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特許7381869空気入りタイヤ及び空気入りタイヤの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-08
(45)【発行日】2023-11-16
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ及び空気入りタイヤの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B60C 9/22 20060101AFI20231109BHJP
   B29D 30/30 20060101ALI20231109BHJP
【FI】
B60C9/22 B
B60C9/22 C
B29D30/30
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019228603
(22)【出願日】2019-12-18
(65)【公開番号】P2021095045
(43)【公開日】2021-06-24
【審査請求日】2022-11-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小山 範嚴
【審査官】市村 脩平
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-182195(JP,A)
【文献】特開2011-068324(JP,A)
【文献】特開2008-006963(JP,A)
【文献】特開2009-255753(JP,A)
【文献】特開2012-116246(JP,A)
【文献】特開2010-247706(JP,A)
【文献】特開平05-162509(JP,A)
【文献】特開平06-344720(JP,A)
【文献】特開2001-253208(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C1/00-19/12
B29D30/00-30/72
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッド部と、
前記トレッド部に配設されるベルト層と、
前記ベルト層のタイヤ径方向外側に配設されるベルトカバー層と、
を備え、
前記ベルトカバー層は、タイヤ幅方向両側のショルダー領域間に亘って配設されると共に、1枚の帯状のベルトカバー材が前記ベルト層のタイヤ径方向外側にタイヤ回転軸を中心とする螺旋状に巻かれることにより形成され、
前記ベルトカバー層は、タイヤ幅方向両側の前記ショルダー領域同士の間に、螺旋状に巻かれる前記ベルトカバー材におけるタイヤ幅方向に隣り合う周回部分同士の一部がタイヤ径方向に重ねて巻かれたラップ部を有する重ね巻き部が形成され、
前記重ね巻き部は、タイヤ幅方向における幅が前記ベルトカバー層のタイヤ幅方向における幅の3%以上30%以下の範囲内になっており、
前記重ね巻き部は、前記重ね巻き部のタイヤ幅方向における端部付近での前記ラップ部の幅が、前記重ね巻き部のタイヤ幅方向における中央付近での前記ラップ部の幅より小さく形成され、
前記ベルトカバー層における前記ショルダー領域に位置する部分では、螺旋状に巻かれる前記ベルトカバー材におけるタイヤ幅方向に隣り合う周回部分同士がタイヤ径方向に重ねられることなく巻かれることを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記重ね巻き部は、タイヤ幅方向における幅が5mm以上40mm以下の範囲内である請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記重ね巻き部は、タイヤ赤道面をタイヤ幅方向に跨いで形成される請求項1または2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記重ね巻き部が有する前記ラップ部の幅は、前記ベルトカバー材の幅の20%以上70%以下の範囲内である請求項1~3のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記ベルトカバー層は、
前記重ね巻き部を含み、タイヤ幅方向両側の前記ショルダー領域間に亘って形成される第1フルカバー層と、
前記第1フルカバー層に対してタイヤ径方向に積層され、タイヤ幅方向両側の前記ショルダー領域間に亘って形成される第2フルカバー層とを有し、
タイヤ幅方向における前記ラップ部が位置する部分では、前記ベルトカバー材は3層以上でタイヤ径方向に重ねられる請求項1~4のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
ベルト層のタイヤ径方向外側に帯状のベルトカバー材をタイヤ回転軸を中心とする螺旋状に巻くことによりベルトカバー層を配設する空気入りタイヤの製造方法であって、
1枚の前記ベルトカバー材をタイヤ幅方向両側のショルダー領域間に亘って螺旋状に巻くことにより、前記ベルトカバー層を前記ショルダー領域間に形成する工程と、
前記ベルトカバー層を形成する工程に含まれ、タイヤ幅方向両側の前記ショルダー領域同士の間に、螺旋状に巻く前記ベルトカバー材におけるタイヤ幅方向に隣り合う周回部分同士の一部をタイヤ径方向に重ねて巻く重ね巻き部を形成する工程とを含み、
前記ベルトカバー層を前記ショルダー領域間に形成する工程では、前記ベルトカバー層における前記ショルダー領域に位置する部分では、螺旋状に巻く前記ベルトカバー材におけるタイヤ幅方向に隣り合う周回部分同士をタイヤ径方向に重ねることなく巻き、
前記重ね巻き部を形成する工程では、前記重ね巻き部のタイヤ幅方向における幅を前記ベルトカバー層のタイヤ幅方向における幅の3%以上30%以下の範囲内で形成し、
前記重ね巻き部を形成する工程では、前記ベルトカバー材におけるタイヤ幅方向に隣り合う周回部分同士の一部がタイヤ径方向に重ねて巻かれる部分であるラップ部の幅を、前記重ね巻き部のタイヤ幅方向における中央付近での前記ラップ部の幅よりも、前記重ね巻き部のタイヤ幅方向における端部付近での前記ラップ部の幅を小さく形成することを特徴とする空気入りタイヤの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤ及び空気入りタイヤの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の空気入りタイヤの中には、ベルト層のタイヤ径方向外側に配置する部材を工夫することにより、所望の性能を実現しているものがある。例えば、特許文献1に記載された空気入りタイヤは、ベルト層のタイヤ径方向外側に2層のベルト保護層を配置すると共に、タイヤ径方向外側のベルト保護層はタイヤ径方向内側のベルト保護層よりも狭幅にすることにより、耐突起性の向上を図っている。また、特許文献2に記載された空気入りタイヤは、トレッド部とベルト層との間にベルト補強層を配置し、ベルト補強層をタイヤ赤道部で3層にすることにより、重量の増加を抑制しながら破壊エネルギーを確保している。
【0003】
また、特許文献3に記載された空気入りタイヤは、トレッド部におけるタイヤ内面に接着された帯状吸音材と、ベルト層の外周側に配置されるフルカバー層と、フルカバー層の外周側に配置されてタイヤ幅中央領域を局所的に覆うセンターカバー層とを有し、帯状吸音材とベルト層の幅、及びセンターカバー層と帯状吸音材の幅をそれぞれ規定することにより、帯状吸音材によって充分な静粛性を得ながら、帯状吸音材が蓄熱することに起因する高速耐久性の低下を防止している。
【0004】
また、特許文献4に記載された空気入りタイヤは、ベルト層の外側に、端部ベルトカバー層と中央部ベルトカバー層とで構成するベルトカバー層を配置し、端部ベルトカバー層や中央部ベルトカバー層を形成する有機繊維コードの引っ張り強度と、端部ベルトカバー層と中央部ベルトカバー層との総和とを規定することにより、高周波領域のロードノイズを低減させると共に、軽量化を可能にしている。また、特許文献5に記載された空気入りタイヤは、ベルト層の外周側にストリップ材が螺旋状に巻き付けられて形成されたベルトカバーを有し、ベルトカバーは、ベルト層におけるタイヤ幅方向端部を覆う位置と、ベルト層におけるタイヤ幅方向中央部を覆う位置でストリップ材が重ね巻きされることにより、操縦安定性及び耐久性の向上を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第4865259号公報
【文献】特開2010-64644号公報
