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特許7381978状態推定装置、駆動システム、冷凍システム、ファンシステム、状態推定方法、状態推定プログラム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-08
(45)【発行日】2023-11-16
(54)【発明の名称】状態推定装置、駆動システム、冷凍システム、ファンシステム、状態推定方法、状態推定プログラム
(51)【国際特許分類】
   H02P 27/08 20060101AFI20231109BHJP
【FI】
H02P27/08
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2023059353
(22)【出願日】2023-03-31
【審査請求日】2023-03-31
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡本 英之
(72)【発明者】
【氏名】荒木 剛
(72)【発明者】
【氏名】小川 卓郎
【審査官】谿花 正由輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2023-135655(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 27/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インバータ(23)により駆動するモータ(50)を搭載する機器(70)の状態を推定する状態推定装置であって、
制御部(31)を備え、
前記制御部(31)は、
前記機器(70)から得られる物理量を示す信号の特定周波数成分(C1)の大きさに基づいて前記機器(70)の状態を推定する推定処理と、
前記物理量を示す信号に含まれるノイズ周波数成分(Cn)と前記特定周波数成分(C1)が所定の関係を満たす場合に、前記推定処理を制限または前記モータ(50)の運転を制限する制限処理とを行い、
前記制限処理は、予め定められた推定結果が出力されるように前記推定処理を制限する第1制限処理、または、前記推定処理において誤推定が行われないように前記モータ(50)の運転を制限する第2制限処理であり、
前記インバータ(23)のキャリア周波数をfとし、前記物理量を示す信号をサンプリングする周期の逆数であるサンプリング周波数をfとし、前記モータ(50)の電気角周波数をfとすると、前記ノイズ周波数成分(Cn)の周波数は、
前記物理量を示す信号が直流信号である場合、以下の式1,式2,式3のいずれか1つで表される周波数であり、
前記物理量を示す信号が交流信号である場合、前記電気角周波数、前記キャリア周波数、前記インバータ(23)の制御に用いられる変調波をサンプリングする周波数のうち、前記電気角周波数を含む2つ以上の周波数の2以上の最大公約数が存在しない条件において、以下の式4,式5,式6のいずれか1つで表される周波数である
状態推定装置。
【数1】
【請求項2】
請求項1の状態推定装置において、
前記所定の関係は、前記ノイズ周波数成分(Cn)と前記特定周波数成分(C1)との周波数差が所定の周波数差閾値以下であるという関係である
状態推定装置。
【請求項3】
請求項2の状態推定装置において、
前記周波数差閾値は、3Hzである
状態推定装置。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1つの状態推定装置において、
前記第1制限処理は、前記推定処理の実施を禁止する処理である
状態推定装置。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか1つの状態推定装置において、
前記制御部(31)は、前記推定処理において、前記特定周波数成分(C1)の振幅に基づいて算出される変数と予め定められた閾値との比較の結果に基づいて前記機器(70)の状態を推定し、
前記第1制限処理は、前記閾値および前記特定周波数成分(C1)の振幅の少なくとも1つを補正する処理である
状態推定装置。
【請求項6】
請求項1~3のいずれか1つの状態推定装置において、
前記第2制限処理は、前記推定処理において誤推定が行われないように前記モータ(50)の運転条件を変更する処理である
状態推定装置。
【請求項7】
請求項6の状態推定装置において、
前記モータ(50)の運転条件を変更する処理は、前記キャリア周波数、前記サンプリング周波数、前記モータ(50)の機械角周波数の少なくとも1つを変更する処理である
状態推定装置。
【請求項8】
請求項1~3のいずれか1つの状態推定装置において、
前記第2制限処理は、前記ノイズ周波数成分(Cn)と前記特定周波数成分(C1)が前記所定の関係を満たす運転条件での前記モータ(50)の運転を禁止する処理である
状態推定装置。
【請求項9】
請求項1~3のいずれか1つの状態推定装置において、
前記特定周波数成分(C1)の周波数は、
前記物理量を示す信号が直流信号である場合、前記モータ(50)の機械角周波数の1倍、1/3倍、2/3倍の少なくとも1つであり、
前記物理量を示す信号が交流信号である場合、前記電気角周波数に前記機械角周波数の1倍、1/3倍、2/3倍のいずれか1つである所定周波数を加算して得られる周波数、前記電気角周波数から前記所定周波数を減算して得られる周波数、前記電気角周波数の3倍のうち少なくとも1つである
状態推定装置。
【請求項10】
請求項1~3のいずれか1つの状態推定装置において、
前記制御部(31)は、前記制限処理において、前記推定処理の制限または前記モータの運転の制限を開始した後に、所定の制限解除条件が成立すると、所定の待機解除条件が成立した後に、前記制限を解除する
状態推定装置。
【請求項11】
請求項1~3のいずれか1つの状態推定装置において、
前記制御部(31)は、前記推定処理において、前記機器(70)の異常の有無を推定し、
前記予め定められた推定結果は、前記機器(70)が異常であることを示す推定結果ではない推定結果である
状態推定装置。
【請求項12】
モータ(50)を搭載する機器の状態を推定する状態推定装置であって、
制御部(31)を備え、
前記制御部(31)は、
前記機器(70)から得られる物理量を示す信号の特定周波数成分(C1)の大きさに基づいて前記機器(70)の状態を推定する推定処理と、
前記特定周波数成分(C1)の大きさに基づいて算出される変数に含まれる周期成分の大きさに基づいて、前記推定処理を制限または前記モータ(50)の運転を制限する制限処理とを行い、
前記制限処理は、予め定められた推定結果が出力されるように前記推定処理を制限する第1制限処理、または、前記推定処理において誤推定が行われないように前記モータ(50)の運転を制限する第2制限処理である
状態推定装置。
【請求項13】
請求項12に記載の状態推定装置において、
前記制御部(31)は、
前記特定周波数成分(C1)の大きさに基づいて算出される変数に含まれる周期成分の大きさに基づいて、前記機器(70)から得られる物理量を示す信号に含まれるノイズ成分が前記特定周波数成分(C1)に影響するノイズ干渉の有無を判定する判定処理を行い、
前記判定処理において前記ノイズ干渉があると判定された場合に前記制限処理を行う
状態推定装置。
【請求項14】
機器(70)に搭載されたモータ(50)を駆動するモータ駆動装置(20)と、
前記機器(70)の異常を推定する状態推定装置とを備える駆動システムであって、
前記状態推定装置は、請求項1~3,12,13のいずれか1つの状態推定装置である
駆動システム。
【請求項15】
モータ(50)を有する圧縮機(CC)を含む冷媒回路(RR1)と、
状態推定装置とを備える冷凍システムであって、
前記状態推定装置は、請求項1~3,12,13のいずれか1つの状態推定装置であり、前記冷凍システムの状態を推定する
冷凍システム。
【請求項16】
モータ(50)を有するファン(FF1)と、
状態推定装置とを備えるファンシステムであって、
前記状態推定装置は、請求項1~3,12,13のいずれか1つの状態推定装置であり、前記ファンシステムの状態を推定する
ファンシステム。
【請求項17】
インバータ(23)により駆動するモータ(50)を搭載する機器(70)の状態を推定する状態推定方法であって、
前記機器(70)から得られる物理量を示す信号の特定周波数成分(C1)の大きさに基づいて前記機器(70)の状態を推定する推定ステップと、
前記物理量を示す信号に含まれるノイズ周波数成分(Cn)と前記特定周波数成分(C1)が所定の関係を満たす場合に、前記推定ステップを制限または前記モータ(50)の運転を制限する制限ステップとを備え、
前記制限ステップは、予め定められた推定結果が出力されるように前記推定ステップを制限する第1制限ステップ、または、前記推定ステップにおいて誤推定が行われないように前記モータ(50)の運転を制限する第2制限ステップであり、
前記インバータ(23)のキャリア周波数をfとし、前記物理量を示す信号をサンプリングする周期の逆数であるサンプリング周波数をfとし、前記モータ(50)の電気角周波数をfとすると、前記ノイズ周波数成分(Cn)の周波数は、
前記物理量を示す信号が直流信号である場合、以下の式1,式2,式3のいずれか1つで表される周波数であり、
前記物理量を示す信号が交流信号である場合、前記電気角周波数、前記キャリア周波数、前記インバータ(23)の制御に用いられる変調波をサンプリングする周波数のうち、前記電気角周波数を含む2つ以上の周波数の2以上の最大公約数が存在しない条件において、以下の式4,式5,式6のいずれか1つで表される周波数である
状態推定方法。
【数2】
【請求項18】
請求項17の状態推定方法をコンピュータに実行させる状態推定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、状態推定技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、電力変換装置のパルス幅変調制御により駆動される電動機の異常を診断する異常診断装置が開示されている。この異常診断装置は、検出部と、解析部と、判定部と、周波数設定部とを備える。検出部は、電動機に流れる電流を検出する。解析部は、検出部にて検出された電流を周波数解析して解析結果を出力する。判定部は、解析結果から得られる、変調波の少なくとも1つの側帯波成分のスペクトルピークに基づいて、電動機の異常を判定する。周波数設定部は、電流内のノイズ周波数を予め設定する。
【0003】
周波数設定部は、パルス幅変調制御に用いられる3つの周波数である変調波周波数、搬送波周波数、および変調波をサンプリングするサンプリング周波数の内、変調波周波数を含む2以上の周波数の最大公約数を演算し、その最大公約数およびその整数倍をノイズ周波数として設定する。判定部は、側帯波成分の周波数と、設定されたノイズ周波数とに基づいて、側帯波成分のスペクトルピークにおけるノイズ干渉の有無を推定し、電動機の異常を判定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6824494号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の異常診断装置のような状態推定装置(機器の状態を推定する装置)では、上記の最大公約数(2以上の最大公約数)およびその整数倍となる周波数のノイズ周波数成分しか検出することができないので、上記の最大公約数およびその整数倍となる周波数ではない他の周波数のノイズ周波数成分による影響を考慮することができない。そのため、機器の状態の誤推定を適切に抑制することが困難である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の第1の態様は、インバータ(23)により駆動するモータ(50)を搭載する機器(70)の状態を推定する状態推定装置に関し、この状態推定装置は、制御部(31)を備え、前記制御部(31)は、前記機器(70)から得られる物理量の特定周波数成分(C1)の大きさに基づいて前記機器(70)の状態を推定する推定処理と、前記物理量に含まれるノイズ周波数成分(Cn)と前記特定周波数成分(C1)が所定の関係を満たす場合に、前記推定処理または前記モータ(50)の運転を制限する制限処理とを行い、前記制限処理は、予め定められた推定結果が出力されるように前記推定処理を制限する第1制限処理、または、前記推定処理において誤推定が行われないように前記モータ(50)の運転を制限する第2制限処理であり、前記インバータ(23)のキャリア周波数をfとし、前記物理量をサンプリングする周期の逆数であるサンプリング周波数をfとし、前記モータ(50)の電気角周波数をfとすると、前記ノイズ周波数成分(Cn)の周波数は、前記物理量が直流信号である場合、以下の式1,式2,式3のいずれか1つで表される周波数であり、前記物理量が交流信号である場合、前記電気角周波数、前記キャリア周波数、前記インバータ(23)の制御に用いられる変調波をサンプリングする周波数のうち、前記電気角周波数を含む2つ以上の周波数の2以上の最大公約数が存在しない条件において、以下の式4,式5,式6のいずれか1つで表される周波数である。
【0007】
【数1】
【0008】
第1の態様では、式1~式6のいずれか1つで表される周波数のノイズ周波数成分(Cn)は、特定周波数成分(C1)に影響し得る周波数成分である。したがって、制限処理において、ノイズ周波数成分(Cn)と特定周波数成分(C1)との関係に基づいて、推定処理またはモータ(50)の運転を制限することで、機器(70)の状態の誤推定を抑制することができる。
【0009】
なお、第1の態様では、「特許文献1に開示された最大公約数(2以上の最大公約数)およびその整数倍となる周波数」ではない他の周波数のノイズ周波数成分による影響を考慮することができる。これにより、機器(70)の状態の誤推定を適切に抑制することができる。
【0010】
本開示の第2の態様は、第1の態様の状態推定装置において、前記所定の関係は、前記ノイズ周波数成分(Cn)と前記特定周波数成分(C1)との周波数差が所定の周波数差閾値以下であるという関係である状態推定装置である。
【0011】
第2の態様では、ノイズ周波数成分(Cn)と特定周波数成分(C1)との周波数差に基づいて、推定処理またはモータ(50)の運転を制限することで、機器(70)の状態の誤推定を抑制することができる。
【0012】
本開示の第3の態様は、第2の態様の状態推定装置において、前記周波数差閾値は、3Hzである状態推定装置である。
【0013】
第3の態様では、「ノイズ周波数成分(Cn)が影響しているときの特定周波数成分(C1)の変動幅」が「ノイズ周波数成分(Cn)が影響していないときの特定周波数成分(C1)の振幅」の10%よりも大きい場合に、推定処理またはモータ(50)の運転を制限することができる。これにより、機器(70)の状態の誤推定を適切に抑制することができる。
【0014】
本開示の第4の態様は、第1~第3の態様のいずれか1つの状態推定装置において、前記第1制限処理は、前記推定処理の実施を禁止する処理である状態推定装置である。
【0015】
第4の態様では、推定処理の実施を禁止することで、誤った推定結果が得られないようにすることができる。これにより、機器(70)の状態の誤推定を抑制することができる。
【0016】
本開示の第5の態様は、第1~第3の態様のいずれか1つの状態推定装置において、前記制御部(31)は、前記推定処理において、前記特定周波数成分(C1)の振幅に基づいて算出される変数と予め定められた閾値との比較の結果に基づいて前記機器(70)の状態を推定し、前記第1制限処理は、前記閾値および前記特定周波数成分(C1)の振幅の少なくとも1つを補正する処理である状態推定装置である。
【0017】
第5の態様では、推定処理において用いられる閾値および特定周波数成分(C1)の振幅の少なくとも1つを補正することで、誤った推定結果が得られないようにすることができる。これにより、機器(70)の状態の誤推定を抑制することができる。
