IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日亜化学工業株式会社の特許一覧

特許7381839透過型偏光制御素子、光アイソレータ、偏光可変光源、および透過型偏光制御素子の製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-08
(45)【発行日】2023-11-16
(54)【発明の名称】透過型偏光制御素子、光アイソレータ、偏光可変光源、および透過型偏光制御素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/09 20060101AFI20231109BHJP
   G02F 1/015 20060101ALI20231109BHJP
   G02B 27/28 20060101ALI20231109BHJP
【FI】
G02F1/09 502
G02F1/09 501
G02F1/015 505
G02B27/28 A
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2019116903
(22)【出願日】2019-06-25
(65)【公開番号】P2021004909
(43)【公開日】2021-01-14
【審査請求日】2022-05-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000226057
【氏名又は名称】日亜化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101683
【弁理士】
【氏名又は名称】奥田 誠司
(74)【代理人】
【識別番号】100155000
【弁理士】
【氏名又は名称】喜多 修市
(74)【代理人】
【識別番号】100180529
【弁理士】
【氏名又は名称】梶谷 美道
(74)【代理人】
【識別番号】100125922
【弁理士】
【氏名又は名称】三宅 章子
(74)【代理人】
【識別番号】100184985
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 悠
(72)【発明者】
【氏名】門脇 拓也
(72)【発明者】
【氏名】大津 元一
(72)【発明者】
【氏名】川添 忠
【審査官】奥村 政人
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-008982(JP,A)
【文献】特開2016-038399(JP,A)
【文献】国際公開第2011/132668(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0139911(US,A1)
【文献】OHTSU et al.,Gigantic Ferromagnetic Magneto-Optical Effect in a SiC Light-emitting Diode Fabricated by Dressed-Photon-Phonon-Assisted Annealing,Off-shell archive,日本,2018年12月26日
【文献】門脇拓也、他,SiC発光ダイオードの表面電流を使った巨大偏光回転,2019年 第66回応用物理学会春季学術講演会[講演予稿集],日本,公益社団法人応用物理学会,2019年02月25日,p.03-333,10p-W621-17
【文献】竪直也、他,ZnO単結晶を用いた透過型光変調素子の開発とその偏光変調特性に関する検証 ,2015年 第76回応用物理学会秋季学術講演会[講演予稿集],日本,公益社団法人応用物理学会,2015年09月13日,p.03-537,16p-2G-11
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/00- 1/125
G02F 1/21- 7/00
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1面と前記第1面の反対側に第2面とを有し、前記第1面と前記第2面との間に、p型およびn型の一方である第1導電型を有する第1導電型領域、p型およびn型の他方である第2導電型を有する第2導電型領域、ならびに前記第1導電型領域と前記第2導電型領域との間に位置するpn接合を含む半導体層と、
前記第1面上に設けられ、前記pn接合を貫く方向に磁場を形成する電流が流れるループ状電極と、
前記第1導電型領域にドープされ、近接場光を形成する前記第1導電型の不純物が分布する近接場光形成領域と、
を備え、
前記ループ状電極によって囲まれた領域および前記近接場光形成領域を通過する直線偏光の偏光方向を、前記電流に応じて回転さ
前記ループ状電極は、ギャップを有するリング形状部分を含む、
透過型偏光制御素子。
【請求項2】
前記pn接合が、前記第2面よりも前記第1面に近い側に位置する、請求項1に記載の透過型偏光制御素子。
【請求項3】
前記第2面上に開口を備える導電部材をさらに有し、
前記開口の縁によって囲まれた領域は、前記ループ状電極が取り囲む領域直下の前記第2面上の領域の少なくとも一部と重なる、請求項1または2に記載の透過型偏光制御素子。
【請求項4】
記ギャップの長さは、前記リング形状部分の長さの25%以下である、請求項1から3のいずれかに記載の透過型偏光制御素子。
【請求項5】
前記リング形状部分の内径は、50μm以上3000μm以下である、請求項4に記載の透過型偏光制御素子。
【請求項6】
前記ループ状電極は、1巻以上の渦型導体を有している、請求項1から4のいずれかに記載の透過型偏光制御素子。
【請求項7】
前記第1面から前記第2面へ向かう方向から見たとき、前記ループ状電極によって囲まれた前記領域は、前記近接場光形成領域と重複している、請求項1から6のいずれかに記載の透過型偏光制御素子。
【請求項8】
前記半導体層は間接遷移型の半導体材料から形成されている、請求項1から7のいずれかに記載の透過型偏光制御素子。
【請求項9】
前記半導体材料は、SiCである、請求項8に記載の透過型偏光制御素子。
【請求項10】
前記半導体層は直接遷移型の半導体材料から形成されているである、請求項1から7のいずれかに記載の透過型偏光制御素子。
【請求項11】
前記半導体材料は、ZnOである、請求項10に記載の透過型偏光制御素子。
【請求項12】
前記ループ状電極は非磁性金属から形成されている、請求項1から11のいずれかに記載の透過型偏光制御素子。
【請求項13】
前記半導体層の前記第1面は矩形形状を有し、
前記第1面の2つの辺の各々の長さは、前記第1面に入射する光のビーム径よりも大きい、請求項1から12のいずれかに記載の透過型偏光制御素子。
【請求項14】
前記ループ状電極の両端は、ワイヤによって駆動回路と電気的に接続されている、請求項1から13のいずれかに記載の透過型偏光制御素子。
【請求項15】
