(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-08
(45)【発行日】2023-11-16
(54)【発明の名称】ローター、ローターの設計方法およびローターの製造方法
(51)【国際特許分類】
H02K 1/276 20220101AFI20231109BHJP
H02K 15/03 20060101ALI20231109BHJP
H02K 15/02 20060101ALI20231109BHJP
【FI】
H02K1/276
H02K15/03 Z
H02K15/02 K
(21)【出願番号】P 2021551654
(86)(22)【出願日】2020-10-06
(86)【国際出願番号】 JP2020037796
(87)【国際公開番号】W WO2021070795
(87)【国際公開日】2021-04-15
【審査請求日】2022-01-13
(31)【優先権主張番号】P 2019185110
(32)【優先日】2019-10-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100217249
【氏名又は名称】堀田 耕一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221279
【氏名又は名称】山口 健吾
(74)【代理人】
【識別番号】100207686
【氏名又は名称】飯田 恭宏
(74)【代理人】
【識別番号】100224812
【氏名又は名称】井口 翔太
(72)【発明者】
【氏名】末永 真
(72)【発明者】
【氏名】有田 吉宏
(72)【発明者】
【氏名】大畑 喜史
(72)【発明者】
【氏名】荒牧 高志
(72)【発明者】
【氏名】山本 修治
【審査官】安池 一貴
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-094940(JP,A)
【文献】特開2002-369422(JP,A)
【文献】特開2014-220911(JP,A)
【文献】国際公開第2012/102030(WO,A1)
【文献】特開2019-161928(JP,A)
【文献】ELECTRICAL STEEL SHEETS 電磁鋼板,[online],新日鐵住金,2014年,21ページ,インターネット<URL:https://catalog.e-setsubi.net/iportal/CatalogDetail.do?method=catalogSearchByDefaultSettingCategories&volumeID=CATALABO&designID=HAT>,[検索日 2022.12.02]
【文献】今村 健夫,エポキシ樹脂,プラスチック・データブック,第1版,日本,株式会社 工業調査会 ,1999年12月01日,260-262ページ,ISBN: 4-7693-4128-8
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/276
H02K 15/03
H02K 15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車の走行用のモーターに組み込まれる磁石埋め込み式ローターであって、
互いに積層された鋼板、および積層方向に隣り合う前記鋼板を接着する接着層を有する積層コアと、
前記積層コアに埋め込まれた磁石と、を備え、
前記接着層は、積層方向に隣り合う前記鋼板を全面にわたり接着しており、
前記ローターが11000rpmで回転するときに、前記ローターの径方向へ向けた前記積層コアの外縁の最大変位量が0.1mm以下であり、
前記鋼板の降伏応力をYP
R(MPa)とし、前記接着層の降伏応力をYP
B(MPa)とし、前記自動車の走行時における最大回転数をω(rpm)としたとき、
下記(1)式を満たし、
【数1】
ここで、A=0.105、B=17000、C=17000、D=410、E=30
下記(2)式を更に満たすローター。
0.1×YP
R≦YP
B≦10×YP
R ・・・ (2)
【請求項2】
前記接着層の厚みが1~10μmである、請求項1に記載のローター。
【請求項3】
前記鋼板の降伏応力YP
Rが、150MPa以上580MPa以下である、請求項1
または2に記載のローター。
【請求項4】
前記磁石は、前記積層コアを前記積層方向に貫通する貫通孔内に配置され、
前記貫通孔内には、前記磁石の外面と前記貫通孔の内面との間を封止する封止樹脂が設けられている請求項1または2に記載のローター。
【請求項5】
前記磁石は、前記積層コアを前記積層方向に貫通する貫通孔内に配置され、
前記貫通孔内には、前記磁石の外面と前記貫通孔の内面との間を封止する封止樹脂が設けられている請求項3に記載のローター。
【請求項6】
自動車の走行用のモーターに組み込まれる磁石埋め込み式ローターの設計方法であって、
前記ローターは、
互いに積層された鋼板、および積層方向に隣り合う前記鋼板を接着する接着層を有する積層コアと、
前記積層コアに埋め込まれた磁石と、を備え、
前記設計方法では、前記自動車の走行時における最大回転数で前記ローターが回転するときに、前記ローターの径方向へ向けた前記積層コアの外縁の最大変位量が0.1mm以下となるように、前記鋼板の降伏応力および前記接着層の降伏応力を設定し、
