(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-08
(45)【発行日】2023-11-16
(54)【発明の名称】磁化装置
(51)【国際特許分類】
G01N 27/82 20060101AFI20231109BHJP
【FI】
G01N27/82
(21)【出願番号】P 2020069904
(22)【出願日】2020-04-08
【審査請求日】2022-12-05
(31)【優先権主張番号】P 2019093812
(32)【優先日】2019-05-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001748
【氏名又は名称】弁理士法人まこと国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴間 俊之
【審査官】村田 顕一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-193643(JP,A)
【文献】特開2011-047716(JP,A)
【文献】特開2001-074699(JP,A)
【文献】特開2016-219371(JP,A)
【文献】米国特許第09585201(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/72-27/9093
H05B 6/00-6/80
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺材の長手方向に沿って並べて配置され、
それぞれ複数回巻きのコイルで構成された、前記長尺材
を全長
に亘って挿通可能な寸法を有する複数の磁化コイルと、
前記複数の磁化コイルを前記長尺材の長手方向に直交する平面内で任意の方向に移動させる駆動手段と、を備え、
前記複数の磁化コイルのうち連続して配置されたN(N≧2)個の磁化コイルから構成される磁化コイル群において、前記磁化コイル群を構成する磁化コイルは、前記長尺材の長手方向に沿って互いに重複する部分を有し、
前記駆動手段は、前記長尺材の長手方向から見た場合に、前記
磁化コイル群の内部の互いに重複する領域が、前記磁化コイル群が配置された位置での前記長尺材の部位の断面に近づくように、前記複数の磁化コイルを移動させる
、磁化装置。
【請求項2】
前記駆動手段は、前記長尺材の長手方向から見た場合に、前記磁化コイル群を構成する各磁化コイルの中心が前記磁化コイル群が配置された位置での前記長尺材の部位の断面の中心に一致した状態から、前記磁化コイル群を構成する磁化コイルの数に応じて前記長尺材の周方向に略等角度で分割された方向に前記磁化コイル群を構成する各磁化コイルを移動させる
、請求項1に記載の磁化装置。
【請求項3】
前記複数の磁化コイルに対して前記長尺材を長手方向に相対的に搬送する搬送手段を備え、
前記駆動手段は、前記搬送手段が前記長尺材を長手方向に相対的に搬送している過程で、前記複数の磁化コイルを移動させる
、請求項
1に記載の磁化装置。
【請求項4】
前記駆動手段は、前記複数の磁化コイルの全てに前記長尺材が挿通した後、前記複数の磁化コイルを移動させる
、請求項
1に記載の磁化装置。
【請求項5】
前記駆動手段には、前記長尺材が基準位置にあるときに、前記磁化コイル群の内部の互いに重複する領域が、前記磁化コイル群が配置された位置での前記長尺材の部位の断面に近づくように決められた、前記磁化コイル群を構成する各磁化コイルの移動方向及び移動量が予め記憶されており、
前記長尺材を磁化する際の、前記基準位置に対する前記長尺材の長手方向の位置ずれ量と、前記基準位置に対する前記長尺材の長手方向周りのずれ角度とを検出する検出手段を更に備え、
前記駆動手段は、前記記憶された前記各磁化コイルの移動方向及び移動量と、前記検出手段によって検出した前記長尺材の位置ずれ量及びずれ角度とに基づき、前記各磁化コイルの実際の移動方向及び移動量を決定して、前記各磁化コイルを移動させる
、請求項
4に記載の磁化装置。
【請求項6】
前記長尺材は、クランクシャフトであり、
前記磁化コイル群は、第1磁化コイル、第2磁化コイル及び第3磁化コイルの3個の磁化コイルからなり、
前記クランクシャフトのカウンタウェイトの断面を四角形で近似して、前記四角形の4つの辺のうち、長い方から順に3つの辺を、第1辺、第2辺及び第3辺とし、前記磁化コイル群が前記カウンタウェイトに配置された場合、前記駆動手段は、前記第1磁化コイルが前記第1辺の両端に近接するように前記第1磁化コイルを移動させ、前記第2磁化コイルが前記第2辺の両端に近接するように前記第2磁化コイルを移動させ、前記第3磁化コイルが前記第3辺の両端に近接するように前記第3磁化コイルを移動させる
、請求項1から
5の何れかに記載の磁化装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼管、棒鋼、車軸、クランクシャフト等の長尺材の磁粉探傷・漏洩磁束探傷や誘導加熱に用いることができる磁化装置に関する。特に、本発明は、長手方向の位置によって断面の大きさや断面中心の位置が異なる長尺材であっても十分な磁化性能を得ることができる磁化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鋼管、棒鋼、車軸、クランクシャフト等の長尺材の品質保証技術として、磁粉探傷法や漏洩磁束探傷法が適用されている。
磁粉探傷法や漏洩磁束探傷法は、長尺材を磁化し、長尺材に存在するきずから外部に漏れ出る漏洩磁束によってきずを検出する方法である。磁粉探傷法では、蛍光特性を有する磁粉を分散させた磁粉液を長尺材に散布し、漏洩磁束によって凝集した磁粉に紫外線を照射して蛍光発光させ、得られた磁粉模様を目視又は撮像手段で観察することできずを検出する。漏洩磁束探傷法では、漏洩磁束をホール素子等の磁気センサで検出することできずを検出する。
【0003】
磁粉探傷法や漏洩磁束探傷法において、長尺材を磁化する磁化装置として、貫通コイルとも称される長尺材を挿通する磁化コイルを備えた磁化装置が広く用いられている(例えば、特許文献1、2参照)。この磁化コイルに直流電流又は交流電流を通電することにより、長尺材の長手方向に沿った磁界が形成され、この磁界によって長尺材が磁化される。
【0004】
磁化コイルとしては、長尺材の全長を挿通可能な寸法を有するコイルを用いる必要がある。具体的には、長尺材が鋼管や棒鋼である場合、磁化コイルが円形コイルであれば、鋼管や棒鋼の外径よりも内径の大きな磁化コイルを用いる必要がある。また、長尺材が、長手方向の位置によって断面の外径が異なる車軸である場合、磁化コイルが円形コイルであれば、車軸の各断面の最大外径よりも内径の大きな磁化コイルを用いる必要がある。さらに、長尺材が、長手方向の位置によって断面の大きさや断面中心の位置が異なるクランクシャフトである場合、磁化コイルが円形コイルであれば、クランクシャフトの各断面を長手方向に投影した投影断面を囲むことが可能な大きさの内径を有する磁化コイルを用いる必要がある。
【0005】
したがい、長尺材が、車軸やクランクシャフトである場合、断面の寸法が小さな部位では、磁化コイルの充填率(磁化コイルが配置された位置での長尺材の断面積/磁化コイル内部の面積)が低下し、これにより磁化性能が低下して、きずの検出性能が低下するおそれがある。また、長尺材が、鋼管や棒鋼である場合にも、外径の異なる鋼管や棒鋼を同じ寸法の磁化コイルで磁化するときには、外径の小さな鋼管や棒鋼について同様の問題が生じる。
【0006】
