(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-16
(54)【発明の名称】CDRのアミノ酸置換により抗体の等電点を改変する方法
(51)【国際特許分類】
C07K 16/46 20060101AFI20231108BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20231108BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20231108BHJP
C12N 15/09 20060101ALI20231108BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20231108BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20231108BHJP
C07K 16/36 20060101ALI20231108BHJP
【FI】
C07K16/46 ZNA
C12N15/13
C12N15/62 Z
C12N15/09 Z
C12N5/10
C12P21/08
C07K16/36
(21)【出願番号】P 2023064122
(22)【出願日】2023-04-11
(62)【分割の表示】P 2021085761の分割
【原出願日】2008-09-26
【審査請求日】2023-04-11
(31)【優先権主張番号】P 2007250165
(32)【優先日】2007-09-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2007256063
(32)【優先日】2007-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003311
【氏名又は名称】中外製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100122644
【氏名又は名称】寺地 拓己
(74)【代理人】
【識別番号】100188374
【氏名又は名称】一宮 維幸
(72)【発明者】
【氏名】井川 智之
(72)【発明者】
【氏名】角田 浩行
(72)【発明者】
【氏名】橘 達彦
(72)【発明者】
【氏名】倉持 太一
【審査官】小倉 梢
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-129579(JP,A)
【文献】国際公開第2006/004663(WO,A2)
【文献】国際公開第2006/050491(WO,A2)
【文献】特開平02-028200(JP,A)
【文献】特表平03-500644(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00 - 15/90
C07K 16/00 - 15/46
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重鎖可変領域および軽鎖可変領域を有する第1のポリペプチドおよび重鎖可変領域および軽鎖可変領域を有する第2のポリペプチドを含む多重特異性抗体であって、
前記第1のポリペプチドの重鎖可変領域におけるKabatナンバリングによる31位、61位、62位、64位および65位のアミノ酸残基、ならびに軽鎖可変領域におけるKabatナンバリングによる24位、27位、53位、54位および55位のアミノ酸残基からなる群から選ばれる少なくとも1つのアミノ酸残基が電荷を有し、以下の(a)または(b)いずれかの群に含まれるアミノ酸残基から選択され、
(a)グルタミン酸(E)、アスパラギン酸(D)
(b)リジン(K)、アルギニン(R)、ヒスチジン(H)
前記第2のポリペプチドの重鎖可変領域におけるKabatナンバリングによる31位、61位、62位、64位および65位のアミノ酸残基、ならびに軽鎖可変領域におけるKabatナンバリングによる24位、27位、53位、54位および55位のアミノ酸残基からなる群から選ばれる、少なくとも1つのアミノ酸残基が、前記第1のポリペプチドにおいて選ばれたアミノ酸残基が有する電荷とは反対の電荷を有する、または電荷を有さず、
第1のポリペプチドと第2のポリペプチドの等電点が互いに異な
り、
第1のポリペプチドと第2のポリペプチドの等電点の差が1.0以上である、
多重特異性抗体。
【請求項2】
前記第1のポリペプチドの軽鎖可変領域におけるKabatナンバリングによる24位、27位、53位、54位および55位のアミノ酸残基からなる群から選ばれる少なくとも1つのアミノ酸残基が電荷を有し、
前記第2のポリペプチドの軽鎖可変領域におけるKabatナンバリングによる24位、27位、53位、54位および55位のアミノ酸残基からなる群から選ばれる、少なくとも1つのアミノ酸残基が、前記第1のポリペプチドにおいて選ばれたアミノ酸残基が有する電荷とは反対の電荷を有する、または電荷を有しない、
請求項1に記載の多重特異性抗体。
【請求項3】
前記第1のポリペプチドの軽鎖可変領域におけるKabatナンバリングによる53位のアミノ酸残基が電荷を有し、
前記第2のポリペプチドの軽鎖可変領域におけるKabatナンバリングによる53位のアミノ酸残基が、前記第1のポリペプチドの軽鎖可変領域におけるKabatナンバリングによる53位のアミノ酸残基で選ばれたアミノ酸残基が有する電荷とは反対の電荷を有する、または電荷を有しない、
請求項1または2に記載の多重特異性抗体。
【請求項4】
前記第1のポリペプチドの重鎖可変領域におけるKabatナンバリングによる31位、61位、62位、64位および65位のアミノ酸残基からなる群から選ばれる少なくとも1つのアミノ酸残基が電荷を有し、
前記第2のポリペプチドの重鎖可変領域におけるKabatナンバリングによる31位、61位、62位、64位および65位のアミノ酸残基からなる群から選ばれる、少なくとも1つのアミノ酸残基が、前記第1のポリペプチドにおいて選ばれたアミノ酸残基が有する電荷とは反対の電荷を有する、または電荷を有しない、
請求項1~3のいずれか一項に記載の多重特異性抗体。
【請求項5】
前記第1のポリペプチドの重鎖可変領域におけるKabatナンバリングによる61位のアミノ酸残基が電荷を有し、
前記第2のポリペプチドの重鎖可変領域におけるKabatナンバリングによる61位のアミノ酸残基が、前記第1のポリペプチドの重鎖可変領域におけるKabatナンバリングによる61位のアミノ酸残基で選ばれたアミノ酸残基が有する電荷とは反対の電荷を有する、または電荷を有しない、
請求項1~4のいずれか一項に記載の多重特異性抗体。
【請求項6】
重鎖可変領域および軽鎖可変領域を有する第1のポリペプチドおよび重鎖可変領域および軽鎖可変領域を有する第2のポリペプチドを含む多重特異性抗体であって、
前記第1のポリペプチドの軽鎖可変領域におけるKabatナンバリングによる53位のアミノ酸残基が電荷を有し、以下の(a)または(b)いずれかの群に含まれるアミノ酸残基から選択され、
(a)グルタミン酸(E)、アスパラギン酸(D)
(b)リジン(K)、アルギニン(R)、ヒスチジン(H)
前記第2のポリペプチドの軽鎖可変領域におけるKabatナンバリングによる53位のアミノ酸残基が、前記第1のポリペプチドの軽鎖可変領域におけるKabatナンバリングによる53位のアミノ酸残基で選ばれたアミノ酸残基が有する電荷とは反対の電荷を有する、または電荷を有さず、
第1のポリペプチドと第2のポリペプチドの等電点が互いに異な
り、
第1のポリペプチドと第2のポリペプチドの等電点の差が1.0以上である、
多重特異性抗体。
【請求項7】
重鎖可変領域および軽鎖可変領域を有する第1のポリペプチドおよび重鎖可変領域および軽鎖可変領域を有する第2のポリペプチドを含む多重特異性抗体であって、
前記第1のポリペプチドの重鎖可変領域におけるKabatナンバリングによる61位のアミノ酸残基が電荷を有し、以下の(a)または(b)いずれかの群に含まれるアミノ酸残基から選択され、
(a)グルタミン酸(E)、アスパラギン酸(D)
(b)リジン(K)、アルギニン(R)、ヒスチジン(H)
前記第2のポリペプチドの重鎖可変領域におけるKabatナンバリングによる61位のアミノ酸残基が、前記第1のポリペプチドの重鎖可変領域におけるKabatナンバリングによる61位のアミノ酸残基で選ばれたアミノ酸残基が有する電荷とは反対の電荷を有する、または電荷を有さず、
第1のポリペプチドと第2のポリペプチドの等電点が互いに異な
り、
第1のポリペプチドと第2のポリペプチドの等電点の差が1.0以上である、
多重特異性抗体。
【請求項8】
前記第1のポリペプチドの軽鎖可変領域におけるKabatナンバリングによる53位のアミノ酸残基がリジン(K)である、請求項1~7のいずれか一項に記載される多重特異性抗体。
【請求項9】
前記第1のポリペプチドの重鎖可変領域におけるKabatナンバリングによる61位のアミノ酸残基がリジン(K)である、請求項1~8のいずれか一項に記載される多重特異性抗体。
【請求項10】
前記第1のポリペプチドの重鎖可変領域におけるKabatナンバリングによる64位のアミノ酸残基がリジン(K)である、請求項1~9のいずれか一項に記載される多重特異性抗体。
【請求項11】
前記第2のポリペプチドの重鎖可変領域におけるKabatナンバリングによる64位のアミノ酸がグルタミン(Q)である、請求項10に記載される多重特異性抗体。
【請求項12】
前記第1のポリペプチドの軽鎖可変領域におけるKabatナンバリングによる54位のアミノ酸がロイシン(L)である、請求項1~11に記載される多重特異性抗体。
【請求項13】
前記第1のポリペプチドの軽鎖可変領域におけるKabatナンバリングによる55位のアミノ酸がグルタミン酸(E)である、請求項1~12のいずれか一項に記載される多重特異性抗体。
【請求項14】
前記第1のポリペプチドにおいて選択されたアミノ酸残基が相補性決定領域(CDR)の表面に露出し得るアミノ酸残基である、請求項1~13のいずれか一項に記載される多重特異性抗体。
【請求項15】
前記多重特異性抗体が、標準的なクロマトグラフィーを使用した分析により、前記第1のポリペプチドのホモ多量体および前記第2のポリペプチドのホモ多量体から分離したピークとなる、請求項1~14のいずれか一項に記載される多重特異性抗体。
【請求項16】
前記ホモ多量体がホモダイマーである、請求項15に記載される多重特異性抗体。
【請求項17】
前記等電点の値が等電点電気泳動により測定される、請求項1~
16のいずれか一項に記載される多重特異性抗体。
【請求項18】
二重特異性抗体である、請求項1~
17のいずれか一項に記載される多重特異性抗体。
【請求項19】
ヒト化抗体またはヒト抗体である、請求項1~
18のいずれか一項に記載される多重特異性抗体。
【請求項20】
軽鎖定常領域としてCκまたはCλを含む、請求項
19に記載される多重特異性抗体。
【請求項21】
軽鎖定常領域としてCκを含む、請求項
20に記載される多重特異性抗体。
【請求項22】
IgG1、IgG2、IgG3およびIgG4の重鎖定常領域を含むヒト抗体である、請求項
19~
21のいずれか一項に記載される多重特異性抗体。
【請求項23】
IgG4の定常領域を含むヒト抗体である、請求項
22に記載される多重特異性抗体。
【請求項24】
抗Factor IX抗体/抗Factor X抗体のヘテロダイマーである、請求項1~
23のいずれか一項に記載される多重特異性抗体。
【請求項25】
請求項1~
24のいずれか一項に記載される多重特異性抗体および医薬的に許容される担体を含む組成物。
【請求項26】
請求項1~
24のいずれか一項に記載される多重特異性抗体を構成するポリペプチドをコードする核酸。
【請求項27】
請求項
26に記載される核酸を有する宿主細胞。
【請求項28】
前記宿主細胞がCHО細胞である、請求項
27に記載される宿主細胞。
【請求項29】
請求項
27または
28に記載される宿主細胞を培養する工程、および細胞培養物からポリペプチドを回収する工程を含む請求項1~
24のいずれか一項に記載される多重特異性抗体の製造方法。
【請求項30】
重鎖可変領域および軽鎖可変領域を有する第1のポリペプチドならびに重鎖可変領域および軽鎖可変領域を有する第2のポリペプチドを含む多重特異性抗体を製造する方法であって、
前記多重特異性抗体と共に前記第1のポリペプチドのホモ多量体および前記第2のポリペプチドのホモ多量体を含有する混合物から標準的なクロマトグラフィーにより前記多重特異性抗体を精製することを含み、
前記第1のポリペプチドの重鎖可変領域におけるKabatナンバリングによる31位、61位、62位、64位および65位のアミノ酸残基、ならびに軽鎖可変領域におけるKabatナンバリングによる24位、27位、53位、54位および55位のアミノ酸残基からなる群から選ばれる少なくとも1つのアミノ酸残基が電荷を有し、以下の(a)または(b)いずれかの群に含まれるアミノ酸残基から選択され、
(a)グルタミン酸(E)、アスパラギン酸(D)
(b)リジン(K)、アルギニン(R)、ヒスチジン(H)
前記第2のポリペプチドの重鎖可変領域におけるKabatナンバリングによる31位、61位、62位、64位および65位のアミノ酸残基、ならびに軽鎖可変領域におけるKabatナンバリングによる24位、27位、53位、54位および55位のアミノ酸残基からなる群から選ばれる、少なくとも1つのアミノ酸残基が、前記第1のポリペプチドにおいて選ばれたアミノ酸残基が有する電荷とは反対の電荷を有する、または電荷を有さず、
第1のポリペプチドと第2のポリペプチドの等電点が互いに異な
り、
第1のポリペプチドと第2のポリペプチドの等電点の差が1.0以上である、
方法。
【請求項31】
前記第1のポリペプチドの軽鎖可変領域におけるKabatナンバリングによる24位、27位、53位、54位および55位のアミノ酸残基からなる群から選ばれる少なくとも1つのアミノ酸残基が電荷を有し、
前記第2のポリペプチドの軽鎖可変領域におけるKabatナンバリングによる24位、27位、53位、54位および55位のアミノ酸残基からなる群から選ばれる、少なくとも1つのアミノ酸残基が、前記第1のポリペプチドにおいて選ばれたアミノ酸残基が有する電荷とは反対の電荷を有する、または電荷を有しない、
請求項
30に記載の方法。
【請求項32】
前記第1のポリペプチドの軽鎖可変領域におけるKabatナンバリングによる53位のアミノ酸残基が電荷を有し、
前記第2のポリペプチドの軽鎖可変領域におけるKabatナンバリングによる53位のアミノ酸残基が、前記第1のポリペプチドにおいて選ばれたアミノ酸残基が有する電荷とは反対の電荷を有する、または電荷を有しない、
請求項
30または
31に記載の方法。
【請求項33】
前記第1のポリペプチドの重鎖可変領域におけるKabatナンバリングによる31位、61位、62位、64位および65位のアミノ酸残基からなる群から選ばれる少なくとも1つのアミノ酸残基が電荷を有し、
前記第2のポリペプチドの重鎖可変領域におけるKabatナンバリングによる31位、61位、62位、64位および65位のアミノ酸残基からなる群から選ばれる、少なくとも1つのアミノ酸残基が、前記第1のポリペプチドにおいて選ばれたアミノ酸残基が有する電荷とは反対の電荷を有する、または電荷を有しない、
請求項
30~
32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
前記第1のポリペプチドの重鎖可変領域におけるKabatナンバリングによる61位のアミノ酸残基が電荷を有し、
前記第2のポリペプチドの重鎖可変領域におけるKabatナンバリングによる61位のアミノ酸残基が、前記第1のポリペプチドの重鎖可変領域におけるKabatナンバリングによる61位のアミノ酸残基で選ばれたアミノ酸残基が有する電荷とは反対の電荷を有する、または電荷を有しない、
請求項
30~
33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
前記第1のポリペプチドの重鎖可変領域におけるKabatナンバリングによる61位のアミノ酸残基、および軽鎖可変領域におけるKabatナンバリングによる53位のアミノ酸残基が電荷を有し、
前記第2のポリペプチドの重鎖可変領域におけるKabatナンバリングによる61位のアミノ酸残基、および軽鎖可変領域におけるKabatナンバリングによる53位のアミノ酸残基が、前記第1のポリペプチドにおいて選ばれたアミノ酸残基が有する電荷とは反対の電荷を有する、または電荷を有しない、
請求項
30~
34のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
多重特異性抗体が、請求項1~
24のいずれか一項に記載される多重特異性抗体である、請求項
30~
35のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CDRのアミノ酸置換により、抗体の抗原に対する結合活性を保持しつつ等電点を改変する方法、抗体の血漿中薬物動態(血中動態)を制御する方法、等電点が改変された抗体を有効成分として含有する医薬組成物、および、その製造方法等に関する。
また、本発明は、抗IL-6レセプター抗体、抗グリピカン3抗体、及び抗IL-31レセプター抗体のCDR領域の表面に露出するアミノ酸残基の改変により、当該抗体抗IL-6レセプター抗体、抗グリピカン3抗体、及び抗IL-31レセプター抗体の血漿中半減期を制御する方法、アミノ酸残基の改変により血漿中半減期が制御された抗体(抗IL-6レセプター抗体、抗グリピカン3抗体、及び抗IL-31レセプター抗体)、当該抗体を有効成分として含む医薬組成物、並びに、それらの医薬組成物の製造方法に関する。
さらに本発明は、抗IL-6レセプター抗体を有効成分として含有する医薬組成物、および、その製造法等に関する。
【背景技術】
【0002】
抗体は血漿中半減期が長く、副作用も少ないことから医薬品として注目されている。中でもIgG型の抗体医薬は多数上市されており、現在も数多くの抗体医薬が開発されている(非特許文献1、非特許文献2)。現在上市されている抗体医薬は、キメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体がほとんどであるが、ヒト化抗体あるいはヒト抗体を改良して薬効・利便性・コストを改善させより優れた特性を有する抗体医薬が現在多数開発されている。これらの抗体医薬に適用可能な技術として様々な技術が開発されており、エフェクター機能、抗原結合能、薬物動態、安定性を向上させる、あるいは、免疫原性リスクを低減させる技術等が報告されている。薬効を増強させる、あるいは、投与量低減させる方法として、IgG抗体のFc領域のアミノ酸置換により抗体依存性細胞障害活性(ADCC活性)や補体依存性細胞障害活性(CDC活性)を増強させる技術が報告されている(非特許文献3、4)。また、抗原結合能、抗原中和能を向上させる技術として、アフィニティーマチュレーション技術(非特許文献5)が報告されており、可変領域のCDR領域などのアミノ酸に変異を導入することで抗原への結合活性を向上することが可能である。
【0003】
現在の抗体医薬が抱える問題として、投与タンパク量が非常に大きいことによる高い製造コストが挙げられる。また投与形態については、慢性的な自己免疫疾患の場合は皮下投与製剤が望ましいが、一般に皮下投与製剤は高濃度製剤であることが必要であり、IgGタイプの抗体製剤の場合、安定性等の点から一般的には100mg/mL程度の製剤が限度であると考えられる(非特許文献6)。持続的な治療効果を発揮できるよう抗体の血漿中半減期を長くすることで投与タンパク質量を小さくし、長い投与間隔での皮下投与を可能にし、低コスト且つ利便性の高い優れた特性を有する抗体医薬を提供することが可能である。
【0004】
抗体の長い血漿中半減期にはFcRnが大きく関与しており、抗体のアイソタイプ間の血漿中半減期の違いに関しては、IgG1およびIgG2が最も血漿中半減期が長く、IgG3およびIgG4がそれより劣ることが知られている(非特許文献7)。血漿中半減期に優れるIgG1およびIgG2の抗体の血漿中半減期をさらに延長する方法として、FcRnへの結合を増強する定常領域のアミノ酸置換が報告されている(非特許文献8、9、10)。しかしながら、定常領域への人工的なアミノ酸変異の導入は免疫原性の観点から課題が存在する。それに対して、最近、抗体の可変領域のアミノ酸に変異を導入することで抗体の薬物動態を向上させる方法が報告された(特許文献1)。
【0005】
特許文献1によると、等電点を変化させることでIgGの薬物動態を制御することが可能で、抗体可変領域のフレームワークにアミノ酸置換を導入することで抗体の抗原への結合活性を減弱させることなく抗体の等電点を低下させ抗体の血漿中半減期を長くすることが可能であることが報告されている。具体的には、例えばKabat numberingにおけるH10、H12、H23、H39、H43、H105にアミノ酸置換を導入することで抗体の抗原への結合活性を減弱させることなく抗体の等電点を低下させることが可能である。さらに他のフレームワーク配列に対しても結合活性を減弱させずにアミノ酸変異を導入することも可能であるが、大幅に等電点を低下させるためには、フレームワーク配列へのアミノ酸置換の導入のみでは不十分な場合が考えられた。なぜならば、アミノ酸置換後のフレームワーク配列は一般に免疫原性を低くするためにヒト抗体配列を使用するが、ヒト抗体レームワーク配列は高度に保存されており多様性が少ないことからアミノ酸置換に対する自由度が小さいためである。そのため、フレームワークにアミノ酸置換を導入することのみで抗体の等電点を低下させることが不十分な場合に、さらに等電点を低下させることが困難であった。
【0006】
一方、CDR配列は、体細胞変異により膨大な多様性を有し、抗原への結合を獲得するための多様性を有していることから、アミノ酸置換の自由度はフレームワークと比較して著しく大きい。しかしながら、CDR配列は抗原への強い結合活性を発揮するための最も重要な要素であり、一般にCDR配列のアミノ酸置換は抗体の抗原に対する結合活性に影響を与えることが知られている。そのため、CDR配列のアミノ酸置換により抗体の抗原への結合活性を大幅に減弱させることなく抗体の等電点の低下させることは困難である。また、CDR配列は、抗原の種類によって大きく異なるため、抗体の種類に依存せず、抗体の抗原への結合活性を大幅に減弱させることなく抗体のCDR配列のアミノ酸を置換することは極めて困難であると考えられてきた。実際、このことは、以下に示す多くの事象から容易に推察できる。
【0007】
非ヒト動物種の抗体をヒト化する際は、一般に非ヒト動物種のCDR配列をヒトフレームワーク配列に移植するCDRグラフテイングが用いられる。CDRグラフテイングにより得られたヒト化抗体がキメラ抗体と同等の結合活性を示さない場合はCDRの構造を決定するフレームワーク配列の一部をその抗体の由来する非ヒト動物種の抗体のフレームワーク配列にアミノ酸置換することで結合活性を回復させることが可能である(非特許文献11)。このようにCDRの配列および構造はその抗体の有する抗原への結合活性と特異性に極めて重要である。また、抗体CDR中におけるアスパラギン酸残基の異性化反応、アスパラギン残基の脱アミド化反応、メチオニン残基の酸化反応による抗体CDR残基の変化により抗体の抗原への結合活性の減弱は広く知られていることからも(非特許文献12)、CDR配列は抗体の抗原に対する結合活性に極めて重要である。さらに、抗体のH鎖 CDR2 配列にアミノ酸置換を導入した場合、多くの場合抗原結合活性が大幅に減弱し、さらに抗体の発現量も減少することが報告されている(非特許文献13~15)。特にH51にアミノ酸置換を導入した場合、抗体の発現量が著しく減少することが分かっている(非特許文献16)。また、抗体のH鎖CDR3 配列に変異を導入した場合、ほとんどの場合抗原結合活性が大幅に減弱することが報告されている(非特許文献17、18)。また、抗体のCDR配列のアラニン・スキャニングを行った場合、CDRに存在するアミノ酸をアラニンに置換することにより、多くの場合がその抗体の抗原への結合活性は大幅に減弱し(非特許文献19~23)、またアラニンに置換した際の抗原に対する結合活性への影響は抗体の種類によって異なると考えられる。すなわち、一般的に、抗体のCDR配列のアミノ酸置換により、抗原に対する結合活性が減弱すると考えられており、抗体の種類に依存せず、抗体の抗原に対する結合活性を大幅に減弱させないアミノ酸置換箇所はこれまでに報告がない。
【0008】
より優れた特性を有する抗体分子を創製するための抗体工学において、抗体のCDR配列へのアミノ酸置換はアフィニティー・マチュレーションを目的に行われる場合がほとんどである。アフィニティー・マチュレーションは一般にある抗体分子のCDR配列に対して、ランダム化したCDR配列を有する抗体ライブラリーをファージまたはリボソーム上に提示し、抗原へのパンニングにより、抗原への結合活性をより向上させた抗体を取得する方法であり、この方法により、抗原への結合活性を向上させる抗体のCDR配列へのアミノ酸置換を見出すことが可能である(非特許文献5、24~26)。しかしながら、この方法により得られる抗原への結合活性が向上するアミノ酸置換は、抗体の種類によって異なるため、抗体の種類に依存せず、抗原への結合活性を向上させるCDR配列におけるアミノ酸置換箇所はこれまでに報告がない。アフィニティー・マチュレーション以外では、特定の箇所のCDR配列のアミノ酸を置換することによって抗体の哺乳類細胞における発現量を向上させる方法が報告されている(特許文献2)。特許文献2によると、特定の箇所のCDR配列のアミノ酸を特定の配列に置換することによって、抗体の種類に依存せず、抗体の哺乳類細胞における発現量を向上させることが可能である。また、抗体の免疫原性を減弱させるために抗体のCDR配列中に存在するT-cellエピトープを回避するde-immunizationが報告されているが、抗体の種類に依存せず、抗体の結合活性を減弱させること無く、CDR配列中に存在するT-cellエピトープを除去するアミノ酸置換の方法はこれまで報告されていない(非特許文献27、28)。
【0009】
このように、抗体のCDR配列は抗原との結合に深く関与することから、CDR配列のアミノ酸置換による結合活性の減弱は一般的であり、CDR配列のアミノ酸置換による抗原への結合活性への影響は抗体の種類により異なる。特許文献1において、CDRにおけるアミノ酸置換による等電点の制御例が示されているが、抗体の種類によっては、抗原への結合活性を減弱する可能性があることが考えられる。また、抗体の種類に依存せず共通するアミノ酸置換により抗体の発現を向上させる方法が報告されているものの、抗体の抗原への結合活性を向上させること、抗体の抗原への結合活性を大幅に減弱させずにT-cellエピトープを除去する方法はこれまでに報告はない。まして、抗体の種類に依存せず、抗体の抗原への結合活性を大幅に減弱させることなくアミノ酸を置換することができる抗体のCDR配列に関する報告も一切されていない。
【0010】
なお、本発明の先行技術文献を以下に示す。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【文献】Monoclonal antibody successes in the clinic, Janice M Reichert, Clark J Rosensweig, Laura B Faden & Matthew C Dewitz, Nature Biotechnology 23, 1073 - 1078 (2005)
【文献】Pavlou AK, Belsey MJ., The therapeutic antibodies market to 2008., Eur J Pharm Biopharm. 2005 Apr;59(3):389-96.
【文献】Presta LG. Engineering of therapeutic antibodies to minimize immunogenicity and optimize function. Adv Drug Deliv Rev. 2006 Aug 7;58(5-6):640-56.
【文献】Kim SJ, Park Y, Hong HJ., Antibody engineering for the development of therapeutic antibodies., Mol Cells. 2005 Aug 31;20(1):17-29. Review.
【文献】Fujii I. Antibody affinity maturation by random mutagenesis. Methods Mol Biol. 2004;248:345-59.
【文献】Shire SJ, Shahrokh Z, Liu J. Challenges in the development of high protein concentration formulations. J Pharm Sci. 2004 Jun;93(6):1390-402.
【文献】Salfeld JG. Isotype selection in antibody engineering.Nat Biotechnol. 2007 Dec;25(12):1369-72.
【文献】Hinton PR, Johlfs MG, Xiong JM, Hanestad K, Ong KC, Bullock C, Keller S, Tang MT, Tso JY, Vasquez M, Tsurushita N. Engineered human IgG antibodies with longer serum half-lives in primates.J Biol Chem. 2004 Feb 20;279(8):6213-6.
【文献】Hinton PR, Xiong JM, Johlfs MG, Tang MT, Keller S, Tsurushita N., An engineered human IgG1 antibody with longer serum half-life., J Immunol. 2006 Jan 1;176(1):346-56
【文献】Ghetie V, Popov S, Borvak J, Radu C, Matesoi D, Medesan C, Ober RJ, Ward ES., Increasing the serum persistence of an IgG fragment by random mutagenesis., Nat Biotechnol. 1997 Jul;15(7):637-40
【文献】Almagro JC, Fransson J. Humanization of antibodies. Front Biosci. 2008 Jan 1;13:1619-33.
【文献】Liu H, Gaza-Bulseco G, Faldu D, Chumsae C, Sun J. Heterogeneity of monoclonal antibodies. J Pharm Sci. 2008 Jul;97(7):2426-47
【文献】Chen C, Roberts VA, Rittenberg MB. Generation and analysis of random point mutations in an antibody CDR2 sequence: many mutated antibodies lose their ability to bind antigen. J Exp Med. 1992 Sep 1;176(3):855-66.
【文献】Chen C, Martin TM, Stevens S, Rittenberg MB .Defective secretion of an immunoglobulin caused by mutations in the heavy chain complementarity determining region 2. J Exp Med. 1994 Aug 1;180(2):577-86
【文献】Wiens GD, Heldwein KA, Stenzel-Poore MP, Rittenberg MB. Somatic mutation in VH complementarity-determining region 2 and framework region 2: differential effects on antigen binding and Ig secretion. J Immunol. 1997 Aug 1;159(3):1293-302.
【文献】Wiens GD, Lekkerkerker A, Veltman I, Rittenberg MB. Mutation of a single conserved residue in VH complementarity-determining region 2 results in a severe Ig secretion defect. J Immunol. 2001 Aug 15;167(4):2179-86.
【文献】Zwick MB, Komori HK, Stanfield RL, Church S, Wang M, Parren PW, Kunert R, Katinger H, Wilson IA, Burton DR. The long third complementarity-determining region of the heavy chain is important in the activity of the broadly neutralizing anti-human immunodeficiency virus type 1 antibody 2F5. J Virol. 2004 Mar;78(6):3155-61.
【文献】Komissarov AA, Marchbank MT, Calcutt MJ, Quinn TP, Deutscher SL Site-specific mutagenesis of a recombinant anti-single-stranded DNA Fab. Role of heavy chain complementarity-determining region 3 residues in antigen interaction. J Biol Chem. 1997 Oct 24;272(43):26864-70.
【文献】Gerstner RB, Carter P, Lowman HB. Sequence plasticity in the antigen-binding site of a therapeutic anti-HER2 antibody. J Mol Biol. 2002 Aug 30;321(5):851-62.
【文献】Vajdos FF, Adams CW, Breece TN, Presta LG, de Vos AM, Sidhu SS. Comprehensive functional maps of the antigen-binding site of an anti-ErbB2 antibody obtained with shotgun scanning mutagenesis. J Mol Biol. 2002 Jul 5;320(2):415-28.
【文献】Pons J, Rajpal A, Kirsch JF. Energetic analysis of an antigen/antibody interface: alanine scanning mutagenesis and double mutant cycles on the HyHEL-10/lysozyme interaction.Potein Sci. 1999 May;8(5):958-68.
【文献】Leong SR, DeForge L, Presta L, Gonzalez T, Fan A, Reichert M, Chuntharapai A, Kim KJ, Tumas DB, Lee WP, Gribling P, Snedecor B, Chen H, Hsei V, Schoenhoff M, Hale V, Deveney J, Koumenis I, Shahrokh Z, McKay P, Galan W, Wagner B, Narindray D, Hebert C, Zapata G. Adapting pharmacokinetic properties of a humanized anti-interleukin-8 antibody for therapeutic applications using site-specific pegylation. Cytokine. 2001 Nov 7;16(3):106-19.
【文献】Xiang J, Srivamadan M, Rajala R, Jia Z. tudy of B72.3 combining sites by molecular modeling and site-directed mutagenesis. Protein Eng. 2000 May;13(5):339-44.
【文献】Rothe A, Hosse RJ, Power BE. Ribosome display for improved biotherapeutic molecules. Expert Opin Biol Ther. 2006 Feb;6(2):177-87.
【文献】Schmitz U, Versmold A, Kaufmann P, Frank HG. Phage display: a molecular tool for the generation of antibodies--a review. Placenta. 2000 Mar-Apr;21 Suppl A:S106-12.
【文献】Rajpal A, Beyaz N, Haber L, Cappuccilli G, Yee H, Bhatt RR, Takeuchi T, Lerner RA, Crea R A general method for greatly improving the affinity of antibodies by using combinatorial libraries.. Proc Natl Acad Sci U S A. 2005 Jun 14;102(24):8466-71.
【文献】De Groot AS, Knopp PM, Martin W. De-immunization of therapeutic proteins by T-cell epitope modification. Dev Biol (Basel). 2005;122:171-94.
【文献】http://www.algonomics.com/proteinengineering/tripole_applications.php
【特許文献】
【0012】
【文献】WO/2007/114319
【文献】US/2006/0019342
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明はこのような状況に鑑みて為されたものであり、その目的は、抗体の可変領域を含むポリペプチドの抗原に対する結合活性を保持しつつ等電点を改変する方法、抗体の血漿中半減期を制御する方法、血漿中半減期が制御された抗体を有効成分として含有する医薬組成物、並びに、当該抗体および当該抗体を有効成分として含む医薬組成物の製造方法を提供することにある。
また、本発明は、抗IL-6レセプター抗体、抗グリピカン3抗体、及び抗IL-31レセプター抗体のCDR領域の表面に露出するアミノ酸残基の改変により、当該抗体の血漿中半減期を制御する方法、アミノ酸残基の改変により血漿中減期が制御された抗IL-6レセプター抗体、抗グリピカン3抗体、及び抗IL-31レセプター抗体、当該抗体の製造方法、並びに当該抗体を有効成分として含む医薬組成物を提供することを目的とする。
さらに本発明は、ヒト化抗IL-6レセプターIgG1抗体であるTOCILIZUMABの可変領域および定常領域のアミノ酸配列を改変することで、抗原中和能を増強させつつ、血漿中滞留性を向上させることで投与頻度を少なくし持続的に治療効果を発揮し、且つ、免疫原性、安全性、物性を改善させ、TOCILIZUMABより優れた第2世代の分子からなる医薬組成物、並びに、それらの医薬組成物の製造方法を提供することもまた、目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、抗体の可変領域を含むポリペプチドにおいて、当該可変領域の抗原に対する結合活性を保持しつつ、当該ポリペプチドの等電点を改変する方法について、鋭意研究を行った。その結果、本発明者らは抗体の可変領域の相補性決定領域(CDR)を構成するアミノ酸残基のうち、当該可変領域の抗原に対する結合活性を保持しつつ、その等電点を改変することができるCDRアミノ酸配列上の特定の位置を見出した。また、抗体の可変領域を含むポリペプチドの等電点をコントロールすることによって当該ポリペプチドの血漿中半減期を制御することができること、さらに、等電点の差を利用することで、ヘテロ多量体からなる、抗体の可変領域を含むポリペプチドを効率よく製造することができることを見いだした。具体的には、抗体の可変領域を構成するアミノ酸配列中のアミノ酸残基のうち、抗体可変領域の抗原に対する結合活性等の抗体の有する機能や、その構造に影響を与えることなく、抗体分子表面の電荷を調節することができる特定のCDRアミノ酸配列上の位置を同定した。さらに本発明者らは、当該抗体表面電荷を調節することによって等電点を改変し、抗体の可変領域を含むポリペプチドの血漿中半減期が制御できることを確認し、このようにして血漿中半減期が制御された抗体が、実際に抗原に対する結合活性を保持していることを確認した。さらに、本発明者らは、抗体の血漿中半減期を制御することによって、抗体を始めとする細胞傷害活性を発揮する抗体が有する癌細胞に対する腫瘍増殖抑制効果が増大することを確認して本発明を完成させた。また、CDRの電荷を調節することによって等電点を改変し、異なる2つ以上の抗原に結合する抗体からなるヘテロダイマーを分離・精製できることを確認した。
【0015】
さらに本発明者らは、第1世代のヒト化抗IL-6レセプターIgG1抗体であるTOCILIZUMABの可変領域および定常領域のアミノ酸配列を改変することで、薬効を増強させつつ、血漿中滞留性を向上させることで投与頻度を少なくし持続的に治療効果を発揮し、且つ、免疫原性、安全性、物性(安定性および均一性)を改善させ、TOCILIZUMABより優れた第2世代の分子の創製に向けて、鋭意研究を行った。その結果、本発明者らは、TOCILIZUMABの可変領域において、抗原への結合能(アフィニティー)を向上させるCDR変異を複数見出しその組み合わせにより大幅にアフィニティーを向上させることに成功した。また本発明者らは、可変領域配列の等電点を低下させる改変を導入することで血漿中滞留性を向上させることに成功した。また本発明者らは、TOCILIZUMABのフレームワークに残存するマウス由来の配列および可変領域においてin silicoで予測されたT-cellエピトープペプチドの数を低減させ免疫原性リスクを低減させることに成功した。また、同時に高濃度における安定性を向上させることにも成功した。さらに本発明者らは、TOCILIZUMABの定常領域において、新しいT-cellエピトープペプチドの出現を最小限にしつつ、Fcγレセプターに結合を示さず、酸性条件下での安定性、ヒンジ領域のジスルフィドに由来するヘテロジェニティー、H鎖C末端に由来するヘテロジェニティー、高濃度製剤における安定性を改善させた新規な定常領域配列を見出すことに成功した。これらCDR領域アミノ酸配列の改変、可変領域アミノ酸配列の改変、定常領域アミノ酸配列の改変を組み合わせることでTOCILIZUMABより優れた第2世代の分子の創製に成功した。
【0016】
より具体的には、以下〔1〕~〔44〕を提供するものである。
〔1〕抗体の可変領域を含むポリペプチドにおいて、当該可変領域の抗原に対する結合活性を保持しつつ等電点を改変する方法であって、当該ポリペプチドの相補性決定領域(CDR)の表面に露出し得る少なくとも1つのアミノ酸残基の電荷を改変することを含む方法、
〔2〕前記抗体の可変領域を含むポリペプチドが、さらにFcRn結合領域を含む〔1〕に記載の方法、
〔3〕前記抗体の可変領域を含むポリペプチドが、IgG抗体である〔1〕に記載の方法、
〔4〕前記抗体の可変領域を含むポリペプチドが、キメラ抗体、ヒト化抗体またはヒト抗体である〔1〕に記載の方法、
〔5〕前記抗体の可変領域を含むポリペプチドが、少なくとも2種類の抗原と結合する多重特異性ポリペプチドである〔1〕に記載の方法、
〔6〕前記アミノ酸残基の電荷の改変が、アミノ酸置換である〔1〕に記載の方法、
〔7〕前記アミノ酸残基の電荷の改変が、理論等電点を1.0以上変化させる改変である〔1〕に記載の方法、
〔8〕CDR領域の表面に露出し得るアミノ酸残基が、重鎖可変領域におけるKabatナンバリングによる31位、61位、62位、64位および65位のアミノ酸残基若しくは軽鎖可変領域におけるKabatナンバリングによる24位、27位、53位、54位および55位のアミノ酸残基から選ばれる、少なくとも1つのアミノ酸残基である〔1〕記載の方法、
〔9〕〔1〕~〔8〕いずれかに記載の方法によって得られる、等電点が改変された抗体の可変領域を含むポリペプチド、
〔10〕〔1〕~〔8〕いずれかに記載の方法によって抗体の可変領域を含むポリペプチドの等電点を改変することを含む、当該ポリペプチドの血漿中薬物動態を制御する方法、
〔11〕前記薬物動態の制御が、血漿中クリアランス(CL)、濃度曲線下面積(AUC)、平均血漿中滞留時間、血漿中半減期(t1/2)のいずれかのパラメーターの伸長または減少である〔10〕に記載の方法、
〔12〕〔10〕に記載の方法によって得られる、血漿中薬物動態が制御された抗体の可変領域を含むポリペプチド、
〔13〕等電点が改変された抗体可変領域を含むポリペプチドの製造方法であって、
(a) 当該ポリペプチドのCDR領域の表面に露出し得る少なくとも1つのアミノ酸残基の電荷が改変するように、当該アミノ酸残基を含むポリペプチドをコードする核酸を改変し、
(b) 宿主細胞を当該核酸が発現するように培養し、
(c) 宿主細胞培養物から抗体可変領域を含むポリペプチドを回収すること
を含む方法、
〔14〕前記抗体の可変領域を含むポリペプチドが、さらにFcRn結合領域を含む〔13〕に記載の方法、
〔15〕前記抗体の可変領域を含むポリペプチドが、IgG抗体である〔13〕に記載の方法、
〔16〕前記抗体の可変領域を含むポリペプチドが、キメラ抗体、ヒト化抗体またはヒト抗体である〔13〕に記載の方法、
〔17〕前記抗体の可変領域を含むポリペプチドが、少なくとも2種の抗原と結合する多重特異性ポリペプチドである〔13〕に記載の方法、
〔18〕前記アミノ酸残基の電荷の改変が、アミノ酸置換である〔13〕に記載の方法、
〔19〕前記アミノ酸残基の電荷の改変が、理論等電点を1.0以上変化させる改変である〔13〕に記載の方法、
〔20〕CDR領域の表面に露出し得るアミノ酸残基が、重鎖可変領域におけるKabatナンバリングによる31位、61位、62位、64位および65位のアミノ酸残基若しくは軽鎖可変領域におけるKabatナンバリングによる24位、27位、53位、54位および55位のアミノ酸残基から選ばれる、少なくとも1つのアミノ酸残基である〔13〕記載の方法、
〔21〕〔13〕~〔20〕いずれかに記載の方法によって得られる、等電点が改変された抗体の可変領域を含むポリペプチド、
〔22〕〔13〕~〔20〕いずれかに記載の方法によって抗体の可変領域を含むポリペプチドの等電点を改変することを含む、血漿中薬物動態が制御された抗体可変領域を含むポリペプチドの製造方法、
〔23〕前記薬物動態の制御が、血漿中クリアランス(CL)、濃度曲線下面積(AUC)、平均血漿中滞留時間、血漿中半減期(t1/2)のいずれかのパラメーターの伸長または減少である〔22〕に記載の方法、
〔24〕〔22〕に記載の方法によって製造された、血漿中薬物動態が制御された抗体の可変領域を含むポリペプチド、
〔25〕抗体の可変領域を有する第1のポリペプチドおよび第2のポリペプチドを含む多重特異性ポリペプチドの製造方法であって、
(a)当該ポリペプチドのCDR領域の表面に露出し得る少なくとも1つのアミノ酸残基の電荷が改変するように、当該アミノ酸残基を含むポリペプチドをコードする核酸を改変することを含み、当該核酸の改変が、改変前と比較して、第1のポリペプチドと第2のポリペプチドの等電点の差が増大するように第1のポリペプチドのアミノ酸残基をコードする核酸および第2のポリペプチドのアミノ酸残基をコードする核酸の両方またはいずれか一方を改変し、
(b)宿主細胞を該核酸が発現するように培養し、
(c)宿主細胞培養物から多重特異性抗体を回収すること
を含む方法、
〔26〕宿主細胞培養物から第1のポリペプチドおよび第2のポリペプチドを含む多重特異性ポリペプチドを回収する工程が標準的なクロマトグラフィーにより行われる〔25〕に記載の方法、
〔27〕前記核酸の改変において、第1のポリペプチドのホモ多量体、第2のポリペプチドのホモ多量体、および第1のポリペプチドと第2のポリペプチドのヘテロ多量体の標準的なクロマトグラフィーを使用した分析によるピークが、改変前と比較して、より分離したピークとなるように、核酸を改変する〔25〕に記載の方法、
〔28〕前記多重特異性ポリペプチドが多重特異性抗体である〔25〕に記載の方法、
〔29〕〔27〕に記載の方法によって製造される多重特異性抗体、
〔30〕前記多重特異性抗体が二重特異性抗体である〔29〕に記載の多重特異性抗体、
〔31〕ヒト由来のCDR、ヒト以外の動物由来のCDR、及び合成CDRからなる群より選択されるCDR、ヒト由来のフレームワーク領域(FR)、および、ヒト定常領域を含む抗体であって、CDRの表面に露出し得る少なくとも1つのアミノ酸残基が野生型CDRの対応する位置のアミノ酸残基とは異なる電荷を有するアミノ酸残基であり、改変前の抗体と比較して、抗原に対する結合活性を保持しつつ等電点が改変された抗体、
〔32〕前記ヒト定常領域がヒトFc領域を含む〔31〕に記載の抗体、
〔33〕等電点の改変によって血漿中薬物動態が制御された〔31〕に記載の抗体、
〔34〕重鎖可変領域におけるKabatナンバリングによる31位、61位、62位、64位および65位のアミノ酸残基、若しくは、軽鎖可変領域におけるKabatナンバリングによる24位、27位、53位、54位および55位のアミノ酸残基から選ばれる、少なくとも1つのアミノ酸残基の電荷が改変され、当該アミノ酸残基の改変前と比較して、等電点が改変されたIgG抗体、
〔35〕前記改変されたアミノ酸残基が、以下の(a)または(b)いずれかの群に含まれるアミノ酸残基から選択される〔34〕に記載の抗体;
(a) グルタミン酸(E)、アスパラギン酸(D);
(b) リジン(K)、アルギニン(R)、ヒスチジン(H) 、
〔36〕第1のポリペプチドおよび第2のポリペプチドを含む多重特異性抗体であって、第1のポリペプチドの重鎖可変領域におけるKabatナンバリングによる31位、61位、62位、64位および65位のアミノ酸残基、若しくは、軽鎖可変領域におけるKabatナンバリングによる24位、27位、53位、54位および55位のアミノ酸残基から選ばれる、少なくとも1つのアミノ酸残基が電荷を有し、第1のポリペプチドと第2のポリペプチドの等電点が互いに異なる多重特異性抗体、
〔37〕第2のポリペプチドの重鎖可変領域におけるKabatナンバリングによる31位、61位、62位、64位および65位のアミノ酸残基、若しくは、軽鎖可変領域におけるKabatナンバリングによる24位、27位、53位、54位および55位のアミノ酸残基から選ばれる、少なくとも1つのアミノ酸残基の電荷が、前記第1のポリペプチドにおいて選ばれるアミノ酸残基が有する電荷とは反対の電荷を有する、または電荷を有しない〔36〕に記載の抗体、
〔38〕前記電荷を有するアミノ酸残基と当該アミノ酸残基とは反対の電荷を有するアミノ酸残基の組合せが、以下の(a)または(b)いずれかの群に含まれるアミノ酸残基からそれぞれ選択される〔36〕に記載の抗体;
(c) グルタミン酸(E)、アスパラギン酸(D);
(d) リジン(K)、アルギニン(R)、ヒスチジン(H) 、
〔39〕前記第1のポリペプチドおよび第2のポリペプチドを含む多重特異性抗体であって、第1のポリペプチドのホモ多量体および第2のポリペプチドのホモ多量体が標準的なクロマトグラフィーを使用した分析により分離したピークとなる、〔36〕に記載の抗体、
〔40〕〔31〕~〔39〕に記載の抗体および医薬的に許容される担体を含む組成物、
〔41〕〔31〕~〔39〕に記載の抗体を構成するポリペプチドをコードする核酸、
〔42〕〔41〕に記載の核酸を有する宿主細胞、
〔43〕〔42〕に記載の宿主細胞を培養する工程、細胞培養物からポリペプチドを回収する工程を含む〔31〕~〔39〕に記載の抗体の製造方法、
〔44〕抗体の可変領域を含むポリペプチドにおいて、当該ポリペプチドの抗原に対する結合活性を保持しつつ、当該ポリペプチドの相補性決定領域(CDR)の表面に露出し得るアミノ酸残基を置換する方法であって、少なくとも重鎖可変領域におけるKabatナンバリングによる31位、61位、62位、64位および65位のアミノ酸残基、若しくは、軽鎖可変領域におけるKabatナンバリングによる24位、27位、53位、54位および55位のアミノ酸残基から選ばれる、少なくとも1つのアミノ酸残基を置換する方法。
【0017】
また本発明は、以下〔1〕~〔38〕を提供するものである。
〔1〕以下の段階からなる血中動態が制御されたグリピカン3抗体の製造方法;
(a)グリピカン3抗体の表面に露出され得る少なくとも一つのアミノ酸残基の電荷の改変をもたらす少なくとも一つのアミノ酸残基をコードする核酸を改変し、
(b)当該核酸が発現するように当該核酸を保持する宿主細胞を培養し、
(c)当該宿主細胞の培養物からグリピカン3抗体を回収することを含む方法、
〔2〕前記血中動態の制御が、血中半減期、平均血中滞留時間、血中クリアランスのいずれかのパラメーターの伸張または減縮である〔1〕に記載の方法、
〔3〕工程(a)におけるアミノ酸残基の電荷の改変が、アミノ酸置換による〔1〕に記載の方法、
〔4〕前記グリピカン3抗体の表面に露出され得るアミノ酸残基が、グリピカン3抗体中のFcRn結合領域以外の領域にある〔1〕に記載の方法、
〔5〕前記FcRn結合領域が、Fc領域からなる〔4〕に記載の方法、
〔6〕グリピカン3抗体がIgG抗体である〔1〕に記載の方法、
〔7〕その電荷が改変されるアミノ酸残基が、IgG抗体の重鎖可変領域または軽鎖可変領域のアミノ酸残基である〔6〕に記載の方法、
〔8〕前記グリピカン3抗体が補性決定領域(CDR)、ヒト由来のフレームワーク領域(FR)およびヒト定常領域を含むグリピカン3抗体であって、工程(a)におけるアミノ酸残基の電荷の改変が、改変に供する抗体のCDRまたはFR中の抗体表面に露出され得る少なくとも一つのアミノ酸残基から、当該アミノ酸残基と異なる電荷を有するアミノ酸残基への改変であることを特徴とする〔7〕に記載の方法、
〔9〕前記グリピカン3抗体が、そのFc領域に結合したフコース含量が低下した抗体である〔8〕に記載の方法、
〔10〕〔1〕から〔9〕に記載の方法により製造されるグリピカン3抗体、
〔11〕以下の段階からなる相補性決定領域(CDR)、ヒト由来のフレームワーク領域(FR)およびヒト定常領域を含むグリピカン3抗体のTm値の増大をもたらす、グリピカン3抗体を構成する少なくとも一つのアミノ酸残基の改変を特徴とするグリピカン3抗体の安定化方法;
(a)改変に供するグリピカン3抗体のTm値の増大をもたらす少なくとも一つのアミノ酸残基をコードする核酸を改変し、
(b)当該核酸が発現するように当該核酸を保持する宿主細胞を培養し、
(c)当該宿主細胞の培養物から抗体を回収することを含む方法、
〔12〕工程(a)におけるアミノ酸残基が、そのH鎖またはL鎖のFR1領域または/およびFR2領域に存在することを特徴とする〔11〕に記載の方法、
〔13〕〔12〕に記載のH鎖のFR2領域のアミノ酸残基をVH4サブクラスのFR2領域のアミノ酸残基に置換することを特徴とする〔12〕に記載の方法、
〔14〕〔12〕に記載のL鎖のFR2領域のアミノ酸残基をVK3サブクラスのFR2領域のアミノ酸残基に置換することを特徴とする〔12〕に記載の方法、
〔15〕以下の段階からなる抗体の細胞傷害活性を制御する方法;
(a)細胞傷害活性を有する抗体の表面に露出され得る少なくとも一つのアミノ酸残基の電荷の改変をもたらす少なくとも一つのアミノ酸残基をコードする核酸を改変し、
(b)当該核酸が発現するように当該核酸を保持する宿主細胞を培養し、
(c)当該宿主細胞の培養物から抗体を回収することを含む方法、
〔16〕前記血中動態の制御が、血中半減期、平均血中滞留時間、血中クリアランスのいずれかのパラメーターの制御である〔15〕に記載の方法、
〔17〕工程(a)におけるアミノ酸残基の電荷の改変が、アミノ酸置換による〔15〕に記載の方法、
〔18〕前記抗体の表面に露出され得るアミノ酸残基が、抗体中のFcRn結合領域以外の領域にある〔15〕に記載の方法、
〔19〕前記FcRn結合領域が、Fc領域からなる〔18〕に記載の方法、
〔20〕グリピカン3抗体がIgG抗体である〔15〕に記載の方法、
〔21〕その電荷が改変されるアミノ酸残基が、IgG抗体の重鎖可変領域または軽鎖可変領域のアミノ酸残基である〔20〕に記載の方法、
〔22〕前記抗体がヒト以外の動物由来の相補性決定領域(CDR)、ヒト由来のフレームワーク領域(FR)およびヒト定常領域を含む抗体であって、工程(a)におけるアミノ酸残基の電荷の改変が、改変に供する抗体のCDRまたはFR中の抗体表面に露出され得る少なくとも一つのアミノ酸残基から、当該アミノ酸残基と異なる電荷を有するアミノ酸残基への改変であることを特徴とする〔21〕に記載の方法、
〔23〕前記抗体のFc領域に結合したフコース含量が低下した抗体である〔22〕に記載の方法、
〔24〕〔15〕から〔23〕に記載の方法により製造される抗体、
〔25〕抗体がグリピカン3抗体である〔24〕に記載の抗体、
〔26〕配列番号:195で表されるH鎖V領域を構成するアミノ酸残基に対して以下のいずれか一つまたはそれ以上の置換;
(a)19番目のアミノ酸残基であるKのTへの置換、
(b)43番目のアミノ酸残基であるQのEへの置換、
(c)63番目のアミノ酸残基であるKのSへの置換、
(d)65番目のアミノ酸残基であるKのQへの置換、
(e)66番目のアミノ酸残基であるGのDへの置換、
が施されたH鎖V領域、および、
配列番号:201で表されるL鎖V領域を構成するアミノ酸残基に対して以下のいずれか一つまたはそれ以上の置換;
(f)27番目のアミノ酸残基であるQのEへの置換、
(g)79番目のアミノ酸残基であるKのTへの置換、
(h)82番目のアミノ酸残基であるRのSへの置換、
が施されたL鎖V領域、
を含む抗体、
〔27〕配列番号:197で表されるH鎖および配列番号:203で表されるL鎖からなる〔26〕に記載の抗体、
〔28〕配列番号:198で表されるH鎖および配列番号:204で表されるL鎖からなる〔26〕に記載の抗体、
〔29〕配列番号:195で表されるH鎖V領域を構成するアミノ酸残基に対して以下のいずれか一つまたはそれ以上の置換;
(a)43番目のアミノ酸残基であるQのKへの置換、
(b)52番目のアミノ酸残基であるDのNへの置換、
(c)107番目のアミノ酸残基であるQのRへの置換、
が施されたH鎖V領域、および、
配列番号:201で表されるL鎖V領域を構成するアミノ酸残基に対して以下のいずれか一つまたはそれ以上の置換;
(d)17番目のアミノ酸残基であるEのQへの置換、
(e)27番目のアミノ酸残基であるQのRへの置換、
(f)105番目のアミノ酸残基であるQのRへの置換、
が施されたL鎖V領域、
を含む抗体、
〔30〕配列番号:198で表されるH鎖可変領域および配列番号:204で表されるL鎖可変領域を含む〔29〕に記載の抗体、
〔31〕配列番号:199で表されるH鎖可変領域および配列番号:205で表されるL鎖可変領域を含む〔29〕に記載の抗体、
〔32〕ヒト抗体のC領域を有する〔26〕から〔31〕に記載の抗体、
〔33〕〔32〕に記載の抗体、および、医薬的に許容される担体を含む組成物、
〔34〕〔32〕に記載の抗体を有効成分として含む癌治療剤、
〔35〕癌が肝癌である〔34〕に記載の癌治療剤、
〔36〕〔26〕から〔31〕に記載の抗体を構成するポリペプチドをコードする核酸、
〔37〕〔36〕に記載の核酸を保持する宿主細胞、
〔38〕〔37〕に記載の宿主細胞を培養する工程、および細胞培養物からポリペプチドを回収する工程を含む〔26〕から〔31〕に記載の抗体の製造方法。
【0018】
また本発明は、以下〔1〕~〔41〕を提供するものである。
〔1〕以下の(a)~(y)いずれかに記載の抗IL-6レセプター抗体;
(a) 配列番号:1に記載のアミノ酸配列において1番目のSerが他のアミノ酸に置換されているCDR1を有する重鎖可変領域を含む抗体、
(b) 配列番号:1に記載のアミノ酸配列において5番目のTrpが他のアミノ酸に置換されているCDR1を有する重鎖可変領域を含む抗体、
(c) 配列番号:2に記載のアミノ酸配列において1番目のTyrが他のアミノ酸に置換されているCDR2を有する重鎖可変領域を含む抗体、
(d) 配列番号:2に記載のアミノ酸配列において8番目のThrが他のアミノ酸に置換されているCDR2を有する重鎖可変領域を含む抗体、
(e) 配列番号:2に記載のアミノ酸配列において9番目のThrが他のアミノ酸に置換されているCDR2を有する重鎖可変領域を含む抗体、
(f) 配列番号:3に記載のアミノ酸配列において1番目のSerが他のアミノ酸に置換されているCDR3を有する重鎖可変領域を含む抗体、
(g) 配列番号:3に記載のアミノ酸配列において2番目のLeuが他のアミノ酸に置換されているCDR3を有する重鎖可変領域を含む抗体、
(h) 配列番号:3に記載のアミノ酸配列において5番目のThrが他のアミノ酸に置換されているCDR3を有する重鎖可変領域を含む抗体、
(i) 配列番号:3に記載のアミノ酸配列において7番目のAlaが他のアミノ酸に置換されているCDR3を有する重鎖可変領域を含む抗体、
(j) 配列番号:3に記載のアミノ酸配列において8番目のMetが他のアミノ酸に置換されているCDR3を有する重鎖可変領域を含む抗体、
(k) 配列番号:3に記載のアミノ酸配列において1番目のSerおよび5番目のThrが他のアミノ酸に置換されているCDR3を有する重鎖可変領域を含む抗体、
(l) 配列番号:3に記載のアミノ酸配列において2番目のLeu、7番目のAlaおよび8番目のMetが他のアミノ酸に置換されているCDR3を有する重鎖可変領域を含む抗体、
(m) 配列番号:4に記載のアミノ酸配列において1番目のArgが他のアミノ酸に置換されているCDR1を有する軽鎖可変領域を含む抗体、
(n) 配列番号:4に記載のアミノ酸配列において4番目のGlnが他のアミノ酸に置換されているCDR1を有する軽鎖可変領域を含む抗体、
(o) 配列番号:4に記載のアミノ酸配列において9番目のTyrが他のアミノ酸に置換されているCDR1を有する軽鎖可変領域を含む抗体、
(p) 配列番号:4に記載のアミノ酸配列において11番目のAsnが他のアミノ酸に置換されているCDR1を有する軽鎖可変領域を含む抗体、
(q) 配列番号:5に記載のアミノ酸配列において2番目のThrが他のアミノ酸に置換されているCDR2を有する軽鎖可変領域を含む抗体、
(r) 配列番号:6に記載のアミノ酸配列において1番目のGlnが他のアミノ酸に置換されているCDR3を有する軽鎖可変領域を含む抗体、
(s) 配列番号:6に記載のアミノ酸配列において3番目のGlyが他のアミノ酸に置換されているCDR3を有する軽鎖可変領域を含む抗体、
(t) 配列番号:4に記載のアミノ酸配列において9番目のTyrが他のアミノ酸に置換されているCDR1及び配列番号:6に記載のアミノ酸配列において3番目のGlyが他のアミノ酸に置換されているCDR3を有する軽鎖可変領域を含む抗体、
(u) 配列番号:6に記載のアミノ酸配列において5番目のThrが他のアミノ酸に置換されているCDR3を有する軽鎖可変領域を含む抗体、
(v) 配列番号:6に記載のアミノ酸配列において1番目のGlnおよび5番目のThrが他のアミノ酸に置換されているCDR3を有する軽鎖可変領域を含む抗体、
(w) 配列番号:2に記載のアミノ酸配列において9番目のThrが他のアミノ酸に置換されているCDR2、および配列番号:3に記載のアミノ酸配列において1番目のSerおよび5番目のThrが他のアミノ酸に置換されているCDR3を有する重鎖可変領域を含む抗体、
(x) (k)に記載の重鎖可変領域および(v)に記載の軽鎖可変領域を含む抗体、又は
(y) (e)のCDR2をさらに含む(x)に記載の抗体、
〔2〕配列番号:5に記載のアミノ酸配列において2番目のThrが他のアミノ酸に置換されているCDR2を有する軽鎖可変領域を含む抗IL-6レセプター抗体、
〔3〕以下の(a)~(y)いずれかに記載の抗IL-6レセプター抗体;
(a) 配列番号:7に記載のアミノ酸配列において13番目のArgが他のアミノ酸に置換されたFR1を有する重鎖可変領域を含む抗体、
(b) 配列番号:7に記載のアミノ酸配列において16番目のGlnが他のアミノ酸に置換されたFR1を有する重鎖可変領域を含む抗体、
(c) 配列番号:7に記載のアミノ酸破裂において23番目のThrが他のアミノ酸に置換されたFR1を有する重鎖可変領域を含む抗体、
(d) 配列番号:7に記載のアミノ酸配列において30番目のThrが他のアミノ酸に置換されたFR1を有する重鎖可変領域を含む抗体、
(e) 配列番号:7に記載のアミノ酸配列において13番目のArg、16番目のGln、23番目のThrおよび30番目のThrが他のアミノ酸に置換されたFR1を有する重鎖可変領域を含む抗体、
(f) 配列番号:8に記載のアミノ酸配列において8番目のArgが他のアミノ酸に置換されたFR2を有する重鎖可変領域を含む抗体、
(g) 配列番号:9に記載のアミノ酸配列において4番目のMetが他のアミノ酸に置換されたFR3を有する重鎖可変領域を含む抗体、
(h) 配列番号:9に記載のアミノ酸配列において5番目のLeuが他のアミノ酸に置換されたFR3を有する重鎖可変領域を含む抗体、
(i) 配列番号:9に記載のアミノ酸配列において16番目のArgが他のアミノ酸に置換されたFR3を有する重鎖可変領域を含む抗体、
(j) 配列番号:9に記載のアミノ酸配列において27番目のValが他のアミノ酸に置換されたFR3を有する重鎖可変領域を含む抗体、
(k) 配列番号:9に記載のアミノ酸配列において4番目のMet、5番目のLeu、16番目のArgおよび27番目のValが他のアミノ酸に置換されたFR3を有する重鎖可変領域を含む抗体、
(l) 配列番号:10に記載のアミノ酸配列において3番目のGlnが他のアミノ酸に置換されたFR4を有する重鎖可変領域を含む抗体、
(m) 配列番号:11に記載のアミノ酸配列において18番目のArgが他のアミノ酸に置換されたFR1を有する軽鎖可変領域を含む抗体、
(n) 配列番号:12に記載のアミノ酸配列において11番目のLysが他のアミノ酸に置換されたFR2を有する軽鎖可変領域を含む抗体、
(o) 配列番号:13に記載のアミノ酸配列において23番目のGlnが他のアミノ酸に置換されたFR3を有する軽鎖可変領域を含む抗体、
(p) 配列番号:13に記載のアミノ酸配列において24番目のProが他のアミノ酸に置換されたFR3を有する軽鎖可変領域を含む抗体、
(q) 配列番号:13に記載のアミノ酸配列において27番目のIleが他のアミノ酸に置換されたFR3を有する軽鎖可変領域を含む抗体、
(r) 配列番号:13に記載のアミノ酸配列において23番目のGln、24番目のProおよび27番目のIleが他のアミノ酸に置換されたFR3を有する軽鎖可変領域を含む抗体、
(s) 配列番号:14に記載のアミノ酸配列において10番目のLysが他のアミノ酸に置換されたFR4を有する軽鎖可変領域を含む抗体、
(t) 配列番号:10に記載のアミノ酸配列において5番目のSerが他のアミノ酸に置換されたFR4を有する重鎖可変領域を含む抗体、
(u) 配列番号:10に記載のアミノ酸配列において3番目のGlnおよび5番目のSerが他のアミノ酸に置換されたFR4を有する重鎖可変領域を含む抗体、
(v) 配列番号:184に記載のアミノ酸配列を有するFR3を有する重鎖可変領域を含む抗体、
(w) (e)に記載のFR1、(f)に記載のFR2、(k)に記載のFR3および(l)または(u)に記載のFR4を含む重鎖可変領域を含む抗体、
(x) (m)に記載のFR1、(n)に記載のFR2、(r)に記載のFR3および(s)に記載のFR4を含む軽鎖可変領域を含む抗体、又は
(y) (w)に記載の重鎖可変領域、および、(x)に記載の軽鎖可変領域を含む抗体、
〔4〕以下の(a)~(l)いずれかに記載の抗IL-6レセプター抗体;
(a) 配列番号:1に記載のアミノ酸配列において1番目のSerが他のアミノ酸に置換されたCDR1を有する重鎖可変領域を含む抗体、
(b) 配列番号:2に記載のアミノ酸配列において9番目のThrが他のアミノ酸に置換されたCDR2を有する重鎖可変領域を含む抗体、
(c) 配列番号:2に記載のアミノ酸配列において16番目のSerが他のアミノ酸に置換されたCDR2を有する重鎖可変領域を含む抗体、
(d) 配列番号:2に記載のアミノ酸配列において9番目のThrおよび16番目のSerが他のアミノ酸に置換されたCDR2を有する重鎖可変領域を含む抗体、
(e) 配列番号:4に記載のアミノ酸配列において1番目のArgが他のアミノ酸に置換されたCDR1を有する軽鎖可変領域を含む抗体、
(f) 配列番号:5に記載のアミノ酸配列において2番目のThrが他のアミノ酸に置換されたCDR2を有する軽鎖可変領域を含む抗体、
(g) 配列番号:5に記載のアミノ酸配列において4番目のArgが他のアミノ酸に置換されたCDR2を有する軽鎖可変領域を含む抗体、
(h) 配列番号:5に記載のアミノ酸配列において2番目のThrおよび4番目のArgが他のアミノ酸に置換されたCDR2を有する軽鎖可変領域を含む抗体、
(i) 配列番号:6に記載のアミノ酸配列において5番目のThrが他のアミノ酸に置換されたCDR3を有する軽鎖可変領域を含む抗体、
(j) (a)に記載のCDR1、(d)に記載のCDR2および配列番号:3に記載のアミノ酸配列を有するCDR3を含む重鎖可変領域を含む抗体、
(k) (e)に記載のCDR1、(h)に記載のCDR2および(i)に記載のCDR3を含む軽鎖可変領域を含む抗体、又は
(l) (j)に記載の重鎖可変領域、および、(k)に記載の軽鎖可変領域を含む抗体、
〔5〕以下の(a)~(f)いずれかに記載の抗IL-6レセプター抗体;
(a) 配列番号:1に記載のアミノ酸配列において1番目のSerが他のアミノ酸配列に置換されたCDR1、配列番号:2に記載のアミノ酸配列において9番目のThrおよび16番目のSerが他のアミノ酸に置換されたCDR2、および配列番号:3に記載のアミノ酸配列において1番目のSerおよび5番目のThrが他のアミノ酸に置換されたCDR3を含む重鎖可変領域を含む抗体、
(b) 配列番号:4に記載のアミノ酸配列において1番目のArgが他のアミノ酸に置換されたCDR1、配列番号:5に記載のアミノ酸配列において2番目のThrおよび4番目のArgが他のアミノ酸に置換されたCDR2、および配列番号:6に記載のアミノ酸配列において1番目のGlnおよび5番目のThrが他のアミノ酸に置換されたCDR3を含む軽鎖可変領域を含む抗体、
(c) 配列番号:22に記載のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域を含む抗体、
(d) 配列番号:23に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域を含む抗体、
(e) (a)に記載の重鎖可変領域および(b)に記載の軽鎖可変領域を含む抗体、
又は
(f) (c)に記載の重鎖可変領域および(d)に記載の軽鎖可変領域を含む抗体、
〔6〕以下の(a)~(c)いずれかに記載のヒト抗体定常領域;
(a) 配列番号:19に記載のアミノ酸配列において、329番目(EUナンバリング446番目)のGlyと330番目(EUナンバリング447番目)のLysが両方欠損していることを特徴とする、ヒト抗体定常領域、
(b) 配列番号:20に記載のアミノ酸配列において、325番目(EUナンバリング446番目)のGlyと326番目(EUナンバリング447番目)のLysが両方欠損していることを特徴とする、ヒト抗体定常領域、
(c) 配列番号:21に記載のアミノ酸配列において、326番目(EUナンバリング446番目)のGlyと327番目(EUナンバリング447番目)のLysが両方欠損していることを特徴とする、ヒト抗体定常領域、
〔7〕配列番号:20に記載のアミノ酸配列において、209番目(EUナンバリング330番目)、210番目(EUナンバリング331番目)および218番目(EUナンバリング339番目)のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたIgG2定常領域、
〔8〕配列番号:20に記載のアミノ酸配列において、276番目(EUナンバリング397番目)のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたIgG2定常領域、
