(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-08
(45)【発行日】2023-11-16
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 11/03 20060101AFI20231109BHJP
B60C 11/12 20060101ALI20231109BHJP
【FI】
B60C11/03 100B
B60C11/12 B
(21)【出願番号】P 2019046307
(22)【出願日】2019-03-13
【審査請求日】2022-02-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100187702
【氏名又は名称】福地 律生
(74)【代理人】
【識別番号】100165995
【氏名又は名称】加藤 寿人
(72)【発明者】
【氏名】市村 彰宏
【審査官】岩本 昌大
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-174038(JP,A)
【文献】特開2008-062806(JP,A)
【文献】特開2018-090097(JP,A)
【文献】特開2006-192959(JP,A)
【文献】特開2013-052872(JP,A)
【文献】特開2018-177033(JP,A)
【文献】特開2000-108615(JP,A)
【文献】特開2007-126006(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 1/00-19/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッド表面に少なくとも2本の周方向主溝を備え、タイヤ赤道面のタイヤ幅方向各側において、タイヤ幅方向の最外側に位置する周方向主溝よりもタイヤ幅方向外側のショルダー陸部と、タイヤ幅方向の最外側に位置する周方向主溝よりもタイヤ幅方向内側のセンター陸部と、が区画形成された空気入りタイヤであって、
前記ショルダー陸部にサイプとラグ溝が設けられ、
前記ラグ溝は、前記周方向主溝に連通し、
前記ショルダー陸部において、タイヤ幅方向に対して傾斜して延在する第1のサイプと、前記第1のサイプとは異なる方向に延在する第2のサイプとが形成されており、
前記センター陸部において、タイヤ幅方向の両側に位置する前記周方向主溝の少なくとも一方に連通するとともにタイヤ幅方向に対する傾斜角度が45°以上
90°未満である第3のサイプと、前記第3のサイプと連通するとともにタイヤ周方向に延在する第4のサイプと、が形成されていることを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記第1のサイプのタイヤ幅方向に対する傾斜角度が45°以下である、請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記第2のサイプのタイヤ幅方向に対する傾斜角度が45°以上90°以下である、請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記第1のサイプのタイヤ幅方向領域の30%以上70%以下の領域に、第2のサイプが形成されている、請求項1~3のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記第2のサイプのタイヤ周方向寸法が、前記第1のサイプのピッチ長さの35%以上65%以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記第1のサイプのそれぞれから、少なくとも2本の前記第2のサイプが、タイヤ周方向の同じ側に延在している、請求項1~5のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項7】
前記周方向主溝と前記第1のサイプとの連通部分に、凹部が形成されている、請求項1から6のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項8】
前記周方向主溝と前記第3のサイプとの連通部分に、凹部が形成されている、請求項1から7に記載の空気入りタイヤ。
【請求項9】
