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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-16
(54)【発明の名称】表示装置およびその駆動方法
(51)【国際特許分類】
   G09G 3/3233 20160101AFI20231108BHJP
   G09G 3/20 20060101ALI20231108BHJP
   H10K 59/12 20230101ALI20231108BHJP
   H10K 59/35 20230101ALI20231108BHJP
【FI】
G09G3/3233
G09G3/20 641D
G09G3/20 670K
G09G3/20 650M
G09G3/20 641P
G09G3/20 642P
G09G3/20 642J
G09G3/20 611H
G09G3/20 642A
H10K59/12
H10K59/35
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2022555206
(86)(22)【出願日】2020-10-08
(86)【国際出願番号】 JP2020038181
(87)【国際公開番号】W WO2022074797
(87)【国際公開日】2022-04-14
【審査請求日】2023-03-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000005049
【氏名又は名称】シャープ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104695
【弁理士】
【氏名又は名称】島田 明宏
(74)【代理人】
【識別番号】100148459
【弁理士】
【氏名又は名称】河本 悟
(72)【発明者】
【氏名】古川 浩之
(72)【発明者】
【氏名】鳥殿 智恵
(72)【発明者】
【氏名】上野 雅史
【審査官】塚本 丈二
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-120180(JP,A)
【文献】特開2011-253056(JP,A)
【文献】特開2006-259530(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0118485(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G09G 3/3233
G09G 3/20
H10K 59/12
H10K 59/35
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電流によって駆動される表示素子および前記表示素子に供給すべき電流を制御するための駆動トランジスタを含む複数個の画素回路を備えた表示装置であって、
前記表示素子および前記駆動トランジスタの少なくとも一方を補償対象回路素子として、前記複数個の画素回路の一部または全てであるK個の画素回路のそれぞれに含まれる前記補償対象回路素子の劣化の程度を表す劣化度を求める劣化度取得回路と、
前記K個の画素回路についての劣化度に基づいて求められる偏差に応じた値を指標値として算出する指標値算出回路と、
前記指標値に基づいて、劣化補償後の各前記表示素子の表示輝度を定める基準とする輝度である基準輝度を設定する基準輝度設定回路と、
前記複数個の画素回路に供給すべき映像信号を生成する際に前記基準輝度と前記K個の画素回路のそれぞれについての劣化度とに基づいて入力映像信号を補正することによって、前記補償対象回路素子の劣化を補償する補償演算回路と
を備え
前記K個の画素回路についての劣化度に基づいて求められる偏差が大きいほど、前記指標値算出回路によって算出される指標値は大きく、
前記基準輝度設定回路は、
前記K個の画素回路に含まれるK個の前記表示素子を前記補償対象回路素子の劣化が補償されない状態で所定の階調値に基づき発光させた場合の前記K個の表示素子の平均輝度を求め、
前記指標値が予め用意された閾値以下であれば、前記基準輝度を前記平均輝度に設定し、前記指標値が前記閾値よりも大きければ、前記基準輝度を前記平均輝度よりも小さな値に設定することを特徴とする、表示装置。
【請求項2】
前記基準輝度設定回路は、
前記指標値の取り得る値を横軸とし前記基準輝度を算出するための調整係数の取り得る値を縦軸とするグラフであって前記指標値と前記調整係数との対応関係を表す前記グラフを取得することができるよう、前記グラフの屈曲点の横軸の値および隣接する屈曲点間の前記グラフの傾きをパラメータとして保持するパラメータ保持部と、
前記パラメータと前記指標値とに基づいて前記調整係数を算出する調整係数算出部と、
前記K個の画素回路についての劣化度に基づいて前記平均輝度を算出する平均輝度算出部と、
前記平均輝度に前記調整係数を乗ずることによって前記基準輝度を算出する基準輝度算出部と
を含むことを特徴とする、請求項に記載の表示装置。
【請求項3】
前記複数個の画素回路は、赤色用の画素回路と緑色用の画素回路と青色用の画素回路とを含み、
前記指標値算出回路は、前記指標値として、全ての色に共通の指標値を算出し、
前記基準輝度設定回路は、
色毎の基準輝度の算出の基礎とする基礎基準輝度を前記指標値に基づいて算出し、
前記基礎基準輝度に基づいて、色毎に発光効率に応じて前記基準輝度を設定することを特徴とする、請求項1に記載の表示装置。
【請求項4】
電流によって駆動される表示素子および前記表示素子に供給すべき電流を制御するための駆動トランジスタを含む複数個の画素回路を備えた表示装置であって、
前記表示素子および前記駆動トランジスタの少なくとも一方を補償対象回路素子として、前記複数個の画素回路の一部または全てであるK個の画素回路のそれぞれに含まれる前記補償対象回路素子の劣化の程度を表す劣化度を求める劣化度取得回路と、
前記K個の画素回路についての劣化度に基づいて求められる偏差に応じた値を指標値として算出する指標値算出回路と、
前記指標値に基づいて、劣化補償後の各前記表示素子の表示輝度を定める基準とする輝度である基準輝度を設定する基準輝度設定回路と、
前記複数個の画素回路に供給すべき映像信号を生成する際に前記基準輝度と前記K個の画素回路のそれぞれについての劣化度とに基づいて入力映像信号を補正することによって、前記補償対象回路素子の劣化を補償する補償演算回路と
を備え
前記複数個の画素回路は、赤色用の画素回路と緑色用の画素回路と青色用の画素回路とを含み、
前記指標値算出回路は、前記指標値として、全ての色に共通の指標値を算出し、
前記K個の画素回路についての劣化度に基づいて求められる偏差が大きいほど、前記指標値算出回路によって算出される指標値は大きく、
前記基準輝度設定回路は、
色毎の基準輝度の算出の基礎とする基礎基準輝度を前記指標値に基づいて算出し、
前記基礎基準輝度に基づいて、色毎に発光効率に応じて前記基準輝度を設定し、
前記K個の画素回路に含まれるK個の前記表示素子を前記補償対象回路素子の劣化が補償されない状態で所定の階調値に基づき発光させた場合の前記K個の表示素子の平均輝度を求め、
前記指標値が予め用意された閾値以下であれば、前記基礎基準輝度を前記平均輝度に設定し、前記指標値が前記閾値よりも大きければ、前記基礎基準輝度を前記平均輝度よりも小さな値に設定することを特徴とする、表示装置。
【請求項5】
前記基準輝度設定回路は、
前記指標値の取り得る値を横軸とし前記基準輝度を算出するための調整係数の取り得る値を縦軸とするグラフであって前記指標値と前記調整係数との対応関係を表す前記グラフを取得することができるよう、前記グラフの屈曲点の横軸の値および隣接する屈曲点間の前記グラフの傾きをパラメータとして保持するパラメータ保持部と、
前記パラメータと前記指標値とに基づいて前記調整係数を算出する調整係数算出部と、
前記K個の画素回路についての劣化度に基づいて前記平均輝度を算出する平均輝度算出部と、
前記平均輝度に前記調整係数を乗ずることによって前記基礎基準輝度を算出し、当該基礎基準輝度に基づいて色毎に前記基準輝度を算出する基準輝度算出部と
を含むことを特徴とする、請求項に記載の表示装置。
【請求項6】
前記K個の画素回路は、前記緑色用の画素回路であって、
前記基準輝度算出部は、前記基礎基準輝度を緑色についての基準輝度とし、前記基礎基準輝度に基づいて赤色についての基準輝度および青色についての基準輝度を算出することを特徴とする、請求項に記載の表示装置。
【請求項7】
前記K個の画素回路は、前記赤色用の画素回路、前記緑色用の画素回路、および前記青色用の画素回路を含むことを特徴とする、請求項4または5に記載の表示装置。
【請求項8】
前記K個の画素回路は、前記緑色用の画素回路であることを特徴とする、請求項4または5に記載の表示装置。
【請求項9】
電流によって駆動される表示素子および前記表示素子に供給すべき電流を制御するための駆動トランジスタを含む複数個の画素回路を備えた表示装置であって、
前記表示素子および前記駆動トランジスタの少なくとも一方を補償対象回路素子として、前記複数個の画素回路の一部または全てであるK個の画素回路のそれぞれに含まれる前記補償対象回路素子の劣化の程度を表す劣化度を求める劣化度取得回路と、
前記K個の画素回路についての劣化度に基づいて求められる偏差に応じた値を指標値として算出する指標値算出回路と、
前記指標値に基づいて、劣化補償後の各前記表示素子の表示輝度を定める基準とする輝度である基準輝度に対応する基準電流を設定する基準電流設定回路と、
前記複数個の画素回路に供給すべき映像信号を生成する際に前記基準電流と前記K個の画素回路のそれぞれについての劣化度とに基づいて入力映像信号を補正することによって、前記補償対象回路素子の劣化を補償する補償演算回路と
を備え
前記K個の画素回路についての劣化度に基づいて求められる偏差が大きいほど、前記指標値算出回路によって算出される指標値は大きく、
前記基準電流設定回路は、
前記K個の画素回路に含まれるK個の前記表示素子を前記補償対象回路素子の劣化が補償されない状態で所定の階調値に基づき発光させた場合の前記K個の表示素子の平均輝度に対応する平均電流を求め、
前記指標値が予め用意された閾値以下であれば、前記基準電流を前記平均電流に設定し、前記指標値が前記閾値よりも大きければ、前記基準電流を前記平均電流よりも小さな値に設定することを特徴とする、表示装置。
【請求項10】
前記基準電流設定回路は、
前記指標値の取り得る値を横軸とし前記基準電流を算出するための調整係数の取り得る値を縦軸とするグラフであって前記指標値と前記調整係数との対応関係を表す前記グラフを取得することができるよう、前記グラフの屈曲点の横軸の値および隣接する屈曲点間の前記グラフの傾きをパラメータとして保持するパラメータ保持部と、
前記パラメータと前記指標値とに基づいて前記調整係数を算出する調整係数算出部と、
前記K個の画素回路についての劣化度に基づいて前記平均電流を算出する平均電流算出部と、
前記平均電流に前記調整係数を乗ずることによって前記基準電流を算出する基準電流算出部と
を含むことを特徴とする、請求項に記載の表示装置。
【請求項11】
