(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-08
(45)【発行日】2023-11-16
(54)【発明の名称】無線通信システム及び無線通信システムにおけるハンドオーバー方法
(51)【国際特許分類】
H04W 36/16 20090101AFI20231109BHJP
H04M 1/60 20060101ALI20231109BHJP
H04M 1/733 20060101ALI20231109BHJP
H04W 36/02 20090101ALI20231109BHJP
【FI】
H04W36/16
H04M1/60 C
H04M1/733
H04W36/02
(21)【出願番号】P 2020010990
(22)【出願日】2020-01-27
【審査請求日】2023-01-13
(73)【特許権者】
【識別番号】304020498
【氏名又は名称】サクサ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091546
【氏名又は名称】佐藤 正美
(74)【代理人】
【識別番号】100206379
【氏名又は名称】丸山 正
(72)【発明者】
【氏名】滝尾 勉
【審査官】石田 信行
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-117229(JP,A)
【文献】特開2004-260493(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 7/24- 7/26
H04M 1/00-99/00
H04Q 3/58- 3/62
H04W 4/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主装置に対して、親機と1又は複数の子機とからなるコードレス通信装置が複数接続され、通話中の前記子機は、無線接続される前記親機を切り替えるハンドオーバーが可能である無線通信システムにおいて、
前記親機は、無線接続されている通話中の前記子機に送る受話音声に対して、適応アルゴリズムにより適応フィルタの係数を動的に変化させることでエコーキャンセルを行うエコーキャンセラーを備え、
ハンドオーバー時に、前記通話中の前記子機とハンドオーバー前に無線接続されていた前記親機のエコーキャンセラーの前記適応フィルタの係数が、ハンドオーバー後に前記子機と無線接続される前記親機に伝達されて、前記ハンドオーバー後に無線接続される前記親機のエコーキャンセラーの適応フィルタに設定されるように構成した
ことを特徴とする無線通信システム。
【請求項2】
前記適応フィルタの係数は、前記ハンドオーバー時のシーケンスの際に、前記通話中の前記子機と前記ハンドオーバー前に無線接続されていた前記親機から、前記主装置を介して前記ハンドオーバー後に無線接続される前記親機に伝達される
ことを特徴とする請求項1に記載の無線通信システム。
【請求項3】
前記通話中の前記子機と前記ハンドオーバー前に無線接続されていた前記親機は、前記主装置からの情報取得要求に応じて、前記エコーキャンセラーから前記適応フィルタの係数を取得して、前記情報取得要求に対応する情報取得応答に含めて前記主装置に送り、
前記主装置は、前記通話中の前記子機と前記ハンドオーバー前に無線接続されていた前記親機から受け取った前記適応フィルタの係数を前記ハンドオーバー後に無線接続される前記親機に伝達して、前記エコーキャンセラーの適応フィルタに設定させる
ことを特徴とする請求項2に記載の無線通信システム。
【請求項4】
前記適応フィルタの係数は、前記ハンドオーバー時のシーケンスの際に、前記通話中の前記子機と前記ハンドオーバー前に無線接続されていた前記親機から、前記ハンドオーバー後に前記子機と無線接続される前記親機に伝達される
ことを特徴とする請求項1に記載の無線通信システム。
【請求項5】
前記適応フィルタの係数は、前記ハンドオーバー時のシーケンスの際に、前記通話中の前記子機と前記ハンドオーバー前に無線接続されていた前記親機から、前記通話中の前記子機を介して、前記ハンドオーバー後に前記子機と無線接続される前記親機に伝達される
ことを特徴とする請求項1に記載の無線通信システム。
【請求項6】
前記ハンドオーバー後に前記子機と無線接続される前記親機は、前記主装置に、前記子機と無線接続される親機が変更される旨の子機移動通知を送る前に、前記適応フィルタの係数を前記エコーキャンセラーの適応フィルタに設定する
ことを特徴とする請求項2~請求項5のいずれかに記載の無線通信システム。
【請求項7】
主装置に対して、親機と1又は複数の子機とからなるコードレス通信装置が複数接続され、前記親機は、無線接続されている通話中の前記子機に送る受話音声に対して、適応アルゴリズムにより適応フィルタの係数を動的に変化させることでエコーキャンセルを行うエコーキャンセラーを備え、通話中の前記子機は、無線接続される前記親機を切り替えるハンドオーバーが可能である無線通信システムにおけるハンドオーバー方法において、
ハンドオーバー時に、前記通話中の前記子機とハンドオーバー前に無線接続されていた前記親機のエコーキャンセラーの前記適応フィルタの係数を、ハンドオーバー後に前記子機と無線接続される前記親機に伝達して、前記ハンドオーバー後に無線接続される前記親機は、受け取った前記
適応フィルタ
の係数を自身のエコーキャンセラーの適応フィルタに設定する
ことを特徴とする無線通信システムにおけるハンドオーバー方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、デジタルコードレス電話に適用して好適な無線通信システム及び無線通信システムにおけるハンドオーバー方法に関する。
【背景技術】
【0002】
1~複数の電話用の回線に接続されている主装置に対して、親機と1又は複数の子機とからなるコードレス通信装置が複数接続された無線通信システムが普及している(例えば特許文献1(特開2013-85154号公報)や特許文献2(特開2015-177239号公報)参照)。この無線通信システムは、会社、工場、病院、事務所など、種々の施設で使用されている。
【0003】
この種の無線通信システムにおいては、コードレス通信装置の親機と子機とが通話品質を保って通信可能とされる範囲が制限されていることを考慮して、使用者が通話をしながら子機を持って移動しても、通話が途切れないようにするために、ハンドオーバーの機能をシステムに持たせると共に、親機を、互いに離れた位置に配置するようにして、施設の全体の範囲をカバーすることができるように構成される。
