(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-08
(45)【発行日】2023-11-16
(54)【発明の名称】スタッドレスタイヤ用ゴム組成物及びスタッドレスタイヤ
(51)【国際特許分類】
C08L 7/00 20060101AFI20231109BHJP
C08L 9/00 20060101ALI20231109BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20231109BHJP
C08K 3/36 20060101ALI20231109BHJP
C08K 3/32 20060101ALI20231109BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20231109BHJP
C08K 3/30 20060101ALI20231109BHJP
B60C 1/00 20060101ALI20231109BHJP
【FI】
C08L7/00
C08L9/00
C08K3/04
C08K3/36
C08K3/32
C08K3/22
C08K3/30
B60C1/00 A
(21)【出願番号】P 2019085657
(22)【出願日】2019-04-26
【審査請求日】2022-03-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【氏名又は名称】三橋 史生
(74)【代理人】
【識別番号】100181179
【氏名又は名称】町田 洋一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100197295
【氏名又は名称】武藤 三千代
(72)【発明者】
【氏名】田邊 祐介
【審査官】北田 祐介
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-035912(JP,A)
【文献】特開2013-166815(JP,A)
【文献】国際公開第2009/022665(WO,A1)
【文献】特表2009-500477(JP,A)
【文献】特開2011-252124(JP,A)
【文献】特表2011-528735(JP,A)
【文献】特開2002-030183(JP,A)
【文献】特開2014-034646(JP,A)
【文献】特開2013-047291(JP,A)
【文献】国際公開第2014/178232(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 7/00-21/02
B60C 1/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然ゴム及びブタジエンゴムを含むゴム成分100質量部と、
カーボン及びシリカからなる群より選択される少なくとも1種の充填剤30~120質量部と、
0℃における飽和水溶液100g中の溶解量が1.6g以上18g未満であり、且つ、20℃における飽和水溶液のpHが9以上である、塩基性無機化合物
(ただし、アルカリ土類金属を含む化合物を除く)1~20質量部とを含有する、スタッドレスタイヤ用ゴム組成物。
【請求項2】
天然ゴム及びブタジエンゴムを含むゴム成分100質量部と、
カーボン及びシリカからなる群より選択される少なくとも1種の充填剤30~120質量部と、
0℃における飽和水溶液100g中の溶解量が1.6g以上18g未満であり、且つ、20℃における飽和水溶液のpHが9以上である、塩基性無機化合物1~20質量部とを含有し、
前記塩基性無機化合物が、リン酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム及びこれらの水和物からなる群より選択される少なくとも1種を含む
、スタッドレスタイヤ用ゴム組成物。
【請求項3】
前記充填剤が、シリカを含み、
前記塩基性無機化合物の含有量が、前記シリカの含有量に対して、7.5質量%以上である、請求項1又は2に記載のスタッドレスタイヤ用ゴム組成物。
【請求項4】
前記ブタジエンゴムが、末端に官能基を有する、請求項1~3のいずれか1項に記載のスタッドレスタイヤ用ゴム組成物。
【請求項5】
ガラス転移温度が、-60℃以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載のスタッドレスタイヤ用ゴム組成物。
【請求項6】