【0018】
本開示の第6の態様は、第1~第3の態様のいずれか1つの状態推定装置において、前記第2制限処理は、前記推定処理において誤推定が行われないように前記モータ(50)の運転条件を変更する処理である状態推定装置である。
【0019】
第6の態様では、モータ(50)の運転条件を変更することで、ノイズ周波数成分(Cn)と特定周波数成分(C1)とが所定の関係を満たさないようにすることができる。これにより、ノイズ周波数成分(Cn)の影響による特定周波数成分(C1)の大きさの変動を抑制することができるので、機器(70)の状態の誤推定を抑制することができる。
【0020】
本開示の第7の態様は、第6の態様の状態推定装置において、前記モータ(50)の運転条件を変更する処理は、前記キャリア周波数、前記サンプリング周波数、前記モータ(50)の機械角周波数の少なくとも1つを変更する処理である状態推定装置である。
【0021】
第7の態様では、キャリア周波数、サンプリング周波数、モータ(50)の機械角周波数の少なくとも1つを変更することで、ノイズ周波数成分(Cn)と特定周波数成分(C1)とが所定の関係を満たさないようにすることができる。これにより、ノイズ周波数成分(Cn)の影響による特定周波数成分(C1)の大きさの変動を抑制することができるので、機器(70)の状態の誤推定を抑制することができる。
【0022】
本開示の第8の態様は、第1~第3の態様のいずれか1つの状態推定装置において、前記第2制限処理は、前記ノイズ周波数成分(Cn)と前記特定周波数成分(C1)が前記所定の関係を満たす運転条件での前記モータ(50)の運転を禁止する処理である状態推定装置である。
【0023】
第8の態様では、ノイズ周波数成分(Cn)と特定周波数成分(C1)が所定の関係を満たす運転条件でのモータ(50)の運転を禁止することで、誤った推定結果が得られないようにすることができる。これにより、機器(70)の状態の誤推定を抑制することができる。
【0024】
本開示の第9の態様は、第1~第8の態様のいずれか1つの状態推定装置において、前記特定周波数成分(C1)の周波数は、前記物理量が直流信号である場合、前記モータ(50)の機械角周波数の1倍、1/3倍、2/3倍の少なくとも1つであり、前記物理量が交流信号である場合、前記電気角周波数に前記機械角周波数の1倍、1/3倍、2/3倍のいずれか1つである所定周波数を加算して得られる周波数、前記電気角周波数から前記所定周波数を減算して得られる周波数、前記電気角周波数の3倍のうち少なくとも1つである状態推定装置である。
【0025】
第9の態様では、機器(70)の各種の状態(特に異常)を推定することができる。
【0026】
本開示の第10の態様は、第1~第9の態様のいずれか1つの状態推定装置において、前記制御部(31)は、前記制限処理において、前記推定処理の制限または前記モータ(50)の運転の制限を開始した後に、所定の制限解除条件が成立すると、所定の待機解除条件が成立した後に、前記制限を解除する状態推定装置である。
【0027】
第10の態様では、制限解除条件が成立した後に、待機解除条件の成立を待たずに、制限(推定処理の制限またはモータ(50)の制限)を解除する場合よりも、推定処理に用いられる特定周波数成分(C1)を安定させてから、制限を解除することができる。これにより、制限の解除後における機器(70)の状態の誤推定を抑制することができる。
【0028】
本開示の第11の態様は、第1~第10の態様のいずれか1つの状態推定装置において、前記制御部(31)は、前記推定処理において、前記機器(70)の異常の有無を推定し、前記予め定められた推定結果は、前記機器(70)が異常であることを示す推定結果ではない推定結果である状態推定装置である。
【0029】
第11の態様では、機器(70)が異常であると誤推定されないようにすることができる。
【0030】
本開示の第12の態様は、モータ(50)を搭載する機器の状態を推定する状態推定装置に関し、この状態推定装置は、制御部(31)を備え、前記制御部(31)は、前記機器(70)から得られる物理量の特定周波数成分(C1)の大きさに基づいて前記機器(70)の状態を推定する推定処理と、前記特定周波数成分(C1)の大きさに基づいて算出される変数に含まれる周期成分の大きさに基づいて、ノイズ干渉の有無を判定する判定処理と、前記判定処理において前記ノイズ干渉があると判定された場合に、前記推定処理または前記モータ(50)の運転を制限する制限処理とを行い、前記制限処理は、予め定められた推定結果が出力されるように前記推定処理を制限する第1制限処理、または、前記推定処理において誤推定が行われないように前記モータ(50)の運転を制限する第2制限処理である。
【0031】
第12の態様では、ノイズ成分が特定周波数成分(C1)に影響している場合、特定周波数成分(C1)の大きさ(振幅)に変動が現れる。したがって、判定処理において、「特定周波数成分(C1)の大きさに基づいて算出される変数に含まれる周期成分の大きさ」に基づいて、ノイズ干渉の有無を適切に判定することができる。そして、制限処理において、その判定処理による判定結果に基づいて、推定処理またはモータ(50)の運転を制限することで、機器(70)の状態の誤推定を抑制することができる。
【0032】
なお、第12の態様では、「特許文献1に開示された最大公約数(2以上の最大公約数)およびその整数倍となる周波数」ではない他の周波数のノイズ周波数成分による影響を考慮することができる。これにより、機器(70)の状態の誤推定を適切に抑制することができる。
【0033】
本開示の第13の態様は、機器(70)に搭載されたモータ(50)を駆動するモータ駆動装置(20)と、前記機器(70)の異常を推定する状態推定装置とを備える駆動システムに関し、前記状態推定装置は、第1~第12の態様のいずれか1つの状態推定装置である。
【0034】
本開示の第14の態様は、モータ(50)を有する圧縮機(CC)を含む冷媒回路(RR1)と、状態推定装置とを備える冷凍システムに関し、前記状態推定装置は、第1~第12の態様のいずれか1つの状態推定装置であり、前記冷凍システムの状態を推定する。
【0035】
本開示の第15の態様は、モータ(50)を有するファン(FF1)と、状態推定装置とを備えるファンシステムに関し、前記状態推定装置は、第1~第12の態様のいずれか1つの状態推定装置であり、前記ファンシステムの状態を推定する。
【0036】
本開示の第16の態様は、インバータ(23)により駆動するモータ(50)を搭載する機器(70)の状態を推定する状態推定方法に関し、この状態推定方法は、前記機器(70)から得られる物理量の特定周波数成分(C1)の大きさに基づいて前記機器(70)の状態を推定する推定ステップと、前記物理量に含まれるノイズ周波数成分(Cn)と前記特定周波数成分(C1)が所定の関係を満たす場合に、前記推定ステップまたは前記モータ(50)の運転を制限する制限ステップとを備え、前記制限ステップは、予め定められた推定結果が出力されるように前記推定ステップを制限する第1制限ステップ、または、前記推定ステップにおいて誤推定が行われないように前記モータ(50)の運転を制限する第2制限ステップであり、前記インバータ(23)のキャリア周波数をfとし、前記物理量をサンプリングする周期の逆数であるサンプリング周波数をfとし、前記モータ(50)の電気角周波数をfとすると、前記ノイズ周波数成分(Cn)の周波数は、前記物理量が直流信号である場合、以下の式1,式2,式3のいずれか1つで表される周波数であり、前記物理量が交流信号である場合、前記電気角周波数、前記キャリア周波数、前記インバータ(23)の制御に用いられる変調波をサンプリングする周波数のうち、前記電気角周波数を含む2つ以上の周波数の2以上の最大公約数が存在しない条件において、以下の式4,式5,式6のいずれか1つで表される周波数である。
【0037】
【数2】
【0038】
第16の態様では、式1~式6のいずれか1つで表される周波数のノイズ周波数成分(Cn)は、特定周波数成分(C1)に影響し得る周波数成分である。したがって、制限ステップにおいて、ノイズ周波数成分(Cn)と特定周波数成分(C1)との関係に基づいて、推定処理またはモータ(50)の運転を制限することで、機器(70)の状態の誤推定を抑制することができる。
【0039】
なお、第16の態様では、「特許文献1に開示された最大公約数(2以上の最大公約数)およびその整数倍となる周波数」ではない他の周波数のノイズ周波数成分による影響を考慮することができる。これにより、機器(70)の状態の誤推定を適切に抑制することができる。
【0040】
本開示の第17の態様は、第16の態様の状態推定方法をコンピュータに実行させる状態推定プログラムに関する。
【図面の簡単な説明】
【0041】
図1図1は、実施形態1の駆動システムの構成を例示する回路図である。
図2図2は、制御処理の流れを例示する概略図である。
図3図3は、特定周波数成分とノイズ周波数成分とを例示するグラフである。
図4図4は、ノイズ周波数成分により変動する特定周波数成分の波形を例示するグラフである。
図5図5は、ノイズ周波数成分と特定周波数成分との周波数差が比較的に大きい場合における特定周波数成分の波形を例示するグラフである。
図6図6は、ノイズ周波数成分と特定周波数成分との周波数差が比較的に小さい場合における特定周波数成分の波形を例示するグラフである。
図7図7は、ノイズ周波数成分と特定周波数成分との周波数差と特定周波数成分の変動幅との関係を例示するグラフである。
図8図8は、実施形態1の制御部による処理の流れを例示するフローチャートである。
図9図9は、特定周波数成分およびノイズ周波数成分の具体例を示すグラフである。
図10図10は、特定周波数成分の周波数を基準とする特定周波数帯域を例示するグラフである。
図11図11は、第1推定処理を例示するフローチャートである。
図12図12は、第2推定処理を例示するフローチャートである。
図13図13は、第2推定処理を例示するタイミングチャートである。
図14図14は、第3推定処理を例示するフローチャートである。
図15図15は、第3推定処理を例示するタイミングチャートである。
図16図16は、第4推定処理を例示するフローチャートである。
図17図17は、第4推定処理を例示するタイミングチャートである。
図18図18は、実施形態1の変形例1の制限処理を例示するフローチャートである。
図19図19は、実施形態2の制御部による処理の流れを例示するフローチャートである。
図20図20は、特定周波数成分の所定時間内における変化量の平均値について説明するためのグラフである。
図21図21は、特定周波数成分から抽出される周期成分を例示するグラフである。
図22図22は、所定時間内における特定周波数成分の標準偏差について説明するためのグラフである。
図23図23は、所定時間内における特定周波数成分の分布の尖度について説明するためのグラフである。
図24図24は、所定時間内における特定周波数成分と平均値との差の絶対値の累積値について説明するためのグラフである。
図25図25は、特定周波数成分の周期成分のスペクトルのエネルギの大きさについて説明するためのグラフである。
図26図26は、特定周波数成分の所定時間内における最大値と最小値の差分について説明するためのグラフである。
図27図27は、冷凍システムの構成を例示する概略図である。
図28図28は、ファンシステムの構成を例示する概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下、図面を参照して実施の形態を詳しく説明する。なお、図中同一または相当部分には同一の符号を付しその説明は繰り返さない。
【0043】
(実施形態1)
図1は、実施形態1の駆動システム(10)の構成を例示する。駆動システム(10)は、電源(60)から供給された電力を用いてモータ(50)を駆動する。モータ(50)は、機器(70)に搭載される。例えば、モータ(50)は、IPMモータ(Interior Permanent MagnetMotor)である。この例では、電源(60)は、交流電源であり、モータ(50)は、三相交流モータである。駆動システム(10)は、機器(70)に搭載される。例えば、機器(70)は、空気調和機の室外機である。駆動システム(10)は、モータ駆動装置(20)と、制御装置(30)とを備える。
【0044】
〔モータ駆動装置〕
モータ駆動装置(20)は、モータ(50)を駆動する。具体的には、モータ駆動装置(20)は、電源(60)から供給された電力を所定の周波数および電圧を有する出力交流電力(この例では三相交流電力)に変換し、出力交流電力をモータ(50)に供給する。この例では、モータ駆動装置(20)は、コンバータ(21)と、直流部(22)と、インバータ(23)とを有する。
【0045】
コンバータ(21)は、電源(60)から供給された電力を整流する。この例では、コンバータ(21)は、電源(60)から供給された交流電力を全波整流する。例えば、コンバータ(21)は、複数の整流ダイオードがブリッジ状に結線されたダイオードブリッジ回路により構成される。
【0046】
直流部(22)は、電源(60)から供給される電源電力に応じた直流電力を生成する。この例では、直流部(22)は、コンデンサを有し、コンバータ(21)の出力を平滑化する。
【0047】
インバータ(23)は、複数のスイッチング素子を有し、複数のスイッチング素子のスイッチング動作により直流部(22)の出力を所定の周波数および電圧を有する出力交流電力(三相交流電力)に変換する。
【0048】
この例では、インバータ(23)は、ブリッジ結線された6つのスイッチング素子と、6つのスイッチング素子にそれぞれ逆並列に接続された6つの還流ダイオードとを有する。詳しく説明すると、インバータ(23)は、それぞれが直列に接続された2つのスイッチング素子からなる3つのスイッチングレグを有する。それらの3つのスイッチングレグの中点(具体的には上アーム側のスイッチング素子と下アーム側のスイッチング素子との接続点)は、モータ(50)の3つの巻線(U相,V相,W相の巻線)にそれぞれ接続される。
【0049】
〔各種センサ〕
モータ駆動装置(20)には、相電流検出部(41)や電気角周波数検出部(42)などの各種センサが設けられる。各種センサにより検出された各種情報は、制御装置(30)に送信される。具体的には、各種センサの検出信号は、後述する制御部(31)に送信される。
【0050】
相電流検出部(41)は、モータ(50)の3つの巻線(図示を省略)をそれぞれ流れる三相の相電流(U相電流(iu)とV相電流(iv)とW相電流(iw))を検出する。例えば、相電流検出部(41)は、三相の相電流(iu,iv,iw)の全部を検出するものであってもよいし、三相の相電流(iu,iv,iw)のうち2つの相電流を検出し、その検出された二相の相電流に基づいて残りの1つの相電流を導出するものであってもよい。また、相電流検出部(41)は、直流部(22)に設けられたシャント抵抗(図示省略)により検出された直流電流とスイッチングパターンから三相の相電流(iu,iv,iw)を導出してもよい。
【0051】
電気角周波数検出部(42)は、モータ(50)の電気角周波数(ω)を検出する。なお、電気角周波数検出部(42)は、必須の構成ではなく、モータ(50)の電気角周波数(ω)は他の方法で算出およびセンサレスにより推定されても良い。
【0052】
〔制御装置(状態推定装置)〕
制御装置(30)は、機器(70)の状態を推定する。制御装置(30)は、モータ(50)を搭載する機器(70)の状態を推定する状態推定装置の一例である。制御装置(30)における処理(機器(70)の状態の推定に関連する処理)は、モータ(50)を搭載する機器(70)の状態を推定する状態推定方法の一例である。
【0053】
この例では、制御装置(30)は、機器(70)の異常の有無を推定し、機器(70)の異常に対処する。また、制御装置(30)は、モータ(50)を制御する。具体的には、制御装置(30)は、モータ駆動装置(20)を制御することでモータ(50)を制御する。