【文献】特開2017-137032号公報
【文献】特許第4635366号公報
【文献】特許第4687201号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、空気入りタイヤの中には、例えば、EXTRA LOAD規格の空気入りタイヤのような、高荷重に対応可能なものがある。このような空気入りタイヤは、高荷重に対応するために、比較的高い空気圧で使用可能になっている。一方で、空気入りタイヤの空気圧を高くするとトレッド部の剛性が増加するため、異物を踏んだ際にトレッド部が変形し難くなり、異物を踏み込むことに起因して発生するショックバーストが発生し易くなる。即ち、空気入りタイヤを高い空気圧で使用すると、ショックバーストに対する耐性である耐ショックバースト性能が低下し易くなる。
【0007】
ショックバーストは、トレッド部の接地面におけるタイヤ赤道面付近の領域で、路面上の異物を踏み込むことにより発生し易くなるため、耐ショックバースト性能の向上にはトレッド部におけるタイヤ赤道面付近を補強することが有効である。しかし、補強用の部材を新たに追加すると、その分製造工程が増えるため、生産性が低下する。このため、耐ショックバースト性能と生産性とを両立させるのは、大変困難なものとなっていた。
【0008】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、耐ショックバースト性能と生産性とを両立することのできる空気入りタイヤ及び空気入りタイヤの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る空気入りタイヤは、トレッド部と、前記トレッド部に配設されるベルト層と、前記ベルト層のタイヤ径方向外側に配設されるベルトカバー層と、を備え、前記ベルトカバー層は、タイヤ幅方向両側のショルダー領域間に亘って配設されると共に、1枚の帯状のベルトカバー材が前記ベルト層のタイヤ径方向外側にタイヤ回転軸を中心とする螺旋状に巻かれることにより形成され、前記ベルトカバー層は、タイヤ幅方向両側の前記ショルダー領域同士の間に、螺旋状に巻かれる前記ベルトカバー材におけるタイヤ幅方向に隣り合う周回部分同士の一部がタイヤ径方向に重ねて巻かれたラップ部を有する重ね巻き部が形成され、前記重ね巻き部は、タイヤ幅方向における幅が前記ベルトカバー層のタイヤ幅方向における幅の3%以上30%以下の範囲内になっており、前記ベルトカバー層における前記ショルダー領域に位置する部分では、螺旋状に巻かれる前記ベルトカバー材におけるタイヤ幅方向に隣り合う周回部分同士がタイヤ径方向に重ねられることなく巻かれることを特徴とする。
【0010】
また、上記空気入りタイヤにおいて、前記重ね巻き部は、タイヤ幅方向における幅が5mm以上40mm以下の範囲内であることが好ましい。
【0011】
また、上記空気入りタイヤにおいて、前記重ね巻き部は、タイヤ赤道面をタイヤ幅方向に跨いで形成されることが好ましい。
【0012】
また、上記空気入りタイヤにおいて、前記重ね巻き部が有する前記ラップ部の幅は、前記ベルトカバー材の幅の20%以上70%以下の範囲内であることが好ましい。
【0013】
また、上記空気入りタイヤにおいて、前記ベルトカバー層は、前記重ね巻き部を含み、タイヤ幅方向両側の前記ショルダー領域間に亘って形成される第1フルカバー層と、前記第1フルカバー層に対してタイヤ径方向に積層され、タイヤ幅方向両側の前記ショルダー領域間に亘って形成される第2フルカバー層とを有し、タイヤ幅方向における前記ラップ部が位置する部分では、前記ベルトカバー材は3層以上でタイヤ径方向に重ねられることが好ましい。
【0014】
また、上記空気入りタイヤにおいて、前記重ね巻き部は、タイヤ幅方向における位置によって前記ラップ部の幅が異なることが好ましい。
【0015】
また、上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る空気入りタイヤの製造方法は、ベルト層のタイヤ径方向外側に帯状のベルトカバー材をタイヤ回転軸を中心とする螺旋状に巻くことによりベルトカバー層を配設する空気入りタイヤの製造方法であって、1枚の前記ベルトカバー材をタイヤ幅方向両側のショルダー領域間に亘って螺旋状に巻くことにより、前記ベルトカバー層を前記ショルダー領域間に形成する工程と、前記ベルトカバー層を形成する工程に含まれ、タイヤ幅方向両側の前記ショルダー領域同士の間に、螺旋状に巻く前記ベルトカバー材におけるタイヤ幅方向に隣り合う周回部分同士の一部をタイヤ径方向に重ねて巻く重ね巻き部を形成する工程とを含み、前記ベルトカバー層を前記ショルダー領域間に形成する工程では、前記ベルトカバー層における前記ショルダー領域に位置する部分では、螺旋状に巻く前記ベルトカバー材におけるタイヤ幅方向に隣り合う周回部分同士をタイヤ径方向に重ねることなく巻き、前記重ね巻き部を形成する工程では、前記重ね巻き部のタイヤ幅方向における幅を前記ベルトカバー層のタイヤ幅方向における幅の3%以上30%以下の範囲内で形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る空気入りタイヤ及び空気入りタイヤの製造方法は、耐ショックバースト性能と生産性とを両立することができる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、実施形態に係る空気入りタイヤの要部を示す子午断面図である。
図2図2は、図1に示すトレッド部の詳細図である。
図3図3は、図2に示すベルト層とベルトカバー層の模式図である。
図4図4は、図2に示すセンター陸部の詳細図である。
図5図5は、図4のA-A矢視方向における、ベルトカバー層の重ね巻き部に位置するベルトカバー材の模式図である。
図6図6は、図2のB-B矢視方向における、ベルトカバー層におけるショルダー領域Ashに位置するベルトカバー材の模式図である。
図7図7は、ベルトカバー材の巻き付けについて説明する模式図である。
図8図8は、実施形態に係る空気入りタイヤで路面上の突起物を踏んだ状態を示す説明図である。
図9図9は、実施形態に係る空気入りタイヤの変形例であり、ベルトカバー層が複数のフルカバー層を有する場合の説明図である。
図10図10は、実施形態に係る空気入りタイヤの変形例であり、ラップ部の幅が重ね巻き部のタイヤ幅方向における中央付近と端部付近とで異なる場合の説明図である。
図11図11は、実施形態に係る空気入りタイヤの変形例であり、ラップ部の幅が重ね巻き部のタイヤ幅方向における両側で異なる場合の説明図である。
図12図12は、空気入りタイヤの性能評価試験の結果を示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明に係る空気入りタイヤ及び空気入りタイヤの製造方法の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が置換可能、且つ、容易に想到できるもの、或いは実質的に同一のものが含まれる。
【0019】
[実施形態]
[空気入りタイヤ]
以下の説明において、タイヤ径方向とは、空気入りタイヤ1の回転軸であるタイヤ回転軸(図示省略)と直交する方向をいい、タイヤ径方向内側とはタイヤ径方向においてタイヤ回転軸に向かう側、タイヤ径方向外側とはタイヤ径方向においてタイヤ回転軸から離れる側をいう。また、タイヤ周方向とは、タイヤ回転軸を中心軸とする周り方向をいう。また、タイヤ幅方向とは、タイヤ回転軸と平行な方向をいい、タイヤ幅方向内側とはタイヤ幅方向においてタイヤ赤道面(タイヤ赤道線)CLに向かう側、タイヤ幅方向外側とはタイヤ幅方向においてタイヤ赤道面CLから離れる側をいう。タイヤ赤道面CLとは、タイヤ回転軸に直交すると共に、空気入りタイヤ1のタイヤ幅の中心を通る平面であり、タイヤ赤道面CLは、空気入りタイヤ1のタイヤ幅方向における中心位置であるタイヤ幅方向中心線と、タイヤ幅方向における位置が一致する。タイヤ幅は、タイヤ幅方向において最も外側に位置する部分同士のタイヤ幅方向における幅、つまり、タイヤ幅方向においてタイヤ赤道面CLから最も離れている部分間の距離である。タイヤ赤道線とは、タイヤ赤道面CL上にあって空気入りタイヤ1のタイヤ周方向に沿う線をいう。
【0020】