前記鋼板の降伏応力をYP
R(MPa)とし、前記接着層の降伏応力をYP
B(MPa)とし、前記最大回転数をω(rpm)としたとき、
下記(1)式を満たすように前記鋼板の降伏応力YP
Rおよび前記接着層の降伏応力YP
Bを設定し、
【数2】
ここで、A=0.105、B=17000、C=17000、D=410、E=30
下記(2)式を更に満たすように前記鋼板の降伏応力YP
Rおよび前記接着層の降伏応力YP
Bを設定するローターの設計方法。
0.1×YP
R≦YP
B≦10×YP
R ・・・ (2)
【請求項7】
請求項
6に記載のローターの設計方法を用いるローターの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ローター、ローターの設計方法およびローターの製造方法に関する。本願は、2019年10月8日に、日本に出願された特願2019-185110号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
ローターは、モーターに回転体として用いられるコアである。ローターは、これまで主にかしめ構造により製造されている。しかしながら、近年、電磁鋼板の薄手化、生産効率の向上を目的として、(1)接着構造、(2)かしめと接着の組合せ構造での製造法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ハイブリッド自動車、電気自動車の出現により、モーターのローターは14000rpm以上の高回転が求められている。自動車に用いられるモーターはIPMモーターが主流である。IPMモーターでは、ローターに磁石が埋め込まれている。モーター効率の観点から、最外周により近い位置への磁石の設置が求められている。そのため、磁石の外側のブリッジと呼ばれる鋼板幅の狭い箇所へ応力が集中し、ブリッジが膨張しようとしてローターが変形する。ローターの変形は、すなわちステーターとの狭隘なる隙間を保持することが不可能となることを意味し、モーターの破損に至る。
【0005】
本発明は、高速回転時における破損が抑制されたローターを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、本発明は以下の手段を提案している。
本発明に係るローターは、自動車の走行用のモーターに組み込まれる磁石埋め込み式ローターであって、互いに積層された鋼板、および積層方向に隣り合う前記鋼板を接着する接着層を有する積層コアと、前記積層コアに埋め込まれた磁石と、を備え、
前記接着層は、積層方向に隣り合う前記鋼板を全面にわたり接着しており、前記ローターが11000rpmで回転するときに、前記ローターの径方向へ向けた前記積層コアの外縁の最大変位量が0.1mm以下であり、前記鋼板の降伏応力をYP
R(MPa)とし、前記接着層の降伏応力をYP
B(MPa)とし、前記自動車の走行時における最大回転数をω(rpm)としたとき、下記(1)式を満たし、
【数1】
ここで、A=0.105、B=17000、C=17000、D=410、E=30
下記(2)式を更に満たす。
0.1×YP
R≦YP
B≦10×YP
R ・・・ (2)
【0007】
11000rpmでローターが回転するときに、ローターの径方向へ向けた積層コアの外縁の最大変位量が0.1mm以下である。したがって、自動車の走行時における最大回転数(例えば、11000rpmを超えるような回転数)でローターが回転したときであっても、ローターの外形の変形を抑え、例えば、ローターがステーターに接触すること等を防止することができる。これにより、モーターの破損を抑制することができる。
なお、積層コアの外縁の径方向への最大変位量は、例えば、以下の(1)(2)の方法により求められる。
(1)積層コアの外縁において、ローターの周方向に沿った位置ごとに、回転前後における径方向の位置の変化量を求め、その変化量に回転中の弾性変形分を加えた値のうちの最大値を前記最大変位量とする。
(2)積層コアの外縁において、回転前後で最も変位する部分が事前にわかっている場合(例えば、理論上明らかであったり、シミュレーションや経験則により把握されていたりする場合)、その部分について、回転前後における径方向の位置の変化量を求め、その変化量に回転中の弾性変形分を加えた値を前記最大変位量とする。
【0008】
前記接着層の厚みが1~10μmであってもよい。
前記鋼板の降伏応力YPRが、150MPa以上580MPa以下であってもよい。
【0011】
前記磁石は、前記積層コアを前記積層方向に貫通する貫通孔内に配置され、前記貫通孔内には、前記磁石の外面と前記貫通孔の内面との間を封止する封止樹脂が設けられていてもよい。
【0012】
本発明に係るローターの設計方法は、自動車の走行用のモーターに組み込まれる磁石埋め込み式ローターの設計方法であって、前記ローターは、互いに積層された鋼板、および積層方向に隣り合う前記鋼板を接着する接着層を有する積層コアと、前記積層コアに埋め込まれた磁石と、を備え、前記設計方法では、前記自動車の走行時における最大回転数で前記ローターが回転するときに、前記ローターの径方向へ向けた前記積層コアの外縁の最大変位量が0.1mm以下となるように、前記鋼板の降伏応力および前記接着層の降伏応力を設定