〔9〕配列番号:20に記載のアミノ酸配列において、14番目(EUナンバリング131番目)、102番目(EUナンバリング219番目)、および/または16番目(EUナンバリング133番目)のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたIgG2定常領域、
〔10〕配列番号:20に記載のアミノ酸配列において、20番目(EUナンバリング137番目)および21番目(EUナンバリング138番目)のアミノ酸がさらに他のアミノ酸に置換されていることを特徴とする、〔9〕に記載のIgG2定常領域、
〔11〕配列番号:20に記載のアミノ酸配列において、147番目(EUナンバリングの268番目)のHis、234番目(EUナンバリングの355番目)のArgおよび/または298番目(EUナンバリングの419番目)のGlnが他のアミノ酸に置換されたIgG2定常領域、
〔12〕配列番号:20に記載のアミノ酸配列において、209番目(EUナンバリング330番目)、210番目(EUナンバリング331番目)、218番目(EUナンバリング339番目)、276番目(EUナンバリング397番目)、14番目(EUナンバリング131番目)、16番目(EUナンバリング133番目)、102番目(EUナンバリング219番目)、20番目(EUナンバリング137番目)および21番目(EUナンバリング138番目)のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列を有するIgG2定常領域、
〔13〕〔12〕に記載のIgG2定常領域において、さらに325番目(EUナンバリング446番目)のGlyおよび326番目(EUナンバリング447番目)のLysが欠損したアミノ酸配列を有するIgG2定常領域、
〔14〕配列番号:20に記載のアミノ酸配列において、276番目(EUナンバリング397番目)、14番目(EUナンバリング131番目)、16番目(EUナンバリング133番目)、102番目(EUナンバリング219番目)、20番目(EUナンバリング137番目)および21番目(EUナンバリング138番目)のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列を有するIgG2定常領域、
〔15〕〔14〕に記載のIgG2定常領域において、さらに325番目(EUナンバリング446番目)のGlyおよび326番目(EUナンバリング447番目)のLysが欠損したアミノ酸配列を有するIgG2定常領域、
〔16〕配列番号:20に記載のアミノ酸配列において、14番目(EUナンバリング131番目)のCys、16番目(EUナンバリング133番目)のArg、102番目(EUナンバリング219番目)のCys、20番目の(EUナンバリング137番目)のGlu、21番目(EUナンバリング138番目)のSer、147番目(EUナンバリング268番目)のHis、234番目(EUナンバリング355番目)のArgおよび298番目(EUナンバリング419番目)のGlnが他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列を有するIgG2定常領域、
〔17〕〔16〕に記載のIgG2定常領域において、さらに325番目(EUナンバリング446番目)のGlyおよび326番目(EUナンバリング447番目)のLysが欠損したアミノ酸配列を有するIgG2定常領域、
〔18〕配列番号:20に記載のアミノ酸配列において、14番目(EUナンバリング131番目)のCys、16番目(EUナンバリング133番目)のArg、102番目(EUナンバリング219番目)のCys、20番目の(EUナンバリング137番目)のGlu、21番目(EUナンバリング138番目)のSer、147番目(EUナンバリング268番目)のHis、234番目(EUナンバリング355番目)のArg、298番目(EUナンバリング419番目)のGln、および313番目(EUナンバリング434番目)のAsnが他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列を有するIgG2定常領域、
〔19〕〔18〕に記載のIgG2定常領域において、さらに325番目(EUナンバリング446番目)のGlyおよび326番目(EUナンバリング447番目)のLysが欠損したアミノ酸配列を有するIgG2定常領域、
〔20〕配列番号:21に記載のアミノ酸配列において、289番目(EUナンバリング409番目)のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されていることを特徴とするIgG4定常領域、
〔21〕配列番号:21に記載のアミノ酸配列において、289番目(EUナンバリング409番目)、14番目、16番目、20番目、21番目、97番目、100番目、102番目、103番目、104番目および105番目(EUナンバリング131,133,137,138,214,217,219,220,221,222番目)、113番目、114番目および115番目(EUナンバリング233,234,235番目)のアミノ酸が他のアミノ酸に置換され、かつ116番目(EUナンバリング236番目)のアミノ酸が欠損したアミノ酸配列を有するIgG4定常領域、
〔22〕〔21〕に記載のIgG4定常領域において、さらに326番目(EUナンバリング446番目)のGlyと327番目(EUナンバリング447番目)のLysが欠失したIgG4定常領域、
〔23〕配列番号:20に記載のアミノ酸配列において、209番目(EUナンバリングの330番目)のAla、210番目(EUナンバリングの331番目)のPro、218番目(EUナンバリングの339番目)のThr、14番目(EUナンバリングの131番目)のCys、16番目(EUナンバリングの133番目)のArg、102番目(EUナンバリングの219番目)のCys、20番目(EUナンバリングの137番目)のGlu、21番目(EUナンバリングの138番目)のSerが他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列を有するIgG2定常領域、
〔24〕〔23〕に記載のIgG2定常領域において、さらに325番目(EUナンバリング446番目)のGlyおよび326番目(EUナンバリング447番目)のLysが欠損したアミノ酸配列を有するIgG2定常領域、
〔25〕配列番号:20に記載のアミノ酸配列において、14番目(EUナンバリング131)のCys、16番目(EUナンバリング133)のArg、102番目(EUナンバリング219)のCys、20番目(EUナンバリング137)のGlu、21番目の(EUナンバリング138)のSerが他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列を有するIgG2定常領域、
〔26〕〔25〕に記載のIgG2定常領域において、さらに325番目(EUナンバリング446番目)のGlyおよび326番目(EUナンバリング447番目)のLysが欠損したアミノ酸配列を有するIgG2定常領域、
〔27〕配列番号:24に記載のアミノ酸配列を有する定常領域、
〔28〕配列番号:118に記載のアミノ酸配列を有する定常領域、
〔29〕配列番号:25に記載のアミノ酸配列を有する定常領域、
〔30〕配列番号:151に記載のアミノ酸配列を有する定常領域、
〔31〕配列番号:152に記載のアミノ酸配列を有する定常領域、
〔32〕配列番号:153に記載のアミノ酸配列を有する定常領域、
〔33〕配列番号:164に記載のアミノ酸配列を有する定常領域、
〔34〕配列番号:194(M40ΔGK)に記載のアミノ酸配列を有するヒト抗体定常領域、
〔35〕配列番号:192(M86ΔGK)に記載のアミノ酸配列を有するヒト抗体定常領域、
〔36〕〔6〕~〔35〕のいずれかに記載の定常領域を有する抗体、
〔37〕IL-6レセプターに結合することを特徴とする、〔36〕に記載の抗体、
〔38〕IL-6レセプターへの結合活性が1nM以下である抗ヒトIL-6受容体抗体、
〔39〕全長抗体の実測等電点が7.0以下または可変領域の理論等電点が5.0以下である抗ヒトIL-6レセプター抗体、
〔40〕20mM Histidine-HCl, 150mM NaCl, pH6.5~7.0の緩衝液下で抗体濃度が100mg/mLである条件下において、25℃で1ヶ月経過後の抗体の会合体比率の増加が0.3%以下であることを特徴とする抗IL-6レセプター抗体、
〔41〕〔36〕~〔40〕のいずれかに記載の抗体を含む医薬組成物。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】WTと RD_6 のBaF/gp130中和活性を示すグラフである。
【
図2】rhIL-s6R (R&D systems) と WT の相互作用のセンサーグラムを示すグラフである。
【
図3】rhIL-s6R (R&D systems) と RD_6 の相互作用のセンサーグラムを示すグラフである。
【
図4-1】WTと比較してアフィニティー・中和活性が向上するCDR変異のリストを示す図である。
【
図5】組み合わせによりアフィニティー・中和活性が向上するCDR変異のリストを示す図である。
【
図6】WTと RDC23 のBaF/gp130中和活性を示すグラフである。
【
図7】rhIL-s6R (R&D systems) と RDC23 の相互作用のセンサーグラムを示すグラフである。
【
図8】rhsIL-6Rと WT の相互作用のセンサーグラムを示すグラフである。
【
図9】rhsIL-6Rと RDC23 の相互作用のセンサーグラムを示すグラフである。
【
図10】SR344 と WT の相互作用のセンサーグラムを示すグラフである。
【
図11】SR344 と RDC23 の相互作用のセンサーグラムを示すグラフである。
【
図12】WTと H53L28 のBaF/gp130中和活性を示すグラフである。
【
図13】SR344 と H53/L28 の相互作用のセンサーグラムを示すグラフである。
【
図14】WT、H53/L28をマウスに静脈内投与後の血漿中濃度推移を示したグラフである。
【
図15】WT、H53/L28をマウスに皮下投与後の血漿中濃度推移を示したグラフである。
【
図16】WTと PF1のBaF/gp130中和活性を示すグラフである。
【
図17】SR344 と PF1 の相互作用のセンサーグラムを示すグラフである。
【
図18】WT、PF1の高濃度安定性試験結果を示すグラフである。
【
図19】WT、PF1をヒトIL-6レセプタートランスジェニックマウスに静脈内投与後の血漿中濃度推移を示すグラフである。
【
図20】WT、PF1をヒトIL-6レセプタートランスジェニックマウスに静脈内投与後の非結合型のヒト可溶型IL-6レセプター濃度推移を示したグラフである。
【
図21】塩酸溶出法により精製したWT-IgG1、WT-IgG2、WT-IgG4、IgG2-M397V、IgG4-R409Kのゲルろ過クロマトグラフィーによる会合体含量の分析結果を示すグラフである。
【
図22】WT-IgG1、WT-IgG2、WT-IgG4の陽イオン交換クロマトグラフィー(IEC)分析結果を示す図である。
【
図23】WT-IgG2のヒンジ領域の推定ジスルフィド結合様式を示す図である。
【
図24】WT-IgG2-SKSCのヒンジ領域の推定ジスルフィド結合様式を示す図である。
【
図25】WT-IgG2とIgG2-SKSCの陽イオン交換クロマトグラフィー(IEC)分析結果を示す図である。
【
図26】ヒト化PM1抗体、H鎖C末端ΔK抗体、H鎖C末端ΔGK抗体の陽イオン交換クロマトグラフィー(IEC)分析結果を示す図である。
【
図27】WT-IgG1、WT-IgG2、WT-IgG4、WT-M14ΔGK、WT-M17ΔGK、WT-M11ΔGKの FcγRI に対する結合量の比較を示す図である。
【
図28】WT-IgG1、WT-IgG2、WT-IgG4、WT-M14ΔGK、WT-M17ΔGK、WT-M11ΔGKの FcγRIIa に対する結合量の比較を示すグラフである。
【
図29】WT-IgG1、WT-IgG2、WT-IgG4、WT-M14ΔGK、WT-M17ΔGK、WT-M11ΔGKの FcγRIIb に対する結合量の比較を示すグラフである。
【
図30】WT-IgG1、WT-IgG2、WT-IgG4、WT-M14ΔGK、WT-M17ΔGK、WT-M11ΔGKの FcγRIIIa (Val) に対する結合量の比較を示すグラフである。
【
図31】WT-IgG1、WT-M14ΔGK、WT-M17ΔGK、WT-M11ΔGKの高濃度安定性試験における会合体増加量を示すグラフである。
【
図32】WT-IgG1、WT-M14ΔGK、WT-M17ΔGK、WT-M11ΔGKの高濃度安定性試験におけるFab断片増加量を示すグラフである。
【
図33】WT-IgG2とWT-M14ΔGKとWT-M31ΔGKの陽イオン交換クロマトグラフィー(IEC)分析結果を示す図である。
【
図34】WTとF2H/L39-IgG1のBaF/gp130中和活性を示すグラフである。
【
図35】カニクイザルにおいてWTとPF1とF2H/L39-IgG1を1.0mg/kg皮下投与した時の抗体血漿中濃度推移を示すグラフである。
【
図36】カニクイザルにおけるWTとF2H/L39-IgG1投与群のCRP濃度推移を示すグラフである。
【
図37】カニクイザルにおけるWTとF2H/L39-IgG1投与群の非結合型カニクイザルIL-6レセプター濃度推移を示すグラフである。
【
図38】WT-IgG1およびWT-M14をヒトFcRnトランスジェニックマウスに静脈内投与後の血漿中濃度推移を示したグラフである。
【
図39】WT-IgG1、WT-M14およびWT-M58をヒトFcRnトランスジェニックマウスに静脈内投与後の血漿中濃度推移を示したグラフである。
【
図40】WT-IgG1、WT-M44、WT-M58、WT-M73をヒトFcRnトランスジェニックマウスに静脈内投与後の血漿中濃度推移を示したグラフである。
【
図41】抗IL-6レセプター抗体WT、抗IL-6レセプター抗体F2H/L39、抗IL-31レセプター抗体H0L0、抗RANKL抗体であるDNSの定常領域の及ぼすヘテロジェニティーへの影響を陽イオン交換クロマトグラフィーにより評価した図である。
【
図42】抗IL-6レセプター抗体WT、抗IL-6レセプター抗体F2H/L39のCH1ドメインのシステインの及ぼすヘテロジェニティーへの影響を陽イオン交換クロマトグラフィーにより評価した図である。
【
図43】抗IL-6レセプター抗体WTのCH1ドメインのシステインの及ぼす変性ピークへの影響をDSCにより評価した図である。
【
図44】TOCILIZUMAB、コントロールおよびFv5-M83のBaF/gp130における中和活性を示すグラフである。
【
図45】TOCILIZUMAB、Fv3-M73およびFv4-M73のBaF/gp130における中和活性を示すグラフである。
【
図46】TOCILIZUMAB、コントロール、Fv3-M73、Fv4-M73、およびFv5-M83をカニクイザルに静脈内投与後の血漿中濃度推移を示したグラフである。
【
図47】TOCILIZUMAB、コントロール、Fv3-M73、Fv4-M73、およびFv5-M83をカニクイザルに静脈内投与後のCRP濃度推移を示したグラフである。
【
図48】TOCILIZUMAB、コントロール、Fv3-M73、Fv4-M73、およびFv5-M83をカニクイザルに静脈内投与後の可溶型IL-6レセプターの中和率の推移を示したグラフである。
【
図49】Hspu2.2Lspu2.2(Hu2.2Lu2.2)抗体のDSC(示差走査熱量計)測定から得られたチャートである。
【
図50】高pI等電点電気泳動におけるH0L0抗体およびHspu2.2Lspu2.2(Hu2.2Lu2.2)抗体の泳動像である。
【
図51】低pI等電点電気泳動におけるH0L0抗体およびHspd1.8Lspd1.6(Hd1.8Ld1.6)抗体の泳動像である。
【
図52】H15L4抗体およびH0L0抗体を用いた競合ELISAによる抗原であるグリピカン3に対する結合活性を示す図である。
【
図53】Hspu2.2Lspu2.2(Hu2.2Lu2.2)抗体およびH0L0抗体を用いた競合ELISAによる抗原であるグリピカン3に対する結合活性を示す図である。
【
図54】Hspd1.8Lspd1.6(Hd1.8Ld1.6)抗体およびH0L0抗体を用いた競合ELISAによる抗原であるグリピカン3に対する結合活性を示す図である。
【
図55】H0L0抗体、Hspu2.2Lspu2.2(Hu2.2Lu2.2)抗体およびHspd1.8Lspd1.6(Hd1.8Ld1.6)抗体のヒト肝癌移植マウスモデルにおける抗腫瘍効果を示す。
【
図56】H0L0抗体、Hspu2.2Lspu2.2(Hu2.2Lu2.2)抗体およびHspd1.8Lspd1.6(Hd1.8Ld1.6)抗体のヒト肝癌移植マウスモデルにおける抗体血漿中濃度を示す。
【
図57】ヒト肝癌細胞株Hep G2細胞に対する各被験抗体によるADCC活性を示す。
【
図58】6R_b_H1L1、6R_b_H2L2、6R_b_H2L3、6R_b_H2L4のBaF/6RにおけるIL-6レセプター中和活性を示す図である。
【
図59】GPC_H1L1抗体及びGPC_H2L2抗体を用いた競合ELISAによる抗原であるグリピカン3に対する結合活性を示す図である。
【
図60】GPC_H2L2抗体及びGPC_H3L3抗体を用いた競合ELISAによる抗原であるグリピカン3に対する結合活性を示す図である。
【
図61】6R_a_H1H3L3、GPC3_H2H3L3、および、31R_H1aH2aL2の陽イオン交換クロマトグラフィーによるA鎖B鎖ヘテロダイマー、A鎖ホモダイマーおよびB鎖ホモダイマーのピーク分離を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
〔発明の実施の形態〕
本発明は、抗体の可変領域を含むポリペプチドにおいて、当該可変領域の抗原に対する結合活性を保持しつつ等電点を改変する方法であって、当該ポリペプチドの相補性決定領域(CDR)の表面に露出し得る少なくとも1つのアミノ酸残基の電荷を変換することを含む方法を提供する。また本発明は、当該方法によって得られる等電点が改変された抗体の可変領域を含むポリペプチド(例えば、ヒト由来のCDR、ヒト以外の動物由来のCDR及び合成CDRからなる群より選択されるCDR、ヒト由来のフレームワーク領域(FR)、および、ヒト定常領域を含む抗体であって、CDRの表面に露出し得る少なくとも1つのアミノ酸残基が野生型CDRの対応する位置のアミノ酸残基とは異なる電荷を有するアミノ酸残基であり、改変前の抗体と比較して、抗原に対する結合活性を保持しつつ等電点が改変された抗体)を提供する。
【0021】
本発明の方法の好ましい態様としては、抗体の表面に露出され得る少なくとも一つのアミノ酸残基の電荷を改変することを含む方法である。即ち、抗体のアミノ酸残基の電荷を改変し、その等電点(pI)を変化させることにより、当該抗体の血漿中薬物動態(血中動態)を制御することができる。その結果として、血漿中薬物動態が制御された抗体は、制御されない抗体と比して、例えば、癌細胞に対するより優れた抗腫瘍活性を発揮することができる。
【0022】
本発明の方法において、抗原に対する結合活性を保持するとは、改変前のペプチドの結合活性と比較して少なくとも80%以上、好ましくは85%以上、特に好ましくは90%以上の活性を有することを意味する。また、抗体が抗原に結合した際に、当該抗体の有する機能が維持される程度の結合活性が保持されていれば良く、例えば、生理条件下、37℃において測定されるアフィニティーが100nM以下であればよく、好ましくは50nM以下、より好ましくは、10nM以下、さらに好ましくは1nM以下である。本発明の方法によって得られる等電点が改変された抗体の可変領域を含むポリペプチドが、抗原に対する結合活性を保持しているか否かは、公知の方法、例えば、BIACORE(分子間相互作用解析)、細胞増殖アッセイ、ELISA(酵素結合免疫吸着検定法)、EIA(酵素免疫測定法)、RIA(放射免疫測定法)あるいは蛍光免疫法などによって測定することが可能である。
【0023】
本発明の「抗体の可変領域を含むポリペプチド」としては、例えば抗体、低分子化抗体、Scaffold蛋白質等が挙げられるがこれらに限定されない。
本発明においてScaffold蛋白質は、少なくとも1つの抗原に結合することができる立体構造的に安定なペプチドであれば用いることができる。そのようなペプチドとしては、例えば、抗体可変領域断片、フィブロネクチン、Protein Aドメイン、LDL受容体Aドメイン、リポカリン等のほか、Nygrenら(Current Opinion in Structural Biology, 7:463-469(1997)、Journal of Immunol Methods, 290:3-28(2004))、Binzら(Nature Biotech 23:1257-1266(2005))、Hosseら(Protein Science 15:14-27(2006))に記載の分子が挙げられる。
【0024】
本発明において、「抗体」という用語は最も広い意味で使用され、所望の生物学的活性を示す限り、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、抗体変異体(キメラ抗体、ヒト化抗体、低分子化抗体(抗体断片も含む)、多重特異性抗体等)が含まれる。本発明においては、これら抗体の取得(作成)の際に、好適に本発明の抗体改変方法を用いることができる。
【0025】
本発明における「抗体」には、上述のようにアミノ酸残基の電荷を改変した抗体に対して、さらにアミノ酸の置換、欠失、付加及び/若しくは挿入等により、アミノ酸配列が改変された抗体が含まれる。また、アミノ酸の置換、欠失、付加及び/若しくは挿入、またはキメラ化やヒト化等により、アミノ酸配列が改変された抗体に対して、さらに、アミノ酸残基の電荷が改変された抗体が含まれる。すなわち、マウス抗体をヒト化する工程と同時に改変してもよく、あるいは、ヒト化抗体をさらに改変することであってもよい。
【0026】
アミノ酸の置換、欠失、付加及び/又は挿入、並びにヒト化、キメラ化などのアミノ酸配列の改変は、当業者に公知の方法により行うことが可能である。同様に、本発明における抗体を組換え抗体として作製する際に利用する抗体の可変領域及び定常領域も、アミノ酸の置換、欠失、付加及び/若しくは挿入、またはキメラ化やヒト化等によりそのアミノ酸配列を改変してもよい。
【0027】
本発明における抗体はマウス抗体、ヒト抗体、ラット抗体、ウサギ抗体、ヤギ抗体、ラクダ抗体など、どのような動物由来の抗体でもよい。さらに、例えば、キメラ抗体、中でもヒト化抗体などのアミノ酸配列を置換した改変抗体でもよい。また、各種分子を結合させた抗体修飾物、抗体断片、低分子抗体などいかなる抗体であってもよい。
【0028】
「キメラ抗体」とは、異なる動物由来の配列を組み合わせて作製される抗体である。例えば、マウス抗体の重鎖、軽鎖の可変(V)領域とヒト抗体の重鎖、軽鎖の定常(C)領域からなる抗体を例示することができる。キメラ抗体の作製は公知であり、例えば、抗体V領域をコードするDNAをヒト抗体C領域をコードするDNAと連結し、これを発現ベクターに組み込んで宿主に導入し産生させることによりキメラ抗体を得ることができる。
【0029】
また本発明における低分子化抗体は、抗原への結合能を有していれば特にその構造、製造法等は限定されない。低分子化抗体の中には、全長抗体よりも高い活性を有する抗体も存在する(Orita et al., Blood(2005) 105: 562-566)。本明細書において、「低分子化抗体」とは、全長抗体(whole antibody、例えばwhole IgG等)の一部分であれば特に限定されないが、重鎖可変領域(VH)又は軽鎖可変領域(VL)を含んでいることが好ましい。好ましい抗体断片の例としては、例えば、Fab、F(ab')2、Fab'、Fvなどを挙げることができる。抗体断片中の、VHまたはVLのアミノ酸配列は、置換、欠失、付加及び/又は挿入により改変されていてもよい。さらに抗原への結合能を保持する限り、VH及びVLの一部を欠損させてもよい。例えば、前述の抗体断片のうち「Fv」は、完全な抗原認識部位と結合部位を含む最小の抗体断片である。「Fv」は、1つのVHおよび1つのVLが非共有結合により強く結合したダイマー(VH-VLダイマー)である。各可変領域の3つの相補鎖決定領域(complementarity determining region;CDR)によって、VH-VLダイマーの表面に抗原結合部位を形成する。6つのCDRが抗体に抗原結合部位を付与している。しかしながら、1つの可変領域(または、抗原に特異的な3つのCDRのみを含むFvの半分)であっても、全結合部位よりも親和性は低いが、抗原を認識し、結合する能力を有する。従って、このようなFvより小さい分子も本発明における低分子化抗体に含まれる。又、低分子化抗体の可変領域はキメラ化やヒト化されていてもよい。
【0030】
低分子化抗体は、VHとVLの両方を含んでいることが好ましい。低分子化抗体の例としては、Fab、Fab'、F(ab')2及びFv等の抗体断片、並びに、抗体断片を利用して作製され得るscFv(シングルチェインFv)(Huston et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1988) 85: 5879-83; Pluckthun「The Pharmacology of Monoclonal Antibodies」Vol.113, Resenburg 及び Moore編, Springer Verlag, New York, pp.269-315, (1994))、Diabody(Holliger et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1993) 90: 6444-8; EP404097号; WO93/11161号; Johnson et al., Method in Enzymology (1991) 203: 88-98; Holliger et al., Protein Engineering (1996) 9: 299-305; Perisic et al., Structure (1994) 2: 1217-26; John et al., Protein Engineering (1999) 12(7): 597-604; Atwell et al., Mol.Immunol. (1996) 33: 1301-12)、sc(Fv)2(Hudson et al、J Immunol. Methods (1999) 231: 177-89 ; Orita et al., Blood(2005) 105: 562-566)、Triabody(Journal of Immunological Methods (1999) 231: 177-89)、及びTandem Diabody(Cancer Research (2000) 60: 4336-41)等を挙げることができる。
【0031】
抗体断片は、抗体を酵素、例えばパパイン、ペプシン等のプロテアーゼにより処理して得ることができる(Morimoto et al., J. Biochem. Biophys. Methods (1992) 24: 107-17; Brennan et al., Science (1985) 229: 81参照)。また、該抗体断片のアミノ酸配列を基に、遺伝子組換えにより製造することもできる。
【0032】
抗体断片を改変した構造を有する低分子化抗体は、酵素処理若しくは遺伝子組換えにより得られた抗体断片を利用して構築することができる。又は、低分子化抗体全体をコードする遺伝子を構築し、これを発現ベクターに導入した後、適当な宿主細胞で発現させることもできる(例えば、Co et al., J. Immunol. (1994) 152: 2968-76; Better and Horwitz, Methods Enzymol. (1989) 178: 476-96; Pluckthun and Skerra, Methods Enzymol. (1989) 178: 497-515; Lamoyi, Methods Enzymol. (1986) 121: 652-63; Rousseaux et al., Methods Enzymol. (1986) 121: 663-9; Bird and Walker, Trends Biotechnol. (1991) 9: 132-7参照)。
【0033】
また、上記「scFv」は、2つの可変領域を、必要に応じリンカー等を介して、結合させた一本鎖ポリペプチドである。scFvに含まれる2つの可変領域は、通常、1つのVHと1つのVLであるが、2つのVH又は2つのVLであってもよい。一般にscFvポリペプチドは、VH及びVLドメインの間にリンカーを含み、それにより抗原結合のために必要なVH及びVLの対部分が形成される。通常、同じ分子内でVH及びVLの間で対部分を形成させるために、一般に、VH及びVLを連結するリンカーを10アミノ酸以上の長さのぺプチドリンカーとする。しかしながら、本発明におけるscFvのリンカーは、scFvの形成を妨げない限り、このようなペプチドリンカーに限定されるものではない。scFvの総説として、Pluckthun『The Pharmacology of Monoclonal Antibody』Vol.113(Rosenburg and Moore ed., Springer Verlag, NY, pp.269-315 (1994))を参照することができる。
【0034】
また、「ダイアボディ(diabody; Db)」は、遺伝子融合により構築された二価(bivalent)の抗体断片を指す(P.Holliger et al., Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90: 6444-6448 (1993)、EP404,097号、WO93/11161号等)。ダイアボディは、2本のポリペプチド鎖から構成されるダイマーであり、ポリペプチド鎖は各々、同じ鎖中で軽鎖可変領域(VL)及び重鎖可変領域(VH)が、互いに結合できない位に短い、例えば、5残基程度のリンカーにより結合されている。同一ポリペプチド鎖上にコードされるVLとVHとは、その間のリンカーが短いため単鎖V領域フラグメントを形成することが出来ず二量体を形成するため、ダイアボディは2つの抗原結合部位を有することとなる。このとき2つの異なるエピトープ(a、b)に対するVLとVHをVLa-VHbとVLb-VHaの組み合わせで5残基程度のリンカーで結んだものを同時に発現させると二重特異性Dbとして分泌される。
【0035】
Diabodyは、2分子のscFvを含むことから、4つの可変領域を含み、その結果、2つの抗原結合部位を持つこととなる。ダイマーを形成させないscFvの場合と異なり、Diabodyの形成を目的とする場合、通常、各scFv分子内のVH及びVL間を結ぶリンカーは、ペプチドリンカーとする場合には、5アミノ酸前後のものとする。しかしながら、Diabodyを形成するscFvのリンカーは、scFvの発現を妨げず、Diabodyの形成を妨げない限り、このようなペプチドリンカーに限定されない。
【0036】
複数ある抗体のアイソタイプのうち、IgG抗体はその分子量が十分大きいため、その主要な代謝経路は腎排泄による経路ではない。Fc領域をその分子の一部分として有するIgG抗体は、血管等の内皮細胞で発現している胎児性Fc受容体(FcRn)のサルベージ経路によりリサイクルされることによって、長い生体内半減期を有することが知られている。IgG抗体は主に内皮細胞における代謝経路により代謝されるものと考えられている(He XY, Xu Z, Melrose J, Mullowney A, Vasquez M, Queen C, Vexler V, Klingbeil C, Co MS, Berg EL. Humanization and pharmacokinetics of a monoclonal antibody with specificity for both E- and P-selectin. J Immunol. (1998) ,160(2) ,1029-35)。すなわち、内皮細胞に非特異的に取り込まれたIgG抗体がFcRnに結合することによってIgG抗体はリサイクルされる一方で、結合できなかったIgG抗体は代謝されると考えられている。FcRnへの結合活性が低下するようにそのFc部分が改変されたIgG抗体の血漿中半減期は短くなる。逆にFcRnへの結合活性を高めるためにIgG抗体のFc領域を構成するアミノ酸残基を改変することにより、IgG抗体の血漿中半減期は伸張され得る(He XY, Xu Z, Melrose J, Mullowney A, Vasquez M, Queen C, Vexler V, Klingbeil C, Co MS, Berg EL. Humanization and pharmacokinetics of a monoclonal antibody with specificity for both E- and P-selectin. J Immunol. (1998) ,160(2) ,1029-35)。前記のように、従来のIgG抗体の血漿中薬物動態の制御方法は、Fc領域を構成するアミノ酸残基を改変することによるFcRnへの結合活性の改変によって行われてきた。しかし、下記の実施例でも示すように、本発明においては、抗体の血漿中半減期は高い相関をもってpIに依存することが明らかとなった。すなわち、その改変が免疫原性の獲得をもたらす可能性があるFcを構成するアミノ酸配列を改変することなく、抗体の血漿中半減期を制御することが可能であることが示された。
【0037】
特定の理論に拘束されることを意図するものではないが、本発明者らは現在のところ次のように考えている。内皮細胞への非特異的なIgG抗体の取込みの速度は、負電荷を帯びた細胞表面とIgG抗体の物理化学的なクーロン相互作用に依存すると考えられる。そのため、IgG抗体のpIを低下(上昇)させることでクーロン相互作用が低減(増大)することによって内皮細胞への非特異的な取り込みが減少(増大)する結果、内皮細胞における代謝を減少(増大)させることで血漿中薬物動態を制御することができたと考えられる。内皮細胞と細胞表面負電荷とのクーロン相互作用は物理化学的な相互作用であることから、この相互作用は抗体を構成するアミノ酸配列自体に一義的に依存しないと考えられる。そのため、本発明で見出された血漿中薬物動態の制御方法は、特定の抗体にのみ適用されるものではなく、抗体の可変領域を含む任意のポリペプチドに広く適用可能である。そのようなペプチドとしては、分子量5万以上のペプチドが好ましく、分子量10万以上のペプチドがより好ましく、更に、分子量14万以上のペプチドが好ましい。このようなペプチドであれば、主代謝経路が腎排泄とならず本発明の血漿中薬物動態制御効果を十分に得ることが可能である。なお、本発明におけるクーロン相互作用の低減(増大)とは、斥力で表されるクーロン力の増大(減少)を意味する。
【0038】
本発明におけるFcRn結合領域を含むポリペプチドは、IgG抗体に限定されず、Fcレセプター(FcRn)と結合し得る(結合活性もしくは親和性を有する)タンパク質であればよい。好ましくは、本発明におけるFcRn結合領域を含むポリペプチドは、特に制限されないが、抗体のFc領域もしくはFc様領域を含むタンパク質である。Fc領域は改変されたFc領域を用いることも可能であり、例えば、前記のJ Immunol. (1998) ,160(2) ,1029-35の改変されたFc領域を用いることができる。本発明におけるFcRn結合領域を含むポリペプチドとしては、例えば、IgG抗体が挙げられる。また、これらの抗体(タンパク質)の改変体であっても、FcRnと結合し得るタンパク質であれば、本発明のFcRn結合領域を含むポリペプチドに含まれる。本発明においてFcRn結合領域を含むポリペプチドの最も好ましい例としては、IgG抗体を挙げることができる。
【0039】
本発明の抗体としてIgG抗体を用いる場合、IgGタイプの抗体分子であればいかなるサブタイプでもよく、多重特異性(例えば二重特異性)のIgG抗体であってもよい。この二重特異性抗体は2種類の異なるエピトープに対して特異性を有する抗体であり、異なる抗原を認識する抗体のほか、同一の抗原上の異なるエピトープを認識する抗体も含まれる。また、抗体分子であっても、scFvやFabにように腎排泄が主要な代謝経路であるような低分子化抗体の場合は前述のようにpIでは血漿中薬物動態を制御することができないが、本発明は腎排泄が主要な代謝経路ではない抗体の可変領域を含むポリペプチドであればいかなる抗体分子形でも適用可能であり、例えば、scFv-Fc、dAb-Fc、Fc融合タンパク質等が挙げられる。これらの分子の腎排泄は主要な代謝経路ではないため、本発明で見出された方法によりpIを変化させることで血漿中薬物動態を制御することが可能である。本発明が適用できる抗体分子は、抗体様分子であってもよい。抗体様分子とは、ターゲット分子に結合することで機能を発揮するような分子であり(Binz HK, Amstutz P, Pluckthun A., Engineering novel binding proteins from nonimmunoglobulin domains., Nat Biotechnol. 2005 Oct;23(10):1257-68.)、例えば、DARPins、Affibody、Avimer等が挙げられる。
【0040】
なお、本発明の抗体が、例えば二重特異性の抗グリピカン3抗体の場合は、当該抗体はグリピカン3とグリピカン3以外の抗原のエピトープに対して特異的に結合することもできる。例えば、グリピカン3以外の抗原としては、NK細胞、細胞傷害性T細胞、LAK細胞等をリクルートするためにこれらの細胞に特異的に結合する表面抗原を好適に利用することができる。腺癌関連抗原であるMUC1を認識する抗体MUSE11とLAK細胞表面抗原を認識する抗体OKT3から作製された二重特異性抗体を用いて、胆管癌に対してLAK細胞による細胞傷害活性が発揮されたことが示されている(Katayose Y, Kudo T, Suzuki M, Shinoda M, Saijyo S, Sakurai N, Saeki H, Fukuhara K, Imai K, Matsuno S. MUC1-specific targeting immunotherapy with bispecific antibodies: inhibition of xenografted human bile duct carcinoma growth. Cancer Res. (1996) 56(18), 4205-12)。前記MUC1を認識する抗体MUSE11に代えて、本発明が提供する血漿中薬物動態が改善されたグリピカン3抗体を好適に使用され得る。また、本発明が提供する二重特異性のグリピカン3抗体としては、グリピカン3分子の異なるエピトープを認識する抗体も好適に利用され得る。
【0041】
なお、上記「二重特異性抗体」は、例えば、重鎖可変領域および軽鎖可変領域が1本鎖として連結した構造の抗体(例えば、sc(Fv)2)であってもよい。また重鎖可変領域(VH)および軽鎖可変領域(VL)が連結したscFv(あるいはsc(Fv)2)をFc領域(CH1ドメインを欠いた定常領域)と結合した抗体様分子(例えば、scFv-Fc)であってもよい。scFv-Fcからなる多重特異性抗体は第1のポリペプチドがVH1-linker-VL1-Fcであり、第2のポリペプチドがVH2-linker-VL2-Fcからなる(scFv)2-Fc型の構造をもつ。あるいはsingle domain antibodyをFc領域と結合させた抗体様分子であってもよい(Curr Opin Drug Discov Devel. 2006 , 9(2), 184-93)。
【0042】
本発明においてアミノ酸残基の電荷の改変は、アミノ酸置換を通して行うことが出来る。アミノ酸置換は後述の方法によって行うことが出来る。
なお本発明における、置換の対象となるCDR領域の表面に露出し得るアミノ酸残基は、抗原への結合活性保持の観点から、重鎖可変領域におけるKabatナンバリングによる31位、61位、62位、64位および65位のアミノ酸残基若しくは軽鎖可変領域におけるKabatナンバリングによる24位、27位、53位、54位および55位のアミノ酸残基から選ばれる、少なくとも1つのアミノ酸残基であることが好ましい。これらのアミノ酸残基の置換は、アミノ酸残基の置換前に抗体の可変領域を含むポリペプチドが有していた機能(抗原への結合活性等)を保持している点、また、当該置換が抗体の種類によらない点で有用である。
【0043】
また本発明は、抗体の可変領域を含むポリペプチドの等電点を改変することにより、当該ポリペプチドの薬物動態を制御する方法を提供する。さらに当該方法によって得られる薬物動態が制御された抗体の可変領域を含むポリペプチドも本発明に含まれる。
【0044】
本発明において「血漿中薬物動態が制御された」とは、抗体を構成するアミノ酸の改変前と改変後における抗体の血漿中薬物動態を比較して、血漿中薬物動態が所望の方向に改変されていることを意味する。すなわち、抗体の薬物(血漿中)半減期を伸長することを所望する場合は、「血漿中薬物動態の制御」とは、抗体の血漿中半減期が伸長することをいう。抗体の血漿中半減期を短くすることを所望する場合は、「血漿中薬物動態の制御」とは、抗体の血漿中半減期を短縮することをいう。
【0045】
本発明において抗体の血漿中薬物動態が所望の方向に改変されているか否か、すなわち血漿中薬物動態が所望するとおり制御されているか否かは、例えば、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、サル等を用いた動態試験を実施することによって適宜評価され得る。また、本発明における「血漿中半減期の伸長」または「血漿中半減期の短縮」は、より具体的には、血漿中半減期(t1/2)というパラメーターの他に、平均血漿中滞留時間、血漿中クリアランス(CL)、濃度曲線下面積(AUC)、血漿中半減期等のいずれかのパラメーターによっても把握され得る(「ファーマコキネティクス 演習による理解」(南山堂))。例えば、体内動態解析ソフトWinNonlin(Pharsight)に付属する手順書に従ってNoncompartmental解析が実施されることによって、本発明が提供する「血漿中動態の制御」がこれらのパラメーターを用いて適宜評価され得る。
【0046】
また、血漿中薬物動態の制御によって抗体の機能を持続させることが可能である。例えば、細胞障害活性を有する抗体に本発明の方法を適用すれば、その機能を持続させることが可能となり、細胞障害活性効果、アンタゴニスト活性、アゴニスト活性等の改変前のポリペプチドが有する機能の持続時間を調節することが可能となる。
【0047】
本発明において「表面に露出され得るアミノ酸残基」とは、通常、抗体を構成するポリペプチドの表面にあるアミノ酸残基を指称する。「ポリペプチドの表面にあるアミノ酸残基」とは、その側鎖が溶媒分子(通常は水分子であることが多い。)に接し得るアミノ酸残基をいい、必ずしもその側鎖の全てが溶媒分子に接する必要はなく、その側鎖の一部でも溶媒分子に接する場合には、そのアミノ酸残基は表面にあるアミノ酸であると規定される。市販のソフトウェアを用いたホモロジーモデリング等により、当業者はポリペプチドや抗体のホモロジーモデルを作製することができる。当該ホモロジーモデルに基づいて、適切な抗体を構成するポリペプチドの表面にあるアミノ酸残基が「ポリペプチドの表面にあるアミノ酸残基」として好適に選択され得る。
【0048】
本発明において「表面に露出され得るアミノ酸残基」は、特に制限されるものではないが、抗体中のFcRn結合領域の外にあるアミノ酸残基であることが好ましい。このFcRn結合領域とは、例えば、Fc領域が好適に挙げられる。
【0049】
本発明の抗体において電荷を改変すべきアミノ酸残基は、抗体の重鎖可変領域または軽鎖可変領域を構成するアミノ酸残基であることが好ましい。当該可変領域としては、具体的には、相補性決定領域(CDR)、フレームワーク領域(FR)が好適に挙げられる。
【0050】
当業者であれば、抗体可変領域における表面アミノ酸残基はホモロジーモデリング等により作製されたホモロジーモデルにより適宜選択することが可能である。すなわち、H鎖可変領域のKabatナンバリングに基づくアミノ酸残基であるH1, H3, H5, H8, H10, H12, H13, H15, H16, H19, H23, H25, H26, H31, H39, H42, H43, H44, H46, H61, H62, H64, H65, H68, H71, H72, H73, H75, H76, H81, H82b, H83, H85, H86, H105, H108, H110, H112の中から、抗体可変領域における表面アミノ酸残基が適宜選択され得る。例えば、配列番号:195で表されるヒト化グリピカン3抗体のH鎖FR領域においては、1、3、5、8、10、12、13、15、16、19、23、25、26、39、42、43、44、46、69、72、73、74、76、77、82、85、87、89、90、107、110、112、114番目のアミノ酸残基が表面アミノ酸として例示され得るが、本発明はこれらに限定されることはない。またH鎖CDR中の表面アミノ酸残基は、同様のホモロジーモデルによって選択され得る。すなわち、Kabatナンバリングに基づくアミノ酸残基であるH97はほぼ全ての抗体で表面に露出されている。例えば、配列番号:195で表されるヒト化グリピカン3抗体のH鎖CDRにおける101番目のセリンが当該アミノ酸残基に相当するものである。配列番号:195で表されるヒト化グリピカン3抗体のH鎖CDRにおけるその他のアミノ酸残基としては52、54、62、63、65、66番目のアミノ酸残基が好適に挙げられる。
【0051】
L鎖可変領域においては、Kabatナンバリングに基づくアミノ酸残基であるL1, L3, L7, L8, L9, L11, L12, L16, L17, L18, L20, L22, L24, L27, L38, L39, L41, L42, L43, L45, L46, L49, L53, L54, L55, L57, L60, L63, L65, L66, L68, L69, L70, L74, L76, L77, L79, L80, L81, L85, L100, L103, L105, L106, L107の中から抗体可変領域における表面アミノ酸残基が適宜選択され得る。例えば配列番号:195で表されるヒト化グリピカン3抗体の、1、3、7、8、9、11、12、16、17、18、20、22、43、44、45、46、48、49、50、54、62、65、68、70、71、73、74、75、79、81、82、84、85、86、90、105、108、110、111、112が表面アミノ酸として例示することができるが、本発明はこれらに限定されることはない。またL鎖CDR中の表面アミノ酸残基は、それによりH鎖CDR中の表面アミノ酸残基が決定されるホモロジーモデルと同様のホモロジーモデルによって選択され得る。配列番号:201で表されるヒト化グリピカン3抗体のL鎖CDRにおけるアミノ酸残基としては24、27、33、55、59番目のアミノ酸残基が好適に挙げられる。
【0052】
本発明が提供する方法におけるアミノ酸残基の「改変」とは、具体的には、元のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基へ置換すること、元のアミノ酸残基を欠失させること、新たなアミノ酸残基を付加すること等をいうが、好ましくは、元のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基へ置換することを指す。即ち、本発明における「アミノ酸残基の電荷の改変」とは、好ましくはアミノ酸置換が挙げられる。
【0053】
本発明が提供するグリピカン3抗体は、上記「アミノ酸残基の電荷の改変」を行うために、例えば、配列番号:195で表されるヒト化グリピカン3抗体を構成するH鎖可変領域中の19、43、52、54、62、63、65、66、107番目のアミノ酸残基から選ばれる、少なくとも1つのアミノ酸残基の電荷が好適に改変される。また、例えば、配列番号:201で表されるヒト化グリピカン3抗体を構成するL鎖可変領域中の17、24、27、33、55、59、79、82、105番目のアミノ酸残基から選ばれる、少なくとも1つのアミノ酸残基の電荷が好適に改変される。前記のアミノ酸残基のうち、当該電荷が改変されたアミノ酸残基以外のアミノ酸残基は、目的とする血漿中薬物動態の制御効果が得られていれば改変される必要はないが、適宜、改変されたアミノ酸残基と同種の電荷を有する、または電荷を有しないように適宜改変され得る。
【0054】
本発明が提供する抗ヒトIL-6レセプター抗体(6R_a_H1L1)のCDRにおいて、抗原に対する結合活性を保持しつつ、上記「アミノ酸残基の電荷の改変」を行うために、例えば、配列番号:221で表される抗ヒトIL-6レセプター抗体を構成するH鎖可変領域中のkabatナンバリングによる31、64、65番目のアミノ酸残基から選ばれる、少なくとも1つのアミノ酸残基の電荷が好適に改変される。また、例えば、配列番号:224で表される抗ヒトIL-6レセプター抗体を構成するL鎖可変領域中のkabatナンバリングによる24、27、53、55番目のアミノ酸残基から選ばれる、少なくとも1つのアミノ酸残基の電荷が好適に改変される。前記のアミノ酸残基のうち、当該電荷が改変されたアミノ酸残基以外のアミノ酸残基は、目的とする血漿中薬物動態の制御効果が得られていれば改変される必要はないが、適宜、改変されたアミノ酸残基と同種の電荷を有する、または電荷を有しないように適宜改変され得る。
【0055】
本発明が提供する抗ヒトIL-6レセプター抗体(6R_b_H1L1)のCDRにおいて、抗原に対する結合活性を保持しつつ、上記「アミノ酸残基の電荷の改変」を行うために、例えば、配列番号:227で表される抗ヒトIL-6レセプター抗体を構成するH鎖可変領域中のkabatナンバリングによる31番目のアミノ酸残基から選ばれる、少なくとも1つのアミノ酸残基の電荷が好適に改変される。また、例えば、配列番号:229で表される抗ヒトIL-6レセプター抗体を構成するL鎖可変領域中のkabatナンバリングによる24、53、54、55番目のアミノ酸残基から選ばれる、少なくとも1つのアミノ酸残基の電荷が好適に改変される。前記のアミノ酸残基のうち、当該電荷が改変されたアミノ酸残基以外のアミノ酸残基は、目的とする血漿中薬物動態の制御効果が得られていれば改変される必要はないが、適宜、改変されたアミノ酸残基と同種の電荷を有する、または電荷を有しないように適宜改変され得る。
【0056】
本発明が提供する抗ヒトGPC3抗体のCDRにおいて、抗原に対する結合活性を保持しつつ、上記「アミノ酸残基の電荷の改変」を行うために、例えば、配列番号:233で表される抗ヒトGPC3抗体を構成するH鎖可変領域中のkabatナンバリングによる61、62、64、65番目のアミノ酸残基から選ばれる、少なくとも1つのアミノ酸残基の電荷が好適に改変される。また、例えば、配列番号:236で表される抗ヒトGPC3抗体を構成するL鎖可変領域中のkabatナンバリングによる24、27番目番目のアミノ酸残基から選ばれる、少なくとも1つのアミノ酸残基の電荷が好適に改変される。前記のアミノ酸残基のうち、当該電荷が改変されたアミノ酸残基以外のアミノ酸残基は、目的とする血漿中薬物動態の制御効果が得られていれば改変される必要はないが、適宜、改変されたアミノ酸残基と同種の電荷を有する、または電荷を有しないように適宜改変され得る。
【0057】
本発明が提供する抗ヒトIL-31レセプター抗体のCDRにおいて、抗原に対する結合活性を保持しつつ、上記「アミノ酸残基の電荷の改変」を行うために、例えば、配列番号:239で表される抗ヒトIL-31レセプター抗体を構成するH鎖可変領域中のkabatナンバリングによる61、62、64、65番目のアミノ酸残基から選ばれる、少なくとも1つのアミノ酸残基の電荷が好適に改変される。また、例えば、配列番号:242で表される抗ヒトIL-31レセプター抗体を構成するL鎖可変領域中のkabatナンバリングによる24、54番目のアミノ酸残基から選ばれる、少なくとも1つのアミノ酸残基の電荷が好適に改変される。前記のアミノ酸残基のうち、当該電荷が改変されたアミノ酸残基以外のアミノ酸残基は、目的とする血漿中薬物動態の制御効果が得られていれば改変される必要はないが、適宜、改変されたアミノ酸残基と同種の電荷を有する、または電荷を有しないように適宜改変され得る。
【0058】
アミノ酸の中には、電荷を帯びたアミノ酸が存在することが知られている。一般的に、正の電荷を帯びたアミノ酸(正電荷アミノ酸)としては、リジン(K)、アルギニン(R)、ヒスチジン(H)が知られている。負の電荷を帯びたアミノ酸(負電荷アミノ酸)としては、アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E)等が知られている。これら以外のアミノ酸は電荷を有さないアミノ酸として知られている。
【0059】
上記「改変されたアミノ酸残基」としては、好ましくは、以下の(a)または(b)いずれかの群に含まれるアミノ酸残基から適宜選択されるが、特にこれらのアミノ酸に制限されない。
(a)グルタミン酸(E)、アスパラギン酸(D)
(b)リジン(K)、アルギニン(R)、ヒスチジン(H)
【0060】
なお、元の(改変前の)アミノ酸残基が既に電荷を有する場合、電荷を有さないアミノ酸残基となるように改変することも本発明の好ましい態様の一つである。すなわち、本発明における改変としては、(1)電荷を有するアミノ酸から電荷を有さないアミノ酸への置換、(2)電荷を有するアミノ酸から当該アミノ酸とは反対の電荷を有するアミノ酸への置換、(3)電荷を有さないアミノ酸から電荷を有するアミノ酸への置換、が挙げられる。
【0061】
本発明においては、抗体の等電点(pI)が変化するように、抗体を構成するアミノ酸残基が改変されることが好ましい。また、改変されるアミノ酸残基が複数存在する場合には、改変に供されるアミノ酸残基の中に電荷を持たないアミノ酸残基が少数程度含まれ得る。
【0062】
本発明が提供するグリピカン3抗体における「アミノ酸残基の電荷の改変」の好適な例としては以下のものが挙げられる。pI値を増加させる改変としては、例えば、配列番号:195で表されるヒト化グリピカン3抗体を構成するH鎖可変領域中のQ43K、D52N、Q107Rの少なくとも1つの置換を行うことができ、特に好ましくは配列番号:198で表されるアミノ酸配列に改変される。また、例えば、配列番号:201で表されるヒト化グリピカン3抗体を構成するL鎖可変領域中のE17Q、Q27R、Q105Rの少なくとも1つの置換を行うことができ、特に好ましくは配列番号:204で表されるアミノ酸配列に改変される。一方、pI値を減少させる改変としては、配列番号:195で表されるヒト化グリピカン3抗体を構成するH鎖可変領域中のK19T、Q43E、K63S、K65Q、G66Dの少なくとも1つの置換を行うことができ、特に好ましくは配列番号:197で表されるアミノ酸配列に改変される。また、例えば、配列番号:201で表されるヒト化グリピカン3抗体を構成するL鎖可変領域中のQ27E、K79T、R82Sの少なくとも1つの置換を行うことができ、特に好ましくは配列番号:203で表されるアミノ酸配列に改変される。
【0063】
本発明が提供する抗ヒトIL-6レセプター抗体(6R_a_H1L1)における「アミノ酸残基の電荷の改変」の好適な例としては、表20に記載のアミノ酸置換のうち少なくとも1つのアミノ酸置換が挙げられる。
【0064】
本発明が提供する抗ヒトIL-6レセプター抗体(6R_b_H1L1)における「アミノ酸残基の電荷の改変」の好適な例としては、表22に記載のアミノ酸置換のうち少なくとも1つのアミノ酸置換が挙げられる。
【0065】
本発明が提供する抗ヒトGPC3抗体における「アミノ酸残基の電荷の改変」の好適な例としては、表24に記載のアミノ酸置換のうち少なくとも1つのアミノ酸置換が挙げられる。
【0066】
本発明が提供する抗ヒトIL-31レセプター抗体における「アミノ酸残基の電荷の改変」の好適な例としては、表27に記載のアミノ酸置換のうち少なくとも1つのアミノ酸置換が挙げられる。
【0067】
本発明において改変に供されるアミノ酸残基の数は、特に制限されないが、例えば、抗体の可変領域を改変する場合、抗原との結合活性を低下させないために、また免疫原性を上げないために、目的の制御された血漿中薬物動態を達成するための必要最低限のアミノ酸残基が改変されることが好ましい。また、抗原との結合活性の増大をもたらすアミノ酸残基の改変や、免疫原性の低下をもたらすアミノ酸残基の改変を適宜組み合わせることもまた好適に実施され得る。
【0068】
抗体の抗原結合活性の測定には公知の手段を使用することができる。例えば、ELISA(酵素結合免疫吸着検定法)、EIA(酵素免疫測定法)、RIA(放射免疫測定法)あるいは蛍光免疫法などを用いることができる。一般的な教示書である「Antibodies A Laboratory Manual. Ed Harlow, David Lane, Cold Spring Harbor Laboratory, 1988」に前記の方法が記載されている。
【0069】
細胞に対する抗体の結合活性を測定する方法としては、例えば、Antibodies A Laboratory Manual.(Ed Harlow, David Lane, Cold Spring Harbor Laboratory, 1988)中の359-420ページに記載されている方法が挙げられる。即ち、細胞を抗原とするBIACORE、細胞増殖アッセイ、ELISAやFACS(fluorescence activated cell sorting)の原理によって評価することができる。ELISAフォーマットにおいては、細胞への抗体の結合活性は、酵素反応によって生成するシグナルレベルを比較することによって定量的に評価される。すなわち、各強制発現細胞を固定化したELISAプレートに被験抗体を加え、被験抗体を認識する酵素標識抗体を利用して、細胞に結合した抗体が検出される。あるいはFACSにおいては、被験抗体の希釈系列を作成し、各強制発現細胞に対する抗体結合力価(titer)を決定することにより、細胞に対する結合活性を比較することができる。
【0070】
ELISAプレート等の担体に結合していない、緩衝液等に懸濁した細胞表面上に発現している抗原と当該抗原に対する抗体との結合はFACSフォーマットにより測定することができる。このような測定に使用するフローサイトメーターとしては、例えば、FACSCantoTM II, FACSAriaTM, FACSArrayTM, FACSVantageTM SE, FACSCaliburTM (以上、BD Biosciences)や、EPICS ALTRA HyPerSort, Cytomics FC 500, EPICS XL-MCL ADC, EPICS XL ADC, Cell Lab Quanta / Cell Lab Quanta SC(以上、Beckman Coulter)などが挙げられる。
【0071】
抗体の抗原に対する結合活性の好適な測定方法の一例として、抗原を発現する細胞と被検抗体とを反応させ、被検抗体を認識するFITC標識した二次抗体で細胞を染色した後、FACSCalibur(BD)により測定を行い、その蛍光強度をCELL QUEST Software(BD)を用いて解析する方法を挙げることができる。本方法によれば、抗原を発現する細胞表面上の抗原に対して結合した被検抗体を特異的に認識するFITC標識した二次抗体で染色後、FACSCaliburにより測定を行った場合において、その蛍光強度をCELL QUEST Softwareを用いて解析する方法によって得られるGeometric Meanの値(被検Geo-Mean値)を、対照抗体を用いて得られる対照Geo-Mean値と比較することによって判断することが出来る。Geo-Mean値 (Geometric Mean) を求める計算式は、CELLQUEST Software User' s Guide (BD biosciences社)に記載されている。
【0072】
また、抗体が投与されるヒトの体内における免疫原性を上げないために、改変されたアミノ酸配列がヒト配列(ヒト由来の天然の抗体に見いだされる配列)であることが好ましいが本発明はこれに限定されることはない。さらに、改変後に複数のFRの各々(FR1、FR2、FR3、FR4)がヒト配列になるように、等電点が変化するように導入した改変以外の箇所に変異が好適に導入され得る。このようにして各FRをヒト配列に置き換える方法は非特許文献(Ono K, Ohtomo T, Yoshida K, Yoshimura Y, Kawai S, Koishihara Y, Ozaki S, Kosaka M, Tsuchiya M., The humanized anti-HM1.24 antibody effectively kills multiple myeloma cells by human effector cell-mediated cytotoxicity.,Mol Immunol. (1999) 36(6), 387-395)で報告されている。また、抗体の等電点を変化させるために、各FRの電荷が変化するように他のヒトFRに改変してもよい(例えば抗体の等電点が低下するようFR3を他のヒトFRと交換してもよい)。このようなヒト化方法は非特許文献(Dall'Acqua WF, Damschroder MM, Zhang J, Woods RM, Widjaja L, Yu J, Wu H.., Antibody humanization by framework shuffling., Methods. (2005) 36(1), 43-60)で報告されている。
【0073】
また、僅かな表面電荷の改変によっては目的とする制御された血漿中薬物動態に到達しない場合に、表面電荷の改変と血漿中薬物動態の評価を繰り返し行うことで、目的とする制御された血漿中薬物動態を示す所望の抗体が好適に取得され得る。
【0074】
非特許文献(He XY, Xu Z, Melrose J, Mullowney A, Vasquez M, Queen C, Vexler V, Klingbeil C, Co MS, Berg EL. Humanization and pharmacokinetics of a monoclonal antibody with specificity for both E- and P-selectin. J Immunol. (1998) ,160(2) ,1029-35)には、抗E, P-Selectin抗体のキメラ抗体(IgG4)であるchimeric EP5C7.g4とヒト化抗体(IgG4)であるHuEP5C7.g4のアカゲサルにおける血漿中薬物動態を比較し、両者の血漿中薬物動態は同等であることが示されている。また非特許文献(Gobburu JV, Tenhoor C, Rogge MC, Frazier DE Jr, Thomas D, Benjamin C, Hess DM, Jusko WJ. Pharmacokinetics/dynamics of 5c8, a monoclonal antibody to CD154 (CD40 ligand) suppression of an immune response in monkeys. J Pharmacol Exp Ther. (1998) 286(2) ,925-30)には、抗CD154抗体のキメラ型抗体であるch5d8とヒト化抗体であるHu5c8のカニクイサルにおける血漿中薬物動態を比較し、両者の血漿中薬物動態は同等であることが示されている。非特許文献(Kashmiri SV, Shu L, Padlan EA, Milenic DE, Schlom J, Hand PH., Generation, characterization, and in vivo studies of humanized anticarcinoma antibody CC49., Hybridoma. (1995) 14(5), 461-73)には、キメラ抗体のcCC49とヒト化抗体のHuCC49のマウスにおける血漿中薬物動態が同等であることが示されている。また非特許文献(Graves SS, Goshorn SC, Stone DM, Axworthy DB, Reno JM, Bottino B, Searle S, Henry A, Pedersen J, Rees AR, Libby RT., Molecular modeling and preclinical evaluation of the humanized NR-LU-13 antibody., Clin Cancer Res. (1999) 5(4) ,899-908)および非特許文献(Couto JR, Blank EW, Peterson JA, Ceriani RL., Anti-BA46 monoclonal antibody Mc3: humanization using a novel positional consensus and in vivo and in vitro characterization., Cancer Res. (1995) 55(8), 1717-22)には、マウスにおける評価において、マウス抗体とヒト化抗体の血漿中薬物動態・分布が同等であることが示されており、マウスFcおよびヒトFcは共にマウスFcRnに交差することから、同キメラ抗体と同ヒト化抗体の血漿中薬物動態・分布は同等であると考えられる。これらの例に示されているように、同じCDRをもつキメラ抗体とヒト化抗体の間で血漿中薬物動態は同等である。すなわち、非特許文献(Ghetie V, Popov S, Borvak J, Radu C, Matesoi D, Medesan C, Ober RJ, Ward ES., Increasing the serum persistence of an IgG fragment by random mutagenesis., Nat Biotechnol. (1997) 15(7), 637-40)等に示される公知の方法によってヒト化した場合、キメラ抗体と比較して血漿中薬物動態は同等であり、公知の方法では血漿中薬物動態が制御されたヒト化抗体を作製することはできない。
【0075】
これに対し、本発明で見出された方法を用いれば、キメラ抗体をヒト化する際に、キメラ抗体の表面に露出され得るアミノ酸残基に改変を加えて抗体のpIが改変されることによって、キメラ抗体と比較して血漿中薬物動態が制御された(すなわち、その血漿中半減期を伸長した、あるいは、その血漿中半減期を短縮した)ヒト化抗体が作製され得る。血漿中薬物動態を制御するためのヒト化抗体の表面に露出され得るアミノ酸の改変は、抗体のヒト化と同時に実施されてもよく、あるいは、ヒト化抗体を出発材料として用いてその表面に露出され得るアミノ酸残基を改変することにより、ヒト化抗体のpIをさらに改変してもよい。
本発明における等電点の値は、当業者公知の等電点電気泳動により測定することが可能である。また、理論等電点の値は、遺伝子およびアミノ酸配列解析ソフトウェア(Genetyx等)を用いて計算することができる。本発明において、例えば、血漿中薬物動態の十分な制御のため等、等電点を大幅に変化させる必要がある場合に有用である。特に理論等電点の値で1.0以上等電点の値を変化させる必要がある場合が好ましく、3.0以上必要な場合により好ましい。
【0076】
非特許文献(Adams CW, Allison DE, Flagella K, Presta L, Clarke J, Dybdal N, McKeever K, Sliwkowski MX. Humanization of a recombinant monoclonal antibody to produce a therapeutic HER dimerization inhibitor, pertuzumab., Cancer Immunol Immunother. (2006) 55(6), 717-27)には、同じヒト抗体のFR配列を用いてヒト化を行った3種類のヒト化抗体trastuzumab、bevacizumab、pertuzumabの血漿中薬物動態はほぼ同等であることが記されている。すなわち、同じFR配列を用いてヒト化を行った場合、血漿中薬物動態はほぼ同等である。本発明で見出された方法によれば、上述のようなヒト化の工程に加えて、抗体の表面に露出され得るアミノ酸残基に改変を加えて抗体のpIを改変させることによって、薬物(血漿中)濃度を制御することが可能となる。
【0077】
また、本発明の方法は、ヒト抗体にも適用することができる。ヒト抗体ライブラリーやヒト抗体産生マウス等から作製されたヒト抗体の表面に露出され得るアミノ酸残基に改変を加えて、ヒト抗体のpIが改変されることにより、最初に作製されたヒト抗体の血漿中薬物動態に比べてその血漿中薬物動態が制御された(すなわち、その血漿中半減期を伸長した、あるいは、その血漿中薬物動態を短縮した)ヒト抗体が作製可能である。
【0078】
抗体が有するpI値が減少することにより、抗体の血漿中半減期が伸長する。それとは逆に抗体のpI値が増大することにより、血漿中半減期が短縮し、抗体の組織移行性が向上することが知られている(Vaisitti T, Deaglio S, Malavasi F., Cationization of monoclonal antibodies: another step towards the "magic bullet"?, J Biol Regul HomeostAgents. (2005) 19(3-4), 105-12, Pardridge WM, Buciak J, Yang J, Wu D. Enhanced endocytosis in cultured human breast carcinoma cells and in vivo biodistribution in rats of a humanized monoclonal antibody after cationization of the protein. (1998) 286(1), 548-54)。しかしながら、当該抗体は免疫原性が増加し、また、細胞内への内在化活性も増大することから、ADCCやCDC活性等のその活性の発揮に細胞内への内在化活性が阻害要因となる細胞傷害活性等の機構を通じて癌治療に対する効果を奏する抗体に適用するために、更なる改良が求められていた。すなわち、ADCCやCDC活性等のその活性の発揮に細胞内への内在化活性が阻害要因となる細胞傷害活性等の機構を通じて癌治療に対する効果を奏する抗体については、pI値の増加または減少のいずれが腫瘍抑制効果の増強をもたらすかは分かっていなかった。本発明においては、pI値が減少したヒト化抗体の改変抗体とpI値が増加したヒト化抗体の改変抗体を作製し、両者の抗腫瘍効果を比較検討することによって、いずれの改変が高い腫瘍抑制効果をもたらすかが検証された。その結果、驚くべきことに、pI値が減少したヒト化抗体が肝癌に対してより優れた効果を発揮することが示された。
【0079】
本発明における「抗体」には、上述のようにアミノ酸残基の電荷が改変された抗体を出発材料に用いて、当該抗体を構成するアミノ酸残基の置換、欠失、付加及び/若しくは挿入等により、そのアミノ酸配列がさらに改変された抗体が包含される。また、本発明における「抗体」には、アミノ酸残基の置換、欠失、付加及び/若しくは挿入、またはキメラ化やヒト化等により、アミノ酸配列が改変された抗体を出発材料に用いて、当該抗体を構成するアミノ酸残基の電荷がさらに改変された抗体もまた包含される。
【0080】
本発明が提供する抗体の特性の向上を目的とする改変の例示として、抗体の安定性を高めることを目的とする改変(以下、安定性の改変と指称する。)が好適にあげられる。水溶液中の抗体は天然状態と不活性な変性状態の二状態間で平衡化されている。天然状態の安定性は熱力学第二法則(ΔG = ΔH - TΔS)で表される様に、系のギブズ自由エネルギー変化ΔGおよびその内訳であるエンタルピー変化ΔH(ポリペプチド鎖中の疎水性相互作用や水素結合などの変化に起因)とエントロピー変化ΔS(溶媒和と立体構造の自由度の変化に起因)のバランスに依存する。正値のΔGはタンパク質の天然状態の方がタンパク質の変性状態よりも安定であることを意味し、ΔGがより大きな正値を示す場合にはタンパク質の天然状態の安定性がさらに増大する。タンパク質が変性するためにはこの安定化に寄与している力を壊す必要がある。たとえばタンパク質溶液を高温にさらすことによって立体構造の自由度が増大し、タンパク質の安定化に寄与する因子が弱められることによってタンパク質の熱変性が引きおこされるが、この場合-TΔS項が変性を支配することになる。タンパク質の熱変性によるアンフォールディングのΔHは、本明細書に記載された実施例において具体的に記載されるようにDSC(differential scanning calorimetry;示差走査熱量測定法)を用いて直接的に測定され得る。タンパク質の熱変性プロセスにおけるDSCカーブは変性中点(Tm)と呼ばれる被験タンパク質に固有である温度を挟んで吸熱ピークとなる。当該ピークを積分する事によって変性エンタルピー変化が得られる。一般的にTmの値は熱安定性の一つの指標である。DSCによってタンパク質が熱変性をおこす際の熱容量変化(ΔCp)も測定され得る。熱変性に付随して生じる熱容量変化は、主にタンパク質が天然状態で存在するときに分子表面に露出していないアミノ酸残基がタンパク質の変性に伴って溶媒分子に露出された結果水和することに起因する。
