IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ダイキン工業株式会社の特許一覧

特許7381947低分子量ポリテトラフルオロエチレンの製造方法、低分子量ポリテトラフルオロエチレン及び粉末
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-08
(45)【発行日】2023-11-16
(54)【発明の名称】低分子量ポリテトラフルオロエチレンの製造方法、低分子量ポリテトラフルオロエチレン及び粉末
(51)【国際特許分類】
   C08J 3/28 20060101AFI20231109BHJP
   C08F 8/50 20060101ALI20231109BHJP
   C08J 3/12 20060101ALI20231109BHJP
【FI】
C08J3/28 CEW
C08F8/50
C08J3/12 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022067773
(22)【出願日】2022-04-15
(62)【分割の表示】P 2019203055の分割
【原出願日】2017-08-04
(65)【公開番号】P2022100354
(43)【公開日】2022-07-05
【審査請求日】2022-04-15
(31)【優先権主張番号】P 2016153856
(32)【優先日】2016-08-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】吉田 健
(72)【発明者】
【氏名】吉田 裕俊
(72)【発明者】
【氏名】羽儀 圭祐
(72)【発明者】
【氏名】辻 雅之
(72)【発明者】
【氏名】加藤 丈人
(72)【発明者】
【氏名】田中 勇次
(72)【発明者】
【氏名】山中 拓
(72)【発明者】
【氏名】河原 一也
(72)【発明者】
【氏名】助川 勝通
(72)【発明者】
【氏名】細川 和孝
【審査官】加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開昭50-101450(JP,A)
【文献】特開平10-147617(JP,A)
【文献】特開2012-117031(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 3/28
C08F 8/50
C08J 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリテトラフルオロエチレンに、放射線を照射して、380℃における溶融粘度が1×10~7×10Pa・sである低分子量ポリテトラフルオロエチレンを得る工程(1)、前記低分子量ポリテトラフルオロエチレンを粉砕する工程(2)、及び、工程(2)で粉砕された低分子量ポリテトラフルオロエチレンを、150~250℃の温度で、10秒~3時間熱処理する工程(3)を含むことを特徴とする低分子量ポリテトラフルオロエチレンの製造方法。
【請求項2】
前記熱処理を、150~200℃の温度で行う請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
前記ポリテトラフルオロエチレンは、標準比重が2.130~2.230である請求項1又は2記載の製造方法。
【請求項4】
前記ポリテトラフルオロエチレン及び前記低分子量ポリテトラフルオロエチレンがいずれも粉末である請求項1、2又は3記載の製造方法。
【請求項5】
工程(1)の前に、更に、前記ポリテトラフルオロエチレンを、その一次融点以上に加熱することにより成形品を得る工程(4)を含み、前記成形品は、比重が1.0g/cm以上である請求項1、2、3又は4記載の製造方法。
【請求項6】
低分子量ポリテトラフルオロエチレンを含む粉末であって、
前記低分子量ポリテトラフルオロエチレンは、
1×10~7×10Pa・sの380℃における溶融粘度、1.0~50μmの平均粒子径、及び、分子鎖末端に主鎖炭素数10個あたり30個以上のカルボキシル基を有しており、
比表面積が0.5~5.6m /g又は9.0~20m /gであり、
炭素数が8以上、14以下のパーフルオロカルボン酸及びその塩のいずれをも実質的に含まない
ことを特徴とする粉末。
【請求項7】
前記パーフルオロカルボン酸及びその塩の含有量が25ppb未満である請求項記載の粉末。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低分子量ポリテトラフルオロエチレンの製造方法、低分子量ポリテトラフルオロエチレン及び粉末に関する。
【背景技術】
【0002】
分子量数千から数十万の低分子量ポリテトラフルオロエチレン(「ポリテトラフルオロエチレンワックス」や「ポリテトラフルオロエチレンマイクロパウダー」とも呼ばれる)は、化学的安定性に優れ、表面エネルギーが極めて低いことに加え、フィブリル化が生じにくいので、滑り性や塗膜表面の質感を向上させる添加剤として、プラスチックス、インク、化粧品、塗料、グリース等の製造に用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
低分子量ポリテトラフルオロエチレンの製造方法としては、重合法、放射線分解法、熱分解法等が知られている。
【0004】
これらのうち、放射線分解法として、特許文献2には、ポリテトラフルオロエチレン粉末、予備成型品のあるいは成型品に少なくとも5×10レントゲンの電離性放射線を照射した後、粉砕することを特徴とする平均粒径が200ミクロン以下のポリテトラフルオロエチレン粉末の製造方法が記載されている。
【0005】
特許文献3には、酸素成分の存在下にポリテトラフルオルエチレン樹脂に対して電離性放射線を照射し、ついで加熱処理を行なって機械粉砕することを特徴とするポリテトラフルオルエチレン樹脂の崩壊処理方法が記載されている。
【0006】
特許文献4には、酸素成分の存在のもとにポリテトラフルオルエチレン樹脂に対して電離性放射線を照射し、ついでハロゲン化メタンと酸素成分の共存下にて加熱処理して、機械粉砕することを特徴とするポリテトラフルオルエチレン樹脂の微粉末化方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平10-147617号公報
【文献】特公昭47-19609号公報
【文献】特公昭51-3503号公報
