(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-08
(45)【発行日】2023-11-16
(54)【発明の名称】積層コアおよび電気機器
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20231109BHJP
C22C 38/60 20060101ALI20231109BHJP
H01F 27/245 20060101ALI20231109BHJP
H01F 1/147 20060101ALI20231109BHJP
C21D 8/12 20060101ALN20231109BHJP
【FI】
C22C38/00 303U
C22C38/60
H01F27/245
H01F1/147 175
C21D8/12 A
(21)【出願番号】P 2021556165
(86)(22)【出願日】2020-11-13
(86)【国際出願番号】 JP2020042397
(87)【国際公開番号】W WO2021095837
(87)【国際公開日】2021-05-20
【審査請求日】2022-04-13
(31)【優先権主張番号】P 2019206674
(32)【優先日】2019-11-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100217249
【氏名又は名称】堀田 耕一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221279
【氏名又は名称】山口 健吾
(74)【代理人】
【識別番号】100207686
【氏名又は名称】飯田 恭宏
(74)【代理人】
【識別番号】100224812
【氏名又は名称】井口 翔太
(72)【発明者】
【氏名】平山 隆
(72)【発明者】
【氏名】村川 鉄州
(72)【発明者】
【氏名】冨田 美穂
【審査官】河口 展明
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-178380(JP,A)
【文献】特開2011-111658(JP,A)
【文献】特開2006-199999(JP,A)
【文献】特開2017-193731(JP,A)
【文献】特開2017-145462(JP,A)
【文献】特開2019-019355(JP,A)
【文献】特開2001-303213(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00-38/60
H01F 27/245
H01F 1/147
H01F 30/10
H01F 41/02
C21D 8/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
板面同士が相互に対向するように積層された複数の電磁鋼板を有する積層コアであって、
前記複数の電磁鋼板の各々は、
複数の脚部と、
前記積層コアが励磁された際に、前記積層コアにおいて閉磁路が形成されるように、前記脚部の延設方向に対し垂直な方向を延設方向として配置される複数の継鉄部と、を備え、
前記複数の脚部を構成する前記電磁鋼板の積層方向と前記複数の継鉄部を構成する前記電磁鋼板の積層方向は、同じであり、
前記電磁鋼板は、
質量%で、
C:0.0100%以下、
Si:1.50%~4.00%、
sol.Al:0.0001%~1.0%、
S:0.0100%以下、
N:0.0100%以下、
Mn、Ni、Co、Pt、Pb、Cu、Auからなる群から選ばれる1種以上:総計で2.50%~5.00%、
Sn:0.000%~0.400%、
Sb:0.000%~0.400%、
P:0.000%~0.400%、および
Mg、Ca、Sr、Ba、Ce、La、Nd、Pr、Zn、Cdからなる群から選ばれる1種以上:総計で0.0000%~0.0100%を含有し、
Mn含有量(質量%)を[Mn]、Ni含有量(質量%)を[Ni]、Co含有量(質量%)を[Co]、Pt含有量(質量%)を[Pt]、Pb含有量(質量%)を[Pb]、Cu含有量(質量%)を[Cu]、Au含有量(質量%)を[Au]、Si含有量(質量%)を[Si]、sol.Al含有量(質量%)を[sol.Al]としたときに、以下の(A)式を満たし、
残部がFeおよび不純物からなる化学組成を有し、
圧延方向のB50をB50L、圧延方向とのなす角度が90°の方向のB50をB50C、圧延方向となす角度のうち小さい方の角度が45°となる2つの方向のB50のうち一方の方向のB50、他方の方向のB50を、それぞれ、B50D1、B50D2としたときに、以下の(B)式且つ(
D)式を満たし、{100}<011>のX線ランダム強度比が5以上30未満であり、板厚が0.50mm以下であり、
前記電磁鋼板の磁気特性が最も優れる2つの方向のうちの何れかの方向が、前記脚部の延設方向および前記継鉄部の延設方向の何れかに沿うように、前記電磁鋼板が配置されており、
前記磁気特性が最も優れる2つの方向は、前記圧延方向となす角度のうち小さい方の角度が45°となる2つの方向であることを特徴とする積層コア。
([Mn]+[Ni]+[Co]+[Pt]+[Pb]+[Cu]+[Au])-([Si]+[sol.Al])>0% ・・・(A)
(B50D1+B50D2)/2>1.7T ・・・(B)
(B50D1+B50D2)/2>
1.1×(B50L+B50C)/2・・・(
D)
【請求項2】
板面同士が相互に対向するように積層された複数の電磁鋼板を有する積層コアであって、
前記複数の電磁鋼板の各々は、
複数の脚部と、
前記積層コアが励磁された際に、前記積層コアにおいて閉磁路が形成されるように、前記脚部の延設方向に対し垂直な方向を延設方向として配置される複数の継鉄部と、を備え、
前記複数の脚部を構成する前記電磁鋼板の積層方向と前記複数の継鉄部を構成する前記電磁鋼板の積層方向は、同じであり、
前記電磁鋼板は、質量%で、
C:0.0100%以下、
Si:1.50%~4.00%、
sol.Al:0.0001%~1.0%、
S:0.0100%以下、
N:0.0100%以下、
Mn、Ni、Co、Pt、Pb、Cu、Auからなる群から選ばれる1種以上:総計で2.50%~5.00%、
Sn:0.000%~0.400%、
Sb:0.000%~0.400%、
P:0.000%~0.400%、および
Mg、Ca、Sr、Ba、Ce、La、Nd、Pr、Zn、Cdからなる群から選ばれる1種以上:総計で0.0000%~0.0100%を含有し、
Mn含有量(質量%)を[Mn]、Ni含有量(質量%)を[Ni]、Co含有量(質量%)を[Co]、Pt含有量(質量%)を[Pt]、Pb含有量(質量%)を[Pb]、Cu含有量(質量%)を[Cu]、Au含有量(質量%)を[Au]、Si含有量(質量%)を[Si]、sol.Al含有量(質量%)を[sol.Al]としたときに、以下の(A)式を満たし、
残部がFeおよび不純物からなる化学組成を有し、
圧延方向のB50をB50L、圧延方向とのなす角度が90°の方向のB50をB50C、圧延方向となす角度のうち小さい方の角度が45°となる2つの方向のB50のうち一方の方向のB50、他方の方向のB50を、それぞれ、B50D1、B50D2としたときに、以下の(C)式且つ(F)式を満たし、
{100}<011>のX線ランダム強度比が5以上30未満であり、
板厚が0.50mm以下であり、
前記電磁鋼板の磁気特性が最も優れる2つの方向のうちの何れかの方向が、前記脚部の延設方向および前記継鉄部の延設方向の何れかに沿うように、前記電磁鋼板が配置されており、
前記磁気特性が最も優れる2つの方向は、前記圧延方向となす角度のうち小さい方の角度が45°となる2つの方向であることを特徴とする積層コア。
([Mn]+[Ni]+[Co]+[Pt]+[Pb]+[Cu]+[Au])-([Si]+[sol.Al])>0%・・・(A)
(B50D1+B50D2)/2>(B50L+B50C)/2・・・(C)
(B50D1+B50D2)/2>1.8T・・・(F)
【請求項3】
以下の(E)式を満たすことを特徴とする請求項1
または2に記載の積層コア。
(B50D1+B50D2)/2>1.2×(B50L+B50C)/2・・・(E)
【請求項4】
前記電磁鋼板は、
質量%で、
前記Sn:0.020%~0.400%、または、前記Sb:0.020%~0.400%を含有することを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の積層コア。
【請求項5】
前記積層コアは、EIコア、EEコア、UIコア、またはUUコアであることを特徴とする請求項1
~4のいずれか1項に記載の積層コア。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の積層コアと、前記積層コアに対して周回するように配置されるコイルとを有することを特徴とする電気機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層コアおよび電気機器に関する。
本願は、2019年11月15日に、日本に出願された特願2019-206674号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
単相変圧器等の電気機器では、コア(鉄心)が用いられる。このようなコアとして、EIコア、EEコア、UIコア等の積層コアがある。このような積層コアでは、主磁束が流れる方向が、相互に直交する2つの方向となる。
このような積層コアを構成する電磁鋼板を一方向性電磁鋼板とすると、前述の2つの方向を、磁化容易軸の方向(圧延方向とのなす角度が0°の方向)と、磁化困難軸の方向(圧延方向とのなす角度が90°の方向)に対応させる。一方向性電磁鋼板では、磁化容易軸の方向の磁気特性は良好である。しかしながら、磁化容易軸の方向の磁気特性に対し磁化困難軸の方向の磁気特性は著しく劣化する。従って、コア全体の鉄損が増加する等、コアの性能が劣化する。
【0003】
そこで、特許文献1には、熱延板焼鈍後の平均結晶粒径を300μm以上とし、冷間圧延を圧下率85%以上95%以下で施し、仕上焼鈍を700℃以上950℃以下で10秒以上1分以下施した無方向性電磁鋼板を用いて、小型変圧器のEIコアを構成することが開示されている。この無方向性電磁鋼板では、圧延方向とのなす角度が0°および90°の方向の磁気特性が優れる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1では、小型変圧器等の電気機器に無方向性電磁鋼板を適用した場合の具体的な検討がなされていない。このため、従来の積層コアには、磁気特性を向上させることについて改善の余地がある。
【0006】
本発明は、以上のような問題点に鑑みてなされたものであり、積層コアの磁気特性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は以下の構成を採用する。
(1)本発明の一態様に係る積層コアは、板面同士が相互に対向するように積層された複数の電磁鋼板を有する積層コアであって、前記複数の電磁鋼板の各々は、複数の脚部と、前記積層コアが励磁された際に、前記積層コアにおいて閉磁路が形成されるように、前記脚部の延設方向に対し垂直な方向を延設方向として配置される複数の継鉄部と、を備え、前記複数の脚部を構成する前記電磁鋼板の積層方向と前記複数の継鉄部を構成する前記電磁鋼板の積層方向は、同じであり、前記電磁鋼板は、質量%で、C:0.0100%以下、Si:1.50%~4.00%、sol.Al:0.0001%~1.0%、S:0.0100%以下、N:0.0100%以下、Mn、Ni、Co、Pt、Pb、Cu、Auからなる群から選ばれる1種以上:総計で2.50%~5.00%、Sn:0.000%~0.400%、Sb:0.000%~0.400%、P:0.000%~0.400%、およびMg、Ca、Sr、Ba、Ce、La、Nd、Pr、Zn、Cdからなる群から選ばれる1種以上:総計で0.0000%~0.0100%を含有し、Mn含有量(質量%)を[Mn]、Ni含有量(質量%)を[Ni]、Co含有量(質量%)を[Co]、Pt含有量(質量%)を[Pt]、Pb含有量(質量%)を[Pb]、Cu含有量(質量%)を[Cu]、Au含有量(質量%)を[Au]、Si含有量(質量%)を[Si]、sol.Al含有量(質量%)を[sol.Al]としたときに、以下の(A)式を満たし、残部がFeおよび不純物からなる化学組成を有し、圧延方向のB50をB50L、圧延方向とのなす角度が90°の方向のB50をB50C、圧延方向となす角度のうち小さい方の角度が45°となる2つの方向のB50のうち一方の方向のB50、他方の方向のB50を、それぞれ、B50D1、B50D2としたときに、以下の(B)式且つ(D)式を満たし、{100}<011>のX線ランダム強度比が5以上30未満であり、板厚が0.50mm以下であり、前記圧延方向となす角度のうち小さい方の角度が45°となる2つの方向のうちの何れかの方向が、前記脚部の延設方向および前記継鉄部の延設方向の何れかに沿うように、前記電磁鋼板が配置されており、前記磁気特性が最も優れる2つの方向は、前記圧延方向となす角度のうち小さい方の角度が45°となる2つの方向であることを特徴とする。