【0081】
前記のとおり、本発明が提供する方法におけるアミノ酸残基の「改変」とは、具体的には、元のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基へ置換すること、元のアミノ酸残基を欠失させること、新たなアミノ酸残基を付加すること等をいうが、好ましくは、元のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基へ置換することをいう。即ち、本発明における抗体の安定性の改変のためには、好ましくはアミノ酸置換による改変が用いられる。抗体を構成するアミノ酸残基に対して安定性の改変が施された結果、抗体の前記Tm値が増大する。すなわち、抗体の安定性の改変が施された指標として前記Tm値が好適に使用される。
【0082】
本発明が提供するグリピカン3抗体は、上記「安定性の改変」を行うために、例えば、配列番号:195で表されるヒト化グリピカン3抗体を構成するH鎖可変領域中の37、40、48、51番目のアミノ酸残基から選ばれる、少なくとも1つのアミノ酸残基が好適に改変される。また、例えば、配列番号:201で表されるヒト化グリピカン3抗体を構成するL鎖可変領域中の2、25、42、48、50、83、84番目のアミノ酸残基から選ばれる、少なくとも1つのアミノ酸残基が好適に改変される。前記のアミノ酸残基のうち、当該安定性の改変が施されたアミノ酸残基以外のアミノ酸残基は、所望のTm値が得られていれば改変される必要はないが、適宜、改変に供したヒト化グリピカン3抗体のTm値と同程度か、またはそれ以上のTm値を有するように適宜改変され得る。
【0083】
安定性の改変は、改変に供するヒト化抗体を構成する各アミノ酸残基をランダムに改変することにより実施され得る。また、改変に供するヒト化抗体を構成するアミノ酸配列の一部を、Tm値が高い既存の抗体を構成するアミノ酸配列であって、かつ、当該改変に供するヒト化抗体のアミノ酸配列の一部と抗体の立体構造相関の観点から対応する配列に置換することによっても実施され得る。置換されるアミノ酸残基の位置は限定されるものではないが、FR領域中のアミノ酸残基が好適に改変され得る。また、CDR領域中のアミノ酸残基であっても抗原への結合活性の減縮を伴わない限り、適切に改変され得る。また、改変されるアミノ酸残基の数は特に限定されず、FR領域の特定のセグメントを所望のセグメントに置換することによっても実施される。当該セグメントはFR領域のうち、FR1、FR2、FR3、FR4の各セグメントのすべてを改変することもできるし、また、一またはそれ以上の各セグメントの改変の組合せによっても実施され得る。
【0084】
FR領域のセグメントを改変する場合には、H鎖またはL鎖のFR2領域が好適な例として挙げられ得る。例えば、配列番号:195で表されるVH1bのサブクラスを有するヒト化グリピカン3抗体のH鎖のFR2をVH4のサブクラスへ改変するアミノ酸残基の改変、すなわち、37番目のバリンをイソロイシンに置換するV37I、同様にA40P、M48I、L51Iの改変が、好適な具体例として挙げられる。また、例えば、配列番号:201で表されるVK2のサブクラスを有するヒト化グリピカン3抗体のL鎖FR2領域のVK3のサブクラスへの改変、すなわち、L42Q、S48A、Q50Rの改変、さらにはFR1の生殖細胞系列の配列への改変に相当するV2Iの改変が、好適な具体例として挙げられる。
【0085】
抗体を構成するアミノ酸残基の置換、欠失、付加及び/又は挿入、並びにヒト化、キメラ化等のアミノ酸配列の改変は、いずれも当業者に公知の方法により好適に行われ得る。同様に、本発明が提供する抗体を組換抗体として作製する際に、抗体の可変領域及び定常領域を構成するアミノ酸残基の置換、欠失、付加及び/若しくは挿入が好適に行われうる。
【0086】
本発明における抗体はマウス抗体、ヒト抗体、ラット抗体、ウサギ抗体、ヤギ抗体、ラクダ抗体など、どのような動物由来の抗体も好適に使用される。さらに、例えば、キメラ抗体、中でもヒト化抗体等のように、そのアミノ酸配列が置換された改変抗体も好適に使用され得る。また、各種分子が結合された抗体修飾物も好適に使用され得る。
【0087】
「キメラ抗体」とは、異なる動物由来の配列を組み合わせて作製される抗体である。例えば、マウス抗体のH鎖、L鎖の可変(V)領域とヒト抗体のH鎖、L鎖の定常(C)領域から構成される抗体が好適に例示され得る。キメラ抗体の作製方法は公知である。例えば、抗体V領域をコードするDNAとヒト抗体C領域をコードするDNAとをインフレームで融合した組換DNAが、通常用いられる発現ベクターに組み込まれる。当該ベクターが導入された宿主細胞を培養することによって、その培養液からキメラ抗体が適宜取得または単離され得る。
【0088】
ヒト化抗体は、再構成(reshaped)ヒト抗体とも称され、ヒト以外の哺乳動物、例えばマウス等から単離される抗体の相補性決定領域(CDR;complementary determining region)とヒト抗体のフレームワーク領域(FR;framework region)とが連結されている抗体である。ヒト化抗体をコードするDNA配列は、複数個のオリゴヌクレオチドを鋳型として用いたオーバーラップPCR反応により合成され得る。オーバーラップPCR反応の材料、その実施方法は、WO98/13388等に記載されている。本発明のヒト化抗体の可変領域をコードするDNAは、互いにオーバーラップするヌクレオチド配列を有するように作製した複数個のオリゴヌクレオチドからオーバーラップPCRによって得られ、これはヒト抗体定常領域をコードするDNAとインフレームでコドン配列が形成されるように連結される。前記の様に連結されたDNAは、次いで発現ベクターに当該DNAが発現する様に挿入されて、宿主に導入される。
【0089】
CDRを同定するための方法は公知である(Kabat et al., Sequence of Proteins of Immunological Interest (1987), National Institute of Health, Bethesda, Md.; Chothiaet al., Nature (1989) 342, 877)。また、その一般的な遺伝子組換手法も公知である(欧州特許出願公開番号EP 125023号公報、WO 96/02576 号公報参照)。これらの公知の方法を用いることによって、例えば、マウス抗体等の非ヒト動物から取得された抗体のCDRが決定された後に、当該CDRとヒト抗体のFRとが連結された組換抗体をコードするDNAが構築される。CDRを介して連結されるヒト抗体のFRは、CDRが良好な抗原結合部位を形成するように選択される。必要であれば、再構成ヒト抗体のCDRが適切な抗原結合部位を形成するように、抗体の可変領域におけるFRのアミノ酸残基が適宜改変され得る(Sato et al., Cancer Res.(1993) 53, 851-6)。改変に供するFR中のアミノ酸残基としては、抗原に対して非共有結合により直接結合する残基(Amit et al., Science (1986) 233, 747-53)、CDR構造に影響または作用する残基(Chothia et al., J. Mol. Biol. (1987) 196, 901-17)及びVH-VL相互作用に関連する残基(EP239400号特許公報)が含まれる。
【0090】
当該DNAが挿入された通常使用される発現ベクターによって形質転換または形質導入された宿主細胞が産生する、当該DNAがコードするヒト化抗体は、当該宿主細胞を培養することによって、当該培養液から単離される。
【0091】
本発明が提供する抗体が抗体、ヒト化抗体またはヒト抗体である場合には、当該抗体のC領域としてヒト抗体由来のC領域が好適に使用される。例えばH鎖C領域としては、Cγ1、Cγ2、Cγ3、Cγ4が、L鎖C領域としては、Cκ、Cλがそれぞれ好適に使用され得る。また、抗体またはその産生の安定性を改善するために、ヒト抗体C領域が適宜修飾され得る。本発明が提供するキメラ抗体は、ヒト以外の哺乳動物から取得される抗体のV領域とヒト抗体のC領域によって好適に構成される。一方、ヒト化抗体は、好ましくはヒト以外の哺乳動物から取得される抗体のCDRと、ヒト抗体のFRおよびC領域によって好適に構成される。また、ヒト抗体は、ヒトから取得される抗体のCDRと、ヒト抗体のFRおよびC領域によって好適に構成される。ヒト抗体のC領域は、IgG(IgG1、IgG2、IgG3、IgG4)、IgM、IgA、IgD及びIgE等のアイソタイプに対応する固有のアミノ酸配列から構成される。本発明が提供するヒト化抗体のC領域として、いずれのアイソタイプに属する抗体のC領域も好適に用いられる。好ましくは、ヒトIgGのC領域が用いられるが、これに限定されるものではない。また、ヒト化抗体またはヒト抗体のFRとして利用されるヒト抗体のFRも特に限定されるものではなく、いずれのアイソタイプに属する抗体のFRも好適に用いられる。
【0092】
免疫原性の低下を目的として、非特許文献(Ono K, Ohtomo T, Yoshida K, Yoshimura Y, Kawai S, Koishihara Y, Ozaki S, Kosaka M, Tsuchiya M., The humanized anti-HM1.24 antibody effectively kills multiple myeloma cells by human effector cell-mediated cytotoxicity., Mol Immunol. (1999) 36(6), 387-395)で記載される方法と類似の方法を用いることによってFR領域を構成するアミノ酸残基の全部または一部を生殖細胞系列の配列に置換することも適用され得る。生殖細胞系列の配列は免疫原性が低いであろうという合理的予測に基づいて、ヒト化抗体のFR領域を構成するアミノ酸配列が生殖細胞系列のアミノ酸配列とアラインメントすることにより比較される(Abhinandan K. R. and Martin C. R., J. Mol. Biol., (2007) 369, 852-862)。抗原に対する結合活性を失わない範囲において、当該比較において異なるヒト化抗体のFR領域を構成するアミノ酸残基が、生殖細胞系列の配列におけるアミノ酸残基に置換され得る。具体的な例としては配列番号:195に表されるH鎖可変領域を構成するアミノ酸残基のうち、70番目のLをIに、87番目のTをRに、97番目のTをAに置換する改変等が挙げられる。また、配列番号:201に表されるL鎖可変領域を構成するアミノ酸残基のうち、25番目のSをAに置換する改変等が挙げられる。
【0093】
本発明が提供する改変されたキメラ抗体、ヒト化抗体及びヒト抗体の可変領域及び定常領域は、抗原に対する結合特異性を示す限り、改変に供された抗体の可変領域及び定常領域を構成する一またはそれ以上のアミノ酸の欠失、置換、挿入及び/または付加等が好適に施され得る。
【0094】
ヒト由来の配列を利用したキメラ抗体、ヒト化抗体及びヒト抗体は、ヒト体内における免疫原性が低下しているため、治療目的などでヒトに投与する治療用抗体として使用される場合に有用と考えられる。
【0095】
本発明の方法における変異導入前の抗体のH鎖又はL鎖をコードする遺伝子の配列としては、既知の配列が用いられ得るし、その他には、当業者に公知の方法によって、抗体遺伝子の新規な配列が取得され得る。当該遺伝子は、例えば、抗体ライブラリーから好適に取得され得る。更に、当該遺伝子はモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマのmRNAを鋳型として用いたRT-PCR法等の公知の手法を用いてクローニングすることによっても取得され得る。
【0096】
抗体ライブラリーについては既に多くの抗体ライブラリーが公知である。また、抗体ライブラリーの作製方法も公知であるため、当業者は適宜抗体ライブラリーを入手または作製することができる。例えば、好適な抗体ライブラリーとして、Clackson et al., Nature (1991) 352, 624-8、Marks et al., J. Mol. Biol. (1991) 222, 581-97、Waterhouseset al., Nucleic Acids Res. (1993) 21, 2265-6、Griffiths et al., EMBO J. (1994) 13, 3245-60、Vaughan et al., Nature Biotechnology (1996) 14, 309-14、及び特表平20-504970号公報等の文献によって開示された抗体ファージライブラリーが例示される。その他、真核細胞においてライブラリーを作製する方法(WO95/15393号パンフレット)やリボソーム提示法等の公知の方法が好適に用いられる。さらに、ヒト抗体ライブラリーを出発材料に用いて、パンニングによってヒト抗体を取得する技術が当業者において知られている。すなわち、ヒト抗体のH鎖およびL鎖の可変領域がインフレームで融合された一本鎖抗体(scFv)がファージディスプレイ法によってファージの表面に発現される。抗原に対して結合したファージを選択することによって、抗原に結合するscFvをコードする遺伝子が当該ファージから単離される。当該遺伝子の配列を同定することによって、抗原に結合する抗体のH鎖およびL鎖の可変領域をコードするDNAの配列が決定され得る。当該配列を有する抗体遺伝子は適宜発現ベクターに挿入され、後述するような適切な宿主細胞中で発現することによって、ヒト抗体が適宜取得される。これらの方法は既に周知であり、WO92/01047、WO92/20791、WO93/06213、WO93/11236、WO93/19172、WO95/01438、WO95/15388に開示された方法が例示される。
【0097】
モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマから抗体をコードする遺伝子を取得する方法は、基本的には公知技術が採用され得る。以下に詳述するが、簡単には、通常の免疫方法にしたがって所望の感作抗原によって動物が免疫された後に、当該動物より得られる免疫細胞が、通常の細胞融合法による公知の親細胞との細胞融合に供与される。通常のスクリーニング法にしたがって、モノクローナルな抗体産生細胞(ハイブリドーマ)がスクリーニングされ、選択されたハイブリドーマから取得されたmRNAを鋳型として用いて抗体の可変領域(V領域)のcDNAが逆転写酵素によって合成される。当該cDNAを所望の抗体定常領域(C領域)をコードするDNAとインフレームで融合することによって抗体遺伝子が好適に取得される。
【0098】
より具体的には、以下のような例示が好適に挙げられるが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。本発明によって提供される抗体を得るために使用される感作抗原は、免疫原性を有する完全抗原であってもよいし、免疫原性を示さないハプテン等を含む不完全抗原であってもよい。例えば、全長タンパク質、又はその部分ポリペプチドもしくはペプチドなどが好適に用いられ得る。配列番号:207で表される可溶型GPC3コアポリペプチドはその好適な具体例として挙げられる。その他、多糖類、核酸、脂質等から構成される物質もまた抗原として作用することが知られており、本発明の抗体が結合する抗原は上述の物質の態様に特に限定されるものではない。抗原の調製は、当業者に公知の方法により好適に行われ、例えば、バキュロウィルスを用いた方法(例えば、WO98/46777等)等が好適に用いられ得る。抗原の免疫原性が低い場合には、アルブミン等の免疫原性を有する巨大分子に結合された当該抗原によって動物が好適に免疫され得る。また、感作抗原が細胞膜を貫通する分子である場合には、必要であれば、当該分子の細胞外領域のポリペプチド断片が感作抗原として好適に用いられる。もしくは、当該分子を細胞表面上に発現する細胞を感作抗原として好適に使用され得る。さらに、感作抗原が不溶性の分子である場合には、当該分子を他の水溶性分子と結合することによって可溶化し、当該可溶化した結合分子が感作抗原として好適に用いられる。
【0099】
抗体産生細胞は、前記の適切な感作抗原を用いて動物が免疫されることによって好適に得られる。または、抗体を産生することができるリンパ球をin vitroで免疫することによって、抗体産生細胞が取得され得る。免疫される動物としては、各種の脊椎動物、哺乳動物が使用され得る。特に、ゲッ歯目、ウサギ目、霊長目の動物が免疫される動物として一般的に用いられる。マウス、ラット、ハムスター等のゲッ歯目、ウサギ等のウサギ目、カニクイザル、アカゲザル、マントヒヒ、チンパンジー等のサル等の霊長目の動物が例示される。その他、ヒト抗体遺伝子のレパートリーをそのゲノム上に保持するトランスジェニック動物も知られており、このような動物を使用することによりヒト抗体が好適に得られる(WO96/34096; Mendez et al., Nat. Genet. (1997) 15, 146-56参照)。このようなトランスジェニック動物の使用に代えて、例えば、ヒトリンパ球がin vitroで所望の抗原または所望の抗原を発現する細胞によって感作された後に、ヒトミエローマ細胞、例えばU266と細胞融合されることによって、当該抗原への結合活性を有する所望のヒト抗体が好適に得られる(特公平1-59878号公報参照)。また、ヒト抗体遺伝子の全てのレパートリーをそのゲノム上に保持するトランスジェニック動物が所望の抗原で免疫されることによって(WO93/12227、WO92/03918、WO94/02602、WO96/34096、WO96/33735参照)所望のヒト抗体が好適に取得され得る。
【0100】
動物の免疫は、例えば、感作抗原がPhosphate-Buffered Saline(PBS)または生理食塩水等で適宜希釈、懸濁され、必要であればアジュバントと混合することによって乳化された後、当該感作抗原が動物の腹腔内または皮下に注射することによって実施される。その後、好ましくは、フロイント不完全アジュバントと混合した感作抗原が4~21日毎に数回投与される。免疫された動物中における感作抗原に対する抗体の産生の確認は、感作抗原に対する当該動物の血清中の抗体力価を慣用の方法、例えば、酵素結合免疫吸着分析(ELISA)、フローサイトメトリー(FACS)等の公知の分析法によって測定することにより実施され得る。
【0101】
ハイブリドーマは、所望の感作抗原で免疫された動物またはリンパ球より得られた抗体産生細胞を、細胞融合のために慣用される融合剤(例えば、ポリエチレングリコール)を使用してミエローマ細胞と融合することによって作製され得る(Goding, Monoclonal Antibodies: Principles and Practice, Academic Press, (1986) 59-103)。ハイブリドーマの作製は、たとえば、ミルステインらの方法(G. Kohler and C. Milstein, Methods Enzymol. (1981) 73, 3-46)等に従って好適に行われ得る。前記の方法により作製されたハイブリドーマ細胞を培養・増殖することによって、当該ハイブリドーマによって産生された抗原タンパク質に特異的に結合するモノクローナル抗体が取得される。免疫沈降、放射免疫分析(RIA)、酵素結合免疫吸着分析(ELISA)、フローサイトメトリー(FACS)等の公知の分析法によって、当該モノクローナル抗体の抗原タンパク質に対する結合特異性が適宜測定され得る。その後、必要であれば、所望の特異性、結合活性または活性が測定された抗体を産生するハイブリドーマが、限界希釈法等の手法により好適にサブクローニングされ、当該ハイブリドーマによって産生されたモノクローナル抗体が単離され得る。
【0102】
続いて、選択された抗体をコードする遺伝子が上述のハイブリドーマまたは抗体産生細胞(感作リンパ球等)から、当該遺伝子に特異的に結合し得るプローブ(例えば、抗体定常領域をコードする配列に相補的なオリゴヌクレオチド等)を用いてクローニングされ得る。また、ハイブリドーマまたは抗体産生細胞(感作リンパ球等)から取得されたmRNAを鋳型として用いるRT-PCR法によってクローニングされ得る。免疫グロブリンは、その構造および機能の相違に基づいて、IgA、IgD、IgE、IgG及びIgMの5つの異なるクラスに分類される。さらに、各クラスは幾つかのアイソタイプ(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、及びIgG4;IgA1及びIgA2等)に分類される。本発明によって提供される抗体は、これらいずれのクラス及びサブクラスに属する抗体に由来するものであってもよく、いずれかのクラス及びサブクラスに特に限定されるものではないが、IgGクラスに属する抗体は特に好ましいものとして挙げられる。
【0103】
抗体のH鎖及びL鎖を構成するアミノ酸配列をコードする遺伝子は、遺伝子工学的手法により適宜改変され得る。例えば、マウス抗体、ラット抗体、ウサギ抗体、ハムスター抗体、ヒツジ抗体、ラクダ抗体等の抗体を構成するアミノ酸配列をコードする核酸残基を改変することによって、ヒトに対する異種抗原性を低下させること等を目的とする人為的改変が施された遺伝子組換抗体、例えば、キメラ抗体、ヒト化抗体等が適宜作製され得る。キメラ抗体は、ヒト以外の哺乳動物、例えば、マウス由来の抗体のH鎖、L鎖の可変領域とヒト抗体のH鎖、L鎖の定常領域から構成される抗体であり、例えば、マウスから由来する抗体の可変領域をコードするDNAをヒト抗体の定常領域をコードするDNAと連結し、これを発現ベクターに組み込んだ組換ベクターを宿主に導入した後に発現することにより得ることができる。ヒト化抗体は、再構成(reshaped)ヒト抗体とも称されるが、ヒト以外の哺乳動物、例えばマウス等から単離される抗体の相補性決定領域(CDR; complementary determining region)とヒト抗体のフレームワーク領域とがインフレームでコドン配列が形成されるように連結された抗体である。このヒト化抗体をコードするDNA配列は、複数個のオリゴヌクレオチドを鋳型として用いたオーバーラップPCR反応により合成され得る。オーバーラップPCR反応の材料、その実施方法は、WO98/13388等に記載されている。
【0104】
本発明の遺伝子組換抗体の可変領域をコードするDNAは、互いにオーバーラップするヌクレオチド配列を有するように作製した複数個のオリゴヌクレオチドからオーバーラップPCRによって得られ、これはヒト抗体定常領域をコードするDNAとインフレームでコドン配列が形成されるように連結される。前記の様に連結されたDNAは、次いで発現ベクターに当該DNAが発現する様に挿入されて、宿主に導入される。当該DNAによってコードされた抗体は、当該宿主を培養することによって発現する。発現した抗体は、当該宿主の培養液等から適宜精製する(EP239400; WO96/02576参照)ことによって得られる。CDRを介して連結されるヒト化抗体のFRは、相補性決定領域が抗原に対する良好な抗原結合部位を形成するものが選択される。必要に応じ、再構成ヒト抗体の相補性決定領域が抗原に対する適切な抗原結合部位を形成するように選択された抗体の可変領域のFRを構成するアミノ酸残基が適宜置換することによって改変され得る(K. Sato et al., Cancer Res. (1993) 53, 851-856)。
【0105】
上述のヒト化に係る改変以外に、例えば、抗体が認識する抗原との結合活性等の抗体の生物学的特性を改善するための改変が実施され得る。本発明における改変は、部位特異的突然変異(例えば、Kunkel, Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1985) 82, 488参照)、PCR変異、カセット変異等の方法により好適に行われ得る。一般に、その生物学的特性が改善された改変抗体を構成するアミノ酸配列は、70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上(例えば、95%以上、97%、98%、99%等)の同一性及び/または類似性を、改変に供する抗体(すなわち、改変抗体の基礎とされた抗体)を構成するアミノ酸配列に対して有する。本明細書において、配列の同一性及び/または類似性とは、配列同一性が最大の値を取るように必要に応じ配列を整列化、及びギャップ導入した後、改変抗体の基礎とされた抗体を構成するアミノ酸残基と同一(同じ残基)または類似(一般的なアミノ酸の側鎖の特性に基づいて同じグループに分類されるアミノ酸残基)するアミノ酸残基の割合をいう。通常、天然のアミノ酸残基は、その側鎖の性質に基づいて(1)疎水性:アラニン、イソロイシン、バリン、メチオニン及びロイシン;(2)中性親水性:アスパラギン、グルタミン、システイン、スレオニン及びセリン;(3)酸性:アスパラギン酸及びグルタミン酸;(4)塩基性:アルギニン、ヒスチジン及びリジン;(5)鎖の配向に影響する残基:グリシンおよびプロリン;ならびに(6)芳香族性:チロシン、トリプトファン及びフェニルアラニンのグループに分類され得る。
【0106】
また、抗体の機能の増強を目的とする改変として、例えばヒト化抗体を始めとする抗体が発揮する細胞傷害活性の向上も具体的一態様として好適に挙げられる。細胞傷害活性としては、例えば抗体依存性細胞介在性細胞傷害(antibody-dependent cell-mediated cytotoxicity:ADCC)活性、補体依存性細胞傷害(complement-dependent cytotoxicity:CDC)活性などが好適な例として例示され得る。本発明において、CDC活性とは補体系による細胞傷害活性をいう。一方ADCC活性とは標的細胞の細胞表面抗原に特異的抗体が付着した際、そのFc部分にFcγ受容体保有細胞(免疫細胞等)がFcγ受容体を介して結合し、標的細胞に傷害を与える活性をいう。被験抗体がADCC活性を有するか否か、又はCDC活性を有するか否かは公知の方法により測定され得る(例えば、Current protocols in Immunology, Chapter7. Immunologic studies in humans, Editor, John E, Coligan et al., John Wiley & Sons, Inc.,(1993) 等)。
【0107】
具体的には、まず、エフェクター細胞、補体溶液、標的細胞の調製が実施される。
(1)エフェクター細胞の調製
CBA/Nマウスなどから脾臓を摘出し、RPMI1640培地(Invitrogen)中で脾臓細胞が分離される。10%ウシ胎児血清(FBS、HyClone)を含む同培地で洗浄後、細胞濃度を5x106細胞/mlに調製することによって、エフェクター細胞が調製され得る。
(2)補体溶液の調製
Baby Rabbit Complement(CEDARLANE)を10% FBS含有培地(Invitrogen)にて10倍希釈し、補体溶液が調製され得る。
(3)標的細胞の調製
被験抗体が結合する抗原タンパク質を発現する細胞を0.2 mCiの51Cr-クロム酸ナトリウム(GEヘルスケアバイオサイエンス)とともに、10% FBS含有DMEM培地中で37℃にて1時間培養することにより当該標的細胞が放射性標識され得る。被験抗体が結合する抗原タンパク質を発現する細胞としては、被験抗体が結合する抗原タンパク質をコードする遺伝子で形質転換された細胞、卵巣癌、前立腺癌、乳癌、子宮癌、肝癌、肺癌、膵臓癌、胃癌、膀胱癌、及び大腸癌細胞等が利用され得る。放射性標識後、当該細胞を10% FBS含有RPMI1640培地にて3回洗浄し、細胞濃度を2x105細胞/mlに調製することによって、当該標的細胞が調製され得る。
【0108】
ADCC活性、又はCDC活性は下記に述べる方法により測定され得る。ADCC活性の測定の場合は、96ウェルU底プレート(Becton Dickinson)に、標的細胞と、被験抗体を50 μlずつ加え、氷上にて15分間の反応が実施される。その後、エフェクター細胞100 μlが加えられた反応混合液は、炭酸ガスインキュベーター内で4時間インキュベートされる。被験抗体の終濃度は0まから10μg/mlの範囲内で適宜使用され得る。当該インキュベーションの後、100μlの上清が回収され、ガンマカウンター(COBRAII AUTO-GAMMA、MODEL D5005、Packard Instrument Company)で当該上清が有する放射活性が測定される。細胞傷害活性(%)は得られた放射活性の値を使用して(A-C) / (B-C) x 100の計算式に基づいて計算され得る。Aは各被検抗体の試料を用いた場合の放射活性(cpm)、Bは1% NP-40(nacalai tesque)を加えた試料を用いた場合の放射活性(cpm)、Cは標的細胞のみを含む試料を用いた場合の放射活性(cpm)を示す。
【0109】
一方、CDC活性の測定の場合は、96ウェル平底プレート(Becton Dickinson)に、標的細胞と、被験抗体を50 μlずつが加えられ、氷上にて15分間の反応が実施される。その後、補体溶液100 μlが加えられた反応混合液は、炭酸ガスインキュベーター内で4時間インキュベートされる。被験抗体の終濃度は0から3 μg/mlの範囲内で適宜使用され得る。培養後、100 μlの上清が回収され、ガンマカウンターで当該上清が有する放射活性が測定される。細胞傷害活性はADCC活性の測定と同様にして計算され得る。
【0110】
一方、抗体コンジュゲートによる細胞傷害活性の測定の場合は、96ウェル平底プレート(Becton Dickinson)に、標的細胞と、被験抗体コンジュゲートを50 μlずつが加えられ、氷上にて15分間の反応が実施される。当該プレートは炭酸ガスインキュベーター内で1から4時間インキュベートされる。抗体の終濃度は0から3 μg/mlの範囲内で適宜使用され得る。培養後、100 μlの上清が回収され、ガンマカウンターで当該上清が有する放射活性が測定される。細胞傷害活性はADCC活性の測定と同様にして計算され得る。
【0111】
抗体のH鎖およびL鎖の可変領域は、上述のように、通常3つのCDRと4つのFRによって構成されている。本発明の好ましい態様において「改変」に供するアミノ酸残基としては、例えば、CDRあるいはFRを構成するアミノ酸残基の中から適宜選択され得る。
【0112】
また、当業者であれば、抗体の可変領域のFRを構成するアミノ酸配列であって、ヒトもしくはマウス等の生物において実在する配列を、Kabat等の公共のデータベース等を利用して好適に取得することができる。
【0113】
本発明の好ましい態様においては、本発明の方法によって血漿中薬物動態が制御されたヒト化抗体を提供する。当該ヒト化抗体は、例えば、ヒト以外の動物由来の相補性決定領域(CDR)、ヒト由来のフレームワーク領域(FR)およびヒトC領域を含むヒト化抗体であって、CDRまたはFRにおいて抗体表面に露出され得る少なくとも一つのアミノ酸残基が元の抗体のCDRまたはFRの対応する位置のアミノ酸残基とは異なる電荷を有するアミノ酸残基であり、同じC領域を有するキメラ抗体に比べて血漿中薬物動態が制御されたヒト化抗体である。
【0114】
さらに本発明の好ましい態様においては、本発明の方法によって血漿中薬物動態が制御されたヒト抗体を提供する。当該ヒト抗体は、例えば、ヒト由来の相補性決定領域(CDR)、ヒト由来のフレームワーク領域(FR)およびヒトC領域を含むヒト抗体であって、CDRまたはFRにおいて抗体表面に露出され得る少なくとも一つのアミノ酸残基が元の抗体のCDRまたはFRの対応する位置のアミノ酸残基とは異なる電荷を有するアミノ酸残基であり、同じC領域を有するキメラ抗体に比べて血漿中薬物動態が制御されたヒト抗体である。
【0115】
上記ヒト定常領域とは、好ましくは、野生型のヒトFc領域を含む領域をいうが、改変されたFcも好適に使用され得る。前記の「改変されたFc」としては、当該Fcを構成するアミノ酸残基が改変されたものも含まれ得るし、また、当該Fc部分に施された修飾が改変されたものも含まれ得る。当該Fc部分に付加された糖鎖修飾の様式を改変することが、前記の修飾の改変の具体例として好適に挙げられる。本明細書において、参考実施例として具体的に開示される「抗体のFc領域に結合したフコース含量が低下した抗体」がそのような好適な具体例として挙げられる。
【0116】
「抗体Fc領域に結合したフコース含量が低下した抗体」とは、対照とする抗体と比較した場合に、結合しているフコース量が有意に少なく、好ましくは検出できない抗体をいう。通常は、抗体1分子を構成する2分子のH鎖のFc領域に存在する2箇所の糖鎖結合部位に結合したN-グリコシド結合糖鎖にフコースが付加される。本発明において「抗体Fc領域に結合したフコース含量が低下した抗体」とは、こうした通常の抗体を対照として比較した場合において、対照抗体が有する総糖鎖含量の50%以下、好ましくは25%以下、さらに好ましくは10%以下、特に好ましくは0%以下のフコース含量を有する抗体をいう。フコース含量は、下記に参考実施例として具体的に示す解析方法を用いて測定することができる。当該フコース含量が低下した抗体の作製方法は、本願発明の参考実施例として記載するほか、例えば、フコシルトランスフェラーゼを欠失した動物細胞により作製する方法(Biotechnol Bioeng. (2004), 87(5), 614-22)、複合分岐糖鎖修飾が改変された動物細胞により作製する方法(Biotechnol Bioeng. (2006) 93(5), 851-61)等が好適にその例示として挙げられ得る。また、動物細胞以外の細胞を宿主細胞として作製する方法としては、植物細胞により作製する方法(Nature Biotechnology (2006) 24, 1591-7)または酵母細胞により作製する方法(Nature Biotechnology (2006) 24, 210-5)等も好適に挙げられ得る。
【0117】
本発明の製造方法の好ましい態様としては、等電点が改変された抗体可変領域を含むポリペプチドの製造方法であって、
(a)当該ポリペプチドのCDR領域の表面に露出し得る少なくとも1つのアミノ酸残基の電荷が変換するように、当該アミノ酸残基を含むポリペプチドをコードする核酸を改変し、
(b)宿主細胞を当該核酸が発現するように培養し、
(c)宿主細胞培養物からする抗体可変領域を含むポリペプチドを回収することを含む方法である。
また本発明の製造方法の好ましい態様としては、血漿中薬物動態が制御された抗体可変領域を含むポリペプチドの製造方法であって、
(a)当該ポリペプチドのCDR領域の表面に露出し得る少なくとも1つのアミノ酸残基の電荷が変換するように、当該アミノ酸残基を含むポリペプチドをコードする核酸を改変し、
(b)宿主細胞を当該核酸が発現するように培養し、
(c)宿主細胞培養物からする抗体可変領域を含むポリペプチドを回収することを含む方法である。
さらに当該方法によって製造される血漿中薬物動態が制御された抗体の可変領域を含むポリペプチドも本発明に含まれる。
【0118】
また本発明は、抗体の可変領域を有する第1のポリペプチドおよび第2のポリペプチドを含む多重特異性ポリペプチドの製造方法を提供する。さらに本発明は、当該方法によって製造される多重特異性ポリペプチドを提供する。本発明の製造方法の好ましい態様としては、第1のポリペプチドと第2のポリペプチドの等電点の差が増大するように第1のポリペプチドのアミノ酸残基をコードする核酸および第2のポリペプチドのアミノ酸残基をコードする核酸の両方またはいずれか一方を改変することを含む方法である。即ち、第1のポリペプチドと第2のポリペプチドのアミノ酸残基の電荷を変えることによって、ポリペプチドに等電点(pI)の差異を増大させ、当該等電点の差異を利用して多重特異性抗体を製造することができる。詳しくは以下の(a)~(c)の工程を含む製造方法である。
(a)第1のポリペプチドと第2のポリペプチドのCDR領域の表面に露出し得る少なくとも1つのアミノ酸残基の電荷が改変するように、当該アミノ酸残基を含むポリペプチドをコードする核酸を改変することを含み、当該核酸の改変が、改変前と比較して、第1のポリペプチドと第2のポリペプチドの等電点の差が増大するように第1のポリペプチドのアミノ酸残基をコードする核酸および第2のポリペプチドのアミノ酸残基をコードする核酸の両方またはいずれか一方を改変し、
(b)宿主細胞を該核酸が発現するように培養し、
(c)宿主細胞培養物から多重特異性抗体を回収すること
【0119】
本発明におけるポリペプチドとは、通常、10アミノ酸程度以上の長さを有するペプチド、およびタンパク質を指す。また、通常、生物由来のポリペプチドであるが、特に限定されず、例えば、人工的に設計された配列からなるポリペプチドであってもよい。また、天然ポリペプチド、あるいは合成ポリペプチド、組換えポリペプチド等のいずれであってもよい。さらに、上記のポリペプチドの断片もまた、本発明のポリペプチドに含まれる。
本発明において「抗体の可変領域を有する第1のポリペプチドおよび第2のポリペプチドを含む多重特異性ポリペプチド」とは、少なくとも2種以上の異なる抗原もしくは同一抗原内の異なるエピトープに結合する抗体の可変領域を含むポリペプチドであって、抗体の可変領域を含むポリペプチドについては上記の通り、例えば抗体、低分子化抗体、Scaffold蛋白質等が含まれる。
【0120】
本発明において「ポリペプチドの等電点の差が増大する」とは、2種以上のポリペプチドにおいて、表面アミノ酸の電荷の改変を行うことにより、互いの等電点が等しくならないこと、または、2種以上のポリペプチド間の等電点差をより大きくすることをいう。等電点の差は、例えば、等電点電気泳動等の手法を用いることにより観察することができる。また本発明においては、当該ポリペプチドの構造や機能(活性)を保持しつつ等電点を制御することが好ましい。
【0121】
即ち本発明は、抗体の可変領域を有する第1のポリペプチドおよび第2のポリペプチドを含む多重特異性ポリペプチドの製造方法であって、
(a)第1のポリペプチドと第2のポリペプチドの等電点の差が1.0以上、好ましくは1.2以上、更に好ましくは1.5以上となるように、CDR領域の表面に露出し得る少なくとも1つのアミノ酸残基の電荷が改変するように第1のポリペプチドのアミノ酸残基をコードする核酸および第2のポリペプチドのアミノ酸残基をコードする核酸の両方またはいずれか一方を改変し、
(b)宿主細胞を該核酸が発現するように培養し、
(c)宿主細胞培養物から多重特異性抗体を回収すること、を含む多重特異性抗体の製造方法を提供する。
【0122】
また本発明は、抗体の可変領域を有する第1のポリペプチドおよび第2のポリペプチドを含む多重特異性ポリペプチドを精製するための多重特異性ポリペプチドの改変方法を提供する。本発明の精製方法の好ましい態様としては、第1のポリペプチドと第2のポリペプチドの等電点の差が増大するように第1のポリペプチドのアミノ酸残基をコードする核酸および第2のポリペプチドのアミノ酸残基をコードする核酸の両方またはいずれか一方を改変することを含む方法である。即ち、第1のポリペプチドと第2のポリペプチドのアミノ酸残基の電荷を変えることによって、ポリペプチドに等電点(pI)の差異を導入し、当該等電点の差異を利用して多重特異性抗体を精製することができる。詳しくは以下の(a)~(c)の工程を含む精製方法である。
(a)第1のポリペプチドと第2のポリペプチドのCDR領域の表面に露出し得る少なくとも1つのアミノ酸残基の電荷が改変するように、当該アミノ酸残基を含むポリペプチドをコードする核酸を改変することを含み、当該核酸の改変が、改変前と比較して、第1のポリペプチドと第2のポリペプチドの等電点の差が増大するように第1のポリペプチドのアミノ酸残基をコードする核酸および第2のポリペプチドのアミノ酸残基をコードする核酸の両方またはいずれか一方を改変し、
(b)宿主細胞を該核酸が発現するように培養し、
(c)宿主細胞培養物から標準的なクロマトグラフィーにより該多重特異性抗体を精製すること
【0123】
なお、上記精製方法により精製する工程を含む多重特異性抗体の製造方法も本発明に含まれる。
【0124】
本発明の上記方法において「核酸を改変する」とは、本発明における「改変」によって導入されるアミノ酸残基に対応するコドンとなるよう核酸配列を改変することをいう。より具体的には、改変前のアミノ酸残基に相当するコドンを、改変によって導入されるアミノ酸残基のコドンになるように、改変に供するコドンを構成する核酸を改変することを言う。通常、目的のアミノ酸残基をコードするコドンとなるように、コドンを構成する核酸の少なくとも1塩基を置換するような遺伝子操作もしくは変異処理を行うことを意味する。即ち、改変に供するアミノ酸残基をコードするコドンは、改変によって導入されるアミノ酸残基をコードするコドンによって置換される。このような核酸の改変は、当業者においては公知の技術、例えば、部位特異的変異誘発法、PCR変異導入法等を用いて、適宜実施することが可能である。
【0125】
また、本発明における核酸は、通常、適当なベクターへ保持(挿入)され、宿主細胞へ導入される。当該ベクターとしては、挿入した核酸を安定に保持するものであれば特に制限されず、例えば宿主に大腸菌を用いるのであれば、クローニング用ベクターとしてはpBluescriptベクター(Stratagene)などが好ましいが、市販の種々のベクターが利用可能である。本発明のポリペプチドを生産するためにベクターが用いられる場合には、特に発現ベクターが有用である。発現ベクターとしては、試験管内、大腸菌内、培養細胞内、生物個体内でポリペプチドを発現するベクターであれば特に制限されるものではなく、例えば、試験管内発現であればpBESTベクター(プロメガ)、大腸菌であればpETベクター(Invitrogen)、培養細胞であればpME18S-FL3ベクター(GenBank Accession No. AB009864)、生物個体であればpME18Sベクター(Mol Cell Biol.(1988) 8, 466-472)などが好ましい。ベクターへの本発明のDNAの挿入は、常法により、例えば、制限酵素サイトを用いたリガーゼ反応により好適に行われ得る(Current protocols in Molecular Biology edit. Ausubel et al. (1987) Publish. John Wiley & Sons.Section 11.4-11.11)。
【0126】
上記宿主細胞としては特に制限はなく、目的に応じて種々の宿主細胞が用いられる。ポリペプチドを発現させるための細胞としては、例えば、細菌細胞(例:ストレプトコッカス、スタフィロコッカス、大腸菌、ストレプトミセス、枯草菌)、真菌細胞(例:酵母、アスペルギルス)、昆虫細胞(例:ドロソフィラS2、スポドプテラSF9)、動物細胞(例:CHO、COS、HeLa、C127、3T3、BHK、HEK293、Bowes メラノーマ細胞)および植物細胞を例示することができる。宿主細胞へのベクター導入は、例えば、リン酸カルシウム沈殿法、電気パルス穿孔法(Current protocols in Molecular Biology edit. Ausubel et al. (1987) Publish. John Wiley & Sons.Section 9.1-9.9)、リポフェクション法、マイクロインジェクション法などの公知の方法で行うことが可能である。
【0127】
宿主細胞において発現したポリペプチド(抗体)を小胞体の内腔に、細胞周辺腔に、または細胞外の環境に分泌させるために、適当な分泌シグナルが目的の抗体に好適に組み込まれ得る。これらのシグナルは目的のポリペプチド(抗体)に特有の内因性シグナル、または、異種シグナルが好適に利用され得る。
【0128】
上記製造方法におけるポリペプチド(抗体)の回収は、本発明のポリペプチド(抗体)が培地に分泌される場合は、培地の回収によって実施される。本発明の抗体が細胞内に産生される場合は、その細胞がまず溶解され、その後に抗体が回収される。
【0129】
組換細胞培養物から回収された本発明の抗体の精製のためには、硫酸アンモニウムまたはエタノール沈殿、酸抽出、アニオンまたはカチオン交換クロマトグラフィー、ホスホセルロースクロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィーおよびレクチンクロマトグラフィーを含めた公知の方法が好適に用いられ得る。
【0130】
本発明において、核酸を改変するポリペプチドは、好ましくは、第1のポリペプチドのホモ多量体、第2のポリペプチドのホモ多量体、および第1のポリペプチドと第2のポリペプチドのヘテロ多量体である。第1のポリペプチドのホモ多量体、第2のポリペプチドのホモ多量体、および第1のポリペプチドと第2のポリペプチドのヘテロ多量体としては、実施例に記載のものが挙げられるがこれらに限定されない。
【0131】
本発明における標準的なクロマトグラフィーとしては、陽イオン交換クロマトグラフィー、陰イオン交換クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、ハイドロキシアパタイトクロマトグラフィー、疎水電荷相互作用クロマトグラフィー、クロマトフォーカシング等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0132】
本発明の上記方法において、第1のポリペプチドおよび第2のポリペプチドは、重鎖可変領域(VH)を含んでいることが好ましい。該可変領域には、例えば相補性決定領域(CDR)、フレームワーク領域(FR)が含まれていてもよい。
【0133】
さらに本発明の上記方法においては、多重特異性ポリペプチドの可変領域が、軽鎖可変領域を含んでいることが好ましい。
【0134】
さらに本発明の上記方法において、第1のポリペプチドおよび第2のポリペプチドは、重鎖定常領域を含んでいることが好ましい。重鎖定常領域としては、第1のポリペプチドと第2のポリペプチドにpI差が生じるものがより好ましい。そのような重鎖定常領域としては、pI差を有する抗体の重鎖定常領域が挙げられ、元来pIに差のあるIgG1、IgG2、IgG3、IgG4の重鎖定常領域を用いて第1と第2のポリペプチドにpI差を導入することもできるし、第1と第2のポリペプチド中の重鎖定常領域における、これらサブクラス間の等電点の違いに起因するアミノ酸のみ、あるいはそれらの等電点には影響しない隣接するアミノ酸を同時に改変することにより非野生型ヒト定常領域を作製し、2つの定常領域にpI差を導入することもできる。定常領域にpI差を導入するための改変箇所としては、例えばH鎖定常領域のEUナンバリングで、H鎖137番目、196番目、203番目、214番目、217番目、233番目、268番目、274番目、276番目、297番目、355番目、392番目、419番目、435番目が挙げられる。
また、重鎖定常領域の糖鎖を除去することによりpI差が生じることから、糖鎖付加部位の297番目もpI鎖を導入するための改変箇所として挙げられる。
また本発明には、上記第1のポリペプチドおよび第2のポリペプチドが重鎖定常領域を含む方法に対して、上述の第1のポリペプチドおよび第2のポリペプチドが重鎖可変領域を含む方法、および/または前記多重特異性抗体が軽鎖可変領域を含む第3のポリペプチドを含み、前記第1のポリペプチドおよび前記第2のポリペプチドがそれぞれ該第3のポリペプチドと多量体を形成する方法とを組み合わせた方法も含まれる。
【0135】
さらに上記方法によって製造される多重特異性ポリペプチドも本発明に含まれる。
【0136】
さらに本発明によって提供される多重特異性抗体における第1のポリペプチドが重鎖可変領域を含んでいる場合には、上記「等電点の差が増大するよう」にするために、例えば該重鎖可変領域におけるKabatナンバリングによる31位、61位、62位、64位および65位のアミノ酸残基から選ばれる、少なくとも1つのアミノ酸残基が電荷を有するようにする態様を挙げることができる。また、軽鎖可変領域を含んでいる場合には、上記「等電点の差が増大するよう」にするために、例えば該軽鎖可変領域におけるKabatナンバリングによる24位、27位、53位、54位および55位のアミノ酸残基から選ばれる、少なくとも1つのアミノ酸残基が電荷を有するようにする態様を挙げることができる。上記のナンバリングで示された第1のポリペプチドのアミノ酸残基のうち、当該電荷を有するアミノ酸残基以外のアミノ酸残基は、第1のポリペプチドと第2のポリペプチドの等電点に差がついていれば、当該電荷を有するアミノ酸残基と同種の電荷であっても良いし、電荷を有していなくても、反対の電荷であっても良い。
【0137】
本発明の上記多重特異性抗体は、好ましくは、第2のポリペプチドが、第1のポリペプチドの電荷を有するアミノ酸残基とは反対の電荷を有する、または電荷を有しないことを特徴とする。詳しくは、第2のポリペプチドが重鎖可変領域を含み、該重鎖可変領域におけるKabatナンバリングによる31位、61位、62位、64位および65位のアミノ酸残基から選ばれる、少なくとも1つのアミノ酸残基が、前記第1のポリペプチドに含まれる可変領域において選ばれる、電荷を有するようにするアミノ酸残基とは反対の電荷を有する、または電荷を有しない、多重特異性抗体である。また、軽鎖可変領域を含む場合には、該軽鎖可変領域におけるKabatナンバリングによる24位、27位、53位、54位および55位のアミノ酸残基から選ばれる、少なくとも1つのアミノ酸残基が、前記第1のポリペプチドに含まれる可変領域において選ばれる、電荷を有するようにするアミノ酸残基とは反対の電荷を有する、または電荷を有しない、多重特異性抗体である。上記のナンバリングで示された第2のポリペプチドのアミノ酸残基のうち、当該電荷を有するアミノ酸残基以外のアミノ酸残基は、第1のポリペプチドと第2のポリペプチドの等電点に差がついていれば、当該電荷を有するアミノ酸残基と同種の電荷であっても良いし、電荷を有していなくても、反対の電荷であっても良い。
【0138】
さらに多重特異性抗体が抗体の定常領域を含む場合に、その等電点を低下させるためには、例えば、137位はIgG2またはIgG4の配列、196位はIgG1またはIgG2またはIgG4の配列、203位はIgG2またはIgG4の配列、214位はIgG2の配列、217位はIgG1またはIgG3またはIgG4の配列、233位はIgG1またはIgG3またはIgG4の配列、268位はIgG4の配列、274位はIgG2またはIgG3またはIgG4の配列、276位はIgG1またはIgG2またはIgG4の配列、355位はIgG4の配列、392位はIgG3の配列、419位はIgG4の配列、435位はIgG1またはIgG2またはIgG4の配列、を適用することが望ましい。また、等電点を上昇させるためには、例えば、137位はIgG1またはIgG3の配列、196位はIgG3の配列、203位はIgG1またはIgG3の配列、214位はIgG1またはIgG3またはIgG4の配列、217位はIgG2の配列、233位はIgG2の配列、268位はIgG1またはIgG2またはIgG3の配列、274位はIgG1の配列、276位はIgG3の配列、355位はIgG1またはIgG2またはIgG3の配列、392位はIgG1またはIgG2またはIgG4の配列、419位はIgG1またはIgG2またはIgG3の配列、435位はIgG3の配列、を適用することが望ましい。
これらの配列の適用は、両H鎖に十分な等電点の差が付くようであればよく、必ずしも全ての配列を適用する必要はない。
【0139】
上記抗体において、「同種の電荷を有する」とは、例えば、重鎖可変領域における上記Kabatナンバリングによるアミノ酸残基、若しくは重鎖定常領域における上記EUナンバリングによるアミノ酸残基のいずれもが、下記(a)または(b)のいずれか1の群に含まれるアミノ酸残基を有することを意味する。
(a)グルタミン酸(E)、アスパラギン酸(D)
(b)リジン(K)、アルギニン(R)、ヒスチジン(H)
【0140】
また、「反対の電荷を有する」とは、例えば、重鎖可変領域および/または重鎖定常領域を有する第2のポリペプチドにおける上記Kabatナンバリング若しくは上記EUナンバリングによるアミノ酸残基のなかの少なくとも1つのアミノ酸残基が、第1のポリペプチドに含まれる重鎖可変領域および/または重鎖定常領域における対応する位置のアミノ酸残基であって、上記(a)または(b)のいずれか1の群に含まれるアミノ酸残基を有する場合に、残りのアミノ酸残基が異なる群に含まれるアミノ酸残基を有することを意味する。
【0141】
即ち本発明においては、前記同種の電荷を有するアミノ酸残基が、上記(a)または(b)のいずれかの群に含まれるアミノ酸残基から選択される多重特異性抗体を提供する。
【0142】
なお、元の(改変前の)アミノ酸残基が既に電荷を有する場合、電荷を有さないアミノ酸残基となるように改変することも本発明の好ましい態様の一つである。
【0143】
本発明においては、第1のポリペプチドと第2のポリペプチドの等電点(pI)に差が増大するように、アミノ酸残基が改変されることが好ましい。また、改変によって導入されるアミノ酸残基が複数の場合、これらアミノ酸残基の中に電荷を持たないアミノ酸残基が少数程度含まれていてもよい。
【0144】
また本発明は、本発明の方法によって血漿中薬物動態が制御されたポリペプチド(例えばIgG抗体等の抗体)、および医薬的に許容される担体を含む組成物(薬剤)に関する。
【0145】
本発明において医薬組成物とは、通常、疾患の治療もしくは予防、あるいは検査・診断のための薬剤をいう。
【0146】
本発明の医薬組成物は、当業者に公知の方法によって好適に製剤化され得る。例えば、水もしくはそれ以外の薬学的に許容し得る液との無菌性溶液、又は懸濁液剤の注射剤の形として非経口的に使用され得る。例えば、薬理学上許容される担体もしくは媒体、具体的には、滅菌水や生理食塩水、植物油、乳化剤、懸濁剤、界面活性剤、安定剤、香味剤、賦形剤、ベヒクル、防腐剤、結合剤などと適宜組み合わされて、一般に認められた製薬実施に要求される単位用量形態で混和することによって、好適に製剤化され得る。これら製剤における有効成分量は、指示された範囲の適当な用量が得られるように設定される。
【0147】
注射のための無菌組成物は注射用蒸留水のようなベヒクルを用いて通常の製剤実施に従って好適に処方され得る。
【0148】
注射用の水溶液としては、例えば生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬(例えばD-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトール、塩化ナトリウム)を含む等張液が挙げられる。適当な溶解補助剤、例えばアルコール(エタノール等)、ポリアルコール(プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等)、非イオン性界面活性剤(ポリソルベート80(TM)、HCO-50等)が好適に併用され得る。
【0149】
油性液としてはゴマ油、大豆油があげられ、溶解補助剤として安息香酸ベンジル及び/またはベンジルアルコールが好適に併用され得る。また、緩衝剤(例えば、リン酸塩緩衝液及び酢酸ナトリウム緩衝液)、無痛化剤(例えば、塩酸プロカイン)、安定剤(例えば、ベンジルアルコール及びフェノール)、酸化防止剤が好適に配合され得る。前記のように調製された注射液は通常、適切なアンプルに充填される。
【0150】
本発明の医薬組成物は、好ましくは非経口投与により投与され得る。例えば、注射剤型、経鼻投与剤型、経肺投与剤型、経皮投与型の組成物として適宜調製され得る。例えば、静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、皮下注射などにより全身または局部的に適宜投与され得る。
【0151】
投与方法は、患者の年齢、症状により適宜選択され得る。抗体または抗体をコードするポリヌクレオチドを含有する医薬組成物の投与量は、例えば、一回につき体重1kgあたり0.0001mgから1000mgの範囲に適宜設定され得る。または、例えば、患者あたり0.001~100000mgの投与量に設定または調製され得るが、本発明はこれらの数値に必ずしも制限されるものではない。投与量及び投与方法は、患者の体重、年齢、症状などにより変動するが、当業者であればそれらの条件を考慮し適当な投与量及び投与方法を設定することが可能である。
【0152】
また本発明は、本発明の方法によって血漿中薬物動態が制御された抗体(例えば、ヒト化グリピカン3抗体等)をコードする核酸を提供する。さらに当該核酸を担持するベクターもまた、本発明に包含される。
【0153】
さらに本発明は、前記核酸を含む宿主細胞を提供する。当該宿主細胞の種類は、特に制限されず、例えば、大腸菌等の細菌細胞や種々の動物細胞等が挙げられる。当該宿主細胞は、本発明の抗体の製造や発現のための産生系として好適に使用され得る。すなわち本発明は当該宿主細胞を用いた抗体の製造のために用いられる産生系を提供する。当該産生系としては、in vitroおよびin vivoの産生系が好適に用いられ得る。in vitroの産生系において使用される宿主細胞としては、真核細胞、及び原核細胞が好適に用いられる。
【0154】
宿主細胞として使用される真核細胞として、例えば、動物細胞、植物細胞、真菌細胞が挙げられる。動物細胞としては、哺乳類細胞、例えば、CHO(J. Exp. Med. (1995) 108, 945)、COS、HEK293、3T3、ミエローマ、BHK(baby hamster kidney)、HeLa、Vero等、両生類細胞、例えばアフリカツメガエル卵母細胞(Valle et al., Nature (1981) 291, 338-340)、及び昆虫細胞、例えば、Sf9、Sf21、Tn5が好適に例示される。本発明の抗体の発現においては、CHO-DG44、CHO-DX11B、COS7細胞、HEK293細胞、BHK細胞が好適に用いられる。動物細胞による大量発現を目的とする場合には特にCHO細胞が宿主細胞として好ましい。例えば、リン酸カルシウム法、DEAEデキストラン法、カチオニックリボソームDOTAP(Boehringer Mannheim)を用いた方法、エレクトロポレーション法、リポフェクションなどの方法を用いることによって、宿主細胞への組換ベクター等の導入が好適に実施される。
【0155】
植物細胞としては、例えば、ニコチアナ・タバカム(Nicotiana tabacum)由来の細胞およびウキクサ(Lemna minor)がタンパク質生産系として知られており、この細胞をカルス培養する方法により本発明の抗体が産生され得る。真菌細胞としては、酵母、例えば、サッカロミセス(Saccharomyces)属の細胞(サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、サッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)等)、及び糸状菌、例えば、アスペルギルス(Aspergillus)属の細胞(アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)等)を用いたタンパク質発現系が公知であり、本発明の抗体を産生する宿主細胞として利用され得る。
【0156】
原核細胞が使用される場合、細菌細胞を用いる産生系が好適に使用される。細菌細胞としては、前記の大腸菌(E. coli)に加えて、枯草菌(B.subtilis)を用いた産生系が知られており、これらの細菌細胞はいずれも本発明の抗体の産生に好適に利用され得る。
【0157】
本発明の宿主細胞を用いて抗体を産生するために、本発明の抗体をコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターにより形質転換された宿主細胞の培養が行われ、当該培養において抗体をコードするポリヌクレオチドが発現される。培養は、公知の方法に従って好適に行われ得る。例えば、動物細胞が宿主として用いられた場合、培養液として、例えば、DMEM、MEM、RPMI1640、IMDMが好適に使用され得る。その際、FBS、牛胎児血清(FCS)等の血清補液が好適に併用される。また、無血清培養により細胞が培養され得る。宿主細胞に依存するが、培養時にはpH約6~8の条件下で好適に培養され得る。培養は、通常、約30~40℃で約15~200時間行われ、必要に応じて培地の交換、通気、攪拌が加えられる。
【0158】
一方、in vivoで本発明の抗体が産生される系としては、例えば、動物を使用する産生系や植物を使用する産生系が好適に使用され得る。すなわち、これらの動物又は植物に本発明の抗体をコードするポリヌクレオチドが導入され、動物又は植物の体内でグリピカン3抗体が産生され、回収される。本発明における「宿主」には、これらの動物、植物が包含される。
【0159】
宿主として動物が使用される場合には、哺乳類動物、昆虫を用いる産生系が利用可能である。哺乳類動物としては、ヤギ、ブタ、ヒツジ、マウス、ウシ等が好適に用いられる(Vicki Glaser, SPECTRUM Biotechnology Applications (1993))。また、哺乳類動物が用いられる場合、トランスジェニック動物が用いられる。
【0160】
例えば、本発明の抗体をコードするポリヌクレオチドは、ヤギβカゼインのような、乳汁中に特異的に産生されるポリペプチドをコードする遺伝子との融合遺伝子として調製される。次いで、この融合遺伝子を含むポリヌクレオチド断片がヤギの胚へ注入され、当該胚が雌のヤギへ移植される。胚を受容したヤギから生まれるトランスジェニックヤギ又はその子孫が産生する乳汁から、目的の抗体が得られる。当該トランスジェニックヤギから産生される抗体を含む乳汁量を増加させるために、適宜ホルモンが当該トランスジェニックヤギに好適に投与される(Ebert et al., Bio/Technology (1994) 12, 699-702)。
【0161】
また、本発明の抗体を産生する昆虫としては、例えばカイコが用いられ得る。カイコが用いられる場合、目的の抗体をコードするポリヌクレオチドをそのウイルスゲノム上に挿入したバキュロウィルスがカイコに対する感染において用いられる。当該感染されたカイコの体液から目的のグリピカン3抗体が得られる(Susumu et al., Nature (1985) 315, 592-4)。
【0162】
さらに、植物が本発明の抗体の産生に使用される場合には、植物としては例えばタバコが用いられ得る。タバコが用いられる場合には、目的とする抗体をコードするポリヌクレオチドを植物発現用ベクター、例えばpMON 530に挿入した結果得られる組換ベクターがアグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)のようなバクテリアに導入され得る。当該バクテリアがタバコ、例えば、ニコチアナ・タバカム(Nicotiana tabacum)に対する感染に用いられ(Ma et al., Eur. J. Immunol. (1994) 24, 131-8)、感染されたタバコの葉より所望のグリピカン3抗体が得られる。また、同様のバクテリアはウキクサ(Lemna minor)に対する感染に用いられ、クローン化された感染ウキクサの細胞から所望のグリピカン3抗体が得られる(Cox KM et al. Nat. Biotechnol. (2006) 24(12), 1591-7)。
【0163】
このようにして得られた本発明の抗体は、宿主細胞内または細胞外(培地、乳汁など)から単離され、実質的に純粋で均一な抗体として精製され得る。抗体の分離、精製は、通常のポリペプチドの精製で使用されている分離、精製方法が好適に使用され得るが、これらに限定されるものではない。例えば、クロマトグラフィーカラム、フィルター、限外濾過、塩析、溶媒沈殿、溶媒抽出、蒸留、免疫沈降、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動、等電点電気泳動法、透析、再結晶等が適宜選択、組み合わされて抗体が好適に分離、および精製され得る。
【0164】
クロマトグラフィーとしては、例えばアフィニティクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィー等が挙げられる(Strategies for Protein Purification and Characterization: A Laboratory Course Manual. Ed Daniel R. Marshaket al.(1996) Cold Spring Harbor Laboratory Press)。これらのクロマトグラフィーは、液相クロマトグラフィー、例えばHPLC、FPLC等の液相クロマトグラフィーを用いて行われることが可能である。アフィニティクロマトグラフィーに用いるカラムとしては、プロテインAカラム、プロテインGカラムが挙げられる。例えば、プロテインAを用いたカラムとして、Hyper D, POROS, Sepharose F. F.(Pharmacia製)等が挙げられる。
【0165】
上述のように本発明の宿主細胞を培養し、当該細胞の培養物からグリピカン3抗体を回収する工程を含む、血漿中薬物動態が制御された本発明の抗体の製造方法もまた、本発明の好ましい態様の一つである。
【0166】
本発明は、ヒト化抗IL-6レセプターIgG1抗体であるTOCILIZUMABの可変領域および定常領域のアミノ酸配列を改変することで、薬効を増強させつつ、血漿中滞留性を向上させることで投与頻度を少なくし持続的に治療効果を発揮し、且つ、免疫原性、安全性、物性を改善させ、TOCILIZUMABより優れた第2世代の分子からなる医薬組成物、並びに、それらの医薬組成物の製造方法を提供する。さらに本発明は、医薬品として用いるのに適した抗体定常領域を提供する。
【0167】
本発明は優れた抗原結合活性、中和活性、血漿中滞留性、安定性および/または均一性を有し、免疫原性リスクを低減させた抗IL-6レセプター抗体に関する。
好ましくは、抗IL-6レセプター抗体はヒト化PM-1抗体(TOCILIZUMAB)である。より具体的には本発明は、アミノ酸置換により抗原結合活性が増強したヒト化PM-1抗体、中和活性が増強したヒト化PM-1抗体、血漿中滞留性が向上したヒト化PM-1抗体、免疫原性リスクが低下したヒト化PM-1抗体、安定性が向上したヒト化PM-1抗体、及び均一性が向上したヒト化PM-1抗体を提供する。
【0168】
ヒト化PM-1抗体はヒトIL-6レセプターに結合し、ヒトIL-6とヒトIL-6レセプターの結合を阻害する。本明細書において、ヒト化PM-1抗体のアミノ酸配列と配列表の配列番号の対応は以下の通りである。
重鎖アミノ酸配列 配列番号:15
軽鎖アミノ酸配列 配列番号:16
重鎖可変領域のアミノ酸配列 配列番号:17
軽鎖可変領域のアミノ酸配列 配列番号:18
重鎖CDR1(HCDR1)のアミノ酸配列 配列番号:1
重鎖CDR2(HCDR2)のアミノ酸配列 配列番号:2
重鎖CDR3(HCDR3)のアミノ酸配列 配列番号:3
重鎖FR1(HFR1)のアミノ酸配列 配列番号:7
重鎖FR2(HFR2)のアミノ酸配列 配列番号:8
重鎖FR3(HFR3)のアミノ酸配列 配列番号:9
重鎖FR4(HFR4)のアミノ酸配列 配列番号:10
軽鎖CDR1(LCDR1)のアミノ酸配列を配列番号:4
軽鎖CDR2(LCDR2)のアミノ酸配列を配列番号:5
軽鎖CDR3(LCDR3)のアミノ酸配列を配列番号:6
軽鎖FR1(LFR1)のアミノ酸配列を配列番号:11
軽鎖FR2(LFR2)のアミノ酸配列を配列番号:12
軽鎖FR3(LFR3)のアミノ酸配列を配列番号:13
軽鎖FR4(LFR4)のアミノ酸配列を配列番号:14
【0169】
<アフィニティー・中和活性増強抗体>
本発明はヒトIL-6レセプターに対する結合活性および/または中和活性が高い抗ヒトIL-6レセプター抗体を提供する。より具体的には、本発明は以下(a)~(y)に記載の抗体、及び該抗体の製造方法を提供する。
(a) 配列番号:1に記載のアミノ酸配列(HCDR1)において1番目のSerが他のアミノ酸に置換された重鎖CDR1を有する抗ヒトIL-6レセプター抗体。
置換後のアミノ酸は特に限定されないが、Trp(RD_68)、Thr(RD_37)、Asp(RD_8)、Asn(RD_11)、Arg(RD_31)、Val(RD_32)、Phe(RD_33)、Ala(RD_34)、Gln(RD_35)、Tyr(RD_36)、Leu(RD_38)、His(RD_42)、Glu(RD_45)またはCys(RD_46)への置換が好ましい。
配列番号:1に記載のアミノ酸配列において1番目のSerがTrpへ置換された配列を配列番号:26に示す。
配列番号:1に記載のアミノ酸配列において1番目のSerがThrへ置換された配列を配列番号:27に示す。
配列番号:1に記載のアミノ酸配列において1番目のSerがAspへ置換された配列を配列番号:28に示す。
配列番号:1に記載のアミノ酸配列において1番目のSerがAsnへ置換された配列を配列番号:29に示す。
配列番号:1に記載のアミノ酸配列において1番目のSerがArgへ置換された配列を配列番号:30に示す。
配列番号:1に記載のアミノ酸配列において1番目のSerがValへ置換された配列を配列番号:31に示す。
配列番号:1に記載のアミノ酸配列において1番目のSerがPheへ置換された配列を配列番号:32に示す。
配列番号:1に記載のアミノ酸配列において1番目のSerがAlaへ置換された配列を配列番号:33に示す。
配列番号:1に記載のアミノ酸配列において1番目のSerがGlnへ置換された配列を配列番号:34に示す。
配列番号:1に記載のアミノ酸配列において1番目のSerがTyrへ置換された配列を配列番号:35に示す。
配列番号:1に記載のアミノ酸配列において1番目のSerがLeuへ置換された配列を配列番号:36に示す。
配列番号:1に記載のアミノ酸配列において1番目のSerがHisへ置換された配列を配列番号:37に示す。
配列番号:1に記載のアミノ酸配列において1番目のSerがGluへ置換された配列を配列番号:38に示す。
配列番号:1に記載のアミノ酸配列において1番目のSerがCysへ置換された配列を配列番号:39に示す。
【0170】
(b) 配列番号:1に記載のアミノ酸配列(HCDR1)において5番目のTrpが他のアミノ酸に置換された重鎖CDR1を有する抗ヒトIL-6レセプター抗体。
置換後のアミノ酸は特に限定されないが、Ile(RD_9)またはVal(RD_30)への置換が好ましい。
配列番号:1に記載のアミノ酸配列において5番目のTrpがIleへ置換された配列を配列番号:40に示す。
配列番号:1に記載のアミノ酸配列において5番目のTrpがValへ置換された配列を配列番号:41に示す。
【0171】
(c) 配列番号:2に記載のアミノ酸配列(HCDR2)において1番目のTyrが他のアミノ酸に置換された重鎖CDR2を有する抗ヒトIL-6レセプター抗体。
置換後のアミノ酸は特に限定されないが、Phe(RD_82)への置換が好ましい。
配列番号:2に記載のアミノ酸配列において1番目のTyrがPheへ置換された配列を配列番号:42に示す。
【0172】
(d) 配列番号:2に記載のアミノ酸配列(HCDR2)において8番目のThrが他のアミノ酸に置換された重鎖CDR2を有する抗ヒトIL-6レセプター抗体。
置換後のアミノ酸は特に限定されないが、Arg(RD_79)への置換が好ましい。
配列番号:2に記載のアミノ酸配列において8番目のThrがArgへ置換された配列を配列番号:43に示す。
【0173】
(e) 配列番号:2に記載のアミノ酸配列(HCDR2)において9番目のThrが他のアミノ酸に置換された重鎖CDR2を有する抗ヒトIL-6レセプター抗体。
置換後のアミノ酸は特に限定されないが、Ser(RD_12)又はAsn(RD_61)への置換が好ましい。
配列番号:2に記載のアミノ酸配列において9番目のThrがSerへ置換された配列を配列番号:44に示す。
配列番号:2に記載のアミノ酸配列において9番目のThrがAsnへ置換された配列を配列番号:45に示す。
【0174】
(f) 配列番号:3に記載のアミノ酸配列(HCDR3)において1番目のSerが他のアミノ酸に置換された重鎖CDR3を有する抗ヒトIL-6レセプター抗体。
置換後のアミノ酸は特に限定されないが、Ile(RD_2)、Val(RD_4)、Thr(RD_80)又はLeu(RD_5)への置換が好ましい。
配列番号:3に記載のアミノ酸配列において1番目のSerがIleへ置換された配列を配列番号:46に示す。
配列番号:3に記載のアミノ酸配列において1番目のSerがValへ置換された配列を配列番号:47に示す。
配列番号:3に記載のアミノ酸配列において1番目のSerがThrへ置換された配列を配列番号:48に示す。
配列番号:3に記載のアミノ酸配列において1番目のSerがLeuへ置換された配列を配列番号:49に示す。
【0175】
(g) 配列番号:3に記載のアミノ酸配列(HCDR3)において2番目のLeuが他のアミノ酸に置換された重鎖CDR3を有する抗ヒトIL-6レセプター抗体。
置換後のアミノ酸は特に限定されないが、Thr(RD_84)への置換が好ましい。
配列番号:3に記載のアミノ酸配列において2番目のLeuがThrへ置換された配列を配列番号:50に示す。
【0176】
(h) 配列番号:3に記載のアミノ酸配列(HCDR3)において5番目のThrが他のアミノ酸に置換された重鎖CDR3を有する抗ヒトIL-6レセプター抗体。