請求項1から14のいずれかに記載の透過型偏光制御素子と、
前記透過型偏光制御素子の前記ループ状電極に電気的に接続され、前記ループ状電極を流れる電流を変化させることによって前記磁場を変調する、駆動回路と、
一対の偏光子であって、一方の偏光子は、前記透過型偏光制御素子の光入射側に配置され、他方の偏光子は、前記透過型偏光制御素子の光出射側に配置されており、偏光方向が45°回転した配置関係にある、一対の偏光子と、
を備える光アイソレータ。
【請求項16】
請求項1から14のいずれかに記載された偏光制御素子、または、請求項15に記載された光アイソレータと、
半導体レーザ素子と、
を備える偏光可変光源であって、
前記半導体レーザ素子から出射される光の波長は、前記半導体層を形成する半導体材料のエネルギーギャップに対応する波長よりも長い、偏光可変光源。
【請求項17】
p型およびn型の一方である第1導電型を有する第1導電型領域、p型およびn型の他方である第2導電型を有する第2導電型領域、および前記第1導電型領域と前記第2導電型領域との間に位置するpn接合を含む半導体層と、
前記半導体層上の第1面上に設けられた第1電極と、
前記第1面の反対側の第2面上に設けられた第2電極と、
を準備する工程と、
前記第1電極と前記第2電極との間に順方向電流を流しながら、レーザ光で前記半導体層を照射することにより、近接場光を形成する前記第1導電型の不純物が分布する近接場光形成領域を形成する工程と、
前記第1電極および前記第2電極を除去する工程と、
前記第1面上に、前記pn接合を貫く方向に磁場を形成する電流が流れるループ状電極を形成する工程と、
を含む、透過型偏光制御素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、透過型偏光制御素子、光アイソレータ、偏光可変光源、および透過型偏光制御素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
透過光の偏光方向を回転させるファラデー効果、および反射光の偏光方向を回転させる磁気カー効果は、磁気光学効果として知られている。磁気光学効果を示す磁気光学材料は、光の偏光方向を制御する偏光制御素子に広く利用されている。従来の磁気光学材料のうち、例えば磁性ガーネット(GdBiFe12)では、磁場を印加することによって波長800nm付近の赤外領域において磁気光学効果を得ることができる。しかし、磁性ガーネットでは、可視光領域において磁気光学効果を得ることはできない。
【0003】
近年、近接場光の一種である「ドレスト光子(dressed photon)」の作用により、半導体層に磁場を印加して可視光領域において磁気光学効果が得られることが報告されている。例えば、非特許文献1は、ドレスト光子の作用により、半導体層に磁場を印加して可視光領域における反射光の偏光方向を回転させる反射型偏光制御素子を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】M. Ohtsu and T.Kawazoe,, 『Gigantic Ferromagnetic Magneto-Optical Effects in a SiC Light-emitting Diode Fabricated by Dressed-Photon-Phonon Assisted Annealing』Off-shell archive, OffShell: 1809R.001.v1, (2018).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非特許文献1に開示されている反射型偏光制御素子とは異なる偏光制御素子の開発が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の透過型偏光制御素子は、一実施形態において、第1面と前記第1面の反対側に第2面とを有し、前記第1面と前記第2面との間に、p型およびn型の一方の導電型を有する第1導電型領域、p型およびn型の他方の導電型を有する第2導電型領域、ならびに前記第1導電型領域と前記第2導電型領域との間に位置するpn接合を含む半導体層と、前記第1面上に設けられ、前記pn接合を貫く方向に磁場を形成する電流が流れるループ状電極と、前記第1導電型領域にドープされ、近接場光を形成する前記第1導電型の不純物が分布する近接場光形成領域と、を備え、前記ループ状電極によって囲まれた領域および前記近接場光形成領域を通過する直線偏光の偏光方向を、前記電流に応じて回転させる。
【発明の効果】
【0007】
本開示の実施形態によれば、半導体層に磁場を印加して可視光領域における透過光の偏光方向を回転させる透過型偏光制御素子が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1A図1Aは、本開示の実施形態における偏光可変光源100Aの構成例を模式的に示す斜視図である。
図1B図1Bは、図1Aに示す偏光制御素子100の構成例を模式的に示すXZ平面における断面図である。
図2A図2Aは、実験系を模式的に示すブロック図である。
図2B図2Bは、偏光制御素子100におけるループ状電極20に流れる電流の値の時間変化と、光検出器66によって検出された光量の時間変化との関係を示す実験結果である。
図3A図3Aは、本実施形態における偏光可変光源200Aから光62tが出射される様子を模式的に示す図である。
図3B図3Bは、本実施形態における偏光可変光源200Aに、反射され戻ってきた光62rが入射する様子を模式的に示す図である。
図4A図4Aは、第1の変形例におけるループ状電極21の構成例を模式的に示す図である。
図4B図4Bは、第2の変形例におけるループ状電極22の構成例を模式的に示す図である。
図4C図4Cは、第3の変形例におけるループ状電極23の構成例を模式的に示す図である。
図5A図5Aは、本実施形態における偏光制御素子100の製造方法を説明するための図である。
図5B図5Bは、本実施形態における偏光制御素子100の製造方法を説明するための図である。
図5C図5Cは、本実施形態における偏光制御素子100の製造方法を説明するための図である。
図5D図5Dは、本実施形態における偏光制御素子100の製造方法を説明するための図である。
図6A図6Aは、本実施形態における偏光制御素子110の製造方法を説明するための図である。
図6B図6Bは、本実施形態における偏光制御素子110の製造方法を説明するための図である。
図6C図6Cは、本実施形態における偏光制御素子110の製造方法を説明するための図である。
図6D図6Dは、本実施形態における偏光制御素子110の製造方法を説明するための図である。
図7図7は、励起子ポラリトンの分散関係を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(ドレスト光子の概要)
