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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-08
(45)【発行日】2023-11-16
(54)【発明の名称】管の内面検査方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/46 20060101AFI20231109BHJP
   G01N 29/04 20060101ALI20231109BHJP
【FI】
G01N29/46
G01N29/04
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020037816
(22)【出願日】2020-03-05
(65)【公開番号】P2021139754
(43)【公開日】2021-09-16
【審査請求日】2022-11-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001748
【氏名又は名称】弁理士法人まこと国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】春田 石男
(72)【発明者】
【氏名】上田 佳央
(72)【発明者】
【氏名】服部 智大
(72)【発明者】
【氏名】岡本 康平
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 康平
(72)【発明者】
【氏名】稲富 良太
(72)【発明者】
【氏名】暮石 哲
【審査官】比嘉 翔一
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-119899(JP,A)
【文献】特開2017-078662(JP,A)
【文献】特開平08-029400(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N29/00-G01N29/52
G01B17/00-G01B17/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDream3)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
管の外面に対向して配置した超音波探触子から前記管の内面に対して略垂直に超音波を入射させ、前記超音波探触子で第1底面エコー及び第2底面エコーを検出して、第1底面エコー信号及び第2底面エコー信号を取得する底面エコー検出工程と、
前記第1底面エコー信号を周波数解析することで第1底面エコー信号の周波数スペクトルを算出すると共に、前記第2底面エコー信号を周波数解析することで第2底面エコー信号の周波数スペクトルを算出する周波数スペクトル算出工程と、
前記第1底面エコー信号の周波数スペクトルと、前記第2底面エコー信号の周波数スペクトルとの比である周波数スペクトル比を算出する周波数スペクトル比算出工程と、
前記周波数スペクトル比における所定の周波数帯域の特徴量を算出する特徴量算出工程と、
前記特徴量の大きさに基づき、前記管の内面の凹凸を検出する内面凹凸検出工程と、
を含み、
前記特徴量は、前記周波数スペクトル比における前記所定の周波数帯域の強度積分値、又は、前記周波数スペクトル比における前記所定の周波数帯域のピーク強度である、
ことを特徴とする管の内面検査方法。
【請求項2】
前記超音波探触子の発振周波数が10~15MHzであり、前記所定の周波数帯域が8~12MHzである、
ことを特徴とする請求項に記載の管の内面検査方法。
【請求項3】
前記底面エコー検出工程において、前記超音波探触子を前記管の周方向及び長手方向に沿って相対的に移動させながら、前記管に超音波を入射させる、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の管の内面検査方法。
【請求項4】
前記管の内面の凹凸は、前記管の過酸洗によって生じるものである、