電流によって駆動される表示素子および前記表示素子に供給すべき電流を制御するための駆動トランジスタを含む複数個の画素回路を備えた表示装置であって、
前記表示素子および前記駆動トランジスタの少なくとも一方を補償対象回路素子として、前記複数個の画素回路の一部または全てであるK個の画素回路のそれぞれに含まれる前記補償対象回路素子の劣化の程度を表す劣化度を求める劣化度取得回路と、
前記K個の画素回路についての劣化度に基づいて求められる偏差に応じた値を指標値として算出する指標値算出回路と、
前記指標値に基づいて、劣化補償後の各前記表示素子の表示輝度を定める基準とする輝度である基準輝度に対応する基準電流を設定する基準電流設定回路と、
前記複数個の画素回路に供給すべき映像信号を生成する際に前記基準電流と前記K個の画素回路のそれぞれについての劣化度とに基づいて入力映像信号を補正することによって、前記補償対象回路素子の劣化を補償する補償演算回路と
を備え
前記複数個の画素回路は、赤色用の画素回路と緑色用の画素回路と青色用の画素回路とを含み、
前記指標値算出回路は、前記指標値として、全ての色に共通の指標値を算出し、
前記K個の画素回路についての劣化度に基づいて求められる偏差が大きいほど、前記指標値算出回路によって算出される指標値は大きく、
前記基準電流設定回路は、
色毎の基準電流の算出の基礎とする基礎基準電流を前記指標値に基づいて算出し、
前記基礎基準電流に基づいて、色毎に発光効率に応じて前記基準電流を設定し、
前記K個の画素回路に含まれるK個の前記表示素子を前記補償対象回路素子の劣化が補償されない状態で所定の階調値に基づき発光させた場合の前記K個の表示素子の平均輝度に対応する平均電流を求め、
前記指標値が予め用意された閾値以下であれば、前記基礎基準電流を前記平均電流に設定し、前記指標値が前記閾値よりも大きければ、前記基礎基準電流を前記平均電流よりも小さな値に設定することを特徴とする、表示装置。
【請求項12】
前記基準電流設定回路は、
前記指標値の取り得る値を横軸とし前記基礎基準電流を算出するための調整係数の取り得る値を縦軸とするグラフであって前記指標値と前記調整係数との対応関係を表す前記グラフを取得することができるよう、前記グラフの屈曲点の横軸の値および隣接する屈曲点間の前記グラフの傾きをパラメータとして保持するパラメータ保持部と、
前記パラメータと前記指標値とに基づいて前記調整係数を算出する調整係数算出部と、
前記K個の画素回路についての劣化度に基づいて前記平均電流を算出する平均電流算出部と、
前記平均電流に前記調整係数を乗ずることによって前記基礎基準電流を算出し、当該基礎基準電流に基づいて色毎に前記基準電流を算出する基準電流算出部と
を含むことを特徴とする、請求項11に記載の表示装置。
【請求項13】
前記K個の画素回路は、前記緑色用の画素回路であって、
前記基準電流算出部は、前記基礎基準電流を緑色についての基準電流とし、前記基礎基準電流に基づいて赤色についての基準電流および青色についての基準電流を算出することを特徴とする、請求項12に記載の表示装置。
【請求項14】
前記K個の画素回路は、前記赤色用の画素回路、前記緑色用の画素回路、および前記青色用の画素回路を含むことを特徴とする、請求項11または12に記載の表示装置。
【請求項15】
前記K個の画素回路は、前記緑色用の画素回路であることを特徴とする、請求項11または12に記載の表示装置。
【請求項16】
前記指標値は、前記劣化度の標準偏差を前記劣化度の平均値で除することによって得られる変動係数であることを特徴とする、請求項1から15までのいずれか1項に記載の表示装置。
【請求項17】
前記指標値は、前記劣化度の標準偏差であることを特徴とする、請求項1から15までのいずれか1項に記載の表示装置。
【請求項18】
前記指標値は、前記劣化度の最大偏差であることを特徴とする、請求項1から15までのいずれか1項に記載の表示装置。
【請求項19】
前記劣化度取得回路は、
前記K個の画素回路のそれぞれについて所定条件下で前記補償対象回路素子に流れる電流を測定する電流測定回路と、
前記電流測定回路によって測定された電流に基づいて前記劣化度を算出する劣化度算出回路と
を含むことを特徴とする、請求項1から18までのいずれか1項に記載の表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
以下の開示は、表示装置およびその駆動方法に関し、より詳しくは、有機EL素子などの電流によって駆動される表示素子を含む画素回路を備える表示装置およびその駆動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機EL素子を含む画素回路を備えた有機EL表示装置が実用化されている。有機EL素子は、OLED(Organic Light-Emitting Diode)とも呼ばれており、それに流れる電流に応じた輝度で発光する自発光型の表示素子である。このように有機EL素子は自発光型の表示素子であるので、有機EL表示装置は、バックライトおよびカラーフィルタなどを要する液晶表示装置に比べて、容易に薄型化・低消費電力化・高輝度化などを図ることができる。
【0003】
有機EL表示装置の駆動方式として、パッシブマトリクス方式(単純マトリクス方式とも呼ばれる。)とアクティブマトリクス方式とが知られている。パッシブマトリクス方式を採用した有機EL表示装置は、構造は単純であるものの、大型化および高精細化が困難である。これに対して、アクティブマトリクス方式を採用した有機EL表示装置(以下「アクティブマトリクス型の有機EL表示装置」という。)は、パッシブマトリクス方式を採用した有機EL表示装置に比べて大型化および高精細化を容易に実現できる。
【0004】
アクティブマトリクス型の有機EL表示装置には、複数個の画素回路がマトリクス状に形成されている。アクティブマトリクス型の有機EL表示装置の画素回路は、典型的には、画素を選択する入力トランジスタと、有機EL素子への電流の供給を制御する駆動トランジスタとを含んでいる。なお、以下においては、駆動トランジスタから有機EL素子に流れる電流のことを「駆動電流」という場合がある。
【0005】
有機EL表示装置に関しては、駆動トランジスタとして、典型的には薄膜トランジスタ(TFT)が採用される。しかしながら、薄膜トランジスタに関しては、劣化によって閾値電圧が変化する。表示部内には多数の駆動トランジスタが設けられており、劣化の程度は駆動トランジスタ毎に異なるので、閾値電圧にばらつきが生じる。その結果、輝度のばらつきが生じ、表示品位が低下する。また、有機EL素子に関しては、時間の経過とともに電流効率(発光効率)が低下する。従って、たとえ一定電流が有機EL素子に供給されたとしても、時間の経過とともに輝度が徐々に低下する。それらの結果、焼き付きが生じる。そこで、従来より、駆動トランジスタや有機EL素子の劣化を補償する各種処理(補償処理)が提案されている。なお、駆動トランジスタおよび有機EL素子の双方が補償処理の対象となっているケースもあれば、駆動トランジスタまたは有機EL素子のいずれか一方のみが補償処理の対象となっているケースもある。そこで、以下においては、補償処理の対象となっている回路素子のことを便宜上「補償対象回路素子」という場合がある。
【0006】
補償処理の方式の1つとして外部補償方式が知られている。外部補償方式によれば、補償対象回路素子の特性を検出するために、所定条件下で当該補償対象回路素子を流れる電流の大きさが画素回路の外部に設けられた回路で測定される。そして、その測定結果に基づいて、映像信号が補正される。これにより、補償対象回路素子の劣化が補償される。
【0007】
ここで、本明細書で使用する用語について説明する。補償対象回路素子の特性を検出するために所定条件下で当該補償対象回路素子を流れる電流を測定する一連の処理のことを「特性検出モニタ」という。これに関連して、特性検出モニタが行われる期間を「特性検出期間」といい、特性検出モニタの対象となっている行を「モニタ行」といい、データ線を介して画素回路に与えられるデータ電圧のうち特性検出モニタの際に画素回路に与えられる電圧を「モニタ電圧」という。また、便宜上、駆動トランジスタの特性を「TFT特性」といい、有機EL素子の特性を「OLED特性」という。また、任意の階調について全画素で均一な輝度表示が行われるように補償処理を行うことのできる期間を「補償可能期間」という。また、補償対象回路素子の劣化のことを「画素の劣化」と表現する場合もある。また、補償処理によって各有機EL素子をいかなる輝度で発光させるのかの決定を行うためには、その決定に際して基準とする輝度が定められている必要がある。そこで、劣化補償後の各有機EL素子(各表示素子)の表示輝度を定める基準とする輝度のことを「基準輝度」という。
【0008】
ところで、補償処理後の輝度や補償可能期間の長さは補償処理の態様に依存する。これについて、以下に説明する。なお、図10図11,および図26図29では、3つの画素Pa,Pb,およびPcの劣化度の大小を矩形の縦方向の長さで表す。これに関し、図25に示すように、劣化度が大きいほど矩形の縦方向の長さを短くし、劣化度が小さいほど矩形の縦方向の長さを長くする。また、補償電流の大きさを太矢印の長さで表す。これに関し、上向きの太矢印は補償処理が行われない場合と比較した駆動電流の増加分を表し、下向きの太矢印は補償処理が行われない場合と比較した駆動電流の減少分を表す。
【0009】
補償処理の態様の1つとして、最も劣化の進んだ画素の輝度レベルを基準にして補償を行うという態様がある。この態様においては、図26に示すように、最も劣化の進んだ画素以外の画素については、本来よりも少ない量の電流が駆動電流として供給される。なお、符号90を付した点線は初期の劣化度を表し、符号91を付した点線は最も劣化の進んだ画素の劣化度を表している。この態様では、劣化が進むにつれて基準輝度が低下するので、劣化の大きな画素が存在すると表示が顕著に暗くなるおそれがある。そこで、日本の特開2009-141302号公報には、画素回路に供給されるハイレベル電源電圧である第1電源電圧の電圧値を調整することによってホワイトの輝度値を一定に維持することが記載されている。しかしながら、第1電源電圧の電圧値を高くすると、駆動トランジスタの特性が変化するので、階調特性が変化してしまう。また、第1電源電圧の電圧値を可変にするための回路は複雑な回路となるので、コストアップを要することになる。
【0010】
また、画素の劣化(補償対象回路素子の劣化)の進行に伴う輝度低下を防止するために初期の輝度レベルを基準にして補償を行うという態様がある(図27参照)。例えば日本の特開2003-177713号公報に開示された発光装置では、最も劣化が進んでいる画素で所望の階調が得られるよう電流量が補正されるが、他の画素には過剰に電流が供給されることになるので、それら他の画素については階調数を小さくするという処理が行われる。この態様においては、図27から把握されるように、劣化が進むにつれて補償電流を増大させる必要がある。このため、画素が加速的に劣化するという不利な点がある。
【0011】