さらに、液体可塑剤15~60質量部を含有する、請求項1~5のいずれか1項に記載のスタッドレスタイヤ用ゴム組成物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載のスタッドレスタイヤ用ゴム組成物を用いて製造された、スタッドレスタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スタッドレスタイヤ用ゴム組成物及びスタッドレスタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、スタッドレスタイヤの氷上摩擦の向上を目的として、硫酸マグネシウムを含有するタイヤ用ゴム組成物が提案されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
昨今、求められる安全レベルの向上に伴い、スタッドレスタイヤの氷上性能(氷上での制動性)のさらなる向上が求められている。また、効率的に生産する観点から、加硫時間の短時間化が求められている。
このようななか、本発明者が特許文献1に記載のゴム組成物について検討したところ、氷上性能及び加硫時間ともに昨今要求されるレベルを必ずしも満たすものではないことが明らかになった。
【0005】
そこで、本発明は、上記実情を鑑みて、加硫時間が短く、且つ、タイヤにしたときに優れた氷上性能を示す、スタッドレスタイヤ用ゴム組成物、及び、上記ゴム組成物を用いて製造されたスタッドレスタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題について鋭意検討した結果、特定の塩基性無機化合物を配合することで上記課題が解決できることを見出し、本発明に至った。
すなわち、本発明者は、以下の構成により上記課題が解決できることを見出した。
【0007】
(1) 天然ゴム及びブタジエンゴムを含むゴム成分100質量部と、
カーボン及びシリカからなる群より選択される少なくとも1種の充填剤30~120質量部と、
0℃における飽和水溶液100g中の溶解量が18g未満であり、且つ、20℃における飽和水溶液のpHが9以上である、塩基性無機化合物1~20質量部とを含有する、スタッドレスタイヤ用ゴム組成物。
(2) 上記塩基性無機化合物が、リン酸水素ナトリウム、水酸化マグネシウム、亜硫酸ナトリウム及びこれらの水和物からなる群より選択される少なくとも1種を含む、上記(1)に記載のスタッドレスタイヤ用ゴム組成物。
(3) 上記充填剤が、シリカを含み、
上記塩基性無機化合物の含有量が、上記シリカの含有量に対して、7.5質量%以上である、上記(1)又は(2)に記載のスタッドレスタイヤ用ゴム組成物。
(4) 上記ブタジエンゴムが、末端に官能基を有する、上記(1)~(3)のいずれかに記載のスタッドレスタイヤ用ゴム組成物。
(5) ガラス転移温度が、-60℃以下である、上記(1)~(4)のいずれかに記載のスタッドレスタイヤ用ゴム組成物。
(6) さらに、液体可塑剤15~60質量部を含有する、上記(1)~(5)のいずれかに記載のスタッドレスタイヤ用ゴム組成物。
(7) 上記(1)~(6)のいずれかに記載のスタッドレスタイヤ用ゴム組成物を用いて製造された、スタッドレスタイヤ。
【発明の効果】
【0008】
以下に示すように、本発明によれば、加硫時間が短く、且つ、タイヤにしたときに優れた氷上性能を示す、スタッドレスタイヤ用ゴム組成物、及び、上記ゴム組成物を用いて製造されたスタッドレスタイヤを提供することができる。
なお、以下、タイヤにしたときに氷上性能に優れることを単に氷上性能に優れるとも言う。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明のスタッドレスタイヤの実施態様の一例の部分断面概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明のスタッドレスタイヤ用ゴム組成物及び本発明のスタッドレスタイヤについて説明する。
なお、本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
また、本発明のスタッドレスタイヤ用ゴム組成物が含有する各成分は、1種を単独でも用いても、2種以上を併用してもよい。ここで、各成分について2種以上を併用する場合、その成分について含有量とは、特段の断りが無い限り、合計の含有量を指す。
【0011】
[スタッドレスタイヤ用ゴム組成物]
本発明のスタッドレスタイヤ用ゴム組成物(以下、「本発明の組成物」とも言う)は、
天然ゴム及びブタジエンゴムを含むゴム成分100質量部と、
カーボン及びシリカからなる群より選択される少なくとも1種の充填剤30~120質量部と、
