(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-08
(45)【発行日】2023-11-16
(54)【発明の名称】複合モデル生成プログラム及び方法、並びに情報処理システム
(51)【国際特許分類】
G06N 20/00 20190101AFI20231109BHJP
【FI】
G06N20/00
(21)【出願番号】P 2019216323
(22)【出願日】2019-11-29
【審査請求日】2022-08-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000005223
【氏名又は名称】富士通株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】伊東 利雄
(72)【発明者】
【氏名】阿南 泰三
(72)【発明者】
【氏名】池田 拓郎
【審査官】打出 義尚
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-023863(JP,A)
【文献】特表2019-517057(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0187212(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06N 20/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の学習データを用いて作成された、入力データから所定の推定結果を出力するための第1のモデルと、物理法則又は人の知識に基づいて作成された、入力データから所定の推定結果を出力するための第2のモデルと、を取得し、
前記第1のモデルと前記第2のモデルとを比較して、前記第1のモデルに入力する入力データの種別のうち、前記第2のモデルに入力する入力データの種別に含まれていない不足種別を特定し、
前記第2のモデルが有する項を主要項とし、前記不足種別の入力データを入力するための補正項
とする式において、学習データを用いて前記主要項と前記補正項のパラメータの調整を行うことにより、拡張した前記第2のモデルを
生成し、
拡張した前記第2のモデルと、前記第1のモデルと、を組み合わせた複合モデルを生成する、
処理をコンピュータに実行させるための複合モデル生成プログラム。
【請求項2】
前記複合モデルは、前記第1のモデルの作成に用いた学習データの存在が密な範囲で、前記第1のモデルの影響の度合いが高く、前記第1のモデルの作成に用いた学習データの存在が疎な範囲で、拡張した前記第2のモデルの影響の度合いが高い、ことを特徴とする請求項1に記載の複合モデル生成プログラム。
【請求項3】
前記第1のモデルがk近傍交叉カーネル回帰により生成されたカーネル回帰関数である場合、信頼区間幅の大きさに基づいて前記第1のモデルと拡張した前記第2のモデルの影響の度合いを決定する、ことを特徴とする請求項1又は2に記載の複合モデル生成プログラム。
【請求項4】
前記補正項は、nm次(n,mは自然数)の多項式であることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の複合モデル生成プログラム。
【請求項5】
前記第2のモデルが運動力学モデルである場合、前記補正項は3次の多項式であることを特徴とする請求項4に記載の複合モデル生成プログラム。
【請求項6】
複数の学習データを用いて作成された、入力データから所定の推定結果を出力するための第1のモデルと、物理法則又は人の知識に基づいて作成された、入力データから所定の推定結果を出力するための第2のモデルと、を取得し、
前記第1のモデルと前記第2のモデルとを比較して、前記第1のモデルに入力する入力データの種別のうち、前記第2のモデルに入力する入力データの種別に含まれていない不足種別を特定し、
前記第2のモデルが有する項を主要項とし、前記不足種別の入力データを入力するための補正項
とする式において、学習データを用いて前記主要項と前記補正項のパラメータの調整を行うことにより、拡張した前記第2のモデルを
生成し、
拡張した前記第2のモデルと、前記第1のモデルと、を組み合わせた複合モデルを生成する、
処理をコンピュータが実行することを特徴とする複合モデル生成方法。
【請求項7】
複数の学習データを用いて作成された、入力データから所定の推定結果を出力するための第1のモデルと、物理法則又は人の知識に基づいて作成された、入力データから所定の推定結果を出力するための第2のモデルと、を取得する取得部と、