【0004】
ここで、ハンドオーバーの機能とは、子機が移動して位置を変えたことに伴い、通信品質が良好である親機を切り替えるようにする機能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2013-85154号公報
【文献】特開2015-177239号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、この種の無線通信システムにおいては、相手の電話端末がアナログ回線に接続されている場合など、エコーが発生する環境を考慮して、親機のそれぞれには、相手からの受話音声についてエコーキャンセラーが設けられている。このエコーキャンセラーとしては、適応アルゴリズムによりフィルタ係数を動的に変化させることでエコーキャンセルを行う適応型エコーキャンセラーが用いられている。
【0007】
上述したようなハンドオーバーにより通話中の子機が接続される親機が切り替えられたときにも、切替後の親機のエコーキャンセラーによりエコーキャンセルが行われる。
【0008】
ところが、ハンドオーバー時には、切り替えられたハンドオーバー後の親機のエコーキャンセラーは、適応フィルタの係数が最適な状態になっているとは限らず、適応アルゴリズムにより適応フィルタの係数が最適なものになるために、例えば約1秒の時間を要し、その時間の間は通話の受話音声に違和感が生じることがあることが判明した。
【0009】
この発明は、以上の問題点を解決することができるようにした無線通信システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、請求項1の発明は、
主装置に対して、親機と1又は複数の子機とからなるコードレス通信装置が複数接続され、通話中の前記子機は、無線接続される前記親機を切り替えるハンドオーバーが可能である無線通信システムにおいて、
前記親機は、無線接続されている通話中の前記子機に送る受話音声に対して、適応アルゴリズムにより適応フィルタの係数を動的に変化させることでエコーキャンセルを行うエコーキャンセラーを備え、
ハンドオーバー時に、前記通話中の前記子機とハンドオーバー前に無線接続されていた前記親機のエコーキャンセラーの前記適応フィルタの係数が、ハンドオーバー後に前記子機と無線接続される前記親機に伝達されて、前記ハンドオーバー後に無線接続される前記親機のエコーキャンセラーの適応フィルタに設定されるように構成した
ことを特徴とする無線通信システムを提供する。
【0011】
上述の構成の請求項1の発明による無線通信システムにおいては、ハンドオーバー時に、通話中の子機とハンドオーバー前に無線接続されていた親機のエコーキャンセラーの適応フィルタの係数が、ハンドオーバー後に子機と無線接続される親機に伝達されて、ハンドオーバー後に子機と無線接続される親機のエコーキャンセラーの適応フィルタに設定される。
【0012】
したがって、ハンドオーバー後に子機と無線接続される親機のエコーキャンセラーでは、適応フィルタの係数が、ハンドオーバー前に子機と無線接続されていた親機のエコーキャンセラーの適応フィルタの係数に設定されるので、適応アルゴリズムにより適応フィルタの係数が最適なものになるための時間が短縮され、ハンドオーバー時に通話の受話音声に違和感が生じることが軽減される。
【発明の効果】
【0013】
この発明によれば、ハンドオーバー後に子機と無線接続される親機のエコーキャンセラーの適応フィルタの係数が、ハンドオーバー前に子機と無線接続されていた親機のエコーキャンセラーの適応フィルタの係数に設定されるので、エコーが発生する環境の相手との通話中であっても、ハンドオーバー時に、通話の受話音声に違和感が生じることが軽減される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】この発明による無線通信システムの実施形態の全体の概要を説明するためのブロック図である。
【
図2】この発明による無線通信システムの実施形態におけるハンドオーバーを説明するための図である。
【
図3】この発明による無線通信システムの実施形態の一部を構成する主装置の詳細構成例を示すブロック図である。
【
図4】この発明による無線通信システムの実施形態の一部を構成する親機の詳細構成例を示すブロック図である。
【
図5】
図4の例の親機の音声信号処理部の構成例を示すブロック図である。
【
図6】
図4の例の親機の音声信号処理部に用いられるエコーキャンセラーの適応フィルタ回路の構成例を示す図である。
【
図7】この発明による無線通信システムの実施形態の一部を構成する子機の詳細構成例を示すブロック図である。
【
図8】この発明による無線通信システムの実施形態におけるハンドオーバー時のシーケンスの第1の例を示す図である。
【
図9】この発明による無線通信システムの実施形態におけるハンドオーバー時のシーケンスの第2の例を示す図である。
【
図10】この発明による無線通信システムの実施形態におけるハンドオーバー時のシーケンスの第3の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、この発明による無線通信システムの実施形態を、ビジネスホンと呼ばれる電話システムに適用した場合を例にとって、図を参照しながら説明する。
【0016】
図1は、この発明による無線通信システムの実施形態としての電話システム10の全体の構成例を示すブロック図である。この例の電話システム10においては、上位装置の例としての主装置1に対して、内線電話装置として、複数のコードレス電話装置21、22、・・・、2n(nは2以上の整数。以下同じ)が接続されている。コードレス電話装置21~2nのそれぞれは、コードレス通信装置の例であり、親機CS1、CS2、・・・、CSnのそれぞれと、子機PS1、PS2、・・・、PSm(mは2以上の整数。以下同じ)のそれぞれとからなり、親機CS1~CSnのそれぞれと、子機PS1~PSmのそれぞれとは、無線接続される。
【0017】
この実施形態の無線通信システムにおいては、コードレス電話装置21、22、・・・、2nを構成する親機は、それぞれ親機CS1、CS2、・・・、CSnとされて固定されるが、ハンドオーバーを考慮すると、子機は、子機PS1、PS2、・・・、PSmのいずれも、コードレス電話装置21、22、・・・、2nを構成することができる。
