(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-08
(45)【発行日】2023-11-16
(54)【発明の名称】放射線硬化型インクジェット組成物及び記録方法
(51)【国際特許分類】
C09D 11/38 20140101AFI20231109BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20231109BHJP
B41M 5/00 20060101ALI20231109BHJP
【FI】
C09D11/38
B41J2/01 501
B41M5/00 120
(21)【出願番号】P 2019111795
(22)【出願日】2019-06-17
【審査請求日】2022-05-31
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100127247
【氏名又は名称】赤堀 龍吾
(72)【発明者】
【氏名】田中 恭平
(72)【発明者】
【氏名】中野 景多▲郎▼
(72)【発明者】
【氏名】関根 翠
【審査官】林 建二
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-208190(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0083604(US,A1)
【文献】特開2015-091662(JP,A)
【文献】特開2016-041820(JP,A)
【文献】特開2019-059807(JP,A)
【文献】特開2018-162375(JP,A)
【文献】特開2012-116928(JP,A)
【文献】特開2017-155190(JP,A)
【文献】特開2008-163080(JP,A)
【文献】特開2013-163740(JP,A)
【文献】特開2006-299117(JP,A)
【文献】国際公開第2016/098636(WO,A1)
【文献】特開2009-185186(JP,A)
【文献】特開2014-196414(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/00-13/00
B41M 5/00-5/52
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
色材の含有量が1.2質量%以下の淡色インクである、放射線硬化型インクジェット組成物であって、
含窒素複素環構造を有する単官能モノマー、脂環構造を含有する(メタ)アクリレート単官能モノマー、及び芳香族基含有単官能モノマーを含む重合性化合物を含み、
チオキサントン系光重合開始剤の含有量が、前記放射線硬化型インクジェット組成物の総量に対して、
0.01質量%以上0.3質量%以下であり、
前記含窒素複素環構造を有する単官能モノマーの含有量が、前記放射線硬化型インクジェット組成物の総量に対して、2.0~20質量%であり、
前記脂環構造を含有する(メタ)アクリレート単官能モノマーの含有量が、前記放射線硬化型インクジェット組成物の総量に対して、10~60質量%であり、
前記芳香族基含有単官能モノマーの含有量が、前記放射線硬化型インクジェット組成物の総量に対して、30~55質量%である、
放射線硬化型インクジェット組成物。
【請求項2】
アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤を含み、
該アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤の含有量が、放射線硬化型インクジェット組成物の総量に対して、1質量%以上10質量%以下である、
請求項1に記載の放射線硬化型インクジェット組成物。
【請求項3】
前記含窒素複素環構造を有する単官能モノマーが、アクリロイルモルフォリンを含む、 請求項1又は2に記載の放射線硬化型インクジェット組成物。
【請求項4】
前記含窒素複素環構造を有する単官能モノマーの含有量が、放射線硬化型インクジェット組成物の総量に対して、3.0~15質量%である、
請求項1~3のいずれか一項に記載の放射線硬化型インクジェット組成物。
【請求項5】
前記重合性化合物が、架橋縮合環構造を含む(メタ)アクリレートを含む、
請求項1~4のいずれか一項に記載の放射線硬化型インクジェット組成物。
【請求項6】
前記架橋縮合環構造を含む(メタ)アクリレートが、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレートを含む、
請求項5に記載の放射線硬化型インクジェット組成物。
【請求項7】
前記重合性化合物が、単官能ウレタンアクリレートを含む、
請求項1~6のいずれか一項に記載の放射線硬化型インクジェット組成物。
【請求項8】
前記単官能ウレタンアクリレートが、下記式(1)で表わされるものである、
請求項7に記載の放射線硬化型インクジェット組成物。
H
2C=CR
1-CO-O-(R
2-O-(CO)-(NH))
n-R
3 ・・・(1)
(式(1)中、R
1は水素原子又はメチル基であり、R
2は炭素数2~5の2価の有機残基であり、R
3は炭素数1~10のアルキル基、又は、炭素数1~10のヒドロキシアルキル基である。また、nは、1以上の整数である。)
【請求項9】
前記重合性化合物が、下記式(2)で表されるビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル類を含み、
該ビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル類の含有量が、放射線硬化型インクジェット組成物の総量に対して、1.0~10質量%である、
請求項1~8のいずれか一項に記載の放射線硬化型インクジェット組成物。
CH
2=CR
4-COOR
5-O-CH=CH-R
6 ・・・ (2)
(式中、R
4は水素原子又はメチル基であり、R
5は炭素数2~20の2価の有機残基であり、R
6は水素原子又は炭素数1~11の1価の有機残基である。)
【請求項10】
前記重合性化合物に含まれる単官能モノマーの含有量が、放射線硬化型インクジェット組成物の総量に対して、80質量%以上である、
請求項1~9のいずれか一項に記載の放射線硬化型インクジェット組成物。
【請求項11】
前記重合性化合物に含まれる単官能モノマーの含有量が、前記重合性化合物の総量に対して、90質量%以上である、
請求項1~10のいずれか一項に記載の放射線硬化型インクジェット組成物。
【請求項12】
前記色材が、シアン色材又はマゼンタ色材である、
請求項1~11のいずれか一項に記載の放射線硬化型インクジェット組成物。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項に記載の放射線硬化型インクジェット組成物を、インクジェットヘッドから吐出して記録媒体に付着させる吐出工程と、
前記記録媒体に付着した前記放射線硬化型インクジェット組成物に対して、放射線を照射する照射工程と、を有する、
記録方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線硬化型インクジェット組成物及び記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、特許文献1に記載されているように、ビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル類を40質量%以上75質量%以下と、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーを1質量%以上20質量%以下と、光重合開始剤と、を含有することで、低粘度かつ高反応性でありながら、膜特性、特に柔軟性に優れた印字物を提供できる光硬化インクジェットインク組成物が得られることが知られている。また、特許文献2に記載されているように、ビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル類と、アクリロイルモルフォリン等と、ビニルカプロラクタム等と、を含有することで、臭気が少なく、良好な硬化性、硬化後の柔軟性を示す放射線硬化型インクジェット組成物が得られることが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-162688号公報
【文献】特開2018-9142号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような放射線硬化型インクジェット組成物では、酸素阻害を受けにくくインク組成物の硬化性を向上させることができるため、チオキサントン系光重合開始剤が用いられることがある。しかし、チオキサントン系光重合開始剤を特定の条件で使用した場合には、インク塗膜の変色が顕著になるという課題が生じることが分かってきた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の放射線硬化型インクジェット組成物は、白色色材を含む白色インクであるか、又は色材の含有量が1.2質量%以下の淡色インクまたはクリアインクである、放射線硬化型インクジェット組成物であって、含窒素複素環構造を有する単官能モノマー又はヒドロキシ基を有するモノマーのうち少なくとも一方を含む重合性化合物を含み、チオキサントン系光重合開始剤の含有量が、放射線硬化型インクジェット組成物の総量に対して、0.3質量%以下である。
