(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-16
(54)【発明の名称】電解水生成装置および電解水生成装置の制御方法
(51)【国際特許分類】
C02F 1/461 20230101AFI20231108BHJP
【FI】
C02F1/461 A
(21)【出願番号】P 2023529928
(86)(22)【出願日】2022-03-17
(86)【国際出願番号】 JP2022012289
【審査請求日】2023-05-17
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】516297242
【氏名又は名称】株式会社エナジックインターナショナル
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】弁理士法人河崎特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】奥村 一彦
【審査官】高橋 成典
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-041829(JP,A)
【文献】特開2000-033374(JP,A)
【文献】特開平04-197488(JP,A)
【文献】特開2000-354868(JP,A)
【文献】特開平06-238275(JP,A)
【文献】特開2000-246249(JP,A)
【文献】特開2009-50798(JP,A)
【文献】特開平2-149395(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/46 - 1/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一対の陽極および陰極と、
隔膜で互いに仕切られた陽極室および陰極室を有し、前記陽極室に前記陽極が収容されかつ前記陰極室に前記陰極が収容される電解槽と、
前記陽極と前記陰極との間に電流を流すための電源部と、
前記電源部を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記電解槽に導入される原水を電気分解して前記陰極室で陰極水を生成すると共に前記陽極室で陽極水を生成するように前記電源部を制御する、電解水生成装置であって、
前記制御部は、前記電気分解時の印加電流をi[A]とし、かつ前記電気分解時の前記陰極室における前記原水の流量をf[L/min]として、pH=Alog(i/f)+B(ただし、Aは
前記原水の電気分解における複数の(i/f)値を対数軸に対応させ、かつ前記複数の(i/f)値の各々において前記陰極室で生成される陰極水のpH値を線形軸に対応させてプロットして得られるpH線の勾配であり、B
は(i/f)=1の条件下で前記原水を電気分解することにより前記陰極室で生成される陰極水のpHの
実測値)の関数式に基づいて、前記陰極水のpHを演算
し、
前記制御部は、前記原水の水質が変化した場合、前記原水を(i/f)=1の条件下で電気分解することにより前記陰極室で生成される陰極水のpHの実測値を、新たなBとして設定する、電解水生成装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記陰極水の所望のpH値の入力を受けると共に前記流量を検出し、入力された前記所望のpH値、検出した前記流量、および前記関数式に基づいて、前記所望のpH値の前記陰極水を生成するための前記印加電流を演算する、請求項
1に記載の電解水生成装置。
【請求項3】
検知した前記陰極水のpHに関する情報を報知する報知部をさらに備える、請求項1
または2に記載の電解水生成装置。
【請求項4】
少なくとも一対の陽極および陰極と、
隔膜で互いに仕切られた陽極室および陰極室を有し、前記陽極室に前記陽極が収容されかつ前記陰極室に前記陰極が収容される電解槽と、
前記陽極と前記陰極との間に電流を流すための電源部と、
を備える電解水生成装置の制御方法であって、
(i)前記電解槽に導入される原水を電気分解して前記陰極室で陰極水を生成すると共に前記陽極室で陽極水を生成するように前記電源部を制御する工程と、
(ii)前記電気分解時の印加電流をi[A]とし、かつ前記電気分解時の前記陰極室における前記原水の流量をf[L/min]として、pH=Alog(i/f)+B(ただし、Aは
前記原水の電気分解における複数の(i/f)値を対数軸に対応させ、かつ前記複数の(i/f)値の各々において前記陰極室で生成される陰極水のpH値を線形軸に対応させてプロットして得られるpH線の勾配であり、B
は(i/f)=1の条件下で前記原水を電気分解することにより前記陰極室で生成される陰極水のpHの
実測値)の関数式に基づいて、前記陰極水のpHを演算する工程と、
(iv)前記原水の水質が変化した場合、前記原水を(i/f)=1の条件下で電気分解することにより前記陰極室で生成される陰極水のpHの値を、新たなBとして設定する工程と、
を備える、電解水生成装置の制御方法。
【請求項5】
(iii)前記陰極水の所望のpH値の入力を受けると共に前記流量を検出し、入力された前記所望のpH値、検出した前記流量、および前記関数式に基づいて、前記所望のpH値の前記陰極水を生成するための前記印加電流を演算する工程をさらに備える、請求項
4に記載の電解水生成装置の制御方法。
【請求項6】
請求項
4または5に記載の電解水生成装置の制御方法をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電解水生成装置および電解水生成装置の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の電解水生成装置は、水道や井戸と通水管を介して簡便に接続され、電気分解により陰極水(アルカリイオン水もしくは還元水)または陽極水(酸性水)を供給する装置である。水道や井戸からの水は、活性炭などの浄水フィルタにより浄水にされてから当該装置に供給されることもある。浄水フィルタは、当該装置に内蔵されることもある。以下では、電解水生成装置に供給される水を原水という。