【0018】
そして、この実施形態では、コードレス電話装置21~2nの親機CS1~CSnのそれぞれと、子機PS1~PSmのそれぞれとの間の無線接続は、デジタルコードレス電話のDECT(Digital Enhanced Cordless Telecommunication)規格を用いたTDMA/TDD方式により行うようにしている。
【0019】
なお、コードレス電話装置21~2nの親機CS1~CSnのそれぞれと、子機PS1~PSmのそれぞれとの間の無線接続は、DECT規格を用いたTDMA/TDD方式に限られるものではなく、例えば、親機をアクセスポイント装置により構成し、子機をアクセスポイント装置と無線接続するステーション装置で構成し、さらに、複数のアクセスポイント装置を主装置と接続する無線LAN(Local Area Network)システムなど、種々の無線接続の無線通信システムの構成とすることが可能であることは言うまでもない。
【0020】
主装置1は、1又は複数の電話回線L1~Li(iは1以上の整数)を収容可能である。そして、コードレス電話装置21~2nのそれぞれの親機CS1~CSnが、この主装置1に、例えばLANにより接続されている。
図1の例では、親機CS1~CSnと主装置1とは有線で接続されているが、無線であってもよい。
【0021】
主装置1は、複数のコードレス電話装置21~2nについての呼制御及び回線交換制御、その他のビジネスホンとしての制御を行うと共に、基準同期信号SYNCを複数のコードレス電話装置21~2nのそれぞれに供給する機能を備えている。基準同期信号SYNCは、この例では、130ミリ秒(ms)周期の信号とされている。
【0022】
コードレス電話装置21~2nの親機CS1~CSnのそれぞれは、主装置1からの基準同期信号SYNCに同期して、DECT規格のデジタルコードレス電話の単位通信期間である1フレーム(10ミリ秒(ms))の周期の同期信号としてのフレーム同期信号を生成し、その生成したフレーム同期信号に基づいて、DECT規格を用いたTDMA/TDD方式の無線通信を子機PS1~PSmとの間で実行する。したがって、複数のコードレス電話装置21~2nの全ては、主装置1からの基準同期信号SYNCに同期した動作をする。
【0023】
そして、この例の電話システム10の主装置1、親機CS1~CSnのそれぞれ、及び子機PS1~PSmのそれぞれは、後述するようなハンドオーバーのシーケンスを行う機能を備えている。
【0024】
図2は、ハンドオーバーが生じる状態を示す図である。
図2に示すように、親機CS1と親機CS2とは、それぞれ、例えば半径Dの円形の通信可能範囲では子機PS1~PSmのそれぞれと無線通信が可能であり、その互いの通信可能範囲の一部が重なるような状態で、それぞれ設置されている。
【0025】
このような状態で、親機CS1と無線接続されて相手と通話中であった子機PS1が移動して、
図2に示すように、親機CS1と親機CS2との両方との無線通信が可能であって、かつ、より親機CS2側に近い位置になると、子機PS1では、親機CS1からの電波の受信電界強度よりも、親機CS2からの電波の受信電界強度の方が大きくなったことを検出する。
【0026】
すると、子機PS1では、検出した受信電界強度に基づき、親機CS2と無線接続した方が通信品質を良くすることができると判断して、親機CS2に対してハンドオーバー要求を送る。このハンドオーバー要求を受け取った親機CS2は、子機PS1と無線接続するために必要な情報を、主装置1経由で、親機PS1から受け取り、その受け取り完了後、子機PS1に対してハンドオーバーの許可通知を送る。主装置は、このハンドオーバーのシーケンスに基づき、子機PS1の通話を親機PS1から親機PS2に切り替えて管理する。以上により、子機PS1は、ハンドオーバーにより、無線接続する親機を親機PS1から親機PS2に切り替えて、通話を継続することができる。
【0027】
次に、
図1の主装置1、親機CS1~CSn、子機PS1~PSnのそれぞれの詳細な構成例について説明する。
【0028】
[主装置1の構成例;
図3]
図3は、主装置1の構成例を示すブロック図である。この
図3に示すように、主装置1は、電話回線L1~Lmが接続される回線インターフェース11と、コンピュータを搭載して、主装置1の全体を制御するための制御回路12と、回線LSI(Large Scale Integrated Circuit)部13と、基準発振器14とを備えて構成されている。
【0029】
回線インターフェース11は、制御回路12からの制御により、回線L1~Lnからの音声信号(受話音声信号)は、回線LSI部13に供給し、回線からの呼制御信号などの制御信号は、制御回路12に供給する。また、回線インターフェース11は、制御回路12からの制御により、回線LSI部13からの音声信号(送話音声信号)は、回線L1~Lnを通じて相手方に送信し、制御回路12からの呼制御信号などの制御信号も、回線L1~Lnを通じて相手方に送信する。
【0030】
回線LSI部13は、n個の内線電話装置に対応して、n個の内線処理回路131,132,・・・,13nと、タイミング信号生成部130を備える。
【0031】
タイミング信号生成部130には、水晶振動子を用いた高精度の基準発振器14からの基準クロック信号から伝送用クロック信号CK及び多重化/分割化用タイミング信号TMを生成し、n個の内線処理回路131~13nに供給する。
【0032】
n個の内線処理回路131~13nは、全く同一の構成を備えるもので、それぞれ、音声信号処理部31と、制御信号処理部32と、同期信号処理部33と、多重化/分割化処理部34とからなる。
【0033】
音声信号処理部31は、回線インターフェース11に接続されると共に、多重化/分割化処理部34に接続されており、回線インターフェース11からの受話音声信号及び多重化/分割化処理部34からの送話音声信号の処理回路である。この音声信号処理部31には、タイミング信号生成部130からの伝送用クロック信号CKが供給されている。
【0034】
制御信号処理部32は、制御回路12の制御信号入出力端に接続されると共に、多重化/分割化処理部34に接続されており、発信時及び着信時、また、終話時などにおける呼制御信号やハンドオーバーのシーケンスの際の制御信号などの制御信号(主装置1からコードレス電話装置への制御信号と、コードレス電話装置から主装置1への制御信号の両方)の処理回路である。この制御信号処理部32にも、タイミング信号生成部130からの伝送用クロック信号CKが供給されている。