0℃における飽和水溶液100g中の溶解量が18g未満であり、且つ、20℃における飽和水溶液のpHが9以上である、塩基性無機化合物1~20質量部とを含有する、スタッドレスタイヤ用ゴム組成物である。
【0012】
本発明の組成物はこのような構成をとるため、上述した効果が得られるものと考えらえる。その理由は明らかではないが、上述した特定の塩基性無機化合物が充填剤と相互作用することによって、充填剤の界面付近が塩基性となり、結果として、充填剤が極めて高いレベルで分散することに起因するものと推測される。ここで、上述した特定の塩基性無機化合物は溶解性が低いため、ゴム組成物に残り易く、上述した効果が安定して発現されるものと推測される。
【0013】
以下、本発明の組成物が含有する各成分について説明する。
【0014】
〔ゴム成分〕
本発明の組成物は、天然ゴム(NR)及びブタジエンゴム(BR)を含むゴム成分を含有する。
上記ブタジエンゴムは、加硫時間がより短くなり、氷上性能により優れ、加工性により優れ、並びに、タイヤにしたときにWET性能、低燃費性能、耐摩耗性、耐久性、耐熱性、耐寒性、耐劣化性、耐汚染性、耐光性及び操縦安定性に優れる理由から、末端に官能基を有するのが好ましい。
以下、「加硫時間がより短くなり、氷上性能により優れ、加工性により優れ、並びに、タイヤにしたときにWET性能、低燃費性能、耐摩耗性、耐久性、耐熱性、耐寒性、耐劣化性、耐汚染性、耐光性及び操縦安定性に優れる」ことを「本発明の効果等がより優れる」とも言う。
ブタジエンゴムが末端に有する官能基は、本発明の効果等がより優れる理由から、アミノ基、アミド基、シリル基、アルコキシシリル基、オルガノポリシロキサン基、カルボキシ基、ヒドロキシ基等であることが好ましい。
【0015】
ゴム成分は天然ゴム及びブタジエンゴム以外のゴム成分を含んでいてもよい。
そのようなゴム成分としては、例えば、天然ゴム及びブタジエンゴム以外のジエン系ゴムが挙げられ、より具体的には、イソプレンゴム(IR)、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、スチレン-イソプレンゴム(SIR)、スチレン-イソプレン-ブタジエンゴム(SIBR)、ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム(Br-IIR、Cl-IIR)、クロロプレンゴム(CR)及びこれらの各ゴムの誘導体などが挙げられる。
【0016】
ゴム成分中の天然ゴム及びブタジエンゴムの合計の含有量は、本発明の効果等がより優れる理由から、30質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることがさらに好ましく、90質量%以上であることが特に好ましい。上限は特に制限されず、100質量%である。
【0017】
ゴム成分中のブタジエンゴムの含有量に対するゴム成分中の天然ゴムの含有量の割合は特に制限されないが、本発明の効果等がより優れる理由から、20~400質量%であることが好ましく、50~200質量%であることがより好ましく、100~150質量%であることがさらに好ましい。
【0018】
〔充填剤〕
本発明の組成物は、カーボン及びシリカからなる群より選択される少なくとも1種の充填剤を含有する。
本発明の組成物は、本発明の効果等がより優れる理由から、カーボン及びシリカを含有するのが好ましい。
【0019】
<カーボンブラック>
上記カーボンブラックは特に限定されず、例えば、SAF-HS、SAF、ISAF-HS、ISAF、ISAF-LS、IISAF-HS、HAF-HS、HAF、HAF-LS、FEF、GPF、SRF等の各種グレードのものを使用することができる。
上記カーボンブラックの窒素吸着比表面積(N2SA)は特に制限されないが、本発明の効果等がより優れる理由から、50~200m2/gであることが好ましく、70~150m2/gであることがより好ましい。
ここで、窒素吸着比表面積(N2SA)は、カーボンブラック表面への窒素吸着量をJIS K6217-2:2001「第2部:比表面積の求め方-窒素吸着法-単点法」にしたがって測定した値である。
【0020】
<シリカ>
上記シリカは特に制限されないが、例えば、湿式シリカ(含水ケイ酸)、乾式シリカ(無水ケイ酸)、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム等が挙げられる。なかでも、本発明の効果等がより優れる理由から、湿式シリカであることが好ましい。
【0021】