また、長尺材を挿通する磁化コイルを備えた磁化装置は、長尺材を誘導加熱する際にも用いられる(例えば、特許文献3参照)。
誘導加熱法は、磁化コイルに交流電流を通電することにより、長尺材の長手方向に沿った交流磁界が形成され、この交流磁界によって長尺材に渦電流が生じ、この渦電流によって長尺材を加熱する方法である。
長尺材を誘導加熱する際にも、長尺材を磁粉探傷したり漏洩磁束探傷する場合と同様に、磁化コイルの充填率の低下に起因して、磁化性能が低下し、加熱性能が低下するおそれがある。
【0007】
特許文献1~3には、特に、長手方向の位置によって断面の大きさや断面中心の位置が異なる長尺材に対して、磁化コイルの充填率の低下に起因した磁化性能の低下を解決する手段について何ら提案されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平3-223668号公報
【文献】特開平7-103942号公報
【文献】特開2016-219371号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記従来技術の問題点を解決するべくなされたものであり、長手方向の位置によって断面の大きさや断面中心の位置が異なる長尺材であっても十分な磁化性能を得ることができる磁化装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するため、本発明は、長尺材の長手方向に沿って並べて配置され、それぞれ複数回巻きのコイルで構成された、前記長尺材を全長に亘って挿通可能な寸法を有する複数の磁化コイルと、前記複数の磁化コイルを前記長尺材の長手方向に直交する平面内で任意の方向に移動させる駆動手段と、を備え、前記複数の磁化コイルのうち連続して配置されたN(N≧2)個の磁化コイルから構成される磁化コイル群において、前記磁化コイル群を構成する磁化コイルは、前記長尺材の長手方向に沿って互いに重複する部分を有し、前記駆動手段は、前記長尺材の長手方向から見た場合に、前記磁化コイル群の内部の互いに重複する領域が、前記磁化コイル群が配置された位置での前記長尺材の部位の断面に近づくように、前記複数の磁化コイルを移動させる、磁化装置を提供する。
【0011】
本発明によれば、駆動手段によって、長尺材の長手方向から見た場合に、複数の磁化コイルのうち連続して配置されたN(N≧2)個の磁化コイルからなる磁化コイル群の内部の互いに重複する領域が、磁化コイル群が配置された位置での長尺材の部位の断面に近づくように、複数の磁化コイルが移動することになる。換言すれば、長尺材の長手方向から見た場合に、磁化コイル群の内部の互いに重複する領域(磁化コイル群を構成する各磁化コイルの内部領域のうち互いに重複する領域)が長尺材の断面よりもやや大きくなるように、磁化コイル群を構成する各磁化コイルの内面がそれぞれ長尺材の外面に近づくことになる。したがい、磁化コイル群の内部の互いに重複する領域を基準にした充填率(磁化コイル群が配置された位置での長尺材の断面積/磁化コイル群の内部の互いに重複する領域の面積)が高まることで、十分な磁化性能を得ることが可能である。そして、本発明によれば、駆動手段によって複数の磁化コイルが長尺材の長手方向に直交する平面内で任意の方向に移動可能であるため、長手方向の位置によって断面の大きさや断面中心の位置が異なる長尺材であっても、磁化コイル群の内部の互いに重複する領域が長尺材の断面に近づくことができ、重複する領域を基準とした充填率が高まることで、十分な磁化性能を得ることが可能である。
本発明によれば、十分な磁化性能を得ることができるため、長尺材の磁粉探傷・漏洩磁束探傷に用いる場合には、きずの検出性能が低下するおそれがない。また、長尺材の誘導加熱に用いる場合には、加熱性能が低下するおそれがない。
なお、本発明において、「長尺材を全長に亘って挿通可能な寸法を有する」とは、磁化コイルの内部領域の大きさが、長尺材の全長における何れの部位の断面よりも大きいことを意味する。例えば、磁化コイルが円形コイルである場合には、円形コイルの内径が、長尺材の全長における何れの部位の断面に対しても、断面の外縁を構成する任意の2点間距離よりも大きいことを意味する。
また、本発明の磁化コイル群は、1組であっても、複数組であってもよい。磁化コイル群が複数組の場合、駆動手段は、磁化コイル群毎に、各磁化コイル群の内部の互いに重複する領域が各磁化コイル群が配置された位置での長尺材の部位の断面に近づくように、各磁化コイル群を構成する複数の磁化コイルを移動させることになる。
さらに、本発明において、磁化装置が3個以上の複数の磁化コイルを備え、磁化コイル群が連続して配置された3個以上(すなわち、N≧3)の磁化コイルからなることが好ましい。
【0012】
磁化コイルは、1回巻きのコイルでも構成され得るが、本発明では、複数回巻きのコイルで構成されている。磁化コイルが複数回巻きのコイルである場合、磁化コイル群を構成する複数回巻きの磁化コイルを、長尺材の長手方向に沿って単純に並べて配置する(長尺材の長手方向に沿って互いに重複する部分を有さないように配置する)ことも可能である。しかしながら、複数回巻きの磁化コイルを単純に並べて配置すると、1回巻きの磁化コイルを並べて配置する場合に比べて、磁化コイルの長さ(長尺材の長手方向に沿った寸法)が大きくなる。各磁化コイルの長さ分の領域のみに着目すると、その領域では磁化コイルの充填率が高まらないため、複数回巻きの磁化コイルを単純に並べて配置したのでは、磁化性能が低下するおそれがある。
【0013】
本発明では、磁化コイル群を構成する磁化コイル(複数回巻きの磁化コイル)が、長尺材の長手方向に沿って互いに重複する部分を有するので、長尺材の長手方向に沿って互いに重複する部分では、磁化コイルの充填率が高まるため、磁化性能を十分に高めることが可能である。
磁化コイルが長尺材の長手方向に沿って互いに重複する部分を有するには、磁化コイルの導線間に空隙を設けた構造とし、一方の磁化コイルの導線間に他方の磁化コイルの導線が位置するように各磁化コイルを配置すればよい。
なお、本発明において、「互いに重複する部分を有する」とは、磁化コイル群を構成する全ての磁化コイルが互いに重複する部分を有する場合に限るものではなく、少なくとも長尺材の長手方向に沿って隣り合う一対の磁化コイルが互いに重複する部分を有することを意味する。例えば、磁化コイル群を構成する磁化コイルが3個の場合、3個の磁化コイルの全てが互いに重複する部分を有する態様であってもよいし、1番目と2番目の磁化コイルが重複する部分を有し、2番目と3番目の磁化コイルが重複する部分を有する態様であってもよい。
【0014】
好ましくは、前記駆動手段は、前記長尺材の長手方向から見た場合に、前記磁化コイル群を構成する各磁化コイルの中心が前記磁化コイル群が配置された位置での前記長尺材の部位の断面の中心に一致した状態から、前記磁化コイル群を構成する磁化コイルの数に応じて前記長尺材の周方向に略等角度で分割された方向に前記磁化コイル群を構成する各磁化コイルを移動させる。
【0015】
上記の好ましい構成によれば、長尺材の断面が円形で、各磁化コイルが同一寸法の円形コイルであれば、駆動手段によって移動した後の磁化コイル群の内部の互いに重複する領域を円形に近い形状にすることができる。したがい、充填率を十分に高めて、磁化性能をより一層十分に高めることが可能である。
【0017】
好ましくは、前記複数の磁化コイルに対して前記長尺材を長手方向に相対的に搬送する搬送手段を備え、前記駆動手段は、前記搬送手段が前記長尺材を長手方向に相対的に搬送している過程で、前記複数の磁化コイルを移動させる。
【0018】