【0035】
同期信号処理部33は、制御回路12の同期信号出力端に接続されると共に、多重化/分割化処理部34に接続されており、制御回路12からの所定の同期信号パターンを有する基準同期信号SYNCの処理回路である。この同期信号処理部33にも、同様に、タイミング信号生成部130からの伝送用クロック信号CKが供給されている。
【0036】
多重化/分割化処理部34は、音声信号処理部31、制御信号処理部32、同期信号処理部33に接続されると共に、コードレス電話装置21~2nの親機CS1~CSnのそれぞれに接続される。そして、多重化/分割化処理部34は、タイミング信号生成部130からのタイミング信号TMに基づいて、音声信号処理部31からの音声信号(受話音声信号)と、制御信号処理部32からの制御信号と、同期信号処理部33からの基準同期信号SYNCとを多重化(時分割多重)して多重化信号を生成し、その生成した多重化信号を親機CS1~CSnのそれぞれに供給する。また、多重化/分割化処理部34は、タイミング信号生成部130からのタイミング信号TMに基づいて、親機CS1~CSnのそれぞれからの多重化信号を音声信号と制御信号とに分割して、音声信号(送話音声信号)は音声信号処理部31に、制御信号は制御信号処理部32に、それぞれ供給する。
【0037】
[コードレス電話装置の構成例]
複数個の親機CS1~CSn及び子機PS1~PSnのそれぞれは、全て同じ構成を備える。そこで、以下の説明では、コードレス電話装置21の親機CS1及び子機PS1の場合を例にとって、親機及び子機の構成例を説明する。
【0038】
<親機の構成例;
図4>
図4は、親機CS1の構成例を示すブロック図である。この
図4に示すように、親機CS1は、親機CS1の全体を制御するための制御回路41と、回線LSI部42と、同期信号発生回路43と、無線通信回路44と、発振器45及び46とを備えて構成されている。
【0039】
制御回路41は、コンピュータを搭載して構成されている。制御回路41は、この親機CS1における呼制御やハンドオーバー時の制御などの制御を行う機能を備える。
【0040】
回線LSI部42は、主装置1との間で音声信号、制御信号及び同期信号のやり取りをするための回路であり、分割化/多重化処理部421と、制御信号処理部422と、音声信号処理部423と、同期信号処理部424と、PLL(Phase locked Loop)部425とからなる。
【0041】
PLL部425には、発振器45からの基準周波数の発振信号が供給されると共に、主装置1からの多重化信号が供給される。この例では、発振器45の発振信号の周波数は、例えば2048MHz(0.488ナノ秒(ns))とされている。
【0042】
PLL部425は、主装置1からの多重化信号から、いわゆるセルフクロッキングにより、主装置1のタイミング信号生成部130からのクロック信号CKの成分を抽出し、その抽出したクロック信号CK成分と発振器45からの発振信号とを位相比較して、その比較結果に基づいて、発振器45の発振信号から、クロック信号CK成分に同期する親機CS1のシステムクロック信号SCKを生成する。
【0043】
そして、PLL部425は、生成したシステムクロック信号SCKを分割化/多重化処理部421、制御信号処理部422、音声信号処理部423、同期信号処理部424のそれぞれに、信号処理用クロック信号として供給すると共に、同期信号発生回路43に供給する。
【0044】
分割化/多重化処理部421は、主装置1の内線処理回路131に接続されると共に、制御信号処理部422、音声信号処理部423、同期信号処理部424に接続される。そして、分割化/多重化処理部421は、主装置1からの多重化信号から制御信号と音声信号と基準同期信号SYNCを分割して、制御信号は制御信号処理部422に、音声信号は音声信号処理部423に、基準同期信号SYNCは同期信号処理部424に、それぞれ供給する。
【0045】
また、分割化/多重化処理部421は、制御信号処理部422からの制御信号と、音声信号処理部423からの音声信号とを多重化して多重化信号を生成し、その生成した多重化信号を主装置1に供給する。
【0046】
制御信号処理部422は、制御回路41の制御信号入出力端に接続されると共に、分割化/多重化処理部421に接続されており、発信時、着信時、ハンドオーバー時、また、終話時などにおける呼制御信号などの制御信号(主装置1からコードレス電話装置21への制御信号と、コードレス電話装置21から主装置1への制御信号の両方)の処理回路である。
【0047】
音声信号処理部423は、無線通信回路44に接続されると共に、分割化/多重化処理部421に接続されており、
図5に示すように、無線通信回路44からの子機PS1から受信した送話音声信号を処理する送話音声信号処理回路4231と、分割化/多重化処理部421からの相手機から受信した受話音声信号を処理する受話音声信号処理回路4232とを備えている。
【0048】
図5に示すように、受話音声信号処理回路4232は、エコーキャンセラー60を備えている。エコーキャンセラー60は、適応フィルタ回路(ADF(Adaptive Digital Filter)61と、減算回路62とで構成される。そして、相手機から受信した受話音声信号d(k)は、減算回路62の一方の入力端に供給される。また、子機PS1から受信した送話音声信号u(k)は、適応フィルタ回路61を通じて、減算回路62の他方の入力端に供給される。そして、減算回路62の出力信号e(k)が適応フィルタ回路61にフィードバックされる。
【0049】
この場合に、受話音声信号d(k)には、相手の電話端末がアナログ回線に接続されている場合には、主装置1における2線-4線切替用のハイブリッド回路の存在により、子機PS1からの送話音声信号が遅延されて子機PS1に戻ってくる成分が含まれていることがあり、これにより、子機PS1の受話器から放音される受話音声にエコーとなって表れてしまい、受話音声品質が低下する。
【0050】
適応フィルタ回路61は、子機PS1からの送話音声信号u(k)から、子機PS1からの送話音声信号が遅延されて子機PS1に戻ってくる成分と近似する成分を、出力信号y(k)として生成するように動作する。そして、この適応フィルタ回路61の出力信号y(k)が、減算回路62で、受話音声信号d(k)から減算されることで、受話音声信号d(k)に含まれる、子機PS1からの送話音声信号u(k)の戻り成分が除去された出力信号e(k)が、減算回路62から出力されるようにされる。