し、前記鋼板の降伏応力をYP
R
(MPa)とし、前記接着層の降伏応力をYP
B
(MPa)とし、前記最大回転数をω(rpm)としたとき、下記(1)式を満たすように前記鋼板の降伏応力YP
R
および前記接着層の降伏応力YP
B
を設定し、
【数2】
ここで、A=0.105、B=17000、C=17000、D=410、E=30
下記(2)式を更に満たすように前記鋼板の降伏応力YP
R
および前記接着層の降伏応力YP
B
を設定する。
0.1×YP
R
≦YP
B
≦10×YP
R
・・・ (2)
【0013】
この設計方法により設計されたローターによれば、自動車の走行時における最大回転数でローターが回転するときに、ローターの径方向へ向けた積層コアの外縁の最大変位量が0.1mm以下である。よって、自動車の走行時における最大回転数でローターが回転したときであっても、ローターの外形の変形を抑え、例えば、ローターがステーターに接触すること等を防止することができる。これにより、モーターの破損を抑制することができる。
【0014】
ところで、これまで接着層については、接着強度(引張、圧縮、せん断、90度剥離などの状況下での鋼板との密着力)による評価が重用されてきた。このような背景もあり、接着層の降伏応力に基づいて鋼板の変形を規制するという技術的思想は存在していなかった。鋼板の変形を規制するためには、実質的に、高強度の鋼板を使用して対応するしかなかった。その結果、ローターが高コストとなり、ローターの製造が困難になっていた。特に、鋼板として電磁鋼板を採用した場合には、基本的な特性(低鉄損、高磁束密度)に加えて高強度の要求を満たす必要がある。そのため、成分設計が困難になるばかりか、圧延や焼鈍などの各プロセスにおいても製造条件が制約されて製造が困難になる。
そこでこの設計方法では、自動車の走行時における最大回転数でローターが回転するときに、鋼板の変形が規制されるように、(1)鋼板の降伏応力、(2)接着層の降伏応力を設定する。すなわち、鋼板の降伏応力だけでなく、接着層の降伏応力も考慮する。これにより、鋼板の降伏応力がある程度、低い場合であっても、接着層の降伏応力を高めることで、鋼板の変形を規制することができる。これは、接着層が、鋼板が担っていた変形を抑制する機能を一部担保することで鋼板の変形を抑制できるためである。
ミーゼス応力・特に厚み方向に発生する力が大きくなり、鋼板の板厚が減少することにより、鋼板は変形する。本発明者らが鋭意検討した結果、鋼板の板厚減少を抑制するためには、降伏応力が高い接着層を用いることが有効であることが分かった。接着層に降伏応力の高いものを用いることで、塑性域における鋼板の変形を抑制できる。これにより、鋼板の最小変形量は弾性域での変形量となり、使用限界となる鋼板の変形の上限を抑制できる。
通常、鋼板の強度は、高くなれば高くなるほど供給サプライヤーは限定され、コストも高くなる。一方、接着剤の強度はコストと概ね正相関があり、さらに接着剤には強度が高くなればなるほど高い硬化温度を求められる等、製造設備による制約もある。
この設計方法では、前述のように鋼板の降伏応力だけでなく接着層の降伏応力を考慮することで、コストのみならず地域性、市場性に応じた最適な鋼板および接着剤の組合せを選定することができる。したがって、品質面のみならず製造面での要求を満たすローターを製造することが可能である。つまり、本願発明を用いれば、先述した製造が難しく、供給サプライヤーが限定され、高コストとなる高強度鋼板を用いることなく、かつ、ロータの微細な部分に特殊な鋼板硬化処理や熱処理等の鋼板を強化する工程を増加させることなく、鋼板の変形を抑制できる。
【0017】
本発明に係るローターの製造方法は、前記ローターの設計方法を用いる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、高速回転時における破損が抑制されたローターを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の一実施形態に係るローターの一部を示す平面図である。
【
図4】ローターの回転数と積層コアの外縁の変位量との関係を示すグラフである。
【
図5】ローターの回転数が14000rpmの場合における、鋼板のミーゼス応力分布の解析結果を示す平面図である。
【
図6】ローターの回転数が14000rpmの場合における、鋼板のミーゼス応力分布の解析結果を示す斜視図である。
【
図7】ローターの回転数が15000rpmの場合における、鋼板のミーゼス応力分布の解析結果を示す平面図である。
【
図8】ローターの回転数が15000rpmの場合における、鋼板のミーゼス応力分布の解析結果を示す斜視図である。
【
図9】ローターの回転数が16000rpmの場合における、鋼板のミーゼス応力分布の解析結果を示す平面図である。
【
図10】ローターの回転数が16000rpmの場合における、鋼板のミーゼス応力分布の解析結果を示す斜視図である。
【
図11】積層コアの外縁の変位について説明するための図であって、ローターが回転していない状態における積層コアの外縁を含む断面図である。
【
図12】積層コアの外縁の変位について説明するための図であって、ローターが高速回転している状態における積層コアの外縁を含む断面図である。
【