そこで、輝度と補償可能期間の長さとのバランスを取るために、全画素の平均劣化度に対応する輝度レベルを基準にして補償を行うという態様が提案されている(図28参照)。なお、図28において符号92を付した点線は平均劣化度を表している。図27図28との比較から把握されるように、この態様においては、初期の輝度レベルを基準にして補償を行う態様に比べて、補償電流の大きさが小さくなる。それ故、画素の劣化(補償対象回路素子の劣化)の加速が抑制される。また、劣化が進むにつれて輝度は徐々に低下するが、画面全体での輝度の均一性が保たれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】日本の特開2009-141302号公報
【文献】日本の特開2003-177713号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上述したように、全画素の平均劣化度に対応する輝度レベルを基準にして補償が行われると、画素の劣化の加速が抑制されるとともに画面全体での輝度の均一性が保たれる。ところが、表示部全体において画素の劣化度のばらつきが大きくなると、図29における画素Pbのように劣化の大きな画素については補償電流が顕著に大きくなるので、当該画素の劣化が加速する。このため、補償処理に関して充分な長さの補償可能期間は得られていない。
【0014】
そこで、以下の開示は、電流によって駆動される表示素子(典型的には有機EL素子)を含む画素回路を備える表示装置において充分な長さの補償可能期間が得られる補償処理を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本開示のいくつかの実施形態に係る表示装置は、電流によって駆動される表示素子および前記表示素子に供給すべき電流を制御するための駆動トランジスタを含む複数個の画素回路を備えた表示装置であって、
前記表示素子および前記駆動トランジスタの少なくとも一方を補償対象回路素子として、前記複数個の画素回路の一部または全てであるK個の画素回路のそれぞれに含まれる前記補償対象回路素子の劣化の程度を表す劣化度を求める劣化度取得回路と、
前記K個の画素回路についての劣化度に基づいて求められる偏差に応じた値を指標値として算出する指標値算出回路と、
前記指標値に基づいて、劣化補償後の各前記表示素子の表示輝度を定める基準とする輝度である基準輝度を設定する基準輝度設定回路と、
前記複数個の画素回路に供給すべき映像信号を生成する際に前記基準輝度と前記K個の画素回路のそれぞれについての劣化度とに基づいて入力映像信号を補正することによって、前記補償対象回路素子の劣化を補償する補償演算回路と
を備え
前記K個の画素回路についての劣化度に基づいて求められる偏差が大きいほど、前記指標値算出回路によって算出される指標値は大きく、
前記基準輝度設定回路は、
前記K個の画素回路に含まれるK個の前記表示素子を前記補償対象回路素子の劣化が補償されない状態で所定の階調値に基づき発光させた場合の前記K個の表示素子の平均輝度を求め、
前記指標値が予め用意された閾値以下であれば、前記基準輝度を前記平均輝度に設定し、前記指標値が前記閾値よりも大きければ、前記基準輝度を前記平均輝度よりも小さな値に設定する
本開示の他のいくつかの実施形態に係る表示装置は、電流によって駆動される表示素子および前記表示素子に供給すべき電流を制御するための駆動トランジスタを含む複数個の画素回路を備えた表示装置であって、
前記表示素子および前記駆動トランジスタの少なくとも一方を補償対象回路素子として、前記複数個の画素回路の一部または全てであるK個の画素回路のそれぞれに含まれる前記補償対象回路素子の劣化の程度を表す劣化度を求める劣化度取得回路と、
前記K個の画素回路についての劣化度に基づいて求められる偏差に応じた値を指標値として算出する指標値算出回路と、
前記指標値に基づいて、劣化補償後の各前記表示素子の表示輝度を定める基準とする輝度である基準輝度を設定する基準輝度設定回路と、
前記複数個の画素回路に供給すべき映像信号を生成する際に前記基準輝度と前記K個の画素回路のそれぞれについての劣化度とに基づいて入力映像信号を補正することによって、前記補償対象回路素子の劣化を補償する補償演算回路と
を備え、
前記複数個の画素回路は、赤色用の画素回路と緑色用の画素回路と青色用の画素回路とを含み、
前記指標値算出回路は、前記指標値として、全ての色に共通の指標値を算出し、
前記K個の画素回路についての劣化度に基づいて求められる偏差が大きいほど、前記指標値算出回路によって算出される指標値は大きく、
前記基準輝度設定回路は、
色毎の基準輝度の算出の基礎とする基礎基準輝度を前記指標値に基づいて算出し、
前記基礎基準輝度に基づいて、色毎に発光効率に応じて前記基準輝度を設定し、
前記K個の画素回路に含まれるK個の前記表示素子を前記補償対象回路素子の劣化が補償されない状態で所定の階調値に基づき発光させた場合の前記K個の表示素子の平均輝度を求め、
前記指標値が予め用意された閾値以下であれば、前記基礎基準輝度を前記平均輝度に設定し、前記指標値が前記閾値よりも大きければ、前記基礎基準輝度を前記平均輝度よりも小さな値に設定する。
【0016】
本開示の更に他のいくつかの実施形態に係る表示装置は、電流によって駆動される表示素子および前記表示素子に供給すべき電流を制御するための駆動トランジスタを含む複数個の画素回路を備えた表示装置であって、
前記表示素子および前記駆動トランジスタの少なくとも一方を補償対象回路素子として、前記複数個の画素回路の一部または全てであるK個の画素回路のそれぞれに含まれる前記補償対象回路素子の劣化の程度を表す劣化度を求める劣化度取得回路と、
前記K個の画素回路についての劣化度に基づいて求められる偏差に応じた値を指標値として算出する指標値算出回路と、
前記指標値に基づいて、劣化補償後の各前記表示素子の表示輝度を定める基準とする輝度である基準輝度に対応する基準電流を設定する基準電流設定回路と、
前記複数個の画素回路に供給すべき映像信号を生成する際に前記基準電流と前記K個の画素回路のそれぞれについての劣化度とに基づいて入力映像信号を補正することによって、前記補償対象回路素子の劣化を補償する補償演算回路と
を備え
前記K個の画素回路についての劣化度に基づいて求められる偏差が大きいほど、前記指標値算出回路によって算出される指標値は大きく、
前記基準電流設定回路は、
前記K個の画素回路に含まれるK個の前記表示素子を前記補償対象回路素子の劣化が補償されない状態で所定の階調値に基づき発光させた場合の前記K個の表示素子の平均輝度に対応する平均電流を求め、
前記指標値が予め用意された閾値以下であれば、前記基準電流を前記平均電流に設定し、前記指標値が前記閾値よりも大きければ、前記基準電流を前記平均電流よりも小さな値に設定する
本開示の更に他のいくつかの実施形態に係る表示装置は、電流によって駆動される表示素子および前記表示素子に供給すべき電流を制御するための駆動トランジスタを含む複数個の画素回路を備えた表示装置であって、
前記表示素子および前記駆動トランジスタの少なくとも一方を補償対象回路素子として、前記複数個の画素回路の一部または全てであるK個の画素回路のそれぞれに含まれる前記補償対象回路素子の劣化の程度を表す劣化度を求める劣化度取得回路と、
前記K個の画素回路についての劣化度に基づいて求められる偏差に応じた値を指標値として算出する指標値算出回路と、
前記指標値に基づいて、劣化補償後の各前記表示素子の表示輝度を定める基準とする輝度である基準輝度に対応する基準電流を設定する基準電流設定回路と、
前記複数個の画素回路に供給すべき映像信号を生成する際に前記基準電流と前記K個の画素回路のそれぞれについての劣化度とに基づいて入力映像信号を補正することによって、前記補償対象回路素子の劣化を補償する補償演算回路と
を備え、
前記複数個の画素回路は、赤色用の画素回路と緑色用の画素回路と青色用の画素回路とを含み、
前記指標値算出回路は、前記指標値として、全ての色に共通の指標値を算出し、
前記K個の画素回路についての劣化度に基づいて求められる偏差が大きいほど、前記指標値算出回路によって算出される指標値は大きく、
前記基準電流設定回路は、
色毎の基準電流の算出の基礎とする基礎基準電流を前記指標値に基づいて算出し、
前記基礎基準電流に基づいて、色毎に発光効率に応じて前記基準電流を設定し、
前記K個の画素回路に含まれるK個の前記表示素子を前記補償対象回路素子の劣化が補償されない状態で所定の階調値に基づき発光させた場合の前記K個の表示素子の平均輝度に対応する平均電流を求め、
前記指標値が予め用意された閾値以下であれば、前記基礎基準電流を前記平均電流に設定し、前記指標値が前記閾値よりも大きければ、前記基礎基準電流を前記平均電流よりも小さな値に設定する。
【発明の効果】
【0018】
本開示のいくつかの実施形態によれば、補償対象回路素子の劣化度のばらつきに応じて基準輝度(劣化補償後の各表示素子の表示輝度を定める基準とする輝度)が設定される。従って、例えば、劣化度のばらつきが小さい時には、平均的な劣化度に対応する輝度を基準輝度に設定することによって、表示が顕著に暗くなることを抑制しつつ補償対象回路素子の劣化の加速を抑制することができ、劣化度のばらつきが大きい時には、平均的な劣化度に対応する輝度よりも小さな輝度を基準輝度に設定することによって、劣化が顕著に進んだ補償対象回路素子に関して劣化が更に加速することを抑制することができる。このように、劣化度のばらつきが小さい時のみならず劣化度のばらつきが大きくなった時にも補償対象回路素子の劣化の加速を抑制することができる。以上より、電流によって駆動される表示素子を含む画素回路を備える表示装置において充分な長さの補償可能期間が得られる補償処理が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】第1の実施形態に係るアクティブマトリクス型の有機EL表示装置の全体構成を示すブロック図である。
図2】上記第1の実施形態において、ソースドライバの機能について説明するための図である。
図3】上記第1の実施形態において、画素回路とソースドライバの一部(電流モニタ部として機能する部分)を示す回路図である。
図4】上記第1の実施形態において、補償処理のための概略構成について説明するためのブロック図である。
図5】上記第1の実施形態において、劣化度について説明するためのI-V特性図である。
図6】上記第1の実施形態において、特性検出モニタを行うための駆動方法について説明するためのタイミングチャートである。
図7】上記第1の実施形態において、駆動トランジスタの特性を検出するときの電流測定期間における電流の流れについて説明するための図である。
図8】上記第1の実施形態において、有機EL素子の特性を検出するときの電流測定期間における電流の流れについて説明するための図である。
図9】上記第1の実施形態において、映像信号電圧書き込み期間における電流の流れについて説明するための図である。
図10】上記第1の実施形態において、劣化度のばらつきが小さいときの基準輝度の設定について説明するための図である。
図11】上記第1の実施形態において、劣化度のばらつきが大きいときの基準輝度の設定について説明するための図である。
図12】上記第1の実施形態において、変動係数と基準輝度との関係の一例を示す図である。