置換後のアミノ酸は特に限定されないが、Ala(RD_3)又はIle(RD_83)への置換が好ましい。他の好ましい置換としては5番目のThrのSer(RDC_14H)への置換が挙げられる。
配列番号:3に記載のアミノ酸配列において5番目のThrがAlaへ置換された配列を配列番号:51に示す。
配列番号:3に記載のアミノ酸配列において5番目のThrがIleへ置換された配列を配列番号:52に示す。
配列番号:3に記載のアミノ酸配列において5番目のThrがSerへ置換された配列を配列番号:53に示す。
【0177】
(i) 配列番号:3に記載のアミノ酸配列(HCDR3)において7番目のAlaが他のアミノ酸に置換された重鎖CDR3を有する抗ヒトIL-6レセプター抗体。
置換後のアミノ酸配列は特に限定されないがSer(RD_81)又はVal(PF_3H)への置換が好ましい。
配列番号:3に記載のアミノ酸配列において7番目のAlaがSerへ置換された配列を配列番号:54に示す。
配列番号:3に記載のアミノ酸配列において7番目のAlaがValへ置換された配列を配列番号:55に示す。
【0178】
(j) 配列番号:3に記載のアミノ酸配列(HCDR3)において8番目のMetが他のアミノ酸に置換された重鎖CDR3を有する抗ヒトIL-6受容体抗体。
置換後のアミノ酸配列は特に限定されないがLeu(PF_4H)への置換が好ましい。
配列番号:3に記載のアミノ酸配列において8番目のMetがLeuへ置換された配列を配列番号:56に示す。
【0179】
(k) 配列番号:3に記載のアミノ酸配列(HCDR3)において1番目のSerおよび5番目のThrが他のアミノ酸に置換された重鎖CDR3を有する抗ヒトIL-6レセプター抗体。
置換後のアミノ酸は特に限定されないが、1番目のSerをLeuに、5番目のThrをAlaに置換することが好ましい(RD_6)。又、他の好ましい置換として、1番目のSerのValへの置換及び5番目のThrのAlaへの置換(RDC_2H)、1番目のSerのIleへの置換及び5番目のThrのへAlaの置換(RDC_3H)、1番目のSerのThrへの置換及び5番目のThrのAlaへの置換(RDC_4H)、1番目のSerのValへの置換及び5番目のThrのIleへの置換(RDC_5H)、1番目のSerのIleへの置換及び5番目のThrのIleへの置換(RDC_6H)、1番目のSerのThrへの置換及び5番目のThrのIleへの置換(RDC_7H)、または1番目のSerのLeuへの置換及び5番目のThrのIleへの置換(RDC_8H)を挙げることができる。
配列番号:3に記載のアミノ酸配列において1番目のSerがLeuに、5番目のThrがAlaに置換された配列を配列番号:57に示す。
配列番号:3に記載のアミノ酸配列において1番目のSerがValに、5番目のThrがAlaに置換された配列を配列番号:58に示す。
配列番号:3に記載のアミノ酸配列において1番目のSerがIleに、5番目のThrがAlaに置換された配列を配列番号:59に示す。
配列番号:3に記載のアミノ酸配列において1番目のSerがThrに、5番目のThrがAlaに置換された配列を配列番号:60に示す。
配列番号:3に記載のアミノ酸配列において1番目のSerがValに、5番目のThrがIleに置換された配列を配列番号:61に示す。
配列番号:3に記載のアミノ酸配列において1番目のSerがIleに、5番目のThrがIleに置換された配列を配列番号:62に示す。
配列番号:3に記載のアミノ酸配列において1番目のSerがThrに、5番目のThrがIleに置換された配列を配列番号:63に示す。
配列番号:3に記載のアミノ酸配列において1番目のSerがLeuに、5番目のThrがIleに置換された配列を配列番号:64に示す。
【0180】
(l) 配列番号:3に記載のアミノ酸配列(HCDR3)において2番目のLeu、7番目のAlaおよび8番目のMetが他のアミノ酸に置換された重鎖CDR3を有する抗ヒトIL-6レセプター抗体。
置換後のアミノ酸は特に限定されないが、2番目のLeuをThrに、7番目のAlaをValに、8番目のMetをLeuに置換することが好ましい(RD_78)。
配列番号:3に記載のアミノ酸配列において2番目のLeuがThrに、7番目のAlaがValに、8番目のMetがLeuに置換された配列を配列番号:65に示す。
【0181】
(m) 配列番号:4に記載のアミノ酸配列(LCDR1)において1番目のArgが他のアミノ酸に置換された軽鎖CDR1を有する抗ヒトIL-6レセプター抗体。
置換後のアミノ酸配列は特に限定されないがPhe(RD_18)への置換が好ましい。
配列番号:4に記載のアミノ酸配列において1番目のArgがPheに置換された配列を配列番号:66に示す。
【0182】
(n) 配列番号:4に記載のアミノ酸配列(LCDR1)において4番目のGlnが他のアミノ酸に置換された軽鎖CDR1を有する抗ヒトIL-6レセプター抗体。
置換後のアミノ酸配列は特に限定されないがArg(RD_26)またはThr(RD_20)への置換が好ましい。
配列番号:4に記載のアミノ酸配列において4番目のGlnがArgに置換された配列を配列番号:67に示す。
配列番号:4に記載のアミノ酸配列において4番目のGlnがThrに置換された配列を配列番号:68に示す。
【0183】
(o) 配列番号:4に記載のアミノ酸配列(LCDR1)において9番目のTyrが他のアミノ酸に置換された軽鎖CDR1を有する抗ヒトIL-6レセプター抗体。
置換後のアミノ酸は特に限定されないがPhe(RD_73)への置換が好ましい。
配列番号:4に記載のアミノ酸配列において9番目のTyrがPheに置換された配列を配列番号:69に示す。
【0184】
(p) 配列番号:4に記載のアミノ酸配列(LCDR1)において11番目のAsnが他のアミノ酸に置換された軽鎖CDR1を有する抗ヒトIL-6レセプター抗体。
置換後のアミノ酸配列は特に限定されないがSer(RD_27)への置換が好ましい。
配列番号:4に記載のアミノ酸配列において11番目のAsnがSerに置換された配列を配列番号:70に示す。
【0185】
(q) 配列番号:5に記載のアミノ酸配列(LCDR2)において2番目のThrが他のアミノ酸に置換された軽鎖CDR2を有する抗ヒトIL-6レセプター抗体。
置換後のアミノ酸配列は特に限定されないがGlyへの置換が好ましい。
配列番号:5に記載のアミノ酸配列において2番目のThrがGlyに置換された配列を配列番号:71に示す。
【0186】
(r) 配列番号:6に記載のアミノ酸配列(LCDR3)において1番目のGlnが他のアミノ酸に置換された軽鎖CDR3を有する抗ヒトIL-6レセプター抗体。
置換後のアミノ酸配列は特に限定されないがGly(RD_28)、Asn(RD_29)またはSer(RDC_15L)への置換が好ましい。
配列番号:6に記載のアミノ酸配列において1番目のGlnがGlyに置換された配列を配列番号:72に示す。
配列番号:6に記載のアミノ酸配列において1番目のGlnがAsnに置換された配列を配列番号:73に示す。
配列番号:6に記載のアミノ酸配列において1番目のGlnがSerに置換された配列を配列番号:74に示す。
【0187】
(s) 配列番号:6に記載のアミノ酸配列において3番目のGlyが他のアミノ酸に置換された軽鎖CDR3を有する抗ヒトIL-6レセプター抗体。
置換後のアミノ酸配列は特に限定されないがSerへの置換が好ましい。
配列番号:6に記載のアミノ酸配列において3番目のGlyがSerに置換された配列を配列番号:75に示す。
【0188】
(t) 配列番号:4に記載のアミノ酸配列(LCDR1)において9番目のTyrが他のアミノ酸に置換された軽鎖CDR1、かつ配列番号:6に記載のアミノ酸配列(LCDR3)において3番目のGlyが他のアミノ酸に置換された軽鎖CDR3を有する抗ヒトIL-6レセプター抗体。
置換後のアミノ酸は特に限定されないが、配列番号:4に記載のアミノ酸配列(LCDR1)における9番目のTyrはPheに置換されることが好ましく、配列番号:6に記載のアミノ酸配列(LCDR3)における3番目のGlyはSerに置換されることが好ましい(RD_72)。
【0189】
(u) 配列番号:6に記載のアミノ酸配列(LCDR3)において5番目のThrが他のアミノ酸に置換された軽鎖CDR3を有する抗ヒトIL-6レセプター抗体。
置換後のアミノ酸は特に限定されないがArg(RD_23)またはSerへの置換が好ましい。
配列番号:6に記載のアミノ酸配列において5番目のThrがArgに置換された配列を配列番号:76に示す。
配列番号:6に記載のアミノ酸配列において5番目のThrがSerに置換された配列を配列番号:77に示す。
【0190】
(v) 配列番号:6に記載のアミノ酸配列(LCDR3)において1番目のGlnおよび5番目のThrが他のアミノ酸に置換された軽鎖CDR3を有する抗IL-6レセプター抗体。
置換後のアミノ酸は特に限定されないが1番目のGlnをGlyに、5番目のThrをSerに置換することが好ましい(RD_22)。又、他の好ましい置換として1番目のGlnのGlyへの置換及び5番目のThrのArgへの置換を挙げることができる(RDC_11L)。
配列番号:6に記載のアミノ酸配列において1番目のGlnがGlyに、5番目のThrがSerに置換された配列を配列番号:78に示す。
配列番号:6に記載のアミノ酸配列において1番目のGlnがGlyに、5番目のThrがArgに置換された配列を配列番号:79に示す。
【0191】
(w) 配列番号:2に記載のアミノ酸配列(HCDR2)において9番目のThrが他のアミノ酸に置換された重鎖CDR2、配列番号:3に記載のアミノ酸配列(HCDR3)において1番目のSerおよび5番目のThrが他のアミノ酸に置換された重鎖CDR3を含む抗IL-6レセプター抗体。
配列番号:2に記載のアミノ酸配列(HCDR2)における9番目のThrはAsnに置換されていることが好ましい。又、配列番号:3に記載のアミノ酸配列(HCDR3)における1番目のSerおよび5番目のThrの置換後のアミノ酸の好ましい組み合わせとして、LeuおよびAla(RDC_27H)、ValおよびAla(RDC_28H)、IleおよびAla(RDC_30H)、ThrおよびAla(RDC_4H)、ValおよびIle(RDC_29H)、IleおよびIle(RDC_32H)、ThrおよびIle(RDC_7H)、LeuおよびIle(RDC_8H)を挙げることができる。
【0192】
(x) (k)に記載の重鎖CDR3を有する可変領域および(v)に記載の軽鎖CDR3を有する可変領域を含む抗体。
(y) (e)に記載の重鎖CDR2をさらに含む(x)に記載の抗体。
【0193】
本発明は少なくとも上述の(a)~(y)のいずれかに記載のアミノ酸置換を含む抗体及び該抗体の製造方法を提供する。従って本発明の抗体には、上述の(a)~(y)のいずれかに記載のアミノ酸置換に加え、上述の(a)~(y)に記載のアミノ酸置換以外のアミノ酸置換を含む抗体も含まれる。また本発明の抗体には、上述の(a)~(y)のいずれかに記載のアミノ酸置換が複数組み合わされた抗体も含まれる。上述の(a)~(y)に記載のアミノ酸置換としては、上述のCDRアミノ酸配列の他アミノ酸への置換が挙げられる。上述の(a)~(y)に記載のアミノ酸置換以外のアミノ酸置換としては、例えば、他CDR部分のアミノ酸配列の置換、欠失、付加および/または挿入等が挙げられる。また、FRのアミノ酸配列の置換、欠失、付加および/または挿入等が挙げられる。また、定常領域のアミノ酸配列の置換、欠失、付加および/または挿入等が挙げられる。
【0194】
また本発明の抗体には、本発明で見出された高アフィニティーCDRを、ヒト化PM-1抗体以外の如何なるフレームワークに移植した抗体も含まれる。また本発明の抗体には、本発明で見出された高アフィニティーCDRをヒト化PM-1抗体以外のフレームワークに移植した結果アフィニティーが低下した抗体において、元のアフィニティーの抗体を得るためにフレームワーク部分に変異が導入(例えば、Curr Opin Biotechnol. 1994 Aug;5(4):428-33参照)された抗体、および、元のアフィニティーの抗体を得るためにCDR部分に変異が導入(例えば、US2006/0122377参照)された抗体が含まれる。
【0195】
本発明においては、上述の(a)~(y)のいずれかに記載のアミノ酸置換は、ヒト化PM-1抗体に対して行うことが好ましい。ヒト化PM-1抗体において、上述の(a)~(y)のいずれかに記載のアミノ酸置換が行われた抗体は、IL-6レセプターに対する高い中和活性を有する。ヒト化PM-1抗体において、上述の(a)~(y)のいずれかに記載のアミノ酸置換が行われた抗体は、IL-6が関連する関節リウマチ等の炎症性疾患などの治療薬として有効である。
【0196】
なお、上述の(a)~(y)のいずれかに記載のアミノ酸置換を含む抗体は、例えば下記(1)又は(2)ように表現することも出来る。ここでは(a)の抗体を例に記載するが、(b)~(y)の抗体についても同様に表現することが出来る。
(1)配列番号:1に記載のアミノ酸配列において1番目のSerが他のアミノ酸に置換されているアミノ酸配列を有するCDR1を有する重鎖可変領域を含む抗体
(2)CDR1として、配列番号:1に記載のアミノ酸配列において1番目のSerが他のアミノ酸に置換されているアミノ酸配列を有するH鎖を含む抗体
【0197】
<結合活性が増強した抗体>
本発明はさらにIL-6レセプターへの結合活性が高い抗IL-6レセプター抗体を提供する。本発明においてIL-6レセプターへの結合活性が高い抗IL-6レセプター抗体とは、通常、生理条件下、37℃において測定されるアフィニティーが1nM以下の抗体であり、好ましくはアフィニティーが0.1nM以下の抗体であり、さらに好ましくはアフィニティーが0.04nM以下の抗体である。このようなIL-6レセプターへの結合活性が高い抗IL-6レセプター抗体は、抗原の生物的作用の中和能が向上していると考えられる。
本発明のIL-6レセプターへの結合活性が高い抗IL-6レセプター抗体において、導入されるアミノ酸置換は特に限定されないが、例えば上述のアミノ酸置換が挙げられる。
IL-6レセプターは特に限定されないが、ヒトIL-6レセプターが好ましい。
結合活性の測定は当業者に公知の方法により行うことが可能であり、例えばSPRを用いたBiacore(BIACORE)等により測定することが可能である。
【0198】
<CDR配列の免疫原性リスクを低下させた抗体>
また本発明は、免疫原性が低下した抗IL-6レセプター抗体、特にヒト化PM-1抗体を提供する。抗体配列中にHLAに結合するT-cellエピトープが存在すると抗体の免疫原性が高くなると考えられている。従って、抗体の配列を置換して抗体配列中に存在するT-cellエピトープを除去することにより抗体の免疫原性リスクを低下させることができる。
【0199】
本発明は抗体のアミノ酸配列、特にCDR配列中のアミノ酸を他のアミノ酸に置換することによりT-cellエピトープが除去され、免疫原性が低下したヒト化抗ヒトIL-6レセプター抗体、特にヒト化PM-1軽鎖可変領域を提供する。また本発明は、該軽鎖可変領域を含む抗体を提供する。
より具体的には本発明は、配列番号:5に記載のアミノ酸配列(LCDR2)において2番目のThrが他のアミノ酸に置換さた軽鎖CDR2を提供する。また、本発明は該軽鎖CDR2を含む軽鎖可変領域を提供する。また本発明は、該軽鎖可変領域を含む抗IL-6レセプター抗体を提供する。置換後のアミノ酸配列は特に限定されないが、Glyへの置換が好ましい。配列番号:5に記載のアミノ酸配列において2番目のThrがGlyに置換された配列を配列番号:71に示す。該アミノ酸置換はヒト化PM-1抗体の軽鎖可変領域において行われることが好ましい。
【0200】
<H53/L28のFRおよびCDR>
本発明はまた、血漿中薬物動態性、安定性および/または免疫原性が改善された抗ヒトIL-6レセプター抗体を提供する。IgGにおいては、同一のFc領域を有するIgGの血漿中半減期がpIと高い相関係数で相関することが見出されている。そこで、異なる抗原に対する2種類の抗体において可変領域のpIを改変することを試みたところ、抗原の種類に関係なくFc領域を改変することなく血漿中半減期を制御することに成功した。抗体の内皮細胞への非特異的な取り込みの速度は、負電荷を帯びた細胞表面とIgGの物理化学的なクーロン相互作用に依存すると考えられる。IgGのpIを低下させることでクーロン相互作用が低減し、内皮細胞への非特異的な取り込みが減少し、結果として内皮細胞における代謝を減少させることで血漿中滞留性を増加させることが可能となる。
【0201】
即ち本発明は、抗IL-6レセプター抗体、特にヒト化PM-1抗体のアミノ酸配列を置換することにより、等電点を低下させ、血漿中滞留性を増加させた抗ヒトIL-6レセプター抗体を提供する。具体的には、Kabatナンバリング(Kabat EA et al., 1991 Sequences of Proteins of Immunological Interest. NIH)において、ヒト化PM-1のH13(配列番号:7の13番目のアミノ酸)、H16(配列番号:7の16番目のアミノ酸)、H43(配列番号:8の8番目のアミノ酸)、H81(配列番号:9の16番目のアミノ酸)、H105(配列番号:10の3番目のアミノ酸)、L18(配列番号:11の18番目のアミノ酸)、L45(配列番号:12の11番目のアミノ酸)、L79(配列番号:13の23番目のアミノ酸)、L107(配列番号:14の10番目のアミノ酸)、H31(配列番号:1の1番目のアミノ酸)、L24(配列番号:4の1番目のアミノ酸)および/またはL53(配列番号:5の4番目のアミノ酸)を等電点が低下する他のアミノ酸に置換する。このことにより、ヒト化PM-1の結合活性や安定性に影響を与えることなく等電点を低下させることが可能である。またヒト化PM-1抗体では、マウス配列をヒト化する際に、結合活性保持の為に幾つかのアミノ酸残基がマウス配列のまま残されている。具体的には、上述のKabatナンバリングにおいて、ヒト化PM-1抗体中のH27(配列番号:7の27番目のアミノ酸)、H28(配列番号:7の28番目のアミノ酸)、H29(配列番号:7の29番目のアミノ酸)、H30(配列番号:7の30番目のアミノ酸)およびH71はマウス配列がそのまま利用されている。HFR1に関してはH13、H16、H23、H30を置換することによりHFR1としてヒト配列に変換することが可能で、ヒト化抗体PM-1よりさらに免疫原性リスクが低下した抗体を作製することが可能と考えられる。さらに、ヒト化PM-1は、CDRグラフティングによりヒト化された抗体であることから、安定性に関しては改善の余地があると考えられる。例えば、抗体の可変領域において表面に露出しているアミノ酸残基を親水性のアミノ酸に置換することにより、抗体を安定化することが可能であると考えられる。さらにCDR配列をコンセンサス配列に改変することによっても、抗体を安定化することが可能である。ヒト化PM-1抗体においては、上述のKabatナンバリングにおいて、H69 (配列番号:9の4番目のアミノ酸)のMetからIleへの置換(疎水コア構造の安定化)、H70(配列番号:9の5番目のアミノ酸)のLeuからSerへの置換(表面露出残基の親水化)、H58(配列番号:2の9番目のアミノ酸)のThrからAsnへの置換(重鎖CDR2のコンセンサス配列への改変)、H65(配列番号:2の16番目のアミノ酸)のSerからGlyへの置換(βターン部分へのGlyへの置換、重鎖CDR2のコンセンサス配列への改変)、またはL93(配列番号:6の5番目のアミノ酸)のThrからSerへの置換(表面露出残基の親水化)により抗体を安定化することが可能である。また、上述のLCDR2(配列番号:5)の2番目であるL51のThrをGlyに置換することで、結合活性や安定性に影響を与えることなくin silicoで予測されたT-cellエピトープを除去することによる免疫原性リスクを低下させることが可能である。これらのアミノ酸置換を組み合わせて、抗体の血漿中薬物動態性、免疫原性、安定性が改善した抗IL-6レセプター抗体を得ることが可能である。
【0202】
このような抗体の例として、下記(1)~(37)のいずれかに記載の抗体が挙げられる。
(1)配列番号:7に記載のアミノ酸配列において13番目のArgが他のアミノ酸に置換されたFR1を有する重鎖可変領域を含む抗体。
置換後のアミノ酸配列は特に限定されないがLysへの置換が好ましい。
配列番号:7に記載のアミノ酸配列において13番目のArgがLysへ置換された配列を配列番号:80に示す。
(2)配列番号:7に記載のアミノ酸配列において16番目のGlnが他のアミノ酸に置換されたFR1を有する重鎖可変領域を含む抗体。
置換後のアミノ酸配列は特に限定されないがGluへの置換が好ましい。
配列番号:7に記載のアミノ酸配列において16番目のGlnがGluへ置換された配列を配列番号:81に示す。
(3)配列番号:7に記載のアミノ酸配列において23番目のThrが他のアミノ酸に置換されたFR1を有する重鎖可変領域を含む抗体。
置換後のアミノ酸配列は特に限定されないがAlaへの置換が好ましい。
配列番号:7に記載のアミノ酸配列において23番目のThrがAlaへ置換された配列を配列番号:82に示す。
(4)配列番号:7に記載のアミノ酸配列において30番目のThrが他のアミノ酸に置換されたFR1を有する重鎖可変領域を含む抗体。
置換後のアミノ酸配列は特に限定されないがSerへの置換が好ましい。
配列番号:7に記載のアミノ酸配列において30番目のThrがSerへ置換された配列を配列番号:83に示す。
(5)配列番号:7に記載のアミノ酸配列において13番目のArg、16番目のGln、23番目のThrおよび30番目のThrが他のアミノ酸に置換されたFR1を有する重鎖可変領域を含む抗体。
置換後のアミノ酸は特に限定されないが、13番目のArgはLys、16番目のGlnはGlu、23番目のThrはAla、30番目のThrはSerへの置換が好ましい。
配列番号:7に記載のアミノ酸配列において13番目のArgがLys、16番目のGlnがGlu、23番目のThrがAla、30番目のThrがSerへ置換された配列を配列番号:84に示す。
(6)配列番号:8に記載のアミノ酸配列において8番目のArgが他のアミノ酸に置換されたFR2を有する重鎖可変領域を含む抗体。
置換後のアミノ酸は特に限定されないが、Gluへの置換が好ましい。
配列番号:8に記載のアミノ酸配列において8番目のArgがGluへ置換された配列を配列番号:85に示す。
(7)配列番号:9に記載のアミノ酸配列において4番目のMetが他のアミノ酸に置換されたFR3を有する重鎖可変領域を含む抗体。
置換後のアミノ酸は特に限定されないが、Ileへの置換が好ましい。
配列番号:9に記載のアミノ酸配列において4番目のMetがIleへ置換された配列を配列番号:86に示す。
(8)配列番号:9に記載のアミノ酸配列において5番目のLeuが他のアミノ酸に置換されたFR3を有する重鎖可変領域を含む抗体。
置換後のアミノ酸配列は特に限定されないが、Serへの置換が好ましい。
配列番号:9に記載のアミノ酸配列において5番目のLeuがSerへ置換された配列を配列番号:87に示す。
(9)配列番号:9に記載のアミノ酸配列において16番目のArgが他のアミノ酸に置換されたFR3を有する重鎖可変領域を含む抗体。
置換後のアミノ酸は特に限定されないがLysへの置換が好ましい。
配列番号:9に記載のアミノ酸配列において16番目のArgがLysへ置換された配列を配列番号:88に示す。
(10)配列番号:9に記載のアミノ酸配列において27番目のValが他のアミノ酸に置換されたFR3を有する重鎖可変領域を含む抗体。
置換後のアミノ酸配列は特に限定されないがAlaへの置換が好ましい。
配列番号:9に記載のアミノ酸配列において27番目のValがAlaへ置換された配列を配列番号:89に示す。
(11)配列番号:9に記載(HFR3)のアミノ酸配列において4番目のMet、5番目のLeu、16番目のArgおよび27番目のValが他のアミノ酸に置換されたFR3を有する重鎖可変領域を含む抗体。
置換後のアミノ酸は特に限定されないが、4番目のMetはIle、5番目のLeuはSer、16番目のArgはLys、27番目のValはAlaへの置換が好ましい。
配列番号:9に記載のアミノ酸配列において4番目のMetがIle、5番目のLeuがSer、16番目のArgがLys、27番目のValがAlaへ置換された配列を配列番号:90に示す。
(12)配列番号:10に記載(HFR4)のアミノ酸配列において3番目のGlnが他のアミノ酸に置換されたFR4を有する重鎖可変領域を含む抗体。
置換後のアミノ酸は特に限定されないが、Gluへの置換が好ましい。
配列番号:10に記載のアミノ酸配列において3番目のGlnがGluへ置換された配列を配列番号:91に示す。
(13)配列番号:11に記載(LFR1)のアミノ酸配列において18番目のArgが他のアミノ酸に置換されたFR1を有する軽鎖可変領域を含む抗体。
置換後のアミノ酸は特に限定されないが、Serへの置換が好ましい。
配列番号:11に記載のアミノ酸配列において18番目のArgがSerへ置換された配列を配列番号:92に示す。
(14)配列番号:12に記載(LFR2)のアミノ酸配列において11番目のLysが他のアミノ酸に置換されたFR2を有する軽鎖可変領域を含む抗体。
置換後のアミノ酸は特に限定されないが、Gluへの置換が好ましい。
配列番号:12に記載のアミノ酸配列において11番目のLysがGluへ置換された配列を配列番号:93に示す。
(15)配列番号:13に記載のアミノ酸配列において23番目のGlnが他のアミノ酸に置換されたFR3を有する軽鎖可変領域を含む抗体。
置換後のアミノ酸は特に限定されないが、Gluへの置換が好ましい。
配列番号:13に記載のアミノ酸配列において23番目のGlnがGluへ置換された配列を配列番号:94に示す。
(16)配列番号:13に記載のアミノ酸配列において24番目のProが他のアミノ酸に置換されたFR3を有する軽鎖可変領域を含む抗体。
置換後のアミノ酸配列は特に限定されないがAlaへの置換が好ましい。
配列番号:13に記載のアミノ酸配列において24番目のProがAlaへ置換された配列を配列番号:95に示す。
(17)配列番号:13に記載のアミノ酸配列において27番目のIleが他のアミノ酸に置換されたFR3を有する軽鎖可変領域を含む抗体。
置換後のアミノ酸配列は特に限定されないがAlaへの置換が好ましい。
配列番号:13に記載のアミノ酸配列において27番目のIleがAlaへ置換された配列を配列番号:96に示す。
(18)配列番号:13に記載(LFR3)のアミノ酸配列において23番目のGln、24番目のProおよび27番目のIleが他のアミノ酸に置換されたFR3を有する軽鎖可変領域を含む抗体。
置換後のアミノ酸は特に限定されないが、23番目のGlnはGlu、24番目のProはAla、27番目のIleはAlaへの置換が好ましい。
配列番号:13に記載のアミノ酸配列において23番目のGlnがGlu、24番目のProがAla、27番目のIleがAlaへ置換された配列を配列番号:97に示す。
(19)配列番号:14に記載(LFR4)のアミノ酸配列において10番目のLysが他のアミノ酸に置換されたFR4を有する軽鎖可変領域を含む抗体。
置換後のアミノ酸は特に限定されないが、Gluへの置換が好ましい。
配列番号:14に記載のアミノ酸配列において10番目のLysがGluへ置換された配列を配列番号:98に示す。
(20)配列番号:10に記載(HFR4)のアミノ酸配列において5番目のSerが他のアミノ酸に置換されたFR4を有する重鎖可変領域を含む抗体。
置換後のアミノ酸は特に限定されないが、Thrへの置換が好ましい。
配列番号:10に記載のアミノ酸配列において5番目のSerがThrに置換された配列を配列番号:132に示す。
(21) 配列番号:10に記載(HFR4)のアミノ酸配列において3番目のGlnおよび5番目のSerが他のアミノ酸に置換されたFR4を有する重鎖可変領域を含む抗体。
置換後のアミノ酸は特に限定されないが、3番目のGlnはGlu、5番目のSerはThrへの置換が好ましい。
配列番号:10に記載のアミノ酸配列において3番目のGlnがGluへ、5番目のSerがThrへ置換された配列を配列番号:133に示す。
(22)(5)、(6)、(11)および(21)に記載のアミノ酸置換が行われたヒト化PM-1重鎖可変領域を含む抗体。
(23)(13)、(14)、(18)および(19)に記載のアミノ酸置換が行われたヒト化PM-1軽鎖可変領域を含む抗体。
(24)(22)に記載の重鎖可変領域および(23)に記載の軽鎖可変領域を含む抗体。
(25)配列番号:1に記載(HCDR1)のアミノ酸配列において1番目のSerが他のアミノ酸に置換されたCDR1を有する重鎖可変領域を含む抗体。
置換後のアミノ酸は特に限定されないが、Aspへの置換が好ましい。
配列番号:1に記載のアミノ酸配列において1番目のSerがAspへ置換された配列を配列番号:28に示す。
(26)配列番号:2に記載のアミノ酸配列において16番目のSerが他のアミノ酸に置換されたCDR2を有する重鎖可変領域を含む抗体。
置換後のアミノ酸は特に限定されないが、Glyへの置換が好ましい。
配列番号:2に記載のアミノ酸配列において16番目のSerがGlyへ置換された配列を配列番号:99に示す。
(27)配列番号:2に記載(HCDR2)のアミノ酸配列において9番目のThrおよび16番目のSerが他のアミノ酸に置換されたCDR2を有する重鎖可変領域を含む抗体。
置換後のアミノ酸は特に限定されないが、9番目のThrはAsn、16番目のSerはGlyへの置換が好ましい。
配列番号:2に記載のアミノ酸配列において9番目のThrがAsn、16番目のSerがGlyへ置換された配列を配列番号:100に示す。
(28)配列番号:4に記載(LCDR1)のアミノ酸配列において1番目のArgが他のアミノ酸に置換されたCDR1を有する軽鎖可変領域を含む抗体。
置換後のアミノ酸は特に限定されないが、Glnへの置換が好ましい。
配列番号:4に記載のアミノ酸配列において1番目のArgがGlnへ置換された配列を配列番号:101に示す。
(29)配列番号:5に記載のアミノ酸配列において4番目のArgが他のアミノ酸に置換されたCDR2を有する軽鎖可変領域を含む抗体。
置換後のアミノ酸は特に限定されないが、Gluへの置換が好ましい。
配列番号:5に記載のアミノ酸配列において4番目のArgがGluへ置換された配列を配列番号:102に示す。
(30)配列番号:5に記載(LCDR2)のアミノ酸配列において2番目のThrおよび4番目のArgが他のアミノ酸に置換されたCDR2を有する軽鎖可変領域を含む抗体。
置換後のアミノ酸は特に限定されないが、2番目のThrはGly、4番目のArgはGluへの置換が好ましい。
配列番号:5に記載のアミノ酸配列において2番目のThrがGly、4番目のArgがGluへ置換された配列を配列番号:103に示す。
(31)配列番号:6に記載(LCDR3)のアミノ酸配列において5番目のThrが他のアミノ酸に置換されたCDR3を有する軽鎖可変領域を含む抗体。
置換後のアミノ酸は特に限定されないが、Serへの置換が好ましい。
配列番号:6に記載のアミノ酸配列において5番目のThrがSerへ置換された配列を配列番号:77に示す。
(32)(25)および(27)に記載のアミノ酸置換が行われた重鎖可変領域を含む抗体。
(33)(28)、(30)および(31)に記載のアミノ酸置換が行われた軽鎖可変領域を含む抗体。
(34)(32)に記載の重鎖可変領域と(33)に記載の軽鎖可変領域を含む抗体。
(35)配列番号:104に記載(H53/L28のVH)のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域を含む抗体。
(36)配列番号:105に記載(H53/L28のVL)のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域を含む抗体。
(37)(35)に記載の重鎖可変領域および(36)に記載の軽鎖可変領域を有する抗体。
【0203】
上述の(1)~(37)のいずれかに記載のアミノ酸置換はヒト化PM-1抗体に対して行われることが好ましい。本発明は少なくとも上述の(1)~(37)のいずれかに記載のアミノ酸置換を含む抗体及び該抗体の製造方法を提供する。従って本発明の抗体には、上述の(1)~(37)のいずれかに記載のアミノ酸置換に加え、上述の(1)~(37)に記載のアミノ酸置換以外のアミノ酸置換を含む抗体も含まれる。また本発明の抗体には、上述の(1)~(37)のいずれかに記載のアミノ酸置換が複数組み合わされた抗体も含まれる。上述の(1)~(37)に記載のアミノ酸置換としては、例えば、上述のFRおよびCDRのアミノ酸配列の置換が挙げられる。上述の(1)~(37)に記載のアミノ酸置換以外のアミノ酸置換としては、上述以外のFRおよびCDR配列の置換、欠失、付加および/または挿入等が挙げられる。また、定常領域のアミノ酸配列の置換、欠失、付加および/または挿入等が挙げられる。
さらに、上述のアミノ酸改変以外の、抗IL-6レセプター抗体の活性を低下させることなく等電点を低下させる改変としては、例えば、配列番号:2に記載のアミノ酸配列において15番目のLysおよび/または16番目のSerを他のアミノ酸に置換する改変が挙げられる。置換後のアミノ酸は特に限定されないが、15番目のLysはGlnに、16番目のSerはAspに置換することが好ましい。配列番号:2のアミノ酸配列において15番目のLysがGlnに、16番目のSerがAspに置換された配列を配列番号:121に示す。又、このようなアミノ酸置換は配列番号:100に記載のアミノ酸配列に対して行われてもよい。配列番号:100のアミノ酸配列において、15番目のLysがGlnに、16番目のGlyがAspに置換された配列を配列番号:122に示す。従って、本発明は配列番号:2または配列番号100のアミノ酸配列において15番目のLysおよび/または16番目のSerが他のアミノ酸に置換されたCDR2を有する重鎖可変領域を含む抗体を提供する。
さらに、等電点を低下させる他の改変としては、配列番号:4に記載のアミノ酸配列において4番目のGlnを他のアミノ酸に置換する改変が挙げられる。置換後のアミノ酸は特に限定されないがGluへの置換が好ましい。配列番号:4のアミノ酸配列において、4番目のGlnがGluに置換されたアミノ酸配列を配列番号:123に示す。又、このアミノ酸置換は配列番号:101のアミノ酸配列に対して行われてもよい。配列番号:101のアミノ酸配列において4番目のGlnがGluに置換されたアミノ酸配列を配列番号:124に示す。従って、本発明は配列番号:4または配列番号101のアミノ酸配列において4番目のGlnが他のアミノ酸に置換されたCDR1を有する軽鎖可変領域を含む抗体を提供する。
さらに、等電点を低下させる他の改変として、配列番号:5に記載のアミノ酸配列において6番目のHisを他のアミノ酸に置換する改変が上げられる。置換後のアミノ酸は特に限定されないがGluへの置換が好ましい。配列番号:5に記載のアミノ酸配列において6番目のHisがGluに置換されたアミノ酸配列を配列番号:125に示す。又、このアミノ酸置換は配列番号:103のアミノ酸配列に対して行われてもよい。配列番号:103のアミノ酸配列において6番目のHisがGluに置換されたアミノ酸配列を配列番号:126に示す。従って、本発明は配列番号:5または配列番号:103のアミノ酸配列において6番目のHisが他のアミノ酸に置換されたCDR2を有する軽鎖可変領域を含む抗体を提供する。
さらに、配列番号:90に記載の重鎖FR3のアミノ酸配列において、免疫原性リスクを低減させる改変として、27番目(KabatナンバリングH89)のAlaをValに置換する改変を挙げることができる。配列番号:90に記載のアミノ酸配列において27番目のAlaがValに置換されたアミノ酸配列を配列番号:127に示す。従って、本発明は配列番号:90のアミノ酸配列において27番目のAlaがValに置換されたFR3を有する重鎖可変領域を含む抗体を提供する。
また、配列番号:9または配列番号:90に記載の重鎖FR3のアミノ酸配列において唯一残存するマウス配列である6番目(KabatナンバリングH71)のArgに関して、H71がArgで保存されているヒトVH1サブクラス(配列番号:128)、あるいは、ヒトVH3サブクラス(配列番号:129)のヒト配列をFR3配列として用いることで、フレームワークとしては完全にヒト配列である抗ヒトIL-6レセプター抗体を作製可能であると考えられる。従って、本発明は配列番号:128または配列番号:129に記載のFR3を有する重鎖可変領域を含む抗体を提供する。
さらに、配列番号:10に記載の重鎖FR4のアミノ酸配列において、安定性を向上させる改変として、5番目(KabatナンバリングH107)のSerをIleに置換する改変を挙げることができる。配列番号:10に記載のアミノ酸配列において5番目のSerがIleに置換されたアミノ酸配列を配列番号:130に示す。又、このアミノ酸配列は配列番号:91のアミノ酸配列に対して行われてもよい。配列番号:91に記載のアミノ酸配列において5番目のSerがIleに置換されたアミノ酸配列を配列番号:131に示す。従って、本発明は配列番号:10または配列番号:91のアミノ酸配列において5番目のSerがIleに置換されたFR4を有する重鎖可変領域を含む抗体を提供する。
このようなアミノ酸置換はヒト化PM-1抗体、H53/L28(配列番号:104の重鎖可変領域、配列番号:105の軽鎖可変領域を含む抗体)、あるいはPF1抗体(配列番号:22の重鎖可変領域、配列番号:23の軽鎖可変領域を含む抗体)に対して行われることが好ましい。本発明は少なくともこのようなアミノ酸置換を含む抗体及び該抗体の製造方法を提供する。従って本発明の抗体には、このようなアミノ酸置換に加え、上述の(1)~(37)に記載のアミノ酸置換および/または上述の(1)~(37)以外のアミノ酸置換を含む抗体も含まれる。上述の(1)~(37)に記載のアミノ酸置換以外のアミノ酸置換としては、上述以外のFRおよびCDR配列の置換、欠失、付加および/または挿入等が挙げられる。また、定常領域のアミノ酸配列の置換、欠失、付加および/または挿入等が挙げられる。
【0204】
<等電点の低い抗ヒトIL-6レセプター抗体>
本発明はさらに等電点の低い抗IL-6レセプター抗体を提供する。本発明の等電点の低い抗体には全長抗体の実測等電点の低い抗体および可変領域(VH/VL)の理論等電点の低い抗体が含まれる。
本発明において全長抗体の実測等電点の低い抗IL-6レセプター抗体とは、通常、実測等電点が7.5以下の抗体であり、好ましくは実測等電点が7.0以下の抗体であり、さらに好ましくは実測等電点が6.0以下の抗体である。実測等電点は当業者に公知の方法で測定することが可能であり、例えば、非変性ゲル等電点電気泳動やキャピラリー等電点電気泳動等の方法により測定することが可能である。
本発明において可変領域の理論等電点の低い抗IL-6レセプター抗体とは、通常、理論等電点が5.5以下の抗体であり、好ましくは理論等電点が5.0以下の抗体であり、さらに好ましくは理論等電点が4.0以下の抗体である。理論等電点は当業者に公知の方法により算出することが可能であり、例えば、GENETYX(GENETYX CORPORATION)等のソフトを用いることにより可変領域のVHおよびVLの理論等電点を算出することが可能である。
本発明の等電点が低い抗IL-6レセプター抗体において、導入されるアミノ酸置換は特に限定されないが、例えば、上述のアミノ酸置換が挙げられる。このような等電点が低い抗IL-6レセプター抗体は血漿中での滞留性が向上していると考えられる。
IL-6レセプターは特に限定されないが、ヒトIL-6レセプターが好ましい。
【0205】
<高濃度において安定な抗ヒトIL-6レセプター抗体>
さらに本発明は高濃度において安定な抗IL-6レセプター抗体を提供する。
本発明において"高濃度において安定"とは、皮下投与に適したpH6.5~7.0の範囲内の適切に選択された緩衝液条件(例えば、20mM histidine-HCl, 150mM NaCl)において、抗IL-6レセプター抗体100mg/mLの高濃度抗体溶液の25℃での1ヶ月あたりの会合体比率(ゲルろ過クロマトグラフィー上の会合体ピークエリア/トータルピークエリア×100)の増加が0.3%以下、好ましくは0.2%以下、さらに好ましくは0.1%以下であることを意味する。なお、抗IL-6レセプター抗体の濃度は100mg/mL以上であればよく、例えば、200mg/mLや300mg/mLなどであってもよい。
本発明の高濃度において安定な抗IL-6レセプター抗体は、特に限定されないが、例えば上述のアミノ酸置換等により作製することが可能である。
IL-6レセプターは特に限定されないが、ヒトIL-6レセプターが好ましい。
【0206】
本発明はまた、上述の(1)~(37)のいずれかに記載のアミノ酸置換が行われたヒト化PM-1抗体に、さらに上述の(a)~(y)のいずれかに記載の結合活性および/または中和活性を向上させるアミノ酸置換を行った抗体を提供する。このような抗体の一態様としては、配列番号:22に記載(PF1_H)のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域、および配列番号:23に記載(PF1_L)のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域を有する抗体(PF1)が挙げられるが、これに限定されない。
【0207】
さらに本発明は以下の抗体の(A)~(I)いずれかに記載の抗IL-6受容体抗体を提供する。
(A) 配列番号:165に記載のアミノ酸配列(VH5-M83のCDR1)を有するCDR1、配列番号:166に記載のアミノ酸配列(VH5-M83のCDR2)を有するCDR2、配列番号:167に記載のアミノ酸配列(VH5-M83のCDR3)を有するCDR3を有する重鎖可変領域、
(B) 配列番号:101に記載のアミノ酸配列(VL5のCDR1)を有するCDR1、配列番号:168に記載のアミノ酸配列(VL5のCDR2)を有するCDR2、配列番号:79に記載のアミノ酸配列(VL5のCDR3)を有するCDR3を有する軽鎖可変領域、
(C) (A)の重鎖可変領域および(B)の軽鎖可変領域を含む抗体、
(D) 配列番号:169に記載のアミノ酸配列(VH3-M73のCDR1)を有するCDR1、配列番号:170に記載のアミノ酸配列(VH3-M73のCDR2)を有するCDR2、配列番号:171に記載のアミノ酸配列(VH3-M73のCDR3)を有するCDR3を有する重鎖可変領域、
(E) 配列番号:172に記載のアミノ酸配列(VL3のCDR1)を有するCDR1、配列番号:173に記載のアミノ酸配列(VL3のCDR2)を有するCDR2、配列番号:79に記載のアミノ酸配列(VL3のCDR3)を有するCDR3を有する軽鎖可変領域、
(F) (D)の重鎖可変領域および(E)の軽鎖可変領域を有する含む抗体、
(G) 配列番号:169に記載のアミノ酸配列(VH4-M73のCDR1)を有するCDR1、配列番号:174に記載のアミノ酸配列(VH4-M73のCDR2)を有するCDR2、配列番号:171に記載のアミノ酸配列(VH4-M73のCDR3)を有するCDR3を有する重鎖可変領域、
(H) 配列番号:175に記載のアミノ酸配列(VL1のCDR1)を有するCDR1、配列番号:173に記載のアミノ酸配列(VL1のCDR2)を有するCDR2、配列番号:79に記載のアミノ酸配列(VL1のCDR3)を有するCDR3を有する軽鎖可変領域、
(I) (G)の重鎖可変領域および(H)の軽鎖可変領域を含む抗体。
【0208】
さらに本発明は以下の(a)~(q)いずれかに記載の抗IL-6受容体抗体を提供する。
(a) 配列番号:159に記載のアミノ酸配列(H96-IgG1可変領域)を有する重鎖可変領域を含む抗体、
(b) 配列番号:159に記載のアミノ酸配列(H96-IgG1可変領域)において、35番目のTrp、51番目のTyr、63番目のSer、65番目のLys、66番目のGly、99番目のVal、103番目のIle、108番目のTyr、111番目のGlu、113番目のThrのうち少なくとも1つのアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列を有する重鎖可変領域を含む抗体、
(c) 配列番号:159に記載のアミノ酸配列(H96-IgG1可変領域)において、65番目のLys、66番目のGly、99番目のVal、103番目のIle、111番目のGlu、113番目のThrが他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列を有する重鎖可変領域を含む抗体、
(d) 配列番号:159に記載のアミノ酸配列(H96-IgG1可変領域)において、35番目のTrp、51番目のTyr、63番目のSer、65番目のLys、66番目のGly、99番目のVal、103番目のIle、108番目のTyrが他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列を有する重鎖可変領域を含む抗体、
(e) 配列番号:160に記載のアミノ酸配列(F2H-IgG1可変領域)を有する重鎖可変領域を含む抗体、
(f) 配列番号:161に記載のアミノ酸配列(VH5-M83可変領域)を有する重鎖可変領域を含む抗体、
(g) 配列番号:23に記載のアミノ酸配列(PF1L)において27番目のGln及び/又は55番目のHisが他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域を有する抗体、
(h) 配列番号:162に記載のアミノ酸配列(L39可変領域)を有する軽鎖可変領域を含む抗体、
(i) 配列番号:163に記載のアミノ酸配列(VL5-kappa可変領域)を有する軽鎖可変領域を含む抗体、
(j) 配列番号:176に記載のアミノ酸配列(VH3-M73可変領域)を有する重鎖可変領域を含む抗体、
(k) 配列番号:178に記載のアミノ酸配列(VH4-M73可変領域)を有する重鎖可変領域を含む抗体、
(l) 配列番号:177に記載のアミノ酸配列(VL3-kappa可変領域)を有する軽鎖可変領域を含む抗体、
(m) 配列番号:179に記載のアミノ酸配列(VL1-kappa可変領域)を有する軽鎖可変領域を含む抗体、
(n) (e)の重鎖可変領域と(h)の軽鎖可変領域を含む抗体、
(o) (f)の重鎖可変領域と(i)の軽鎖可変領域を含む抗体(FV5-M83の可変領域組み合わせ)、
(p) (j)の重鎖可変領域と(l)の軽鎖可変領域を含む抗体(FV4-M73の可変領域組み合わせ)、
(q) (k)の重鎖可変領域と(m)の軽鎖可変領域を含む抗体(FV3-M73の可変領域組み合わせ)。
【0209】
上述の(a)~(d)の重鎖可変領域のアミノ酸置換において、置換後のアミノ酸は特に限定されないが、35番目のTrpはVal、51番目のTyrはPhe、63番目のSerはThr、65番目のLysはGln、66番目のGlyはAsp、99番目のValはLeu、103番目のIleはAla、108番目のTyrはVal、111番目のGluはGln、113番目のThrはIleに置換されることが好ましい。又、上述の(g)の軽鎖可変領域のアミノ酸置換において、置換後のアミノ酸は特に限定されないが、27番目のGlnはGluに、55番目のHisはGluに置換されることが好ましい。又、上述のアミノ酸置換以外のアミノ酸の置換、欠失、挿入及び/又は付加などが行われてもよい。
【0210】
本発明の抗体の定常領域は特に限定されず、如何なる定常領域が用いられてもよい。例えば、IgG1、IgG2、IgG4などの天然配列を有する定常領域や、天然配列を有する定常領域中のアミノ酸の置換、欠失、付加及び/又は挿入などを行うことにより作製された改変型の定常領域などを用いることができる。改変型の定常領域の例としては、後述する定常領域を挙げることができる。
又、上述の本発明の可変領域を用いた抗体の例として、以下の抗体を挙げることができる。
(1) 配列番号:134に記載のアミノ酸配列(H96-IgG1)を有する重鎖を含む抗体、
(2) 配列番号:135に記載のアミノ酸配列(F2H-IgG1)を有する重鎖を含む抗体、
(3) 配列番号:137に記載のアミノ酸配列(VH5-IgG1)を有する重鎖を含む抗体、
(4) 配列番号:139に記載のアミノ酸配列(VH5-M83)を有する重鎖を含む抗体、
(5) 配列番号:136に記載のアミノ酸配列(L39)を有する軽鎖を含む抗体、
(6) 配列番号:138に記載のアミノ酸配列(VL5-kappa)を有する軽鎖を含む抗体、
(7) 配列番号:180に記載のアミノ酸配列(VH3-M73)を有する重鎖を含む抗体、
(8) 配列番号:182に記載のアミノ酸配列(VH4-M73)を有する重鎖を含む抗体、
(9) 配列番号:181に記載のアミノ酸配列(VL3-kappa)を有する軽鎖を含む抗体、
(10) 配列番号:183に記載のアミノ酸配列(VL1-kappa)を有する軽鎖を含む抗体、
(11) (2)の重鎖と(5)の軽鎖を含む抗体、
(12) (3)の重鎖と(6)の軽鎖を含む抗体、
(13) (4)の重鎖と(6)の軽鎖を含む抗体(FV5-M83)、
(14) (7)の重鎖と(9)の軽鎖を含む抗体(FV4-M73)、
(15) (8)の重鎖と(10)の軽鎖を含む抗体(FV3-M73)、
(16) (1)~(15)いずれかに記載の抗体と同等の活性を有する抗体。
ここで、「同等の活性を有する」とは抗原への結合活性及び/又は中和活性が同等であることを言う。本発明において同等の活性とは必ずしも同一の活性である必要はなく、例えば50%以上の活性、好ましくは70%以上の活性、さらに好ましくは90%以上の活性を有していることをいう。
【0211】
さらに、本発明は以下の(i)~(xxii)いずれかに記載のCDRまたはFRを提供する。
(i) 配列番号:84に記載のアミノ酸配列を有する重鎖FR1(VH5の重鎖FR1)
(ii) 配列番号:186に記載のアミノ酸配列を有する重鎖FR1(VH3、VH4の重鎖FR1)
(iii) 配列番号:85に記載のアミノ酸配列を有する重鎖FR2(VH3、VH4、VH5の重鎖FR2)
(iv) 配列番号:184に記載のアミノ酸配列を有する重鎖FR3(VH3、VH4、VH5の重鎖FR3)
(v) 配列番号:133に記載のアミノ酸配列を有する重鎖FR4(VH3、VH4、VH5の重鎖FR4)
(vi) 配列番号:92に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖FR1(VL1、VL3、VL5の軽鎖FR1)
(vii) 配列番号:93に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖FR2(VL1、VL3、VL5の軽鎖FR2)
(viii) 配列番号:97に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖FR3(VL1、VL3、VL5の軽鎖FR3)
(ix) 配列番号:98に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖FR4(VL1、VL3、VL5の軽鎖FR4)
(x) 配列番号:169に記載のアミノ酸配列を有する重鎖CDR1(VH3、VH4の重鎖CDR1)
(xi) 配列番号:165に記載のアミノ酸配列を有する重鎖CDR1(VH5の重鎖CDR1)、
(xii) 配列番号:170に記載のアミノ酸配列を有する重鎖CDR2(VH3の重鎖CDR2)、
(xiii) 配列番号:174に記載のアミノ酸配列を有する重鎖CDR2(VH4の重鎖CDR2)、
(xiv) 配列番号:166に記載のアミノ酸配列を有する重鎖CDR2(VH5の重鎖CDR2)、
(xv) 配列番号:171に記載のアミノ酸配列を有する重鎖CDR3(VH3、VH4の重鎖CDR3)、
(xvi) 配列番号:167に記載のアミノ酸配列を有する重鎖CDR3(VH5の重鎖CDR3)、
(xvii) 配列番号:175に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖CDR1(VL1の軽鎖CDR1)、
(xviii) 配列番号:172に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖CDR1(VL3の軽鎖CDR1)、
(xix) 配列番号:101に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖CDR1(VL5の軽鎖CDR1)、
(xx) 配列番号:173に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖CDR2(VL1、VL3の軽鎖CDR2)、
(xxi) 配列番号:168に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖CDR2(VL5の軽鎖CDR2)、
(xxii) 配列番号:79に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖CDR3(VL1、VL3、VL5の軽鎖CDR3)
【0212】
また本発明の抗体には、上述のいずれかに記載のアミノ酸置換を含む抗体の断片やその修飾物も含まれる。例えば、抗体の断片としては、Fab、F(ab')2、Fv又はH鎖とL鎖のFvを適当なリンカーで連結させたシングルチェインFv(scFv)、H鎖単独ドメインやL鎖単独ドメイン(例えば、Nat Biotechnol. 2005 Sep;23(9):1126-36.)、Unibody(WO2007059782 A1)、SMIP(WO2007014278 A2)が挙げられる。また抗体の由来としては、特に限定されないが、ヒト抗体、マウス抗体、ラット抗体、ウサギ抗体などを挙げることができる。又、本発明の抗体はキメラ抗体、ヒト化抗体、完全ヒト化抗体等であってもよい。
具体的には、抗体を酵素、例えば、パパイン、ペプシンで処理し抗体断片を生成させるか、又は、これら抗体断片をコードする遺伝子を構築し、これを発現ベクターに導入した後、適当な宿主細胞で発現させる(例えば、Co, M.S. et al., J. Immunol. (1994) 152, 2968-2976、Better, M. & Horwitz, A. H. Methods in Enzymology (1989) 178, 476-496 、Pluckthun, A. & Skerra, A. Methods in Enzymology (1989) 178, 497-515 、Lamoyi, E., Methods in Enzymology (1989) 121, 652-663 、Rousseaux, J. et al., Methods in Enzymology (1989) 121, 663-66、Bird, R. E. et al., TIBTECH (1991) 9, 132-137参照)。
【0213】
scFvは、抗体のH鎖V領域とL鎖V領域を連結することにより得られる。このscFvにおいて、H鎖V領域とL鎖V領域はリンカー、好ましくは、ペプチドリンカーを介して連結される(Huston, J. S. et al.、Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. (1988) 85, 5879-5883)。scFvにおけるH鎖V領域およびL鎖V領域は、上記抗体として記載されたもののいずれの由来であってもよい。V領域を連結するペプチドリンカーとしては、例えばアミノ酸12-19残基からなる任意の一本鎖ペプチドが用いられる。
【0214】
<抗体定常領域>
本発明はまた、以下(i)~(xxi)のいずれかに記載のアミノ酸が置換され改良された抗体定常領域を提供する。定常領域とはIgG1、IgG2、IgG4タイプの定常領域のことを意味する。ヒトIgG1定常領域、ヒトIgG2定常領域およびヒトIgG4定常領域のアミノ酸配列は公知である(ヒトIgG1定常領域:配列番号:19、ヒトIgG2定常領域:配列番号:20、ヒトIgG4定常領域:配列番号:21)。なお、ヒトIgG4定常領域は、ヒンジ部分の安定性を改善するための改変(Mol Immunol. 1993 Jan;30(1):105-8.)を導入した配列である。さらに本発明は、該アミノ酸が置換された抗体定常領域を含む抗体を提供する。抗体定常領域は好ましくはヒト抗体定常領域である。
なお本発明のアミノ酸が置換された抗体定常領域は、下記(i)~(xxi)のいずれかに記載のアミノ酸置換を含むものである限り、他のアミノ酸置換や修飾を含んでもよい。従って、本発明においては、配列番号:20に記載のアミノ酸配列から既に1又は複数のアミノ酸が置換および/または修飾されたIgG2定常領域に対して本発明のアミノ酸置換を行う場合、又は本発明のアミノ酸置換を行った後に1または複数のアミノ酸を置換および/または修飾する場合も、配列番号:20に記載のアミノ酸配列を有するIgG2定常領域に本発明のアミノ酸置換が行われたIgG2定常領域に該当する。配列番号:19に記載のアミノ酸配列を有するIgG1定常領域、配列番号:21に記載のIgG4定常領域についても同様である。
またEUナンバリング(Sequences of proteins of immunological interest, NIH Publication No.91-3242 を参照)の297番目の糖鎖は如何なる糖鎖構造であってもよく、また糖鎖が結合していなくてもよい(例えば大腸菌など、糖鎖が付加されない宿主細胞で生産された定常領域など)。
【0215】
(i)IgG2定常領域の酸性での安定性改善
本発明のアミノ酸が置換されたIgG2定常領域の一態様としては、配列番号:20に記載のアミノ酸配列を有するIgG2定常領域において、276番目(EUナンバリングの397番目)のMetが他のアミノ酸に置換されたIgG2定常領域が挙げられる。置換後のアミノ酸は特に限定されないが、Valへの置換であることが好ましい。配列番号:20に記載のアミノ酸配列において276番目(EUナンバリングの397番目)のMetを他のアミノ酸に置換することにより、抗体の酸性条件化での安定性を向上させることが可能である。
【0216】
(ii)IgG2定常領域のヘテロジェニティーの改善
また本発明のアミノ酸が置換されたIgG2定常領域の一態様としては、配列番号:20に記載のアミノ酸配列を有するIgG2定常領域において、14番目(EUナンバリング131番目)のCys、16番目(EUナンバリングの133番目)のArg、および、102番目(EUナンバリングの219番目)のCysが他のアミノ酸に置換されたIgG2定常領域が挙げられる。置換後のアミノ酸は特に限定されないが、14番目(EUナンバリング131番目)のCysはSerに置換されることが好ましく、16番目(EUナンバリングの133番目)のArgはLysに置換されることが好ましく、102番目(EUナンバリングの219番目)のCysはSerに置換されることが好ましい(IgG2-SKSC)。
これらの置換を行うことにより、IgG2のヒンジ領域に由来するヘテロジェニティーを低減することが可能である。本発明のアミノ酸が置換されたIgG2定常領域には、上記3種類のアミノ酸置換のうち少なくとも1種類のアミノ酸が置換されたIgG2定常領域が含まれるが、14番目のCysと102番目のCysが他のアミノ酸に置換されていること、又は上記3種類全てのアミノ酸が置換されていることが好ましい。
【0217】
(iii)IgG2定常領域のFcγRへの結合低減
また本発明のアミノ酸が置換されたIgG2定常領域の一態様として、配列番号:20に記載のアミノ酸配列を有するIgG2定常領域において、209番目(EU330)のAlaがSerに、210番目(EU331)のProがSerに、および/または218番目(EU339)のThrがAlaに置換されたIgG2定常領域を提供する。209番目(EU330)のAla、210番目(EU331)のProの置換によりFcγレセプターへの結合を低下させることが可能であることはすでに報告されているが(Eur J Immunol. 1999 Aug;29(8):2613-24.)、この改変ではT-cellエピトープになりうる非ヒト由来のペプチドが出現するため、免疫原性リスクの点からは好ましくない。そこで、218番目(EU339)のThrのAlaへの置換を同時に行うことにより、T-cellエピトープになりうる9~12アミノ酸としてはヒト由来のペプチドのみを用いたままIgG2のFcγレセプターへの結合を低下させることが可能である。
本発明のアミノ酸が置換されたIgG2定常領域は、上述の3箇所のアミノ酸置換のうち少なくとも1箇所のアミノ酸が置換されていればよいが、好ましくは上述の3箇所全てのアミノ酸が置換されていることが好ましい。従って、本発明のアミノ酸が置換されたIgG2定常領域の好ましい態様として、配列番号:20に記載のアミノ酸配列を有するIgG2定常領域において、209番目(EU330)のAlaがSerに置換され、210番目(EU331)のProがSerに置換され、かつ218番目(EU339)のThrがAlaに置換されたIgG2定常領域を挙げることができる。
【0218】
(iv)IgG2定常領域のC末端ヘテロジェニティーの改善
本発明は、配列番号:20に記載のアミノ酸配列を有するIgG2定常領域において、325番目(EUナンバリングの446番目)のGlyおよび326番目(EUナンバリングの447番目)のLysが欠損したIgG2定常領域を提供する。これらのアミノ酸を両方欠損させることにより、初めて抗体のH鎖C末端に由来するヘテロジェニティーを低減することが可能である。
【0219】
(v)IgG2定常領域の改変による血漿中滞留性の向上
また本発明のアミノ酸が置換されたIgG2定常領域の一態様として、配列番号:20に記載のアミノ酸配列を有するIgG2定常領域において、147番目(EUナンバリングの268番目)のHis、234番目(EUナンバリングの355番目)のArg、298番目(EUナンバリングの419番目)のGlnを他のアミノ酸に置換されたIgG2定常領域が挙げられる。これらのアミノ酸置換により抗体の血漿中滞留性を向上することが可能である。置換後のアミノ酸は特に限定されないが、147番目(EUナンバリング268番目)のHisはGlnに置換されることが好ましく、234番目(EUナンバリングの355番目)のArgはGlnに置換されることが好ましく、298番目(EUナンバリングの419番目)のGlnはGluに置換されることが好ましい。本発明のアミノ酸が置換されたIgG2定常領域には、上記3種類のアミノ酸置換のうち少なくとも1種類のアミノ酸が置換されたIgG2定常領域が含まれるが、上記3種類全てのアミノ酸が置換されていることが好ましい。
【0220】
(vi)IgG4定常領域の酸性での安定性改善
本発明は、配列番号:21に記載のアミノ酸配列を有するIgG4定常領域において、289番目(EUナンバリング409番目)のArgが他のアミノ酸に置換されたIgG4定常領域を提供する。置換後のアミノ酸は特に限定されないが、Lysへの置換であることが好ましい。配列番号:21に記載のアミノ酸配列において289番目(EUナンバリングの409番目)のArgを他のアミノ酸に置換することにより、抗体の酸性条件化での安定性を向上させることが可能である。
【0221】
(vii)IgG4定常領域のC末端ヘテロジェニティーの改善
本発明は、配列番号:21に記載のアミノ酸配列を有するIgG4定常領域において、326番目(EUナンバリングの446番目)のGlyおよび327番目(EUナンバリングの447番目)のLysが欠損したIgG4定常領域を提供する。これらのアミノ酸を両方欠損させることにより、初めて抗体のH鎖C末端に由来するヘテロジェニティーを低減することが可能である。
【0222】
(viii)IgG1定常領域のC末端ヘテロジェニティーの改善
本発明は、配列番号:19に記載のアミノ酸配列を有するIgG1定常領域において、329番目(EUナンバリングの446番目)のGlyおよび330番目(EUナンバリングの447番目)のLysが欠損したIgG1定常領域を提供する。これらのアミノ酸を両方欠損させることにより、初めて抗体のH鎖C末端に由来するヘテロジェニティーを低減することが可能である。
【0223】
(ix)
本発明は、配列番号:19に記載のアミノ酸配列を有するIgG1定常領域において、317番目(EUナンバリングの434番目)のAsnが他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列を有するIgG1定常領域を提供する。
置換後のアミノ酸は特に限定されないが、Alaへの置換が好ましい。
【0224】
(x)
本発明は、配列番号:20に記載のアミノ酸配列において、209番目(EUナンバリング330番目)のAla、210番目(EUナンバリング331番目)のPro、218番目(EUナンバリング339番目)のThr、276番目(EUナンバリング397番目)のMet、14番目(EUナンバリング131番目)のCys、16番目(EUナンバリング133番目)のArg、102番目(EUナンバリング219番目)のCys、20番目(EUナンバリング137番目)のGluおよび21番目(EUナンバリング138番目)のSerが他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列を有するIgG2定常領域を提供する。
置換後のアミノ酸は特に限定されないが、209番目のAlaはSerに、210番目のProはSerに、218番目のThrはAlaに、276番目のMetはValに、14番目のCysはSerに、16番目のArgはLysに、102番目のCysはSerに、20番目のGluはGlyに、21番目のSerはGlyに置換することが好ましい。
【0225】
(xi)
本発明は、配列番号:20に記載のアミノ酸配列において、209番目(EUナンバリング330番目)のAla、210番目(EUナンバリング331番目)のPro、218番目(EUナンバリング339番目)のThr、276番目(EUナンバリング397番目)のMet、14番目(EUナンバリング131番目)のCys、16番目(EUナンバリング133番目)のArg、102番目(EUナンバリング219番目)のCys、20番目(EUナンバリング137番目)のGluおよび21番目(EUナンバリング138番目)のSerが他のアミノ酸に置換され、かつ325番目(EUナンバリング446番目)のGlyおよび326番目(EUナンバリング447番目)のLysが欠損したアミノ酸配列を有するIgG2定常領域を提供する。
置換後のアミノ酸は特に限定されないが、209番目のAlaはSerに、210番目のProはSerに、218番目のThrはAlaに、276番目のMetはValに、14番目のCysはSerに、16番目のArgはLysに、102番目のCysはSerに、20番目のGluはGlyに、21番目のSerはGlyに置換することが好ましい。
【0226】
(xii)
本発明は、配列番号:20に記載のアミノ酸配列において、276番目(EUナンバリング397番目)のMet、14番目(EUナンバリング131番目)のCys、16番目(EUナンバリング133番目)のArg、102番目(EUナンバリング219番目)のCys、20番目(EUナンバリング137番目)のGluおよび21番目(EUナンバリング138番目)のSerが他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列を有するIgG2定常領域を提供する。
置換後のアミノ酸は特に限定されないが、276番目のMetはValに、14番目のCysはSerに、16番目のArgはLysに、102番目のCysはSerに、20番目のGluはGlyに、21番目のSerはGlyに置換することが好ましい。
【0227】
(xiii)
本発明は、配列番号:20に記載のアミノ酸配列において、276番目(EUナンバリング397番目)のMet、14番目(EUナンバリング131番目)のCys、16番目(EUナンバリング133番目)のArg、102番目(EUナンバリング219番目)のCys、20番目(EUナンバリング137番目)のGluおよび21番目(EUナンバリング138番目)のSerが他のアミノ酸に置換され、かつ325番目(EUナンバリング446番目)のGlyおよび326番目(EUナンバリング447番目)のLysが欠損したアミノ酸配列を有するIgG2定常領域を提供する。
置換後のアミノ酸は特に限定されないが、276番目のMetはValに、14番目のCysはSerに、16番目のArgはLysに、102番目のCysはSerに、20番目のGluはGlyに、21番目のSerはGlyに置換することが好ましい。
【0228】
(xiv)
本発明は、配列番号:20に記載のアミノ酸配列において、14番目(EUナンバリング131番目)のCys、16番目(EUナンバリング133番目)のArg、102番目(EUナンバリング219番目)のCys、20番目(EUナンバリング137番目)のGlu、21番目(EUナンバリング138番目)のSer、147番目(EUナンバリング268番目)のHis、234番目(EUナンバリング355番目)のArgおよび298番目(EUナンバリング419番目)のGlnが他のアミノ酸に置換され、かつ325番目(EUナンバリング446番目)のGlyおよび326番目(EUナンバリング447番目)のLysが欠損したアミノ酸配列を有するIgG2定常領域を提供する。
置換後のアミノ酸は特に限定されないが、14番目のCysはSerに、16番目のArgはLysに、102番目のCysはSerに、20番目のGluはGlyに、21番目のSerはGlyに、147番目のHisはGlnに、234番目のArgはGlnに、298番目のGlnはGluに置換することが好ましい。
【0229】
(xv)
本発明は、配列番号:20に記載のアミノ酸配列において、14番目(EUナンバリング131番目)のCys、16番目(EUナンバリング133番目)のArg、102番目(EUナンバリング219番目)のCys、20番目(EUナンバリング137番目)のGlu、21番目(EUナンバリング138番目)のSer、147番目(EUナンバリング268番目)のHis、234番目(EUナンバリング355番目)のArg、298番目(EUナンバリング419番目)のGln、および313番目(EUナンバリング434番目)のAsnが他のアミノ酸に置換され、かつ325番目(EUナンバリング446番目)のGlyおよび326番目(EUナンバリング447番目)のLysが欠損したアミノ酸配列を有するIgG2定常領域を提供する。
置換後のアミノ酸は特に限定されないが、14番目のCysはSerに、16番目のArgはLysに、102番目のCysはSerに、20番目のGluはGlyに、21番目のSerはGlyに、147番目のHisはGlnに、234番目のArgはGlnに、298番目のGlnはGluに、313番目のAsnはAlaに置換されることが好ましい。
【0230】
(xvi)
本発明は、配列番号:21に記載のアミノ酸配列において、289番目(EUナンバリング409番目)のArg、14番目のCys、16番目のArg、20番目のGlu、21番目のSer、97番目のArg、100番目のSer、102番目のTyr、103番目のGly、104番目のProおよび105番目のPro(EUナンバリング131,133,137,138,214,217,219,220,221,222番目)、113番目のGlu、114番目のPheおよび115番目(EUナンバリング233,234,235番目)のLeuが他のアミノ酸に置換され、かつ116番目(EUナンバリング236番目)のGlyが欠損したアミノ酸配列を有するIgG4定常領域を提供する。
置換後のアミノ酸は特に限定されないが、14番目(EUナンバリング131)のCysはSerへ、16番目(EUナンバリング133)のArgはLysへ、20番目(EUナンバリング137)のGluはGlyへ、21番目(EUナンバリング138)のSerはGlyへ、97番目(EUナンバリング214)のArgはThrへ、100番目(EUナンバリング217)のSerはArgへ、102番目(EUナンバリング219)のTyrはSerへ、103番目(EUナンバリング220)のGlyはCysへ、104番目(EUナンバリング221)のProはValへ、105番目(EUナンバリング222)のProはGluへ、113番目(EUナンバリング233)のGluはProへ、114番目(EUナンバリング234)のPheはValへ、115番目(EUナンバリング235)のLeuはAlaへ、289番目(EUナンバリング409)のArgはLysへの置換が好ましい。
【0231】
(xvii)
本発明は、配列番号:21に記載のアミノ酸配列において、289番目(EUナンバリング409番目)のArg、14番目のCys、16番目のArg、20番目のGlu、21番目のSer、97番目のArg、100番目のSer、102番目のTyr、103番目のGly、104番目のProおよび105番目のPro(EUナンバリング131,133,137,138,214,217,219,220,221,222番目)、113番目のGlu、114番目のPheおよび115番目のLeu(EUナンバリング233,234,235番目)が他のアミノ酸に置換され、かつ116番目(EUナンバリング236番目)のGly、326番目(EUナンバリング446番目)のGlyおよび327番目(EUナンバリング447番目)のLysが欠損したアミノ酸配列を有するIgG4定常領域を提供する。