上記シリカのセチルトリメチルアンモニウムブロマイド(CTAB)吸着比表面積は特に制限されないが、本発明の効果等がより優れる理由から、100~400m2/gであることが好ましく、150~300m2/gであることがより好ましい。
ここで、CTAB吸着比表面積は、シリカ表面へのCTAB吸着量をJIS K6217-3:2001「第3部:比表面積の求め方-CTAB吸着法」にしたがって測定した値である。
【0022】
<含有量>
本発明の組成物において、上記充填剤の含有量(カーボンブラック及びシリカを併用する場合は合計の含有量)は、上述したゴム成分100質量部に対して、30~120質量部である。なかでも、本発明の効果等がより優れる理由から、40~100質量部であることが好ましく、50~80質量部であることがより好まし。
【0023】
また、本発明の組成物において、上記カーボンブラックの含有量は、本発明の効果等がより優れる理由から、上述したゴム成分100質量部に対して、1~100質量部であることが好ましく、5~50質量部であることがより好ましく、10~30質量部であることがより好ましい。
【0024】
また、本発明の組成物において、上記シリカの含有量は、本発明の効果等がより優れる理由から、上述したゴム成分100質量部に対して、10~110質量部であることが好ましく、20~90質量部であることがより好ましく、30~70質量部であることがさらに好ましく、40~60質量部であることが特に好ましい。
【0025】
〔塩基性無機化合物〕
本発明の組成物は、0℃における飽和水溶液100g中の溶解量が18g未満であり、且つ、20℃における飽和水溶液のpHが9以上である、塩基性無機化合物(以下、「特定化合物」とも言う)を含有する。
なお、本明細書において、特定化合物には、カーボンブラック及びシリカは含まれない。
【0026】
<溶解量>
上述のとおり、特定化合物は、0℃における飽和水溶液100g中の溶解量(以下、単に「溶解量」とも言う)が18g未満である。
特定化合物の溶解量は、本発明の効果等がより優れる理由から、15g以下であることが好ましく、10g以下であることがより好ましく、5g以下であることがさらに好ましい。溶解量の下限は特に制限されず、0gである。
【0027】
<pH>
上述のとおり、特定化合物は、20℃における飽和水溶液のpH(以下、単に「pH」とも言う)が9以上である。
特定化合物のpHは、9以上であれば特に制限なく、作業環境や本発明の効果等がより優れる理由から、13以下であることが好ましい。
【0028】
<好適な態様>
特定化合物は、本発明の効果等がより優れる理由から、リン酸水素ナトリウム、水酸化マグネシウム、亜硫酸ナトリウム及びこれらの水和物からなる群より選択される少なくとも1種を含むのが好ましく、リン酸水素ナトリウム、水酸化マグネシウム又は亜硫酸ナトリウムを含むのがより好ましく、リン酸水素ナトリウム、水酸化マグネシウム又は亜硫酸ナトリウムであることがさらに好ましく、リン酸水素ナトリウムであることが特に好ましい。
リン酸水素ナトリウムは、本発明の効果等がより優れる理由から、リン酸水素二ナトリウムであることが好ましい。
【0029】
<含有量>
本発明の組成物において、特定化合物の含有量は、上述したゴム成分100質量部に対して、1~20質量部である。なかでも、本発明の効果等がより優れる理由から、5~15質量部であることが好ましく、8~12質量部であることがより好ましい。
【0030】
上述した充填剤がシリカを含む場合、特定化合物の含有量は、本発明の効果等がより優れる理由から、シリカの含有量に対して、7.5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、15質量%以上であることがさらに好ましい。
上限は特に制限されないが、本発明の効果等がより優れる理由から、50質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましい。
【0031】
〔任意成分〕
本発明の組成物は、必要に応じて、上述した成分以外の成分(任意成分)を含有することができる。
そのような成分としては、例えば、カーボンブラック及びシリカ以外の充填剤、上述した特定化合物以外の無機化合物(例えば、硫酸マグネシウム)、シランカップリング剤、テルペン樹脂(好ましくは、芳香族変性テルペン樹脂)、熱膨張性マイクロカプセル、酸化亜鉛(亜鉛華)、ステアリン酸、老化防止剤、ワックス、加工助剤、可塑剤(特に、液体可塑剤)、液状ポリマー、熱硬化性樹脂、加硫剤(例えば、硫黄)、加硫促進剤などのゴム組成物に一般的に使用される各種添加剤などが挙げられる。