ことを特徴とする請求項1からの何れかに記載の管の内面検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波を用いた管の内面検査方法に関する。特に、本発明は、過酸洗等によって生じる管の内面の凹凸を、極めて微小な凹凸であっても、局部的に生じている凹凸であっても検出可能な管の内面検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、管の製造工程において、管の内外面に生成された酸化スケールを除去する等の目的で、管を硫酸等の酸洗液に浸漬する酸洗処理が施される場合がある。
酸洗処理後には、管から酸洗液が除去されるものの、管の内面に酸洗液が残存すること等に起因して過酸洗が生じ、この結果、管の内面に微小な凹凸(以下、適宜、これを「内面微小凹凸」と称する)が生じる場合がある。
図6は、過酸洗によって生じた内面微小凹凸の例を示す写真である。図6は、管内に挿入したITVカメラで撮像した撮像画像であり、図6に破線で囲んだ箇所に内面微小凹凸が発生している。
【0003】
上記の内面微小凹凸は、例えば、ITVカメラなどの撮像手段を管内に挿入し、図6に示すような撮像画像をオペレータが目視観察することでも検出可能である。
しかしながら、管の製造工程において、全ての管に対して撮像手段を挿脱する動作を行うには、非常に手間を要するため、実質的に全数の検査は困難である。
したがって、酸洗処理が施された全ての管について内面検査を行うことができ、内面微小凹凸を検出可能な方法が望まれている。
【0004】
管の内面検査方法としては、例えば、特許文献1~4に記載のような方法が提案されているものの、いずれも上記内面微小凹凸を検出する上で効果的な方法ではない。
【0005】
そこで、本発明者らは、特許文献5に記載の方法を提案している。
特許文献5に記載の方法は、管の外面に対向して超音波探触子を配置する第1ステップと、前記超音波探触子を前記管の周方向に相対的に移動させると共に、前記超音波探触子から前記管の内面に対して略垂直に超音波を送信し、前記管の内面から反射した底面エコーを前記超音波探触子で受信して、前記管の周方向についての底面エコー信号の強度分布を取得する第2ステップと、前記第2ステップで取得した底面エコー信号の強度分布に所定の演算処理を施して、底面エコー信号の演算強度分布を取得する第3ステップと、前記第3ステップで取得した底面エコー信号の演算強度分布に統計処理を施し、該統計処理によって得られた統計値の大小に基づき、前記管の内面の凹凸を検出する第4ステップと、を含む、管の内面検査方法である。
特許文献5に記載の方法の第3ステップで施す演算処理は、底面エコー信号の強度分布を構成する複数の点の各強度に対して、注目点から所定の点数の範囲内での強度の最大値を最小値で除算し、該除算した結果を当該注目点の演算強度とする処理である。また、特許文献5に記載の方法の第4ステップで施す統計処理は、好ましい態様では、管の1周分の演算強度分布毎に、統計値として平均値×標準偏差を算出する処理である。
特許文献5に記載の方法によれば、管の内面微小凹凸を検出可能であり、全ての管について内面検査を自動的に行うことが可能である。
【0006】
しかしながら、本発明者らが検討したところによれば、特許文献5に記載の方法では、内面微小凹凸が極めて微小(例えば、凹凸の深さ0.1mm)である場合に検出することが困難である。また、管の1周分毎の統計値に基づき内面微小凹凸を検出するため、管の内面に局部的に(管の周方向の一部に)生じている内面微小凹凸を検出することも困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開昭59-147259号公報
【文献】特開平6-347242号公報
【文献】特開平7-218459号公報
【文献】特開2005-30880号公報
【文献】特開2018-119899号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記従来技術の問題を解決するためになされたものであり、過酸洗等によって生じる管の内面の凹凸を、極めて微小な凹凸であっても、局部的に生じている凹凸であっても検出可能な管の内面検査方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、本発明者らは、鋭意検討を行った。
