(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-08
(45)【発行日】2023-11-16
(54)【発明の名称】ガラス板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C03C 3/091 20060101AFI20231109BHJP
C03B 5/027 20060101ALI20231109BHJP
C03B 17/06 20060101ALI20231109BHJP
C03C 3/093 20060101ALI20231109BHJP
C03C 3/097 20060101ALI20231109BHJP
G02F 1/1333 20060101ALI20231109BHJP
【FI】
C03C3/091
C03B5/027
C03B17/06
C03C3/093
C03C3/097
G02F1/1333 500
(21)【出願番号】P 2021167809
(22)【出願日】2021-10-13
(62)【分割の表示】P 2017055429の分割
【原出願日】2017-03-22
【審査請求日】2021-10-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 敦己
【審査官】永田 史泰
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/194693(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/143665(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/002808(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/084832(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C1/00-14/00
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス組成中のSiO
2の含有量が60~75モル%、Al
2O
3の含有量が12.1~16モル%、Li
2O+Na
2O+K
2Oの含有量が0.01~1.0モル%未満、P
2O
5の含有量が0~1モル%(但し、P
2O
5が0.01モル%以上の場合を除く)、ZnOの含有量が0~5モル%、Na
2Oの含有量が0.01~0.06%未満、Fe
2O
3の含有量が0.001~0.015%、且つB
2O
3の含有量が0.1~2.0モル%未満であり、
β-OH値が0.18/mm未満であり、
常温から5℃/分の速度で昇温し、保持時間500℃で1時間保持した後、5℃/分の速度で降温した時の熱収縮率が20ppm以下であることを特徴とするガラス板。
【請求項2】
ガラス組成中のB
2O
3の含有量が0.1~1.0モル%未満であり、β―OH値が0.15/mm以下であることを特徴とする請求項1に記載のガラス板。
【請求項3】
板厚が0.03~0.6mmであり、ガラス組成として、モル%で、SiO
2 60~75%、Al
2O
3 12.1~16%、B
2O
3 0.1~2.0%未満、Li
2O+Na
2O+K
2O 0.01~1.0%未満、MgO 1~7%、CaO 2~10%、SrO 0~5%、BaO 0~7%、ZnO 0~5%、P
2O
5 0~1%(但し、P
2O
5が0.01%以上の場合を除く)、As
2O
3 0~0.050%未満、Sb
2O
3 0~0.050%未満、Na
2O 0.01~0.06%未満、Fe
2O
3 0.001~0.015%を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載のガラス板。
【請求項4】
ガラス組成中のFe
2O
3の含有量が10モルppm以上、且つ100モルppm未満であることを特徴とする請求項1~3の何れかに記載のガラス板。
【請求項5】
歪点が710℃以上であることを特徴とする請求項1~
4の何れかに記載のガラス板。
【請求項6】
液相温度が1300℃以下であることを特徴とする請求項1~
5の何れかに記載のガラス板。
【請求項7】
10
2.5dPa・sの粘度における温度が1680℃以下であることを特徴とする請求項1~
6の何れかに記載のガラス板。
【請求項8】
板厚方向の中央部に成形合流面を有することを特徴とする請求項1~
7の何れかに記載のガラス板。
【請求項9】
有機ELデバイスの基板に用いることを特徴とする請求項1~
8の何れかに記載のガラス板。
【請求項10】
ガラス組成として、モル%で、SiO
2 60~75%、Al
2O
3 12.1~16%、B