【文献】特公昭52-25858号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来の条件で放射線を照射すると、短鎖のパーフルオロカルボン酸又はその塩が生成することが本発明者らによって見出された。短鎖のパーフルオロカルボン酸又はその塩には、自然界には存在せず分解され難い物質であり、更には、生物蓄積性が高いことが指摘されている炭素数が8のパーフルオロオクタン酸又はその塩、炭素数が9のパーフルオロノナン酸又はその塩、及び炭素数が10、11、12、13、14の、それぞれパーフルオロデカン酸パーフルオロウンデカン酸、パーフルオロドデカン酸、パーフルオロトリデカン酸、パーフルオロテトラデカン酸、又はそれぞれの塩、が含まれている。
【0009】
本発明の目的は、上記現状に鑑み、放射線照射により生成してしまった炭素数が8以上、14以下のパーフルオロカルボン酸及びその塩の大半を容易に低分子量ポリテトラフルオロエチレンから除去できる製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、ポリテトラフルオロエチレンに、放射線を照射して、380℃における溶融粘度が1×10~7×10Pa・sである低分子量ポリテトラフルオロエチレンを得る工程(1)、上記低分子量ポリテトラフルオロエチレンを粉砕する工程(2)、及び、工程(2)で粉砕された低分子量ポリテトラフルオロエチレンを熱処理する工程(3)を含むことを特徴とする低分子量ポリテトラフルオロエチレンの製造方法である。
【0011】
上記熱処理を、50~300℃の温度で行うことが好ましい。
【0012】
上記熱処理を、50~200℃の温度で行うことも好ましい。
【0013】
上記ポリテトラフルオロエチレンは、標準比重が2.130~2.230であることが好ましい。
【0014】
上記ポリテトラフルオロエチレン及び上記低分子量ポリテトラフルオロエチレンがいずれも粉末であることが好ましい。
【0015】
上記製造方法は、工程(1)の前に、更に、上記ポリテトラフルオロエチレンを、その一次融点以上に加熱することにより成形品を得る工程(4)を含み、上記成形品は、比重が1.0g/cm以上であることも好ましい。
【0016】
本発明は、上記製造方法により得られる低分子量ポリテトラフルオロエチレンでもある。
【0017】
本発明は、低分子量ポリテトラフルオロエチレンを含む粉末であって、上記低分子量ポリテトラフルオロエチレンは、1×10~7×10Pa・sの380℃における溶融粘度、1.0~50μmの平均粒子径、及び、分子鎖末端に主鎖炭素数10個あたり30個以上のカルボキシル基を有しており、炭素数が8以上、14以下のパーフルオロカルボン酸及びその塩のいずれをも実質的に含まないことを特徴とする粉末でもある。
【0018】
上記粉末は、上記パーフルオロカルボン酸及びその塩の含有量が25ppb未満であることが好ましい。
【0019】
上記粉末は、比表面積が0.5~20m/gであることが好ましい。
【0020】
上記粉末は、比表面積が7.0~20m/gであることも好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明の製造方法は、放射線照射により生成してしまった炭素数が8以上、14以下のパーフルオロカルボン酸及びその塩の大半を容易に低分子量ポリテトラフルオロエチレンから除去することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を具体的に説明する。
【0023】
本発明の製造方法は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)に、放射線を照射して、380℃における溶融粘度が1×10~7×10Pa・sである低分子量PTFEを得る工程(1)、上記低分子量PTFEを粉砕する工程(2)、及び、工程(2)で粉砕された低分子量PTFEを熱処理する工程(3)を含むことを特徴とする。
【0024】
工程(1)において、上記PTFEへの上記放射線の照射は、従来公知の方法及び条件により行うことができる。従来の照射条件で上記PTFEに放射線を照射すると、上記PTFEよりも溶融粘度が大きい上記低分子量PTFEが生成すると同時に、炭素数が8以上、14以下のパーフルオロカルボン酸又はその塩が生じるが、上記放射線を照射した後に、上記低分子量PTFEを粉砕し、次いで熱処理することにより、上記パーフルオロカルボン酸及びその塩を上記低分子量PTFEから除去できる。
【0025】
上記放射線としては、電離性放射線であれば特に限定されず、電子線、紫外線、ガンマ線、X線、中性子線、高エネルギーイオン等が挙げられるが、電子線又はガンマ線が好ましい。
【0026】
上記放射線の照射線量としては、1~2500kGyが好ましく、1000kGy以下がより好ましく、750kGy以下が更に好ましい。また、10kGy以上がより好ましく、100kGy以上が更に好ましい。
【0027】
上記放射線の照射温度としては、5℃以上、PTFEの融点以下であれば特に限定されない。融点近傍付近ではPTFEの分子鎖が架橋することも知られており、低分子量PTFEを得る上では、320℃以下が好ましく、300℃以下がより好ましく、260℃以下が更に好ましい。経済的には常温で照射することが好ましい。
【0028】
工程(1)において、上記放射線の照射は、いかなる雰囲気中で実施してもよく、例えば、空気中、不活性ガス中、真空中等で実施できる。低コストで実施できる観点からは、空気中での照射が好ましく、炭素数が8以上、14以下のパーフルオロカルボン酸及びその塩を生成させにくい観点からは、実質的に酸素不存在下での照射が好ましい。但し、本発明の製造方法は、放射線照射後に粉砕する工程及び熱処理する工程を含むので、実質的に酸素不存在下での照射は必須でない。
【0029】
工程(1)においては、好ましくは、平均粒子径が500μm以下である上記低分子量PTFEの粒子が得られる。上記低分子量PTFEの粒子の平均粒子径は、300μm以下がより好ましく、100μm以下が更に好ましい。また、下限については特に限定されないが、30μm超であってよい。上記低分子量PTFEの粒子の平均粒子径が上記範囲内にあると、平均粒子径の比較的小さい低分子量PTFEの粉末を容易に得ることができる。
【0030】
上記平均粒子径は、日本電子株式会社製レーザー回折式粒度分布測定装置(HELOS&RODOS)を用いて、カスケードは使用せず、分散圧力1.0barで測定を行い、粒度分布積算の50%に対応する粒子径に等しいとする。
【0031】