【0051】
なお、適応フィルタ回路61は、上述した相手の電話端末がアナログ回線に接続されている場合のハイブリッド回路の存在により発生するエコー成分のみならず、他の要因により子機PS1からの送話音声信号が遅延されて子機PS1に戻ってくるエコー成分についても、同時にエコーキャンセルを行うことができるものである。
【0052】
エコーキャンセラー60の適応フィルタ回路61は、この例では、
図6に示すように、FIR(Finite Impulse Response)フィルタ611と、適応アルゴリズム演算部612とで構成される。FIRフィルタ611は、
図6の例では、子機PS1からの送話音声信号u(k)を1サンプル分遅延させる遅延回路611Dのq個(qは1以上の整数)と、(q+1)個の係数乗算回路611Mと、総和演算回路611Sとからなる。
【0053】
そして、q個の遅延回路611Dは順次に縦続に接続され、その縦続接続されたq個の遅延回路611Dの入力側に受話音声信号d(k)が供給される。そして、受話音声信号d(k)が係数乗算回路611Mの一つを介して総和演算回路611Sに供給されると共に、q個の遅延回路611Dのそれぞれの出力信号が、それぞれ別々の係数乗算回路611Mを通じて総和演算回路611Sに供給され、総和演算回路611Sから適応フィルタ回路61の出力信号y(k)を得るように構成される。
【0054】
そして、適応アルゴリズム演算部612は、(q+1)個の係数乗算回路611Mのそれぞれの入力信号に対して乗算する係数h0(k)、h1(k)、h2(k)・・・hq(k)を生成して、(q+1)個の係数乗算回路611Mのそれぞれに供給する。この場合に、適応アルゴリズム演算部612は、適応アルゴリズム演算を行って、減算回路62の出力信号e(k)に含まれる、子機PS1からの送話音声信号u(k)の戻り成分が最小になるように、係数h0(k)、h1(k)、h2(k)・・・hq(k)を動的に生成する。
【0055】
そして、この実施形態では、適応アルゴリズム演算部612で生成された、(q+1)個の係数乗算回路611Mのそれぞれに供給する係数h0(k)、h1(k)、h2(k)・・・hq(k)の情報は、制御回路41にも供給するように構成されている。
【0056】
制御回路41は、後述するように、無線接続している子機からハンドオーバー要求を受けたときには、当該ハンドオーバー時に(q+1)個の係数乗算回路611Mのそれぞれに供給していた係数h0(k)、h1(k)、h2(k)・・・hq(k)の情報を取り込み、ハンドオーバー後の親機に伝達するための処理動作を行う。
【0057】
また、ハンドオーバー時に、ハンドオーバー後の親機の制御回路41は、ハンドオーバー前の親機から送られてくる(q+1)個の係数乗算回路611Mのそれぞれに供給されていた係数h0(k)、h1(k)、h2(k)・・・hq(k)の情報を受信して、適応アルゴリズム演算部612に、係数h0(k)、h1(k)、h2(k)・・・hq(k)の初期値として設定するようにする。
【0058】
これにより、ハンドオーバー後の親機の音声信号処理部423のエコーキャンセラー60の適応フィルタ回路61は、ハンドオーバー前の親機の音声信号処理部423のエコーキャンセラー60の適応フィルタ回路61の係数h0(k)、h1(k)、h2(k)・・・hq(k)の情報を引き継いで、エコーキャンセル動作を開始することができるので、ハンドオーバー時にも即座にエコーキャンセルが有効に働き、受話音声に違和感が生じることを軽減することができる。
【0059】
同期信号処理部424は、分割化/多重化処理部421からの基準同期信号SYNCを受けて、当該基準同期信号SYNCが備える所定の同期信号パターンを検出することで、その検出時点の信号として、基準同期信号SYNCと同期する、基準同期信号SYNCと同一周期(130ms)の基準同期パルスPSを発生する。そして、同期信号処理部424は、発生した基準同期パルスPSを同期信号発生回路43に供給する。
【0060】
同期信号発生回路43は、カウンタ431と、同期信号生成部432とからなる。カウンタ431には、回線LSI部42の同期信号処理部424からの130msの周期の基準同期パルスPSがプリセット端子に供給されると共に、PLL部425からのシステムクロックSCKがカウント入力として供給される。そして、このカウンタ431の出力カウント値CNTが同期信号生成部432に供給される。
【0061】
同期信号生成部432は、カウンタ431の出力カウント値CNTから、DECT規格のフレーム周期(10ms)のフレーム同期信号を発生する。同期信号発生回路43は、同期信号生成部432で生成したフレーム同期信号を無線通信回路44に供給する。
【0062】
次に、無線通信回路44は、この実施形態では、DECT方式の無線通信を行うための汎用の親機用無線通信LSIを用いている。この無線通信回路44は、制御部441と、TDMA変復調部442と、無線通信部443とを備えて構成されている。無線通信部443は、子機PS1との間で、無線通信を行うための回路部である。
【0063】
制御部441は、TDMA変復調部442及び無線通信部443に接続されると共に、制御回路41に接続されている。制御部441は、この無線通信回路44の全体の動作を制御すると共に、制御回路41から得た制御信号に基づく制御信号をTDMA変復調部442に供給する。
【0064】
TDMA変復調部442は、制御部441及び回線LSI部42の音声信号処理部423に接続されると共に、無線通信部443に接続されており、制御部441からの制御信号と音声信号処理部423からの音声信号を子機PS1に送信するために変調を行う。このTDMA変復調部442で変調された信号は、無線通信部443を通じて子機PS1に送信される。
【0065】
また、TDMA変復調部442は、無線通信部443で受信された子機PS1からの受信信号から、音声信号及び制御信号を復調し、復調した音声信号は音声信号処理部423に供給し、復調した制御信号は、制御部441に供給する。
【0066】
そして、TDMA変復調部442は、クロック生成用のPLL部4421を備える。このPLL部4421には、発振器46からの発振信号が供給されると共に、同期信号発生回路43からのフレーム同期信号が供給される。