【0054】
〔制御部〕
制御装置(30)は、制御部(31)を備える。制御部(31)は、各種の処理を行う。具体的には、制御部(31)は、機器(70)の各部から情報およびデータを取得し、それらの情報およびデータに基づいて、各種の処理を行う。制御部(31)による処理については、後で詳しく説明する。
【0055】
例えば、制御部(31)は、プロセッサと、プロセッサと電気的に接続されてプロセッサを動作させるためのプログラムを記憶するメモリとを含む。プロセッサによりプログラムが実行されることで、制御部(31)の各種の機能が実現される。なお、制御部(31)は、コンピュータの一例であり、上記のプログラムは、状態推定プログラムの一例である。
【0056】
〔制御部による処理〕
この例では、制御部(31)は、制御処理と、算出処理と、推定処理と、対処処理とを行う。なお、これらの各種の処理は、各種のステップの一例である。例えば、推定処理は、推定ステップの一例である。
【0057】
〔制御処理〕
制御処理において、制御部(31)は、モータ駆動装置(20)を制御してモータ(50)を制御する。具体的には、制御部(31)は、モータ(50)の電気角周波数(ω)の指令値などの目標指令値、モータ駆動装置(20)に設けられた各種センサの検出信号などを入力する。そして、制御部(31)は、目標指令値、各種センサの検出信号などに基づいて、インバータ(23)のスイッチング動作を制御してインバータ(23)からモータ(50)に供給される交流電力を制御する。
【0058】
この例では、制御部(31)は、搬送波を示す搬送波信号と、サンプリングクロックとを入力する。搬送波は、所定の周波数(キャリア周波数)で振幅が変動する波である。サンプリングクロックは、サンプリングのタイミングを示す信号である。
【0059】
図2に示すように、制御部(31)は、変調波を示す変調波信号を生成する。変調波は、所定の周波数および電圧を有する出力交流電圧の波形に対応する波である。制御部(31)は、変調波信号の瞬時値をサンプリングクロックに同期してサンプリングし、そのサンプリングにより得られた変調波信号の瞬時値と搬送波信号とを比較する。
【0060】
そして、制御部(31)は、その比較の結果に基づいて、インバータ(23)のスイッチング動作を制御するPWM信号を生成する。具体的には、サンプリングされた変調波信号の瞬時値が搬送波信号の信号レベル(振幅値)よりも高い場合に、PWM信号の信号レベルがハイレベルになり、サンプリングされた変調波信号の瞬時値が搬送波信号の信号レベルよりも低い場合に、PWM信号の信号レベルがローレベル(例えばゼロ)になる。
【0061】
制御部(31)により生成されたPWM信号は、インバータ(23)に含まれる複数のスイッチング素子に供給される。インバータ(23)に含まれる複数のスイッチング素子は、PWM信号に応じてオンオフする。これにより、所定の周波数および電圧を有する出力交流電力が生成される。
【0062】
なお、搬送波信号の周波数は、「インバータ(23)のキャリア周波数」に対応する。変調波信号の瞬時値をサンプリングする周期の逆数は、「インバータ(23)の制御に用いられる変調波をサンプリングする周波数」に対応する。
【0063】
〔算出処理〕
算出処理において、制御部(31)は、機器(70)から得られる物理量から特定周波数成分(C1)を算出する。具体的には、制御部(31)は、所定のサンプリング周期で物理量の瞬時値をサンプリングし、そのサンプリングされた物理量の瞬時値に基づいて特定周波数成分(C1)を算出する。上記のサンプリング周期は「物理量をサンプリングする周期」であり、その逆数は「サンプリング周波数」である。
【0064】
この例では、制御部(31)は、モータ(50)の電流または電圧に基づく信号の特定周波数成分(C1)を導出する。モータ(50)の電流または電圧に基づく信号は、機器(70)から得られる物理量の一例である。上記の信号および特定周波数成分(C1)の具体例については、後で詳しく説明する。
【0065】
〔推定処理〕
推定処理において、制御部(31)は、算出処理により算出された特定周波数成分(C1)(機器(70)から得られる物理量の特定周波数成分(C1))に基づいて、機器(70)の状態を推定する。そして、制御部(31)は、推定結果を出力する。この例では、制御部(31)は、推定処理において、機器(70)の異常の有無を推定する。また、制御部(31)は、推定処理において、モータ(50)の電流または電圧に基づく信号の特定周波数成分(C1)に基づいて、機器(70)の状態を推定する。なお、推定処理の具体例については、後で詳しく説明する。
【0066】
〔制限処理〕
制限処理において、制御部(31)は、物理量に含まれるノイズ周波数成分(Cn)と特定周波数成分(C1)が所定の関係を満たす場合に、推定処理またはモータ(50)の運転を制限する。制限処理は、予め定められた推定結果が出力されるように推定処理を制限する第1制限処理、または、推定処理において誤推定が行われないようにモータ(50)の運転を制限する第2制限処理である。第1制限処理および第2制限処理については、後で詳しく説明する。
【0067】
この例(推定処理において機器(70)の異常の有無を推定する例)では、予め定められた推定結果は、機器(70)が異常であることを示す推定結果ではない推定結果である。予め定められた推定結果の例としては、機器(70)が正常であることを示す推定結果、機器(70)の状態が不明であることを示す推定結果、推定処理が禁止(停止)されていることを示す推定結果、推定処理が制限される前(例えば直前)に出力されていた推定結果などが挙げられる。
【0068】
〔ノイズ周波数成分〕
ここで、ノイズ周波数成分(C1)について説明する。以下では、インバータ(23)のキャリア周波数を「f」とし、物理量をサンプリングする周期の逆数であるサンプリング周波数を「f」とし、モータ(50)の電気角周波数を「f」とする。
【0069】
物理量が直流信号である場合、ノイズ周波数成分(C1)は、以下の式1,式2,式3のいずれか1つで表される周波数である。また、物理量が交流信号である場合、ノイズ周波数成分(C1)は、モータ(50)の電気角周波数、インバータ(23)のキャリア周波数、インバータ(23)の制御に用いられる変調波をサンプリングする周波数のうち、モータ(50)の電気角周波数を含む2つ以上の周波数の2以上の最大公約数が存在しない条件において、以下の式4,式5,式6のいずれか1つで表される周波数である。
【0070】
【数3】
【0071】
〔対処処理〕
推定処理において、制御部(31)は、機器(70)の状態が「異常状態」であると推定すると、対処処理を行う。対処処理は、機器(70)の異常に対処するための処理である。例えば、対処処理は、機器(70)の状態が異常状態であることを示す第1情報を出力する出力処理である。
【0072】
出力処理の例としては、以下の第1出力処理、第2出力処理、第3出力処理、これらの組合せなどが挙げられる。第1出力処理は、リモートコントローラなどに設けられた表示装置(図示を省略)に第1情報を出力することにより第1情報を表示装置に表示させる処理である。第2出力処理は、機器(70)の動作を制御する制御部(図示省略)に第1情報を出力することにより、異常状態に対処するための動作を制御部に行わせる処理である。第3出力処理は、クラウド上のデータ蓄積部(図示省略)に第1情報をアップロードする処理である。
【0073】
〔発明者により得られた知見〕
次に、本願発明者により得られた知見について説明する。本願発明者は、研究の結果、種々のノイズ周波数成分が「推定処理において用いられる特定周波数成分(C1)」に影響し得ることを見出した。例えば、モータ(50)の電気角周波数の整数倍の周波数、電源周波数の整数倍の周波数、インバータ(23)のキャリア周波数の整数倍の周波数、算出処理において物理量をサンプリングするサンプリング周波数の整数倍の周波数のうち、少なくとも2つの和または差の絶対値に相当する周波数のノイズ周波数成分は、特定周波数成分(C1)に影響し得る。
【0074】
さらに、本願発明者は、鋭意研究の結果、特定周波数成分(C1)に影響し得る種々のノイズ周波数成分のうち、以下のノイズ周波数成分による影響が特に顕著となる傾向があることを見出した。
【0075】
(1)物理量が直流信号である場合に、以下の式1,式2,式3のいずれか1つで表される周波数のノイズ周波数成分
(2)物理量が交流信号である場合に、以下の式4,式5,式6のいずれか1つで表される周波数のノイズ周波数成分
【0076】
【数4】
【0077】
式2,式5に表された「|Mf-6Nf|」は、モータ(50)の電気角周波数の6倍の周波数の周波数成分をサンプリングした際に起こるエイリアシングに伴う周波数に対応する。式3,式6に表された「|Mf-|fc±6Nf||」は、「インバータ(23)のキャリア周波数」と「モータ(50)の電気角周波数の6N倍の周波数」との差に相当する周波数の周波数成分をサンプリングした際に起こるエイリアシングに伴う周波数に対応する。なお、6Nfはモータの空間高調波であり、Nの値が大きいほどノイズ周波数成分の振幅が小さくなるという特徴を持つ。また、fが大きいほどノイズ周波数成分の周波数の間隔はまばらになる。
【0078】
なお、この明細書では、上記の式1~式6のいずれか1つで表される周波数のノイズ周波数成分を「ノイズ周波数成分(Cn)」と記載している。
【0079】
また、ノイズ周波数成分(Cn)による影響は、特定周波数成分(C1)の大きさ(振幅)に現れる。言い換えると、ノイズ周波数成分(Cn)は、特定周波数成分(C1)の大きさを変動させ得る。例えば、図3に示すように、特定周波数成分(C1)の近傍にノイズ周波数成分(Cn)が発生すると、図4に示すように、算出されるノイズ周波数成分(Cn)の大きさは、ノイズ周波数成分(Cn)と特定周波数成分(C1)との周波数差(X)の逆数で表される周期(1/X)で変動する。
【0080】
また、ノイズ周波数成分(Cn)と特定周波数成分(C1)との差が小さくなるほど、ノイズ周波数成分(Cn)の影響による特定周波数成分(C1)の振幅変動が大きくなる傾向にある。例えば、図5は、ノイズ周波数成分(Cn)と特定周波数成分(C1)との周波数差が比較的に大きい場合における特定周波数成分(C1)の波形を例示し、図6は、ノイズ周波数成分(Cn)と特定周波数成分(C1)との周波数差が比較的に小さい場合における特定周波数成分(C1)の波形を例示している。なお、図5の例では、ノイズ周波数成分(Cn)と特定周波数成分(C1)との周波数差は、3Hzであり、図6の例では、ノイズ周波数成分(Cn)と特定周波数成分(C1)との周波数差は、0.2Hzである。
【0081】
また、本願発明者は、鋭意研究の結果、ノイズ周波数成分(Cn)と特定周波数成分(C1)との周波数差が3Hzである場合に、「ノイズ周波数成分(Cn)が影響しているときの特定周波数成分(C1)の変動幅」が「ノイズ周波数成分(Cn)が影響していないときの特定周波数成分(C1)の振幅」の10%以下となることを見出した。図7は、ノイズ周波数成分(Cn)と特定周波数成分(C1)との周波数差と特定周波数成分(C1)の変動幅との関係を例示する。図7の例では、特定周波数成分(C1)の変動幅は、特定周波数成分(C1)の振幅の最大値と最小値との差を2で除算して得られる値で示されている。また、図7に示された破線L10は、ノイズ周波数成分(Cn)が影響していないときの特定周波数成分(C1)の振幅の10%を示している。
【0082】
〔制御部による処理の流れ〕
次に、図8を参照して、制御部(31)による処理(具体的には算出処理と推定処理と制限処理)の流れについて説明する。
【0083】
制御部(31)は、所定の算出時間毎に算出処理を行う。算出処理が繰り返し行われることで、算出時間毎に特定周波数成分(C1)が算出される。例えば、算出時間は、機器(70)から得られる物理量から特定周波数成分(C1)を算出するために要する時間以上の時間に設定される。
【0084】
そして、制御部(31)は、所定の推定時間毎に、算出処理により算出された特定周波数成分(C1)に基づいて推定処理を行う。推定処理が繰り返し行われることで、推定時間毎に推定結果が得られる。推定時間は、算出時間以上の時間に設定される。例えば、推定時間は、算出処理により算出された特定周波数成分(C1)に基づいて機器(70)の状態を推定するために要する時間以上の時間に設定される。
【0085】
また、制御部(31)は、算出処理および推定処理と並行して制限処理を行う。具体的には、制御部(31)は、図2に示したステップ(S101~S104)の処理を繰り返し行う。
【0086】
〈ステップ(S101)〉
制御部(31)は、ノイズ周波数成分(Cn)を導出する。例えば、制御部(31)は、所定の計算式(具体的には式1~式6のいずれか)に基づいて、ノイズ周波数成分(Cn)を算出する。また、制御部(31)は、算出処理により算出された特定周波数成分(C1)を取得する。そして、制御部(31)は、ノイズ周波数成分(Cn)と特定周波数成分(C1)とが所定の関係を満たすか否かを判定する。
【0087】
この例では、所定の関係は、ノイズ周波数成分(Cn)と特定周波数成分(C1)との周波数差が周波数差閾値以下であるという関係である。例えば、周波数差閾値は、3Hzに設定される。制御部(31)は、ノイズ周波数成分(Cn)と特定周波数成分(C1)との周波数差が周波数差閾値以下であるか否かを判定する。
【0088】
ノイズ周波数成分(Cn)と特定周波数成分(C1)とが所定の関係を満たすと、ステップ(S102)の処理が行われる。例えば、ステップ(S101)の処理は、所定の判定時間毎に行われる。言い換えると、ステップ(S101)の処理は、ノイズ周波数成分(Cn)と特定周波数成分(C1)とが所定の関係を満たすまで繰り返し行われる。
【0089】
〈ステップ(S102)〉
ノイズ周波数成分(Cn)と特定周波数成分(C1)とが所定の関係を満たすと、制御部(31)は、推定処理またはモータ(50)の運転を制限する。
【0090】
〈ステップ(S103)〉
次に、制御部(31)は、制限解除条件が成立するか否かを判定する。制限解除条件の例としては、ノイズ周波数成分(Cn)と特定周波数成分(C1)とが所定の関係を満たさないという条件、解除指令を制御部(31)が受信するという条件などが挙げられる。解除指令は、例えば、操作者により制限を解除するための操作が操作部(図示省略)に入力されると操作部から制御部(31)に送信される。
【0091】
制限解除条件が成立すると、ステップ(S104)の処理が行われる。例えば、ステップ(S103)の処理は、所定の判定時間毎に行われる。言い換えると、ステップ(S103)の処理は、制限解除条件が成立するまで繰り返し行われる。
【0092】
〈ステップ(S104)〉
制限解除条件が成立すると、制御部(31)は、制限(推定処理の制限またはモータ(50)の運転の制限)を解除する。
【0093】
〔特定周波数成分およびノイズ周波数成分の具体例〕
次に、図9を参照して、特定周波数成分およびノイズ周波数成分の具体例について説明する。図9の例では、2種類の特定周波数成分(C1)であり、モータ(50)の機械角周波数(fm)は、83.1Hzであり、モータの電気角周波数(f0)は、332.4Hzであり、キャリア周波数(fc)は、5900Hzである。
【0094】
図9の例では、モータの電気角周波数(f0)を軸として対称となる2つの特定周波数成分(C1)が現れ、その2つの特定周波数成分(C1)の各々の近傍にノイズ周波数成分(Cn)が現れている。一方の特定周波数成分(C1)は、249.3Hzであり、その一方の特定周波数成分(C1)の近傍に位置する一方のノイズ周波数成分(Cn)の周波数は、249.2Hzである。他方の特定周波数成分(C1)は、415.5Hzであり、その他方の特定周波数成分(C1)の近傍に位置する他方のノイズ周波数成分(Cn)の周波数は、415.6Hzである。この例では、ノイズ周波数成分(Cn)と特定周波数成分(C1)との周波数差が0.1Hzとなるので、制限処理において、推定処理またはモータ(50)の運転が制限される。