([Mn]+[Ni]+[Co]+[Pt]+[Pb]+[Cu]+[Au])-([Si]+[sol.Al])>0% ・・・(A)
(B50D1+B50D2)/2>1.7T ・・・(B)
(B50D1+B50D2)/2>1.1×(B50L+B50C)/2・・・(D)
ここで、磁束密度B50とは、磁界の強さ5000A/mで励磁したときの磁束密度である。
(2)本発明の一態様に係る積層コアは、板面同士が相互に対向するように積層された複数の電磁鋼板を有する積層コアであって、前記複数の電磁鋼板の各々は、複数の脚部と、前記積層コアが励磁された際に、前記積層コアにおいて閉磁路が形成されるように、前記脚部の延設方向に対し垂直な方向を延設方向として配置される複数の継鉄部と、を備え、前記複数の脚部を構成する前記電磁鋼板の積層方向と前記複数の継鉄部を構成する前記電磁鋼板の積層方向は、同じであり、前記電磁鋼板は、質量%で、C:0.0100%以下、Si:1.50%~4.00%、sol.Al:0.0001%~1.0%、S:0.0100%以下、N:0.0100%以下、Mn、Ni、Co、Pt、Pb、Cu、Auからなる群から選ばれる1種以上:総計で2.50%~5.00%、Sn:0.000%~0.400%、Sb:0.000%~0.400%、P:0.000%~0.400%、およびMg、Ca、Sr、Ba、Ce、La、Nd、Pr、Zn、Cdからなる群から選ばれる1種以上:総計で0.0000%~0.0100%を含有し、Mn含有量(質量%)を[Mn]、Ni含有量(質量%)を[Ni]、Co含有量(質量%)を[Co]、Pt含有量(質量%)を[Pt]、Pb含有量(質量%)を[Pb]、Cu含有量(質量%)を[Cu]、Au含有量(質量%)を[Au]、Si含有量(質量%)を[Si]、sol.Al含有量(質量%)を[sol.Al]としたときに、以下の(A)式を満たし、残部がFeおよび不純物からなる化学組成を有し、圧延方向のB50をB50L、圧延方向とのなす角度が90°の方向のB50をB50C、圧延方向となす角度のうち小さい方の角度が45°となる2つの方向のB50のうち一方の方向のB50、他方の方向のB50を、それぞれ、B50D1、B50D2としたときに、以下の(C)式且つ(F)式を満たし、{100}<011>のX線ランダム強度比が5以上30未満であり、板厚が0.50mm以下であり、前記電磁鋼板の磁気特性が最も優れる2つの方向のうちの何れかの方向が、前記脚部の延設方向および前記継鉄部の延設方向の何れかに沿うように、前記電磁鋼板が配置されており、前記磁気特性が最も優れる2つの方向は、前記圧延方向となす角度のうち小さい方の角度が45°となる2つの方向であることを特徴とする。
([Mn]+[Ni]+[Co]+[Pt]+[Pb]+[Cu]+[Au])-([Si]+[sol.Al])>0%・・・(A)
(B50D1+B50D2)/2>(B50L+B50C)/2・・・(C)
(B50D1+B50D2)/2>1.8T・・・(F)
(3)上記(1)または(2)に記載の積層コアは、以下の(E)式を満たしてよい。
(B50D1+B50D2)/2>1.2×(B50L+B50C)/2・・・(E)
(4)上記(1)~(3)のいずれか一項に記載の積層コアは、前記電磁鋼板は、質量%で、前記Sn:0.020%~0.400%、または、前記Sb:0.020%~0.400%を含有してよい。
(5)上記(1)~(4)のいずれか一項に記載の積層コアは、EIコア、EEコア、UIコア、またはUUコアであってよい。
(6)本発明の一態様に係る電気機器は、上記(1)から(5)の何れか1項に記載の積層コアと、前記積層コアに対して周回するように配置されるコイルとを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の上記態様によれば、積層コアの磁気特性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】積層コアの外観構成の第1の例を示す図である。
【
図2】積層コアの各層における電磁鋼板の配置の第1の例を示す図である。
【
図3】E型の電磁鋼板とI型の電磁鋼板を、電磁鋼帯から切り抜く方法の一例を示す図である。
【
図5】積層コアの外観構成の第2の例を示す図である。
【
図6】積層コアの各層における電磁鋼板の配置の第2の例を示す図である。
【
図7】E型の電磁鋼板を、電磁鋼帯から切り抜く方法の一例を示す図である。
【
図8】積層コアの外観構成の第3の例を示す図である。
【
図9】積層コアの各層における電磁鋼板の配置の第3の例を示す図である。
【
図10】U型の電磁鋼板とI型の電磁鋼板を、電磁鋼帯から切り抜く方法の一例を示す図である。
【
図11】電気機器の構成の第3の例を示す図である。
【
図12】B50比率と、圧延方向からの角度との関係の一例を示す図である。
【
図13】W15/50比率と、圧延方向からの角度との関係の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(積層コアに使用する電磁鋼板)
まず、後述する実施形態の積層コアに使用する電磁鋼板について説明する。
まず、積層コアに使用する電磁鋼板の一例である無方向性電磁鋼板およびその製造方法で用いられる鋼材の化学組成について説明する。以下の説明において、無方向性電磁鋼板または鋼材に含まれる各元素の含有量の単位である「%」は、特に断りがない限り「質量%」を意味する。また、「~」を挟んで記載する数値限定範囲には、下限値および上限値がその範囲に含まれる。「未満」または「超」と示す数値には、その値が数値範囲に含まれない。積層コアに使用する電磁鋼板の一例である無方向性電磁鋼板および鋼材は、フェライト-オーステナイト変態(以下、α-γ変態)が生じ得る化学組成であって、C:0.0100%以下、Si:1.50%~4.00%、sol.Al:0.0001%~1.0%、S:0.0100%以下、N:0.0100%以下、Mn、Ni、Co、Pt、Pb、Cu、Auからなる群から選ばれる1種以上:総計で2.50%~5.00%、Sn:0.000%~0.400%、Sb:0.000%~0.400%、P:0.000%~0.400%、およびMg、Ca、Sr、Ba、Ce、La、Nd、Pr、Zn、およびCdからなる群から選ばれる1種以上:総計で0.0000%~0.0100%を含有し、残部がFeおよび不純物からなる化学組成を有する。更に、Mn、Ni、Co、Pt、Pb、Cu、Au、Siおよびsol.Alの含有量が後述する所定の条件を満たす。不純物としては、鉱石やスクラップ等の原材料に含まれるもの、製造工程において含まれるもの、が例示される。
【0011】
<<C:0.0100%以下>>
Cは、鉄損を高めたり、磁気時効を引き起こしたりする。従って、C含有量は低ければ低いほどよい。このような現象は、C含有量が0.0100%超で顕著である。このため、C含有量は0.0100%以下とする。C含有量の低減は、板面内の全方向における磁気特性の均一な向上にも寄与する。尚、C含有量の下限は特に限定しないが、精錬時の脱炭処理のコストを踏まえ、0.0005%以上とすることが好ましい。
【0012】
<<Si:1.50%~4.00%>>
Siは、電気抵抗を増大させて、渦電流損を減少させ、鉄損を低減したり、降伏比を増大させて、鉄心への打ち抜き加工性を向上したりする。Si含有量が1.50%未満では、これらの作用効果を十分に得られない。従って、Si含有量は1.50%以上とする。一方、Si含有量が4.00%超では、磁束密度が低下したり、硬度の過度な上昇により打ち抜き加工性が低下したり、冷間圧延が困難になったりする。従って、Si含有量は4.00%以下とする。
【0013】
<<sol.Al:0.0001%~1.0%>>
sol.Alは、電気抵抗を増大させて、渦電流損を減少させ、鉄損を低減する。sol.Alは、飽和磁束密度に対する磁束密度B50の相対的な大きさの向上にも寄与する。ここで、磁束密度B50とは、磁界の強さ5000A/mで励磁したときの磁束密度である。sol.Al含有量が0.0001%未満では、これらの作用効果を十分に得られない。また、Alには製鋼での脱硫促進効果もある。従って、sol.Al含有量は0.0001%以上とする。一方、sol.Al含有量が1.0%超では、磁束密度が低下したり、降伏比を低下させて、打ち抜き加工性を低下させたりする。従って、sol.Al含有量は1.0%以下とする。
【0014】
<<S:0.0100%以下>>
Sは、必須元素ではなく、例えば鋼中に不純物として含有される。Sは、微細なMnSの析出により、焼鈍における再結晶および結晶粒の成長を阻害する。従って、S含有量は低ければ低いほどよい。このような再結晶および結晶粒成長の阻害による鉄損の増加および磁束密度の低下は、S含有量が0.0100%超で顕著である。このため、S含有量は0.0100%以下とする。尚、S含有量の下限は特に限定しないが、精錬時の脱硫処理のコストを踏まえ、0.0003%以上とすることが好ましい。
【0015】
<<N:0.0100%以下>>
NはCと同様に、磁気特性を劣化させるので、N含有量は低ければ低いほどよい。したがって、N含有量は0.0100%以下とする。尚、N含有量の下限は特に限定しないが、精錬時の脱窒処理のコストを踏まえ、0.0010%以上とすることが好ましい。
【0016】
<<Mn、Ni、Co、Pt、Pb、Cu、Auからなる群から選ばれる1種以上:総計で2.50%~5.00%>>
これらの元素は、α-γ変態を生じさせるために必要な元素であることから、これらの元素を総計で2.50%以上含有させる必要がある。一方で、総計で5.00%を超えると、コスト高となり、磁束密度が低下する場合もある。したがって、これらの元素を総計で5.00%以下とする。
【0017】
また、α-γ変態が生じ得る条件として、更に以下の条件を満たしているものとする。つまり、Mn含有量(質量%)を[Mn]、Ni含有量(質量%)を[Ni]、Co含有量(質量%)を[Co]、Pt含有量(質量%)を[Pt]、Pb含有量(質量%)を[Pb]、Cu含有量(質量%)を[Cu]、Au含有量(質量%)を[Au]、Si含有量(質量%)を[Si]、sol.Al含有量(質量%)を[sol.Al]としたときに、質量%で、以下の(1)式を満たすことが好ましい。
([Mn]+[Ni]+[Co]+[Pt]+[Pb]+[Cu]+[Au])-([Si]+[sol.Al])>0% ・・・(1)
【0018】
前述の(1)式を満たさない場合には、α-γ変態が生じないため、磁束密度が低くなる。
【0019】
<<Sn:0.000%~0.400%、Sb:0.000%~0.400%、P:0.000%~0.400%>>
SnやSbは冷間圧延、再結晶後の集合組織を改善して、その磁束密度を向上させる。そのため、これらの元素を必要に応じて含有させてもよいが、過剰に含まれると鋼を脆化させる。したがって、Sn含有量、Sb含有量はいずれも0.400%以下とする。また、Pは再結晶後の鋼板の硬度を確保するために含有させてもよいが、過剰に含まれると鋼の脆化を招く。したがって、P含有量は0.400%以下とする。以上のように磁気特性等のさらなる効果を付与する場合には、0.020%~0.400%のSn、0.020%~0.400%のSb、および0.020%~0.400%のPからなる群から選ばれる1種以上を含有することが好ましい。
【0020】
<<Mg、Ca、Sr、Ba、Ce、La、Nd、Pr、Zn、およびCdからなる群から選ばれる1種以上:総計で0.0000%~0.0100%>>