上記の好ましい構成によれば、駆動手段によって、搬送手段が長尺材を長手方向に相対的に搬送している過程で、複数の磁化コイルが移動することになる。換言すれば、磁化コイル群が配置された位置に順次到達する長尺材の部位の断面の大きさや断面中心の位置に応じて、磁化コイル群の内部の互いに重複する領域が当該断面に近づくように、磁化コイル群を構成する各磁化コイルが順次移動することになる。
上記の好ましい構成によれば、1組の磁化コイル群で長尺材の全長を磁化することが可能である。
【0019】
好ましくは、前記駆動手段は、前記複数の磁化コイルの全てに前記長尺材が挿通した後、前記複数の磁化コイルを移動させる。
【0020】
上記の好ましい構成によれば、例えば、複数の磁化コイルの中心を合致させた状態で長尺材を複数の磁化コイルの全てに挿通させた後、駆動手段によって、磁化コイル群の内部の互いに重複する領域が、磁化コイル群が配置された位置での長尺材の部位の断面に近づくように、複数の磁化コイルが移動することになる。
上記の好ましい構成によれば、前述の好ましい構成(長尺材を長手方向に相対的に搬送している過程で複数の磁化コイルを移動させる構成)に比べて、必要な磁化コイル群の数が増えるものの、磁化コイルを移動させる制御が容易であるという利点を有する。
【0021】
ここで、長尺材が、例えば、クランクシャフトである場合、クランクシャフトは、所定の受台の設置位置まで搬送され、受台に載置された状態で磁化されて、磁粉探傷や漏洩磁束探傷が行われる場合が多い。受台の設置位置が固定されていれば、受台に載置されたクランクシャフトの鉛直方向の位置や長手方向の向きは、同一仕様のクランクシャフトである限り、安定していると考えられるものの、クランクシャフトの長手方向の位置や長手方向周りの角度は、同一仕様のクランクシャフトであっても、クランクシャフト毎に異なる可能性がある。したがい、クランクシャフトが所定の基準位置(基準となる鉛直方向の位置、基準となる長手方向の向き、基準となる長手方向の位置及び基準となる長手方向周りの角度)にあるときに、磁化コイル群の内部の互いに重複する領域が、磁化コイル群が配置された位置でのクランクシャフトの部位の断面に近づくように、クランクシャフトの各長手方向位置での断面形状や磁化コイルの寸法に応じて、磁化コイル群を構成する各磁化コイルの移動方向及び移動量を予め決めたとしても、クランクシャフトの長手方向の位置や長手方向周りの角度が基準位置からずれれば、決められた各磁化コイルの移動方向及び移動量が不適切になるおそれがある。以上の説明では、長尺材がクランクシャフトである場合を例に挙げたが、受台等に載置された状態で磁化され、長手方向の位置や長手方向周りの角度にばらつきが生じ得る長尺材に共通する問題である。
【0022】
上記の問題を解決するには、好ましくは、前記駆動手段には、前記長尺材が基準位置にあるときに、前記磁化コイル群の内部の互いに重複する領域が、前記磁化コイル群が配置された位置での前記長尺材の部位の断面に近づくように決められた、前記磁化コイル群を構成する各磁化コイルの移動方向及び移動量が予め記憶されており、前記長尺材を磁化する際の、前記基準位置に対する前記長尺材の長手方向の位置ずれ量と、前記基準位置に対する前記長尺材の長手方向周りのずれ角度とを検出する検出手段を更に備え、前記駆動手段は、前記記憶された前記各磁化コイルの移動方向及び移動量と、前記検出手段によって検出した前記長尺材の位置ずれ量及びずれ角度とに基づき、前記各磁化コイルの実際の移動方向及び移動量を決定して、前記各磁化コイルを移動させる。
【0023】
上記の好ましい構成において、「基準位置」とは、基準となる鉛直方向の位置、基準となる長手方向の向き、基準となる長手方向の位置及び基準となる長手方向周りの角度を意味する。「前記基準位置に対する前記長尺材の長手方向の位置ずれ量」とは、基準となる長手方向の位置に対する長尺材の長手方向の位置ずれ量を意味する。「前記基準位置に対する前記長尺材の長手方向周りのずれ角度」とは、基準となる長手方向周りの角度に対する長尺材の長手方向周りのずれ角度を意味する。
上記の好ましい構成によれば、検出手段によって、基準位置に対する長尺材の長手方向の位置ずれ量と、基準位置に対する長尺材の長手方向周りのずれ角度とが検出される。したがい、駆動手段は、記憶された各磁化コイルの移動方向及び移動量(長尺材が基準位置にあるときに、磁化コイル群の内部の互いに重複する領域が、磁化コイル群が配置された位置での長尺材の部位の断面に近づくように決められた、磁化コイル群を構成する各磁化コイルの移動方向及び移動量)と、検出手段によって検出した長尺材の位置ずれ量及びずれ角度とに基づき、各磁化コイルの実際の移動方向及び移動量を決定することができる。換言すれば、長尺材が基準位置にあるときに適切な各磁化コイルの移動方向及び移動量(駆動手段に予め記憶された各磁化コイルの移動方向及び移動量)を、検出手段によって検出した長尺材の位置ずれ量及びずれ角度とに基づき補正して、実際に磁化する際の長尺材の位置(長尺材の長手方向の位置及び長手方向周りの角度)に応じた適切な各磁化コイルの移動方向及び移動量を決定することができる。そして、駆動手段が、決定した各磁化コイルの実際の移動方向及び移動量に基づき、各磁化コイルを移動させることで、たとえ長尺材が基準位置からずれたとしても、充填率を高めて、十分な磁化性能を得ることが可能である。
【0024】
好ましくは、前記長尺材は、クランクシャフトであり、前記磁化コイル群は、第1磁化コイル、第2磁化コイル及び第3磁化コイルの3個の磁化コイルからなり、前記クランクシャフトのカウンタウェイトの断面を四角形で近似して、前記四角形の4つの辺のうち、長い方から順に3つの辺を、第1辺、第2辺及び第3辺とし、前記磁化コイル群が前記カウンタウェイトに配置された場合、前記駆動手段は、前記第1磁化コイルが前記第1辺の両端に近接するように前記第1磁化コイルを移動させ、前記第2磁化コイルが前記第2辺の両端に近接するように前記第2磁化コイルを移動させ、前記第3磁化コイルが前記第3辺の両端に近接するように前記第3磁化コイルを移動させる。
【0025】
長尺材がクランクシャフトである場合に、クランクシャフトのカウンタウェイトの断面は、台形等の四角形で近似できる場合が多い。上記の好ましい構成によれば、磁化コイル群を構成する3個の磁化コイル(第1~第3磁化コイル)を、四角形の4つの辺のうち長い方から順に3つの辺(第1~第3辺)の両端に近接するように移動させることで、充填率を高めることが可能である。
なお、上記の好ましい構成において、「近接するように・・・移動」とは、接触するように移動させる場合と、磁化コイルの絶縁性を確保できるように、接触する位置から僅かな距離だけ離れた位置に移動させる場合との双方を含む概念である。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、長手方向の位置によって断面の大きさや断面中心の位置が異なる長尺材であっても十分な磁化性能を得ることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る磁化装置の概略構成を模式的に示す図である。
【
図2】本発明の第2実施形態に係る磁化装置の概略構成を模式的に示す図である。
【
図3】本発明の第3実施形態に係る磁化装置が備える検出手段の概略構成を模式的に示す図である。
【
図4】本発明の第3実施形態に係る磁化装置が備える検出手段の概略構成を模式的に示す図である。
【
図5】本発明の第3実施形態に係る磁化装置が備える検出手段の変形例の概略構成を模式的に示す図である。
【