【0095】
このように、実施形態1では、「特許文献1に開示された最大公約数(2以上の最大公約数)およびその整数倍となる周波数」ではない他の周波数のノイズ周波数成分(C1)による影響を考慮することができる。一方、特許文献1の異常診断装置では、上記のノイズ周波数成分(C1)による影響を考慮することができない。
【0096】
〔実施形態1の効果〕
以上のように、実施形態1では、制御部(31)は、制限処理において、物理量に含まれるノイズ周波数成分(Cn)と特定周波数成分(C1)が所定の関係を満たす場合に、推定処理またはモータ(50)の運転を制限する。ノイズ周波数成分(Cn)は、物理量が直流信号である場合、以下の式1,式2,式3のいずれか1つで表される周波数であり、物理量が交流信号である場合、電気角周波数、キャリア周波数、インバータ(23)の制御に用いられる変調波をサンプリングする周波数のうち、電気角周波数を含む2つ以上の周波数の2以上の最大公約数が存在しない条件において、以下の式4,式5,式6のいずれか1つで表される周波数である。
【0097】
【数5】
【0098】
上記の構成では、上記の式1~式6のいずれか1つで表される周波数のノイズ周波数成分(Cn)は、特定周波数成分(C1)に影響し得る周波数成分である。したがって、制限処理において、ノイズ周波数成分(Cn)と特定周波数成分(C1)との関係に基づいて、推定処理またはモータ(50)の運転を制限することで、機器(70)の状態の誤推定を抑制することができる。この例では、機器(70)が異常であると誤推定されないようにすることができるので、機器(70)が異常であると誤推定されないようにすることができる。
【0099】
なお、実施形態1では、「特許文献1に開示された最大公約数(2以上の最大公約数)およびその整数倍となる周波数」ではない他の周波数のノイズ周波数成分による影響を考慮することができる。これにより、機器(70)の状態の誤推定を適切に抑制することができる。
【0100】
また、実施形態1では、所定の関係は、ノイズ周波数成分(Cn)と特定周波数成分(C1)との周波数差が所定の周波数差閾値以下であるという関係である。これにより、ノイズ周波数成分(Cn)と特定周波数成分(C1)との周波数差に基づいて、推定処理またはモータ(50)の運転を制限することで、機器(70)の状態の誤推定を抑制することができる。
【0101】
また、実施形態1では、周波数差閾値は、3Hzである。これにより、「ノイズ周波数成分(Cn)が影響しているときの特定周波数成分(C1)の変動幅」が「ノイズ周波数成分(Cn)が影響していないときの特定周波数成分(C1)の振幅」の10%よりも大きい場合に、推定処理またはモータ(50)の運転を制限することができる。その結果、機器(70)の状態の誤推定を適切に抑制することができる。
【0102】
(所定の関係の変形例)
なお、ステップ(S101)においてノイズ周波数成分(Cn)と特定周波数成分(C1)とが満たすか否かを判定される所定の関係は、ノイズ周波数成分(Cn)と特定周波数成分(C1)との周波数差が周波数差閾値以下であるという関係に限定されない。
【0103】
例えば、図10に示すように、上記の所定の関係は、特定周波数成分(C1)の周波数を基準とする特定周波数帯域(FR)にノイズ周波数成分(Cn)が含まれるという関係であってもよい。ステップ(S101)において、制御部(31)は、特定周波数成分(C1)の周波数を基準とする特定周波数帯域(FR)にノイズ周波数成分(Cn)が含まれるか否かを判定してもよい。
【0104】
なお、特定周波数帯域(FR)は、特定周波数成分(C1)の周波数を中心とし、且つ、帯域幅が6Hzである範囲である周波数帯域に設定されてもよい。このような設定により、「ノイズ周波数成分(Cn)が影響しているときの特定周波数成分(C1)の変動幅」が「ノイズ周波数成分(Cn)が影響していないときの特定周波数成分(C1)の振幅」の10%よりも大きい場合に、推定処理またはモータ(50)の運転を制限することができる。
【0105】
(信号の具体例)
次に、機器(70)から得られる物理量の一例である「モータ(50)の電流または電圧に基づく信号」の具体例について説明する。この信号は、直流信号と、交流信号とに大別される。
【0106】
〔直流信号の具体例〕
直流信号の例としては、「モータ(50)の相電流(iu,iv,iw)に相関する信号」と、「モータ(50)の相電圧(Vu,Vv,Vw)に相関する信号」と、「モータ(50)の電力に相関する信号」が挙げられる。
【0107】
直流信号の別の例としては、「モータ(50)の相電流(iu,iv,iw)をモータ(50)の相電流(iu,iv,iw)の位相(ωi・t)で座標変換して得られる電流(iγ,iδ)」と、「モータ(50)の相電圧(Vu,Vv,Vw)をモータ(50)の相電圧(Vu,Vv,Vw)の位相(ωv・t)で座標変換して得られる電圧(Vγ,Vδ)」と、「モータ(50)の相電流(iu,iv,iw)をモータ(50)の相電圧(Vu,Vv,Vw)の位相(ωv・t)で座標変換して得られる電流(iζ,iη)」と、「モータ(50)の相電圧(Vu,Vv,Vw)をモータ(50)の相電流(iu,iv,iw)の位相(ωi・t)で座標変換して得られる電圧(Vζ,Vη)」が挙げられる。
【0108】
直流信号のさらに別の例としては、「永久磁石による電機子鎖交磁束に合わせて座標変換したdq軸磁束(λd,λq)」と、「永久磁石の電機子鎖交磁束と電機子反作用を合成した電機子鎖交磁束ベクトルの大きさλ0」が挙げられる。
【0109】
なお、以下の説明において、「モータ(50)の相電流(iu,iv,iw)」は、相電流検出部(41)により検出されるモータ(50)の相電流(iu,iv,iw)のことである。「モータ(50)の相電圧(Vu,Vv,Vw)」は、制御部(31)の内部において用いられる電圧指令値に示されるモータ(50)の相電圧(Vu,Vv,Vw)、または、モータ駆動装置(20)に設けられた相電圧検出部(図示を省略)により検出されるモータ(50)の相電圧(Vu,Vv,Vw)のことである。「モータ(50)の電気角周波数(ω)」は、電気角周波数検出部(42)により検出されるモータ(50)の電気角周波数(ω)のことである。
【0110】
〔1.モータの相電流に相関する信号の具体例〕
モータ(50)の相電流(iu,iv,iw)に相関する信号の具体例としては、電流ベクトル振幅(Ia),電流ベクトル振幅の二乗値(Ia2),相電流振幅(I),相電流実効値(Irms)などが挙げられる。
【0111】
なお、電流ベクトル振幅(Ia)および電流ベクトル振幅の二乗値(Ia2)は、モータ(50)の三相の相電流(iu,iv,iw)の各々の二乗値の総和に応じた値の一例である。モータ(50)の三相の相電流(iu,iv,iw)の各々の二乗値の総和に応じた値は、モータ(50)の相電流(iu,iv,iw)の大きさの整数乗に比例する値の一例である。
【0112】
(1)電流ベクトル振幅
電流ベクトル振幅(Ia)は、モータ(50)の相電流(iu,iv,iw)に基づいて導出される。また、電流ベクトル振幅(Ia)は、モータ(50)の相電流(iu,iv,iw)を固定座標系に変換して得られるα相電流(iα)およびβ相電流(iβ)に基づいて導出されてもよい。また、電流ベクトル振幅(Ia)は、モータ(50)の相電流(iu,iv,iw)を一次磁束の向きに基づいた角度により座標変換して得られるM軸電流(iM)およびT軸電流(iT)に基づいて導出されてもよい。また、電流ベクトル振幅(Ia)は、モータ(50)の相電流(iu,iv,iw)を磁極位置の向きに基づいた角度により座標変換して得られるd軸電流(id)およびq軸電流(iq)に基づいて導出されてもよい。具体的には、電流ベクトル振幅(Ia)は、次の式のように表現できる。
【0113】
【数6】
【0114】
(2)電流ベクトル振幅の二乗値
電流ベクトル振幅の二乗値(Ia2)は、モータ(50)の相電流(iu,iv,iw)に基づいて導出される。また、電流ベクトル振幅の二乗値(Ia2)は、モータ(50)の相電流(iu,iv,iw)を固定座標系に変換して得られるα相電流(iα)およびβ相電流(iβ)に基づいて導出されてもよい。また、電流ベクトル振幅の二乗値(Ia2)は、モータ(50)の相電流(iu,iv,iw)を一次磁束の向きに基づいた角度により座標変換して得られるM軸電流(iM)およびT軸電流(iT)に基づいて導出されてもよい。また、電流ベクトル振幅の二乗値(Ia2)は、モータ(50)の相電流(iu,iv,iw)を磁極位置の向きに基づいた角度により座標変換して得られるd軸電流(id)およびq軸電流(iq)に基づいて導出されてもよい。具体的には、電流ベクトル振幅の二乗値(Ia2)は、次の式のように表現できる。
【0115】
【数7】
【0116】
(3)相電流振幅
相電流振幅(I)は、モータ(50)の相電流(iu,iv,iw)のうち1つの相電流(例えばU相電流(iu))と、相電流の位相(ωi)とに基づいて導出される。なお、相電流の位相(ωi)は、例えば、モータ(50)の相電流(iu,iv,iw)に基づいて導出される。具体的には、相電流振幅(I)は、次の式のように表現できる。
【0117】
【数8】
【0118】
(4)相電流実効値
相電流実効値(Irms)は、相電流振幅(I)に基づいて導出される。具体的には、相電流実効値(Irms)は、次の式のように表現できる。
【0119】
【数9】
【0120】
(5)その他
以上の説明では、電流ベクトル振幅(Ia)がモータ(50)の三相の相電流(iu,iv,iw)に基づいて導出される場合を例に挙げたが、電流ベクトル振幅(Ia)は、モータ(50)の三相の相電流(iu,iv,iw)のうち二相の相電流に基づいて導出されてもよい。また、電流ベクトル振幅(Ia)は、モータ駆動装置(20)に設けられた直流電流検出部(例えばシャント抵抗、図示を省略)により検出されるインバータ(23)の直流電流に基づいて導出されてもよい。電流ベクトル振幅の二乗値(Ia2)についても同様である。
【0121】
〔2.モータの相電圧に相関する信号の具体例〕
モータ(50)の相電圧(Vu,Vv,Vw)と相関する信号の具体例として、電圧ベクトル振幅(Va),電圧ベクトル振幅の二乗値(Va2),相電圧振幅(V),相電圧実効値(Vrms)などが挙げられる。
【0122】
なお、電圧ベクトル振幅(Va)および電圧ベクトル振幅の二乗値(Va2)は、モータ(50)の三相の相電圧(Vu,Vv,Vw)の各々の二乗値の総和に応じた値の一例である。モータ(50)の三相の相電圧(Vu,Vv,Vw)の各々の二乗値の総和に応じた値は、モータ(50)の相電圧(Vu,Vv,Vw)の大きさの整数乗に比例する値の一例である。
【0123】
(1)電圧ベクトル振幅
電圧ベクトル振幅(Va)は、モータ(50)の相電圧(Vu,Vv,Vw)に基づいて導出される。また、電圧ベクトル振幅(Va)は、モータ(50)の相電圧(Vu,Vv,Vw)を固定座標系に変換して得られるα相電圧(Vα)およびβ相電圧(Vβ)に基づいて導出されてもよい。また、電圧ベクトル振幅(Va)は、モータ(50)の相電圧(Vu,Vv,Vw)を一次磁束の向きに基づいた角度により座標変換して得られるM軸電圧(VM)およびT軸電圧(VT)に基づいて導出されてもよい。また、電圧ベクトル振幅(Va)は、モータ(50)の相電圧(Vu,Vv,Vw)を磁極位置の向きに基づいた角度により座標変換して得られるd軸電圧(Vd)およびq軸電圧(Vq)に基づいて導出されてもよい。具体的には、電圧ベクトル振幅(Va)は、次の式のように表現できる。
【0124】
【数10】
【0125】
(2)電圧ベクトル振幅の二乗値
電圧ベクトル振幅の二乗値(Va2)は、モータ(50)の相電圧(Vu,Vv,Vw)に基づいて導出される。また、電圧ベクトル振幅の二乗値(Va2)は、モータ(50)の相電圧(Vu,Vv,Vw)を固定座標系に変換して得られるα相電圧(Vα)およびβ相電圧(Vβ)に基づいて導出されてもよい。また、電圧ベクトル振幅の二乗値(Va2)は、モータ(50)の相電圧(Vu,Vv,Vw)を一次磁束の向きに基づいた角度により座標変換して得られるM軸電圧(VM)およびT軸電圧(VT)に基づいて導出されてもよい。また、電圧ベクトル振幅の二乗値(Va2)は、モータ(50)の相電圧(Vu,Vv,Vw)を磁極位置の向きに基づいた角度により座標変換して得られるd軸電圧(Vd)およびq軸電圧(Vq)に基づいて導出されてもよい。具体的には、電圧ベクトル振幅の二乗値(Va2)は、次の式のように表現できる。
【0126】
【数11】
【0127】
(3)相電圧振幅
相電圧振幅(V)は、モータ(50)の相電圧(Vu,Vv,Vw)のうち1つの相電圧(例えばU相電圧(Vu))と、相電圧の位相(ωv)とに基づいて導出される。なお、相電圧の位相(ωv)は、例えば、モータ(50)の相電圧(Vu,Vv,Vw)に基づいて導出される。具体的には、相電圧振幅(V)は、次の式のように表現できる。
【0128】
【数12】
【0129】
(4)相電圧実効値
相電圧実効値(Vrms)は、相電圧振幅(V)に基づいて導出される。具体的には、相電圧実効値(Vrms)は、次の式のように表現できる。
【0130】
【数13】
【0131】
(5)その他
以上の説明では、電圧ベクトル振幅(Va)がモータ(50)の三相の相電圧(Vu,Vv,Vw)に基づいて導出される場合を例に挙げたが、電圧ベクトル振幅(Va)は、モータ(50)の三相の相電圧(Vu,Vv,Vw)のうち二相の相電圧に基づいて導出されてもよい。電圧ベクトル振幅の二乗値(Va2)についても同様である。
【0132】
〔3.モータの電力に相関する信号の具体例〕
モータ(50)の電力に相関する信号の例として、瞬時電力(p),瞬時虚電力(q),皮相電力(S),有効電力(P),無効電力(Q)などが挙げられる。
【0133】
(1)瞬時電力
瞬時電力(p)は、モータ(50)の相電流(iu,iv,iw)と、モータ(50)の相電圧(Vu,Vv,Vw)とに基づいて導出される。また、瞬時電力(p)は、モータ(50)の相電流(iu,iv,iw)を固定座標系に変換して得られるα相電流(iα)およびβ相電流(iβ)と、モータ(50)の相電圧(Vu,Vv,Vw)を固定座標系に変換して得られるα相電圧(Vα)およびβ相電圧(Vβ)とに基づいて導出されてもよい。また、瞬時電力(p)は、モータ(50)の相電流(iu,iv,iw)を一次磁束の向きに基づいた角度により座標変換して得られるM軸電流(iM)およびT軸電流(iT)と、モータ(50)の相電圧(Vu,Vv,Vw)を一次磁束の向きに基づいた角度により座標変換して得られるM軸電圧(VM)およびT軸電圧(VT)とに基づいて導出されてもよい。また、瞬時電力(p)は、モータ(50)の相電流(iu,iv,iw)を磁極位置の向きに基づいた角度により座標変換して得られるd軸電流(id)およびq軸電流(iq)と、モータ(50)の相電圧(Vu,Vv,Vw)を磁極位置の向きに基づいた角度により座標変換して得られるd軸電圧(Vd)およびq軸電圧(Vq)とに基づいて導出されてもよい。具体的には、瞬時電力(p)は、次の式のように表現できる。
【0134】
【数14】
【0135】
(2)瞬時虚電力
瞬時虚電力(q)は、モータ(50)の相電流(iu,iv,iw)を固定座標系に変換して得られるα相電流(iα)およびβ相電流(iβ)と、モータ(50)の相電圧(Vu,Vv,Vw)を固定座標系に変換して得られるα相電圧(Vα)およびβ相電圧(Vβ)とに基づいて導出される。また、瞬時虚電力(q)は、モータ(50)の相電流(iu,iv,iw)を一次磁束の向きに基づいた角度により座標変換して得られるM軸電流(iM)およびT軸電流(iT)と、モータ(50)の相電圧(Vu,Vv,Vw)を一次磁束の向きに基づいた角度により座標変換して得られるM軸電圧(VM)およびT軸電圧(VT)とに基づいて導出されてもよい。また、瞬時虚電力(q)は、モータ(50)の相電流(iu,iv,iw)を磁極位置の向きに基づいた角度により座標変換して得られるd軸電流(id)およびq軸電流(iq)と、モータ(50)の相電圧(Vu,Vv,Vw)を磁極位置の向きに基づいた角度により座標変換して得られるd軸電圧(Vd)およびq軸電圧(Vq)とに基づいて導出されてもよい。具体的には、瞬時虚電力(q)は、次の式のように表現できる。