工程(2)における上記粉砕の方法としては特に限定されないが、粉砕機で粉砕する方法が挙げられる。上記粉砕機には、ハンマーミル、ピンミル、ジェットミル等の衝撃式や、回転刃と外周ステーターが凹凸による剪断力で粉砕するカッターミル等の摩砕式等がある。
【0032】
粉砕温度は-200℃以上、50℃未満であることが好ましい。冷凍粉砕では通常-200~-100℃であるが、室温付近の温度(10~30℃)で粉砕してもよい。冷凍粉砕では一般に液体窒素を使用するが、設備が膨大で粉砕コストも高くなる。工程が簡素となる点、粉砕コストを抑えることができる点で、10℃以上、50℃未満で粉砕することがより好ましく、10~40℃で粉砕することが更に好ましく、10~30℃で粉砕することが特に好ましい。
【0033】
上記粉砕の後、粒子や繊維状粒子を気流分級により除去した後に、更に分級により粗粒子を除去してもよい。
【0034】
気流分級においては、粉砕された粒子が減圧空気により円柱状の分級室に送られ、室内の旋回気流により分散され、遠心力によって粒子が分級される。粒子は中央部からサイクロン及びバグフィルターへ回収される。分級室内には、粉砕粒子と空気が均一に旋回運動を行うために円錐状のコーン、ローター等の回転体が設置されている。
【0035】
分級コーンを使用する場合には、分級点の調節は二次エアーの風量と分級コーン間の隙間を調節することにより行う。ローターを使用する場合には、ローターの回転数により分級室内の風量を調節する。
【0036】
粗粒子の除去方法としては、気流分級、メッシュによる振動篩、メッシュによる超音波篩等が挙げられるが、気流分級が好ましい。
【0037】
工程(2)においては、工程(1)で得られる上記低分子量PTFEの粒子よりも平均粒子径の小さい上記低分子量PTFEの粉砕粒子が得られ、好ましくは、平均粒子径が1~200μmである上記低分子量PTFEの粉砕粒子が得られる。上記低分子量PTFEの粉砕粒子の平均粒子径は、100μm以下がより好ましく、1.0~50μmであってよい。上記低分子量PTFEの粉砕粒子の平均粒子径が上記範囲内にあると、平均粒子径の比較的小さい低分子量PTFEの粉末を容易に得ることができる。
【0038】
上記平均粒子径は、日本電子株式会社製レーザー回折式粒度分布測定装置(HELOS&RODOS)を用いて、カスケードは使用せず、分散圧力1.0barで測定を行い、粒度分布積算の50%に対応する粒子径に等しいとする。
【0039】
工程(3)において、上記熱処理は、工程(2)における粉砕の温度よりも高い温度で行うことが好ましく、例えば、50~300℃の温度で行うことが好ましい。上記熱処理の温度は、70℃以上がより好ましく、90℃以上が更に好ましく、100℃以上が特に好ましく、230℃以下がより好ましく、200℃以下が更に好ましく、130℃以下が特に好ましい。上記熱処理温度が低すぎると、炭素数が8以上、14以下のパーフルオロカルボン酸及びその塩を充分に除去することができず、上記熱処理温度が高すぎると、熱処理に必要なエネルギー量に見合った効果が得られなかったり、粉体が凝集したり、粒子形状が変質したりする不利益がある。
【0040】
上記熱処理の時間としては、特に限定されないが、10秒~5時間が好ましく、5分以上がより好ましく、10分以上が更に好ましく、4時間以下がより好ましく、3時間以下が更に好ましい。上記時間が短すぎると、炭素数が8以上、14以下のパーフルオロカルボン酸及びその塩を充分に除去することができず、上記時間が長すぎると、熱処理時間に見合った効果が得られなかったり、粉体が凝集したり、粒子形状が変質したりする不利益がある。
【0041】
上記熱処理の方法は特に限定されないが、以下の熱処理装置を用いる方法が挙げられる。例えば、箱形乾燥器、バンド乾燥器、トンネル乾燥器、噴出流乾燥器、移動層乾燥器、回転乾燥器、流動層乾燥機、気流乾燥器、箱型乾燥器、円盤乾燥器、円筒型撹拌乾燥器、逆円錐型撹拌乾燥器、マイクロウェーブ装置、真空熱処理装置、箱型電気炉、熱風循環装置、フラッシュ乾燥機、振動乾燥機、ベルト乾燥機、押出乾燥機、スプレードライヤー等がある。
【0042】
工程(3)において、上記熱処理は、いかなる雰囲気中で実施してもよいが、安全面、経済面の観点から、空気中で実施することが好ましい。
【0043】
工程(3)において、上記熱処理は、例えば、上記低分子量PTFEを加熱炉内に設置して、加熱炉内を所望の温度まで上昇させた後、所望の時間放置することにより行うことができる。
【0044】
上述のように、本発明の製造方法においては、上記低分子量PTFEを粉砕した後に、上記熱処理を実施するため、上記放射線の照射により生成してしまった炭素数が8以上、14以下のパーフルオロカルボン酸及びその塩の大半を上記低分子量PTFEから除去することができる。上記粉砕と上記熱処理との実施順を逆にすると、炭素数が8以上、14以下のパーフルオロカルボン酸及びその塩を充分に除去することができない。
【0045】
本発明の製造方法は、工程(1)の前に、更に、上記PTFEを、その一次融点以上に加熱することにより成形品を得る工程(4)を含むこともできる。この場合、工程(4)で得られた成形品を工程(1)における上記PTFEとして使用することができる。上記一次融点は、好ましくは300℃以上、より好ましくは310℃以上、更に好ましくは320℃以上である。上記一次融点は、未焼成のPTFEを示差走査熱量計で測定した場合に、結晶融解曲線上に現れる吸熱カーブの最大ピーク温度を意味する。上記吸熱カーブは、示差走査熱量計を用いて、昇温速度10℃/分の条件で昇温させて得られたものである。
【0046】
工程(4)における上記成形品は、比重が1.0g/cm以上であることが好ましく、1.5g/cm以上であることがより好ましく、また、2.5g/cm以下であることが好ましい。
上記比重は、水中置換法により測定することができる。
本発明の製造方法は、工程(4)の後に、更に、上記成形品を粉砕して、上記PTFEの粉末を得る工程を含むこともできる。上記成形品を粗く粉砕してから、更に小さく粉砕してもよい。
【0047】
本発明の製造方法は、更に、工程(3)で熱処理された低分子量PTFEを粉砕する工程(5)を含むこともできる。これにより、平均粒子径の一層小さい低分子量PTFEの粉末を、容易に得ることができる。
【0048】
次に、本発明の製造方法において、放射線を照射するPTFE、及び、放射線を照射した後に得られる低分子量PTFEについて説明する。
【0049】
上記低分子量PTFEは、380℃における溶融粘度が1×10~7×10Pa・sである。本発明において、「低分子量」とは、上記溶融粘度が上記の範囲内にあることを意味する。