Mg、Ca、Sr、Ba、Ce、La、Nd、Pr、ZnおよびCdは、溶鋼の鋳造時に溶鋼中のSと反応して硫化物若しくは酸硫化物またはこれらの両方の析出物を生成する。以下、Mg、Ca、Sr、Ba、Ce、La、Nd、Pr、ZnおよびCdを総称して「粗大析出物生成元素」ということがある。粗大析出物生成元素の析出物の粒径は1μm~2μm程度であり、MnS、TiN、AlN等の微細析出物の粒径(100nm程度)よりはるかに大きい。このため、これら微細析出物は粗大析出物生成元素の析出物に付着し、中間焼鈍における再結晶および結晶粒の成長を阻害しにくくなる。これらの作用効果を十分に得るためには、これらの元素の総計が0.0005%以上であることが好ましい。但し、これらの元素の総計が0.0100%を超えると、硫化物若しくは酸硫化物またはこれらの両方の総量が過剰となり、中間焼鈍における再結晶および結晶粒の成長が阻害される。従って、粗大析出物生成元素の含有量は総計で0.0100%以下とする。
【0021】
<<集合組織>>
次に、積層コアに使用する電磁鋼板の一例である無方向性電磁鋼板の集合組織について説明する。製造方法の詳細については後述するが、積層コアに使用する電磁鋼板の一例である無方向性電磁鋼板はα-γ変態が生じ得る化学組成であり、熱間圧延での仕上げ圧延終了直後の急冷によって組織を微細化することによって{100}結晶粒が成長した組織となる。これにより、積層コアに使用する電磁鋼板の一例である無方向性電磁鋼板は{100}<011>方位の集積強度が5~30となり、圧延方向に対して45°方向の磁束密度B50が特に高くなる。このように特定の方向で磁束密度が高くなるが、全体的に全方向平均で高い磁束密度が得られる。{100}<011>方位の集積強度が5未満になると、磁束密度を低下させる{111}<112>方位の集積強度が高くなり、全体的に磁束密度が低下してしまう。また、{100}<011>方位の集積強度が30を超える製造方法は熱間圧延板を厚くする必要があり、製造が困難という課題がある。
【0022】
{100}<011>方位の集積強度は、X線回折法または電子線後方散乱回折(electron backscatter diffraction:EBSD)法により測定することができる。X線および電子線の試料からの反射角等が結晶方位毎に異なるため、ランダム方位試料を基準にしてこの反射強度等で結晶方位強度を求めることができる。積層コアに使用する電磁鋼板の一例として好適な無方向性電磁鋼板の{100}<011>方位の集積強度は、X線ランダム強度比で5~30となる。このとき、EBSDにより結晶方位を測定し、X線ランダム強度比に換算した値を用いても良い。
【0023】
<<厚さ>>
次に、積層コアに使用する電磁鋼板の一例である無方向性電磁鋼板の厚さについて説明する。積層コアに使用する電磁鋼板の一例である無方向性電磁鋼板の厚さは、0.50mm以下である。厚さが0.50mm超であると、優れた高周波鉄損を得ることができない。従って、厚さは0.50mm以下とする。
【0024】
<<磁気特性>>
次に、積層コアに使用する電磁鋼板の一例である無方向性電磁鋼板の磁気特性について説明する。磁気特性を調べる際には、積層コアに使用する電磁鋼板の一例である無方向性電磁鋼板の磁束密度であるB50の値を測定する。製造された無方向性電磁鋼板において、その圧延方向の一方と他方とは区別できない。そのため本実施形態では、圧延方向とはその一方および他方の双方向をいう。圧延方向におけるB50(T)の値をB50L、圧延方向から45°傾いた方向におけるB50(T)の値をB50D1、圧延方向から90°傾いた方向におけるB50(T)の値をB50C、圧延方向から135°傾いた方向におけるB50(T)の値をB50D2とすると、B50D1およびB50D2が最も高く、B50LおよびB50Cが最も低いという磁束密度の異方性がみられる。尚、(T)は、磁束密度の単位(テスラ)を指す。
【0025】
ここで、例えば時計回り(反時計回りでもよい)の方向を正の方向とした磁束密度の全方位(0°~360°)分布を考えた場合、圧延方向を0°(一方向)および180°(他方向)とすると、B50D1は45°および225°のB50値、B50D2は135°および315°のB50値となる。同様に、B50Lは0°および180°のB50値、B50Cは90°および270°のB50値となる。45°のB50値と225°のB50値とは厳密に一致し、135°のB50値と315°のB50値とは厳密に一致する。しかしながら、B50D1とB50D2とは、実際の製造に際して磁気特性を同じにすることが容易でない場合があることから、厳密には一致しない場合がある。同様に、0°のB50値と180°のB50値とは厳密に一致し、90°のB50値と270°のB50値とは厳密に一致する一方で、B50LとB50Cとは厳密には一致しない場合がある。積層コアに使用する電磁鋼板の一例である無方向性電磁鋼板では、B50D1およびB50D2の平均値と、B50LとB50Cの平均値とを用いて、以下の(2)式且つ(3)式を満たす。
(B50D1+B50D2)/2>1.7T ・・・(2)
(B50D1+B50D2)/2>(B50L+B50C)/2・・・(3)
【0026】
このように、磁束密度を測定すると、(2)式のようにB50D1およびB50D2の平均値が1.7T以上となると共に、(3)式のように磁束密度の高い異方性が確認される。
【0027】
更に、(1)式を満たすことに加え、以下の(4)式のように、(3)式よりも磁束密度の異方性が高いことが好ましい。
(B50D1+B50D2)/2>1.1×(B50L+B50C)/2・・・(4)
更に、以下の(5)式のように、磁束密度の異方性がより高いことが好ましい。
(B50D1+B50D2)/2>1.2×(B50L+B50C)/2・・・(5)
更に、以下の(6)式のように、B50D1およびB50D2の平均値が1.8T以上となることが好ましい。
(B50D1+B50D2)/2>1.8T ・・・(6)
【0028】
尚、前記の45°は、理論的な値であり、実際の製造に際しては45°に一致させることが容易でない場合があることから、厳密には45°に一致していないものも含むものとする。このことは、当該0°,90°,135°,180°,225°,270°,315°についても同様である。
【0029】
磁束密度の測定は、圧延方向に対して45°、0°方向等から55mm角の試料を切り出し、単板磁気測定装置を用いて行うことができる。
【0030】
<<製造方法>>
次に、積層コアに使用する電磁鋼板の一例である無方向性電磁鋼板の製造方法の一例について説明する。積層コアに使用する電磁鋼板の一例である無方向性電磁鋼板を製造する際には、例えば、熱間圧延、冷間圧延(第1の冷間圧延)、中間焼鈍(第1の焼鈍)、スキンパス圧延(第2の冷間圧延)、仕上焼鈍(第3の焼鈍)、歪取焼鈍(第2の焼鈍)等が行われる。
【0031】
まず、前述した鋼材を加熱し、熱間圧延を施す。鋼材は、例えば通常の連続鋳造によって製造されるスラブである。熱間圧延の粗圧延および仕上げ圧延はγ域(Ar1温度以上)の温度で行う。つまり、仕上げ圧延の仕上温度がAr1温度以上、巻取り温度が250℃超、600℃以下となるように熱間圧延を行う。これにより、その後の冷却によってオーステナイトからフェライトへ変態することにより組織は微細化する。微細化された状態でその後冷間圧延を施すと、張出再結晶(以下、バルジング)が発生しやすくなるので、通常は成長しにくい{100}結晶粒を成長させやすくすることができる。
【0032】
また、積層コアに使用する電磁鋼板の一例である無方向性電磁鋼板を製造する際には、更に仕上げ圧延の最終パスを通過する際の温度(仕上温度)をAr1温度以上、巻取り温度が250℃超、600℃以下とする。オーステナイトからフェライトへ変態することによって結晶組織を微細化するようにしている。このように結晶組織を微細化させることによって、その後の冷間圧延、中間焼鈍を経てバルジングを発生させやすくすることができる。
【0033】
その後、熱間圧延板焼鈍は行わずに巻き取り、酸洗を経て、熱間圧延鋼板に対して冷間圧延を行う。冷間圧延では圧下率を80%~95%とすることが好ましい。圧下率が80%未満ではバルジングが発生しにくくなる。圧下率が95%超ではその後のバルジングによって{100}結晶粒が成長しやすくなるが、熱間圧延鋼板を厚くしないといけなく、熱間圧延の巻取りが困難になり、操業が困難になりやすくなる。冷間圧延の圧下率はより好ましくは86%以上である。冷間圧延の圧下率が86%以上では、よりバルジングが発生しにくくなる。
【0034】
冷間圧延が終了すると、続いて中間焼鈍を行う。積層コアに使用する電磁鋼板の一例である無方向性電磁鋼板を製造する際には、オーステナイトへ変態しない温度で中間焼鈍を行う。つまり、中間焼鈍の温度をAc1温度未満とすることが好ましい。このように中間焼鈍を行うことによってバルジングが生じ、{100}結晶粒が成長しやすくなる。また、中間焼鈍の時間は、5秒間~60秒間とすることが好ましい。
【0035】
中間焼鈍が終了すると、次にスキンパス圧延を行う。前述したようにバルジングが発生した状態でスキンパス圧延、焼鈍を行うと、バルジングが発生した部分を起点に{100}結晶粒が更に成長する。これはスキンパス圧延により、{100}<011>結晶粒には歪がたまりにくく、{111}<112>結晶粒には歪がたまりやすい性質があり、その後の焼鈍で歪の少ない{100}<011>結晶粒が歪の差を駆動力に{111}<112>結晶粒を蚕食するためである。歪差を駆動力にして発生するこの蚕食現象は歪誘起粒界移動(以下、SIBM)と呼ばれる。スキンパス圧延の圧下率は5%~25%とすることが好ましい。圧下率が5%未満では歪量が少なすぎるため、この後の焼鈍でSIBMが起きなくなり、{100}<011>結晶粒は大きくならない。一方、圧下率が25%超では歪量が多くなり過ぎ、{111}<112>結晶粒の中から新しい結晶粒が生まれる再結晶核生成(以下Nucleation)が発生する。このNucleationでは殆どの生まれてくる粒が{111}<112>結晶粒のため、磁気特性が悪くなる。
【0036】
スキンパス圧延を施した後、歪を開放して加工性を向上させるために仕上げ焼鈍を行う。仕上げ焼鈍も同様にオーステナイトへ変態しない温度とし、仕上げ焼鈍の温度をAc1温度未満とする。このように仕上げ焼鈍を行うことによって、{100}<011>結晶粒が{111}<112>結晶粒を蚕食し、磁気特性を向上させることができる。また、仕上げ焼鈍時に600℃~Ac1温度となる時間を1200秒以内とする。この焼鈍時間が短すぎるとスキンパスで入れた歪がほとんど残り、複雑な形状を打ち抜くときに反りが発生する。一方、焼鈍時間が長すぎると結晶粒が粗大になり過ぎ、打ち抜き時にダレが大きくなり、打ち抜き精度が出なくなる。
【0037】
仕上焼鈍が終了すると、所望の鉄鋼部材とすべく、無方向性電磁鋼板の成形加工等が行われる。そして、無方向性電磁鋼板からなる鉄鋼部材に成形加工等(例えば打ち抜き)により生じた歪等を除去すべく、鉄鋼部材に歪取焼鈍を施す。本実施形態では、Ac1温度よりも下で、SIBMが発生し、結晶粒径も粗大に出来るようにするため、歪取焼鈍の温度を例えば800℃程度とし、歪取焼鈍の時間を2時間程度とする。歪取焼鈍により、磁気特性を向上させることができる。
【0038】
積層コアに使用する電磁鋼板の一例である無方向性電磁鋼板(鉄鋼部材)では、前述の製造方法のうち、主に熱間圧延工程においてAr1温度以上で仕上げ圧延をすることにより、前記(1)式の高いB50および前記(2)式の優れた異方性が得られる。更に、冷間圧延工程において、圧下率を85%程度にすることで前記(3)式、スキンパス圧延工程において圧下率を10%程度にすることで前記(4)式のより優れた異方性が得られる。
なお、本実施形態においてAr1温度は、1℃/秒の平均冷却速度で冷却中の鋼材(鋼板)の熱膨張変化から求める。また、本実施形態においてAc1温度は、1℃/秒の平均加熱速度で加熱中の鋼材(鋼板)の熱膨張変化から求める。
【0039】
以上のように積層コアに使用する電磁鋼板の一例として、無方向性電磁鋼板からなる鉄鋼部材を製造することができる。
【0040】
次に、積層コアに使用する電磁鋼板の一例である無方向性電磁鋼板について、実施例を示しながら具体的に説明する。以下に示す実施例は、無方向性電磁鋼板のあくまでも一例にすぎず、無方向性電磁鋼板が下記の例に限定されるものではない。
【0041】
<<第1の実施例>>