【0032】
<液体可塑剤>
本発明の組成物は、本発明の効果等がより優れる理由から、液体可塑剤を含有するのが好ましい。
【0033】
液体可塑剤は、可塑性を与える液体であれば特に制限されない。ここで、液体とは、25℃、1気圧において、液体であるものを意味する。
液体可塑剤としては、例えば、カルボン酸エステル、リン酸エステル、スルホン酸エステル、オイル等が挙げられる。なかでも、本発明の効果等がより優れる理由から、オイルが好ましく、アロマオイルがより好ましい。
【0034】
本発明の組成物において、液体可塑剤の含有量は特に制限されないが、本発明の効果等がより優れる理由から、上述したゴム成分100質量部に対して、15~60質量部であることが好ましく、20~40質量部であることがより好ましい。
【0035】
<シランカップリング剤>
本発明の組成物がシリカを含有する場合、本発明の組成物は、本発明の効果等がより優れる理由から、シランカップリング剤を含有するのが好ましい。
【0036】
シランカップリング剤は、加水分解性基および有機官能基を有するシラン化合物であれば特に制限されない。
上記加水分解性基は特に制限されないが、例えば、アルコキシ基、フェノキシ基、カルボキシ基、アルケニルオキシ基などが挙げられる。なかでも、本発明の効果等がより優れる理由から、アルコキシ基であることが好ましい。加水分解性基がアルコキシ基である場合、アルコキシ基の炭素数は、本発明の効果等がより優れる理由から、1~16であることが好ましく、1~4であることがより好ましい。炭素数1~4のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基などが挙げられる。
【0037】
上記有機官能基は特に制限されないが、有機化合物と化学結合を形成し得る基であることが好ましく、例えば、エポキシ基、ビニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、アミノ基、スルフィド基、メルカプト基、ブロックメルカプト基(保護メルカプト基)(例えば、オクタノイルチオ基)などが挙げられ、なかでも、本発明の効果等がより優れる理由から、スルフィド基(特に、ジスルフィド基、テトラスルフィド基)、メルカプト基、ブロックメルカプト基が好ましい。
シランカップリング剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0038】
上記シランカップリング剤は、本発明の効果等がより優れる理由から、硫黄含有シランカップリング剤であることが好ましい。
【0039】
上記シランカップリング剤の具体例としては、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、メルカプトプロピルトリメトキシシラン、メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3-トリメトキシシリルプロピル-N,N-ジメチルチオカルバモイル-テトラスルフィド、トリメトキシシリルプロピル-メルカプトベンゾチアゾールテトラスルフィド、トリエトキシシリルプロピル-メタクリレート-モノスルフィド、ジメトキシメチルシリルプロピル-N,N-ジメチルチオカルバモイル-テトラスルフィド、3-オクタノイルチオ-1-プロピルトリエトキシシラン等が挙げられ、これらのうち1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0040】
本発明の組成物において、シランカップリング剤の含有量は特に制限されないが、本発明の効果等がより優れる理由から、上述したシリカの含有量に対して1~20質量%であることが好ましく、5~15質量%であることがより好ましい。
【0041】
また、本発明の組成物において、シランカップリング剤の含有量は特に制限されないが、本発明の効果等がより優れる理由から、上述した特定化合物の含有量に対して10~80質量%であることが好ましく、20~60質量%であることがより好ましく、30~50質量%であることがさらに好ましい。
【0042】
<加硫促進剤>
本発明の組成物は、本発明の効果等がより優れる理由から、加硫促進剤を含有するのが好ましい。
【0043】
加硫促進剤は特に制限されないが、その具体例としては、スルフェンアミド系、チアゾール系、チウラム系、チオウレア系、グアニジン系、ジチオカルバミン酸系、アルデヒド-アミン系、アルデヒド-アンモニア系、イミダゾリン系、キサンテート系の加硫促進剤などが挙げられ、これらを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