【0006】
上記放射線硬化型インクジェット組成物は、アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤を含み、該アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤の含有量が、放射線硬化型インクジェット組成物の総量に対して、10質量%以下であることが好ましい。
【0007】
上記放射線硬化型インクジェット組成物は、前記含窒素複素環構造を有する単官能モノマーが、アクリロイルモルフォリンを含むことが好ましい。
【0008】
上記放射線硬化型インクジェット組成物は、前記含窒素複素環構造を有する単官能モノマーの含有量が、放射線硬化型インクジェット組成物の総量に対して、3.0~15質量%であることが好ましい。
【0009】
上記放射線硬化型インクジェット組成物は、前記重合性化合物が、架橋縮合環構造を含む(メタ)アクリレートを含むことが好ましい。
【0010】
上記放射線硬化型インクジェット組成物は、前記架橋縮合環構造を含む(メタ)アクリレートが、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレートを含むことが好ましい。
【0011】
上記放射線硬化型インクジェット組成物は、前記重合性化合物が、単官能ウレタンアクリレートを含むことが好ましい。
【0012】
上記放射線硬化型インクジェット組成物は、前記単官能ウレタンアクリレートが、下記式(1)で表わされるものであることが好ましい。
H2C=CR1-CO-O-(R2-O-(CO)-(NH))n-R3 ・・・(1)
(式(1)中、R1は水素原子又はメチル基であり、R2は炭素数2~5の2価の有機残基であり、R3は炭素数1~10のアルキル基、又は、炭素数1~10のヒドロキシアルキル基である。また、nは、1以上の整数である。)
【0013】
上記放射線硬化型インクジェット組成物は、前記重合性化合物が、下記式(2)で表されるビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル類を含み、該ビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル類の含有量が、放射線硬化型インクジェット組成物の総量に対して、1.0~10質量%であることが好ましい。
CH2=CR4-COOR5-O-CH=CH-R6 ・・・ (2)
(式中、R4は水素原子又はメチル基であり、R5は炭素数2~20の2価の有機残基であり、R6は水素原子又は炭素数1~11の1価の有機残基である。)
【0014】
上記放射線硬化型インクジェット組成物は、前記白色色材の含有量が、放射線硬化型インクジェット組成物の総量に対して、15質量%以上であることが好ましい。
【0015】
上記放射線硬化型インクジェット組成物は、前記重合性化合物に含まれる単官能モノマーの含有量が、前記重合性化合物の総量に対して、90質量%以上であることが好ましい。
【0016】
上記放射線硬化型インクジェット組成物は、前記白色色材以外の前記色材が、シアン色材又はマゼンタ色材であることが好ましい。
【0017】
また、本発明の記録方法は、上記放射線硬化型インクジェット組成物を、インクジェットヘッドから吐出して記録媒体に付着させる吐出工程と、前記記録媒体に付着した前記放射線硬化型インクジェット組成物に対して、放射線を照射する照射工程と、を有する。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0019】
本明細書において、「(メタ)アクリロイル」は、アクリロイル及びそれに対応するメタクリロイルのうち少なくともいずれかを意味し、「(メタ)アクリレート」は、アクリレート及びそれに対応するメタクリレートのうち少なくともいずれかを意味し、「(メタ)アクリル」はアクリル及びそれに対応するメタクリルのうち少なくともいずれかを意味する。
【0020】
1.放射線硬化型インクジェット組成物
本実施形態に係る放射線硬化型インクジェット組成物(以下、単に「組成物」ともいう。)は、白色色材を含む白色インクであるか、又は色材の含有量が1.2質量%以下の淡色インク又はクリアインクである、放射線硬化型インクジェット組成物であって、含窒素複素環構造を有する単官能モノマー又はヒドロキシ基を有するモノマーのうち少なくとも一方を含む重合性化合物を含み、チオキサントン系光重合開始剤の含有量が、放射線硬化型インクジェット組成物の総量に対して、0.3質量%以下である。
【0021】
上記変色が生じる理由は、特に限定されるものではないが、チオキサントン系光重合開始剤が含窒素複素環構造を有する単官能モノマー又はヒドロキシ基を有するモノマーの中からプロトンを引き抜き、プロトンと結合することで黄変等の変色を生じさせるためと考えられる。一方で、アクリロイルモルフォリンやn-ビニルカプロラクタム等に代表される含窒素複素環構造を有する単官能モノマーは、窒素原子近傍に正電荷が局在するため、隣接するアルキル基の水素原子がチオキサントン系開始剤によって引き抜かれやすく、上記変色を引き起こしやすい。また、同様に、4-ヒドロキシブチルアクリレートに代表されるヒドロキシ基を有するモノマーもプロトンが引き抜かれやすい傾向にある。しかし、含窒素複素環構造を有する単官能モノマー又はヒドロキシ基を有するモノマーは、ホモポリマーのTgが高く、耐擦過性、柔軟性、及び密着性に優れた塗膜を与えるという利点がある。
【0022】
チオキサントン系光重合開始剤による変色は、濃色のカラーインクでは問題になり難いが、淡色のカラーインクやクリアインクなどの色材含有量が少ないインク又は色材を含有しないインクや、あるいは白色インクにおいては、色再現性が低下する原因となる。
【0023】
これに対して、本実施形態においては、重合性化合物として含窒素複素環構造を有する単官能モノマー又はヒドロキシ基を有するモノマーのうち少なくとも一方を含む場合において、チオキサントン系光重合開始剤の含有量を所定の範囲とすることで、塗膜の変色を抑制することができる。
【0024】
本実施形態に係る放射線硬化型インクジェット組成物は、インクジェット法によりインクジェットヘッドから吐出して用いる組成物である。以下、放射線硬化型インクジェット組成物の一実施形態として放射線硬化型インク組成物について説明するが、本実施形態に係る組成物はインク組成物以外の組成物、例えば3D造形用に用いられる組成物であってもよい。
【0025】
また、本実施形態の放射線硬化型インクジェット組成物は、放射線を照射することにより硬化する。放射線としては、紫外線、電子線、赤外線、可視光線、エックス線等が挙げられる。放射線としては、放射線源が入手しやすく広く用いられている点、及び紫外線の放射による硬化に適した材料が入手しやすく広く用いられている点から、紫外線が好ましい。
【0026】
以下、本実施形態に係る放射線硬化型インクジェット組成物において含まれ得る成分、物性及び製造方法について説明する。
【0027】
1.1.色材
本実施形態に係る放射線硬化型インクジェット組成物は、白色色材を含む白色インクであるか、又は色材の含有量が1.2質量%以下である淡色インクもしくはクリアインクである。色材は、顔料及び染料のうち少なくとも一方を用いることができる。白色色材以外の色材としては、特に制限されず後述するものを用いることができるが、例えば、シアン色材又はマゼンタ色材を用いることが好ましい。白色インクやクリアインク、シアンインク又はマゼンタインクは、塗膜の変色の影響が大きく、本発明がより有効となる。
【0028】
白色インクの場合の白色色材の含有量は、組成物の総量に対して、好ましくは10質量%以上であり、より好ましくは15質量%以上である。白色色材の含有量が10質量%以上であることにより、遮蔽性がより向上する傾向にある。また、白色インクの場合の白色色材の含有量は、組成物の総量に対して、好ましくは30質量%以下であり、より好ましくは25質量%以下であり、さらに好ましくは20質量%以下である。白色色材の含有量が30質量%以下であることにより、塗膜の密着性、および柔軟性がより向上する傾向にある。
【0029】
淡色インクの色材の含有量は、組成物の総量に対して、1.2質量%以下であり、好ましくは1.0質量%以下であり、より好ましくは0.90質量%以下であり、さらに好ましくは0.70質量%以下である。また、下限としては特に限定されるものではないが、組成物の総量に対して、0.05質量%以上が好ましく、より好ましくは0.1質量%以上であり、さらに好ましくは0.2質量%以上であり、一層好ましくは0.5質量%以上である。また、クリアインクの色材の含有量は、組成物の総量に対して、0.05質量%以下であり、好ましくは0.01質量%以下であり、色材を含まないのがより好ましい。なお、本実施形態では、変色の影響を受けるという共通性を有することから淡色インクとクリアインクを厳密には区別はしないが、色材を含まない、若しくは、着色することを目的としない程度に色材を含有するものをクリアインクとし、着色することを目的とするものを淡色インクとする。