ドレスト光子の理論および実験の詳細については、例えば、Dressed Photons: Concepts of Light-Matter Fusion Technology, Motoichi Ohtsu(Springer, Berlin, Heidelberg, 2014)に記載されている。以下に、ドレスト光子の概要を簡単に説明する。なお、ドレスト光子については未解明な部分も多くあり、ドレスト光子の概要の説明および実施形態の説明には仮説も含まれている。したがって、ドレスト光子の作用による磁気光学効果の原理を断定するわけではない。
【0010】
ドレスト光子は、半導体材料中に存在する電子・正孔対である励起子と光とが結合した励起子ポラリトンに関係している。図7は、励起子ポラリトンの分散関係を模式的に示す図である。放物線状の破線は励起子の分散関係を表し、直線状の破線は光の分散関係を表している。太い実線は、励起子と光とが結合することによって2つに分裂した励起子ポラリトンの分散関係を表している。2つに分裂した励起子ポラリトンの分散関係は「オンシェル(on shell)」と呼ばれている。一方、励起子ポラリトンの分散関係の周辺は、「オフシェル(off shell)」と呼ばれている。オフシェルには、仮想光子であるドレスト光子が存在する。ドレスト光子は、電子・正孔対のエネルギーの衣をまとった光子であると考えられている。ドレスト光子の生成確率は、励起子ポラリトンの分散関係から離れるほど低くなる。
【0011】
ドレスト光子は、励起子ポラリトンの分散関係の周辺に存在するので、ドレスト光子の運動量pおよびエネルギーEには、それぞれΔpおよびΔEの不確定性が存在する。オンシェルでは、光の局在サイズは、せいぜい光の波長程度である。これに対して、オフシェルでは、ドレスト光子の位置xの不確定性Δx~h/(2πΔp)(h:プランク定数)は運動量pの不確定性Δpが大きいほど小さくなるので、ドレスト光子の局在サイズは光の波長よりもはるかに小さくなる。オンシェルでは、光の生成・消滅時間は、せいぜい光の振動周期程度である。これに対して、オフシェルでは、ドレスト光子の時間tの不確定性Δt~h/(2πΔE)はエネルギーEの不確定性ΔEが大きいほど短くなるので、ドレスト光子の生成・消滅時間は光の振動周期よりもはるかに短くなる。このように、オフシェルのドレスト光子は、オンシェルの光では実現できない特性を有する。
【0012】
ドレスト光子は仮想光子であるため、単独では存在しない。ドレスト光子は、例えば結晶中の格子振動を表すフォノンを介して、ドレスト光子フォノン(dressed photon phonon)として存在し得る。ドレスト光子は、不規則に振動するインコヒーレントフォノンよりも、規則的に振動するコヒーレントフォノンと強く相互作用する。コヒーレントフォノンは、多数の原子によって構成されたバルク物質よりも、少数の原子によって構成されたナノ物質において安定的に存在する。このことは、原子間がバネによって接続されたモデルにおいて、バルク物質での多数の原子は様々な周期で振動するが、ナノ物質での少数原子は規則的に振動することからも理解できる。
【0013】
ドレスト光子フォノンでは、コヒーレントフォノンが生成されるナノ物質にドレスト光子が局在している。ドレスト光子がナノ物質に局在することができるのは、前述したようにドレスト光子が運動量pの不確定性Δpを有し、ドレスト光子の局在サイズがナノサイズになるからである。
【0014】
ドレスト光子を発生させるナノ物質は、例えば、物質のナノサイズの先端部であってもよいし、半導体材料中にドープされた不純物であってもよい。
【0015】
本開示では、ナノ物質に局在する近接場光の作用によって磁気光学効果を示す透過型偏光制御素子を説明する。
【0016】
以下、図面を参照しながら、本開示の実施形態における透過型偏光制御素子、光アイソレータ、偏光可変光源、および透過型偏光制御素子の製造方法を詳細に説明する。複数の図面に表れる同一符号の部分は同一または同等の部分を示す。
【0017】
さらに以下は、本開示の技術思想を具体化するために例示しているのであって、本開示を以下に限定しない。また、構成要素の寸法、材質、形状、その相対的配置などの記載は、本開示の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、例示することを意図している。各図面が示す部材の大きさや位置関係などは、理解を容易にするなどのために誇張している場合がある。
【0018】
(実施形態)
<透過型偏光制御素子>
まず、図1Aおよび図1Bを参照して、本開示の実施形態における透過型偏光制御素子、および透過型偏光制御素子を備える偏光可変光源の基本的な構成例を説明する。以下の説明では、透過型偏光制御素子を、単に「偏光制御素子」と称する。
【0019】
図1Aは、本開示の実施形態における偏光可変光源100Aの構成例を模式的に示す斜視図である。図1Bは、図1Aに示す偏光制御素子100の構成例を模式的に示すXZ平面における断面図である。添付の図面では、参考のために、互いに直交するX軸、Y軸およびZ軸が模式的に示されている。
【0020】
本実施形態における偏光可変光源100Aは、透過光の偏光方向を制御する偏光制御素子100と、レーザ光を出射する半導体レーザ素子を含む光源60とを備える。本実施形態における偏光制御素子100は、第1面10s1およびその反対側の第2面10s2を有する半導体層10と、第1面10s1上に設けられたループ状電極20と、半導体層10内で近接場光を形成する近接場光形成領域30と、第2面10s2上に設けられ、開口40oを備える導電部材40と、を備える。
【0021】
第1面10s1および第2面10s2は、XY平面に対して平行である。ループ状電極20は、ギャップ20gを有するリング形状部分20rを含む。ループ状電極20に電流を流すために、ループ状電極20の両端は、ワイヤ52によって駆動回路50と電気的に接続されている。平面状の白抜きの矢印は、光源60から出射され、偏光制御素子100に入射する直線偏光(linearly polarized light)である光62i、および偏光制御素子100を透過した直線偏光である光62tが伝搬する方向を表している。典型的には、光62iは、ループ状電極20によって囲まれた領域を通過し、第1面10s1に対して垂直な方向(Z軸の負方向)に入射し、光62tは、第2面10s2からその面に対して垂直な方向に出射され、導電部材40の開口40oを通過する。図1Aに示す例において、光62iおよび光62tの偏光方向は、光62iおよび光62tの伝搬方向に対して垂直な方向である。なお、光は第2面10s2に入射し、第1面10s1から出射されてもよい。
【0022】
半導体層10は、p型およびn型の一方の導電型を有する第1導電型領域12、p型およびn型の他方の導電型を有する第2導電型領域14、ならびに第1導電型領域12と第2導電型領域14との間(界面)に位置するpn接合16を含む。pn接合16は、第2面10s2よりも第1面10s1に近い側に位置する。pn接合16は、XY平面に対して平行であり得る。