方向性パターンである、請求項1~8のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウェット操縦安定性能と通過騒音性能を改善した空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
近年では、タイヤ騒音規制が強化される傾向にあるため、操縦安定性能やウェット性能(例えば、前輪の横加速度による)を維持しつつ、騒音性能を向上させる技術が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【0004】
特許文献1には、第1ミドルサイプが、センター主溝からショルダー主溝まで連通するフルオープンサイプと、一端がセンター主溝に連通しかつ他端が第1ミドル陸部内で終端する第1セミオープンサイプと、一端がショルダー主溝に連通しかつ他端が第1ミドル陸部内で終端する第2セミオープンサイプとを含み、フルオープンサイプ、第1セミオープンサイプ、及び、第2セミオープンサイプが、それぞれ、同じ向きに傾斜している、空気入りタイヤが開示されている。このようなタイヤでは、ミドル陸部及びショルダー陸部に設けられた溝及びサイプの形状を改善することを基本として、操縦安定性及びウェット性能を維持しつつ騒音性能を向上させることができる、とされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、例えば
図1を参照すると、第1ショルダー陸部31、第2ショルダー陸部32のそれぞれに、タイヤ周方向の一方側に凸となる略円弧状の第1ショルダー横溝33、第2ショルダー横溝34が複数設けられている。これらの溝はその延在方向がほぼタイヤ幅方向に限られ、しかも陸部31、32のタイヤ幅方向中央領域から外側にしか存在しない。このため、特に陸部31、32のタイヤ幅方向内側領域においてショルダー主溝3、3との排水連動性に劣るとの観点から、排水性能が必ずしも高いとはいえず、ひいてはウェット操縦安定性能については改良の余地がある。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、ウェット操縦安定性能を改善した空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る空気入りタイヤは、トレッド表面に少なくとも2本の周方向主溝を備え、タイヤ赤道面のタイヤ幅方向各側において、タイヤ幅方向の最外側に位置する周方向主溝よりもタイヤ幅方向外側のショルダー陸部と、タイヤ幅方向の最外側に位置する周方向主溝よりもタイヤ幅方向内側のセンター陸部と、が区画形成され、上記ショルダー陸部にサイプとラグ溝が設けられ、上記ラグ溝は、上記周方向主溝に連通し、上記ショルダー陸部において、タイヤ幅方向に対して傾斜して延在する第1のサイプと、上記第1のサイプとは異なる方向に延在する第2のサイプとが形成されている。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る空気入りタイヤでは、ショルダー陸部におけるサイプと溝の形成態様について改良を加えている。その結果、本発明に係る空気入りタイヤによれば、ウェット操縦安定性能を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本実施の形態の空気入りタイヤのトレッド表面を示す平面図である。
【
図2】
図2は、
図1に示す空気入りタイヤの変形例のトレッド表面を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明に係る空気入りタイヤの実施の形態(以下に示す、基本形態及び付加的形態1から9)を、図面に基づいて詳細に説明する。なお、これらの実施の形態は、本発明を限定するものではない。また、上記実施の形態の構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、或いは実質的に同一のものが含まれる。さらに、上記実施の形態に含まれる各種形態は、当業者が自明の範囲内で任意に組み合わせることができる。
【0012】
[基本形態]
以下に、本発明に係る空気入りタイヤについて、その基本形態を説明する。
【0013】