溶鋼を鋳造することにより、以下の表1から表2に示す成分のインゴットを作製した。ここで、式左辺とは、前述の(1)式の左辺の値を表している。その後、作製したインゴットを1150℃まで加熱して熱間圧延を行い、板厚が2.5mmになるように圧延した。そして、仕上げ圧延終了後に水冷し熱間圧延鋼板を巻き取った。この時の仕上げ圧延の最終パスの段階での温度(仕上温度)は830℃であり、すべてAr1温度より大きい温度だった。尚、γ-α変態が起こらないNo.108については、仕上温度を850℃とした。また、巻取り温度については表1に示す条件にて行った。
【0042】
次に、熱間圧延鋼板において酸洗によりスケールを除去し、表1に示す冷間圧延後の圧下率で圧延した。そして、無酸化雰囲気で700℃で30秒の中間焼鈍を行った。次いで、表1に示す2回目の冷延圧延(スキンパス圧延)圧下率で圧延した。
【0043】
次に、磁気特性を調べるために2回目の冷間圧延(スキンパス圧延)の後に800℃で30秒の仕上げ焼鈍を行い、55mm角の試料を剪断加工で作成した後、800℃で2時間の歪取焼鈍を行い、磁束密度B50を測定した。測定試料は55mm角の試料を圧延方向に0°と45°の2種類の方向に採取した。そして、この2種類の試料を測定し、圧延方向に対して0°、45°、90°、135°の磁束密度B50をそれぞれB50L、B50D1、B50C、B50D2とした。
【0044】
【0045】
【0046】
表1から表2中の下線は、本発明の範囲から外れた条件を示している。発明例であるNo.101~No.107、No.109~No.111、No.114~No.130は、いずれも45°方向および全周平均共に磁束密度B50は良好な値であった。ただし、No.116とNo.127は適切な巻取り温度から外れたため、磁束密度B50はやや低かった。No.129とNo.130は冷間圧延の圧下率が低かったため、同等の成分、巻取り温度であるNo.118と比べて磁束密度B50はやや低かった。一方、比較例であるNo.108はSi濃度が高く、式左辺の値が0以下であり、α-γ変態しない組成であったことから、磁束密度B50はいずれも低かった。比較例であるNo.112は、スキンパス圧延率を低くしたため、{100}<011>強度を5未満であり、磁束密度B50がいずれも低かった。比較例であるNo.113は{100}<011>強度が30以上となり、本発明から外れている。No.113は熱間圧延板の厚みが7mmもあったため、操業しづらいという難点があった。
【0047】
<<第2の実施例>>
溶鋼を鋳造することにより、以下の表3に示す成分のインゴットを作製した。その後、作製したインゴットを1150℃まで加熱して熱間圧延を行い、板厚が2.5mmになるように圧延した。そして、仕上げ圧延終了後に水冷し熱間圧延鋼板を巻き取った。この時の仕上げ圧延の最終パスの段階での仕上温度は830℃であり、すべてAr1温度より大きい温度だった。
【0048】
次に、熱間圧延鋼板において酸洗によりスケールを除去し、板厚が0.385mmになるまで冷間圧延を行った。そして、無酸化雰囲気中で中間焼鈍を行い、再結晶率が85%となるように中間焼鈍の温度を制御した。次いで、板厚が0.35mmになるまで2回目の冷間圧延(スキンパス圧延)を行った。
【0049】
次に、磁気特性を調べるために2回目の冷間圧延(スキンパス圧延)の後に800℃で30秒の仕上げ焼鈍を行い、55mm角の試料を剪断加工で作成した後、800℃で2時間の歪取焼鈍を行い、磁束密度B50と鉄損W10/400を測定した。磁束密度B50に関しては第1の実施例と同様の手順で測定した。一方で鉄損W10/400は、最大磁束密度が1.0Tになるように400Hzの交流磁場をかけた時に試料に生じるエネルギーロス(W/kg)として測定した。鉄損は圧延方向に対して0°、45°、90°、135°に測定した結果の平均値とした。
【0050】
【0051】
【0052】
No.201~No.214は全て発明例であり、いずれも磁気特性が良好であった。特に、No.202~No.204はNo.201、No.205~No.214よりも磁束密度B50が高く、No.205~No.214はNo.201~No.204よりも鉄損W10/400が低かった。
【0053】
本発明者らは、かかる無方向性電磁鋼板の特性を有効に活用できるように積層コアを構成することを検討し、以下に説明する各実施形態を見出した。
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。以下の説明において、特に断りがなければ、電磁鋼板は、(積層コアに使用する電磁鋼板)の項で説明した無方向性電磁鋼板であるものとする。尚、以下の説明では、(積層コアに使用する電磁鋼板)の説明において、圧延方向から45°傾いた方向と、圧延方向から135°傾いた方向を、必要に応じて、圧延方向となす角度のうち小さい方の角度が45°となる2つの方向と総称する。尚、当該45°は、時計回りおよび反時計回りの何れの向きの角度も正の値を有するものとして表記したものである。時計回りの方向を負の方向とし、反時計回りの方向を正の方向とする場合、圧延方向となす角度のうち小さい方の角度が45°となる2つの方向は、圧延方向となす角度が45°、-45°となる2つの方向となる。その他、圧延方向からθ°傾いた方向を、必要に応じて、圧延方向となす角度がθ°の方向と称する。このように、圧延方向からθ°傾いた方向と、圧延方向となす角度がθ°の方向は、同じ意味である。また、以下の説明において、長さ、方向、位置等が同じである(一致する)ことは、(厳密に)同じである(一致する)場合の他、発明の主旨を逸脱しない範囲内(例えば、製造工程において生じる誤差の範囲内)で同じである(一致する)ことも含むものとする。また、各図において、X-Y-Z座標は、各図における向きの関係を示すものである。○の中に●が付されている記号は、紙面の奥側から手前側の向かう方向を示す。
【0054】
(第1の実施形態)
まず、第1の実施形態を説明する。本実施形態では、積層コアがEIコアである場合を例に挙げて説明する。
図1は、積層コア100の外観構成の一例を示す図である。尚、
図1において、Z軸方向に並べて示す「・・・」は、図示されているものがZ軸の負の方向に連続して繰り返し配置されることを指す(このことはその他の図でも同じである)。
図2は、積層コア100の各層における電磁鋼板の配置の一例を示す図である。
図2(a)は、上から(Z軸の正の方向側から数えて)奇数番目の電磁鋼板の配置の一例を示す図である。
図2(b)は、上から偶数番目の電磁鋼板の配置の一例を示す図である。
【0055】
図1および
図2において、積層コア100は、複数のE型の電磁鋼板110と複数のI型の電磁鋼板120とを有する。
積層コア100は、X軸方向を長手方向(延設方向)とし、Y軸方向において間隔を有して配置される3つの脚部210a~210cと、Y軸方向を長手方向(延設方向)とし、X軸方向において間隔を有して配置される2つの継鉄部220a~220bと、を有する。3つの脚部210a~210cの長手方向(X軸方向)の一端に2つの継鉄部220a~220bのうちの一方が配置される。3つの脚部210a~210cの長手方向(X軸方向)の他端に2つの継鉄部220a~220bのうちの他方が配置される。3つの脚部210a~210cと2つの継鉄部220a~220bは、磁気的に結合されている。
図2(a)および
図2(b)に示すように、積層コア100の同一の層における板面の形状は、概ね、EとIを組み合わせた日の字状(四角ばった8の字状、squarish eight shape)となる。
【0056】
E型の電磁鋼板110は、積層コア100の3つの脚部210a~210cと、積層コア100の2つの継鉄部220a~220bのうちの1つとを構成する。E型の電磁鋼板110が構成する3つの脚部210a~210cと、E型の電磁鋼板110が構成する継鉄部220a~220bとは、後述するように一体として切り抜きされるなどして形成されており、後述する境界はない。I型の電磁鋼板120は、積層コア100の2つの継鉄部220a~220bのうちの1つを構成する。I型の電磁鋼板120が構成する継鉄部220a~220bと、E型の電磁鋼板110が構成する3つの脚部210a~210cとには、EとIを組み合わせることによる境界がある。
同じ層に配置されるE型の電磁鋼板110とI型の電磁鋼板120との間隔は短いほど好ましい。同じ層に配置されるE型の電磁鋼板110が構成する3つの脚部210a~210cの先端の板厚部分とI型の電磁鋼板120が構成する継鉄部220a~220bの板厚部分とは接触しているのがより好ましい。
【0057】
E型の電磁鋼板110の磁気特性が最も優れる方向は、E型の電磁鋼板110が構成する3つの脚部210a~210cの長手方向(X軸方向)と、E型の電磁鋼板110が構成する継鉄部220a~220bの長手方向(Y軸方向)との2つの方向と一致する。
I型の電磁鋼板120の磁気特性が最も優れる方向は、I型の電磁鋼板120が構成する継鉄部220a~220bの長手方向(Y軸方向)と一致する。
以下の説明では、磁気特性が最も優れる方向を、必要に応じて磁化容易方向と称する。
【0058】
図3は、E型の電磁鋼板110とI型の電磁鋼板120を、コイル状の状態から巻き戻された電磁鋼板から切り抜く方法の一例を示す図である。尚、以下の説明では、コイル状の状態から巻き戻された電磁鋼板を、必要に応じて単に電磁鋼帯と称する。また、
図3では、説明の都合上、切り抜かれた電磁鋼板に対応する脚部210a~210cおよび継鉄部220a~220bを併せて示す。
図3において、一点鎖線で示す仮想線310は、電磁鋼帯の圧延方向(以下、圧延方向310ともいう)を示す。破線で示す仮想線320a~320bは、電磁鋼帯の磁化容易方向(以下、磁化容易方向320a~320bともいう)を示す。尚、
図3において、仮想線310に平行な方向は、全て電磁鋼帯の圧延方向であり、仮想線320a~320bに平行な方向は、全て電磁鋼帯の磁化容易方向である。
【0059】
前述したように、圧延方向310となす角度が45°となる2つの方向が磁化容易方向である。ここでの圧延方向310とのなす角度は、X軸からY軸に向かう方向(紙面に向かって反時計回りの方向)およびY軸からX軸に向かう方向の何れの方向の角度も正の値の角度である。また、2つの方向のなす角度は、何れも、当該角度のうち小さい方の角度である。
【0060】
図3に示す例では、E型の電磁鋼板110が構成する3つの脚部210a~210cの長手方向が、電磁鋼帯の2つの磁化容易方向320a~320bのうちの一方の磁化容易方向320aに一致し、且つ、E型の電磁鋼板110が構成する継鉄部220a~220bの長手方向が、電磁鋼帯の2つの磁化容易方向320a~320bのうちの他方の磁化容易方向320bに一致するように、E型の電磁鋼板110を構成する領域330a~330bを電磁鋼帯から切り抜く。
図3において、実線が切り抜き位置を示す。なお、例えば製造誤差などの影響により、脚部210a~210cの長手方向と一方の磁化容易方向320aとが厳密には一致していなかったり、継鉄部220a~220bの長手方向と他方の磁化容易方向320bとが厳密には一致していなかったりする場合がある。そのため、脚部210a~210cの長手方向や継鉄部220a~220bの長手方向と、磁化容易方向320a~320bとが一致することには、これらの両方向が厳密には一致していない場合(例えば、±5°以内でずれている場合)も含まれる。以下において、脚部や継鉄部、領域などの長手方向と、磁化容易方向と、が一致するという表現についても同様である。
【0061】
図3に示す例では、2つのE型の電磁鋼板110が構成する3つの脚部210a~210cの先端同士が合うように、2つのE型の電磁鋼板110を構成する領域330a~330bを電磁鋼帯から切り抜く。切り抜きは、例えば、金型を用いた打ち抜き加工や、ワイヤーカット加工等を用いることにより実現される。
また、3つの脚部210a~210cの先端同士が合うように2つのE型の電磁鋼板110を構成する領域330a、330bを電磁鋼帯から切り抜くと、2つのE型の電磁鋼板110が構成する3つの脚部210a~210cの間のI型の領域340a~340bも切り抜かれる。I型の領域340a~340bの長手方向は、電磁鋼帯の2つの磁化容易方向320a~320bのうちの一方の磁化容易方向320aに一致する。そこで、本実施形態では、I型の領域340a~340bを用いてI型の電磁鋼板120を形成する。
【0062】