前記第1のモデルと前記第2のモデルとを比較して、前記第1のモデルに入力する入力データの種別のうち、前記第2のモデルに入力する入力データの種別に含まれていない不足種別を特定する特定部と、
前記第2のモデルが有する項を主要項とし、前記不足種別の入力データを入力するための補正項
とする式において、学習データを用いて前記主要項と前記補正項のパラメータの調整を行うことにより、拡張した前記第2のモデルを
生成する拡張部と、
拡張した前記第2のモデルと、前記第1のモデルと、を組み合わせた複合モデルを生成する生成部と、
を備える情報処理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合モデル生成プログラム及び方法、並びに情報処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、IoT(Internet of Things)の普及により、設備や機械に取り付けられたセンサからの測定データを使って、故障を予測しメンテナンスを実施する予知保全に注目が集まっている。予知保全を行うことにより、最適かつ最小限にメンテナンスを行うことができるため、コストを抑えることができる。また、EV車等に搭載されるバッテリの消費量を予測して、予測結果をドライバに提示する技術も知られている。
【0003】
従来、上述したような予測に用いるモデルとして、学習データを使って機械学習などのデータドリブンな手法により作成されるモデルや、物理法則や専門家の知識を使って作成されるモデルベースの手法のモデルが知られている。また、これらのモデルを融合させたハイブリッドモデルも知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2015-535900号公報
【文献】特開2019-40244号公報
【文献】特表2010-536099号公報
【文献】特表2014-525063号公報
【文献】特表2019-507444号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ハイブリッドモデルを作成するためには、融合するモデルの次元(モデルに入力する入力データの種別)が一致してなければならず、次元の異なるモデルからハイブリッドモデルを作ることは困難である。
【0006】
1つの側面では、本発明は、入力データの種別が一部共通する第1、第2のモデルから複合モデルを生成することが可能な複合モデル生成プログラム及び装置、並びに情報処理システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一つの態様では、複合モデル生成プログラムは、複数の学習データを用いて作成された、入力データから所定の推定結果を出力するための第1のモデルと、物理法則又は人の知識に基づいて作成された、入力データから所定の推定結果を出力するための第2のモデルと、を取得し、前記第1のモデルと前記第2のモデルとを比較して、前記第1のモデルに入力する入力データの種別のうち、前記第2のモデルに入力する入力データの種別に含まれていない不足種別を特定し、前記第2のモデルが有する項を主要項とし、前記不足種別の入力データを入力するための補正項とする式において、学習データを用いて前記主要項と前記補正項のパラメータの調整を行うことにより、拡張した前記第2のモデルを生成し、拡張した前記第2のモデルと、前記第1のモデルと、を組み合わせた複合モデルを生成する、処理をコンピュータに実行させるためのプログラムである。
【発明の効果】
【0008】
入力データの種別が一部共通する第1、第2のモデルから複合モデルを生成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】一実施形態に係る情報処理システムの構成を概略的に示す図である。
【
図4】モデルDM及びモデルMについて纏めた表である。
【
図5】サーバ10の処理を示すフローチャートである。
【
図6】
図6(a)は、モデルMの一例を示す図であり、
図6(b)はモデルDMの一例を示す図である。
【
図7】モデルMを拡張して拡張モデルMMを生成した状態を模式的に示す図である。
【
図8】モデルDMと拡張モデルMMから生成されたハイブリッドモデルHMを模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、情報処理システムの一実施形態について、
図1~
図8に基づいて詳細に説明する。情報処理システム100は、例えばEV(Electric Vehicle)車70のカーナビゲーションシステムにおいてユーザが経路検索したときに、候補経路を走行したときのバッテリ消費量を推定して、ユーザに候補経路とともに推定結果を提供するシステムである。