図1は、実施形態に係る空気入りタイヤ1の要部を示す子午断面図である。本実施形態に係る空気入りタイヤ1は、例えば、EXTRA LOAD規格のような、高荷重での使用に対応することができる空気入りタイヤ1になっている。本実施形態に係る空気入りタイヤ1は、子午面断面で見た場合、タイヤ径方向の最も外側となる部分にトレッド部2が配設されており、トレッド部2は、ゴム組成物から成るトレッドゴム層4を有している。また、トレッド部2の表面、即ち、当該空気入りタイヤ1を装着する車両(図示省略)の走行時に路面と接触する部分は、接地面3として形成され、接地面3は、空気入りタイヤ1の輪郭の一部を構成している。トレッド部2には、接地面3にタイヤ周方向に延びる主溝30が複数形成されており、この複数の主溝30により、トレッド部2の表面には複数の陸部20が画成されている。本実施形態では、主溝30は4本がタイヤ幅方向に並んで形成されており、4本の主溝30は、タイヤ幅方向におけるタイヤ赤道面CLの両側にそれぞれ2本ずつ配設されている。つまり、トレッド部2には、タイヤ赤道面CLの両側に配設される2本のセンター主溝31と、2本のセンター主溝31のそれぞれのタイヤ幅方向外側に配設される2本のショルダー主溝32との、計4本の主溝30が形成されている。
【0021】
なお、主溝30とは、少なくとも一部がタイヤ周方向に延在する縦溝をいう。一般に主溝30は、3mm以上の溝幅を有し、6mm以上の溝深さを有し、摩耗末期を示すトレッドウェアインジケータ(スリップサイン)を内部に有する。本実施形態では、主溝30は、6mm以上25mm以下の溝幅を有し、6mm以上9mm以下の溝深さを有しており、タイヤ赤道面CLと接地面3とが交差するタイヤ赤道線(センターライン)と実質的に平行である。主溝30は、タイヤ周方向に直線状に延在してもよいし、波形状又はジグザグ状に設けられてもよい。
【0022】
主溝30によって画成される陸部20のうち、2本のセンター主溝31同士の間に位置し、タイヤ赤道面CL上に位置する陸部20は、センター陸部21になっている。また、隣り合うセンター主溝31とショルダー主溝32との間に位置し、センター陸部21のタイヤ幅方向外側に配置される陸部20はセカンド陸部22になっている。また、セカンド陸部22のタイヤ幅方向外側に位置し、ショルダー主溝32を介してセカンド陸部22に隣り合う陸部20はショルダー陸部23になっている。
【0023】
なお、これらの陸部20は、タイヤ周方向の1周に亘ってリブ状に形成されていてもよく、トレッド部2に、タイヤ幅方向に延びるラグ溝(図示省略)が複数形成されることによって陸部20が主溝30とラグ溝とによって画成され、各陸部20がブロック状に形成されていてもよい。本実施形態では、陸部20はタイヤ周方向の1周に亘って形成されるリブ状の陸部20として形成されている。
【0024】
タイヤ幅方向におけるトレッド部2の両外側端にはショルダー部5が位置しており、ショルダー部5のタイヤ径方向内側には、サイドウォール部8が配設されている。即ち、サイドウォール部8は、トレッド部2のタイヤ幅方向両側に配設されている。換言すると、サイドウォール部8は、タイヤ幅方向における空気入りタイヤ1の両側2箇所に配設されており、空気入りタイヤ1におけるタイヤ幅方向の最も外側に露出した部分を形成している。
【0025】
タイヤ幅方向における両側に位置するそれぞれのサイドウォール部8のタイヤ径方向内側には、ビード部10が位置している。ビード部10は、サイドウォール部8と同様に、タイヤ赤道面CLの両側2箇所に配設されており、即ち、ビード部10は、一対がタイヤ赤道面CLのタイヤ幅方向における両側に配設されている。各ビード部10にはビードコア11が設けられており、ビードコア11のタイヤ径方向外側にはビードフィラー12が設けられている。ビードコア11は、スチールワイヤであるビードワイヤを束ねて円環状に形成される環状部材になっており、ビードフィラー12は、ビードコア11のタイヤ径方向外側に配置されるゴム部材になっている。
【0026】
また、トレッド部2にはベルト層14が配設されている。ベルト層14は、複数のベルト141、142が積層される多層構造によって構成されており、本実施形態では、2層のベルト141、142が積層されている。ベルト層14を構成するベルト141、142は、スチール、またはポリエステルやレーヨンやナイロン等の有機繊維材から成る複数のベルトコードをコートゴムで被覆して圧延加工して構成され、タイヤ周方向に対するベルトコードの傾斜角として定義されるベルト角度が、所定の範囲内(例えば、20°以上55°以下)になっている。また、2層のベルト141、142は、ベルト角度が互いに異なっている。このため、ベルト層14は、2層のベルト141、142が、ベルトコードの傾斜方向を相互に交差させて積層される、いわゆるクロスプライ構造として構成されている。つまり、2層のベルト141、142は、それぞれのベルト141、142が有するベルトコードが互いに交差する向きで配設される、いわゆる交差ベルトとして設けられている。
【0027】
ベルト層14のタイヤ径方向外側には、ベルトカバー層15が配設されている。ベルトカバー層15は、ベルト層14のタイヤ径方向外側に配設されてベルト層14をタイヤ周方向に覆っており、ベルト層14を補強する補強層として設けられている。ベルトカバー層15は、タイヤ周方向に略平行でタイヤ幅方向に複数並設されたコード(図示省略)がコートゴムで被覆されることにより形成されている。ベルトカバー層15が有するコードは、例えば、スチール、またはポリエステルやポリエチレンテレフタレート、レーヨン、ナイロン、ポリアミド複合+αのハイブリッド等の有機繊維からなり、コードの角度はタイヤ周方向に対して±5°の範囲内になっている。また、ベルトカバー層15が有するコードは、コードの直径である線径が0.5mm以上1.8mm以下の範囲内になっており、コードが並ぶ方向における50mmあたりのコードの打ち込み本数が、30本以上80本以下の範囲内になっている。
【0028】
本実施形態では、ベルトカバー層15は、ベルト層14が配設されるタイヤ幅方向における範囲の全域に亘って配設されており、ベルト層14のタイヤ幅方向端部を覆っている。即ち、ベルトカバー層15は、ベルト層14のタイヤ幅方向における全域をタイヤ径方向外側から覆う、フルカバー層として形成されている。トレッド部2が有するトレッドゴム層4は、トレッド部2におけるベルトカバー層15のタイヤ径方向外側に配設されている。
【0029】
ベルト層14のタイヤ径方向内側、及びサイドウォール部8のタイヤ赤道面CL側には、ラジアルプライのコードを内包するカーカス層13が連続して設けられている。このため、本実施形態に係る空気入りタイヤ1は、いわゆるラジアルタイヤとして構成されている。カーカス層13は、1枚のカーカスプライから成る単層構造、或いは複数のカーカスプライを積層して成る多層構造を有し、タイヤ幅方向の両側に配設される一対のビード部10間にトロイダル状に架け渡されてタイヤの骨格を構成する。
【0030】
詳しくは、カーカス層13は、タイヤ幅方向における両側に位置する一対のビード部10のうち、一方のビード部10から他方のビード部10にかけて配設されており、ビードコア11及びビードフィラー12を包み込むようにビード部10でビードコア11に沿ってタイヤ幅方向外側に巻き返されている。ビードフィラー12は、このようにカーカス層13がビード部10で折り返されることにより、ビードコア11のタイヤ径方向外側に形成される空間に配置されるゴム材になっている。また、ベルト層14は、このように一対のビード部10間に架け渡されるカーカス層13における、トレッド部2に位置する部分のタイヤ径方向外側に配置されている。また、カーカス層13のカーカスプライは、スチール、或いはアラミド、ナイロン、ポリエステル、レーヨン等の有機繊維材から成る複数のカーカスコードを、コートゴムで被覆して圧延加工することによって構成されている。カーカスプライを構成するカーカスコードは、タイヤ周方向に対する角度がタイヤ子午線方向に沿いつつ、タイヤ周方向にある角度を持って複数並設されている。
【0031】
ビード部10における、ビードコア11及びカーカス層13の巻き返し部のタイヤ径方向内側やタイヤ幅方向外側には、リムフランジに対するビード部10の接触面を構成するリムクッションゴム17が配設されている。また、カーカス層13の内側、或いは、当該カーカス層13の、空気入りタイヤ1における内部側には、インナーライナ16がカーカス層13に沿って形成されている。インナーライナ16は、空気入りタイヤ1の内側の表面であるタイヤ内面18を形成している。
【0032】