図13】ローターの回転数と接着層に生じる応力の大きさとの関係を示すグラフである。
【
図14】所定の回転数に耐えうる鋼板の強度と接着層の強度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、
図1から
図14を参照し、本発明の一実施形態に係るモーター用のローターを説明する。
【0021】
<構成>
図1から
図3に示すように、ローター10は、自動車(例えば、ハイブリッド自動車や電気自動車)の走行用のモーターに組み込まれる。モーターは、インナーローター型のIPMモーター(埋込磁石30型モーター)である。ローター10は、磁石埋め込み式である。なお、モーターの最大回転数は、自動車に求められる性能特性に応じて決定され、最高速度、加速性あるいはモーターの小型化を重要視される場合には、高くなる傾向にある。前記最大回転数は、例えば、11000rpm以上で、より具体的には12000rpm以上20000rpm以下である。
【0022】
以下では、ローター10の軸方向(ローター10の中心軸線O方向)を軸方向といい、ローター10の径方向(ローター10の中心軸線Oに直交する方向)を径方向といい、ローター10の周方向(ローター10の中心軸線O周りに周回する方向)を周方向という。
【0023】
ローター10は、積層コア20と、磁石30と、封止樹脂40と、を備えている。
積層コア20は、互いに積層された鋼板21と、積層方向Zに隣り合う鋼板21を接着する接着層22と、を備えている。なお積層方向Zは、軸方向と一致している。また本実施形態では、積層方向Zに隣り合う鋼板21は、接着層22とは異なる手段(例えばかしめ)などによっては固定されていない。これらの鋼板21は、接着層22によってのみ固定されている。
【0024】
鋼板21は、電磁鋼板である。鋼板21は、例えば、電磁鋼板を打ち抜き加工すること等により形成される。電磁鋼板としては、公知の電磁鋼板を用いることができる。電磁鋼板の化学組成は特に限定されない。本実施形態では、電磁鋼板として、無方向性電磁鋼板を採用している。無方向性電磁鋼板としては、例えば、JISC2552:2014の無方向性電鋼帯を採用することができる。
【0025】
接着層22は、積層方向Zに隣り合う鋼板21の間で硬化した接着剤である。接着剤には、例えば重合結合による熱硬化型の接着剤などが用いられる。接着剤の組成物としては、(1)アクリル系樹脂、(2)エポキシ系樹脂、(3)アクリル系樹脂およびエポキシ系樹脂を含んだ組成物などが適用可能である。なお、80MPaを超過する接着層22の強度(降伏応力)が必要な場合は、接着剤として、スーパーエンプラ(スーパーエンジニアリングプラスチック)と呼ばれる樹脂を使用しても良い。
【0026】
接着層22は、鋼板21のうち、少なくともブリッジ23を含む部分を接着している。ブリッジ23は、鋼板21のうち磁石30よりも径方向の外側に位置する部分である。図示の例では、接着層22は、積層方向Zに隣り合う鋼板21を全面にわたって接着している。なお、接着層22の厚みが1μm未満の場合、接着不良となり、10μm超の場合、モーター効率を低下させるため、接着層22の厚みは1~10μmであることが好ましい。
【0027】
磁石30は、永久磁石である。磁石30は、積層コア20に埋め込まれている。本実施形態では、2つ1組の磁石30が1つの磁極を形成している。複数組の磁石30は、周方向に同等の間隔をあけて(図示の例では45°おきに)配置されている。同一の磁極を形成する2つの磁石30は、径方向に延びる仮想線Lを基準として、周方向に線対称に形成されている。
【0028】
積層コア20には、貫通孔24が形成されている。貫通孔24は、積層コア20を積層方向Zに貫通している。貫通孔24は、磁石30に対応して設けられている。各磁石30は、対応する貫通孔24内に配置された状態で積層コア20に固定されている。各磁石30は、磁石30の外面と貫通孔24の内面との間に設けられた接着剤により、積層コア20に固定されている。なおこの接着剤は、接着層22を形成する接着剤と同種であってもよい。
【0029】
本実施形態では、各貫通孔24内には、磁石30が配置されていない隙間25、26が設けられている。隙間25、26は、磁石30に対する周方向の両側に1つずつ設けられている。隙間25、26として、第1隙間25と、第2隙間26と、が設けられている。第1隙間25は、磁石30に対して、周方向に沿って仮想線L側に位置している。第2隙間26は、磁石30に対して、周方向に沿って仮想線Lの反対側に位置している。
【0030】
封止樹脂40は、貫通孔24内に配置されている。封止樹脂40は、磁石30の外面と貫通孔24の内面との間を封止している。封止樹脂40は、例えば、接着層22を形成する接着剤と同じ接着剤を採用すること等ができる。封止樹脂40としては、(1)アクリル系樹脂、(2)エポキシ系樹脂、(3)アクリル系樹脂およびエポキシ系樹脂を含んだ組成物などが適用可能である。接着層22の接着剤と封止樹脂40の接着剤は同じでもよいし、異なっていてもよい。封止樹脂40は、第2隙間26を封止している。これにより、同一の磁極を形成する2つの磁石30は、2つの封止樹脂40によって周方向に挟まれている。封止樹脂40の降伏応力は、10MPa以上200MPa以下であることが好ましい。封止樹脂40の降伏応力がこの範囲であれば、接着層22に生じる応力を低減することができる。