2O
3 0.1~2.0%未満、Li
2O+Na
2O+K
2O 0.01~1.0%未満、MgO 1~7%、CaO 2~10%、SrO 0~5%、BaO 0~7%、ZnO 0~5%、P
2O
5 0~1%(但し、P
2O
5が0.01%以上の場合を除く)、As
2O
3 0~0.050%未満、Sb
2O
3 0~0.050%未満、Na
2O 0.01~0.06%未満、Fe
2O
3 0.001~0.015%を含有するガラスが得られるように、ガラスバッチを調合する調合工程と、
得られたガラスバッチに対して加熱電極による通電加熱を行うことにより、溶融ガラスを得る溶融工程と、
得られた溶融ガラスをオーバーフローダウンドロー法により、β-OH値が0.18/mm未満であり、且つ常温から5℃/分の速度で昇温し、保持時間500℃で1時間保持した後、5℃/分の速度で降温した時の熱収縮率が20ppm以下であるガラス板に成形する成形工程と、を有することを特徴とするガラス板の製造方法。
【請求項11】
モリブデン電極による通電加熱を行うことにより、溶融ガラスを得ることを特徴とする請求項
10に記載のガラス板の製造方法。
【請求項12】
板厚0.03~0.6mmのガラス板に成形することを特徴とする請求項
10又は
11に記載のガラス板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス板に関し、特に液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ等のフラットパネルディスプレイの基板に好適なガラス板に関する。
【背景技術】
【0002】
有機ELディスプレイ等の有機ELデバイスは、薄型で動画表示に優れると共に、消費電力も低いため、携帯電話のディスプレイ等の用途に使用されている。
【0003】
有機ELディスプレイの基板として、ガラス板が広く使用されている。この用途のガラス板には、アルカリ金属酸化物を実質的に含まないガラス、或いはアルカリ金属酸化物の含有量が少ないガラスが使用されている。つまりこの用途のガラス板には、低アルカリガラスが使用されている。低アルカリガラスを用いると、熱処理工程で成膜された半導体物質中にアルカリイオンが拡散する事態を防止することができる。
【0004】
近年、スマートフォンやモバイル端末には、高精細のディスプレイが求められており、駆動用の薄膜トランジスタ(TFT)の半導体には、LTPS(Low-temperature poly silicon)・TFTが用いられることが多い。
【0005】
この用途のガラス板には、一般的に、下記の(1)と(2)の特性が要求されるが、この両特性は、トレードオフの関係にあり、その両立が非常に困難であることが知られている。
(1)薄いガラス板の生産性を高めるために、成形時に失透し難いこと、つまり耐失透性が高く(例えば液相温度が1300℃以下)、溶融温度が低いこと(例えば高温粘度102.5dPa・sにおける温度が1680℃以下)。
(2)ポリSi・TFT、特に低温ポリSi等の製造工程において、ガラス板の熱収縮を低減するために、耐熱性が高いこと。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、ガラス中の水分量を低減すると、ガラス板の耐熱性を高めることができるその効果は、ガラス成分の増減量の効果よりも大きい。よって、ガラス中の水分量を低減
すると、耐失透性が高いガラス組成を採択することが可能になり、上記要求特性(1)と
(2)を両立することが可能になる。
【0008】
しかし、量産時にガラス中の水分量を低減することは非常に困難である。この点は、市販のガラス板の水分量が多いこと、例えばガラス板中のβ-OH値が0.20/mm超であることからも明らかである。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、その技術的課題は、生産性が良好であるにもかかわらず、耐熱性が高いガラス板を創案することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、種々の実験を繰り返した結果、ガラス組成中のアルカリ金属酸化物とB2O3の含有量を低減すると共に、ガラス中の水分量を低減することにより、上記技術的課題を解決し得ることを見出し、本発明として提案するものである。すなわち、本発明のガラス板は、ガラス組成中のLi2O+Na2O+K2Oの含有量が0~1.0モル%未満、且つB2O3の含有量が0~2.0モル%未満であり、β-OH値が0.20/mm未満であり、常温から5℃/分の速度で昇温し、保持時間500℃で1時間保持した後、5℃/分の速度で降温した時の熱収縮率が20ppm以下であることを特徴とする。ここで、「Li2O+Na2O+K2O」は、Li2O、Na2O及びK2Oの合量を指す。「歪点」は、ASTM C336に基づいて測定した値を指す。「β-OH値」は、FT-IRを用いて透過率を測定し、下記数式1により算出した値を指す。