【0003】
原水の水質は、地域や国によって随分異なる。例えば、遊離炭酸は、水中に溶けている炭酸ガスのことで、地下水には多く含まれる。日本の原水は軟水であるのに対し、米国や欧州などの原水は硬水であることが多い。そのため、原水の電気分解時に発生するイオンなどの種類や量は、地域や国によって随分異なる。特に、遊離炭酸は、pHに応じて炭酸塩が様々なイオン形態に変化し、各イオン形態の存在率によって緩衝作用が働くことが知られている。したがって、原水の水質に応じた電解水生成装置の制御が求められる。
【0004】
家庭用の電解水生成装置について、JIS規格には、使用上の注意事項として、「初めて飲用する人は、pHが中性に近い範囲で少量から飲用する」旨や、「アルカリ性電解水を飲用に用いるときは、pH9.5を適値とし、pH10以上は飲用不可であり直接飲用しない」旨が記載されている。このことから、電解水のpHを使用者に知らせることが求められる。
【0005】
使用者は、所望の電解水を選択する。しかし、選択ボタン(切替スイッチ)には、弱アルカリ性水(pH8.5)と、中アルカリ性水(pH9.0)と、強アルカリ性水(pH9.5)とが表示されているか、あるいは弱還元水と、中還元水と、強還元水とが表示されているに過ぎず、それらの電解水のpHが検知されている訳ではない。したがって、飲用時にpHが検知あるいは表示されず、場合によっては選択されたpHが保証されていないという課題がある。
【0006】
そこで、電解水生成装置には、所望の陰極水や陽極水のpHを知る手段として、pH計あるいはpHセンサの導入が多く試みられているが、その導入は容易ではない。なぜなら、実際の電解水生成装置に導入できる程度にレスポンスが速くかつメンテナンスフリーのpH計あるいはpHセンサが、コスト的に実現困難であるためである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平4-197488号公報
【文献】特開平7-108272号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1の電解水製造器は、理論式からpHを求め、それに応じた制御を行うものである。理論式としては、印加電流i[A]、流量W[L/sec]、ファラデー定数F[クーロン/モル]として、pH=-log{10-7―i/(W・F)}が用いられ、これにしたがってアルカリ水のpHを連続的に知ることができるとされている。しかしながら、この理論式は、理論的な(あるいは、不純物を含まない)水に対して定義されたものであり、かろうじて純水に適用できても、通常の水道水や井戸水をはじめ、電解水生成装置における原水や電解水に適用できるものではない。また、この理論式は、実際の装置に適用した場合に真数が負値をとり得るため、適切に機能するのかについて疑義が残る。
【0009】
特許文献2の連続式イオンリッチ水生成方法は、pH計を備えずに、重炭酸イオン量に応じて要求電力を決定するものである。しかしながら、特許文献2における電気伝導度と重炭酸イオン濃度との関係は、水道水中の関係であって電気分解中の関係ではない。上述したように、水道水の水質は地域や国によって随分異なる。したがって、電気分解中の重炭酸イオン量を決定するには、特許文献2の方法は信頼性が乏しいものと思われる。なお、重炭酸イオンは元来不安定で水中のミネラルと容易に結合するため、pHの指標として適さない。
【0010】
以上のような状況において、本開示は、電解水のpHを必要に応じて検知することを目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示に係る一局面は、電解水生成装置に関する。当該電解水生成装置は、少なくとも一対の陽極および陰極と、隔膜で互いに仕切られた陽極室および陰極室を有し、前記陽極室に前記陽極が収容されかつ前記陰極室に前記陰極が収容される電解槽と、前記陽極と前記陰極との間に電流を流すための電源部と、前記電源部を制御する制御部と、を備え、前記制御部は、前記電解槽に導入される原水を電気分解して前記陰極室で陰極水を生成すると共に前記陽極室で陽極水を生成するように前記電源部を制御する、電解水生成装置であって、前記制御部は、前記電気分解時の印加電流をi[A]とし、かつ前記電気分解時の前記陰極室における前記原水の流量をf[L/min]として、Alog(i/f)+B(ただし、AおよびBは定数)の値に基づいて、前記陰極水のpHを検知する。
【0012】
本開示に係る別の一局面は、電解水生成装置の制御方法に関する。当該制御方法は、少なくとも一対の陽極および陰極と、隔膜で互いに仕切られた陽極室および陰極室を有し、前記陽極室に前記陽極が収容されかつ前記陰極室に前記陰極が収容される電解槽と、前記陽極と前記陰極との間に電流を流すための電源部と、を備える電解水生成装置の制御方法であって、(i)前記電解槽に導入される原水を電気分解して前記陰極室で陰極水を生成すると共に前記陽極室で陽極水を生成するように前記電源部を制御する工程と、(ii)前記電気分解時の印加電流をi[A]とし、かつ前記電気分解時の前記陰極室における前記原水の流量をf[L/min]として、Alog(i/f)+B(ただし、AおよびBは定数)の値に基づいて、前記陰極水のpHを検知する工程と、を備える。
【発明の効果】
【0013】
本開示によれば、電解水のpHを必要に応じて検知することができる。
【0014】
本開示の新規な特徴を添付の請求の範囲に記述するが、本開示は、構成および内容の両方に関し、本願の他の目的および特徴と併せ、図面を照合した以下の詳細な説明によりさらによく理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施形態1の電解水生成装置を模式的に示す正面図である。