【0030】
1.1.1. 顔料
色材として顔料を用いることにより、放射線硬化型インクジェット組成物の耐光性を向上させることができる。顔料としては、無機顔料及び有機顔料のいずれも使用することができる。顔料は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0031】
無機顔料としては、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャネルブラック等のカーボンブラック(C.I.(Colour Index Generic Name)ピグメントブラック7)類、酸化鉄、酸化チタンを使用することができる。
【0032】
有機顔料としては、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、アゾレーキ、キレートアゾ顔料等のアゾ顔料、フタロシアニン顔料、ペリレン及びペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロン顔料等の多環式顔料、染料キレート(例えば、塩基性染料型キレート、酸性染料型キレート等)、染色レーキ(塩基性染料型レーキ、酸性染料型レーキ)、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラック、昼光蛍光顔料が挙げられる。
【0033】
更に詳しく言えば、ブラックに使用されるカーボンブラックとしては、No.2300、No.900、MCF88、No.33、No.40、No.45、No.52、MA7、MA8、MA100、No.2200B等(以上、三菱化学社(Mitsubishi Chemical Corporation)製)、Raven 5750、Raven 5250、Raven 5000、Raven 3500、Raven 1255、Raven 700等(以上、コロンビアカーボン(Carbon Columbia)社製)、Rega1 400R、Rega1 330R、Rega1 660R、Mogul L、Monarch 700、Monarch 800、Monarch 880、Monarch 900、Monarch 1000、Monarch 1100、Monarch 1300、Monarch 1400等(キャボット社(CABOTJAPAN K.K.)製)、Color Black FW1、Color Black FW2、Color Black FW2V、Color Black FW18、Color Black FW200、Color B1ack S150、ColorBlack S160、Color Black S170、Printex 35、Printex U、Printex V、Printex 140U、SpecialBlack 6、Special Black 5、Special Black 4A、Special Black 4(以上、デグッサ(Degussa)社製)が挙げられる。
【0034】
ホワイトに使用される顔料としては、C.I.ピグメントホワイト 6、18、21が
挙げられる。
【0035】
イエローに使用される顔料としては、C.I.ピグメントイエロー 1、2、3、4、5、6、7、10、11、12、13、14、16、17、24、34、35、37、53、55、65、73、74、75、81、83、93、94、95、97、98、99、108、109、110、113、114、117、120、124、128、129、133、138、139、147、151、153、154、155、167、172、180が挙げられる。
【0036】
マゼンタに使用される顔料としては、C.I.ピグメントレッド 1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、14、15、16、17、18、19、21、22、23、30、31、32、37、38、40、41、42、48(Ca)、48(Mn)、57(Ca)、57:1、88、112、114、122、123、144、146、149、150、166、168、170、171、175、176、177、178、179、184、185、187、202、209、219、224、245、又はC.I.ピグメントヴァイオレット 19、23、32、33、36、38、43、50が挙げられる。
【0037】
シアンに使用される顔料としては、C.I.ピグメントブルー 1、2、3、15、15:1、15:2、15:3、15:34、15:4、16、18、22、25、60、65、66、C.I.バットブルー 4、60が挙げられる。
【0038】
また、マゼンタ、シアン、及びイエロー以外の顔料としては、例えば、C.I.ピグメントグリーン 7、10、C.I.ピグメントブラウン 3、5、25、26、C.I.ピグメントオレンジ 1、2、5、7、13、14、15、16、24、34、36、38、40、43、63が挙げられる。
【0039】
1.1.2.染料
色材として染料を用いることができる。染料としては、特に限定されることなく、酸性染料、直接染料、反応性染料、及び塩基性染料が使用可能である。染料は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0040】
染料としては、特に制限されないが、例えば、C.I.アシッドイエロー17、23、42、44、79、142、C.I.アシッドレッド52、80、82、249、254、289、C.I.アシッドブルー9、45、249、C.I.アシッドブラック1、2、24、94、C.I.フードブラック1、2、C.I.ダイレクトイエロー1、12、24、33、50、55、58、86、132、142、144、173、C.I.ダイレクトレッド1、4、9、80、81、225、227、C.I.ダイレクトブルー1、2、15、71、86、87、98、165、199、202、C.I.ダイレクトブラック19、38、51、71、154、168、171、195、C.I.リアクティブレッド14、32、55、79、249、C.I.リアクティブブラック3、4、35が挙げられる。
【0041】
1.2.重合性化合物
重合性化合物は、含窒素複素環構造を有する単官能モノマー又はヒドロキシ基を有するモノマーのうち少なくとも一方を含み、必要に応じてその他の単官能モノマー、もしくは二官能以上の多官能モノマーあるいはオリゴマーを含んでもよい。各重合性化合物は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0042】
1.2.1.単官能モノマー
単官能モノマーの含有量は、重合性化合物の総量に対して、好ましくは86質量%以上であり、より好ましくは88質量%以上であり、さらに好ましくは90質量%以上である。単官能モノマーの含有量が重合性化合物の総量に対して86質量%以上であることにより、塗膜の柔軟性及び密着性がより向上する。また、単官能モノマーの含有量の上限は、特に制限されないが、重合性化合物の総量に対して、好ましくは99質量%以下であり、より好ましくは98質量%以下であり、さらに好ましくは97質量%以下である。単官能モノマーの含有量が重合性化合物の総量に対して99質量%以下であることにより、塗膜の耐擦過性がより向上する傾向にある。
【0043】
また、単官能モノマーの含有量は、組成物の総量に対して、好ましくは60質量%以上であり、より好ましくは70質量%以上であり、さらに好ましくは80質量%以上である。単官能モノマーの含有量が組成物の総量に対して60質量%以上であることにより、塗膜の柔軟性及び密着性がより向上する傾向にある。また、単官能モノマーの含有量の上限は、組成物の総量に対して、好ましくは92質量%以下であり、より好ましくは90質量%以下であり、さらに好ましくは88質量%以下である。単官能モノマーの含有量が組成物の総量に対して90質量%以下であることにより、塗膜の耐擦過性がより向上する傾向にある。
【0044】
1.2.1.1. 含窒素複素環構造を有する単官能モノマー
含窒素複素環構造を有する単官能モノマーとしては、特に制限されないが、例えば、N-ビニルカプロラクタム、N-ビニルカルバゾール、N-ビニルピロリドン、アクリロイルモルフォリンが挙げられる。なお、含窒素複素環構造とは、複素環に含まれる異項原子として少なくとも一つの窒素原子を含む構造を意味する。
【0045】
このなかでも、N-ビニルカプロラクタム又はアクリロイルモルフォリンの何れかを含むことがさらに好ましい。
【0046】
このような含窒素複素環構造を有する単官能モノマーを用いることにより、塗膜の密着性及び耐擦過性がより向上する傾向にある。さらに、N-ビニルカプロラクタム等の含窒素複素環構造を有する単官能ビニルモノマーやアクリロイルモルフォリン等の含窒素複素環構造を有する単官能アクリレートモノマーは塗膜の柔軟性及び密着性をより向上させる傾向にある。
【0047】
また、アクリロイルモルフォリン等のように窒素原子にアルキル基等の電子供与性の基が結合したモノマーは、チオキサントン系光重合開始剤によるアルキル基からの水素の引き抜きが特に生じやすい傾向にあり、本発明が有用である。
【0048】