以下の説明において、タイヤ径方向とは、空気入りタイヤの回転軸と直交する方向をいい、タイヤ径方向内側とはタイヤ径方向において回転軸に向かう側、タイヤ径方向外側とはタイヤ径方向において回転軸から離れる側をいう。また、タイヤ周方向とは、上記回転軸を中心軸とする周り方向をいう。さらに、タイヤ幅方向とは、上記回転軸と平行な方向をいい、タイヤ幅方向内側とはタイヤ幅方向においてタイヤ赤道面CL(タイヤ赤道線)に向かう側、タイヤ幅方向外側とはタイヤ幅方向においてタイヤ赤道面CLから離れる側をいう。なお、タイヤ赤道面CLとは、空気入りタイヤの回転軸に直交するとともに、空気入りタイヤのタイヤ幅の中心を通る平面である。
【0014】
図1は、本発明の実施の形態に係る空気入りタイヤのトレッド表面を示す平面図である。なお、
図1の符号CLはタイヤ赤道面を示す。また、
図1に示すトレッドパターンは、タイヤ赤道面CLのタイヤ幅方向両側間で対称なパターンであるが、本実施の形態の空気入りタイヤは、タイヤ赤道面CLのタイヤ幅方向両側間で対称なパターンに限られず、非対称なパターンも含む。
【0015】
本実施の形態の空気入りタイヤのトレッド部10はゴム材(トレッドゴム)から構成される。タイヤ径方向最外部に位置するトレッド部10の表面(トレッド表面12)は、車両走行時に路面と接触する。また、
図1に示すように、トレッド表面12には以下に詳述する所定模様のトレッドパターンが形成されている。
【0016】
トレッド表面12には、
図1に示すように、タイヤ周方向に延在する少なくとも2本の周方向主溝(同図に示すところでは3本の周方向主溝14a、14b、14cが形成されている。本実施の形態において、周方向主溝の幅は5~15mmであり、周方向主溝の深さは4~8mmである。
【0017】
このような周方向主溝14の形成により、トレッド表面12には、タイヤ赤道面CLのタイヤ幅方向各側において、タイヤ幅方向の最外側に位置する周方向主溝(
図1に示すところでは周方向主溝14a、14c)よりもタイヤ幅方向外側のショルダー陸部S1、S2と、周方向主溝14a、14cよりもタイヤ幅方向内側のセンター陸部C1、C2と、が区画形成されている。
【0018】
以上のような前提の下、本実施の形態では、
図1に示すように、ショルダー陸部S1、S2にはサイプ16a、16bとラグ溝17が設けられている。具体的には、ショルダー陸部S1、S2には、タイヤ幅方向に対して傾斜して延在する第1のサイプ16aと、タイヤ周方向に延在する第2のサイプ16bと、周方向主溝14a、14cに連通してタイヤ幅方向に対して傾斜して延在するラグ溝17とが形成されている。なお、同図に示す例では、第2のサイプ16bは第1のサイプ16aとラグ溝17との両方に連通している。
【0019】
また、ショルダー陸部S1、S2には、第1のサイプ16a、第2のサイプ16b、及びラグ溝17が、それぞれ、タイヤ周方向に等間隔で形成されている。さらに、1本のラグ溝17から延在する2本の第2のサイプ16b、16bは、タイヤ幅方向の異なる位置に形成されている。
【0020】
ここで、第1のサイプ16aは
図1に示すように直線状であっても、また曲線状であてもよい。第1のサイプ16aはその形状に関わらず、その両端点を結んだ直線の傾きをタイヤ幅方向に対して55°以下とすることができる。本実施の形態において規定する傾きは、基準となる方向(例えばタイヤ幅方向)とのなす鋭角又は直角を意味する。
【0021】
また、第2のサイプ16bは、
図1に示すように直線状であっても、また曲線状であてもよい。第2のサイプ16bはその形状に関わらず、その両端点を結んだ直線のタイヤ幅方向に対する傾斜角度を60°以上90°以下とすることができる。
【0022】
さらに、ラグ溝17は、
図1に示すように直線状であっても、また曲線状であてもよい。ラグ溝17はその形状に関わらず、その両端点を結んだ直線のタイヤ幅方向に対する傾斜角度を0°以上45°以下とすることができる。
【0023】
これに対し、
図1に示すように、センター陸部C1(C2)には、両側の周方向主溝14a、14b(14b、14c)の双方に連通する第3のサイプ16cと、第3のサイプ16cからタイヤ周方向の一方側に延在して陸部内で終端する第4のサイプ16dとが形成されている。本実施の形態では、第3のサイプ16c及び第4のサイプ16dは、それぞれ、タイヤ周方向に等間隔で形成されている。なお、センター陸部C1(C2)には、