まず、本発明者らは、管の内面における、極めて微小な凹凸が局部的に生じている部位と、内面微小凹凸が生じていない健全な部位との双方について、第1底面エコー(超音波探触子が表面エコー(超音波の入射面で反射したエコー)を受信してから最初に受信する底面エコー)を受信することで超音波探触子から出力される第1底面エコー信号を周波数解析して第1底面エコー信号の周波数スペクトルを算出すると共に、第2底面エコー(超音波探触子が表面エコーを受信してから2回目に受信する底面エコー)を受信することで超音波探触子から出力される第2底面エコー信号を周波数解析して第2底面エコー信号の周波数スペクトルを算出し、これら第1底面エコー信号の周波数スペクトル及び第2底面エコー信号の周波数スペクトルに着眼して鋭意検討を行った。
その結果、第1底面エコー信号の周波数スペクトルと第2底面エコー信号の周波数スペクトルとの比である周波数スペクトル比を算出した場合、極めて微小な凹凸が局部的に生じている部位と、健全な部位とでは、周波数スペクトル比における所定の周波数帯域の特徴量に有意差が生じることを見出した。
【0010】
本発明は、上記の本発明者らの知見に基づき完成したものである。
すなわち、前記課題を解決するため、本発明は、以下の各工程を含むことを特徴とする管の内面検査方法を提供する。
(1)底面エコー検出工程:管の外面に対向して配置した超音波探触子から前記管の内面に対して略垂直に超音波を入射させ、前記超音波探触子で第1底面エコー及び第2底面エコーを検出して、第1底面エコー信号及び第2底面エコー信号を取得する。
(2)周波数スペクトル算出工程:前記第1底面エコー信号を周波数解析することで第1底面エコー信号の周波数スペクトルを算出すると共に、前記第2底面エコー信号を周波数解析することで第2底面エコー信号の周波数スペクトルを算出する。
(3)周波数スペクトル比算出工程:前記第1底面エコー信号の周波数スペクトルと、前記第2底面エコー信号の周波数スペクトルとの比である周波数スペクトル比を算出する。
(4)特徴量算出工程:前記周波数スペクトル比における所定の周波数帯域の特徴量を算出する。
(5)内面凹凸検出工程:前記特徴量の大きさに基づき、前記管の内面の凹凸を検出する。
前記特徴量は、前記周波数スペクトル比における前記所定の周波数帯域の強度積分値、又は、前記周波数スペクトル比における前記所定の周波数帯域のピーク強度である。
【0011】
本発明に係る管の内面検査方法によれば、底面エコー検出工程、周波数スペクトル算出工程、周波数スペクトル比算出工程及び特徴量算出工程を実行することで、第1底面エコー信号の周波数スペクトルと第2底面エコー信号の周波数スペクトルとの比である周波数スペクトル比における所定の周波数帯域の特徴量が算出される。前述のように、極めて微小な内面微小凹凸が局部的に生じている部位と、健全な部位とでは、周波数スペクトル比における所定の周波数帯域の特徴量に有意差が生じるため、内面凹凸検出工程において、この特徴量の大きさに基づき、たとえ管の内面の凹凸が極めて微小であっても、局部的に生じていても、この凹凸を検出可能である。
なお、特徴量算出工程で特徴量を算出するのに用いる所定の周波数帯域は、極めて微小な凹凸が局部的に生じている部位と、健全な部位とで、特徴量の有意差が生じ易い周波数帯域を予め実験的に決めておけばよい。
【0012】
具体的には、本発明に係る管の内面検査方法の底面エコー検出工程では、例えば、時間幅が互いに同一に設定された各ゲート(エコー信号を検出するためのゲート)によって第1底面エコー信号及び第2底面エコー信号が取得される。これにより、取得された第1底面エコー信号及び第2底面エコー信号をA/D変換した場合、横軸が時間についての同じ数のサンプリング点で、縦軸が各サンプリグ点の信号強度で表わされる第1底面エコー信号及び第2底面エコー信号の信号波形(デジタル信号波形)が得られることになる。
また、本発明に係る管の内面検査方法の周波数スペクトル算出工程では、例えば、第1底面エコー信号及び第2底面エコー信号の信号波形に高速フーリエ変換(FFT)を施すことで、横軸が周波数についての同じ数のサンプリング点で、縦軸が各サンプリング点の強度(スペクトル強度)で表される第1底面エコー信号及び第2底面エコー信号の周波数スペクトルが算出されることになる。