【0023】
半導体層10は、非磁性材料であってよい。半導体層10は、例えば、SiCなどの間接遷移型の半導体材料、またはZnOなどの直接遷移型の半導体材料から形成され得る。これらの半導体材料は可視光領域で透明であり、透過型の偏光回転素子に適した材料である。SiCの場合、p型の不純物として例えばアルミニウム(Al)またはホウ素(B)をドープすることによってp型領域が形成され、n型の不純物として例えば窒素(N)またはリン(P)をドープすることによってn型領域が形成される。ZnOの場合、p型の不純物として例えば窒素(N)またはヒ素(As)をドープすることによってp型領域が形成され、n型の不純物として例えばアルミニウム(Al)またはガリウム(Ga)をドープすることによってn型領域が形成される。
【0024】
半導体層10のX方向およびY方向における辺の長さは、例えば100μm以上5000μm以下であり、半導体層10のZ方向における厚さは、例えば50μm以上100μm以下である。第1導電型領域12のZ方向における厚さは、例えば0.1μm以上3μm以下である。半導体層10のサイズは、上記のサイズよりも大きくてもよい。半導体層10のX方向およびY方向における辺の長さは、光62iのビーム径よりも大きくなるように設計され得る。
【0025】
ループ状電極20の両端のうち一方から他方に電流が流れると、pn接合16をZ方向に貫く磁場が形成される。ループ状電極を流れる電流が作る磁場の大きさは、ループ状電極からの距離に反比例する。したがって、pn接合16が第2面10s2よりも第1面10s1に近ければ、ループ状電極20とpn接合16との距離が近くなるので、pn接合16の近傍にある近接場光形成領域30に効率よく磁場を印加することができる。磁場を印加する理由については後述する。ループ状電極20におけるギャップ20gは磁場を形成しないので、ギャップ20gの長さが短い方が磁場は強くなる。ループ状電極20において、ギャップ20gの長さは、リング形状部分20rの長さの25%以下であり得る。磁場の強さは、リング形状部分20rの内径に反比例する。すなわち、リング形状部分20rの内径が小さいほど、磁場は強くなる。リング形状部分20rの内径は、50μm以上3000μm以下である。好ましくは、50μm以上1500μm以下である。
【0026】
ループ状電極20は、例えば、非磁性金属から形成され得る。ループ状電極20は、例えば非磁性金属層であるCr層とAu層とがZ方向に積層した積層構造を有し得る。Cr層の厚さは、例えば80nm以上120nm以下であり、Au層の厚さは、例えば400nm以上600nm以下である。ループ状電極はさらにPt層を設けてもよい。Pt層の厚さは、例えば80nm以上120nm以下である。非磁性金属から形成されたループ状電極20は、ループ状電極の材料に起因する磁気光学効果を示さず、透過光の偏光方向を回転させることはない。したがって、本実施形態に係る透過型偏光制御素子では、ループ状電極を流れる電流により形成される磁場の大きさによって偏光の回転量が変化する。つまり、非磁性金属をループ状電極に用いれば、ループ状電極に流す電流を制御することで偏光の回転量を容易に制御することができる。なお、ループ状電極20が透過光の偏光方向を回転させてもよいのであれば、ループ状電極20は磁性金属から形成されていてもよい。
【0027】
近接場光形成領域30は、製造方法の実施形態において詳細を後述するドレスト光子フォノン援用アニール(dressed photon phonon-assisted annealing、以下「DPPアニール」と称する)により、第1導電型領域12内に、pn接合16に沿って形成される。DPPアニールは、pn接合16に順方向電流を流すことで、ジュール熱によって第1導電型領域12を加熱(アニール)しながら、半導体層10を光で照射することによって行われる。
【0028】
近接場光形成領域30およびそれ以外の領域を含む第1導電型領域12には、第1導電型の不純物がドープされている。近接場光形成領域30における第1導電型の不純物は、近接場光を形成するが、近接場光形成領域30以外の領域における第1導電型の不純物は、近接場光を形成しない。近接場光を形成する第1導電型の不純物は、少数の原子から構成されるナノ物質であり、例えば2つの原子から形成されたドーパント対であり得る。ドーパント対のように少数の原子から構成されるナノ物質では、コヒーレントフォノンが安定的に存在し、近接場光が形成されやすい。近接場光形成領域30では、複数のドーパント対が分布している。近接場光形成領域30に特定の波長範囲の光が入射すると、近接場光が形成される。特定の波長範囲については後述する。本明細書では、近接場光を形成する第1導電型の不純物が分布する領域を、「近接場光形成領域30」と称する。
【0029】
さらに、近接場光形成領域30におけるドーパント対は、2つの原子にそれぞれ位置するスピンを入れ替えた場合にスピン関数が反対称になるスピン一重項と、スピン関数が対称になるスピン三重項とを有する。スピン一重項は1つのエネルギー状態を有し、スピン三重項はゼロ磁場において3つの縮退したエネルギー状態を有する。Alのドーパント対のように、スピン三重項がスピン一重項よりもエネルギー的に安定なとき、スピン三重項の3つのエネルギー状態の1つにおける互いに平行な2つのスピンは、強磁性体と類似する特性を引き起こす。この原理により、近接場光形成領域30では、強磁性体と類似する特性が現れる。近接場光形成領域30に磁場を印加すると、複数のドーパント対におけるスピンは、磁場の方向に揃い、近接場光形成領域30は磁化される。第1面10s1から第2面10s2へ向かう方向から見たとき、ループ状電極20によって囲まれた領域は、近接場光形成領域30と重複している。この配置関係により、ループ状電極20によって囲まれた領域に入射する光62iは、磁化された近接場光形成領域30を通過することができ、磁気光学効果が得られる。
【0030】
導電部材40は、近接場光形成領域30を形成するためのDPPアニールの際に用いられる。図1Bに示す導電部材40における開口40oの縁によって囲まれた領域は、ループ状電極20が取り囲む領域直下の第2面10s2上の領域の少なくとも一部と重なる。開口40oの縁によって囲まれた領域の内径は、例えば、50μm以上3000μm以下であり、好ましくは50μm以上、1000μm以下である。導電部材40は、偏光制御素子100の動作時に必要な構成要素ではないのでDPPアニール後に除去してもよいが、導電部材40の上記の配置関係から光の通過の妨げにならないので、除去せず残しておくことで製造工程を減らすことができる。
【0031】