【0050】
上記溶融粘度は、ASTM D 1238に準拠し、フローテスター(島津製作所社製)及び2φ-8Lのダイを用い、予め380℃で5分間加熱しておいた2gの試料を0.7MPaの荷重にて上記温度に保って測定した値である。
【0051】
上記放射線を照射する上記PTFEは、標準比重(SSG)が2.130~2.230であることが好ましい。上記標準比重(SSG)はASTM D 4895に準拠し、測定した値である。
【0052】
上記PTFEは、上記低分子量PTFEよりも溶融粘度が極めて高く、その正確な溶融粘度を測定することは困難である。他方、低分子量PTFEの溶融粘度は測定可能であるが、低分子量PTFEからは、標準比重の測定に使用可能な成形品を得ることが難しく、その正確な標準比重を測定することが困難である。従って、本発明では、放射線を照射する上記PTFEの分子量の指標として、標準比重を採用し、上記低分子量PTFEの分子量の指標として、溶融粘度を採用する。なお、上記PTFE及び上記低分子量PTFEのいずれについても、直接に分子量を特定できる測定方法は知られていない。
【0053】
上記低分子量PTFEは、融点が324~336℃であることが好ましい。
【0054】
上記融点は、示差走査熱量計(DSC)を用い、事前に標準サンプルとして、インジウム、鉛を用いて温度校正した上で、低分子量PTFE約3mgをアルミ製パン(クリンプ容器)に入れ、200ml/分のエアー気流下で、250~380℃の温度領域を10℃/分で昇温させて行い、上記領域における融解熱量の極小点を融点とする。
【0055】
本発明の製造方法において、上記PTFEの形状は特に限定されず、粉末であってもよいし、上記PTFEの成形品であってもよいし、上記PTFEの成形品を切削加工した場合に生じる切削屑であってもよい。上記PTFEが粉末であると、上記低分子量PTFEの粉末を容易に得ることができる。
【0056】
また、本発明の製造方法によって得られる低分子量PTFEの形状は、特に限定されないが、粉末であることが好ましい。
【0057】
本発明の製造方法によって得られる低分子量PTFEが粉末である場合、比表面積が0.5~20m/gであることが好ましい。上記比表面積としては、7.0m/g以上がより好ましい。
低分子量PTFE粉末としては、比表面積が0.5m/g以上、7.0m/g未満の比表面積の低いタイプと、比表面積が7.0m/g以上、20m/g以下の比表面積の高いタイプがそれぞれ求められている。
比表面積の低いタイプの低分子量PTFE粉末は、例えば塗料等のマトリクス材料に容易に分散する利点がある一方、マトリクス材料への分散粒径が大きく、微分散に劣る。
比表面積の低いタイプの低分子量PTFE粉末の比表面積は、1.0m/g以上が好ましく、5.0m/g以下が好ましく、3.0m/g以下がより好ましい。マトリクス材料としては、プラスチック、インクの他、塗料等も好適に用いられる。
比表面積の高いタイプの低分子量PTFE粉末は、例えば塗料等のマトリクス材料に分散させた場合、マトリクス材料への分散粒径が小さく、塗膜表面の質感を向上させる等、表面を改質する効果が高く、吸油量も多くなるが、マトリクス材料への分散に必要な時間が長い等容易に分散しないおそれがあり、また、塗料等の粘度が上昇するおそれもある。
比表面積の高いタイプの低分子量PTFE粉末の比表面積は、8.0m/g以上が好ましく、15m/g以下が好ましく、13m/g以下がより好ましい。マトリクス材料としては、オイル、グリース、塗料の他、プラスチック等も好適に用いられる。
【0058】
上記比表面積は、表面分析計(商品名:BELSORP-miniII、マイクロトラック・ベル株式会社製)を用い、キャリアガスとして窒素30%、ヘリウム70%の混合ガスを用い、冷却に液体窒素を用いて、BET法により測定する。
【0059】
本発明の製造方法によって得られる低分子量PTFEが粉末である場合、平均粒子径が0.5~200μmであることが好ましく、50μm以下がより好ましく、20μm以下が更に好ましく、10μm以下が特に好ましく、5μm以下が殊更好ましい。下限は、1.0μmであってよい。このように、平均粒子径が比較的小さい粉末であることで、例えば、塗料の添加剤として用いた場合等に、より優れた表面平滑性を有する塗膜を形成することができる。
【0060】
上記平均粒子径は、日本電子株式会社製レーザー回折式粒度分布測定装置(HELOS&RODOS)を用いて、カスケードは使用せず、分散圧力1.0barで測定を行い、粒度分布積算の50%に対応する粒子径に等しいとする。
【0061】
本発明の製造方法では、工程(3)を実施した後に、炭素数が8以上、14以下のパーフルオロカルボン酸及びその塩をほとんど含まない低分子量PTFEを得ることができる。本発明の製造方法により得られる低分子量PTFEは、炭素数が8以上、14以下のパーフルオロカルボン酸及びその塩の総量が質量基準で50ppb以下であることが好ましく、25ppb未満であることがより好ましく、15ppb以下であることが更に好ましく、5ppb以下であることが特に好ましく、5ppb未満であることが最も好ましい。下限は特に限定されず、検出限界未満の量であってよい。
【0062】
上記パーフルオロカルボン酸及びその塩の量は、液体クロマトグラフィーにより測定できる。
【0063】
また、本発明の製造方法により得られる低分子量PTFEは、パーフルオロオクタン酸及びその塩をほとんど含まない点にも特徴がある。本発明の製造方法により得られる低分子量PTFEは、パーフルオロオクタン酸及びその塩の量が質量基準で25ppb未満であることが好ましい。15ppb以下であることがより好ましく、5ppb以下であることが更に好ましく、5ppb未満であることが特に好ましい。下限は特に限定されず、検出限界未満の量であってよい。
【0064】
上記パーフルオロオクタン酸及びその塩の量は、液体クロマトグラフィーにより測定できる。
【0065】
本発明は、上述した製造方法により得られる低分子量PTFEでもある。本発明の低分子量PTFEは、炭素数が8以上、14以下のパーフルオロカルボン酸及びその塩をほとんど含まない。本発明の低分子量PTFEは、炭素数が8以上、14以下のパーフルオロカルボン酸及びその塩の総量が質量基準で50ppb以下であることが好ましく、25ppb未満であることがより好ましく、15ppb以下であることが更に好ましく、5ppb以下であることが特に好ましく、5ppb未満であることが最も好ましい。下限は特に限定されず、検出限界未満の量であってよい。
