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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-08
(45)【発行日】2023-11-16
(54)【発明の名称】塗料組成物及び塗装物品
(51)【国際特許分類】
   C09D 115/02 20060101AFI20231109BHJP
   C09D 7/65 20180101ALI20231109BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20231109BHJP
【FI】
C09D115/02
C09D7/65
C09D7/61
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021502171
(86)(22)【出願日】2020-02-21
(86)【国際出願番号】 JP2020006986
(87)【国際公開番号】W WO2020171196
(87)【国際公開日】2020-08-27
【審査請求日】2021-08-02
(31)【優先権主張番号】P 2019029423
(32)【優先日】2019-02-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】三瓶 大輔
(72)【発明者】
【氏名】城丸 智洋
(72)【発明者】
【氏名】中谷 安利
【審査官】川嶋 宏毅
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-109703(JP,A)
【文献】特開2002-012813(JP,A)
【文献】特開2001-181551(JP,A)
【文献】特表2008-504393(JP,A)
【文献】特開2000-109694(JP,A)
【文献】特開平10-324840(JP,A)
【文献】特開2007-146096(JP,A)
【文献】特開2005-344052(JP,A)
【文献】国際公開第2007/135956(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 7/61,7/65,
115/02,127/12
B32B 15/082,25/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素ゴム、加硫剤、固体潤滑剤、有機溶剤及び安定剤を含み、
前記固体潤滑剤は、固体潤滑剤(A)と、前記固体潤滑剤(A)とは異なる固体潤滑剤(B)とを含み、
前記加硫剤はポリオール加硫剤であり、
前記安定剤はオルトエステル類及び有機酸を含み、
前記固体潤滑剤(A)はフッ素樹脂であり、
前記固体潤滑剤(B)はグラファイト、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、フッ化黒鉛及び窒化ホウ素からなる群より選択される少なくとも1種であることを特徴とする塗料組成物。
【請求項2】
前記フッ素ゴムと前記固体潤滑剤との質量比(フッ素ゴム/固体潤滑剤)が20/80~80/20である請求項1記載の塗料組成物。
【請求項3】
前記固体潤滑剤(A)と前記固体潤滑剤(B)との質量比(固体潤滑剤(A)/固体潤滑剤(B))が50/50~90/10である請求項1又は2記載の塗料組成物。
【請求項4】
非粘着処理用塗料組成物である請求項1~のいずれかに記載の塗料組成物。
【請求項5】
エラストマー層の非粘着処理用塗料組成物である請求項1~のいずれかに記載の塗料組成物。
【請求項6】
金属板と、
前記金属板の片面又は両面に設けられたエラストマー層と、
前記エラストマー層の上に設けられた、請求項1~のいずれかに記載の塗料組成物から形成された塗膜と
を有することを特徴とする塗装物品。
【請求項7】
前記エラストマー層は、フッ素ゴム層である請求項記載の塗装物品。
【請求項8】
フッ素ゴムコートガスケット材料である請求項6又は7記載の塗装物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、塗料組成物及び塗装物品に関する。
【背景技術】
【0002】
ゴムコートの塗装物品は、表面がゴム層によって覆われているので、その製造又は保管工程においてゴム層同士が固着しやすい問題がある。そこでゴム層の固着を防止する目的で、非粘着層をゴム層上に設けた材料が提案されている。
【0003】