E型の電磁鋼板110が構成する3つの脚部210a~210cのうち相互に隣り合う2つの脚部210a~210b、210b~210cの(Y軸方向の)間隔が、I型の電磁鋼板120の幅方向(Y軸方向)の長さと同じである場合、I型の領域340a~340bのY軸方向の長さを調整するための加工は不要となる。また、E型の電磁鋼板110が構成する3つの脚部210a~210cの長手方向(X軸方向)の長さが、I型の電磁鋼板120の長手方向(X軸方向)の長さと同じである場合、I型の領域340a~340bを長手方向(X軸方向)の中央の位置で切断することにより、I型の電磁鋼板120の長手方向の領域を定めることができる。
以上のように、E型の電磁鋼板110が構成する3つの脚部210a~210cの間の領域を、I型の電磁鋼板120として利用することにより、電磁鋼帯の領域のうち、E型の電磁鋼板110にもI型の電磁鋼板120にもならない領域を削減することができる。
【0063】
E型の電磁鋼板110が構成する3つの脚部210a~210cのうち相互に隣り合う2つの脚部210a~210b、210b~210cの(Y軸方向の)間隔が、I型の電磁鋼板120の幅方向(Y軸方向)の長さと同じであり、且つ、E型の電磁鋼板110が構成する3つの脚部210a~210cの長手方向(X軸方向)の長さが、I型の電磁鋼板120の長手方向(X軸方向)の長さと同じであるとする。この場合、3つの脚部210a~210cの先端同士が合うように2つのE型の電磁鋼板110を構成する領域330a~330bを電磁鋼帯から切り抜き、当該3つの脚部210a~210cの間のI型の領域340a~340bを長手方向(X軸方向)の中央の位置で切断することにより、E型の電磁鋼板110とI型の電磁鋼板120とがそれぞれ2つずつ形成される。この場合、E型の電磁鋼板110が構成する3つの脚部210a~210cの間の領域をI型の電磁鋼板120として無駄なく利用することができる。
【0064】
図3では、E型の電磁鋼板110とI型の電磁鋼板120とをそれぞれ2つずつ切り抜く様子のみを示す。しかしながら、
図3に示す領域330a~330bが連続的に並ぶようにすることにより、多数のE型の電磁鋼板110およびI型の電磁鋼板120を電磁鋼帯から切り抜くことができる。尚、
図3に示すようにしてE型の電磁鋼板110とI型の電磁鋼板120とを切り抜けば、E型の電磁鋼板110にもI型の電磁鋼板120にもならない領域を削減することができるので好ましい。しかしながら、必ずしも
図3に示すようにしてE型の電磁鋼板110とI型の電磁鋼板120とを切り抜く必要はない。例えば、I型の電磁鋼板が、E型の電磁鋼板が構成する3つの脚部210a~210cのうち相互に隣り合う2つの脚部210a~210b、210b~210cの間の領域からはみ出す場合、I型の電磁鋼板は、電磁鋼帯の当該領域とは別の領域から切り抜かれる。
【0065】
以上のようにして得られる(1枚の)E型の電磁鋼板110と(1枚の)I型の電磁鋼板120とを組み合わせて全体として日の字状とした層を、日の字状の輪郭が相互に合うように積み重なった状態とすることにより積層コア100が構成される。このとき、E型の電磁鋼板110が構成する脚部210a~210cの先端が向く方向が交互に180°反対向きになるように、E型の電磁鋼板110とI型の電磁鋼板120とを組み合わせる。
図1および
図2に示す例では、上から奇数番目の層においては、E型の電磁鋼板110が構成する脚部210a~210cの先端がX軸の正の方向側を向き、上から偶数番目の層においては、E型の電磁鋼板110が構成する脚部210a~210cの先端がX軸の負の方向側を向く。
なおこのように、1枚のE型の電磁鋼板110と1枚のI型の電磁鋼板120とを組み合わせた1つの層(単層)が、E型の電磁鋼板110の脚部210a~210cの先端が向く方向が交互に180°反対向きになるように積層されていてもよい。この単層での積層方法では、以下に示す複数層での積層方法とは異なり、そのまま電磁鋼板の向きを変えずに積層する構造が不要となるため、製造設備を簡素化できる。さらには、前述の層が、E型の電磁鋼板110の脚部210a~210cの先端が向く方向を合わせて複数層、積層された第1の積層体と、前述の層が、E型の電磁鋼板110の脚部210a~210cの先端が向く方向が180°反対向きになるように複数層、積層された第2の積層体と、が交互に積層されていてもよい。この複数層での積層方法を適用すると、コア製作の効率が向上する。
【0066】
図4は、積層コア100を用いて構成される電気機器の構成の一例を示す図である。本実施形態では、電気機器400が単相変圧器である場合を例に挙げて説明する。
図4は、積層コア100の脚部210a~210cの長手方向(X軸方向)の中央において、積層コア100の継鉄部220a~220bの長手方向(Y軸方向)と積層方向(Z軸方向)とに平行に、積層コア100を切断した場合の断面を示す。尚、
図4では、説明および表記の都合上、電気機器400が有する構成の一部を簡略化したり省略したりする。
【0067】
図4において、電気機器400は、積層コア100と、一次コイル410と、二次コイル420とを有する。
一次コイル410の両端には、入力電圧(励磁電圧)が印加される。二次コイル420の両端には、一次コイル410と二次コイル420の巻数比に応じた出力電圧が出力される。電気機器400の励磁周波数(一次コイル410に流す励磁電流の周波数)は、商用周波数であっても、商用周波数を上回る周波数(例えば、100Hz以上10kHz未満の範囲の周波数)であってもよい。
【0068】
一次コイル410は、積層コア100の3つの脚部210a~210cのうち中央の脚部210b(の側面)を周回するように配置される。一次コイル410は、積層コア100および二次コイル420と電気的に絶縁されている。二次コイル420は、一次コイル410の外側において、積層コア100の3つの脚部のうち中央の脚部(の側面)を周回するように配置される。二次コイル420は、積層コア100および一次コイル410と電気的に絶縁されている。
一次コイル410の厚みと二次コイル420の厚みの合計値は、積層コア100の3つの脚部210a~210cのうち相互に隣り合う2つの脚部210a~210b、210b~210cの(Y軸方向の)間隔を下回る。
【0069】
電気機器400を構成する際には、まず、一次コイル410および二次コイル420を作製する。そして、
図4に示すように一次コイル410および二次コイル420を配置する。具体的に、一次コイル410を相対的に内側とし、二次コイル420を相対的に外側として一次コイル410および二次コイル420が同軸になるように、一次コイル410および二次コイル420を配置する。
【0070】
その後、E型の電磁鋼板110の脚部210a~210cの先端が向く方向が交互に180°反対向きになるように、E型の電磁鋼板110の中央の脚部210bを、一次コイル410の中空部に順次挿入すると共に、同一の層において板面の形状がEとIを組み合わせた日の字状になるように、E型の電磁鋼板110が構成する脚部210a~210cの先端にI型の電磁鋼板120を配置する。以上のようにしてE型の電磁鋼板110とI型の電磁鋼板120とを配置することにより、E型の電磁鋼板110の中央の脚部に、一次コイル410および二次コイル420が配置された状態の積層コア100が構成される。このようにすれば、一次コイル410および二次コイル420を構成する電線を、一巻き毎に、積層コア100の3つの脚部210a~210cのうち相互に隣り合う2つの脚部210a~210b、210b~210cの間の領域に通す必要がなくなる。そのため、一次コイル410および二次コイル420を容易に構成することができる。
【0071】
尚、以上のようにして構成される積層コア100は、公知の方法で固定される。例えば、積層コア100の側面(電磁鋼板の板厚部分が露出している面)を覆うように、積層コア100と電気的に絶縁された状態でケースを取り付けることにより、積層コア100を固定することができる。また、積層コア100の板面の四隅の部分に、積層方向に貫通する貫通孔を形成し、積層コア100と電気的に絶縁された状態で当該貫通孔にボルトを通してボルト締めを行うことにより、積層コア100を固定することができる。また、積層コア100にカシメを設けて積層コア100を固定してもよい。また、積層コア100の側面を溶接して積層コア100を固定してもよい。また、ワニス等の絶縁材料を用いて電気機器400に対し含浸処理を行ってもよい。
また、(積層コアに使用する電磁鋼板)の項で説明したように、積層コア100に対して歪取焼鈍が行われる。
【0072】
以上のように本実施形態では、E型の電磁鋼板110が構成する3つの脚部210a~210cの長手方向(X軸方向)と、E型の電磁鋼板110が構成する継鉄部220a~220bの長手方向(Y軸方向)との2つの方向が磁化容易方向320a~320bの何れかの方向(
図1~
図3に示す例では磁化容易方向320aまたは320b)と一致し、I型の電磁鋼板120が構成する継鉄部220a~220bの長手方向(Y軸方向)が磁化容易方向320a~320bの何れかの方向(
図1~
図3に示す例では磁化容易方向320a)に一致するように、E型の電磁鋼板110およびI型の電磁鋼板120を構成する。そして、脚部210a~210cの長手方向が磁化容易方向320a~320bの何れかの方向(
図1~
図3に示す例では磁化容易方向320a)に一致し、且つ、継鉄部220a~220bの長手方向が磁化容易方向320a~320bの何れかの方向(
図1~
図3に示す例では磁化容易方向320aまたは320b)に一致するように、E型の電磁鋼板110およびI型の電磁鋼板120を組み合わせて積層コア100を構成する。従って、(積層コアに使用する電磁鋼板)の項で説明した無方向性電磁鋼板の特性を有効に活用した積層コア100および電気機器400を実現することができる。
【0073】
本実施形態では、E型の電磁鋼板110が構成する脚部210a~210cの先端が向く方向が交互に180°反対向きになるように、E型の電磁鋼板110とI型の電磁鋼板120とを組み合わせる場合を例に挙げて説明した。このようにすれば、E型の電磁鋼板110とI型の電磁鋼板120との境界が積層方向において並ばないようにすることができる。よって、積層コア100の鉄損や唸りの低減等を図ることができるので好ましい。しかしながら、必ずしもこのようにする必要はない。E型の電磁鋼板110の先端が向く方向が同じになるように、E型の電磁鋼板110とI型の電磁鋼板120とを組み合わせてもよい。このようにする場合も、前述したように、同じ層に配置されるE型の電磁鋼板110とI型の電磁鋼板120との間隔は短いほど好ましく、同じ層に配置されるE型の電磁鋼板110が構成する3つの脚部210a~210cの先端の板厚部分とI型の電磁鋼板120が構成する継鉄部220a~220bの板厚部分とは接触しているのがより好ましい。ただし、積層コアの磁気飽和を抑制するため、同じ層に配置されるE型の電磁鋼板110が構成する3つの脚部210a~210cの先端の板厚部分とI型の電磁鋼板120が構成する継鉄部220a~220bの板厚部分との間に空隙を設けたり、絶縁材を配置したりすることがある。
【0074】
また、本実施形態では、電気機器400が単相変圧器である場合を例に挙げて説明した。しかしながら、積層コア100と、積層コア100に対して周回するように配置されるコイルとを有する電気機器であれば、電気機器400は単相変圧器に限定されない。例えば、電気機器400は、単相変流器であっても、単相変成器であっても、リアクトルであっても、チョークコアであっても、その他のインダクタであってもよい。また、電気機器400を駆動するための電源は単相電源に限定されず、例えば、三相電源であってもよい。この場合、前述した説明において、単相は三相に置き換わる。また、コイルは、各相に対して個別に設けられる。例えば、積層コア100の3つの脚部210a~210cのそれぞれを周回するようにコイルを配置し、内鉄型の電気機器としてもよい。
【0075】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態を説明する。第1の実施形態では、積層コアがEIコアである場合を例に挙げて説明した。これに対し、本実施形態では、積層コアがEEコアである場合を例に挙げて説明する。このように本実施形態と第1の実施形態は、積層コアを構成する電磁鋼板が主として異なる。従って、本実施形態の説明において、第1の実施形態と同一の部分については、
図1~
図4に付した符号と同一の符号を付す等して詳細な説明を省略する。
【0076】
図5は、積層コア500の外観構成の一例を示す図である。
図6は、積層コア500の各層における電磁鋼板の配置の一例を示す図である。