含窒素複素環構造を有する単官能モノマーの含有量は、重合性化合物の総量に対して、好ましくは1~25質量%であり、より好ましくは5~20質量%であり、さらに好ましくは5~15質量%である。含窒素複素環構造を有する単官能モノマーの含有量が上記範囲内であることにより、塗膜の密着性及び耐擦過性がより向上する傾向にある。
【0049】
含窒素複素環構造を有する単官能モノマーの含有量は、組成物の総量に対して、好ましくは1~25質量%であり、より好ましくは2.0~20質量%であり、さらに好ましくは3.0~15質量%である。含窒素複素環構造を有する単官能モノマーの含有量が上記範囲内であることにより、塗膜の密着性及び耐擦過性がより向上する傾向にある。
【0050】
1.2.1.2. ヒドロキシ基を有するモノマー
ヒドロキシ基を有するモノマーとしては、特に制限されないが、例えば、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、N-ヒドロキシメチル(メタ)アクリルアミドなどが挙げられる。このようなヒドロキシ基を有するモノマーを用いることにより、塗膜の硬化性及び硬度がより向上する傾向にある。
【0051】
ヒドロキシ基を有するモノマーの含有量は、重合性化合物の総量に対して、好ましくは0.5~10質量%であり、より好ましくは1~7.5質量%であり、さらに好ましくは2~5.0質量%である。ヒドロキシ基を有するモノマーの含有量が上記範囲内であることにより、塗膜の密着性及び耐擦過性がより向上する傾向にある。
【0052】
ヒドロキシ基を有するモノマーの含有量は、組成物の総量に対して、好ましくは0.5~10質量%であり、より好ましくは1~7.5質量%であり、さらに好ましくは2~5.0質量%である。ヒドロキシ基を有するモノマーの含有量が上記範囲内であることにより、塗膜の密着性及び耐擦過性がより向上する傾向にある。
【0053】
1.2.1.3. 架橋縮合環構造を含む(メタ)アクリレート
その他の単官能モノマーの一つとして、架橋縮合環構造を含む(メタ)アクリレートが挙げられる。なお、本発明において、架橋縮合環構造とは、2以上の環状構造が1対1で辺を共有し、かつ、同じ環状構造または異なる環状構造の、互いに隣接しない2個以上の原子を連結した構造を意味する。架橋縮合環構造を含む(メタ)アクリレートとしては、例えば、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、が挙げられる。なお、架橋縮合環構造としては、上記以外に以下のものを例示することができる。
【化1】
【0054】
このなかでも、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレートを含むことがより好ましい。このような架橋縮合環構造を含む(メタ)アクリレートを用いることにより、塗膜の耐擦過性と塗膜の柔軟性及び密着性がより向上する傾向にある。
【0055】
架橋縮合環構造を含む(メタ)アクリレートの含有量は、重合性化合物の総量に対して、好ましくは1~20質量%であり、より好ましくは3~15質量%であり、さらに好ましくは5~10質量%である。架橋縮合環構造を含む(メタ)アクリレートの含有量が上記範囲内であることにより、塗膜の耐擦過性がより向上する傾向にある。
【0056】
架橋縮合環構造を含む(メタ)アクリレートの含有量は、重合性化合物の総量に対して、好ましくは1~20質量%であり、より好ましくは2~15質量%であり、さらに好ましくは3~10質量%である。架橋縮合環構造を含む(メタ)アクリレートの含有量が上記範囲内であることにより、塗膜の耐擦過性がより向上する傾向にある。
【0057】
1.2.1.4. 芳香族基含有単官能モノマー
その他の単官能モノマーの一つとして芳香族基含有単官能モノマーが挙げられる。芳香族基含有単官能モノマーとしては、特に制限されないが、例えば、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、アルコキシ化2-フェノキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシ化ノニルフェニル(メタ)アクリレート、アルコキシ化ノニルフェニル(メタ)アクリレート、及びp-クミルフェノールEO変性(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0058】
このなかでも、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレートが好ましく、フェノキシエチル(メタ)アクリレートがより好ましく、フェノキシエチルアクリレート(PEA)がさらに好ましい。このような芳香族基含有単官能モノマーを用いることにより、光重合開始剤の溶解性がより向上し、組成物の硬化性がより向上する傾向にある。特に、アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤やチオキサントン系光重合開始剤を用いる場合にその溶解性が良好となる傾向にある。
【0059】
芳香族基含有単官能モノマーの含有量は、重合性化合物の総量に対して、好ましくは25~60質量%であり、より好ましくは30~55質量%であり、さらに好ましくは35~50質量%である。芳香族基含有単官能モノマーの含有量が上記範囲内であることにより、塗膜の耐擦過性がより向上する傾向にある。
【0060】
芳香族基含有単官能モノマーの含有量は、組成物の総量に対して、好ましくは20~55質量%であり、より好ましくは25~50質量%であり、さらに好ましくは30~45質量%である。芳香族基含有単官能モノマーの含有量が上記範囲内であることにより、塗膜の耐擦過性がより向上する傾向にある。
【0061】
1.2.1.5.単官能ウレタンアクリレート
その他の単官能モノマーの一つとして単官能ウレタンアクリレートが挙げられる。単官能ウレタンアクリレートとしては、特に制限されないが、例えば、脂肪族ウレタン(メタ)アクリレート、芳香族ウレタン(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0062】
脂肪族ウレタン(メタ)アクリレートとしては、例えば、下記式(1)で表わされるものが挙げられる。このような単官能ウレタンアクリレートを用いることにより、塗膜の柔軟性及び密着性がより向上する傾向にある。
H2C=CR1-CO-O-(R2-O-(CO)-(NH))n-R3 ・・・(1)
(式(1)中、R1は水素原子又はメチル基であり、R2は炭素数2~5の2価の有機残基であり、R3は炭素数1~10のアルキル基、又は、炭素数1~10のヒドロキシアルキル基である。また、nは、1以上の整数である。)
【0063】
上記式(1)において、R2で表される炭素数2~5の2価の有機残基としては、特に制限されないが、例えば、エチレン基、n-プロピレン基、イソプロピレン基、及びブチレン基などのアルキレン基が挙げられる。また、上記式(1)において、R3で表される炭素数1~10のアルキル基としては、特に制限されないが、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、ネオペンチル基、n-ヘキシル基などが挙げられる。さらに、上記式(1)において、R3で表される炭素数1~10のヒドロキシアルキル基としては、特に制限されないが、例えば、上記アルキル基の水素原子の一つがヒドロキシ基に置換されたものが挙げられる。
【0064】
このような脂肪族ウレタン(メタ)アクリレートとしては、特に限定されないが、例えば、2-(ブチルカルバモイルオキシ)エチル(メタ)アクリレート、2-(ブチルカルバモイルオキシ)プロピル(メタ)アクリレート、4-(ブチルカルバモイルオキシ)ブチル(メタ)アクリレート、2-(イソプロピルカルバモイルオキシ)エチル(メタ)アクリレート、2-(イソプロピルカルバモイルオキシ)プロピル(メタ)アクリレート、4-(イソプロピルカルバモイルオキシ)ブチル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0065】
また、芳香族ウレタン(メタ)アクリレートとしては、特に限定されないが、例えば、2-(フェニルカルバモイルオキシ)エチル(メタ)アクリレート、2-(フェニルカルバモイルオキシ)プロピル(メタ)アクリレート、4-(フェニルカルバモイルオキシ)ブチル(メタ)アクリレート、2-(ベンジルカルバモイルオキシ)エチル(メタ)アクリレート、2-(ベンジルカルバモイルオキシ)プロピル(メタ)アクリレート、4-(ベンジルカルバモイルオキシ)ブチル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0066】
これらの中でも、脂肪族ウレタン(メタ)アクリレートが好ましく、2-(ブチルカルバモイルオキシ)エチル(メタ)アクリレートがより好ましい。このような単官能ウレタンアクリレートを用いることにより、塗膜の柔軟性及び密着性がより向上する傾向にある。
【0067】
単官能ウレタンアクリレートの含有量は、重合性化合物の総量に対して、好ましくは0.5~6質量%であり、より好ましくは1~5質量%であり、さらに好ましくは2~4質量%である。単官能ウレタンアクリレートの含有量が上記範囲内であることにより、塗膜の柔軟性及び密着性がより向上する傾向にある。