【
図2】実施形態1の測定試験の結果を示すグラフである。
【
図3】実施形態2の電解水生成装置を模式的に示す正面図である。
【
図4】電解水生成装置の制御方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本開示に係る電解水生成装置および電解水生成装置の制御方法の実施形態について例を挙げて以下に説明する。しかしながら、本開示は以下に説明する例に限定されない。以下の説明では、具体的な数値や材料を例示する場合があるが、本開示の効果が得られる限り、他の数値や材料を適用してもよい。
【0017】
(電解水生成装置)
本開示に係る電解水生成装置は、少なくとも一対の陽極および陰極と、電解槽と、電源部と、制御部とを備える。
【0018】
少なくとも一対の陽極および陰極は、それぞれ電極板で構成されてもよい。陽極および陰極は、一対設けられてもよいし、複数対設けられてもよい。
【0019】
電解槽は、隔膜で互いに仕切られた陽極室および陰極室を有する。隔膜は、イオン透過性を有する材料であればよく、多孔質膜やイオン交換膜を用いてもよい。陽極室には、陽極が収容される。陰極室には、陰極が収容される。陽極および陰極の材質および構造は、特に限定されず、金属、炭素材料などの公知の材料を用いてよい。陽極室の数は、陽極の数と同じであってもよく、異なってもよい。陰極室の数は、陰極の数と同じであってもよく、異なってもよい。複数の陽極が存在する場合、複数の陽極室の各々に1つ以上の陽極が収容されてもよい。複数の陰極が存在する場合、複数の陰極室の各々に1つ以上の陰極が収容されてもよい。
【0020】
電源部は、陽極と陰極との間に電流を流すための要素である。電源部は、例えば、陽極と陰極との間に直流電圧を印加することで両者の間に電流を流してもよい。
【0021】
制御部は、電源部を制御するための要素である。制御部は、電解槽に導入される原水を電気分解して陰極室で陰極水を生成すると共に陽極室で陽極水を生成するように電源部を制御する。制御部は、演算装置と、演算装置によって実行可能なプログラムが格納された記憶装置とを具備してもよい。記憶装置に格納されたプログラムは、本開示に係る電解水生成装置の制御方法をコンピュータに実行させるためのプログラムであってもよい。
【0022】
制御部は、電気分解時の印加電流をi[A]とし、かつ電気分解時の陰極室における原水の流量をf[L/min]として、Alog(i/f)+Bの値に基づいて、陰極水のpHを検知する。ここで、AおよびBは、それぞれ定数であって、例えば、電解水生成装置の具体的構成や原水の水質に基づいて解析的および/または実験的に定められてもよい。
【0023】
本願発明者は、Alog(i/f)+Bの値を用いることで、電解水生成装置が生成する陰極水のpHを電気分解時の現象から直接的に解明できること、ひいては所望の陰極水のpHを必要に応じて適切なタイミングで検知できることを見出した。このことについて、詳しくは後述する。そして、pHが検知された場合、電解水生成装置が自動で、あるいは当該装置の操作者が手動で電気分解のための印加電流および/または原水の流量を増減するなり断続するなりすればよい。なお、そのような操作を電解水生成装置が自動で行う場合、電源部など装置内の要素のみで当該操作を実行できるという長所がある。
【0024】
定数Aの値は、陰極水のpHの実測値およびi/fの値に基づいて、電解水生成装置に固有の値として設定されてもよい。本願発明者は、陰極水のpHの実測値と、log(i/f)の値との間に、比例的な相関関係があることを見出した。この比例関係を規定するのが定数Aであり、定数Aが電解水生成装置ごとに固有の値になることも本願発明者の見出したところである。定数Aを設定するための陰極水のpHは、例えば、pH計またはpHセンサを用いて実測されてもよい。定数Aの設定は、例えば、電解水生成装置の製造者が電解水生成装置の出荷に先立って行えばよい。定数Aは原水の水質によらず、各装置に固有の値であるため、製造者が任意の場所で任意の原水を用いて設定し得る。iの値は、電解水生成装置が一般に備える電流センサによって検知されてもよい。fの値は、電解水生成装置が一般に備える流量センサによって検知されてもよい。
【0025】
定数Bの値は、少なくとも陰極水のpHの実測値に基づいて、原水の水質に対応する値として設定されてもよい。本願発明者は、原水の水質を加味して陰極水のpHを検知するために、Alog(i/f)に定数Bを加えるのが有効であることを見出した。定数Bの値は、例えば、必要に応じて定数Aの値を定めた上で、電解水生成装置に原水を導入し、これを電気分解して得られる陰極水のpHを実測し、その実測値に基づいて設定することができる。定数Bの設定は、実際に電解水生成装置を使用する現地の原水を用いて、電解水生成装置の通常使用の開始前に行えばよい。また、原水の水質が経時的に変化する可能性がある場合などには、適時のタイミングで定数Bの設定を行って定数Bをリセットしてもよい。
【0026】
電解水生成装置は、検知した陰極水のpH(以下、検知pHともいう。)に関する情報を報知する報知部をさらに備えてもよい。例えば、報知部は、使用者に対して、視覚的または聴覚的に当該情報を報知してもよい。具体例として、報知部は、検知pHの値を表示するディスプレイ、検知pHの値に応じて色が変わるランプ、または検知pHの値を音声で伝えるスピーカーを備えてもよい。pHに関する情報は、定数Aや定数Bの値を含んでもよい。
【0027】
(電解水生成装置の制御方法)
本開示に係る電解水生成装置の制御方法は、少なくとも一対の陽極および陰極と、電解槽と、電源部とを備える電解水生成装置の制御方法である。少なくとも一対の陽極および陰極と、電解槽と、電源部との各々の構成は、上述した構成と同じであってもよい。当該制御方法は、工程(i)と、工程(ii)とを備える。