図13】上記第1の実施形態において、変動係数と調整係数との関係の一例を示す図である。
図14】上記第1の実施形態において、調整係数の算出に必要なパラメータについて説明するための図である。
図15】上記第1の実施形態において、変動係数と基準輝度との関係の変化について説明するための図である。
図16】上記第1の実施形態において、基準輝度設定回路の詳細な構成を示すブロック図である。
図17】上記第1の実施形態の第2の変形例において、変動係数と基準輝度との関係を示す図である。
図18】上記第1の実施形態の第3の変形例において、変動係数と基準輝度との関係を示す図である。
図19】第2の実施形態における画素の構成について説明するための図である。
図20】上記第2の実施形態において、補償処理のための概略構成について説明するためのブロック図である。
図21】上記第2の実施形態において、変動係数と基礎基準電流との関係を示す図である。
図22】上記第2の実施形態において、基準電流設定回路の詳細な構成を示すブロック図である。
図23】上記第2の実施形態の変形例において、補償処理のための概略構成について説明するためのブロック図である。
図24】上記第2の実施形態の変形例において、基準電流設定回路の詳細な構成を示すブロック図である。
図25】画素の劣化度の表し方について説明するための図である。
図26】従来例に関し、最も劣化の進んだ画素の輝度レベルを基準にして補償を行うケースについて説明するための図である。
図27】従来例に関し、初期の輝度レベルを基準にして補償を行うケースについて説明するための図である。
図28】従来例に関し、全画素の平均劣化度に対応する輝度レベルを基準にして補償を行うケースについて説明するための図である。
図29】従来例に関し、全画素の平均劣化度に対応する輝度レベルを基準にして補償を行うケースの問題点について説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付図面を参照しつつ、実施形態について説明する。なお、以下において、MおよびNは2以上の整数、iは1以上N以下の整数、jは1以上M以下の整数であると仮定する。
【0021】
<1.第1の実施形態>
<1.1 全体構成および概要>
図1は、第1の実施形態に係るアクティブマトリクス型の有機EL表示装置の全体構成を示すブロック図である。この有機EL表示装置は、モノクロ表示を行う表示装置であって、制御回路10、ソースドライバ20、ゲートドライバ32、および表示部30を備えている。なお、本実施形態においては、表示部30を含む有機ELパネル3を構成する基板上にゲートドライバ32が形成されている。すなわち、ゲートドライバ32はモノリシック化されている。但し、ゲートドライバ32がモノリシック化されていない構成を採用することもできる。
【0022】
表示部30には、M本のデータ線S(1)~S(M)およびこれらに直交するN本の走査線G1(1)~G1(N)が配設されている。また、表示部30には、N本の走査線G1(1)~G1(N)と1対1で対応するように、N本のモニタ制御線G2(1)~G2(N)が配設されている。走査線G1(1)~G1(N)とモニタ制御線G2(1)~G2(N)とは互いに平行になっている。さらに、表示部30には、N本の走査線G1(1)~G1(N)とM本のデータ線S(1)~S(M)との交差点に対応するように、N×M個の画素回路310が設けられている。このようにN×M個の画素回路310が設けられることによって、N行×M列の画素マトリクスが表示部30に形成されている。また、表示部30には、ハイレベル電源電圧ELVDDを供給するハイレベル電源線(不図示)と、ローレベル電源電圧ELVSSを供給するローレベル電源線(不図示)とが配設されている。
【0023】
なお、以下においては、M本のデータ線S(1)~S(M)を互いに区別する必要がない場合にはデータ線には単に符号Sを付す。同様に、N本の走査線G1(1)~G1(N)を互いに区別する必要がない場合には走査線には単に符号G1を付し、N本のモニタ制御線G2(1)~G2(N)を互いに区別する必要がない場合にはモニタ制御線には単に符号G2を付す。
【0024】
制御回路10は、外部から送られる画像データVDbとソースドライバ20から出力されるモニタデータMOとを受け取り、モニタデータMOに基づいて後述する補償演算処理を画像データVDbに施すことによって、ソースドライバ20に与えるためのデジタル映像信号(補償演算処理後の画像データ)VDaを生成する。なお、モニタデータMOとは、TFT特性やOLED特性を検出するために測定された電流の値を表すデータである。制御回路10は、また、ソースドライバ20にデジタル映像信号VDaおよびソース制御信号SCTLを与えることによりソースドライバ20の動作を制御し、ゲートドライバ32にゲート制御信号GCTLを与えることによりゲートドライバ32の動作を制御する。ソース制御信号SCTLには、ソーススタートパルス信号,ソースクロック信号,ラッチストローブ信号などが含まれている。ゲート制御信号GCTLには、ゲートスタートパルス信号,ゲートクロック信号,アウトプットイネーブル信号などが含まれている。
【0025】
ゲートドライバ32は、N本の走査線G1(1)~G1(N)およびN本のモニタ制御線G2(1)~G2(N)に接続されている。ゲートドライバ32は、シフトレジスタおよび論理回路などによって構成されている。ゲートドライバ32は、制御回路10から出力されたゲート制御信号GCTLに基づいて、N本の走査線G1(1)~G1(N)およびN本のモニタ制御線G2(1)~G2(N)を駆動する。
【0026】
ソースドライバ20は、M本のデータ線S(1)~S(M)に接続されている。ソースドライバ20は、データ線S(1)~S(M)を駆動する動作と、データ線S(1)~S(M)に流れる電流を測定する動作とを選択的に行う。すなわち、図2に示すように、ソースドライバ20には、機能的には、データ線S(1)~S(M)を駆動するデータ線駆動部210として機能する部分と、画素回路310-データ線S間に流れる電流を測定する電流モニタ部220として機能する部分とが含まれている。電流モニタ部220は、電流の測定値に基づくモニタデータMOを出力する。
【0027】
以上のようにして、N本の走査線G1(1)~G1(N),N本のモニタ制御線G2(1)~G2(N),およびM本のデータ線S(1)~S(M)が駆動されることによって、外部から送られた画像データVDbに基づく画像が表示部30に表示される。その際、モニタデータMOに基づいて画像データVDbに補償演算処理が施されることによって、駆動トランジスタや有機EL素子の劣化が補償される。
【0028】
<1.2 画素回路およびソースドライバ>
次に、画素回路310およびソースドライバ20について詳しく説明する。ソースドライバ20は、データ線駆動部210として機能するときには次のような動作を行う。ソースドライバ20は、制御回路10から出力されたソース制御信号SCTLを受け取り、M本のデータ線S(1)~S(M)にそれぞれ目標輝度に応じた映像信号電圧をデータ電圧として印加する。このとき、ソースドライバ20では、ソーススタートパルス信号のパルスをトリガーとして、ソースクロック信号のパルスが発生するタイミングで、各データ線Sに印加すべき電圧を示すデジタル映像信号VDaが順次に保持される。そして、ラッチストローブ信号のパルスが発生するタイミングで、上記保持されたデジタル映像信号VDaがアナログ電圧に変換される。その変換されたアナログ電圧は、データ電圧として全てのデータ線S(1)~S(M)に一斉に印加される。ソースドライバ20は、電流モニタ部220として機能するときには、データ線S(1)~S(M)にモニタ電圧を印加して、それによってデータ線S(1)~S(M)に流れる電流をアナログデータとして取得し、当該アナログデータをデジタルデータに変換する。その変換後のデジタルデータは、モニタデータMOとしてソースドライバ20から出力される。
【0029】
図3は、画素回路310とソースドライバ20の一部(電流モニタ部220として機能する部分)を示す回路図である。なお、図3には、i行j列目の画素回路310と、ソースドライバ20のうちのj列目のデータ線S(j)に対応する部分とが示されている。この画素回路310は、1個の有機EL素子311,3個のトランジスタT1~T3,および1個のコンデンサCstを備えている。トランジスタT1は画素を選択する入力トランジスタとして機能し、トランジスタT2は有機EL素子311への電流の供給を制御する駆動トランジスタとして機能し、トランジスタT3は駆動トランジスタT2あるいは有機EL素子311の特性を検出するための電流測定を行うか否かを制御するモニタ制御トランジスタとして機能する。
【0030】
入力トランジスタT1については、制御端子は走査線G1(i)に接続され、第1導通端子はデータ線S(j)に接続され、第2導通端子は駆動トランジスタT2の制御端子とコンデンサCstの第1電極とに接続されている。駆動トランジスタT2については、制御端子は入力トランジスタT1の第2導通端子とコンデンサCstの第1電極とに接続され、第1導通端子はハイレベル電源線とコンデンサCstの第2電極とに接続され、第2導通端子はモニタ制御トランジスタT3の第1導通端子と有機EL素子311のアノード端子とに接続されている。モニタ制御トランジスタT3については、制御端子はモニタ制御線G2(i)に接続され、第1導通端子は駆動トランジスタT2の第2導通端子と有機EL素子311のアノード端子とに接続され、第2導通端子はデータ線S(j)に接続されている。コンデンサCstについては、第1電極は駆動トランジスタT2の制御端子と入力トランジスタT1の第2導通端子とに接続され、第2電極は駆動トランジスタT2の第1導通端子とハイレベル電源線とに接続されている。有機EL素子311については、アノード端子は駆動トランジスタT2の第2導通端子とモニタ制御トランジスタT3の第1導通端子とに接続され、カソード端子はローレベル電源線に接続されている。
【0031】
図3に示すように、電流モニタ部220は、DA変換器(DAC)21,オペアンプ22,コンデンサ23,スイッチ24,およびAD変換器(ADC)25を含んでいる。オペアンプ22,コンデンサ23,およびスイッチ24によって電流/電圧変換部29が構成されている。なお、この電流/電圧変換部29およびDA変換器21は、データ線駆動部210の構成要素としても機能する。
【0032】
DA変換器21の入力端子には、デジタル映像信号VDaが与えられる。DA変換器21は、デジタル映像信号VDaをアナログ電圧に変換する。このアナログ電圧は、映像信号電圧またはモニタ電圧である。DA変換器21の出力端子は、オペアンプ22の非反転入力端子に接続されている。従って、オペアンプ22の非反転入力端子には、映像信号電圧またはモニタ電圧が与えられる。オペアンプ22の反転入力端子は、データ線S(j)に接続されている。スイッチ24は、オペアンプ22の反転入力端子と出力端子との間に設けられている。コンデンサ23は、スイッチ24と並列に、オペアンプ22の反転入力端子と出力端子との間に設けられている。スイッチ24の制御端子には、ソース制御信号SCTLに含まれる入出力制御信号DWTが与えられる。オペアンプ22の出力端子は、AD変換器25の入力端子に接続されている。