【0011】
[数1]
β-OH値 = (1/X)log(T1/T2)
X:板厚(mm)
T1:参照波長3846cm-1における透過率(%)
T2:水酸基吸収波長3600cm-1付近における最小透過率(%)
【0012】
「熱収縮率」は、以下のように測定したものである。板状試料の所定箇所に直線状のマーキングを記入した後、このマーキングに対して垂直に折り、2つのガラス片に分割する。そして一方のガラス片のみに所定の熱処理(常温から5℃/分の速度で昇温し、保持時間500℃で1時間保持し、5℃/分の速度で降温)する。その後、熱処理を施したガラス片と、未処理のガラス片とを並べて、接着テープTで両者を固定してから、マーキングのずれを測定する。熱収縮率は、ずれを△L、元のサンプルの長さをL0とした場合、△L/L0(単位:ppm)の式で求められる。
【0013】
本発明のガラス板は、ガラス組成中のLi2O+Na2O+K2Oの含有量が0~1.0モル%未満、且つB2O3の含有量が0~2.0モル%未満であり、β-OH値が0.20/mm未満である。このようにすれば、ガラス組成本来の効果として耐熱性が向上すると共に、水分量低減の効果として更に耐熱性が向上する。結果として、p-Si・TFT、特に低温p-Si等の製造工程において、ガラス板の熱収縮を大幅に低減することができる。
【0014】
また、本発明のガラス板は、ガラス組成中のB2O3の含有量が0~1.0モル%未満であり、β―OH値が0.15/mm以下であることが好ましい。
【0015】
また、本発明のガラス板は、板厚が0.03~0.6mmであり、ガラス組成として、モル%で、SiO2 60~75%、Al2O3 8~16%、B2O3 0~2.0%未満、Li2O+Na2O+K2O 0~1.0%未満、MgO 1~6%、CaO 2~10%、SrO 0~5%、BaO 0~7%、As2O3 0~0.050%未満、Sb2O3 0~0.050%未満を含有することが好ましい。このようにすれば、オーバーフローダウンドロー法等により、耐熱性が高いガラス板を薄型化し易くなる。
【0016】
また、本発明のガラス板は、ガラス組成中のFe2O3の含有量が10モルppm以上、且つ100モルppm未満であることが好ましい。
【0017】
また、本発明のガラス板は、ガラス組成中のNa2Oの含有量が100モルppm以上、600モルppm未満であることが好ましい。
【0018】
また、本発明のガラス板は、歪点が710℃以上であることを特徴とする請求項1~5の何れかに記載のガラス板。
【0019】
また、本発明のガラス板は、液相温度が1300℃以下であることが好ましい。ここで、「液相温度」は、標準篩30メッシュ(500μm)を通過し、50メッシュ(300μm)に残るガラス粉末を白金ボートに入れて、温度勾配炉中に24時間保持した後、白金ボートを取り出した時、ガラス中に失透(失透結晶)が認められた温度を指す。
【0020】
また、本発明のガラス板は、102.5dPa・sの粘度における温度が1680℃以下であることが好ましい。ここで、「102.5dPa・sの粘度における温度」は、白金球引き上げ法で測定可能である。
【0021】
また、本発明のガラス板は、板厚方向の中央部に成形合流面を有すること、つまりオーバーフローダウンドロー法で成形されてなることが好ましい。ここで、「オーバーフローダウンドロー法」は、耐熱性の樋状構造物の両側から溶融ガラスを溢れさせて、溢れた溶融ガラスを樋状構造物の下端で合流させながら、下方に延伸成形してガラス板を製造する方法である。
【0022】
また、本発明のガラス板は、有機ELデバイスの基板に用いることが好ましい。
【0023】
本発明のガラス板の製造方法は、ガラス組成として、モル%で、SiO2 60~75%、Al2O3 8~16%、B2O3 0~2.0%未満、Li2O+Na2O+K2O 0~1.0%未満、MgO 1~7%、CaO 2~10%、SrO 0~5%、BaO 0~7%、As2O3 0~0.050%未満、Sb2O3 0~0.050%未満を含有するガラスが得られるように、ガラスバッチを調合する調合工程と、得られたガラスバッチに対して加熱電極による通電加熱を行うことにより、溶融ガラスを得る溶融工程と、得られた溶融ガラスをオーバーフローダウンドロー法により、β-OH値が0.20/mm未満であり、且つ常温から5℃/分の速度で昇温し、保持時間500℃で1時間保持した後、5℃/分の速度で降温した時の熱収縮率が20ppm以下であるガラス板に成形する成形工程と、を有することを特徴とする。
【0024】