【0136】
【数15】
【0137】
(3)皮相電力
皮相電力(S)は、相電圧実効値(Vrms)と相電流実効値(Irms)とに基づいて導出される。具体的には、皮相電力(S)は、次の式のように表現できる。
【0138】
【数16】
【0139】
(4)有効電力
有効電力(P)は、相電圧実効値(Vrms)と、相電流実効値(Irms)と、相電圧と相電流との位相差(φ1)とに基づいて導出される。相電圧と相電流との位相差(φ1)は、1つの相電圧(例えばU相電圧(Vu))と1つの相電流(例えばU相電流(iu))との位相差であり、相電流の位相(ωi)および相電圧の位相(ωv)とに基づいて導出される。具体的には、有効電力(P)は、次の式のように表現できる。
【0140】
【数17】
【0141】
(5)無効電力
無効電力(Q)は、相電圧実効値(Vrms)と、相電流実効値(Irms)と、相電圧と相電流との位相差(φ1)とに基づいて導出される。相電圧と相電流との位相差(φ1)は、例えば、U相電圧(Vu)とU相電流(iu)との位相差であり、相電流の位相(ωi)および相電圧の位相(ωv)とに基づいて導出される。具体的には、無効電力(Q)は、次の式のように表現できる。
【0142】
【数18】
【0143】
〔4.相電流を相電流の位相で座標変換して得られる電流〕
モータ(50)の相電流(iu,iv,iw)をモータ(50)の相電流(iu,iv,iw)の位相(ωi・t)で座標変換して得られる電流(iγ,iδ)は、次の式のように表現できる。
【0144】
【数19】
【0145】
〔5.相電圧を相電圧の位相で座標変換して得られる電圧〕
モータ(50)の相電圧(Vu,Vv,Vw)をモータ(50)の相電圧(Vu,Vv,Vw)の位相(ωv・t)で座標変換して得られる電圧(Vγ,Vδ)は、次の式のように表現できる。
【0146】
【数20】
【0147】
〔6.相電流を相電圧の位相で座標変換して得られる電流〕
モータ(50)の相電流(iu,iv,iw)をモータ(50)の相電圧(Vu,Vv,Vw)の位相(ωv・t)で座標変換して得られる電流(iζ,iη)は、次の式のように表現できる。
【0148】
【数21】
【0149】
〔7.相電圧を相電流の位相で座標変換して得られる電圧〕
モータ(50)の相電圧(Vu,Vv,Vw)をモータ(50)の相電流(iu,iv,iw)の位相(ωi・t)で座標変換して得られる電圧(Vζ,Vη)は、次の式のように表現できる。
【0150】
【数22】
【0151】
〔6.dq軸磁束と電機子鎖交磁束ベクトルの大きさ〕
永久磁石による電機子鎖交磁束に合わせて座標変換したdq軸磁束(λd,λq)と、永久磁石の電機子鎖交磁束と電機子反作用を合成した電機子鎖交磁束ベクトルの大きさλ0は、次の式のように表現できる。次の式の「Ld」はd軸インダクタンスであり、「Lq」はq軸インダクタンスである。
【0152】
【数23】
【0153】
〔7.直流信号のその他の例〕
また、直流信号は、モータ(50)の相電流や相電圧や線電流や線間電圧を3相2相変換し、さらに、回転座標変換を施した直流信号であってもよい。例えば、直流信号は、モータ(50)の相電流を3相2相変換したα軸電流およびβ軸電流を、モータ(50)の回転子の磁極の向きに基づく角度で回転座標変換したd軸電流およびq軸電流であってもよい。また、直流信号は、α軸電流およびβ軸電流を、モータ(50)の回転子の一次磁束の向きに基づく角度で回転座標変換したM軸電流およびT軸電流であってもよい。
【0154】
また、直流信号は、モータ駆動装置(20)のコンバータ(21)に入力される電力、コンバータ(21)から出力される電力、直流部(22)から出力される電力、コンバータ(21)と直流部(22)との間を流れる電流、直流部(22)とインバータ(23)の間を流れる電流などであってもよい。
【0155】
〔交流信号の具体例〕
交流信号の例としては、「モータ(50)の相電流(iu,iv,iw)」と、「モータ(50)の相電圧(Vu,Vv,Vw)」と、「各相の鎖交磁束(Ψfu,Ψfv,Ψfw)」とが挙げられる。
【0156】
各相の鎖交磁束(Ψfu,Ψfv,Ψfw)は、次の式のように表現できる。
【0157】
【数24】
【0158】
交流信号の別の例としては、上記の交流信号を三相二相変換した固定座標の電流、電圧鎖交磁束が挙げられる。
【0159】
また、交流信号は、モータ(50)の線電流、線間電圧などであってもよい。また、交流信号は、相電流や相電圧や線電流や線間電圧を3相2相変換した2相の交流電流(例えばα軸電流およびβ軸電流)や2相の交流電圧であってもよい。また、交流電流は、商用電源系統(具体的には交流電源(60))とモータ駆動装置(20)のコンバータ(21)との間を流れる電流であってもよい。
【0160】
(特定周波数成分の具体例)
次に、特定周波数成分の具体例について説明する。
【0161】
例えば、物理量が直流信号である場合、特定周波数成分(C1)の周波数は、モータ(50)の機械角周波数の1倍、1/3倍、2/3倍の少なくとも1つである。物理量が交流信号である場合、特定周波数成分(C1)の周波数は、モータ(50)の電気角周波数に所定周波数を加算して得られる周波数、モータ(50)の電気角周波数から所定周波数を減算して得られる周波数、モータ(50)の電気角周波数の3倍のうち少なくとも1つである。所定周波数は、モータ(50)の機械角周波数の1倍、1/3倍、2/3倍のいずれか1つである。
【0162】
以上のように特定周波数成分(C1)の周波数を設定することで、機器(70)の各種の状態(特に異常)を推定することができる。
【0163】
(機器の各種の状態)
ここで、機器(70)の各種の状態について説明する。機器(70)の状態の例としては、圧縮室のオイルシール破綻、モータ(50)の絶縁劣化、軸受摩耗、希釈、液圧縮、アンバランス、流路の閉塞などが挙げられる。これらの機器(70)の状態は、機器(70)の異常の一例である。
【0164】
〔1.圧縮室のオイルシール破綻〕
圧縮室のオイルシール破綻は、モータ(50)が「圧縮機に搭載されたモータ(50)」である場合に発生し得る状態であり、圧縮機内の圧縮室(図示省略)をシールする潤滑油が不足する状態である。
【0165】
物理量が直流信号である場合、圧縮室のオイルシール破綻が発生すると、モータ(50)の機械角周波数の1倍に対応する周波数成分が低下する傾向にある。したがって、物理量が直流信号である場合に、特定周波数成分(C1)の周波数を「モータ(50)の機械角周波数の1倍」に設定することで、「圧縮室のオイルシール破綻」を推定することができる。
【0166】
また、物理量が交流信号である場合、圧縮室のオイルシール破綻が発生すると、モータ(50)の電気角周波数に「モータ(50)の機械角周波数の1倍」を加算して得られる周波数に対応する周波数成分、および、モータ(50)の電気角周波数から「モータ(50)の機械角周波数の1倍」を減算して得られる周波数に対応する周波数成分が低下する傾向にある。したがって、物理量が交流信号である場合に、特定周波数成分(C1)の周波数を、モータ(50)の電気角周波数に「モータ(50)の機械角周波数の1倍」を加算して得られる周波数、または、モータ(50)の電気角周波数から「モータ(50)の機械角周波数の1倍」を減算して得られる周波数に設定することで、「圧縮室のオイルシール破綻」を推定することができる。
【0167】
〔2.モータの絶縁劣化〕
モータ(50)の絶縁劣化は、モータ(50)の絶縁性能が不足する状態(異常)である。モータ(50)の絶縁性能の劣化が進行すると、モータ(50)の絶縁レベルが許容レベルを下回る。
【0168】
物理量が交流信号である場合、モータ(50)の絶縁劣化が発生すると、モータ(50)の電気角周波数の3倍に対応する周波数成分が増加する傾向にある。したがって、物理量が交流信号である場合に、特定周波数成分(C1)の周波数を「モータ(50)の電気角周波数の3倍」に設定することで、「モータ(50)の絶縁劣化」を推定することができる。
【0169】
〔3.軸受摩耗〕
軸受摩耗は、モータ(50)により回転駆動される回転軸または回転軸の軸受が摩耗する状態(異常)である。
【0170】
物理量が直流信号である場合、軸受摩耗が発生すると、モータ(50)の機械角周波数の1/3倍および2/3倍にそれぞれ対応する周波数成分が増加する傾向にある。したがって、物理量が直流信号である場合に、特定周波数成分(C1)の周波数を「モータ(50)の機械角周波数の1/3倍および2/3倍の少なくとも1つ」に設定することで、「軸受摩耗」を推定することができる。
【0171】
また、物理量が交流信号である場合、軸受摩耗が発生すると、モータ(50)の電気角周波数に「モータ(50)の機械角周波数の1/3倍」を加算して得られる周波数に対応する周波数成分と、モータ(50)の電気角周波数から「モータ(50)の機械角周波数の1/3倍」を減算して得られる周波数に対応する周波数成分と、モータ(50)の電気角周波数に「モータ(50)の機械角周波数の2/3倍」を加算して得られる周波数に対応する周波数成分と、モータ(50)の電気角周波数から「モータ(50)の機械角周波数の2/3倍」を減算して得られる周波数に対応する周波数成分が増加する傾向にある。したがって、物理量が交流信号である場合に、特定周波数成分(C1)の周波数を、モータ(50)の電気角周波数に「モータ(50)の機械角周波数の1/3倍」を加算して得られる周波数、モータ(50)の電気角周波数から「モータ(50)の機械角周波数の1/3倍」を減算して得られる周波数、モータ(50)の電気角周波数に「モータ(50)の機械角周波数の2/3倍」を加算して得られる周波数、モータ(50)の電気角周波数から「モータ(50)の機械角周波数の2/3倍」を減算して得られる周波数に設定することで、「軸受摩耗」を推定することができる。
【0172】
〔4.希釈〕
希釈は、モータ(50)が「圧縮機に搭載されたモータ(50)」である場合に発生し得る状態(異常)であり、圧縮機の油濃度が不足する状態である。希釈が発生すると、圧縮機内の軸受部(図示省略)における摩擦が大きくなり、軸受部の摩耗に繋がる。また、希釈が発生すると、圧縮機内の摺動部(図示省略)の潤滑油がなくなることで摩擦が起き、摺動部の面荒れなどに繋がる。
【0173】
物理量が直流信号である場合、希釈が発生すると、モータ(50)の機械角周波数の1倍に対応する周波数成分が低下する傾向にある。したがって、物理量が直流信号である場合に、特定周波数成分(C1)の周波数を「モータ(50)の機械角周波数の1倍」に設定することで、「希釈」を推定することができる。
【0174】
また、物理量が交流信号である場合、希釈が発生すると、モータ(50)の電気角周波数に「モータ(50)の機械角周波数の1倍」を加算して得られる周波数に対応する周波数成分、および、モータ(50)の電気角周波数から「モータ(50)の機械角周波数の1倍」を減算して得られる周波数に対応する周波数成分が低下する傾向にある。したがって、物理量が交流信号である場合に、特定周波数成分(C1)の周波数を、モータ(50)の電気角周波数に「モータ(50)の機械角周波数の1倍」を加算して得られる周波数、または、モータ(50)の電気角周波数から「モータ(50)の機械角周波数の1倍」を減算して得られる周波数に設定することで、「希釈」を推定することができる。
【0175】
〔5.液圧縮〕
液圧縮は、モータ(50)が「圧縮機に搭載されたモータ(50)」である場合に発生し得る状態(異常)であり、圧縮機の圧縮室(図示省略)に液状の流体が吸入される状態である。液圧縮が発生すると、圧縮室を構成する部品の金属疲労や破損などに繋がる。
【0176】
物理量が直流信号である場合、液圧縮が発生すると、モータ(50)の機械角周波数の1倍に対応する周波数成分が増加する傾向にある。したがって、物理量が直流信号である場合に、特定周波数成分(C1)の周波数を「モータ(50)の機械角周波数の1倍」に設定することで、「液圧縮」を推定することができる。
【0177】
また、物理量が交流信号である場合、液圧縮が発生すると、モータ(50)の電気角周波数に「モータ(50)の機械角周波数の1倍」を加算して得られる周波数に対応する周波数成分、および、モータ(50)の電気角周波数から「モータ(50)の機械角周波数の1倍」を減算して得られる周波数に対応する周波数成分が増加する傾向にある。したがって、物理量が交流信号である場合に、特定周波数成分(C1)の周波数を、モータ(50)の電気角周波数に「モータ(50)の機械角周波数の1倍」を加算して得られる周波数、または、モータ(50)の電気角周波数から「モータ(50)の機械角周波数の1倍」を減算して得られる周波数に設定することで、「液圧縮」を推定することができる。
【0178】
〔6.アンバランス〕
アンバランスは、モータ(50)が「ファンの羽根を駆動するモータ(50)」である場合に発生し得る状態(異常)であり、ファンに設けられた複数の羽根においてアンバランスが生じる状態である。例えば、アンバランスは、複数の羽根の各々において変形、破損、汚損、着霜の度合いが異なることが原因で生じる。
【0179】
物理量が交流信号である場合、アンバランスが発生すると、モータ(50)の電気角周波数に「モータ(50)の機械角周波数の1倍」を加算して得られる周波数に対応する周波数成分、および、モータ(50)の電気角周波数から「モータ(50)の機械角周波数の1倍」を減算して得られる周波数に対応する周波数成分が増加する傾向にある。したがって、物理量が交流信号である場合に、特定周波数成分(C1)の周波数を、モータ(50)の電気角周波数に「モータ(50)の機械角周波数の1倍」を加算して得られる周波数、または、モータ(50)の電気角周波数から「モータ(50)の機械角周波数の1倍」を減算して得られる周波数に設定することで、「アンバランス」を推定することができる。
【0180】
〔7.流路の閉塞〕
流路の閉塞は、モータ(50)が「ファンの羽根を駆動するモータ(50)」である場合に発生し得る状態(異常)であり、ファンが設けられた流路が閉塞する状態である。流路の閉塞は、例えば、ファンとともに流路に設けられたフィルタ(図示省略)が詰まることで生じる。流路の閉塞が発生すると、乱流による負荷変動により送風時の反力に擾乱が生じて速度が変化する。
【0181】
物理量が直流信号である場合、流路の閉塞が発生すると、モータ(50)の機械角周波数の1倍の付近においてピークを有する周波数成分が変動する傾向にある。したがって、物理量が直流信号である場合に、特定周波数成分(C1)の周波数を「モータ(50)の機械角周波数の1倍」に設定することで、「流路の閉塞」を推定することができる。
【0182】
また、物理量が交流信号である場合、流路の閉塞が発生すると、モータ(50)の電気角周波数が変動する傾向にある。したがって、物理量が交流信号である場合に、特定周波数成分(C1)の周波数をモータ(50)の電気角周波数に設定することで、「流路の閉塞」を推定することができる。
【0183】
(推定処理の具体例)
次に、推定処理の具体例について説明する。推定処理の例としては、以下の4つの推定処理(第1~第4推定処理)が挙げられる。なお、以下では、特定周波数成分(C1)の振幅に基づいて推定処理が行われる場合を例に挙げて説明する。以下の説明における「特定周波数成分(C1)」は、「特定周波数成分(C1)の振幅」のことである。
【0184】
〔第1推定処理〕