また、本発明に係る管の内面検査方法の周波数スペクトル比算出工程では、例えば、第1底面エコー信号の周波数スペクトルを構成する各サンプリング点の強度を、第2底面エコー信号の周波数スペクトルを構成し、第1底面エコー信号の周波数スペクトルを構成する各サンプリング点に対応する各サンプリング点の強度で除算することで、横軸が周波数についてのサンプリング点で、縦軸が各サンプリング点の強度の比(第1底面エコー信号のスペクトル強度/第2底面エコー信号のスペクトル強度)で表される周波数スペクトル比が算出されることになる。
さらに、本発明に係る管の内面検査方法の特徴量算出工程では、例えば、周波数スペクトル比の横軸に表された全周波数帯域のうち、極めて微小な凹凸が局部的に生じている部位と、健全な部位とで、特徴量の有意差が生じ易い周波数帯域の特徴量(周波数スペクトル比における所定の周波数帯域の強度積分値、又は、周波数スペクトル比における所定の周波数帯域のピーク強度)が算出されることになる。本発明者らの知見によれば、周波数スペクトル比における所定の周波数帯域の強度積分値やピーク強度は、極めて微小な凹凸が局部的に生じている部位と、健全な部位とで、有意差が生じ易い。このため、これらを特徴量として用いることで、管の内面の凹凸を精度良く検出可能である。
【0015】
本発明者らの知見によれば、前記超音波探触子の発振周波数が10~15MHz(送信波の中心周波数が10~15MHz)である場合、極めて微小な凹凸が局部的に生じている部位と、健全な部位とで、特徴量に有意差が生じ易いようにするには、前記所定の周波数帯域が8~12MHzであることが好ましい。
【0016】
好ましくは、前記底面エコー検出工程において、前記超音波探触子を前記管の周方向及び長手方向に沿って相対的に移動させながら、前記管に超音波を入射させる。
【0017】
上記の好ましい方法によれば、管の内面の凹凸を、管の全周・全長・全数について自動的に検出可能である。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る管の内面検査方法によれば、管の内面の凹凸を、極めて微小な凹凸であっても、局部的に生じている凹凸であっても検出可能である。本発明の検出対象である微小な凹凸としては、例えば、酸洗処理が施される管の過酸洗によって生じる微小な凹凸の他、熱間加工時の潤滑不足によって生じたスリ疵、冷間加工時の工具表面の微小な凹凸に起因するスリ疵等を挙げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態に係る内面検査方法を実施するための内面検査装置の概略構成を示す模式図である。
図2】本発明の一実施形態に係る内面検査方法に含まれる各工程を示すフロー図である。
図3図2に示す特徴量算出工程S4を説明する図である。
図4図2に示す特徴量算出工程S4を説明する図である。
図5】本発明の一実施形態に係る内面検査方法と、特許文献5に記載の内面検査方法とを比較した結果の一例を示す図である。
図6】過酸洗によって生じた内面微小凹凸の例を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付図面を適宜参照しつつ、本発明の一実施形態に係る管の内面検査方法(以下、適宜、単に「内面検査方法」という)について、検出対象が過酸洗を原因として管の内面に局部的に生じる極めて微小な凹凸(凹凸の深さ0.1mm程度)である場合を例に挙げて説明する。
【0021】
図1は、本発明の一実施形態に係る内面検査方法を実施するための内面検査装置の概略構成を示す模式図である。図1(a)は管の軸方向から見た正面図を、図1(b)は平面図を示す。
図1に示すように、本実施形態の内面検査装置100は、超音波探触子1と、超音波探触子1に電気的に接続された制御・信号処理手段2とを備えている。また、内面検査装置100は、超音波探触子1を管Pの周方向及び長手方向に沿って相対的に移動させるための機構部(図示せず)も備えている。
【0022】
超音波探触子1は、管Pの外面に対向配置されている。本実施形態の超音波探触子1としては、これに限られるものではないが、例えば、単一の振動子を具備し、発振周波数が10~15MHz(送信波の中心周波数が10~15MHz)の垂直探触子が好適に用いられる。また、管Pの偏芯の影響を低減するため、非集束型の垂直探触子が好適に用いられる。
【0023】