図6】本発明の第3実施形態に係る磁化コイル群が長尺材のカウンタウェイトに配置された場合における各磁化コイルの移動方向及び移動量を説明する正面図である。
【
図7】磁化コイルが複数回巻きコイルの場合の磁化コイル群の好ましい構成を模式的に示す図である。
【
図8】本発明の効果を有限要素解析によるシミュレーションで評価した条件及び結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、添付図面を適宜参照しつつ、本発明の実施形態に係る磁化装置について説明する。
【0029】
<第1実施形態>
図1は、本発明の第1実施形態に係る磁化装置の概略構成を模式的に示す図である。
図1(a)は、長尺材S1(
図1に示す例では鉄道車両用の車軸)の長手方向(X方向)に直交する方向(Y方向)から見た磁化装置100全体を示す側面図である。
図1(b)は、長尺材S1の長手方向から見た磁化コイル群10の一の状態を示す正面図である。
図1(c)は、長尺材S1の長手方向から見た他の状態の磁化コイル群10を示す正面図である。
【0030】
図1に示すように、第1実施形態に係る磁化装置100は、複数の磁化コイル1(
図1に示す例では3個の磁化コイル1a、1b、1c)を備える。
図1に示す各磁化コイル1は、1回巻きの円形コイルであり、互いに同一の寸法である。複数の磁化コイル1は、長尺材S1の長手方向に沿って並べて配置され、長尺材S1の全長を挿通可能な寸法を有する。具体的には、
図1に示す長尺材S1は長手方向の位置によって断面の外径が異なる車軸であるため、磁化コイル1の内径D2は、長尺材S1の各断面の最大外径D1よりも大きくなっている。そして、
図1(a)に示すように、初期状態では、長尺材S1の中心(中心軸)と、複数の磁化コイル1の中心(中心軸)とが合致した状態になっている。
【0031】
各磁化コイル1は電源(図示せず)と接続されており、電源から各磁化コイル1に対して同じ方向(時計回り方向又は反時計回り方向)に流れる直流電流又は同期した交流電流が通電される。磁化装置100を長尺材S1の磁粉探傷・漏洩磁束探傷に用いる場合には、各磁化コイル1に直流電流又は交流電流が通電され、誘導加熱に用いる場合には、各磁化コイル1に直流電流が通電される。電源は磁化コイル1毎に設けてもよい(すなわち、3個の電源を設けてもよい)し、各磁化コイル1を直列接続して、その両端に1つの電源を接続してもよい。電源を磁化コイル1毎に設け、且つ、各磁化コイル1に交流電流を通電する場合には、各電源の出力を同期させる同期回路が設けられる。
なお、第1実施形態の各磁化コイル1には、支持棒11が取り付けられており、各磁化コイル1は、この支持棒11によって後述の駆動手段2(2軸ステージ21)に支持されている。
【0032】
第1実施形態に係る磁化装置100は、複数の磁化コイル1を長尺材S1の長手方向に直交する平面(YZ平面)内で任意の方向に移動させる駆動手段2を備える。
第1実施形態の駆動手段2は、各磁化コイル1に一端が取り付けられた支持棒11の他端が可動部(図示せず)に取り付けられた2軸ステージ21と、2軸ステージ21に電気的に接続され、2軸ステージ21を駆動するためのプログラムがインストールされたコンピュータ22とを具備する。
【0033】
2軸ステージ21は、固定部(図示せず)及び固定部に対して移動する可動部(図示せず)を有する。2軸ステージ21は、コンピュータ22から送信された制御信号に応じて、可動部を固定部に対してY方向及びZ方向の2軸方向に移動させる。Y方向及びZ方向の移動量を制御することにより、可動部に取り付けられた支持棒11、ひいては支持棒11に取り付けられた磁化コイル1がYZ平面内で任意の方向に移動することになる。
【0034】
コンピュータ22には、長尺材S1の各長手方向の位置での断面(長尺材S1の長手方向に直交するYZ平面内の断面)の形状(断面の大きさ(外径)や断面中心の位置)や磁化コイル1の寸法が予め記憶されている。コンピュータ22は、記憶された長尺材S1の断面形状や磁化コイル1の寸法等に応じて、各磁化コイル1のYZ平面内での適切な移動方向や移動量を算出し、これを制御信号として2軸ステージ21に送信する。
【0035】
また、第1実施形態に係る磁化装置100は、複数の磁化コイル1に対して長尺材S1を長手方向(矢符Vの向き)に相対的に搬送する搬送手段(図示せず)を備える。搬送手段としては、静止する(長尺材S1の長手方向について静止する)磁化コイル1に対して長尺材S1の方をその長手方向に搬送する搬送ローラ等や、静止する長尺材S1に対して磁化コイル1の方を長尺材S1の長手方向に移動させる1軸ステージ等を例示できる。
なお、長尺材S1の相対的な搬送速度は、図示しない所定のセンサ(例えば、搬送ローラに取り付けられたエンコーダ等)によって測定され、コンピュータ22に入力される。
【0036】
以下、上記の構成を有する第1実施形態に係る磁化装置100の動作について説明する。
第1実施形態では、搬送手段が長尺材S1を長手方向に相対的に搬送している過程で、駆動手段2が複数の磁化コイル1を移動させる。具体的には、搬送手段によって長尺材S1の先端(長尺材S1の搬送方向下流側の端。
図1(a)の右側の端)が磁化コイル1の配置された位置に到達するまでの間に、駆動手段2が初期状態の複数の磁化コイル1の移動を開始し、長尺材S1が磁化コイル1に挿通されて、長尺材S1の後端(長尺材S1の搬送方向上流側の端。
図1(a)の左側の端)が磁化コイル1から抜けるまでの間において、断面の外径が異なる部位が到達するタイミングで、駆動手段2が複数の磁化コイル1を移動させる。複数の磁化コイル1への直流電流又は交流電流の通電も同様に、長尺材S1の先端が磁化コイル1の配置された位置に到達するまでの間に開始され、長尺材S1の後端が磁化コイル1から抜けるまで継続される。
【0037】
より具体的には、駆動手段2は、長尺材S1の長手方向から見た場合に、複数の磁化コイル1のうち連続して配置された3個以上の磁化コイル1(
図1に示す例では3個の磁化コイル1a、1b、1c)からなる磁化コイル群10の内部の互いに重複する領域12が、磁化コイル群10が配置された位置での長尺材S1の部位の断面に近づくように、複数の磁化コイル1を移動させる。第1実施形態の磁化コイル群10は、3個の磁化コイル1a、1b、1cからなる1組の磁化コイル群10である。
【0038】
図1(b)に示すように、最大外径を有する長尺材S1の部位の断面Saが磁化コイル群10が配置された位置に到達する場合には、駆動手段2は、磁化コイル群10を構成する各磁化コイル1a、1b、1cを、これらの中心が合致した初期状態の位置に移動させる。これにより、磁化コイル群10の内部の互いに重複する領域(
図1(b)においてハッチングを施した領域)12が、磁化コイル群10が配置された位置での長尺材S1の部位の断面Saに近づくことになる。
【0039】
一方、
図1(c)に示すように、断面Saよりも外径の小さな長尺材S1の部位の断面Sbが磁化コイル群10が配置された位置に到達する場合には、駆動手段2は、磁化コイル群10を構成する各磁化コイル1a、1b、1cを、磁化コイル群10の内部の互いに重複する領域12(
図1(c)においてハッチングを施した領域)が小さくなるように移動させる。具体的には、駆動手段2は、長尺材S1の長手方向から見た場合に、磁化コイル群10を構成する各磁化コイル1の中心が磁化コイル群10が配置された位置での長尺材S1の部位の断面Sbの中心に一致するように磁化コイル群10を移動させた後、この状態(