【0066】
本発明の低分子量PTFEは、パーフルオロオクタン酸及びその塩の量が質量基準で25ppb未満であることが好ましく、15ppb以下であることがより好ましく、5ppb以下であることが更に好ましく、5ppb未満であることが特に好ましい。下限は特に限定されず、検出限界未満の量であってよい。
【0067】
本発明の低分子量PTFEの形状は、特に限定されないが、粉末であることが好ましい。
【0068】
本発明の低分子量PTFEが粉末である場合、比表面積が0.5~20m/gであることが好ましい。上記比表面積としては、7.0m/g以上がより好ましい。
【0069】
本発明の低分子量PTFEが粉末である場合、平均粒子径が1.0~200μmであることが好ましく、20μm以下がより好ましく、10μm以下が更に好ましく、5μm以下が特に好ましい。このように、平均粒子径が比較的小さい粉末であることで、例えば、塗料の添加剤として用いた場合等に、より優れた表面平滑性を有する塗膜を形成することができる。
【0070】
上記低分子量PTFEは、分子鎖末端に主鎖炭素数10個あたり30個以上のカルボキシル基を有していることが好ましい。上記カルボキシル基は、主鎖炭素数10個あたり35個以上がより好ましい。また、上記カルボキシル基の上限値は特に限定されないが、例えば、主鎖炭素数10個あたり500個が好ましく、350個がより好ましい。上記カルボキシル基は、例えば、上記PTFEに酸素存在下で上記放射線を照射することにより、上記低分子量PTFEの分子鎖末端に生じる。上記PTFEの変性量によって放射線照射後のカルボキシル基数が増加する。上記低分子量PTFEは、分子鎖末端に主鎖炭素数10個あたり30個以上のカルボキシル基を有することにより、成形材料、インク、化粧品、塗料、グリース、オフィスオートメーション機器用部材、トナーを改質する添加剤、めっき液への添加剤等との分散性に優れる。例えば、マイクロパウダーは、摺動性や摩耗量低下、鳴き防止、撥水性・撥油性向上を目的として、ハイドロカーボン系のマトリックス樹脂やインク、塗料に配合されるが、パーフルオロ樹脂であるマイクロパウダーは、もともと上記マトリックス樹脂やインク、塗料とはなじみが悪く、均一に分散することが難しい。一方、高分子PTFEを照射分解して製造されたマイクロパウダーは、その製法故に副生成物としてPFOA(パーフルオロオクタン酸及びその塩)やカルボキシル基が生成される。得られたマイクロパウダーの末端他に存在するカルボキシル基は、結果的にハイドロカーボン系である上記マトリックス樹脂やインク、塗料への分散剤としても作用する。
【0071】
上記低分子量PTFEの分子鎖末端には、上記PTFEの重合反応において使用された重合開始剤又は連鎖移動剤の化学構造に由来する不安定末端基が生じていてもよい。上記不安定末端基としては特に限定されず、例えば、-CHOH、-COOH、-COOCH等が挙げられる。
【0072】
上記低分子量PTFEは、不安定末端基の安定化を行ったものであってもよい。上記不安定末端基の安定化の方法としては特に限定されず、例えば、フッ素含有ガスに曝露することにより末端をトリフルオロメチル基〔-CF〕に変化させる方法等が挙げられる。
【0073】
上記低分子量PTFEはまた、末端アミド化を行ったものであってもよい。上記末端アミド化の方法としては特に限定されず、例えば、特開平4-20507号公報に開示されているように、フッ素含有ガスに曝露する等して得られたフルオロカルボニル基〔-COF〕をアンモニアガスと接触させる方法等が挙げられる。
【0074】
上記低分子量PTFEが上述の不安定末端基の安定化又は末端アミド化を行ったものであると、塗料、グリース、化粧品、メッキ液、トナー、プラスチックス等の相手材への添加剤として用いる場合に、相手材となじみやすく、分散性を向上させることができる。
【0075】
上記PTFEは、テトラフルオロエチレン(TFE)単位のみからなるホモPTFEであってもよいし、TFE単位及びTFEと共重合可能な変性モノマーに基づく変性モノマー単位を含む変性PTFEであってもよい。本発明の製造方法において、ポリマーの組成は変化しないので、上記低分子量PTFEは、上記PTFEが有する組成をそのまま有する。
【0076】
上記変性PTFEにおいて、上記変性モノマー単位の含有量は、全単量体単位の0.001~1質量%であることが好ましく、0.01質量%以上がより好ましく、また、0.5質量%以下がより好ましく、0.1質量%以下が更に好ましい。本明細書において、上記変性モノマー単位とは、変性PTFEの分子構造の一部分であって変性モノマーに由来する部分を意味し、全単量体単位とは、変性PTFEの分子構造における全ての単量体に由来する部分を意味する。上記変性モノマー単位の含有量は、フーリエ変換型赤外分光法(FT-IR)等の公知の方法により求めることができる。
【0077】
上記変性モノマーとしては、TFEとの共重合が可能なものであれば特に限定されず、例えば、ヘキサフルオロプロピレン〔HFP〕等のパーフルオロオレフィン;クロロトリフルオロエチレン〔CTFE〕等のクロロフルオロオレフィン;トリフルオロエチレン、フッ化ビニリデン〔VDF〕等の水素含有フルオロオレフィン;パーフルオロビニルエーテル;パーフルオロアルキルエチレン;エチレン等が挙げられる。また、用いる変性モノマーは1種であってもよいし、複数種であってもよい。
【0078】
上記パーフルオロビニルエーテルとしては特に限定されず、例えば、下記一般式(1)
CF=CF-ORf(1)
(式中、Rfは、パーフルオロ有機基を表す。)で表されるパーフルオロ不飽和化合物等が挙げられる。本明細書において、上記「パーフルオロ有機基」とは、炭素原子に結合する水素原子が全てフッ素原子に置換されてなる有機基を意味する。上記パーフルオロ有機基は、エーテル酸素を有していてもよい。
【0079】
上記パーフルオロビニルエーテルとしては、例えば、上記一般式(1)において、Rfが炭素数1~10のパーフルオロアルキル基を表すものであるパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)〔PAVE〕が挙げられる。上記パーフルオロアルキル基の炭素数は、好ましくは1~5である。
【0080】
上記PAVEにおけるパーフルオロアルキル基としては、例えば、パーフルオロメチル基、パーフルオロエチル基、パーフルオロプロピル基、パーフルオロブチル基、パーフルオロペンチル基、パーフルオロヘキシル基等が挙げられるが、パーフルオロアルキル基がパーフルオロプロピル基であるパープルオロ(プロピルビニルエーテル)〔PPVE〕が好ましい。