また、本発明のガラス板の製造方法は、モリブデン電極による通電加熱を行うことにより、溶融ガラスを得ることが好ましい。
【0025】
また、本発明のガラス板の製造方法は、板厚0.03~0.6mmのガラス板に成形することが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】実施例の欄に記載の試料No.1、3、5、7、9について、B
2O
3の含有量とβ-OH値の関係を示したグラフである。
【
図2】実施例の欄に記載の試料No.1、3、5、7、9について、β-OH値と熱収縮率の関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明のガラス板において、ガラス組成中のLi2O+Na2O+K2Oの含有量は0~1.0モル%未満である。Li2O、Na2O及びK2Oは、半導体膜の特性を劣化させる成分であり、また歪点を大幅に低下させる成分である。よって、Li2O、Na2O及びK2Oの合量及び個別の含有量は、好ましくは1.0%未満、0.5%未満、0.2%未満、0.1%未満、特に0.06%未満である。一方、Li2O、Na2O及びK2Oを少量導入すると、溶融ガラスの電気抵抗率が低下して、加熱電極による通電加熱でガラスバッチを溶融し易くなる。よって、Li2O、Na2O及びK2Oの合量及び個別の
含有量は、好ましくは0.01%以上、0.02%以上、0.03%以上、0.04%以上、特に0.05%以上である。特に、半導体特性への悪影響と電気抵抗率の低下のバランスから、Li2O、Na2O及びK2Oの内、Na2Oを優先的に導入することが好ましい。
【0028】
本発明のガラス板において、ガラス組成中のB2O3の含有量は0~2.0モル%未満である。このようにすれば、ガラス組成本来の効果として歪点が上昇し、更にガラス中の水分量を低減し易くなり、水分量低減の効果として更に歪点が上昇する。
【0029】
B2O3の好適な上限範囲は1.5モル%以下、1モル%以下、1.0モル%未満、0.7モル%以下、0.5モル%以下、特に0.1モル%未満である。一方、B2O3の含有量が少な過ぎると、Alを含む失透結晶が析出し易くなり、また溶融性が低下し易くなる。B2O3の好適な下限範囲は0.01モル%以上、0.1モル%以上、0.2モル%以上、0.3モル%以上、特に0.4モル%以上である。
【0030】
B2O3の導入原料は、大気中の水分を吸収し易いため、多くの水分を含んでいる。このため、B2O3の含有量を少なくすると、ガラスバッチ中のB2O3の導入原料の割合が少なくなるため、ガラス原料起因の水分量の増加を抑制することができる。
【0031】
更にB2O3の導入原料は、低温で溶解するため、他のガラス原料の溶解を補助する機能を有している。このため、B2O3の含有量を少なくすると、ガラスバッチ中のB2O3の導入原料の割合が少なくなるため、ガラスバッチが反応して溶融ガラスになるまでに、多くの時間を要し、溶融窯内でガラスバッチが固体状態で長時間存在することになる。その結果、溶融窯内でガラスバッチに付着した水分が蒸発し、ガラス原料起因の水分量の増加を更に抑制することができる。
【0032】
なお、ガラスバッチを仮焼きすると、ガラス原料起因の水分量の増加が抑制されるが、仮焼きのための付帯設備等を新たに設置しなければならず、ガラス板の製造コストが高騰してしまう。一方、本発明のガラス板は、付帯設備等を新たに設置しなくても、ガラス原料起因の水分量の増加を抑制することができる。
【0033】
β-OH値は、好ましくは0.20/mm未満、0.18/mm未満、0.15/mm以下、0.13/mm以下、0.10/mm未満、0.09/mm以下、0.08/mm以下、0.07/mm以下、0.06/mm以下、特に0.01~0.05/mm未満である。β-OH値が高いと、歪点が低下して、熱収縮率が高くなり易い。
【0034】
β-OH値を低下させる方法として、下記の(1)~(7)の方法があるが、その中でも、(1)~(4)の方法が有効である。
【0035】
(1)低水分量の原料を選択する。(2)加熱電極による通電加熱でガラスバッチを溶融する。(3)小型溶融炉を採用する。(4)ガラスバッチ中にSO3、Cl等の乾燥剤を添加する。(5)炉内雰囲気中の水分量を低下させる。(6)溶融ガラスの流量を多くする。(7)溶融ガラス中でN2バブリングを行う。
【0036】
本発明のガラス板において、常温から5℃/分の速度で昇温し、保持時間500℃で1時間保持した後、5℃/分の速度で降温した時の熱収縮率は、好ましくは20ppm以下、1~15ppm、3~12ppm、特に5~10ppmである。上記熱収縮率が大きいと、ポリSi・TFT、特に低温ポリSi等の製造工程において、パネル製造の歩留まりが低下し易くなる。
【0037】