図1(c)において破線で示す状態)から、磁化コイル群10を構成する磁化コイル1の数に応じて長尺材S1の周方向に略等角度で分割された方向に磁化コイル群10を構成する各磁化コイル1を移動させる。第1実施形態では、磁化コイル群10を構成する磁化コイル1の数は3個であるため、駆動手段2は、略120°の角度で分割された矢符A、B及びCの方向に各磁化コイル1a、1b、1cを移動させることになる。これにより、磁化コイル群10の内部の互いに重複する領域12が、磁化コイル群10が配置された位置での長尺材S1の部位の断面Sbに近づくことになる。
【0040】
なお、前述のように、各磁化コイル1の適切な移動方向や移動量は、駆動手段2のコンピュータ22によって算出される。具体的には、コンピュータ22は、入力された長尺材S1の相対的な搬送速度と、予め記憶された長尺材S1の各長手方向の位置での断面の形状とに基づき、磁化コイル群10が配置された位置に到達する長尺材S1の部位の断面の形状を順次算出し、この断面の形状と、予め記憶された磁化コイル1の寸法とに基づき、各磁化コイル1の適切な移動方向や移動量を順次算出する。
【0041】
以上に説明した第1実施形態に係る磁化装置100によれば、長尺材S1の長手方向(X方向)から見た場合に、磁化コイル群10の内部の互いに重複する領域12が長尺材S1の断面よりもやや大きくなるように、磁化コイル群10を構成する各磁化コイル1の内面がそれぞれ長尺材S1の外面に近づくことになる。
したがい、磁化コイル群10の内部の互いに重複する領域12を基準にした充填率が高まることで、十分な磁化性能を得ることが可能である。第1実施形態に係る磁化装置100によれば、十分な磁化性能を得ることができるため、長尺材S1の磁粉探傷・漏洩磁束探傷に用いる場合には、きずの検出性能が低下するおそれがない。また、長尺材S1の誘導加熱に用いる場合には、加熱性能が低下するおそれがない。
また、第1実施形態に係る磁化装置100によれば、1組の磁化コイル群10で長尺材S1の全長を磁化することが可能である。
【0042】
<第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態に係る磁化装置について説明する。第2実施形態に係る磁化装置が備える構成要素において、第1実施形態に係る磁化装置100が備える構成要素と同様の機能を果たす構成要素には同一の符号を付して重複する説明を適宜省略し、主として第1実施形態と異なる部分について説明する。
図2は、本発明の第2実施形態に係る磁化装置100Aの概略構成を模式的に示す図である。具体的には、
図2は、長尺材S2(
図2に示す例ではクランクシャフト)の長手方向(X方向)に直交する方向(Y方向)から見た磁化装置100A全体を示す側面図である。
図2(a)は、各磁化コイル群10が初期状態である場合を示す側面図である。
図2(b)は、各磁化コイル群10が移動した後の状態を示す側面図である。なお、
図2では、長尺材S2を透視した状態で図示している。また、
図2では、
図1と異なり、磁化装置100Aが備える駆動手段2及び支持棒11の図示を省略している。さらに、
図2では、長尺材S2の長手方向から見た正面図の図示を省略している。第2実施形態の磁化コイル群10も、第1実施形態と同様に3個の磁化コイル1からなる。ただし、第2実施形態の磁化コイル群10は、複数組(
図2に示す例では9組)設けられている。
【0043】
図2に示すように、第2実施形態に係る磁化装置100Aも3個以上の複数の磁化コイル1(
図2に示す例では27個の磁化コイル1)を備える。
図2に示す各磁化コイル1は、1回巻きの円形コイルであり、互いに同一の寸法である。複数の磁化コイル1は、長尺材S2の長手方向に沿って並べて配置され、長尺材S2の全長を挿通可能な寸法を有する。具体的には、
図2に示す長尺材S2は長手方向の位置によって断面の大きさや断面中心の位置が異なるクランクシャフトであるため、磁化コイル1の内径は、長尺材S2の各断面を長手方向に投影した投影断面を囲むことが可能な大きさを有する。そして、
図2(a)に示すように、初期状態では、長尺材S2の中心(中心軸)と、複数の磁化コイル1の中心(中心軸)とが合致した状態になっている。
各磁化コイル1は電源(図示せず)と接続されており、電源から各磁化コイル1に対して同じ方向に流れる直流電流又は同期した交流電流が通電される。
第2実施形態に係る磁化装置100Aが備える駆動手段2(図示せず)も、第1実施形態と同様に、2軸ステージ21(図示せず)とコンピュータ22(図示せず)とを備える。第2実施形態のコンピュータ22は、インストールされている2軸ステージ21を駆動するためのプログラムが第1実施形態とは異なるため、第2実施形態に係る磁化装置100Aの動作は第1実施形態に係る磁化装置100の動作と異なるものとなる。
【0044】
以下、上記の構成を有する第2実施形態に係る磁化装置100Aの動作について説明する。第2実施形態では、複数の磁化コイル1の全てに長尺材S2が挿通した後、複数の磁化コイル1を移動させる。具体的には、
図2(a)に示すように、長尺材S2の中心と複数の磁化コイル1の中心とが合致した初期状態で、搬送手段(図示せず)によって長尺材S2を複数の磁化コイル1の全てに挿通させる。搬送手段によって長尺材S2をその長手方向にどれだけ搬送するかは、長尺材S2の長さと複数の磁化コイル1の配置位置とによって決定可能である。
この後、
図2(b)に示すように、駆動手段2(図示せず)は、長尺材S2の長手方向から見た場合に、各磁化コイル群10の内部の互いに重複する領域が、各磁化コイル群10が配置された位置での長尺材S2の部位の断面に近づくように、複数の磁化コイル1を移動させる。
【0045】
なお、第2実施形態に係る磁化装置100Aも、第1実施形態に係る磁化装置100と同様に、駆動手段2は、例えば、長尺材S2の長手方向から見た場合に、磁化コイル群10を構成する各磁化コイル1の中心が磁化コイル群10が配置された位置での長尺材S2の部位の断面の中心に一致するように磁化コイル群10を移動させた後、この状態から磁化コイル群10を構成する磁化コイル1の数に応じて長尺材S2の周方向に略等角度で分割された方向に磁化コイル群10を構成する各磁化コイル1を移動させる。第2実施形態でも、磁化コイル群10を構成する磁化コイル1の数は3個であるため、駆動手段2は、略120°の角度で分割された方向に各磁化コイル1を移動させることになる。これにより、磁化コイル群10の内部の互いに重複する領域12が、磁化コイル群10が配置された位置での長尺材S2の部位の断面に近づくことになる。
【0046】
また、第2実施形態でも、各磁化コイル1の適切な移動方向や移動量は、駆動手段2(図示せず)のコンピュータ22(図示せず)によって算出される。具体的には、コンピュータ22は、予め記憶された長尺材S1の各長手方向の位置での断面の形状と、予め記憶された磁化コイル1の寸法とに基づき、各磁化コイル1の適切な移動方向や移動量を算出する。
【0047】
以上に説明した第2実施形態に係る磁化装置100Aによっても、長尺材S2の長手方向(X方向)から見た場合に、磁化コイル群10の内部の互いに重複する領域が長尺材S2の断面よりもやや大きくなるように、磁化コイル群10を構成する各磁化コイル1の内面がそれぞれ長尺材S2の外面に近づくことになる。
したがい、磁化コイル群10の内部の互いに重複する領域を基準にした充填率が高まることで、十分な磁化性能を得ることが可能である。第2実施形態に係る磁化装置100Aによれば、十分な磁化性能を得ることができるため、長尺材S2の磁粉探傷・漏洩磁束探傷に用いる場合には、きずの検出性能が低下するおそれがない。また、長尺材S2の誘導加熱に用いる場合には、加熱性能が低下するおそれがない。