特許文献1には、フッ素ゴム層の上に、フッ素樹脂(固体潤滑剤)、フッ素ゴム、アミノ基含有シランカップリング剤及び水を含む非粘着処理用塗料組成物から形成される非粘着処理層を設けることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2007/135956号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、非粘着性及び耐引掻き傷性に優れる塗膜を与える塗料組成物、並びに、そのような塗膜を備える塗装物品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、フッ素ゴム、加硫剤、固体潤滑剤及び有機溶剤を含み、
上記固体潤滑剤は、固体潤滑剤(A)と、上記固体潤滑剤(A)とは異なる固体潤滑剤(B)とを含むことを特徴とする塗料組成物に関する。
【0007】
上記固体潤滑剤(A)はフッ素樹脂であることが好ましい。
【0008】
上記固体潤滑剤(B)はグラファイト、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、フッ化黒鉛及び窒化ホウ素からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0009】
上記フッ素ゴムと上記固体潤滑剤との質量比(フッ素ゴム/固体潤滑剤)が20/80~80/20であることが好ましい。
【0010】
上記固体潤滑剤(A)と上記固体潤滑剤(B)との質量比(固体潤滑剤(A)/固体潤滑剤(B))が50/50~90/10であることが好ましい。
【0011】
上記塗料組成物は、非粘着処理用塗料組成物であることが好ましい。
【0012】
上記塗料組成物は、エラストマー層の非粘着処理用塗料組成物であることが好ましい。
【0013】
本開示は、金属板と、
上記金属板の片面又は両面に設けられたエラストマー層と、
上記エラストマー層の上に設けられた、本開示の塗料組成物から形成された塗膜と
を有することを特徴とする塗装物品にも関する。
【0014】
上記エラストマー層は、フッ素ゴム層であることが好ましい。
【0015】
上記塗装物品は、フッ素ゴムコートガスケット材料であることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本開示によれば、非粘着性及び耐引掻き傷性に優れる塗膜を与える塗料組成物、並びに、そのような塗膜を備える塗装物品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本開示を具体的に説明する。
本開示は、フッ素ゴム、加硫剤、固体潤滑剤及び有機溶剤を含み、上記固体潤滑剤は、固体潤滑剤(A)と、上記固体潤滑剤(A)とは異なる固体潤滑剤(B)とを含むことを特徴とする塗料組成物に関する。
本開示の塗料組成物は、上記成分を含むので、非粘着性及び耐引掻き傷性に優れる塗膜を与えることができる。
上記非粘着性としては、例えば、本開示の塗料組成物から形成される塗膜の製造又は保管時における、当該塗膜同士の非粘着性や、本開示の塗料組成物から形成される塗膜の製造又は使用時における、当該塗膜の表面と接触する他の材料(プレス金型等)に対する非粘着性が挙げられる。
本開示の塗料組成物は、また、塗料安定性にも優れる。
【0018】
上記フッ素ゴムとしては、ビニリデンフルオライド[VdF]系フッ素ゴム、テトラフルオロエチレン[TFE]/プロピレン[Pr]系フッ素ゴム、TFE/Pr/VdF系フッ素ゴム、エチレン[Et]/ヘキサフルオロプロピレン[HFP]系フッ素ゴム、Et/HFP/VdF系フッ素ゴム、Et/HFP/TFE系フッ素ゴム、フルオロシリコーン系フッ素ゴム、フルオロホスファゼン系フッ素ゴム等が挙げられる。なかでもVdF系フッ素ゴムが好ましい。
上記フッ素ゴムは、1種又は2種以上を用いることができる。
【0019】
上記VdF系フッ素ゴムとしては、VdF/HFP共重合体、VdF/TFE/HFP共重合体、VdF/クロロトリフルオロエチレン[CTFE]共重合体、VdF/CTFE/TFE共重合体、VdF/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)[PAVE]共重合体、VdF/TFE/PAVE共重合体、VdF/HFP/PAVE共重合体、VdF/HFP/TFE/PAVE共重合体、VdF/TFE/Pr共重合体、VdF/Et/HFP共重合体、VdF/式(1)で表される含フッ素単量体の共重合体等が挙げられる。
式(1):
CH=CFRf (1)
(式中、Rfは炭素数1~12の直鎖状又は分岐状のフルオロアルキル基)
【0020】
上記加硫剤としては、例えば、アミン加硫剤、ポリオール加硫剤(ポリヒドロキシ芳香族化合物、パーオキサイド加硫剤等が挙げられるが、なかでもポリオール加硫剤が好ましい。