図1に示すサイプ16c、16dの他に、必要に応じて溝(例えば、周方向主溝14a~14cよりも溝幅及び溝深さが小さい溝であって、延在方向及び形状は任意)や、他のサイプを形成することもできる。
【0024】
第3のサイプ16cは、
図1に示すように直線状であっても、また曲線状であてもよい。第3のサイプ16cはその形状に関わらず、その両端点を結んだ直線の傾きをタイヤ幅方向に対して40°以下とすることができる。
【0025】
第4のサイプ16dは、
図1に示すように直線状であっても、また曲線状であてもよい。第4のサイプ16dはその形状に関わらず、その両端点を結んだ直線の傾きをタイヤ幅方向に対して45°以上90°以下とすることができる。
【0026】
なお、本実施の形態において、サイプ16a~16dの幅は0.2~2mmであり、サイプ16a~16dの深さは1~8mmである。
【0027】
(作用等)
従来、ショルダー陸部の接地端付近には、タイヤ周方向の一方側に凸となる略円弧状のラグ溝が複数設けられ、これらラグ溝はタイヤ周方向に延在する最大幅の溝とは連通することなく、その両端が陸部内で終端するものが多かった。本実施の形態の空気入りタイヤにおいては、ラグ溝17が周方向主溝14a、14cと連通しているため、特にショルダー陸部S1、S2のタイヤ幅方向内側領域における周方向主溝14a、14cとラグ溝17との排水連動性により、優れた排水性能を実現することができ、ひいては優れたウェット操縦安定性能を実現することができる(作用1)。
【0029】
従って、本実施の形態の空気入りタイヤによれば、上記作用1によって優れたウェット操縦安定性能を実現することができる
【0030】
なお、以上に示す、本実施の形態に係る空気入りタイヤは、図示しないが、従来の空気入りタイヤと同様の子午断面形状を有する。ここで、空気入りタイヤの子午断面形状とは、タイヤ赤道面と垂直な平面上に現れる空気入りタイヤの断面形状をいう。本実施の形態の空気入りタイヤは、タイヤ子午断面視で、タイヤ径方向内側から外側に向かって、ビード部、サイドウォール部、ショルダー部及びトレッド部を有する。そして、上記空気入りタイヤは、例えば、タイヤ子午断面視で、トレッド部から両側のビード部まで延在して一対のビードコアの周りで巻回されたカーカス層と、上記カーカス層のタイヤ径方向外側に順次形成された、ベルト層及びベルト補強層とを備える。
【0031】
また、本実施の形態の空気入りタイヤは、通常の各製造工程、即ち、タイヤ材料の混合工程、タイヤ材料の加工工程、グリーンタイヤの成型工程、加硫工程及び加硫後の検査工程等を経て得られるものである。本実施の形態の空気入りタイヤを製造する場合には、特に、加硫用金型の内壁に、例えば、
図1に示すトレッド部に形成されるサイプ、ラグ溝及び陸部に対応する凸部及び凹部を形成し、この金型を用いて加硫を行う。
【0032】
[付加的形態]
次に、本発明に係る空気入りタイヤの上記基本形態に対して、任意選択的に実施可能な、付加的形態1から9を説明する。
【0033】
(付加的形態1)
基本形態においては、
図1に示す第1のサイプ16aのタイヤ幅方向に対する傾斜角度θ1が45°以下であること(付加的形態1)が好ましい。ショルダー陸部S1、S2の剛性を確保すべく、周方向主溝14a(14c)から陸部内終端位置までの、第1のサイプ16aのタイヤ幅方向寸法を過度に大きくせずに一定とした場合には、傾斜角度θ1を小さくした方が第1のサイプ16aの実寸法が小さくなる。本実施の形態では、傾斜角度θ1を45°以下としているため、第1のサイプ16aの実寸法が過度に大きくならず、第1のサイプ16aの表面積を小さくすることができ、ひいては通過騒音性能をさらに高めることができる。
【0034】
また、本実施の形態では、傾斜角度θ1を45°以下としているため、上述のとおり、第1のサイプ16aの表面積を小さくすることができる。このため、ショルダー陸部S1、S2の剛性をさらに高めて、ウェット操縦安定性能をさらに高めることもできる。
【0035】
なお、傾斜角度θ1を40°以下とした場合には、上記効果がそれぞれ高いレベルで奏されるためさらに好ましく、傾斜角度θ1を35°以下とした場合には、上記効果がそれぞれさらに高いレベルで奏されるため極めて好ましい。
【0036】
(付加的形態2)