本発明のガラス板は、ガラス組成として、モル%で、SiO2 60~75%、Al2O3 8~16%、B2O3 0~2.0%未満、Li2O+Na2O+K2O 0~1.0%未満、MgO 1~7%、CaO 2~10%、SrO 0~5%、BaO 0~7%、As2O3 0~0.050%未満、Sb2O3 0~0.050%未満を含有することが好ましい。上記のように各成分の含有量を限定した理由を以下に示す。なお、各成分の含有量の説明において、%表示はモル%を表す。
【0038】
SiO2の含有量は60~75%が好ましい。SiO2の好適な下限範囲は62%以上、65%以上、特に67%以上であり、好適な上限範囲は好ましくは73%以下、72%以下、特に71%以下である。SiO2の含有量が少な過ぎると、Al2O3を含む失透結晶が発生し易くなると共に、歪点が低下し易くなる。一方、SiO2の含有量が多過ぎると、高温粘度が高くなって、溶融性が低下し易くなり、またクリストバライト等の失透結晶が析出して、液相温度が高くなり易い。
【0039】
Al2O3の含有量は8~16%が好ましい。Al2O3の好適な下限範囲は9.5%以上、10%以上、10.5%以上、特に11%以上であり、好適な上限範囲は15%以下、14%以下、特に13%以下である。Al2O3の含有量が少な過ぎると、歪点が低下し易くなり、またガラスが分相し易くなる。一方、Al2O3の含有量が多過ぎると、ムライトやアノーサイト等の失透結晶が析出して、液相温度が高くなり易い。
【0040】
B2O3、Li2O、Na2O及びK2Oの好適な含有範囲は、上記の通りである。
【0041】
モル比Na2O/B2O3は、溶融ガラスの電気抵抗率を低下させる観点から、0.01以上、0.02以上、0.03以上、0.05以上、特に0.1~0.5が好ましい。
【0042】
MgOは、高温粘性を下げて、溶融性を高める成分である。またヤング率を高める効果もある。MgOの含有量は、好ましくは1~7%、2~6.5%、3~6%、特に4~6%である。MgOの含有量が多過ぎると、歪点が低下し易くなる。
【0043】
CaOは、歪点を低下させずに、高温粘性を下げて、溶融性を顕著に高める成分である。またCaOは、アルカリ土類金属酸化物の中では、導入原料が比較的安価であるため、原料コストを低廉化する成分である。CaOの含有量は、好ましくは2~10%、3~9%、4~8%、特に5~7%である。CaOの含有量が少な過ぎると、上記効果を享受し難くなる。一方、CaOの含有量が多過ぎると、熱膨張係数が高くなると共に、アノーサイト結晶の液相温度が高くなり易い。
【0044】
SrOは、耐失透性を高める成分であり、また歪点を低下させずに、高温粘性を下げて、溶融性を高める成分である。SrOの含有量は、好ましくは0~5%、0~4%、0.1~3%、0.3~2%、特に0.5~1.0%未満である。SrOの含有量が少な過ぎると、分相を抑制する効果や耐失透性を高める効果を享受し難くなる。一方、SrOの含有量が多過ぎると、密度が高くなったり、ガラス組成の成分バランスが崩れて、アノーサイトやストロンチウムアルミノシリケート系の失透結晶が析出し易くなる。
【0045】
BaOは、アルカリ土類金属酸化物の中では、耐失透性を顕著に高める成分である。BaOの含有量は、好ましくは0~7%、1~7%、2~6%、特に3~5%である。BaOの含有量が少な過ぎると、液相温度が高くなり、耐失透性が低下し易くなる。一方、BaOの含有量が多過ぎると、ヤング率が低下し、またガラスの密度が高くなり過ぎる。
【0046】
RO(MgO、CaO、SrO及びBaOの合量)は、好ましくは12~18%、13~17.5%、13.5~17%、特に14~16.8%である。ROの含有量が少な過ぎると、溶融性が低下し易くなる。一方、ROの含有量が多過ぎると、ガラス組成の成分バランスが崩れて、耐失透性が低下し易くなる。
【0047】
As2O3、Sb2O3は、環境負荷を増大させる成分であり、それらの含有量は、それぞれ0.05%未満、0.01%未満、特に0.005%未満が好ましい。
【0048】
上記成分以外にも、例えば、以下の成分をガラス組成中に添加してもよい。なお、上記成分以外の成分の含有量は、本発明の効果を的確に享受する観点から、合量で10%以下、特に5%以下が好まい。
【0049】
ZnOは、溶融性を高める成分であるが、ZnOを多量に含有させると、ガラスが失透し易くなり、また歪点が低下し易くなる。ZnOの含有量は0~5%、0~3%、0~0.5%、特に0~0.2%が好ましい。
【0050】
P2O5は、歪点を高める成分であるが、P2O5を多量に含有させると、ガラスが分相し易くなる。P2O5の含有量は0~1.5%、0~1.2%、特に0~1%が好ましい。
【0051】
