(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-08
(45)【発行日】2023-11-16
(54)【発明の名称】多孔質ビニル系架橋重合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08F 212/08 20060101AFI20231109BHJP
C08F 2/32 20060101ALI20231109BHJP
C08F 220/18 20060101ALI20231109BHJP
C08J 9/02 20060101ALI20231109BHJP
C08J 9/28 20060101ALI20231109BHJP
【FI】
C08F212/08
C08F2/32
C08F220/18
C08J9/02 CET
C08J9/28 CET
(21)【出願番号】P 2020024743
(22)【出願日】2020-02-17
【審査請求日】2022-10-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000131810
【氏名又は名称】株式会社ジェイエスピー
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金子 洋平
(72)【発明者】
【氏名】原口 健二
【審査官】岡部 佐知子
(56)【参考文献】
【文献】特表2004-529212(JP,A)
【文献】特開2012-051984(JP,A)
【文献】特表平11-503177(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 212/08
C08F 2/32
C08F 220/18
C08J 9/02
C08J 9/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビニル系単量体としてのスチレン系単量体及び/又はアクリル系単量体と、架橋剤と、乳化剤と、重合開始剤とを含む有機相に、水を含む水相を内包させた油中水型高内相エマルションを形成し、該エマルション中で、スチレン系単量体及び/又はアクリル系単量体を重合することにより、多孔質ビニル系架橋重合体を製造する方法であって、
上記ビニル系単量体がスチレン及び/又はメタクリル酸メチルを含み、
上記ビニル系単量体中のスチレンとメタクリル酸メチルとの合計含有割合が、40重量%以上であり、
上記架橋剤が、ビニル基及びイソプロペニル基から選択される官能基を分子内に少なくとも2個有するビニル系化合物であると共に、官能基当量が130g/mol以下である架橋剤Aと、官能基当量が130g/molを超え、5000g/mol以下である架橋剤Bとを含み、
上記スチレン系単量体と上記アクリル系単量体と上記架橋剤との合計100重量部に対する、上記架橋剤の添加量が7~27重量部であり、
上記スチレン系単量体と上記アクリル系単量体と上記架橋剤との合計100重量部に対する、上記架橋剤Aの添加量が3~17重量部であり、
上記架橋剤Bに対する上記架橋剤Aの重量比A/Bが0.3~5であ
り、
上記架橋剤Aが、ジビニルベンゼン、ブタンジオール(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパン(メタ)アクリレート、ヘキサンジオール(メタ)アクリレート、及びペンタエリスリトール(メタ)アクリレートからなる群より選択される少なくとも1種の化合物であり、
上記架橋剤Bが、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、及び(メタ)アクリル変性シリコーンからなる群より選択される少なくとも1種の化合物である、多孔質ビニル系架橋重合体の製造方法。
【請求項2】
上記架橋剤Bの官能基当量が、上記架橋剤Aの官能基当量よりも60g/mol以上大きい、請求項1に記載の多孔質ビニル系架橋重合体の製造方法。
【請求項3】
上記架橋剤Bの添加量が、上記スチレン系単量体と上記アクリル系単量体と上記架橋剤との合計100重量部に対して2~18重量部である、請求項1または2に記載の多孔質ビニル系架橋重合体の製造方法。
【請求項4】
上記架橋剤Aが、ジビニルベンゼンである、請求項1~
3のいずれか一項に記載の多孔質ビニル系架橋重合体の製造方法。
【請求項5】
上記スチレン系単量体が、スチレンを含み、上記アクリル系単量体が、メタクリル酸メチル以外の(メタ)アクリル酸アルキルエステルを含み、該(メタ)アクリル酸アルキルエステルが、(メタ)アクリル酸と炭素数1~20のアルコールとのエステルである、請求項1~
4のいずれか一項に記載の多孔質ビニル系架橋重合体の製造方法。
【請求項6】
上記乳化剤が、ポリグリセリン脂肪酸エステル及び/又はソルビタンエステル誘導体である、請求項1~
5のいずれか一項に記載の多孔質ビニル系架橋重合体の製造方法。
【請求項7】
上記高内相エマルションにおける上記水相の含有量が、上記有機相100重量部に対して300~1600重量部である、請求項1~
6のいずれか一項に記載の多孔質ビニル系架橋重合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高内相エマルションの重合により得られる多孔質ビニル系架橋重合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水等の水性液体からなる水相を、ビニル系単量体、架橋剤、乳化剤、重合開始剤等を含む有機相中に高比率で内包させた油中水型の高内相エマルション(つまり、HIPE)を形成し、該エマルション中で有機相を重合することにより、HIPEフォーム(HIPE foam)等と呼ばれる多孔質重合体を得る方法が知られている。この多孔質重合体は、重合時における、高内相エマルションでの有機相と水相との分散形態や水相の分散形状が反映された重合体となり、重合体中に多数の気泡が均質に存在する気泡構造を有すると共に、気泡間を連通する多数の細孔が形成された連続気泡構造を有するものとなる。そのため、HIPEフォームは、吸収材、分離材等の用途への応用が期待されている。
【0003】
特許文献1には、密度、ガラス転移温度、靭性指数が調整されたHIPEフォームが提案されている。特許文献1によれば、このようなHIPEフォームは、靭性に優れ、例えばふきとり用品等の物品に好適であるとされる。また、特許文献2には、所謂HIPE法により得られ、所定の気泡構造を有する有機多孔体(つまり、HIPEフォーム)が提案されている。特許文献2によれば、このようなHIPEフォームは、物理的強度が高く、吸着量や吸着速度に優れた吸着剤、膨潤や収縮に対する耐久性に優れたイオン交換体、分離能に優れたクロマトグラフィー用充填剤として用いられるとされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2003-514052号公報
【文献】特開2003-246809号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記したように、油中水型高内相エマルションの有機相を重合する方法(つまり、HIPE法)により得られる多孔質重合体(具体的には、HIPEフォーム)は、例えば、切削加工により切削加工品を形成するための切削加工用材料等としての使用が期待される。しかしながら、例えば、特許文献2に開示される多孔質重合体は、硬いが、脆く、靭性が低いものであり、また、特許文献1に開示される多孔質重合体は、柔らかいが、剛性が低いものであった。つまり、HIPE法では、靭性と剛性とを両立した多孔質重合体は得られておらず、このような多孔質重合体は、切削加工用材料等の各種用途における実用化にはほとんど至っていないという実情がある。
【0006】