【0068】
単官能ウレタンアクリレートの含有量は、組成物の総量に対して、好ましくは0.5~6質量%であり、より好ましくは1~5質量%であり、さらに好ましくは2~4質量%である。単官能ウレタンアクリレートの含有量が上記範囲内であることにより、塗膜の柔軟性及び密着性がより向上する傾向にある。
【0069】
1.2.1.6 脂環構造を含有する(メタ)アクリレート
その他の単官能モノマーの一つとして脂環構造を含有する(メタ)アクリレートが挙げられる。なお、本発明において、脂環構造を含有する(メタ)アクリレートは、その構造中に少なくとも1つの脂環基を有するものであり、架橋縮合環構造を有しないものである。
【0070】
脂環基は、炭素数1~10のアルキル基、水酸基、炭素数6~16のアリール基等の置換基を有していてもよい。
【0071】
脂環基は、(メタ)アクリロイルオキシ基の酸素原子に直接結合していてもよく、炭素数1~10のアルキレン基等を介して結合したものであってもよい。
【0072】
なお、アルキレン基は、炭素数1~10のアルキル基、水酸基、炭素数6~16のアリール基等の置換基を有していてもよく、アルキレン基の主鎖にエステル結合又はエーテル結合を有するものであってもよい。
【0073】
脂環基の環を構成する原子の数は、特に限定されないが、3~20であることが好ましく、5~12であることがより好ましい。
【0074】
脂環構造を含有する(メタ)アクリレートとして、特に限定されないが、例えば、イソボルニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、tert-ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、3,3,5-トリメチルシクロヘキシルアクリレートが挙げられる。これらの中でも、イソボルニル(メタ)アクリレートが好ましい。
【0075】
脂環構造を含有する(メタ)アクリレートの含有量は、インク組成物の総質量に対し、3.0質量%以上60.0質量%以下であることが好ましく、5.0質量%以上50.0質量%以下であることがより好ましく、10.0質量%以上30.0質量%以下であることがさらに好ましい。
【0076】
脂環構造を含有する(メタ)アクリレートの含有量が上記範囲内であることにより、耐擦性をより向上させることができる。
【0077】
1.2.2. 多官能モノマー、オリゴマー
多官能モノマー又はオリゴマーの含有量は、重合性化合物の総量に対して、好ましくは1~20質量%以上であり、より好ましくは3~17.5質量%であり、さらに好ましくは6~15質量%である。多官能モノマーの含有量が重合性化合物の総量に対して2.5質量%以上であることにより、耐擦過性がより向上する傾向にある。また、多官能モノマーの含有量が重合性化合物の総量に対して20質量%以下であることにより、塗膜の柔軟性及び密着性がより向上する傾向にある。また、好ましくは2~6官能モノマーであり、より好ましくは2~3官能モノマーであり、さらに好ましくは2官能モノマーである。多官能モノマーは一般に粘度が大きい傾向にあるが、このような多官能モノマーであれば低粘度と硬化性を両立することができる。
【0078】
また、多官能モノマーの含有量は、組成物の総量に対して、好ましくは1~20質量%以上であり、より好ましくは3~17.5質量%であり、さらに好ましくは6~15質量%である。多官能モノマーの含有量が組成物の総量に対して2.5質量%以上であることにより、耐擦過性がより向上する傾向にある。また、多官能モノマーの含有量が組成物の総量に対して20質量%以下であることにより、塗膜の柔軟性及び密着性がより向上する傾向にある。
【0079】
1.2.2.1 ビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル類
多官能モノマーの一つとしてビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル類が挙げられる。ビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル類としては、特に制限されないが、例えば、下記式(2)で表される化合物が挙げられる。このようなビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル類を含むことにより、組成物の粘度が低下し、吐出安定性及び硬化性がより向上する傾向にある。
CH2=CR4-COOR5-O-CH=CH-R6 ・・・ (2)
(式中、R4は水素原子又はメチル基であり、R5は炭素数2~20の2価の有機残基であり、R6は水素原子又は炭素数1~11の1価の有機残基である。)
【0080】
上記式(2)において、R5で表される炭素数2~20の2価の有機残基としては、炭素数2~20の直鎖状、分枝状又は環状の、置換されていてもよいアルキレン基、構造中にエーテル結合及び/又はエステル結合による酸素原子を有する、置換されていてもよい炭素数2~20のアルキレン基、炭素数6~11の、置換されていてもよい2価の芳香族基が挙げられる。これらの中でも、エチレン基、n-プロピレン基、イソプロピレン基、及びブチレン基などの炭素数2~6のアルキレン基、オキシエチレン基、オキシn-プロピレン基、オキシイソプロピレン基、及びオキシブチレン基などの構造中にエーテル結合による酸素原子を有する炭素数2~9のアルキレン基が好ましい。さらに、組成物をより低粘度化でき、かつ、組成物の硬化性をさらに良好にする観点から、R2が、オキシエチレン基、オキシn-プロピレン基、オキシイソプロピレン基、及びオキシブチレン基などの構造中にエーテル結合による酸素原子を有する炭素数2~9のアルキレン基となっている、グリコールエーテル鎖を有する化合物がより好ましい。
【0081】
上記式(2)において、R6で表される炭素数1~11の1価の有機残基としては、炭素数1~10の直鎖状、分枝状又は環状の、置換されていてもよいアルキル基、炭素数6~11の、置換されていてもよい芳香族基が好適である。これらの中でも、メチル基又はエチル基である炭素数1~2のアルキル基、フェニル基及びベンジル基などの炭素数6~8の芳香族基が好適に用いられる。
【0082】
上記の各有機残基が置換されていてもよい基である場合、その置換基は、炭素原子を含む基及び炭素原子を含まない基に分けられる。まず、上記置換基が炭素原子を含む基である場合、当該炭素原子は有機残基の炭素数にカウントされる。炭素原子を含む基として、以下に限定されないが、例えばカルボキシル基、アルコキシ基が挙げられる。次に、炭素原子を含まない基として、以下に限定されないが、例えば水酸基、ハロ基が挙げられる。
【0083】
式(2)の化合物の具体例としては、特に限定されないが、例えば、(メタ)アクリル酸2-ビニロキシエチル、(メタ)アクリル酸3-ビニロキシプロピル、(メタ)アクリル酸1-メチル-2-ビニロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ビニロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4-ビニロキシブチル、(メタ)アクリル酸1-メチル-3-ビニロキシプロピル、(メタ)アクリル酸1-ビニロキシメチルプロピル、(メタ)アクリル酸2-メチル-3-ビニロキシプロピル、(メタ)アクリル酸1,1-ジメチル-2-ビニロキシエチル、(メタ)アクリル酸3-ビニロキシブチル、(メタ)アクリル酸1-メチル-2-ビニロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2-ビニロキシブチル、(メタ)アクリル酸4-ビニロキシシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸6-ビニロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸4-ビニロキシメチルシクロヘキシルメチル、(メタ)アクリル酸3-ビニロキシメチルシクロヘキシルメチル、(メタ)アクリル酸2-ビニロキシメチルシクロヘキシルメチル、(メタ)アクリル酸p-ビニロキシメチルフェニルメチル、(メタ)アクリル酸m-ビニロキシメチルフェニルメチル、(メタ)アクリル酸o-ビニロキシメチルフェニルメチル、(メタ)アクリル酸2-(2-ビニロキシエトキシ)エチル、アクリル酸2-(2-ビニロキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシイソプロポキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシエトキシ)プロピル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシエトキシ)イソプロピル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシイソプロポキシ)プロピル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシイソプロポキシ)イソプロピル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシエトキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシエトキシイソプロポキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシイソプロポキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシイソプロポキシイソプロポキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシエトキシエトキシ)プロピル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシエトキシイソプロポキシ)プロピル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシイソプロポキシエトキシ)プロピル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシイソプロポキシイソプロポキシ)プロピル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシエトキシエトキシ)イソプロピル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシエトキシイソプロポキシ)イソプロピル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシイソプロポキシエトキシ)イソプロピル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシイソプロポキシイソプロポキシ)イソプロピル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシエトキシエトキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシエトキシエトキシエトキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2-(イソプロペノキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2-(イソプロペノキシエトキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2-(イソプロペノキシエトキシエトキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2-(イソプロペノキシエトキシエトキシエトキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸ポリエチレングリコールモノビニルエーテル、及び(メタ)アクリル酸ポリプロピレングリコールモノビニルエーテルが挙げられる。これらの具体例のうち、組成物の硬化性、粘度のバランスがとりやすい点で、アクリル酸2-(2-ビニロキシエトキシ)エチルが特に好ましい。なお、本実施形態において、アクリル酸2-(2-ビニロキシエトキシ)エチルは、VEEAということもある。
【0084】
ビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル類の含有量は、重合性化合物の総量に対して、好ましくは0.5~10質量%であり、より好ましくは1~7.5質量%であり、さらに好ましくは2~5質量%である。重合性化合物の総量に対するビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル類の含有量が上記範囲内であることにより、組成物の粘度が低下し、吐出安定性がより向上する傾向にある。
【0085】
ビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル類の含有量は、組成物の総量に対して、好ましくは1.0~10質量%であり、より好ましくは1.0~7.5質量%であり、さらに好ましくは2.0~5質量%である。組成物の総量に対するビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル類の含有量が上記範囲内であることにより、組成物の粘度が低下し、吐出安定性及び硬化性がより向上する傾向にある。
【0086】
1.2.2.2.ウレタンアクリレートオリゴマー
多官能オリゴマーの一つとしてウレタンアクリレートオリゴマーが挙げられる。ウレタンアクリレートオリゴマーとしては、特に制限されないが、例えば、脂肪族ウレタンアクリレートオリゴマー、芳香族ウレタンアクリレートオリゴマーが挙げられる。また、ウレタンアクリレートオリゴマーは、4官能以下のウレタンアクリレートオリゴマーであることが好ましく、2官能のウレタンアクリレートオリゴマーであることがより好ましい。このようなオリゴマーを用いることにより、組成物の保存安定性がより向上し、耐擦過性がより向上する傾向にある。なお、本実施形態では、分子量が1000以上のものをオリゴマーとし、分子量が1000未満のものをモノマーと定義する。
【0087】
ウレタンアクリレートオリゴマーの含有量は、重合性化合物の総量に対して、好ましくは1~10質量%であり、より好ましくは2~9質量%であり、さらに好ましくは3~7質量%である。重合性化合物の総量に対するウレタンアクリレートオリゴマーの含有量が上記範囲内であることにより、組成物の保存安定性がより向上し、塗膜の耐擦過性がより向上する傾向にある。
【0088】
ウレタンアクリレートオリゴマーの含有量は、組成物の総量に対して、好ましくは1~10質量%であり、より好ましくは2~9質量%であり、さらに好ましくは3~7質量%である。組成物の総量に対するウレタンアクリレートオリゴマーの含有量が上記範囲内であることにより、組成物の保存安定性がより向上し、塗膜の耐擦過性がより向上する傾向にある。
【0089】
1.3. 光重合開始剤
本実施形態に係る放射線硬化型インクジェット組成物は、放射線を照射することにより、活性種を生じる光重合開始剤を含有することが好ましい。光重合開始剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0090】
光重合開始剤としては、特に限定されないが、例えば、アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤、アルキルフェノン系重合開始剤、チタノセン系重合開始剤、チオキサントン系光重合開始剤等の公知の重合開始剤が挙げられる。これらの中でも、アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤が好ましい。このような重合開始剤を用いることにより、組成物の硬化性がより向上し、特にUV-LEDの光による硬化プロセスによる硬化性がより向上する傾向にある。
【0091】
アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤としては、特に制限されないが、例えば、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド、ビス-(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルフォスフィンオキサイド等が挙げられる。
【0092】
このようなアシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤の市販品としては、例えば、IRGACURE 819(ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド)、IRGACURE 1800(ビス-(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルフォスフィンオキサイドと、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニルケトンの質量比25:75の混合物)、IRGACURE TPO(2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド)(以上全てBASF社製)等が挙げられる。
【0093】
アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤の含有量は、組成物の総量に対して、好ましくは20質量%以下であり、より好ましくは15質量%以下であり、さらに好ましくは10質量%以下である。アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤の含有量を20質量%以下にすることにより、アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤が持つ色味の影響を小さくすることができるため、色再現性がより向上する傾向にある。また、アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤の含有量の下限は、組成物の総量に対して、好ましくは1質量%以上であり、より好ましくは3質量%以上であり、さらに好ましくは5質量%以上である。アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤の含有量が上記範囲内であることにより、組成物の硬化性及び耐変色性がより向上する傾向にある。