基本形態又は基本形態に付加的形態1を加えた形態においては、
図1に示す第2のサイプ16bのタイヤ幅方向に対する傾斜角度θ2が45°以上90°以下であること(付加的形態2)が好ましい。なお、
図1に示す例では、第2のサイプ16bはタイヤ周方向に延在しており、傾斜角度θ2は90°である。
【0037】
ショルダー陸部S1、S2の剛性を確保すべく、第1のサイプ16aからラグ溝17までの、第2のサイプ16bのタイヤ周方向寸法を過度に大きくせずに一定とした場合には、傾斜角度θ2を90°とすることが第2のサイプ16bの実寸法が最も小さくなり、45°を下回ると当該実寸法が過度に大きくなる。本実施の形態では、傾斜角度θ2を45°以上90°以下としているため、第2のサイプ16bの実寸法が過度に大きくならず、第2のサイプ16bの表面積を小さくすることができ、ひいては通過騒音性能をさらに高めることができる。
【0038】
また、本実施の形態では、傾斜角度θ2を45°以上90°以下としているため、上述のとおり、第2のサイプ16bの表面積を小さくすることができる。このため、ショルダー陸部S1、S2の剛性をさらに高めて、ウェット操縦安定性能をさらに高めることもできる。
【0039】
なお、傾斜角度θ2を50°以上90°以下とした場合には、上記効果がそれぞれ高いレベルで奏されるためさらに好ましく、傾斜角度θ2を55°以上90°以下とした場合には、上記効果がそれぞれさらに高いレベルで奏されるため極めて好ましい。
【0040】
(付加的形態3)
基本形態、又は基本形態に付加的形態1及び付加的形態2の少なくともいずれかを加えた形態においては、
図1に示す第1のサイプ16aのタイヤ幅方向領域の30%以上70%以下の領域に、第2のサイプ16bの形成領域が存在すること(付加的形態3)が好ましい。ここで、第2のサイプ16bの形成領域とは、その形成されている全領域をいうものであり、一部の領域であっても上記範囲を逸脱するものについては本実施の形態に包含されない。
【0041】
図1に示す例では、第1のサイプ16aのタイヤ幅方向領域は符号L1で表される。ここで、このタイヤ幅方向最内側の位置を0%の位置とするとともに、タイヤ幅方向最外側の位置を100%の位置とする。本実施の形態では、30%の位置から70%の位置までの領域に、第2のサイプ16bを形成している。即ち、周方向主溝14a(14c)に第2のサイプ16bを過度に近づけず、また符号L1で示す領域のタイヤ幅方向最外側位置の接地端付近にも第2のサイプ16bを過度に近づけていない。これにより、ショルダー陸部S1、S2の周方向主溝14a(14c)付近における剛性を高めることができるとともに、接地端付近における剛性を高めることができ、ひいてはウェット操縦安定性能をさらに高めることができる。
【0042】
なお、第1のサイプ16aのタイヤ幅方向領域の35%以上65%以下の領域に、第2のサイプ16bの形成領域が存在する場合には、上記効果がそれぞれ高いレベルで奏されるためさらに好ましい。さらに、第1のサイプ16aのタイヤ幅方向領域の40%以上60%以下の領域に、第2のサイプ16bの形成領域が存在する場合には、上記効果がそれぞれさらに高いレベルで奏されるため極めて好ましい。
【0043】
(付加的形態4)
基本形態、又は基本形態に付加的形態1から付加的形態3の少なくともいずれかを加えた形態においては、第2のサイプ16bのタイヤ周方向寸法が、第1のサイプ16aのピッチ長さの35%以上65%以下であること(付加的形態4)が好ましい。
【0044】
図1に示す例では、第2のサイプ16bのタイヤ周方向寸法は符号L2で表され、第1のサイプ16aのピッチ長さは符号P1で表される。本実施の形態では、第2のサイプ16bのタイヤ周方向寸法を、第1のサイプ16aのピッチ長さの35%以上とすることで、第2のサイプ16bの表面積を十分に確保することができる。このため、ショルダー陸部S1、S2の排水性能をさらに高めて、ウェット操縦安定性能をさらに高めることができる。
【0045】
これに対し、第2のサイプ16bのタイヤ周方向寸法を、第1のサイプ16aのピッチ長さの65%以下とすることで、第2のサイプ16bの表面積を過度に大きくすることを抑制でき、ひいては、通過騒音性能をさらに高めることができる。
【0046】