置換後のアミノ酸は特に限定されないが、14番目(EUナンバリング131)のCysはSerへ、16番目(EUナンバリング133)のArgはLysへ、20番目(EUナンバリング137)のGluはGlyへ、21番目(EUナンバリング138)のSerはGlyへ、97番目(EUナンバリング214)のArgはThrへ、100番目(EUナンバリング217)のSerはArgへ、102番目(EUナンバリング219)のTyrはSerへ、103番目(EUナンバリング220)のGlyはCysへ、104番目(EUナンバリング221)のProはValへ、105番目(EUナンバリング222)のProはGluへ、113番目(EUナンバリング233)のGluはProへ、114番目(EUナンバリング234)のPheはValへ、115番目(EUナンバリング235)のLeuはAlaへ、289番目(EUナンバリング409)のArgはLysへの置換が好ましい。
【0232】
(xviii)
本発明は、配列番号:19に記載のアミノ酸配列を有するIgG1定常領域において、317番目(EUナンバリングの434番目)のAsnが他のアミノ酸に置換され、かつ329番目(EUナンバリングの446番目)のGlyおよび330番目(EUナンバリングの447番目)のLysが欠損したアミノ酸配列を有するIgG1定常領域を提供する。
317番目(EUナンバリングの434番目)のAsnの置換後のアミノ酸は特に限定されないが、Alaへの置換が好ましい。
【0233】
(xix)
さらに本発明はヒンジ領域のヘテロジェニティーが改善され、および/またはFcγレセプターへの結合活性が低減したIgG2の好ましい態様として以下のIgG2を挙げることができる。
配列番号:20に記載のアミノ酸配列からなる定常領域を有するIgG2において、209番目のAla、210番目のPro、218番目のThr、14番目のCys、16番目のArg、102番目のCys、20番目Glu、21番目のSerが他のアミノ酸に置換された抗体。
置換後のアミノ酸は特に限定されないが、209番目(EUナンバリング330)のAlaをSer、210番目(EUナンバリング331)のProをSer、218番目(EUナンバリング339)のThrをAla、14番目(EUナンバリング131)のCysをSer、16番目(EUナンバリング133)のArgをLys、102番目(EUナンバリング219)のCysをSer、20番目(EUナンバリング137)のGluをGly、21番目(EUナンバリング138)のSerをGlyに置換することが好ましい。
このようなIgG2定常領域の例として、配列番号:191(M86)のアミノ酸配列を有するIgG2定常領域を挙げることができる。
又、本発明のIgG2定常領域の他の好ましい態様として、上述のIgG2定常領域において、C末端のヘテロジェニティーを低減させるためにさらに325番目のGlyおよび326番目のLysが欠損したIgG2定常領域を挙げることができる。このような抗体の例として、配列番号:192(M86ΔGK)のアミノ酸配列からなる定常領域を有するIgG2を挙げることができる。
【0234】
(xx)
さらに本発明はヒンジ領域のヘテロジェニティーが改善されたIgG2定常領域の好ましい態様として以下のIgG2定常領域を挙げることができる。
配列番号:20に記載のアミノ酸配列を有するIgG2定常領域において、14番目のCys、16番目のArg、102番目のCys、20番目のGlu、21番目のSerが他のアミノ酸に置換されたIgG2定常領域。
置換後のアミノ酸は特に限定されないが、14番目(EUナンバリング131)のCysをSer、16番目(EUナンバリング133)のArgをLys、102番目(EUナンバリング219)のCysをSer、20番目(EUナンバリング137)のGluをGly、21番目の(EUナンバリング138)のSerをGlyに置換することが好ましい。
このようなIgG2定常領域の例として、配列番号:193(M40)のアミノ酸配列を有するIgG2定常領域を挙げることができる。
又、本発明のIgG2定常領域の他の好ましい態様として、上述のIgG2定常領域において、さらに325番目のGlyおよび326番目のLysが欠損したIgG2定常領域を挙げることができる。このような抗体の例として、配列番号:194(M40ΔGK)のアミノ酸配列を有するIgG2定常領域を挙げることができる。
【0235】
(xxi)M14ΔGK、M17ΔGK、M11ΔGK、M31ΔGK、M58、M73、M83、M86ΔGK、M40ΔGK
本発明はまた、配列番号:24に記載のアミノ酸配列を有する抗体定常領域(M14ΔGK)を提供する。さらに本発明は配列番号:116に記載のアミノ酸配列を有する抗体定常領域(M17ΔGK)を提供する。さらに本発明は配列番号:25に記載のアミノ酸配列を有する抗体定常領域(M11ΔGK)を提供する。さらに本発明は配列番号:118に記載のアミノ酸配列を有する定常領域(M31ΔGK)を提供する。さらに本発明は配列番号:151に記載のアミノ酸配列を有する定常領域(M58)を提供する。さらに本発明は配列番号:153に記載のアミノ酸配列を有する定常領域を提供する(M73)。さらに本発明は配列番号:164に記載のアミノ酸配列を有する定常領域を提供する(M83)。さらに本発明は配列番号:192に記載のアミノ酸配列を有する定常領域を提供する(M86ΔGK)。さらに本発明は配列番号:194に記載のアミノ酸配列を有する定常領域を提供する(M40ΔGK)。これらの抗体定常領域は、Fcγレセプターへの結合活性の低下、免疫原性リスクの低減、酸性条件下での安定性の向上、ヘテロジェニティーの低減、血漿中滞留性の向上および/または、IgG1定常領域と比較した製剤中での高い安定性という性質を有する、最適化された抗体定常領域である。
【0236】
本発明は上記(i)~(xxi)のいずれかに記載の抗体定常領域を含む抗体を提供する。上述の抗体定常領域を有する限り、抗原の種類、抗体の由来などは限定されず、いかなる抗体でもよい。好ましい抗体の例としては、IL-6レセプターに結合する抗体を挙げることができる。又、他の好ましい抗体の例としてヒト化抗体を挙げることができる。このような抗体の例として、ヒト化PM1抗体の可変領域を有する抗体を挙げることができる。ヒト化PM1抗体の可変領域は上述のアミノ酸置換が行われていてもよいし、その他のアミノ酸の置換、欠失、付加および/または挿入が行われていてもよい。具体的な置換例としては、上述の(a)~(y)のアフィニティーを向上させる改変、(i)~(viii)の等電点を低下させる改変、後述の(α)~(ζ)の安定性を向上させる改変、免疫原性を低下させる改変が挙げられるが、これらに限定されることはない。
このような抗体の一態様としては、配列番号:113に記載(PF_1+M14ΔGK)のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域、および配列番号:23に記載(PF1_L)のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域を有する抗体(PF1)が挙げられるが(軽鎖定常領域はkappaであってもlamdaであってもそれらの改変体であってもよい)、これに限定されない。
また、上述の抗体定常領域および/または上述の抗体定常領域を含む抗体分子は、抗体様結合分子(scaffold分子)、生理活性ペプチド、結合ペプチド等をFc融合分子として結合させることも可能である。
【0237】
本発明の抗体は、実施例に記載の方法に加えて、例えば以下のようにして取得することも出来る。本発明の抗体を取得する一つの態様においては、まず、当業者に公知の抗IL-6レセプター抗体のCDR領域、FR領域、及び定常領域からなる群より選択される少なくとも1つの領域において、1又は複数のアミノ酸残基を、目的の他のアミノ酸に置換する。当業者に公知の抗IL-6レセプター抗体の取得方法に制限はない。CDR領域、FR領域、及び定常領域からなる群より選択される少なくとも1つの領域において、1又は複数のアミノ酸残基を目的の他のアミノ酸に置換する方法としては、例えば、部位特異的変異誘発法(Hashimoto-Gotoh, T, Mizuno, T, Ogasahara, Y, and Nakagawa, M. (1995) An oligodeoxyribonucleotide-directed dual amber method for site-directed mutagenesis. Gene 152, 271-275、Zoller, MJ, and Smith, M.(1983) Oligonucleotide-directed mutagenesis of DNA fragments cloned into M13 vectors.Methods Enzymol. 100, 468-500、Kramer,W, Drutsa,V, Jansen,HW, Kramer,B, Pflugfelder,M, and Fritz,HJ(1984) The gapped duplex DNA approach to oligonucleotide-directed mutation construction. Nucleic Acids Res. 12, 9441-9456、Kramer W, and Fritz HJ(1987) Oligonucleotide-directed construction of mutations via gapped duplex DNA Methods. Enzymol. 154, 350-367、Kunkel,TA(1985) Rapid and efficient site-specific mutagenesis without phenotypic selection.Proc Natl Acad Sci U S A. 82, 488-492)が挙げられる。該方法を用いて、抗体の所望のアミノ酸を目的の他のアミノ酸に置換することができる。他のアミノ酸に置換する方法としては、フレームワークシャッフリング(Mol Immunol. 2007 Apr;44(11):3049-60)およびCDR repair(US2006/0122377)等のライブラリー技術を用いることにより、適切なフレームワークおよびCDRにアミノ酸置換することができる。
【0238】
抗体を取得する為の別の態様としては、まず、当業者に周知な方法によって、IL-6レセプターに結合する抗体を得る。取得された抗体が非ヒト動物抗体であれば、ヒト化することもできる。次いで、取得された抗体が中和活性を有するか否かを当業者に周知な方法によって判定する。抗体の結合活性または中和活性は、例えば実施例に記載の方法で測定することができるが、この方法に限定されない。次いで、抗体のCDR領域、FR領域、及び定常領域からなる群より選択される少なくとも1つの領域中の1又は複数のアミノ酸残基を、目的の他のアミノ酸に置換する。
【0239】
より具体的には、本発明は、以下の(a)及び(b)の工程を含む、中和活性が増強された、結合活性が増強した、安定性が向上した、または免疫原性が低下した抗体の製造方法に関する。
(a)CDR領域、FR領域、及び定常領域からなる群より選択される少なくとも1つの領域中の1又は複数のアミノ酸残基が目的の他のアミノ酸に置換されたH鎖をコードするDNA、及びCDR領域及びFR領域からなる群より選択される少なくとも1つの領域中の1又は複数のアミノ酸残基が目的の他のアミノ酸に置換されたL鎖をコードするDNAを発現させる工程
(b)工程(a)の発現産物を回収する工程
【0240】
本発明の製造方法においては、まず、抗IL-6レセプター抗体の変異体のH鎖をコードするDNAであって、CDR領域、FR領域、及び定常領域からなる群より選択される少なくとも1つの領域中の1又は複数のアミノ酸残基が目的の他のアミノ酸に置換されたH鎖をコードするDNA、および抗IL-6レセプター抗体のL鎖をコードするDNAであって、CDR領域及びFR領域からなる群より選択される少なくとも1つの領域中の1又は複数のアミノ酸残基が目的の他のアミノ酸に置換されたL鎖をコードするDNAを発現させる。CDR領域、FR領域、及び定常領域からなる群より選択される少なくとも1つの領域中の1又は複数のアミノ酸残基が目的の他のアミノ酸に置換されたH鎖をコードするDNAは、例えば、野生型のH鎖をコードするDNAのCDR領域、FR領域、又は定常領域部分を取得し、該CDR領域、FR領域、及び定常領域からなる群より選択される少なくとも1つの領域中の特定のアミノ酸をコードするコドンが目的の他のアミノ酸をコードするよう、適宜置換を導入することによって得ることが出来る。また、CDR領域及びFR領域からなる群より選択される少なくとも1つの領域中の1又は複数のアミノ酸残基が目的の他のアミノ酸に置換されたL鎖をコードするDNAは、例えば、野生型のL鎖をコードするDNAのCDR領域及び/又はFR領域を取得し、該CDR領域、FR領域中の特定のアミノ酸をコードするコドンが目的の他のアミノ酸をコードするよう、適宜置換を導入することによって得ることが出来る。
【0241】
また、あらかじめ、野生型H鎖のCDR領域、FR領域、及び定常領域からなる群より選択される少なくとも1つの領域中の1又は複数のアミノ酸残基が目的の他のアミノ酸に置換されたタンパク質をコードするDNAを設計し、該DNAを化学的に合成することによって、CDR領域、FR領域、及び定常領域からなる群より選択される少なくとも1つの領域中の1又は複数のアミノ酸残基が目的の他のアミノ酸に置換されたH鎖をコードするDNAを得ることも可能である。またL鎖についても、野生型L鎖のCDR領域及び/又はFR領域の1又は複数のアミノ酸残基が目的の他のアミノ酸に置換されたタンパク質をコードするDNAを設計し、該DNAを化学的に合成することによって、CDR領域及び/又はFR領域の1又は複数のアミノ酸残基が目的の他のアミノ酸に置換されたL鎖をコードするDNAを得ることも可能である。
アミノ酸置換の種類としては、これに限定されるものではないが、本明細書に記載の置換が挙げられる。
【0242】
また、CDR領域、FR領域、及び定常領域からなる群より選択される少なくとも1つの領域中において、1又は複数のアミノ酸残基が目的の他のアミノ酸に置換されたH鎖をコードするDNAは、部分DNAに分けて製造することができる。部分DNAの組み合わせとしては、例えば、可変領域をコードするDNAと定常領域をコードするDNA、あるいはFab領域をコードするDNAとFc領域をコードするDNAなどが挙げられるが、これら組み合わせに限定されるものではない。L鎖をコードするDNAもまた、同様に部分DNAに分けて製造することができる。
【0243】
上記DNAを発現させる方法としては、以下の方法が挙げられる。例えば、H鎖可変領域をコードするDNAを、H鎖定常領域をコードするDNAとともに発現ベクターに組み込みH鎖発現ベクターを構築する。同様に、L鎖可変領域をコードするDNAを、L鎖定常領域をコードするDNAとともに発現ベクターに組み込みL鎖発現ベクターを構築する。これらのH鎖、L鎖の遺伝子を単一のベクターに組み込むことも出来る。発現ベクターとしては例えばSV40 virus basedベクター、EB virus basedベクター、BPV(パピローマウイルス)basedベクターなどを用いることができるが、これらに限定されるものではない。
【0244】
以上の方法で作製された抗体発現ベクターにより宿主細胞を共形質転換する。宿主細胞としてはCHO細胞(チャイニーズハムスター卵巣)等上述の細胞の他にも大腸菌、酵母や枯草菌などの微生物や動植物の個体が用いられる(Nature Biotechnology 25, 563 - 565 (2007)、Nature Biotechnology 16, 773 - 777 (1998)、Biochemical and Biophysical Research Communications 255, 444-450 (1999)、Nature Biotechnology 23, 1159 - 1169 (2005)、Journal of Virology 75, 2803-2809 (2001)、Biochemical and Biophysical Research Communications 308, 94-100 (2003))。また、形質転換にはリポフェクチン法(R.W.Malone et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86,6077 (1989), P.L.Felgner et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 84,7413 (1987)、エレクトロポレーション法、リン酸カルシウム法(F.L.Graham & A.J.van der Eb,Virology 52,456-467(1973))、DEAE-Dextran法等が好適に用いられる。
【0245】
抗体の製造においては、次に、工程(a)で得られた発現産物を回収する。発現産物の回収は、例えば、形質転換体を培養した後、形質転換体の細胞内又は培養液より分離することによって行うことが出来る。抗体の分離、精製には、遠心分離、硫安分画、塩析、限外濾過、1q、FcRn、プロテインA、プロテインGカラム、アフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィーなどの方法を適宜組み合わせて行うことができる。
なお、本発明の定常領域は、当業者であれば抗体の取得方法に準じて適宜行うことが出来る。
【0246】
さらに本発明は、以下の(A)~(X)からなる群より選択される少なくとも1つの工程を含む、抗IL-6レセプター抗体のIL-6レセプターへの結合活性又は中和活性を増強する方法に関する。
(A) 配列番号:1に記載のアミノ酸配列(HCDR1)において1番目のSerを他のアミノ酸に置換する工程
(B) 配列番号:1に記載のアミノ酸配列(HCDR1)において5番目のTrpを他のアミノ酸に置換する工程
(C) 配列番号:2に記載のアミノ酸配列(HCDR2)において1番目のTyrを他のアミノ酸に置換する工程
(D) 配列番号:2に記載のアミノ酸配列(HCDR2)において8番目のThrを他のアミノ酸に置換する工程
(E) 配列番号:2に記載のアミノ酸配列(HCDR2)において9番目のThrを他のアミノ酸に置換する工程
(F) 配列番号:3に記載のアミノ酸配列(HCDR3)において1番目のSerを他のアミノ酸に置換する工程
(G) 配列番号:3に記載のアミノ酸配列(HCDR3)において2番目のLeuを他のアミノ酸に置換する工程
(H) 配列番号:3に記載のアミノ酸配列(HCDR3)において5番目のThrを他のアミノ酸に置換する工程
(I) 配列番号:3に記載のアミノ酸配列(HCDR3)において7番目のAlaを他のアミノ酸に置換する工程
(J) 配列番号:3に記載のアミノ酸配列(HCDR3)において8番目のMetを他のアミノ酸に置換する工程
(K) 配列番号:3に記載のアミノ酸配列(HCDR3)において1番目のSerおよび5番目のThrを他のアミノ酸に置換する工程
(L) 配列番号:3に記載のアミノ酸配列(HCDR3)において2番目のLeu、7番目のAlaおよび8番目のMetを他のアミノ酸に置換する工程
(M) 配列番号:4に記載のアミノ酸配列(LCDR1)において1番目のArgを他のアミノ酸に置換する工程
(N) 配列番号:4に記載のアミノ酸配列(LCDR1)において4番目のGlnを他のアミノ酸に置換する工程
(O) 配列番号:4に記載のアミノ酸配列(LCDR1)において9番目のTyrを他のアミノ酸に置換する工程
(P) 配列番号:4に記載のアミノ酸配列(LCDR1)において11番目のAsnを他のアミノ酸に置換する工程
(Q) 配列番号:5に記載のアミノ酸配列(LCDR2)において2番目のThrを他のアミノ酸に置換する工程
(R) 配列番号:6に記載のアミノ酸配列(LCDR3)において1番目のGlnを他のアミノ酸に置換する工程
(S) 配列番号:6に記載のアミノ酸配列(LCDR3)において3番目のGlyを他のアミノ酸に置換する工程
(T) 配列番号:4に記載のアミノ酸配列(LCDR1)において9番目のTyrを他のアミノ酸に置換する工程および配列番号:6に記載のアミノ酸配列(LCDR3)において3番目のGlyを他のアミノ酸に置換する工程
(U) 配列番号:6に記載のアミノ酸配列(LCDR3)において5番目のThrを他のアミノ酸に置換する工程
(V) 配列番号:6に記載のアミノ酸配列(LCDR3)において1番目のGlnおよび5番目のThrを他のアミノ酸に置換する工程
(W) 配列番号:2に記載のアミノ酸配列(HCDR2)において9番目のThrを他のアミノ酸に置換する工程および配列番号:3に記載のアミノ酸配列(HCDR3)において1番目のSerおよび5番目のThrを他のアミノ酸に置換する工程
(X) (V)及び(W)に記載の工程。
【0247】
上記(A)において、置換後のアミノ酸はアフィニティーが向上する限り特に限定されないが、Trp、Thr、またはAsp、Asn、Arg、Val、Phe、Ala、Gln、Tyr、Leu、His、GluまたはCysへの置換が好ましい。
上記(B)において、置換後のアミノ酸はアフィニティーが向上する限り特に限定されないが、IleまたはValへの置換が好ましい。
上記(C)において、置換後のアミノ酸はアフィニティーが向上する限り特に限定されないが、Pheへの置換が好ましい。
上記(D)において、置換後のアミノ酸はアフィニティーが向上する限り特に限定されないが、Argへの置換が好ましい。
上記(E)において、置換後のアミノ酸はアフィニティーが向上する限り特に限定されないが、Ser又はAsnへの置換が好ましい。
上記(F)において、置換後のアミノ酸はアフィニティーが向上する限り特に限定されないが、Ile、Val、ThrまたはLeuへの置換が好ましい。
上記(G)において、置換後のアミノ酸はアフィニティーが向上する限り特に限定されないが、Thrへの置換が好ましい。
上記(H)において、置換後のアミノ酸はアフィニティーが向上する限り特に限定されないが、Ala、IleまたはSerへの置換が好ましい。他の好ましい置換としては5番目のThrのSerへの置換が挙げられる。
上記(I)において、置換後のアミノ酸はアフィニティーが向上する限り特に限定されないが、SerまたはValへの置換が好ましい。
上記(J)において、置換後のアミノ酸はアフィニティーが向上する限り特に限定されないが、Leuへの置換が好ましい。
上記(K)において、置換後のアミノ酸はアフィニティーが向上する限り特に限定されないが、1番目のSerをLeuに、5番目のThrをAlaに置換することが好ましい。 又、他の好ましい置換として、1番目のSerのValへの置換及び5番目のThrのAlaへの置換、1番目のSerのIleへの置換及び5番目のThrのAlaへの置換、1番目のSerのThrへの置換及び5番目のThrのAlaへの置換、1番目のSerのValへの置換及び5番目のThrのIleへの置換、1番目のSerのIleへの置換及び5番目のThrのIleへの置換、1番目のSerのThrへの置換及び5番目のThrのIleへの置換、または1番目のSerのLeuへの置換及び5番目のThrのIleへの置換を挙げることができる。
上記(L)において、置換後のアミノ酸はアフィニティーが向上する限り特に限定されないが、2番目のLeuをThrに、7番目のAlaをValに、8番目のMetをLeuに置換することが好ましい。
上記(M)において、置換後のアミノ酸はアフィニティーが向上する限り特に限定されないが、Pheへの置換が好ましい。
上記(N)において、置換後のアミノ酸はアフィニティーが向上する限り特に限定されないが、ArgまたはThrへの置換が好ましい。
上記(O)において、置換後のアミノ酸はアフィニティーが向上する限り特に限定されないが、Pheへの置換が好ましい。
上記(P)において、置換後のアミノ酸はアフィニティーが向上する限り特に限定されないが、Serへの置換が好ましい。
上記(Q)において、置換後のアミノ酸はアフィニティーが向上する限り特に限定されないが、Glyへの置換が好ましい。
上記(R)において、置換後のアミノ酸はアフィニティーが向上する限り特に限定されないが、Gly、AsnまたはSerへの置換が好ましい。
上記(S)において、置換後のアミノ酸はアフィニティーが向上する限り特に限定されないが、Serへの置換が好ましい。
上記(T)において、置換後のアミノ酸はアフィニティーが向上する限り特に限定されないが、配列番号:4に記載のアミノ酸配列(LCDR1)のTyrはPheに置換に置換されることが好ましく、配列番号:6に記載のアミノ酸配列(LCDR3)のGlyはSerに置換されることが好ましい。
上記(U)において、置換後のアミノ酸はアフィニティーが向上する限り特に限定されないが、ArgまたはSerへの置換が好ましい。
上記(V)において、置換後のアミノ酸はアフィニティーが向上する限り特に限定されないが、1番目のGlnをGlyに、5番目のThrをSerに置換することが好ましい。又、他の好ましい置換として1番目のGlnのGlyへの置換及び5番目のThrのArgへの置換を挙げることができる。
上記(W)において、配列番号:2に記載のアミノ酸配列(HCDR2)の9番目のThrはAsnに置換されていることが好ましい。又、配列番号:3に記載のアミノ酸配列(HCDR3)の1番目のSerおよび5番目のThrの置換後のアミノ酸の好ましい組み合わせとして、LeuおよびAla、ValおよびAla、IleおよびAla、ThrおよびAla、ValおよびIle、IleおよびIle、ThrおよびIle、またはLeuおよびIleを挙げることができる。
【0248】
上述の(A)~(X)の工程において、アミノ酸の置換を行う方法は特に限定されないが、例えば上述の部位特異的変異誘発法や実施例に記載の方法によって行うことが出来る。アミノ酸置換が重鎖可変領域に対して行われる場合には置換前の基となる重鎖可変領域のアミノ酸配列はヒト化PM-1の重鎖可変領域のアミノ酸配列であることが好ましく、アミノ酸置換が軽鎖可変領域に対して行われる場合には置換前の基となる軽鎖可変領域のアミノ酸配列はヒト化PM-1の軽鎖可変領域のアミノ酸配列であることが好ましい。又、上述の(A)~(X)の工程に記載のアミノ酸置換はヒト化PM-1抗体に対して行われることが好ましい。
【0249】
本発明の抗IL-6レセプター抗体の結合活性または中和活性を増強する方法は、少なくとも、上述の(A)~(X)のいずれかに記載の工程を含むものであればよい。即ち本発明の方法は、上述の(A)~(X)のいずれかに記載の工程のうち、2以上の工程を含んでもよい。さらに、上述の(A)~(X)のいずれかに記載の工程が含まれる限り、他の工程(例えば、上述の(A)~(X)以外のアミノ酸の置換、欠失、付加および/または挿入など)が含まれていてもよい。また例えば、FRのアミノ酸配列の置換、欠失、付加および/または挿入等が行われていてもよいし、定常領域のアミノ酸配列の置換、欠失、付加および/または挿入等が行われていてもよい。上述のアミノ酸置換はヒト化PM-1抗体に対して行われることが好ましい。
【0250】
<抗IL-6レセプター抗体免疫原性リスクを低減させる方法>
また本発明は、配列番号:5に記載のアミノ酸配列(LCDR2)において2番目のThrをGlyに置換する工程を含む、抗IL-6レセプター抗体の免疫原性を低下させる方法に関する。本発明の抗IL-6レセプター抗体の免疫原性を低下させる方法は、配列番号:5に記載のアミノ酸配列(LCDR2)において2番目のThrをGlyに置換する工程を含む限り、他のアミノ酸置換を含むものであってもよい。アミノ酸置換の方法は特に限定されるものではないが、例えば上述の部位特異的変異誘発法や実施例の記載の方法によって行うことが出来る。
上述のアミノ酸置換はヒト化PM-1抗体、またはその改変(置換、欠損、挿入)体に対して行われることが好ましい。
【0251】
<抗IL-6レセプター抗体の等電点を低下させる方法>
また本発明は、以下の(i)~(xv)からなる群より選択される少なくとも1つの工程を含む、抗IL-6レセプター抗体の等電点を低下させる方法に関する。
(i) 配列番号:7に記載のアミノ酸配列(HFR1)において16番目のGlnを他のアミノ酸に置換する工程
(ii) 配列番号:8に記載のアミノ酸配列(HFR2)において8番目のArgを他のアミノ酸に置換する工程
(iii) 配列番号:9に記載のアミノ酸配列(HFR3)において16番目のArgを他のアミノ酸に置換する工程
(iv) 配列番号:10に記載のアミノ酸配列(HFR4)において3番目のGlnを他のアミノ酸に置換する工程
(v) 配列番号:11に記載のアミノ酸配列(LFR1)において18番目のArgを他のアミノ酸に置換する工程
(vi) 配列番号:12に記載のアミノ酸配列(LFR2)において11番目のLysを他のアミノ酸に置換する工程
(vii) 配列番号:13に記載のアミノ酸配列(LFR3)において23番目のGlnを他のアミノ酸に置換する工程
(viii) 配列番号:14に記載のアミノ酸配列(LFR4)において10番目のLysを他のアミノ酸に置換する工程
(ix) 配列番号:1に記載のアミノ酸配列(HCDR1)において1番目のSerを他のアミノ酸に置換する工程
(x) 配列番号:4に記載のアミノ酸配列(LCDR1)において1番目のArgを他のアミノ酸に置換する工程
(xi) 配列番号:5に記載のアミノ酸配列(LCDR2)において4番目のArgを他のアミノ酸に置換する工程
(xii) 配列番号:7に記載のアミノ酸配列(HFR1)において13番目のArgを他のアミノ酸に置換する工程
(xiii) 配列番号:2に記載のアミノ酸配列(HFR1)または配列番号:100に記載のアミノ酸配列において15番目のLysおよび/または16番目のSerを他のアミノ酸に置換する工程。
(xiv) 配列番号:4に記載のアミノ酸配列(LCDR1)または配列番号:101に記載のアミノ酸配列において4番目のGlnを他のアミノ酸に置換する工程
(xv) 配列番号:5に記載のアミノ酸配列(LCDR2)または配列番号:103に記載のアミノ酸配列において6番目のHisを他のアミノ酸に置換する工程
【0252】
上記(i)において、置換後のアミノ酸は等電点が低下する限り特に限定されないが、Gluへの置換が好ましい。
上記(ii)において、置換後のアミノ酸は等電点が低下する限り特に限定されないが、Gluへの置換が好ましい。
上記(iii)において、置換後のアミノ酸は等電点が低下する限り特に限定されないが、Lysへの置換が好ましい。
上記(iv)において、置換後のアミノ酸は等電点が低下する限り特に限定されないが、Gluへの置換が好ましい。
上記(v)において、置換後のアミノ酸は等電点が低下する限り特に限定されないが、Serへの置換が好ましい。
上記(vi)において、置換後のアミノ酸は等電点が低下する限り特に限定されないが、Gluへの置換が好ましい。
上記(vii)において、置換後のアミノ酸は等電点が低下する限り特に限定されないが、Gluへの置換が好ましい。
上記(viii)において、置換後のアミノ酸は等電点が低下する限り特に限定されないが、Gluへの置換が好ましい。
上記(ix)において、置換後のアミノ酸は等電点が低下する限り特に限定されないが、Aspへの置換が好ましい。
上記(x)において、置換後のアミノ酸は等電点が低下する限り特に限定されないが、Glnへの置換が好ましい。
上記(xi)において、置換後のアミノ酸は等電点が低下する限り特に限定されないが、Gluへの置換が好ましい。
上記(xii)において、置換後のアミノ酸は等電点が低下する限り特に限定されないが、Lysへの置換が好ましい。
上記(xiii)において、置換後のアミノ酸は等電点が低下する限り特に限定されないが、15番目のLysはGlnへ、16番目のSerはAspへの置換が好ましい。
上記(xiv)において、置換後のアミノ酸は等電点が低下する限り特に限定されないが、Gluへの置換が好ましい。
上記(xv)において、置換後のアミノ酸は等電点が低下する限り特に限定されないが、Gluへの置換が好ましい。
【0253】
上述の(i)~(xv)の工程において、アミノ酸の置換の方法は特に限定されないが、例えば上述の部位特異的変異誘発法や実施例に記載の方法によって行うことが出来る。アミノ酸置換が重鎖可変領域に対して行われる場合には置換前の基となる重鎖可変領域のアミノ酸配列はヒト化PM-1の重鎖可変領域のアミノ酸配列であることが好ましく、アミノ酸置換が軽鎖可変領域に対して行われる場合には置換前の基となる軽鎖可変領域のアミノ酸配列はヒト化PM-1の軽鎖可変領域のアミノ酸配列であることが好ましい。又、上述の(i)~(xv)の工程に記載のアミノ酸置換はヒト化PM-1抗体に対して行われることが好ましい。
本発明の抗IL-6レセプター抗体の等電点を低下する方法は、少なくとも、上述の(i)~(xv)のいずれかに記載の工程を含むものであればよい。即ち本発明の方法は、上述の(i)~(xv)に記載の工程のうち、2以上の工程を含んでもよい。さらに、上述の(i)~(xv)のいずれかに記載の工程が含まれる限り、他の工程(例えば、上述の(i)~(xv)以外のアミノ酸の置換、欠失、付加および/または挿入など)が含まれていてもよい。また例えば、定常領域のアミノ酸配列の置換、欠失、付加および/または挿入等が行われていてもよい。
【0254】
<抗IL-6レセプター抗体安定性を向上させる方法>
また本発明は、以下の(α)~(ζ)からなる群より選択される少なくとも1つの工程を含む、抗IL-6レセプター抗体の安定性を増加させる方法に関する。
(α) 配列番号:9に記載のアミノ酸配列(HFR3)において4番目のMetを他のアミノ酸に置換する工程。
(β) 配列番号:9に記載のアミノ酸配列(HFR3)において5番目のLeuを他のアミノ酸に置換する工程。
(γ) 配列番号:2に記載のアミノ酸配列(HCDR2)において9番目のThrを他のアミノ酸に置換する工程。
(δ) 配列番号:6に記載のアミノ酸配列(LCDR3)において5番目のThrを他のアミノ酸に置換する工程。
(ε) 配列番号:2に記載のアミノ酸配列(HCDR2)において16番目のSerを他のアミノ酸に置換する工程。
(ζ) 配列番号:10に記載のアミノ酸配列(FR4)において5番目のSerを他のアミノ酸に置換する工程。
上記(α)において、置換後のアミノ酸は安定性が増加する限り特に限定されないが、Ileへの置換が好ましい。
上記(β)において、置換後のアミノ酸は安定性が増加する限り特に限定されないが、Serへの置換が好ましい。
上記(γ)において、置換後のアミノ酸は安定性が増加する限り特に限定されないが、Asnへの置換が好ましい。
上記(δ)において、置換後のアミノ酸は安定性が増加する限り特に限定されないが、Serへの置換が好ましい。
上記(ε)において、置換後のアミノ酸は安定性が増加する限り特に限定されないが、Glyへの置換が好ましい。
上記(ζ)において、置換後のアミノ酸は安定性が増加する限り特に限定されないが、Ileへの置換が好ましい。
【0255】
上述の(α)~(ζ)の工程において、アミノ酸の置換の方法は特に限定されないが、例えば上述の部位特異的変異誘発法や実施例に記載の方法によって行うことが出来る。アミノ酸置換が重鎖可変領域に対して行われる場合には置換前の基となる重鎖可変領域のアミノ酸配列はヒト化PM-1の重鎖可変領域のアミノ酸配列であることが好ましく、アミノ酸置換が軽鎖可変領域に対して行われる場合には置換前の基となる軽鎖可変領域のアミノ酸配列はヒト化PM-1の軽鎖可変領域のアミノ酸配列であることが好ましい。又、上述の(α)~(ζ)のアミノ酸置換はヒト化PM-1抗体に対して行われることが好ましい。
本発明の抗IL-6レセプター抗体の安定性を増加する方法は、少なくとも、上述の(α)~(ζ)のいずれかに記載の工程を含むものであればよい。即ち本発明の方法は、上述の(α)~(ζ)に記載の工程のうち、2以上の工程を含んでもよい。さらに、上述の(α)~(ζ)のいずれかに記載の工程が含まれる限り、他の工程(例えば、上述の(α)~(ζ)以外のアミノ酸の置換、欠失、付加および/または挿入など)が含まれていてもよい。また例えば、定常領域のアミノ酸配列の置換、欠失、付加および/または挿入等が行われていてもよい。
【0256】
<抗IL-6レセプター抗体の免疫原性を低下させる方法>
さらに本発明は配列番号:7に記載のアミノ酸配列(HFR1)において13番目のArgをLysに、16番目のGlnをGluに、23番目のThrをAlaに、及び/または30番目のThrをSerに置換する工程を含む、抗IL-6レセプター抗体、特にヒト化PM-1抗体の免疫原性を低下させる方法に関する。本発明の抗IL-6レセプター抗体の免疫原性を低下させる方法は、配列番号:7に記載のアミノ酸配列(HFR1)において30番目のThrをSerに置換する工程を含む限り、他のアミノ酸置換を含むものであってもよい。
さらに本発明は配列番号:90に記載のアミノ酸配列(HFR3)において27番目のAlaをValに置換する工程を含む、抗IL-6レセプター抗体、特にヒト化PM-1抗体の免疫原性を低下させる方法に関する。本発明の抗IL-6レセプター抗体の免疫原性を低下させる方法は、配列番号:90に記載のアミノ酸配列(HFR3)において27番目のAlaをValに置換する工程を含む限り、他のアミノ酸置換を含むものであってもよい。
アミノ酸置換の方法は特に限定されるものではないが、例えば上述の部位特異的変異誘発法や実施例の記載の方法によって行うことが出来る。
さらに本発明は抗IL-6レセプター抗体、特にヒト化PM-1抗体、H53/L28、あるいはPF1抗体のFR3を配列番号:128または配列番号:129のアミノ酸配列を有するFR3とすることにより抗体の免疫原性を低下させる方法に関する。
【0257】
<抗体の酸性条件下における安定性を向上させる方法>
また本発明は、配列番号:20に記載のアミノ酸配列(IgG2)において、276番目(EUナンバリングの397番目)のMetを他のアミノ酸に置換する工程を含む、抗体の酸性条件下における安定性を向上させる方法に関する。本発明の抗体の酸性条件下における安定性を向上させる方法は、配列番号:20に記載のアミノ酸配列(IgG2)において276番目(EUナンバリングの397番目)のMetを他のアミノ酸に置換する工程を含む限り、他のアミノ酸置換を含むものであってもよい。置換後のアミノ酸は特に限定されないがValへの置換が好ましい。アミノ酸置換の方法は特に限定されるものではないが、例えば上述の部位特異的変異誘発法や実施例に記載の方法によって行うことが出来る。
対象となる抗体は特に限定されないが、抗ヒトIL-6レセプター抗体であることが好ましく、さらにヒト化PM-1抗体、またはその改変(置換、欠損、挿入)体であることが好ましい。
【0258】
<IgG2定常領域のヒンジ部分に由来するヘテロジェニティーを改善する方法>
また本発明は、配列番号:20に記載のアミノ酸配列(IgG2)において、14番目(EUナンバリング131番目)のCysを他のアミノ酸に置換する工程、16番目(EUナンバリングの133番目)のArgを他のアミノ酸に置換する工程、および/または102番目(EUナンバリングの219番目)のCysを他のアミノ酸に置換する工程を含む、抗体のヘテロジェニティーを改善する方法に関する。置換後のアミノ酸は特に限定されないが、14番目のCysはSerに、16番目のArgはLysに、102番目のCysはSerに置換されることが好ましい。本発明の抗体のヘテロジェニティーを改善する方法は、配列番号:20に記載のアミノ酸配列(IgG2)において、14番目(EUナンバリング131番目)のCysを置換する工程、16番目(EUナンバリングの133番目)のArgを置換する工程、および/または102番目(EUナンバリングの219番目)のCysを置換する工程を含む限り、他のアミノ酸置換を含むものであってもよい。アミノ酸置換の方法は特に限定されるものではないが、例えば上述の部位特異的変異誘発法や実施例の記載の方法によって行うことが出来る。置換されるアミノ酸は上述の3つのアミノ酸全てが置換されてもよいし、1又は2(例えば14番目と102番目、など)のアミノ酸が置換されてもよい。
対象となる抗体は特に限定されないが、抗ヒトIL-6レセプター抗体であることが好ましく、さらにヒト化PM-1抗体、またはその改変(置換、欠損、挿入)体であることが好ましい。
【0259】
<IgG2定常領域のC末端アミノ酸欠損に由来するヘテロジェニティーを低減させる方法>
また本発明は、配列番号:20に記載のアミノ酸配列を有するIgG2定常領域において、325番目(EUナンバリングの446番目)のGlyおよび326番目(EUナンバリングの447番目)のLysを欠損させる工程を含む、抗体のヘテロジェニティーを改善する方法に関する。本発明の抗体のヘテロジェニティーを改善する方法は、配列番号:20に記載のアミノ酸配列を有するIgG2定常領域において、325番目(EUナンバリングの446番目)のGlyおよび326番目(EUナンバリングの447番目)のLysを欠損させる工程を含む限り、他のアミノ酸置換を含んでもよい。アミノ酸置換の方法は特に限定されるものではないが、例えば上述の部位特異的変異誘発法や実施例の記載の方法によって行うことが出来る。
対象となる抗体は特に限定されないが、抗ヒトIL-6レセプター抗体であることが好ましく、さらにヒト化PM-1抗体、またはその改変(置換、欠損、挿入)体であることが好ましい。
【0260】
<IgG2定常領域のヒト配列を維持したままFcγRへの結合を低減させる方法>
また本発明は、配列番号:20に記載のアミノ酸配列を有するIgG2定常領域において、209番目(EU330)のAlaをSerに置換する工程、210番目(EU331)のProをSerに置換する工程、および218番目(EU339)のThrをAlaに置換する工程を含む、抗体のFcγRへの結合を低減させる方法に関する。本発明の抗体のFcγRへの結合を低減させる方法は、配列番号:20に記載のアミノ酸配列を有するIgG2定常領域において、209番目(EU330)のAlaをSerに置換する工程、210番目(EU331)のProをSerに置換する工程、および218番目(EU339)のThrをAlaに置換する工程を含む限り、他のアミノ酸置換を含むものであってもよい。アミノ酸置換の方法は特に限定されるものではないが、例えば上述の部位特異的変異誘発法や実施例の記載の方法によって行うことが出来る。
【0261】
<IgG2定常領域のアミノ酸を置換することにより血漿中滞留性を向上する方法>
また本発明は、配列番号:20に記載のアミノ酸配列を有するIgG2定常領域において、147番目(EU268)のHis、234番目(EU355)のArg及び/又は298番目(EU419)のGlnを他のアミノ酸に置換する工程を含む、抗体の血漿中滞留性を向上する方法に関する。本発明の血漿中滞留性を向上する方法は、上述の工程を含む限り、他のアミノ酸置換を含むものであってもよい。置換後のアミノ酸は特に限定されないが、147番目(EU268)のHisはGlnに、234番目(EU355)のArgはGlnに、298番目(EU419)のGlnはGluに置換されることが好ましい。
また本発明は、配列番号:20又は配列番号:151(M58)のアミノ酸配列を有するIgG2定常領域において、313番目(EU434)のAsnを他のアミノ酸に置換する工程を含む、抗体の血漿中滞留性を向上する方法に関する。置換後のアミノ酸は特に限定されないが、Alaへの置換が好ましい。本発明の血漿中滞留性を向上する方法は、上述の工程を含む限り、他のアミノ酸置換を含むものであってもよい。
対象となる抗体は特に限定されないが、抗ヒトIL-6レセプター抗体であることが好ましく、さらにヒト化PM-1抗体、またはその改変(置換、欠損、挿入)体であることが好ましい。
【0262】
また本発明は、配列番号:20に記載のアミノ酸配列を有するIgG2定常領域において、下記に記載の工程を含む、IgG2のヒンジ部分に由来するヘテロジェニティーを低減させる方法、酸性条件下での安定性を向上させる方法、C末端に由来するヘテロジェニティーを低減させる方法および/または抗体のFcγRへの結合を低減させる方法に関する(M14ΔGK)。
(a)配列番号:20の209番目(EUナンバリング330)のAlaをSerに置換する工程、
(b)配列番号:20の210番目(EUナンバリング331)のProをSerに置換する工程、
(c)配列番号:20の218番目(EUナンバリング339)のThrをAlaに置換する工程、
(d)配列番号:20の276番目(EUナンバリング397)のMetをValに置換する工程、
(e)配列番号:20の14番目(EUナンバリング131)のCysをSerに置換する工程、
(f)配列番号:20の16番目(EUナンバリング133)のArgをLysに置換する工程、
(g)配列番号:20の102番目(EUナンバリング219)のCysをSerに置換する工程、
(h)配列番号:20の20番目(EUナンバリング137)のGluをGlyに置換する工程、
(i)配列番号:20の21番目(EUナンバリング138)のSerをGlyに置換する工程、
及び
(j)配列番号:20の325番目のGly及び326番目のLys(EUナンバリング446および447)を欠損させる工程。
本発明の方法は、上記工程を含む限り、他のアミノ酸置換や欠損、その他工程を含むものであってもよい。アミノ酸の置換や欠損の方法は特に限定されるものではないが、例えば上述の部位特異的変異誘発法や実施例の記載の方法によって行うことが出来る。
対象となる抗体は特に限定されないが、抗ヒトIL-6レセプター抗体であることが好ましく、さらにヒト化PM-1抗体、またはその改変(置換、欠損、挿入)体であることが好ましい。
【0263】
また本発明は、配列番号:20に記載のアミノ酸配列を有するIgG2定常領域において、下記に記載の工程を含む、IgG2のヒンジ部分に由来するヘテロジェニティーを低減させる方法、酸性条件下での安定性を向上させる方法、および/またはC末端に由来するヘテロジェニティーを低減させる方法に関する(M31ΔGK)。
(a)配列番号:20の276番目(EUナンバリング397)のMetをValに置換する工程、
(b)配列番号:20の14番目(EUナンバリング131)のCysをSerに置換する工程、
(c)配列番号:20の16番目(EUナンバリング133)のArgをLysに置換する工程、
(d)配列番号:20の102番目(EUナンバリング219)のCysをSerに置換する工程、
(e)配列番号:20の20番目(EUナンバリング137)のGluをGlyに置換する工程、
(f)配列番号:20の21番目(EUナンバリング138)のSerをGlyに置換する工程、
及び
(g)配列番号:20の325番目のGly及び326番目のLys(EUナンバリング446および447)を欠損させる工程。
【0264】
また本発明は配列番号:20に記載のアミノ酸配列を有するIgG2定常領域において、下記に記載の工程を含む、IgG2のヒンジ部分に由来するヘテロジェニティーを低減させる方法、血漿中滞留性を向上する方法および/またはC末端に由来するヘテロジェニティーを低減させる方法に関する(M58)。
(a)配列番号:20の14番目(EUナンバリング131番目)のCysをSerに置換する工程、
(b)配列番号:20の16番目(EUナンバリング133番目)のArgをLysに置換する工程、
(c)配列番号:20の102番目(EUナンバリング219番目)のCysをSerに置換する工程、
(d)配列番号:20の20番目(EUナンバリング137番目)のGluをGlyに置換する工程、
(e)配列番号:20の21番目(EUナンバリング138番目)のSerをGlyに置換する工程、
(f)配列番号:20の147番目(EUナンバリング268番目)のHisをGlnに置換する工程、
(g)配列番号:20の234番目(EUナンバリング355番目)のArgをGlnに置換する工程、
(h)配列番号:20の298番目(EUナンバリング419番目)のGlnをGluに置換する工程、
(i)配列番号:20の325番目(EUナンバリング446番目)のGlyおよび326番目(EUナンバリング447番目)のLysを欠損させる工程。
【0265】
また本発明は配列番号:20に記載のアミノ酸配列を有するIgG2定常領域において、下記に記載の工程を含む、IgG2のヒンジ部分に由来するヘテロジェニティーを低減させる方法、血漿中滞留性を向上する方法および/またはC末端に由来するヘテロジェニティーを低減させる方法に関する(M73)。
(a)配列番号:20の14番目(EUナンバリング131番目)のCysをSerに置換する工程、
(b)配列番号:20の16番目(EUナンバリング133番目)のArgをLysに置換する工程、
(c)配列番号:20の102番目(EUナンバリング219番目)のCysをSerに置換する工程、
(d)配列番号:20の20番目(EUナンバリング137番目)のGluをGlyに置換する工程、
(e)配列番号:20の21番目(EUナンバリング138番目)のSerをGlyに置換する工程、
(f)配列番号:20の147番目(EUナンバリング268番目)のHisをGlnに置換する工程、
(g)配列番号:20の234番目(EUナンバリング355番目)のArgをGlnに置換する工程、
(h)配列番号:20の298番目(EUナンバリング419番目)のGlnをGluに置換する工程、
(i)配列番号:20の313番目(EUナンバリング434番目)のAsnをAlaに置換する工程、
(j)配列番号:20の325番目(EUナンバリング446番目)のGlyおよび326番目(EUナンバリング447番目)のLysを欠損させる工程。
【0266】
また本発明は、配列番号:20に記載のアミノ酸配列を有するIgG2定常領域において、下記に記載の工程を含む、IgG2のヒンジ部分に由来するヘテロジェニティーを低減させる方法、C末端に由来するヘテロジェニティーを低減させる方法および/または抗体のFcγRへの結合を低減させる方法に関する(M86ΔGK)。
(a)配列番号:20の209番目(EUナンバリング330)のAlaを他のアミノ酸に置換する工程、
(b)配列番号:20の210番目(EUナンバリング331)のProを他のアミノ酸に置換する工程、
(c)配列番号:20の218番目(EUナンバリング339)のThrを他のアミノ酸に置換する工程、
(d)配列番号:20の14番目(EUナンバリング131)のCysを他のアミノ酸に置換する工程、
(e)配列番号:20の16番目(EUナンバリング133)のArgを他のアミノ酸に置換する工程、
(f)配列番号:20の102番目(EUナンバリング219)のCysを他のアミノ酸に置換する工程、
(g)配列番号:20の20番目(EUナンバリング137)のGluを他のアミノ酸に置換する工程、
(h)配列番号:20の21番目(EUナンバリング138)のSerを他のアミノ酸に置換する工程、
及び
(i)配列番号:20の325番目のGly及び326番目のLys(EUナンバリング446および447)を欠損させる工程。
置換後のアミノ酸は特に限定されないが、209番目(EUナンバリング330)のAlaをSer、210番目(EUナンバリング331)のProをSer、218番目(EUナンバリング339)のThrをAla、14番目(EUナンバリング131)のCysをSer、16番目(EUナンバリング133)のArgをLys、102番目(EUナンバリング219)のCysをSer、20番目(EUナンバリング137)のGluをGly、21番目(EUナンバリング138)のSerをGlyに置換することが好ましい。
【0267】
さらに本発明は、配列番号:20に記載のアミノ酸配列を有するIgG2定常領域において、下記に記載の工程を含む、IgG2のヒンジ部分に由来するヘテロジェニティーを低減させる方法および/またはC末端に由来するヘテロジェニティーを低減させる方法に関する(M40ΔGK)。
(a)配列番号:20の14番目(EUナンバリング131)のCysを他のアミノ酸に置換する工程、
(b)配列番号:20の16番目(EUナンバリング133)のArgを他のアミノ酸に置換する工程、
(c)配列番号:20の102番目(EUナンバリング219)のCysを他のアミノ酸に置換する工程、
(d)配列番号:20の20番目(EUナンバリング137)のGluを他のアミノ酸に置換する工程、
(e)配列番号:20の21番目(EUナンバリング138)のSerを他のアミノ酸に置換する工程、
及び
(f)配列番号:20の325番目のGly及び326番目のLys(EUナンバリング446および447)を欠損させる工程。
置換後のアミノ酸は特に限定されないが、14番目(EUナンバリング131)のCysをSer、16番目(EUナンバリング133)のArgをLys、102番目(EUナンバリング219)のCysをSer、20番目(EUナンバリング137)のGluをGly、21番目(EUナンバリング138)のSerをGlyに置換することが好ましい。
【0268】
本発明の方法は、上記工程を含む限り、他のアミノ酸置換や欠損、その他工程を含むものであってもよい。アミノ酸の置換や欠損の方法は特に限定されるものではないが、例えば上述の部位特異的変異誘発法や実施例の記載の方法によって行うことが出来る。
対象となる抗体は特に限定されないが、抗ヒトIL-6レセプター抗体であることが好ましく、さらにヒト化PM-1抗体、またはその改変(置換、欠損、挿入)体であることが好ましい。
【0269】
<IgG4定常領域の酸性条件下における安定性を向上させる方法>
本発明はまた、配列番号:21に記載のアミノ酸配列を有するIgG4定常領域(Mol Immunol. 1993 Jan;30(1):105-8.)において、289番目(EUナンバリング409番目)のArgを他のアミノ酸に置換する工程を含む、抗体の酸性条件下における安定性を向上させる方法に関する。本発明の抗体の酸性条件下における安定性を向上させる方法は、配列番号:21に記載のアミノ酸配列(ヒトIgG4定常領域)において289番目(EUナンバリング409番目)のArgを他のアミノ酸に置換する工程を含む限り、他のアミノ酸置換を含んでもよい。置換後のアミノ酸は特に限定されないが、Lysへの置換が好ましい。アミノ酸置換の方法は特に限定されるものではないが、例えば上述の部位特異的変異誘発法や実施例の記載の方法によって行うことが出来る。
対象となる抗体は特に限定されないが、抗ヒトIL-6レセプター抗体であることが好ましく、さらにヒト化PM-1抗体、またはその改変(置換、欠損、挿入)体であることが好ましい。
【0270】
<IgG4定常領域のC末端アミノ酸欠損に由来するヘテロジェニティーを低減させる方法>
また本発明は、配列番号:21に記載のアミノ酸配列を有するIgG4定常領域(Mol Immunol. 1993 Jan;30(1):105-8.)において、326番目(EUナンバリングの446番目)のGlyおよび327番目(EUナンバリングの447番目)のLysを欠損させる工程を含む、抗体のヘテロジェニティーを改善する方法に関する。本発明のヘテロジェニティーを改善する方法は、配列番号:21に記載のアミノ酸配列を有するIgG4定常領域(Mol Immunol. 1993 Jan;30(1):105-8.)において、327番目(EUナンバリングの447番目)のLysおよび/または326番目(EUナンバリングの446番目)のGlyを欠損させる工程を含む限り、他のアミノ酸置換を含んでもよい。アミノ酸置換の方法は特に限定されるものではないが、例えば上述の部位特異的変異誘発法や実施例の記載の方法によって行うことが出来る。
対象となる抗体は特に限定されないが、抗ヒトIL-6レセプター抗体であることが好ましく、さらにヒト化PM-1抗体、またはその改変(置換、欠損、挿入)体であることが好ましい。
【0271】
また本発明は、配列番号:21に記載のアミノ酸配列を有するIgG4定常領域(Mol Immunol. 1993 Jan;30(1):105-8.)において、下記に記載の工程を含む、IgG4の酸性条件下での安定性を向上させる方法、C末端に由来するヘテロジェニティーを低減させる方法、抗体のFcγRへの結合を低減させる方法に関する(M11ΔGK)。
(a)配列番号:21の14番目(EUナンバリング131)のCysをSerに置換する工程、
(b)配列番号:21の16番目(EUナンバリング133)のArgをLysに置換する工程、
(c)配列番号:21の20番目(EUナンバリング137)のGluをGlyに置換する工程、
(d)配列番号:21の21番目(EUナンバリング138)のSerをGlyに置換する工程、
(e)配列番号:21の97番目(EUナンバリング214)のArgをThrに置換する工程、
(f)配列番号:21の100番目(EUナンバリング217)のSerをArgに置換する工程、
(g)配列番号:21の102番目(EUナンバリング219)のTyrをSerに置換する工程、
(h)配列番号:21の103番目(EUナンバリング220)のGlyをCysに置換する工程、
(i)配列番号:21の104番目(EUナンバリング221)のProをValに置換する工程、
(j)配列番号:21の105番目(EUナンバリング222)のProをGluに置換する工程、
(k)配列番号:21の113番目(EUナンバリング233)のGluをProに置換する工程、
(l)配列番号:21の114番目(EUナンバリング234)のPheをValに置換する工程、
(m)配列番号:21の115番目(EUナンバリング235)のLeuをAlaに置換する工程、
(n)配列番号:21の116番目(EUナンバリング236)のGlyを欠損する工程、
(o)配列番号:21の289番目(EUナンバリング409)のArgをLysに置換する工程、及び
(p)配列番号:21の326番目(EUナンバリング446)のGlyおよび327番目(EUナンバリング447)のLysを欠損させる工程。
本発明の方法は、上記工程を含む限り、他のアミノ酸置換や欠損、その他工程を含むものであってもよい。アミノ酸の置換や欠損の方法は特に限定されるものではないが、例えば上述の部位特異的変異誘発法や実施例の記載の方法によって行うことが出来る。
対象となる抗体は特に限定されないが、抗ヒトIL-6レセプター抗体であることが好ましく、さらにヒト化PM-1抗体、またはその改変(置換、欠損、挿入)体であることが好ましい。
【0272】
<IgG1定常領域のC末端アミノ酸欠損に由来するヘテロジェニティーを低減させる方法>
また本発明は、配列番号:19に記載のアミノ酸配列を有するIgG1定常領域において、329番目(EUナンバリングの446番目)のGlyおよび330番目(EUナンバリングの447番目)のLysを欠損させる工程を含む、抗体のヘテロジェニティーを改善する方法に関する。本発明の抗体のヘテロジェニティーを改善する方法は、配列番号:19に記載のアミノ酸配列を有するIgG1定常領域において、330番目(EUナンバリングの447番目)のLysおよび329番目(EUナンバリングの446番目)のGlyを欠損させる工程を含む限り、他のアミノ酸置換を含んでもよい。アミノ酸置換の方法は特に限定されるものではないが、例えば上述の部位特異的変異誘発法や実施例の記載の方法によって行うことが出来る。
【0273】
<IgG1定常領域のアミノ酸を置換することにより血漿中滞留性を向上する方法>
また本発明は、配列番号:19に記載のアミノ酸配列を有するIgG1定常領域において、317番目(EU434)のAsnを他のアミノ酸に置換する工程を含む、抗体の血漿中滞留性を向上する方法に関する。置換後のアミノ酸は特に限定されないが、Alaへの置換が好ましい。本発明の血漿中滞留性を向上する方法は、上述の工程を含む限り、他のアミノ酸置換を含むものであってもよい。
また本発明は配列番号:19に記載のアミノ酸配列を有するIgG1定常領域において、下記に記載の工程を含む血漿中滞留性を向上する方法及び/又はC末端に由来するヘテロジェニティーを低減させる方法に関する(M83)。
(a)配列番号:19の317番目(EU434)のAsnを他のAlaに置換する工程、
(b)配列番号:19の330番目(EUナンバリングの447番目)のLysおよび329番目(EUナンバリングの446番目)のGlyを欠損させる工程。
対象となる抗体は特に限定されないが、抗ヒトIL-6レセプター抗体であることが好ましく、さらにヒト化PM-1抗体、またはその改変(置換、欠損、挿入)体であることが好ましい。
上述の本発明の定常領域は如何なる抗体由来の可変領域とも組み合わせることが可能であるが、好ましくはヒトIL-6レセプターに対する抗体由来の可変領域と組み合わせられる。ヒトIL-6レセプターに対する抗体の可変領域の例としては、ヒト化PM-1抗体の可変領域を挙げることができる。ヒト化PM-1抗体の可変領域はアミノ酸置換などが行われていない可変領域でもよし、上述のアミノ酸置換などが行われた可変領域でもよい。
【0274】
本発明は、本発明の抗体を含む、医薬組成物を提供する。本発明の医薬組成物は、関節リウマチ等のIL-6が関連する疾患の治療において有用である。
本発明の医薬組成物は、抗体に加えて医薬的に許容し得る担体を導入し、公知の方法で製剤化することが可能である。例えば、水もしくはそれ以外の薬学的に許容し得る液との無菌性溶液、又は懸濁液剤の注射剤の形で非経口的に使用できる。例えば、薬理学上許容される担体もしくは媒体、具体的には、滅菌水や生理食塩水、植物油、乳化剤、懸濁剤、界面活性剤、安定剤、香味剤、賦形剤、ベヒクル、防腐剤、結合剤などと適宜組み合わせて、一般に認められた製薬実施に要求される単位用量形態で混和することによって製剤化することが考えられる。これら製剤における有効成分量は指示された範囲の適当な容量が得られるようにするものである。
【0275】
注射のための無菌組成物は注射用蒸留水のようなベヒクルを用いて通常の製剤実施に従って処方することができる。
注射用の水溶液としては、例えば生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液、例えばD-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトール、塩化ナトリウムが挙げられ、適当な溶解補助剤、例えばアルコール、具体的にはエタノール、ポリアルコール、例えばプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、非イオン性界面活性剤、例えばポリソルベート80(TM)、HCO-50と併用してもよい。
【0276】
油性液としてはゴマ油、大豆油があげられ、溶解補助剤として安息香酸ベンジル、ベンジルアルコールと併用してもよい。また、緩衝剤、例えばリン酸塩緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液、無痛化剤、例えば、塩酸プロカイン、安定剤、例えばベンジルアルコール、フェノール、酸化防止剤と配合してもよい。調製された注射液は通常、適当なアンプルに充填させる。
【0277】
投与は好ましくは非経口投与であり、具体的には、注射剤型、経鼻投与剤型、経肺投与剤型、経皮投与型などが挙げられる。注射剤型の例としては、例えば、静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、皮下注射などにより全身または局部的に投与することができる。
【0278】
また、患者の年齢、症状により適宜投与方法を選択することができる。抗体または抗体をコードするポリヌクレオチドを含有する医薬組成物の投与量としては、例えば、一回につき体重1kgあたり0.0001mgから1000mgの範囲で選ぶことが可能である。あるいは、例えば、患者あたり0.001から100000mg/bodyの範囲で投与量を選ぶことができるが、これらの数値に必ずしも制限されるものではない。投与量、投与方法は、患者の体重や年齢、症状などにより変動するが、当業者であれば適宜選択することが可能である。
【0279】
本明細書で用いられているアミノ酸の3文字表記と1文字表記の対応は以下の通りである。
アラニン:Ala:A
アルギニン:Arg:R
アスパラギン:Asn:N
アスパラギン酸:Asp:D
システイン:Cys:C
グルタミン:Gln:Q
グルタミン酸:Glu:E
グリシン:Gly:G
ヒスチジン:His:H
イソロイシン:Ile:I
ロイシン:Leu:L
リジン:Lys:K
メチオニン:Met:M
フェニルアラニン:Phe:F
プロリン:Pro:P
セリン:Ser:S
スレオニン:Thr:T
トリプトファン:Trp:W
チロシン:Tyr:Y
バリン:Val:V
【0280】
なお本明細書において引用されたすべての先行技術文献は、参照として本明細書に組み入れられる。
【実施例】
【0281】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
〔実施例1〕アフィニティーマチュレーション技術を用いたCDR改変による抗原結合能の向上
SR344の調製
J.Biochem. 108, 673-676 (1990)で報告されているN末端側1番目から344番目のアミノ酸配列からなる可溶性ヒトIL-6R(以下、SR344)(Yamasakiら、Science 1988;241:825-828 (GenBank # X12830))のCHO細胞定常発現株を作製した。
SR344発現CHO細胞から得られた培養上清から、Blue Sepharose 6 FFカラムクロマトグラフィー、SR344に対する特異抗体を固定したカラムによるアフィニティクロマトグラフィー、ゲルろ過カラムクロマトグラフィーの3つのカラムクロマトグラフィーにより、SR344を精製した。
20 mM トリス-塩酸緩衝液、pH 8.0で平衡化したBlue Sepharose 6 FF column(GEヘルスケアバイオサイエンス)に培養上清をそのまま添加し、同緩衝液で非吸着の画分を完全に洗い流した。この後、カラムは300 mMのKClを含む同緩衝液で洗浄した。さらに、300 mM KCl存在下の同緩衝液中で、0 Mから0.5 MまでのKSCNの直線濃度勾配により、吸着した蛋白を溶出した。KSCNの濃度勾配で溶出した画分を、SR344に特異的な抗体を用いたWestern Blottingで分析し、SR344を含む画分を集めた。
SR344に対する特異抗体を固定したカラムは、あらかじめTBS(Tris-Buffered-Saline)で平衡化しておいた。これに第一工程で得られたSR344画分を、Amicon Ultra-15(MILLIPORE、分子量カットオフ 10 kDa)による限外ろ過で濃縮し、TBSで2倍希釈してから添加した。TBSでカラムを洗浄後、100 mM グリシン-塩酸緩衝液、pH 2.5で、吸着した蛋白を溶出した。溶出した画分は、1 M Tris、pH 8.1を添加してpHを中性に戻した。得られた画分をSDS-PAGEで分析し、SR344が含まれる画分を集めた。
第二工程で得られた画分は、Amicon Ultra-15(分子量カットオフ 10 kDa)で濃縮し、PBSで平衡化したSuperdex200カラム(GEヘルスケアバイオサイエンス)に添加した。メインピークとして溶出した画分を、SR344の最終精製品とした。
【0282】
ヒトgp130発現BaF3細胞株の樹立
IL-6依存増殖性を示す細胞株を得るために、以下に示すとおり、ヒトgp130を発現したBaF3細胞株の樹立を行った。
全長ヒトgp130 cDNA (Hibiら、Cell 1990;63:1149-1157 (GenBank # NM_002184))をPCRにより増幅し、pCHOI (Hirataら、FEBS Letter 1994;356:244-248)のDHFR遺伝子発現部位を除去し、Zeocin耐性遺伝子発現部位を挿入した発現ベクターpCOS2Zeoにクローニングし、pCOS2Zeo/gp130を構築した。全長ヒトIL-6R cDNAをPCRにより増幅し、pcDNA3.1(+) (Invitrogen)にクローニングし、hIL-6R/pcDNA3.1(+)を構築した。
10 μgのpCOS2Zeo/gp130をPBSに懸濁したBaF3細胞(0.8x107 cells)に混合し、Gene Pulser (Bio-Rad)を用いて0.33 kV, 950μFDの容量でパルスを加えた。エレクトロポレーション処理により遺伝子導入したBaF3細胞を0.2 ng/mLのmouse interleukin-3(Peprotech)、10% Fetal Bovine Serum(以下FBS、HyClone)を含むRPMI1640培地(Invitrogen)で一昼夜培養し、100 ng/mLのhuman interleukin-6 (R&D systems)、100 ng/mL のhuman interleukin-6 soluble receptor (R&D systems)および10% FBSを含むRPMI1640培地を加えて選抜し、ヒトgp130発現BaF3細胞株(以下、BaF3/gp130)を樹立した。このBaF/gp130は、human interleukin-6 (R&D systems)およびSR344存在下で増殖することから、抗IL-6レセプター抗体の増殖阻害活性(すなわちIL-6レセプター中和活性)の評価に使用することが可能である。
【0283】
CDR改変ライブラリーの構築
まず始めに、ヒト化PM1抗体(Cancer Res. 1993 Feb 15;53(4):851-6)の scFv 化を行った。VH、VL領域をPCRによって増幅し、リンカー配列GGGGSGGGGSGGGGS(配列番号:106)をVH、VLの間に持つヒト化PM1 HL scFvを作製した。
作製したヒト化PM1 HL scFv DNAを鋳型にしたPCRにより、各CDRアミノ酸のうちの一つのアミノ酸がXとなるターゲットライブラリー、及びCDR中のHot Spot配列のみをランダム配列にしたライブラリーを作製した。各CDRアミノ酸のうちの一つのアミノ酸がXとなるターゲットライブラリーについては、ライブラリー化したいアミノ酸をNNSとしたプライマーを用いたPCR反応によってライブラリー部分を構築、それ以外の部分を通常のPCRによって作製し、assembly PCR法により連結して構築した。この際、一つのCDRのみがライブラリー化されるようにした(J.Mol.Biol 1996 ; 256 : 77-88参考)。また、Hot Spot配列のみをランダム配列にしたライブラリーについては、Hot Spotアミノ酸全てをNNSとしたプライマーを用いたPCRにより同様に構築した。この際、VHのHot Spotのみがライブラリー化されたライブラリー、VLのHot Spotのみがライブラリー化されたライブラリーを構築した(Nature Biotechnology 1999 June;17:568-572参考)。
これらのライブラリーを用い、J. Immunological Methods 1999 ;231:119-135に習い、ribosome display用ライブラリーを構築した。大腸菌無細胞系in vitro translationを行うために、SDA配列(ribosome binding site)、T7 promoterを5’側に付加し、ribosome display用のリンカーとして3’側にgene3部分配列をSfi Iを用いてligationした。
【0284】
Ribosome displayによる高アフィニティーscFvの取得
Nature Biotechnology 2000 Dec ; 18 : 1287-1292 に習い、ribosome displayによるパンニングを行った。調製されたSR344を、NHS-PEO4-Biotin (Pierce)を用いてbiotin化し抗原とした。アフィニティーの高いscFvを効率的に取得するために、JBC 2004 ; 279(18) : 18870-18877を参考にし、off-rate selectionを行った。Biotin化抗原量を1 nM、競合抗原量を1 uM、4th roundでの競合時間を10 O/Nとした。
【0285】
scFvのphagemideへの挿入と抗原結合活性、配列解析
4th roundで得られたDNA poolを鋳型とし、特異的プライマーを用いてPCRすることによりHL scFvを復元した。Sfi Iで消化し、同様にSfi Iで消化したphagemideベクターpELBG lacIベクターに挿入し、XL1-Blue (stratagene)にtransformした。得られたコロニーを用い、phage ELISAによる抗原結合活性評価とHL scFv配列解析を行った。J.Mol.Biol 1992 ; 227 : 381-388に習い、SR344を1 ug/mLでcoatingしたプレートを用いたphage-ELISAを行った。SR344への結合活性が認められたクローンについて、特異的プライマーを用い、配列解析を行った。
【0286】
scFvからのIgG化とIgG発現及び精製
動物細胞発現用ベクターを用いてIgGの発現を行った。変異箇所の濃縮が認められたクローンについて、VH、および、VLをそれぞれPCRによって増幅し、XhoI/NheI消化およびEcoRI消化により動物細胞発現用ベクターに挿入した。各DNA断片の塩基配列は、BigDye Terminator Cycle Sequencing Kit(Applied Biosystems)を用い、DNAシークエンサーABI PRISM 3730xL DNA SequencerまたはABI PRISM 3700 DNA Sequencer(Applied Biosystems)にて、添付説明書記載の方法に従い決定した。