制御・信号処理手段2は、超音波探触子1から超音波を送信させるためのパルス信号を供給するパルサーや、エコーを受信した超音波探触子1から出力されるエコー信号を増幅するレシーバや、レシーバで増幅されたエコー信号をA/D変換するA/D変換器など、超音波の送受信を制御する機能を果たす部分と、後述のように、A/D変換されたエコー信号に基づき周波数スペクトルを算出したり、周波数スペクトル比を算出したり、特徴量を算出したり、凹凸を検出するなど、各種の信号処理を実行する機能を果たす部分とを備えている。
具体的には、制御・信号処理手段2は、例えば、超音波の送受信を制御する機能を果たす部分として、超音波探傷で広く用いられる従来公知の探傷器を用い、各種の信号処理を実行する機能を果たす部分として、探傷器に電気的に接続され、信号処理を実行するための所定のプログラムがインストールされたコンピュータを用いた構成とされている。
【0024】
機構部としては、管Pの周方向に沿って超音波探触子1を回転させる機構と、管Pを長手方向に搬送する機構とを備えたものを例示できる。ただし、これに限るものではなく、超音波探触子1の方を管Pの周方向及び軸方向の双方に沿って移動させる機構や、管Pの方を周方向に回転させ長手方向に搬送する機構を採用することも可能である。
【0025】
以上に説明した構成を有する内面検査装置100を用いて、本実施形態に係る内面検査方法は実施される。
図2は、本実施形態に係る内面検査方法に含まれる各工程を示すフロー図である。
図2に示すように、本実施形態に係る内面検査方法は、底面エコー検出工程S1、周波数スペクトル算出工程S2、周波数スペクトル比算出工程S3、特徴量算出工程S4及び内面凹凸検出工程S5を含んでいる。以下、底面エコー検出工程S1から順に、各工程について説明する。
【0026】
<底面エコー検出工程S1>
底面エコー検出工程S1では、管Pの外面に対向して配置した超音波探触子1から管Pの内面に対して略垂直に超音波を入射させ、超音波探触子1で管Pからのエコーを検出する。超音波探触子1は、制御・信号処理手段2に対して検出したエコーの大きさに応じた電気信号であるエコー信号を出力する。制御・信号処理手段2には、第1底面エコー(管Pの内面で反射した底面エコーのうち超音波探触子1が最初に受信する底面エコー)の伝搬距離に応じた第1ゲートと、第2底面エコー(管Pの内面で反射した底面エコーのうち超音波探触子1が2回目に受信する底面エコー)の伝搬距離に応じた第2ゲートとが設定されている。第1ゲート及び第2ゲートは、時間幅が互いに同一に設定されている。これら各ゲートによって第1底面エコー信号B1及び第2底面エコー信号B2が取得される。取得された第1底面エコー信号B1及び第2底面エコー信号B2を制御・信号処理手段2が備えるA/D変換器でA/D変換することで、横軸が時間(伝搬距離)についての同じ数のサンプリング点で、縦軸が各サンプリグ点の信号強度で表わされる第1底面エコー信号B1及び第2底面エコー信号B2の信号波形(デジタル信号波形)が得られる。
【0027】
なお、本実施形態の底面エコー検出工程S1は、超音波探触子1を管Pの周方向及び長手方向に沿って相対的に移動させながら、管Pに超音波を入射させることで実行される。これにより、管Pの全周・全長について、第1底面エコー信号B1及び第2底面エコー信号B2を取得可能である。
底面エコー検出工程S1の後に実行する周波数スペクトル算出工程S2、周波数スペクトル比算出工程S3、特徴量算出工程S4及び内面凹凸検出工程S5は、管Pの全周・全長について底面エコー検出工程S1を先に実行し終えた後(すなわち、管Pの全周・全長についての第1底面エコー信号B1及び第2底面エコー信号B2を先に取得した後)に纏めて実行してもよい。或いは、管Pの一箇所の部位について底面エコー検出工程S1、周波数スペクトル算出工程S2、周波数スペクトル比算出工程S3、特徴量算出工程S4及び内面凹凸検出工程S5を実行した後、超音波探触子1の相対的な移動に伴う管Pの次の箇所の部位について底面エコー検出工程S1、周波数スペクトル算出工程S2、周波数スペクトル比算出工程S3、特徴量算出工程S4及び内面凹凸検出工程S5を実行するという動作を、管Pの全周・全長について繰り返すことも可能である。
【0028】
<周波数スペクトル算出工程S2>