また、第2実施形態に係る磁化装置100Aによれば、第1実施形態に係る磁化装置100に比べて、必要な磁化コイル群10の数が増えるものの、長尺材S2を長手方向に相対的に搬送している過程で複数の磁化コイル1を移動させる必要がないため、磁化コイル1を移動させる制御が容易であるという利点を有する。
【0048】
<第3実施形態>
次に、本発明の第3実施形態に係る磁化装置について説明する。第3実施形態に係る磁化装置は、検出手段を備える点が第2実施形態に係る磁化装置100Aと異なる。以下、第3実施形態に係る磁化装置が備える構成要素において、第2実施形態に係る磁化装置100Aが備える構成要素と同様の機能を果たす構成要素には同一の符号を付して重複する説明を適宜省略し、主として第2実施形態と異なる部分について説明する。
図3及び
図4は、本発明の第3実施形態に係る磁化装置100Bが備える検出手段3の概略構成を模式的に示す図である。
図3(a)は、検出手段3の概略構成を示す斜視図であり、長尺材S3(
図3及び
図4に示す例ではクランクシャフト)が基準位置にある状態を示している。
図3(b)は、
図3(a)に示す検出手段3が具備する撮像手段31によって撮像した撮像画像の一例を示す。
図4(a)は、検出手段3の概略構成を示す斜視図であり、長尺材S3が基準位置からずれた状態を示している。
図4(b)は、
図4(a)に示す検出手段3が具備する撮像手段31によって撮像した撮像画像の一例を示す。なお、
図3及び
図4では、磁化装置100Bが備える磁化コイル群10(磁化コイル1)(
図2参照)、2軸ステージ21(
図1参照)及び支持棒11(
図1参照)の図示を省略している。
第3実施形態に係る磁化装置100Bが備える磁化コイル群10も、第2実施形態と同様に3個の磁化コイル1(長尺材S3の長手方向(X方向)に沿って並べて配置され、長尺材S3の全長を挿通可能な互いに同一寸法の1回巻きの円形コイル)からなり、複数組設けられている。各磁化コイル1は電源(図示せず)と接続されており、電源から各磁化コイル1に対して同じ方向に流れる直流電流又は同期した交流電流が通電される。第3実施形態の駆動手段2が備えるコンピュータ22には、第2実施形態と同様に、2軸ステージ21を駆動するためのプログラムがインストールされている。さらに、第3実施形態のコンピュータ22には、検出手段3が具備する撮像手段31によって撮像した撮像画像に対して画像処理を施すためのプログラムもインストールされており、検出手段3としての機能も有する。
【0049】
図3及び
図4に示すように、第3実施形態に係る磁化装置100Bは、検出手段3を備える。
図3及び
図4に示す例では、検出手段3は、撮像手段31と、コンピュータ22とを備える。撮像手段31は、長尺材S3の一方の端部(具体的には、クランクシャフトの最も一方の端部側に位置するジャーナルSJ及びカウンタウェイトSC)を長尺材S3の長手方向から撮像可能な位置に設置されている。コンピュータ22は、撮像手段31によって撮像した撮像画像に対して所定の画像処理を施す。そして、検出手段3は、長尺材S3を磁化する際(例えば、長尺材S3が
図4(a)に示す位置にあるとき)の、基準位置(
図3(a)に示す長尺材S3の位置)に対する長尺材S3の長手方向(X方向)の位置ずれ量Δlと、基準位置に対する長尺材S3の長手方向周りのずれ角度Δθとを検出するように構成されている。以下、検出手段3による位置ずれ量Δl及びずれ角度Δθの検出方法の一例について説明する。
【0050】
長尺材S3(クランクシャフト)は、コンベア等の搬送手段によって、一対の受台4、5の設置位置まで搬送され、受台4、5に載置される。そして、
図3(a)に示すように長尺材S3が基準位置にあるときに撮像手段31によって撮像された
図3(b)に示す撮像画像が、コンピュータ22に入力される。コンピュータ22には、長尺材S3の設計仕様等に基づき、基準位置にある長尺材S3の各長手方向の位置での断面(長尺材S3の長手方向に直交するYZ平面内の断面)の形状(断面の大きさや断面中心の位置)が予め記憶されている。コンピュータ22は、例えば、この記憶された長尺材S3の各長手方向の位置での断面の形状のうち、カウンタウェイトSCの断面形状を抽出し、入力された撮像画像のうち、前記抽出したカウンタウェイトSCの断面形状の近傍に位置する画素領域に対してエッジ検出等の公知の画像処理を施して、カウンタウェイトSCの外縁を抽出し、この抽出した基準位置でのカウンタウェイトSCの外縁の座標を記憶する。
一方、
図4(a)に示すように長尺材S3が磁化される際に撮像手段31によって撮像された
図4(b)に示す撮像画像が、コンピュータ22に入力される。コンピュータ22は、長尺材S3が基準位置にある場合について前述したのと同様に、例えば、入力された撮像画像のうち、前記抽出したカウンタウェイトSCの断面形状の近傍に位置する画素領域に対してエッジ検出等の公知の画像処理を施して、カウンタウェイトSCの外縁を抽出する。そして、この抽出したカウンタウェイトSCの外縁の座標と、前述のように記憶した基準位置でのカウンタウェイトSCの外縁の座標とに基づき、
図4(b)に示すように、基準位置に対する長尺材S3の長手方向周りのずれ角度Δθを算出する。具体的には、コンピュータ22は、例えば、記憶した基準位置でのカウンタウェイトSCの外縁を回転移動させて、抽出したカウンタウェイトSCの外縁とマッチングさせる。そして、コンピュータ22が、最も高いマッチングスコアが得られたときの回転移動の回転角度をずれ角度Δθとして特定することが考えられる。
【0051】
また、コンピュータ22は、例えば、長尺材S3の設計仕様等に基づき予め記憶された長尺材S3の各長手方向の位置での断面の形状のうち、ジャーナルSJの断面形状を抽出し、
図3(b)に示す撮像画像のうち、前記抽出したジャーナルSJの断面形状の近傍に位置する画素領域に対してエッジ検出等の公知の画像処理を施して、ジャーナルSJの外縁を抽出し、この抽出した基準位置でのジャーナルSJの外縁の座標を記憶する。
一方、コンピュータ22は、長尺材S3が基準位置にある場合について前述したのと同様に、例えば、
図4(b)に示す撮像画像のうち、前記抽出したジャーナルSJの断面形状の近傍に位置する画素領域に対してエッジ検出等の公知の画像処理を施して、ジャーナルSJの外縁を抽出する。そして、この抽出したジャーナルSJの外縁の座標から求まるジャーナルSJの端面の大きさ(面積)と、前述のように記憶した基準位置でのジャーナルSJの外縁の座標から求まるジャーナルSJの端面の大きさ(面積)とに基づき、基準位置に対する長尺材S3の長手方向の位置ずれ量Δlを算出する。すなわち、磁化される際の長尺材S3が撮像手段3から遠ざかるように長手方向にその位置がずれれば、ジャーナルSJの端面の大きさは基準位置での大きさよりも小さくなり、撮像手段3に近づくように長手方向にその位置がずれれば、ジャーナルSJの端面の大きさは基準位置での大きさよりも大きくなることを利用して、位置ずれ量Δlを算出することができる。
【0052】
上記のようにして検出(算出)された位置ずれ量Δl及びずれ角度Δθは、コンピュータ22に記憶される。
一方、コンピュータ22には、長尺材S3が
図3(a)に示す基準位置にあるときに、磁化コイル群10の内部の互いに重複する領域が、磁化コイル群10が配置された位置での長尺材S3の部位の断面に近づくように決められた、磁化コイル群10を構成する各磁化コイル1の移動方向及び移動量が予め記憶されている。この具体的な内容については後述する。