図5および
図6において、積層コア500は、複数のE型の電磁鋼板510を有する。
積層コア500は、X軸方向を長手方向とし、Y軸方向において間隔を有して配置される3つの脚部610a~610cと、Y軸方向を長手方向とし、X軸方向において間隔を有して配置される2つの継鉄部620a~620bと、を有する。3つの脚部610a~610cの長手方向(X軸方向)の一端に2つの継鉄部620a~620bのうちの一方が配置される。3つの脚部610a~610cの長手方向(X軸方向)の他端に2つの継鉄部620a~620bのうちの他方が配置される。3つの脚部610a~610cと2つの継鉄部620a~620bは、磁気的に結合されている。
図6に示すように、積層コア500の同一の層における板面の形状は、概ね、2つのEを組み合わせた日の字状となる。
【0077】
E型の電磁鋼板510は、積層コア500の3つの脚部610a~610cの領域のうち当該脚部の長手方向(X軸方向)の半分と、積層コア500の2つの継鉄部620a~620bのうちの1つとを構成する。即ち、E型の電磁鋼板510が構成する3つの脚部610a~610cの長手方向の長さは、積層コア500の3つの脚部610a~610cの長手方向の長さの半分である。また、
図5および
図6に示すように、E型の電磁鋼板510が構成する3つの脚部610a~610cと、E型の電磁鋼板110が構成する継鉄部620a~620bとには境界はない。
【0078】
一方、
図5に示すように、E型の電磁鋼板510が構成する3つの脚部610a~610cの先端の位置に境界がある。即ち、積層コア500の脚部610a~610cの長手方向(X軸方向)の中央の位置に境界がある。同じ層に配置されるE型の電磁鋼板510の3つの脚部610a~610cの先端の間隔は短いほど好ましい。同じ層に配置されるE型の電磁鋼板510が構成する3つの脚部610a~610cの先端の板厚部分同士は接触しているのがより好ましい。ただし、積層コア500の磁気飽和を抑制するため、同じ層に配置されるE型の電磁鋼板510が構成する3つの脚部610a~610cの先端の板厚部分同士の間に空隙を設けたり、絶縁材を配置したりすることがある。
【0079】
E型の電磁鋼板510の磁化容易方向は、E型の電磁鋼板510が構成する3つの脚部610a~610cの長手方向(X軸方向)と、E型の電磁鋼板110が構成する継鉄部620a~620bの長手方向(Y軸方向)との2つの方向と一致する。
【0080】
図7は、E型の電磁鋼板510を、電磁鋼帯から切り抜く方法の一例を示す図である。
図7において、一点鎖線で示す仮想線710は、電磁鋼帯の圧延方向(以下、圧延方向710ともいう)を示す。破線で示す仮想線720a~720bは、電磁鋼帯の磁化容易方向(以下、磁化容易方向720a~720bともいう)を示す。尚、
図7において、仮想線710に平行な方向は、全て電磁鋼帯の圧延方向であり、仮想線720a~720bに平行な方向は、全て電磁鋼帯の磁化容易方向である。また、
図7では、説明の都合上、切り抜かれた電磁鋼板に対応する脚部610a~610cおよび継鉄部620a~620bを併せて示す。
【0081】
前述したように、圧延方向710となす角度が45°となる2つの方向が磁化容易方向である。
図7に示す例では、E型の電磁鋼板510が構成する3つの脚部610a~610cの長手方向が、電磁鋼帯の2つの磁化容易方向720a~720bのうちの一方の磁化容易方向720aに一致し、且つ、E型の電磁鋼板510が構成する継鉄部620a~620bの長手方向が、電磁鋼帯の2つの磁化容易方向720a~720bのうちの他方の磁化容易方向720bに一致するように、E型の電磁鋼板510を構成する領域730a~730eを電磁鋼帯から切り抜く。
図7において、実線が切り抜き位置を示す。尚、表記の都合上、
図7では、E型の電磁鋼板510を構成する領域730d~730eの一部の図示を省略する。
【0082】
図7に示す例では、E型の電磁鋼板510が構成する3つの脚部のうち相互に隣り合う2つの脚部610a~610b、610b~610cの間に、当該E型の電磁鋼板510とは別のE型の電磁鋼板510が構成する3つの脚部610a~610cのうち一方の端に位置する脚部が位置するように、E型の電磁鋼板510を構成する領域730a~730eを電磁鋼帯から切り抜く。
以上のように、E型の電磁鋼板510が構成する3つの脚部610a~610cの間の領域を、当該E型の電磁鋼板510とは別のE型の電磁鋼板510が構成する3つの脚部610a~610cのうち一方の端の脚部として利用することにより、電磁鋼帯の領域のうち、E型の電磁鋼板510にならない領域を削減することができる。
【0083】
E型の電磁鋼板510が構成する3つの脚部610a~610cのうち相互に隣り合う2つの脚部610a~610b、610b~610cの(Y軸方向の)間隔が、E型の電磁鋼板510が構成する3つの脚部610a~610cのうち中央に位置しない脚部610a、610cの幅(Y軸方向の長さ)と同じである場合、E型の電磁鋼板510が構成する3つの脚部610a~610cのうち中央に位置しない脚部610a、610cの幅を調整するための加工は不要となる。この場合、E型の電磁鋼板510が構成する3つの脚部610a~610cの間の領域を当該E型の電磁鋼板510とは別のE型の電磁鋼板510の3つの脚部610a~610cのうち一方の端の脚部として無駄なく利用することができる。
【0084】
図7では、E型の電磁鋼板510を5つ切り抜く様子のみを示すが、
図7に示す領域730a~730eが連続的に並ぶようにすることにより、多数のE型の電磁鋼板510を電磁鋼帯から切り抜くことができる。尚、
図7に示すようにしてE型の電磁鋼板510を切り抜けば、E型の電磁鋼板510にならない領域を削減することができるので好ましい。しかしながら、必ずしも
図7に示すようにしてE型の電磁鋼板510を切り抜く必要はない。例えば、E型の電磁鋼板が構成する3つの脚部610a~610cのうち中央に位置しない脚部610a、610cが、E型の電磁鋼板が構成する3つの脚部610a~610cのうち相互に隣り合う2つの脚部610a~610b、610b~610cの間の領域からはみ出す場合、E型の電磁鋼板が構成する3つの脚部610a~610cのうち相互に隣り合う2つの脚部610a~610b、610b~610cの間の領域は、当該E型の電磁鋼板とは別のE型の電磁鋼板には使用されない。
【0085】
以上のようにして得られる2枚のE型の電磁鋼板510を、当該電磁鋼板510の脚部610a~610cの先端同士が対向するように組み合わせて全体として日の字状とした層を、日の字状の輪郭が相互に合うように積み重なった状態とすることにより積層コア500が構成される。
【0086】
積層コア500を用いて構成される電気機器は、第1の実施形態の電気機器400の積層コア100に代えて本実施形態の積層コア500を用いることにより実現される。ただし、本実施形態では、積層コア500を構成する際に、積層方向(高さ方向、Z軸方向)の長さが、積層コア500の積層方向の長さと同じになるように、複数のE型の電磁鋼板510を、相互に輪郭が合うように積み重ねたものを2組用意する。以下の説明では、このようにして積み重ねられた2組の複数のE型の電磁鋼板510を、必要に応じて、E型の電磁鋼板群と称する。
【0087】
第1の実施形態で説明したように、
図4に示すようにして一次コイル410および二次コイル420を配置した後、2組のE型の電磁鋼板群の脚部610a~610cの先端が向く方向が180°反対向きになるように、E型の電磁鋼板群の中央の脚部610bを、一次コイル410の中空部に挿入する。このようにすることにより、同一の層において板面の形状が2つのEを組み合わせた日の字状になる。
また、(積層コアに使用する電磁鋼板)の項で説明したように、積層コア500に対して歪取焼鈍が行われる。
【0088】
以上のように本実施形態では、E型の電磁鋼板510が構成する3つの脚部610a~610cの長手方向(X軸方向)と、E型の電磁鋼板510が構成する継鉄部620a~620bの長手方向(Y軸方向)との2つの方向が磁化容易方向720a~720bの何れかの方向(
図5~
図7に示す例では磁化容易方向720aまたは720b)と一致するように、E型の電磁鋼板510を構成する。そして、脚部610a~610cの長手方向が磁化容易方向720a~720bの何れかの方向(
図5~
図7に示す例では磁化容易方向720a)に一致し、且つ、継鉄部620a~620bの長手方向が磁化容易方向720a~720bの何れかの方向(
図5~
図7に示す例では磁化容易方向720b)に一致するように、E型の電磁鋼板510を組み合わせて積層コア500を構成する。従って、積層コアをEEコアとしても、積層コアをEIコアとする場合と同様の効果を奏することができる。
尚、本実施形態においても、第1の実施形態で説明した種々の変形例を採用することができる。
【0089】
(第3の実施形態)
次に、第3の実施形態を説明する。第1の実施形態では、積層コアがEIコアであり、第2の実施形態では、積層コアがEEコアである場合を例に挙げて説明した。これに対し、本実施形態では、積層コアがUIコアである場合を例に挙げて説明する。このように本実施形態と第1~第2の実施形態は、積層コアを構成する電磁鋼板が主として異なる。従って、本実施形態の説明において、第1~第2の実施形態と同一の部分については、
図1~
図7に付した符号と同一の符号を付す等して詳細な説明を省略する。
【0090】
図8は、積層コア800の外観構成の一例を示す図である。
図9は、積層コア800の各層における電磁鋼板の配置の一例を示す図である。
図9(a)は、上から(Z軸の正の方向側から数えて)奇数番目の電磁鋼板の配置の一例を示す図である。
図9(b)は、上から偶数番目の電磁鋼板の配置の一例を示す図である。尚、
図9では、説明の都合上、切り抜かれた電磁鋼板に対応する脚部810a~810bおよび継鉄部820a~820bを併せて示す。
【0091】
図8および
図9において、積層コア800は、複数のU型の電磁鋼板810と複数のI型の電磁鋼板820とを有する。
積層コア800は、X軸方向を長手方向とし、Y軸方向において間隔を有して配置される2つの脚部910a~910bと、Y軸方向を長手方向とし、X軸方向において間隔を有して配置される2つの継鉄部920a~920bと、を有する。2つの脚部910a~910bの長手方向(X軸方向)の一端に2つの継鉄部920a~920bのうちの一方が配置される。2つの脚部910a~910bの長手方向(X軸方向)の他端に2つの継鉄部920a~920bのうちの他方が配置される。2つの脚部910a~910bと2つの継鉄部920a~920bは、磁気的に結合されている。
図9(a)および
図9(b)に示すように、積層コア800の同一の層における板面の形状は、概ね、UとIを組み合わせた口の字状(矩形状、square shape)となる。
【0092】
U型の電磁鋼板810は、積層コア800の2つの脚部910a~910bと、積層コア800の2つの継鉄部920a~920bのうちの1つとを構成する。U型の電磁鋼板810が構成する2つの脚部910a~910bと、U型の電磁鋼板810が構成する継鉄部920a~920bとには境界はない。I型の電磁鋼板820は、積層コア800の2つの継鉄部のうちの1つを構成する。I型の電磁鋼板820が構成する継鉄部920a~920bと、U型の電磁鋼板810が構成する2つの脚部910a~910bとには境界がある。
同じ層に配置されるU型の電磁鋼板810とI型の電磁鋼板820との間隔は短いほど好ましい。同じ層に配置されるU型の電磁鋼板810が構成する2つの脚部910a~910bの先端の板厚部分とI型の電磁鋼板820が構成する継鉄部920a~920bの板厚部分とは接触しているのがより好ましい。
【0093】
U型の電磁鋼板810の磁化容易方向は、U型の電磁鋼板810が構成する2つの脚部910a~910bの長手方向(X軸方向)と、U型の電磁鋼板810が構成する継鉄部920a~920bの長手方向(Y軸方向)との2つの方向と一致する。
I型の電磁鋼板820の磁化容易方向は、I型の電磁鋼板820が構成する継鉄部920a~920bの長手方向(Y軸方向)と一致する。
【0094】
図10は、U型の電磁鋼板810とI型の電磁鋼板820を、電磁鋼帯から切り抜く方法の一例を示す図である。