導電部材40は、ループ状電極20と同様に、例えば、非磁性金属から形成され得る。導電部材40は、例えば非磁性金属層であるCr層とPt層とAu層とがZ方向に積層した積層構造から形成され得る。Cr層の厚さは、例えば80nm以上120nm以下であり、Pt層の厚さは、例えば80nm以上120nm以下であり、Au層の厚さは、例えば400nm以上600nm以下である。導電部材40が非磁性金属から形成されるか磁性金属から形成されるかは、ループ状電極20について説明した通りである。
【0032】
駆動回路50は、ループ状電極20に流れる電流の値および向きを変化させることにより、近接場光形成領域30に印加される磁場の強さおよび向き(±Z方向)を調整することができる。+Z方向とは、Z方向を示す矢印と同じ方向であり、-Z方向とは、Z方向を示す矢印とは反対の方向である。
【0033】
光源60は、直線偏光を出射するレーザ素子を含み得る。レーザ光の波長は、近接場光を形成する特定の波長範囲にあることが望ましい。特定の波長範囲は、DPPアニール時の照射光の波長の80%以上120%以下の範囲である。半導体材料が間接遷移型のSiCである場合、半導体レーザ素子から出射された光の波長は、例えば360nm以上600nm以下であり、好ましくは、400nm以上、600nm以下である。半導体材料が直接遷移型のZnOである場合、半導体レーザ素子から出射された光の波長は、例えば300nm以上550nm以下であり、好ましくは360nm以上550nm以下である。半導体レーザ素子から出射されたレーザ光の波長が、半導体層10を形成する半導体材料のエネルギーギャップに対応する波長よりも長ければ、半導体層10での光吸収を低減することができる。
【0034】
半導体レーザ素子は、例えば、n型クラッド層、活性層、およびp型クラッド層を含む積層構造を備える。p型クラッド層とn型クラッド層とに電圧を印加して閾値以上の電流を流すことにより、半導体レーザ素子は、活性層の出射端面からレーザ光を出射する。半導体レーザ素子は、例えば、可視光領域のレーザ光、または赤外もしくは紫外のレーザ光を出射する。半導体レーザ素子に含まれる半導体に制限はない。半導体レーザ素子は、例えば、GaAsなどの砒化物半導体を含んでいてもよいし、GaNなどの窒化物半導体を含んでいてもよい。
【0035】
半導体レーザ素子から発振したレーザ光である光62iが磁化された近接場光形成領域30へ入射すると、近接場光形成領域30を通過する際に光62iの偏光方向が回転し、第2導電型領域14を通過して、光62tとして外部に出射される。以上の過程により、透過光である光62tの偏光方向は、入射光である光62iの偏光方向と比較して回転する。
【0036】
以上のように、本実施形態によれば、半導体層に磁場を印加して可視光領域における透過光の偏光方向を回転させる透過型偏光制御素子が提供される。
【0037】
<偏光制御素子100の実施例>
次に、図2Aから図2Cを参照して、室温で偏光制御素子100によって可視光領域における透過光の偏光方向が回転する実験結果を説明する。半導体層10は、間接遷移型の非磁性半導体材料である4H-SiCから形成されている。第1導電型領域12は「p型領域12」、第2導電型領域14は「n型領域14」、第1導電型の不純物は「p型の不純物」である。
【0038】
図2Aは、実験系を模式的に示すブロック図である。半導体レーザ素子を含む光源60から出射された波長450nmのレーザ光が、偏光ビームスプリッタ63を通過し、偏光制御素子100に入射する。偏光ビームスプリッタ63を通過した光の偏光方向はX方向に対して平行である。偏光制御素子100を透過した光は、偏光子64を通過し、レンズ65によって集束され、光検出器66によって検出される。偏光子64の偏光方向はY方向に対して平行であり、偏光ビームスプリッタ63を通過した光の偏光方向に直交している。
【0039】
図2Bは、偏光制御素子100におけるループ状電極20に流れる電流の値の時間変化と、光検出器66によって検出された光量の時間変化との関係を示す実験結果である。破線は、ループ状電極20に流れる電流の値を表し、実線は、検出光量に相当する電圧の値を表している。電圧はフォトダイオードを用いて観測した。ループ状電極20に流れる電流の値は、図1Aに示す駆動回路50によって調整した。電流値がゼロのとき、検出光量もゼロであった。すなわち、図1Aに示す透過光である光62tの偏光方向は、入射光である光62iの偏光方向に等しかった。電流値が増加すると、検出光量も電流値にしたがって増加し、電流値が減少すると、検出光量も電流値にしたがって減少した。すなわち、図1Aに示す透過光である光62tの偏光方向は、ループ状電極20に流れる電流の値にしたがって回転した。電流値の周期的な変化とともに、検出光量も周期的に変化した。電流値の変化のタイミングと、検出光量の変化のタイミングはほぼ同じであった。磁束密度に対する偏光回転角θの変化率は大きく、5.4deg/mTであった。図2Bに示す実験結果は、可視光領域における透過光の偏光回転角が偏光制御素子100によって制御可能であることを示している。
【0040】
透過光である光62tの偏光方向の回転の大きさは、入射光である光62iの偏光方向と、半導体層10を形成する4H-SiCの結晶方向とにも依存する。4H-SiCの結晶において、入射光である光62iの偏光方向が逆格子空間のΓ-M方向に対して平行である場合、透過光である光62tの偏光方向は最も大きく回転する。図2Bに示す実験結果がこの場合に相当する。入射光である光62iの偏光方向がΓ-M方向に対して平行でない場合、透過光である光62tの偏光方向の回転は小さくなる。このように面内方向において異方性が生じるのは、以下の理由が考えられる。間接遷移型の半導体材料である4H-SiCでは、エネルギーバンド構造において、価電子帯の最高エネルギーがΓ点に存在し、伝導帯の最低エネルギーがM点に存在する。運動量が一致しないΓ-M間でドレスト光子フォノンを生成させるために、近接場光形成領域30では、複数のドーパント対が4H-SiCの結晶中の特定方向に沿って配列することで、面内方向において異方性が生じると考えられる。
【0041】
以上のように、本実施形態における偏光制御素子100は、ループ状電極20によって囲まれた領域および近接場光形成領域30を通過する直線偏光の偏光方向を、ループ状電極20に流れる電流に応じて回転させることができる。これにより、本実施形態における偏光可変光源100Aから出射される光62tの偏光方向を変化させることができる。
【0042】
<光アイソレータ>
次に、図3Aおよび図3Bを参照して、本実施形態における光アイソレータ、および光アイソレータを備える偏光可変光源の基本的な構成例を説明する。
【0043】
図3Aは、本実施形態における偏光可変光源200Aから光62tが出射される様子を模式的に示す図である。図3Bは、本実施形態における偏光可変光源200Aに、反射して戻ってきた光62rが入射する様子を模式的に示す図である。本実施形態における偏光可変光源200Aは、反射され戻ってきた光を遮断する光アイソレータ200と、半導体レーザ素子を含む光源60とを備える。本実施形態における光アイソレータ200は、偏光制御素子100と、駆動回路50と、偏光制御素子100の光入射側に配置された第1偏光子70aと、偏光制御素子100の光出射側に配置された第2偏光子70bとを備える。