【0028】
工程(i)では、電解槽に導入される原水を電気分解して陰極室で陰極水を生成すると共に陽極室で陽極水を生成するように電源部を制御する。これにより、ユーザは、必要に応じて、陰極水または陽極水を利用することができる。
【0029】
工程(ii)では、電気分解時の印加電流をi[A]とし、かつ電気分解時の陰極室における原水の流量をf[L/min]として、Alog(i/f)+Bの値に基づいて、前記陰極水のpHを検知する。ここで、AおよびBは、それぞれ定数であって、例えば、電解水生成装置の具体的構成や原水の水質に基づいて解析的および/または実験的に定められてもよい。いったん、Alog(i/f)+Bの式が定まれば、Alog(i/f)+Bの値を用いることで、陰極水のpHを必要に応じて検知することができる。そして、pHが検知された場合、電解水生成装置が自動で、あるいは当該装置の操作者が手動で電気分解のための印加電流および/または原水の流量を増減するなり断続するなりすればよい。なお、「Alog(i/f)+Bの値を用いる」とは、任意の1つ以上のタイミングにおけるAlog(i/f)+Bの値を指標とする場合が広く含まれる。Alog(i/f)+Bの値はそのまま用いてもよく、様々な関数で変換して用いてもよく、複数のタイミングにおけるAlog(i/f)+Bの値を加工(例えば、積算あるいは平均)して用いてもよい。
【0030】
電解水生成装置の制御方法は、(iii)工程(ii)よりも前に、陰極水のpHの実測値およびi/fの値に基づいて、電解水生成装置に固有の値として定数Aの値を設定する工程をさらに備えてもよい。その場合、陰極水のpHは、例えば、pH計またはpHセンサを用いて実測してもよい。iの値は、電解水生成装置が一般に備える電流センサによって検知されてもよい。fの値は、電解水生成装置が一般に備える流量センサによって検知されてもよい。
【0031】
電解水生成装置の制御方法は、(iv)工程(ii)よりも前に、少なくとも陰極水のpHの実測値に基づいて、原水の水質に対応する値として定数Bを設定する工程をさらに備えてもよい。定数Bの値は、例えば、必要に応じて定数Aの値を定めた上で、電解水生成装置に原水を導入し、これを電気分解して得られる陰極水のpHを実測し、その実測値に基づいて設定することができる。
【0032】
電解水生成装置の制御方法は、(v)検知した陰極水のpHに関する情報を報知する工程をさらに備えてもよい。工程(v)では、例えば、使用者に対して、視覚的または聴覚的に当該情報を報知してもよい。具体例として、工程(v)では、検知pHの値を表示するディスプレイにより、検知pHの値に応じて色が変わるランプにより、または検知pHの値を音声で伝えるスピーカーにより当該情報を報知してもよい。
【0033】
以上のように、本開示によれば、電解水(陰極水)のpHを必要に応じて検知することができる。さらに、本開示によれば、次に列挙する効果(1)~(3)が得られる。
(1)(i/f)というこれまで示されてこなかったパラメータを用いることで、原水の水質や使用形態に依存することなく、国内でも国外でも文化生活様式に関わらず、所望のpH水を得る最適な制御を実現することができる。
(2)電気分解時の電流や流量の値を取得するために、従来から電解水生成装置に搭載されている流量センサや電流センサを用いるため、追加的なデバイスを導入することなく、適切なタイミングで電解水のpHを検知してこれを制御することができる。
(3)装置使用時の電解水の種類(例えば強陰極水、中陰極水、または弱陰極水)や流量ごとの膨大かつ複雑なデータではなく、(i/f)という簡素なパラメータを用いるため、本開示の制御部または制御方法を実現するために大容量のマイコンなどを必要とせず、所望のpH水を得るタイミングの最適化を低コストに実現することができる。
【0034】
後述する実施形態1および実施形態2から、電解水生成装置における電解水(陰極水)のpHは、次の(1)式で一般化できることを明らかにした。
【0035】
【数1】
ここで、iは、電気分解電流すなわち印加電流[A]であり、fは、電気分解時の陰極室における原水の流量[L/min]であり、AおよびBは、それぞれ定数である。なお、log(i/f)における底は10であり、本明細書の対数は全て常用対数である。
【0036】
一方、純水のpHの定義から次の(2)式が理論的に導かれる。
【0037】
【0038】
(1)式と(2)式は、数学的に相似の形で表されている。純水の場合、A=1かつB=14であると言える。
【0039】
(1)式の定数Aは、実施形態1と実施形態2の結果から、電解槽の構造や形状および材質、ならびに隔膜の構造や形状および材質などで決まるとおおよそ推察できる。
【0040】
また、(1)式の定数Bは、おおよそ原水の水質で決まる。本開示でいう原水や井戸水、地下水、川もしくは湖の淡水などの水には、具体的に、Cl-、NO-、SO4
2-、HCO3
-、CO3
2-などの陰イオンや、Na+、K+、Ca2+、Mg2+などの陽イオンが含まれる。これらの成分は、地域や国によって種類や量が異なる。これらのイオンによる寄与分の詳細は今少し研究を待たなければならないが、定数Bは、寄与分の総計であると考察できる。
【0041】
以下では、本開示に係る電解水生成装置および電解水生成装置の制御方法の一例について、図面を参照して具体的に説明する。以下で説明する一例の電解水生成装置および電解水生成装置の制御方法の構成要素および工程には、上述した構成要素および工程を適用できる。以下で説明する一例の電解水生成装置および電解水生成装置の制御方法の構成要素および工程は、上述した記載に基づいて変更できる。また、以下で説明する事項を、上記の実施形態に適用してもよい。以下で説明する一例の電解水生成装置および電解水生成装置の制御方法の構成要素および工程のうち、本開示に係る電解水生成装置および電解水生成装置の制御方法に必須ではない構成要素および工程は省略してもよい。なお、以下で示す図は模式的なものであり、実際の部材の形状や数を正確に反映するものではない。
【0042】
《実施形態1》
本開示の実施形態1について説明する。
図1に示すように、本実施形態の電解水生成装置1は、一対の陽極32および陰極31と、電解槽3と、電源部14と、制御部10とを備える。電解水生成装置1は、さらに、給水管40と、陰極室給水管41と、陽極室給水管42と、陰極室吐水管51と、陽極室吐水管52とを備える。
【0043】
一対の陽極32および陰極31は、それぞれ電極板で構成される。陽極32および陰極31の各々は、例えば矩形板状であってもよいが、これに限られるものではない。
【0044】
電解槽3は、隔膜33で互いに仕切られた陽極室32aおよび陰極室31aを有する。陽極室32aには、陽極32が収容される。陰極室31aには、陰極31が収容される。本実施形態の電解槽3は、陽極室32aおよび陰極室31aを1つずつ有する。電解槽3では、原水が電気分解されることにより、陰極室31aで陰極水が、陽極室32aで陽極水が、それぞれ生成される。隔膜33は、陰極室31aで生成した陰イオンを陽極室32aへ透過移動させると共に、陽極室32aで生成した陽イオンを陰極室31aへ透過移動させる機能を有する。
【0045】
電源部14は、陽極32と陰極31との間に直流電圧を印加することで、両者の間に電流を流すための要素である。電源部14は、電解槽3の外部に設けられ、陽極32および陰極31に接続されている。
【0046】
制御部10は、電源部14を制御するための要素である。制御部10は、電解槽3に導入される原水を電気分解して陰極室31aで陰極水を生成すると共に陽極室32aで陽極水を生成するように電源部14を制御する。また、制御部10は、電気分解時の印加電流をi[A]とし、かつ電気分解時の陰極室31aにおける原水の流量をf[L/min]として、Alog(i/f)+B(ただし、AおよびBは定数)の値に基づいて、陰極水(電解水)のpHを検知する。制御部10は、陰極水のpHが所望の値よりも小さい場合、(i/f)を大きくするように、陰極水のpHが所望の値よりも大きい場合、(i/f)を小さくするように電源部14を制御してもよい。
【0047】
給水管40、陰極室給水管41、および陽極室給水管42は、電解槽3に原水を供給するための管である。給水管40は、原水の供給源(例えば、水道や井戸)と、陰極室給水管41および陽極室給水管42とを接続する。陰極室給水管41は、陰極室31aの流入口に接続している。陽極室給水管42は、陽極室32aの流入口に接続している。
【0048】
陰極室吐水管51、および陽極室吐水管52は、電解槽3で生成した陰極水および陽極水を外部へ供給するための管である。陰極室吐水管51は、陰極室31aの流出口に接続している。陽極室吐水管52は、陽極室32aの流出口に接続している。
【0049】
-電解水生成装置を用いた測定試験-
上述の電解水生成装置1を用いて次の測定試験を実施した。すなわち、電解水生成装置1に原水を供給し、これを一定電流で電気分解して陰極室吐水管51および陽極室吐水管52より電解水を得た。ここで、陰極室吐水管51から流出する陰極水をビーカーに1分間採水し、メスシリンダで流量を計測した。
【0050】
電解水および原水のpH値は、ガラス電極式水素イオン濃度指示計D-74ならびにpH電極9630-10D(株式会社堀場アドバンスドテクノ製)を用いて測定した。
【0051】
電解水生成装置1に供給する原水について、pH、全硬度、炭酸水素イオン濃度、遊離炭酸濃度をそれぞれ測定し、それらを原水の水質とした。特に、酸消費量(pH4.8)はMアルカリ度と同じものであり、Mアルカリ度は水中の炭酸水素イオン濃度にほぼ等しいとみなせるため、酸消費量(pH4.8)の測定値をもって炭酸水素イオン濃度とした。また、アルカリ消費量(pH8.3)はP酸度と同じものであり、P酸度は水中の遊離炭酸濃度にほぼ等しいとみなせるため、アルカリ消費量(pH8.3)の測定値をもって遊離炭酸濃度とした。
【0052】
原水の全硬度の測定は、JIS K 01011998工業用水試験方法の15.1全硬度 15.1.1キレート滴定法に則って測定し、その結果をもって全硬度とした。また、原水の炭酸水素イオン濃度は、JIS K 01011998工業用水試験方法の13.1酸消費量(pH4.8)に則って、酸消費量(pH4.8)を測定し、その結果をもって炭酸水素イオン濃度とした。さらに、原水の遊離炭酸濃度は、JIS K 01011998工業用水試験方法の14.1アルカリ消費量(pH8.3)に則ってアルカリ消費量(pH8.3)を測定し、その結果をもって遊離炭酸濃度とした。
【0053】
全硬度、重炭酸イオン濃度、遊離炭酸濃度の測定には、電位差自動滴定装置AT-710(京都電子工業株式会社製)を使用した。電源部14として、電源装置PK60-20(松定プレシジョン株式会社製)を使用した。
【0054】
上述の測定方法により原水である水道水を調整して、表1に示す異なる水質の原水を用意した。
【0055】
【0056】
表1の5種類の異なる水質の原水を使用し、それぞれに(i/f)を変えて35通りの条件で電解水を生成し、生成された電解水(陰極水)のpHを実測した。35通りの条件は、表2の「電流」欄と「i/f」欄に示す。実測値は、上述のとおり、ガラス電極式水素イオン濃度指示計D-74ならびにpH電極9630-10D(株式会社堀場アドバンスドテクノ製)を用いて測定した。計算値は、実測値から得られた5本の一次近似式(つまり、上述の(1)式)に基づいて計算した値である。これらの結果を
図2に示す。
図2の結果は、原水1-1から原水1-5に基づく5本の一次近似式に収斂した。
【0057】
【0058】