【0031】
このローター10の各種寸法は、例えば以下に示す寸法が好ましい。
(1)ローター10(積層コア20、鋼板21)の直径:50mm以上200mm以下
(2)鋼板21の厚さT1:0.1mm以上2.0mm以下
(3)接着層22の厚さT2:2μm以上4μm以下
(4)積層コア20の積厚:30mm以上300mm以下
【0032】
そして本実施形態では、ローター10が11000rpmで30秒以上回転するときに、積層コア20の外縁20aの径方向への最大変位量が0.1mm以下である。図示の例では、14000rpm以下の回転数でローター10が回転するときに、前記最大変位量が0.1mm以下である。
【0033】
なお、積層コア20の外縁20aの径方向への最大変位量は、例えば、以下の(1)(2)の方法により求められる。
(1)積層コア20の外縁20aにおいて、ローター10の周方向に沿った位置ごと(例えば、11.25°ごと、または15°ごと)に、回転前または後における径方向の位置の変化量(
図12に示す寸法D)を求め、その変化量(以下、外形変位量ともいう)に回転中の弾性変形分を加えた値のうちの最大値を前記最大変位量とする。変位量の測定は例えば、レーザー変位計を用いて測定することができる。
(2)積層コア20の外縁20aにおいて、回転前後で最も変位する部分が事前にわかっている場合(例えば、理論上明らかであったり、シミュレーションや経験則により把握されていたりする場合)、その部分について、回転前後における径方向の位置の変化量を求め、その変化量を前記最大変位量とする。
【0034】
さらに本実施形態では、鋼板21の降伏応力(降伏点、強度)をYPR(MPa)とし、接着層22の降伏応力(降伏点、強度)をYPB(MPa)とし、自動車の走行時における最大回転数をω(rpm)としたとき、YPRおよびYPBの各値は、下記(1)式および下記(2)式を満たす。
【0035】
【数3】
ここで、A=0.105、B=17000、C=17000、D=410、E=30
【0036】
0.1×YPR≦YPB≦10×YPR ・・・ (2)
【0037】
YPRおよびYPBの各値が上記(1)式を満たすことで、ローター10が最大回転数で回転したときに、鋼板21のブリッジ23が弾性域内で変形して塑性変形することが規制される。言い換えると、ブリッジ23が弾性変形して塑性変形していない。また、ローター10が11000rpmで回転するときには、積層コア20の外縁20aの径方向への最大変位量が0.1mm以下となる。尚、ローター10が11000rpmで回転するとき、ブリッジ23は弾性域内で変形するため、少なくとも、積層コア20の外縁20aの径方向へ0.020μm程度の変形は生じる。積層コア20の外縁20aの径方向への最大変位量は、30μm以上であってもよい。
【0038】
YPRおよびYPBの各値が上記(2)式を満たすことで、接着層22の降伏応力YPBを最適な範囲に収めることができる。すなわち、接着層22の降伏応力YPBが鋼板21の降伏応力YPRの0.1倍未満の場合、接着層22の降伏応力YPBが低すぎて低回転で変形するおそれがある。接着層22の降伏応力YPBが鋼板21の降伏応力YPRの10倍超の場合、接着層22の降伏応力YPBが高すぎて効果が飽和し、かつ、経済性が成立しない。
【0039】
なお、鋼板21の降伏応力YPRは、150MPa以上580MPa以下であることが好ましい。接着層22の降伏応力YPBは、10MPa以上200MPa以下であることが好ましい。
【0040】
鋼板21の降伏応力YPRの測定方法の一例としては、以下に示す方法が挙げられる。
すなわち、積層コア20に用いられる鋼板21から、所定の形状(例えば、35mm×250mmの矩形状)の試験片に切り出す。その後、この試験片を用いて、JIS Z 2241:2011に準拠する引張試験を実施する。なお、積層コア20から鋼板21の試験片を切り出して降伏応力を測定する場合は、例えば、硬度測定の結果を基に引張強度に変換する方法がある。具体的には、鋼板21の硬度を測定し、得られた硬度を基に硬さ換算表(JISハンドブック)を用いて、硬度を引張強度に換算する。鋼材の一般的な降伏比が0.73(0.69~0.75)であることから、換算後の引張強度から鋼板21の降伏応力を算出することができる。
【0041】
接着層22の降伏応力YPBの測定方法の一例としては、以下に示す方法が挙げられる。
すなわち、積層コア20に用いられる接着層22から、所定の形状(例えば、10mm×110mmの矩形状)の試験片に切り出す。その後、この試験片を用いて、JIS K 7161-1(2014)に準拠する引張試験を実施する。
【0042】