周波数スペクトル算出工程S2では、制御・信号処理手段2が、第1底面エコー信号B1を周波数解析することで第1底面エコー信号の周波数スペクトルSB1を算出すると共に、第2底面エコー信号B2を周波数解析することで第2底面エコー信号B2の周波数スペクトルSB2を算出する。
具体的には、制御・信号処理手段2は、第1底面エコー信号B1及び第2底面エコー信号B2の信号波形に高速フーリエ変換(FFT)を施すことで、横軸が周波数についての同じ数のサンプリング点で、縦軸が各サンプリング点の強度(スペクトル強度)で表される第1底面エコー信号B1及び第2底面エコー信号B2の周波数スペクトルSB1、SB2を算出する(周波数スペクトルSB1、SB2の波形を得る)。
【0029】
<周波数スペクトル比算出工程S3>
周波数スペクトル比算出工程S3では、制御・信号処理手段2が、第1底面エコー信号B1の周波数スペクトルSB1と、第2底面エコー信号B2の周波数スペクトルSB2との比である周波数スペクトル比SB1/SB2を算出する。
具体的には、制御・信号処理手段2は、第1底面エコー信号B1の周波数スペクトルSB1を構成する各サンプリング点の強度を、第2底面エコー信号B2の周波数スペクトルSB2を構成し、第1底面エコー信号B1の周波数スペクトルSB1を構成する各サンプリング点に対応する各サンプリング点の強度で除算することで、横軸が周波数についてのサンプリング点で、縦軸が各サンプリング点の強度の比(第1底面エコー信号B1のスペクトル強度/第2底面エコー信号B2のスペクトル強度)で表される周波数スペクトル比SB1/SB2を算出する(周波数スペクトル比SB1/SB2の波形を得る)。
【0030】
<特徴量算出工程S4>
特徴量算出工程S4では、制御・信号処理手段2が、周波数スペクトル比SB1/SB2における所定の周波数帯域の特徴量を算出する。本実施形態では、特徴量として、周波数スペクトル比SB1/SB2における所定の周波数帯域の強度積分値、及び/又は、周波数スペクトル比SB1/SB2における所定の周波数帯域のピーク強度を算出する。
図3及び図4は、本実施形態の特徴量算出工程S4を説明する図である。図3(a)及び図3(b)は、管Pの内面微小凹凸が生じていない健全な部位について得られた周波数スペクトルSB1及びSB2、周波数スペクトル比SB1/SB2、強度積分値S及びピーク強度(SB1/SB2)を示す。図3(a)及び図3(b)は、いずれも健全な部位について得られたものであるが、各部位は管Pの異なる位置にある部位である。図4(a)~図4(c)は、管Pの内面微小凹凸が生じている部位について得られた周波数スペクトルSB1及びSB2、周波数スペクトル比SB1/SB2、強度積分値S及びピーク強度(SB1/SB2)を示す。図4(a)~図4(c)は、いずれも内面微小凹凸が生じている部位について得られたものであるが、各部位は管Pの異なる位置にある部位である。
【0031】
図3及び図4に示すように、本実施形態の特徴量算出工程S4では、制御・信号処理手段2が、周波数スペクトル比SB1/SB2における所定の周波数帯域の強度の積分値(ハッチングを施した領域の面積)である強度積分値Sを算出する。強度積分値Sは、周波数スペクトル比SB1/SB2を構成する各サンプリング点の強度(スペクトル強度)を所定の周波数帯域に亘って積算した値である。具体的には、図3及び図4に示す例では、超音波探触子1として発振周波数が10~15MHz(送信波の中心周波数が10~15MHz)の超音波探触子を用いた場合に、所定の周波数帯域として8~12MHzが制御・信号処理手段2に記憶されており、制御・信号処理手段2は、強度積分値Sとして、周波数スペクトル比SB1/SB2における8~12MHzの強度積分値を算出する。
また、本実施形態の特徴量算出工程S4では、制御・信号処理手段2が、強度積分値Sに加えて、又は、強度積分値Sに替えて、周波数スペクトル比SB1/SB2における所定の周波数帯域のピーク強度(SB1/SB2)を算出する。本実施形態では、制御・信号処理手段2は、ピーク強度(SB1/SB2)として、周波数スペクトル比SB1/SB2における8~12MHzのピーク強度を算出する。
なお、所定の周波数帯域は、周波数スペクトル比SB1/SB2の横軸に表された全周波数帯域のうち、内面微小凹凸が生じている部位と、健全な部位とで、特徴量である強度積分値S及び/又はピーク強度(SB1/SB2)の有意差が生じ易いように予め決定し、制御・信号処理手段2に記憶しておけばよい。