図2は、図1に示すトレッド部2の詳細図である。図3は、図2に示すベルト層14とベルトカバー層15の模式図である。ベルト層14のタイヤ径方向外側に配設されるベルトカバー層15は、帯状に形成される帯状部材であるベルトカバー材40が、ベルト層14のタイヤ径方向外側にタイヤ回転軸を中心とする螺旋状に巻かれることにより形成されている。帯状部材であるベルトカバー材40は、幅が5mm以上15mm以下の範囲内になっており、ベルトカバー層15は、1枚の帯状のベルトカバー材40がベルト層14のタイヤ径方向外側に螺旋状に巻かれることにより形成されている。ベルトカバー材40は、ベルトカバー層15を構成する補強層構成部材になっており、ベルトカバー層15を構成するコードがコートゴムで被覆されることにより形成されている。
【0033】
また、ベルトカバー層15は、タイヤ幅方向両側のショルダー領域Ash間に亘って配設されている。このため、ベルトカバー層15は、ベルト層14のタイヤ幅方向における全域に亘って配設され、ベルト層14のタイヤ幅方向における全域のタイヤ径方向外側に配設されている。
【0034】
この場合におけるショルダー領域Ashは、ベルト層14のタイヤ幅方向における幅の85%の位置Pとベルト層14のタイヤ幅方向における端部144との間の領域になっている。詳しくは、ショルダー領域Ashは、タイヤ子午断面において、ベルト層14が有する複数のベルト141、142のうち、タイヤ幅方向における幅が最も広いベルトである最幅広ベルト143のタイヤ幅方向における幅の85%の位置Pと、最幅広ベルト143の端部144とから、タイヤ内面18に対して垂直に延ばした線を、それぞれショルダー領域境界線Lshとする場合に、2本のショルダー領域境界線Lshの間に位置する領域になっている。これらのように規定されるショルダー領域Ashは、タイヤ赤道面CLのタイヤ幅方向における両側で規定され、タイヤ赤道面CLのタイヤ幅方向における両側にそれぞれ位置している。
【0035】
本実施形態では、ベルト層14が有する2層のベルト141、142のうち、タイヤ径方向内側に位置するベルト141のタイヤ幅方向における幅が、他方のベルト142のタイヤ幅方向における幅よりも広くなっており、このタイヤ径方向内側に位置するベルト141が、最幅広ベルト143になっている。
【0036】
また、最幅広ベルト143のタイヤ幅方向における幅の85%の位置Pは、最幅広ベルト143のタイヤ幅方向における中心、或いはタイヤ赤道面CLの位置を中心として、最幅広ベルト143のタイヤ幅方向における幅の85%の領域がタイヤ幅方向両側に均等に振り分けられた際における、85%の領域の端部の位置になっている。このため、最幅広ベルト143のタイヤ幅方向における幅の85%の位置Pと、最幅広ベルト143の端部144との間隔は、タイヤ赤道面CLのタイヤ幅方向両側で同じ大きさになっている。
【0037】
このように規定されるショルダー領域Ashは、空気入りタイヤ1を正規リムにリム組みして正規内圧を充填した状態における形状で規定される。ここでいう正規リムとは、JATMAで規定する「標準リム」、TRAで規定する「Design Rim」、或いは、ETRTOで規定する「Measuring Rim」である。また、正規内圧とは、JATMAで規定する「最高空気圧」、TRAで規定する「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」に記載の最大値、或いはETRTOで規定する「INFLATION PRESSURES」である。
【0038】
また、ベルトカバー層15は、タイヤ幅方向両側のショルダー領域Ash同士の間に、ベルトカバー材40が重ねながら巻かれた重ね巻き部45が形成されている。重ね巻き部45は、螺旋状に巻かれるベルトカバー材40における、タイヤ幅方向に隣り合う周回部分同士の一部がタイヤ径方向に重ねて巻かれることにより形成されている。即ち、重ね巻き部45は、螺旋状に巻かれるベルトカバー材40におけるタイヤ幅方向に隣り合う周回部分同士の、ベルトカバー材40の幅方向における一部がタイヤ径方向に重ねて巻かれることにより形成されている。
【0039】
図4は、図2に示すセンター陸部21の詳細図である。ベルトカバー層15が有する重ね巻き部45は、図4に示すように、ベルトカバー材40におけるタイヤ幅方向に隣り合う周回部分同士の一部がタイヤ径方向に重ねて巻かれた部分であるラップ部46を有している。即ち、重ね巻き部45に位置するベルトカバー材40は、タイヤ幅方向に隣り合う周回部分同士が、ラップ部46でタイヤ径方向に重ねられている。重ね巻き部45では、ベルトカバー材40がラップ部46でタイヤ径方向に重ねられることにより、ラップ部46の位置ではベルトカバー材40が2層に積層されている。
【0040】
このように形成されるベルトカバー層15の重ね巻き部45は、タイヤ赤道面CLをタイヤ幅方向に跨いで形成されている。このため、重ね巻き部45は、少なくとも一部がセンター陸部21のタイヤ径方向内側に位置している。また、ベルトカバー層15が有する重ね巻き部45は、タイヤ幅方向における幅Wsが、ベルトカバー層15のタイヤ幅方向における幅CW(図2参照)の3%以上30%以下の範囲内になっている。具体的には、重ね巻き部45は、タイヤ幅方向における幅Wsが、5mm以上40mm以下の範囲内になっている。
【0041】
図5は、図4のA-A矢視方向における、ベルトカバー層15の重ね巻き部45に位置するベルトカバー材40の模式図である。ベルトカバー層15の重ね巻き部45が有するラップ部46の幅Wbは、ベルトカバー材40の幅Waの20%以上70%以下の範囲内になっている。つまり、重ね巻き部45に位置するベルトカバー材40は、タイヤ幅方向に隣り合う周回部分同士が、ベルトカバー材40の幅Waの20%以上70%以下の範囲内の幅Wbで、タイヤ径方向に重ねられている。
【0042】
図6は、図2のB-B矢視方向における、ベルトカバー層15におけるショルダー領域Ashに位置するベルトカバー材40の模式図である。ベルトカバー層15を形成するベルトカバー材40は、重ね巻き部45以外の部分では、螺旋状に巻かれるベルトカバー材40におけるタイヤ幅方向に隣り合う周回部分同士がタイヤ径方向に重ねられずに、隣り合う周回部分同士が近接、または接触しながら巻かれている。このため、ベルトカバー層15は、ショルダー領域Ashに位置する部分においても、螺旋状に巻かれるベルトカバー材40におけるタイヤ幅方向に隣り合う周回部分同士が、タイヤ径方向に重ねられることなく近接、または接触しながら巻かれている。つまり、ベルトカバー層15は、重ね巻き部45以外の位置では、ショルダー領域Ashに位置する部分も含めて、1層のベルトカバー材40によって形成されている。
【0043】
[空気入りタイヤの製造方法]
次に、実施形態に係る空気入りタイヤ1の製造方法について説明する。空気入りタイヤ1の製造時には、まず、空気入りタイヤ1を構成する部材ごとに加工を行い、加工した部材を組み立てる。即ち、トレッドゴム層4等のゴム部材や、ビードコア11、カーカス層13、ベルト層14、ベルトカバー層15等の各部材をそれぞれ加工し、加工した部材を組み立てる。このうち、ベルトカバー層15は、ベルト層14のタイヤ径方向外側に、帯状のベルトカバー材40をタイヤ回転軸を中心とする螺旋状に巻くことにより、ベルト層14のタイヤ径方向外側に配設する。
【0044】
図7は、ベルトカバー材40の巻き付けについて説明する模式図である。ベルトカバー層15をベルト層14のタイヤ径方向外側に配設する工程では、1枚のベルトカバー材40をタイヤ幅方向両側のショルダー領域Ash間に亘って螺旋状に巻く。これにより、ベルトカバー層15をショルダー領域Ash間に形成する。つまり、ベルトカバー層15をベルト層14のタイヤ径方向外側に配設する際には、タイヤ幅方向両側に位置するショルダー領域Ashにおける一方のショルダー領域Ash側から他方のショルダー領域Ash側にかけて、帯状の部材からなる1枚のベルトカバー材40をベルト層14のタイヤ径方向外側に螺旋状に巻き付ける。
【0045】
ベルトカバー層15が有する重ね巻き部45は、タイヤ幅方向両側のショルダー領域Ash間に亘ってベルトカバー材40を螺旋状に巻く工程の途中で形成される。即ち、重ね巻き部45を形成する工程は、ベルトカバー層15を形成する工程に含まれている。ベルトカバー層15をショルダー領域Ash間に形成する工程では、重ね巻き部45以外の部分を形成する際のベルトカバー材40の巻き付け方と重ね巻き部45を形成する際のベルトカバー材40の巻き付け方とが互いに異なっている。
【0046】