【0081】
上記パーフルオロビニルエーテルとしては、更に、上記一般式(1)において、Rfが炭素数4~9のパーフルオロ(アルコキシアルキル)基であるもの、Rfが下記式:
【0082】
【化1】
【0083】
(式中、mは、0又は1~4の整数を表す。)で表される基であるもの、Rfが下記式:
【0084】
【化2】
【0085】
(式中、nは、1~4の整数を表す。)で表される基であるもの等が挙げられる。
【0086】
パーフルオロアルキルエチレンとしては特に限定されず、例えば、(パーフルオロブチル)エチレン(PFBE)、(パーフルオロヘキシル)エチレン、(パーフルオロオクチル)エチレン等が挙げられる。
【0087】
上記変性PTFEにおける変性モノマーとしては、HFP、CTFE、VDF、PPVE、PFBE及びエチレンからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。より好ましくは、PPVE、HFP及びCTFEからなる群より選択される少なくとも1種である。
【0088】
本発明は、低分子量PTFEを含む粉末であって、上記低分子量PTFEは、1×10~7×10Pa・sの380℃における溶融粘度、1.0~50μmの平均粒子径、及び、分子鎖末端に主鎖炭素数10個あたり30個以上のカルボキシル基を有しており、炭素数が8以上、14以下のパーフルオロカルボン酸及びその塩のいずれをも実質的に含まないことを特徴とする粉末でもある。
【0089】
本発明の粉末は、炭素数が8以上、14以下のパーフルオロカルボン酸及びその塩のいずれをも実質的に含まないものである。「炭素数が8以上、14以下のパーフルオロカルボン酸及びその塩のいずれをも実質的に含まない」とは、好ましくは、上記粉末中の炭素数が8以上、14以下のパーフルオロカルボン酸及びその塩の総量が質量基準で50ppb以下であることを意味する。上記総量は、25ppb未満であることがより好ましく、15ppb以下であることが更に好ましく、5ppb以下であることが特に好ましく、5ppb未満であることが最も好ましい。下限は特に限定されず、検出限界未満の量であってよい。炭素数は10以下であってよい。
【0090】
本発明の粉末は、パーフルオロオクタン酸及びその塩の量が質量基準で25ppb未満であることが好ましく、15ppb以下であることがより好ましく、5ppb以下であることが更に好ましく、5ppb未満であることが特に好ましい。下限は特に限定されず、検出限界未満の量であってよい。
【0091】
本発明の粉末は、比表面積が0.5~20m/gであることが好ましい。上記比表面積としては、7.0m/g以上がより好ましい。
【0092】
本発明の粉末は、平均粒子径が1.0~50μmである。上記平均粒子径は、20μm以下が好ましく、10μm以下がより好ましく、5μm以下が更に好ましい。このように、平均粒子径が比較的小さい粉末であることで、例えば、塗料の添加剤として用いた場合等に、より優れた表面平滑性を有する塗膜を形成することができる。
【0093】
本発明の粉末を構成する低分子量PTFEの組成、溶融粘度、及び、分子鎖末端のカルボキシル基については、本発明の製造方法により得られる低分子量PTFEについて述べたのと同様である。
【0094】
本発明の粉末を構成する低分子量PTFEはまた、分子鎖末端に不安定末端基を有してもよく、当該不安定末端基の安定化を行ったものであってもよく、末端アミド化を行ったものであってもよく、末端をフッ素化したものでもよい。これらの態様についても、本発明の製造方法により得られる低分子量PTFEについて述べたのと同様である。
【0095】
本発明の粉末は、例えば、上述した本発明の製造方法により、粉末形状の低分子量PTFEを製造することによって得ることができる。
【0096】
上記低分子量PTFE及び上記粉末は、成形材料、インク、化粧品、塗料、グリース、オフィスオートメーション機器用部材、トナーを改質する添加剤、めっき液への添加剤等として好適に使用することができる。上記成形材料としては、例えば、ポリオキシベンゾイルポリエステル、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリフェニレンサルファイド等のエンジニアリングプラスチックが挙げられる。上記低分子量PTFEは、特に、グリース用粘稠剤として好適である。
【0097】
上記低分子量PTFE及び上記粉末は、成形材料の添加剤として、例えば、コピーロールの非粘着性・摺動特性の向上、家具の表層シート、自動車のダッシュボード、家電製品のカバー等のエンジニアリングプラスチック成形品の質感を向上させる用途、軽荷重軸受、歯車、カム、プッシュホンのボタン、映写機、カメラ部品、摺動材等の機械的摩擦を生じる機械部品の滑り性や耐摩耗性を向上させる用途に用いることができる。
【0098】
上記低分子量PTFE及び上記粉末は、塗料の添加剤として、ニスやペンキの滑り性向上の目的に用いることができる。上記低分子量PTFE及び上記粉末は、化粧品の添加剤として、ファンデーション等の化粧品の滑り性向上等の目的に用いることができる。
【0099】
上記低分子量PTFE及び上記粉末は、更に、ワックス等の撥油性又は撥水性を向上させる用途や、グリースやトナーの滑り性を向上させる用途にも好適である。
【0100】
上記低分子量PTFE及び上記粉末は、二次電池や燃料電池の電極バインダー、電極バインダーの硬度調整剤、電極表面の撥水処理剤等としても使用できる。
【0101】
上記低分子量PTFE又は上記粉末と潤滑油とを使用してグリースを調製することもできる。上記グリースは、上記低分子量PTFE又は上記粉末と潤滑油とを含有することを特徴とすることから、潤滑油中に上記低分子量PTFE又は上記粉末が均一かつ安定に分散しており、耐荷重性、電気絶縁性、低吸湿性等の特性に優れている。
【0102】
上記潤滑油(基油)は、鉱物油であっても、合成油であってもよい。上記潤滑油(基油)としては、例えば、パラフィン系やナフテン系の鉱物油、合成炭化水素油、エステル油、フッ素オイル、シリコーンオイルのような合成油等が挙げられる。耐熱性の観点からはフッ素オイルが好ましい。上記フッ素オイルとしては、パーフルオロポリエーテルオイル、三フッ化塩化エチレンの低重合物等が挙げられる。三フッ化塩化エチレンの低重合物は、重量平均分子量が500~1200であってよい。
【0103】