TiO2は、高温粘性を下げて、溶融性を高める成分であると共に、ソラリゼーションを抑制する成分であるが、TiO2を多量に含有させると、ガラスが着色して、透過率が低下し易くなる。よって、TiO2の含有量は0~3%、0~1%、0~0.1%、特に0~0.02%が好ましい。
【0052】
Fe2O3は、不純物として不可避的に混入する成分であり、溶融ガラスの電気抵抗率を低下させる成分である。Fe2O3の含有量は、好ましくは10モルppm~150モルppm、30モルppm~100モルppm未満、40モルppm~90モルppm、特に50モルppm~80モルppmである。Fe2O3の含有量が少な過ぎると、溶融ガラスの電気抵抗率が低下して、加熱電極による通電加熱でガラスバッチを溶融し易くなる。一方、Fe2O3の含有量が多過ぎると、ガラス板が着色し易くなる。なお、有機ELディスプレイの基板のキャリアガラスとしてガラス板を用いる場合、基板とキャリアガラスの剥離に紫外域でのレーザーを使用するため、紫外域での高透過率が重要になり、その場合、Fe2O3の含有量は少ない方が好ましい。
【0053】
モル比Fe2O3/B2O3は、溶融ガラスの電気抵抗率を低下させる観点から、0.003以上、0.005以上、0.01~0.5、特に0.02~0.2が好ましい。
【0054】
Y2O3、Nb2O5、La2O3には、歪点、ヤング率等を高める働きがある。しかし、これらの成分の含有量が多過ぎると、密度、原料コストが増加し易くなる。よって、Y2O3、Nb2O5、La2O3の含有量は、各々0~3%、0~1.0%未満、0~0.2%未満、特に0~0.1%が好ましい。
【0055】
SO3は、β-OH値を低下させる成分である。よって、SO3の好適な下限含有量は1モルppm以上、特に2モルppm以上である。しかし、SO3の含有量が多過ぎると、リボイル泡が発生し易くなる。よって、SO3の好適な下限含有量は100モルppm以下、50モルppm以下、特に10モルppm以下である。
【0056】
Clは、β-OH値を低下させる成分である。よって、Clを導入する場合、好適な下限含有量は0.05%以上、0.10%以上、特に0.14%以上である。しかし、Clの含有量が多過ぎると、ガラス製造設備内の金属部品を腐食させ易くなり、ガラス板の生産性が低下し易くなる。よって、Clの好適な上限含有量は0.5%以下、0.1%以下、特に0.05%以下である。なお、Clの導入原料として、塩化ストロンチウム等のアルカリ土類金属酸化物の塩化物、或いは塩化アルミニウム等を使用することができる。
【0057】
SnO2は、高温域で良好な清澄作用を有する成分であり、また歪点を高める成分であり、更に高温粘性を低下させる成分である。SnO2の含有量は0~1%、0.01~1%、0.05~0.5%、特に0.1~0.3%が好ましい。SnO2の含有量が多過ぎると、SnO2の失透結晶が析出し易くなる。なお、SnO2の含有量が0.001%より少ないと、上記効果を享受し難くなる。
【0058】
ガラス特性を著しく損なわない限り、SnO2以外の清澄剤を使用してもよい。具体的には、CeO2、F、Cを合量で例えば1%まで添加してもよく、Al、Si等の金属粉末を合量で例えば1%まで添加してもよい。但し、As2O3とSb2O3は、環境的観点から、それぞれ0.050%未満に低減することが好ましい。
【0059】
本発明のガラス板は、以下の特性を有することが好ましい。
【0060】
歪点は、好ましくは710℃以上、720℃以上、730℃以上、740℃~820℃、特に750~800℃である。このようにすれば、低温ポリSi等の製造工程において、ガラス板の熱収縮を抑制することができる。
【0061】
液相温度は、好ましくは1300℃以下、1280℃以下、1260℃以下、1240℃以下、特に800~1220℃である。液相温度における粘度は、好ましくは104.8ポアズ以上、105.0ポアズ以上、105.2ポアズ以上、特に105.3~107.0ポアズである。このようにすれば、成形時に失透結晶の発生を抑制することができる。結果として、オーバーフローダウンドロー法でガラス板を成形し易くなり、ガラス板の表面品位を高めることができる。なお、液相温度と液相温度における粘度は、耐失透性の指標であり、液相温度が低い程、耐失透性に優れる。また液相温度における粘度が高い程、耐失透性に優れる。なお、「液相温度における粘度」は、白金球引き上げ法で測定可能である。
【0062】
102.5ポアズにおける温度は、好ましくは1680℃以下、1650℃以下、1640℃以下、1630℃以下、1620℃以下、特に1450~1610℃である。102.5ポアズにおける温度が高いと、溶融性や清澄性が低下して、ガラス板の製造コストが高騰する。
【0063】