【0094】
また、本実施形態に係る放射線硬化型インクジェット組成物におけるチオキサントン系光重合開始剤の含有量は、組成物の総量に対して、0.3質量%以下であり、好ましくは0.25質量%以下であり、より好ましくは0.20質量%である。また、チオキサントン系光重合開始剤の含有量の下限は、変色抑制の観点から、0質量%に近いほど好ましく、含まれないことが好ましい。一方で、酸素阻害を受けない硬化性の向上という観点からは、チオキサントン系光重合開始剤の含有量の下限は、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上としてもよい。
【0095】
このようなチオキサントン系光重合開始剤の市販品としては、例えば、KAYACURE DETX-S(製品名、日本化薬株式会社製)、ITX(BASF社製)、Quantacure CTX(Aceto Chemical社製)が挙げられる。
【0096】
チオキサントン系光重合開始剤以外の光重合開始剤の含有量は、組成物の総量に対して、好ましくは1~20質量%であり、より好ましくは3~15質量%であり、さらに好ましくは5~10質量%であり、特に好ましくは7~9質量%である。チオキサントン系光重合開始剤以外の光重合開始剤の含有量が上記範囲内であることにより、組成物の硬化性及び耐変色性がより向上する傾向にある。
【0097】
1.3.その他の添加剤
本実施形態に係る放射線硬化型インクジェット組成物は、必要に応じて、分散剤、重合禁止剤、スリップ剤等の添加剤をさらに含んでもよい。
【0098】
1.3.1.分散剤
放射線硬化型インクジェット組成物が顔料を含む場合、顔料分散性をより良好なものとするため、分散剤をさらに含んでもよい。分散剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0099】
分散剤としては、特に限定されないが、例えば、高分子分散剤などの顔料分散液を調製するのに慣用されている分散剤が挙げられる。その具体例として、ポリオキシアルキレンポリアルキレンポリアミン、ビニル系ポリマー及びコポリマー、アクリル系ポリマー及びコポリマー、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリウレタン、アミノ系ポリマー、含珪素ポリマー、含硫黄ポリマー、含フッ素ポリマー、及びエポキシ樹脂のうち1種以上を主成分とするものが挙げられる。
【0100】
高分子分散剤の市販品として、味の素ファインテクノ社製のアジスパーシリーズ、アベシア(Avecia)社やノベオン(Noveon)社から入手可能なソルスパーズシリーズ(Solsperse36000等)、BYK Additives&Instruments社製のディスパービックシリーズ、楠本化成社製のディスパロンシリーズが挙げられる。
【0101】
分散剤の含有量は、組成物の総量に対して、好ましくは0.1~2質量%であり、より好ましくは0.1~1質量%であり、さらに好ましくは0.1~0.5質量%である。
【0102】
1.3.3.重合禁止剤
本実施形態に係る放射線硬化型インクジェット組成物は、重合禁止剤をさらに含んでもよい。重合禁止剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0103】
重合禁止剤としては、以下に限定されないが、例えば、p-メトキシフェノール、ヒドロキノンモノメチルエーテル(MEHQ)、4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-N-オキシル、ヒドロキノン、クレゾール、t-ブチルカテコール、3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシトルエン、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)、2,2’-メチレンビス(4-エチル-6-ブチルフェノール)、及び4,4’-チオビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)、ヒンダードアミン化合物などが挙げられる。
【0104】
重合禁止剤の含有量は、組成物の総量に対して、好ましくは0.05~1質量%であり、より好ましくは0.05~0.5質量%である。
【0105】
1.3.4.スリップ剤
本実施形態に係る放射線硬化型インクジェット組成物は、スリップ剤をさらに含んでもよい。スリップ剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0106】
スリップ剤としては、シリコーン系界面活性剤が好ましく、ポリエステル変性シリコーンまたはポリエーテル変性シリコーンであることがより好ましい。ポリエステル変性シリコーンとしては、BYK-347、348、BYK-UV3500、3510、3530(以上、BYK Additives&Instruments社製)等が挙げられ、ポリエーテル変性シリコーンとしては、BYK-3570(BYK Additives&Instruments社製)等が挙げられる。
【0107】
スリップ剤の含有量は、組成物の総量に対して、好ましくは0.01~2質量%であり、より好ましくは0.05~1質量%である。
【0108】
1.4.組成物の製造方法
放射線硬化型インクジェット組成物の調製は、組成物に含有する各成分を混合し、成分が充分均一に混合するよう撹拌することにより行う。本実施形態において、放射線硬化型インクジェット組成物の調製は、調製の過程において、重合開始剤とモノマーの少なくとも一部とを混合した混合物に対して、超音波処理と加温処理の少なくとも何れかを施す工程を有することが好ましい。これにより、調製後の組成物の溶存酸素量を低減することができ、吐出安定性や保存安定性に優れた放射線硬化型インクジェット組成物とすることができる。上記混合物は、少なくとも上記の成分を含むものであればよく、放射線硬化型インクジェット組成物に含む他の成分を更に含むものでも良いし、放射線硬化型インクジェット組成物に含む全ての成分を含むものでもよい。混合物に含むモノマーは、放射線硬化型インクジェット組成物に含むモノマーの少なくとも一部であればよい。
【0109】
2.インクジェット記録方法
本実施形態に係るインクジェット記録方法は、記放射線硬化型インクジェット組成物を、インクジェットヘッドから吐出して記録媒体に付着させる吐出工程と、記録媒体に付着した放射線硬化型インクジェット組成物に対して、放射線を照射する照射工程と、を有する。これにより、記録媒体上の放射線硬化型インクジェット組成物が塗布された箇所に塗膜を形成することができる。以下、各工程に詳細について記載する。
【0110】
2.1.吐出工程
吐出工程では、組成物をインクジェットヘッドから吐出して記録媒体に付着させる。より具体的には、圧力発生手段を駆動させて、インクジェットヘッドの圧力発生室内に充填された組成物をノズルから吐出させる。このような吐出方法をインクジェット法ともいう。
【0111】
吐出工程において用いるインクジェットヘッドとしては、ライン方式により記録を行うラインヘッドと、シリアル方式により記録を行うシリアルヘッドが挙げられる。
【0112】
ラインヘッドを用いたライン方式では、例えば、記録媒体の記録幅以上の幅を有するインクジェットヘッドを記録装置に固定する。そして、記録媒体を副走査方向(記録媒体の縦方向、搬送方向)に沿って移動させ、この移動に連動してインクジェットヘッドのノズルからインク滴を吐出させることにより、記録媒体上に画像を記録する。
【0113】
シリアルヘッドを用いたシリアル方式では、例えば、記録媒体の幅方向に移動可能なキャリッジにインクジェットヘッドを搭載する。そして、キャリッジを主走査方向(記録媒体の横方向、幅方向)に沿って移動させ、この移動に連動してヘッドのノズル開口からインク滴を吐出させることにより、記録媒体上に画像を記録することができる。
【0114】
2.2.照射工程
照射工程では、記録媒体に付着した放射線硬化型インクジェット組成物に対して、放射線を照射する。放射線が照射されると、モノマーの重合反応が開始することで組成物が硬化し、塗膜が形成される。このとき、重合開始剤が存在すると、ラジカル、酸、及び塩基などの活性種(開始種)を発生し、モノマーの重合反応が、その開始種の機能によって促進される。
【0115】
ここで、放射線としては、紫外線、赤外線、可視光線、エックス線等が挙げられる。放射線源は、インクジェットヘッドの下流に設けられた放射線源によって、組成物に対して照射する。放射線源としては、特に制限されないが、例えば、UV-LEDが挙げられる。このような放射線源を使用することで、装置の小型化やコストの低下を実現できる。紫外線源としてのUV-LEDは、小型であるため、インクジェット記録装置内に取り付けることができる。