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたものであり、油中水型高内相エマルションの重合により得られる剛性及び靭性に優れた多孔質ビニル系架橋重合体の製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、ビニル系単量体としてのスチレン系単量体及び/又はアクリル系単量体と、架橋剤と、乳化剤と、重合開始剤とを含む有機相に、水を含む水相を内包させた油中水型高内相エマルションを形成し、該エマルション中で、スチレン系単量体及び/又はアクリル系単量体を重合することにより、多孔質ビニル系架橋重合体を製造する方法であって、
上記ビニル系単量体がスチレン及び/又はメタクリル酸メチルを含み、
上記ビニル系単量体中のスチレンとメタクリル酸メチルとの合計含有割合が、40重量%以上であり、
上記架橋剤が、ビニル基及びイソプロペニル基から選択される官能基を分子内に少なくとも2個有するビニル系化合物であると共に、官能基当量が130g/mol以下である架橋剤Aと、官能基当量が130g/molを超え、5000g/mol以下である架橋剤Bとを含み、
上記スチレン系単量体と上記アクリル系単量体と上記架橋剤との合計100重量部に対する、上記架橋剤の添加量が7~27重量部であり、
上記スチレン系単量体と上記アクリル系単量体と上記架橋剤との合計100重量部に対する、上記架橋剤Aの添加量が3~17重量部であり、
上記架橋剤Bに対する上記架橋剤Aの重量比A/Bが0.3~5であり、
上記架橋剤Aが、ジビニルベンゼン、ブタンジオール(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパン(メタ)アクリレート、ヘキサンジオール(メタ)アクリレート、及びペンタエリスリトール(メタ)アクリレートからなる群より選択される少なくとも1種の化合物であり、
上記架橋剤Bが、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、及び(メタ)アクリル変性シリコーンからなる群より選択される少なくとも1種の化合物である、多孔質ビニル系架橋重合体の製造方法にある。
【発明の効果】
【0008】
上記製造方法においては、スチレン系単量体及び/又はアクリル系単量体と、架橋剤と、乳化剤と、重合開始剤とを含む有機相に、水を含む水相を内包させた油中水型高内相エマルション中で、スチレン系単量体及び/又はアクリル系単量体を重合する。重合にあたり、上記所定の架橋剤Aと架橋剤Bとを上記割合で用いている。これにより、剛性及び靭性に優れた多孔質ビニル系架橋重合体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、実施例の多孔質ビニル系架橋重合体の低真空走査電子顕微鏡写真である。
【
図2】
図2は、実施例の多孔質ビニル系架橋重合体の動的粘弾性測定(つまりDMA)により得られるDMAカーブである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、多孔質ビニル系架橋重合体の好ましい実施形態について説明する。以降の説明では、多孔質ビニル系架橋重合体のことを、適宜「架橋重合体」という。本明細書において、「~」を用いてその前後に数値又は物性値を挟んで表現する場合、その前後の値を含むものとして用いることとする。また、下限として数値又は物性値を表現する場合、その数値又は物性値以上であることを意味し、上限として数値又は物性値を表現する場合、その数値又は物性値以下であることを意味する。また、「重量部」、「重量%」は、それぞれ「質量部」、「質量%」と実質的に同義である。
【0011】
[高内相エマルション]
高内相エマルションは、単量体と、乳化剤と、架橋剤と、重合開始剤とを含む有機相に、水を含む水相を高比率で内包させてなる油中水型のエマルションである。高内相エマルションは、通称ハイプ(HIPE)と呼ばれる。HIPEは、例えば、単量体、乳化剤、及び重合開始剤等を含む油性液体に、水等を含む水性液体を滴下することにより製造される。一般に、高内相エマルションは、連続相(具体的には有機相)に対する内相(具体的には水相)の含有比率が高く、内相が高比率であるものを意味する。内相は、分散相とも呼ばれる。
【0012】
(単量体)
単量体としては、単官能のビニル系単量体を用いる。具体的には、スチレン系単量体及び/又はアクリル系単量体を用いる。スチレン系単量体又はアクリル系単量体の添加量は0であってもよい。つまり、単量体として、スチレン系単量体又はアクリル系単量体を用いるか、あるいは、スチレン系単量体とアクリル系単量体とを用いる。その結果、靭性及び剛性がバランスよく優れた架橋重合体を得ることができる。また、本発明の所期の目的を阻害しない範囲で、スチレン系単量体及び/又はアクリル系単量体と共重合可能な単量体を使用してもよい。この共重合可能な単量体のことを適宜「他の単量体」という。他の単量体は、例えば、スチレン系単量体及びアクリル系単量体以外のビニル系単量体である。この場合、ビニル系単量体中の他の単量体の含有割合は20重量%以下であることが好ましく、10重量%以下であることがより好ましく、5重量%以下であることがさらに好ましい。ビニル系単量体が、スチレン系単量体及び/又はアクリル系単量体からなることが特に好ましい。
【0013】
スチレン系単量体としては、スチレン、α-メチルスチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-エチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、p-メトキシスチレン、p-n-ブチルスチレン、p-t-ブチルスチレン、o-クロロスチレン、m-クロロスチレン、p-クロロスチレン、2,4,6-トリブロモスチレン、ジビニルベンゼン、スチレンスルホン酸、スチレンスルホン酸ナトリウムなどが挙げられる。これらのスチレン系単量体は、単独で使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。アクリル系単量体としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル等のアクリル酸アルキルエステル;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル等のメタクリル酸アルキルエステル等が挙げられる。また、アクリル系単量体としては、アクリルアミド、メタクリルアミド、アクリロニトリル等も挙げられる。これらのアクリル系単量体は、単独で使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。また、上記した他の単量体(具体的には、スチレン系単量体及び/又はアクリル系単量体と共重合可能な単量体)としては、
エチレン、クロロエチレン、プロピレン、クロロプロペン、ブチレン、クロロブチレン等が挙げられる。これらの他の単量体は、単独で使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0014】
高内相エマルションは、単量体として、スチレン及び/又はメタクリル酸メチルと、メタクリル酸メチル以外の(メタ)アクリル酸アルキルエステルとを含むことが好ましく、少なくともスチレンと(メタ)アクリル酸アルキルエステルとを含むことがより好ましい。この場合には、製造コストの削減や、所望の物性(具体的には、圧縮応力、曲げ破断点歪等の物性を後述の範囲)に調整しやすくなるという効果が得られる。なお、この効果を十分に得るという観点から、(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、(メタ)アクリル酸とアルコールとのエステルであり、(メタ)アクリル酸と炭素数1~20のアルコールとのエステルであることが好ましい。また、剛性と靭性とをバランス良く高める観点からは、単量体中のスチレンとメタクリル酸メチルとの合計含有割合は、40重量%以上であることが好ましく、50重量%以上であることがより好ましく、60重量%以上であることがさらに好ましい。また、所望とするガラス転移温度を有する架橋重合体を安定して得やすいという観点から、スチレンとメタクリル酸メチルとの合計含有量と、メタクリル酸メチル以外の(メタ)アクリル酸アルキルエステルの含有量との重量比は、40:60~90:10であることが好ましく、50:50~80:20であることがより好ましい。なお、この重量比は、スチレンとメタクリル酸メチルとの合計含有量:メタクリル酸メチル以外の(メタ)アクリル酸アルキルエステルの含有量で表される。また、スチレン及びメタクリル酸メチルのいずれか一方の含有量は0であってもよい。
【0015】
また、スチレン系単量体の中での主成分は、スチレンであることが好ましい。この場合、スチレン系単量体中のスチレンの含有割合が50重量%以上であることが好ましく、80重量%以上であることがより好ましく、90%以上であることがさらに好ましい。この場合には、架橋重合体の剛性を高めつつ、靭性と剛性とのバランスをより調整しやすくなる。なお、(メタ)アクリル酸は、アクリル酸及び/又はメタクリル酸を意味する。
【0016】
ビニル系単量体が、スチレン系単量体と、メタクリル酸メチル以外の(メタ)アクリル酸アルキルエステルとを含有する場合には、架橋重合体は、スチレン系単量体と、メタクリル酸メチル以外の(メタ)アクリル酸アルキルエステルと、架橋剤との共重合体から構成される。この場合において、高内相エマルションを構成するスチレン系単量体の含有量は、ビニル系単量体と架橋剤との合計100重量部に対して、30重量部以上、90重量部以下であることが好ましく、40重量部以上、80重量部以下であることがより好ましく、50重量部以上、70重量部以下であることがさらに好ましい。また、高内相エマルションを構成する、メタクリル酸メチル以外の(メタ)アクリル酸アルキルエステルの含有量は、ビニル系単量体と架橋剤との合計100重量部に対して、5重量部以上、50重量部以下であることが好ましく、10重量部以上、40重量部以下であることがより好ましく、15重量部以上、30重量部以下であることがさらに好ましい。
【0017】
また、ビニル系単量体が、メタクリル酸メチルと、スチレンと、メタクリル酸メチル以外の(メタ)アクリル酸アルキルエステルとを含有する場合には、架橋重合体は、メタクリル酸メチルと、スチレンと、メタクリル酸メチル以外の(メタ)アクリル酸アルキルエステルと、架橋剤との共重合体から構成される。この場合においては、高内相エマルションを構成するメタクリル酸メチルとスチレンとの合計の含有量は、ビニル系単量体と架橋剤との合計100重量部に対して、30重量部以上、80重量部以下であることが好ましく、40重量部以上、70重量部以下であることがより好ましい。また、この場合、高内相エマルションを構成するメタクリル酸メチル以外の(メタ)アクリル酸アルキルエステルの含有量は、ビニル系単量体と架橋剤成分との合計100重量部に対して、5重量部以上、50重量部以下であることが好ましく、10重量部以上、40重量部以下であることがより好ましく、15重量部以上、30重量部以下であることがさらに好ましい。さらに、この場合、高内相エマルションを構成するメタクリル酸メチルの含有割合は、メタクリル酸メチルとスチレンとの合計100重量%に対して、50重量%以上であることが好ましく、60重量%以上であることがより好ましく、70重量%以上であることがさらに好ましい。
【0018】
また、物性(具体的には、後述の圧縮応力、曲げ破断点歪等)に優れると共に、所望とするガラス転移温度を有する多孔質ビニル系架橋重合体を安定して得ることができるという観点から、メタクリル酸メチル以外の(メタ)アクリル酸アルキルエステルを構成するアルキル基の炭素数(具体的には、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを構成するアルコールの炭素数)は、1~20であることが好ましく、2~18であることがより好ましく、3~16であることがさらに好ましく、4~12であることがさらに好ましい。これらの中でも、アクリル酸ブチルを用いることが特に好ましい。
【0019】
(乳化剤)
乳化剤は、高内相エマルションの形成及び安定化のために用いられる。乳化剤としては、例えば、界面活性剤を用いることができる。具体的には、ポリグリセリン縮合リシノレート、ポリグリセリンステアレート、ポリグリセリンオレエート、ポリグリセリンラウレート、ポリグリセリンミリステート等のポリグリセリン脂肪酸エステル(グリセロールエステル類);ソルビタンオレエート、ソルビタンステアレート、ソルビタンラウレート、ソルビタンラウレート、ソルビタンパルミテート等のソルビタンエステル誘導体(ソルビトールエステル類)を用いることができる。また、乳化剤としては、エチレングリコールソルビタンエステル類、エチレングリコールエステル類、ポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールの共重合体等を用いることもできる。
【0020】
乳化剤は、ポリグリセリン脂肪酸エステル及び/又はソルビタンエステル誘導体であることが好ましい。この場合には、油中水型高内相エマルションの乳化安定性が良くなり、有機相に対する水相の比率を高くすることができるという効果を得ることができる。
【0021】
乳化剤の添加量は、使用する乳化剤の種類にもよるが、例えば、ビニル系単量体と架橋剤と乳化剤との合計100重量部に対して、1~30重量部の範囲とすることができる。乳化剤の添加量は、2~25重量部であることがより好ましく、3~20重量部であることがさらに好ましい。
【0022】
(架橋剤)
架橋剤は、ビニル基及びイソプロペニル基から選択される官能基を分子内に少なくとも2個有するビニル系化合物である。架橋剤としては、架橋剤Aと架橋剤Bとを使用する。架橋剤として、架橋剤Aと架橋剤Bとを用いることにより、剛性を高めつつ、靭性を高めることができ、剛性及び靭性を兼ね備えた架橋重合体を得ることができる。架橋剤Aを第1架橋剤、架橋剤Bを第2架橋剤ということもできる。なお、上記ビニル系化合物には、アクリロイル基やメタクリロイル基のように、官能基の構造中にビニル基及び/又はイソプロペニル基を含む化合物も含まれる。架橋剤を安定して重合させる観点から、ビニル系化合物における、ビニル基及びイソプロペニル基から選択される官能基の数は、6個以下であることが好ましく、5個以下であることが好ましく、4個以下であることがさらに好ましい。
【0023】
架橋剤Aは、官能基当量Aが130g/mol以下であるビニル系化合物である。このような架橋剤Aは、比較的分子鎖が短いものであるため、ビニル系単量体と架橋剤Aとが共重合されることにより、ポリマー分子鎖の可動性を低下させるものと考えられる。架橋剤Aを用いることで、架橋重合体の剛性を高めることができる。なお、架橋剤Aのことを「ハード系架橋剤」ということもできる。
【0024】
架橋剤Bは、官能基当量Bが130g/molを超え、5000g/mol以下であるビニル系化合物である。このような架橋剤Bは、比較的分子鎖が長いものであるため、ビニル系単量体と架橋剤Bとが共重合されることにより、ポリマー分子鎖の可動性を大きく低下させることなく、ポリマー分子鎖間を架橋できるものと考えられる。架橋剤Bを用いることで、架橋重合体の靭性を高めることができる。なお、架橋剤Bのことを「ソフト系架橋剤」ということもできる。
【0025】
架橋剤Aを用いない場合には、架橋重合体の剛性を十分に高めることが困難になる。架橋剤Bを用いない場合には、架橋重合体の靭性を十分に高めることが困難になる。なお、架橋重合体を製造しやすくする観点から、架橋剤Aの官能基当量の下限は、概ね30g/molであり、40g/molであることがより好ましく、50g/molであることがさらに好ましく、60g/molであることがさらにより好ましい。また、架橋重合体の剛性をより高めやすくなるという観点から、架橋剤Aの官能基当量の上限は120g/molであることが好ましい。