【0011】
図1に示すように、情報処理システム100は、サーバ10と、EV車70とを有する。サーバ10とEV車70とは、インターネットなどのネットワーク80に接続されており、サーバ10とEV車70との間でデータ等のやり取りが可能となっている。
【0012】
(サーバ10)
サーバ10は、EV車70それぞれにおいてバッテリ消費量の推定に用いるモデルを生成し、EV車70に提供する情報処理装置である。サーバ10が生成するモデルは、2つのモデルを融合させたハイブリッドモデル(複合モデル)である。2つのモデルのうちの1つのモデル(第1のモデル)は、学習データを使って機械学習などのデータドリブンな手法により作成されるモデルである。また、もう1つのモデル(第2のモデル)は、物理法則や専門家の知識を使って作成されるモデルベースの手法のモデルである。なお、各モデルは、同一のEVバッテリが搭載されている同一車種(以下、単に「同一車種」という)ごとに作成されるものとする。サーバ10は、ある車種で利用されるモデルを作成する際に、同一車種から得られた各種データを用いるものとする。
【0013】
図2には、サーバ10のハードウェア構成が示されている。
図2に示すように、サーバ10は、CPU(Central Processing Unit)90、ROM(Read Only Memory)92、RAM(Random Access Memory)94、記憶部(ここではHDD(Hard Disk Drive))96、ネットワークインタフェース97、及び可搬型記憶媒体用ドライブ99等を備えている。これらサーバ10の構成各部は、バス98に接続されている。サーバ10では、ROM92あるいはHDD96に格納されているプログラム(複合モデル生成プログラムを含む)、或いは可搬型記憶媒体用ドライブ99が可搬型記憶媒体91から読み取ったプログラム(複合モデル生成プログラムを含む)をCPU90が実行することにより、
図3に示す各部の機能が実現されている。なお、
図3の各部の機能は、例えば、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やFPGA(Field Programmable Gate Array)等の集積回路により実現されてもよい。
【0014】
図3には、サーバ10の機能ブロック図が示されている。サーバ10のCPU90は、プログラムを実行することにより、取得部としてのモデル取得部20、特定部22、拡張部24、生成部26、として機能する。
【0015】
モデル取得部20は、学習データを使って機械学習などのデータドリブンな手法により作成されるモデル(第1のモデル)と、物理法則や専門家の知識を使って作成されるモデルベースの手法のモデル(第2のモデル)と、を取得する。以下においては、第1のモデルを「モデルDM」と表記し、第2のモデルを「モデルM」と表記するものとする。
【0016】
モデルDMは、例えば、
図4に示すように、主要項(3次元):電流、電圧、抵抗と、補正項(3次元):加速度、勾配、モータ回転数とを含むモデルである。より具体的には、モデルDMは、電圧、抵抗、EV車70の加速度、EV車70が走行する道路の勾配、モータ回転数を入力することで、EVバッテリの出力電流を推定することができるモデルである。
【0017】
ここで、モデルDMは、機械学習により学習データから作成されるため、学習データが多ければ予測精度が高いが、少ないと予測精度は低い。また、モデルDMは、予測結果に対し、なぜその予測結果になったのかを説明することができない。モデル取得部20は、同一車種のEV車70から得られたデータを学習データとして用いて機械学習を実行し、モデルDMを作成する。モデルDMは、例えば、k近傍交叉カーネル回帰により生成されたカーネル回帰関数であるものとする。
【0018】
一方、モデルMは、例えば、
図4に示すように、EVバッテリの等価回路モデルであり、主要項(3次元):電流、電圧、抵抗を含むモデルである。より具体的には、モデルMは、電圧と抵抗の入力データを入力することで、EVバッテリの出力電流を推定することができるモデルである。
【0019】
ここで、モデルMは、物理法則や知識を用いて作成されるため、推定結果の理由を説明することができる。また、物理法則がそれほど複雑でなければ、ある程度の予測精度が期待できる。
【0020】
図3に戻り、特定部22は、モデルMとモデルDMとを比較して、モデルDMに含まれる項目(モデルDMに入力する入力データの種別)のうち、モデルMに含まれない項目(モデルMに入力しない入力データの種別)を特定する。