【0067】
PLL部4421は、同期信号発生回路43からのフレーム同期信号と発振器46からの発振信号とを位相比較して、その比較結果に基づいて、発振器46の発振信号から、フレーム同期信号に同期するタイミング信号及びクロック信号を生成する。
【0068】
TDMA変復調部442は、フレーム同期信号に同期するタイミング信号及びクロック信号を用いて、割り当て使用可能となるダウンリンクでのスロットの一つの相当する期間で子機PS1への送信信号を生成すると共に、アップリンクでのスロットの一つを用いて、子機PS1からの受信信号の処理を行うようにする。
【0069】
[子機の構成例;
図7]
図7は、子機PS1の構成例を示すブロック図である。この
図7に示すように、子機PS1は、無線通信回路51と、制御回路52と、コーデック回路53と、発振器54と、マイクロホン55と、スピーカ56とを備えて構成されている。マイクロホン55は送話器を構成し、スピーカ56は受話器を構成する。
【0070】
無線通信回路51は、DECT方式の無線通信を行うための汎用の子機用無線通信LSIを用いている。この無線通信回路51は、制御部511と、TDMA変復調部512と、無線通信部513とを備えて構成されている。無線通信部513は、親機CS1との間で、無線通信を行うための回路部である。
【0071】
制御部511は、TDMA変復調部512及び無線通信部513に接続されると共に、制御回路52に接続されている。制御部511は、この無線通信回路51の全体の動作を制御すると共に、制御回路52から得た制御信号に基づく制御信号をTDMA変復調部512に供給する。制御部511は、また、無線通信部513を通じて受信できる親機からの電波の受信電界強度をそれぞれ検出し、検出した受信できる親機からの電波の受信電界強度の情報を制御回路52に伝達する。
【0072】
TDMA変復調部512は、制御部511及び無線通信部513に接続されると共に、コーデック回路53と接続されており、制御部511からの制御信号とコーデック回路53からの音声信号を親機CS1に送信するために変調を行う。このTDMA変復調部512で変調された信号は、無線通信部513を通じて親機CS1に送信される。
【0073】
また、TDMA変復調部512は、無線通信部513で受信された親機CS1からの受信信号から、音声信号及び制御信号を復調し、復調した音声信号はコーデック回路53に供給し、復調した制御信号は、制御部511に供給する。
【0074】
そして、TDMA変復調部512は、クロック生成用のPLL部5121を備える。このPLL部5121には、発振器54からの発振信号が供給されると共に、無線通信部513からの受信信号の復調信号が供給され、このPLL部5121からは、発振器54らかの発振信号から、受信信号の復調信号のクロック成分に同期したクロック信号が生成される。このPLL部5121からのクロック信号は、TDMA変復調部512における処理用クロック信号とされる。
【0075】
制御回路52は、この子機PS1からの発呼時には、発呼時の呼制御信号を無線通信回路51を通じて親機CS1に送信し、また、親機CS1からの着信時の呼制御信号を受けた時には、着信音をスピーカ56から放音するなどの処理を行う。制御回路52は、また、無線通信回路51の制御部で検出された、受信可能な親機からの電波の受信電界強度に基づき、通話のため無線接続中の親機を他の親機に切り替えた方が通信品質を良くなると判断したときには、その通話品質が良くなると想定される他の親機に対してハンドオーバー要求を送る。そして、制御回路52は、ハンドオーバーのためのシーケンスを行う。
【0076】
コーデック回路53は、TDMA変復調部512で復調された音声信号を復号して、アナログ音声信号に変換し、そのアナログ音声信号をスピーカ56に供給して、受話音声として放音する。また、コーデック回路53は、マイクロホン55で収音したアナログ音声信号を符号化して、TDMA変復調部512に供給するようにする。
【0077】
以上の説明は、コードレス電話装置21の親機CS1及び子機PS1についての説明であるが、前述したように、その他のコードレス電話装置22~2nの親機CS2~CSn及び子機PS2~PSnについても同様の構成を有するものである。
【0078】
[ハンドオーバー時のシーケンス例]
次に、以上のように構成されている無線通信システムにおいて、通話中の子機が移動して、ハンドオーバーが必要になった状況において、エコーキャンセラーの適応フィルタの係数の情報が、ハンドオーバー前の親機からハンドオーバー後の親機に伝達されることを含むシーケンスのいくつかの例を説明する。
【0079】
なお、以下に説明するシーケンスの例は、
図2に示したように、子機PS1が親機CS1及び主装置1を介して、例えばアナログ回線の外線電話端末と通話中に、ハンドオーバーにより、子機PS1が無線接続される親機を、親機CS1から親機CS2に切り替えるようにする場合である。
【0080】
そして、以下に説明するシーケンスにおいて、子機PS1、親機CS1,CS2及び主装置1が行う動作は、主として、それぞれが備える制御回路52、制御回路41及び制御回路12のそれぞれが主として行うものである。
【0081】
<第1の例;主装置1を介して適応フィルタの係数を伝達(
図8)>
図8は、この実施形態の無線通信システムにおけるハンドオーバー時のシーケンスの第1の例である。この第1の例では、主装置1を介して適応フィルタの係数を、ハンドオーバー前に子機PS1と無線接続されていた親機CS1から、ハンドオーバー後に子機PS1と無線接続される親機CS2に伝達するようにする。
【0082】
なお、
図8においては、説明の簡単のため、子機PS1と通話中の相手電話端末は省略した。また、通話路に関しては、説明を分かりやすくするために、子機PS1と親機CS1、親機CS2との間の通話路のみを示した。後述する第2の例及び第3の例においても同様である。
【0083】
すなわち、
図8の例においては、子機PS1が親機CS1及び主装置1を介して相手電話端末と外線通話をしている状態において、
図2を用いて説明したように、親機CS2に切り替えるようにするハンドオーバーが必要な状況になったと、子機PS1の制御回路52が判断したときには、当該子機PS1の制御回路52は、「ハンドオーバー要求」を、親機CS2に送る。
【0084】