【0026】
官能基当量Bが大きすぎる架橋剤Bを用いた場合には、粘度が高く、製造時における取り扱い性が低下するおそれがあると共に、重合安定性が低下するおそれがある。なお、取り扱い性の観点から、架橋剤Bの官能基当量の上限は、3000g/molであることが好ましく、2000g/molであることがより好ましく、1000g/molであることがさらに好ましい。また、架橋重合体の靭性をより高めやすくなるという観点から、架橋剤Bの官能基当量の下限は150g/molであることが好ましく、180g/molであることがより好ましく、200g/molであることがさらに好ましい。
【0027】
官能基当量Aは、官能基1個あたりの架橋剤Aのモル質量であり、官能基当量Bは、官能基1個あたりの架橋剤Bのモル質量である。なお、2種類以上の架橋剤Aを用いる場合、すべての架橋剤Aの官能基当量の重量平均値(つまり、重量平均官能基当量A)を算出し、この値を官能基当量Aとする。同様に、2種類以上の架橋剤Bを用いる場合、すべての架橋剤Bの官能基当量の重量平均値(つまり、重量平均官能基当量B)を算出し、この値を官能基当量Bとする。
【0028】
官能基当量Bは、官能基当量Aよりも60g/mol以上大きいことが好ましい。換言すれば、官能基当量Bと官能基当量Aとの差が60g/mol以上であることが好ましい。この場合には、架橋重合体の剛性及び靭性をよりバランスよく向上させることができる。この効果が向上するという観点から、官能基当量Bは、官能基当量Aよりも80g/mol以上大きいことがより好ましく、100g/mol以上大きいことがさらに好ましく、120g/mol以上大きいことが特に好ましい。なお、重合安定性がより高められ、剛性と靭性とに優れる架橋重合体を安定して得やすくなるという観点から、官能基当量Bと官能基当量Aとの差は、3000g/mol以下であることが好ましく、2000g/mol以下であることがより好ましく、1000g/mol以下であることがさらに好ましい。
【0029】
架橋剤Aとしては、ジビニルベンゼン(つまり、DVB)、ブタンジオールジアクリレート等のブタンジオール(メタ)アクリレート;トリメチロールプロパントリアクリレート等のトリメチロールプロパン(メタ)アクリレート;ヘキサンジオールジアクリレート等のヘキサンジオール(メタ)アクリレート;ペンタエリスリトールテトラアクリレート等のペンタエリスリトール(メタ)アクリレート等のビニル系化合物を用いることができる。ただし、これらのビニル系化合物における官能基の数は2つ以上である。架橋剤Aとしては、1種類又は2種類以上のビニル系化合物を用いることができる。なお、架橋重合体の剛性をより高めやすくする観点から、架橋剤Aは、分子の少なくとも両末端に官能基を有することが好ましく、分子の両末端のみに官能基を有することがより好ましい。
【0030】
架橋剤Aとしては、DVBを用いることが好ましい。この場合には、架橋重合体の剛性を高めやすくなる。
【0031】
架橋剤Bとしては、ノナンジオールジアクリレート等のノナンジオール(メタ)アクリレート;デカンジオールジアクリレート等のデカンジオール(メタ)アクリレート;ポリエチレングリコールジアクリレート等のポリエチレングリコール(メタ)アクリレート;ポリプロピレングリコールジアクリレート等のポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート;ポリテトラメチレングリコールジアクリレート等のポリテトラメチレングリコール(メタ)アクリレート;ポリグリセリンジアクリレート等のポリグリセリンジ(メタ)
アクリレート;ウレタンジアクリレート等のウレタン(メタ)アクリレート;エポキシジアクリレート等のエポキシ(メタ)アクリレート;両末端アクリル変性シリコーン等の(メタ)アクリル変性シリコーン;カプロラクトン変性トリスイソシアヌレート等のカプロラクトン変性イソシアヌレート、;トキシ化ビスフェノールAジメタクリレート等のエトキシ化ビスフェノールA(メタ)アクリレート等のビニル系化合物を用いることができる。ただし、ただし、これらのビニル系化合物における官能基の数は2つ以上である。架橋剤Bとしては、1種類又は2種類以上のビニル系化合物を用いることができる。なお、架橋重合体の靭性をより高めやすくする観点から、架橋剤Bは、分子の少なくとも両末端に官能基を有することが好ましく、分子の両末端のみに官能基を有することがより好ましい。
【0032】
架橋剤Bは、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、及び(メタ)アクリル変性シリコーンからなる群より選択される少なくとも1種の化合物であることが好ましい。この場合には、架橋重合体の靭性を高めやすくなる。さらに、架橋重合体の靭性を調整し易くなるという観点から、架橋剤Bとして、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレートを用いることが好ましい。この場合、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレートにおけるエチレングリコール由来の繰り返し構造単位の数は、3~23であることが好ましい。
【0033】
架橋剤の添加量(具体的には、架橋剤Aと架橋剤Bとの合計添加量)は、スチレン系単量体とアクリル系単量体と架橋剤との合計100重量部に対して7重量部以上である。添加量が少なすぎる場合には、剛性及び靭性に優れた架橋重合体を得ることが困難になる。架橋重合体の剛性及び靭性をよりバランスよく向上させるという観点から、架橋剤の添加量は、スチレン系単量体とアクリル系単量体と架橋剤との合計100重量部に対して8重量部以上であることが好ましく、9重量部以上であることがより好ましい。
【0034】
架橋剤の添加量(具体的には、架橋剤Aと架橋剤Bとの合計添加量)は、スチレン系単量体とアクリル系単量体と架橋剤との合計100重量部に対して27重量部以下である。添加量が多すぎる場合には、架橋重合体が脆化し、靭性が低下する。脆化をより抑制し、靭性をより向上させるという観点から、架橋剤の添加量は、スチレン系単量体とアクリル系単量体と架橋剤との合計100重量部に対して26重量部以下であることが好ましく、24重量部以下であることがより好ましい。
【0035】
架橋剤Aの添加量は、スチレン系単量体とアクリル系単量体と架橋剤との合計100重量部に対して、3重量部以上である。添加量が少なすぎる場合には、剛性を十分に高めることが困難になり、剛性及び靭性のバランスに優れた架橋重合体を得ることが困難になる。架橋重合体の剛性及び靭性をバランスよく向上させるという観点から、架橋剤Aの添加量は、スチレン系単量体とアクリル系単量体と架橋剤との合計100重量部に対して、4重量部以上であることが好ましく、5重量部以上であることがより好ましい。
【0036】
架橋剤Aの添加量は、スチレン系単量体とアクリル系単量体と架橋剤との合計100重量部に対して、17重量部以下である。添加量が多すぎる場合には、架橋重合体が脆化し、靭性が低下する。架橋重合体の脆化をより抑制し、靭性をより向上させるという観点から、架橋剤Aの添加量は、スチレン系単量体とアクリル系単量体と架橋剤との合計100重量部に対して、16重量部以下であることが好ましく、14重量部以下であることがより好ましい。
【0037】
架橋剤Bに対する架橋剤Aの添加量は、重量比A/Bで0.3以上である。重量比A/Bが低すぎる場合には、架橋重合体の剛性を高めることが困難になる。架橋重合体の剛性をより向上させるという観点から、架橋剤Bに対する架橋剤Aの添加量は、重量比A/Bで0.4以上であることが好ましく、0.5以上であることがより好ましい。
【0038】