本発明の組成物は、本発明の効果等がより優れる理由から、スルフェンアミド系の加硫促進剤(特に、CBS)、及び/又は、グアニジン系の加硫促進剤(特に、DPG)を含有することが好ましく、スルフェンアミド系の加硫促進剤(特に、CBS)、及び、グアニジン系の加硫促進剤(特に、DPG)を含有することがより好ましい。
【0044】
本発明の組成物において、加硫促進剤の含有量は特に制限されないが、本発明の効果等がより優れる理由から、上述したゴム成分100質量部に対して、0.1~10質量部であることが好ましく、1~5質量部であることがより好ましい。
【0045】
また、本発明の組成物において、加硫促進剤の含有量は特に制限されないが、本発明の効果等がより優れる理由から、上述した特定化合物の含有量に対して、1~50質量%であることが好ましく、5~40質量%であることがより好ましく、10~30質量%であることがさらに好ましい。
【0046】
〔ガラス転移温度〕
本発明の組成物のガラス転移温度(Tg)は、本発明の効果等がより優れる理由から、-60℃以下であることが好ましく、-62℃以下であることがより好ましい。下限は特に制限されないが、本発明の効果等がより優れる理由から、-80℃以上であることがより好ましく、-75℃以上であることがより好ましい。
なお、ガラス転移温度(Tg)は、示差走査熱量計(DSC)を用いて10℃/分の昇温速度で測定し、中点法にて算出したものとする。
【0047】
〔スタッドレスタイヤ用ゴム組成物の調製方法〕
本発明の組成物の製造方法は特に限定されず、その具体例としては、例えば、上述した各成分を、公知の方法、装置(例えば、バンバリーミキサー、ニーダー、ロールなど)を用いて、混練する方法などが挙げられる。本発明の組成物が硫黄又は加硫促進剤を含有する場合は、硫黄及び加硫促進剤以外の成分を先に高温(好ましくは100~160℃)で混合し、冷却してから、硫黄又は加硫促進剤を混合するのが好ましい。
また、本発明の組成物は、従来公知の加硫又は架橋条件で加硫又は架橋することができる。
【0048】
[スタッドレスタイヤ]
本発明のスタッドレスタイヤは、上述した本発明の組成物を用いて製造されたスタッドレスタイヤである。なかでも、本発明の組成物を用いて製造されたタイヤトレッド部を備えるスタッドレスタイヤであることが好ましい。
図1に、本発明のスタッドレスタイヤの実施態様の一例を表すスタッドレスタイヤの部分断面概略図を示すが、本発明のスタッドレスタイヤは
図1に示す態様に限定されるものではない。
【0049】
図1において、符号1はビード部を表し、符号2はサイドウォール部を表し、符号3はタイヤトレッド部を表す。
また、左右一対のビード部1間においては、繊維コードが埋設されたカーカス層4が装架されており、このカーカス層4の端部はビードコア5及びビードフィラー6の廻りにタイヤ内側から外側に折り返されて巻き上げられている。
また、タイヤトレッド部3においては、カーカス層4の外側に、ベルト層7がタイヤ1周に亘って配置されている。
また、ビード部1においては、リムに接する部分にリムクッション8が配置されている。
なお、タイヤトレッド部3は上述した本発明の組成物により形成されている。
【0050】
本発明のスタッドレスタイヤは、例えば、従来公知の方法に従って製造することができる。また、本発明のスタッドレスタイヤに充填する気体としては、通常の又は酸素分圧を調整した空気の他、窒素、アルゴン、ヘリウムなどの不活性ガスを用いることができる。
【実施例】
【0051】
以下、実施例により、本発明についてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0052】
〔スタッドレスタイヤ用ゴム組成物の調製〕
下記表1に示す成分を、同表に示す割合(質量部)で配合した。具体的には、まず硫黄及び加硫促進剤を除く成分を、1.7リットルの密閉型ミキサーで5分間混練し、150℃に達したときに放出してマスターバッチを得た。次に、得られたマスターバッチに硫黄及び加硫促進剤をオープンロールで混練し、各スタッドレスタイヤ用ゴム組成物を得た。
得られたスタッドレスタイヤ用ゴム組成物のガラス転移温度はいずれも-60℃以下であった。
【0053】
〔評価〕
得られたスタッドレスタイヤ用ゴム組成物について、以下の評価を行った。
【0054】
<T95>