【0044】
駆動回路50は、ループ状電極20にワイヤ52によって電気的に接続され、ループ状電極20を流れる電流を変化させることによって磁場を変調する。具体的には、駆動回路50は、偏光制御素子100を透過した光の偏光方向が45°回転するように、ループ状電極20に電流を流す。
【0045】
第1偏光子70aおよび第2偏光子70bの偏光方向は、45°回転した配置関係にある。図3Aおよび図3Bに示す例では、第1偏光子70aの偏光方向は、X方向に対して平行であり、第2偏光子70bの偏光方向は、XY平面においてX軸の矢印の方向からY軸の矢印の方向に向けて45°回転(以下、「XY平面を反時計回りに45°回転」と称する)した方向に対して平行である。第1偏光子70aおよび第2偏光子70bにおける縞模様に対して平行な方向が、偏光子の偏光方向に相当する。第1偏光子70aおよび第2偏光子70bを、「一対の偏光子」と称することがある。
【0046】
図3Aに示す例では、光源60から出射された光62iの偏光方向は、第1偏光子70aの偏光方向に等しい。したがって、光62iは、第1偏光子70aを通過し、偏光制御素子100に入射する。偏光制御素子100を透過した光62tの偏光方向は、光62iの偏光方向と比較してXY平面において反時計回りに45°だけ回転し、第2偏光子70bの偏光方向に等しくなる。したがって、光62tは、第2偏光子70bを通過することができる。
【0047】
図3Bに示す例では、反射されて戻ってきた光62rの偏光方向は、第2偏光子70bの偏光方向に等しい。したがって、光62rは、第2偏光子70bを通過し、偏光制御素子100に入射する。偏光制御素子100を透過した光62rtの偏光方向は、磁気光学効果の非相反性(nonreciprocity)により、光62rと比較してXY平面において反時計回りにさらに45°だけ回転し、第1偏光子70aの偏光方向に直交する。したがって、光62rtは、第1偏光子70aを通過することができなくなる。
【0048】
光源60から出射された光が戻ってきて、光源60に入射すると、光源60の動作に悪影響を与える可能性がある。本実施形態における光アイソレータ200は、戻り光による光源60の動作の悪影響を低減することができる。
【0049】
本実施形態における偏光可変光源200Aでは、駆動回路50によってループ状電極20に流れる電流の値を変化させて偏光制御素子100を透過する光の偏光回転角を調整することにより、第2偏光子70bから出射される光の強度を調整することができる。偏光制御素子100を透過する光の偏光回転角が0°の場合、第2偏光子70bから出射される光の強度はゼロであり、偏光制御素子100を透過する光の偏光回転角が45°の場合、第2偏光子70bから出射される光の強度は最大になる。
【0050】
半導体レーザ素子に注入する電流の値を変化させて半導体レーザ素子から出射される光の強度を調整すると、半導体レーザ素子の動作が不安定になることがある。これに対して、偏光可変光源200Aでは、光源60の外部で出射光の強度を調整することができる。
【0051】
以上のように、本開示では、近接場光によって得られた磁気光学効果により、半導体層に磁場を印加して可視光領域における透過光の偏光方向を回転させることができる。
【0052】
<ループ状電極の変形例>
前述した例では、ループ状電極20におけるリング形状部分20rは1個のギャップ20gを有しているが、2個以上のギャップを有していてもよい。
【0053】
図4Aは、第1の変形例におけるループ状電極21の構成例を模式的に示す図である。ループ状電極21は、第1ギャップ21g1および第2ギャップ21g2を有するリング形状部分21rを含む。リング形状部分21rは、第1弓状部分21r1および第2弓状部分21r2を有し、第1弓状部分21r1および第2弓状部分21r2は、湾曲部分を外側にして対向している。第1ギャップ21g1および第2ギャップ21g2の各々は、第1弓状部分21r1と第2弓状部分21r2との隙間に相当する。前述したようにギャップの長さが短い方が、強い磁場が形成される。図4Aに示す例では、第1ギャップ21g1の長さと第2ギャップ21g2の長さとの合計が、第1弓状部分21r1の円弧の長さと第2弓状部分21r2の円弧の長さとの合計の25%以下である。第1弓状部分21r1および第2弓状部分21r2の各々の一端から他端に向けて、XY平面において時計回りの同じ方向に電流を流すことにより、ループ状電極21によって囲まれた領域には、-Z方向に磁場が発生する。また、XY平面において反時計周りに同じ方向の電流を流すことにより、ループ状電極21によって囲まれた領域には+Z方向に磁場が発生する。
【0054】
前述した例以外に、ループ状電極は、1巻き以上の渦型導体またはコイル導体を有していてもよい。ループ状電極を流れる電流により形成される磁場の大きさは重ね合わせの原理によって大きくなる。したがって、複数の巻き数を有するループ状電極を用いれば、巻き数が1のループ状電極と比べて同じ電流値でより大きな磁場を印加できるようになる。言い換えると、巻き数が1の場合と2以上の場合とで同じ大きさの磁場を印加する場合は、巻き数が2以上の場合の方が必要となる電流値が小さくすることができる。これにより、ループ状電極を流れる電流により発生する熱の影響で偏光制御素子100が劣化することを低減することができる。
【0055】
図4Bは、第2の変形例におけるループ状電極22の構成例を模式的に示す図である。ループ状電極22は、3巻きの渦型導体を有している。巻き数は任意であり、1巻き以上である。コイル導体の一端から他端に向けて電流を流すことにより、Z方向から見てループ状電極22の一番内側のリング形状部分によって囲まれた領域には、Z方向に磁場が形成される。磁場は巻き数に比例して強くなる。
【0056】
図4Cは、第3の変形例におけるループ状電極23の構成例を模式的に示す図である。ループ状電極23は、3巻きのコイル導体を有している。巻き数は任意であり、1巻以上である。コイル導体は、例えば、各々がギャップを有する複数のリング形状部分23rが、不図示の絶縁層を介してZ方向に積層された構造を有し得る。隣接するリング形状部分23rの端は、電流が複数のリング形状部分23rに同じ方向に流れるように、導電部分23cによって電気的に接続されている。コイル導体の一端から他端に向けて電流を流すことにより、Z方向から見てループ状電極23によって囲まれた領域には、Z方向に磁場が形成される。磁場は巻き数に比例して強くなる。コイル導体の上記の一端は、一番下にあるリング形状部分23rの両端のうち導電部分23cが接続されていない方の端に相当し、コイル導体の上記の他端は一番上にあるリング形状部分23rの両端のうち導電部分23cが接続されていない方の端に相当する。
【0057】