表2のpHの「差」欄は、実測値と計算値との差を示す。35通りの実測値と計算値のpHの差は、±0.1以下と極めて小さく、本願が開示する方法が電解水のpH値を知る有効な方法であることを実証できた。また、本方法は、新たなデバイス(例えば、pH計やpHセンサ)を必要とすることなく、電解水生成装置1の原水の流量と電解槽3の印加電流から電解水のpH値を簡単に求められることを示した。(i/f)からpH値が簡単かつ正確に求められることは、特筆すべき点である。
【0059】
ただし、本発明の上記計算方法は、電解水(陰極水)のpHが7.5以下の範囲および10.5以上の範囲では誤差が生じ、好ましくは電解水のpHが8.0以上、10.0以下の範囲に適用するのがよい。本実施形態では、pHが約8.5~10.1の範囲に適用した。もちろん、数学的に補正項を設けるなどして適用範囲を広げてもよい。
【0060】
図2において、5種類の原水に対応して5本のpH線の一次近似式が得られた。なお、
図2では、原水1-1の測定値をバツで、原水1-2の測定値を菱形で、原水1-3の測定値を四角で、原水1-4の測定値を黒塗りの四角で、原水1-5の測定値を丸で、それぞれ示してある。
【0061】
5本のpH線の一次近似式は、それぞれ次のとおりである。ただし、定数Bは、(i/f)=1のときの値とした。
原水1-1:pH=1.81log(i/f)+9.64
原水1-2:pH=1.81log(i/f)+9.37
原水1-3:pH=1.81log(i/f)+9.25
原水1-4:pH=1.81log(i/f)+9.11
原水1-5:pH=1.81log(i/f)+9.02
【0062】
このように、異なる水質におけるpH線の一次近似式の勾配Aは、いずれも1.81と求められ、定数Bは、それぞれの水質によって異なる値を示した。定数Aや定数Bのもつ意味は、電解水生成装置の制御方法に関して上述したとおりである。
【0063】
上記5本のpH線は、数学的に一般化して表すと、前述の(1)式となる。これは、理論式から導かれる前述の(2)式と相似の形で表されている。実際に多種多様な複雑系である水質水と純水とが同様の形で表されることは興味深く、これは純水と複雑系の水質水とが不連続ではないことを示唆している。純水に対応する(2)式と相似の形で表される(1)式を導くことができたことで妥当性(信頼性)が高まり、電解中に直接的に簡単に電解水のpHを求めることができる。
【0064】
《実施形態2》
本開示の実施形態2について説明する。本実施形態の電解水生成装置1は、複数対の陽極32および陰極31を備える点などで上記実施形態1と異なる。以下、上記実施形態1と異なる点について主に説明する。
【0065】
図3に示すように、電解水生成装置1は、複数対(この例では、七対)の陽極32および陰極31と、電解槽3と、電源部14と、電流検知部13と、表示操作部12と、制御部10とを備える。電解水生成装置1は、さらに、通水管20と、給水管40と、陰極室給水管41と、陽極室給水管42と、陰極室吐水管51と、陽極室吐水管52とを備える。
【0066】
複数対の陽極32および陰極31は、それぞれ電極板で構成される。陽極32および陰極31の各々は、例えば矩形板状であってもよいが、これに限られるものではない。
【0067】
電解槽3は、複数(この例では、4つ)の陽極室32aと、複数(この例では、4つ)の陰極室31aとを有する。複数の陽極室32aと複数の陰極室31aとは、1つずつ対をなしている。対をなす陽極室32aと陰極室31aとは、隔膜33で互いに仕切られている。各陽極室32aには、1つの陽極32が収容される。各陰極室31aには、1つの陰極31が収容される。
【0068】
電源部14は、陽極32と陰極31との間に直流電圧を印加することで、両者の間に電流を流すための要素である。電源部14は、全ての陽極32および全ての陰極31に接続されている。
【0069】
電流検知部13は、電気分解時に陽極32と陰極31との間に流れる電流を検知するための要素である。電流検知部13が検知した電流の情報は、制御部10に送られる。本実施形態の電流検知部13は、複数の陽極32と複数の陰極31との間に流れる電流、すなわち電源部14から電解槽3に供給される総電流を検知するように構成される。ただし、電流検知部13は、一部の陽極32と一部の陰極31との間に流れる電流を検知するように構成されてもよい。
【0070】
表示操作部12は、電解水生成装置1の動作状態を表示し、かつ電解水生成装置1の動作を操作するための要素である。表示操作部12は、例えばタッチパネルで構成されてもよい。表示操作部12は、制御部10からの指令を受けて、電解水生成装置1の動作状態を表示する。表示操作部12は、制御部10からの指令を受けて、陰極室31aで生成された電解水(陰極水)のpHの値を表示する。表示操作部12は、ユーザからの操作を受けて、その操作情報を制御部10に送る。表示操作部12は、報知部の一例である。
【0071】
制御部10は、電源部14を制御するための要素である。制御部10は、電気分解時の印加電流(上述の総電流)をi[A]とし、かつ電気分解時の陰極室31aにおける原水の流量をf[L/min]として、Alog(i/f)+B(ただし、AおよびBは定数)の値に基づいて、陰極水のpHを検知あるいは算出する。制御部10は、電解水生成装置1の動作状態や、検知したpHの値を表示するように表示操作部12を制御する。また、制御部10は、表示操作部12の初期設定ボタン(図示せず)が押された場合、初期設定フラグを0にする。
【0072】
通水管20、給水管40、陰極室給水管41、および陽極室給水管42は、電解槽3に原水を供給するための管である。通水管20および給水管40は、原水の供給源(例えば、水道や井戸)と、陰極室給水管41および陽極室給水管42とを接続する。陰極室給水管41は、各陰極室31aの流入口に接続している。陽極室給水管42は、各陽極室32aの流入口に接続している。
【0073】