【0033】
以上のような構成において、入出力制御信号DWTがハイレベルのときには、スイッチ24はオン状態となり、オペアンプ22の反転入力端子-出力端子間は短絡状態となる。このとき、オペアンプ22はバッファアンプとして機能する。これにより、データ線S(j)には、オペアンプ22の非反転入力端子に与えられている電圧(映像信号電圧またはモニタ電圧)が印加される。入出力制御信号DWTがローレベルのときには、スイッチ24はオフ状態になり、オペアンプ22の反転入力端子と出力端子とはコンデンサ23を介して接続される。このとき、オペアンプ22とコンデンサ23とは積分回路として機能する。これにより、オペアンプ22の出力電圧は、データ線S(j)に流れている電流に応じた電圧となる。AD変換器25は、オペアンプ22の出力電圧をデジタル値に変換する。変換後のデータはモニタデータMOとして制御回路10に送られる。
【0034】
なお、本実施形態においてはデータ電圧(映像信号電圧およびモニタ電圧)を供給するための信号線と電流を測定するための信号線とが共用された構成となっているが、これには限定されない。データ電圧を供給するための信号線と電流を測定するための信号線とがそれぞれ独立して設けられている構成を採用することもできる。また、画素回路310の構成についても、図3に示した構成以外の構成を採用することもできる。すなわち、電流モニタ部220や画素回路310の具体的な回路構成については特に限定されない。
【0035】
<1.3 補償処理>
以下、本実施形態における補償処理について説明する。
【0036】
<1.3.1 概略>
図4は、補償処理のための概略構成について説明するためのブロック図である。本実施形態に係る有機EL表示装置には、画素回路310内の補償対象回路素子(有機EL素子311および駆動トランジスタT2の少なくとも一方)の劣化を補償する補償処理のための構成要素として、上述した電流モニタ部220およびデータ線駆動部210に加えて、劣化度算出回路110、フレームメモリ120、変動係数算出回路130、基準輝度設定回路140、および補償演算回路150が含まれている。本実施形態においては、電流モニタ部220によって電流測定回路が実現され、電流モニタ部220と劣化度算出回路110とによって劣化度取得回路が実現される。なお、劣化度算出回路110、フレームメモリ120、変動係数算出回路130、基準輝度設定回路140、および補償演算回路150は、制御回路10(図1参照)内の構成要素である。
【0037】
電流モニタ部220は、表示部30内のN×M個の画素回路310のそれぞれについて、所定条件下で補償対象回路素子に流れる電流を測定する。そして、電流モニタ部220は、電流の測定値を表すモニタデータMOを出力する。
【0038】
劣化度算出回路110は、モニタデータMOに基づいて、補償対象回路素子の劣化の程度を表す劣化度Xを算出する。換言すれば、劣化度算出回路110は、電流モニタ部220によって測定された電流に基づいて劣化度Xを算出する。すなわち、劣化度算出回路110では、電流値から劣化度Xへの変換が行われる。これに関し、トランジスタについては、劣化によって、I-V特性(電流-電圧特性)を表す曲線が例えば図5で符号61を付した曲線から図5で符号62を付した曲線へと変化する。このように劣化によってI-V特性は変化するところ、例えば、初期状態からの閾値電圧の変化量(図5で符号63を付した矢印の長さに相当)を劣化度Xとして扱うことができる。また、例えば、移動度の低下量を劣化度Xとして扱うこともできる。なお、移動度の低下は、I-V特性を表す曲線の傾きの低下として現れる。
【0039】
ところで、駆動トランジスタT2のみが補償対象回路素子として扱われる場合には、TFT特性を検出するために測定された電流値に基づいて劣化度Xが算出され、有機EL素子311のみが補償対象回路素子として扱われる場合には、OLED特性を検出するために測定された電流値に基づいて劣化度Xが算出され、駆動トランジスタT2および有機EL素子311の双方が補償対象回路素子として扱われる場合には、TFT特性を検出するために測定された電流値とOLED特性を検出するために測定された電流値とに基づいて劣化度Xが算出される。
【0040】
劣化度算出回路110で算出された1画面分の劣化度(劣化度のデータ)Xは、フレームメモリ120に保存される。
【0041】
変動係数算出回路130は、フレームメモリ120に保持されている1画面分の劣化度Xに基づいて、劣化度Xの変動係数CVを算出する。ここでは表示部30内の画素回路310の数をK個(すなわち、N×M=K)と仮定し、変動係数CVの具体的な求め方を以下に説明する。なお、pを1以上K以下の整数として、K個の画素回路310のそれぞれの劣化度をXpで表す。
【0042】
まず、次式(1)に示すように、K個の画素回路310の劣化度Xpの総和をKで除することによって平均劣化度Xaveが算出される。
【数1】
次に、K個の“劣化度Xpと平均劣化度Xaveとの差の2乗”の総和が求められ、当該総和をKで除することによって得られる値の平方根が求められる。すなわち、次式(2)によって、劣化度Xの標準偏差σが算出される。
【数2】
最後に、次式(3)に示すように、標準偏差σを平均劣化度Xaveで除することによって劣化度Xの変動係数CVが算出される。
【数3】
以上のようにして算出された変動係数CVは、基準輝度設定回路140に与えられる。
【0043】
基準輝度設定回路140は、フレームメモリ120に保持されている1画面分の劣化度Xと変動係数算出回路130によって算出された変動係数CVとに基づいて、上述した基準輝度SBを設定する。なお、この基準輝度設定回路140についての詳しい説明は後述する。
【0044】
補償演算回路150は、各画素回路310についての劣化度Xと基準輝度設定回路140によって設定された基準輝度SBとに基づいて、入力映像信号(外部から送られる画像データ)VDbに補償演算処理を施す。これにより、画素の劣化が補償されるよう入力映像信号VDbが補正され、表示部30内のN×M個の画素回路310に供給すべきデジタル映像信号VDaが生成される。以上のように、補償演算回路150は、N×M個の画素回路310に供給すべきデジタル映像信号VDaを生成する際に基準輝度SBと当該N×M個の画素回路310のそれぞれについての劣化度Xとに基づいて入力映像信号VDbを補正することによって、画素の劣化(補償対象回路素子の劣化)を補償する。なお、補償演算回路150で行われる処理についての更に詳しい説明は後述する。
【0045】
データ線駆動部210は、補償演算回路150で生成されたデジタル映像信号(補償演算処理後の画像データ)VDaに基づきデータ電圧を生成し、当該データ電圧をデータ線Sに印加する。
【0046】
なお、本実施形態では特性検出モニタによって全ての画素(画素回路310)について電流値を取得することを想定しているが、これには限定されない。複数個の画素を1単位として特性検出モニタによる電流値の取得を行うことによって、劣化度Xを保持するためのメモリ容量を削減することが可能となる。このとき補償精度は低下するが、画素サイズが極めて小さい高解像度パネルを採用している場合には、全ての画素について電流値が取得された場合の補償処理後の画像と複数個の画素を1単位として電流値が取得された場合の補償処理後の画像との差異は視聴者に視認され難い。それ故、高解像度パネルを採用している場合には、特性検出モニタによる電流値の取得を複数個の画素を1単位として行うことによってコスト低減の効果が得られる。
【0047】
以上より、劣化度算出回路110によって、N×M個の画素回路310の全てについての劣化度Xが算出されても良いし、複数個の画素回路310を1単位としてN×M個の画素回路310の一部についての劣化度Xが算出されても良い。ここで、K個の画素回路310が劣化度算出回路110による劣化度Xの算出対象であるとすると、変動係数算出回路130、基準輝度設定回路140、および補償演算回路150では、それらK個の画素回路310についての劣化度Xに基づいて上述の処理が行われる。
【0048】
<1.3.2 特性検出モニタ>
次に、特性検出モニタについて説明する。図6は、特性検出モニタを行うための駆動方法について説明するためのタイミングチャートである。なお、図6では、i行目について特性検出モニタが行われる例を示している。図6において、符号TMで示す期間が特性検出期間である。特性検出期間TMは、モニタ行においてTFT特性あるいはOLED特性を検出する準備が行われる期間(以下、「検出準備期間」という。)Taと、特性を検出するための電流測定が行われる期間(以下、「電流測定期間」という。)Tbと、モニタ行において映像信号電圧(通常の表示画像に対応するデータ電圧)の書き込みが行われる期間(以下、「映像信号電圧書き込み期間」という。)Tcとによって構成されている。
【0049】
検出準備期間Taには、走査線G1(i)はアクティブな状態とされ、モニタ制御線G2(i)は非アクティブな状態で維持される。これにより、入力トランジスタT1はオン状態となり、モニタ制御トランジスタT3はオフ状態で維持される。また、検出準備期間Taには、データ線S(j)にモニタ電圧Vmg(i,j)が印加される。なお、モニタ電圧Vmg(i,j)は或る固定の電圧を意味するのではなく、TFT特性を検出する時とOLED特性を検出する時とでモニタ電圧Vmg(i,j)の大きさは異なる。すなわち、ここでのモニタ電圧とは、TFT特性を検出するためのモニタ電圧(以下、「TFT特性測定用電圧」という。)およびOLED特性を検出するためのモニタ電圧(以下、「OLED特性測定用電圧」という。)の両者を含む概念である。モニタ電圧Vmg(i,j)がTFT特性測定用電圧であれば、駆動トランジスタT2はオン状態となる。モニタ電圧Vmg(i,j)がOLED特性測定用電圧であれば、駆動トランジスタT2はオフ状態で維持される。
【0050】
電流測定期間Tbには、走査線G1(i)は非アクティブな状態とされ、モニタ制御線G2(i)はアクティブな状態とされる。これにより、入力トランジスタT1はオフ状態となり、モニタ制御トランジスタT3はオン状態となる。ここで、モニタ電圧Vmg(i,j)がTFT特性測定用電圧であれば、駆動トランジスタT2はオン状態で維持され、かつ、有機EL素子311に電流は流れない。従って、図7で符号7を付した矢印で示すように、駆動トランジスタT2を流れる電流が、モニタ制御トランジスタT3を介してデータ線S(j)に出力される。この状態において、データ線S(j)に流れている電流がソースドライバ20内の電流モニタ部220によって測定される。一方、モニタ電圧Vmg(i,j)がOLED特性測定用電圧であれば、駆動トランジスタT2はオフ状態で維持され、有機EL素子311に電流が流れる。すなわち、図8で符号8を付した矢印で示すようにデータ線S(j)からモニタ制御トランジスタT3を介して有機EL素子311に電流が流れる。この状態において、データ線S(j)に流れている電流がソースドライバ20内の電流モニタ部220によって測定される。