架橋剤Bに対する架橋剤Aの添加量は、重量比A/Bで5以下である。重量比A/Bが高すぎる場合には、架橋重合体の靭性を高めることが困難になる。架橋重合体の靭性をより向上させるという観点から、架橋剤Bに対する架橋剤Aの添加量は、重量比A/Bで4以下であることが好ましく、3以下であることがより好ましい。
【0039】
架橋剤Bの添加量は、スチレン系単量体とアクリル系単量体と架橋剤との合計100重量部に対して2重量部以上であることが好ましい。この場合には、架橋重合体の靭性を高めやすくなり、架橋重合体の剛性及び靭性をよりバランスよく向上させることができる。この効果がより向上するという観点から、架橋剤Bの添加量は、スチレン系単量体とアクリル系単量体と架橋剤との合計100重量部に対して3重量部以上であることがより好ましく、4重量部以上であることがさらに好ましい。
【0040】
架橋剤Bの添加量は、スチレン系単量体とアクリル系単量体と架橋剤との合計100重量部に対して18重量部以下であることが好ましい。この場合には、架橋重合体の靭性を維持しつつ、架橋重合体の剛性をより高めやすくなり、架橋重合体の剛性及び靭性をよりバランスよく向上させることができる。この効果をより向上させるという観点から、架橋剤Bの添加量は、スチレン系単量体とアクリル系単量体と架橋剤との合計100重量部に対して16重量部以下であることがより好ましく、14重量部以下であることがさらに好ましく、12重量部以下であることがさらにより好ましい。
【0041】
(重合開始剤)
重合開始剤は、スチレン系単量体及び/又はアクリル系単量体の重合を開始させるために用いられる。重合開始剤としては、例えばラジカル重合開始剤を用いることができる。具体的には、ラウロイルパーオキサイド(LPO)、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、ジ(3,5,5-トリメチルヘキサノイル)パーオキサイド、t-ブチルパーオキシピバレエート、t-ヘキシルパーオキシピバレエート、t-ブチルパーオキシネオヘプタノエート、t-ブチルパーオキシネオデカノエート、t-ヘキシルパーオキシネオデカノエート、ジ(2-エチルヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジ(4-t-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート、過酸化ベンゾイル等の有機過酸化物;2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’アゾビス(4-ジメチルバレロニトリル)、ジメチル2,2’アゾビス(2-メチルプロピオネート)、2,2’アゾビス(2-メチルブチロニトリル)等のアゾ化合物等が用いられる。重合開始剤としては、1種類又は2種類以上の物質を用いることができる。重合開始剤は、有機相及び/又は水相に添加することができる。また、水相に重合開始剤を添加する場合は、2,2’アゾビス(2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン)ジヒドロクロリド、2,2’アゾビス(2-メチルプロピオナミジンジヒドロクロリド、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の水溶性の重合開始剤を用いてもよい。重合開始剤の添加量は、例えば、ビニル系単量体と架橋剤との合計100重量部に対して、0.1~5重量部の範囲とすることができる。
【0042】
(水相)
高内相エマルションにおける水相の含有量は、有機相100重量部に対して300重量部以上であることが好ましい。この場合には、見掛け密度の低い架橋重合体を安定して得ることができる。この効果がより向上するという観点から、有機相100重量部に対する水相の含有量は、350重量部以上であることがより好ましく、400重量部以上であることがさらに好ましい。一方、高内相エマルションにおける水相の含有量は、有機相100重量部に対して、1600重量部以下であることが好ましい。この場合には、高内相エマルションをより安定して形成することができ、架橋重合体を製造しやすくなる。この効果がより向上するという観点から、有機相100重量部に対する水相の含有量は、1400重量部以下であることがより好ましく、1200重量部以下であることがさらに好ましい。
【0043】
水相は、水溶性の電解質を含むことができる。電解質は、水相にイオン強度を付与し、乳化物の安定性を高めるために用いられる。具体的には、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、酢酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム等が用いられる。電解質の添加量は、例えば、水性液体100重量部に対して、0.1~10重量部の範囲とすることができる。
【0044】
[架橋重合体の製造]
架橋重合体は、上述の油中水型高内相エマルション中で、ビニル系単量体と架橋剤とを重合することにより製造される。このような架橋重合体は、HIPEフォーム、poly-HIPEフォーム等と呼ばれる。架橋重合体は、具体的には、例えば、乳化工程、重合工程、乾燥工程を行うことにより製造される。
【0045】
(乳化工程)
乳化工程では、上記のように高内相エマルションを作製する。乳化工程では、例えば、単量体、乳化剤、架橋剤、重合開始剤等を含む油性液体(有機相)を、撹拌装置付きの調製槽内で撹拌しながら、油性液体に水を含む水性液体(水相)を滴下させたり、あるいは、有機相が流れる配管に水相を注入し、スタティックミキサー等で連続的に混合させたりすることにより、油中水型の高内相エマルションを作製する。高内相エマルションでは、油性液体から形成される有機相中に、水性液体から形成される多数の水相が分散されている。
【0046】
乳化工程での撹拌速度は、特に限定されないが、例えば、撹拌動力密度が0.1kW/m3~5kW/m3の範囲にて調整される。また、乳化工程での油性液体への水性液体の添加方法は、特に限定されないが、予め撹拌容器内に油性液体と水性液体を投入した状態から撹拌を開始してもよく、予め撹拌容器内に油性液体のみを投入、撹拌し、これにポンプ等を用いて水性液体を投入してもよい。この場合の水性液体の添加速度は、特に限定されないが、例えば、油性液体100wt%に対して、10wt%/min~1000wt%/minの範囲にて調整することができる。
【0047】
(重合工程)
重合工程では、例えば、高内相エマルションを加熱して有機相の単量体を重合させることにより、重合生成物(具体的には、水分を含んだ架橋重合体)を得る。
【0048】
重合工程での重合温度は、単量体の種類、重合開始剤の種類、架橋剤の種類等に応じて調整される。重合温度は、例えば50℃~90℃である。
【0049】
(乾燥工程)
乾燥工程では、オーブン、真空乾燥機、高周波・マイクロ波加熱乾燥機等を用いて、水分を含んだ重合生成物を脱水・乾燥し、水分を除去することにより、架橋重合体を得る。乾燥が完了することで、重合前の乳化物において水滴があった箇所が、乾燥後の重合体においては気泡となり、多孔体を得ることができる。プレス機等を用いた圧搾が可能な架橋重合体であれば、乾燥の前に圧搾により脱水を行ってもよい。圧搾は、室温(例えば23℃)で行ってもよいが、例えば、架橋重合体のガラス転移温度以上の温度で行うこともできる。この場合には、圧搾による脱水が容易になり、乾燥時間を短くすることができる。また、遠心分離により、架橋重合体の脱水を行うこともできる。この場合にも乾燥時間を短くすることができる。
【0050】
(架橋重合体)
油中水型高内相エマルション中で、ビニル系単量体と架橋剤とを重合することにより製造される多孔質ビニル系架橋重合体は、上記のごとく、HIPEフォーム、poly-HIPEフォーム等と呼ばれる。このような架橋重合体1は、重合時における、高内相エマルションでの有機相と水相との分散形態や水相(具体的には分散相)の分散形状が反映された重合体となり、