図1Aに示すループ状電極20の代わりに、図4Aから図4Cにそれぞれ示すループ状電極21からループ状電極23を用いても、同じ効果が得られる。
【0058】
(偏光制御素子の製造方法)
以下に、図5Aから図5Dおよび図6Aから図6Dを参照して、本開示の偏光制御素子の製造方法の実施形態を説明する。以下の実施形態は、半導体ウエハに複数の偏光制御素子を形成し、その半導体ウエハを個片化することによって1つの偏光制御素子を製造する製造方法も含む。
【0059】
図5Aから図5Dは、本実施形態における偏光制御素子100の製造方法を説明するための図である。
【0060】
最初の工程では、図5Aに示すように、半導体層10が準備される。半導体層10はp型およびn型の一方の導電型を有する第1導電型領域12と、p型およびn型の他方の導電型を有する第2導電型領域14と、第1導電型領域12と第2導電型領域14との間に位置するpn接合16と、を含んでいる。半導体層10は、図5Bに示すように、半導体層10の第1面10s1上に設けられた第1電極と、半導体層10の第1面10s1の反対側の第2面10s2上に設けられた第2電極とを備えている。
【0061】
第1導電型領域12はp型もしくはn型の不純物を有しており、また、第2導電領域14は第1導電型領域12の不純物とは異なる導電型の不純物を有している。第1導電型の不純物は、例えば、イオン注入により行うことができる。イオン注入を行う場合は、イオン注入を行った後に、半導体層10の結晶構造を回復させるためにアニールを行ってもよい。アニールは所定の時間で1回行っても良いし、複数回行ってもよい。
【0062】
第1電極はループ状電極20であり、第2電極は開口40оを備える導電部材40である。
【0063】
次の工程では、図5Cに示すように、第1電極および第2電極にワイヤ52によって電源54を電気的に接続し、第1電極から第2電極との間に順方向電流を流しながら、レーザ光を半導体層10に照射することにより、近接場光を形成する第1導電型の不純物が分布する近接場光形成領域30を設ける。ジュール熱によって第1導電型領域12をアニールすると、不純物が拡散され、不純物の再分布が引き起こされる。レーザ光を半導体層に照射することで、不純物の位置にドレスト光子およびドレスト光子フォノンが生じる。
【0064】
ドレスト光子フォノンは、ドレスト光子と同様に運動量pの不確定性Δpを有している。このため、価電子帯の最高エネルギーと伝導帯の最低エネルギーとでの運動量の不一致が問題にならず、間接遷移型の半導体材料であっても、順方向電流によって反転分布が生じたpn接合16の近傍において、光が誘導放出される。光の誘導放出によってドーパント対はエネルギーを失い、ドーパント対の熱拡散が収まる。その結果、ドーパント対は、照射光に応じた位置に自己組織的に分布する。この分布は不均一であるが、分布が均一であるか不均一であるかは近接場光の形成には関係がない。複数のドーパント対が分布した領域が、図1Bに示す近接場光形成領域30に相当する。DPPアニール後では、前述した特定の波長範囲の光が近接場光形成領域30に入射すると、順方向電流を流さなくても、近接場光が形成される。なお、DPPアニール後の間接遷移型の半導体材料であるSiCに順方向電流を流すと、発光が生じる。このときに発せられる光は、DPPアニール時の照射光と同じ波長を含んでいる。
【0065】
次の工程では、図5Dに示すようにワイヤ52および電源54を除去して偏光制御素子100が得られる。第2面10s2上に設けられた導電部材40は、偏光制御素子100の動作時には不要であるので除去してもよい。
【0066】
以下では、4H-SiCから形成された半導体層10が4H-SiCである場合について説明する。
【0067】
半導体層10は、例えば、以下のように形成される。10mΩcm以上1000mΩcm以下のn型4H-SiC基板(0001)上に厚さ100nm以上500nm以下のn型SiCバッファー層が形成され、n型SiCバッファー層上に厚さ1μm以上10μm以下のn型SiCエピタキシャル層が形成される。n型の不純物は窒素(N)である。n型4H-SiC基板(0001)でのNのドープ量は例えば1×1016cm-3以上2×1019cm-3以下であり、n型SiCエピタキシャル層でのNのドープ量は例えば1×1015cm-3以上1×1016cm-3以下である。n型SiCエピタキシャル層の表面にp型の不純物としてAlイオンのイオン注入を行うことにより、n型SiCエピタキシャル層の表面は、p型SiC層になる。p型SiC層でのAlのドープ量は、pn接合16近傍において例えば1×1018cm-3以上2×1019cm-3以下である。イオン注入した後で結晶構造を回復させるために複数回アニールしてもよい。1回のアニール時間は、例えば、3分以上15分以下である。好ましくは3分以上10分以下である。
【0068】
本実施形態では、n型4H-SiC基板(0001)のc軸は、Z方向に対して平行であるが、Z方向に対して平行でなくてもよい。ただし、c軸がZ方向に対して平行でない場合、複屈折の影響により、偏光制御素子100をZ方向に透過する光の偏光方向は、磁場を印加しなくても回転し得る。
【0069】
図5Aに示すように、第2導電型領域14は、第1サブ領域14aおよび、その上に位置する第2サブ領域14bを含む。n型4H-SiC基板(0001)およびn型SiCバッファー層は、第1サブ領域14aに相当し、n型SiCエピタキシャル層は、第2サブ領域14bに相当する。p型SiC層は、第1導電型領域12に相当する。
【0070】
次の工程では、図5Bに示すように、ループ状電極20が半導体層10の第1面10s1上に設けられ、開口40oを備える導電部材40が半導体層10の第2面10s2上に設けられる。図5Bでは、説明の便宜上、ループ状電極20と、半導体層10と、導電部材40とが分離された状態で記載されている。ループ状電極20によって囲まれた領域を通過し、第1面10s1に入射した光は、第2面10s2から出射され、導電部材40における開口40oを通過する。
【0071】
次の工程では、図5Cに示すように、DPPアニールが行われる。すなわち、ループ状電極20および導電部材40にワイヤ52によって電源54を電気的に接続し、ループ状電極20と導電部材40との間に順方向電流を流しながら、光源60から出射されたレーザ光である光62iが半導体層10に照射される。ループ状電極20と導電部材40との間に、電流密度が1A/cm以上3A/cm以下である順方向電流を流してジュール熱によって第1導電型領域12をアニールすると、p型の不純物がpn接合16に沿って熱拡散し、p型の不純物の再分布が引き起こされる。このアニールの際に第1導電型導領域12を例えば波長365nm以上450nm以下およびパワー20mW以上100mW以下のレーザ光である62iで30分以上120分以下照射すると、p型の不純物は、照射光に応じた複数のドーパント対(Alドーパント対)を形成する。このドーパント対におけるコヒーレントフォノンと、照射光から変換されたドレスト光子とが相互作用してドレスト光子フォノンが生成される。