図4の例では、モデルDMの補正項(加速度、勾配、モータ回転数)が特定される。
【0021】
拡張部24は、モデルMに、補正的な役割を果たす新たな項目として、特定部22が特定した項目を追加し、次元をモデルDMに合わせた拡張モデル(以下、「拡張モデルMM」と表記する)を作成する。すなわち、拡張モデルMMの次元はモデルDMの次元と一致することになる。
【0022】
生成部26は、拡張部24が作成した拡張モデルMMと、モデルDMと、を融合してハイブリッドモデルHMを生成する。このとき、拡張モデルMMの次元と、モデルDMの次元は一致しているため、容易にハイブリッドモデルHMを生成することができる。生成部26は、生成したハイブリッドモデルHMをEV車70に対して送信する。
【0023】
(EV車70)
EV車70は、EVバッテリを搭載しており、モータを動力源として走行する車両である。EV車70は、EVバッテリの電圧、抵抗を計測可能なセンサのほか、EV車70の加速度や、走行している道路の勾配、モータの回転数を計測可能なセンサを備える。
【0024】
EV車70にはカーナビゲーションシステム(カーナビ)が搭載されている。カーナビは、サーバ10において生成されたハイブリッドモデルHMを取得する。また、カーナビは、ユーザが経路検索したときに、候補経路の情報や、EV車70の各種センサにおいて得られたデータをハイブリッドモデルHMに入力して、候補経路を走行した後のEVバッテリの出力電流を推定するとともに、バッテリ消費量を推定する。そして、カーナビは、推定したバッテリ消費量の情報を候補経路の情報とともにユーザに提供する。ユーザは、出力されたバッテリ消費量を参考にして、候補経路の中から採用する経路を選択する。
【0025】
(サーバ10の処理について)
以下、サーバ10の処理の流れについて、
図5のフローチャートに沿って、その他図面を適宜参照しつつ詳細に説明する。なお、
図5の処理は、管理者の入力に応じたタイミングや、所定期間ごと、EV車70において収集されたデータが所定量以上たまったタイミング、などにおいて実行される処理である。以下の処理の説明においては、説明及び図面の簡素化のため、モデルMが2次元であり、モデルDMが3次元である場合について説明する。
【0026】
図5の処理が開始されると、まずステップS10において、モデル取得部20が、モデル(DM、M)を取得する。ここで、モデルMは、物理法則や専門家の知識を使って作成されるモデルベースの手法のモデルであり、例えば、EV車70が有する記憶装置に格納されているものとする。モデル取得部20は、EV車70からネットワーク80を介してモデルMを取得する。ここでは、モデルMとして、
図6(a)に示すような2次元のモデル(y=P
θ1(x
1))が取得されたものとする。なお、θ1はパラメータである。このモデルMは、入力データとしてx
1を入力することで、yを推定することができるモデルである。ここで、モデルMは、例えばEVバッテリの製造元が作成したバッテリ消費量を推定するためのモデルである。このため、EVバッテリのバッテリ消費量を推定する際に、EV車70の加速度や道路勾配、モータ回転数などの補正項については考慮されないモデルとなっている。
【0027】
一方、モデルDMは、機械学習により得られるモデルであり、
図6(b)に示すような多数の学習データを用いて得られるモデルである。ここでは、モデル取得部20は、多数の学習データを多数のEV車70から取得して、機械学習することで、モデルDMとして、3次元のモデル(y=DM(x
1,x
2))を得たものとする。このモデルDMは、入力データとしてx
1、x
2を入力することで、yを推定することができるモデルである。ここで、モデルDMは、例えばEVバッテリが搭載されたEV車70から得られる各種データを用いてバッテリ消費量を推定するモデルである。このため、EVバッテリのバッテリ消費量を推定する際に、EV車70の加速度や道路勾配、モータ回転数などの補正項についても考慮されたモデルとなっている。
【0028】
次いで、ステップS12では、特定部22が、モデル(DM,M)を比較する。具体的には、特定部22は、モデルDM、Mに入力可能な入力データの種別を比較する。
【0029】
次いで、ステップS14では、特定部22が、モデルDMに存在するが、モデルMに不足している次元、すなわち、モデルDMに入力可能な入力データの種別のうち、モデルMに入力可能な入力データの種別に含まれないものを特定する。
図6(a)、
図6(b)の例では、x
