を室温で1時間乾燥させた。
【0055】
(3)原料水溶液の調製
原料として、硝酸マグネシウム六水和物(Mg(NO・6HO、関東化学株式会社製)及び尿素((NHCO、シグマアルドリッチ製)を用意した。硝酸マグネシウム六水和物を0.0075mol/L、尿素/NO (mol比)=96となるように原料を秤量してビーカーに入れ、そこにイオン交換水を加えて全量を80mLとした。その後、攪拌して原料水溶液を得た。
【0056】
(4)水熱処理による成膜
テフロン(登録商標)製密閉容器(オートクレーブ容器、内容量100mL、外側がステンレス製ジャケット)に原料水溶液とディップコートされた基材を共に封入した。このとき、基材はテフロン(登録商標)製密閉容器の底から浮かせて固定し、基材両面に溶液が接するように垂直に設置した。その後、水熱温度120℃で16時間水熱処理を施すことにより基材表面と内部にLDH様化合物の形成を行った。所定時間の経過後、基材を密閉容器から取り出し、イオン交換水で洗浄し、室温で一晩乾燥させて、多孔質基材の孔内にLDH様化合物を形成させた。こうして、LDHセパレータを得た。
【0057】
(5)ロールプレスによる緻密化
上記LDHセパレータを、1対のPETフィルム(東レ株式会社製、ルミラー(登録商標)、厚さ40μm)で挟み、ロール回転速度3mm/s、ローラ加熱温度70℃、ロールギャップ70μmにてロールプレスを行い、さらに緻密化されたLDHセパレータを得た。
【0058】
(6)各種評価
得られたLDHセパレータに対して評価1~6の評価を行った。結果は以下のとおりであった。
‐評価1:LDH特有の板状形状が多数確認された。
‐評価2:EDS元素分析の結果、LDH様化合物の構成元素であるMg、Ti及びYが検出された。すなわち、これらの元素が取り込まれ、水酸化物イオン伝導層状化合物として結晶化していることを確認した。
‐評価3:XRDプロファイルにおいて、5°≦2θ≦10°の範囲にLDH様化合物に由来するピークが検出された。通常、LDHの(003)ピーク位置は、2θ=11~12°に観察されるため、上記ピークはLDHの(003)ピークが低角側にシフトしたものであると考えられる。このため、上記ピークはLDHとは呼べないもののそれに類する化合物(すなわちLDH様化合物)に由来するピークであることを示唆するものである。
‐評価4:LDHセパレータに占める水酸化物イオン伝導層状化合物の割合は、表4に示されるとおりであった。
‐評価5:表4に示されるとおり、He透過度0.00cm/min・atmという極めて高い緻密性が確認された。
‐評価6:表4に示されるとおり、例B2~B5において、例B1(比較例)よりも、高いイオン伝導率が確認された。
【0059】
【表3】
【0060】
【表4】
【0061】
例C1~C5
Mg-(Al,Ti)-LDHを含むLDHセパレータの作製及び評価を以下のようにして行った。
【0062】
(1)高分子多孔質基材の準備
気孔率50%、平均気孔径0.1μm及び厚さ10μmの市販のポリエチレン微多孔膜を高分子多孔質基材として用意し、5.0cm×5.0cmの大きさになるように切り出した。
【0063】
(2)高分子多孔質基材へのアルミナ・チタニアゾルコート
無定形アルミナ溶液(Al-L7、多木化学株式会社製)とチタニアゾル溶液(AM-15、多木化学株式会社製)を上記(1)で用意された基材へディップコートにより塗布した。ディップ液は、無定形アルミナ溶液とチタニアゾル溶液をTi/Al(mol比)=2となるように混合し、それに対してイオン交換水を表5に示される重量比で混合させることにより、調製した。ディップコートは、ディップ液100mLに基材を浸漬させてから垂直に引き上げる作業を表5に示される回数行った。その後、ディップコートされた基材を室温で1時間乾燥させた。
【0064】
(3)原料水溶液の調製
原料として、硝酸マグネシウム六水和物(Mg(NO・6HO、関東化学株式会社製)及び尿素((NHCO、シグマアルドリッチ製)を用意した。硝酸マグネシウム六水和物を0.015mol/L、尿素/NO (mol比)=32となるように原料を秤量してビーカーに入れ、そこにイオン交換水を加えて全量を80mLとした。その後、攪拌して原料水溶液を得た。
【0065】
(4)水熱処理による成膜
テフロン(登録商標)製密閉容器(オートクレーブ容器、内容量100mL、外側がステンレス製ジャケット)に原料水溶液とディップコートされた基材を共に封入した。このとき、基材はテフロン(登録商標)製密閉容器の底から浮かせて固定し、基材両面に溶液が接するように垂直に設置した。その後、水熱温度120℃で16時間水熱処理を施すことにより基材表面と内部にLDHの形成を行った。所定時間の経過後、基材を密閉容器から取り出し、イオン交換水で洗浄し、室温で一晩乾燥させて、多孔質基材の孔内にLDHを形成させた。こうして、LDHセパレータを得た。