【0287】
IgG化した抗体の発現
抗体の発現は以下の方法を用いて行った。ヒト胎児腎癌細胞由来HEK293H株(Invitrogen)を10 % Fetal Bovine Serum (Invitrogen)を含むDMEM培地(Invitrogen)へ懸濁し、5~6 × 105個 /mLの細胞密度で接着細胞用ディッシュ(直径10 cm, CORNING)の各ディッシュへ10 mLずつ蒔きこみCO2インキュベーター(37℃、5 % CO2)内で一昼夜培養した後に、培地を吸引除去し、CHO-S-SFM-II(Invitrogen)培地6.9 mLを添加した。調製したプラスミドDNA混合液(合計13.8μg)を1μg/mL Polyethylenimine (Polysciences Inc.) 20.7μLとCHO-S-SFMII培地 690μLと混合して室温10分間静置したものを各ディッシュの細胞へ投入し、4~5時間、CO2インキュベーター(37℃にて5 % CO2)内でインキュベートした。その後、CHO-S-SFM-II(Invitrogen)培地6.9 mLを添加して、3日間 CO2インキュベーター内で培養した。培養上清を回収した後、遠心分離(約2000 g、5分間、室温)して細胞を除去し、さらに0.22μmフィルターMILLEX(R)-GV(Millipore)を通して滅菌した。該サンプルは使用するまで4℃で保存した。
【0288】
IgG化した抗体の精製
得られた培養上清にTBS中に懸濁させた50μLのrProtein A SepharoseTM Fast Flow(Amersham Biosciences)を添加し、4℃で4時間以上転倒混和した。その溶液を0.22μmのフィルターカップUltrafree(R)-MC(Millipore)に移し、TBS 500μLにて3回洗浄後、rProtein A SepharoseTM樹脂に100μLの50 mM 酢酸ナトリウム水溶液, pH 3.3に懸濁して2分間静置したのち、抗体を溶出させた。直ちに、6.7μLの1.5M Tris-HCl , pH 7.8を加えて中和した。溶出は2回行い、200μLの精製抗体を得た。抗体を含む溶液2μLをND-1000 Spectrophotometer(NanoDrop)、あるいは50μLを分光光度計DU-600(BECKMAN)に供し、280 nmでの吸光度を測定した。得られた値から以下の式を用いて抗体濃度を算出した。
抗体濃度(mg/mL)=吸光度×希釈倍率÷14.6×10
【0289】
IgG化したクローンのヒトIL-6レセプター中和活性評価
IL-6/IL-6レセプター依存性増殖を示すBaF3/gp130を用いて、IL-6レセプター中和活性を評価した。BaF3/gp130を10% FBSを含むRPMI1640培地で3回洗浄した後に、5x10
4 cells/mLとなるように60 ng/mLのhuman interleukin-6 (TORAY)、60 ng/mL の組換え可溶性ヒトIL-6レセプター(SR344)および10% FBSを含むRPMI1640培地に懸濁し、96 well-plate (CORNING)の各wellに50μLずつ分注した。次に、精製した抗体を10% FBSを含むRPMI1640に希釈して、各wellに50μLずつ混合した。37℃、5% CO
2条件下で、3日間培養し、PBSで2倍に希釈したWST-8試薬(Cell Counting Kit-8、株式会社同仁化学研究所)を20μL/wellで加え、直後にSUNRISE CLASSIC(TECAN)を用いて450 nmの吸光度(参照波長620 nm)を測定した。2時間培養した後に、再度450 nmの吸光度(参照波長620 nm)を測定し、2時間の吸光度変化を指標にIL-6レセプター中和活性を評価した。
その結果、ヒト化PM1抗体(野生型:WT)と比較して活性の高い抗体が複数得られた。WTよりも高い活性を示す抗体の変異箇所を
図4に示した。例えば
図1に示すとおり、RD_6はWTより100%阻害濃度として約50倍程度高い中和活性を示すことが分かった。
【0290】
IgG化したクローンのBiacoreによるアフィニティー解析
活性が野生型よりも高かったものについてBiacore T100 (BIACORE) を用いて、抗原抗体反応の速度論的解析を行った。センサーチップ上に rec-Protein A (ZYMED) (以下、Protein A)を1800RUから2600RU固定化し、そこに種々の抗体を結合させ、そこに抗原をアナライトとして流し、抗体と抗原の相互作用を測定した。抗原には種々の濃度に調整した recombinant human IL-6R sR(R&D systems)(以下rhIL-6sR)を用いた。測定は全て25℃で行った。測定で得られたセンサーグラムから、カイネティクスパラメーターである結合速度定数 k
a (1/Ms) 、および解離速度定数 k
d (1/s) を算出し、その値をもとに K
D (M) を算出した。各パラメーターの算出には Biacore T100 Evaluation Software (BIACORE)を用いた。
その結果、ヒト化PM1抗体(野生型:WT)と比較しアフィニティーの高い抗体が複数得られた。例えば、野生型(WT)とRD_6のセンサーグラムを
図2及び3に示した。カイネティクスパラメーター解析結果より、RD_6はWTより約50倍高いアフィニティーを示すことが分かった(表1)。他にも数10倍高いアフィニティーを持つ抗体が得られた。WTよりも高いアフィニティーを示す変異箇所を
図4に示した。
【表1】
【0291】
〔実施例2〕各CDR改変の組み合わせによる抗原結合能の向上
活性及びアフィニティーが高い変異箇所については、変異箇所の融合を行い、より高活性、高アフィニティーの抗体作製を行った。
改変抗体の作製・発現・精製
選定された箇所について改変抗体を作製するためのアミノ酸改変を行った。具体的には、QuikChange Site-Directed Mutagenesis Kit (Stratagene)を用いて、添付説明書記載の方法で、作製したH(WT)可変領域(H(WT)、塩基配列番号:107)、および、L(WT)鎖可変領域(L(WT)、塩基配列番号:108)に変異を導入した。目的のヒト化抗体可変領域遺伝子配列であることが確認されたH鎖抗体遺伝子断片挿入プラスミドをXhoIおよびNotIで消化した後に、L鎖抗体遺伝子断片挿入プラスミドをEcoRIで消化した後に、反応液を1 %アガローズゲル電気泳動に供した。目的のサイズ(約400 bp)のDNA断片をQIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN)を用いて添付説明書記載の方法で精製し、滅菌水30μlで溶出した。その後、動物細胞発現用ベクターに H鎖抗体遺伝子断片を挿入し、目的のH鎖発現ベクターを作製した。また、同様にしてL鎖発現ベクターを作製した。連結反応はRapid DNA Ligation Kit (Roche Diagnostics)を用い、大腸菌DH5α株 (東洋紡績)を形質転換した。各DNA断片の塩基配列は、BigDye Terminator Cycle Sequencing Kit(Applied Biosystems)を用い、DNAシークエンサーABI PRISM 3730xL DNA SequencerまたはABI PRISM 3700 DNA Sequencer(Applied Biosystems)にて、添付説明書記載の方法に従い決定した。作製した発現ベクターを用いて実施例1に記した方法で発現、精製を行った。
【0292】
ヒトIL-6レセプター中和活性評価
精製した抗体の中和活性の評価を実施例1に示す方法で行った。ただし、human interleukin-6 (TORAY)濃度を600 ng/mLにして中和活性の評価を行った。WTと比較して高い活性を示す新規抗体が複数得られ、それらのCDR配列を
図5に示した。その中でも高い活性を示した抗体としてH鎖にRDC_5H、L鎖にRDC_11Lを用いた抗体(RDC_23とする)の中和活性を
図6に示した。RDC_23はWTと比較して100%阻害濃度として約100倍高い活性を持つことが明らかになった。H鎖にRDC_5H、L鎖にRDC_11Lを用いた抗体であるRDC_23のみならず、H鎖にRDC_2H、RDC_3H、RDC_4H、RDC_5H、RDC_6H、RDC_7H、RDC_8H、RDC_27H、RDC_28H、RDC_29H、RDC_30H、RDC_32H、L鎖にL(WT)を用いた抗体(それぞれ、RDC_2、RDC_3、RDC_4、RDC_5、RDC_6、RDC_7、RDC_8、RDC_27、RDC_28、RDC_29、RDC_30、RDC_32とする)、および、H鎖にH(WT)、L鎖にRDC_11Lを用いた抗体(RDC_11とする)においても中和活性の向上が確認され、アフィニティーマチュレーションで見出された変異箇所を組み合わせることで、より高い中和活性を有する抗体が取得可能であることが明らかとなった。また、これら変異箇所を組み合わせた抗体は中和活性が向上していることから、アフィニティーも向上していると考えられた。
【0293】
ProteinAを用いたBiacoreによるアフィニティー解析
そこで、中和活性が向上した抗体のうちRDC_2、RDC_3、RDC_4、RDC_5、RDC_6、RDC_7、RDC_8、RDC_11、RDC_23について Biacore T100 (BIACORE) を用いて、抗原抗体反応の速度論的解析を行った。センサーチップ上にアミンカップリング法で rec-Protein A (ZYMED) を 4400 RU から 5000 RU 固定化し、そこに種々の抗体を結合させ、そこに抗原をアナライトとして流し、抗体と抗原の相互作用を測定した。抗原には種々の濃度に調整した rhIL-6sRを用いた。測定は全て25℃で行った。測定で得られたセンサーグラムから、カイネティクスパラメーターである結合速度定数 k
a (1/Ms)、および解離速度定数 k
d (1/s) を算出し、その値をもとに K
D (M) を算出した。各パラメーターの算出には Biacore T100 Evaluation Software (BIACORE)を用いた。その結果、変異箇所を組み合わせたRDC_2、RDC_3、RDC_4、RDC_5、RDC_6、RDC_7、RDC_8、RDC_11、RDC_23 は同時に測定した 変異箇所が1ヶ所であるRD_28 よりも小さい K
D 値を有していた (表2)。その中でも高いアフィニティーを示したRDC_23に関して
図7にセンサーグラムを示した。
【表2】
このことから、これらの抗体のアフィニティーは変異箇所の組み合わせ前の抗体よりも強いと考えられた。中和活性と同様、アフィニティーマチュレーションで見出された変異箇所を組み合わせることで、より高いアフィニティーを有する抗体が取得可能であることが明らかとなった。WTと比較して高い活性あるいはアフィニティーを示す変異体のアミノ酸配列は以下のとおりである(WTからの変異箇所に下線)。
(HCDR2)
配列番号:45 YISYSGIT
NYNPSLKS
(HCDR3)
配列番号:57
LLAR
ATAMDY
配列番号:58
VLAR
ATAMDY
配列番号:59
ILAR
ATAMDY
配列番号:60
TLAR
ATAMDY
配列番号:61
VLAR
ITAMDY
配列番号:62
ILAR
ITAMDY
配列番号:63
TLAR
ITAMDY
配列番号:64
LLAR
ITAMDY
(LCDR3)
配列番号:79
GQGN
RLPYT
すなわち、HCDR2の9番目のアミノ酸がAsnであり、HCDR3の1番目のアミノ酸がLeu、Val、Ile、Thrのいずれかから選択され、HCDR3の5番目のアミノ酸がAla、Ileのいずれかから選択され、LCDR3の1番目のアミノ酸がGlyであり、LCDR3の5番目のアミノ酸がArgである抗体を作製することで、WTよりも中和活性、およびアフィニティーが著しく向上した抗IL-6レセプター抗体を作製することが可能である。
【0294】
Protein A/Gを用いたBiacoreによるアフィニティー解析
Biacore T100 (BIACORE) を用いて、WTおよびRDC_23の抗原抗体反応の速度論的解析を行った。センサーチップ上にPurified Recomb Protein A/G (Pierce) (以下、Protein A/G) を固定化し、そこに種々の抗体を結合させ、そこに抗原をアナライトとして流し、抗体と抗原の相互作用を測定した。抗原には種々の濃度に調整したrhIL-6sR (R&D systems)、および、組換え可溶型IL-6レセプター(実施例1において調製したSR344)を用いた。バキュロウィルス感染昆虫細胞より産生されたrhIL-6sRは糖鎖構造がハイマンノース型であるのに対して、CHO細胞より産生されたSR344は糖鎖構造が複合型糖鎖であり末端にシアル酸が結合していると考えられる。実際のヒト生体内の可溶型IL-6レセプターの糖鎖構造が複合型糖鎖であり末端にシアル酸が結合していると考えられることから、SR344のほうがヒト生体内の可溶型IL-6レセプターの構造に近いと考え、本実験ではrhIL-6sRとSR344の比較試験を実施した。
測定で得られたセンサーグラムから、カイネティクスパラメーターである結合速度定数 k
a (1/Ms) 、および解離速度定数 k
d (1/s) を算出し、その値をもとに K
D (M) を算出した。各パラメーターの算出には Biacore T100 Evaluation Software(BIACORE) を用いた。
センサーチップは、アミンカップリング法により Protein A/G をCM5 (BIACORE) に約 3000 RU 固定化することで作製した。作製したセンサーチップを用いて、Protein A/G に結合させた抗体 (WT と RDC_23) と rhIL-6sR および SR344 の2種類の可溶型IL-6レセプターとの相互作用の速度論的解析を行った。ランニングバッファーには HBS-EP+ を用い、流速は 20 μL/min とした。各抗体は Protein A/G に約 100 RU 結合するよう調製した。アナライトとして用いた rhIL-6sR は HBS-EP+ を用いて、0、0.156、0.313、0.625 μg/mL に調製し、SR344 は 0、0.0654、0.131、0.261 μg/mL に調整した。測定はまず目的の抗体である WT と RDC_23 をProtein A/G に結合させ、そこへアナライト溶液を 3 分間相互作用させ、その後 HBS-EP+(BIACORE) に切り替え 10 分間解離相を測定した。解離相の測定終了後、10 uL の 10 mM glycine-HCl (pH1.5) で洗浄し、センサーチップを再生した。この結合・解離・再生を分析の 1 サイクルとした。実験は全て 37 °C で行った。
WT と RDC_23 それぞれについてこのサイクルに従って測定を行い、rhIL-6sR および SR344 の2種類の可溶型IL-6レセプターについて得られたセンサーグラムを
図8、
図9、
図10、および、
図11に示した。得られたセンサーグラムについて、Biacore 専用のデータ解析ソフトウェアである Biacore T100 Evaluation Softwareを用いて速度論的な解析を行った(表3)。その結果、rhIL-6sRとSR344の比較において、WTおよびRDC_23ともにSR344を用いたほうが得られるアフィニティーが2~3倍弱くなることが明らかとなった。RDC_23はrhIL-6sRとSR344の両方に対して、WTと比較して40~60倍程度アフィニティーが向上しており、アフィニティーマチュレーションにより得られた各CDR改変の組み合わせにより、ヒト生体内の可溶型IL-6レセプターの構造に近いと考えられるSR344に対しても、WTと比較して非常に強いアフィニティーを示すことが明らかとなった。以降の実施例においては、測定は全て37℃において、SR344およびprotein A/Gを用いた抗原抗体反応の速度論的解析を行うこととする。
【表3】
【0295】
〔実施例3〕CDRおよびフレームワーク改変による血漿中滞留性の向上と免疫原性リスクを低減させたH53/L28の創製
Cancer Res. 1993 Feb 15;53(4):851-6においてヒト化されたマウスPM1抗体(以降Wild type、WTと略、H鎖WTをH(WT)とし、L鎖WTをL(WT)とする)の血漿中滞留性向上、免疫原性リスクの低減、および安定性の向上を目指して以下のように改変を実施した。血漿中滞留性を向上させるために、WTのH鎖可変領域およびL鎖可変領域配列に等電点を低下させる改変の導入を行った。
【0296】
ヒト化PM1抗体の立体構造モデルの作製
はじめにヒト化PM1抗体(H(WT)/L(WT))の可変領域表面に露出するアミノ酸残基を確認するために、MOEソフトウェア(Chemical Computing Group Inc.)を用いて、ホモロジーモデリングによりヒト化されたマウスPM1抗体のFv領域モデルを作製した。
【0297】
ヒト化PM1抗体の等電点低下のための改変箇所の選定
作製したモデルの詳細な解析により、等電点を低下させる改変導入箇所としてFR配列においては表面に露出するアミノ酸の中で、H16、H43、H81、H105、L18、L45、L79、L107(Kabatナンバリング、Kabat EA et al. 1991. Sequences of Proteins of Immunological Interest.NIH)が、CDR配列としてはH31、H64、H65、L24、L27、L53、L55が、活性や安定性を低下させること無く、等電点を低下させることができる候補になると考えられた。
【0298】
ヒト化PM1抗体に残存するマウス配列の除去
ヒト化PM1抗体はマウスPM1抗体をヒト化した抗体配列である(Cancer Res. 1993 Feb 15;53(4):851-6)。ヒト化PM1抗体のH鎖は、ヒト抗体可変領域であるNEWのフレームワークにCDRグラフティングしているが、H鎖のH27、H28、H29、H30、H71は活性保持のためマウス配列をそのまま利用している。免疫原性のリスクを考えるとマウス配列は少なければ少ないほど良いと考えられるため、H27、H28、H29、H30をヒト配列にするための配列を探索した。
【0299】
ヒト化PM1抗体の安定性向上を目指した改変箇所の選定
ヒト化PM1抗体(H(WT)/L(WT))の可変領域において、H65のセリンからグリシンへの置換(ターン構造の安定化、HCDR2のコンセンサス配列への改変することで安定化)、H69のメチオニンからイソロイシンへの置換(疎水コア構造を安定化)、および、H70のロイシンからセリンへの置換(表面露出残基を親水化することで安定化)、H58のスレオニンからアスパラギンへの置換(HCDR2のコンセンサス配列への改変することで安定化)、L93のスレオニンからセリンへの置換(表面露出残基を親水化することで安定化)、H107のセリンからイソロイシン(βシートの安定化)を行うことで安定性を向上させること可能と考え、これらの改変は安定性を向上させる候補になると考えられた。
【0300】
ヒト化PM1抗体のIn silicoで予測されたT-cellエピトープの除去
はじめにヒト化PM1抗体(H(WT)/L(WT))の可変領域をTEPITOPE(Methods. 2004 Dec;34(4):468-75)を用いて解析を行った。その結果、L鎖CDR2に、多くのHLAに結合するT-cellエピトープが存在することが示された。そこで、TEPITOPE解析においてL鎖CDR2の免疫原性リスクを低減させつつ、安定性、結合活性、中和活性を低下させない改変を検討した。その結果、L鎖CDR2のL51のスレオニンをグリシンに置換することで、安定性、結合活性、中和活性を低下させずにHLAに結合するT-cellエピトープを除去できることが明らかとなった。
【0301】
各フレームワーク配列の選定
一般公開されているKabat Database (ftp://ftp.ebi.ac.uk/pub/databases/kabat/) およびIMGT Database (http://imgt.cines.fr/)よりヒト抗体アミノ酸配列データを入手し、構築したデータベースを用いることで、各フレームに分けてホモロジー検索が可能である。ヒトフレームワークの選定にあたり、等電点の低下、残存するマウス配列の除去、安定性の向上の観点から上述した各項目の改変を有するヒトフレームワーク配列をデータベースにて検討を行った。その結果、以下に示すとおり改変抗体H53/L28の各フレームワークを以下の配列にすることで結合活性、中和活性を低下させることなく、上述した項目を満たすことが明らかになった。Sourceはそのヒト配列の由来であり、配列のうち下線部のアミノ酸残基がWTと比較して改変を導入したアミノ酸である。
【表4】
また、上述のH53のFR3は非ヒト配列が存在しているため、さらに免疫原性リスクを低減することが望ましい。免疫原性リスクを低減する改変として、H89のAlaをValに置換した配列(配列番号:127)にすることが可能と考えられる。さらにH53のFR3のH71のArgは結合活性に重要であるため(Cancer Res. 1993 Feb 15;53(4):851-6)、H71がArgで保存されているヒトVH1サブクラスのFR3配列(配列番号:128)、あるいは、ヒトVH3サブクラスのFR3配列(配列番号:129)を用いることで、H鎖、L鎖ともにフレームワークとしては完全にヒト配列である抗ヒトIL-6レセプター抗体を作製可能であると考えられる。
【0302】
各CDR配列の選定
CDR配列にあたり、第一に結合活性、中和活性を低下させることなく、等電点の低下、安定性の向上、T-cellエピトープの除去の観点からH53/L28の各CDR配列を以下のように選定した。
【表5】
【0303】
改変抗体の発現ベクター作製・発現・精製
改変した抗体の発現ベクター作製・発現・精製は、実施例1に記した方法で行った。ヒト化されたマウスPM1抗体のH(WT)変異導入用ベクター、L(WT)変異導入用ベクターに選定されたフレームワーク配列、CDR配列になるように順次改変を導入した。最終的に得られた定されたフレームワーク配列、CDR配列を有するH53/L28(抗体アミノ酸配列 H53 配列番号:104、L28 配列番号:105)をコードする動物細胞発現用ベクターを用いて、H53/L28の発現・精製を行い、以下の評価に使用した。
【0304】
改変抗体H53/L28の等電点電気泳動による等電点評価
可変領域のアミノ酸改変による全長抗体の等電点の変化について評価するために、WTと改変抗体H53/L28の等電点電気泳動による分析を実施した。等電点電気泳動は以下のとおり行った。Phastsystem Cassette (Amersham Biosciences社製) を用いて以下の膨潤液で30 minほどPhast-Gel Dry IEF (Amersham Biosciences社製)ゲルを膨潤させた。
ミリQ水 1.5 mL
Pharmalyte 5-8 for IEF (Amersham Biosciences社製) 50μL
Pharmalyte 8-10.5 for IEF (Amersham Biosciences社製) 50μL
膨潤したゲルを用いてPhastSystem(Amersham Biosciences社製)により以下のプログラムで電気泳動を行った。サンプルはStep 2でゲルに添加した。pIマーカーとして、Calibration Kit for pI(Amersham Biosciences社製)を使用した。
Step 1: 2000 V 2.5 mA 3.5 W 15℃ 75 Vh
Step 2: 200 V 2.5 mA 3.5 W 15℃ 15 Vh
Step 3: 2000 V 2.5 mA 3.5 W 15℃ 410 Vh
泳動後のゲルは20 % TCAで固定した後、Silver staining Kit, protein(Amersham Biosciences社製)を用い、キットに添付されているプロトコールに従い銀染色を行った。染色後、pIマーカーの既知等電点からサンプル(全長抗体)の等電点を算出した。その結果、WTの等電点は約9.3であり、改変抗体H53/L28の等電点は約6.5~6.7であり、WTからアミノ酸置換により等電点を約2.7低下したH53/L28が得られた。また、このH53/L28の可変領域(VH、VL配列)の理論等電点をGENETYX(GENETYX CORPORATION)により計算したところ、理論等電点は4.52であった。WTの理論等電点が9.20であることから、WTからアミノ酸置換により可変領域の理論等電点を約4.7低下したH53/L28が得られた。
【0305】
H53/L28のヒトIL-6レセプター中和活性評価
WTとH53/L28を実施例1に示す方法で実施した。結果を
図12に示した。その結果、改変抗体H53/L28はWTと比較して、BaF/gp130の中和活性が数倍向上していることが明らかとなった。すなわち、H53/L28はWTと比較して、等電点を低下させつつ、中和活性を向上させることが出来た。
【0306】
BiacoreによるH53/L28のヒトIL-6レセプターに対するアフィニティー解析
WTとH53/L28のヒトIL-6レセプターへの親和性評価は、Biacore T100 (BIACORE) を用いて速度論的解析を行った。センサーチップ上にPurified Recomb Protein A/G (Pierce) (以下、Protein A/G) を固定化し、そこに種々の抗体を結合させ、そこに抗原をアナライトとして流し、抗体と抗原の相互作用を測定した。抗原には種々の濃度に調整した組換え可溶型IL-6レセプター(SR344)を用いた。測定条件は実施例2と同じ条件で実施した。
得られたWTとH53/L28のセンサーグラムを
図13に示した。Biacore 専用のデータ解析ソフトウェアである Biacore T100 Evaluation Softwareを用いて速度論的な解析を行った結果を表6に示した。その結果、H53/L28はWTと比較してK
Dが6倍程度低下しており、アフィニティーが6倍程度向上していることが見出された。すなわちH53/L28はWTと比較して、等電点を低下させつつ、6倍程度アフィニティーを向上させることが出来た。詳細な検討の結果、affinityの向上に寄与しているアミノ酸変異はL51のスレオニンをグリシンに置換した変異であることが考えられた。すなわち、L51のスレオニンをグリシンに置換することでアフィニティーを向上させることが可能であること考えられた。
【表6】
【0307】
H53/L28のTEPITOPEによるT-cellエピトープ予測
H53/L28のTEPITOPE解析(Methods. 2004 Dec;34(4):468-75)を実施した。その結果、WTに比べて、HLAに結合する可能性のあるペプチド数が大幅に減少していることが分かり、ヒトにおける免疫原性リスクが低減されたと考えられた。
【0308】
〔実施例4〕H53/L28の血漿中滞留性評価
改変抗体H53/L28の正常マウス血漿中動態評価
等電点を低下させた改変抗体H53/L28の血漿中滞留性を評価するために、WTと改変抗体H53/L28の正常マウスにおける血漿中動態の比較を行った。
WTおよびH53/L28をマウス(C57BL/6J、日本チャールズリバー)に1 mg/kgで静脈内および皮下に単回投与し投与前および投与後15分間、2時間、8時間、1日間、2日間、5日間、7日間、14日間、21日間、28日間で採血を行った。ただし投与後15分間は静脈内投与群のみから採血した。採取した血液は直ちに4℃、15,000 rpmで15分間遠心分離し、血漿を得た。分離した血漿は、測定を実施するまで-20℃以下に設定された冷凍庫に保存した。
マウス血漿中濃度測定はELISA法にて測定した。まずRecombinant Human IL-6 sR (R&D Systems社製) をEZ-LinkTM Sulfo-NFS-Biotinylation Kit (PIERCE社製) を用いてBiotin化した。このBiotin化human-sIL-6RをReacti-Bind Streptavidin High Binding Capacity (HBC) Coated Plates (PIERCE社製)に分注し、室温で1時間以上静値しhuman-sIL-6R固相化プレートを作成した。血漿中濃度として3.2、1.6、0.8、0.4、0.2、0.1、0.05μg/mLの検量線試料とマウス血漿測定試料を調製し、human-sIL-6R固相化プレートに分注し室温で1時間静置した。その後Anti-human IgG-AP (SIGMA社製)を反応させ、BluePhos Microwell Phosphatase Substrates System(Kirkegaard & Perry Laboratories社製)を基質として用い発色反応を行い、マイクロプレートリーダーにて650 nmの吸光度を測定した。マウス血漿中濃度は検量線の吸光度から解析ソフトウェアSOFTmax PRO(Molecular Devices社製)を用いて算出した。WTおよびH53/L28の静脈内投与後の血漿中濃度推移を
図14に、皮下投与後の血漿中濃度推移を
図15に示した。
得られた血漿中濃度推移のデータを薬物動態解析ソフトWinNonlin(Pharsight社製)で非モデル依存的解析を行い薬物動態学的パラメーター(AUC、クリアランス(CL)、半減期(T1/2))を算出した。T1/2は最終の3点もしくはWinNonlin が自動設定した最終相の血漿中濃度から算出した。BAは静脈内投与後のAUCに対する皮下投与後のAUCの比から算出した。得られた薬物動態的パラメーターを表7に示した。
【表7】
H53/L28の静脈内投与後の血漿中半減期(T1/2)はWTの約1.3倍に延長し、クリアランスが約1.7倍低下した。H53/L28の皮下投与後のT1/2はWTの約2倍に延長し、クリアランスが約2.1倍低下した。このようにWTの等電点を低下させることによって、H53/L28の血漿中滞留性を大幅に向上させることが出来た。
H53/L28は、ヒト化PM-1抗体(WT)と比較して、結合活性、中和活性を向上させ、免疫原性リスクを低減させつつ、血漿中滞留性を大幅に向上させたヒト化抗IL-6レセプター抗体であることから、医薬品として開発する上でH53/L28で適用した改変は極めて有用であると考えられた。
【0309】
〔実施例5〕PF1抗体の作製
ヒト化PM1抗体の発現ベクターおよび変異導入ベクターの作製
実施例4で作成したH53/L28に実施例2で見出されたRDC_23のアフィニティーを向上させるH鎖2ヶ所、L鎖2ヶ所、合計4ヶ所のCDRの変異を導入した。H53/L28にRDC_23の変異を導入したH鎖をPF1_Hとし、H53/L28にRDC_23の変異を導入したL鎖をPF1_Lとし、改変抗体を作製・発現・精製は実施例1に記した方法で実施した。PF1_Hのアミノ酸配列を配列番号:22に、PF1_Lのアミノ酸配列を配列番号:23に示す。
【0310】
ヒトIL-6レセプター中和活性評価
精製したPF1抗体の中和活性の評価を実施例1に示す方法で行った。ただし、human interleukin-6 (TORAY)濃度を600 ng/mLにして中和活性の評価を行った。WTとPF1の中和活性を
図16に示した。PF1はWTと比較して100%阻害濃度として約100~1000倍の活性を持つことが明らかになった。
【0311】
Biacoreによる PF1 抗体のヒトIL-6レセプターに対するアフィニティー解析
本測定は実施例2と同様の条件で行った。ランニングバッファーには HBS-EP+ を用い、流速は 20 μL/minとした。各抗体は Protein A/G に約 100 RU 結合するよう調製した。アナライトとして用いた SR344 は HBS-EP+ を用いて 0、0.065、0.131、0.261 μg/mL に調整した。測定はまず抗体溶液をProtein A/G に結合させ、そこへアナライト溶液を 3 分間相互作用させ、その後 HBS-EP+ に切り替え 10もしくは 15 分間解離相を測定した。解離相の測定終了後、10 μL の 10 mM glycine-HCl (pH1.5) で洗浄し、センサーチップを再生した。この結合・解離・再生を分析の 1 サイクルとした。各種抗体についてこのサイクルに従って測定を行った。
得られたPF1のセンサーグラムを
図17に示した。得られたセンサーグラムについて、Biacore 専用のデータ解析ソフトウェアである Biacore T100 Evaluation Softwareを用いて速度論的な解析を行った結果をWTとH53/L28の結果と合わせてを表8に示した。その結果、PF1のアフィニティーはWTと比較して、約150倍向上していることが明らかとなった。アフィニティーマチュレーションの組み合わせにより得られた高アフィニティーのRDC_23、および、血漿中滞留性を向上させ且つアフィニティーが向上したH53/L28を組み合わせたことにより、PF1のアフィニティーは相加効果によりこれらよりも高いものが得られた。
【表8】
【0312】
PF1抗体の示走差査型熱量測定(DSC)による熱安定性評価
PF1抗体の熱安定性の評価を実施するために示走差査型熱量測定(DSC)による熱変性中間温度(Tm値)の評価を行った。WTとPF1の精製抗体を20mM sodium acetate, 150mM NaCl, pH6.0の溶液に対して透析(EasySEP, TOMY)を行い、約0.1mg/mLのタンパク質濃度で、40℃から100℃まで1℃/minの昇温速度でDSC測定を行った。その結果、WTのFab部分のTm値は約94℃であり、PF1のFab部分のTm値は91℃であることが分かった。一般的なIgG1タイプの抗体分子のFab部分のTm値は約60℃~85℃の範囲にあることから(Biochem Biophys Res Commun. 2007 Apr 13;355(3):751-7.、Mol Immunol. 2007 Apr;44(11):3049-60)、得られたPF1抗体の熱安定性は一般的なIgG1分子と比較して極めて高いことが示された。
【0313】
PF1抗体の高濃度安定性評価
PF1抗体の高濃度製剤における安定性の評価を行った。WTとPF1の精製抗体を20mM histidine chloride, 150mM NaCl, pH6.5の溶液に対して透析(EasySEP, TOMY)を行い、その後限外ろ過膜により濃縮し、高濃度安定性試験を行った。条件は以下のとおりである。
抗体:WTおよびPF1
緩衝液:20mM histidine chloride, 150mM NaCl, pH6.0
濃度:145mg/mL
保存温度と期間:25℃-2週、25℃-4週、25℃-7週
会合体評価法:システム Waters Alliance
カラム G3000SWxl(TOSOH)
移動相 50mM sodium phosphate, 300mM KCl, pH7.0
流速・波長 0.5ml/min、220nm
サンプルを1/100に希釈して分析
Initial(製剤調製直後)および各条件で保存後の製剤の会合体含有量を上述のゲルろ過クロマトグラフィー法により評価し、initialから会合体含量の変化量(増加量)について
図18に示した。その結果、WTおよびPF1はともに非常に高い安定性を示し、25℃-7週の会合体量増加量はWTで約0.7%程度、PF1で約0.3%であることが分かり、それぞれ25℃-1ヶ月あたりの会合体増加量はそれぞれ約0.4%と約0.17%であり、PF1は特に高濃度において極めて高い安定性を示すことが分かった。WO 2003/039485において、IgGの高濃度製剤としてすでに上市されているDaclizumabの100mg/mL製剤の25℃における安定性データが示されているが、Daclizumabの100mg/mL製剤は25℃-1ヶ月あたりの会合体増加量は約0.3%であり、PF1はDaclizumabと比較しても高濃度における安定性が極めて優れており、医薬品として高濃度の溶液製剤を開発する上では、会合体の増加は大きな課題であるが、PF1抗体は高濃度における会合体の増加が極めて少ないことが示された。
PF1は、WTに対して、抗原結合能の向上、等電点の低下による血漿中滞留性の向上、残存するマウス配列の除去とT-cellエピトープの除去による免疫原性リスクの低減、安定性の向上を目的に改変を加えた分子であるが、実際に100mg/mL以上の高濃度製剤における安定性もWTと比較しても非常に高いことが明らかとなり、このような分子を用いることで安定且つ利便性の高い高濃度皮下投与製剤を提供することが可能である。
【0314】
〔実施例6〕PF1抗体のヒトIL-6レセプタートランスジェニックマウスによるPK/PD試験
ヒトIL-6レセプタートランスジェニックマウスを用いた体内動態試験
WTおよび実施例5で作成したPF1について、ヒトIL-6レセプタートランスジェニックマウス(hIL-6R tg マウス、Proc Natl Acad Sci U S A. 1995 May 23;92(11):4862-6)における体内動態およびヒト可溶型IL-6レセプターのvivoでの中和能を評価した。WTおよびPF1をhIL-6R tgマウスに10mg/kgで静脈内に単回投与し投与前および投与後15分間、2時間、4時間、8時間、1日間、2日間、4日間、7日間で採血を行った。採取した血液は直ちに4℃、15,000 rpmで15分間遠心分離し、血漿を得た。分離した血漿は、測定を実施するまで-20℃以下に設定された冷凍庫に保存した。
マウス血漿中濃度測定はELISA法にて測定した。血漿中濃度として6.4、3.2、1.6、0.8、0.4、0.2、0.1μg/mLの検量線試料を調整した。検量線試料およびマウス血漿測定試料をAnti-human IgG(γ-chain specific) F(ab')2(Sigma社製)で固相化したイムノプレート(Nunc-Immuno Plate,MaxiSorp(Nalge nunc International社製))に分注し、室温で1時間静置後、Goat Anti-Human IgG-BIOT(Southern Biotechnology Associates社製)およびStreptavidin-alkaline phosphatase conjugate (Roche Diagnostics社製)を順次反応させ、BluePhos Microwell Phosphatase Substrates System(Kirkegaard & Perry Laboratories社製)を基質として用い発色反応を行い、マイクロプレートリーダーにて650 nmの吸光度を測定した。マウス血漿中濃度は検量線の吸光度から解析ソフトウェアSOFTmax PRO(Molecular Devices社製)を用いて算出した。WTおよびPF1の血漿中濃度推移を
図19に示した。PF1の投与4日間後の血漿中濃度はWTと比較して約5倍高い値であったことから、PF1はWTと比較してヒトIL-6レセプタートランスジェニックマウスにおいて血漿中滞留性が向上していることが明らかとなった。
ヒトIL-6レセプタートランスジェニックマウスは、血漿中にヒト可溶型IL-6レセプターを産生することが分かっている。そのため、ヒトIL-6レセプタートランスジェニックマウスに抗ヒトIL-6レセプター抗体を投与することによって、血漿中に存在するヒト可溶型IL-6レセプターの中和効果を評価することが可能である。
WTあるいはPF1の投与によって、ヒト可溶型IL-6レセプターがどの程度中和されているかを評価するために、マウス血漿中の非結合型のヒト可溶型IL-6レセプター濃度の測定を測定した。マウスの血漿6μLをBSAを含有する希釈バッファーで2倍に希釈し、0.22μmのフィルターカップ(Millipore)において乾燥させた適量のrProtein A Sepharose Fast Flow (GE Healthcare)樹脂に添加することで血漿中に存在する全てのIgG型抗体(マウスIgG、抗ヒトIL-6レセプター抗体および抗ヒトIL-6レセプター抗体-ヒト可溶型IL-6レセプター複合体)をproteinAに吸着させた。その後、高速遠心機でスピンダウンし、パス溶液を回収した。パス溶液にはproteinAに結合した抗ヒトIL-6レセプター抗体-ヒト可溶型IL-6レセプター複合体は含まれないため、パス溶液中のヒト可溶型IL-6レセプター濃度を測定することによって、非結合型の可溶型IL-6レセプター濃度を測定可能である。可溶型IL-6レセプター濃度は、Quantikine Human IL-6 sR (R&D Systems)を使用した。WTおよびPF1投与マウスの4時間後、8時間後、24時間後、48時間後、96時間後、168時間後の非結合型の可溶型IL-6レセプター濃度の測定を添付説明書に従って実施した。
結果を
図20に示した。WTおよびPF1を10mg/kgで静脈内に単回投与した4時間後、8時間後まではWTおよびPF1ともに非結合型の可溶型IL-6レセプター濃度は10ng/mL以下であり、ヒト可溶型IL-6レセプターが中和されていることが確認された。しかし、24時間後のWTの非結合型の可溶型IL-6レセプター濃度は500ng/mL程度であったのに対して、PF1の非結合型の可溶型IL-6レセプター濃度は10ng/mL以下であったことから、PF1はWTよりも持続的にヒト可溶型IL-6レセプターが中和していることが見出された。
PF1は、アフィニティーマチュレーションで見出されたRDC_23と血漿中滞留性等を改善させたH53/L28を組み合わせたものであり、in vivoで長い血漿中滞留性と高い中和活性を発揮することが可能であると考えられた。実際、ヒト可溶型IL-6レセプターを産生するヒトIL-6レセプタートランスジェニックマウスにおいて、PF1は中和効果と血漿中濃度がWTよりも持続することが示された。
PF1は高濃度製剤における安定性および免疫原性リスクにおいてもWT(ヒト化PM-1抗体)よりも優れており、またヒトIL-6レセプタートランスジェニックマウスにおいてもIL-6レセプター中和効果と血漿中滞留性が優れていることから、医薬品として開発する上でPF1で適用した改変は極めて有用であると考えられた。
【0315】
〔実施例7〕IgG2およびIgG4の酸性条件下における安定性の向上
IgG2、IgG4化ヒト化IL-6レセプター抗体発現ベクターの作製・発現
Fcγレセプターへの結合活性を低下させるためにヒト化PM1抗体(Cancer Res. 1993 Feb 15;53(4):851-6)の定常領域はIgG1アイソタイプであるが、定常領域をIgG2に置換した分子(WT-IgG2、配列番号:109)、および、IgG4(Mol Immunol. 1993 Jan;30(1):105-8.)に置換した分子(WT-IgG4、配列番号:110)を作製した。IgGの発現には動物細胞発現用ベクターを使用した。実施例1で使用しているヒト化PM1抗体(IgG1)の定常領域部分のNheI/NotI消化とligationにより定常領域をIgG2あるいはIgG4に置換した発現ベクターを構築した。各DNA断片の塩基配列は、BigDye Terminator Cycle Sequencing Kit(Applied Biosystems)を用い、DNAシークエンサーABI PRISM 3730xL DNA SequencerまたはABI PRISM 3700 DNA Sequencer(Applied Biosystems)にて、添付説明書記載の方法に従い決定した。L鎖としてWTを用い、WT-IgG1、WT-IgG2、WT-IgG4の発現は実施例1に記した方法で実施した。
(1) ヒト化PM1抗体(WT-IgG1)H鎖:配列番号:15(アミノ酸配列)
(2) WT-IgG2H鎖:配列番号:109(アミノ酸配列)
(3) WT-IgG4H鎖:配列番号:110(アミノ酸配列)
【0316】
WT-IgG1、WT-IgG2、WT-IgG4のプロテインA塩酸溶出による精製
得られた培養上清にTBS中に懸濁させた50μLのrProtein A SepharoseTM Fast Flow(Amersham Biosciences)を添加し、4℃で4時間以上転倒混和した。その溶液を0.22μmのフィルターカップUltrafree(R)-MC(Millipore)に移し、TBS 500μLにて3回洗浄後、rProtein A SepharoseTM樹脂に100μLの10mM HCl, 150mM NaCl, pH2.0に懸濁して2分間静置したのち、抗体を溶出させた(塩酸溶出法)。直ちに、6.7μLの1.5M Tris-HCl , pH 7.8を加えて中和した。溶出は2回行い、200μLの精製抗体を得た。
【0317】
塩酸溶出法により精製したWT-IgG1、WT-IgG2、WT-IgG4のゲルろ過クロマトグラフィー分析
塩酸溶出法により得られた精製品の会合体含量を評価するためにゲルろ過クロマトグラフィー分析を行った。
会合体評価法:システム Waters Alliance
カラム G3000SWxl(TOSOH)
移動相 50mM sodium phosphate, 300mM KCl, pH7.0
流速・波長 0.5ml/min、220nm
結果を
図21に示した。WT-IgG1の精製後の会合体含量は2%程度であったのに対して、WT-IgG2、および、WT-IgG4の精製後の会合体含量は25%程度であった。このことから、IgG1は塩酸溶出時の酸に対して安定であるが、IgG2およびIgG4は塩酸溶出時の酸に対して不安定であり変性・会合化が進行したと考えられ、IgG2およびIgG4は、IgG1と比較して酸性条件下における安定性が低いことが明らかとなった。IgG分子の精製においては、プロテインAが多用されるが、IgG分子のプロテインAからの溶出は酸性条件下で行われる。またIgG分子を医薬品として開発する上で必要なウィルス不活化は、一般に酸性条件下において行われる。これらのことから、IgG分子の酸性条件下における安定性は高いほうが望ましいが、IgG2およびIgG4分子は酸性条件下における安定性がIgG1よりも劣ることが分かり、医薬品として開発するには酸性条件下での変性・会合化という課題が存在することが初めて明らかとなった。医薬品として開発するには変性・会合化という課題が解決されることが望ましいと考えられたが、これまでにアミノ酸置換によりこれを解決する方法は報告されていない。
【0318】
WT-IgG2、WT-IgG4のCH3ドメイン改変体の作製と評価
IgG2およびIgG4分子は酸性条件下における安定性がIgG1よりも劣ることが示されたため、IgG2およびIgG4分子の酸性条件下での安定性を改善させる改変体を検討した。IgG2およびIgG4分子の定常領域のモデルより、酸性条件下における不安定要因として、CH3ドメインにおけるCH3/CH3界面の不安定性が考えられ、様々な検討を行った結果、IgG2においてはEUナンバリングの397番目のメチオニン、IgG4においてはEUナンバリングの409番目のアルギニンがそれぞれIgG2およびIgG4のCH3/CH3界面を不安定化していると考えられた。そこで、IgG2 のEUナンバリングの397番目のメチオニンをバリンに改変した抗体(IgG2-M397V 配列番号:111(アミノ酸配列)、および、IgG4のEUナンバリングの409番目のアルギニンをリジンに改変した抗体(IgG4-R409K 配列番号:112(アミノ酸配列)を作製した。
目的の抗体の発現ベクターの作製・発現・精製は、上述の塩酸溶出の方法を用いて行った。Protein Aからの塩酸溶出法により得られた精製品の会合体含量を評価するためにゲルろ過クロマトグラフィー分析を行った。
会合体評価法:システム Waters Alliance
カラム G3000SWxl(TOSOH)
移動相 50mM sodium phosphate, 300mM KCl, pH7.0
流速・波長 0.5ml/min、220nm
結果を
図21に示した。WT-IgG1の精製後の会合体含量は2%程度であったのに対して、WT-IgG2、および、WT-IgG4の精製後の会合体含量は25%程度であった。それに対して、CH3ドメイン改変体であるIgG2-M397V、および、IgG4-R409Kの会合体含量がIgG1と同等レベルの2%程度であった。IgG2 のEUナンバリングの397番目のメチオニンをバリンに改変することで、あるいは、IgG4のEUナンバリングの409番目のアルギニンをリジンに改変することで、IgG2抗体およびIgG4抗体の酸性条件下における安定性を向上させることが可能であることが明らかになった。また、実施例5と同様の方法で、WT-IgG2、WT-IgG4、IgG2-M397V、および、IgG4-R409Kの熱変性中間温度を測定した結果、WT-IgG2、WT-IgG4に比べてIgG2-M397V、IgG4-R409Kはそれぞれ改変を導入したCH3ドメインのTm値が高いことが分かった。このことから、IgG2-M397V、IgG4-R409KはそれぞれWT-IgG2、WT-IgG4に比べて熱安定性においても優れていることが分かった。
IgG2およびIgG4はプロテインAを用いた精製工程およびウィルス不活化工程において酸性条件下に暴露されることから、同工程における変性・会合化が課題であったが、IgG2及びIgG4の定常領域配列として、IgG2-M397VおよびIgG4-R409Kを使用することによって、その課題を解決することが可能であることが明らかになり、同改変はIgG2及びIgG4抗体を医薬品として開発する上で極めて有用であることが分かった。また、IgG2-M397VおよびIgG4-R409Kは熱安定性にも優れている点からも有用であることが分かった。
【0319】
〔実施例8〕IgG2のジスルフィド結合由来のヘテロジェニティーの改善
WT-IgG1、WT-IgG2、WT-IgG4のプロテインA酢酸溶出による精製
実施例7で得られた培養上清にTBS中に懸濁させた50μLのrProtein A Sepharose
TM Fast Flow(Amersham Biosciences)を添加し、4℃で4時間以上転倒混和した。その溶液を0.22μmのフィルターカップUltrafree
(R)-MC(Millipore)に移し、TBS 500μLにて3回洗浄後、rProtein A Sepharose
TM樹脂に100μLの50 mM 酢酸ナトリウム水溶液, pH 3.3に懸濁して2分間静置したのち、抗体を溶出させた。直ちに、6.7μLの1.5M Tris-HCl, pH 7.8を加えて中和した。溶出は2回行い、200μLの精製抗体を得た。
WT-IgG1、WT-IgG2、WT-IgG4の陽イオン交換クロマトグラフィー(IEC)分析
精製されたWT-IgG1、WT-IgG2、WT-IgG4の均一性を評価するために陽イオン交換クロマトグラフィーによる分析を行った。
IEC評価法:システム Waters Alliance
カラム ProPac WCX-10 (Dionex)
移動相 A : 25mM MES-NaOH, pH6.1
B : 25mM MES-NaOH, 250mM Na-Acetate, pH6.1
流速・波長 0.5ml/min、280nm
グラジエント B : 50%-75% (75min) WT-IgG1分析時
B : 30%-55% (75min) WT-IgG2、WT-IgG4分析時
結果を
図22に示した。WT-IgG1、WT-IgG4はイオン交換分析でシングルピークであったが、WT-IgG2は複数のピークが存在していることが分かり、IgG2分子は、IgG1やIgG4と比較してヘテロジェニティーが多いことが分かった。実際、IgG2のアイソタイプは、ヒンジ領域のジスルフィド結合に由来するヘテロジェニティー(不均一性)が報告されており(Chu GC, Chelius D, Xiao G, Khor HK, Coulibaly S, Bondarenko PV. Accumulation of Succinimide in a Recombinant Monoclonal Antibody in Mildly Acidic Buffers Under Elevated Temperatures. Pharm Res. 2007 Mar 24;24(6):1145-56)、
図22に示されたIgG2のヘテロピークもこれに由来する目的物質/関連物質と考えられる。目的物質/関連物質のヘテロジェニティーの製造間差を維持しつつ医薬品として大量に製造することは難しく、医薬品として開発する抗体分子は望ましくは可能な限り均一な(ヘテロジェニティーが少ない)物質であったほうがよい。よって野生型IgG2は、抗体を医薬品として開発するにあたって重要な均一性に課題があると考えられた。実際、US20060194280(A1)において、天然型IgG2はイオン交換クロマトグラフィー分析においてジスルフィド結合に由来する様々なヘテロピークが観察されており、これらのピーク間では生物活性が異なることも報告されている。このヘテロピークを単一化する方法として、US20060194280(A1)においては精製工程におけるリフォールディングが報告されているが、製造においてこれらの工程を用いることはコストがかかり煩雑であるため、好ましくはアミノ酸置換によりヘテロピークを単一化する方法が望ましい。医薬品として開発するにはヒンジ領域のジスルフィド結合に由来するヘテロジェニティーが解決されることが望ましいと考えられたが、これまでにアミノ酸置換によりこれを解決する方法は報告されていない。
【0320】
WT-IgG2のCH1ドメイン、ヒンジ領域の改変体の作製と評価
図23に示すとおりIgG2分子に関しては様々なジスルフィド結合パターンが考えられる。IgG2のヒンジ領域に由来するヘテロジェニティーの原因として、ジスルフィド結合の掛け違い、および、フリーのシステインの存在が考えられた。IgG2はupper hinge領域に2つのシステインを有し(EUナンバリング219番目と220番目、このupper hingeの2つのシステインに隣接するシステインとして、H鎖のCH1ドメインに存在するEUナンバリング131番目のシステインとL鎖のC末端のシステイン、および、2量化する相手H鎖の同じupper hingeの2つのシステインが挙げられる。すなわち、IgG2のupper hinge周辺にはH2L2の会合した状態では合計8個のシステインが隣接しており、これにより、ジスルフィド結合の掛け違い、および、フリーのシステインによる様々なヘテロジェニティーが存在することが考えられる。
IgG2のヒンジ領域に由来するヘテロジェニティーを低減することを目的にIgG2のヒンジ領域配列とCH1ドメインの改変を行った。IgG2においてジスルフィド結合の掛け違い、および、フリーのシステインによるヘテロジェニティーを回避するための検討を行った。各種改変体の検討の結果、野生型IgG2定常領域配列のうち、H鎖のCH1ドメインに存在するEUナンバリング131番目のシステインと133番目のアルギニンをそれぞれセリンとリジンに改変し、H鎖のupper hingeに存在するEUナンバリング219番目のシステインをセリンに改変する(以下、IgG2-SKSC)(IgG2-SKSC:配列番号:120)ことによって、熱安定性を低下させることなくヘテロジェニティーを回避することが可能であると考えられた。これにより、IgG2-SKSCのH鎖とL鎖の共有結合は、EUナンバリング220番目のシステインとL鎖のC末端のシステインでジスルフィド結合により均一に形成されると考えられる(
図24)。
IgG2-SKSCの発現ベクターの作製、発現、精製は実施例1に記した方法で実施した。精製されたIgG2-SKSCおよび野生型IgG2(WT-IgG2)の均一性を評価するために陽イオン交換クロマトグラフィーによる分析を行った。
IEC評価法:システム Waters Alliance
カラム ProPac WCX-10 (Dionex)
移動相 A : 25mM MES-NaOH, pH5.6
B : 25mM MES-NaOH, 250mM Na-Acetate, pH5.6
流速・波長 0.5ml/min、280nm
グラジエント B : 50%-100% (75min)
結果を
図25示した。上述のとおり、WT-IgG2は複数のピークが存在しているが、IgG2-SKSCはシングルピークとして溶出することが分かった。IgG2のヒンジ領域のジスルフィド結合に由来するヘテロジェニティーは、EUナンバリング220番目のシステインとL鎖のC末端のシステインで単一のジスルフィド結合を形成するようなIgG2-SKSCの改変を導入することで回避できることが示された。また、実施例5と同様の方法で、WT-IgG1、WT-IgG2およびIgG2-SKSCの熱変性中間温度を測定した結果、WT-IgG2はWT-IgG1に比べて低いTm値を示すFabドメインのピークが観察されたが、IgG2-SKSCにおいてはそのピークが認められなかった。このことから、IgG2-SKSCはWT-IgG2と比較して熱安定性においても優れていることが分かった。
野生型IgG2は、抗体を医薬品として開発するにあたって重要な均一性に課題があると考えられたが、IgG2-SKSCをIgG2の定常領域配列として使用することにより、この課題を解決することが可能であることが明らかになり、IgG2を医薬品として開発する上で極めて有用であることが分かった。また、IgG2-SKSCは熱安定性にも優れている点からも有用であることが分かった。
【0321】
〔実施例9〕IgG分子のC末端ヘテロジェニティーの改善
WT-IgG1のH鎖C末端ΔGK抗体の発現ベクター構築
抗体のC末端配列のヘテロジェニティーとして、C末端アミノ酸のリジン残基の欠損、および、C末端の2アミノ酸のグリシン、リジンの欠損によるC末端アミノ基のアミド化が報告されており(Johnson KA, Paisley-Flango K, Tangarone BS, Porter TJ, Rouse JC. Cation exchange-HPLC and mass spectrometry reveal C-terminal amidation of an IgG1 heavy chain. Anal Biochem. 2007 Jan 1;360(1):75-83.)、医薬品として開発する上ではこれらのヘテロジェニティーは存在しないことが望ましい。実際、ヒト化PM-1抗体であるTOCILIZUMABにおいても、その主成分は塩基配列上存在するC末端アミノ酸のリジンが翻訳後修飾により欠損した配列であるが、リジンが残存している副成分もヘテロジェニティーとして存在する。そこで、C末端アミノ酸のヘテロジェニティーを低減させることを目的にC末端アミノ酸の改変を行った。具体的には、野生型IgG1のH鎖定常領域のC末端のリジンおよびグリシンを塩基配列上あらかじめ欠損させることで、C末端の2アミノ酸のグリシン、リジンの欠損によるC末端アミノ基のアミド化を抑制することが可能かどうかを検討した。
実施例1で得たヒト化PM1抗体(WT)のpB-CHベクターを用いてH鎖C末端配列に変異を導入した。QuikChange Site-Directed Mutagenesis Kit (Stratagene)を用いて、添付説明書記載の方法でEUナンバリング447番目のLysおよび/またはEUナンバリング446番目のGlyをコードする塩基配列について、これを終止コドンとする変異を導入した。これにより、C末端の1アミノ酸のリジン(EUナンバリング447)をあらかじめ欠損させた抗体、C末端の2アミノ酸のグリシン(EUナンバリング446)、リジン(EUナンバリング447)をあらかじめ欠損させた抗体の発現ベクターを作製した。ヒト化PM1抗体のL鎖と発現させることでH鎖C末端ΔK抗体、および、H鎖C末端ΔGK抗体を得た。発現・精製は実施例1で記した方法で実施した。
精製したH鎖C末端ΔGK抗体の陽イオン交換クロマトグラフィー分析を以下のとおりに行った。精製したH鎖C末端ΔGK抗体を用いて以下の方法で陽イオン交換クロマトグラフィーによる分析を行い、C末端欠損がヘテロジェニティーに及ぼす影響を評価した。陽イオン交換クロマトグラフィー分析条件は以下のとおりであり、ヒト化PM1抗体、H鎖C末端ΔK抗体、H鎖C末端ΔGK抗体のクロマトグラムを比較した。
カラム:ProPac WCX-10, 4×250 mm (Dionex)
移動相:A: 25 mmol/L MES/NaOH, pH 6.1
B: 25 mmol/L MES/NaOH, 250 mmol/L NaCl, pH 6.1
流速:0.5 mL/min
グラジエント:25 %B(5 min)→(105 min)→67 %B→(1 min)→100 %B (5 min)
検出:280 nm
未改変ヒト化PM-1抗体、H鎖C末端ΔKおよびH鎖C末端ΔGK抗体の分析結果を
図26に示す。非特許文献(Chu GC, Chelius D, Xiao G, Khor HK, Coulibaly S, Bondarenko PV. Accumulation of Succinimide in a Recombinant Monoclonal Antibody in Mildly Acidic Buffers Under Elevated Temperatures. Pharm Res. 2007 Mar 24;24(6):1145-56)から、主ピークよりも保持が遅い塩基性ピークにH鎖C末端449番目のLys残存体、447番目のProアミド体が含まれるが、H鎖C末端ΔK では認められなかった塩基性ピークの大幅な減少がH鎖C末端ΔGK抗体では認めたことから、H鎖C末端の2アミノ酸を欠損させることによって初めてH鎖C末端ヘテロジェニティーを軽減することが可能であると分かった。
H鎖C末端の2残基の欠損の及ぼす熱安定性への影響を評価するために、DSCによるH鎖C末端ΔGK抗体の熱変性温度測定を行った。DSC測定用として150 mM NaClを含む20 mM 酢酸緩衝液、pH6.0に透析することで緩衝液を置換した。ヒト化PM1抗体、H鎖C末端ΔGK抗体およびリファレンス溶液(透析外液)を十分に脱気した後、これらをそれぞれ熱量計セルに封入し40℃での熱平衡化を十分に行った。次にDSC走査を40℃~100℃で約1K/分走査速度で行った。得られた変性ピークについて、非特許文献(Rodolfoら、Immunology Letters、1999年、p47-52)を参考にピークアサインを行ったところ、C末端欠損はCH3ドメインの熱変性温度に影響しないことを確認した。
これにより、H鎖定常領域のC末端のリジンおよびグリシンを塩基配列上あらかじめ欠損させることで、抗体の熱安定性に影響を与えることなく、C末アミノ酸のヘテロジェニティーを低減させることが可能となった。ヒト抗体定常領域IgG1、IgG2、IgG4において、C末端配列はいずれもEUナンバリング447番目がLys、EUナンバリング446番目がGlyになっていることから、本件等で見出されたC末アミノ酸のヘテロジェニティーを低減させる方法はIgG2定常領域とIgG4定常領域、あるいはそれらの改変体にも適用可能であると考えられる。
【0322】
〔実施例10〕新規最適化定常領域M14ΔGK配列の作製
抗原を中和することが目的の抗体医薬においてはFc領域の有するADCC等のエフェクター機能は必要ではなく、従って、Fcγレセプターへの結合は不必要である。免疫原性や副作用の点から考えるとFcγレセプターへの結合は好ましくないと考えられる(Strand V, Kimberly R, Isaacs JD. Biologic therapies in rheumatology: lessons learned, future directions. Nat Rev Drug Discov. 2007 Jan;6(1):75-92., Gessner JE, Heiken H, Tamm A, Schmidt RE. The IgG Fc receptor family. Ann Hematol. 1998 Jun;76(6):231-48.)。ヒト化抗IL-6レセプターIgG1抗体であるTOCILIZUMABはIL-6レセプターに特異的に結合し、その生物学的作用を中和することで、関節リウマチ等のIL-6が関連する疾患の治療薬として利用可能であり、Fcγレセプターへの結合は不必要である。
【0323】
Fcγレセプター非結合の最適化定常領域M14ΔGKの作製と評価
Fcγレセプターへの結合を低下させる方法としては、IgG抗体のアイソタイプをIgG1からIgG2あるいはIgG4アイソタイプに変える方法が考えられる(Ann Hematol. 1998 Jun;76(6):231-48.)。Fcγレセプターへの結合を完全に無くす方法としては、人工的な改変をFc領域に導入する方法が報告されている。例えば、抗CD3抗体や抗CD4抗体は抗体のエフェクター機能が副作用を惹起するため、Fc領域のFcγレセプター結合部分に野生型配列には存在しないアミノ酸変異(Cole MS, Anasetti C, Tso JY. Human IgG2 variants of chimeric anti-CD3 are nonmitogenic to T cells. J Immunol. 1997 Oct 1;159(7):3613-21., Reddy MP, Kinney CA, Chaikin MA, Payne A, Fishman-Lobell J, Tsui P, Dal Monte PR, Doyle ML, Brigham-Burke MR, Anderson D, Reff M, Newman R, Hanna N, Sweet RW, Truneh A. Elimination of Fc receptor-dependent effector functions of a modified IgG4 monoclonal antibody to human CD4. J Immunol. 2000 Feb 15;164(4):1925-33.)を導入したFcγレセプター非結合型の抗CD3抗体や抗CD4抗体の臨床試験が行われている(Strand V, Kimberly R, Isaacs JD. Biologic therapies in rheumatology: lessons learned, future directions. Nat Rev Drug Discov. 2007 Jan;6(1):75-92., Chau LA, Tso JY, Melrose J, Madrenas J. HuM291(Nuvion), a humanized Fc receptor-nonbinding antibody against CD3, anergizes peripheral blood T cells as partial agonist of the T cell receptor.Transplantation. 2001 Apr 15;71(7):941-50.)。また、IgG1のFcγR結合部位(EUナンバリング:233、234、235、236、327、330、331番目)をIgG2(EUナンバリング:233、234、235、236)およびIgG4(EUナンバリング:327、330、331番目)の配列にすることでFcγレセプター非結合型抗体を作製することが可能であると報告されている(Kim SJ, Park Y, Hong HJ., Antibody engineering for the development of therapeutic antibodies., Mol Cells. 2005 Aug 31;20(1):17-29. Review.)。しかしながら、IgG1にこれらの変異を全て導入すると、天然には存在しないT-cellエピトープペプチドとなりうる9アミノ酸の新しいペプチド配列が出現し免疫原性のリスクが上昇する。医薬品として開発する上では、免疫原性リスクは極力低いことが望ましい。
上述の課題を解決するために、IgG2の定常領域への改変を検討した。IgG2の定常領域はFcγR結合部位のうちEUナンバリング:233、234、235、236が非結合型であるが、FcγR結合部位のうちEUナンバリング:327、330、331番目は非結合型のIgG4とは異なる配列であるため、EUナンバリング:327、330、331番目のアミノ酸をIgG4の配列に改変する必要がある(Eur J Immunol. 1999 Aug;29(8):2613-24におけるG2Δa)。しかしながら、IgG4はEUナンバリング:339番目のアミノ酸がアラニンであるのに対して、IgG2はスレオニンであるため、EUナンバリング:327、330、331番目のアミノ酸をIgG4の配列に改変しただけでは天然には存在しないT-cellエピトープペプチドとなりうる9アミノ酸の新しいペプチド配列が出現してしまい、免疫原性リスクが上昇するため好ましくない。そこで、上述の改変に加えて新たにIgG2のEUナンバリング:339番目のスレオニンをアラニンに改変することで、新しいペプチド配列の出現を防ぐことが可能であることを見出した。
これらの変異に加えて、実施例7で見出したIgG2の酸性条件下での安定性を向上させるIgG2 のEUナンバリングの397番目のメチオニンからバリンへの変異、実施例8で見出されたヒンジ領域のジスルフィド結合に由来するヘテロジェニティーを改善させるEUナンバリングの131番目のシステインからセリンへの変異、133番目のアルギニンからリジンへの変異、219番目のシステインからセリンへの変異を導入した。さらに131番目と133番目の変異導入に伴い天然には存在しないT-cellエピトープペプチドとなりうる9アミノ酸の新しいペプチド配列が出現してしまい免疫原性リスクが生じることから、EUナンバリングの137番目のグルタミン酸からグリシンへの変異、138番目のセリンからグリシンへの変異を導入することで、131番目から139番目付近のペプチド配列を天然に存在するヒト配列と同一のものとした。さらに、C末端に由来するヘテロジェニティーを低減させるためにH鎖C末端のEUナンバリングの446、447番目のグリシンおよびリジンを欠損させた。これらの変異を全て導入した定常領域配列をM14ΔGKとした(M14ΔGK:配列番号:24)。M14ΔGKはT-cellエピトープペプチドとなりうる9アミノ酸の新しいペプチド配列として219番目のシステインからセリンへの変異を導入した1ヶ所が存在するが、システインとセリンはアミノ酸配列としての性質が似ていることから免疫原性のリスクは極めて小さいと考えられ、TEPITOPEによる免疫原性予測においても免疫原性の変化は認められなかった。
可変領域配列としてWTを有し、定常領域配列としてM14ΔGKを有するH鎖抗体配列(M14ΔGK:配列番号:24、WT-M14ΔGK:配列番号:113)の発現ベクターを実施例1に記された方法で作製し、H鎖としてWT-M14ΔGK、L鎖としてWTを用いて実施例1に記した方法で発現・精製した。
また、同様の方法で、IgG1定常領域にFcγレセプターへの結合を低下させるためにEUナンバリング:233、234、235、236、327、330、331、339番目に変異を導入し(Eur J Immunol. 1999 Aug;29(8):2613-24におけるG1Δab)、さらにC末端のヘテロジェニティーを低下させるためにEUナンバリング446番目と447番目を欠損させた(実施例9)WT-M17ΔGK(M17ΔGK:配列番号:116、WT-M17ΔGK:配列番号:115)を作製した。IgG4定常領域にFcγレセプターへの結合を低下させるためにEUナンバリング:233、234、235、236番目に変異を導入し(Eur J Immunol. 1999 Aug;29(8):2613-24におけるG4Δb、この改変においては新しい非ヒト配列が生じるため免疫原性リスクが上昇する)、免疫原性リスクを低減させるために上述の改変に加えてヒンジ領域のジスルフィド結合様式をM14ΔGKと同じにするためにEUナンバリング:131、133、137、138、214、217、219、220、221、222番目に変異を導入し、さらに酸性条件下での安定性を向上させるためにEUナンバリング409番目に変異を導入し(実施例7)、C末端のヘテロジェニティーを低下させるためにEUナンバリング446番目と447番目を欠損させた(実施例9)WT-M11ΔGK(M11ΔGK:配列番号:25、WT-M11ΔGK:配列番号:114)の発現ベクターを作製した。H鎖としてWT-M17ΔGKあるいはWT-M11ΔGK、L鎖としてWTを用いて実施例1に記した方法で発現・精製した。
【0324】
WT-M14ΔGK、WT-M17ΔGK、WT-M11ΔGKのFcγレセプター結合活性の評価
FcγRIへの結合評価は以下のとおりに行った。Biacore T100 を用いて、センサーチップに固定化したヒト由来 Fcγ receptor I (以下、FcγRI) と、アナライトとして用いたIgG1、IgG2、IgG4 、M11ΔGK、M14ΔGK、M1ΔGK 7を相互作用させ、その結合量を比較した。ヒト由来の FcγRI としては Recombinant Human FcRIA / CD64 (R&D systems) を用い、サンプルとして IgG1、IgG2、IgG4 、M11ΔGK、M14ΔGK、M17ΔGK を用いて測定を行った。アミンカップリング法によりセンサーチップ CM5 (BIACORE) に FcγRIを固定化した。最終的なhFcγRIの固定量は、約13000 RU(resonance units) であった。ランニングバッファーとしてHBS-EP+を用い、流速は20 μL/minとした。サンプルをHBS-EP+を用いて100 μg/mLの濃度に調整した。分析は、抗体溶液の10 μLをインジェクトする2分間を結合相とし、その後HBS-EP+に切り換え、4分間の解離相とした。解離相終了後、20 μLの5 mM水酸化ナトリウムをインジェクトすることにより、センサーチップを再生した。この結合・解離・再生を分析の1サイクルとし、各種抗体溶液をインジェクトし、センサーグラムを得た。アナライトはそれぞれ IgG4、IgG2、IgG1、M11、M14、M17 の順に流し、それを 2 回繰り返した。測定した結合量データを比較した結果を