図1に例示されるように、多数の気泡13が均質に存在する気泡構造を有すると共に、気泡13間を連通する多数の細孔14が形成された連続気泡構造を有する。なお、
図1において、気泡13は、気泡壁12により囲まれた部分である。細孔14のことを、ミクロポア、貫通窓、貫通穴、連結孔ということもできる。また、高内相エマルションを用いた上記製造方法により得られる架橋重合体は、製造過程において重合体が延伸されにくいものであるため、一般的に、分子配向を生じにくいと共に、異方性の少ない重合体となる。HIPEフォームは、押出機を用いた押出発泡法により得られる発泡体や、発泡性樹脂粒子を発泡させて得られる発泡粒子を型内成形することにより得られる発泡粒子成形体等のように、製造時に延伸されて製造される発泡体とは区別されるものである。架橋重合体1は、例えば、高内相エマルションを硬化してなる多孔質の硬化物であるともいえ、その気泡壁12はビニル系架橋重合体から構成されている(
図1参照)。
【0051】
架橋重合体の気泡および細孔のサイズは特に限定されないが、例えば、気泡径は概ね5~100μm、細孔径は概ね1~30μmである。なお、細孔は気泡壁に生じる、気泡間を連通する貫通穴であることから、通常、細孔径は気泡径より小さくなる。
【0052】
架橋重合体の気泡径は、その製造方法において、高内相エマルションの水相(つまり分散相)の水滴径を調整することにより制御でき、気泡径を微細にすることができる。高内相エマルションを用いて得られる架橋重合体では、平均気泡径を容易に100μm以下に調整できる。なお、架橋重合体の平均気泡径は、気泡の直径の平均値であり、その測定方法は、実施例にて説明する。
【0053】
(架橋重合体の用途)
架橋重合体は、剛性及び靭性に優れた多孔体であるため、その用途は特に限定されず、剛性及び靭性が要求される様々な用途に利用される。また、架橋重合体は、連続気泡構造を有し、軽量であるため、軽量化が要求される様々な用途に利用される。具体的には、架橋重合体は、例えば、担体、吸収材、分離材、切削加工用材料、建築資材、自動車資材、断熱材、吸音材等に用いられる。
【0054】
架橋重合体は、切削加工が施される用途に好適である。これは、架橋重合体が均質な連続気泡構造を有すると共に、上記のように剛性及び靭性を兼ね備えるため、切削加工時における割れや欠けの発生を抑制しつつ加工速度を速くすることができ、さらに、切削面の平滑性に優れた切削加工品が得られるからである。つまり、架橋重合体は、例えば切削加工用材料(被切削体)として用いられる。切削加工品は、例えば模型である。模型としては、建築物等の建築模型、機械装置等の機械模型、車や列車等の車両模型、鋳造木型と呼ばれる鋳造用の砂型を作製するための鋳造用模型、美術品や展示品等の美術模型、プロト製品模型等、各種模型が挙げられる。
【0055】
鋳造用模型は、例えば、砂型の形成に用いられる模型である。このような模型のことを、適宜「木型」という。この場合、砂型の形成にあたっては、まず、切削加工により、架橋重合体から切削加工品として鋳造用模型を製造する。この鋳造用模型を砂型形成用材料である珪砂、フラン樹脂、バインダー等の混合物に埋没させ、炭酸ガス放射または空気接触によりフラン樹脂混合物を硬化させる。硬化後、硬化したフラン樹脂混合物から木型を離型することにより、鋳型として用いられる砂型が得られる。砂型内に溶融金属等の溶湯を注湯し冷却することにより、鋳物を得ることができる。珪砂の主粒分の粒径は、一般に、75μm~850μmである。木型表面の転写性を高めるためには、木型に接触する箇所の珪砂の粒分は、小さいことが好ましい。珪砂の粒度区分(号数)は、JIS G 5901:2016に準拠して測定され、この時の粒度分布において、最も重量比が高い篩の目開きが主粒分である。
【0056】
架橋重合体は、鋳造用模型に用いられることが好ましく、切削加工品が鋳造用模型であることが好ましい。この場合には、鋳物の鋳肌表面を滑らかにすることができる。これは、剛性及び靭性に優れる架橋重合体が切削面の平滑性に優れるためである。
【0057】
[架橋重合体の物性]
(見掛け密度)
架橋重合体の剛性と靭性とを高める観点や、架橋重合体が切削加工品の形成により好適になるという観点から、架橋重合体の見掛け密度は、50kg/m3以上であることが好ましい。見掛け密度を50kg/m3以上とすることにより、架橋重合体が脆くなることをより防止することができ、切削加工時に欠けや割れが発生することを防止できる。この効果がより向上するという観点から、架橋重合体の見掛け密度は70kg/m3以上であることがより好ましく、90kg/m3以上であることがさらに好ましい。また、架橋重合体を軽量化する観点や、架橋重合体が切削加工品の形成により好適になるという観点から、架橋重合体の見掛け密度は、500kg/m3以下であることが好ましい。見掛け密度を500kg/m3以下とすることにより、架橋重合体が硬くなりすぎることをより防止し、切削加工時の加工速度が低下することを防止できる。この効果がより向上するという観点から、架橋重合体の見掛け密度は、400kg/m3以下であることがより好ましく、300kg/m3以下であることがさらに好ましい。架橋重合体の見掛け密度は、重量を体積にて除することにより算出される。
【0058】
(ガラス転移温度)
架橋重合体のガラス転移温度は、40~120℃であることが好ましい。この場合、通常の使用温度において、十分な硬度、靭性を確保できると共に、高温環境における架橋重合体の寸法変化を防止することができる。同様の観点から、架橋重合体のガラス転移温度は、50℃以上であることがより好ましく、60℃以上であることがさらに好ましい。また、架橋重合体のガラス転移温度は、100℃以下であることがより好ましい。架橋重合体のガラス転移温度は、JIS K7121:1987に基づいた示差走査熱量分析にて測定される。ガラス転移温度はDSC曲線の中間点ガラス転移温度のことである。なお、試験片の状態調節として「(3)一定の熱処理を行った後、ガラス転移温度を測定する場合」を採用する。
【0059】
(架橋点間分子量)
架橋重合体が切削加工品の形成により好適になるという観点から、架橋重合体の架橋点間分子量Mcは、5×104以下であることが好ましい。これにより、切削加工条件下において架橋重合体がミル等の加工刃にむしり取られにくくなり、切削面の平滑性を高めることができる。この効果が向上するという観点から、架橋重合体の架橋点間分子量Mcは、2×104以下であることがより好ましく、1×104以下であることがさらに好ましい。また、靭性の低下を抑制して切削加工時の欠けや割れをより抑制することができる観点から、架橋点間分子量Mcは、2×103以上であることが好ましい。架橋点間分子量Mcは、架橋剤を配合することにより小さくすることができ、前述の架橋剤の種類、その配合割合、単量体の種類、その配合割合等を調整することにより、上記範囲に調整することができる。
【0060】
(平均気泡径)
架橋重合体の平均気泡径は、100μm以下であることが好ましい。この場合には、架橋重合体の切削加工品が、砂型を使用する鋳造のための模型(つまり、鋳造用模型)としてより好適になる。これは、切削加工品を構成する架橋重合体の気泡に珪砂などの鋳物砂が入り込むことを抑制できるからである。つまり、鋳造用模型が鋳物砂を噛み込むことを防ぎ、離型が容易になるからである。また、鋳造用模型の表面にコーティング処理を施さなくとも、鋳物砂の噛み込みを抑制することができるため、製造コストの抑制や製造工程の簡略化が可能になる。また、架橋重合体の平均気泡径が小さいことで、外観がはっきりとした(つまり、きめが細かい)、意匠性の高い切削加工品を得ることができる。
【0061】