ハンドオーバー要求を受け取った親機CS2は、ハンドオーバーにより子機PS1と無線通信するための子機との通信情報の取得要求である「移動元の親機情報取得要求」を主装置1に送る。
【0085】
この「移動元の親機情報取得要求」を受け取った主装置1は、子機PS1と現在無線接続中である移動元の親機は親機CS1であることを把握しているので、これに基づき、「情報取得要求」を親機CS1に送る。
【0086】
この「情報取得要求」を受け取った親機CS1は、無線接続中である子機PS1との通信情報を取得すると共に、エコーキャンセラー60の適応フィルタ回路61の係数h0(k)、h1(k)、h2(k)・・・hq(k)の情報を取得する。そして、親機CS1は、取得した子機PS1との通信情報及び適応フィルタの係数h0(k)、h1(k)、h2(k)・・・hq(k)の情報を含めた「情報取得応答」を主装置1に返す。
【0087】
この「情報取得応答」を受け取った主装置1は、取得した子機PS1との通信情報を含めた「移動元の親機情報取得応答」を、「移動元の親機情報取得要求」を送ってきた親機CS2に返す。
【0088】
この「移動元の親機情報取得応答」を受け取った親機CS2は、この「移動元の親機情報取得応答」に含まれる子機PS1との通信情報を用いて、子機PS1との無線通信路を生成し、「ハンドオーバー応答」を子機PS1に送り、子機PS1の親機CS2へのハンドオーバーを許可する。
【0089】
そして、次に、この例においては、主装置1からは、親機CS2に対して、エコーキャンセラー60の適応フィルタ回路61の係数h0(k)、h1(k)、h2(k)・・・hq(k)の情報を含む「適応フィルタ係数設定要求」が送られてくる。この「適応フィルタ係数設定要求」を受け取った親機CS2は、自身のエコーキャンセラー60の適応フィルタ回路61に、係数h0(k)、h1(k)、h2(k)・・・hq(k)を初期値として設定する。
【0090】
なお、主装置1は、エコーキャンセラー60の適応フィルタ回路61の係数h0(k)、h1(k)、h2(k)・・・hq(k)の情報は、「適応フィルタ係数設定要求」に含めて、ハンドオーバー後の親機CS2に送るのではなく、「情報取得応答」に含めて、」ハンドオーバー後の親機CS2に送るようにしてもよい。その場合には、親機CS2は、主装置1からの「適応フィルタ係数設定要求」に応じて、係数の設定を行ってもよいし、主装置1からの「適応フィルタ係数設定要求」は不要として、係数を取得した時点で、係数の設定をするようにしてもよい。
【0091】
次に、この例では、親機CS2は、このエコーキャンセラー60の適応フィルタ回路61への係数の設定を終了した後、主装置1に、子機PS1と無線通信する親機が、親機CS1から親機CS2に移動したことの「子機移動通知」を送る。主装置1は、この「子機移動通知」を受信したときには、子機PS1に対する音声パスを、親機CS1を介したパスから、親機CS2を介したパスに切り替える。
【0092】
一方、親機CS2から「ハンドオーバー応答」を受けた子機PS1は、無線通信路を親機CS2に切り替えて、音声パスの切り替えを行い、親機CS1との無線通信路を切断する。なお、子機PS1は、親機CS2に対して、自身の位置を知らせる「位置登録」を送る。
【0093】
以上のシーケンスによりハンドオーバーが完了して、子機PS1は、親機CS2を通じたパスにより、相手端末と通話を継続する状態となる。この場合に、ハンドオーバー後に子機PS1と無線接続される親機CS2のエコーキャンセラー60の適応フィルタ回路61の係数h0(k)、h1(k)、h2(k)・・・hq(k)の初期値として、ハンドオーバー前に子機PS1と無線接続されていた親機CS1のエコーキャンセラー60の適応フィルタ回路61の係数h0(k)、h1(k)、h2(k)・・・hq(k)が設定される。
【0094】
したがって、ハンドオーバー後の親機CS2のエコーキャンセラー60では、適応フィルタ回路61の係数h0(k)、h1(k)、h2(k)・・・hq(k)が最適なものになるための時間が短縮され、ハンドオーバー時に通話の受話音声に違和感が生じることが軽減される。
【0095】
そして、この第1の例においては、親機CS2は、エコーキャンセラー60の適応フィルタ回路61に係数を設定した後に、主装置1に対して子機移動通知を送るようにしているので、子機PS1から親機CS2及び主装置1を通じて相手端末と接続される通話路が生成されるときには、適応フィルタ回路は最適の状態となっていると期待できる。
【0096】
<第2の例;親機間で適応フィルタの係数を伝達(
図9)>
図9は、この実施形態の無線通信システムにおけるハンドオーバー時のシーケンスの第2の例である。この第2の例では、適応フィルタの係数を、ハンドオーバー前に子機PS1と無線接続されていた親機CS1から、ハンドオーバー後に子機PS1と無線接続される親機CS2に、主装置1を介さずに伝達するようにする。
【0097】
この第2の例においては、
図9に示すように、親機CS1を通じて通話中の子機PS1から親機CS2にハンドオーバー要求が送られてから、主装置1が「情報取得要求」を親機CS1に送るまでのシーケンスは、
図8に示した第1の例と同様である。
【0098】
この第2の例においては、主装置1からの「情報取得要求」を受け取った親機CS1は、無線接続中である子機PS1との通信情報を取得し、取得した子機PS1との通信情報を含めた「情報取得応答」を主装置1に返す。
【0099】
この「情報取得応答」を受け取った主装置1は、取得した子機PS1との通信情報を含めた「移動元の親機情報取得応答」を、「移動元の親機情報取得要求」を送ってきた親機CS2に返す。この「移動元の親機情報取得応答」には、この第2の例では、移動元の親機である親機CS1のLAN上のアドレスが含まれている。
【0100】
次に、この第2の例においては、親機CS2は、親機CS1のLAN上のアドレスを用いて、親機CS1に対して、エコーキャンセラー60の適応フィルタ回路61の係数の取得を要求する「適応フィルタ係数取得要求」を送る。
【0101】
この「適応フィルタ係数取得要求」を受け取った親機CS1は、自身のエコーキャンセラー60の適応フィルタ回路61の係数h0(k)、h1(k)、h2(k)・・・hq(k)の情報を取得し、その取得した適応フィルタの係数h0(k)、h1(k)、h2(k)・・・hq(k)の情報を含めた「適応フィルタ係数取得応答」を、「適応フィルタ係数取得要求」を送ってきた親機CS2に返す。