上記グリースは、更に、増稠剤を含むものであってもよい。上記増稠剤としては、金属石けん、複合金属石けん、ベントナイト、フタロシアニン、シリカゲル、ウレア化合物、ウレア・ウレタン化合物、ウレタン化合物、イミド化合物等が挙げられる。上記金属石けんとしては、例えばナトリウム石けん、カルシウム石けん、アルミニウム石けん、リチウム石けん等が挙げられる。また上記ウレア化合物、ウレア・ウレタン化合物及びウレタン化合物としては、例えばジウレア化合物、トリウレア化合物、テトラウレア化合物、その他のポリウレア化合物、ウレア・ウレタン化合物、ジウレタン化合物又はこれらの混合物等が挙げられる。
【0104】
上記グリースは、上記低分子量PTFE又は上記粉末を0.1~50質量%含むことが好ましく、0.5質量%以上含むことがより好ましく、30質量%以下含むことがより好ましい。上記低分子量PTFE又は上記粉末の量が多すぎると、グリースが硬くなりすぎて、充分な潤滑性を発揮できないおそれがあり、上記低分子量PTFE又は上記粉末の量が少なすぎると、シール性が発揮できないおそれがある。
【0105】
上記グリースは、固体潤滑剤、極圧剤、酸化防止剤、油性剤、さび止め剤、粘度指数向上剤、清浄分散剤等を含むこともできる。
【実施例
【0106】
次に本発明を実施例を挙げて説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されるものではない。
【0107】
実施例の各数値は以下の方法により測定した。
【0108】
平均粒子径
日本電子株式会社製レーザー回折式粒度分布測定装置(HELOS&RODOS)を用いて、カスケードは使用せず、分散圧力1.0barで測定を行い、粒度分布積算の50%に対応する粒径を平均粒子径とした。
【0109】
溶融粘度
ASTM D 1238に準拠し、フローテスター(島津製作所社製)及び2φ-8Lのダイを用い、予め380℃で5分間加熱しておいた2gの試料を0.7MPaの荷重にて上記温度に保って測定を行った。
【0110】
融点
示差走査熱量計(DSC)を用い、事前に標準サンプルとして、インジウム、鉛を用いて温度校正した上で、低分子量PTFE約3mgをアルミ製パン(クリンプ容器)に入れ、200ml/分のエアー気流下で、250~380℃の温度領域を10℃/分で昇温させて行い、上記領域における融解熱量の極小点を融点とした。
【0111】
比表面積
BET法により、表面分析計(商品名:BELSORP-miniII、マイクロトラック・ベル株式会社製)を用いて測定した。尚、キャリアガスとして、窒素30%、ヘリウム70%の混合ガスを用い、冷却は液体窒素を用いて行った。
【0112】
末端カルボキシル基数
特開平4-20507号公報記載の末端基の分析方法に準拠し、以下の測定を行った。
低分子量PTFE粉末をハンドプレスにて予備成形し、およそ0.1mm厚みのフィルムを作製した。作製したフィルムについて赤外吸収スペクトル分析した。PTFEにフッ素ガスを接触させて作製した末端を完全フッ素化PTFEの赤外吸収スペクトル分析も行い、両者の差スペクトルから次式により末端カルボキシル基の個数を算出した。
末端カルボキシル基の個数(炭素数10個あたり)=(l×K)/t
l:吸光度
K:補正係数
t:フィルムの厚み(mm)
カルボキシル基の吸収周波数は3560cm-1、補正係数は440とする。
【0113】
パーフルオロオクタン酸及びその塩の含有量
液体クロマトグラフ質量分析計(Waters, LC-MS ACQUITY UPLC/TQD)を用い、パーフルオロオクタン酸及びその塩の含有量の測定を行った。測定粉末1gにアセトニトリル5mlを加え、60分間の超音波処理を行い、パーフルオロオクタン酸を抽出した。得られた液相について、MRM(Multiple Reaction Monitoring)法を用いて測定した。移動相としてアセトニトリル(A)と酢酸アンモニウム水溶液(20mmol/L)(B)を、濃度勾配(A/B=40/60-2min-80/20-1min)で送液した。分離カラム(ACQUITY UPLC BEH C18 1.7μm)を使用し、カラム温度は40℃、注入量は5μLとした。イオン化法はESI(Electrospray ionization)Negativeを使用し、コーン電圧は25Vに設定し、プリカーサーイオン分子量/プロダクトイオン分子量は413/369を測定した。パーフルオロオクタン酸及びその塩の含有量は外部標準法を用い、算出した。この測定における検出限界は5ppbである。
【0114】
炭素数が8以上、14以下のパーフルオロカルボン酸及びその塩の含有量
液体クロマトグラフ質量分析計(Waters, LC-MS ACQUITY UPLC/TQD)を用い、炭素数が8以上14以下のパーフルオロカルボン酸及びその塩を測定した。溶液はパーフルオロオクタン酸の測定にて抽出した液相を使用し、MRM法を用いて測定した。測定条件はパーフルオロオクタン酸の測定条件から、濃度勾配を変更し(A/B=10/90-1.5min-90/10-3.5min)、プリカーサーイオン分子量/プロダクトイオン分子量は、パーフルオロオクタン酸(炭素数8)は413/369、パーフルオロノナン酸(炭素数9)は463/419、パーフルオロデカン酸(炭素数10)は513/469を測定した。以下同様にパーフルオロウンデカン酸(炭素数11)は563/519、パーフルオロドデカン酸(炭素数12)は613/569、パーフルオロトリデカン酸(炭素数13)は663/619、パーフルオロテトラデカン酸(炭素数14)は713/669を測定した。
炭素数8以上14以下のパーフルオロカルボン酸の合計量は、上記測定より得られたパーフルオロオクタン酸の含有量(X)から下記式を用いて算出した。この測定における検出限界は5ppbである。
(AC8+AC9+AC10+AC11+AC12+AC13+AC14)/AC8×X
C8:パーフルオロオクタン酸のピーク面積
C9:パーフルオロノナン酸のピーク面積
C10:パーフルオロデカン酸のピーク面積
C11:パーフルオロウンデカン酸のピーク面積
C12:パーフルオロノデカン酸のピーク面積
C13:パーフルオロトリデカン酸のピーク面積
C14:パーフルオロテトラデカン酸のピーク面積
X:MRM法を用いた測定結果から外部標準法を用いて算出したパーフルオロオクタン酸の含有量
【0115】
比較例1
市販のホモPTFEファインパウダー(ASTM D 4895に準拠し、測定した標準比重:2.175)に、室温にて空気中においてコバルト-60γ線を150kGy照射して、平均粒子径が51.2μmの低分子量PTFE粉末Aを得た。