詳しくは、ベルトカバー層15をショルダー領域Ash間に形成する工程では、重ね巻き部45以外の部分では、螺旋状に巻くベルトカバー材40における、タイヤ幅方向に隣り合う周回部分同士をタイヤ径方向に重ねることなく、隣り合う周回部分同士を近接、または接触させながらベルトカバー材40を螺旋状に巻く。このため、ベルトカバー層15は、ショルダー領域Ashに位置する部分においても、螺旋状に巻くベルトカバー材40におけるタイヤ幅方向に隣り合う周回部分同士をタイヤ径方向に重ねることなく、隣り合う周回部分同士を近接、または接触させながらベルトカバー材40を螺旋状に巻くことにより形成する。
【0047】
具体的には、ベルトカバー層15を形成する工程で、重ね巻き部45以外の部分を形成するためにベルトカバー材40を螺旋状に巻く際には、ベルトカバー材40の幅とほぼ同じピッチで、螺旋状に巻く。つまり、ベルトカバー材40を螺旋状に巻く際には、ベルトカバー材40における、隣り合う周回部分同士が重ならず、また、隣り合う周回部分同士がほぼ離間しないピッチで巻き付ける。このため、ベルトカバー材40は、隣り合う周回部分のエッジ部同士が互いに接触する状態で巻かれるのが最も好ましく、隣り合う周回部分同士が離間する場合には、離間する距離が3mm以内であるのが好ましい。なお、ベルトカバー材40は、隣り合う周回部分同士が僅かに重なっていてもよく、隣り合う周回部分同士が重なる場合には、重なった部分の幅が3mm以内であるのが好ましい。ベルトカバー材40の隣り合う周回部分同士が重なった部分の幅が3mm以内である場合には、本実施形態では隣り合う周回部分同士は実質的に重なっていないとみなし、ラップ部46には含めない。
【0048】
一方、重ね巻き部45を形成する工程では、タイヤ幅方向両側のショルダー領域Ash同士の間で、螺旋状に巻くベルトカバー材40におけるタイヤ幅方向に隣り合う周回部分同士の一部をタイヤ径方向に重ねて巻くことにより、タイヤ幅方向両側のショルダー領域Ash同士の間に重ね巻き部45を形成する。具体的には、重ね巻き部45を形成する工程でベルトカバー材40を螺旋状に巻く際には、ベルトカバー材40は、ベルトカバー材40の幅よりも小さいピッチで螺旋状に巻く。これにより、ベルトカバー材40の隣り合う周回部分同士をタイヤ径方向に重ねながらベルトカバー材40を螺旋状に巻き、重ね巻き部45を形成する。また、本実施形態では、重ね巻き部45は、タイヤ赤道面CLをタイヤ幅方向に跨ぐ位置に形成する。
【0049】
このように、ベルトカバー材40同士を重ねながら巻くことにより重ね巻き部45を形成する工程では、重ね巻き部45のタイヤ幅方向における幅Ws(図4参照)を、ベルトカバー層15のタイヤ幅方向における幅CW(図2参照)の3%以上30%以下の範囲内で形成する。具体的には、重ね巻き部45を形成する工程では、重ね巻き部45のタイヤ幅方向における幅Wsを、5mm以上40mm以下の範囲内で形成する。また、重ね巻き部45を形成する工程では、重ね巻き部45が有するラップ部46の幅Wb(図4図5参照)が、ベルトカバー材40の幅Wa(図4図5参照)の20%以上70%以下の範囲内になるように、タイヤ方向幅方向における隣り合う周回部分同士の一部をタイヤ径方向に重ねながら、ベルトカバー材40を巻き付ける。
【0050】
ベルトカバー層15をショルダー領域Ash間に形成する工程では、これらのように、1枚のベルトカバー材40を一方のショルダー領域Ash側から他方のショルダー領域Ash側に向けて、タイヤ幅方向に隣り合う周回部分同士をタイヤ径方向に重ねることなく螺旋状に巻き付ける。ベルトカバー材40の巻き付けの途中で、タイヤ幅方向において重ね巻き部45を形成する部分に到達したら、タイヤ方向幅方向における隣り合う周回部分同士の一部をタイヤ径方向に重ねながらベルトカバー材40を巻くことにより、重ね巻き部45を形成する。ベルトカバー材40を一方のショルダー領域Ash側から他方のショルダー領域Ash側に向けて巻き付けることにより、重ね巻き部45を形成する部分を過ぎたら、再び、タイヤ幅方向に隣り合う周回部分同士をタイヤ径方向に重ねることなく螺旋状に巻き付ける。本実施形態に係る空気入りタイヤ1の製造方法では、これにより、ベルトカバー材40がタイヤ径方向に積層された重ね巻き部45を有するベルトカバー層15を、1枚のベルトカバー材40によって形成する。
【0051】
[作用・効果]
本実施形態に係る空気入りタイヤ1を車両に装着する際には、ビード部10にリムホイールR(図8参照)を嵌合することによってリムホイールRに空気入りタイヤ1をリム組みし、内部に空気を充填してインフレートした状態で車両に装着する。本実施形態に係る空気入りタイヤ1は、例えば、EXTRA LOAD規格のような、高荷重での使用に対応することができる空気入りタイヤ1であるため、インフレート時の空気圧を比較的高い状態にして使用することが可能になっている。このため、空気入りタイヤ1を高荷重で使用する際には、高めの空気圧で使用する。空気入りタイヤ1を装着した車両が走行すると、接地面3のうち下方に位置する部分の接地面3が路面に接触しながら当該空気入りタイヤ1は回転する。車両は、接地面3と路面との間の摩擦力により、駆動力や制動力を路面に伝達したり、旋回力を発生させたりすることにより走行する。
【0052】
例えば、空気入りタイヤ1を装着した車両で乾燥した路面を走行する場合には、主に接地面3と路面との間の摩擦力により、駆動力や制動力を路面に伝達したり、旋回力を発生させたりすることにより走行する。また、濡れた路面を走行する際には、接地面3と路面との間の水が主溝30やラグ溝等の溝に入り込み、これらの溝で接地面3と路面との間の水を排水しながら走行する。これにより、接地面3は路面に接地し易くなり、接地面3と路面との間の摩擦力により、車両は所望の走行をすることが可能になる。
【0053】
また、車両の走行時は、空気入りタイヤ1は車体の重量や、加減速、旋回に伴う荷重を受けるため、タイヤ径方向に大きな荷重が作用する。この荷重は、空気入りタイヤ1の内部に充填される空気によって主に受けるが、空気入りタイヤ1の内部の空気のみでなく、トレッド部2やサイドウォール部8によっても受ける。即ち、サイドウォール部8は、リムホイールRが嵌合されるビード部10とトレッド部2との間で荷重を伝達し、トレッド部2は、サイドウォール部8と路面との間で荷重を伝達する。このため、サイドウォール部8やトレッド部2には、車両の走行時には大きな荷重が作用し、サイドウォール部8やトレッド部2は、主にタイヤ径方向に撓みながらこの荷重を受ける。
【0054】
また、車両の走行時には、空気入りタイヤ1は回転をするため、接地面3における路面に接地する位置は継続的にタイヤ周方向に移動し、これに伴い、サイドウォール部8やトレッド部2における、車両の走行時の荷重によって撓む位置も、タイヤ周方向に移動する。このため、車両の走行時は、サイドウォール部8やトレッド部2のタイヤ周方向上における各位置が、順次撓むことを繰り返しながら空気入りタイヤ1は回転をする。
【0055】
また、車両が走行する路面には、石等の路面から突出する突起物が存在することがあり、走行中の車両は、このような突起物を空気入りタイヤ1のトレッド部2で踏んでしまうことがある。その際に、内部に充填される空気圧が高いことによりサイドウォール部8やトレッド部2の撓みが小さいと、空気入りタイヤ1は、突起物が存在することによる路面の形状の変化を吸収することができず、突起物は、空気入りタイヤ1のトレッド部2を貫通してしまう虞がある。即ち、内圧を高くした空気入りタイヤ1は、路面上の突起物を踏んだ際に、サイドウォール部8やトレッド部2の撓みが小さいことに起因して突起物がトレッド部2を貫通し、ショックバーストが発生する虞がある。
【0056】
これに対し、本実施形態に係る空気入りタイヤ1は、ベルトカバー層15が1枚の帯状のベルトカバー材40が螺旋状に巻かれることにより形成され、また、ベルトカバー層15は、タイヤ幅方向両側のショルダー領域Ash同士の間に重ね巻き部45を有しているため、内圧を高くした場合におけるショックバーストを抑制することができる。図8は、実施形態に係る空気入りタイヤ1で路面100上の突起物105を踏んだ状態を示す説明図である。本実施形態に係る空気入りタイヤ1では、ベルトカバー層15は、タイヤ幅方向両側のショルダー領域Ash同士の間に、ベルトカバー材40におけるタイヤ幅方向に隣り合う周回部分同士の一部がタイヤ径方向に重なった重ね巻き部45を有するため、ベルトカバー材40が重ねられる数が他の部分よりも多く強度が高い部分を、ショルダー領域Ash同士の間に形成することができる。つまり、ベルトカバー層15における重ね巻き部45のラップ部46以外の位置では、1層のベルトカバー材40によって形成されているのに対し、重ね巻き部45のラップ部46の位置では、2層のベルトカバー材40によって形成されているため、ベルトカバー層15における重ね巻き部45の強度を、重ね巻き部45以外の部分の強度より高くすることができる。これにより、トレッド部2のタイヤ幅方向における中央付近の破断強度を増加させることができ、路面100上の突起物105を、接地圧が高くなり易いセンター陸部21付近で踏んだ場合でも、突起物105がトレッド部2を貫通することを抑制することができる。従って、車両の走行中に突起物105を踏むことに起因するショックバーストを抑制することができる。