本発明のガラス板において、板厚は、好ましくは0.03~0.6mm、0.05~0.55mm、0.1~0.5mm、特に0.2~0.4mmである。板厚が小さい程、ディスプレイの軽量化、薄型化を図り易くなる。なお、板厚が小さいと、成形速度(板引き速度)を高める必要性が高くなり、その場合、ガラス板の熱収縮率が上昇し易くなるが、本発明では、耐熱性が高いため、成形速度(板引き速度)が高くても、そのような事態を有効に抑制することができる。
【0064】
本発明のガラス板は、板厚方向の中央部に成形合流面を有すること、つまりオーバーフローダウンドロー法で成形されてなることが好ましい。オーバーフローダウンドロー法では、ガラス板の表面になるべき面は樋状耐火物に接触せず、自由表面の状態で成形される。このため、未研磨で表面品位が良好なガラス板を安価に製造することができる。また、オーバーフローダウンドロー法は、薄型のガラス板を成形し易いという利点も有している。
【0065】
本発明のガラス板の製造方法は、ガラス組成として、モル%で、SiO2 60~75%、Al2O3 8~16%、B2O3 0~2.0%未満、Li2O+Na2O+K2O 0~1.0%未満、MgO 1~7%、CaO 2~10%、SrO 0~5%、BaO 0~7%、As2O3 0~0.050%未満、Sb2O3 0~0.050%未満を含有するガラスが得られるように、ガラスバッチを調合する調合工程と、得られたガラスバッチに対して加熱電極による通電加熱を行うことにより、溶融ガラスを得る溶融工程と、得られた溶融ガラスをオーバーフローダウンドロー法により、β-OH値が0.20/mm未満であり、且つ常温から5℃/分の速度で昇温し、保持時間500℃で1時間保持した後、5℃/分の速度で降温した時の熱収縮率が20ppm以下であるガラス板に成形する成形工程と、を有することを特徴とする。ここで、本発明のガラス板の製造方法の技術的特徴の一部は、本発明のガラス板の説明欄に既に記載済みである。よって、その重複部分については、詳細な説明を省略する。
【0066】
ガラス板の製造工程は、一般的に、調合工程、溶融工程、清澄工程、供給工程、攪拌工程、成形工程を含む。調合工程は、ガラス原料を調合して、ガラスバッチを作製する工程である。溶融工程は、ガラスバッチを溶融し、溶融ガラスを得る工程である。清澄工程は、溶融工程で得られた溶融ガラスを清澄剤等の働きによって清澄する工程である。供給工程は、各工程間に溶融ガラスを移送する工程である。攪拌工程は、溶融ガラスを攪拌し、均質化する工程である。成形工程は、溶融ガラスを板状に成形する工程である。なお、必要に応じて、上記以外の工程、例えば溶融ガラスを成形に適した状態に調節する状態調節工程を攪拌工程後に取り入れてもよい。
【0067】
低アルカリガラスは、一般的に、バーナーの燃焼加熱により溶融されている。バーナーは、通常、溶融窯の上方に配置されており、燃料として化石燃料、具体的には重油等の液体燃料やLPG等の気体燃料等が使用されている。燃焼炎は、化石燃料と酸素ガスと混合することにより得ることができる。
【0068】
しかし、バーナーの燃焼加熱では、溶融ガラス中に多くの水分が混入するため、ガラス板のβ-OH値が上昇し易くなる。そこで、本発明のガラス板の製造方法は、ガラスバッチに対して加熱電極による通電加熱を行うことにより、ガラス板のβ-OH値を0.20/mm未満に規制することを特徴にしている。このようすれば、溶融窯の壁面に設置された加熱電極の通電加熱により、溶融窯の底面から溶融窯上面に向かって、溶融ガラスの温度が低下するため、溶融窯内の溶融ガラスの液表面上に、固体状態のガラスバッチが多く存在するようになる。結果として、固体状態のガラスバッチに付着した水分が蒸発し、原料起因の水分量の増加を抑制することができる。更に加熱電極による通電加熱を行うと、溶融ガラスを得るための質量当たりのエネルギー量が低下すると共に、溶融揮発物が少なくなるため、環境負荷を低減することができる。
【0069】
本発明のガラス板の製造方法において、バーナーの燃焼加熱を行わず、加熱電極による通電加熱を行うことが好ましい。バーナーによる燃焼加熱を行うと、化石燃料の燃焼時に生じる水分が、溶融ガラス中に混入し易くなる。よって、バーナーによる燃焼加熱を行わない場合、溶融ガラスのβ-OH値を低減し易くなる。なお、「バーナーの燃焼加熱を行わず、加熱電極による通電加熱を行う」とは、加熱電極による通電加熱だけでガラスバッチを連続溶融することを指すが、例えば、溶融窯の立ち上げ時にバーナーの燃焼加熱を行う場合等、溶融窯の特定箇所に対して局所的、且つ補助的にバーナーの燃焼加熱を行う場合は除かれる。
【0070】
加熱電極による通電加熱は、溶融窯内の溶融ガラスに接触するように、溶融窯の底部又は側部に設けられた加熱電極に交流電圧を印加することにより行うことが好ましい。加熱電極に使用する材料は、耐熱性と溶融ガラスに対する耐食性を備えるものが好ましく、例えば、酸化錫、モリブデン、白金、ロジウム等が使用可能である。特に、モリブデンは、耐熱性が高く、溶融窯内への設置の自由度が高いため、好ましい。