なお、第2のサイプ16bのタイヤ周方向寸法を、第1のサイプ16aのピッチ長さの37%以上62%以下とすることで、上記効果をそれぞれさらに高いレベルで奏することができ、35%以上60%以下とすることで、上記効果をそれぞれ極めて高いレベルで奏することができる。
【0047】
(付加的形態5)
図2は、
図1に示す空気入りタイヤの変形例のトレッド表面を示す平面図である。基本形態、又は基本形態に付加的形態1から付加的形態4の少なくともいずれかを加えた形態においては、
図2に示す第1のサイプ16aのそれぞれから、少なくとも2本の第2のサイプ(同図に示す例では2本のサイプ16b、16b)がタイヤ周方向の同じ側に延在していること(付加的形態5)が好ましい。
【0048】
図2に示す第1のサイプ16aのそれぞれに対して、少なくとも2本の第2のサイプを連通させることで、排水性能をさらに高めることができる。また、第2のサイプのそれぞれを、第1のサイプ16aに対してタイヤ周方向の同じ側に延在させることで、特に回転方向が指定されているタイヤについては排水性能を効率的に高めることができる。以上により、
図2に示すタイプの空気入りタイヤによれば、ウェット操縦安定性能をさらに高めることができる。
【0049】
(付加的形態6)
基本形態、又は基本形態に付加的形態1から付加的形態5の少なくともいずれかを加えた形態においては、
図1又は
図2に示すセンター陸部C1、C2において、タイヤ幅方向の両側に位置する周方向主溝14a、14b(14b、14c)の少なくとも一方(両図では双方)に連通するとともにタイヤ幅方向に対する傾斜角度θ3が45°以上90°未満である第3のサイプ16cと、第3のサイプ16cと連通するとともにタイヤ周方向に延在する第4のサイプ16dと、が形成されていること(付加的形態6)が好ましい。
【0050】
第3のサイプ16cはその少なくとも一端において周方向主溝に連通しており、そのタイヤ幅方向における最大寸法は、2つの周方向主溝間の寸法である。第3のサイプ16cのタイヤ幅方向寸法を一定とした場合、傾斜角度θ3を大きくすると第3のサイプ16cの実寸法は大きくなる。本実施の形態では、傾斜角度θ3を45°以上としているため、第3のサイプ16cの実寸法を十分に確保し、第3のサイプ16cの表面積を大きくすることができ、ひいてはウェット操縦安定性能をさらに高めることができる。なお、傾斜角θ3が90°の場合は、第3のサイプ16cの実寸法が∞となる。このため、本実施の形態では、傾斜角度θ3を90°未満とした。
【0051】
なお、傾斜角度θ3を50°以上とすることで、上記効果をさらに高いレベルで奏することができ、55%以上とすることで、上記効果を極めて高いレベルで奏することができる。
【0052】
(付加的形態7、8)
基本形態、又は基本形態に付加的形態1から付加的形態6の少なくともいずれかを加えた形態においては、
図1又は
図2に示す周方向主溝14a、14cと第1のサイプ16aとの連通部分に、凹部18が形成されていること(付加的形態7)、及び/又は、
図1又は
図2に示す周方向主溝14a、14b、14cと第3のサイプ16cとの連通部分に、凹部20が形成されていること(付加的形態8)が好ましい。
【0053】
凹部18、20を形成することで、排水性能を高めることができる。また、凹部18、20を形成することで、車両走行時において、周方向主溝14a、14cと第1のサイプ16aとの連通箇所付近における陸部のもげを抑制することができる。以上により、本実施の形態によれば、接地圧を均一として耐偏摩耗性能を高め、ひいては優れたウェット操縦安定性能を長期にわたり実現することができる。
【0054】
(付加的形態9)
基本形態、又は基本形態に付加的形態1から付加的形態8の少なくともいずれかを加えた形態においては、方向性パターンであること(付加的形態9)が好ましい。ここで、方向性パターンとは、車両走行時の回転方向が指定されているパターンをいう。例えば、
図1に示す例では、第1のサイプ16aからの第2のサイプ16bの延在する向きが2つあるため、回転方向は指定されず、非方向性パターンである。これに対し、
図2に示す例では、第1のサイプ16aからの第2のサイプ16bの延在する向きが1つだけであるため、回転方向は指定され、方向性パターンである。
【0055】