まず、図11を参照して、第1推定処理について説明する。第1推定処理では、制御部(31)は、特定周波数成分(C1)の瞬時値に基づいて、機器(70)の状態が異常状態であるか否かを推定する。具体的には、制御部(31)は、予め定められた検出周期毎に以下の処理(ステップ(S11)~ステップ(S13))を行う。
【0185】
〈ステップ(S11)〉
制御部(31)は、特定周波数成分(C1)の瞬時値を取得する。
【0186】
〈ステップ(S12)〉
次に、制御部(31)は、ステップ(S11)において取得された特定周波数成分(C1)の瞬時値が予め定められた上限値以上であるか否かを判定する。なお、この上限値は、推定処理において用いられる閾値の一例である。特定周波数成分(C1)の瞬時値が上限値以上である場合には、ステップ(S13)の処理が行われる。一方、そうでない場合には、ステップ(S14)の処理が行われる。
【0187】
〈ステップ(S13)〉
ステップ(S12)において特定周波数成分(C1)の瞬時値が上限値以上である場合、制御部(31)は、機器(70)の状態が異常状態であると推定する。そして、制御部(31)は、機器(70)の状態が異常状態であることを示す推定結果を出力する。
【0188】
〈ステップ(S14)〉
一方、ステップ(S12)において特定周波数成分(C1)の瞬時値が上限値以上ではない場合、制御部(31)は、機器(70)の状態が正常状態であると推定する。そして、制御部(31)は、機器(70)の状態が正常状態であることを示す推定結果を出力する。
【0189】
〔第2推定処理〕
図12および図13を参照して、第2推定処理について説明する。第2推定処理では、制御部(31)は、特定周波数成分(C1)の変化率に基づいて、機器(70)の状態が異常状態であるか否かを推定する。具体的には、制御部(31)は、予め定められた検出周期毎に以下の処理(ステップ(S21)~ステップ(S23))を繰り返し行う。
【0190】
〈ステップ(S21)〉
制御部(31)は、特定周波数成分(C1)の変化率を取得する。例えば、制御部(31)は、特定周波数成分(C1)の瞬時値を時間で微分することで特定周波数成分(C1)の変化率を導出する。図13の例では、時刻(t1,t2,t3)の各々において特定周波数成分(C1)の変化率が変化する。
【0191】
〈ステップ(S22)〉
制御部(31)は、ステップ(S21)において取得された特定周波数成分(C1)の変化率が予め定められた上限値以上であるか否かを判定する。なお、この上限値は、推定処理において用いられる閾値の一例である。特定周波数成分(C1)の変化率が上限値以上である場合には、ステップ(S23)の処理が行われる。一方、そうでない場合には、ステップ(S24)の処理が行われる。図13の例では、時刻(t2)において特定周波数成分(C1)の変化率が上限値以上となる。
【0192】
〈ステップ(S23)〉
ステップ(S22)において特定周波数成分(C1)の変化率が上限値以上である場合、制御部(31)は、機器(70)の状態が異常状態であると推定する。そして、制御部(31)は、機器(70)の状態が異常状態であることを示す推定結果を出力する。
【0193】
〈ステップ(S24)〉
一方、ステップ(S22)において特定周波数成分(C1)の変化率が上限値以上ではない場合、制御部(31)は、機器(70)の状態が正常状態であると推定する。そして、制御部(31)は、機器(70)の状態が正常状態であることを示す推定結果を出力する。
【0194】
〔第3推定処理〕
図14および図15を参照して、第3推定処理について説明する。第3推定処理では、制御部(31)は、特定周波数成分(C1)が上限値以上となる時間を累積して得られる累積時間に基づいて、機器(70)の状態が異常状態であるか否かを推定する。具体的には、制御部(31)は、予め定められた検出周期毎に以下の処理(ステップ(S31)~ステップ(S33))を繰り返し行う。
【0195】
〈ステップ(S31)〉
制御部(31)は、特定周波数成分(C1)が上限値以上となる時間の累積値(累積時間)を取得する。なお、この上限値は、推定処理において用いられる閾値の一例である。
【0196】
例えば、制御部(31)は、検出周期における代表値となる特定周波数成分(C1)の瞬時値を取得し、特定周波数成分(C1)の瞬時値が上限値以上であるか否かを判定する。そして、制御部(31)は、特定周波数成分(C1)の瞬時値が上限値以上である場合には、カウント値をインクリメントし、特定周波数成分(C1)の瞬時値が上限値以上ではない場合には、カウント値をインクリメントしない。このカウント値は、特定周波数成分(C1)が上限値以上となる時間の累積値(累積時間)に対応する。例えば、カウント値に検出周期に相当する時間を乗算して得られる値が累積時間となる。
【0197】
図15の例では、時刻(t1~t12)の各々において第3推定処理が行われ、時刻(t1~t12)のうち時刻(t2~t5,t9~t12)においてカウント値がインクリメントされる。
【0198】
〈ステップ(S32)〉
次に、制御部(31)は、ステップ(S31)において取得された累積時間(この例ではカウント値)が予め定められた閾値を上回るか否かを判定する。この閾値は、推定処理において用いられる閾値の一例である。累積時間が閾値を上回る場合には、ステップ(S33)の処理が行われる、一方、そうでない場合には、ステップ(S34)の処理が行われる。図15の例では、制御部(31)は、時刻(t11)においてカウント値が閾値を上回ると判定する。
【0199】
〈ステップ(S33)〉
ステップ(S32)において累積時間が閾値を上回る場合、制御部(31)は、制御部(31)は、機器(70)の状態が異常状態であると推定する。そして、制御部(31)は、機器(70)の状態が異常状態であることを示す推定結果を出力する。
【0200】
〈ステップ(S34)〉
一方、ステップ(S32)において累積時間が閾値を上回らない場合、制御部(31)は、機器(70)の状態が正常状態であると推定する。そして、制御部(31)は、機器(70)の状態が正常状態であることを示す推定結果を出力する。
【0201】
〔第4推定処理〕
図16および図17を参照して、第4推定処理について説明する。第4推定処理では、制御部(31)は、予め定められた判定時間内において特定周波数成分(C1)が予め定められた上限値以上となる時間が占める割合(時間割合)に基づいて、機器(70)の状態が異常状態であるか否かを推定する。具体的には、制御部(31)は、予め定められた検出周期毎に以下の処理(ステップ(S41)~ステップ(S43))を繰り返し行う。
【0202】
〈ステップ(S41)〉
制御部(31)は、判定時間内において特定周波数成分(C1)が上限値以上となる時間が占める割合(時間割合)を取得する。なお、この上限値は、推定処理において用いられる閾値の一例である。
【0203】
例えば、制御部(31)は、現在時刻を終端とする判定期間(少なくとも判定時間に相当する期間)内における特定周波数成分(C1)を記憶する。そして、制御部(31)は、その記憶された特定周波数成分(C1)に基づいて、現在時刻を終端とし且つ期間長さが判定時間に相当する判定期間内において特定周波数成分(C1)が上限値以上である時間(上限値超過時間)を導出し、上限値超過時間を判定時間で除算することで時間割合を導出する。なお、図17の例では、時刻(t2)が現在時刻であり、時刻(t1)から時刻(t2)までの期間が判定期間であり、時間(T1)と時間(T2)が上限値超過時間であり、時間(T1)と時間(T2)の合計を判定時間(T0)で除算して得られる値が時間割合である。
【0204】
〈ステップ(S42)〉
次に、制御部(31)は、ステップ(S41)において取得された時間割合(判定時間内において特定周波数成分(C1)が上限値以上となる時間が占める割合)が予め定められた閾値を上回るか否かを判定する。なお、この閾値は、推定処理において用いられる閾値の一例である。時間割合が閾値を上回る場合には、ステップ(S43)の処理が行われる。一方、そうでない場合には、ステップ(S44)の処理が行われる。
【0205】
〈ステップ(S43)〉
ステップ(S42)において時間割合が閾値を上回る場合、制御部(31)は、機器(70)の状態が異常状態であると推定する。そして、制御部(31)は、機器(70)の状態が異常状態であることを示す推定結果を出力する。
【0206】
〈ステップ(S44)〉
一方、ステップ(S42)において時間割合が閾値を上回らない場合、制御部(31)は、機器(70)の状態が正常状態であると推定する。そして、制御部(31)は、機器(70)の状態が正常状態であることを示す推定結果を出力する。
【0207】
なお、以上の推定処理の説明では、特定周波数成分(C1)と上限値とが比較される場合を例に挙げたが、これに限定されない。例えば、特定周波数成分(C1)と予め定められた下限値とが比較されてもよい。つまり、上記の「上限値以上」を「下限値以下」に読み替えてもよい。また、特定周波数成分(C1)と予め定められた許容範囲とが比較されてもよい。つまり、上記の「上限値以上」を「許容範囲外」に読み替えてもよい。
【0208】
(第1制限処理の具体例)
次に、第1制限処理の具体例について説明する。第1制限処理において行われる「推定処理を制限するための処理」の例としては、以下の5つの推定制限処理(第1~第5推定制限処理)が挙げられる。
【0209】
〔第1推定制限処理〕
まず、第1推定制限処理について説明する。第1推定制限処理は、推定処理の実施を禁止(停止)する処理である。第1推定制限処理において、制御部(31)は、推定処理を停止し、予め定められた推定結果を出力する。これにより、予め定められた推定結果が出力されるように、推定処理が直接的に制限される。このように、誤った推定結果が得られないようにすることができるので、機器(70)の状態の誤推定を抑制することができる。
【0210】
〔第2推定制限処理〕
次に、第2推定制限処理について説明する。第2推定制限処理は、推定処理により得られた推定結果を補正する処理である。第2推定制限処理において、制御部(31)は、推定処理を継続する一方で、推定処理により得られた推定結果を「予め定められた推定結果」に補正する。これにより、予め定められた推定結果が出力されるように、推定処理が直接的に制限される。このように、誤った推定結果が得られないようにすることができるので、機器(70)の状態の誤推定を抑制することができる。
【0211】
〔第3推定制限処理〕
次に、第3推定制限処理について説明する。第3推定制限処理は、算出処理の実施を禁止(停止)する処理である。第3推定制限処理において、制御部(31)は、算出処理を停止し、推定処理において予め定められた推定結果が得られるように、推定処理において用いられる特定周波数成分(C1)を「予め定められた特定周波数成分(C1)」に設定する。これにより、予め定められた推定結果が出力されるように、推定処理が間接的に制限される。このように、誤った推定結果が得られないようにすることができるので、機器(70)の状態の誤推定を抑制することができる。
【0212】
〔第4推定制限処理〕
次に、第4推定制限処理について説明する。第4推定制限処理は、算出処理により算出された特定周波数成分(C1)を補正する処理である。第4推定制限処理において、制御部(31)は、算出処理を継続する一方で、推定処理において予め定められた推定結果が得られるように、算出処理により算出された特定周波数成分(C1)を「予め定められた特定周波数成分(C1)」に補正する。これにより、予め定められた推定結果が出力されるように、推定処理が間接的に制限される。このように、誤った推定結果が得られないようにすることができるので、機器(70)の状態の誤推定を抑制することができる。
【0213】
〔第5推定制限処理〕
次に、第5推定制限処理について説明する。第5推定制限処理は、推定処理において、制御部(31)が特定周波数成分(C1)の振幅と予め定められた閾値との比較の結果に基づいて機器(70)の状態を推定する場合に行われる処理であり、閾値および特定周波数成分(C1)の振幅の少なくとも1つを補正する処理である。第5推定制限処理において、制御部(31)は、推定処理において予め定められた推定結果が得られるように、推定処理において用いられる閾値を「予め定められた閾値」に補正する。または、第5推定制限処理において、制御部(31)は、推定処理において予め定められた推定結果が得られるように、推定処理において用いられる特定周波数成分(C1)を「予め定められた特定周波数成分(C1)」に補正する。これにより、予め定められた推定結果が出力されるように、推定処理が直接的に制限される。このように、誤った推定結果が得られないようにすることができるので、機器(70)の状態の誤推定を抑制することができる。
【0214】
(第2制限処理の具体例)
次に、第2制限処理の具体例について説明する。第2制限処理において行われる「モータ(50)の運転を制限するための処理」の例としては、以下の2つの運転制限処理(第1および第2運転制限処理)が挙げられる。
【0215】
〔第1運転制限処理〕
まず、第1運転制限処理について説明する。第1運転制限処理は、推定処理において誤推定が行われないようにモータ(50)の運転条件を変更する処理である。モータ(50)の運転条件を変更する処理は、キャリア周波数、算出処理において物理量をサンプリングするサンプリング周波数、モータ(50)の機械角周波数の少なくとも1つを変更する処理である。第1運転制限処理において、制御部(31)は、推定処理において誤推定が行われないように、キャリア周波数、サンプリング周波数、モータ(50)の機械角周波数の少なくとも1つを含むモータ(50)の運転条件を変更する。
【0216】
このように、モータ(50)の運転条件を変更することで、ノイズ周波数成分(Cn)と特定周波数成分(C1)とが所定の関係を満たさないようにすることができる。これにより、ノイズ周波数成分(Cn)の影響による特定周波数成分(C1)の大きさの変動を抑制することができるので、機器(70)の状態の誤推定を抑制することができる。
【0217】
〔第2運転制限処理〕
次に、第2運転制限処理について説明する。第2運転制限処理は、ノイズ周波数成分(Cn)と特定周波数成分(C1)が所定の関係を満たす運転条件でのモータ(50)の運転を禁止する処理である。第2運転制限処理において、制御部(31)は、モータ(50)の運転条件が「ノイズ周波数成分(Cn)と特定周波数成分(C1)が所定の関係を満たす運転条件」である場合に、モータ(50)の運転を禁止し、そうでない場合に、モータ(50)の運転を許可する。
【0218】
このように、ノイズ周波数成分(Cn)と特定周波数成分(C1)が所定の関係を満たす運転条件でのモータ(50)の運転を禁止することで、誤った推定結果が得られないようにすることができる。これにより、機器(70)の状態の誤推定を抑制することができる。
【0219】
(実施形態1の変形例)
実施形態1の変形例の駆動システム(10)は、制御部(31)による制限処理が実施形態1の駆動システム(10)と異なる。実施形態1の変形例の駆動システム(10)のその他の構成および処理は、実施形態1の駆動システム(10)の構成および処理と同様である。
【0220】
実施形態1の変形例の制限処理において、制御部(31)は、ノイズ周波数成分(Cn)と特定周波数成分(C1)が所定の関係を満たすと、推定処理またはモータ(50)の運転を制限する。そして、制御部(31)は、推定処理またはモータ(50)の運転の制限を開始した後に、所定の制限解除条件が成立すると、所定の待機解除条件が成立した後に、推定処理またはモータ(50)の運転の制限を解除する。待機解除条件については、後で詳しく説明する。
【0221】
図18に示すように、実施形態1の変形例の制限処理では、ステップ(S103)とステップ(S104)との間にステップ(S110)が行われる。
【0222】
〈ステップ(S110)〉
ステップ(S103)において所定の制限解除条件が成立すると、制御部(31)は、待機解除条件が成立するか否かを判定する。待機解除条件が成立すると、ステップ(S104)の処理が行われる。例えば、ステップ(S110)の処理は、所定の判定時間毎に行われる。言い換えると、ステップ(S110)の処理は、待機解除条件が成立するまで繰り返し行われる。