2が特定される。
【0030】
次いで、ステップS16では、特定部22が、不足している次元があったか否かを判断する。このステップS16の判断が肯定された場合には、ステップS18に移行する。
【0031】
ステップS18に移行すると、拡張部24は、モデルMを拡張し、拡張モデルMMを生成する。拡張部24は、
図6(a)の例であれば、P
θ1(x
1)を主要項として使用し、これに補正項Q
θ2(x
1,x
2)を加えた次式(1)を用意する。
y=P
θ1(x
1)+Q
θ2(x
1,x
2) …(1)
【0032】
ここで、モデルMが微分方程式系のモデルであれば、補正項Q
θ2(x
1,x
2)は、nm次(n,mは自然数)の多項式で十分近似することができるので、パラメータθ2をa
i,jとすると、補正項Q
θ2(x
1,x
2)は次式(2)にて表すことができる。
【数1】
【0033】
なお、モデルMが運動力学モデルである場合には、補正項Qθ2(x1,x2)は3次の多項式くらいの近似で十分である。これにより、補正項Qθ2(x1,x2)を簡易に求めることができる。
【0034】
拡張部24は、上式(1)、(2)で表される式において、学習データを用いてθ1、θ2の調整を行い、拡張モデルMMを生成する。
図7には、モデルMと学習データから生成された拡張モデルMMが模式的に示されている。この拡張モデルMMの次元は、モデルDMの次元と一致している。なお、以下においては、拡張モデルMMが、y=MM(x
1,x
2)であるものとして説明する。
【0035】
次いで、ステップS20では、生成部26が、モデル(DM,MM)を融合し、ハイブリッドモデルHMを生成する。生成部26は、一例として、ハイブリッドモデルHMとして、次式(3)で示すモデルを生成する。
y=α(x1,x2)・DM(x1,x2)+(1-α(x1,x2))・MM(x1,x2) …(3)
【0036】
ここで、α(x1,x2)は、モデルDMの信頼度を意味し、α(x1,x2)の取り得る範囲は、0≦α(x1,x2)≦1であるものとする。信頼度α(x1,x2)は、学習データの多い範囲(学習データの存在が密な範囲)で大きい値となり、学習データの小さい範囲(学習データの存在が疎な範囲)で小さい値となる。なお、モデルDMがk近傍交叉カーネル回帰により生成されたカーネル回帰関数である場合には、信頼区間幅の大きさに基づいて求めることができる。信頼区間幅とは、カーネル回帰関数により出力された推定値がどれくらいばらつくかを示す標準偏差の値である。信頼区間幅が大きいほど、算出される推定値の精度は低くなるため、信頼区間幅が大きいほどα(x1,x2)が小さい値となる。
【0037】
図8には、ハイブリッドモデルHMが模式的に示されている。
図8に示すように、学習データが多い領域ではモデルDMの信頼性が高いため、モデルDMの影響の度合いが高くなり、ハイブリッドモデルHMがモデルDMに近づく。一方、学習データが少ない領域ではモデルDMの信頼性が低いため、拡張モデルMMの影響の度合いが高くなり、ハイブリッドモデルHMが拡張モデルMMに近づく。なお、ハイブリッドモデルHMは、少なくとも拡張モデルMMを含むことになるため、モデルDMには無い説明性を有している。
【0038】
次いで、ステップS22では、生成部26が、生成したハイブリッドモデルHMをEV車70のカーナビに送信する。カーナビにおいては、上述したように、ハイブリッドモデルHMを用いて候補経路を走行した後におけるEVバッテリの消費量を推定し、推定結果を候補経路とともに画面上に表示して、ユーザに提供する。
【0039】
なお、ステップS16の判断が否定された場合には、モデルMを拡張する必要が無いため、ステップS18を経ずにステップS20に移行する。その後は、生成部26が、上述したようにステップS20、S22の処理を実行する。ここで、モデルDMの方がモデルMよりも次元が低い場合も、ステップS16の判断が否定されるが、この場合には、学習データの種類を増やすことで、モデルDMの次元をモデルMの次元に合わせるようにすればよい。
【0040】
以上、詳細に説明したように、本実施形態によると、特定部22は、モデル取得部20が取得したモデルDMとモデルMを比較して、モデルDMに入力する入力データの種別のうち、モデルMに入力する入力データの種別に含まれていない不足種別を特定する。そして、拡張部24は、不足種別の入力データを入力するための補正項によりモデルMを拡張して、拡張モデルMMを生成し、生成部26は、拡張モデルMMとモデルDMと、を融合してハイブリッドモデルHMを生成する。これにより、本実施形態では、次元が異なるモデルDM、Mを融合して、ハイブリッドモデルHMを生成することができる。従って、ハイブリッドモデルHMを用いることで、モデルDMとモデルMの一方のモデルのデメリットを他方のモデルによって補うことができる。例えば、モデルDMには説明性の問題があるが、ハイブリッドモデルHMを用いることで、説明性の問題を解消することができる。