【0021】
上記ポリオール加硫剤としては、ポリオール加硫系フッ素ゴムに通常使用される加硫剤を用いることができる。上記ポリオール加硫剤としては、水酸基、特にフェノール性水酸基を分子内に少なくとも2個有する化合物であって、加硫性能を有するものが挙げられ、この化合物は、高分子化合物であってもよい。
【0022】
上記ポリオール加硫剤としては、なかでも、ビスフェノールA、ビスフェノールAF、ヒドロキノン等のフェノール誘導体及びそれらの塩;フェノール樹脂等のエノール型水酸基を分子内に2個以上有するポリヒドロキシ化合物及びそれらの塩;式:R (CHOH)(R はパーフルオロアルキルポリエーテル基を示す。)で表される化合物等が好ましい。
上記ポリオール加硫剤としては、上記以外にも、フッ素ゴム用ポリオール系加硫剤として市販されているものはいずれも使用することができる。
上記ポリオール加硫剤は、1種又は2種以上を用いることができる。
【0023】
本開示の塗料用組成物においては、加硫を促進させるために、加硫助剤を用いることもできる。上記加硫助剤としては、アルキル及びアラルキル第4級アンモニウム塩;第4級1,8-ジアザ-ビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセニウム塩等の第4級アンモニウム塩;3級アミン;4級ホスホニウム塩等が挙げられる。
【0024】
上記加硫剤及び上記加硫助剤の添加量は、使用するフッ素ゴムの種類や量に応じて適宜選択することができ、特に限定されない。また、上述したもののうち2種類以上を併用してもよい。
【0025】
本開示の塗料組成物は、上記固体潤滑剤として、固体潤滑剤(A)と、上記固体潤滑剤(A)とは異なる固体潤滑剤(B)とを含む。このように異なる固体潤滑剤を併用することにより、非粘着性だけでなく、耐引掻き傷性にも優れる塗膜が得られる。
【0026】
上記固体潤滑剤(固体潤滑剤(A)及び(B))としては、フッ素樹脂、グラファイト、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、フッ化黒鉛、窒化ホウ素等を挙げることができ、これらの2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0027】
上記固体潤滑剤(A)は、フッ素樹脂であることが好ましい。
【0028】
上記フッ素樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン〔PTFE〕、テトラフルオロエチレン〔TFE〕/ヘキサフルオロプロピレン〔HFP〕共重合体〔FEP〕、TFE/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)〔PAVE〕共重合体〔PFA〕、TFE/HFP/PAVE共重合体〔EPA〕、ポリクロロトリフルオロエチレン〔PCTFE〕、TFE/クロロトリフルオロエチレン〔CTFE〕共重合体、TFE/エチレン〔Et〕共重合体〔ETFE〕、ポリビニリデンフルオライド〔PVDF〕等が挙げられ、なかでも耐熱性、耐磨耗性等の点で、PTFEが好ましい。
【0029】
上記固体潤滑剤(B)は、グラファイト、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、フッ化黒鉛及び窒化ホウ素からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、グラファイト及び二硫化モリブデンからなる群より選択される少なくとも1種であることがより好ましく、グラファイトであることが更に好ましい。
【0030】
上記固体潤滑剤(A)と上記固体潤滑剤(B)との質量比(A/B)は、50/50~90/10であることが好ましく、55/45~85/15であることがより好ましく、60/40~80/20であることが更に好ましく、65/45~80/20であることが特に好ましい。
【0031】
上記固体潤滑剤は、塗膜中に安定に保持させる点で、平均粒径が0.1~10μmであることが好ましく、より好ましい下限が0.15μmであり、より好ましい上限が5μmである。
本明細書において、平均粒径は、堀場製作所製CAPA700(遠心沈降式粒度分布測定装置)にて測定した値である。
【0032】
上記フッ素ゴムと上記固体潤滑剤との質量比(フッ素ゴム/固体潤滑剤)は、20/80~80/20であることが好ましく、25/75~75/25であることがより好ましく、30/70~70/30であることが更に好ましい。
【0033】