なお鋼板21や接着層22について、使用している材料がわかっている場合、ローター10から試験片を作成するのではなく、その材料を用いて独自に試験片を作成することも可能である。このような場合における接着層22の降伏応力の測定方法の一例として、接着剤を短冊状に固めて接着層22の試料片を作成し、それを引張試験する方法が勧められる。充填率が悪い接着剤の場合は、裏面に薄い濾紙を貼り付けて試料片を作成しても良い。試験片の形状はJIS K 7161-2:2014に準拠する形状を採用しても良い。なお、積層コア20から接着層22を取り出す場合は、約30質量%塩酸水溶液を作製し、その塩酸水溶液中に積層コア20を浸漬して、鋼板21を溶解させることで、接着層22を得てもよい。浸漬時間は、鋼板21の量・サイズに応じて適宜調整することができる。また、特に積層コア20が大きい場合は、溶解反応を促進するために、途中で塩酸水溶液を交換してもよい。鋼板21がすべて溶解した後は、接着層22を取り出し洗浄する。洗浄後、JIS K 7161-2:2014に準拠した試験片に加工し、接着層22の降伏応力を評価する。赤外線分光法(FT-IR)などを用いて接着層22の組成を分析し、その分析結果を用いて同じ材料で試験片を作成してもよい。
【0043】
<ローター10の回転数と外形変位量の関係>
ローター10の回転数と外形変位量の関係について確認するために、モーターを準備した。このモーターには、直径162mmのローター10を組み込んだ。このローター10は、降伏応力YPRが400MPa、板厚0.25mmの鋼板21と、降伏応力YPBが12MPa、厚み2.5μmの接着層22と、を積層した積層コア20を有する。なお以下に示す各試験においても、同サイズのローター10を前提とする。
【0044】
このモーターにおいて、ローター10の回転数を0rpmから17000rpmまで変化させ、ローター10の外形変位量を測定した。この外形変位量は、積層コア20の外縁20aのうち、
図1に示すような特定の測定点Pについての外形変位量である。測定点Pは、ローター10の外縁20aのうち、前記仮想線Lと交差する位置(ブリッジ23の一部)である。
【0045】
結果を
図4に示す。
図4の横軸は、ローター10の回転数を示す。
図4の縦軸は、測定点における外形変位量を示す。
図4に示すように、ローター10の回転数の増加に伴い、ローター10の径方向の遠心力が増加して、ローター10の外形変位量が増加する。そして、特定の回転数(14000rpm)を超えると、急激にローター10の外形変位量が増加する。
【0046】
<応力分布の解析>
ここで、外形変位量の急増の要因について検討するため、本願発明者は、高速回転時のブリッジ23に生じる応力をFEM解析により定量化した。
鋼板21のブリッジ23におけるミーゼス応力分布の解析結果を、
図5から
図10に示す。
図5および
図6は、ローター10の回転数が14000rpmの場合を示している。
図7および
図8は、ローター10の回転数が15000rpmの場合を示している。
図9および
図10は、ローター10の回転数が16000rpmの場合を示している。
【0047】
図5から
図10において、ハッチの濃淡がミーゼス応力の大小を表している(なお、磁石30および封止樹脂40にもハッチを付しているが、磁石30および封止樹脂40におけるミーゼス応力は、コンター表示の下限より小さい)。ミーゼス応力とは、物体の内部に生じる応力状態を単一の値で示すために用いられる相当応力をいう。
例えば、
図5および
図6では、鋼板21上に薄いハッチと濃いハッチとの2種類のハッチが示されている。これらの図において、薄いハッチは、ミーゼス応力が380MPa未満であることを意味している。濃いハッチは、ミーゼス応力が380MPa~430MPaであることを意味している。なおこのローター10において、鋼板21の降伏応力YP
Rは356MPaとしており、濃いハッチの領域では鋼板21が確実に塑性変形していると考えられる。
【0048】
図5および
図6の解析結果(14000rpm)と、
図7および
図8の解析結果(15000rpm)と、
図9および
図10の解析結果(16000rpm)と、を比較すると、回転数が高くなるに従って、ハッチが濃い領域、すなわち、ミーゼス応力が大きく、塑性変形している領域が急増していることがわかる。
【0049】
上記解析結果より、このローター10では、14000rpmを超えた回転数で回転すると、ブリッジ23に塑性変形が生じていることが確認された。この結果が、
図4に示すような、14000rpmを超えた回転数で回転したときの外形変位量の急増につながっていると考えられる。
【0050】
<応力増加の要因分析>
前述のような応力の増加の要因について検討するために、ローター10の回転前後における鋼板21の形状について考察する。
図11に示すように、ローター10が回転していないときには、遠心力が作用しておらず、鋼板21は延伸していない。
一方、
図12に示すように、ローター10が高速回転するときには、ローター10の径方向の遠心力が増加するため、鋼板21がローター10の径方向に延伸する(
図12中の破線)。このように鋼板21が延伸すると、鋼板21の外周部分の板厚が減少する。その結果、応力集中が引き起こされ、前述のようなミーゼス応力の急増が発生していると考えられる。
【0051】
以上から、ローター10の回転数を高めたときに、積層された鋼板21の径方向の延伸を抑制することで、ローター10の外形変位量を低減することができると考えられる。
そして本願発明者は、その方策として、接着層22によって鋼板21の延伸を抑制する方策が考えられる。
【0052】
接着層22に使用する接着剤の強度は、通常、接着する対象物が剥離する場合の強度(密着力、剥離強度)を示すが、本実施形態においては、接着層22に積層方向Zの引張応力が発生するものの、せん断力が極小であるため、密着力よりも、接着層22そのものの強度(引張強度)、すなわち、接着層22の内部変形を抑制する降伏応力YPBが重要となる。