得られた低分子量PTFE粉末Aの各種物性を測定した。結果を表1に示す。
また、低分子量PTFE粉末Aについて、赤外分光法にて末端カルボキシル基数を求めたところ、主鎖炭素数10個あたり36個であった。
【0116】
比較例2
比較例1で得られた低分子量PTFE粉末Aを、粉砕機で粉砕し、平均粒子径が11.2μmの低分子量PTFE粉末Bを得た。
比較例1と同様に各種物性を測定した。結果を表1に示す。
【0117】
比較例3
比較例1で得られた低分子量PTFE粉末Aを、熱風循環式電気炉(エスペック社製高温恒温器STPH-202M)を使用して、100℃で30分間、熱処理して、低分子量PTFE粉末Cを得た。
比較例1と同様に各種物性を測定した。結果を表1に示す。
【0118】
比較例4
比較例3で得られた低分子量PTFE粉末Cを、粉砕機で粉砕し、低分子量PTFE粉末Dを得た。
比較例1と同様に各種物性を測定した。結果を表1に示す。
【0119】
実施例1
比較例2で得られた低分子量PTFE粉末Bを、熱風循環式電気炉(エスペック社製高温恒温器STPH-202M)を使用して、100℃で30分間、熱処理して、低分子量PTFE粉末Eを得た。
比較例1と同様に各種物性を測定した。結果を表1に示す。
【0120】
実施例2
実施例1で得られた低分子量PTFE粉末Eを、更に粉砕機で粉砕し、低分子量PTFE粉末Fを得た。
比較例1と同様に各種物性を測定した。結果を表1に示す。
【0121】
比較例5
比較例1で得られた低分子量PTFE粉末Aを、粉砕機で粉砕し、平均粒子径が2.2μmの低分子量PTFE粉末Gを得た。
比較例1と同様に各種物性を測定した。結果を表2に示す。
【0122】
実施例3~7
比較例5で得られた低分子量PTFE粉末Gを、熱風循環式電気炉(エスペック社製高温恒温器STPH-202M)を使用して、表2に示す条件で熱処理して、低分子量PTFE粉末H~Lを得た。低分子量PTFE粉末H~Lについて、比較例1と同様に各種物性を測定した。結果を表2に示す。
【0123】
参考例1
国際公開第2009/020187号の実施例2に従い、連鎖移動剤存在下で乳化重合を行い、低分子量PTFE粉末を得た。得られた低分子量PTFE粉末について、赤外分光法にて末端カルボキシル基数を求めたところ、主鎖炭素数10個あたり7個であった。
【0124】
参考例2
連鎖移動剤として添加したエタンの量を0.22gとした以外は、特開平8-339809号公報の調製例2に従い、連鎖移動剤存在下で乳化重合を行い、低分子量PTFE粉末を得た。得られた低分子量PTFE粉末について、赤外分光法にて末端カルボキシル基数を求めたところ、主鎖炭素数10個あたり15個であった。
【0125】
比較例6
市販のホモPTFEファインパウダー(ASTM D 4895に準拠し、測定した標準比重:2.175)に、室温にて空気中においてコバルト-60γ線を300kGy照射して、平均粒子径が31.6μmの低分子量PTFE粉末Mを得た。
得られた低分子量PTFE粉末Mの各種物性を測定した。結果を表3に示す。
また、低分子量PTFE粉末Mについて、赤外分光法にて末端カルボキシル基数を求めたところ、主鎖炭素数10個あたり74個であった。
【0126】
比較例7
比較例6で得られた低分子量PTFE粉末Mを、粉砕機で粉砕し、平均粒子径が5.7μmの低分子量PTFE粉末Nを得た。
比較例6と同様に各種物性を測定した。結果を表3に示す。
【0127】
比較例8
比較例6で得られた低分子量PTFE粉末Mを、熱風循環式電気炉(エスペック社製高温恒温器STPH-202M)を使用して、100℃で30分間、熱処理して、低分子量PTFE粉末Oを得た。
比較例6と同様に各種物性を測定した。結果を表3に示す。
【0128】
比較例9
比較例8で得られた低分子量PTFE粉末Oを、粉砕機で粉砕し、低分子量PTFE粉末Pを得た。
比較例6と同様に各種物性を測定した。結果を表3に示す。
【0129】
実施例8
比較例7で得られた低分子量PTFE粉末Nを、熱風循環式電気炉(エスペック社製高温恒温器STPH-202M)を使用して、100℃で30分間、熱処理して、低分子量PTFE粉末Qを得た。
比較例6と同様に各種物性を測定した。結果を表3に示す。
【0130】
実施例9
実施例8で得られた低分子量PTFE粉末Qを、更に粉砕機で粉砕し、低分子量PTFE粉末Rを得た。
比較例6と同様に各種物性を測定した。結果を表3に示す。
【0131】
比較例10
変性PTFE(変性量0.3%)ファインパウダー(ASTM D 4895に準拠し、測定した標準比重:2.170)に、室温にて空気中においてコバルト-60γ線を150kGy照射して、平均粒子径が48.8μmの低分子量PTFE粉末Sを得た。
得られた低分子量PTFE粉末Sの各種物性を測定した。結果を表4に示す。
また、低分子量PTFE粉末Sについて、赤外分光法にて末端カルボキシル基数を求めたところ、主鎖炭素数10個あたり46個であった。
【0132】
比較例11
比較例10で得られた低分子量PTFE粉末Sを、粉砕機で粉砕し、平均粒子径が10.8μmの低分子量PTFE粉末Tを得た。
比較例10と同様に各種物性を測定した。結果を表4に示す。
【0133】
比較例12
比較例10で得られた低分子量PTFE粉末Sを、熱風循環式電気炉(エスペック社製高温恒温器STPH-202M)を使用して、100℃で30分間、熱処理して、低分子量PTFE粉末Uを得た。
比較例10と同様に各種物性を測定した。結果を表4に示す。
【0134】
比較例13
比較例12で得られた低分子量PTFE粉末Uを、粉砕機で粉砕し、低分子量PTFE粉末Vを得た。
比較例10と同様に各種物性を測定した。結果を表4に示す。
【0135】
実施例10
比較例11で得られた低分子量PTFE粉末Tを、熱風循環式電気炉(エスペック社製高温恒温器STPH-202M)を使用して、100℃で30分間、熱処理して、低分子量PTFE粉末Wを得た。
比較例10と同様に各種物性を測定した。結果を表4に示す。
【0136】
実施例11
実施例10で得られた低分子量PTFE粉末Wを、更に粉砕機で粉砕し、低分子量PTFE粉末Xを得た。
比較例10と同様に各種物性を測定した。結果を表4に示す。
【0137】
【表1】
【0138】
【表2】
【0139】
【表3】
【0140】
【表4】
【0141】
なお、表中の略号は以下の通りである。
PFC:炭素数が8以上、14以下のパーフルオロカルボン酸及びその塩
PFOA:パーフルオロオクタン酸及びその塩