上記有機溶剤は、特に限定されず、例えば、メチルエチルケトン〔MEK〕、メチルイソブチルケトン〔MIBK〕、ジイソブチルケトン〔DIBK〕、ジアセトンアルコール、シクロヘキサノン、イソホロン等のケトン類、酢酸ブチル、酢酸イソペンチル等のエステル類、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル類、トルエン、キシレン等の炭化水素類、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン等のアミド類を用いることができる。本開示の塗料組成物は、上記有機溶剤を1種のみ用いるものであってもよいし、2種以上の有機溶剤を用いるものであってもよい。上記有機溶剤の配合量は、上記塗料組成物に配合するフッ素ゴムの種類に応じて適宜調整することができる。
【0034】
本開示の塗料組成物は、上記有機溶剤を含むことから、溶剤系塗料とすることができる。このため、水を溶媒とする水系塗料のように、分散剤として界面活性剤を使用する必要がなく、当該界面活性剤が塗膜に残存することによる塗膜物性の低下を防止することができる。また、水系塗料と比較して、塗料安定性にも優れる。
【0035】
本開示の塗料組成物は、上述のフッ素ゴム、加硫剤、固体潤滑剤及び有機溶剤に加え、安定剤を含むものであってもよい。安定剤としては例えば、オルトギ酸エステル、オルト炭酸エステル、環状オルトエステル、ラクトンアセタール、オルトギ酸トリメチルエステル、オルトギ酸トリエチルエステル、オルト酢酸トリメチルエステル、オルト酢酸トリエチルエステル、オルト炭酸トリメチルエステル、オルト炭酸トリエチルエステル、オルト炭酸テトラメチルエステル、オルト炭酸テトラエチルエステル等のオルトエステル類;モノカルボン酸(蟻酸、酢酸、プロピオン酸等)、ジカルボン酸(シュウ酸、マロン酸、コハク酸等)等の有機酸等を用いることができる。本開示の塗料組成物は、上記安定剤を1種のみ用いるものであってもよいし、2種以上の安定剤を用いるものであってもよい。
【0036】
本開示の塗料組成物には、上記成分に加え各種添加剤、例えば充填材、着色剤、消泡剤、表面調整剤等を配合することができる。
上記充填材としては、カーボンブラック、ホワイトカーボン、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、タルク、珪酸カルシウム等が例示できる。なかでもカーボンブラックが好ましい。
上記着色剤としては、無機顔料、複合酸化物顔料等が例示できる。
上記消泡剤としてはシリコン系消泡剤、ポリマー系消泡剤等が例示できる。
上記表面調整剤としてはシロキサン化合物、アクリル系共重合物、メタクリル系共重合物等が例示できる。
【0037】
本開示の塗料組成物を塗布対象物に塗布し、乾燥することにより、塗膜を形成することができる。
【0038】
上記塗料組成物の塗布は、ハケ塗り、スプレーコーティング、浸漬塗布、フローコーティング、ディスペンサーコーティング、スクリーンコーティング等、公知の塗布方法により行うことができる。
【0039】
上記塗布・乾燥の後、必要に応じて硬化を行ってもよい。上記硬化は、一層ごとに行ってもよく、複数の層についてまとめて行ってもよい。また、上記硬化を、上記乾燥と同時に行ってもよい。
乾燥及び硬化の条件は、本開示の塗料組成物及び塗布対象物の種類等に応じて適宜設定することができる。
【0040】
本開示の塗料組成物は、非粘着性及び耐引掻き傷性に優れる塗膜を与えることから、非粘着処理用塗料組成物として好適に使用することができる。処理対象がエラストマー層である場合に、非粘着性及び耐引掻き傷性が一層顕著に発揮されることから、エラストマー層の非粘着処理用塗料組成物として特に好適に使用することができる。上記エラストマー層は、エラストマーを含む塗料組成物の塗膜であることが好ましい。
【0041】
上記エラストマー層に使用し得るエラストマーとしては、フッ素ゴム、ニトリルゴム、水素化ニトリルゴム、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、クロロプレンゴム(CR)、ブタジエンゴム(BR)、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、エチレン-α-オレフィンゴム、エチレン-α-オレフィン-非共役ジエンゴム、塩素化ポリオレフィンゴム、クロロスルホン化ポリオレフィンゴム、アクリルゴム、エチレン系アクリルゴム、エピクロルヒドリンゴム、シリコーンゴム、ブチルゴム(IIR)、エチレン-ビニルエステルゴム及びエチレン-メタクリレートゴム等が挙げられる。なかでも、フッ素ゴムが好ましい。