【0116】
例えば、放射線硬化型インクジェット組成物を吐出するインクジェットヘッドが搭載されているキャリッジ(媒体幅方向に沿った両端及び/又は媒体搬送方向側)に取り付けることができる。さらに、上述の放射線硬化型インクジェット組成物の組成に起因して低エネルギーかつ高速での硬化を実現できる。照射エネルギーは、照射時間に照射強度を乗じて算出される。そのため、照射時間を短縮することができ、印刷速度が増大する。一方、照射強度を減少させることもできる。これにより、印刷物の温度上昇を低減できるので、硬化膜の低臭気化にも繋がる。
【0117】
3. 記録物
本実施形態の記録物は、記録媒体上に上記放射線硬化型インクジェット組成物が付着し、硬化したものである。上記組成物が良好な柔軟性と密着性を有することにより、切り出しや折り曲げ等の後加工を施した際に塗膜のひび割れや欠けを抑制することができる。そのため、本実施形態の記録物は、サイン用途などに好適に用いることができる。
【0118】
記録媒体の素材としては、特に限定されないが、例えばポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリカーボネート、二酢酸セルロース、三酢酸セルロース、プロピオン酸セルロース、酪酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、硝酸セルロース、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリビニルアセタール等のプラスチック類及びこれらの表面が加工処理されているもの、ガラス、紙、金属、木材等が挙げられる。
【0119】
またその記録媒体の形態も、特に限定されるものではない。例えばフィルム、ボード、布等が挙げられる。
【実施例】
【0120】
以下、本発明を、実施例を用いてより具体的に説明する。本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0121】
1.インクジェット組成物の調製
まず、色材、分散剤、各モノマーの一部を秤量して顔料分散用のタンクに入れ、タンクに直径1mmのセラミック製ビーズミルを入れて攪拌することにより、色材をモノマー中に分散させた顔料分散液を得た。次いで、表1に記載の組成となるように、ステンレス製容器である混合物用タンクに、残りのモノマー、重合開始剤及び重合禁止剤を入れ、混合攪拌して完全に溶解させた後、上記で得られた顔料分散液を投入して、さらに常温で1時間混合撹拌し、さらに5μmのメンブランフィルターでろ過することにより各例の放射線硬化型インクジェット組成物を得た。
【0122】
また、色材を含まないインク組成物については、顔料分散液を用いず、表1に記載の組成となるように、ステンレス製容器である混合物用タンクに各成分を投入して、上記のように撹拌混合し、各例の放射線硬化型インクジェット組成物を得た。
【0123】
表中の各例に示す各成分の数値は特段記載のない限り質量%を表す。
【0124】
【0125】
表1中で使用した略号や製品の成分は、以下の通りである。
【0126】
<色材(顔料)>
・PB15:3(商品名「C.I.ピグメントブルー15:3」、DIC社製、フタロシアニンブルー)
・酸化チタン(商品名「C.I.ピグメントホワイト6」、ティカ社製)
<重合開始剤>
・DETX(商品名「KAYACURE DETX-S」、日本化薬株式会社製、2,4-ジエチルチオキサントン)・819(商品名「IRGACURE 819」BASF社製、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド)
・TPO(商品名「IRGACURE TPO」、BASF社製、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド)
<単官能モノマー>
・ACMO(KJケミカルズ株式会社製、アクリロイルモルフォリン)
・n-VC(ISPジャパン株式会社製、N-ビニルカプロラクタム)
・4-HBA(4-ヒドロキシブチルアクリレート、大阪有機化学工業社製商品名、単官能(メタ)アクリレート)
・DCPA(日立化成社製、ジシクロペンテニルアクリレート)
・IBXA(大阪有機化学工業株式会社製、イソボルニルアクリレート)
・PEA(商品名「ビスコート#192、大阪有機化学工業株式会社製、フェノキシエチルアクリレート」)
・BCEA:2-(ブチルカルバモイルオキシ)エチルアクリレート
<多官能モノマー>
・VEEA(株式会社日本触媒製、アクリル酸2-(2-ビニロキシエトキシ)エチル)
<オリゴマー>
・CN991(サートマー株式会社製、2官能ウレタンアクリレートオリゴマー)
<重合禁止剤>
・MEHQ(商品名「p-メトキシフェノール」、関東化学株式会社製、ヒドロキノンモノメチルエーテル)
<スリップ剤>
・BYK-UV3500(BYK Additives&Instruments社製、アクリロイル基を有するポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン)
<分散剤>
・Solsperse36000(Lubrizol社製、高分子分散剤)。
【0127】
2.評価方法
2.1.耐変色性
PVCメディアにバーコーターでインク組成物の塗布厚が10μmになるようにインク組成物を塗布し、メディア面における照射強度が2.5W/cm2となるよう、0.04cm/secの速度でメディアと光源を相対的に移動させることにより、紫外線を照射した。その際、光源としては、395nmにピーク波長を有するLEDを用いた。そして、硬化直後の塗膜に対して、測色器(商品名「Gretag Macbeth Spectrolino」、X-RITE社製)を用いて、b*の値を測定した。また、硬化後24時間静置した後の塗膜に対しても同様にb*の値を測定した。硬化直後と硬化後24時間経過後のb*の差分Δb*を求め、以下の評価基準により変色性を評価した。
(評価基準)
A: Δb*が1未満
B: Δb*が1以上2未満
C: Δb*が2以上3未満
D: Δb*が3以上
【0128】
2.2.密着性
変色性試験で得た塗膜に対して、JIS K5600-5-6に準じてクロスカット試験の評価を行った。より具体的には、カッターで、塗膜に対して垂直になるように切込み工具の刃を当てて、切込み間の距離が2mmのマス目を入れて、10×10マスの格子を作った。格子に、約75mmの長さの透明付着テープ(幅25mm)を貼り付け、硬化膜が透けて見えるように十分指でテープを擦った。次に、テープを貼り付けて5分以内に、60°に近い角度で、0.5~1.0秒で確実にテープを硬化膜から引き剥がして、格子の状態を目視にて観察した。評価基準は下記のとおりである。
(評価基準)
A 格子に硬化膜の剥離は認められなかった。
B 格子の5%未満に硬化膜の剥離が認められた。
C 格子の5%以上に硬化膜の剥離が認められた。
【0129】
2.3.耐擦過性の評価
変色性試験で得た塗膜に対して、JIS R3255に準じてマイクロスクラッチ試験の評価を行った。測定には超薄膜スクラッチ試験機(CSR-5000、ナノテック社製)を用いて耐擦過性としての耐荷重を測定した。耐荷重は荷重をかけながらマイクロスクラッチを行い、触針がメディア面に達した時の荷重とした。耐荷重が大きい程、耐擦過性に優れる。測定は触針スタイラス径:15μm、振幅:100μm、スクラッチ速度:10μm/secで行った。評価基準は下記のとおりである。
(評価基準)
A:25mN/cm2以上
B:20mN/cm2以上25mN/cm2未満
C:15mN/cm2以上20mN/cm2未満
D:15mN/cm2未満
【0130】
各放射線硬化型インクジェット組成物をインクジェットプリンタPX-G930(セイコーエプソン社)に充填して記録を行った。各放射線硬化型インクジェット組成物について、インクジェット吐出が可能であり、画像形成が可能であることを確認した。
【0131】
3.評価結果
表1に、各例で用いた放射線硬化型インクジェット組成物の組成、並びに評価結果を示した。表1から、含窒素複素環構造を有する単官能モノマー又はヒドロキシ基を有するモノマーのうち少なくとも一方を含む重合性化合物を含み、チオキサントン系光重合開始剤の含有量が、放射線硬化型インクジェット組成物の総量に対して、0.3質量%以下である実施例1から実施例12の放射線硬化型インクジェット組成物は、耐変色性と、密着性と、耐擦過性とがいずれもC以上となり、良好であった。
【0132】
詳しくは、各実施例と比較例1とを比較すると、チオキサントン系光重合開始剤の含有量が0.3質量%以下であることにより、耐変色性が向上することがわかる。また、各実施例と比較例2とを比較すると、含窒素複素環構造を有する単官能モノマー又はヒドロキシ基を有するモノマーを含むことにより、耐擦過性がより向上することが分かった。さらに、各実施例と比較例3とを比較すると、含窒素複素環構造を有する単官能モノマー又はヒドロキシ基を有するモノマーを含まない場合には、チオキサントン系光重合開始剤による変色が生じないことが分かる。また、各実施例と参考例1との対比により、色材の含有量が1.2質量%超過である場合には、チオキサントン系光重合開始剤による変色による影響が少ないことが分かる。