鋳造用模型の離型がより容易になるという観点、コーティング層の形成が不要になるという観点、意匠性の高い切削加工品を得ることができるという観点から、架橋重合体の平均気泡径は、80μm以下であることがより好ましく、70μm以下であることがさらに好ましく、50μm以下であることが特に好ましい。また、製造工程における脱水・乾燥工程の所要時間を短縮しやすくなり、生産性を向上させることができることから、架橋重合体の平均気泡径は、5μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましく、15μm以上であることがさらに好ましい。
【0062】
架橋重合体の平均気泡径は、画像解析により測定される。その測定方法は、実施例において説明する。
【実施例】
【0063】
以下に、架橋重合体の実施例及び比較例について説明する。本例では、以下の方法により、表2、表3の実施例、表4の比較例に示す架橋重合体を製造した。なお、本発明に係る架橋重合体の具体的な態様は、以下に示す実施例の態様に限定されるものではなく、本発明の要旨を超えない範囲において適宜構成を変更することができる。なお、実施例における「%」は、重量%を意味する。
【0064】
[実施例1]
まず、撹拌装置の付いた内容積が3Lのガラス容器に、単量体としてのスチレン:48.5g及びブチルアクリレート:25g、架橋剤Aとしての純度57%のジビニルベンゼン:14g(ジビニルベンゼンとしては、7.98g)、架橋剤Bとしてのポリエチレングリコールジアクリレート(具体的には、新中村化学工業製NKエステルA-400/純度95%):5g(ポリエチレングリコールジアクリレートとしては、4.75g)、乳化剤としてのポリグリセリン縮合リシノレート(具体的には、阪本薬品工業製のCRS-75):7.5g、重合開始剤としてラウロイルパーオキサイド:0.5gを投入した。これらをガラス容器内で混合することにより、有機相(具体的には油性液体)を形成した。
【0065】
撹拌動力密度1.6kW/m3で有機相を撹拌しながら、純水:900gを約450g/minの速度で添加し、水の添加が終了してからも10分間撹拌を継続し、油中水型(つまり、W/O型)の高内相エマルションを調製した。乳化完了後の撹拌動力密度は1.4kW/m3であった。
【0066】
次いで、撹拌動力密度を0.1kW/m3に下げ、ガラス容器にアスピレーターを接続して容器内を減圧し、エマルション中に含まれる微小気泡を除去した。減圧開始から10分後、撹拌を停止して容器内を大気圧に戻した。
【0067】
ガラス容器の内容物を、縦:約140mm、横:約110mm、深さ:約60mmのステンレス容器に充填し、70℃のオーブンにて約18時間かけて重合し、poly-HIPEフォームを得た。poly-HIPEフォームをオーブンから取出し、室温まで冷却した。
【0068】
冷却後、ステンレス容器からpoly-HIPEフォームを取出し、水で洗浄し、85℃のオーブンで恒量になるまで乾燥した。このようにして、直方体形状の多孔質ビニル系架橋重合体を得た。多孔質ビニル系架橋重合体の見掛け密度は100g/Lであった。
【0069】
本例の仕込み組成等を表2に示す。表中、純配合量は、乳化剤、重合開始剤、不純物を除いて算出されており、架橋剤Aの純配合量、架橋剤Bの純配合量、架橋剤Aと架橋剤Bの純配合量の和(A+B)、架橋剤Aと架橋剤Bの純配合量の比(A/B)は、スチレン系単量体とアクリル系単量体と架橋剤との合計量100重量部に対する量で表されている。なお、表中においては、化合物名を以下のように省略した。
St:スチレン
BA:アクリル酸ブチル
MMA:メタクリル酸メチル
DVB:ジビニルベンゼン
1,4-BDODA:1,4-ブタンジオールジアクリレート
TMPTA:トリメチロールプロパントリアクリレート
1,6-HDODA:1,6-ヘキサンジオールジアクリレート
1,9-NDODA:1,9-ノナンジオールジアクリレート
PEGDA:ポリエチレングリコールジアクリレート
UDA:ウレタンジアクリレート
EpDA:エポキシジアクリレート
X-22-164C:両末端メタクリル変性シリコーン
LPO:ラウロイルパーオキサイド
【0070】
[実施例2~16、比較例1~10]
単量体、架橋剤A、架橋剤Bの種類、配合割合、乳化剤の配合割合、水の添加量を表2~表4に示すように変更した点を除き、実施例1と同様にして架橋重合体を製造した。また、表2~表4に示す実施例、比較例にて使用した架橋剤の詳細を表1に示す。
【0071】
[評価]
実施例1~16、比較例1~10について、下記の測定、評価を行った。その結果を表2~4に示す。
【0072】
(見掛け密度ρ)
上記のようにして製造された架橋重合体の中心を含むように、架橋重合体から、規定サイズ(具体的には、厚み:20mm、幅:25mm、長さ:120mm)の、スキン層を有しない試験片を3つ切り出した。次いで、試験片の重量と実寸法(具体的には、体積)を測定した。試験片の重量を体積で除することにより、試験片の見掛け密度を算出し、3つの試験片の見掛け密度の算術平均値を架橋重合体の見掛け密度ρとした。
【0073】
(ガラス転移温度Tg)
JIS K7121:1987に基づき、示差走査熱量(つまり、DSC)分析によりTgを算出した。測定装置としては、ティ・エイ・インスツルメンツ社製のDSC250を用いた。具体的には、まず、架橋重合体の中心付近から約2mgの試験片を採取した。試験片の状態調節としては、「(3)一定の熱処理を行った後、ガラス転移温度を測定する場合」を採用した。次いで、試験片に対して、加熱速度10℃/分の条件でDSC測定を行うことによりDSC曲線を得た。このDSC曲線から中間点ガラス転移温度を求めた。
【0074】
(架橋点間分子量Mc)
架橋重合体の中心付近から、5mm×5mm×5mmの立方体形状の、スキン層を有しない試験片を3つ切り出した。この3つの試験片について、動的粘弾性分析(DMA)を行うことにより、貯蔵弾性率E’を測定した。測定装置としては、(株)日立ハイテクサイエンス製のDMA7100を用いた。なお、測定条件の詳細は以下の通りである。
・変形モード:圧縮
・温度:0~200℃
・昇温速度:5℃/min
・周波数:1Hz
・荷重:98mN
上記3つの試験片に対する動的粘弾性分析により測定された、ゴム状平坦部における貯蔵弾性率E’と温度Tを用い,下記式(I)から架橋点間分子量Mcを算出した。なお、
図2に、実施例の架橋重合体のDMAカーブの代表例を示す。DMAカーブは、横軸に温度、縦軸に貯蔵弾性率E’をプロットして得られる。実施例においては、架橋重合体のゴム状平坦部である、Tg+50℃~Tg+80℃の温度域内から無作為に選択された3つの温度における貯蔵弾性率E’からそれぞれの架橋点間分子量を算出し、算出された9つの架橋点間分子量の算術平均値を、架橋重合体の架橋点間分子量Mcとして採用した。なお、Tgは、架橋重合体のガラス転移温度である。
Mc=2(1+μ)ρRT/E’ ・・・(I)
【0075】
式(I)において、μはポアソン比であり、μ=0.5である。ρは架橋重合体の見かけ密度(単位:kg/m3)、Rは気体定数であり、R=8.314J/K/molである。TとE’は、それぞれゴム状平坦部における任意の点における温度(単位:K)と貯蔵弾性率E’である。なお、ポアソン比とは材料固有の値であり、物体に応力を印加した際の、垂直方向に生じるひずみを平行方向に生じるひずみで除し、これに-1を乗じた値である。理論上、ポアソン比は-1から0.5の範囲の値をとり、これが負の値である場合、縦方向に潰すと、横方向にも潰れることを意味する。逆に、正の値である場合は、縦方向に潰すと横方向に伸びることを意味する。上記動的粘弾性分析の条件では、サンプルに生じる歪は極微小であり、体積変化が起こらないと見なすことができるため、体積一定の条件、すなわちポアソン比を0.5として、架橋点間分子量Mcを算出した。
【0076】
(平均気泡径)