【0057】
また、ベルトカバー層15におけるショルダー領域Ashに位置する部分では、螺旋状に巻かれるベルトカバー材40におけるタイヤ幅方向に隣り合う周回部分同士がタイヤ径方向に重ねられることなくベルトカバー材40は巻かれるため、ベルトカバー材40を用いて耐ショックバースト性を向上させる際でも、トレッド部2のショルダー領域Ashの強度が必要以上に高くなることを抑制することができる。このため、トレッド部2のタイヤ幅方向における中央付近で突起物105を踏んだ際に、ショルダー領域Ashを変形させ易くすることができ、トレッド部2のタイヤ幅方向における中央付近が路面100から離れる方向に、ショルダー領域Ashを変形させ易くすることができる。これにより、トレッド部2に対する突起物105からの圧力を低減することができ、突起物105がトレッド部2を貫通することを抑制することができる。従って、車両の走行中に突起物105を踏むことに起因するショックバーストを、より確実に抑制することができる。
【0058】
また、ベルトカバー層15は、1枚のベルトカバー材40を螺旋状に巻き付けることによって形成し、ベルトカバー層15における強度を増加させる部分は、螺旋状に巻かれるベルトカバー材40におけるタイヤ幅方向に隣り合う周回部分同士の一部をタイヤ径方向に重ねて巻いた重ね巻き部45により形成する。このため、1枚のベルトカバー材40によってベルトカバー層15を容易に形成することができると共に、ベルトカバー層15の一部の強度を、容易に増加させることができる。これにより、ベルトカバー層15を用いて耐ショックバースト性を向上させる際における生産性を向上させることができる。
【0059】
また、ベルトカバー層15におけるショルダー領域Ashに位置する部分では、ベルトカバー材40は隣り合う周回部分同士がタイヤ径方向に重ねられることなく巻かれ、タイヤ幅方向両側のショルダー領域Ash同士の間には、ラップ部46を有するようにベルトカバー材40は巻かれるため、ベルトカバー層15の強度を、1枚のベルトカバー材40によってタイヤ幅方向における位置に応じて容易に変化させることができる。これにより、ベルトカバー層15の強度を、タイヤ幅方向における位置で容易に異ならせる際における生産性を、より確実に向上させることができる。
【0060】
また、ベルトカバー層15は、重ね巻き部45のタイヤ幅方向における幅Wsがベルトカバー層15のタイヤ幅方向における幅CWの3%以上30%以下の範囲内になっているため、ベルトカバー材40を螺旋状に巻いてベルトカバー層15を形成する際における生産性の低下を抑制しつつ、接地圧が高くなり易いトレッド部2のタイヤ幅方向における中央付近の破断強度を向上させることができる。つまり、重ね巻き部45の幅Wsがベルトカバー層15の幅CWの3%未満である場合は、重ね巻き部45の幅Wsが小さ過ぎるため、ベルトカバー層15における重ね巻き部45の位置での強度を確保し難くなる虞がある。この場合、ベルトカバー層15に重ね巻き部45を形成しても、トレッド部2のタイヤ幅方向における中央付近の破断強度を向上させ難くなり、トレッド部2で踏んだ突起物105がトレッド部2を貫通することを抑制し難くなる虞がある。また、重ね巻き部45の幅Wsがベルトカバー層15の幅CWの30%より大きい場合は、重ね巻き部45の幅Wsが大き過ぎるため、ベルトカバー材40におけるタイヤ周方向に隣り合う周回部分同士をタイヤ径方向に重ねる範囲が大きくなり過ぎる虞がある。これにより、生産性が低下し易くなる虞がある。即ち、ベルトカバー材40におけるタイヤ周方向に隣り合う周回部分同士をタイヤ径方向に重ねる場合、ベルトカバー材40を螺旋状に巻いてベルトカバー層15をタイヤ幅方向に徐々に形成する際における速度が低下するため、タイヤ周方向に隣り合う周回部分同士をタイヤ径方向に重ねる範囲が大きくなった際には、範囲が大きくなった分、生産速度も低下し易くなる。このため、ベルトカバー材40におけるタイヤ周方向に隣り合う周回部分同士をタイヤ径方向に重ねる範囲が大きくなり過ぎる場合、生産性が低下し易くなる虞がある。
【0061】
これに対し、重ね巻き部45の幅Wsがベルトカバー層15の幅CWの3%以上30%以下の範囲内である場合は、ベルトカバー材40におけるタイヤ周方向に隣り合う周回部分同士をタイヤ径方向に重ねる範囲が大きくなり過ぎることを抑制しつつ、重ね巻き部45の強度をより確実に確保することができる。これにより、ベルトカバー材40を螺旋状に巻いてベルトカバー層15を形成する際における生産性の低下を抑制しつつ、接地圧が高くなり易いトレッド部2のタイヤ幅方向における中央付近の破断強度を、より確実に向上させることができる。これらの結果、耐ショックバースト性能と生産性とを両立することができる。
【0062】
また、重ね巻き部45は、タイヤ幅方向における幅Wsが5mm以上40mm以下の範囲内であるため、ベルトカバー層15の重量が増加し過ぎることを抑制しつつ、重ね巻き部45の強度をより確実に確保することができる。つまり、重ね巻き部45の幅Wsが5mm未満である場合は、重ね巻き部45の幅Wsが小さ過ぎるため、重ね巻き部45の強度を確保し難くなる虞がある。この場合、重ね巻き部45を形成しても、トレッド部2のタイヤ幅方向における中央付近の破断強度を効果的に向上させ難くなり、トレッド部2で踏んだ突起物105がトレッド部2を貫通することを効果的に抑制し難くなる虞がある。また、重ね巻き部45の幅Wsが40mmより大きい場合は、重ね巻き部45の幅Wsが大き過ぎるため、使用するベルトカバー材40が多くなり過ぎる虞がある。この場合、ベルトカバー層15の重量が増加し過ぎる虞があり、重ね巻き部45を設けることに起因して空気入りタイヤ1の重量が増加し過ぎる虞がある。
【0063】
これに対し、重ね巻き部45の幅Wsが5mm以上40mm以下の範囲内である場合は、ベルトカバー層15の重量が増加し過ぎることを抑制しつつ、重ね巻き部45の強度をより確実に確保することができ、接地圧が高くなり易いトレッド部2のタイヤ幅方向における中央付近の破断強度を、より確実に向上させることができる。この結果、空気入りタイヤ1の重量の増加を抑えつつ、耐ショックバースト性能を向上させることができる。
【0064】
また、重ね巻き部45は、タイヤ赤道面CLをタイヤ幅方向に跨いで形成されるため、トレッド部2において車両走行時に接地圧が高くなり易い位置の破断強度をより確実に増加させることができる。これにより、路面100上の突起物105を踏んだ際におけるショックバーストを、より確実に抑制することができる。この結果、より確実に耐ショックバースト性能を向上させることができる。
【0065】
また、重ね巻き部45が有するラップ部46の幅Wbは、ベルトカバー材40の幅Waの20%以上70%以下の範囲内であるため、ベルトカバー層15の重量が増加し過ぎることを抑制しつつ、より確実にショックバーストを抑制することができる。つまり、ラップ部46の幅Wbが、ベルトカバー材40の幅Waの20%未満である場合は、重ね巻き部45を形成しても、重ね巻き部45を形成しない場合と比較して、トレッド部2の破断強度を効果的に増加させ難くなる虞がある。この場合、ラップ部46を有する重ね巻き部45をベルトカバー層15に形成しても、重ね巻き部45を形成することによってショックバーストを抑制する効果を得難くなる虞がある。また、ラップ部46の幅Wbが、ベルトカバー材40の幅Waの70%より大きい場合は、ラップ部46の幅Wbが大き過ぎるため、使用するベルトカバー材40が多くなり過ぎる虞がある。この場合、ベルトカバー層15の重量が増加し過ぎる虞があり、これに起因して空気入りタイヤ1の重量が増加し過ぎる虞がある。
【0066】
これに対し、ラップ部46の幅Wbが、ベルトカバー材40の幅Waの20%以上70%以下の範囲内である場合は、ベルトカバー層15の重量が増加し過ぎることを抑制しつつ、トレッド部2のタイヤ幅方向における中央付近の破断強度を重ね巻き部45によってより確実に増加させることができ、ショックバーストをより確実に抑制することができる。この結果、空気入りタイヤ1の重量の増加を抑えつつ、耐ショックバースト性能を向上させることができる。