そして、駆動手段2(2軸ステージ21及びコンピュータ22)は、コンピュータ22に記憶された各磁化コイル1の移動方向及び移動量と、検出手段3によって検出した長尺材S3の位置ずれ量Δl及びずれ角度Δθとに基づき、各磁化コイル1の実際の移動方向及び移動量を決定して、各磁化コイル1を移動させる。換言すれば、駆動手段2は、長尺材S3が基準位置にあるときに適切な各磁化コイル1の移動方向及び移動量(コンピュータ22に予め記憶された各磁化コイル1の移動方向及び移動量)を、検出手段3によって検出した長尺材S3の位置ずれ量Δl及びずれ角度Δθとに基づき補正して、実際に磁化する際の長尺材S3の位置(長尺材S3の長手方向の位置及び長手方向周りの角度)に応じた適切な各磁化コイル1の移動方向及び移動量を決定する。そして、駆動手段2が、決定した各磁化コイル1の実際の移動方向及び移動量に基づき、各磁化コイル1を移動させる。これにより、たとえ長尺材S3が想定している基準位置からずれたとしても、充填率を高めて、十分な磁化性能を得ることが可能である。
【0053】
長尺材S3が一対の受台4、5の設置位置まで搬送され、受台4、5に載置されてからの第3実施形態に係る磁化装置100Bの動作を纏めると、以下の(1)~(5)のようになる。
(1)検出手段3によって、長尺材S3の位置ずれ量Δl及びずれ角度Δθを検出する。
(2)固定クランプ6が降下し、長尺材S3の他方の端部側(
図4(a)の右側)に位置するジャーナルを固定クランプ6及び受台5の間で挟持(クランプ)する。
(3)受台5が退避(例えば、降下)し、固定クランプ6及び受台5によって、長尺材S3を片持ち支持する。
(4)磁化コイル群10を構成する各磁化コイル1の中心(中心軸)と、長尺材S3の中心(中心軸)とが合致した状態で、長尺材S3の一方の端部側(
図4(a)の左側)から磁化コイル群10に長尺材S3を挿通させる。
(5)駆動手段2が、予め記憶された各磁化コイル1の移動方向及び移動量(長尺材S3が基準位置にあるときに、磁化コイル群10の内部の互いに重複する領域が、磁化コイル群10が配置された位置での長尺材S3の部位の断面に近づくように決められた、磁化コイル群10を構成する各磁化コイル1の移動方向及び移動量)と、検出手段3によって検出した長尺材S3の位置ずれ量Δl及びずれ角度Δθとに基づき、各磁化コイル1の実際の移動方向及び移動量を決定して、決定した各磁化コイル1の実際の移動方向及び移動量に基づき、各磁化コイル1を移動させる。
【0054】
なお、第3実施形態では、長尺材S3が撮像手段3から遠ざかるように長手方向にその位置がずれれば、ジャーナルSJの端面の大きさは基準位置での大きさよりも小さくなり、撮像手段3に近づくように長手方向にその位置がずれれば、ジャーナルSJの端面の大きさは基準位置での大きさよりも大きくなることを利用して、検出手段3が位置ずれ量Δlを検出する場合を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限るものではない。位置ずれ量Δlをより高精度に検出する必要がある場合には、三角測量の原理を用いた方法で検出することも可能である。
【0055】
図5は、本発明の第3実施形態に係る磁化装置100Bが備える検出手段3の変形例の概略構成を模式的に示す図である。
図5(a)は、検出手段3の概略構成を示す平面図であり、長尺材S3が基準位置にある状態を示している。
図5(b)は、
図5(a)に示す検出手段3が具備する撮像手段31によって撮像した撮像画像のうちジャーナルSJに相当する画素領域の一例を示す。
図5(c)は、検出手段3の概略構成を示す平面図であり、長尺材S3が基準位置からずれた状態を示している。
図5(d)は、
図5(c)に示す検出手段3が具備する撮像手段31によって撮像した撮像画像のうちジャーナルSJに相当する画素領域の一例を示す。なお、
図5(d)に示す破線は、
図5(b)に示すレーザ光Lに相当する画素領域を図示したものであり、実際には撮像されない。
図5に示すように、変形例に係る検出手段3は、撮像手段31と、コンピュータ22(
図5には図示せず)とに加え、レーザ光源32を備える。レーザ光源32は、その光軸が撮像手段31の視軸に対して角度φだけ傾き、出射したレーザ光LがジャーナルSJの端面(好ましくは、基準位置にある長尺材S3のジャーナルSJの端面の中心)に照射されるように配置されている。
【0056】
変形例に係る検出手段3が備えるコンピュータ22には、
図5(a)に示すように長尺材S3が基準位置にあるときに撮像手段31によって撮像された
図5(b)に示すような画素領域を含む撮像画像が入力される。コンピュータ22は、入力された撮像画像に対して2値化等の公知の画像処理を施して、周囲よりも輝度値が大きくなるレーザ光Lに相当する画素領域を抽出し、この抽出したレーザ光Lに相当する画素領域の座標(中心座標)を算出して記憶する。
一方、
図5(c)に示すように長尺材S3が磁化される際に撮像手段31によって撮像された
図5(d)に示す撮像画像が、コンピュータ22に入力される。コンピュータ22は、入力された撮像画像に対して2値化等の公知の画像処理を施して、周囲よりも輝度値が大きくなるレーザ光Lに相当する画素領域を抽出し、この抽出したレーザ光Lに相当する画素領域の座標(中心座標)を算出する。そして、この抽出したレーザ光Lに相当する画素領域の座標と、前述のように記憶した基準位置でのレーザ光Lに相当する画素領域の座標との距離d(
図5(d)参照)を算出する。距離dが実寸(距離dに対応する画素数×画素分解能)だとすれば、
図5(c)に示すように、位置ずれ量Δlは、幾何学的に、Δl=d/tanφによって算出可能である。
【0057】
以下、コンピュータ22に予め記憶された、長尺材S3が
図3(a)に示す基準位置にあるときの磁化コイル群10を構成する各磁化コイル1の移動方向及び移動量について説明する。
図6は、磁化コイル群10が長尺材S3のカウンタウェイトSCに配置された場合における各磁化コイル1の移動方向及び移動量を説明する正面図である。
図6(a)に示すように、初期状態では、長尺材S3の中心(中心軸)と、各磁化コイル1の中心(中心軸)とが合致した状態になっている。ここで、磁化コイル1aを第1磁化コイル、磁化コイル1bを第2磁化コイル、磁化コイル1cを第3磁化コイルとする。また、カウンタウェイトSCの断面を四角形(
図6に示す例では台形)で近似して、四角形の4つの辺のうち、長い方から順に3つの辺を、第1辺SC1、第2辺SC2及び第3辺SC3とする(ただし、
図6に示す例では、SC1=SC2)。
【0058】
図6(a)に示す状態から、駆動手段2が、第1磁化コイル1aが第1辺SC1の両端に近接するように第1磁化コイル1aを移動させ、第2磁化コイル1bが第2辺SC2の両端に近接するように第2磁化コイル1bを移動させ、第3磁化コイル1cが第3辺SC3の両端に近接するように第3磁化コイル1cを移動させれば、磁化コイル群10の内部の互いに重複する領域を基準にした充填率を高めることが可能である。
各磁化コイル1a~1cがそれぞれ各辺SC1~SC3の両端に近接するように移動させる態様としては、
図6(b)に示すように、各磁化コイル1a~1cがそれぞれ各辺SC1~SC3の両端に接触するように移動させる態様や、
図6(c)に示すように、磁化コイル1a~1cの絶縁性を確保できるように、接触する位置から僅かな距離だけ離れた位置に移動させる態様が考えられる。
図6(c)に示す態様の場合は、
図6(b)に示す各磁化コイル1a~1cをそれぞれ各辺SC1~SC3の垂直二等分線の方向に沿って僅かな距離だけ離れた位置に移動させればよい。
【0059】