【0041】
また、本実施形態のハイブリッドモデルHMにおいては、モデルDMの作成に用いた学習データの存在が密な範囲でモデルDMの影響の度合いが高く、モデルDMの作成に用いた学習データの存在が疎な範囲で、拡張モデルMMの影響の度合いが高くなっている。このように、学習データの存在が密な範囲において、推定精度が高いモデルDMの影響度を高くし、学習データの存在が疎な範囲において、推定精度が学習データの疎密の影響を受けにくい拡張モデルMMの影響度を高くするので、ハイブリッドモデルHMによる推定精度を向上することが可能である。
【0042】
また、本実施形態のハイブリッドモデルHMにおいては、モデルDMがk近傍交叉カーネル回帰により生成されたカーネル回帰関数である場合、信頼区間幅の大きさに基づいてモデルDMと拡張モデルMMの影響の度合い(α(x1,x2))を決定する。これにより、モデルDMがカーネル回帰関数である場合において、ハイブリッドモデルHMによる推定精度を向上することが可能である。
【0043】
また、本実施形態では、モデルMを拡張するときの補正項がnm次の多項式であるので、モデルMが微分方程式系のモデルである場合に、適切にモデルMから拡張モデルMMを生成することができる。また、モデルMが運動力学モデルであれば、モデルMを拡張するときの補正項が3次の多項式で近似することができる。これにより、簡易な計算で、適切にモデルMから拡張モデルMMを生成することができる。
【0044】
なお、上記実施形態では、ハイブリッドモデルHMを用いて、EVバッテリの出力電流を推定し、候補経路を走行した後のEVバッテリの消費量を推定する場合について説明したが、これに限られるものではない。例えば、ハイブリッドモデルHMを用いて、EVバッテリの故障時期を推定したり、EVバッテリの故障可能性を推定してもよい。これにより、EVバッテリの予知保全を行うことが可能になるため、メンテナンスを適切に行うことができる。
【0045】
また、ハイブリッドモデルHMは、EV車70のその他の装置(例えばモータなど)の各種推定や予知保全に用いることもできる。また、ハイブリッドモデルHMは、EV車70に限らず、その他の乗り物(バイクや船など)における各種推定や予知保全に用いることもできる。更に、ハイブリッドモデルHMは、発電所や工場などにおける各種機器の各種推定や予知保全に用いることもできる。
【0046】
なお、上記実施形態では、サーバ10がハイブリッドモデルHMを生成する場合について説明したが、これに限らず、カーナビなどの車載装置がハイブリッドモデルHMを生成することとしてもよい。車載装置においてハイブリッドモデルHMを生成する場合には、情報処理システム100から、サーバ10やネットワーク80を省略してもよい。
【0047】
なお、上記の処理機能は、コンピュータによって実現することができる。その場合、処理装置が有すべき機能の処理内容を記述したプログラムが提供される。そのプログラムをコンピュータで実行することにより、上記処理機能がコンピュータ上で実現される。処理内容を記述したプログラムは、コンピュータで読み取り可能な記憶媒体(ただし、搬送波は除く)に記録しておくことができる。
【0048】
プログラムを流通させる場合には、例えば、そのプログラムが記録されたDVD(Digital Versatile Disc)、CD-ROM(Compact Disc Read Only Memory)などの可搬型記憶媒体の形態で販売される。また、プログラムをサーバコンピュータの記憶装置に格納しておき、ネットワークを介して、サーバコンピュータから他のコンピュータにそのプログラムを転送することもできる。
【0049】
プログラムを実行するコンピュータは、例えば、可搬型記憶媒体に記録されたプログラムもしくはサーバコンピュータから転送されたプログラムを、自己の記憶装置に格納する。そして、コンピュータは、自己の記憶装置からプログラムを読み取り、プログラムに従った処理を実行する。なお、コンピュータは、可搬型記憶媒体から直接プログラムを読み取り、そのプログラムに従った処理を実行することもできる。また、コンピュータは、サーバコンピュータからプログラムが転送されるごとに、逐次、受け取ったプログラムに従った処理を実行することもできる。
【0050】