【0223】
〔実施形態1の変形例の効果〕
実施形態1の変形例では、実施形態1の効果と同様の効果を得ることができる。
【0224】
また、実施形態1の変形例では、制限解除条件が成立した後に、待機解除条件の成立を待たずに、制限(推定処理の制限またはモータ(50)の制限)を解除する場合よりも、推定処理に用いられる特定周波数成分(C1)を安定させてから、制限を解除することができる。これにより、制限の解除後における機器(70)の状態の誤推定を抑制することができる。
【0225】
(待機解除条件の具体例)
次に、待機解除条件の具体例について説明する。待機解除条件の例としては、以下の3つの待機解除条件(第1~第3待機解除条件)が挙げられる。
【0226】
〔第1待機解除条件〕
まず、第1待機解除条件について説明する。第1待機解除条件は、制限解除条件が成立した時点から所定時間が経過するという条件である。制御部(31)は、制限解除条件が成立すると、所定時間が経過した後に、推定処理またはモータ(50)の運転の制限を解除する。具体的には、制御部(31)は、制限解除条件が成立すると、経過時間の計測を開始する。そして、制御部(31)は、その経過時間が所定時間に到達すると、推定処理またはモータ(50)の運転の制限を解除する。なお、所定時間は、例えば、機器の状態を推定するために用いられる特徴量が非定常状態から定常状態に変化するために要する時間よりも長い時間に設定される。特徴量は、所定期間内の機器(70)から得られる物理量から算出されるものであればよく、例えば、特徴量は、特定周波数成分(C1)であってもよい。
【0227】
〔第2待機解除条件〕
次に、第2待機解除条件について説明する。第2待機解除条件は、制限解除条件の連続成立回数が所定回数に到達するという条件である。制御部(31)は、制限解除条件が成立するか否かを繰り返し判定し、制限解除条件が成立すると、制限解除条件の連続成立回数が所定回数に到達した後に、推定処理またはモータ(50)の運転の制限を解除する。具体的には、制御部(31)は、制限解除条件が成立すると、制限解除条件の連続成立回数の計測を開始する。そして、制御部(31)は、その制限解除条件の連続成立回数が所定回数に到達すると、推定処理またはモータ(50)の運転の制限を解除する。なお、所定回数は、例えば、特徴量が非定常状態から定常状態に変化するまでに計測される制限解除条件の連続成立回数よりも多い回数に設定される。
【0228】
〔第3待機解除条件〕
次に、第3待機解除条件について説明する。第3待機解除条件は、算出処理により算出される特定周波数成分(C1)が定常状態になるという条件である。制御部(31)は、算出処理により算出される特定周波数成分(C1)を監視し、制限解除条件が成立すると、算出処理により算出される特定周波数成分(C1)が定常状態になった後に、推定処理またはモータ(50)の運転の制限を解除する。具体的には、制御部(31)は、制限解除条件が成立すると、算出処理により算出される特定周波数成分(C1)が定常状態であるか否かを判定する。そして、制御部(31)は、算出処理により算出される特定周波数成分(C1)が定常状態であると判定すると、推定処理またはモータ(50)の運転の制限を解除する。
【0229】
なお、特定周波数成分(C1)の定常状態は、例えば、特定周波数成分(C1)の所定時間内の移動平均値の今回値と前回値との比率が所定比率以内となる状態である。例えば、所定時間内の移動平均値は、1秒間の移動平均値であり、前回値は、今回値の1秒前(1つ前)に取得された移動平均値であり、所定比率は、1%である。特定周波数成分(C1)の非定常状態は、特定周波数成分(C1)の所定時間内の移動平均値の今回値と前回値との比率が所定比率よりも高くなる状態である。
【0230】
(実施形態2)
実施形態2の駆動システム(10)は、制御装置(30)の制御部(31)による処理が実施形態1の駆動システム(10)と異なる。実施形態2の駆動システム(10)のその他の構成および処理は、実施形態1の駆動システム(10)の構成および処理と同様である。
【0231】
〔制御部による処理〕
実施形態2において、制御部(31)は、制御処理と、算出処理と、推定処理と、判定処理と、制限処理と、対処処理とを行う。制御処理と算出処理と推定処理と対処処理は、実施形態1のものと同様である。
【0232】
〔判定処理〕
判定処理において、特定周波数成分(C1)の大きさに基づいて算出される変数に含まれる周期成分の大きさに基づいて、ノイズ干渉の有無を判定する。「特定周波数成分(C1)の大きさに基づいて算出される変数」の例としては、特定周波数成分(C1)の短期移動平均値を長期移動平均値で除算して得られる値が挙げられる。短期移動平均値は、特定周波数成分(C1)の第1時間内の移動平均値である。長期移動平均値は、特定周波数成分(C1)の第2時間内の移動平均値である。第2時間は、第1時間よりも長い。
【0233】
「特定周波数成分(C1)の大きさに基づいて算出される変数」の他の例としては、特定周波数成分(C1)の瞬時値、特定周波数成分(C1)の二乗和平方根、特定周波数成分(C1)の変化率、特定周波数成分(C1)の短期移動平均と長期移動平均の比、複数の特定周波数成分(C1)の加減乗除、特定周波数成分(C1)のべき乗、これらの少なくとも2つの組合せなどが挙げられる。
【0234】
なお、ノイズ干渉がある場合(具体的にはノイズ成分が特定周波数成分(C1)に影響している場合)、特定周波数成分(C1)の大きさ(振幅)に変動が現れる。また、ノイズ干渉がある場合、特定周波数成分(C1)の大きさに基づいて算出される変数に含まれる周期成分が大きくなる。
【0235】
例えば、制御部(31)は、特定周波数成分(C1)に周期成分が含まれる場合に、ノイズ干渉があると判定し、特定周波数成分(C1)に周期成分が含まれない場合に、ノイズ干渉がないと判定する。なお、判定処理の具体例については、後で詳しく説明する。
【0236】
〔制限処理〕
制限処理において、制御部(31)は、判定処理においてノイズ干渉があると判定された場合に、推定処理または前記モータ(50)の運転を制限する。制限処理は、予め定められた推定結果が出力されるように推定処理を制限する第1制限処理、または、推定処理において誤推定が行われないようにモータ(50)の運転を制限する第2制限処理である。
【0237】
〔制御部による処理の流れ〕
次に、図19を参照して、制御部(31)による処理(具体的には算出処理と推定処理と判定処理と制限処理)の流れについて説明する。
【0238】
制御部(31)は、所定の算出時間毎に算出処理を行う。算出処理が繰り返し行われることで、算出時間毎に特定周波数成分(C1)が算出される。
【0239】
そして、制御部(31)は、所定の推定時間毎に、算出処理により算出された特定周波数成分(C1)に基づいて推定処理を行う。推定処理が繰り返し行われることで、推定時間毎に推定結果が得られる。
【0240】
また、制御部(31)は、算出処理および推定処理と並行して判定処理を行う。具体的には、制御部(31)は、所定の判定時間毎に、算出処理により算出された特定周波数成分(C1)に基づいて判定処理を行う。判定処理が繰り返し行われることで、判定時間毎に判定結果が得られる。判定時間は、算出処理により算出された特定周波数成分(C1)に基づいてノイズ干渉の有無を判定するために要する時間以上の時間に設定される。
【0241】
また、制御部(31)は、上記の処理(算出処理と推定処理と判定処理)と並行して制限処理を行う。具体的には、制御部(31)は、図19に示したステップ(S201~S204)の処理を繰り返し行う。
【0242】
〈ステップ(S201)〉
制御部(31)は、判定処理による判定結果を取得する。そして、制御部(31)は、判定処理による判定結果に基づいて、ノイズ干渉があるか否かを判定する。ノイズ干渉がある場合、ステップ(S202)の処理が行われる。例えば、ステップ(S201)の処理は、所定の判定時間毎に行われる。言い換えると、ステップ(S201)の処理は、ノイズ干渉があることを示す判定結果が得られるまで繰り返し行われる。
【0243】
〈ステップ(S202)〉
ノイズ干渉がある場合、制御部(31)は、推定処理またはモータ(50)の運転を制限する。
【0244】
〈ステップ(S203)〉
次に、制御部(31)は、制限解除条件が成立するか否かを判定する。制限解除条件の例としては、ノイズ干渉がないという条件、解除指令を制御部(31)が受信するという条件などが挙げられる。解除指令は、例えば、制限解除条件が成立してから所定の時間経過後に自動で制御部(31)に送信される。
【0245】
制限解除条件が成立すると、ステップ(S204)の処理が行われる。例えば、ステップ(S213)の処理は、所定の判定時間毎に行われる。言い換えると、ステップ(S203)の処理は、制限解除条件が成立するまで繰り返し行われる。
【0246】
〈ステップ(S204)〉
制限解除条件が成立すると、制御部(31)は、制限(推定処理の制限またはモータ(50)の運転の制限)を解除する。
【0247】
〔実施形態2の効果〕
以上のように、実施形態2では、制御部(31)は、判定処理において、特定周波数成分(C1)の大きさに基づいて算出される変数に含まれる周期成分の大きさに基づいて、ノイズ干渉の有無を判定する。そして、制限処理において、制御部(31)は、判定処理においてノイズ干渉があると判定された場合に、推定処理またはモータ(50)の運転を制限する。
【0248】
上記の構成では、ノイズ成分が特定周波数成分(C1)に影響している場合、特定周波数成分(C1)の大きさ(振幅)に変動が現れる。したがって、判定処理において、「特定周波数成分(C1)の大きさに基づいて算出される変数に含まれる周期成分の大きさ」に基づいて、ノイズ干渉の有無を適切に判定することができる。そして、制限処理において、その判定処理による判定結果に基づいて、推定処理またはモータ(50)の運転を制限することで、機器(70)の状態の誤推定を抑制することができる。
【0249】
なお、実施形態2では、「特許文献1に開示された最大公約数(2以上の最大公約数)およびその整数倍となる周波数」ではない他の周波数のノイズ周波数成分による影響を考慮することができる。これにより、機器(70)の状態の誤推定を適切に抑制することができる。
【0250】
(判定処理の具体例)
次に、判定処理の具体例について説明する。判定処理の例としては、以下の7つの判定処理(第1~第7判定処理)が挙げられる。
【0251】
〔第1判定処理〕
まず、図20を参照して、第1判定処理について説明する。第1判定処理では、制御部(31)は、特定周波数成分(C1)の所定時間内における変動量(単位時間当たりの変動量)の絶対値の平均値に基づいて、ノイズ干渉の有無を判定する。
【0252】
具体的には、制御部(31)は、所定時間(t)毎に、特定周波数成分(C1)の瞬時値を取得する。そして、制御部(31)は、「第k番目(kは自然数)の時刻において取得された特定周波数成分(C1)の瞬時値(Uk))と「第k+1番目の時刻において取得された特定周波数成分(C1)の瞬時値(Uk+1)」との差を「時間(t)」で除算することで、特定周波数成分(C1)の所定時間内における単位時間当たりの変動量を導出する。これにより、所定時間(t)毎に、特定周波数成分(C1)の所定時間内における単位時間当たりの変動量が導出される。
【0253】
制御部(31)は、所定時間(t)毎に導出された「特定周波数成分(C1)の所定時間内における単位時間当たりの変動量」の絶対値を平均することで、特定周波数成分(C1)の所定時間内における変動量(単位時間当たりの変動量)の平均値を導出する。平均期間(平均値が導出される期間)は、ノイズ干渉により想定される特定周波数成分(C1)の変動の周期以上の時間に設定することが望ましい。 例えば、平均期間は、3分間に設定される。そして、制御部(31)は、その導出された特定周波数成分(C1)の所定時間内における変動量の平均値が閾値を上回る場合に、ノイズ干渉があると判定し、そうでない場合に、ノイズ干渉がないと判定する。例えば、閾値を「特定周波数成分(C1)の振幅の平均期間における平均値の0.24%」に設定することで、特定周波数成分(C1)が3分周期で10%以上変動する場合に「ノイズ干渉がある」と判定することができる。
【0254】
なお、特定周波数成分(C1)の所定時間内における変動量(単位時間当たりの変動量)の平均値は、ローパスフィルタなどの各種のフィルタを用いて導出されてもよいし、移動平均などの各種の処理を用いて導出されてもよい。
【0255】
〔第2判定処理〕
次に、図21を参照して、第2判定処理について説明する。第2判定処理では、制御部(31)は、特定周波数成分(C1)に含まれる周期成分の大きさに基づいて、ノイズ干渉の有無を判定する。
【0256】
具体的には、制御部(31)は、特定周波数成分(C1)を周波数変換し、特定周波数成分(C1)の周期成分のうち「振幅が最も大きい周期成分」を抽出する。そして、制御部(31)は、特定周波数成分(C1)の周期成分の大きさ(振幅)に基づいて、ノイズ干渉があるか否かを判定する。具体的には、制御部(31)は、特定周波数成分(C1)「振幅が最も大きい周期成分」の振幅が閾値を上回る場合に、ノイズ干渉があると判定し、そうでない場合に、ノイズ干渉がないと判定する。例えば、閾値を「所定時間の平均値の10%」に設定することで、特定周波数成分(C1)に10%以上の変動を持つ周期成分が存在する場合に「ノイズ干渉がある」と判定することができる。
【0257】
〔第3判定処理〕
次に、図22を参照して、第3判定処理について説明する。第3判定処理では、制御部(31)は、所定時間内における特定周波数成分(C1)の標準偏差の大きさに基づいて、ノイズ干渉の有無を判定する。なお、所定時間は、ノイズ干渉により想定される特定周波数成分(C1)の変動の周期以上の時間に設定されることが望ましい。例えば、所定時間は、3分間である。
【0258】
図22に示すように、所定時間内における特定周波数成分(C1)の分布は、ノイズ干渉がない場合(ノイズ干渉による影響が比較的に小さい場合)に、特定周波数成分(C1)の振幅値であるデータ値が平均値の近傍に集まる分布となり、ノイズ干渉がある場合(ノイズ干渉による影響が比較的に大きい場合)に、データ値が平均値の近傍に集まらずに分散する分布となる傾向にある。
【0259】
具体的には、第3判定処理において、制御部(31)は、所定時間内において得られた複数のデータ値(特定周波数成分(C1)の振幅値)に基づいて、所定時間内における特定周波数成分(C1)の標準偏差を導出する。そして、制御部(31)は、所定時間内における特定周波数成分(C1)の標準偏差が閾値を上回る場合に、ノイズ干渉があると判定し、そうでない場合に、ノイズ干渉がないと判定する。例えば、閾値は、特定周波数成分(C1)の振幅の所定時間における平均値の7%である。この場合、特定周波数成分に10%以上の変動を持つ周期成分が存在する場合に「ノイズ干渉がある」と判定することができる。
【0260】
なお、第3判定処理において、制御部(31)は、所定時間内における特定周波数成分(C1)の標準偏差の移動平均に基づいて、ノイズ干渉の有無を判定してもよい。具体的には、制御部(31)は、所定時間内における特定周波数成分(C1)の標準偏差の移動平均値が閾値を上回る場合に、ノイズ干渉があると判定し、そうでない場合に、ノイズ干渉がないと判定してもよい。
【0261】
〔第4判定処理〕
次に、図23を参照して、第4判定処理について説明する。第4判定処理では、制御部(31)は、所定時間内における特定周波数成分(C1)の分布の尖度に基づいて、ノイズ干渉の有無を判定する。なお、所定時間は、ノイズ干渉により想定される特定周波数成分(C1)の変動の周期以上の時間に設定されることが望ましい。
【0262】