接着層22の内部変形を抑制する降伏応力YPBが高いほど、積層された鋼板21の延伸を抑制する効果が大きくなる。すなわち、ローター10の径方向に引張応力が生じたときに、接着層22が鋼板21の変形を抑制する。これにより、ローター10の回転数が高くなっても、ローター10の外形変位量を低減することが可能となる。
【0053】
図13は、ローター10の回転数と、接着層22に生じる積層方向Zの応力と、の関係を示したグラフである。
図13の横軸は、ローター10の回転数を示す。
図13の縦軸は、接着層22に生じる応力を示す。
図13に示すグラフ線のうち、実線は封止樹脂40がない場合を示し、破線は封止樹脂40(降伏応力:12MPa)がある場合を示している。
【0054】
図13に示すように、ローター10の回転数の増加に伴い、接着層22に生じる積層方向Zの応力が増加する。この積層方向Zの応力に耐えられる接着層22を有する積層コア20とすることにより、積層された鋼板21のローター10の径方向の延伸を抑制し、ローター10の回転数を高回転にしても、ローター10の外形変位量を低減することが可能となる。なお
図13から、封止樹脂40がある場合、回転数が16000rpm以下の範囲において、接着層22に生じる応力が低減されることもわかる。
【0055】
<接着層22の降伏応力>
接着層22の降伏応力の基準値は、ローター10の回転数をω、鋼板21の降伏応力をYPRとしたときに、下記(3)式に基づいて計算することができることを発明者は見出した。(3)式は、上記(1)式における右辺である。接着層22の強度は上記(1)式の条件を満足することが必要である。
【0056】
【数4】
ここで、A=0.105、B=17000、C=17000、D=410、E=30
【0057】
なお例えば、回転数が17000rpm、ローター10の直径が162mm、鋼板21の板厚が0.25mm、接着層22の厚みが0.002mmの場合、YPRおよびYPBの各値が(1)式を満足することにより、積層コア20の前記最大変位量が目標値の0.1mm以下となることが、実機を用いた検証により確認された。
【0058】
<(1)式の検証>
まず、ローター10の回転数と、塑性変形が生じない鋼板21の降伏応力YPRおよび接着層22の降伏応力YPBと、の関係を、FEM解析を用いて求めた。結果を下記表1に示す。
【0059】
【0060】
表1において、見出し列(先頭列)は、鋼板21の降伏応力のYPR(MPa)を示している。見出し行(先頭行)は、ローター10の回転数(rpm)を示している。各セル内の値は、当該セルが属する列の見出し行の回転数でローター10が回転するときで、かつ、当該セルが属する行の見出し列の鋼板21の降伏応力YPRを前提とした場合、鋼板21が塑性変形しないために必要な接着層22の降伏応力YPB(MPa)の値を示している。なお空白セルは、当該セルに該当する条件での接着層22の降伏応力YPBを求めてないことを意味する。
【0061】
次に、上記(1)式から求めた上記関係を、下記表2に示す。表2の見方は、表1と同様である。表2における表中の各値は、上記(1)式の右辺から求めた値を、小数第1位で四捨五入した値である。なお表2では、表1よりも多くの場合について、接着層22の降伏応力YPBを求めている。
【0062】
【0063】
上記表1、表2の各値を比較した結果、両者の値の差異が小さく、(1)式によりFEM解析の結果を近似できていることが確認された。
【0064】
このように、外形変位量の急増は、接着層22の降伏応力の調整、および、鋼板21の降伏応力の調整のいずれによっても実現することができる。
【0065】
<ローター10の設計方法>
上記ローター10の設計に際しては、鋼板21の降伏応力および接着層22の降伏応力を以下のように設定する。すなわち、前記最大回転数でローター10が回転し、磁石30から積層コア20に遠心力が伝達されるときに、鋼板21の変形が規制されるように(鋼板21に生じる応力が鋼板21の降伏応力YPRに至らないように)、各降伏応力を設定する。具体的には、各降伏応力が上記(1)式および上記(2)式を満たすように、各降伏応力を設定する。
【0066】
ここで
図14のグラフに、上記(1)式によって得られる境界線を示す。
図14のグラフの横軸は、鋼板21の降伏応力のYP
Rを示す。
図14中のグラフ線のうち、実線のグラフ線は、回転数が16000rpmの場合における(1)式の右辺の値((3)式)を示す。破線のグラフ線は、回転数が17000rpmの場合における(1)式の右辺の値((3)式)を示す。鎖線のグラフ線は、回転数が18000rpmの場合における(1)式の右辺の値((3)式)を示す。
【0067】
各回転数に耐えられる積層コア20とするためには、鋼板21の降伏応力のYP
Rおよび接着層22の降伏応力YP
Bの組み合わせを、
図14に示す各回転数のグラフ線よりも右上の領域に含まれる組み合わせにする必要がある。言い換えると、
図14に示すグラフ線の右上の領域に含まれる接着層22の強度と鋼板21の強度の組合せでは、その全ての組合せが各回転数に耐えうる。ただし、鋼板21の降伏応力のYP
Rおよび接着層22の降伏応力YP
Bの組み合わせを、