上述した実施形態は本発明の好適な実施の例である。但し、これに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変形実施可能である。
【0051】
なお、以上の実施形態の説明に関して、更に以下の付記を開示する。
(付記1) 複数の学習データを用いて作成された、入力データから所定の推定結果を出力するための第1のモデルと、物理法則又は人の知識に基づいて作成された、入力データから所定の推定結果を出力するための第2のモデルと、を取得し、
前記第1のモデルと前記第2のモデルとを比較して、前記第1のモデルに入力する入力データの種別のうち、前記第2のモデルに入力する入力データの種別に含まれていない不足種別を特定し、
前記不足種別の入力データを入力するための補正項により前記第2のモデルを拡張し、
拡張した前記第2のモデルと、前記第1のモデルと、を組み合わせた複合モデルを生成する、
処理をコンピュータに実行させるための複合モデル生成プログラム。
(付記2) 前記複合モデルは、前記第1のモデルの作成に用いた学習データの存在が密な範囲で、前記第1のモデルの影響の度合いが高く、前記第1のモデルの作成に用いた学習データの存在が疎な範囲で、拡張した前記第2のモデルの影響の度合いが高い、ことを特徴とする付記1に記載の複合モデル生成プログラム。
(付記3) 前記第1のモデルがk近傍交叉カーネル回帰により生成されたカーネル回帰関数である場合、信頼区間幅の大きさに基づいて前記第1のモデルと拡張した前記第2のモデルの影響の度合いを決定する、ことを特徴とする付記1又は2に記載の複合モデル生成プログラム。
(付記4) 前記補正項は、nm次(n,mは自然数)の多項式であることを特徴とする付記1~3のいずれかに記載の複合モデル生成プログラム。
(付記5) 前記第2のモデルが運動力学モデルである場合、前記補正項は3次の多項式であることを特徴とする付記4に記載の複合モデル生成プログラム。
(付記6) 複数の学習データを用いて作成された、入力データから所定の推定結果を出力するための第1のモデルと、物理法則又は人の知識に基づいて作成された、入力データから所定の推定結果を出力するための第2のモデルと、を取得し、
前記第1のモデルと前記第2のモデルとを比較して、前記第1のモデルに入力する入力データの種別のうち、前記第2のモデルに入力する入力データの種別に含まれていない不足種別を特定し、
前記不足種別の入力データを入力するための補正項により前記第2のモデルを拡張し、
拡張した前記第2のモデルと、前記第1のモデルと、を組み合わせた複合モデルを生成する、
処理をコンピュータが実行することを特徴とする複合モデル生成方法。
(付記7) 複数の学習データを用いて作成された、入力データから所定の推定結果を出力するための第1のモデルと、物理法則又は人の知識に基づいて作成された、入力データから所定の推定結果を出力するための第2のモデルと、を取得する取得部と、
前記第1のモデルと前記第2のモデルとを比較して、前記第1のモデルに入力する入力データの種別のうち、前記第2のモデルに入力する入力データの種別に含まれていない不足種別を特定する特定部と、
前記不足種別の入力データを入力するための補正項により前記第2のモデルを拡張する拡張部と、
拡張した前記第2のモデルと、前記第1のモデルと、を組み合わせた複合モデルを生成する生成部と、
を備える情報処理システム。
(付記8) 前記複合モデルは、前記第1のモデルの作成に用いた学習データの存在が密な範囲で、前記第1のモデルの影響の度合いが高く、前記第1のモデルの作成に用いた学習データの存在が疎な範囲で、拡張した前記第2のモデルの影響の度合いが高い、ことを特徴とする付記7に記載の情報処理システム。
(付記9) 前記第1のモデルがk近傍交叉カーネル回帰により生成されたカーネル回帰関数である場合、信頼区間幅の大きさに基づいて前記第1のモデルと拡張した前記第2のモデルの影響の度合いを決定する、ことを特徴とする付記7又は8に記載の情報処理システム。
(付記10) 前記補正項は、nm次(n,mは自然数)の多項式であることを特徴とする付記7~9のいずれかに記載の情報処理システム。
(付記11) 前記第2のモデルが運動力学モデルである場合、前記補正項は3次の多項式であることを特徴とする付記10に記載の情報処理システム。
【符号の説明】
【0052】
20 モデル取得部(取得部)
22 特定部
24 拡張部
26 生成部
100 情報処理システム
DM モデル(第1のモデル)
M モデル(第2のモデル)
MM 拡張モデル(拡張した第2のモデル)
HM ハイブリッドモデル(複合モデル)