【0051】
映像信号電圧書き込み期間Tcには、走査線G1(i)はアクティブな状態とされ、モニタ制御線G2(i)は非アクティブな状態とされる。これにより、入力トランジスタT1はオン状態となり、モニタ制御トランジスタT3はオフ状態となる。また、映像信号電圧書き込み期間Tcには、データ線S(j)には目標輝度に応じたデータ電圧が印加される。これにより、駆動トランジスタT2はオン状態となる。その結果、図9で符号9を付した矢印で示すように、駆動トランジスタT2を介して有機EL素子311に駆動電流が供給される。これにより、駆動電流に応じた輝度で有機EL素子311が発光する。
【0052】
<1.3.3 基準輝度の設定>
次に、基準輝度(劣化補償後の各有機EL素子311の表示輝度を定める基準とする輝度)の設定について説明する。本実施形態に係る有機EL表示装置は、補償処理の際の基準輝度の設定のしかたを劣化度Xのばらつきの大きさによって異ならせることを特徴とする。これについて、図10図15を参照しつつ説明する。なお、図10および図11に関し、符号50を付した点線は初期の劣化度を表し、符号51を付した点線は平均劣化度を表し、符号52を付した点線は平均劣化度よりも大きな劣化度を表す。
【0053】
本実施形態においては、劣化度Xのばらつきが比較的小さい時には、図10に示すように、全画素の平均劣化度に対応する輝度レベルを基準にして補償が行われる。一方、劣化度Xのばらつきが比較的大きい時には、図11に示すように、全画素の平均劣化度よりも大きな劣化度に対応する輝度レベルを基準にして補償が行われる。劣化度Xのばらつきは、劣化度Xの変動係数CVの大小によって判断される。具体的には、予め閾値が用意され、変動係数CVが閾値以下であれば、全画素の平均劣化度に対応する輝度レベルを基準にして補償が行われ、変動係数CVが閾値よりも大きければ、全画素の平均劣化度よりも大きな劣化度に対応する輝度レベルを基準にして補償が行われる。換言すれば、変動係数CVが閾値以下であれば、基準輝度は劣化補償が行われない状態で全ての有機EL素子311を所定の階調値に基づき発光させた場合の平均輝度(以下、「補償前平均輝度」という。)に設定され、変動係数CVが閾値よりも大きければ、基準輝度は上記補償前平均輝度よりも小さな輝度に設定される。
【0054】
なお、上述したように、劣化度算出回路110ではN×M個の画素回路310の一部についての劣化度Xが算出されても良い。この場合、上記補償前平均輝度は、劣化補償が行われない状態でN×M個の画素回路310の一部に含まれる有機EL素子311を所定の階調値に基づき発光させた場合の平均輝度となる。以上より、K個の画素回路310が劣化度Xの算出対象であるとすると、変動係数CVが閾値以下であれば、基準輝度は劣化補償が行われない状態で上記K個の画素回路310に含まれるK個の有機EL素子311を所定の階調値に基づき発光させた場合の当該K個の有機EL素子311の平均輝度(補償前平均輝度)に設定され、変動係数CVが閾値よりも大きければ、基準輝度は補償前平均輝度よりも小さな輝度に設定される。
【0055】
基準輝度の設定は、例えば、変動係数と基準輝度との対応関係が図12の太実線で表されるような対応関係を満たすように行われる。なお、図12に関し、符号55を付した点線は補償前平均輝度を表している。図12に示す例では、閾値は0.2である。従って、変動係数CVが0.2以下であれば基準輝度は補償前平均輝度に設定され、変動係数CVが0.2よりも大きければ基準輝度は補償前平均輝度よりも小さな輝度に設定される。これに関し、変動係数CVが0.2を超えると、図12で符号56を付した部分に示すように変動係数CVが大きくなるにつれて基準輝度は小さくなる。
【0056】
ところで、時間の経過に従って補償前平均輝度は変化する。それ故、基準輝度を算出するためには、補償前平均輝度の最小単位の値毎に、図12に示したような対応関係を表す情報を保持する必要がある。しかしながら、そのような情報を保持するためのメモリ等を設けることはコストアップの要因となる。そこで、本実施形態においては、図13に示すような「変動係数と調整係数との対応関係を表すグラフ」に基づいて決定される調整係数を補償前平均輝度に乗ずることによって基準輝度を算出するという構成が採用されている。これに関し、図13に示すようなグラフは、グラフの屈曲点の情報および屈曲点間の傾きの情報が存在すれば再現可能である。変動係数が0であるときの調整係数を1.0に定めると、図14に示すような情報が存在すれば図13に示したグラフを再現することができる。従って、本実施形態においては、図14に示したような情報(グラフの屈曲点の情報および屈曲点間の傾きの情報)が例えばレジスタに保持される。以上のような手法によれば、図15に示すように、補償前平均輝度が低下すると、変動係数が閾値よりも大きい部分の「変動係数と基準輝度との対応関係を表すライン」の傾きが緩やかになる(符号58を付した部分のラインの傾きは符号57を付した部分のラインの傾きよりも緩やかである)。
【0057】
図16は、上述のように基準輝度を設定するための基準輝度設定回路140の詳細な構成を示すブロック図である。図16に示すように、基準輝度設定回路140は、平均輝度算出部142とパラメータ保持部144と調整係数算出部146と基準輝度算出部148とによって構成されている。
【0058】
平均輝度算出部142は、フレームメモリ120に保持されている1画面分の劣化度Xに基づいて、上述した補償前平均輝度Baveを算出する。これについては、まず、フレームメモリ120から各画素回路310についての劣化度X(例えば、初期状態からの閾値電圧の変化量)が読み出される。そして、その読み出された劣化度Xから、各画素回路310内の駆動トランジスタT2のI-V特性(電流-電圧特性)が求められる。このI-V特性は、例えば初期状態からの閾値電圧の変化量が劣化度Xとして扱われている場合には、初期状態におけるI-V特性を閾値電圧の変化量に応じてシフトさせることによって得られる。有機EL素子311の発光効率が低下していない場合には、表示輝度は電流量に比例するので、各画素回路310内の駆動トランジスタT2のI-V特性と、有機EL素子311の電流量と表示輝度との関係とに基づいて、各画素回路310についての輝度-電圧特性(駆動トランジスタT2の制御端子に印加する電圧と表示輝度との関係)が得られる。さらに、各画素回路310についての輝度-電圧特性から、所定の階調値に対応する電圧を各画素回路310内の駆動トランジスタT2の制御端子に与えたときの各画素の表示輝度(すなわち、劣化補償が行われない状態で各画素回路310に含まれる有機EL素子311を所定の階調値に基づき発光させた場合の各画素の表示輝度)が算出される。そして、全画素の表示輝度の総和を画素数(画素回路310の数)で除することによって、補償前平均輝度Baveが算出される。なお、有機EL素子311の発光効率が低下している場合の表示輝度は、有機EL素子311の発光効率が低下していない場合の表示輝度に劣化度Xから推定される低下後の発光効率(1未満の値)を乗ずることによって得られる。従って、有機EL素子311の発光効率が低下している場合には、各画素回路310内の駆動トランジスタT2のI-V特性と、発光効率の低下を考慮した「有機EL素子311の電流量と表示輝度との関係」とに基づいて、各画素回路310についての輝度-電圧特性が得られる。
【0059】
パラメータ保持部144は、例えばレジスタであって、劣化度Xの変動係数CVに基づいて調整係数AFを求めるためのパラメータPVを保持する。より詳しくは、パラメータ保持部144は、変動係数CVの取り得る値を横軸とし基準輝度を算出するための調整係数AFの取り得る値を縦軸とするグラフ(変動係数CVと調整係数AFとの対応関係を表すグラフ)(図13参照)を取得することができるよう、当該グラフの屈曲点の横軸の値および隣接する屈曲点間の当該グラフの傾きをパラメータPVとして保持する(図14参照)。
【0060】
調整係数算出部146は、パラメータ保持部144に保持されているパラメータPVを参照して、劣化度Xの変動係数CVに基づいて調整係数AFを算出する。図13および図14に示したケースでは、例えば、変動係数CVが0.1であれば調整係数は1.0であり、変動係数CVが0.4であれば調整係数は0.9であり、変動係数CVが1.2であれば調整係数は0.5である。
【0061】
基準輝度算出部148は、平均輝度算出部142によって算出された補償前平均輝度Baveに調整係数算出部146によって算出された調整係数AFを乗ずることによって、基準輝度SBを算出する。
【0062】
以上のようにして設定された基準輝度SBに基づいて、補償演算回路150による補償演算処理が行われる。これにより、画素の劣化(補償対象回路素子の劣化)が補償される。
【0063】
<1.3.4 補償演算回路での処理>
補償演算回路150(図4参照)で行われる処理について詳しく説明する。上述したように、補償演算回路150では、入力映像信号(外部から送られる画像データ)VDbに補償演算処理が施されることによってデジタル映像信号VDaが生成される。これに関し、入力映像信号VDbの値は階調値に相当し、デジタル映像信号VDaの値は駆動トランジスタT2の制御端子に印加すべき電圧(ゲート電圧)に応じた値となる。すなわち、補償演算回路150では、補償演算処理として、階調値からゲート電圧を求める処理が行われる。以下、1つの画素回路310に着目して、階調値からゲート電圧を求める処理について説明する。
【0064】
まず、入力映像信号VDbの示す階調値に対応する目標輝度が求められる。この目標輝度は、劣化補償が行われるよう有機EL素子311をどれくらいの明るさで発光させるべきかを表す輝度であって、有機EL素子311毎に求められる輝度である。例えば、階調値30に基づく発光(表示)が行われるべき有機EL素子311と階調値100に基づく発光(表示)が行われるべき有機EL素子311とでは、目標輝度は異なる。目標輝度Lxは、次式(4)で求められる。
Lx=SB×(Gx/Gm)γ ・・・(4)
上式(4)に関し、SBは基準輝度設定回路140によって設定された基準輝度を表し、Gxは入力映像信号VDbの示す階調値を表し、Gmは平均輝度算出部142による補償前平均輝度Baveの算出の際に用いられた所定の階調値を表し、γはこの有機EL表示装置における階調値と輝度との関係を規定するガンマ値を表す。
【0065】
次に、有機EL素子311に供給すべき電流の大きさ(電流量)が求められる。これについては、まず、フレームメモリ120から読み出された劣化度Xから推定される発光効率の低下を考慮して、有機EL素子311の電流量と表示輝度との関係が求められる。そして、その関係に基づき、上式(4)で求められた目標輝度Lxから有機EL素子311に供給すべき電流の大きさ(電流量)が求められる。
【0066】
その後、劣化後の駆動トランジスタT2のI-V特性(これは初期状態におけるI-V特性を劣化度Xに応じてシフトさせることによって得られる)に基づいて、有機EL素子311に供給すべき電流の大きさ(電流量)に対応するゲート電圧が求められる。
【0067】
<1.4 効果>