架橋重合体の平均気泡径を以下の通り測定した。なお、平均気泡径は、架橋重合体の断面における気泡の円相当径の平均値である。フェザー刃を用いて、直方体形状の架橋重合体における短手方向と厚み方向との中央、及び、短手方向の両端における厚み方向の中央から観察用の試料をそれぞれ切り出した。次いで、試料を、低真空走査電子顕微鏡((株)日立ハイテクサイエンスのMiniscope(登録商標) TM3030Plus)で観察し、断面写真を撮影した。実施例の断面写真(倍率:500倍)の代表例を
図1に示す。なお、詳細な観察条件は以下の通りとした。
・試料の前処理:メタルコーティング装置((株)真空デバイスのMSP-1S)を用いて、試料の導電処理を行った。ターゲット電極にはAu-Pdを用いた。
・観察倍率:50倍
・加速電圧:5kV
・観察条件:表面
・観察モード:二次電子(標準)
次に、撮影した断面写真を画像処理ソフト(ナノシステム(株)のNanoHunter NS2K-Pro)で解析し、各試料の平均気泡径を求めた。得られた3つの平均気泡径を算術平均することで、架橋重合体の平均気泡径を求めた。詳細な解析の手順および条件は以下の通りとした。
(1)モノクロ変換
(2)平滑化フィルタ(3×3、8近傍、処理回数=1)
(3)濃度ムラ補正(背景より明るい、大きさ=5)
(4)NS法2値化(背景より暗い、鮮明度=9、感度=1、ノイズ除去、濃度範囲=0~255)
(5)収縮(8近傍、処理回数=1)
(6)特徴量(面積)による画像の選択(50~∞μm
2のみ選択、8近傍)
(7)隣と接続されない膨張(8近傍、処理回数=3)
(8)円相当径計測(面積から計算、8近傍)
【0077】
(剛性の評価:圧縮強度の測定)
架橋重合体の中心付近から、スキン層を有しない下記サイズの試験片を切り出し、この試験片を用いて圧縮試験を実施し、圧縮強度を測定した。具体的には、卓上形精密万能試験機(具体的には、(株)島津製作所のオートグラフAGS-10kNX)を用いて、JIS K 6767:1999に準拠して、5%、25%ひずみ時の圧縮荷重を求めた。この圧縮荷重を試験片の受圧面積で除することより、圧縮強度(すなわち5%、25%圧縮応力)を算出した。また、75%まで圧縮した圧縮試験後の試験片を取り出し、温度23℃、湿度50%の恒温室で24時間養生した後、試験片の厚みt2を計測した。この厚みt2と、圧縮試験前の厚みt1とから、下記の式(II)より復元率を算出した。なお、圧縮試験の詳細は以下の通りである。見掛け密度あたりの5%圧縮応力が5000Pa以上かつ復元率が50%以上の場合を「○」と評価し、それ以外を「×」と評価した。
復元率[%]=t2/t1×100・・・(II)
・室温:23℃
・湿度:50%
・試験片サイズ:縦:50mm、横:50mm、厚み:25mm
・圧縮速度:10mm/min
・圧縮率:0~75%
【0078】
(靭性の評価:曲げ破断点歪の測定)
架橋重合体の中心付近からスキン層を有しない下記サイズの試験片を切り出し、試験片を用いて3点曲げ試験を実施し、曲げ破断点歪を測定した。測定は、卓上形精密万能試験機(具体的には、(株)島津製作所のオートグラフAGS-10kNX)を用いて、JIS K 7221-1:2006に準拠して行った。詳細な条件は以下の通りである。曲げ破断点歪が6.5%以上の場合を「○」と評価し、6.5%未満の場合を「×」と評価した。
・温度:室温(具体的には23℃)
・湿度:50%
・試験片サイズ:20mm×25mm×120mm
・支点間距離:100mm
・支持台および圧子の先端:半径5mmの円柱状
・圧子の下降速度:10mm/min
【0079】
【0080】
【0081】
【0082】
【0083】
表2、表3より理解されるように、実施例の架橋重合体は、見掛け密度あたりの5%圧縮応力が5000Pa以上という優れた圧縮強度を示すと共に、75%圧縮後の復元率が50%以上であり、大きな圧縮応力が加わった場合でも、優れた復元力を有し、元の形状に十分に復元することができる。さらに、曲げ破断点歪が6.5%以上であり、曲げ破断点歪が高く、変形によって破壊されにくい。そのため、優れた剛性及び靭性を兼ね備えた架橋重合体となる。これは、高内相エマルションの重合にあたり、単量体としてスチレン系単量体及び/又はアクリル系単量体を用い、架橋剤として所定の架橋剤Aと架橋剤Bとを併用し、その添加量を調整しているためである。
【0084】
また、実施例の架橋重合体に対して、以下のようにして切削加工を施した。具体的には、切削機としてSHODA(株)製のNCN8200を用い、切削工具として、福田精工(株)製のスクエアエンドミル(4枚刃、直径20mm)を用いて、架橋重合体に直線状の溝を形成した。切削条件は、以下の通りである。
・ミルの回転数:3000rpm
・ミルの送り速度:5000mm/min
・切削深さ:10mm
【0085】
次に、(株)キーエンス製の3D形状測定機VR-3200を用いて、切削面(具体的には溝の底面)の表面粗さを測定した。観察倍率は12倍であり、測定領域は実寸法で約18mm×24mmの範囲とした。この範囲は、観察面の全領域に相当する。表面粗さとしては、算術平均面粗さSa及び最大面粗さSzを測定した。なお、算術平均面粗さSaは、基準面からの凹凸の平均値であり、最大面粗さSzは、最高点と最低点の差である。
【0086】
上記切削加工を行ったところ、すべての実施例において、切削面の算術平均面粗さSaは20μm以下であり、かつ切削面の最大面粗さSzが500μm以下であった。つまり、実施例の架橋重合体は、切削面の平滑性に優れていた。また、切削面について目視評価を行ったところ、すべての実施例において、エッジ部分(つまり溝上部の、無垢表面と溝とで形成される直角部分)の欠けやひび割れが見当たらなかった。
【0087】
以上の結果から、実施例の架橋重合体は、切削加工時の加工速度を十分に高くすることができると共に、切削加工時の加工速度が速い条件であっても、架橋重合体に欠け、割れ等を発生することなく、平滑性に優れた切削面が形成された。したがって、架橋重合体は、切削加工品の形成に好適に使用することができる。
【0088】
また、実施例の架橋重合体の平均気泡径は、砂型に使用される珪砂の粒径よりも十分に小さい。したがって、架橋重合体は、鋳造用模型に好適であり、特に、砂型の形成に用いられる木型に好適である。また、実施例の架橋重合体の切削加工品を鋳造用模型として用いる際には、必ずしもコーティング層を設けなくてもよい。また、実施例の架橋重合体は、平均気泡径が小さいため、切削加工により、外観がはっきりとした、意匠性の高い切削加工品が得られる。
【0089】
比較例1は、架橋剤Aの添加量が多い例であり、剛性及び靭性が不十分である。比較例1では、特に靭性が非常に低い。
比較例2は、架橋剤Aの添加量が少ない例であり、剛性が不十分であった。
比較例3は、架橋剤Aと架橋剤Bとの合計量(つまり、架橋剤の添加量)が多い例であり、靭性が不十分であった。
比較例4は、架橋剤Aと架橋剤Bとの合計量(つまり、架橋剤の添加量)が少ない例であり、剛性が不十分であった。
【0090】
比較例5は、架橋剤Bの添加量に対する架橋剤Aの添加量比が大きい例であり、靭性が不十分であった。
比較例6は、架橋剤Bの添加量に対する架橋剤Aの添加量比が小さい例であり、剛性が不十分であった。
【0091】
比較例7は、架橋剤としてDVBを単独で用いた例であり、剛性及び靭性が不十分であった。
比較例8は、架橋剤としてPEGDAを単独で用いた例であり、剛性が不十分であった。
【0092】
比較例9は、架橋剤A(具体的には、ハード系架橋剤)として、官能基当量が130g/molを超える化合物(具体的には1,9-NDODA)を用いた例であり、剛性が不十分であった。
比較例10は、架橋剤B(具体的には、ソフト系架橋剤)として、官能基当量が130g/mol以下の化合物(具体的には1,6-HDODA)を用いた例であり、靭性が不十分であった。
なお、比較例9、10において、ハード系架橋剤は、相対的に官能基当量の小さい架橋剤のことであり、ソフト系架橋剤は、相対的に官能基当量の大きい架橋剤のことである。
【符号の説明】
【0093】
1 架橋重合体
12 気泡壁
13 気泡
14 細孔