【0066】
(5)ロールプレスによる緻密化
上記LDHセパレータを、1対のPETフィルム(東レ株式会社製、ルミラー(登録商標)、厚さ40μm)で挟み、ロール回転速度3mm/s、ローラ加熱温度70℃、ロールギャップ70μmにてロールプレスを行い、さらに緻密化されたLDHセパレータを得た。
【0067】
(6)各種評価
得られたLDHセパレータに対して評価1~6の評価を行った。結果は以下のとおりであった。
‐評価1:LDH特有の板状結晶が多数確認された。
‐評価2:EDS元素分析の結果、LDHの構成元素であるMg、Al及びTiが検出された。すなわち、これらの元素が取り込まれ、水酸化物イオン伝導層状化合物として結晶化していることを確認した。
‐評価3:XRDプロファイルにおいて、2θ=11.5°付近にピークが検出され、LDH(ハイドロタルサイト類化合物)と同定された。この同定は、JCPDSカードNO.35-0964に記載されるLDH(ハイドロタルサイト類化合物)の回折ピークを用いて行った。
‐評価4:LDHセパレータに占める水酸化物イオン伝導層状化合物の割合は、表6に示されるとおりであった。
‐評価5:表6に示されるとおり、He透過度0.0cm/min・atmという極めて高い緻密性が確認された。
‐評価6:表6に示されるとおり、例C2~C5において、例C1よりも、高いイオン伝導率が確認された。
【0068】
【表5】
【0069】
【表6】
【0070】
例D1~D5
Mg-(Al,Ti,Y)-LDH様化合物を含むLDHセパレータの作製及び評価を以下のようにして行った。
【0071】
(1)高分子多孔質基材の準備
気孔率50%、平均気孔径0.1μm及び厚さ10μmの市販のポリエチレン微多孔膜を高分子多孔質基材として用意し、5.0cm×5.0cmの大きさになるように切り出した。
【0072】
(2)高分子多孔質基材へのアルミナ・チタニア・イットリアゾルコート
無定形アルミナ溶液(Al-L7、多木化学株式会社製)とチタニア溶液(AM-15、多木化学株式会社製)とイットリアゾルを上記(1)で用意された基材へディップコートにより塗布した。ディップ液は、無定形アルミナ溶液とチタニア溶液とイットリアゾルをTi/(Y+Al)(mol比)=2およびY/Al(mol比)=8となるように混合し、それに対してイオン交換水を表7に示される重量比で混合させることにより、調製した。ディップコートは、ディップ液100mLに基材を浸漬させてから垂直に引き上げる作業を表7に示される回数行った。その後、ディップコートされた基材を室温で1時間乾燥させた。
【0073】
(3)原料水溶液の調製
原料として、硝酸マグネシウム六水和物(Mg(NO・6HO、関東化学株式会社製)及び尿素((NHCO、シグマアルドリッチ製)を用意した。硝酸マグネシウム六水和物を0.0075mol/L、尿素/NO (mol比)=96となるように原料を秤量してビーカーに入れ、そこにイオン交換水を加えて全量を80mLとした。その後、攪拌して原料水溶液を得た。
【0074】
(4)水熱処理による成膜
テフロン(登録商標)製密閉容器(オートクレーブ容器、内容量100mL、外側がステンレス製ジャケット)に原料水溶液とディップコートされた基材を共に封入した。このとき、基材はテフロン(登録商標)製密閉容器の底から浮かせて固定し、基材両面に溶液が接するように垂直に設置した。その後、水熱温度120℃で16時間水熱処理を施すことにより基材表面と内部にLDH様化合物の形成を行った。所定時間の経過後、基材を密閉容器から取り出し、イオン交換水で洗浄し、室温で一晩乾燥させて、多孔質基材の孔内にLDH様化合物を形成させた。こうして、LDHセパレータを得た。
【0075】
(5)ロールプレスによる緻密化
上記LDHセパレータを、1対のPETフィルム(東レ株式会社製、ルミラー(登録商標)、厚さ40μm)で挟み、ロール回転速度3mm/s、ローラ加熱温度70℃、ロールギャップ70μmにてロールプレスを行い、さらに緻密化されたLDHセパレータを得た。
【0076】
(6)各種評価
得られたLDHセパレータに対して評価1~6の評価を行った。結果は以下のとおりであった。
‐評価1:LDH特有の板状形状が多数確認された。
‐評価2:EDS元素分析の結果、LDH様化合物の構成元素であるMg、Al、Ti及びYが検出された。すなわち、これらの元素が取り込まれ、水酸化物イオン伝導層状化合物として結晶化していることを確認した。
‐評価3:XRDプロファイルにおいて、5°≦2θ≦10°の範囲にLDH様化合物に由来するピークが検出された。通常、LDHの(003)ピーク位置は、2θ=11~12°に観察されるため、上記ピークはLDHの(003)ピークが低角側にシフトしたものであると考えられる。このため、上記ピークはLDHとは呼べないもののそれに類する化合物(すなわちLDH様化合物)に由来するピークであることを示唆するものである。