本実施形態によれば、補償対象回路素子の劣化度Xの変動係数CVが算出され、その変動係数CVに基づいて基準輝度(劣化補償後の各有機EL素子311の表示輝度を定める基準とする輝度)SBが設定される。変動係数CVが予め用意された閾値以下であれば、すなわち、劣化度Xのばらつきが比較的小さければ、基準輝度SBは補償前平均輝度Baveに設定される。このとき、補償電流の大きさは比較的小さくなるので、画素の劣化(補償対象回路素子の劣化)の加速が抑制される。また、表示が顕著に暗くなることも抑制される。変動係数CVが閾値よりも大きければ、すなわち、劣化度Xのばらつきが比較的大きければ、基準輝度SBは補償前平均輝度Baveよりも小さな輝度に設定される。このとき、他の画素に比べて劣化が顕著に進んだ画素が存在していても、その劣化が顕著に進んだ画素に大きな補償電流が供給されることが抑制されるので、画素の劣化の加速が抑制される。以上のように、劣化度Xのばらつきが小さい時のみならず劣化度Xのばらつきが大きくなった時にも画素の劣化の加速が抑制される。以上より、本実施形態によれば、有機EL表示装置において充分な長さの補償可能期間が得られる補償処理が実現される。すなわち、有機EL表示装置において、画面全体での輝度の均一性を確保しつつ画素の急速な劣化が従来よりも抑制される。
【0068】
また、本実施形態においては、上述したように基準輝度SBの設定は劣化度Xの変動係数CVに基づいて行われる。変動係数CVは無次元の数値であるため、変動係数CVを用いることによって、劣化度Xを表す数値の大小に関わらず劣化度Xのばらつきの相対的な評価が可能となる。それ故、例えば、装置毎あるいは機種毎に閾値を調整する等の作業が不要となる。
【0069】
<1.5 変形例>
<1.5.1 第1の変形例>
第1の実施形態においては、基準輝度設定回路140による基準輝度SBの設定は、劣化度Xの変動係数CVに基づいて行われていた。しかしながら、これには限定されない。例えば、劣化度Xの標準偏差あるいは分散に基づいて基準輝度SBの設定が行われても良いし、劣化度Xの最大偏差(最大の劣化度と最小の劣化度との差)に基づいて基準輝度SBの設定が行われても良い。すなわち、N×M個の画素回路310の一部または全てについての劣化度Xに基づいて求められる偏差に応じた値を指標値として算出する指標値算出回路(第1の実施形態では、変動係数算出回路130)を設けて、当該指標値算出回路によって算出された指標値に基づいて基準輝度設定回路140による基準輝度SBの設定が行われれば良い。
【0070】
<1.5.2 第2の変形例>
第1の実施形態においては、変動係数CVが閾値以下であれば基準輝度SBは補償前平均輝度Baveに設定され、変動係数CVが閾値よりも大きければ基準輝度SBは補償前平均輝度Baveよりも小さな輝度に設定されていた(図12参照)。しかしながら、これには限定されない。変動係数CVと閾値との比較が行われることなく変動係数CVが大きくなるにつれて基準輝度SBを小さな値に設定するようにしても良い。この場合、変動係数CVと基準輝度SBとの対応関係が例えば図17の太実線で表されるような対応関係を満たすように、基準輝度SBが設定される。
【0071】
<1.5.3 第3の変形例>
第1の実施形態においては、基準輝度SBの設定を行う際に変動係数CVとの比較対象となる閾値は1個だけ設けられていた。しかしながら、これには限定されず、2個以上の閾値が設けられていても良い。これにより、例えば、図18に示すように、変動係数CVの増加(劣化度Xのばらつきの増大)に従って基準輝度SBの低下の度合いを緩やかにすることができる。このような手法によれば、劣化が顕著に進んだ少数の画素の影響を緩和することが可能となる。
【0072】
<2.第2の実施形態>
第2の実施形態について説明する。以下、主に第1の実施形態と異なる点についてのみ説明する。
【0073】
<2.1 全体構成など>
本実施形態における全体構成は、第1の実施形態における全体構成(図1参照)と同様である。但し、本実施形態に係る有機EL表示装置は、カラー表示を行う表示装置である。従って、図19に示すように、赤色用の画素回路310Rと緑色用の画素回路310Gと青色用の画素回路310Bとによって1つの画素が構成される。なお、これら3色以外の色用の画素回路が含まれていても良い。画素回路310R内の有機EL素子311は赤色光を発し、画素回路310G内の有機EL素子311は緑色光を発し、画素回路310B内の有機EL素子311は青色光を発する。
【0074】
<2.2 補償処理>
以下、本実施形態における補償処理について説明する。
【0075】
<2.2.1 概略>
図20は、補償処理のための概略構成について説明するためのブロック図である。本実施形態においては、第1の実施形態における基準輝度設定回路140に代えて基準電流設定回路160が設けられている。データ線駆動部210、電流モニタ部220、劣化度算出回路110、フレームメモリ120、および変動係数算出回路130については第1の実施形態と同様である。但し、図20では、劣化度Xに関し、赤色の画素の劣化度をXrで表し、緑色の画素の劣化度をXgで表し、青色の画素の劣化度をXbで表している。
【0076】
基準電流設定回路160は、フレームメモリ120に保持されている1画面分の劣化度X(Xr、Xg、Xb)と変動係数算出回路130によって算出された変動係数CVとに基づいて、基準輝度(劣化補償後の各有機EL素子311の表示輝度を定める基準とする輝度)に対応する基準電流SCを設定する なお、赤色用の画素回路310Rについての基準電流をSCrで表し、緑色用の画素回路310Gについての基準電流をSCgで表し、青色用の画素回路310Bについての基準電流をSCbで表している。
【0077】
補償演算回路150は、各画素回路310についての劣化度Xと基準電流設定回路160によって設定された基準電流SCとに基づいて、入力映像信号(外部から送られる画像データ)VDbに補償演算処理を施す。これにより、画素の劣化が補償されるよう入力映像信号VDbが補正され、表示部30内のN×M個の画素回路310に供給すべきデジタル映像信号VDaが生成される。以上のように、補償演算回路150は、N×M個の画素回路310に供給すべきデジタル映像信号VDaを生成する際に基準電流SCと当該N×M個の画素回路310のそれぞれについての劣化度Xとに基づいて入力映像信号VDbを補正することによって、画素の劣化(補償対象回路素子の劣化)を補償する。なお、補償演算回路150で行われる処理についての更に詳しい説明は後述する。
【0078】
以上のように、本実施形態においては、第1の実施形態とは異なり、劣化度Xの変動係数CVに基づいて基準電流SCが設定され、当該基準電流SCと各画素回路310についての劣化度Xとに基づいて補償演算処理が行われる。
【0079】
なお、本実施形態についても、劣化度算出回路110で算出される劣化度XがN×M個の画素回路310の一部についての劣化度Xであっても良い。これに応じて、変動係数算出回路130、基準電流設定回路160、および補償演算回路150での処理がN×M個の画素回路310の一部についての劣化度Xに基づいて行われても良い。
【0080】
ところで、上述したように赤色用の画素回路310Rと緑色用の画素回路310Gと青色用の画素回路310Bとによって1つの画素が構成されているので、劣化度Xに関しても、赤色についての劣化度Xrと緑色についての劣化度Xgと青色についての劣化度Xbとが求められる。しかしながら、仮にそれら劣化度Xr,Xg,およびXbに基づき色毎に基準輝度を設定して当該基準輝度に応じて補償処理を行った場合にはホワイトバランスが崩れることが考えられる。例えば、青色についての基準輝度が赤色や緑色についての基準輝度よりも高い値に設定されると、全体的に青みがかった画像が表示されることになる。そこで、変動係数算出回路130では、全ての色についての劣化度X(赤色用の画素回路310Rについての劣化度Xr、緑色用の画素回路310Gについての劣化度Xg、および青色用の画素回路310Bについての劣化度Xb)に基づいて、全ての色に共通の変動係数CVが算出される。基準電流設定回路160は、まず、変動係数算出回路130によって算出された全ての色に共通の変動係数CVに基づいて、色毎の基準電流の算出の基礎とする基礎基準電流を算出する。そして、基準電流設定回路160は、その基礎基準電流に基づき、色毎に発光効率に応じて基準電流を設定する。すなわち、基準電流設定回路160は、赤色についての基準電流SCr、緑色についての基準電流SCg、および青色についての基準電流SCbを設定する。
【0081】
本実施形態においては、例えば図21に示すように、変動係数CVが予め用意された閾値以下であれば(すなわち、劣化度Xのばらつきが比較的小さければ)、基礎基準電流は上述した補償前平均輝度Baveに対応する平均電流(以下、「補償前平均電流」という。)に設定され(図21で符号59を付した点線が補償前平均電流を表している)、変動係数CVが閾値よりも大きければ(すなわち、劣化度Xのばらつきが比較的大きければ)、基礎基準電流は補償前平均電流よりも小さな電流に設定される。なお、第1の実施形態の第2の変形例あるいは第3の変形例と同様にして基礎基準電流の設定が行われるようにしても良い。
【0082】
<2.2.2 基準電流設定回路>
図22は、基準電流設定回路160の詳細な構成を示すブロック図である。図22に示すように、基準電流設定回路160は、平均電流算出部162とパラメータ保持部164と調整係数算出部166と基準電流算出部168とによって構成されている。
【0083】
平均電流算出部162は、フレームメモリ120に保持されている1画面分の劣化度Xに基づいて、補償前平均電流Caveを算出する。これについては、まず、第1の実施形態と同様にして補償前平均輝度Baveが算出される。そして、有機EL素子311の電流量と表示輝度との関係に基づいて、補償前平均輝度Baveから補償前平均電流Caveが求められる。
【0084】
パラメータ保持部164は、第1の実施形態と同様、調整係数AFを求めるためのグラフ(図13参照)の屈曲点の横軸の値および隣接する屈曲点間の当該グラフの傾きをパラメータPVとして保持する。調整係数算出部166は、第1の実施形態と同様、パラメータ保持部164に保持されているパラメータPVを参照して、劣化度Xの変動係数CVに基づいて調整係数AFを算出する。
【0085】
基準電流算出部168は、平均電流算出部162によって算出された補償前平均電流Caveに調整係数算出部166によって算出された調整係数AFを乗ずることによって、上述した基礎基準電流を算出する。その基礎基準電流に基づき、基準電流算出部168は、赤色、緑色、および青色のそれぞれの発光効率を考慮して、色毎に基準電流SCを算出する。すなわち、赤色についての基準電流SCr、緑色についての基準電流SCg、および青色についての基準電流SCbが基準電流算出部168によって算出される。
【0086】
以上のようにして設定された色毎の基準電流SCr,SCg,およびSCbに基づいて、補償演算回路150による補償演算処理が行われる。これにより、画素の劣化(補償対象回路素子の劣化)が補償される。
【0087】
<2.2.3 補償演算回路での処理>