【0042】
上記フッ素ゴムとしては、ビニリデンフルオライド[VdF]系フッ素ゴム、テトラフルオロエチレン[TFE]/プロピレン[Pr]系フッ素ゴム、TFE/Pr/VdF系フッ素ゴム、エチレン[Et]/ヘキサフルオロプロピレン[HFP]系フッ素ゴム、Et/HFP/VdF系フッ素ゴム、Et/HFP/TFE系フッ素ゴム、フルオロシリコーン系フッ素ゴム、フルオロホスファゼン系フッ素ゴム等が挙げられる。なかでもVdF系フッ素ゴムが好ましい。
上記フッ素ゴムは、1種又は2種以上を用いることができる。
【0043】
上記VdF系フッ素ゴムとしては、VdF/HFP共重合体、VdF/TFE/HFP共重合体、VdF/クロロトリフルオロエチレン[CTFE]共重合体、VdF/CTFE/TFE共重合体、VdF/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)[PAVE]共重合体、VdF/TFE/PAVE共重合体、VdF/HFP/PAVE共重合体、VdF/HFP/TFE/PAVE共重合体、VdF/TFE/Pr共重合体、VdF/Et/HFP共重合体、VdF/式(1)で表される含フッ素単量体の共重合体等が挙げられる。
式(1):
CH=CFRf (1)
(式中、Rfは炭素数1~12の直鎖状又は分岐状のフルオロアルキル基)
【0044】
本開示は、金属板と、上記金属板の片面又は両面に設けられたエラストマー層と、上記エラストマー層の上に設けられた、上述の本開示の塗料組成物から形成された塗膜とを有することを特徴とする塗装物品にも関する。
本開示の塗装物品は、本開示の塗料組成物から形成された塗膜を有するので、非粘着性及び耐引掻き傷性に優れる。
【0045】
上記金属板としては、鉄;ステンレス;アルミニウム;銅;真鍮;チタン;亜鉛メッキ、アルミニウムメッキ等を施したメッキ鋼鈑等からなる板が挙げられる。なかでもステンレス板、アルミニウム板が好ましい。
【0046】
上記エラストマー層を構成するエラストマーとしては、上述の本開示の塗料組成物により処理することが可能なエラストマー層について例示したエラストマーを使用することができ、なかでもフッ素ゴムが好ましい。
【0047】
上記エラストマー層は、上記エラストマーを含む塗料組成物の塗膜であることが好ましい。
【0048】
上記エラストマー層は、厚みが5~50μmであることが好ましく、10~30μmであることがより好ましい。
【0049】
上記エラストマー層は、上記金属板の片面又は両面に設けられる。上記エラストマー層は、上記金属板の上に直接設けられてもよく、プライマー層等の他の層を介して設けられてもよい。
【0050】
上記本開示の塗料組成物から形成された塗膜は、上記エラストマー層の上に設けられる。上記塗膜は、上記エラストマー層の上に直接設けられてもよく、他の層を介して設けられてもよいが、非粘着性及び耐引掻き傷性が一層顕著に発揮される点で、上記エラストマー層の上に直接設けられることが好ましい。
【0051】
上記塗膜は、厚みが0.5μm以上10μm未満であることが好ましく、1~5μmであることがより好ましい。
【0052】
上記塗膜の上に、更に他の層を設けてもよいが、非粘着性及び耐引掻き傷性が一層顕著に発揮される点で、上記塗膜の上に他の層を設けないこと、すなわち上記塗膜が上記塗装物品の最表面であることが好ましい。
【0053】
本開示の塗装物品は、例えば、上記金属板上に上記エラストマーを含む塗料組成物を塗布し、乾燥して得られた塗膜の上に、本開示の塗料組成物を塗布し、乾燥することにより、製造することができる。
各層を形成する塗料組成物を塗布・乾燥した後、必要に応じて硬化を行ってもよい。上記硬化は、一層ごとに行ってもよく、複数の層についてまとめて行ってもよい。また、上記硬化を、上記乾燥と同時に行ってもよい。
乾燥及び硬化の条件は、本開示の塗料組成物及びエラストマー層の種類等に応じて適宜設定することができる。
【0054】
本開示の塗料組成物及び塗装物品は、非粘着性、耐引掻き傷性等が要求される分野において使用することができ、例えば、各種シート・ベルト類;O-リング、ダイヤフラム、バルブシール、化学プラント用ガスケット、エンジンガスケット等のシーリング材;耐薬品性チューブ、燃料ホース、継手等の薬液等流体輸送部材;複写機、プリンター、ファクシミリ等のOA機器用のロール(例えば、定着ロール、圧着ロール)又は搬送ベルト等に使用することができ、中でも、ガスケットに好適に使用することができる。本開示の塗装物品がフッ素ゴムコートガスケット材料であることは、好適な態様の1つである。
【実施例
【0055】