図10において、一点鎖線で示す仮想線1010は、電磁鋼帯の圧延方向(以下、圧延方向1010ともいう)を示す。破線で示す仮想線1020a~1020bは、電磁鋼帯の磁化容易方向(以下、磁化容易方向1020a~1020bともいう)を示す。尚、
図10において、仮想線1010に平行な方向は、全て電磁鋼帯の圧延方向であり、仮想線1020a~1020bに平行な方向は、全て電磁鋼帯の磁化容易方向である。
【0095】
前述したように、圧延方向1010となす角度が45°となる2つの方向が磁化容易方向である。
図10に示す例では、U型の電磁鋼板810が構成する2つの脚部910a~910bの長手方向が、電磁鋼帯の2つの磁化容易方向1020a~1020bのうちの一方の磁化容易方向1020aに一致し、且つ、U型の電磁鋼板810が構成する継鉄部920a~920bの長手方向が、電磁鋼帯の2つの磁化容易方向1020a~1020bのうちの他方の磁化容易方向1020bに一致するように、U型の電磁鋼板810を構成する領域1030a、1030bを電磁鋼帯から切り抜く。
図10において、実線が切り抜き位置を示す。
【0096】
図10に示す例では、2つのU型の電磁鋼板810が構成する2つの脚部910a~910bの先端同士が合うように、2つのU型の電磁鋼板810を構成する領域1030a~1030bを電磁鋼帯から切り抜く。
また、2つの脚部910a~910bの先端同士が合うように2つのU型の電磁鋼板810を構成する領域1030a~1030bを電磁鋼帯から切り抜くと、2つのU型の電磁鋼板810が構成する2つの脚部910a~910bの間のI型の領域1040も切り抜かれる。I型の領域1040の長手方向は、電磁鋼帯の2つの磁化容易方向1020a~1020bのうちの一方の磁化容易方向1020aに一致する。そこで、本実施形態では、I型の領域1040を用いてI型の電磁鋼板820を形成する。
【0097】
U型の電磁鋼板810が構成する2つの脚部910a~910bの(Y軸方向の)間隔が、I型の電磁鋼板820の幅方向(Y軸方向)の長さの2倍である場合、I型の領域1040を幅方向(Y軸方向)の中央の位置で切断することにより、I型の電磁鋼板820の幅方向の領域を定めることができる。また、U型の電磁鋼板810が構成する2つの脚部910a~910bの長手方向(X軸方向)の長さが、I型の電磁鋼板820の長手方向(X軸方向)の長さと同じである場合、I型の領域1040を長手方向(X軸方向)の中央の位置で切断することにより、I型の電磁鋼板820の長手方向の領域を定めることができる。
以上のように、U型の電磁鋼板810が構成する2つの脚部910a~910bの間の領域を、I型の電磁鋼板820として利用することにより、電磁鋼帯の領域のうち、U型の電磁鋼板810にもI型の電磁鋼板820にもならない領域を削減することができる。
【0098】
U型の電磁鋼板810が構成する2つの脚部910a~910bの(Y軸方向の)間隔が、I型の電磁鋼板820の幅方向(Y軸方向)の長さの2倍であり、且つ、U型の電磁鋼板810が構成する2つの脚部910a~910bの長手方向(X軸方向)の長さが、I型の電磁鋼板820の長手方向(X軸方向)の長さと同じであるとする。この場合、2つの脚部910a~910bの先端同士が合うように2つのU型の電磁鋼板810を構成する領域1030a~1030bを電磁鋼帯から切り抜き、当該2つの脚部910a~910bの間のI型の領域1040を長手方向(X軸方向)および幅方向(Y軸方向)の中央の位置で4つに切断することにより、U型の電磁鋼板810が2つ形成され、I型の電磁鋼板820が4つ形成される。この場合、U型の電磁鋼板810が構成する2つの脚部910a~910bの間の領域をI型の電磁鋼板820として無駄なく利用することができる。
【0099】
図10では、U型の電磁鋼板810を2つ切り抜き、I型の電磁鋼板820を4つ切り抜く様子のみを示す。しかしながら、
図10に示す領域1030a~1030bが連続的に並ぶようにすることにより、多数のU型の電磁鋼板810およびI型の電磁鋼板820を電磁鋼帯から切り抜くことができる。尚、
図10に示すようにしてU型の電磁鋼板810とI型の電磁鋼板820とを切り抜けば、U型の電磁鋼板810にもI型の電磁鋼板820にもならない領域を削減することができるので好ましい。しかしながら、必ずしも
図10に示すようにしてU型の電磁鋼板810とI型の電磁鋼板820とを切り抜く必要はない。例えば、I型の電磁鋼板が、U型の電磁鋼板が構成する2つの脚部910a~910bの間の領域からはみ出す場合、I型の電磁鋼板は、電磁鋼帯の当該領域とは別の領域から切り抜かれる。
【0100】
以上のようにして得られる(1枚の)U型の電磁鋼板810と(1枚の)I型の電磁鋼板820とを組み合わせて全体として口の字状とした層を、口の字状の輪郭が相互に合うように積み重なった状態とすることにより積層コア800が構成される。このとき、U型の電磁鋼板810が構成する脚部910a~910bの先端が向く方向が交互に180°反対向きになるように、U型の電磁鋼板810とI型の電磁鋼板820とを組み合わせる。
図8および
図9に示す例では、上から奇数番目の層においては、U型の電磁鋼板810が構成する脚部910a~910bの先端がX軸の正の方向側を向き、上から偶数番目の層においては、U型の電磁鋼板810が構成する脚部910a~910bの先端がX軸の負の方向側を向く。
【0101】
図11は、積層コア800を用いて構成される電気機器の構成の一例を示す図である。本実施形態でも第1の実施形態と同様に、電気機器1100が単相変圧器である場合を例に挙げて説明する。
図11は、積層コア800が構成する脚部910a~910bの長手方向(X軸方向)の中央において、積層コア800が構成する継鉄部920a~920bの長手方向(Y軸方向)と積層方向(Z軸方向)とに平行に、積層コア800を切断した場合の断面を示す。尚、
図11では、説明および表記の都合上、電気機器1100が有する構成の一部を簡略化したり省略したりする。
【0102】
図11において、電気機器1100は、積層コア800と、一次コイル1110a~1110bと、二次コイル1120a~1120bとを有する。
一次コイル1110a~1110bは、直列または並列に接続される。直列または並列に接続された一次コイル1110a~1110bの両端には入力電圧(励磁電圧)が印加される。二次コイル1120a~1120bは、直列または並列に接続される。直列または並列に接続された二次コイル1120a~1120bの両端には、直列または並列に接続された一次コイル1110a~1110bと直列または並列に接続された二次コイル1120a~1120bの巻数比に応じた出力電圧が出力される。
【0103】
一次コイル1110aは、積層コア800の2つの脚部910a~910bのうち一方の脚部910a(の側面)を周回するように配置される。一次コイル1110aは、積層コア800および二次コイル1120a、1120bと電気的に絶縁されている。一次コイル1110bは、積層コア800の2つの脚部910a~910bのうち他方の脚部910b(の側面)を周回するように配置される。一次コイル1110bは、積層コア800および二次コイル1120a、1120bと電気的に絶縁されている。二次コイル1120aは、一次コイル1110aの外側において、積層コア800の2つの脚部910a~910bのうち一方の脚部910a(の側面)を周回するように配置される。二次コイル1120aは、積層コア800および一次コイル1110a、1110bと電気的に絶縁されている。二次コイル1120bは、一次コイル1110bの外側において、積層コア800の2つの脚部910a~910bのうち他方の脚部910b(の側面)を周回するように配置される。二次コイル1120bは、積層コア800および一次コイル1110a、1110bと電気的に絶縁されている。
一次コイル1110a~1110bの厚みと二次コイル1120a~1120bの厚みの合計値は、積層コア800の2つの脚部の(Y軸方向の)間隔を下回る。
【0104】
電気機器1100を構成する際には、まず、一次コイル1110a~1110bおよび二次コイル1120a~1120bを作製する。そして、
図11に示すように一次コイル1110a~1110bおよび二次コイル1120a~1120bを配置する。具体的に、一次コイル1110aを相対的に内側とし、二次コイル1120aを相対的に外側として一次コイル1110aおよび二次コイル1120aが同軸になるように、一次コイル1110aおよび二次コイル1120aを配置する。同様に、一次コイル1110bを相対的に内側とし、二次コイル1120bを相対的に外側として一次コイル1110bおよび二次コイル1120bが同軸になるように、一次コイル1110bおよび二次コイル1120bを配置する。
【0105】
その後、U型の電磁鋼板810が構成する脚部910a~910bの先端が向く方向が交互に180°反対向きになるように、U型の電磁鋼板810が構成する一方・他方の脚部910a~910bを、それぞれ、一次コイル1110a・1110bの中空部に順次挿入すると共に、同一の層において板面の形状がUとIを組み合わせた口の字状になるように、U型の電磁鋼板810が構成する脚部910a~910bの先端にI型の電磁鋼板820を配置する。以上のようにしてU型の電磁鋼板810とI型の電磁鋼板820とを配置することにより、U型の電磁鋼板810が構成する一方・他方の脚部に、それぞれ、一次コイル1110aおよび二次コイル1120a・一次コイル1110bおよび二次コイル1120bが配置された状態の積層コア800が構成される。このようにすれば、一次コイル1110a~1110bおよび二次コイル1120a~1120bを構成する電線を、一巻き毎に、積層コア800の2つの脚部910a~910bの間の領域に通す必要がなくなる。そのため、一次コイル1110a~1110bおよび二次コイル1120a~1120bを容易に構成することができる。
尚、積層コア800の固定は、第1の実施形態で説明したように、公知の方法で実現することができる。また、(積層コアに使用する電磁鋼板)の項で説明したように、積層コア800に対して歪取焼鈍が行われる。
【0106】
以上のように本実施形態では、U型の電磁鋼板810が構成する2つの脚部910a~910bの長手方向(X軸方向)と、U型の電磁鋼板810が構成する継鉄部920a~920bの長手方向(Y軸方向)との2つの方向が磁化容易方向1020a~1020bの何れかの方向(
図8~
図10に示す例では磁化容易方向1020aまたは1020b)と一致し、I型の電磁鋼板820が構成する継鉄部920a~920bの長手方向(Y軸方向)が磁化容易方向1020a~1020bの何れかの方向(
図8~
図10に示す例では磁化容易方向1020a)と一致するように、U型の電磁鋼板810およびI型の電磁鋼板820を構成する。そして、脚部910a~910bの長手方向が磁化容易方向1020a~1020bの何れかの方向(
図8~
図10に示す例では磁化容易方向1020a)に一致し、且つ、継鉄部920a~920bの長手方向が磁化容易方向1020a~1020bの何れかの方向(
図8~
図10に示す例では磁化容易方向1020aまたは1020b)に一致するように、U型の電磁鋼板810およびI型の電磁鋼板820を組み合わせて積層コア800を構成する。従って、積層コアをUIコアとしても、積層コアをEIコアやEEコアとする場合と同様の効果を奏することができる。
【0107】
本実施形態では、積層コア800の2つの脚部910a~910bのそれぞれにコイル(一次コイル1110a~1110bおよび二次コイル1120a~1120b)を配置する場合を例に挙げて説明した。しかしながら、必ずしもこのようにする必要はない。例えば、積層コア800の2つの脚部910a~910bのうち、一方の脚部にコイルを配置し、他方の脚部にコイルを配置しなくてもよい。また、2つの積層コア800を用いて外鉄型の電気機器としてもよい。このようにする場合、2つの積層コア800の中空部にコイルが配置される。
尚、本実施形態において、U型の電磁鋼板810の角部は直角であり(屈曲しており)、厳密にはU型ではないが、このような形状もU型に含まれるものとする(角部が曲率を有する(湾曲している)形状もU型に含まれる)。
また、本実施形態においても、第1~第2の実施形態で説明した種々の変形例を採用することができる。
【0108】