‐評価4:LDHセパレータに占める水酸化物イオン伝導層状化合物の割合は、表4に示されるとおりであった。
‐評価5:表8に示されるとおり、He透過度0.0cm/min・atmという極めて高い緻密性が確認された。
‐評価6:表8に示されるとおり、例D2~D5において、例D1(比較例)よりも、高いイオン伝導率が確認された。
【0077】
【表7】
【0078】
【表8】
【0079】
例E1~E5
Ni-(Al,Ti)-LDHを含むLDHセパレータの作製及び評価を以下のようにして行った。
【0080】
(1)高分子多孔質基材の準備
気孔率50%、平均気孔径0.1μm及び厚さ10μmの市販のポリエチレン微多孔膜を高分子多孔質基材として用意し、5.0cm×5.0cmの大きさになるように切り出した。
【0081】
(2)高分子多孔質基材へのアルミナ・チタニアゾルコート
無定形アルミナ溶液(Al-L7、多木化学株式会社製)とチタニアゾル溶液(AM-15、多木化学株式会社製)を上記(1)で用意された基材へディップコートにより塗布した。ディップ液は、無定形アルミナ溶液とチタニアゾル溶液をTi/Al(mol比)=2となるように混合し、それに対してイオン交換水を表9に示される重量比で混合させることにより、調製した。ディップコートは、ディップ液100mLに基材を浸漬させてから垂直に引き上げる作業を表9に示される回数繰り返した。その後、ディップコートされた基材を室温で1時間乾燥させた。
【0082】
(3)原料水溶液の調製
原料として、硝酸ニッケル六水和物(Ni(NO・6HO、関東化学株式会社製)、及び尿素((NHCO、シグマアルドリッチ製)を用意した。硝酸ニッケル六水和物を0.0075mol/L、尿素/NO (mol比)=16となるように原料を秤量してビーカーに入れ、そこにイオン交換水を加えて全量を80mLとした。その後、攪拌して原料水溶液を得た。
【0083】
(4)水熱処理による成膜
テフロン(登録商標)製密閉容器(オートクレーブ容器、内容量100mL、外側がステンレス製ジャケット)に原料水溶液とディップコートされた基材を共に封入した。このとき、基材はテフロン(登録商標)製密閉容器の底から浮かせて固定し、基材両面に溶液が接するように垂直に設置した。その後、水熱温度120℃で16時間水熱処理を施すことにより基材表面と内部にLDHの形成を行った。所定時間の経過後、基材を密閉容器から取り出し、イオン交換水で洗浄し、室温で一晩乾燥させて、多孔質基材の孔内にLDHを形成させた。こうして、LDHセパレータを得た。
【0084】
(5)ロールプレスによる緻密化
上記LDHセパレータを、1対のPETフィルム(東レ株式会社製、ルミラー(登録商標)、厚さ40μm)で挟み、ロール回転速度3mm/s、ローラ加熱温度70℃、ロールギャップ70μmにてロールプレスを行い、さらに緻密化されたLDHセパレータを得た。
【0085】
(6)各種評価
得られたLDHセパレータに対して評価1~6の評価を行った。結果は以下のとおりであった。
‐評価1:LDH特有の板状結晶が多数確認された。
‐評価2:EDS元素分析の結果、LDHの構成元素であるNi、Al及びTiが検出された。すなわち、これらの元素が取り込まれ、水酸化物イオン伝導層状化合物として結晶化していることを確認した。
‐評価3:XRDプロファイルにおいて、2θ=11.5°付近にピークが検出され、LDH(ハイドロタルサイト類化合物)と同定された。この同定は、JCPDSカードNO.35-0964に記載されるLDH(ハイドロタルサイト類化合物)の回折ピークを用いて行った。
‐評価4:LDHセパレータに占める水酸化物イオン伝導層状化合物の割合は、表10に示されるとおりであった。
‐評価5:表10に示されるとおり、He透過度0.0cm/min・atmという極めて高い緻密性が確認された。
‐評価6:表10に示されるとおり、例E2~E5において、例E1(比較例)よりも、高いイオン伝導率が確認された。
【0086】
【表9】
【0087】
【表10】
【0088】
結果の概観
表2、4、6、8及び10に示される結果から、水酸化物イオン伝導層状化合物の構成元素によらず、LDHセパレータに占める水酸化物イオン伝導層状化合物の割合とイオン伝導率との間に同様の相関関係が見られた。すなわち、LDHセパレータに占める水酸化物イオン伝導層状化合物の割合を増大させるとイオン伝導率は上昇する(すなわち性能が向上)するが、水酸化物イオン伝導層状化合物の割合が約60重量%の辺りでイオン伝導率はピークを迎え、それ以降は水酸化物イオン伝導層状化合物重量を増大させるとイオン伝導率がなだらかに低下する傾向が見られた。
図1A
図1B
図2