【0067】
また、本実施形態に係る空気入りタイヤ1の製造方法は、1枚のベルトカバー材40をタイヤ幅方向両側のショルダー領域Ash間に亘ってベルトカバー層15を形成する際に、ベルトカバー材40におけるタイヤ幅方向に隣り合う周回部分同士の一部をタイヤ径方向に重ねることによって重ね巻き部45を形成するため、ベルトカバー材40が重ねられる数が他の部分よりも多く強度が高い部分を、ショルダー領域Ash同士の間に形成することができる。これにより、トレッド部2のタイヤ幅方向における中央付近の破断強度を増加させることができ、路面100上の突起物105を、接地圧が高くなり易いセンター陸部21付近で踏んだ場合でも、突起物105がトレッド部2を貫通することを抑制することができる。従って、車両の走行中に突起物105を踏むことに起因するショックバーストを抑制することができる。
【0068】
また、ベルトカバー層15におけるショルダー領域Ashに位置する部分では、ベルトカバー材40におけるタイヤ幅方向に隣り合う周回部分同士をタイヤ径方向に重ねることなくベルトカバー材40を巻くため、ベルトカバー材40を用いて耐ショックバースト性を向上させる際でも、トレッド部2のショルダー領域Ashの強度が必要以上に高くなることを抑制することができる。これにより、トレッド部2のタイヤ幅方向における中央付近で突起物105を踏んだ際に、ショルダー領域Ashを変形させ易くすることができ、トレッド部2のタイヤ幅方向における中央付近が路面100から離れる方向に、ショルダー領域Ashを変形させ易くすることができる。従って、トレッド部2に対する突起物105からの圧力を低減することができ、突起物105がトレッド部2を貫通することを抑制することができるため、より確実にショックバーストを抑制することができる。
【0069】
また、ベルトカバー層15は、1枚のベルトカバー材40を螺旋状に巻き付けることによって形成し、螺旋状に巻くベルトカバー材40におけるタイヤ幅方向に隣り合う周回部分同士の一部をタイヤ径方向に重ねて巻いて重ね巻き部45により形成することにより、ショルダー領域Ash間に、ベルトカバー層15における強度を増加させる部分を形成する。これにより、1枚のベルトカバー材40によってベルトカバー層15を容易に形成することができると共に、ベルトカバー層15の一部の強度を、容易に増加させることができる。従って、ベルトカバー層15を用いて耐ショックバースト性を向上させる際における生産性を向上させることができる。
【0070】
また、ベルトカバー層15におけるショルダー領域Ashに位置する部分では、ベルトカバー材40は隣り合う周回部分同士をタイヤ径方向に重ねることなく巻き、タイヤ幅方向両側のショルダー領域Ash同士の間には、ラップ部46を有するようにベルトカバー材40を巻くため、ベルトカバー層15の強度を、1枚のベルトカバー材40によってタイヤ幅方向における位置に応じて容易に変化させることができる。これにより、ベルトカバー層15の強度を、タイヤ幅方向における位置で容易に異ならせる際における生産性を、より確実に向上させることができる。
【0071】
また、重ね巻き部45を形成する工程では、重ね巻き部45のタイヤ幅方向における幅Wsを、ベルトカバー層15のタイヤ幅方向における幅CWの3%以上30%以下の範囲内にするため、ベルトカバー材40を螺旋状に巻いてベルトカバー層15を形成する際における生産性の低下を抑制しつつ、接地圧が高くなり易いトレッド部2のタイヤ幅方向における中央付近の破断強度を向上させることができる。つまり、重ね巻き部45の幅Wsを、ベルトカバー層15の幅CWの3%未満にした場合は、重ね巻き部45の幅Wsが小さ過ぎるため、ベルトカバー層15における重ね巻き部45の位置での強度を確保し難くなる虞がある。この場合、トレッド部2のタイヤ幅方向における中央付近の破断強度を向上させ難くなり、トレッド部2で踏んだ突起物105がトレッド部2を貫通することを抑制し難くなる虞がある。また、重ね巻き部45の幅Wsをベルトカバー層15の幅CWの30%より大きくした場合は、重ね巻き部45の幅Wsが大き過ぎるため、ベルトカバー材40におけるタイヤ周方向に隣り合う周回部分同士をタイヤ径方向に重ねる範囲が大きくなり過ぎる虞がある。この場合、タイヤ周方向に隣り合う周回部分同士をタイヤ径方向に重ねる範囲が大きくなった分、ベルトカバー材40を螺旋状に巻いてベルトカバー層15を形成する際における生産速度が低下し易くなるめ、生産性が低下し易くなる虞がある。
【0072】
これに対し、重ね巻き部45の幅Wsをベルトカバー層15の幅CWの3%以上30%以下の範囲内にした場合は、ベルトカバー材40におけるタイヤ周方向に隣り合う周回部分同士をタイヤ径方向に重ねる範囲が大きくなり過ぎることを抑制しつつ、重ね巻き部45の強度をより確実に確保することができる。これにより、ベルトカバー層15を形成する際における生産性の低下を抑制しつつ、接地圧が高くなり易いトレッド部2のタイヤ幅方向における中央付近の破断強度を、より確実に向上させることができる。これらの結果、耐ショックバースト性能と生産性とを両立することができる。
【0073】
[変形例]
なお、上述した実施形態では、ベルトカバー層15は、ベルト層14のタイヤ幅方向における全域を覆うフルカバー層として形成されているが、ベルトカバー層15は、複数のフルカバー層を有していてもよい。図9は、実施形態に係る空気入りタイヤ1の変形例であり、ベルトカバー層15が複数のフルカバー層を有する場合の説明図である。ベルトカバー層15は、重ね巻き部45を含み、タイヤ幅方向両側のショルダー領域Ash間に亘って形成されるフルカバー層を第1フルカバー層51とする場合に、第1フルカバー層51に対してタイヤ径方向に積層され、タイヤ幅方向両側のショルダー領域Ash間に亘って形成される第2フルカバー層52を有していてもよい。この場合、第1フルカバー層51と第2フルカバー層52とは、1枚のベルトカバー材40が螺旋状に巻かれることにより形成され、第2フルカバー層52は、ベルトカバー材40におけるタイヤ幅方向に隣り合う周回部分同士がタイヤ径方向に重ねられることなく巻かれて第1フルカバー層51のタイヤ径方向外側に積層されるのが好ましい。
【0074】
詳しくは、第1フルカバー層51は、上述した実施形態のベルトカバー層15と同様に、タイヤ幅方向両側のショルダー領域Ash同士の間で1枚のベルトカバー材40が螺旋状に巻かれることにより形成され、タイヤ幅方向両側のショルダー領域Ash同士の間に、タイヤ幅方向に隣り合う周回部分同士の一部がタイヤ径方向に重ねて巻かれた重ね巻き部45が形成される。即ち、第1フルカバー層51は、一方のショルダー領域Ash側から他方のショルダー領域Ash側に向かって1枚のベルトカバー材40を螺旋状に巻くことにより形成する。第2フルカバー層52は、他方のショルダー領域Ash側までベルトカバー材40を巻いて第1フルカバー層51を形成した後、そのまま続けてベルトカバー材40を、第1フルカバー層51のタイヤ径方向外側で他方のショルダー領域Ash側から一方のショルダー領域Ash側に向かって螺旋状に巻くことにより形成する。これにより、重ね巻き部45を有する第1フルカバー層51のタイヤ径方向外側に第2フルカバー層52が積層されるベルトカバー層15を、1枚のベルトカバー材40で形成する。
【0075】
このように第1フルカバー層51と第2フルカバー層52が積層されるベルトカバー層15では、タイヤ幅方向におけるラップ部46が位置する部分では、ベルトカバー材40は3層以上でタイヤ径方向に重ねられる。従って、ベルトカバー層15のタイヤ幅方向において重ね巻き部45が位置する部分のベルトカバー層15の強度をより確実に向上させることができ、トレッド部2のタイヤ幅方向における中央付近の破断強度をより確実に増加させることができる。この結果、車両の走行中に突起物105を踏むことに起因するショックバーストを、より確実に抑制することができ、耐ショックバースト性能を、より確実に向上させることができる。
【0076】
なお、ベルトカバー層15に第1フルカバー層51と第2フルカバー層52とを形成する場合、タイヤ径方向における位置関係は、上記と反対でもよい。つまり、重ね巻き部45を有する第1フルカバー層51を、第2フルカバー層52のタイヤ径方向外側に積層させてもよい。また、ベルトカバー層15は、第2フルカバー層52も重ね巻き部45を有することにより、4層のベルトカバー材40がタイヤ径方向に重ねられる部分を有していてもよい。