次に実施例を挙げて本開示を更に詳しく説明するが、本開示はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0056】
<非粘着処理用塗料組成物の調製>
実施例1
フッ素ゴムとしてビニリデンフルオライド/テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体(フッ素濃度:68質量%)からなるエラストマーの固形分100質量部に対し、グラファイト37.5質量部、フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン〔PTFE〕)112.5質量部及び受酸剤5質量部をオープンロールにて混練しコンパウンドとした。このコンパウンドを有機溶剤としてのメチルエチルケトン700質量部と混合し、コンパウンド溶液を得た。
一方、ポリオール系加硫剤2質量部と加硫助剤0.5質量部を、有機溶剤としてのメチルエチルケトン200質量部及びエタノール5質量部から構成される混合溶媒に溶解し、その中に安定剤として、オルト酢酸エステル系化合物2質量部及び有機酸2質量部を加えた。この溶液を、先に調製したコンパウンド溶液とディスパーで混合して非粘着処理用塗料組成物を得た。
【0057】
実施例2及び6
フッ素ゴム、フッ素樹脂及びグラファイトの配合量を表1に示すように変更し、かつカーボンブラックを配合したこと以外は実施例1と同様にして、非粘着処理用塗料組成物を得た。
【0058】
実施例3~5
フッ素ゴム、フッ素樹脂及びグラファイトの配合量を表1に示すように変更したこと以外は実施例1と同様にして、非粘着処理用塗料組成物を得た。
【0059】
実施例7~10
グラファイトを表1に示すように変更したこと以外は実施例1と同様にして、非粘着処理用塗料組成物を得た。
【0060】
比較例1
フッ素ゴム、フッ素樹脂及びグラファイトの配合量を表1に示すように変更したこと以外は実施例1と同様にして、非粘着処理用塗料組成物を得た。
【0061】
比較例2
フッ素ゴム(ビニリデンフルオライド/テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体)の水性ディスパージョン(フッ素ゴム含有量60質量%)100質量部、フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン〔PTFE〕)の水性ディスパージョン(フッ素樹脂含有量60質量%)100質量部、アミノ基含有シランカップリング剤6質量部、水3800質量部を混合し非粘着処理用塗料組成物を得た。
【0062】
<試験片(塗装物品)の作製>
予めアセトン洗浄しておいたアルミ板に、フッ素ゴム塗料(VdF/HFP共重合体のジイソブチルケトン溶液)をフローコーターにて塗装し、100℃で30分乾燥した後に、200℃で30分焼成して、ゴム層厚み25μmの塗装板を得た。
上記で得られた塗装板を実施例及び比較例で得られた非粘着処理用塗料組成物に、常温で浸漬塗装し、次いで80~100℃で5分間乾燥を行った後、200℃で5分間焼成し、厚み1μmの非粘着処理層をもつ試験片(塗装物品)を得た。
【0063】
以下の方法により各物性を評価した。結果を表1に示す。
<非粘着性試験(塗膜同士の非粘着性)>
上記試験片を2cm幅で切り出して2cm×3cmの塗膜面同士を重ね、荷重1kg、200℃の条件下で1時間保持した。上記条件で重ね合わせた状態の試験片について、室温下でJIS K6850の引張せん断接着強さ試験法に従い、万能試験機(島津製作所社製)を用いて引張強さを測定し、下記の基準で表面の粘着力を評価した。
○:引張強さ0MPa
△:引張強さ1.0×10-2MPa未満
×:引張強さ1.0×10-2MPa以上
【0064】
<型汚染性(塗膜とアルミ板との非粘着性)>
上記試験片を2cm幅で切り出し、別途用意したアルミ板(2cm幅)を2cm×3cmの塗膜面に重ね、荷重1kg、200℃の条件下で、1時間保持した。重ね合わせた試験片を剥がした後のアルミ板の汚染度を以下の基準で目視評価した。
○:汚染無し
△:わずかに汚染
×:全面に汚染
【0065】
<耐引掻き傷性>
HEIDON試験機を用いて、上記試験片の塗膜の傷発生荷重を測定し、以下の基準で評価した。
○:80g以上
△:60~70g
×:40~50g
【0066】
<塗料安定性>
実施例及び比較例で得られた非粘着処理用塗料組成物を25℃で24時間保管後に再分散し、100メッシュ金網でろ過し、ろ過残渣の濃度を測定し、以下の基準で評価した。
○:1質量%未満
△:2~4質量%
×:5質量%以上
【0067】
【表1】