図14に示す各回転数のグラフ線よりも左下の領域に含まれる組み合わせにした場合、ローター10が回転するときに、ローター10の径方向へ向けた積層コアの外縁の最大変位量が0.1mm超となるため好ましくない。また、右上の領域にすれば変形強度は上昇させることができるが、不必要な高強度の鋼板を用いることになるため、打ち抜き精度の課題や金型摩耗による生産阻害などが発生するため、グラフ線上となるよう設計することが重要である。
【0068】
例えば、17000rpmに耐えうるローター10を作成する場合には、鋼板21の強度が360MPaと接着層22の強度142MPaとの組合せ、あるいは鋼板21の強度400MPaと接着層22の強度52MPaの組合せを選ぶ。
【0069】
<ローター10の製造方法>
上記設計方法を用いて設計されたローター10は、公知の製造方法で製造することができる。例えば、接着剤を用いたローター10の製造方法は、鋼板21一枚一枚に接着剤を塗布する方法、含侵浸漬法、テープ状に加工した接着剤を使用する方法さらには金型内接着方法等が提案されている。本実施形態では、いずれの製造方法においても製造可能であり、製造方法について限定されない。
【0070】
以上説明したように、本実施形態に係るローター10によれば、11000rpmでローター10が回転するときに、ローター10の径方向へ向けた積層コア20の外縁20aの最大変位量が0.1mm以下である。したがって、自動車の走行時における最大回転数(例えば、11000rpmを超えるような回転数)でローター10が回転したときであっても、ローター10の外形の変形を抑え、例えば、ローター10がステーターに接触すること等を防止することができる。これにより、モーターの破損を抑制することができる。
【0071】
また、本実施形態に係る設計方法により設計されたローター10によれば、自動車の走行時における最大回転数でローター10が回転し、磁石30から積層コア20に遠心力が伝達されるときに、鋼板21が径方向に変形することを接着層22が抑制し、鋼板21の変形が規制される。よって、自動車の走行時における最大回転数でローター10が回転したときであっても、ローター10の外形の変形を抑え、例えば、ローター10がステーターに接触すること等を防止することができる。これにより、モーターの破損を抑制することができる。
【0072】
ところで、これまで接着層22については、接着強度(引張、圧縮、せん断、90度剥離などの状況下での鋼板21との密着力)による評価が重用されてきた。このような背景もあり、接着層22の降伏応力に基づいて鋼板21の変形を規制するという技術的思想は存在していなかった。鋼板21の変形を規制するためには、実質的に、高強度の鋼板21を使用して対応するしかなかった。その結果、ローター10が高コストとなり、ローター10の製造が困難になっていた。特に、鋼板21として電磁鋼板21を採用した場合には、基本的な特性(低鉄損、高磁束密度)に加えて高強度の要求を満たす必要がある。そのため、成分設計が困難になるばかりか、圧延や焼鈍などの各プロセスにおいても製造条件が制約されて製造が困難になる。
【0073】
そこでこの設計方法では、自動車の走行時における最大回転数でローター10が回転し、磁石30から積層コア20に遠心力が伝達されるときに、鋼板21がローター10の径方向に変形することを接着層22が抑制して鋼板21の変形が規制されるように、(1)鋼板21の降伏応力、(2)接着層22の降伏応力を設定する。すなわち、鋼板21の降伏応力だけでなく、接着層22の降伏応力も考慮する。これにより、鋼板21の降伏応力がある程度、低い場合であっても、接着層22の降伏応力を高めることで、鋼板21の変形を規制することができる。
【0074】
ここで、鋼板21の強度は、高くなれば高くなるほど供給サプライヤーは限定され、コストも高くなる。一方、接着剤の強度はコストと概ね正相関があり、さらに接着剤には強度が高くなればなるほど高い硬化温度を求められる等、製造設備による制約もある。
この設計方法では、前述のように鋼板21の降伏応力だけでなく接着層22の降伏応力を考慮することで、コストのみならず地域性、市場性に応じた最適な鋼板21および接着剤の組合せを選定することができる。したがって、品質面のみならず製造面での要求を満たすローター10を製造することが可能である。
【0075】
以上、具体的な数式を用いて、接着層22の強度と鋼板21の強度の関係を規定したが、本発明においてはかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、数式の変更を含む各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0076】
例えば、前記実施形態におけるローター10では、2つ1組の磁石30が1つの磁極を形成しているが、本発明はこれに限られない。1つの磁石30が1つの磁極を形成していてもよく、3つ以上の磁石30が1つの磁極を形成していてもよい。
(1)式および(2)式が満たされていなくてもよい。
封止樹脂40がなくてもよい。第1隙間25および第2隙間26がなくてもよい。
【符号の説明】
【0077】
10 ローター
20 積層コア
20a 外縁
21 鋼板
22 接着層
23 ブリッジ
24 貫通孔
30 磁石
40 封止樹脂