【0102】
次に、親機CS2は、主装置1から受け取った「移動元の親機情報取得応答」に含まれる子機PS1との通信情報を用いて、子機PS1との無線通信路を生成し、「ハンドオーバー応答」を子機PS1に送り、子機PS1の親機CS2へのハンドオーバーを許可する。
【0103】
そして、次に、この第2の例においては、親機CS2は、親機CS1から受け取ったエコーキャンセラー60の適応フィルタ回路61の係数h0(k)、h1(k)、h2(k)・・・hq(k)を、自身のエコーキャンセラー60の適応フィルタ回路61に、初期値として設定する。
【0104】
そして、親機CS2は、このエコーキャンセラー60の適応フィルタ回路61への係数の設定を終了した後、主装置1に、子機PS1と無線通信する親機が、親機CS1から親機CS2に移動したことの「子機移動通知」を送る。主装置1は、この「子機移動通知」を受信したときには、子機PS1に対する音声パスを、親機CS1を介したパスから、親機CS2を介したパスに切り替える。
【0105】
一方、親機CS2から「ハンドオーバー応答」を受けた子機PS1は、無線通信路を親機CS2に切り替えて、音声パスの切り替えを行い、親機CS1との無線通信路を切断する。なお、子機PS1は、親機CS2に対して、自身の位置を知らせる「位置登録」を送る。
【0106】
以上説明した第2の例のシーケンスによりハンドオーバーが完了して、子機PS1は、親機CS2を通じたパスにより、相手端末と通話を継続する状態となる。この第2の例の場合にも、上述の第1の例と同様の作用効果が得らえるものである。
【0107】
なお、第2の例では、親機CS1は、主装置1に「情報取得要求」に対する「情報取得応答」を送った後、エコーキャンセラー60の適応フィルタ回路61の係数の情報を取得するようにしたが、第1の例と同様に、主装置1から「情報取得要求」を受け取ったときに、子機PS1との通信情報と共に、エコーキャンセラー60の適応フィルタ回路61の係数の情報をも取得するようにしてもよい。
【0108】
<第3の例;子機を通じて適応フィルタの係数を伝達(
図10)>
図10は、この実施形態の無線通信システムにおけるハンドオーバー時のシーケンスの第3の例である。この第3の例では、適応フィルタの係数を、ハンドオーバー前に子機PS1と無線接続されていた親機CS1から、ハンドオーバー後に子機PS1と無線接続される親機CS2に、子機PS1を介して伝達するようにする。
【0109】
この第3の例においても、
図10に示すように、親機CS1を通じて通話中の子機PS1から親機CS2にハンドオーバー要求が送られてから、主装置1が「情報取得要求」を親機CS1に送るまでのシーケンスは、
図8に示した第1の例と同様である。
【0110】
この第3の例においても、第1の例と同様に、「情報取得要求」を受け取った親機CS1は、無線接続中である子機PS1との通信情報を取得すると共に、エコーキャンセラー60の適応フィルタ回路61の係数h0(k)、h1(k)、h2(k)・・・hq(k)の情報を取得する。ただし、この第3の例では、親機CS1は、主装置1には、取得した子機PS1との通信情報のみを含めた「情報取得応答」を返す。そして、この第3の例においては、取得したエコーキャンセラー60の適応フィルタ回路61の係数h0(k)、h1(k)、h2(k)・・・hq(k)の情報を含めた「適応フィルタ係数転送要求」を、子機PS1に送る。
【0111】
この「適応フィルタ係数転送要求」を受け取った子機PS1は、親機CS1のエコーキャンセラー60の適応フィルタ回路61の係数h0(k)、h1(k)、h2(k)・・・hq(k)の情報を、親機CS2に転送する。
【0112】
一方、主装置1からは、親機CS2に、親機CS1から取得した子機PS1との通信情報を含めた「移動元の親機情報取得応答」が送られてくるので、当該親機CS2は、主装置1から受け取った「移動元の親機情報取得応答」に含まれる子機PS1との通信情報を用いて、子機PS1との無線通信路を生成し、「ハンドオーバー応答」を子機PS1に送り、子機PS1の親機CS2へのハンドオーバーを許可する。
【0113】
そして、次に、この第3の例においては、親機CS2は、子機PS1を介して親機CS1から受け取ったエコーキャンセラー60の適応フィルタ回路61の係数h0(k)、h1(k)、h2(k)・・・hq(k)を、自身のエコーキャンセラー60の適応フィルタ回路61に、初期値として設定する。
【0114】
そして、親機CS2は、このエコーキャンセラー60の適応フィルタ回路61への係数の設定を終了した後、主装置1に、子機PS1と無線通信する親機が、親機CS1から親機CS2に移動したことの「子機移動通知」を送る。主装置1は、この「子機移動通知」を受信したときには、子機PS1に対する音声パスを、親機CS1を介したパスから、親機CS2を介したパスに切り替える。
【0115】
一方、親機CS2から「ハンドオーバー応答」を受けた子機PS1は、無線通信路を親機CS2に切り替えて、音声パスの切り替えを行い、親機CS1との無線通信路を切断する。なお、子機PS1は、親機CS2に対して、自身の位置を知らせる「位置登録」を送る。
【0116】
以上説明した第3の例のシーケンスによりハンドオーバーが完了して、子機PS1は、親機CS2を通じたパスにより、相手端末と通話を継続する状態となる。この第3の例の場合にも、上述の第1の例と同様の作用効果が得らえるものである。
【0117】
なお、第3の例では、親機CS1は、主装置1からの「情報取得要求」を受け取ったときに、子機PS1との通信情報と共に、エコーキャンセラー60の適応フィルタ回路61の係数の情報をも取得するようにしたが、第2の例と同様に、主装置1に「情報取得要求」に対する「情報取得応答」を送った後、エコーキャンセラー60の適応フィルタ回路61の係数の情報を取得し、その後のシーケンスを行うように構成してもよい。
【符号の説明】
【0118】
1…主装置、21~2n…コードレス通信装置、CS1,CS2・・・CSn…親機、PS1,PS2・・・PSm…子機、423…親機の音声信号処理部、4232…受話音声信号処理回路、60…エコーキャンセラー、61…適応フィルタ回路、62…減算回路、611…FIRフィルタ、611D…遅延回路、611M…係数乗算回路、611S…総和演算回路、612…適応アルゴリズム演算部、h0(k)、h1(k)、h2(k)・・・hq(k)…適応フィルタの係数