【0072】
次の工程では、図5Dに示すように、ワイヤ52および電源54を除去して偏光制御素子100が得られる。第2面10s2上に設けられた導電部材40は、偏光制御素子100の動作時には不要であるので除去してもよい。
【0073】
次に、図6Aから図6Dを参照して、本開示の偏光制御素子の他の製造方法を説明する。図6Aから図6Dは、本実施形態における偏光制御素子110の製造方法を説明するための図である。
【0074】
まず、最初の工程では、半導体層10と、半導体層10の第1面10s1上に設けられた第1電極80aと、半導体層10の第2面10s2上に設けられた第2電極80bとが準備される。半導体層10はp型およびn型の一方の導電型を有する第1導電型領域12と、p型およびn型の他方の導電型を有する第2導電型領域14と、第1導電型領域12と第2導電型領域との間に位置するpn接合16と、を含んでいる。また、第1電極80aは例えばH型の形状を有し、第2電極80bは例えば平板形状を有し得る。第1電極80aの形状および第2電極80bの形状は任意である。
【0075】
次の工程では、図6Bに示すように、DPPアニールが行われる。すなわち、第1電極80aおよび第2電極80bにワイヤ52によって電源54を電気的に接続し、第1電極80aと第2電極80bとの間に順方向電流を流しながら、光源60から出射されたレーザ光である光62iが半導体層10に照射される。これにより、図1Bに示すように、第1導電型領域12内に近接場光形成領域30が形成される。レーザ光である光62iは、半導体層10の第1面10s1のうち、第1電極80aが設けられていない箇所から半導体層10に入射することができる。なお、第1電極80aがITOなどの透明電極であれば、第1電極80aは第1面10s1全体を覆ってもよい。
【0076】
次の工程では、図6Cに示すように、第1電極80aおよび第2電極80bが除去される。第2電極80bが透明電極であれば、第2電極80bは除去しなくてもよい。
【0077】
次の工程では、図6Dに示すように、半導体層10の第1面10s1上にループ状電極20を形成して偏光制御素子110が得られる。図6Dに示す偏光制御素子110では、図5Dに示す偏光制御素子100とは異なり、導電部材40が存在しない。
【0078】
図6Aから図6Dを参照して説明した偏光制御素子110の製造方法では、n型領域およびp型領域が形成された半導体ウエハの上面に、例えばメッシュ形状を有する第1電極80aを設け、下面に例えば平板形状を有する第2電極80bを設けることにより、半導体ウエハのDPPアニールを行うことができる。メッシュ形状を有する第1電極80aの一箇所と、平板形状を有する第2電極80bの一箇所とにワイヤ52によって電源54を接続することにより、半導体ウエハ全体に順方向電流を流すことができる。DPPアニール時の照射光は、第1電極80aのメッシュ部分から半導体ウエハに入射する。
【0079】
半導体ウエハにDPPアニールを行った後、第1電極80aおよび第2電極80bを除去し、半導体ウエハの上面に複数のループ状電極20をX方向およびY方向に沿って配列し、ダイシングなどの加工によって複数のループ状電極20を備える半導体ウエハを個片化してもよい。これにより、偏光制御素子110を量産することができる。
【0080】
<製造方法の実施例>
図5Aに示す半導体層10は、以下のように形成された。25mΩcmのn型4H-SiC基板(0001)上に厚さ500nmのn型SiCバッファー層が形成され、n型SiCバッファー層上に厚さ10μmのn型SiCエピタキシャル層が形成された。n型の不純物は窒素(N)であった。n型4H-SiC基板(0001)でのNのドープ量は1×1018cm-3であり、n型SiCエピタキシャル層でのNのドープ量は1×1016cm-3であった。n型SiCエピタキシャル層の表面にp型の不純物としてAlのイオン注入を行うことにより、n型SiCエピタキシャル層の表面は、p型SiC層になった。p型SiC層でのAlのドープ量は、pn接合16近傍において例えば1×1019cm-3であった。Alイオンを活性化するために、1800℃で5分間のアニールを半導体層10に2回行った。
【0081】
図5Aに示す半導体層10のX方向およびY方向における辺の長さは3000μmであり、Z方向における厚さは75μmであった。
【0082】
図5Bに示すループ状電極20は、厚さ30nmのCr層、および厚さ700nmのAu層の積層構造から形成された。ループ状電極20のリング形状部分20rの内径は1300μmであった。図5Bに示す導電部材40は、厚さ30nmのCr層、厚さ200nmのPt層、および厚さ700nmのAu層の積層構造から形成された。導電部材40の開口40оの縁によって囲まれた領域の内径は、2000μmであった。
【0083】
図5Cに示すDPPアニールでは、電流密度2.2A/cmの順方向電流を流して、第1導電型領域12が、波長405nmおよびパワー20mWのレーザ光である光62iで40分間照射された。
【0084】
以上の説明では、半導体層10を4H-SiCとし、第1導電型領域12を「p型半導体層」、第2導電型領域14を「n型半導体層」として説明してきたが、適宜ドーパント種を選択することで第1導電型領域12を「n型半導体層」、第2導電型領域14を「p型半導体層」としてもよい。また、4H-SiC以外の半導体材料を用い、適宜ドーパント種を選択することで第1導電型領域12を「p型半導体層」または「n型半導体層」としてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本開示の透過型偏光制御素子、光アイソレータ、および偏光可変光源は、偏光制御が行われる任意の光デバイスに適用することができる。
【符号の説明】
【0086】
10 半導体層
10s1 第1面
10s2 第2面
12 第1導電型領域
14 第2導電型領域
14a 第1サブ領域
14b 第2サブ領域
16 pn接合
20、21、22、23 ループ状電極
20g ギャップ
20r リング形状部分
21g1 第1ギャップ
21g2 第2ギャップ
21r、23r リング形状部分
21r1 第1弓状部分
21r2 第2弓状部分
23c 導電部分
30 近接場光形成領域
40 導電部材
40o 開口
50 駆動回路
52 ワイヤ
54 電源
60 光源
62i、62t、62r、62rt 光
63 偏光ビームスプリッタ
64 偏光子
65 レンズ
66 光検出器
70a 第1偏光子
70b 第2偏光子
80a 第1電極
80b 第2電極
100、110 偏光制御素子
100A、200A 偏光可変光源
200 光アイソレータ
図1A
図1B
図2A
図2B
図3A
図3B
図4A
図4B
図4C
図5A
図5B
図5C
図5D
図6A
図6B
図6C
図6D
図7