【0071】
低アルカリガラスは、アルカリ金属酸化物の含有量が少ないため、電気抵抗率が高い。このため、加熱電極による通電加熱を低アルカリガラスに適用する場合、溶融ガラスだけでなく、溶融窯を構成する耐火物にも電流が流れて、その耐火物が早期に損傷する虞がある。これを防ぐため、炉内耐火物として、電気抵抗率が高いジルコニア系耐火物、特にジルコニア電鋳レンガを使用することが好ましく、また上記の通り、溶融ガラス中に電気抵抗率を低下させる成分(Li2O、Na2O、K2O、Fe2O3等)を少量導入することも好ましい。なお、ジルコニア系耐火物中のZrO2の含有量は、好ましくは85質量%以上、特に90質量%以上である。
【実施例】
【0072】
以下、実施例に基づいて、本発明を説明する。但し、以下の実施例は、単なる例示である。本発明は、以下の実施例に何ら限定されない。
【0073】
表1は、本発明の実施例(試料No.1~8)と比較例(試料No.9)を示している。
【0074】
【0075】
まず表中のガラス組成になるように、調合したガラスバッチをジルコニア電鋳レンガで構築された小型試験溶融炉に投入した後、バーナーの燃焼加熱を行わず、モリブデン電極による通電加熱を行うことにより、1600~1650℃で溶融して、溶融ガラスを得た。なお、試料No.8については、電気炉内雰囲気による間接加熱により溶融し、試料No.9については、酸素バーナーの燃焼加熱と加熱電極による通電加熱を併用して溶融した。続いて、溶融ガラスをPt-Rh製容器を用いて清澄、攪拌した後、ジルコン成形体に供給し、オーバーフローダウンドロー法により表中に示す板厚0.5mmの板状に成形した。得られたガラス板について、β-OH値、熱収縮率、歪点Ps、102.5ポアズの粘度における温度、液相温度TL及び液相温度における粘度logηTLを評価した。
【0076】
β-OH値は、FT-IRを用いて上記数式1により算出した値である。
【0077】
熱収縮率は、以下のように測定したものである。各試料の所定箇所に直線状のマーキングを記入した後、マーキングに対して垂直に折り、2つのガラス片に分割する。そして一方のガラス片のみに所定の熱処理(常温から5℃/分の速度で昇温し、保持時間500℃で1時間保持し、5℃/分の速度で降温)する。その後、熱処理を施したガラス片と、未処理のガラス片とを並べて、接着テープTで両者を固定してから、マーキングのずれを測定する。熱収縮率は、ずれを△L、元のサンプルの長さをL0とした場合、△L/L0(単位:ppm)の式で求められる。
【0078】
歪点Psは、ASTM C336、ASTM C338の方法に基づいて測定した値で
ある。
【0079】
102.5ポアズの粘度における温度は、白金球引き上げ法で測定した値である。
【0080】
液相温度TLは、標準篩30メッシュ(500μm)を通過し、50メッシュ(300μm)に残るガラス粉末を白金ボートに入れた後、温度勾配炉中に24時間保持して、結晶の析出する温度を測定した値である。また、液相温度における粘度logηTLは、白金球引き上げ法で測定した値である。
【0081】
図1は、試料No.1、3、5、7、9について、B
2O
3の含有量とβ-OH値の関係を示したグラフである。
図1から、B
2O
3の含有量が少ない程、水分量が少なくなことが分かる。
図2は、試料No.1、3、5、7、9について、β-OH値と熱収縮率
の関係を示したグラフである。
図1から、B
2O
3の含有量が少ない程、熱収縮率が低くなることが分かる。
【0082】
表1から明らかなように、試料No.1~8は、B2O3の含有量が少なく、β-O値が小さいため、歪点が高く、熱収縮率が低かった。そして、試料No.1~8は、液相
温度が低いため、耐失透性が高かった。よって、試料No.1~8は、上記要求特性(1)と(2)を満足している。一方、試料No.9は、B2O3の含有量が多く、β-OH値が大きいため、歪点が低く、熱収縮率が高かった。なお、試料No.5と試料No.8を対比すると、バーナーの燃焼加熱を行わず、加熱電極による通電加熱を行った場合、電気炉内雰囲気による間接加熱よりも、ガラス中の水分量を有効に低減し得ることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明のガラス板は、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ等のフラットパネルディスプレイの基板以外にも、ポリイミドOLED(p-OLED)用のキャリアアガラス、電荷結合素子(CCD)、等倍近接型固体撮像素子(CIS)等のイメージセンサー用カバーガラス、太陽電池の基板とカバーガラス、有機EL照明用基板等に好適である。