通水管20と給水管40との間には、浄水フィルタ2が設けられる。給水管40には、流量センサ43が設けられる。浄水フィルタ2は、例えば活性炭などを含み、通水管20から流入する原水を浄化して給水管40へ流出させる。流量センサ43は、給水管40を流れる原水の流量を検知する。流量センサ43が検知した流量の情報は、制御部10に送られる。
【0074】
陰極室吐水管51、および陽極室吐水管52は、電解槽3で生成した陰極水および陽極水を外部へ供給するための管である。陰極室吐水管51は、各陰極室31aの流出口に接続している。陽極室吐水管52は、各陽極室32aの流出口に接続している。
【0075】
-電解水生成装置の制御方法-
次に、電解水生成装置の制御方法の一例について、
図4を参照しながら説明する。電解水生成装置の制御方法によると、所望のpHの電解水(陰極水)が供給される。電解水生成装置の制御方法は、ステップ1~15(ST1~15)を備える。
【0076】
図4に示すように、ステップ(ST1)では、通水の有無を確認する。ステップ1において、制御部10は、流量センサ43の検知信号に基づいて、通水の有無を確認してもよい。通水が検出されない場合(ステップ1でNoの場合)、ステップ1を繰り返す。通水が検出された場合(ステップ1でYesの場合)、ステップ2に進む。
【0077】
ステップ2(ST2)では、電解水生成装置1の初期設定の実施状況を確認する。ステップ2において、制御部10は、初期設定フラグが1である場合、初期設定が実施済みであると判定する一方、初期設定フラグが1でない場合(例えば、0である場合)、初期設定が未実施であると判定する。初期設定フラグが1である場合、ステップ9に進み、初期設定フラグが1でない場合、ステップ3に進む。
【0078】
ステップ3(ST3)では、陰極室31aにおける原水の流量f0[L/min]を検出する。ステップ3において、制御部10は、流量センサ43からの信号に基づいて、陰極室31aにおける原水の流量f0[L/min]を検出してもよい。続いて、ステップ4に進む。
【0079】
ステップ4(ST4)では、[L/min]の単位で表される流量f0と同じ値となるように電流i0[A]を設定する。この例では、(i0/f0)=1となるようにi0を設定する。なお、この設定値はあくまで例示であって、任意の(i0/f0)値に設定可能であり、複数の(i0/f0)値を設定してもよい。ただし、この設定値を採用した場合、(1)式の右辺第1項が0となって定数Bの決定が容易になる。続いて、ステップ5に進む。
【0080】
ステップ5(ST5)では、ステップ4で設定されたi0[A]の印加電流を出力する。ステップ5において、制御部10は、i0[A]の印加電流ように電源部14を制御してもよい。続いて、ステップ6に進む。
【0081】
ステップ6(ST6)では、陰極水のpH0の測定値が、表示操作部12を介して入力される。pH0の測定には、例えばpH計を用い得るが、これに限られるものではない。続いて、ステップ7に進む。
【0082】
ステップ7(ST7)では、定数Aの値は予め設定されており、定数Bの値を決定する。定数Bの値は、(1)式において、pH=pH0、Alog(i/f)=Alog(i0/f0)とすることで求めることができる。ここで、上でも触れたように、(i0/f0)=1となるようにi0を設定した場合、(1)式は、pH0=Bの形をとり、定数Bの値を容易に決定することができる。続いて、ステップ8に進む。
【0083】
ステップ8(ST8)では、制御部10が初期設定フラグを1にし、これにより初期設定が実施済みであることが示される。また、ステップ8では、制御部10は、入力されたpH0値をクリアする。続いて、ステップ9に進む。
【0084】
ステップ9(ST9)では、使用者が、表示操作部12を介して所望のpH値を入力する。この入力は、所望の数値を入力するものであってもよいし、予め準備された複数の選択肢から選択するものであってもよい。続いて、ステップ10に進む。
【0085】
ステップ10(ST10)では、陰極室31aにおける原水の流量fを検出する。ステップ10において、制御部10は、流量センサ43からの信号に基づいて、流量fを検出してもよい。続いて、ステップ11に進む。
【0086】
ステップ11(ST11)では、定数A、定数B、所望のpH値、および流量f[L/min]の値を(1)式に代入することで、印加電流i[A]を算出する。なお、印加電流iは、制御部10の記憶装置に格納されたテーブルにしたがって決定されてもよい。続いて、ステップ12に進む。
【0087】
ステップ12(ST12)では、ステップ11で算出された印加電流i[A]を電解槽3へ出力する。ステップ11において、制御部10は、算出された印加電流iを出力するように電源部14を制御してもよい。続いて、ステップ13に進む。
【0088】
ステップ13(ST13)では、定数A、定数B、陰極室31aにおける原水の流量f[L/min]の値、および印加電流i[A]の値を(1)式に代入することで、生成される陰極水のpH値を算出し、これを表示操作部12に表示する。所望のpH値が入力された場合には、その値を表示してもよいし、所望のpH値が入力されない場合には現在吐出している陰極水のpH値を表示してもよい。続いて、ステップ14に進む。
【0089】
ステップ14(ST14)では、通水が停止したか否かを確認する。ステップ14において、制御部10は、流量センサ43の検知信号に基づいて、通水が停止したか否かを確認してもよい。通水の停止が検出されない場合(ステップ14でNoの場合)、ステップ10に戻る。通水の停止が検出された場合(ステップ14でYesの場合)、ステップ15に進む。
【0090】
ステップ15(ST15)では、印加電流の出力を停止し、一連の制御を終了する。ステップ15において、制御部10は、陽極32と陰極31との間に電圧を印加しないように電源部14を制御してもよい。
【0091】
初期設定を再度行う場合には、初期設定ボタンを押し、初期設定フラグを0にすればよい。なお、初期設定では、少なくとも定数Bの値が設定され、必要に応じて定数Aの値も設定されてもよい。定数Bの値は、電解水生成装置1に導入される原水の水質に対応する値として設定されてもよい。