図27に示した。その結果、結合量は IgG1 > IgG4 >> IgG2 = M11ΔGK = M14 ΔGK = M17ΔGK の順に減少しており、野生型のIgG2、M11ΔGK、M14ΔGK、M17ΔGK は野生型のIgG1、IgG4 よりも FcγRIに対して結合が弱いことが明らかとなった。
FcγRIIaへの結合評価は以下のとおりに行った。Biacore T100 を用いて、センサーチップに固定化したヒト由来 Fcγ receptor IIa (以下、FcγRIIa) と、アナライトとして用いたIgG1、IgG2、IgG4 、M11ΔGK、M14ΔGK、M17ΔGKを相互作用させ、その結合量を比較した。ヒト由来の FcγRIIa としては Recombinant Human FcRIIA/CD32a (R&D systems) を用い、サンプルとして IgG1、IgG2、IgG4 、M11ΔGK、M14ΔGK、M17ΔGK を用いて測定を行った。アミンカップリング法によりセンサーチップ CM5 (BIACORE) に FcγRIIa を固定化した。最終的に約 3300 RU の FcγRIIa を固定化した。ランニングバッファーとしてHBS-EP+を用い、流速は20 μL/minとした。その後、ベースラインが安定になるまでランニングバッファーを流し、測定はベースラインが安定してから行った。固定化した FcγRIIa に対して、アナライトとして各 IgGアイソタイプ (IgG1, IgG2, IgG4) および変異を導入した抗体 (M11ΔGK, M14ΔGK, M17ΔGK) を相互作用させ、その結合量を観察した。ランニングバッファーには HBS-EP+ を用い、流速は 20 μL/min 、測定温度は 25°C とした。各 IgG および 改変体は 100 μg/mL に調整し、アナライトとして 20 μL 流し、固定化した FcγRIIa と相互作用させた。相互作用後は 200 μL のランニングバッファーを流すことで FcγRIIa からアナライトを解離させ、センサーチップを再生させた。アナライトはそれぞれ IgG4、IgG2、IgG1、M11ΔGK、M14ΔGK、M17ΔGK の順に流し、それを 2 回繰り返した。測定した結合量データを比較した結果を
図28に示した。その結果、結合量は IgG1 > IgG2 = IgG4 > M11ΔGK = M14ΔGK = M17ΔGK の順に減少しており、M11ΔGK、M14ΔGK、M17ΔGK は野生型のIgG1、IgG2、IgG4 のいずれよりも FcγRIIa に対して結合が弱いことが明らかとなった。
FcγRIIbへの結合評価は以下のとおりに行った。Biacore T100 を用いて、センサーチップに固定化したヒト由来 Fcγ receptor IIb(以下、FcγRIIb) と、アナライトとして用いたIgG1、IgG2、IgG4 、M11ΔGK、M14ΔGK、M17ΔGKを相互作用させ、その結合量を比較した。ヒト由来の FcγRIIb としては Recombinant Human FcRIIB/C (R&D systems) を用い、サンプルとして IgG1、IgG2、IgG4 、M11ΔGK、M14ΔGK、M17ΔGK を用いて測定を行った。アミンカップリング法によりセンサーチップ CM5 (BIACORE) に FcγRIIb を固定化した。最終的に約 4300 RU の FcγRIIb を固定化した。その後、ベースラインが安定になるまでランニングバッファーを流し、測定はベースラインが安定してから行った。固定化した FcγRIIb に対して、アナライトとして各 IgGアイソタイプ (IgG1, IgG2, IgG4) および変異を導入した抗体 (M11ΔGK, M14ΔGK, M17ΔGK) を相互作用させ、その結合量を観察した。ランニングバッファーには HBS-EP+ (10 mM HEPES, 0.15 M NaCl, 3 mM EDTA, 0.05% v/v Surfactant P20)を用い、流速は 20 μL/min 、測定温度は 25°C とした。各 IgG および 改変体は 200 μg/mL に調整し、アナライトとして 20 μL 流し、固定化した FcγRIIb と相互作用させた。相互作用後は 200 μL のランニングバッファーを流すことで FcγRIIb からアナライトを解離させ、センサーチップを再生させた。アナライトはそれぞれ IgG4、IgG2、IgG1、M11ΔGK、M14ΔGK、M17ΔGK の順に流し、それを 2 回繰り返した。測定した結合量データを比較した結果を
図29に示した。その結果、結合量は IgG4 > IgG1 > IgG2 > M11ΔGK = M14ΔGK = M17ΔGK の順に減少しており、M11ΔGK、M14ΔGK、M17ΔGK は野生型のIgG1、IgG2、IgG4 のいずれよりも FcγRIIb に対して結合が弱いことが明らかとなった。
FcγRIIIaへの結合評価は以下のとおりに行った。Biacore T100 を用いて、センサーチップに固定化したヒト由来 Fcγ receptor IIIa(以下、FcγRIIIa) と、アナライトとして用いたIgG1、IgG2、IgG4 、M11ΔGK、M14ΔGK、M17ΔGKを相互作用させ、その結合量を比較した。ヒト由来の FcγRIIIa としてはhFcγRIIIaV-His6(組み換えhFcγRIIIaV-His6:社内調製品)を用い、サンプルとして IgG1、IgG2、IgG4 、M11ΔGK、M14ΔGK、M17ΔGK を用いて測定を行った。アミンカップリング法によりセンサーチップ CM5 (BIACORE) に FcγRIIIaを固定化した。最終的なhFcγRIIIaV-His6の固定量は、約8200 RU(resonance units) であった。ランニングバッファーとしてHBS-EP+を用い、流速は5 μL/minとした。サンプルを、HBS-EP+を用いて250 μg/mLの濃度に調製した。分析は、抗体溶液の10μLをインジェクトする2分間を結合相とし、その後HBS-EP+に切り換え、4分間の解離相とした。解離相終了後、20 μLの5 mM塩酸をインジェクトすることにより、センサーチップを再生した。この結合・解離・再生を分析の1サイクルとし、各種抗体溶液をインジェクトし、センサーグラムを得た。アナライトはそれぞれ IgG4、IgG2、IgG1、M11ΔGK、M14ΔGK、M17ΔGK の順に流した。測定した結合量データを比較した結果を
図30に示した。その結果、結合量は IgG1 >> IgG4 > IgG2 > M17ΔGK > M11ΔGK = M14ΔGK の順に減少しており、M11ΔGK、M14ΔGK、M17ΔGK は野生型のIgG1、IgG2、IgG4 よりも FcγRIIIa に対して結合が弱いことが明らかとなった。また、Eur J Immunol. 1999 Aug;29(8):2613-24に報告されているG1Δabの変異を含むM17ΔGKと比較して、M11ΔGK、M14ΔGKのほうがさらに弱い結合であることが明らかとなった。
以上より、WT-M14ΔGK、WT-M17ΔGK、WT-M11ΔGKの各種Fcγレセプターへの結合は野生型のIgG1と比較して著しく低下していることが確認された。WT-M14ΔGK、WT-M17ΔGK、WT-M11ΔGKを定常領域として使用することで、Fcγレセプターを介したAPCへの取り込みに由来する免疫原性リスクやADCC等のエフェクター機能に由来する副作用を回避することが可能であり、抗原を中和することが目的の抗体医薬の定常領域配列として有用である。
【0325】
WT-M14ΔGK、WT-M17ΔGK、WT-M11ΔGKの高濃度安定性試験
WT-M14ΔGK、WT-M17ΔGK、WT-M11ΔGKの高濃度製剤における安定性の評価を行った。WT-IgG1、WT-M14ΔGK、WT-M17ΔGK、WT-M11ΔGKの精製抗体を20mM histidine chloride, 150mM NaCl, pH6.5の溶液に対して透析(EasySEP, TOMY)を行い、その後限外ろ過膜により濃縮し、高濃度安定性試験を行った。条件は以下のとおりである。
抗体:WT-IgG1、WT-M14ΔGK、WT-M17ΔGK、WT-M11ΔGK
緩衝液:20mM histidine chloride, 150mM NaCl, pH6.5
濃度:61mg/mL
保存温度と期間:40℃-2W、40℃-1M、40℃-2M
会合体評価法:システム Waters Alliance
カラム G3000SWxl(TOSOH)
移動相 50mM sodium phosphate, 300mM KCl, pH7.0
流速・波長 0.5ml/min、220nm
サンプルを1/100に希釈して分析
Initial(製剤調製直後)および各条件で保存後の製剤の会合体含有量を上述のゲルろ過クロマトグラフィー法により評価し、initialから会合体含量の変化量について
図31に示した。その結果、WT-IgG1と比較してWT-M14ΔGK、WT-M17ΔGK、WT-M11ΔGKの会合体増加量は低く、WTの会合体増加量の約1/2であった。また、
図32に示すようにFab断片の増加量に関しては、WT-IgG1とWT-M17ΔGKは同程度であったが、WT-M14ΔGKとWT-M11ΔGKはWTのFab断片増加量の約1/4であった。IgGタイプの抗体製剤の劣化経路として、WO 2003/039485に記されているように、会合体の生成とFab分解物の生成が主に挙げられる。WT-M14ΔGKとWT-M11ΔGKは、WT-IgG1と比較して会合体とFab断片の生成の2つの点で製剤的安定性に優れていることが見出された。これにより、IgG1定常領域では安定性が十分ではなく、医薬品として開発可能な高濃度溶液製剤が作れなかった抗体においても、定常領域としてWT-M14ΔGK、WT-M17ΔGK、WT-M11ΔGKを用いることがより高い安定性を有する高濃度溶液製剤が作製可能になると考えられた。
特にM14ΔGKは、本来IgG2分子が有する酸性条件下での不安定性を向上させ、ヒンジ領域のジスルフィド結合に由来するヘテロジェニティーを改善し、Fcγレセプターに結合せず、T-cellエピトープペプチドとなりうる9アミノ酸の新しいペプチド配列を最小限に抑え、且つ、高濃度製剤における安定性がIgG1よりも優れた新規な定常領域配列として極めて有用であると考えられた。
【0326】
〔実施例11〕PF1-M14ΔGK抗体の作製
実施例5で作製したPF1(定常領域はIgG1)の可変領域部分をXhoI/NheIで切り出し、実施例7で作製したM14ΔGK(可変領域はWT)の定常領域部分をNheI/NotIで切り出し、動物細胞発現用ベクターに2つのH鎖抗体遺伝子断片を挿入し、目的のPF1-M14ΔGKのH鎖発現ベクターを作製した(PF1_H-M14ΔGK:配列番号:117)。L鎖はPF1_Lを用い、実施例1で記した方法でPF1-M14ΔGK抗体の発現・精製を実施した。
PF1-M14ΔGK抗体は、抗IL-6レセプター抗体の医薬品として様々な点でWT(ヒト化PM-1抗体)よりも優れており、極めて有用であると考えられた。
【0327】
〔実施例12〕M31ΔGKの作製と評価
実施例10で作製したM14ΔGKに対し、EUナンバリング:330、331、339番目をIgG2の配列に改変したM31ΔGKを作製した(M31ΔGK:配列番号:118)。可変領域配列としてWTを有し、定常領域配列としてM31ΔGKを有するH鎖抗体配列(WT-M31ΔGK:配列番号:119)の発現ベクターを実施例1に記された方法で作製し、H鎖としてWT-M31ΔGK、L鎖としてWTを用いて、WT-M31を実施例1に記した方法で発現・精製した。
WT-M31に加えて、同時に発現・精製したWT-IgG2およびWT-M14ΔGKの陽イオン交換クロマトグラフィー分析を以下のとおりに行った。陽イオン交換クロマトグラフィー分析条件は以下のとおりであり、WT-IgG2、WT-M14ΔGK、WT-M31ΔGKのクロマトグラムを比較した。
カラム:ProPac WCX-10, 4×250 mm (Dionex)
移動相:A: 25 mmol/L MES/NaOH, pH 6.1
B: 25 mmol/L MES/NaOH, 250 mmol/L NaCl, pH 6.1
流速:0.5 mL/min
グラジエント:0 %B(5 min)→(65 min)→100 %B→(1 min)
検出:280 nm
WT-IgG2、WT-M14ΔGK、WT-M31ΔGKの分析結果を
図33に示す。WT-IgG2は複数のピークが存在しているが、WT-M31ΔGKはWT-M14ΔGKと同様シングルピークとして溶出することが分かった。WT-M31ΔGKにおいてもIgG2のヒンジ領域のジスルフィド結合に由来するヘテロジェニティーは回避できることが示された。
【0328】
〔実施例13〕完全ヒト化抗体F2H/L39-IgG1の作製
PF1抗体のフレームワーク配列の完全ヒト化
実施例5で作製したPF1_Hには、71番(Kabatナンバリング、Kabat EA et al. 1991. Sequences of Proteins of Immunological Interest.NIH))のアルギニンのみが、マウス配列のまま残存しているため免疫原性の観点からは好ましくない。一般にH鎖の71番目の残基はHCDR2の構造を決める重要な配列であり、実際ヒト化PM1抗体を作製する際にマウスPM1抗体の結合活性に重要であることが報告されており、71番目をアルギニンからバリンに置換すると結合活性が大幅に低下することが明らかになっている(Cancer Research 53, 851-856, 1993)。同様にPF1_Hはヒト生殖系列遺伝子のVH4ファミリーに分類されるが、VH4ファミリーにおける71番はバリンとして高度に保存されており、71番のアルギニンをバリンに置換すると中和活性の大幅な低下が確認された。
そこで、71番をアルギニン残基のままでマウス配列を完全に除去するため、ヒト生殖系列遺伝子および報告されているヒト抗体の配列を調査し、71番がアルギニンであり、且つ、抗体の立体構造の維持に重要である残基が保存されている配列を探索した。その結果、表9に示すPF1_Hとはホモロジーは低いが重要な残基が保存されている候補配列を見出した。
【表9】
PF1_H-IgG1に対し、Kabatナンバリング66番から94番を上記の候補配列に置換することにより、H96-IgG1(配列番号:134アミノ酸配列))を設計した。抗体可変領域については、合成オリゴDNAを組み合わせたPCR法(assembly PCR)により作製した。定常領域については、IgG1の発現ベクターからPCR法により増幅した。Assembly PCR法により抗体可変領域と定常領域を結合させ、動物細胞発現用ベクターへ挿入した。H96/PF1L-IgG1の発現、精製を実施例1に記載した方法により行なった。
【0329】
フレームワーク完全ヒト化抗体H96/PF1L-IgG1の評価
精製したH96/PF1L-IgG1を用いて、実施例5に記載の方法でTm値の測定を行なった。 アフィニティーの測定は原則として実施例5と同様の条件で測定を行った。ただし、SR344の濃度は0、0.36、1.4 μg/mLに調整し、また15分間解離相を測定した。
その結果、H96/PF1L-IgG1は、PF1-IgG1とほぼ同等のTm値およびアフィニティーを示した(表10)。
【表10】
以上より、PF1抗体のH鎖をH96にすることで、Tm値およびアフィニティーを維持したままで、PF1抗体に残されていたマウス配列を完全に除去し、PF1抗体のフレームワークを完全ヒト化した抗体が得られた。H96/PF1L-IgG1は、フレームワーク配列にマウス由来配列が存在しないことから、免疫原性の観点で特に優れていると考えられた。
【0330】
pI低下および免疫原性リスクを低減させたF2H/L39-IgG1の作製
実施例4で示されたとおり、抗体の可変領域のアミノ酸を改変しpIを低下させることで血漿中滞留性を向上できることが明らかとなっている。そこで上記で作製したH96-IgG1に対し、さらに以下のアミノ酸置換を導入した。pIを低下させることを目的に64番のリジンのグルタミンへの置換、および65番のグリシンのアスパラギン酸への置換を導入した。また、免疫原性リスクの低減のため、105番のグルタミン酸のグルタミンへの置換、107番のスレオニンのイソロイシンへの置換を導入した。さらに、実施例2で得られたアフィニティー増強の改変である、95番のバリンのロイシンへの置換、99番のイソロインシンのアラニンへの置換を導入した。これらのアミノ酸置換をH96-IgG1に対して導入したF2H-IgG1(配列番号:135(アミノ酸配列))を実施例1記載の方法で作製した。
またPF1Lに対し以下のアミノ酸置換を導入した。pIを低下させることを目的に27番のグルタミンのグルタミン酸への置換、および55番のロイシンのグルタミン酸への置換を導入した。これらのアミノ酸置換をPF1Lに対して導入したL39(配列番号:136(アミノ酸配列))を実施例1記載の方法で作製した。F2H/L39-IgG1の発現、精製を実施例1に記載した方法により行なった。
【0331】
Biacoreによる F2H/L39-IgG1のヒトIL-6レセプターに対するアフィニティー解析
ヒト化PM1抗体(野生型、WT)、PF1抗体(実施例5で作製)、および、F2H/L39-IgG1のアフィニティー測定を行なった。本測定は原則として実施例4と同様の条件で測定を行った。ただし、SR344の濃度は0、0.36、1.4 μg/mLに調整し、また15分間解離相を測定した(表11)。
【表11】
その結果、F2H/L39-IgG1は、KD値としては10
-11オーダーを維持しており、極めて強いアフィニティーを有しているが、k
aがPF1-IgG1と比較して1/2程度に低下していることが分かった。
【0332】
F2H/L39-IgG1のヒトIL-6レセプター中和活性評価
ヒト化PM1抗体(野生型、WT)、および、F2H/L39-IgG1の中和活性の評価を実施例1に示す方法で行った。但し、human interleukin-6(TORAY)濃度を600 ng/mLにして中和活性の評価を行った。
図34に示すとおり、WTと比較してF2H/L39-IgG1は100%阻害濃度として100倍以上の極めて強い活性を持つことが明らかになった。
【0333】
F2H/L39-IgG1の等電点電気泳動による等電点評価
F2H/L39-IgG1の等電点を実施例3に記した方法で測定した。F2H/L39-IgG1の等電点は5.5であり、実施例5で作製したPF1抗体と比較してさらに等電点が低下することで血漿中滞留性がさらに改善していると考えられた。
また、このF2H/L39の可変領域(VH、VL配列)の理論等電点をGENETYX(GENETYX CORPORATION)により計算したところ、理論等電点は4.3であった。WTの理論等電点が9.20であることから、WTからアミノ酸置換により可変領域の理論等電点を約4.9低下したF2H/L39が得られた。
【0334】
F2H/L39-IgG1のカニクイザルによるPK/PD試験
ヒト化PM1抗体(野生型、WT)、PF1抗体およびF2H/L39-IgG1のカニクイザルにおける薬物動態(PK)および薬効(PD)を評価した。WT、PF1およびF2H/L39-IgG1を1.0mg/kgで皮下に単回投与し、投与前および経時的に採血した。実施例6と同様に各抗体の血漿中濃度の測定を行った。WT、PF1およびF2H/L39-IgG1の血漿中濃度推移を
図35に示した。カニクイザル膜型IL-6レセプターがどの程度中和されているかの薬効を評価するために、抗体投与後3日目(day3)から10日目(day10)までカニクイザルIL-6 5μg/kgを腰背部に連日皮下投与し、24時間後の各個体のCRP濃度を測定した。WTおよびF2H/L39投与時のCRP濃度推移を
図36に示した。カニクイザル可溶型IL-6レセプターがどの程度中和されているかの薬効を評価するために、カニクイザル血漿中の非結合型のカニクイザル可溶型IL-6レセプター濃度を測定した。WTおよびF2H/L39投与時の非結合型のカニクイザル可溶型IL-6レセプター濃度推移を
図37に示した。
これらの結果から、WTとPF1はほぼ同等の血漿中濃度推移を示したのに対して、よりpIを低下させたF2H/L39-IgG1はこれらより抗体血漿中濃度が高く維持された。また、IL-6レセプターに対するアフィニティーが強いF2H/L39-IgG1は、WTと比較してCRP濃度および非結合型のカニクイザル可溶型IL-6レセプター濃度がより低く維持されていることが見出された。
【0335】
〔実施例14〕WT-M14の血漿中滞留性評価
ヒトにおける血漿中滞留性の予測方法
IgG分子の血漿中滞留性が長い(消失が遅い)のは、IgG分子のサルベージレセプターとして知られているFcRnが機能しているためである(Nat Rev Immunol. 2007 Sep;7(9):715-25)。ピノサイトーシスによってエンドソームに取り込まれたIgG分子は、エンドソーム内の酸性条件下(pH6.0付近)においてエンドソーム内に発現しているFcRnに結合する。FcRnに結合できなかったIgG分子はライソソームへ進みライソソームで分解されるが、FcRnへ結合したIgG分子は細胞表面へ移行し血漿中の中性条件下(pH7.4付近)においてFcRnから解離することで再び血漿中に戻る。
IgGタイプの抗体として、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4のアイソタイプが知られているが、これらのヒトでの血漿中半減期は、IgG1、IgG2が約36日、IgG3が約29日、IgG4が16日であることが報告されており(Nat Biotechnol. 2007 Dec;25(12):1369-72.)、IgG1およびIgG2の血漿中滞留性が最も長いと考えられている。一般に抗体医薬のアイソタイプはIgG1、IgG2、IgG4であるが、これらのIgG抗体の血漿中滞留性をさらに向上する方法として、IgGの定常領域の配列を改変することで上述のヒトFcRnへの結合活性を向上させる方法が報告されている(J Biol Chem. 2007 Jan 19;282(3):1709-17、J Immunol. 2006 Jan 1;176(1):346-56)。
マウスFcRnとヒトFcRnでは種差が存在することから(Proc Natl Acad Sci U S A. 2006 Dec 5;103(49):18709-14)、定常領域の配列を改変したIgG抗体のヒトにおける血漿中滞留性を予測するためには、ヒトFcRnへの結合評価およびヒトFcRnトランスジェニックマウスにおいて血漿中滞留性を評価することが望ましいと考えられた(Int Immunol. 2006 Dec;18(12):1759-69)。
【0336】
ヒトFcRnへの結合評価
FcRnはFcRnとβ2-microglobulinの複合体である。公開されているヒトFcRn遺伝子配列(J. Exp. Med. 180 (6), 2377-2381 (1994))を元に、オリゴDNAプライマーを作製した。ヒトcDNA(Human Placenta Marathon-Ready cDNA, Clontech)を鋳型とし、作製したプライマーを用いPCR法により遺伝子全長をコードするDNA断片を調整した。得られたDNA断片を鋳型に、PCR法によりシグナル領域を含む細胞外領域(Met1-Leu290)をコードするDNA断片を増幅し、動物細胞発現ベクターへ挿入した(ヒトFcRnアミノ酸配列 配列番号:140)。同様に、公開されているヒトβ2-microglobulin遺伝子配列(Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 99 (26), 16899-16903 (2002))を元に、オリゴDNAプライマーを作製した。ヒトcDNA(Hu-Placenta Marathon-Ready cDNA, CLONTECH)を鋳型とし、作製したプライマーを用いPCR法により遺伝子全長をコードするDNA断片を調製した。得られたDNA断片を鋳型に、PCR法によりシグナル領域を含むβ2-microglobulin全長(Met1-Met119)をコードするDNA断片を増幅し、動物細胞発現ベクターへ挿入した(ヒトβ2-microglobulinアミノ酸配列 配列番号:141)。
可溶型ヒトFcRnの発現は以下の手順で行った。調製したヒトFcRnおよびヒトβ2-microglobulinのプラスミドを、10 % Fetal Bovine Serum (Invitrogen)を用いたlipofection法により、ヒト胎児腎癌細胞由来HEK293H株(Invitrogen)の細胞へ導入した。得られた培養上清を回収した後、IgG Sepharose 6 Fast Flow(Amersham Biosciences)を用い、(J Immunol. 2002 Nov 1;169(9):5171-80.)の方法に従い精製を行った。その後、HiTrap Q HP(GE Healthcare)により精製を行った。
ヒトFcRnへの結合評価にはBiacore 3000 を用い、センサーチップに固定化したProtein Lあるいはウサギ抗ヒトIgG Kappa chain抗体へ結合させた抗体に、アナライトとしてヒトFcRnを相互作用させた際のヒトFcRnの結合量よりaffinity(KD)を算出した。具体的には、ランニングバッファーとして150mM NaClを含む50mM Na-phosphate buffer、pH6.0を用い、アミンカップリング法によりセンサーチップ CM5 (BIACORE) にProtein Lあるいはウサギ抗ヒトIgG Kappa chain抗体を固定化した。その後、抗体を0.02% Tween20を含むランニングバッファーで希釈してインジェクトしチップに抗体を結合させた後、ヒトFcRnをインジェクトし、ヒトFcRnの抗体への結合活性[0]を評価した。
Affinityの算出にはソフトウエア、BIAevaluationを用いた。得られたセンサーグラムより、ヒトFcRnインジェクト終了直前の抗体へのhFcRn結合量を求め、これをsteady state affinity法でフィッティングしてヒトFcRnに対する抗体のaffinityを算出した。
【0337】
ヒト FcRnトランスジェニックマウスにおける血漿中滞留性の評価
ヒト FcRnトランスジェニックマウス(B6.mFcRn-/-.hFcRn Tg line 276 +/+ マウス、Jackson Laboratories)における体内動態の評価は以下の通り行った。抗体をマウスに1 mg/kgの投与量で静脈内に単回投与し適時採血を行った。採取した血液は直ちに4℃、15,000 rpmで15分間遠心分離し、血漿を得た。分離した血漿は、測定を実施するまで-20℃以下に設定された冷凍庫に保存した。血漿中濃度はELISA法を用いて測定した。
【0338】
WT-M14のヒトにおける血漿中滞留性の予測評価
WT-IgG1とWT-M14のヒトFcRnへの結合活性の評価をBIAcoreにより行った結果、表12に示すとおり、WT-M14の結合活性のほうが僅かにWT-IgG1よりも優れていた。
【表12】
しかしながら、WT-IgG1とWT-M14のヒトFcRnトランスジェニックマウスにおける血漿中滞留性の評価を行った結果、
図38に示すとおり、WT-IgG1とWT-M14は同等の血漿中滞留性を示したことから、M14の定常領域はヒトにおいてもIgG1の定常領域と同等の血漿中滞留性を示すと考えられた。
【0339】
〔実施例15〕血漿中滞留性を向上させたWT-M44、WT-M58、WT-M73の作製
WT-M58分子の作製
実施例14に示したとおり、WT-M14のヒト FcRnトランスジェニックマウスにおける血漿中滞留性はWT-IgG1と同等であった。血漿中滞留性を向上させる方法として、抗体の等電点を低下させる方法とFcRnへの結合活性を増強する方法が知られているが、WT-M14の血漿中滞留性を向上させることを目的に以下の改変を導入した。具体的には、実施例4においてWT-M14から作製したWT-M31ΔGKのEUナンバリング397番目のバリンをメチオニンに改変し、268番ヒスチジンをグルタミンへ改変し、355番アルギニンをグルタミンへ改変し、419番グルタミンをグルタミン酸へ改変した。これら4箇所の改変をWT-M31ΔGK に導入し、WT-M58(配列番号:142(アミノ酸配列))を作製した。発現ベクターの作製は、実施例1の方法で作製し、H鎖としてWT-M58を使用し、L鎖としてL(WT)を用いたWT-M58の発現・精製は実施例1に記載した方法で行った。
【0340】
WT-M73分子の作製
一方、IgG1に対して、EUナンバリング:434番目をアラニンに置換したWT-M44(配列番号:143(アミノ酸配列))を作製した。さらにM44に対してH鎖C末端のヘテロジェニティーを低減するために446番目のグリシンおよび447番目のリジンを欠損させたWT-M83(配列番号:185(アミノ酸配列))を作製した。また、WT-M58に対して、EUナンバリング:434番目をアラニンに置換したWT-M73(配列番号:144(アミノ酸配列))を作製した。
これらの発現ベクターの作製は、実施例1の方法で作製し、H鎖としてWT-M44あるいはWT-M58あるいはWT-M73を使用し、L鎖としてL(WT)を用いたWT-M44およびWT-M58およびWT-M73の発現・精製は実施例1に記載した方法で行った。
【0341】
WT-M44、WT-M58、WT-M73のヒトにおける血漿中滞留性の予測評価
WT-IgG1、WT-M44、WT-M58およびWT-M73のヒトFcRnへの結合活性の評価をBIAcoreにより行った結果、表13に示すとおり、WT-M44、WT-M58およびWT-M73の結合活性はWT-IgG1よりもそれぞれ約2.7倍、約1.4倍および約3.8倍程度優れていた。
【表13】
WT-IgG1、WT-M44、およびWT-M58のヒトFcRnトランスジェニックマウスにおける血漿中滞留性の評価を行った結果、
図39に示すとおり、WT-M58はWT-IgG1およびWT-M44と比較して血漿中滞留性の向上が確認された。さらに、WT-IgG1、WT-M44、WT-M58およびWT-M73のヒトFcRnトランスジェニックマウスにおける血漿中滞留性の評価を行った結果、
図40に示すとおり、WT-M44、WT-M58およびWT-M73はいずれもWT-IgG1と比較して血漿中滞留性の改善が確認され、その血漿中滞留性の改善効果はヒトFcRnへの結合能と相関した。なかでもWT-M73に関しては、WT-IgG1と比較して28日後の血漿中濃度が約16倍改善していたことから、ヒトにおいてもM73の定常領域を有する抗体はIgG1の定常領域を有する抗体と比較して大幅に血漿中滞留性が向上すると考えられた。
【0342】
〔実施例16〕様々な抗体における新規定常領域M14およびM58によるヘテロジェニティー低減効果
実施例8に示すとおり、抗IL-6レセプター抗体であるヒト化PM1抗体(WT)において、定常領域をIgG2からM14に変換することにより、IgG2のヒンジ領域に由来するヘテロジェニティーを低減できることが確認された。そこで、ヒト化PM1抗体以外IgG2タイプの抗体に対しても、定常領域をM14あるいはM58に変換することでヘテロジェニティーを低減できるかどうかを検討した。
ヒト化PM1抗体以外の抗体として、抗IL-6レセプター抗体であるF2H/L39(F2H/L39_VHアミノ酸配列 配列番号:145、F2H/L39 VLアミノ酸配列 配列番号:146)、抗IL-31レセプター抗体であるH0L0(H0L0_VHアミノ酸配列 配列番号:147、H0L0_VLアミノ酸配列 配列番号:148)、抗RANKL抗体であるDNS(DNS_VHアミノ酸配列 配列番号:149、DNS_VLアミノ酸配列 配列番号:150)を使用した。それぞれの抗体に対して、定常領域をIgG1(配列番号:19)、IgG2(配列番号:20)、および、M14(配列番号:24)あるいはM58(配列番号:151)にしたものを作製した。
ヘテロジェニティーの評価方法として、陽イオン交換クロマトグラフィーによる評価を行った。作製した抗体のヘテロジェニティーの評価は、カラムとしてProPac WCX-10 (Dionex)を用い、移動相Aとして20mM Sodium Acetate, pH5.0、移動相Bとして20mM Sodium Acetate, 1M NaCl, pH5.0を使用し、適切な流速およびグラジエントを用いて実施した。陽イオン交換クロマトグラフィー(IEC)による評価を行った結果を
図41示した。
図41に示したとおり、抗IL-6レセプター抗体であるヒト化PM1抗体(WT)だけでなく、抗IL-6レセプター抗体であるF2H/L39、抗IL-31レセプター抗体であるH0L0、抗RANKL抗体であるDNSにおいても、定常領域をIgG1からIgG2に変換することでヘテロジェニティーが増大し、定常領域をM14あるいはM58に変換することでいずれの抗体においてもヘテロジェニティーを低減できることが確認された。これより、H鎖のCH1ドメインに存在するEUナンバリング131番目のシステインとH鎖のupper hingeに存在するEUナンバリング219番目のシステインをセリンに改変することにより、可変領域の抗体配列および抗原の種類に関わらず、天然型IgG2に由来するヘテロジェニティーを低減できることが示された。
【0343】
〔実施例17〕様々な抗体における新規定常領域M58による血漿中滞留性改善効果
実施例15に示したとおり、抗IL-6レセプター抗体であるヒト化PM1抗体(WT)において、定常領域をIgG1からM58に変換することにより、ヒトFcRnへの結合活性が向上し、ヒトFcRnトランスジェニックマウスにおいて血漿中滞留性が向上することが見出された。そこで、ヒト化PM1抗体以外のIgG1抗体に対しても、定常領域をM58に変換することで血漿中滞留性を向上できるかどうかを検討した。
ヒト化PM1抗体(WT)以外の抗体として、抗IL-31レセプター抗体であるH0L0(H0L0_VHアミノ酸配列 配列番号:147、H0L0_VLアミノ酸配列 配列番号:148)、抗RANKL抗体であるDNS(DNS_VHアミノ酸配列 配列番号:149、DNS_VLアミノ酸配列 配列番号:150)を使用した。それぞれの抗体に対して、定常領域をIgG1(配列番号:19)およびM58(配列番号:151)にしたものを作製し、実施例14に示した方法でヒトFcRnへの結合活性を評価した。その結果を表14に示した。
【表14】
表14に示したとおり、抗IL-31レセプター抗体であるH0L0、抗RANKL抗体であるDNSにおいても、定常領域をIgG1からM58に変換することで、抗IL-6レセプター抗体であるWT同様、ヒトFcRnへの結合活性が向上することが確認された。これより、可変領域の抗体配列および抗原の種類に関わらず、定常領域をIgG1からM58に変換することでヒトにおける血漿中滞留性が向上する可能性が示された。
【0344】
〔実施例18〕CH1ドメインのシステインの及ぼすヘテロジェニティーおよび安定性への影響
実施例8に示したとおり、天然型IgG2のヘテロジェニティーを低減することを目的にIgG2のヒンジ部分のシステインおよびCH1ドメインに存在するシステインの改変を行った。各種改変体の検討の結果、野生型IgG2定常領域配列のうち、H鎖のCH1ドメインに存在するEUナンバリング131番目のシステインと133番目のアルギニンをそれぞれセリンとリジンに改変し、H鎖のupper hingeに存在するEUナンバリング219番目のシステインをセリンに改変した定常領域であるSKSC(配列番号:154)によって、安定性を低下させることなくヘテロジェニティーを低減することが可能であるとことが見出された。
一方、ヘテロジェニティーを低減する方法として、H鎖のupper hingeに存在するEUナンバリング219番目のシステインのみをセリンに改変する方法、および、220番目のシステインのみをセリンに改変する方法が考えられる。IgG2のEUナンバリング219番目のシステインをセリンに改変した定常領域であるSC(配列番号:155)、および、IgG2のEUナンバリング220番目のシステインをセリンに改変した定常領域であるCS(配列番号:156)を定常領域と有するWT-SC(配列番号:157)およびWT-CS(配列番号:158)を作製し、WT-IgG1、WT-IgG2、WT-SKSCおよびWT-M58とのヘテロジェニティーおよび熱安定性の比較を行った。また、WT以外の抗体として、異なる抗IL-6レセプター抗体であるF2H/L39(F2H/L39_VHアミノ酸配列 配列番号:145、F2H/L39_VLアミノ酸配列 配列番号:146)に対して、定常領域をそれぞれIgG1(配列番号:19)、IgG2(配列番号:20)、SC(配列番号:155)、CS(配列番号:156)、SKSC(配列番号:154)、M14(配列番号:24)にしたF2H/L39-IgG1、F2H/L39-IgG2、F2H/L39-SC、F2H/L39-CS、F2H/L39-SKSC、F2H/L39-M14を作製し、ヘテロジェニティーおよび安定性の比較を行った。
WT-IgG1、WT-IgG2、WT-SC、WT-CS、WT-SKSC、WT-M58およびF2H/L39-IgG1、F2H/L39-IgG2、F2H/L39-SC、F2H/L39-CS、F2H/L39-SKSC、F2H/L39-M14のヘテロジェニティーの評価方法として、陽イオン交換クロマトグラフィーによる評価を行った。カラムとしてProPac WCX-10 (Dionex)を用い、移動相Aとして20mM Sodium Acetate, pH5.0、移動相Bとして20mM Sodium Acetate, 1M NaCl, pH5.0を使用し、適切な流量およびグラジエントを用いて実施した。陽イオン交換クロマトグラフィーによる評価を行った結果を
図42に示した。
その結果、
図42に示すとおり、WTとF2H/L39のいずれにおいても、定常領域をIgG1からIgG2に変換することでヘテロジェニティーが増大したが、定常領域をSKSCおよびM14あるいはM58に変換することでヘテロジェニティーが大幅に低減された。一方、定常領域をSCにした場合は定常領域をSKSCとした場合と同様にヘテロジェニティーが大幅に低減されたが、定常領域をCSにした場合は十分にヘテロジェニティーが改善しなかった。
一般に抗体を医薬品として開発するためにはヘテロジェニティーが少ないことに加えて、安定な製剤を調製するため高い安定性を有することが望ましい。そこで安定性の評価方法として、示走差査型熱量測定(DSC)による熱変性中間温度(Tm値)の評価を行った(VP-DSC、Microcal社製)。熱変性中間温度(Tm値)は安定性の指標であり、医薬品として安定な製剤を作製するためには、熱変性中間温度(Tm値)が高いことが望ましい(J Pharm Sci. 2008 Apr;97(4):1414-26.)。WT-IgG1、WT-IgG2、WT-SC、WT-CS、WT-SKSC、WT-M58を20mM sodium acetate, 150mM NaCl, pH6.0の溶液に対して透析(EasySEP, TOMY)を行い、約0.1mg/mLのタンパク質濃度で、40℃から100℃まで1℃/minの昇温速度でDSC測定を行った。得られたDSCの変性曲線を
図43に、Fab部分のTm値を以下の表15に示した。
【表15】
WT-IgG1およびWT-IgG2のTm値はほぼ同等で約94℃程度(IgG2のほうが約1℃低い)であったのに対して、WT-SCおよびWT-CSのTm値は約86℃であり、WT-IgG1およびWT-IgG2と比較して著しくTm値が低下していた。一方、WT-M58、WT-SKSCのTm値は約94℃であり、ほぼWT-IgG1およびWT-IgG2と同等であった。WT-SCおよびWT-CSは安定性がIgG2と比較して著しく低いことから、医薬品として開発するためには、CH1ドメインのシステインもセリンに改変したWT-SKSCおよびWT-M58のほうが好ましいと考えられた。WT-SCおよびWT-CSのTm値がIgG2と比較して大幅に低下した理由として、WT-SCおよびWT-CSはIgG2のジスルフィド結合パターンとは異なる様式を取っているためと考えられた。
また、DSC変性曲線を比較した場合、WT-IgG1、WT-SKSC、WT-M58のFab部分の変性ピークはシャープかつ単一であったのに対して、WT-SCおよびWT-CSはこれらと比較して、Fab部分の変性ピークがブロードであり、WT-IgG2はFab部分の変性ピークの低温側にショルダーピークが認められた。DSCの変性ピークは単一成分の場合は通常シャープな変性ピークを示すが、Tmが異なる複数成分(つまりヘテロジェニティー)が存在する場合、変性ピークはブロードになると考えられる。すなわち、WT-IgG2、WT-SCおよびWT-CSには複数成分存在し、WT-SCおよびWT-CSは、天然型IgG2のヘテロジェニティーが十分低減されていない可能性が示唆された。このことから、野生型IgG2のヘテロジェニティーはヒンジ部分のシステインのみならず、CH1ドメインに存在するシステインの両方が関与していると考えられ、DSC上のヘテロジェニティーを低減するためにはヒンジ部分のシステインのみならず、CH1ドメインのシステインも改変する必要があると考えられた。また、上述のとおり、ヒンジ部分のシステインのみならず、CH1ドメインのシステインを改変することで初めて野生型IgG2と同等の安定性を有することが可能である。
以上より、IgG2のヒンジ領域に由来するヘテロジェニティーを低減した定常領域として、ヒンジ部分のシステインのみをセリンに置換した定常領域であるSCとCSはヘテロジェニティーおよび安定性の観点で不十分であると考えられ、ヒンジ部分のシステインに加えてCH1ドメインに存在するEUナンバリング131番目のシステインもセリンに置換することで初めてIgG2と同等の安定性を維持しつつヘテロジェニティーを大幅に低減することが可能であることが見出された。そのような定常領域としては、上述のM14、M31、M58、M73等が挙げられ、特にM58およびM73は血漿中滞留性が向上し、安定性が高く、ヘテロジェニティーが低減されていることから、抗体医薬品の定常領域として非常に有用であると考えられた。
【0345】
〔実施例19〕PK/PDが改善した完全ヒト化IL-6レセプター抗体の作製
TOCILIZUMAB(H鎖 WT-IgG1(配列番号:15)、L鎖 WT(配列番号:105))に対して、PK/PDが改善した完全ヒト化IL-6レセプター抗体の作製するために以下に示す分子を作製した。
F2H-IgG1のka向上のため、実施例2で得られたアフィニティー増強の改変である、35番のトリプトファンのバリンへの置換、および50番のチロシンのフェニルアラニンへの置換、62番のセリンのスレオニンへの置換を行なった。また、免疫原性リスクを上昇させることなくpIを低下させるため、102番のチロシンをバリンへと置換、105番のグルタミンをグルタミン酸へと置換、107番のイソロイシンをスレオニンへと置換し、定常領域をIgG1からM83に置換したものとして、VH5-M83(配列番号:139(アミノ酸配列))を作製した。また、L39のka向上のため、27番のグルタミン酸をグルタミンに置換したVL5-kappa(配列番号:181(アミノ酸配列))を作製した。さらに上記実施例で見出されたTOCILIZUMABの可変領域および定常領域の変異、および、新たに見出された変異を複数組み合わせたTOCILIZUMAB改変体を作製し、各種スクリーニングを実施した結果、完全ヒト化IL-6レセプター抗体として、Fv3-M73(H鎖 VH4-M73 配列番号:182、L鎖 VL1-kappa 配列番号:183)、Fv4-M73(H鎖 VH3-M73 配列番号:180、L鎖 VL3-kappa 配列番号:181)、Fv5-M83(H鎖 VH5-M83 配列番号:139、L鎖 VL5-kappa 配列番号:138)を見出した。
作製したFv3-M73、Fv4-M73、およびFv5-M83のIL-6レセプターへのアフィニティーをTOCILIZUMABと比較した(方法は参考例参照)。これらの抗体のIL-6レセプターへのアフィニティーを測定した結果を表16に示した。また、BaF/gp130の中和活性をTOCILIZUMABおよびコントロール(参考例の公知の高親和性高IL-6レセプター抗体、US 2007/0280945におけるVQ8F11-21 hIgG1)と比較した(方法は参考例参照)。これらの抗体のBaF/gp130による生物活性を測定した結果を
図44(IL-6終濃度 300 ng/mL:TOCILIZUMAB、コントロール、Fv5-M83)および
図45(IL-6終濃度 30 ng/mL:TOCILIZUMAB、Fv3-M73、Fv4-M73)に示した。表16に示すとおり、Fv3-M73、Fv4-M73は、TOCILIZUMABと比較して2~3倍程度強いアフィニティーを有し、Fv5-M83はTOCILIZUMABと比較して100倍程度強いアフィニティーを示した(Fv5-M83ではアフィニティーの測定が困難であったため、定常領域をIgG1にしたFv5-IgG1を用いてアフィニティーを測定した、定常領域は一般にアフィニティーに影響しないと考えられる)。また、
図45に示すとおりFv3-M73、Fv4-M73は、TOCILIZUMABと比較してやや強い活性を示し、
図44に示すとおりFv5-M83はTOCILIZUMABと比較して50%阻害濃度として100倍以上の極めて強い活性を有し、且つ、公知の高親和性高IL-6レセプター抗体であるコントロールと比較しても50%阻害濃度として約10倍程度高い中和活性を示した。
【表16】
TOCILIZUMAB、コントロール、Fv3-M73、Fv4-M73、およびFv5-M83の等電点を当業者公知の方法により等電点電気泳動により測定した結果、TOCILIZUMABの等電点は約9.3、コントロールは約8.4~8.5、Fv3-M73は約5.7~5.8、Fv4-M73は約5.6~5.7、Fv5-M83は5.4~5.5であり、いずれの抗体もTOCILIZUMABおよびコントロールと比較して等電点が大幅に低下した。また、可変領域VH/VLの理論等電点をGENETYX(GENETYX CORPORATION)により計算したところ、TOCILIZUMABの理論等電点は9.20、コントロールは7.79、Fv3-M73は5.49、Fv4-M73は5.01、Fv5-M83は4.27であり、いずれの抗体もTOCILIZUMABおよびコントロールと比較して等電点が大幅に低下した。よって、Fv3-M73、Fv4-M73、およびFv5-M83はTOCILIZUMABおよびコントロールと比較して血漿中滞留性が向上していると考えられた。
TOCILIZUMAB、Fv3-M73、Fv4-M73、およびFv5-M83の可変領域配列に存在するT-cellエピトープをTEPITOPE(Methods. 2004 Dec;34(4):468-75)を用いて解析を行った。その結果、TOCILIZUMABは多くの配列がHLAに結合するT-cellエピトープが存在すると予測されたが、Fv3-M73、Fv4-M73、およびFv5-M83はT-cellエピトープに結合すると予測された配列が大幅に減少した。また、Fv3-M73、Fv4-M73、およびFv5-M83はフレームワークにマウス配列が残存せず完全ヒト化されている。これらのことから、Fv3-M73、Fv4-M73、およびFv5-M83の免疫原性はTOCILIZUMABと比較して大幅に免疫原性リスクが低減されている可能性が示唆された。
【0346】
〔実施例20〕完全ヒト化IL-6レセプター抗体のサルPK/PD試験
TOCILIZUMAB、コントロール、Fv3-M73、Fv4-M73、およびFv5-M83をカニクイザルに1 mg/kgで静脈内に単回投与し血漿中濃度推移を評価した(方法は参考例参照)。TOCILIZUMAB、Fv3-M73、Fv4-M73、およびFv5-M83の静脈内投与後の血漿中濃度推移を
図46に示した。その結果、Fv3-M73、Fv4-M73、およびFv5-M83はいずれもTOCILIZUMABおよびコントロールと比較してカニクイザルにおいて大幅に血漿中滞留性が改善した。なかでも、Fv3-M73とFv4-M73の血漿中滞留性はTOCILIZUMABと比較して大幅に改善した。
カニクイザル膜型IL-6レセプターがどの程度中和されているかの薬効を評価するために、抗体投与6日目から18日目(TOCILIZUMABに関しては3日目から10日目)までカニクイザルIL-6 5μg/kgを腰背部に連日皮下投与し、24時間後の各個体のCRP濃度を測定した(方法は参考例参照)。各抗体投与時のCRP濃度推移を
図47に示した。カニクイザル可溶型IL-6レセプターがどの程度中和されているかの薬効を評価するために、カニクイザル血漿中の非結合型のカニクイザル可溶型IL-6レセプター濃度を測定し、可溶型IL-6レセプターの中和率を計算した(方法は参考例参照)。各抗体投与時の可溶型IL-6レセプターの中和率の推移を
図48に示した。
Fv3-M73、Fv4-M73、およびFv5-M83はいずれもTOCILIZUMABおよび公知の高親和性抗IL-6レセプター抗体であるコントロールと比較してカニクイザル膜型IL-6レセプターをより持続的に中和しCRPの増加を長期間抑制した。また、Fv3-M73、Fv4-M73、およびFv5-M83はいずれもTOCILIZUMABおよびコントロールと比較してカニクイザル可溶型IL-6レセプターをより持続的に中和し非結合型のカニクイザル可溶型IL-6レセプターの増加を長期間抑制した。これより膜型IL-6レセプターおよび可溶型IL-6レセプターの中和の持続性に関しては、Fv3-M73、Fv4-M73、およびFv5-M83はいずれもTOCILIZUMABおよびコントロールよりも優れていることが見出された。なかでもFv3-M73とFv4-M73の中和の持続性は極めて優れていた。一方、Fv5-M83のほうがFv3-M73とFv4-M73よりCRPおよび非結合型カニクイザル可溶型IL-6レセプターを低く抑制していることから、Fv5-M83は膜型IL-6レセプターおよび可溶型IL-6レセプターをFv3-M73とFv4-M73および公知の高親和性抗IL-6レセプター抗体であるコントロールよりも強力に中和していると考えられた。これはFv5-M83がコントロールよりもIL-6レセプターへのアフィニティーが強く、且つ、BaF/gp130における生物活性が強いことがカニクイザルのin vivoにおいて反映された結果であると考えられる。
これらのことから、TOCILIZUMABおよびコントロールと比較して、Fv3-M73とFv4-M73は抗IL-6レセプター中和抗体として作用の持続性が極めて優れており投与頻度および投与量を大幅に低減することが可能であり、また、Fv5-M83は抗IL-6レセプター中和抗体として作用の強さに極めて優れており、また作用の持続性にも優れていることが見出された。よってFv3-M73、Fv4-M73、およびFv5-M83はIL-6アンタゴニストとしての医薬品として有用であると考えられる。
【0347】
〔参考例〕
組み換えカニクイザル可溶型IL-6レセプター(cIL-6R)の調製
公開されているアカゲザルIL-6レセプター遺伝子配列 (Birney et al, Ensembl 2006, Nucleic Acids Res. 2006 Jan 1;34(Database issue):D556-61.) を元にオリゴDNAプライマーを作製し、カニクイザル膵臓から調製されたcDNAを鋳型とし、プライマーを用いて、PCR法によりカニクイザルIL-6レセプター遺伝子全長をコードするDNA断片を調製した。得られたDNA断片を動物細胞発現ベクターへ挿入し、これを用いてCHO定常発現株(cyno.sIL-6R産生CHO細胞)を作製した。cyno.sIL-6R産生CHO細胞の培養液をHisTrapカラム(GEヘルスケアバイオサイエンス) で精製後、Amicon Ultra-15 Ultracel-10k(Millipore)を用いて濃縮し、Superdex200pg16/60ゲルろ過カラム(GEヘルスケアバイオサイエンス)でさらに精製を行い、可溶型カニクイザルIL-6レセプター(以下、cIL-6R)の最終精製品とした。
【0348】
組み換えカニクイザルIL-6(cIL-6)の調製
カニクイザルIL-6は以下のように調製した。SWISSPROT Accession No.P79341に登録されている212アミノ酸をコードする塩基配列を作成し、動物細胞発現ベクターにクローニングし、CHO細胞に導入することで定常発現細胞株を作製した(cyno.IL-6産生CHO細胞)。cyno.IL-6産生CHO細胞の培養液をSP-Sepharose/FFカラム(GEヘルスケアバイオサイエンス) で精製後、Amicon Ultra-15 Ultracel-5k(Millipore)を用いて濃縮し、Superdex75pg26/60ゲルろ過カラム(GEヘルスケアバイオサイエンス)でさらに精製を行い、Amicon Ultra-15 Ultracel-5k(Millipore)を用いて濃縮し、カニクイザルIL-6(以下、cIL-6)の最終精製品とした。
【0349】
公知高親和性抗IL-6レセプター抗体の作製
公知の高親和性抗IL-6レセプター抗体として、US 2007/0280945 A1に記載されている高親和性抗IL-6レセプター抗体であるVQ8F11-21 hIgG1(US 2007/0280945 A1, H鎖アミノ酸配列:配列番号:19、L鎖アミノ酸配列:配列番号:27)を発現させるため、動物細胞発現用ベクターを構築した。抗体可変領域については、合成オリゴDNAを組み合わせたPCR法(assembly PCR)により作製し、定常領域についてはIgG1を使用した。Assembly PCR法により抗体可変領域と定常領域を結合させ、動物発現用ベクターへ挿入し、目的のH鎖発現ベクターおよびL鎖発現ベクターを作製した。得られた発現ベクターの塩基配列は当業者公知の方法で決定した。作製した発現ベクターを用い、発現・精製を行った。発現・精製は実施例1に記載した方法で行い、高親和性抗IL-6レセプター抗体(以降、コントロール、と記す)を得た。
【0350】
BiacoreによるIL-6レセプターへの結合評価
Biacore T100 (GE Healthcare) を用いて、抗原抗体反応の速度論的解析を行った。センサーチップ上にアミンカップリング法でanti-IgG(γ-chain specific)F(ab’)2を適当量固定化し、次にpH7.4において目的の抗体を結合させ、さらにpH7.4において種々の濃度に調整したIL-6レセプターであるSR344をアナライトとして流し、抗体とSR344の相互作用を測定した。測定は全て37℃で実施した。測定で得られたセンサーグラムから、カイネティクスパラメーターである結合速度定数 ka (1/Ms)、および解離速度定数 kd (1/s) を算出し、その値をもとに KD (M) を算出した。各パラメーターの算出には Biacore T100 Evaluation Software (GE Healthcare)を用いた。
【0351】
サルPK/PD試験による抗体血漿中濃度、CRP濃度、非結合型可溶型IL-6レセプターの測定
カニクイザル血漿中濃度測定はELISA法にて当業者公知の方法で測定した。
CRP濃度はサイアス R CRP (関東化学株式会社)にて、自動分析装置(TBA-120FR、東芝メディカルシステムズ株式会社)を用いて測定した。
カニクイザル血漿中の非結合型のカニクイザル可溶型IL-6レセプター濃度を以下の通り測定した。カニクイザルの血漿30μLを0.22 μmのフィルターカップ(Millipore)において乾燥させた適量のrProtein A Sepharose Fast Flow (GE Healthcare)樹脂に添加することで血漿中に存在する全てのIgG型抗体(カニクイザルIgG、抗ヒトIL-6レセプター抗体および抗ヒトIL-6レセプター抗体-カニクイザル可溶型IL-6レセプター複合体)をProteinAに吸着させた。その後、高速遠心機でスピンダウンし、パス溶液を回収した。パス溶液にはproteinAに結合した抗ヒトIL-6レセプター抗体-カニクイザル可溶型IL-6レセプター複合体は含まれないため、proteinAパス溶液中のカニクイザル可溶型IL-6レセプター濃度を測定することによって、非結合型の可溶型IL-6レセプター濃度を測定可能である。カニクイザル可溶型IL-6レセプター濃度は、上記で作製したカニクイザル可溶型IL-6レセプター(cIL-6R)をスタンダードに用いて、ヒトIL-6レセプター濃度を測定する当業者公知の方法で測定した。可溶型IL-6レセプターの中和率は以下の計算式によって計算した。
(抗体投与後の非結合型の可溶性IL-6レセプター濃度÷抗体投与前の可溶性IL-6レセプター濃度)×100
[実施例21]
(1)ヒト化H0L0抗体の点変異遺伝子の作製
WO2006/046751に開示されるヒト化GC33抗体のCDRを含むグリピカン3抗体をコードする遺伝子を出発材料として、各種の点変異遺伝子を作製した。改変部位を含む順鎖および逆鎖の配列に基づいて設計されたオリゴDNAが合成された。市販のQuikChange Site-Directed Mutagenesis Kit(Stratagene)を用いて複数の点変異遺伝子が作製された。点変異遺伝子の作製は以下の条件に従ってPCR法によって実施された。10 ngの鋳型プラスミドと、10 pmolの順鎖および逆鎖の合成オリゴDNA、キットに添付された10x Buffer、dNTP mixおよびPfu turbo DNA polymeraseからなる反応混合物を、95℃にて30秒間加熱した後、95 ℃にて30秒、55 ℃にて1分、68 ℃にて4分から構成されるPCR反応サイクルが18回実施された。キットに添付されたDpnIが反応混合物に添加された後に37℃にて1時間の制限酵素による制限消化反応が継続された。当該反応液によってDH5αコンピテント細胞(TOYOBO)が形質転換された結果、形質転換体が得られた。当該形質転換体から単離されたプラスミドDNAの塩基配列の決定に基づいて、点変異が導入されたことが確認された点変異遺伝子は、動物細胞において挿入遺伝子を発現可能ならしめる発現ベクター中にクローン化された。改変遺伝子は以下に示す構成を有する改変により取得された。
【0352】
ヒト化H0L0抗体およびその点変異改変抗体の一過性発現はPolyethyleneimine(Polysciences Inc.)を用いた一過性発現により実施された。Trypsin EDTA(Invitrogen)にて剥離されたHEK293細胞が、10cm2培養ディッシュに6 x 106 cells/10mLとなるように播種された。翌日、4.6μgのH鎖発現プラスミドDNAおよび9.2μgのL鎖発現プラスミドDNAに690 μlのSFMII培地および20.8μgのPolyetyleneimineを加えて混合された後、当該混合液は室温にて10分間静置された。混合液の全量は、HEK293細胞が前記記載の通り播種された培養ディッシュに滴下された。その約72時間後に回収された培養上清から、発現したヒト化H0L0抗体およびその点変異改変抗体の精製がrProteinA sepharoseTM Fast Flow(GE Healthcare)を用いて、その手順書に従い実施された。
【0353】
(1-1)ヒト化H0L0抗体のTm値の改変
熱変性中間温度(Tm)は、一定のプログラムされた加熱速度で被検試料溶液を加熱した後に得られるサーモグラム(Cp対T)における変性ピークの頂点として把握される。DSC測定用試料溶液の調製を以下の様に実施することによって、ヒト化H0L0抗体のTm値が測定された。まず、150 mmol/lの塩化ナトリウムを含む20 mol/lの酢酸ナトリウム緩衝溶液(pH6.0)を透析外液に対して、透析膜に封入された50-100μg相当量の抗体溶液が一昼夜の間、透析に供された。その後、透析外液を用いてその抗体濃度が50-100μg/mlに調製された試料溶液がDSC測定用試料溶液として使用された。
【0354】
適切なDSC装置、例えばDSC-II(Calorimetry Sciences Corporation)が、この実験のために好適に使用される。前記方法により調製された試料溶液およびリファレンス溶液(透析外液)が十分に脱気された後に、それぞれの被験検体が熱量計セルに封入され40℃にて熱充分な平衡化が行われた。次にDSC走査が40℃~100℃にて約1K/分の走査速度で行われた。当該測定の結果は、温度の関数としての変性ピークの頂点として表される。非特許文献(Rodolfoら、Immunology Letters (1999), 47-52)を参考にしたFabドメインのピークアサインが行われ、ヒト化H0L0抗体の熱変性中間温度が算出された。具体例としてHspu2.2Lspu2.2(Hu2.2Lu2.2)抗体のDSC(示差走査熱量計)測定から得られたチャートが
図49に例示される。
【0355】
前記記載の方法による算出に基づいた配列番号195で表されるH鎖、および、配列番号201で表されるL鎖からなるヒト化H0L0抗体のTm値は76.6℃であるが、既存の抗体として例示されるSynagisおよびHerceptinのTm値はそれぞれ85.4℃および81.8℃と計測される。したがってヒト化H0L0抗体のTm値は既存の抗体のそれよりも低いことが示されたこととなる。
【0356】
そこで、そのTm値の向上を目的として、ヒト化H0L0抗体の改変抗体を作製した。配列番号195で表されるH0L0抗体のH鎖のFR2に対して、そのVH1bのサブクラスをVH4のサブクラスに改変するV37I、A40P、M48I、L51Iの改変が加えられたH15(配列番号196)が作製された。そのTm値は79.1℃に改善された。配列番号201で表されるH0L0抗体のL鎖のFR2をVK2からVK3のサブクラスに改変するL42Q、S48A、Q50Rの改変、および、FR1のV2を生殖細胞系列の配列であるIに置換するV2Iの改変が実施されたL4(配列番号202)が作製された。そのTm値は77.2℃に改善された。この2つの改変体が組み合わされたH15L4抗体のTm値は80.5℃に改善された。
【0357】
(1-2)ヒト化H0L0抗体のpI値の改変
抗体が有するpI値が減少することにより、抗体の血中半減期が伸長する。それとは逆に抗体のpI値が増大することにより、抗体の組織移行性が改善される。癌治療に対する効果を奏する抗体のpI値の増加または減少のいずれかが、腫瘍抑制効果の増強をもたらすかは分かっていない。そこで、pI値が減少したヒト化H0L0抗体の改変抗体とpI値が増加したヒト化H0L0抗体の改変抗体を作製し、両者の抗腫瘍効果を比較検討することによって、いずれの改変が高い腫瘍抑制効果をもたらすかが検証された。
【0358】
各抗体のpI値は等電点電気泳動による分析に基づいて算出された。当該電気泳動は以下のとおり行われた。Phastsystem Cassette(AmerchamBioscience社製)を用いて以下の組成を有する膨潤液によって60分ほどPhast-Gel Dry IEF(AmerchamBioscience)ゲルが膨潤された。
(a)高pI用の膨潤液の組成:
1.5 mlの10% Glycerol
100μlのPharmalyte 8-10.5 for IEF(AmerchamBioscience)
(b)低pI用の膨潤液の組成:
1.5 mlの精製水
20μlのPharmalyte 8-10.5 for IEF(AmerchamBioscience)
80μlのPharmalyte 5-8 for IEF(AmerchamBioscience)
【0359】
約0.5μgの抗体が膨潤したゲルに供され、以下のプログラムにより制御されたPhastSystem(AmerchamBioscience)を用いることによって等電点電気泳動が行われた。サンプルは下記プログラムにおけるStep 2の段階でゲルに添加された。pIマーカーとして、Calibration Kit for pI(AmerchamBioscience)が使用された。
Step 1:2000 V、2.5 mA、3.5 W、15℃、75 Vh
Step 2:200 V、2.5 mA、3.5 W、15℃、15 Vh
Step 3:2000 V、2.5 mA、3.5 W、15℃、410 Vh
【0360】
泳動後のゲルが20 % TCAによって固定化された後、Silver staining Kit, protein(AmerchamBioscience)を用い、キットに添付されている手順書に従って銀染色が行われた。染色後、pIマーカーが有する既知の等電点を基準にして被験試料である各抗体の等電点が算出された。
図50および
図51にそれぞれ高pI等電点電気泳動の泳動像および低pI等電点電気泳動の泳動像が示されている。
【0361】
(a)pI値が増加した改変
H15にQ43K、D52N、Q107Rの改変が更に施されたHspu2.2(Hu2.2)(配列番号200)が作製された。また、L4にE17Q、Q27R、Q105R、およびCDR2のS25を生殖細胞系列で多いAに置換したS25Aの改変が施されたLspu2.2(Lu2.2)(配列番号206)が作製された。Hspu2.2(Hu2.2)およびLspu2.2(Lu2.2)とからなる抗体であるHspu2.2Lspu2.2(Hu2.2Lu2.2)抗体のTm値は76.8℃と計測され、pI値は9.6と計測された。H0L0抗体のpI値は8.9であることから、Hspu2.2Lspu2.2(Hu2.2Lu2.2)抗体のpI値は0.7増大した。
【0362】
(b)pI値が減少した改変
H15にK19T、Q43E、K63S、K65Q、G66Dの改変が更に施されたHspd1.8(Hd1.8)(配列番号199)が作製された。L4にQ27Eの改変が施され、L4を構成するFR3の79-84の配列であるKISRVEがTISSLQに改変され、Lspu2.2(Lu2.2)に対する改変同様にS25Aの改変が施されたLspd1.6(Ld1.6)(配列番号205)が作製された。Hspd1.8(Hd1.8)およびLspd1.6(Ld1.6)からなる抗体であるHspd1.8Lspd1.6(Hd1.8Ld1.6)抗体のTm値は72.6℃と計測され、pI値は7.4と計測された。H0L0抗体のpI値は8.9であることからHspd1.8Lspd1.6(Hd1.8Ld1.6)抗体のpI値は1.5減少した。
【0363】
(2)競合ELISAによるH0L0抗体の点変異改変抗体の結合活性の評価
(1)で精製されたH0L0抗体およびその点変異改変抗体の競合ELISAによる評価が行われた。1μg/mlとなるように調製された可溶型GPC3コアポリペプチド(配列番号207)が96穴プレートに1ウエル当たり100μl加えられた。当該プレートは4℃にて終夜静置され、可溶型GPC3コアポリペプチドが当該プレートに固相化された。当該プレートに固相化された可溶型GPC3コアポリペプチドはSkan WASHER400(Molecular Devices)を用いて洗浄緩衝液にて3回洗浄され200μlのブロッキング緩衝液が加えられ4℃にて一終夜以上ブロックされた。当可溶型GPC3コアポリペプチドが固相化されブロックされたプレートは次にSkanWASHER400を用いて洗浄緩衝液にて3回洗浄された。その後、種々の濃度のH0L0抗体またはその点変異改変抗体と終濃度0.3μg/mlのビオチン化されたH0L0抗体との混合液100μlがプレート1ウエル当たり加えられた。H0L0抗体のビオチン化はBiotin Labelingキット(Roche)を用いてキットの手順書に従い実施された。当該プレートは室温にて1時間静置された後、Skan WASHER400(Molecular Devices)を用いて洗浄緩衝液にて5回洗浄された。その1ウエル当たり基質緩衝液によって20,000倍に希釈された100μlの Goat anti streptabidin Alkaline phosphatase(ZYMED)が加えられた当該プレートは、室温にて1時間静置された後Skan WASHER400を用いて洗浄緩衝液にて5回洗浄された。基質緩衝液を用いて1 mg/mlとなるようにPhosphatase Substrate(Sigma)が調製され、1ウエル当たり100μl加えられ1時間静置された。Benchmark Plus(BIO-RAD)を用いて655 nmの対照吸光度を用いて、各ウエル中の反応液の405 nmにおける吸光度が測定された。
【0364】
図52で示されるように、H15L4抗体の抗原に対する結合活性は改変に供したH0L0抗体のそれとほぼ同等であることが示された。また、
図53で示されるように、Hspu2.2Lspu2.2(Hu2.2Lu2.2)抗体の抗原に対する結合活性は改変に供したH0L0抗体のそれとほぼ同等であることが示された。さらに、
図54で示されるように、Hspd1.8Lspd1.6 (Hd1.8Ld1.6)抗体の抗原に対する結合活性は改変に供したH0L0抗体のそれとほぼ同等であることが示された。
【0365】
[参考実施例22]CHO細胞におけるフコーストランスポーター遺伝子の破壊
(1)ターゲッティングベクターの構築
(1-1) KO1ベクターの作製
pcDNA3.1/Hygro(インビトロジェン)よりHyg5-BHとHyg3-NTのプライマーでPCRすることによって、Hygromycin耐性遺伝子(Hygr)の開始コドンの5’側にBamH IサイトとTGCGCの配列を付加することで、フコーストランスポーター遺伝子の開始コドンの5’側と同じ配列にし、SV40 polyA付加シグナルまでの領域を含む3’側にはNot Iサイトを付加してHygrを抜き出した。
フォワードプライマー
Hyg5-BH 5’- GGATCCTGCGCATGAAAAAGCCTGAACTCACC -3’(配列番号208)
リバースプライマー
Hyg3-NT 5’- GCGGCCGCCTATTCCTTTGCCCTCGGACG -3’(配列番号209)
【0366】
フコーストランスポーターのターゲッティングベクターver.1(以下、KO1ベクターと称する)はpMC1DT-Aベクター(Yagi T, Proc. Natl. Acad. Sci. USA(1990) 87, 9918-22,)に、フコーストランスポーターの5’側(配列番号210に示す塩基配列のNo.2,780のSmaIからNo.4,232のBamH I)、3’側(No.4,284からNo.10,934のSac Iまで)、及びHygrフラグメントを各々挿入することで構築した。ベクターの特徴としては、Hygrにプロモーターが付加されていないことから、相同組み換えを起こしたときにフコーストランスポーターのプロモーターによって、Hygrが発現することとなる。しかしながら、相同組み換えによって1コピーのみベクターが細胞に導入されても、ハイグロマイシンBに対する耐性を獲得するほどHygrが発現するとは限らない。なお、KO1ベクターはNot Iで切断して細胞に導入した。KO1ベクターによって、フコーストランスポーターは開始コドンを含むエクソン1の41塩基対を欠損することになり、機能を失うものと考えられる。
【0367】
(1-2)pBSK-pgk-1-Hygrの作製
pKJ2ベクター(Popo H, Biochemical Genetics (1990) 28, 299-308,)よりマウスpgk-1遺伝子のプロモーターをEcoR I-Pst Iによって切り出し、pBluescript(ストラタジーン)のEcoR I-Pst IサイトにクローニングしてpBSK-pgk-1を作製した。HygrはpcDNA3.1/HygroよりHyg5-AVとHyg3-BHのプライマーでPCRすることによって、Hygrの5’側にEcoT22 IサイトとKozak配列を付加し、SV40 polyA付加シグナルまでの領域を含む3’側にはBamH Iサイトを付加してHygrを抜き出した。
フォワードプライマー
Hyg5-AV 5’- ATGCATGCCACCATGAAAAAGCCTGAACTCACC -3’(配列番号211)
リバースプライマー
Hyg3-BH 5’- GGATCCCAGGCTTTACACTTTATGCTTC -3’(配列番号212)
【0368】
このHygr(EcoT22 I-BamH I)フラグメントをpBSK-pgk-1のPst I-BamH Iサイトに挿入し、pBSK-pgk-1-Hygrを作製した。
【0369】
(1-3)KO2ベクターの作製
フコーストランスポーターのターゲッティングベクターver.2(以下、KO2ベクターと称する)はpMC1DT-Aベクターにフコーストランスポーターの5’側(配列番号210に示す塩基配列のNo.2,780のSma IからNo.4,232のBamH I)、3’側(No.4,284からNo.10,934のSacIまで)、及びpgk-1- Hygrフラグメントを各々挿入することで構築した。KO1ベクターと異なり、KO2ベクターはHygrにpgk-1遺伝子のプロモーターが付加されていることから、相同組み換えによって1コピーのみベクターが細胞に導入されても、ハイグロマイシンBに対する耐性を獲得する。なお、KO2ベクターはNot Iで切断して細胞に導入した。KO2ベクターによって、フコーストランスポーターは開始コドンを含むエクソン1の46塩基対を欠損することになり、機能を失うものと考えられる。