図23に示すように、所定時間内における特定周波数成分(C1)の分布は、ノイズ干渉がない場合(ノイズ干渉による影響が比較的に小さい場合)に、その尖度が比較的に高くなり、ノイズ干渉がある場合(ノイズ干渉による影響が比較的に大きい場合)に、その尖度が比較的に低くなる傾向にある。
【0263】
具体的には、第4判定処理において、制御部(31)は、所定時間内において得られた複数のデータ値(特定周波数成分(C1)の振幅値)に基づいて、所定時間内における特定周波数成分(C1)の分布の尖度を導出する。そして、制御部(31)は、所定時間内における特定周波数成分(C1)の分布の尖度が所定値を下回る場合に、ノイズ干渉があると判定し、そうでない場合に、ノイズ干渉がないと判定する。例えば、所定値(尖度の閾値)は、「-1.5」である。
【0264】
〔第5判定処理〕
次に、図24を参照して、第5判定処理について説明する。第5判定処理では、制御部(31)は、所定時間内における特定周波数成分(C1)と平均値との差の絶対値の累積値に基づいて、ノイズ干渉の有無を判定する。平均値は、所定時間内における特定周波数成分(C1)の平均値である。図24の例では、所定時間内における特定周波数成分(C1)と平均値との差の絶対値の累積値は、ハッチングを付した領域の面積に対応する。なお、所定時間は、ノイズ干渉により想定される特定周波数成分(C1)の変動の周期以上の時間に設定されることが望ましい。例えば、所定時間は、3分間である。
【0265】
具体的には、第5判定処理において、制御部(31)は、所定時間内において得られた複数のデータ値(特定周波数成分(C1)の振幅値)に基づいて、所定時間内における特定周波数成分(C1)の平均値を導出する。次に、制御部(31)は、所定時間内において得られた複数のデータ値(特定周波数成分(C1)の振幅値)の各々と平均値との差の絶対値を導出し、それらの絶対値を合算することで、所定時間内における特定周波数成分(C1)と平均値との差の絶対値の累積値を導出する。そして、制御部(31)は、所定時間内における特定周波数成分(C1)と平均値との差の絶対値の累積値が閾値を上回る場合に、ノイズ干渉があると判定し、そうでない場合に、ノイズ干渉がないと判定する。例えば、閾値は、所定時間において得られた複数のデータ値(特定周波数成分(C1)の振幅値)の各々と平均値との差の絶対値を1秒ごとに算出して合算するとき、「特定周波数成分(C1)の振幅の所定時間における平均値の11%」に設定される。この場合、特定周波数成分(C1)に10%以上の変動を持つ周期成分が存在する場合に「ノイズ干渉がある」と判定することができる。
【0266】
〔第6判定処理〕
次に、図25を参照して、第6判定処理について説明する。第6判定処理では、制御部(31)は、特定周波数成分(C1)に含まれる周期成分のスペクトルの0Hzを除く所定の帯域幅における周波数成分の振幅の累積値に基づいて、ノイズ干渉の有無を判定する。図25の例では、特定周波数成分(C1)に含まれる周期成分のスペクトルの所定の帯域幅における周波数成分の振幅の累積値は、ハッチングを付した領域の面積に対応する。
【0267】
具体的には、第6判定処理において、制御部(31)は、特定周波数成分(C1)を周波数変換することで、特定周波数成分(C1)の周期成分を抽出する。次に、制御部(31)は、特定周波数成分(C1)の周期成分の所定の帯域幅における周波数毎の振幅値を合算することで、周期成分の周波数毎の振幅値の累積値を導出する。そして、制御部(31)は、特定周波数成分(C1)の周期成分の周波数毎の振幅値の累積値が閾値を上回る場合に、ノイズ干渉があると判定し、そうでない場合に、ノイズ干渉がないと判定する。例えば、閾値は、所定時間における特定周波数成分(C1)の振幅の平均値の10%である。この場合、特定周波数成分(C1)に10%以上の変動を持つ周期成分が存在する場合に「ノイズ干渉がある」と判定することができる。
【0268】
〔第7判定処理〕
次に、図26を参照して、第7判定処理について説明する。第7判定処理では、制御部(31)は、特定周波数成分(C1)の所定期間(TP)内における最大値と最小値の差分の大きさに基づいて、ノイズ干渉の有無を判定する。なお、所定期間(TP)は、ノイズ干渉により想定される特定周波数成分(C1)の変動の周期以上の時間に設定されることが望ましい。例えば、所定期間(TP)は、3分間である。
【0269】
具体的には、制御部(31)は、所定期間(TP)内における特定周波数成分(C1)の瞬時値を取得し、特定周波数成分(C1)の所定期間(TP)内における最大値と最小値の差分を導出する。これにより、所定期間(TP)毎に、特定周波数成分(C1)の所定期間(TP)内における最大値と最小値の差分が導出される。そして、制御部(31)は、特定周波数成分(C1)の所定期間(TP)内における最大値と最小値の差分が閾値を上回る場合に、ノイズ干渉があると判定し、そうでない場合に、ノイズ干渉がないと判定する。例えば、閾値を「所定期間(TP)内における特定周波数成分(C1)の平均値の20%」に設定することで、特定周波数成分(C1)に10%以上の変動を持つ周期成分が存在する場合に「ノイズ干渉がある」と判定することができる。
【0270】
(実施形態2の変形例)
実施形態2の変形例の駆動システム(10)は、制御部(31)による制限処理が実施形態2の駆動システム(10)と異なる。実施形態2の変形例の駆動システム(10)のその他の構成および処理は、実施形態2の駆動システム(10)の構成および処理と同様である。
【0271】
実施形態2の変形例の制限処理において、制御部(31)は、判定処理においてノイズ干渉があると判定されると、推定処理またはモータ(50)の運転を制限する。そして、制御部(31)は、推定処理またはモータ(50)の運転の制限を開始した後に、所定の制限解除条件が成立すると、所定の待機解除条件が成立した後に、推定処理またはモータ(50)の運転の制限を解除する。実施形態2の変形例における待機解除条件は、実施形態1の変形例における待機解除条件と同様である。
【0272】
〔実施形態2の変形例の効果〕
実施形態2の変形例では、実施形態2の効果と同様の効果を得ることができる。
【0273】
また、実施形態2の変形例では、制限解除条件が成立した後に、待機解除条件の成立を待たずに、制限(推定処理の制限またはモータ(50)の制限)を解除する場合よりも、推定処理に用いられる特定周波数成分(C1)を安定させてから、制限を解除することができる。これにより、制限の解除後における機器(70)の状態の誤推定を抑制することができる。
【0274】
(冷凍システム)
図27は、冷凍システム(RR)の構成を例示する。冷凍システム(RR)は、冷媒が充填された冷媒回路(RR1)と、モータ駆動装置(20)と、制御装置(30)とを備える。図27に示したモータ駆動装置(20)および制御装置(30)は、実施形態1または実施形態2におけるモータ駆動装置(20)および制御装置(30)である。
【0275】
冷媒回路(RR1)は、圧縮機(CC)と、放熱器(RR5)と、減圧機構(RR6)と、蒸発器(RR7)とを有する。この例では、減圧機構(RR6)は、膨張弁である。冷媒回路(RR1)は、蒸気圧縮式の冷凍サイクルを行う。
【0276】
圧縮機(CC)は、圧縮機構(CCa)と、モータ(50)とを有する。圧縮機構(CCa)は、回転軸によりモータ(50)に連結される。モータ(50)は、回転軸を回転駆動することで圧縮機構(CCa)を回転駆動する。モータ駆動装置(20)は、モータ(50)を駆動する。制御装置(30)は、モータ(50)を有する圧縮機(CC)を搭載する冷凍システム(RR)の状態を判定する。
【0277】
冷凍サイクルでは、圧縮機(CC)から吐出された冷媒は、放熱器(RR5)において放熱する。放熱器(RR5)から流出した冷媒は、減圧機構(RR6)において減圧され、蒸発器(RR7)において蒸発する。そして、蒸発器(RR7)から流出した冷媒は、圧縮機(CC)に吸入される。
【0278】
この例では、冷凍システム(RR)は、空気調和機である。空気調和機は、冷房専用機であってもよいし、暖房専用機であってもよい。また、空気調和機は、冷房と暖房とを切り換える空気調和機であってもよい。この場合、空気調和機は、冷媒の循環方向を切り換える切換機構(例えば四方切換弁)を有する。また、冷凍システム(RR)は、給湯器、チラーユニット、庫内の空気を冷却する冷却装置などであってもよい。冷却装置は、冷蔵庫、冷凍庫、コンテナなどの内部の空気を冷却する。
【0279】
(ファンシステム)
図28は、ファンシステム(FF)の構成を例示する。ファンシステム(FF)は、ファン(FF1)と、モータ駆動装置(20)と、制御装置(30)とを備える。図28に示したモータ駆動装置(20)および制御装置(30)は、実施形態1または実施形態2におけるモータ駆動装置(20)および制御装置(30)である。
【0280】
ファン(FF1)は、流路(図示省略)に設けられる。ファン(FF1)は、羽根を有する回転体(FFa)と、モータ(50)とを有する。回転体(FFa)は、回転軸によりモータ(50)に連結される。モータ(50)は、回転軸を回転駆動することで回転体(FF2a)を回転駆動する。モータ駆動装置(20)は、モータ(50)を駆動する。制御装置(30)は、モータ(50)を搭載するファンシステム(FF)の状態を推定する。制御装置(30)により推定されるファンシステム(FF)の状態には、ファン(FF1)が設けられた流路の閉塞(流路が閉塞している状態)が含まれる。
【0281】
(その他の実施形態)
以上の説明において、機器(70)の状態は、機器(70)の全体としての状態であってもよいし、機器(70)に含まれる一部の要素の状態であってもよい。例えば、機器(70)が「モータ(50)を有する圧縮機(CC)が搭載された室外機」である場合、機器(70)の状態は、室外機の状態であってもよいし、圧縮機(CC)の状態であってもよいし、モータ(50)の状態であってもよいし、室外機のその他の要素の状態であってもよい。
【0282】
以上の説明では、機器(70)から得られる物理量の一例として、モータ(50)の電流または電圧に基づく信号を挙げたが、これに限定されない。例えば、物理量は、機器(70)の振動を示す信号であってもよいし、機器(70)の音を示す信号であってもよい。機器(70)の振動を示す信号は、機器(70)に設けられた振動センサ(図示省略)により取得されてもよい。機器(70)の音を示す信号は、機器(70)に設けられた音センサ(図示省略)により取得されてもよい。
【0283】
また、以上の説明では、推定処理において機器(70)の異常の有無を推定する場合を例に挙げたが、これに限定されない。
【0284】
例えば、制御部(31)は、推定処理において、モータ(50)により回転駆動される回転軸(図示省略)または回転軸の軸受(図示省略)の摩耗度を推定してもよい。この場合、制御部(31)は、算出処理により得られる特定周波数成分(C1)が大きくなるほど、回転軸または軸受の摩耗度が高くなるように、特定周波数成分(C1)に応じて摩耗度を推定してもよい。摩耗度を推定する推定処理が制限されているときに出力される「予め定められた推定結果」の例としては、機器(70)の摩耗度が不明であることを示す推定結果、推定処理が禁止(停止)されていることを示す推定結果などが挙げられる。
【0285】
また、制御部(31)は、推定処理において、モータ(50)の余寿命を推定してもよい。この場合、制御部(31)は、算出処理により得られる特徴量が大きくなるほど、モータ(50)の余寿命が短くなるように、特徴量に応じて余寿命を推定してもよい。余寿命を推定する推定処理が制限されているときに出力される「予め定められた推定結果」の例としては、機器(70)の余寿命が不明であることを示す推定結果、推定処理が禁止(停止)されていることを示す推定結果などが挙げられる。
【0286】
また、以上の説明において、算出処理において、特定周波数成分(C1)の周波数を含む周波数帯域の信号を抽出するバンドパスフィルタが用いられてもよい。また、算出処理において、特定周波数成分(C1)の周波数を含む周波数帯域の信号を抽出するバンドパスフィルタ処理が行われてもよい。
【0287】
また、以上の説明において、特定周波数成分(C1)に含まれる周期成分の抽出に、カルマンフィルタなどの各種のフィルタが利用されてもよい。また、特定周波数成分(C1)に含まれる周期成分の抽出に、ウェーブレット解析などの各種の周波数解析処理が利用されてもよい。特定周波数成分(C1)の算出(抽出)についても同様である。
【0288】
また、以上の説明において、特定周波数成分(C1)の瞬時値、特定周波数成分(C1)の二乗和平方根、特定周波数成分(C1)の変化率、特定周波数成分(C1)の短期移動平均と長期移動平均の比、複数の特定周波数成分(C1)の加減乗除、特定周波数成分(C1)のべき乗、これらの少なくとも2つの組合せなどを指標値とし、このような指標値に基づいて推定処理が行われてもよい。また、このような指標値が閾値を上回る継続時間、このような指標値が閾値を上回る回数などにもとづいて推定処理が行われてもよい。また、特定周波数成分(C1)とその他の特徴的な周波数成分(例えばモータ(50)の機械角周波数の整数倍に対応する周波数成分)との組合せに基づいて、推定処理が行われてもよい。
【0289】
また、以上の説明において、特定周波数成分(C1)は、単一の周波数に対応する周波数成分であってもよいし、単一の周波数を基準とする周波数範囲に対応する周波数成分であってもよい。
【0290】
また、以上の説明において、物理量が交流信号である場合に、モータ(50)の電気角周波数を軸として対称となる2つの特定周波数成分(C1)のいずれか一方に基づいて推定処理が行われてもよいし、2つの特定周波数成分(C1)の両方に基づいて推定処理が行われてもよい。
【0291】
また、以上の説明において、物理量は、測定値であってもよいし、指令値であってもよいし、推定値であってもよい。
【0292】
また、以上の説明において、制御部(31)は、ニューラルネットワークまたは機械学習により構築されたアルゴリズム(信号の変化に基づいて状態を判定するためのアルゴリズム)を用いて判定処理をするように構成されてもよい。
【0293】
また、以上の説明において、制御部(31)は、1つのプロセッサにより実現されてもよいし、複数のプロセッサにより実現されてもよい。また、制御部(31)は、通信ネットワークを経由して互いに通信する複数の演算処理装置(コンピュータ)により実現されてもよい。
【0294】
また、実施形態および変形例を説明したが、特許請求の範囲の趣旨および範囲から逸脱することなく、形態や詳細の多様な変更が可能なことが理解されるであろう。また、以上の実施形態、変形例、その他の実施形態に係る要素を適宜組み合わせたり、置換したりしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0295】
以上説明したように、本開示は、状態推定技術として有用である。
【符号の説明】
【0296】
10 駆動システム
20 モータ駆動装置
21 コンバータ
22 直流部
23 インバータ
30 制御装置(状態推定装置)
31 制御部
41 相電流検出部
42 電気角周波数検出部
50 モータ
60 電源
70 機器
CC 圧縮機
RR 冷凍システム
RR1 冷媒回路
FF ファンシステム
FF1 ファン
【要約】      (修正有)
【課題】機器の状態の誤推定を抑制する。
【解決手段】推定処理において、制御部は、機器から得られる物理量の特定周波数成分(C1)に基づいて機器の状態を推定する。制限処理において、制御部は、物理量に含まれるノイズ周波数成分(Cn)と特定周波数成分(C1)が所定の関係を満たす場合に、推定処理またはモータの運転を制限する。キャリア周波数をfとし、物理量をサンプリングする周波数をfとし、電気角周波数をfとすると、ノイズ周波数成分(Cn)の周波数は、特定の式で表される。
【選択図】図8
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