補償演算回路150(図20参照)で行われる処理について詳しく説明する。第1の実施形態と同様、補償演算回路150では、補償演算処理として、階調値からゲート電圧を求める処理が行われる。以下、1つの赤色用の画素回路310Rに着目して、階調値からゲート電圧を求める処理について説明する。
【0088】
まず、入力映像信号VDbの示す階調値に対応する目標電流が求められる。この目標電流は、発光効率が低下していない有機EL素子311を上述した目標輝度(劣化補償が行われるよう有機EL素子311をどれくらいの明るさで発光させるべきかを表す輝度であって、有機EL素子311毎に求められる輝度)で発光させるために当該有機EL素子311に供給すべき電流である。目標電流Cxは、次式(5)で求められる。
Cx=SCr×(Gx/Gm)γ ・・・(5)
上式(5)に関し、SCrは基準電流設定回路160によって設定された基準電流(赤色についての基準電流)を表し、Gxは入力映像信号VDbの示す階調値を表し、Gmは平均電流算出部162による補償前平均電流Caveの算出の際に用いられた所定の階調値を表し、γはこの有機EL表示装置における階調値と輝度との関係を規定するガンマ値を表す。
【0089】
次に、フレームメモリ120から読み出された劣化度Xから推定される発光効率の低下を考慮して、上式(5)で求められた目標電流Cxから有機EL素子311に実際に供給すべき電流の大きさ(電流量)が求められる。
【0090】
その後、劣化後の駆動トランジスタT2のI-V特性(これは初期状態におけるI-V特性を劣化度Xに応じてシフトさせることによって得られる)に基づいて、有機EL素子311に実際に供給すべき電流の大きさ(電流量)に対応するゲート電圧が求められる。
【0091】
緑色用の画素回路310Gおよび青色用の画素回路310Bのデータについても同様の処理が行われる。
【0092】
<2.3 効果>
本実施形態によれば、補償対象回路素子の劣化度Xの変動係数CVが算出され、その変動係数CVに基づいて基礎基準電流が算出される。そして、基礎基準電流に基づき、各色の発光効率を考慮して色毎に基準電流SCが設定される。変動係数CVが予め用意された閾値以下であれば、すなわち、劣化度Xのばらつきが比較的小さければ、基礎基準電流は補償前平均電流Caveに設定される。このとき、補償電流の大きさは比較的小さくなるので、画素の劣化(補償対象回路素子の劣化)の加速が抑制される。また、表示が顕著に暗くなることも抑制される。変動係数CVが閾値よりも大きければ、すなわち、劣化度Xのばらつきが比較的大きければ、基礎基準電流は補償前平均電流Caveよりも小さな電流に設定される。このとき、他の画素に比べて劣化が顕著に進んだ画素が存在していても、その劣化が顕著に進んだ画素に大きな補償電流が供給されることが抑制されるので、画素の劣化の加速が抑制される。以上のように、劣化度Xのばらつきが小さい時のみならず劣化度Xのばらつきが大きくなった時にも画素の劣化の加速が抑制される。以上より、本実施形態によれば、カラー表示を行う有機EL表示装置において充分な長さの補償可能期間が得られる補償処理が実現される。また、基準電流SCは色毎に発光効率を考慮して設定されるので、補償処理によってホワイトバランスが崩れることもない。
【0093】
<2.4 変形例>
第2の実施形態においては、全ての色についての劣化度X(赤色用の画素回路310Rについての劣化度Xr、緑色用の画素回路310Gについての劣化度Xg、および青色用の画素回路310Bについての劣化度Xb)に基づいて、全ての色に共通の変動係数CVが算出されていた。しかしながら、これには限定されず、緑色についての劣化度(緑色用の画素回路310Gについての劣化度)Xgに基づいて全ての色に共通の変動係数CVを算出するようにしても良い。これについて、第2の実施形態の変形例として以下に説明する。
【0094】
画素回路310内の有機EL素子311に関し、一般に、赤色および緑色については発光材料として燐光材料が採用され、青色については発光材料として蛍光材料が採用されている。燐光材料の発光効率は蛍光材料の発光効率よりも3倍以上高いが、燐光材料は一般に熱安定性がかなり低い。また、緑色については、赤色よりも短波長であるため、エネルギー的に不安定である。以上より、結果的に、緑色光を発する有機EL素子は、青色光を発する有機EL素子や赤色光を発する有機EL素子よりも早く劣化する。そこで、本変形例においては、緑色についての劣化度Xgに基づいて、全ての色に共通の変動係数CVが算出される。
【0095】
図23は、補償処理のための概略構成について説明するためのブロック図である。本変形例においては、変動係数算出回路130は、フレームメモリ120に保持されている1画面分の劣化度Xのうちの緑色についての劣化度Xgに基づいて、全ての色に共通の変動係数CVを算出する。基準電流設定回路160は、フレームメモリ120に保持されている1画面分の劣化度Xのうちの緑色についての劣化度Xgと変動係数算出回路130によって算出された変動係数CVとに基づいて、基準輝度に対応する基準電流SCを設定する。データ線駆動部210、電流モニタ部220、劣化度算出回路110、フレームメモリ120、および補償演算回路150の動作については第2の実施形態と同様である。
【0096】
図24は、本変形例における基準電流設定回路160の詳細な構成を示すブロック図である。パラメータ保持部164および調整係数算出部166の動作については第2の実施形態と同様である。
【0097】
平均電流算出部162は、フレームメモリ120に保持されている1画面分の劣化度Xのうちの緑色についての劣化度Xgに基づいて、補償前平均電流Caveを算出する。基準電流算出部168は、平均電流算出部162によって算出された補償前平均電流Caveに調整係数算出部166によって算出された調整係数AFを乗ずることによって、上述した基礎基準電流を算出する。本変形例においては、変動係数CVおよび補償前平均電流Caveが緑色についての劣化度Xgに基づいて算出されているため、基準電流算出部168によって算出される基礎基準電流は緑色についての基準電流SCgとなる。赤色についての基準電流SCrは、緑色と赤色との発光効率の違いを考慮して、基礎基準電流(緑色についての基準電流SCg)に基づいて算出される。同様に、青色についての基準電流SCbは、緑色と青色との発光効率の違いを考慮して、基礎基準電流(緑色についての基準電流SCg)に基づいて算出される。
【0098】
以上のような本変形例によれば、変動係数CVの算出に要する演算量を第2の実施形態に比べて減らすことが可能である。これに関し、緑色光を発する有機EL素子が早く劣化することを考慮して変動係数CVは緑色についての劣化度Xgに基づいて算出されるので、演算量の削減に伴う補償精度の低下が抑制される。
【0099】
<3.その他>
上記各実施形態(変形例を含む)では有機EL表示装置を例に挙げて説明したが、これには限定されない。電流で駆動される表示素子(電流によって輝度または透過率が制御される表示素子)を備えた表示装置であれば、本開示の内容を適用することができる。例えば、無機発光ダイオードを備えた無機EL表示装置や量子ドット発光ダイオード(Quantum dot Light Emitting Diode(QLED))を備えたQLED表示装置などにも本開示の内容を適用することができる。
【0100】
第1の実施形態では、モノクロ表示を行う有機EL表示装置において、指標値(劣化度Xの変動係数CV)に基づいて基準輝度が設定され当該基準輝度に基づいて補償演算処理が行われていた。しかしながら、モノクロ表示を行う有機EL表示装置において、第2の実施形態と同様に、指標値(劣化度Xの変動係数CV)に基づいて基準輝度に対応する基準電流が設定され当該基準電流に基づいて補償演算処理が行われるようにすることもできる。この場合、図20に示す基準電流設定回路160では、基礎基準電流の算出が行われることなく、基準輝度に対応する基準電流SCが算出される。詳しくは、基準電流設定回路160は、フレームメモリ120に保持されている1画面分の劣化度Xと変動係数算出回路130によって算出された変動係数CVとに基づいて、基準輝度に対応する基準電流SCを設定する。その際、変動係数CVが予め用意された閾値以下であれば、基準電流SCは補償前平均電流Caveに設定され、変動係数CVが閾値よりも大きければ、基準電流SCは補償前平均電流Caveよりも小さな電流に設定される。なお、第1の実施形態の第2の変形例(図17参照)と同様に、変動係数CVと閾値との比較が行われることなく、変動係数CVが大きいほど基準電流SCが小さな電流に設定されるようにしても良い。また、図22に示した基準電流算出部168は、平均電流算出部162によって算出された補償前平均電流Caveに調整係数算出部166によって算出された調整係数AFを乗ずることによって、基準電流SCを算出する。
【0101】
第2の実施形態では、カラー表示を行う有機EL表示装置において、指標値(劣化度Xの変動係数CV)に基づいて基準輝度に対応する基準電流が設定され当該基準電流に基づいて補償演算処理が行われていた。しかしながら、カラー表示を行う有機EL表示装置において、第1の実施形態と同様に、指標値(劣化度Xの変動係数CV)に基づいて基準輝度が設定され当該基準輝度に基づいて補償演算処理が行われるようにすることもできる。この場合、図4に示す基準輝度設定回路140での基準輝度SBの設定は色毎に行われる。詳しくは、基準輝度設定回路140は、色毎の基準輝度SBの算出の基礎とする基礎基準輝度を変動係数算出回路130によって算出された変動係数CVに基づいて算出し、その基礎基準輝度に基づいて、色毎に発光効率に応じて基準輝度SBを設定する。その際、変動係数CVが予め用意された閾値以下であれば、基礎基準輝度は補償前平均輝度Baveに設定され、変動係数CVが閾値よりも大きければ、基礎基準輝度は補償前平均輝度Baveよりも小さな輝度に設定される。なお、第1の実施形態の第2の変形例(図17参照)と同様に、変動係数CVと閾値との比較が行われることなく、変動係数CVが大きいほど基礎基準輝度が小さな輝度に設定されるようにしても良い。また、図16に示した基準輝度算出部148は、平均輝度算出部142によって算出された補償前平均輝度Baveに調整係数算出部146によって算出された調整係数AFを乗ずることによって基礎基準電流を算出し、当該基礎基準電流に基づき、赤色、緑色、および青色のそれぞれの発光効率を考慮して、色毎に基準輝度SBを算出する。
【符号の説明】
【0102】
10…制御回路
20…ソースドライバ
30…表示部
32…ゲートドライバ
110…劣化度算出回路
120…フレームメモリ
130…変動係数算出回路
140…基準輝度設定回路
142…平均輝度算出部
144,164…パラメータ保持部
146,166…調整係数算出部
148…基準輝度算出部
150…補償演算回路
160…基準電流設定回路
168…基準電流算出部
210…データ線駆動部
220…電流モニタ部
310…画素回路
311…有機EL素子
T2…駆動トランジスタ
CV…変動係数
X…劣化度
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