【0092】
本実施形態では、定数Aの値は予め設定されているとしたが、ステップ3からステップ6を繰り返し、複数の(i
0/f
0)値を設定して定数Aおよび定数Bの値を決定してもよい。定数Aの値は、陰極水のpHの実測値(pH
0値)およびi/fの値(複数の(i
0/f
0)値)に基づいて、電解水生成装置1に固有の値として設定されてもよい。ここで、定数Aの値は、複数の(i
0/f
0)値とそれらに対応するpH
0値を、
図2のグラフのようにプロットして得られるpH線の勾配に相当する。
【0093】
-電解水生成装置を用いた測定試験-
上述の電解水生成装置1において、
図4を参照して説明した制御方法を実行するためのプログラムを制御部10に格納した。そして、当該プログラムにしたがって、所望のpH値を入力し、この入力値と生成される陰極水のpH実測値との比較を行った。
【0094】
測定試験には、表3に示す異なる水質の原水を使用した。また、電解水生成装置1における定数Aの値は、別途の測定より2.2であったため、この値を使用した。
【0095】
【0096】
原水2-1を用いて、電解水生成装置1を動作させたところ、初期設定時のpH0の測定値は9.09であり、これを入力して定数Bの値を決定した。
【0097】
次の表4において、所望のpH値を「所望値」欄に、陰極室吐水管51から吐出される陰極水の実測pH値を「実測値」欄に、両者の差を「差」欄に、それぞれ示す。pH値の測定方法は、実施形態1と同様である。
【0098】
【0099】
原水2-2を用いて、電解水生成装置1を動作させたところ、初期設定時のpH0の測定値は8.84であり、これを入力して定数Bの値を決定した。
【0100】
次の表5において、各欄の記載内容は表4と同様である。pH値の測定方法は、実施形態1と同様である。
【0101】
【0102】
表4および表5における所望値と実測値との差は、±0.1以下と極めて小さい。このことから、実施形態2の構造を有する電解水生成装置1においても、本願が開示する方法が有効であることを実証できた。
【実施例】
【0103】
以下に示す実施例1,2では、上記実施形態2の構造を有する電解水生成装置1において、
図4を参照して説明した制御方法を実行するプログラムを制御部10に格納し、当該プログラムにしたがって所望の電解水を生成するようにした。
【0104】
《実施例1》
上記実施形態2の構造を有する電解水生成装置1において、
図4を参照して説明した制御方法を実行するためのプログラムを制御部10に格納した。電解水生成装置1の当該プログラムにしたがって初期設定時のpH
0の測定値8.98を入力した。所望のpH値は9.5を入力して、電解水がコップ一杯になったところで、実施形態1で使用したpH計で測定したところ、pH値は9.4であった。所望のpHが得られ、その差は僅かであった。条件を変えても実施形態1と同様の結果を示すことを確認できた。
【0105】
《実施例2》
上記実施形態2の構造を有する電解水生成装置1において、
図4を参照して説明した制御方法を実行するためのプログラムを制御部10に格納した。電解水生成装置1を当該プログラムにしたがって、初期設定時のpH
0をステップ3からステップ6を5回繰り返して入力した。このとき、異なる複数の(i
0/f
0)値を設定して定数Aおよび定数Bの値を決定した。所望のpH値は9.0を入力して電解水がコップ一杯になったところで、実施形態1で使用したpH計で測定したところ、pH値は9.0であった。所望のpHが得られ、その差は全くなかった。pH
0を決定するプロセスを変えて、定数Aおよび定数Bの値を同時に新たに決定しても実施形態2と同様の結果を示すことを確認できた。
【0106】
以上のように、定数Aの値が予め設定されているとした実施例1においても、複数の(i0/f0)値を設定して定数Aおよび定数Bの値を決定する実施例2においても、所望のpHの電解水(陰極水)を得ることができた。
【0107】
本開示を現時点での好ましい実施態様に関して説明したが、そのような開示を限定的に解釈してはならない。種々の変形および改変は、上記開示を読むことによって本開示に属する技術分野における当業者には間違いなく明らかになるであろう。したがって、添付の請求の範囲は、本開示の真の精神および範囲から逸脱することなく、すべての変形および改変を包含する、と解釈されるべきものである。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本開示は、電解水生成装置および電解水生成装置の制御方法に利用できる。
【符号の説明】
【0109】
1:電解水生成装置
10:制御部
12:表示操作部(報知部)
13:電流検知部
14:電源部
2:浄水フィルタ
20:通水管
3:電解槽
31:陰極
31a:陰極室
32:陽極
32a:陽極室
33:隔膜
40:給水管
41:陰極室給水管
42:陽極室給水管
43:流量センサ
51:陰極室吐水管
52:陽極室吐水管
【要約】
開示される電解水生成装置1は、少なくとも一対の陽極32および陰極31と、隔膜33で互いに仕切られた陽極室32aおよび陰極室31aを有し、陽極室32aに陽極32が収容されかつ陰極室31aに陰極31が収容される電解槽3と、陽極32と陰極31との間に電流を流すための電源部14と、電源部14を制御する制御部10と、を備える。制御部10は、電解槽3に導入される原水を電気分解して陰極室31aで陰極水を生成すると共に陽極室32aで陽極水を生成するように電源部14を制御する。制御部10は、電気分解時の印加電流をi[A]とし、かつ電気分解時の陰極室31aにおける原水の流量をf[L/min]として、Alog(i/f)+B(ただし、AおよびBは定数)の値に基づいて、陰極水のpHを検知する。これにより、電解水のpHを必要に応じて検知できる。