得られたスタッドレスタイヤ用ゴム組成物について、JIS K6300-2:2001に準拠して、振動式ディスク加硫試験機により、振幅1度、160℃で95%の加硫度に達する時間(T95、分)を測定した。結果を表1に示す。結果は比較例1を100とする指数で表した。指数が小さいほど加硫時間が短いことを意味する。
【0055】
<氷上性能>
得られたスタッドレスタイヤ用ゴム組成物を所定の金型中で、170℃で10分間プレス加硫して加硫ゴム試験片を作製した。
得られた加硫ゴム試験片を偏平円柱状の台ゴムにはりつけ、インサイドドラム型氷上摩擦試験機にて、測定温度:-1.5℃、荷重:5.5kg/cm3、ドラム回転速度:25km/時間の条件で、氷上摩擦係数を測定した。
結果を表1に示す。結果は比較例1の氷上摩擦係数を100とする指数で表した。指数が大きいほどゴムと氷との摩擦力が大きく、タイヤにしたときに氷上性能に優れる。
【0056】
【0057】
上記表1に示される各成分の詳細は以下のとおりである。
・NR:TSR20(天然ゴム、Tg:-62℃)
・BR:Nipol BR1250H(末端にアミノ基を有するブタジエンゴム、日本ゼオン社製)
・シランカップリング剤:Si69(ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、エボニックデグッサ社製)
・シリカ:ZEOSIL 1165MP(CTAB吸着比表面積:159m2/g、ローディア社製)
・カーボンブラック:ショウブラックN339(N2SA:88m2/g、キャボットジャパン社製)
・WAX:パラフィンワックス(大内新興化学社製)
・老化防止剤:サントフレックス6PPD(アミン系老化防止剤、フレクシス社製)
・オイル:アロマオイル(エクストラクト4号S、昭和シェル石油社製)(上述した液体可塑剤に該当)
・硫黄:油処理イオウ(軽井沢精錬所社製)
・含硫黄加硫促進剤(CZ):ノクセラーCZ-G(大内新興化学社製)
・加硫促進剤(DPG):ノクセラーD(大内新興化学社製)
・リン酸水素二ナトリウム:リン酸水素二ナトリウム(溶解量:1.6g、pH:9~9.4)(上述した特定化合物に該当)
・水酸化マグネシウム:水酸化マグネシウム(溶解量:0.0g、pH:9.5~10.5)(上述した特定化合物に該当)
・亜硫酸ナトリウム:亜硫酸ナトリウム(溶解量:13.3g、pH:9~11)(上述した特定化合物に該当)
・硫酸マグネシウム:硫酸マグネシウム(溶解量:18g、pH:6~9)(溶解量が18g以上であるため上述した特定化合物に該当しない)
・炭酸カリウム:炭酸カリウム(溶解量:51.25g、pH:12)(溶解量が18g以上であるため上述した特定化合物に該当しない)
【0058】
なお、表1中、溶解量は、無機化合物(リン酸水素二ナトリウム、水酸化マグネシウム、亜硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、炭酸カリウム)の0℃における飽和水溶液100g中の溶解量を表し、pHは無機化合物(リン酸水素二ナトリウム、水酸化マグネシウム、亜硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、炭酸カリウム)の20℃における飽和水溶液のpHを表す。
【0059】
表1から分かるように、特定化合物を含有しない比較例1~4と比較して、特定化合物を含有する実施例1~3は、加硫時間が短く、且つ、優れた氷上性能を示した。
なかでも、特定化合物がリン酸水素ナトリウム又は水酸化マグネシウムを含む実施例1~2は、より優れた氷上性能を示した。そのなかでも、特定化合物がリン酸水素ナトリウムを含む実施例1は、加硫時間がさらに短く、且つ、さらに優れた氷上性能を示した。
【0060】
〔ゴム成分としてスチレンブタジエンゴムを使用した場合〕
ゴム成分として天然ゴム(NR)(55質量部)及びブタジエンゴム(BR)(45質量部)を使用する代わりにスチレンブタジエンゴム(SBR)(100質量部)を使用した点以外は、上述した実施例1~3及び比較例1~4と同様にゴム組成物を調製し、同様に評価した。結果を表2に示す。
【0061】
【0062】
表2から分かるように、ゴム成分としてスチレンブタジエンゴムを使用した場合には、特定化合物を配合することによって、加硫時間は短くなるものの、氷上性能が向上する効果は見られなかった。すなわち、特定化合物を配合することで氷上性能が向上する効果は、ゴム成分として天然ゴム及びブタジエンゴムを使用した場合に特有のものと言える。
【符号の説明】
【0063】
1 ビード部
2 サイドウォール部
3 タイヤトレッド部
4 カーカス層
5 ビードコア
6 ビードフィラー
7 ベルト層
8 リムクッション