図2に示すタイヤにおいて、第2のサイプ16bの第1のサイプ16aとの連通側を踏み込み側とし、第2のサイプ16bのラグ溝側を蹴り出し側として使用すれば、
図1に示すタイヤを使用する場合に比べて排水性能が格段に高くなり、より優れた排水性能、ひいてはウェット操縦安定性能を実現することができる。
【実施例】
【0056】
タイヤサイズを185/65R15とし、
図1又は
図2に示す周方向主溝14a~14c、第1のサイプ16a、第2のサイプ16b、第3のサイプ16c、第4のサイプ16d、ラグ溝17を備えるとともに、表1~表3に示す各条件を満たす発明例1から発明例9の空気入りタイヤを作製した。これに対し、タイヤサイズを185/65R15とし、
図1又は
図2に示す周方向主溝14a~14c、第1のサイプ16a、第2のサイプ16b、第3のサイプ16c、第4のサイプ16dに加えて、ショルダー陸部S1、S2に特許文献1の
図1に示すようなラグ溝33、34(本願でいう周方向主溝には連通せずに接地端まで完全に延在するラグ溝)を備えるとともに、表1~表3に示す各条件を満たす従来例の空気入りタイヤを作製した。
【0057】
なお、表1~表3に示す各条件における用語(ショルダー陸部S1、S2、センター陸部C1、C2、第1のサイプ16a、第2のサイプ16b、第3のサイプ16c、第4のサイプ16d、ラグ溝17、凹部18、20、L1、L2、P1、θ1~θ3)は、いずれも、
図1又は
図2に示す各符号により示される構成部材や寸法を示す。
【0058】
そして、各供試タイヤ(各実施例及び従来例)を、サイズ5.5Jのリムに装着するとともに、空気圧を210kPaとして、これらを排気量1500CCのフロントエンジン・フロントドライブタイプの車両に装着した。これら全ての供試タイヤについて、以下のように通過騒音性能及びウェット操縦安定性能を評価した。これらの結果を表1~表3に示す。
【0059】
(通過騒音性能)
通過騒音性能は、ECE R117-02(ECE Regulation No.117 Revision 2)に定めるタイヤ騒音試験法に従って評価した。この試験では、試験車両を騒音測定区間の十分前から走行させ、当該区間の手前でエンジンを停止し、惰行走行させた時の騒音測定区間における最大騒音値(dB)を、基準速度に対し±10km/時の速度範囲をほぼ等間隔に8以上に区切った複数の速度で測定し、平均を(車外)通過騒音とした。最大騒音値dBは、騒音測定区間内の中間点において走行中心線から側方に7.5mかつ路面から1.2mの高さに設置した定置マイクロフォンを用いてA特性周波数補正回路を通して測定した音圧〔dB(A)〕である。なお、表1~表3に示す音圧は従来例を100とした指数評価とした。表1~表3において各数値が高いほどは音圧が低いこと、即ち、通過騒音性能が高いことを示す。
【0060】
(ウェット操縦安定性能)
ウェット操縦安定性能は、屋外のタイヤ試験場の水深約1mmであるウェット路面において、半径30mの旋回路を限界速度で5周走行した際の平均横加速度を評価した。なお、表1~表3に示す平均横加速度は従来例を100とした指数評価とした。表1~表3において各数値が高いほどは平均横加速度が高いこと、即ち、ウェット操縦安定性能が高いことを示す。
【0061】
【0062】
【0063】
【0064】
表1~表3によれば、ショルダー陸部にサイプとラグ溝が設けられ、ショルダー陸部において、タイヤ幅方向に対して傾斜して延在する第1のサイプと、タイヤ周方向に延在する第2のサイプとが形成されている、本発明の技術的範囲に属する発明例1~発明例9の空気入りタイヤについては、いずれも、本発明の技術的範囲に属しない従来例の空気入りタイヤに対して、通過騒音性能及びウェット操縦安定性能がバランス良く改善されていることが判る。
【符号の説明】
【0065】
10 トレッド部
12 トレッド表面
14a、14b、14c 周方向主溝
16a、16b、16c、16d サイプ
17 ラグ溝
18、20 凹部
C1、C2 センター陸部
CL タイヤ赤道面
L1 第1のサイプ16aのタイヤ幅方向領域
L2 第2のサイプ16bのタイヤ周方向寸法
P1 第1のサイプ16aのピッチ長さ
S1、S2 ショルダー陸部
θ1 第1のサイプ16aのタイヤ幅方向に対する傾斜角度
θ2 第2のサイプ16bのタイヤ幅方向に対する傾斜角度
θ3 第3のサイプ16cのタイヤ幅方向に対する傾斜角度