コンピュータ22には、磁化コイル群10が基準位置にある長尺材S3のカウンタウェイトSCに配置された場合において、
図6(a)に示す初期状態の各磁化コイル1を
図6(b)や
図6(c)に示す状態にするために必要となる各磁化コイル1の移動方向及び移動量が予め記憶されている。
なお、磁化コイル群10が長尺材S3のジャーナルSJ等の断面円形の部位に配置された場合には、第2実施形態と同様に、駆動手段2は、略120°の角度で分割された方向に各磁化コイル1を移動させることになるため、これに必要な各磁化コイル1の移動方向及び移動量が予め記憶されることになる。
【0060】
以上に説明した第1~第3実施形態では、磁化コイル1が1回巻きのコイルである場合を例に挙げて説明したが、磁化コイル1として複数回巻きのコイルを用いることも可能である。磁化コイル1が複数回巻きのコイルである場合、磁化コイル群10を構成する複数回巻きの磁化コイル1を、長尺材S1~S3の長手方向に沿って単純に並べて配置する(長尺材S1~S3の長手方向に沿って互いに重複する部分を有さないように配置する)ことも可能である。
しかしながら、好ましくは、磁化コイル群10を構成する磁化コイル1が、長尺材S1~S3、の長手方向に沿って互いに重複する部分を有するように配置される。具体的には、磁化コイル1の導線間に空隙を設けた構造とし、一方の磁化コイル1の導線間に他方の磁化コイル1の導線が位置するように各磁化コイル1が配置される。
【0061】
図7は、磁化コイル1が複数回巻きコイルの場合の磁化コイル群10の好ましい構成を模式的に示す図である。
図7(a)は、磁化コイル群10の一の状態及び他の状態を示す斜視図である。
図7(b)は、長尺材S1~S3の長手方向(X方向)から見た磁化コイル群10の一の状態を示す正面図である。
図7(c)は、長尺材S1~S3の長手方向から見た磁化コイル群10の他の状態を示す正面図である。なお、
図7では、長尺材S1~S3の図示を省略している。
図7に示すように、磁化コイル群10を構成する3個の磁化コイル1は、長尺材S1~S3の長手方向(X方向)に沿って互いに重複する部分を有する。
【0062】
図7(a)の右図及び
図7(c)に示す状態では、3個の磁化コイル1は、これらの中心が合致した状態の位置に移動している。これにより、磁化コイル群10の内部の互いに重複する領域12が最も大きくなり、長尺材S1~S3の断面の大きな部位を囲むことが可能である。
図7(a)の左図及び
図7(b)に示す状態では、3個の磁化コイル1は、磁化コイル群10の内部の互いに重複する領域12が小さくなるように移動している。これにより、長尺材S1~S3の断面の小さな部位における磁化コイル1の充填率を高めることが可能である。
図7に示す好ましい構成によれば、長尺材S1~S3の長手方向に沿って互いに重複する部分では、複数回巻きの磁化コイル1を長尺材S1~S3の長手方向に沿って単純に並べて配置する場合に比べて磁化コイル1の充填率が高まるため、磁化性能を十分に高めることが可能である。
【0063】
なお、第1実施形態では、磁化装置100を適用する長尺材S1として車軸を例に挙げたが、本発明はこれに限るものではなく、クランクシャフトに適用することも可能である。また、鋼管や棒鋼に適用することも可能である。また、第2実施形態及び第3実施形態では、磁化装置100A、100Bを適用する長尺材S2、S3としてクランクシャフトを例に挙げたが、本発明はこれに限るものではなく、車軸に適用することも可能である。また、鋼管や棒鋼に適用することも可能である。
【0064】
また、第1実施形態~第3実施形態では、磁化コイル1が円形コイルである場合を例に挙げたが、本発明はこれに限るものではなく、磁化コイル1として矩形コイルを用いることも可能である。
さらに、第1実施形態~第3実施形態では、磁化コイル群10が3個の磁化コイル1から構成される場合を例に挙げたが、本発明はこれに限るものではなく、磁化コイル群10を4個以上の磁化コイル1から構成することも可能である。また、磁化コイル群10を2個の磁化コイル1から構成することも可能である。
【0065】
以下、本発明において、磁化コイル群10の内部の互いに重複する領域を小さくする(磁化コイル群10が配置された位置での長尺材の部位の断面に近づくように、複数の磁化コイル1を移動させる)ことの効果を有限要素解析によるシミュレーションで評価した結果の一例について説明する。
【0066】
図8は、上記シミュレーションの条件及び結果を示す図である。
図8(a)は、シミュレーションに用いたモデルの概要を示す。
図8(b)は、
図8(a)に示すモデルを用いたシミュレーションによって算出した長尺材(棒鋼)の磁束密度を表すコンター図を示す。
図8(c)は、
図8(a)に示す磁化コイル1又は磁化コイル群10が配置された位置での長尺材の部位(長尺材の長手方向中心)の断面における磁束密度を表す。
図8(a)の左図に示すモデルを用いたシミュレーションによって算出した結果を
図8(b)及び
図8(c)の左図に示している。
図8(a)の中図に示すモデルを用いたシミュレーションによって算出した結果を
図8(b)及び
図8(c)の中図に示している。
図8(a)の右図に示すモデルを用いたシミュレーションによって算出した結果を
図8(b)及び
図8(c)の右図に示している。なお、
図8(b)及び(c)は、実際には、磁束密度の大きさに応じた色で色分け表示されている。
【0067】
図8(a)の左図に示すモデルは、磁化コイル1が、長さが72mmで外径が60mmで内径が40mmの1回巻きコイルであり、磁化コイル1に通電する電流が、1000Aである。起磁力は、1000A×1ターン=1000ATになる。
図8(a)の中図に示すモデルは、磁化コイル1が、長さが72mmで外径が100mmで内径が80mmの1回巻きコイルであり、磁化コイル1に通電する電流が、1000Aである。起磁力は、1000A×1ターン=1000ATになる。
図8(a)の右図に示すモデルは、各磁化コイル1が、長さが72mmで外径が100mmで内径が80mmの6回巻きコイルであり、各磁化コイル1に通電する電流が、55.56Aである。磁化コイル群10は3個の磁化コイル1から構成され、各磁化コイル1の中心を長尺材の中心から120°の角度で分割された方向にそれぞれ35mm偏心させて配置している。起磁力は、55.56A×18ターン=1000ATになる。長尺材の外径は、
図8(a)に示す何れのモデルの場合も20mmとした。
【0068】
上記のように、起磁力を同一にした条件でシミュレーションした結果、
図8(a)の左図に示すモデルの長尺材の長手方向中心の断面における磁束密度(
図8(c)の左図)が最も大きく、次に、
図8(a)の右図に示すモデルの長尺材の長手方向中心の断面における磁束密度(
図8(c)の右図)が大きく、
図8(a)の中図に示すモデルの長尺材の長手方向中心の断面における磁束密度(
図8(c)の中図)が最も小さかった。
したがい、同じ寸法(外径100mm)の磁化コイル1を用いる場合、
図8(a)~
図8(c)の右図に示す本発明のように、磁化コイル群10の内部の互いに重複する領域を小さくする(磁化コイル群10が配置された位置での長尺材の部位の断面に近づくように、複数の磁化コイル1を移動させる)ことで、充填率が高まり、磁束密度を大きくできることが分かる。
【符号の説明】
【0069】
1、1a、1b、1c・・・磁化コイル
10・・・磁化コイル群
11・・・支持棒
12・・・互いに重複する領域
2・・・駆動手段
21・・・2軸ステージ
22・・・コンピュータ
100、100A、100B・・・磁化装置
S1、S2、S3・・・長尺材
Sa、Sb・・・断面