【0370】
(1-4)pBSK-pgk-1-Purorの作製
pPURベクター(BD Biosciences)をPst IとBamH Iで切断し、切り出されたフラグメント(Puror)をpBSK-pgk-1のPst I-BamH Iサイトに挿入し、pBSK-pgk-1-Purorを作製した。
【0371】
(1-5)KO3ベクターの作製
フコーストランスポーターのターゲッティングベクターver.3(以下、KO3ベクターと称する)はpMC1DT-Aベクターにフコーストランスポーターの5’側(配列番号210に示す塩基配列のNo.2,780のSma IからNo.4,232のBamH I)、3’側(No.4,284からNo.10,934のSacIまで)、及びpgk-1- Purorフラグメントを各々挿入することで構築した。なお、pgk-1-Purorの3’末端には、以下に示すスクリーニング用のプライマーが結合する配列を予め付加しておいた。なお、KO3ベクターはNot Iで切断して細胞に導入した。KO3ベクターによって、フコーストランスポーターは開始コドンを含むエクソン1の46塩基対を欠損することになり、機能を失うものと考えられる。
リバースプライマー
RSGR-A 5’- GCTGTCTGGAGTACTGTGCATCTGC -3’(配列番号213)
以上の3種類のターゲッティングベクターを用いて、フコーストランスポーター遺伝子のノックアウトを試みた。
【0372】
(2)CHO細胞へのベクターの導入
CHO-S-SFMII HT- (インビトロジェン)にHT Supplement(100x)(インビトロジェン)とペニシリンストレプトマイシン(インビトロジェン)をCHO-S-SFMII HT-の容量に対して、それぞれ1/100 量を加えた。これを培養用の培地(以下、SFMII (+)と称する)としてCHO細胞のDXB11株を継代し、さらに遺伝子導入後の培養もこのSFMII(+)で行った。8 x 106個のCHO細胞を0.8 mlのダルベッコリン酸緩衝液(以下、PBSと略す。インビトロジェン)に懸濁した。細胞懸濁液に30μgのターゲッティングベクターを加え、Gene PulserCuvette(4 mm)(バイオラッド)に細胞懸濁液を移した。氷上で10分間放置した後に、GENE-PULSER II(バイオラッド)で1.5kV, 25μFDの条件で、エレクトロポレーション法によりベクターを細胞に導入した。ベクターを導入後、細胞を200 mlのSFMII(+)培地に懸濁して20枚の96穴平底プレート(イワキ)に100μl/ウェルで細胞を播きこんだ。プレートをCO2インキュベーター内で、24時間、37℃で培養した後、薬剤を添加した。
【0373】
(3)ノックアウトの第一段階
KO1ベクター、もしくはKO2ベクターをそれぞれCHO細胞に導入し、ベクター導入から24時間後にハイグロマイシンB (インビトロジェン)による選抜を行った。ハイグロマイシンBは0.3 mg/mlになるようにSFMII(+)に溶解し、100μl/ウェル添加した。
【0374】
(4)PCRによる相同組み換え体のスクリーニング
(4-1)PCR用のサンプルの調整
相同組み換え体はPCR法によってスクリーニングした。スクリーニングで用いるCHO細胞は96穴平底プレートで培養し、培養上清除去後に細胞溶解用の緩衝液を50μl/ウェル加えて55℃、2時間加温し、続いて95℃、15分加熱することで、プロティナーゼ Kを失活させてPCRの鋳型とした。細胞溶解用の緩衝液は、1ウェルあたり10 X LA 緩衝液II(タカラLATaqに添付)5μl、10% NP-40 (ロッシュ)2.5μl、プロティナーゼ K (20mg/ml、タカラ)4μl、及び蒸留水(ナカライテスク)38.5μlで構成されている。
【0375】
(4-2)PCRの条件
PCR反応混合物は上記のPCRサンプル1μl、10 x LA緩衝液II 5μl、MgCl2 (25 mM) 5μl、dNTP(2.5 mM)5μl、プライマー(各10μM)2μl、LA Taq(5 IU/μl)0.5μl、及び蒸留水 29.5μl(全50μl)とした。KO1ベクターを導入した細胞のスクリーニングには、TP-F4とTHygro-R1、KO2ベクターを導入した細胞のスクリーニングには、TP-F4とTHygro-F1をPCRプライマーに用いた。
【0376】
KO1ベクターを導入した細胞のPCRは、95℃にて1分間の前加熱、95℃にて30秒間、60℃にて30秒間、及び60℃にて2分間の増幅サイクル40サイクル、並びに72℃にて7分の複加熱とした。KO2ベクターを導入した細胞のスクリーニングには95℃にて1分間の前加熱、95℃にて30秒間、及び70℃にて3分間の増幅サイクル40サイクル、並びに70℃にて7分の複加熱とした。
【0377】
プライマーは以下の通りで、相同組み換えを起こした細胞のサンプルでは、KO1ベクターでは、約1.6 kb、KO2ベクターでは約2.0 kbのDNAが増幅される。プライマーはTP-F4がベクターの外側で、かつ5’側のフコーストランスポーターのゲノム領域に設定し、THygro-F1、及びTHygro-R1はベクター内のHygrの中に設定した。
フォワードプライマー(KO1, KO2)
TP-F4 5’- GGAATGCAGCTTCCTCAAGGGACTCGC -3’(配列番号214)
リバースプライマー(KO1)
THygro-R1 5’- TGCATCAGGTCGGAGACGCTGTCGAAC -3’(配列番号215)
リバースプライマー(KO2)
THygro-F1 5’- GCACTCGTCCGAGGGCAAAGGAATAGC -3’(配列番号216)
【0378】
(5)PCRスクリーニング結果
KO1ベクターを導入した細胞は918個を解析し、そのうち相同組み換え体と考えられる細胞は1個であった(相同組み換え効率は約0.1%)。また、KO2ベクターを導入した細胞は537個を解析し、そのうち相同組み換え体と考えられる細胞は17個であった(相同組み換え効率は約3.2%)。
【0379】
(6)サザンブロット解析
さらに、サザンブロット法によっても確認を行った。培養した細胞から定法に従ってゲノムDNAを10μg調整し、サザンブロットを行った。配列番号210に示す塩基配列のNo.2,113-No.2,500 の領域から、以下の二種類のプライマーを用いてPCR法により387 bpのプローブを調整し、これをサザンブロット法による確認に用いた。ゲノムDNAはBgl IIで切断した。
フォワードプライマー
Bgl-F:5’- TGTGCTGGGAATTGAACCCAGGAC -3’(配列番号217)
リバースプライマー
Bgl-R:5’- CTACTTGTCTGTGCTTTCTTCC -3’(配列番号218)
【0380】
Bgl IIによる切断によって、フコーストランスポーターの染色体からは約3.0 kb、KO1ベクターで相同組み換えを起こした染色体からは約4.6 kb、KO2ベクターで相同組み換えを起こした染色体からは約5.0 kbのバンドがそれぞれ出現する。KO1ベクター、及びKO2ベクターによって相同組み換えを起こした細胞のそれぞれ1、7種類を実験に用いた。KO1ベクターで唯一獲得された細胞は5C1と名付けたが、その後の解析により複数の細胞集団から構成されることが明らかになったので、限界希釈によってクローン化し、その後の実験に用いることにした。また、KO2ベクターで獲得された細胞の一つを6E2と名付けた。
【0381】
(7)ノックアウトの第二段階
KO1ベクター、及びKO2ベクターによって相同組み換えが成功した細胞に対し、3種類のベクターを用いて、フコーストランスポーター遺伝子が完全に欠損した細胞株の樹立を試みた。ベクターと細胞の組み合わせは、以下の通りである。方法1:KO2ベクターと5C1細胞(KO1)、方法2:KO2ベクターと6E2細胞(KO2)、方法3:KO3ベクターと6E2細胞(KO2)。ベクターをそれぞれの細胞に導入し、ベクター導入から24時間後にハイグロマイシンB、ピューロマイシン(ナカライテスク)による選抜を開始した。ハイグロマイシンBは方法1では最終濃度が1 mg/ml、方法2では最終濃度が7 mg/mlになるようにした。さらに方法3では、ハイグロマイシンBの最終濃度が0.15 mg/ml、ピューロマイシンの最終濃度が8μg/mlになるように添加した。
【0382】
(8)PCRによる相同組み換え体のスクリーニング
サンプルの調製は前述の通り。方法1に関するスクリーニングは、前述のKO1ベクター、及びKO2ベクターで相同組み換えを起こした細胞を検出するPCRを両方行った。方法2に関しては、下記のPCRプライマーを設計した。配列番号210に示す塩基配列のNo.3,924-3,950の領域にTPS-F1を、No.4,248-4,274にSHygro-R1を設定した。このPCRプライマーによって、KO2ベクターにより欠損するフコーストランスポーターの遺伝子領域の350 bpが増幅される。従って、方法2におけるPCRスクリーニングにおいては、350 bpが増幅されないものを、フコーストランスポーター遺伝子が完全に欠損した細胞とみなすことにした。PCRの条件は、95℃にて1分間の前加熱、95℃にて30秒間、70℃にて1分間の増幅サイクル35サイクル、並びに70℃にて7分の複加熱とした。
フォワードプライマー
TPS-F1:5’- CTCGACTCGTCCCTATTAGGCAACAGC -3’(配列番号219)
リバースプライマー
SHygro-R1:5’- TCAGAGGCAGTGGAGCCTCCAGTCAGC -3’(配列番号220)
【0383】
方法3に関しては、フォワードプライマーにTP-F4、リバースプライマーにRSGR-Aを用いた。PCRの条件は、95℃にて1分間の前加熱、95℃にて30秒間、60℃にて30秒間、72℃にて2分間の増幅サイクル35サイクル、並びに72℃にて7分の複加熱とした。KO3ベクターによって相同組み換えを起こした細胞のサンプルでは、約1.6 kbのDNAが増幅される。このPCRでKO3ベクターによって相同組み換えを起こした細胞を検出するとともに、KO2ベクターでの相同組み換えが残っていることも確認した。
【0384】
(9)PCRスクリーニング結果
方法1では616個を解析し、そのうち相同組換体と考えられる細胞は18個であった(相同組換効率は2.9%)。方法2では524個を解析し、そのうち相同組換体と考えられる細胞は2個であった(相同組換効率は約0.4%)。さらに、方法3では382個を解析し、そのうち相同組換体と考えられる細胞は7個であった(相同組換効率は約1.8%)。
【0385】
(10)サザンブロット解析
前述の方法に準じて解析を行った。その結果、解析できた細胞のうち、フコーストランスポーターの遺伝子が完全に欠損している細胞を1つ見出した。第一段階のノックアウトでは、PCRとサザンブロットの解析結果が一致したが、この第二段階のノックアウトでは、一致しなかった。
【0386】
(11)フコースの発現解析
さらに、PCRで相同組み換え体と判断された26の細胞におけるフコースの発現を解析した。5μg/mlのLens culinaris Agglutinin, FITC Conjugate(ベクターラボラトリー)、2.5% のFBS、0.02%のアジ化ナトリウムを含むPBS(以下、FACS溶解液と称する)100μlで1×106個の細胞を氷冷中で1時間染色した。その後、FACS溶解液で細胞を3回洗浄してFACSCalibur(ベクトンディッキンソン)で測定を行った。その結果、サザンブロット解析でフコーストランスポーターの遺伝子が完全に欠損していると判断された細胞であるFTP-KO株のみ、フコースの発現が低下していることが明らかになった。
【0387】
[参考実施例23]FTP-KO株由来の抗体産生細胞の樹立と当該細胞により産生された抗体の精製
SFMII (+)培地にハイグロマイシンBの最終濃度が1 mg/mlになるように調製し、実施例2
1で得られたフコーストランスポーター欠損株(FT-KO細胞、クローン名 3F2)を継代した。8 x 106個の3F2を0.8 mlのダルベッコリン酸緩衝液に懸濁した。細胞懸濁液に25μgのヒト化グリピカン3抗体発現ベクターを加え、Gene Pulser Cuvetteに細胞懸濁液を移した。氷上で10分間放置した後に、GENE-PULSER IIで1.5 kV, 25μFDの条件で、エレクトロポレーション法によりベクターを細胞に導入した。ベクターを導入後、細胞をSFMII(+)培地40 mlに懸濁して96穴平底プレート(イワキ社)に100μl/ウェルで細胞を播きこんだ。プレートをCO2インキュベーター内で、24時間、37℃で培養した後、Geneticin(インビトロジェン)を終濃度0.5 mg/mlになるように添加した。薬剤に耐性になった細胞の抗体産生量を測定し、ヒト化グリピカン3抗体産生細胞株をそれぞれ樹立した。
【0388】
抗体発現株より培養上清が回収され、P-1ポンプ(Pharmacia)を用いてHitrap rProtein A (Pharmacia)カラムにアプライされた。カラムは結合バッファ(20 mM Sodium phosphate (pH 7.0))にて洗浄後、結合した抗体が溶出バッファ(0.1 M Glycin-HCl (pH 2.7))で溶出された。溶出液は直ちに中和バッファ(1M Tris-HCl(pH 9.0))で中和された。DC protein assay(BIO-RAD)により抗体の溶出画分が選択されプールした後、当該溶出画分はCentriprep-YM10(Millipore)にて2 ml程度まで濃縮された。次に、当該濃縮液は、150mM NaCl を含む20 mM 酢酸バッファ(pH 6.0)にて平衡化されたSuperdex200 26/60(Pharmacia)を用いたゲルろ過に供された。溶出液のモノマー画分のピークが回収され、当該画分がCentriprep-YM10にて濃縮された。当該濃縮液はMILLEX-GW 0.22μm Filter Unit(Millipore)を用いてろ過された後、4℃で保管された。精製された抗体の濃度は、280nmの波長で測定された吸光度に基づいて、モル吸光係数から換算して決定された。
【0389】
[参考実施例24]FT-KO細胞により産生されたヒト化抗グリピカン3抗体に結合する糖鎖の解析
(1)2-アミノベンズアミド標識糖鎖(2-AB化糖鎖)の調製
本発明のFT-KO細胞産生抗体、及び対照試料としてCHO細胞産生抗体に、N-Glycosidase F(Roche diagnostics)を作用させることによって、抗体に結合する糖鎖がタンパク質から遊離された(Weitzhandler M. et al., Journal of Pharmaceutical Sciences (1994) 83(12),,1670-5)。エタノールを用いた除タンパク質操作の後(Schenk B. et al., The Journal of Clinical Investigation (2001), 108(11), 1687-95)、遊離糖鎖が濃縮乾固され、次いで2-アミノピリジンによって蛍光標識が施された(Bigge J. C. et al., Analytical Biochemistry (1995) 230(2), 229-238)。得られた2-AB化糖鎖が、セルロースカートリッジを用いた固相抽出により脱試薬された後遠心分離により濃縮され、精製2-AB化糖鎖として以後の解析に供された。次に、β-Galactosidase(生化学工業)を精製2-AB化糖鎖に作用させることによって、アガラクトシル2-AB化糖鎖が調製された。
【0390】
(2)アガラクトシル2-AB化糖鎖の順相HPLCによる分析
前項の方法で、本発明のFT-KO細胞産生抗体、及び対照試料としてCHO細胞産生抗体から遊離された糖鎖を出発材料として調製されたアガラクトシル2-AB化糖鎖は、アミドカラムTSKgel Amide-80(東ソー)による順相HPLCによって分析され、そのクロマトグラムが比較された。CHO細胞産生抗体においてはG(0)がその糖鎖の主成分として存在しており、フコースの付加されていないG(0)-Fucはピーク面積比からの算出に基づき全糖鎖中4%程度存在すると見積もられた。一方,FT-KO細胞産生抗体においては、G(0)-Fucが主成分であり、いずれの産生株から産生された抗体においてもピーク面積比からの算出に基づけば全糖鎖中の90%以上がフコースの付加されていない糖鎖として存在していた。
【0391】
【0392】
[実施例25]ヒト化H0L0抗体およびその点変異改変抗体の安定性発現株の樹立
実施例21で記載された方法で作製されたH0L0抗体の改変抗体であるHspu2.2Lspu2.2(Hu2.2Lu2.2)抗体とHspd1.8Lspd1.6(Hd1.8Ld1.6)抗体、またはその改変に供したH0L0抗体をコードする遺伝子が発現ベクターにクローン化された。クローン化に際しては、抗体を構成するH鎖およびL鎖をコードする各遺伝子が発現されるように、H鎖およびL鎖をコードする各遺伝子がそれぞれ別の発現ベクターに挿入された。前記のようにH鎖およびL鎖をコードする各遺伝子が所望の組合せとなるように選択された二種類の発現ベクターがPvuIにて切断された後に、参考実施例22で作製されたFTP-KO株中へエレクトロポレーションを用いて導入された。
【0393】
エレクトロポレーションによるH0L0抗体およびその改変抗体を安定的に生産する形質導入株の作製はGene PulserII(Bio Rad社製)を用いて実施された。所望のH鎖およびL鎖を構成する組合せをもたらすH鎖、L鎖発現プラスミドDNAの各々10μgとPBSに懸濁されたCHO細胞(1x107細胞/ml)0.75mlが混合され、混合液が氷上で10分間静置された。混合液がGene PulserII用キュベットに移された後に1.5kV、25μFDの容量にて電気パルスが付与された。パルス付与された混合液は室温にて10分間静置された後に、CHO-S-SFMII / 1% HT / 1% PS培地に懸濁された。96ウエル培養用プレートの各ウエルに同培地で調製された5、10、50倍での各希釈懸濁液100μlが分注された。当該プレートは5%のCO2濃度に維持されたCO2インキュベーター中で24時間インキュベートされた。その後、Geneticin(GIBCO)を最終濃度500μg/ml、Zeocin(Invitrogen)を最終濃度600μg/mlになるように各ウエルに添加された当該プレートは更に2週間インキュベートされた。GeneticinおよびZeocin耐性を示す形質導入細胞のコロニーが、500μg/ml Geneticin(GIBCO)および600μg/ml Zeocin(Invitrogen)を含む同培地で継代されることによりさらに選抜された。前記の様に選抜された当該形質導入細胞の培養上清中の抗体濃度がBiacoreQ(BIACORE)を用いて評価されることによって、所望の抗体を高発現する形質導入株が樹立された。培養上清中の抗体濃度の測定はBiacoreQ(BIACORE)に添付された手順書に基づいて実施された。
【0394】
[実施例26]in vivoモデルを用いたヒト化H0L0抗体およびその点変異改変抗体の薬効試験
(1)in vivoモデルへの移植に供する細胞株の維持
Hep G2細胞(ATCC)が用いられた。Hep G2細胞は10%FBS、1 mmol/l MEM Sodium Pyruvate(Invitrogen)、1 mmol/l MEM Non-Essential Amino Acid(Invitrogen)を含むMinimun Essential Medium Eagle培地(SIGMA)(以下、継代用培地という。)中で継代されて維持された。
【0395】
(2)Hep G2細胞移植マウスモデルの作製
Hep G2細胞の細胞懸濁液が継代用培地とMATRIGEL Matrix(BD Bioscience)を1:1で含む溶液を用いて5x107細胞/mlになるように調製された。細胞の移植前日に、あらかじめ抗アシアロGM1抗体(和光純薬、1バイアル中の内容物が5 mlの当該溶液によって溶解された。)100μlが腹腔内へ投与されたSCIDマウス(オス、5週齢)(日本クレア)の腹部皮下へ当該細胞懸濁液100μl(5x106細胞/マウス)が移植された。腫瘍体積は、式:腫瘍体積=長径×短径×短径/2を用いて算出され、腫瘍体積の平均が130-330 mm3になった時点でモデルが成立したものと判断された。
【0396】
(3)各被験抗体を含む投与試料の調製
H0L0抗体、Hu2.2Lu2.2抗体、Hd1.8Ld1.6抗体の各抗体を含む投与試料が、その投与当日に生理食塩水を用いて、0.5 mg/ml(5 mg/kg投与群)または0.1 mg/ml(1 mg/kg投与群)となるように調製された。
【0397】
(4)抗体を含む投与試料の投与
(2)で作製されたマウスモデルに対するHep G2細胞の移植後27日から週に1回ずつ、3週間の期間で、上記(3)で調製された投与試料が10 ml/kgの投与量で尾静脈より投与された。陰性対照として、生理食塩水を同様に週に1回ずつ、3週間の期間で、10 ml/kgの投与量で尾静脈より投与された。いずれの群も、5匹を1群として、各群に対して各被験抗体を含む投与試料の投与が実施された。投与とほぼ同時に、各群のうち3匹の個体から、各抗体のマウス血中濃度を測定するために使用する被験物質として、その静脈血が採取された。具体的には、初回投与後0.5時間、二回目投与直前の二つのタイムポイントにおいて背中足静脈より採血が行われた。20μl容量の採血がヘパリン処理によって行われ、遠心分離によって血漿が調製された。
【0398】
(5)各被験抗体の抗腫瘍効果の評価
ヒト肝癌移植マウスモデルにおける各被験抗体の抗腫瘍効果が、投与試料の投与の最終日から一週間後の腫瘍体積を測定することによって評価された。その結果、
図55に示すとおり、Hspd1.8Lspd1.6(Hd1.8Ld1.6)抗体で薬効が強くなる傾向があり、Hspu2.2Lspu2.2(Hu2.2Lu2.2)抗体で薬効が弱くなる傾向があった。
【0399】
(6)各被験抗体の血中濃度
マウス血漿中の被験抗体の濃度が実施例21に記載されたELISA法に準じた方法によって測定された。血漿中濃度として12.8、6.4、3.2、1.6、0.8、0.4、0.2μg/mlの検量線試料が調製された。検量線試料および所望の濃度になる様に適宜希釈されたマウス血漿被験試料がsoluble Glypican-3 core(中外製薬社製)を固相化したイムノプレート(Nunc-Immuno Plate, MaxiSoup(Nalge nunc International))に分注され、当該プレートが室温で1時間静置された。その後、Goat Anti-Human IgG-BIOT(Southern Biotechnology Associates)およびStreptavidin-alkaline phosphatase conjugate(Roche Diagnostics)が順次分注され、BluePhos Microwell Phosphatase Substrates System(Kirkegaard & PerryLaboratories)を基質として用いた発色反応が行われた。各ウエル中の反応液の呈色がマイクロプレートリーダーを用いて反応液の650nmの吸光度を測定することによって算出された。各検量線試料の吸光度から作成された検量線に基づいて、解析ソフトウェアSOFTmax PRO(Molecular Devices)を用いてマウス血漿中の抗体濃度が算出された。
【0400】
投与30分および7日後のマウス血漿中濃度が
図56に示されている。被験抗体のいずれの投与量でも、被験抗体のpIがより低下していれば、投与7日後のマウス血漿中の抗体濃度が高くなることが示された。
【0401】
[実施例27]ヒト末梢血単核球をエフェクター細胞として用いた各被験抗体のADCC活性
ヒト末梢血単核球(以下、ヒトPBMCと指称する。)をエフェクター細胞として用いて各被験抗体のADCC活性が以下のように測定された。
【0402】
(1)ヒトPBMC溶液の調製
1000単位/mlのヘパリン溶液(ノボ・ヘパリン注5千単位,ノボ・ノルディスク)が予め200μl注入された注射器を用い、中外製薬株式会社所属の健常人ボランティア(成人男性)より末梢血50 mlが採取された。PBS(-)を用いて2倍に希釈された当該末梢血が4等分され、15 mlのFicoll-Paque PLUSが予め注入されて遠心操作が行なわれたLeucosepリンパ球分離管(Greiner bio-one)に加えられた。当該末梢血が分注された分離管が2150 rpmの速度によって10分間室温にて遠心分離の操作がされた後、単核球画分層が分取された。10%FBSを含むDulbecco’s Modified Eagle’s Medium(SIGMA)(以下10%FBS/D-MEMと称する。)によって1回当該各分層に含まれる細胞が洗浄された後、当該細胞が10%FBS/D-MEM中にその細胞密度が5x106/mlとなるように懸濁された。当該細胞懸濁液がヒトPBMC溶液として以後の実験に供された。
【0403】
(2)標的細胞の調製
Hep G2細胞がディッシュから剥離されて、1x104cells/ウエルとなるように96ウェルU底プレートに播種された。当該プレートは5%炭酸ガスインキュベーター中において37℃で一晩インキュベートされた。翌日、当該プレートの各ウェル中に5.55MBqのCr-51が加えられ、当該プレートは5%炭酸ガスインキュベーター中において37℃で3時間インキュベートされた。当該プレートの各ウエル中に存在するHep G2細胞が標的細胞として、以後のADCC活性の測定に際して用いられた。
【0404】
(3)クロム遊離試験(ADCC活性)
ADCC活性はクロムリリース法による特異的クロム遊離率にて評価される。(2)で調製された標的細胞が培地で洗浄され、各濃度(0、0.004、0.04、0.4、4、40 μg/ml)に調製されたH0L0抗体, Hu2.2Lu2.2抗体, Hd1.8Ld1.6抗体の各抗体100μlがそれぞれ添加された。当該プレートは、室温にて15分間反応された後に抗体溶液が除去された。次に、各ウエル中に継代用培地が各100μl添加された当該プレートは、5%炭酸ガスインキュベーター中において37℃で1時間インキュベートされた。各ウエル中に(1)で調製されたヒトPBMC溶液各100μl(5x105 細胞/ウェル)が加えられた当該プレートは、5%炭酸ガスインキュベーター中において37℃で4時間静置された後に、遠心分離操作された。当該プレートの各ウエル中の100μlの培養上清の放射活性がガンマカウンターを用いて測定された。下式:特異的クロム遊離率(%)=(A-C)×100/(B-C)
に基づいて特異的クロム遊離率が求められた。
【0405】
上式において、Aは各ウェル中の100μlの培養上清の放射活性(cpm)の平均値を表す。また、Bは標的細胞に100μlの2% NP-40水溶液(Nonidet P-40、ナカライテスク)および50μlの10% FBS/D-MEM培地を添加したウェル中の100μlの培養上清の放射活性(cpm)の平均値を表す。さらに、Cは標的細胞に10% FBS/D-MEM培地を150 μl添加したウェル中の100μlの培養上清の放射活性(cpm)の平均値を表す。試験はtriplicateにて実施され、各被験抗体のADCC活性が反映される前記試験における特異的クロム遊離率(%)の平均値および標準偏差が算出された。
【0406】
(4)各被験抗体のADCC活性の評価
各被験抗体を介してヒトPBMCが発揮するADCC活性が評価された結果、全ての被験抗体がADCC活性を有することが認められた。その結果が
図57に示されている。各濃度での各被験抗体が示す特異的クロム遊離率に対して有意差検定が行われた結果、全ての抗体濃度において各被験抗体が示す特異的クロム遊離率の各被験抗体間での有意な差が認められなかった。統計解析にはSAS前臨床パッケージ(SAS Institute Inc.)を用いられた。以上の結果に基づき、そのpIが改変された各被験抗体のADCC活性の間には差がないことが示された。
【0407】
〔実施例28〕抗ヒトIL-6レセプター抗体、抗ヒトGPC3抗体、抗ヒトIL-31レセプター抗体の作製
1 抗ヒトIL-6レセプター抗体の作製
抗ヒトIL-6レセプター抗体として、2種類の抗体を作製した。H鎖として6R_a_H1(配列番号:221)およびL鎖として6R_a_L1(配列番号:224)から構成される6R_a_H1L1、および、H鎖として6R_b_H1(配列番号:227)およびL鎖として6R_b_L1(配列番号:229)から構成される6R_b_H1L1を作製した。参考例1、2に従って、それぞれのアミノ酸配列をコードする動物細胞発現ベクターを作製し、発現、精製を行った。
【0408】
2 抗ヒトGPC3抗体の作製
抗ヒトGPC3抗体を作製した。H鎖としてGPC3_H1(配列番号:233)およびL鎖としてGPC3_L1(配列番号:236)から構成されるGPC3_ H1L1を作製した。参考例1、2に従って、それぞれのアミノ酸配列をコードする動物細胞発現ベクターを作製し、発現、精製を行った。
【0409】
3 抗ヒトIL-31レセプター抗体
抗ヒトIL-31レセプター抗体を作製した。H鎖として31R_H1(配列番号:239)およびL鎖として31R_L1(配列番号:242)から構成される31R_ H1L1を作製した。参考例1、2に従って、それぞれのアミノ酸配列をコードする動物細胞発現ベクターを作製し、発現、精製を行った。
【0410】
〔実施例29〕抗ヒトIL-6レセプター抗体、抗ヒトGPC3抗体、抗ヒトIL-31レセプター抗体のアミノ酸置換による等電点の低下
1 抗原への結合活性を減弱することなく等電点を低下させるCDR配列の探索
WO/2007/114319において、CDRにおけるアミノ酸置換による等電点の制御例が示されているが、H鎖CDR3にアミノ酸置換を行っており、H鎖CDR3は抗体の抗原への結合活性に大きく関与していることから、抗体の種類によっては同じ箇所のアミノ酸置換で抗原への結合活性を減弱することなく、等電点を低下させることはできないことが予想された。そこで、抗体の種類に関わらず、抗原への結合活性を減弱することなく等電点を低下させることが可能な候補CDR配列を探索した。その結果、H鎖可変領域においては、H31、H52、H61、H62、H64、H65が、L鎖可変領域においてはL24、L27、L27a、L53、L54、L55、L56(Kabatナンバリング)が、抗原への結合活性を減弱することなく等電点を低下させることが可能な候補CDR配列として挙げられた。そこで、以下に示す抗ヒトIL-6レセプター抗体、抗ヒトGPC3抗体、および、抗ヒトIL-31レセプター抗体において、それぞれこれらの候補CDR配列の幾つかについて、アミノ酸置換を行い、抗原への結合活性を減弱することなく等電点を低下させることが可能かどうかを検討した。
【0411】
2 等電点を低下させた抗ヒトIL-6レセプター抗体の作製、結合活性評価、および、等電点測定
抗ヒトIL-6レセプター抗体である6R_a_H1L1を構成する6R_a_H1(配列番号:221)および6R_a_L1(配列番号:224)に対して、それぞれ等電点を低下させるアミノ酸置換およびその他のアミノ酸置換を導入した6R_a_H2(配列番号:222)および6R_a_L2(配列番号:225)を、参考例1、2の方法に従って、ベクターを作製し、6R_a_H2L2の発現、精製を行った。6R_a_H2L2に対して、さらに等電点を低下させるアミノ酸置換およびその他のアミノ酸置換を導入した6R_a_H3(配列番号:223)および6R_a_L3(配列番号:226)を、参考例1の方法に従って、ベクターを作製し、6R_a_H3L3の発現、精製を行った。
6R_a_H1L1、6R_a_H2L2、6R_a_H3L3の抗原であるヒトIL-6レセプターに対する解離定数(KD)を参考例3に記載のBiacore T100による方法を用いて測定した。6R_a_H1L1、6R_a_H2L2、6R_a_H3L3の IL-6レセプターに対する解離定数(KD)は以下の表18に示すように同等であり、アミノ酸置換の導入により抗原への大幅な結合活性の低下は認められなかった。
【0412】
【0413】
当業者公知の等電点電気泳動により等電点を測定した結果、6R_a_H1L1の等電点は約9.2であったのに対して、等電点を低下させるアミノ酸置換を行った6R_a_H2L2の等電点は約6.1であり、6R_a_H3L3の等電点は約5.4であり、それぞれ6R_a_H1L1と比較して等電点が約3.1および約3.8低下した。また、可変領域VH/VLの理論等電点をGENETYX(GENETYX CORPORATION)により計算したところ、6R_a_H1L1の理論等電点は9.37であったのに対して、6R_a_H2L2の理論等電点は4.63であり、6R_a_H3L3の理論等電点は約4.27であり、それぞれ6R_a_H1L1と比較して理論等電点が4.74および5.10低下した。これらの結果を表19にまとめた。
【0414】
【0415】
以下の表20に6R_a_H1L1に対して導入したCDR配列のアミノ酸置換をまとめた。これらのCDRのアミノ酸置換は、抗ヒトIL-6レセプター抗体である6R_a_H1L1に対して、抗原に対する結合活性を大幅に低下させること無く、抗体分子の等電点を低下させることが可能であることを見出した。
【0416】
【0417】
続いて、別の抗ヒトIL-6レセプター抗体である6R_b_H1L1を構成する6R_b_H1(配列番号:227)および6R_b_L1(配列番号:229)に対して、それぞれ等電点を低下させるアミノ酸置換およびその他のアミノ酸置換を導入した6R_b_H2(配列番号:228)および6R_b_L2(配列番号:230)を、参考例1、2の方法に従って、ベクターを作製し、6R_b_H2L2の発現、精製を行った。6R_b_H2L2に対して、さらに等電点を低下させるアミノ酸置換およびその他のアミノ酸置換を導入した6R_b_L3(配列番号:231)および6R_b_L4(配列番号:232)を、参考例1の方法に従って、ベクターを作製し、6R_b_H2L3、6R_b_H2L4の発現、精製を行った。
6R_b_H1L1、6R_b_H2L2、6R_a_H2L3、6R_b_H2L4の抗原であるヒトIL-6レセプターに対する中和活性の測定を参考例4に示す方法で行った。6R_b_H1L1、6R_b_H2L2、6R_a_H2L3、6R_b_H2L4の中和活性は
図58に示すようにほぼ同等であり、アミノ酸置換の導入により抗原への大幅な結合活性の低下は認められなかった。
【0418】
当業者公知の等電点電気泳動により等電点を測定した結果、6R_b_H1L1の等電点は約9.3であったのに対して、等電点を低下させるアミノ酸置換を行った6R_b_H2L2の等電点は約5.9であり、6R_b_H1L1と比較して等電点が約3.4低下した。また、可変領域VH/VLの理論等電点をGENETYX(GENETYX CORPORATION)により計算したところ、6R_b_H1L1の理論等電点は9.20であったのに対して、6R_b_H2L2の理論等電点は4.52であり、6R_b_H2L3の理論等電点は約4.46であり、6R_b_H2L4の理論等電点は約4.37であり、それぞれ6R_b_H1L1と比較して理論等電点が4.68、4.74、および、4.83低下した。これらの結果を表21にまとめた。
【0419】
【0420】
以下の表22に6R_b_H1L1に対して導入したCDR配列のアミノ酸置換をまとめた。これらのCDRのアミノ酸置換は、抗ヒトIL-6レセプター抗体である6R_b_H1L1に対して、抗原に対する結合活性を大幅に低下させること無く、抗体分子の等電点を低下させることが可能であることを見出した。
【0421】
【0422】
3 等電点を低下させた抗ヒトGPC3抗体の作製、結合活性評価、および、等電点測定
抗ヒトGPC3抗体であるGPC3_H1L1を構成するGPC3_H1(配列番号:233)およびGPC3_L1(配列番号:236)に対して、それぞれ等電点を低下させるアミノ酸置換およびその他のアミノ酸置換を導入したGPC3_H2(配列番号:234)およびGPC3_L2(配列番号:237)を、参考例1、2の方法に従って、ベクターを作製し、GPC3_H2L2の発現、精製を行った。GPC3_H2L2に対して、さらに等電点を低下させるアミノ酸置換およびその他のアミノ酸置換を導入したGPC3_H3(配列番号:235)およびGPC3_L3(配列番号:238)を、参考例1の方法に従って、ベクターを作製し、GPC3_H3L3の発現、精製を行った。
GPC3_H1L1、GPC3_H2L2、GPC3_H3L3の抗原であるヒトGPC3に対する結合活性を参考例5に記載した競合ELISAによる方法を用いて評価し、その結果を
図59および
図60に示した。GPC3-H1L1とGPC3-H2L2およびGPC3-H2L2とGPC3-H3L3のグリピカン3に対する結合活性はほぼ同等であり、アミノ酸置換の導入による抗原への大幅な結合活性の低下は認められなかった。
【0423】
当業者公知の等電点電気泳動により等電点を測定した結果、GPC3_H1L1の等電点は約9.6であったのに対して、等電点を低下させるアミノ酸置換を行ったGPC3_H2L2の等電点は約8.9であり、GPC3_H2L2の等電点はGPC3_H1L1の等電点と比較して、0.7低下した。同様にGPC3_H2L2の等電点は約8.7であったのに対して、等電点を低下させるアミノ酸置換を行ったGPC3_H3L3の等電点は約6.5であり、GPC3_H3L3の等電点はGPC3_H2L2の等電点と比較して、2.2低下した。また、GPC3_H1L1の理論等電点は9.65であったのに対して、GPC3_H2L2の理論等電点は8.47であり、GPC3_H2L2の理論等電点はGPC3_H1L1と比較して、1.18低下した。同様に GPC3_H2L2の理論等電点は8.47であったのに対して、GPC3_H3L3の理論等電点は4.93であり、GPC3_H2L2の理論等電点はGPC3_H1L1と比較して、3.54低下した。これらの結果を表23にまとめた。
【0424】
【0425】
以下の表24にGPC3_H1L1に対して導入したCDR配列のアミノ酸置換をまとめた。これらのCDRのアミノ酸置換は、抗ヒトGPC3抗体であるGPC3_H1L1に対して、抗原に対する結合活性を大幅に低下させること無く、抗体分子の等電点を低下させることが可能であることを見出した。
【0426】
【0427】
4 等電点を低下させた抗ヒトIL-31レセプター抗体、結合活性評価、および、等電点測定
31R_H1L1を構成する31R_H1(配列番号:239)および31R_L1(配列番号:242)に対して、それぞれ等電点を低下させるアミノ酸置換およびその他のアミノ酸置換を導入した31R_H2(配列番号:240)および31R_L2(配列番号:243)を、参考例1、2の方法に従って、ベクターを作製し、31R_H2L2の発現、精製を行った。31R_H2L2に対して、さらに等電点を低下させるアミノ酸置換およびその他のアミノ酸置換を導入した31R_H3(配列番号:241)を、参考例1の方法に従って、ベクターを作製し、31R_H3L2の発現、精製を行った。
31R_H2L2、31R_H3L2のIL-31に対する結合活性を参考例6に記載したBiacoreによる方法を用いてAffinityを評価し、その結果を表25にまとめた。表25に示すように31R_H2L2、31R_H3L2は31R_H1L1のNR10に対する結合活性はほぼ同等であり、アミノ酸置換の導入による抗原への大幅な結合活性の低下は認められなかった。
【0428】
【0429】
当業者公知の等電点電気泳動により等電点を測定した結果、31R_H1L1の等電点は約7.76であったのに対して、等電点を低下させるアミノ酸置換を行った31R _H2L2の等電点は約5.49であり、31R _H3L2の等電点は約5.43であり、それぞれ31R _H1L1と比較して等電点が約2.27および約2.33低下した。また、31R _H1L1の理論等電点は7.76であったのに対して、31R _H2L2の理論等電点は4.63であり、31R _H3L2の理論等電点は約4.54であり、それぞれ31R _H1L1と比較して理論等電点が約3.13および約3.22低下した。これらの結果を表26にまとめた。
【0430】
【0431】
以下の表27に31R_H1L1に対して導入したCDR配列のアミノ酸置換をまとめた。これらのCDRのアミノ酸置換は、抗ヒトIL-31レセプター抗体である31R_H1L1に対して、抗原に対する結合活性を大幅に低下させること無く、抗体分子の等電点を低下させることが可能であることを見出した。
【0432】
【0433】
5 抗原に対する結合活性を減弱することなく抗ヒトIL-6レセプター抗体、抗ヒトGPC3抗体、抗ヒトIL-31レセプター抗体の等電点を低下することができたCDR配列
上記検討において作製した2種類の抗ヒトIL-6レセプター抗体(6R_aおよび6R_b)、抗ヒトGPC3抗体(GPC3)、抗ヒトIL-31レセプター抗体(31R)のH鎖CDR配列を表28に、L鎖CDR配列を表29にまとめた。抗原に対する結合活性を減弱することなく等電点を低下することができたアミノ酸置換を塗りつぶして表示した。
【0434】
【0435】
【0436】
これより、H鎖可変領域においてH31、H61、H62、H64、H65、L鎖可変領域においてはL24、L27、L53、L54、L55(Kabatナンバリング)は、抗体の種類に依存せず、複数の抗体において抗体の抗原への結合活性を大幅に減弱させることなく抗体の等電点を低下させるアミノ酸置換を導入することが可能な共通のCDR箇所であることが見出された。
【0437】
WO/2007/114319において、抗体の等電点を低下させることでIgGの薬物動態を向上することが可能であることが示されている。WO/2007/114319においては、抗原への結合活性を減弱させないため、主に抗体可変領域のフレームワークに対するアミノ酸置換を行っており、抗FactorIXa抗体については実測等電点として約0.9の変化、理論等電点としては約1.0の変化であり、抗FactorX抗体については実測等電点として約0.5の変化、理論等電点としては約0.1の変化であり、等電点の変化の度合いは小さかった。
【0438】
本発明において、抗原への結合活性を減弱させないCDR配列を見出し、抗体可変領域のフレームワークのみならずCDRにも等電点を低下させるアミノ酸置換を導入することが可能になった。それにより、上述の抗ヒトIL-6レセプター抗体においては、実測等電点として約3.8の低下、理論等電点としては約5.1の低下を達成し、抗ヒトGPC3抗体においては、実測等電点として約3.1の低下、理論等電点としては約4.7の低下を達成し、抗ヒトIL-31レセプター抗体においては、実測等電点として約3.2の低下、理論等電点としては約2.3の低下を達成し、フレームワークのみに対するアミノ酸置換と比較して大幅な等電点の低下を達成可能であることを見出した。
【0439】
〔実施例30〕等電点を低下させた抗ヒトIL-6レセプター抗体、抗ヒトGPC3抗体、抗ヒトIL-31レセプター抗体の薬物動態の評価
1 カニクイザルおよびマウスにおける抗ヒトIL-6レセプター抗体の薬物動態の評価
抗ヒトIL-6レセプター抗体である6R_a_H1L1、および等電点を低下させた抗ヒトIL-6レセプター抗体である6R_a_H2L2と6R_a_H3L3のカニクイザルにおける薬物動態を評価した。6R_a_H1L1と6R_a_H2L2をそれぞれ1.0mg/kgで静脈内に単回投与し、投与前および投与後に経時的に採血した。また、6R_a_H2L2と6R_a_H3L3をそれぞれ1.0mg/kgで皮下に単回投与し、投与前および投与後に経時的に採血した。
【0440】
血漿中濃度測定はELISA法にて測定した。適当な濃度の検量線試料および血漿測定試料をAnti-human IgG(γ-chain specific) F(ab')2(Sigma社製)で固相化したイムノプレート(Nunc-Immuno Plate,MaxiSorp(Nalge nunc International社製))に分注し、室温で1時間静置後、Goat Anti-Human IgG-BIOT(Southern Biotechnology Associates社製)およびStreptavidin-alkaline phosphatase conjugate (Roche Diagnostics社製)を順次反応させ、BluePhos Microwell Phosphatase Substrates System(Kirkegaard & Perry Laboratories社製)を基質として用い発色反応を行い、マイクロプレートリーダーにて650 nmの吸光度を測定した。血漿中濃度は検量線の吸光度から解析ソフトウェアSOFTmax PRO(Molecular Devices社製)を用いて算出した。得られた血漿中濃度推移のデータを薬物動態解析ソフトWinNonlin(Pharsight社製)で非モデル依存的解析を行いクリアランス(CL)、を算出し表30に示した。静脈内投与の6R_a_H1L1と6R_a_H2L2を比較した場合、等電点を低下させた6R_a_H2L2はクリアランスが小さく、等電点を低下させることで薬物動態が向上することが確認された。さらに皮下投与の6R_a_H2L2と6R_a_H3L3を比較した場合、等電点を低下させた6R_a_H3L3はクリアランスが小さく、等電点を低下させることで薬物動態が向上することが確認された。
【0441】
【0442】
続いて異なる抗ヒトIL-6レセプター抗体である6R_b_H1L1、および等電点を低下させた抗ヒトIL-6レセプター抗体である6R_b_H2L2のマウス(C57BL/6J、日本チャールズリバー)における薬物動態を評価した。6R_b_H1L1と6R_b_H2L2をそれぞれ1.0mg/kgで静脈内に単回投与し、投与前および投与後に経時的に採血した。また、6R_b_H1L1と6R_b_H2L2をそれぞれ1.0mg/kgで皮下に単回投与し、投与前および投与後に経時的に採血した。
血漿中濃度測定はELISA法にて測定した。まずRecombinant Human IL-6 sR (R&D Systems社製) をEZ-LinkTM Sulfo-NFS-Biotinylation Kit (PIERCE社製) を用いてBiotin化した。このBiotin化human-sIL-6RをReacti-Bind Streptavidin High Binding Capacity (HBC) Coated Plates (PIERCE社製)に分注し、室温で1時間以上静値しhuman-sIL-6R固相化プレートを作成した。適当な濃度の検量線試料とマウス血漿測定試料を調製し、human-sIL-6R固相化プレートに分注し室温で1時間静置した。その後Anti-human IgG-AP (SIGMA社製)を反応させ、BluePhos Microwell Phosphatase Substrates System(Kirkegaard & Perry Laboratories社製)を基質として用い発色反応を行い、マイクロプレートリーダーにて650 nmの吸光度を測定した。血漿中濃度は検量線の吸光度から解析ソフトウェアSOFTmax PRO(Molecular Devices社製)を用いて算出した。得られた血漿中濃度推移のデータを薬物動態解析ソフトWinNonlin(Pharsight社製)で非モデル依存的解析を行いクリアランス(CL)、を算出し表31に示した。静脈内および皮下投与の6R_a_H1L1と6R_a_H2L2を比較した場合、共に等電点を低下させた6R_a_H2L2はクリアランスが小さく、等電点を低下させることで薬物動態が向上することが確認された。
【0443】
【0444】
2 マウスにおける抗ヒトGPC3抗体の薬物動態の評価
抗ヒトGPC3抗体であるGPC3_H1L1、および等電点を低下させた抗ヒトGPC3抗体であるGPC3_H2L2とGPC3_H3L3のC.B-17/Icr-scidマウスにおける薬物動態を評価した。GPC3_H1L1、GPC3_H2L2、GPC3_H3L3をそれぞれ5.0mg/kgで静脈内に単回投与し、投与前および投与後に経時的に採血した。
血漿中濃度測定はELISA法にて測定した。適当な濃度の検量線試料および所望の濃度になる様に適宜希釈されたマウス血漿被験試料が抗原であるGPC3(中外製薬社製)を固相化したイムノプレート(Nunc-Immuno Plate, MaxiSoup(Nalge nunc International))に分注され、当該プレートが室温で1時間静置された。その後、Goat Anti-Human IgG-BIOT(Southern Biotechnology Associates)およびStreptavidin-alkaline phosphatase conjugate(Roche Diagnostics)が順次分注され、BluePhos Microwell Phosphatase Substrates System(Kirkegaard & Perry Laboratories社製)を基質として用い発色反応を行い、マイクロプレートリーダーにて650 nmの吸光度を測定した。血漿中濃度は検量線の吸光度から解析ソフトウェアSOFTmax PRO(Molecular Devices社製)を用いて算出した。得られた血漿中濃度推移のデータを薬物動態解析ソフトWinNonlin(Pharsight社製)で非モデル依存的解析を行いクリアランス(CL)、を算出し表32に示した。GPC3_H1L1とGPC3_H2L2を比較した場合、等電点を低下させたGPC3_H2L2はクリアランスが小さく、さらにGPC3_H2L2とGPC3_H3L3を比較した場合、さらに等電点を低下させたGPC3_H3L3がクリアランスが小さく、等電点を低下させることで薬物動態が向上することが確認された。
【0445】
【0446】
3 マウスにおける抗ヒトIL-31レセプター抗体の薬物動態の評価
抗ヒトIL-31レセプター抗体である31R _H1L1、および等電点を低下させた抗ヒトIL-31レセプター抗体である31R_H2L2のマウス(C57BL/6J、日本チャールズリバー)における薬物動態を評価した。31R _H1L1と31R _H2L2をそれぞれ1.0mg/kgで静脈内に単回投与し、投与前および投与後に経時的に採血した。
【0447】
血漿中濃度測定はELISA法にて測定した。適当な濃度の検量線試料および血漿測定試料をAnti-human IgG(Fc-specific) antibody (Sigma社製)で固相化したイムノプレート(Nunc-Immuno Plate,MaxiSorp(Nalge nunc International社製))に分注し、室温で1時間静置後した。Goat Anti-Human IgG-ALP(Sigma社製)を室温で1時間反応させた後、BluePhos Microwell Phosphatase Substrates System(Kirkegaard & Perry Laboratories社製)を基質として用い発色反応を行い、マイクロプレートリーダーにて650 nmの吸光度を測定した。血漿中濃度は検量線の吸光度から解析ソフトウェアSOFTmax PRO(Molecular Devices社製)を用いて算出した。
【0448】
得られた血漿中濃度推移のデータを薬物動態解析ソフトWinNonlin(Pharsight社製)で非モデル依存的解析を行いクリアランス(CL)を算出し表33に示した。31R_H1L1と31R_H2L2を比較した場合、等電点を低下させた31R_H2L2はクリアランスが小さく、等電点を低下させることで消失速度が小さくなることが確認された。
【0449】
【0450】
3 結論
本発明においては、我々は、抗原の種類の異なる複数の抗体においてCDR配列のアミノ酸置換により抗体の抗原への結合活性を減弱させることなく、抗体の等電点を低下させ、抗体の薬物動態を向上することが可能であることを見出した。見出したCDR配列のアミノ酸置換のうち、H鎖可変領域においてH31、H61、H62、H64、H65、L鎖可変領域においてはL24、L27、L53、L54、L55(Kabatナンバリング)は、抗体の種類に依存せず、複数の抗体において、抗体の抗原への結合活性を大幅に減弱させることなく抗体の等電点を低下させるアミノ酸置換を導入し、薬物動態を向上させることが可能なCDR配列のアミノ酸置換であることを見出した。CDR配列中のこれらの変異箇所は、抗原の種類に関わらず、抗体の抗原への結合活性を大幅に減弱させることなく抗体の等電点を低下させることが可能であると考えられ、抗体の薬物動態を向上させるアミノ酸置換部位として有用であると考えられた。
【0451】
〔実施例31〕等電点を低下させた抗ヒトIL-6レセプター抗体、抗ヒトGPC3抗体、抗ヒトIL-31レセプター抗体のヘテロダイマーとホモダイマーの標準的なクロマトグラフィーによるピーク分離
1 抗Factor IX抗体/抗Factor X抗体のヘテロダイマーの発現
特許文献WO/2007/114325に共通のL鎖を有するIgG型の2重特異性抗体の精製法に関して報告されている。共通のL鎖を有するIgG型の2重特異性抗体を発現させるためには、2種類のH鎖(A鎖とB鎖)と共通のL鎖を発現させる必要がある。この時、目的の二重特異性抗体であるA鎖B鎖ヘテロダイマーのみならず、A鎖ホモダイマーおよびB鎖ホモダイマーが発現され、3種類の抗体の混合物から目的の二重特異性抗体であるA鎖B鎖ヘテロダイマーを精製する必要がある。同特許には、従来の方法では標準的なクロマトグラフィーによりA鎖B鎖ヘテロダイマー、A鎖ホモダイマーおよびB鎖ホモダイマーをピーク分離し、A鎖B鎖ヘテロダイマーを精製することは不可能であったが、2種類のH鎖であるA鎖とB鎖の可変領域のアミノ酸を置換することでA鎖ホモダイマーとB鎖ホモダイマーに等電点の差を導入することにより、標準的なクロマトグラフィーである陽イオン交換クロマトグラフィーによりA鎖B鎖ヘテロダイマー、A鎖ホモダイマーおよびB鎖ホモダイマーをピーク分離し、A鎖B鎖ヘテロダイマーを精製することが可能になったことが示されている。同特許のおいては、可変領域のアミノ酸として、CDRのアミノ酸置換は抗体の抗原に対する結合活性に影響すると考えられていたことから、フレームワークのアミノ酸置換しか行われていなかった。しかしながら、上述のとおり、フレームワークのアミノ酸置換では大幅な等電点の変化を導入することができず、A鎖B鎖ヘテロダイマーをより効率的に精製するためには、A鎖ホモダイマーとB鎖ホモダイマーにより大きな等電点の差を導入することが望ましい。そこで、実施例28で見出された抗体の抗原への結合活性を大幅に減弱させることなく抗体の等電点を低下させるCDRにおけるアミノ酸置換を導入することで、A鎖B鎖ヘテロダイマー、A鎖ホモダイマーおよびB鎖ホモダイマーをピーク分離することが可能であるかどうかを検討した。
【0452】
2 抗ヒトIL-6レセプター抗体/pI低下抗ヒトIL-6レセプター抗体のヘテロダイマーの発現
A鎖として6R_a_H1(配列番号:221)、B鎖として抗原への結合活性を減弱させることなく等電点を低下させA鎖と等電点に差を導入した6R_a_H3(配列番号:223)、および共通L鎖として6R_a_L3(配列番号:226)を用いて、参考例2に示した方法で、6R_a_H1H3L3(A鎖B鎖ヘテロダイマー(6R_a_H1/H3/L3)、A鎖ホモダイマー(6R_a_H1/L3)およびB鎖ホモダイマー(6R_a_H3/L3)の混合物)の発現・精製を行った。
【0453】
3 抗ヒトGPC3抗体/pI低下抗ヒトGPC3抗体のヘテロダイマーの発現
A鎖としてGPC3_H2(配列番号:234)、B鎖として抗原への結合活性を減弱させることなく等電点を低下させA鎖と等電点に差を導入したGPC3_H3(配列番号:235)、および共通L鎖としてGPC3_L3(配列番号:238)を用いて、参考例2に示した方法で、GPC3_H2H3L3(A鎖B鎖ヘテロダイマー(GPC3_H2/H3/L3)、A鎖ホモダイマー(GPC3_H2/L3)およびB鎖ホモダイマー(GPC3_H3/L3)の混合物)の発現・精製を行った。
【0454】
4 抗ヒトIL-31レセプター抗体/pI低下抗ヒトIL-31レセプター抗体のヘテロダイマーの発現
A鎖として31R_H1の定常領域を変えた31R_H1a(配列番号:244)、B鎖として抗原への結合活性を減弱させることなく等電点を低下させA鎖と等電点に差を導入した31R_H2の定常領域を同様に変えた31R_H2a(配列番号:245)、および共通L鎖として31R_L2(配列番号:243)を用いて、参考例2に示した方法で、31R_H1aH2aL2(A鎖B鎖ヘテロダイマー(31R_H1a/H2a/L2)、A鎖ホモダイマー(31R_H1a/L2)およびB鎖ホモダイマー(31R_H2a/L2)の混合物)の発現・精製を行った。
【0455】
5 陽イオン交換クロマトグラフィーによる発現抗体の評価
上記で作製した抗体のA鎖ホモダイマーとB鎖ホモダイマーのVH/VLの理論等電点の差を、以下の表34にまとめた。H鎖のフレームワークのみならず、CDR配列にも結合活性を保持したまま等電点を低下させるアミノ酸置換を導入することで、A鎖ホモダイマーのB鎖ホモダイマーの理論等電点に最大1.56の差を導入することが可能になった。特許文献WO/2007/114325において、A鎖ホモダイマーのフレームワークのみにアミノ酸置換を導入するにより等電点を低下させ、且つ、B鎖ホモダイマーのフレームワークのみにアミノ酸置換を導入により等電点を増大させることで、A鎖ホモダイマーとB鎖ホモダイマーのVH/VLの理論等電点に1.13の差を導入できることが示されている。本検討においては、一方の鎖だけにアミノ酸置換を実施した(等電点を低下させた)にも関わらず、フレームワークのみならずCDR配列にもアミノ酸置換を導入したことにより、理論等電点に最大1.56の差を導入することが可能であることが示された。すなわち、A鎖ホモダイマーとB鎖ホモダイマーを分離するためのアミノ酸置換として、結合活性を保持したままフレームワークのみならずCDR配列にもアミノ酸置換を導入することで、両者の等電点の差をさらに増大させることで可能であることが示された。一般的に標準的なイオン交換クロマトグラフィーによる分離は分離したい2成分の等電点の差に依存することから、これにより両者をより容易に分離することが可能になると考えられた。
【表34】
6R_a_H1H3L3、GPC3_H2H3L3、および、31R_H1aH2aL2それぞれのA鎖B鎖ヘテロダイマー、A鎖ホモダイマーおよびB鎖ホモダイマーが、陽イオン交換クロマトグラフィーによりピーク分離可能であるかどうかを評価した。標準的な陽イオン交換クロマトグラフィーのカラムとしてProPac WCX-10 (Dionex)を用い、移動相Aとして25 MES, pH5.0、移動相Bとして25 mM MES, 1 M NaCl, pH5.0を使用し、適切な流量およびグラジエントを用いて実施した。陽イオン交換クロマトグラフィーによる評価を行った結果を
図61に示した。その結果、6R_a_H1H3L3、GPC3_H2H3L3、および、31R_H1aH2aL2のいずれにおいても、A鎖B鎖ヘテロダイマー、A鎖ホモダイマーおよびB鎖ホモダイマーのピークが分離することが見出された。
【0456】
H鎖可変領域においてH31、H61、H62、H64、H65(Kabatナンバリング)は、抗体の種類に依存せず、同一箇所のアミノ酸置換により抗体の抗原への結合活性を大幅に減弱させることなく抗体の等電点を低下させることが可能であり、それによりヘテロダイマーとホモダイマーを陽イオン交換クロマトグラフィーによる分離を可能になることが見出された。CDR配列中のこれらの変異箇所は、抗原の種類に関わらず、抗体の抗原への結合活性を大幅に減弱させることなく抗体の等電点を低下させることが可能であると考えられ、二重特異性抗体のヘテロダイマーとホモダイマー間の等電点の違いを増大するためのアミノ酸置換部位として有用である。
【0457】
〔参考例1〕
抗体発現ベクター遺伝子の作製
各変異体の作製はQuikChange Site-Directed Mutagenesis Kit (Stratagene)、またはPCRを用いたAssemble PCRを行うことによって行われた。QuikChange Site-Directed Mutagenesis Kit (Stratagene)を用いた場合は添付説明書の方法で変異体を作成した。Assemble PCRを用いて行う方法は、以下のいずれかの方法を用いて行われた。1つ目の方法は改変部位を含む順鎖および逆鎖の配列に基づいて設計したオリゴDNAの合成を行う。改変部位を含む順鎖のオリゴDNAと改変を行う遺伝子が挿入されているベクターに結合する逆鎖のオリゴDNA、改変部位を含む逆鎖のオリゴDNAと改変を行う遺伝子が挿入されているベクターに結合する順鎖のオリゴDNA をそれぞれ組み合わせ、PrimeSTAR(TAKARA)を用いてPCRを行うことによって、改変部位を含む断片を5末端側と3末端側の2つを作製した。その2つの断片をAssemble PCRによりつなぎ合わせることによって、各変異体を作製した。2つの方法は可変領域全体をカバーするようにオリゴDNAを適当本数作成し、それらのオリゴDNAをAssemble PCRを用いてつなぎ合わせるこちによって、可変領域全体を作製した。これらの方法によって作製された変異体を動物細胞において挿入遺伝子を発現可能ならしめる発現ベクターに挿入し、得られた発現ベクターの塩基配列は当業者公知の方法で決定した。
【0458】
〔参考例2〕
抗体の発現および精製
抗体の発現は以下の方法を用いて行った。ヒト胎児腎癌細胞由来HEK293H株(Invitrogen)を10 % Fetal Bovine Serum (Invitrogen)を含むDMEM培地(Invitrogen)へ懸濁し、5~6 × 105個/mLの細胞密度で接着細胞用ディッシュ(直径10 cm, CORNING)の各ディッシュへ10 mLずつ蒔きこみCO2インキュベーター(37℃、5% CO2)内で一昼夜培養した後に、培地を吸引除去し、CHO-S-SFM-II(Invitrogen)培地6.9 mLを添加した。調製したプラスミドをlipofection法により細胞へ導入した。得られた培養上清を回収した後、遠心分離(約2000 g、5分間、室温)して細胞を除去し、さらに0.22μmフィルターMILLEX(R)-GV(Millipore)を通して滅菌して培養上清を得た。得られた培養上清にrProtein A SepharoseTM Fast Flow(Amersham Biosciences)を用いて当業者公知の方法で精製した。精製抗体濃度は、分光光度計を用いて280 nmでの吸光度を測定した。得られた値からPACE法により算出された吸光係数を用いて抗体濃度を算出した(Protein Science 1995 ; 4 : 2411-2423)。
【0459】
〔参考例3〕
抗ヒトIL-6レセプター抗体のBiacoreによるIL-6レセプターへの親和性評価方法
1.可溶型ヒトIL-6レセプターの調製
抗原であるヒトIL-6レセプターの組み換えヒトIL-6レセプターは以下のように調製した。J.Biochem. 108, 673-676 (1990)で報告されているN末端側1番目から344番目のアミノ酸配列からなる可溶型ヒトIL-6レセプター(Yamasakiら、Science 1988;241:825-828 (GenBank # X12830))のCHO細胞定常発現株を作製した。可溶型ヒトIL-6レセプター発現CHO細胞から得られた培養上清から、Blue Sepharose 6 FFカラムクロマトグラフィー、可溶型ヒトIL-6レセプターに対する特異抗体を固定したカラムによるアフィニティクロマトグラフィー、ゲルろ過カラムクロマトグラフィーの3つのカラムクロマトグラフィーにより、可溶型ヒトIL-6レセプターを精製した。メインピークとして溶出した画分を最終精製品とした。
【0460】
2.Biacoreによる可溶型ヒトIL-6レセプターへの親和性評価
Biacore T100 (GEヘルスケア バイオサイエンス) を用いて、抗ヒトIL-6レセプター抗体と可溶型ヒトIL-6レセプターの抗原抗体反応の速度論的解析を行った。当業者公知の方法で、センサーチップ上に rec-Protein A (ZYMED) (以下、Protein A)を固定化し、この固定化Protein Aに抗体を捕捉し、さらに抗原をアナライトとして反応させ、抗体と抗原の相互作用を測定した。ランニングバッファーには HBS-EP+ を用い、流速は 20 μL/minとした。各抗体は Protein A/G に約 100 RU 結合するよう調製した。アナライトとして用いた可溶型ヒトIL-6レセプター は HBS-EP+ を用いて 0、0.065、0.131、0.261 μg/mL に調整した。測定はまず抗体溶液をProtein A/G に結合させ、そこへアナライト溶液を 3 分間相互作用させ、その後 HBS-EP+ に切り替え 10もしくは 15 分間解離相を測定した。解離相の測定終了後、10 μL の 10 mM glycine-HCl (pH1.5) で洗浄し、センサーチップを再生した。この結合・解離・再生を分析の 1 サイクルとした。各種抗体についてこのサイクルに従って測定を行った。得られたセンサーグラムをBiacore 専用のデータ解析ソフトウェアである Biacore T100 Evaluation Software (GEヘルスケア バイオサイエンス)を用いて速度論的な解析を行った。
【0461】
〔参考例4〕
抗ヒトIL-6レセプター抗体のBaF/6R細胞によるIL-6レセプター中和活性評価方法
IL-6依存増殖性を示す細胞株を得るために、以下に示すとおり、ヒトgp130およびヒトIL-6Rを発現したBaF3細胞株の樹立を行った。 全長ヒトIL-6R cDNAをPCRにより増幅し、pcDNA3.1(+)(Invitrogen)にクローニングし、hIL-6R/pcDNA3.1(+)を構築した。pCOS2Zeo/gp130をエレクトロポレーション処理によりBaF3細胞に遺伝子導入し、human interleukin-6(R&D systems)、100 ng/mLのhuman interleukin-6 soluble receptor(R&D systems)存在下で選抜し、ヒトgp130発現BaF3細胞株(以下、BaF/gp130)を樹立した。さらに全長ヒトIL-6R cDNAをPCRにより増幅し、pcDNA3.1(+)(Invitrogen)にクローニングし、hIL-6R/pcDNA3.1(+)を構築した。 pcDNA3.1(+)/hIL-6Rをエレクトロポレーション処理により上記で作製したBaF/gp130細胞に遺伝子導入し、human interleukin-6(R&D systems)存在下で選抜し、ヒトIL-6R発現BaF3細胞株(以下、BaF/6R)を樹立した。このBaF/6Rは、human interleukin-6(R&D systems)存在下で増殖することから、抗ヒトIL-6レセプター抗体の増殖阻害活性(すなわちヒトIL-6レセプター中和活性)の評価に使用することが可能である。
【0462】
BaF/6Rを用いて、抗ヒトIL-6レセプター抗体のヒトIL-6レセプター中和活性を評価した。BaF/6Rを10% FBSを含むRPMI1640培地で3回洗浄した後に、2.5~5.0 x 104 cells/mLとなるように20 ng/mLのhuman interleukin-6(TORAY)(終濃度は10 ng/mL)および10% FBSを含むRPMI1640培地に懸濁し、96 well-plate(CORNING)の各wellに50μLずつ分注した。次に、抗ヒトIL-6レセプター抗体を10% FBSを含むRPMI1640に希釈して、各wellに50μLずつ混合した。37℃、5% CO2条件下で、3日間培養し、PBSで2倍に希釈したWST-8試薬(Cell Counting Kit-8、株式会社同仁化学研究所)を20μL/wellで加え、直後にSUNRISE CLASSIC(TECAN)を用いて450 nmの吸光度(参照波長620 nm)を測定した。2時間培養した後に、再度450 nmの吸光度(参照波長620 nm)を測定し、2~4時間の吸光度変化を指標にヒトIL-6レセプター中和活性を評価した。
【0463】
〔参考例5〕
抗ヒトGPC3抗体の競合ELISAによる各変異改変抗体の結合活性の評価
作製した抗体の結合活性を競合ELISAを用いて行った。1μg/mlとなるように調製された可溶型GPC3コアポリペプチド(配列番号:207)が96穴プレートに1ウエル当たり100μl加えられた。当該プレートは4℃にて終夜静置され、可溶型GPC3コアポリペプチドが当該プレートに固相化された。当該プレートに固相化された可溶型GPC3コアポリペプチドはSkan WASHER400(Molecular Devices)を用いて洗浄緩衝液にて3回洗浄され200μlのブロッキング緩衝液が加えられ4℃にて30分以上ブロックされた。当可溶型GPC3コアポリペプチドが固相化されブロックされたプレートは次にSkan WASHER400を用いて洗浄緩衝液にて3回洗浄された。その後、種々の濃度のGPC3-H2L2抗体またはそのほか抗体と終濃度0.3μg/mlのビオチン化されたGPC3-H2L2抗体がそれぞれ100μl混合された混合液200μlがプレート1ウエル当たり加えられた。GPC3-H2L2抗体のビオチン化はBiotin Labelingキット(Roche)を用いてキットの手順書に従い実施された。当該プレートは室温にて1時間静置された後、Skan WASHER400(Molecular Devices)を用いて洗浄緩衝液にて5回洗浄された。その1ウエル当たり基質緩衝液によって20,000倍に希釈された100μlの Goat anti streptabidin Alkaline phosphatase(ZYMED)が加えられた当該プレートは、室温にて1時間静置された後Skan WASHER400を用いて洗浄緩衝液にて5回洗浄された。基質緩衝液を用いて1 mg/mlとなるようにPhosphatase Substrate(Sigma)が調製され、1ウエル当たり100μl加えられ1時間静置された。Benchmark Plus(BIO-RAD)を用いて655 nmの対照吸光度を用いて、各ウエル中の反応液の405 nmにおける吸光度が測定された。
【0464】
〔参考例6〕
抗ヒトIL-31レセプター抗体のBiacoreによるIL-31レセプターへの親和性評価方法
1.可溶型ヒトIL-31レセプターの調製
ヒトIL31レセプターの cDNAを鋳型に、PCR法により細胞外領域のみを増幅し、またC末端にFLAGタグ配列を付加し、哺乳動物細胞用発現ベクターに組み込んだ。直鎖状にしたこのベクター10μgをチャイニーズハムスター卵巣細胞株DG44へエレクトロポレーション法によって導入し(BioRad Gene PulserII, 25μF, 1.5 kV)、高発現を示す細胞株を得た。この細胞株を大量培養した培養上清から抗FLAG抗体カラム(SIGMA製)、ゲル濾過法により精製し可溶型NR10を得た。可溶型ヒトIL31レセプターのアミノ酸配列を配列番号:246に示した。
【0465】
2.Biacoreによる可溶型ヒトIL-31レセプターへの親和性評価
Biacore T100(GEヘルスケア バイオサイエンス)を用いて、抗ヒトIL-31レセプター抗体と可溶型ヒトIL-31レセプターの抗原抗体反応の速度論的解析を行った。当業者公知の方法で、センサーチップ上に rec-Protein A (ZYMED) (以下、Protein A)を固定化し、この固定化Protein Aに抗体を捕捉し、さらに抗原をアナライトとして反応させ、抗体と抗原の相互作用を測定した。各抗体は Protein A/G に適当な量結合するよう調製した。アナライトとして用いた可溶型ヒトIL-31レセプターは HBS-EP+ を用いて 0、38.5、77.0、154 nM に調製した。測定はまず抗体溶液をProtein A/G に結合させ、そこへアナライト溶液を 3 分間相互作用させ、その後 HBS-EP+ に切り替え5 分間解離相を測定した。解離相の測定終了後、10 μL の 10 mM glycine-HCl (pH1.5) で洗浄し、センサーチップを再生した。この結合・解離・再生を分析の 1 サイクルとした。各種抗体についてこのサイクルに従って測定を行った。得られたセンサーグラムをBiacore 専用のデータ解析ソフトウェアである Biacore T100 Evaluation Software (GEヘルスケア バイオサイエンス)を用いて速度論的な解析を行った。
【産業上の利用可能性】
【0466】
本発明により、相補性決定領域(CDR)領域の表面に露出し得る少なくとも1つのアミノ酸残基の電荷を抗原に対する結合活性を保持しつつ改変することにより、抗体の等電点を改変する方法、多重特異性抗体を精製する方法、抗体の血漿中薬物動態を改善する方法、等電点が改変された抗体を有効成分として含有する医薬組成物、および、その製造方法が提供された。抗体の等電点を改変することで多重特異性抗体を効率よく高純度に精製することが可能である。また、抗体の等電点を改変することで、血漿中薬物動態を改善させることが可能となり、投与頻度を少なくし持続的に治療効果を発揮することが可能である。なお本発明の方法によって得られる抗体は、抗原への結合活性が保持されている。
【配列表】