積層コアの構成は、第1~第3の実施形態で説明したEIコア、EEコア、UIコアに限定されない。複数の脚部と、複数の継鉄部と、を有し、電磁鋼板の積層方向の同じ位置において、複数の脚部の少なくとも一部の領域と複数の継鉄部の少なくとも一部の領域とが同一(1枚)の電磁鋼板で構成されていれば、どのような積層コアであってもよい。すなわち、積層コアは、積層方向の各々の位置において互いに直交して延びる脚部および継鉄部それぞれの少なくとも一部同士が、それぞれ、例えば同一の電磁鋼帯から切り出されたものである場合など同じ特性を有すると評価できる電磁鋼板によって形成された構成であればよい。具体的には、電磁鋼帯を製造する際に各設備に設定される圧延条件や冷却条件といった電磁鋼板の特性に影響を与え得る製造条件が同じであれば、個々の電磁鋼帯は同一の特性を有すると評価可能である。つまり、各々の電磁鋼板は、積層コアにおける電磁鋼板の積層方向の同じ位置(各々の位置)において、複数の脚部の少なくとも一部の領域と複数の継鉄部の少なくとも一部の領域とが、同じ製造条件で製造さている。この電磁鋼板において、脚部の延設方向および継鉄部の延設方向の何れかに、電磁鋼板の磁気特性が最も優れる2つの方向のうちの何れかの方向が沿うことで、磁気特性が向上された積層コアが製造される。
【0109】
ただし、複数の継鉄部は、積層コアが励磁された際に、積層コアにおいて閉磁路が形成されるように、脚部の延設方向に対し垂直な方向を延設方向として配置される。また、電磁鋼板は、板面が相互に対向するように積層される。尚、このような積層コアにおいては、電磁鋼板の積層方向の同じ位置において同一の電磁鋼板で構成されている領域(脚部の少なくとも一部の領域と継鉄部の少なくとも一部の領域との間)には境界がなく、当該領域は、一続きの領域となっている。また、積層コアが励磁された際に、積層コアの内部において主磁束が流れる方向は、脚部の延設方向および継鉄部の延設方向を含む。
【0110】
例えば、第1~第3の実施形態では、同じ層(積層方向が同じ位置)において、2枚の電磁鋼板(E型の電磁鋼板110・I型の電磁鋼板120、E型の電磁鋼板510・E型の電磁鋼板510、U型の電磁鋼板810・I型の電磁鋼板820)の相互に対向する面は、当該2枚の電磁鋼板の少なくとも一方の電磁鋼板が構成する脚部の長手方向に垂直な方向の面(Y-Z平面)である場合を例に挙げて説明した。しかしながら、同じ層において、2枚の電磁鋼板が相互に対向する面は、相互に平行な面であれば、必ずしも、当該2枚の電磁鋼板の少なくとも一方の電磁鋼板が構成する脚部の長手方向に垂直な方向の面(Y-Z平面)でなくてもよく、当該方向に対して傾斜した方向の面であってもよい(例えば、
図2において、E型の電磁鋼板110およびI型の電磁鋼板120の境界線が、Y軸に対して傾斜していてもよい)。
【0111】
また、第2の実施形態では、同じ形状および大きさの2組のE型の電磁鋼板群を用いてEEコアを構成する場合を例に挙げて説明した。しかしながら、2組のE型の電磁鋼板群の脚部の長さは異なっていてもよい。
【0112】
また、積層コアは、UUコアであってもよい。この場合、例えば、複数のU型の電磁鋼板810を相互に輪郭が合うように積み重ねたU型の電磁鋼板群を2組用意し、2組の電磁鋼板群の脚部の先端が向く方向が180°反対向きになるように、2組の電磁鋼板群が配置されるようにする。また、積層コアをUIコアとする場合も、EEコアについて説明した場合と同様に、2組の電磁鋼板群の脚部の長さは異なっていてもよい。
【0113】
また、第1~第3の実施形態では、同じ層(積層方向が同じ位置)において、2枚の電磁鋼板(E型の電磁鋼板110・I型の電磁鋼板120、E型の電磁鋼板510・E型の電磁鋼板510、U型の電磁鋼板810・I型の電磁鋼板820)を組み合わせることにより、積層コア100、500、800を構成する場合を例に挙げて説明した。しかしながら、同じ層において、3枚の電磁鋼板を組み合わせることにより、積層コアを構成してもよい。
【0114】
このように、同じ層において、複数枚の電磁鋼板を組み合わせることにより、積層コアを構成すれば、前述したようにコイル(一次コイル410・二次コイル420、一次コイル1110a~1110b・二次コイル1120a~1120b)を容易に構成することができるので好ましい。しかしながら、必ずしもこのようにする必要はない。例えば、板面の形状が日の字状または口の字状の(1枚の)電磁鋼板として、同じ大きさおよび形状の電磁鋼板を複数用意し、当該複数の電磁鋼板を、輪郭が相互に合うように積み重なった状態とすることにより積層コアを構成してもよい。この場合、電磁鋼板の積層方向の同じ位置において、複数の脚部および複数の継鉄部の全ての領域が同一(1枚)の電磁鋼板で構成される。
【0115】
あるいは、積層コアの同一の層における板面の外形状が、四角ばった8の字状の場合であって、同一の層が複数の電磁鋼板によって形成されているとき、同一の層を形成する複数の電磁鋼板が、E型の電磁鋼板とI型の電磁鋼板以外の形状の電磁鋼板を含んでいてもよい(例えば、同一の層が、U型の電磁鋼板とT型の電磁鋼板によって形成されていてもよい)。さらに、積層コアの同一の層における板面の外形状が矩形状の場合であって、同一の層が複数の電磁鋼板によって形成されているとき、同一の層を形成する複数の電磁鋼板が、U型の電磁鋼板とI型の電磁鋼板以外の形状の電磁鋼板を含んでいてもよい(例えば、同一の層が、L型の電磁鋼板2枚によって形成されていてもよい)。また、積層コアの同一の層が、複数の電磁鋼板によって形成されている場合、これらの複数の電磁鋼板が、必ずしも同一の電磁鋼帯から切り出されていなくてもよい。例えば、互いに異なるコイルを形成する電磁鋼帯(製造ロットが異なる電磁鋼帯)から切り出された複数の電磁鋼板が、同一の層を形成してもよい。またこのような場合において、互いに直交して延びる脚部および継鉄部それぞれの少なくとも一部同士を形成する1枚の電磁鋼板が、前述した(積層コアに使用する電磁鋼板)の項で説明した無方向性電磁鋼板であれば、他の電磁鋼板は、(積層コアに使用する電磁鋼板)の項で説明した無方向性電磁鋼板でなくてもよい。
【0116】
(実施例)
次に、実施例を説明する。本実施例では、(積層コアに使用する電磁鋼板)の項で説明した電磁鋼板を用いてEIコアとした積層コアと、公知の無方向性電磁鋼板を用いてEIコアとした積層コアとを比較した。何れの電磁鋼板も、厚さは0.25mmである。公知の無方向性電磁鋼板として、W10/400が12.8W/kgの無方向性電磁鋼板を用いた。W10/400は、磁束密度が1.0T、周波数が400Hzのときの鉄損である。また、当該公知の無方向性電磁鋼板は、圧延方向の磁気特性が最も優れており、磁気特性の異方性は比較的小さい。以下の説明では、当該公知の無方向性電磁鋼板を、必要に応じて素材Aと称する。また、(積層コアに使用する電磁鋼板)の項で説明した電磁鋼板であって、本実施例の積層コアに用いた電磁鋼板を、必要に応じて素材Bと称する。
【0117】
図12は、B50比率と、圧延方向からの角度との関係の一例を示す図である。
図13は、W15/50比率と、圧延方向からの角度との関係の一例を示す図である。ここで、B50は、磁界の強さ5000A/mで励磁したときの磁束密度であり、W15/50は、磁束密度が1.5T、周波数が50Hzのときの鉄損である。ここでは、磁束密度および鉄損を、JIS C 2556:2015に記載の手法で測定した。
【0118】
また、
図12および
図13では、各素材の圧延方向からの角度毎の測定値(磁束密度または鉄損)を規格化した値を示す。規格化にあたっては、素材Aの圧延方向からの角度毎の平均値を1.000として規格化した。素材Aの圧延方向からの角度毎の平均値は、素材Aの圧延方向となす角度が0°、22.5°、45°、67.5°、90°、112.5°、135°、157.5°の8つの角度における測定値の平均値とした。このように、
図12および
図13の縦軸の値は、相対値(無次元量)である。
【0119】
図12に示すように、素材Bでは、圧延方向となす角度が45°であるときのB50比率が最も大きく、圧延方向となす角度が0°、90°に近付くほどB50比率は小さくなる。
一方、素材Aでは、圧延方向となす角度が45°~90°近傍においてB50比率は小さくなる。
【0120】
図13に示すように、素材Bでは、圧延方向となす角度が45°であるときのW15/50比率が最も小さく、圧延方向となす角度が0°、90°に近付くほどW15/50比率は大きくなる。
一方、素材Aでは、W15/50比率は、圧延方向となす角度が0°であるときに最も小さく、圧延方向となす角度が45°~90°近傍において大きくなる。
以上のように素材Bでは、圧延方向となす角度が45°の方向(磁化容易方向)における磁気特性が最も優れる。一方、圧延方向となす角度が0°、90°の方向(圧延方向、および、圧延方向に直交する方向)における磁気特性が最も劣る。
尚、圧延方向から、圧延方向となす角度のうち小さい方の角度が90°になる方向までの4つの領域(すなわち、0°~22.5°の領域、22.5°~45°の領域、45°~67.5°の領域、67.5°~90°の領域)の磁気特性は、理論的には対称な関係を有する。
【0121】
素材AのE型の電磁鋼板については、E型の電磁鋼板が構成する3つの脚部の長手方向が圧延方向と一致するようにした。素材AのI型の電磁鋼板については、I型の電磁鋼板が構成する継鉄部の長手方向が圧延方向と一致するようにした。
素材BのE型の電磁鋼板については、第1の実施形態で説明したように、E型の電磁鋼板が構成する3つの脚部の長手方向と、E型の電磁鋼板が構成する継鉄部の長手方向との2つの方向が2つの磁化容易方向の何れかと一致するようにした。素材BのI型の電磁鋼板についても、第1の実施形態で説明したように、I型の電磁鋼板が構成する継鉄部の長手方向が2つの磁化容易方向の何れかと一致するようにした。
【0122】
素材AのE型・I型の電磁鋼板も、素材BのE型・I型の電磁鋼板も、金型による打ち抜き加工により電磁鋼帯から切り抜いた。素材AのE型の電磁鋼板と、素材BのE型の電磁鋼板の形状および大きさは同じである。素材AのI型の電磁鋼板と、素材BのI型の電磁鋼板の形状および大きさは同じである。
【0123】
素材AのE型・I型の電磁鋼板を、第1の実施形態で説明したようにして積み重ねた積層コアに歪取焼鈍を施し、積層コアの中央の脚部に一次コイルを配置した。同様に、素材BのE型・I型の電磁鋼板を、第1の実施形態で説明したようにして積み重ねた積層コアに歪取焼鈍を施し、積層コアの中央の脚部に一次コイルを配置した。
【0124】
それぞれの積層コアを構成するE型・I型の電磁鋼板の枚数は同じである(それぞれの積層コアの形状および大きさは同じである)。また、それぞれの積層コアに配置する一次コイルは同じコイルである。
それぞれの積層コアに配置した一次コイルの両端に、周波数および実効値が同じ励磁電流を流し(即ち、それぞれの積層コアを同一の励磁条件で励磁し)、それぞれの積層コアの中央の脚部における磁束密度を測定すると共に鉄損を測定した。また、一次コイルに流れる励磁電流を測定し一次銅損を導出した。
【0125】
その結果、素材Aの積層コアを用いた場合の一次銅損に対する素材Bの積層コアを用いた場合の一次銅損の比は0.92であった。また、素材Aの積層コアの鉄損に対する素材Bの積層コアの鉄損の比は0.81であった。このように、本実施例では、素材Bを用いることにより素材Aを用いる場合に比べて、一次銅損を8%、鉄損を19%それぞれ低減することができた。
【0126】
尚、以上説明した本発明の実施形態は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化の例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその技術思想、またはその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
【産業上の利用可能性】
【0127】
本発明によれば、積層コアの磁気特性を向上させることができる。よって、産業上の利用可能性が高い。
【符号の説明】
【0128】
100,500,800:積層コア、110,510:E型の電磁鋼板、120,820:I型の電磁鋼板、210a~210c,610a~610c,910a~910b:脚部、220a~220c,620a~620c,920a~920b:継鉄部、310,710,1010:圧延方向320a~320b,720a~720b,1020a~1020b:磁化容易方向、400,1100:電気機器、410,1110a~1110b:一次コイル、420,1120a~1120b:二次コイル