【0032】
<内面凹凸検出工程S5>
内面凹凸検出工程S5では、制御・信号処理手段2が、特徴量(本実施形態では、強度積分値S及び/又はピーク強度(SB1/SB2))の大きさに基づき、管Pの内面微小凹凸を検出する。
【0033】
以上に説明した各工程S1~S5を含む本実施形態に係る内面検査方法によれば、機構部によって超音波探触子1を管Pの周方向及び長手方向に沿って相対的に移動させることで、管Pの内面微小凹凸を管Pの全周・全長・全数について自動的に検出可能である。
また、本実施形態に係る内面検査方法によれば、底面エコー検出工程S1、周波数スペクトル算出工程S2、周波数スペクトル比算出工程S3及び特徴量算出工程S4を実行することで、周波数スペクトル比SB1/SB2における強度積分値S及び/又はピーク強度(SB1/SB2)が算出される。強度積分値S及びピーク強度(SB1/SB2)は、たとえ内面微小凹凸が極めて微小であっても、局部的に生じていても、内面微小凹凸が生じている部位と、健全な部位とで、有意差を有する。したがい、内面凹凸検出工程S5において、強度積分値S及び/又はピーク強度(SB1/SB2)の大きさに基づき、管Pの内面微小凹凸を検出可能である。
【0034】
表1は、図3及び図4に示す強度積分値S及びピーク強度(SB1/SB2)に基づき内面微小凹凸の検出能を評価した結果を示す。表1には、参考例として、図3及び図4に示す第1底面エコー信号B1の周波数スペクトルSB1のピーク強度SB1及びピーク強度SB1に基づき内面微小凹凸の検出能を評価した結果も示している。内面微小凹凸の検出能は、内面微小凹凸が生じている部位について得られた各パラメータと、健全な部位について得られた各パラメータとの比(大きな値のパラメータを小さな値のパラメータで除算した比)のうち、最小の比で評価した。検出能の値が1に近いほど内面微小凹凸が生じている部位と健全な部位との差異が小さく、内面微小凹凸の検出が困難であることを意味する。逆に、検出能の値が1から遠ざかるほど(大きい数値になるほど)、内面微小凹凸が生じている部位と健全な部位との差異が大きく、内面微小凹凸を精度良く検出できることを意味する。
【表1】
【0035】
表1に示すように、ピーク強度SB1に基づき評価した検出能の値が1.41(=0.28/0.20)であるのに対し、強度積分値Sに基づき評価した検出能の値は2.54(=24.69/9.71)であり、ピーク強度(SB1/SB2)に基づき評価した検出能の値は2.60(=6.85/2.63)であり、検出能の値が大きくなることが分かる。すなわち、本実施形態に係る内面検査方法によれば、内面微小凹凸を精度良く検出可能であるといえる。
【0036】
図5は、本実施形態に係る内面検査方法と、特許文献5に記載の内面検査方法とを比較した結果の一例を示す図である。図5(a)は、管Pの極めて微小な凹凸が生じている部位について、本実施形態に係る内面検査方法で算出した強度積分値Sの一例を、図5(b)は、図5(a)と同じ内面微小凹凸が生じている部位について、特許文献5に記載の内面検査方法で算出した統計値(演算強度分布の平均値×標準偏差)の一例を示す。
図5(a)の横軸は、管Pの周方向位置であり、図5(a)では管Pの特定の軸方向位置についての1周分のみの結果を図示しているが、内面微小凹凸は管Pの長手方向に連続して生じており、他の軸方向位置でも同様の結果が得られた。図5(b)の横軸は、管Pの軸方向位置であり、100回転(管Pの100周)分の結果を図示している。
図5(a)に示すように、本実施形態に係る内面検査方法では、内面微小凹凸をS/N比≧3で精度良く検出可能であるのに対し、図5(b)に示すように、特許文献5に記載の内面検査方法では、内面微小凹凸に起因した有意差のある統計値が得られなかった。
【符号の説明】
【0037】
1・・・超音波探触子
2・・・制御・信号処理手段
100・・・内面検査装置
B1・・・第1底面エコー信号
B2・・・第2底面エコー信号
SB1、SB2・・・周波数スペクトル
SB1/SB2・・・周波数スペクトル比
S・・・強度積分値(特徴量)
(SB1/SB2)・・・ピーク強度(特徴量)
P・・・管
図1
図2
図3
図4
図5
図6