【0077】
また、ベルトカバー層15の重ね巻き部45は、タイヤ幅方向における位置によってラップ部46の幅Wbが異なっていてもよい。図10は、実施形態に係る空気入りタイヤ1の変形例であり、ラップ部46の幅Wbが重ね巻き部45のタイヤ幅方向における中央付近と端部付近とで異なる場合の説明図である。ベルトカバー層15が有する重ね巻き部45のラップ部46の幅Wbは、例えば、図10に示すように、重ね巻き部45のタイヤ幅方向における中央付近でのラップ部46の幅Wbcが、重ね巻き部45のタイヤ幅方向における端部付近でのラップ部46の幅Wbsより大きくなるように形成されていてもよい。即ち、重ね巻き部45のタイヤ幅方向における端部付近でのラップ部46の幅Wbsが、重ね巻き部45のタイヤ幅方向における中央付近でのラップ部46の幅Wbcより小さくなるように形成されていてもよい。
【0078】
このように、重ね巻き部45のタイヤ幅方向における端部付近でのラップ部46の幅Wbsを、中央付近でのラップ部46の幅Wbcより小さくすることにより、ベルトカバー層15に重ね巻き部45を形成することにより重ね巻き部45が位置する部分の強度を高める際に、重ね巻き部45以外の部分と重ね巻き部45との境界部で強度が急激に変化することを抑制できる。これにより、ベルトカバー層15に重ね巻き部45を形成することによってトレッド部2のタイヤ幅方向における中央付近の破断強度を増加させる際に、トレッド部2のタイヤ幅方向における位置に応じた強度の変化を緩やかにすることができる。従って、トレッド部2のタイヤ幅方向における位置による強度の急激な変化が、走行性能に影響を及ぼすことを抑制することができる。
【0079】
また、重ね巻き部45のタイヤ幅方向における位置によってラップ部46の幅Wbを異ならせる場合は、重ね巻き部45のタイヤ幅方向のおける中央付近と端部付近以外で異ならせてもよい。図11は、実施形態に係る空気入りタイヤ1の変形例であり、ラップ部46の幅Wbが重ね巻き部45のタイヤ幅方向における両側で異なる場合の説明図である。ベルトカバー層15が有する重ね巻き部45のラップ部46の幅Wbは、例えば、図11に示すように、重ね巻き部45のタイヤ幅方向における一端側のラップ部46の幅Wbaと他端側のラップ部46の幅Wbbとで大きさを異ならせてもよい。例えば、トレッドパターンがタイヤ赤道線CLを中心として非対称であることによりタイヤ赤道線CLのタイヤ幅方向両側でトレッド部2の剛性が異なる場合は、タイヤ赤道線CLのタイヤ幅方向両側で重ね巻き部45のラップ部46の幅Wbを異ならせてもよい。または、車両への装着方向が定められている空気入りタイヤ1の場合は、重ね巻き部45における車両装着方向の相対的に外側寄りに位置する部分と内側寄りに位置する部分とでラップ部46の幅Wbを異ならせてもよい。トレッド部2や空気入りタイヤ1の態様に応じて、重ね巻き部45のタイヤ幅方向における両側でラップ部46の幅Wbを異ならせることにより、走行性能に影響を及ぼすことなく耐ショックバースト性能を向上させることができる。
【0080】
また、上述した実施形態では、主溝30は4本が形成されているが、主溝30は4本以外であってもよい。また、上述した実施形態では、タイヤ赤道面CL上にセンター陸部21が位置しているが、タイヤ赤道面CL上に陸部20が位置していなくてもよい。例えば、タイヤ赤道面CL上に主溝30が位置していてもよい。タイヤ赤道面CL上に主溝30が位置する場合、ベルトカバー層15の重ね巻き部45は、複数の陸部20のうちタイヤ赤道面CLに最も近い陸部20のタイヤ径方向内側に少なくとも一部が位置するのが好ましい。
【0081】
[実施例]
図12は、空気入りタイヤの性能評価試験の結果を示す図表である。以下、上記の空気入りタイヤ1について、従来例の空気入りタイヤと、本発明に係る空気入りタイヤ1と、本発明に係る空気入りタイヤ1と比較する比較例の空気入りタイヤとについて行なった性能の評価試験について説明する。性能評価試験は、ショックバーストに対する耐久性である耐ショックバースト性能と、タイヤ製造時における生産性とについての試験を行った。
【0082】
性能評価試験は、JATMAで規定されるタイヤの呼びが275/40ZR19 105Yサイズの空気入りタイヤ1を、リムサイズ19×9.5JのJATMA標準のリムホイールにリム組みしたものを用いて行った。各試験項目の評価方法は、プランジャー試験については、試験タイヤの空気圧を正規内圧で充填し、プランジャー径19mm、押し込み速度50mm/分にてJIS K6302に準じたプランジャー破壊試験を行い、タイヤ破壊エネルギー[J]を測定することによって評価した。耐ショックバースト性能は、後述する従来例を100とする指数評価によって表し、指数値が大きいほどタイヤ強度が優れ、耐ショックバースト性能が優れていることを示している。
【0083】
また、生産性については、タイヤ製造時におけるベルトカバー材40を巻き付ける工程で、ベルトカバー材40の巻き付けに要する時間を測定した。生産性は、測定した時間の逆数を、後述する従来例を100とする指数評価によって表し、指数値が大きいほど巻き付けの時間が短く、生産性が高いことを示している。なお、生産性は、指数が90以上であれば、従来例に対して大幅な性能の低下は抑制されているものとする。
【0084】
性能評価試験は、従来の空気入りタイヤの一例である従来例の空気入りタイヤと、本発明に係る空気入りタイヤ1の一例である実施例1~9と、本発明に係る空気入りタイヤ1と比較する空気入りタイヤの一例である比較例1~4との14種類のタイヤについて行った。このうち、従来例の空気入りタイヤは、ベルトカバー層15は1枚のベルトカバー材40によって形成されるものの、重ね巻き部45は有していない。また、比較例1の空気入りタイヤは、ベルトカバー層15は、ベルトカバー材40を螺旋状に巻いてフルカバー層を形成した後、ベルトカバー材40を一旦切断し、フルカバー層のタイヤ径方向外側におけるタイヤ幅方向の中央部付近にのみベルトカバー材40を巻き付けることにより、タイヤ幅方向の中央部付近にベルトカバー材40が2層になった2層部を形成している。また、比較例2、3の空気入りタイヤは、ベルトカバー層15が有する重ね巻き部45の幅Wsがベルトカバー層15の幅CWの3%以上30%以下の範囲内になっていない。また、比較例4の空気入りタイヤは、ベルトカバー層15におけるショルダー領域Ashに位置する部分で、ベルトカバー材40におけるタイヤ幅方向に隣り合う周回部分同士がタイヤ径方向に重ねられている。
【0085】
これに対し、本発明に係る空気入りタイヤ1の一例である実施例1~9は、ベルトカバー層15は1枚のベルトカバー材40によって形成されて重ね巻き部45を有しており、重ね巻き部45は、幅Wsがベルトカバー層15の幅CWの3%以上30%以下の範囲内になっており、ベルトカバー層15におけるショルダー領域Ashに位置する部分では、ベルトカバー材40におけるタイヤ幅方向に隣り合う周回部分同士がタイヤ径方向に重ねられることなく巻かれている。さらに、実施例1~9に係る空気入りタイヤ1は、ベルトカバー層15の重ね巻き部45のタイヤ幅方向における幅Wsや、ベルトカバー材40の幅Waに対する重ね巻き部45が有するラップ部46の幅Wb、ベルトカバー層15が第2フルカバー層52を有しているか否かが、それぞれ異なっている。
【0086】
これらのタイヤを用いて性能評価試験を行った結果、図12に示すように、実施例1~9に係る空気入りタイヤ1は、従来例に対して、生産性の低下を極力抑制しつつ、耐ショックバースト性能を向上させることができ、耐ショックバースト性能と生産性と合わせた総合的な性能を、従来例や比較例1~4よりも向上させることができることが分かった。つまり、実施例1~9に係る空気入りタイヤ1は、耐ショックバースト性能と生産性とを両立することができる。
【符号の説明】
【0087】
1 空気入りタイヤ
2 トレッド部
3 接地面
4 トレッドゴム層
5 ショルダー部
8 サイドウォール部
10 ビード部
13 カーカス層
14 ベルト層
141、142 ベルト
143 最幅広ベルト
144 端部
15 ベルトカバー層
18 タイヤ内面
20 陸部
21 センター陸部
22 セカンド陸部
23 ショルダー陸部
30 主溝
31 センター主溝
32 ショルダー主溝
40 ベルトカバー材
45 重ね巻き部
46 ラップ部
51 第1フルカバー層
52 第2フルカバー層
100 路面
105 突起物
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12